【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-3 終に向かい始める世界

日本から11隻の船が出航してから1日経過した頃の夜、突然世界中で敵襲のアラームが鳴り響いた。

そのアラームは魔法少女にもそうだが、テロリスト対策用のアラームも同時に鳴った。

その余りもの多さに監視部署は混乱してしまった。

「こんな一斉になんておかしいだろ!」

「誤報ではないのか?」

「すべて正常な動作です!

アンチマギア生産施設の有無問わずテロが発生しています」

ペンタゴンの監視部署ではマニュアルにもない非常事態でただ慌てるしかなかった。

サピエンス本部の司令室にも世界中でアラームが上がっている情報が入っていた。ダリウス将軍とその部下達はいつかは起こることを知っていたかのように冷静であった。

「情報収集に専念しろ。人間が混ざっているならどこの奴らなのかもわかるようにな。

一応聞いておくが、日本以外に落ち着いている土地はあるか」

「南極基地には出現していないようです。

あとはなぜかニュージーランドが安全地帯となっているようで」

「ニュージーランド?

魔法少女がいないだけかもしれないが、オーストラリアにはしっかり調査するよう伝えろ」

「了解!」

「将軍!米国とヨーロッパではキリスト教信者もサピエンス反対を掲げて攻撃活動に参加しているとの報告です」

「結局はイザベラの思い通りか。

米国内は一般人の避難を急げ!

特に敵とここを直線で繋げたライン上の住人は速やかにだ!」

「我々の兵は出しますか?」

「イザベラの話を聞いていないのか。

我々は最後まで兵は出さない。地元の兵士たちで回してもらう。

我々は情報収集に努めよ」

「了解!」

「将軍!」

「今度はなんだ」

「敵の狙いは海岸線と空港のようです」

「空港?日本のやり方で味を占めたか」

世界中の空港がテロリストや魔法少女達によって攻撃を受けていた

中でもハワイや米国のカリフォルニア沖は沿岸部分も攻撃され、事前に用意さていた対艦ミサイルシステムが次々と破壊されていた

「船の航行に妨げとなるものは全て排除しろ!
ここハワイは外部との動線を全て潰せ!」

指示をしている魔法少女に対してハワイにいる米国兵は銃を放つ。

魔法少女はすぐに反応して空気中の水分を凍らせて鋭い刃となったものが五月雨に兵士たちへ降り注ぐ。

そんな魔法少女達の攻撃に米国兵士たちは何もできなかった。

「魔法少女がまだ島にいるなんて聞いていないぞ!」

「サピエンスめ、とり逃しやがっていたな。

応援もよこさないし何やってるんだ!」

 

ヨーロッパにある空港では滑走路が攻撃されて飛行機が飛べない状態になったあと、魔法少女達は垂直離着陸機へ攻撃を開始した。

地元の兵士たちが迎撃に出たことで魔法少女には被害がない中、魔法少女に加担しているテロリストと兵士には死人が出始めるようになった。

一般兵には魔女対策用のアンチマギア装備以外は支給されていないため、魔法少女には蹂躙される形でやられていった。

ダリウス将軍が世界の様子をモニタリングしているとイザベラとキアラが司令室へ入ってきた。

「ハワイにも出たってどういうことよ。あそこの魔法少女勢力は一掃していたはずよ」

イザベラの問いには同じ指令室にいるオペレーターが答えた。

「地元情報によると水中から現れたとの報告です!」

「もうなんでもありね。国内はどうなっているの」

「各地の主要な空港が攻撃を受けています。

地方にある小さな場所はまだ生きていますが、いつまで無事でいられるか」

「我が国の軍は動いてるんでしょ。たまにはしっかり働かせないと」

「だがこれだけは伝えないといけないな」

そう言ってダリウス将軍がメインモニターの画像を切り替えると、そこにはテロリストを指揮しながらペンタゴンに迫るロバート達の姿が映し出された。

「ロバート達、なんで」

「あらあら、彼らは信頼できると言ったのは誰だったかしらね」

キアラが画面を見て固まっている中、イザベラがキアラの肩を叩いた。

ビクッとしたキアラの耳元でイザベラは呟いた。

「さあ、日本人であるあなたならどう落とし前をつけるか知っているでしょう。

まさかこの後に及んでまだ彼らを擁護するなんてこと、ないわよね」

周囲の空気は凍りついていた。

それはイザベラのキアラに対する態度だけではなく、イザベラの左手にナイフが見えていたからだ。

キアラは暫く目を瞑って、目を開けてから答えた。

「わかっている。

わかっているさ」

「そう?それなら頼んだわよ。あなたならあれくらいどうってことないだろうし」

キアラは悔しそうな顔をしながら司令室を出て行った。

ダリウス将軍はため息をひとつついた後にイザベラへ話しかけた。

「たった1人でいいのか。

責任を取らせるたって流石に1人は」

「いいえ十分よ。

何人を相手にしようと、勝って終わるようじゃないと私の従者は務まっていないわ。

ああそうそう、キアラを運ぶための自動運転設定した装甲車は一台用意してあげてね」

「無茶がすぎる」

「見ていればわかるわ。

ほら、世界のモニタリングを続けなさい。どのタイミングでアンチマギア生産施設が狙われるのかはわからないのだから」

ロバートなどの裏世界の住人達は魔法少女とともにペンタゴンへ向かうための活路を開いていた。

FBIも装甲車を出して動きを止めようとするものの、魔法製の武器や魔法によってあっさりと突破されてしまった。

「歯応えのない奴らばかりだな。まともな戦車くらい出てこないのか」

別の場所では爆発が起きて夜空が赤く照らされていた。

「おやっさん、早く前に進んで終わらせましょうよ」

「バカ言ってんじゃねぇ。俺たちはここで暴れればいいんだよ。

大事なのは他の奴らがやってんだからな」

「ロバート!ペンタゴンから来る車両ひとつ!」

「さあ、誰が乗っている」

車がロバート達の目の前を通り過ぎると同時に1人車両から飛び出してきた。

飛び出してきたのは戦闘服に着替えたキアラだった。

車はキアラを下ろした後に急いでその場を離れようとしたものの、スナイパーライフルで燃料タンクを撃ち抜かれて爆発してしまった

キアラの目の前に立っているのはロバートにマーニャ、5人の男達と3人の魔法少女だった。

他にも建物内に銃を持って数人は潜んでいる状況だった。

「たった1人でか。俺たちも舐められたものだな」

「…どうしてですか」

「ああん?」

「なぜこんなテロじみたようなことをしたのですか!

一般人は、関係ないのに」

キアラの問いにロバートとは違う男が答えた。

「前にも話しただろう。

俺たちはイザベラの、サピエンスのやり方が気に入らないんだ」

「テメェらを潰せるなら俺たちはマーニャに協力するし、見て見ぬ振りをする奴らや分らず屋にも、俺たちは喜んで銃を向けるのさ」

「キアラ、あなただってイザベラのやり方が間違っているくらいわかるでしょ

マーニャにもそう言われ、キアラは歯を食いしばりながら腰の刀に手を伸ばす。

「ええ。彼女のやり方は間違いなく不幸になる人々が増える。

だが、こうして一般人を巻き込むテロを行っているあなた達よりは良心的だ!」

「動かなきゃ世の中変わらないんだよ。

特に俺たちのような社会的弱者はこうやって派手に、そしてきにくわネェ奴をぶっ飛ばすしか変える方法がないんだよ」

「そうですか。

・・・

お覚悟を!」

目にとらえられないような速さでキアラはロバートへ切りかかったものの、ロバートが持っていた斧ですぐに防がれてしまった。

周囲から銃弾が飛んでくる中、右側建物付近にいる傭兵にキアラは接近して銃ごと右手を切り落としてしまった。

そのまま建物へ侵入し、建物内部に潜んでいた傭兵達を次々と斬っていった。

ロバートは建物内部へ入ろうとする傭兵達を止め、出入り口と上空を警戒するよう指示を出した。

建物の3階からは正面から叩き切られた死体が両断された銃とともに落ちてきた。

魔法少女対策がされているとはいえ鉄を容易く切れるなんて恐ろしいな、刀ってやつは」

「キアラの腕力がおかしいだけでしょ」

「お前さては刀をよく知らないな?」

建物内には魔法少女もいたものの、争う音はすぐに止んでしまった。

4階の窓から反対の建物にはグレネードが投げ込まれ、グレネードが弾けたと同時にキアラが反対の建物へ飛んで移った。

その飛び移る間に銃弾は飛んだものの服を貫通するだけでキアラ本体には当たらなかった。

決して傭兵達の射撃は下手ではなかったが、キアラが少し体を捻りながら飛び移ったためか体の軸を狙った弾は的を外していた。

飛び移った先の建物内にいた傭兵達はサブマシンガンで対抗したものの、刀で銃弾を防がれながらクナイで喉を貫かれていった。

建物内に生存者はいないと判断したロバートは背負っていたガトリングを取り出してキアラがいる建物に満遍なく撃ち込んだ。

上から下まで撃ち込まれ、強度を失った建物は隣の建物に寄りかかりながらロバート達とは反対側に崩れていった。

それでもいくつかの破片はロバート達の方にも飛んできて、ロバート以外はその場から逃げて距離を取った。

銃口が赤くなったガトリングが止まって辺りが土埃に包まれている中、周囲では何者かに次々と後退した傭兵達が殺されていった。

魔法少女はなんとか反応できて脇腹を通ろうとする刀を弾いていた

「ロバートこれじゃ逆効果だよ!」

マーニャにそう言われたロバートは斧を振り上げた。

「ごちゃごちゃうるさいんだよ!」

ロバートが斧を地面に叩きつけるとハンマーを打ちつけたのではないかと思うほどの衝撃波が発生して周囲の土埃は周囲から消えてしまった。

姿をあらわにしたキアラは傭兵の心臓を貫いているところだった。

心臓から刀を引き抜いて血を振り払った後にキアラは刀を一度鞘に納めた。

少しだけ動きを止めた後にキアラは背負っていたもう一本の刀を素早く抜いてロバートの脇をたたきつけた。

しかし装甲を破った後にゼリーの感触が伝わったらと思うと刀を動かせなくなった。

そんな焦ったキアラにロバートは斧の柄部分で殴ってきたがキアラは刀から手を離してその場から離れた。

「いったい何」

「教えるわけねぇだろ。

地獄で会うことがあればその時に教えてやるよ」

ロバートの後ろから傭兵達は銃を放ち始め、弾道を縫うように魔法少女達も迫ってきた。

キアラは再度腰の刀を取り出して弾を避けながら魔法少女の攻撃を弾いていった。

ロバートは脇に刀が刺さったまま斧をキアラに振りかぶってきた。

キアラはその衝撃で飛んできたコンクリートの破片で顔に切り傷がついてしまった。

キアラは一度瓦礫に隠れ、大回りでロバート達の後ろ側に回り込んでクナイで2人の喉を貫いた。

「ちくしょう、ちょこまかと」

あたりが再度静まり返ると突然闇から刀が飛んできて、そこにほとんどの人々が注目していた。

その隙にキアラがマーニャへ突撃してクナイを2本両肩に突き刺した。

それでもマーニャの腕は動いてキアラは振り払われた。

その勢いでキアラはロバートへ突撃し、糸で繋がっているのか、投げた刀は引き摺られてキアラに近付いていった。

キアラはロバートの左肩に体重をかけて飛び上がり、手元に戻ってきた刀で左側広頸筋あたりから心臓目掛けて突き刺した。

ロバートはぎこちなくなった動きでキアラを掴もうとするが、キアラはするりと突き刺した刀を抜いてロバートから離れた。

その様子を見て固まっていた傭兵を容赦なくキアラは首を切り落としてしまった。

「キアラ!」

マーニャは警棒のようなものの先端に電撃を発しながらキアラに殴りかかった。

しかし周囲では生き残りの傭兵と魔法少女がキアラの動きが止まるのを待っていた。

キアラは刀を空中に放り投げ、マーニャの攻撃を避けた後にロバートの遺体へと走った。

そして抜けかけになっていたロバートの脇へ刺さっていた刀を回収してマーニャ以外の魔法少女と傭兵へ切り掛かった。

もはや銃では動きを止めることはできず、引き金を引く手を切られた後に心臓を貫かれる、目を刀で斬られた後に正面から思い切り斬られたりとキアラのやりたい放題だった。

キアラが投げた刀が地面に突き刺さる頃には20人近くいた傭兵や魔法少女はマーニャしか生きていない状態となった。

「キアラは強いと思っていたけれど、敵わないねぇ」

「逃げずに挑んだことは評価します。

それが逃す理由にはなりません。

実験台にはされないようしっかり殺させてもらいます」

「気遣いのようでなっていない言い方だね。まあタダで死ぬ気はないよ。

クナイをアンチマギアにしなかったこと後悔しな!」

マーニャが三角形の石を使用したタリスマンを取り出すと、キアラの足が瞬時に岩で固められてしまった。

「すぐには解けないはずさ!」

動けないキアラに対してマーニャは紫色の汁が滴るナイフを突き刺そうとしてきた。

それはキアラの体の軸をとらえていてどう動こうとその刃が身体に刺さってしまう。

キアラは刀でマーニャのナイフを受け止めてしまった。一般人に魔法少女の腕力が受け止め切れるはずもなく、急所は避けられたものの右肩にナイフが刺さってしまった。

キアラはまだ動かすことができる左手に刀を持ってマーニャめがけて切りあげた。

それはマーニャのソウルジェムを両断し、マーニャは胸部分から血を出しながら倒れた。

ナイフの毒が体に行き渡り始めたのかキアラは意識が朦朧となり出した。

そんな中ナイフを抜き、地面に突き立ったアンチマギア製の刀を抜いて傷口に突き刺した。

それでも意識は回復せず、アンチマギア製の刀を刺したまま腰にかけていた応急処置用の注射を左腕に突き刺して注入した。

この注射は種類がある中でも解毒剤にあたるもので、毒ガスを吸ってしまった時等に対応できるよう用意されていた。

呼吸が苦しくなる中、注射を打ったことでやっと意識も呼吸も落ち着いてきた。

そしてやっと周囲を見渡す余裕が出た頃にイザベラから通信が入った。

「その周辺のテロリストは掃討できたみたいね。

お疲れ様。

迎えをよこすから少しだけ待っていてちょうだい」

そう言って通信は切れてしまった。

キアラは周囲を見渡すと見慣れた顔の死体が血を流して転がっていた。

「あなた達が、悪いんですからね・・・」

キアラは迎えが来るまでにその場で涙を流した。

キアラの戦いぶりを見ていたダリウス将軍はイザベラに話しかけた

「全滅させてしまったのは驚きだが、傷を負ったところを見ると少し無理をさせすぎたんじゃないか」

「無理も承知よ。こんないらない結果を招いたのはキアラが彼らを甘く見た結果よ」

「自業自得ってか。従者には優しくしてやれよ」

「うるさいわね。他の情けない結果をフォローすることに専念しなさい」

同時に世界中で発生していた空港や施設の襲撃は人間側は惨敗状態だった。

ほとんどの空港は使い物にならなくなり、小さな国は政治家が殺され始めていた。

「やはり一般兵器では歯が立たない。

衝撃砲くらいは軍へ提供してやったほうがいいんじゃないか。

これじゃ本命すら止められないぞ」

「情けないわね、手持ち用のものなら余裕があるかしら。
ちょっと生産工場がオーバーワークになるかもしれないけど」

そう言いながらモニターをいじってイザベラは衝撃砲の生産状況を確認した。

「やっぱり余分な数は生産できていないわね。

ハリー、奴らの船団はどの程度でカリフォルニア沖に来るかしら」

「現在の速度ですと、およそ17日と10時間ほどでカリフォルニア沖に姿を見せます」

「そう、一応猶予はあるわね」

そう言ってイザベラは衝撃砲の発注を32本分行った。

その様子を見ていたダリウス将軍はイザベラに尋ねた。

「あれには魔法石が必要じゃなかったか。

そんなに調達できるのか」

「カルラ達に任せるわ。

もともとあれは彼女達が自前で用意しているし」

「だったらカルラ達にも」

「伝えるわよ。確か今は中庭にいたかしら」

 

現在ペンタゴンの中庭だった場所には高いアンテナが建設最中である。

そんな建設最中のアンテナタワーを見上げながらカルラはタバコを吸っていた。

カルラの隣には研究員がいて資料片手にアンテナを見ていた。

「カルラ、いまいい?」

私がそう声をかけるとカルラは研究員へ私が来た方とは反対側へ行くよう指示し、研究員はその場からさった。

その後カルラはこっちを向いた。

「なんだ、アラームの件は落ち着いたのか」

「私がいようがいまいが変わらない状況にはなったわね。

んでお願いしたいことがあってきたのよ」

「願いね。

無茶振りには対応できないよ」

「衝撃砲を一般兵にも配りたいのよ。

32本分用意をお願い」

「…猶予は」

「12日よ。残り3日で本体と接続と動作テストしてそのまま現場へ直送って流れよ」

カルラはタバコを一度蒸すとアンテナを見上げながらイザベラと話を続けた。

「イザベラ、このアンテナをパラポラにしなかった理由はわかるか」

「何よいきなり。

日照権の問題でしょ。じゃないとこんな古典的な鉄骨を繋ぎ合わせたようなスカスカなツリー型になならないわよ」

「建設承認関係で伝えたと思うが、こいつは通常の電波以外にも魔法少女が使用しているテレパシーにも関与するため、しかも盗聴している輩に対抗するために必要と伝えた。

このタワーにはテレパシー受信および発信用の魔法石も使用されている」

「それはわかっているわよ」

「何を言いたいのかというと使いたい魔法石、つまり純度の高い魔法石は今目の前のタワーに使用した。

今から純度の高いものを用意するとなると、このアメリカ大陸に現存しているのかも怪しいため12日は確約できない。

最悪アフリカのダイアモンド鉱山に赴く必要もあるかもしれない」

「もうアメリカにある宝石では純度が悪いって言いたいの?」

お前なら持てばわかると思うが、一般人の純度がいいと魔法を感知できる人物の純度がいいは訳が違う。

内包している魔力量がアメリカにあるものは少ないのだよ。

今まではその中でもましなものを使ったまでさ」

「純度が悪いと変わるのは威力と電力貯蔵量かしら」

「発射にかかる充填速度にも関わる」

「理論はいいからできるかどうかを伝えなさいよ」

「ではお前の願いを叶えるために私からも要望を出させてもらう。

エメラルドかダイヤモンドの原石でもいい。

削った結果イザベラの親指程度の大きさの結晶になるものをお前が欲しがっていた要求数の4倍、128個を用意出来たらイザベラの要望を達成させると保証しよう」

「いいわ。5日で用意してあげる」

「助かるよ。こっちは製錬の準備を進めておくよ」

「言っておくけど原石でいいのよね!」

「別にいいが間に合うか怪しいな」

「わかったわよ削って渡せばいいんでしょ!」

イザベラは怒って建物の中に戻った。

中庭でそんなイザベラを見て笑顔だったのはカルラだけだった。

その様子を見ていた建設員達が言葉を交わした。

「レディと言い合える上に言いくるめるなんて」

「カルラさんも怖いよな」

「いやサピエンスのトップはみんなやばいし人外だって」

「あれらに歯向かう奴らは考え直したほうがいいぜまったく」

 

イザベラが室内に戻った頃、各国の空港は魔法少女に占領されつつあった。

「将軍、状況はどう?」

「空路はもう諦めるしかないレベルでやられているよ」

「一箇所10人も魔法少女はいないはずでしょ?」

「君の目線で考えるな。

銃があっても人間には反応速度の限界がある。マッケンジー達のように鍛えられた先鋭くらいじゃないと一対一でさえ務まらないさ」

「ちなみに一般人は」

「夜行便に乗っていた一般人が巻き込まれて全滅している。

空港勤務の従業員やパイロットも生存は絶望的だろう。

政府は行方不明者リストを作るのに一生懸命だ」

「無駄なことを」

「言ってやるな。わずかな希望に縋りたいものもいるが故の対応だ」

「希望ねぇ」

そう話しているとオペレーターから報告が上がってきました。

「レディ、キアラの収容完了。1時間後には本部に戻る予定です」

「わかったわ。

迎えの車を付け狙う者がいないかは見張っておきなさい」

「了解」

夜明け頃、世界の空路は壊滅して次は海路が狙われようとしていた。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-2 ずっと続くはずがない「いつもの」

朝日が頭を出した頃に資料の整理が終わり、整理した結果を簡潔な内容にして叔父の机の上へ置いて私達はサピエンス本部へと向かった。

サピエンス本部へ辿り着くとキアラが大きなあくびをした。

「徹夜だったものね。少し休んできたら?」

「いや、イザベラを守らないといけないし」

私達は地下の実戦観察室の前まで移動してそこで改めてキアラへ伝えた。

「ここにはカルラもディアもいるわ。心配せず休んでちょうだい」

「・・・それなら少し休ませてもらうよ」

そう言ってキアラは近くの仮眠室へ眠そうに歩いて行った。

私が実戦観察室へ入るとカルラとディア、研究員2名が頼みものを囲んで談話していた。

「予定通り完成したかしら」

「レディ、通常のアンチマギアよりも簡単に魔女を切れることまでは確認できています」

「でもやっぱこれの類似品量産は難しいわよ。

通常のアンチマギアを使った剣やナイフで十分な上にそれを洗練させたとなると倍どころじゃない。

完全にキアラ専用になるわ」

「ディア、別に構わないわ。

で、これはドッペルには有効なんでしょうね」

私が退治した際に奴らのドッペルはアンチマギアのシールドを貫通した上に銃弾も怯む程度だった。

単純に魔女と一緒ではないというのはわかったけど、ドッペルではなく魔女でしか判断できない今はなんとも言えないわ」

「何よ、全然検証できていないじゃないの」

ドッペルとの遭遇は神浜でしかできないことはわかっているだろう

試した際はディアが手に入れた魔力パターンを似せたシールドを切ったにすぎない。

品質にケチをつけたい気持ちもわかるが、魔力パターンはしっかり再現したつもりだ」

私は不機嫌な顔をカルラへ向けた。そんな私の顔を見てカルラは呆れた顔で言ってきた。

「奴らが何かしらの手でドッペルを出すことの警戒だろうが、ドッペルは魔法少女の本体さえどうにかしてしまえばいいことは、魔法少女同士の衝突時に観測できた結果だ。

牽制できるレベルなら十分じゃないか」

「キアラにはしっかり叩き切ってもらわないと困るわ。

それに、ドッペルの攻撃は一般人では耐えられないわ」

「あとはキアラがどこまでの装備を許容してくれるかだが」

「鎧武者になるのは、おそらく嫌がるでしょうね」

アンチマギアを染み込ませた軽装と洗脳防止用インカムで大丈夫でしょ。

いつもクノイチみたいに薄着だし」

「どうしても刀といえばサムライのスタイルに近くになるのだな」

「だって刀といえばそうでしょ」

3人の会話を2人の研究員は苦笑いしながら聞いていた。

カルラはしばらく私を見た後に話しかけてきた。

「そんなに不安ならば魔法石を使用した法衣を使ってみないか」

「何よそれ」

「一部の錬金術師しか知らない、魔法少女の真似事ができる装備品だよ。
体の周囲に魔力を纏って魔法少女と同じように武器を具現化させて魔女へ対抗していた。もちろん身体能力も底上げできる」

「何よそれ、私そんなの知らないんだけど」

「ディアにはいらないだろ。それに魔法少女の真似事で勝ってうれしいか?」

「いやまあつまんないけど」

「だからだよ。それで、イザベラはどうする」

「今の話聞いて魅力的だと思うわけがないでしょ。
魔法少女にヒトとして勝つからこそ意味があるのよ。魔法少女へ勝つために自分が魔法少女になっては意味がないわ。
法衣ってやつは却下よ」

「そうか、その返事を聞けて私はうれしいよ」

そういったカルラは少しご機嫌な表情をしていた。

「なによ、気持ち悪いわね」

そのあとはキュゥべえの状況を聞いたりしているとキアラが部屋に入ってきた。

「しっかり休んだか?」

「意識だけははっきりするようになったよ」

「体力もあるならこれを試してみなさい。

以前話していた新しい刀よ」

先ほどまで話題の中心にあった刀は赤紫色と青紫の光沢が混じっていて明らかに二つの成分が混ざっている見た目をしている。

「思ったよりも長いな。

帯刀程度を想像していたけど」

「距離感も大事だと言うことで通常サイズだ」

「確かドッペル特化だったか。

魔法少女とも魔女とも違った特性をしているんだっけ。

それにしてもやたらと重いな」

それにはアンチマギアを結晶化させたものもそうだが魔女特化の魔法石を練り込んだ層も打ち付けられている。

それらは反発しあって効果が薄れてしまうため絶縁材料として純粋な銑鉄だけの素材を挟んだ層も打ち込まれている。

だから嫌でも重くなってしまったらしい」

「とはいえ重心は前気味なのか。

切れ味ではなく重さで叩き切る印象か」

「まあまずは試してくれ。部屋にはダミーを置いてある」

実戦観察室からはたくさんの魔法少女が使われる実験を眺めてきた

見下ろし方で実践室をみられるこの部屋から、キアラの試し切りを観察していた。

ダミーにはドッペルに似せた魔力パターンでシールドを張ったものがあったようでシールドの破損具合を計測していた。

キアラが振り下ろすとシールドは切り裂かれるという表現より叩き割るという表現が正しいエフェクトを発した。
刀はそのまま床にたたきつけられ、その床はへこむだけだった。

「前回実験時よりも破られる速度が速いです。

同じ刀を使ったのに」

使い方を知っているものとそうではないものでは結果の質も違うってことさ」

「これならドッペルも大丈夫でしょ」

私は床がへこむだけの結果に少し違和感を覚えた。

「ちょっと、あれ刃物というより鈍器じゃない?」

「その表現が正しいかもしれないな」

「不安しか残らない言い方やめてよね。ドッペルじゃないものに対してはどうなのよ」

「まさに鈍器さ。刀と言えるほどの切れ味はなく、質量で切り裂く。
鋼鉄は打ち破れたが、その後は潰してできた穴という感じだったよ」

「作り直させたいわね。イメージと全然違うわ」

「ならばもっとデータが必要だ。ドッペルと何体も戦うようになるような規模のね」

「もうそんな機会はないわよ。
神浜以外でドッペルが扱えない、そんな状態から変わらなければいいけど」

私は部屋を出て実践室前にある準備室でカラーガンと木刀を持ってダミーが倒れてスッキリした実践室へ入った。

「イザベラ、いきなり入ってきてどうした」

私はキアラに木刀を投げてキアラは反射的に木刀を受け取った。

「私の鬱憤晴らしに付き合いなさい。

久々に模擬戦しましょう?」

「まったく、上でなにがあったんだ」

キアラが新しい刀を納刀すると私はカラーガンでキアラの足を狙った。

キアラはローリングで避けて走って距離を詰めてきた。

キアラが足をつけるであろう場所へ撃ち込んでもキアラはすぐにコースを変えて距離を詰めてくる。

ついにキアラは木刀で私の脇腹を狙ったが私はカラーガンについた湾曲ナイフで防いだ。

サピエンスが使用する拳銃、サブマシンガンには標準でトリガー部分を囲うように、そして銃口の下側から突き出るように刃物が設置されている。

練習用は切れ味が存在しないが、実践用は軍用繊維ならば貫通できる切れ味がある。

キアラはつばぜり合うことなくするりと木刀を滑らせて、前のめりになって左手で私が銃を持つ左手を掴み、全体重をかけてきた。

するとキアラは勢いに任せて体を浮かび上がらせ、私の右肩と首の間へ木刀を差し込もうとした。

私は右袖に隠し持っていた練習用ナイフを取り出してキアラめがけて差し込んだ。

キアラも予想はしていたようで木刀でナイフを弾くとそのまま地面へ降りた。

降りた瞬間に私はカラーガンを撃ち込んだが射線に木刀を添えて飛び出た弾薬を弾きながらこちらの隙を狙っていた。

弾が切れる頃、右手のナイフを投げて腰につけていたもう一つのカラーガンを取り出してキアラに対して弾幕を張った。

撃ち切った左手のカラーガンはリロードせず腰にかけた。

キアラは弾道が見えているのかというレベルで移動先を変更し、時々弾丸を弾きながら距離を詰めてきた。

右側のカラーガンも弾が切れるとキアラは私にめがけて木刀を投げてきた。

私がそれを避けた方向にキアラはクナイを模したナイフを投げ込んできた。

私はカラーガンでそれらを弾くと右足首目掛けてキアラは蹴り込んできた。

いよいよ私は対応できず足払いされた状態となってその場に倒れ込んだ。

するとナイフで首元を狙ってきたが、左の袖に潜めていたナイフで逆にキアラの首元を狙うとキアラはすぐにローリングで避けた。

キアラが避けた方向には投げた木刀が転がっていて、キアラは流れで回収した

私が体制を整えると左手にもカラーガンを持ってカラーガンのナイフ部分でキアラに斬りかかった。

両手から刺し攻撃が飛んできて、キアラは弾くことなく避けるしかなかった。

私がクロスを描くように切り下ろし、さらに切り上げるとキアラは勢いで少し後ろに飛ばされた。

着地した頃に左のカラーガンをキアラに突き刺すと、キアラはナイフ部分を防ごうとする動きしかしなかった。

私は勝ちを確信し、右側のトリガーを引いた。

私がカラーガンを2丁しか持っていないとは言っていない。

私が左に持ち直したのは3丁目。

キアラは何もできず体でカラー弾丸を受け止めるしかなかった。

キアラの服は赤紫色で染まっていき、力が抜けたかのように座り込んでしまった。

そんな様子を見ていた研究員たちがこんな言葉をこぼした。

「あの2人の戦いは人の域を超えていますよ」

「片方は純粋な人間だけどな」

「絶対普通じゃないですって」

そこにカルラが会話に入った。

「キアラだって最初から銃に慣れていたわけではない。

訓練を重ねた結果であれだ。

動体視力が良いという下積みは影響しているだろうが成長の結果だ

そんなキアラさんに対応できて勝ってしまうイザベラさんはもっと怖いですよ」

「あいつはずる賢いだけだ。

全く同じ条件下ならば少し強いくらいで対抗はできる」

「本当ですか?」

そう話している中、私とキアラは実践室を出た。

これらは何気ない日常の一幕。

叔父の資料処理を手伝い、サピエンスに関わる仕事を処理する。

こんな特別変わったことをしているわけでもない日々に魔法少女たちの襲撃の日が迫っているのは確か。

 

そんな私を叔父は久々にディナーを共にしないかと言ってきた。

いつもは家族一緒だったはず。

ディナーは叔父が最近見つけたという店で個室で2人きりの食事になると言う。

時々給仕が入ってくる程度で外部へ情報を漏らさないとお墨付きらしい。

正直不安しかない。

そんな中食事が始まり、最初は他愛もない会話であった。

政治的な会話もなしに、世界情勢の愚痴を一方的に叔父から聞くこととなった。

その後に叔父の家族の話になったのだが。

「イザベラ、実は私に息子と娘が産まれそうなんだ」

「性違いの双子ですか。それはおめでとうございます」

「嫁が苦労しないように少し早めに仕事を切り上げるか、出勤できない日が発生するのは許してほしい」

「構いませんよ。家族第一と言ったのは私ですから」

「イザベラ、君も一般的な幸せを満喫してみないか」

私は手の動きを止めて叔父を見た。

「君はまだ若い。素敵なフィアンセを見つけて共に幸せな生活を送るようにしてもいいんじゃないか」

「いいですか叔父様、私の普通の生活は父親が消された瞬間から崩壊しました。

父親が生きている世界でならば普通の生活を送ろうとしたでしょう

でも今は全くそんな気は起きませんね」

「…

イザベラ、君はこの世界を今後どうしたいのだ」

「どうというのは」

「戦いを絶やさないようにすると言ったが、君が生きている限りずっと続ける気か?」

「そういえば私が死んだあとはどうしましょうかね。

サピエンス残党ってことでカルラにやってもらおうかしら」

「死ぬまでやることに変わりはないのか」

「言ったじゃないですか、人類は争わなければ衰退するだけです。

争いの手を止めないために私は必要悪になるというのですよ」

「くどいかもしれないが、考え直してくれないか」

出された皿の食事を終え、口元を拭いたイザベラは叔父の顔を見て答えた。

「ないですよ。考え直すなんて。

でも叔父様のお子様には被害が及ばないようしっかり配慮しますよ

仮に政治家にならなかった場合は、保証できないかもですが」

叔父は何も言えなかった。

「お仕事のお話はまた明日で。

ブラジル訪問の事後処理などありますから。

お代はここから出してください」

イザベラは札束を置いてその場を後にした。

「あれでは誰が言っても止まらないのだろうな。やはり依存した私のミスだったのか」

 

しばらく日々が経過し、その日は突然訪れた。

「日本から艦隊が出発しました!」

「今度は艦影が見えるでしょうね」

「はい。魔法少女産の船の両脇に5隻ずつのイージス艦 計11隻です」

衛生写真を見てダリウス将軍が呟いた。

「こんなに堂々としているとは、ここにくるまでにいくつか策がありそうだ」

「当然よ。

マッケンジー達にはしっかり待機場所へ行くように伝えておきなさい」

「了解」

「さて、今度はどう動いてくれるかしら」

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-1 団結できるという創作のまやかし

中華民国が支配者を失ってしばらく日付が経過した。

中華民国の政府が主張していた社会主義という考えは速やかに捨てられ、資本主義国として常任理事国の監視下で経済を回すようになった。
中華民国は常任理事国から外され、その空いた枠に別の国が入ることはなかった。
入ろうと目論む国はあるものの、空いた枠にどの国も入ることができない理由があった。

世界中では政府が推奨する少女へ行うキュゥべえを認知させないためのワクチン接種に対して、そのワクチンを打ってしまうとその少女は神や仏の声を聞けなくなるという噂が広まっていた。

その噂を耳にしたサピエンスはワクチン接種を妨害する組織は、反社会的組織として取り締まるとした。いくら名の知れた組織であったとしても。

これに黙っていられなかったのが宗教にお熱な集団だった。

イスラム教どころかキリスト教、仏教まで騒ぎ出した。

しかしそれは予定通り。

きっかけを作ることに成功した事で、サピエンスは宗教関係の組織排除も実施することとなった。

サピエンスは「宗教は魔法少女の妄言から始まった」とそれらしい理由をつけてあらゆる教会や寺院の破壊を独断で開始した。
サピエンスの隊員は躊躇すること無く行動に移してくれた。

これによって宗教に浸かった汚職議員が釣り上げられて次々とそんな議員をスキャンダルや暗殺で退場させていった。

もちろんここまで荒事をすれば大統領とサピエンスの独裁だと騒ぎ出す者も出てくる。

今は人間の間でも宗教派とサピエンス派で別れようとしている。
宗教派は魔法少女の脅威を思い知った者から見てみると「魔法少女に操られる哀れな者」と呼ばれ、神や仏を信じて現実を考慮しない者達はサピエンス派を「神を信じれぬ異端者」と罵り合う。
国連はアンチマギアの取引やそれにかかる条例改正によってほぼサピエンスの息がかかった集団と化していて、宗教にお熱な国は常任理事国へ選ばれるはずがなかった。

さて、果たしてこんなことになってしまう人類を救いたいと思える者はいるだろうか?
「だとしても」と人類を救おうと思える者は、事実を直視できていない愚か者か脳死の自称ヒーローくらいだろう。

そんな話を、私は目の前にいる叔父へ話した。

叔父はアメリカ合衆国内で破壊された教会の数についての報告書を見下ろしながら頭を抱えていた。

「イザベラ、この結果になるのは君の狙い通りなのか」

「私達は噂を流した程度です。

神や仏なんて見えなければ聞こえるものでもない。

信じるか信じないか。

元はそれだけだったものが無意味な噂だけでここまでになってしまうのです。

虚しいと思いませんか?」

「いいかイザベラ。

世の中には心の拠り所として宗教を活用するもの達がいる。

その多くは死後の心配や今体験している罪の心配だ。

現世で苦しいのは試練で、キリストの教えを守り、祈り続ければ必ず救われると。

そういうものがなければ心が潰れてしまうのだよ」

「父にもよく言われましたよ」

「ならわかるだろう?」

「わかりません」

「なぜだ。私はキリシタンだが今は中立的な意見を君に伝えたんだ。

宗教を扱って争いを起こそうなんて間違っている!どれだけの人々が苦しむと思っている」

「いいですか叔父様。

我々人間は争い続けなければ気が済まない生物なのです。

何事にも悪者を作って、それを退治するような動きを作らなければ人類史は衰退する一方なのですよ。

楽園実験というものをご存知ですか?

あれでもそう言った結果が証明されています」

「だからと言ってわざわざ宗教を引き合いに出す必要はないだろ」

「必要なことです。

今こうしている間に魔法少女達は隙だと察知して準備を早めているはず」

「・・・イザベラ、私には君が何をしたいのかがわからない」

殺意むき出しの魔法少女を目の前に宗教派はどういった行動をするのでしょうね。

人間側、魔法少女側どっちにつくのか」

「イザベラ、そういう考えはやめなさい」

「目を逸らさずちゃんと直視してください。人間はそんなものですよ」

イザベラは叔父の後ろに移動して話を続けた。

「今の私の行いを見たら、父は当然怒りをあらわにするでしょうね。
でも私は父が目指した場所とは逆の道を歩むことにしました。

父が歩もうとした道は叔父様が歩んでください。

私が、サピエンスが人類の憎まれ役となって人類の進化を躍進させましょう。

でもそれは魔法少女達を黙らせた後の話。

それまでは協力していきましょうね」

「・・・イザベラは映画を見ることはないか。
宇宙人のような地球外から来た脅威へ人類が団結して立ち向かうという物語を見たことはないか。
ああならないだろうかと希望を抱いてはくれないのか」

「無理ですね。宗教を禁止しようとしているだけで人類が分裂するなんて、その結果のどこに希望を見つけられますか。

人類の団結というのは創作のまやかしです。
結局は目先の利益ありきなんですよ。

故に私は人類になんて期待はしていません。叔父様とご家族は例外ですよ」

叔父は何も言わず黙り込んでしまった。

「では私は失礼します」

イザベラが部屋を出て行った後、ケーネスは首にかけているネックレスをつかみながらつぶやいた。

「チャールズ、シャル、君たちの娘は人類に絶望してしまったようだ。

私が彼女に頼らず人類の希望を見せられたら少しは変わったのだろうか。

いや、無理だ。誰も彼女には敵わない。

どうかこんな結果にしてしまったことを許してほしい。

私には、見守ることしかできない」

 

次の日、イザベラはグリーンベレーも使用している訓練所にいるマッケンジーのところへ向かった。

キアラがマッケンジーのいる場所を受付へ聞き、トレーニング室にいると教えてもらって2人はトレーニング室へと入った。

空気清浄が行われているトレーニング室でマッケンジーは上半身裸で筋肉を鍛えていた。

周囲には誰もいなかった。

せっかくの休暇なんだからこんなところに来てまで筋トレしなくてもいいのに」

マッケンジーはおもりを持ち上げて体をプルプルさせながら答えた。

「話があると呼びつけたのはお前だろ。

自宅になんて来てほしくないしな」

「そうかい」

マッケンジーはおもりを下ろして立ち上がった。

「待ってろ、少しシャワーを浴びてくる」

シャワーを浴びてしっかり上着を着たマッケンジーは机が一緒にある椅子へ座った。

「神浜では予想以上の被害が出たが、お前は神浜の連中以外も参入すると考えていなかったのか」

「考えてはいたわ。そのための外側に向けた自衛隊の配置よ。

でも海からミサイルに乗ってヨーロッパの魔法少女が乱入してくるなんて、普通の頭じゃ考えもつかないわ。

まあ、中華民国も協力的だったらもっとましな結果だったかもしれないわね」

「・・・E班には魔法少女との実戦経験のある者もいたのだがな。

ダリウスから事前にヨーロッパにいる魔法少女はヤバいとは聞いていたが、魔法少女をよく知る軍人上がりでも簡単に死んでしまうほどの相手だったとはな。

そんな連中がいても俺たちは帰ってこれたのだから、生き残った俺たちは十分に幸運だったのだろうな」

「自衛隊の協力もあったけどね。

脱出の段取りとしては十分だったでしょう?」

「そうだな。

元から脱出させる予定だったように周到だったがな。

どこまでがイザベラの思い通りだ」

「さあ、なんのことやら」

「・・・まあいい。

それで本題はなんだ。今更反省会だけの用ではないだろ」

「そうね。今後の活動について簡単に伝えに来たわ。いきなり伝えるよりは理解が早まるでしょ」

そう言ったあとイザベラはキアラに合図を出して、キアラは持ち歩いていたアタッシュケースから3枚程度のまとめられた資料をマッケンジーへ出した。

「サピエンス直属の部隊は本部を除いた3ヶ所のアンチマギア生産工場と米国前線の護衛に努めてもらうわ。

でも条件があって、指示があるまで息を潜めておくこと。何があってもね」

「狙いはなんだ」

「率直にいうと不意打ちね。

奴らと正面から戦ってボロボロになってもらうのは地元の一般軍人達。

多くの死者は出るでしょうね。

最悪は施設が破壊されて奴らが余韻に浸ったところを、襲撃して全滅してもらうのがサピエンス部隊の目的」

「犠牲ありきとはいつもの酷い作戦だ。

息を潜めるというのは方法はあるのか」

各施設近くには関係者を避難させるためのシェルターを建設したのだけれど、表向きには別業務優先のため建設計画中断としているわ。これは情報が魔法少女に筒抜けである事実を考慮した結果よ。

そこに潜んでちょうだい。

もちろん米国全線へ通じる地下通路も用意している。前線担当はそこに潜むことになるわ」

「奴らも使いそうだがな」

「だから隠れ方も気をつけてもらいたいわ。

区画地図にない部屋を各地に一箇所ずつ用意しているから、そこに隠れていれば見つかる確率は減るはずよ」

マッケンジーは話を聞きながら軽く資料を見てイザベラへ返事をした。

「お前らしい残酷な作戦だ。
一般軍人はただの時間稼ぎの役。
サピエンス部隊は絶望させるためのトリガー。
そして、いったいどれほどの魔法少女が…。

だがいつまで待つことになるんだ」

「いま神浜では日本の軍艦を集める動きがあるわ。その船団がペンタゴンへ辿り着くかその付近まで来たら合図でしょうね。

奴らは個々の力はあっても数は人類が圧倒的よ。

それを承知で奴らはちまちまとした方法よりもガツンとくる一撃にかけるはず。

最悪は核施設が狙われることも考えないといけないわ」

「奴らにそこまでの度胸があるかだが。

気は進まないが人類の未来がかかっているんだ。今回も前向きに参加するとしよう」

「助かるわ」

「部下達への褒美はしっかり用意しておけよ」

「もちろんよ。

そのおかげでこの休暇中に嫁や子どもとバカンスに行った奴もいるって話じゃない?」

「あああのバカか。

まあアイツらしいがな」

「2日後には業務再開だからそれまではしっかり休んでちょうだいね。

では失礼するわ」

 

私達はトレーニング施設を後にしてホワイトハウスへと向かった。

ホワイトハウスには住民との交流を終えた叔父が疲れた表情で椅子に座っていた。

その目の前にはたくさんの資料が積まれていた。

「今日も案件が多いようですね」

「ああまったくだ。街はキリスト教が禁止されてしまうのかと不安な声を出す住民が多かったよ」

「この国はキリシタンが多いですからね、無理もない話です。

それで、そんなキリシタンのために私を公の場に引き摺り出しますか?」

「冗談でもそんなことは言うんじゃない」

「でも国民からの信頼は命ですからね。

切り捨てるなら消す覚悟がいいですよ。絶対他の奴らが権利欲しさに宗教保守とかほざきますからね」

「人間の醜いところがよくわかるな。だが消せるわけがないだろ」

「ならば堅実に支持を集めましょう。

今度のブラジル訪問時にブラジルをもっと褒めて南米の指導者として後世に自信を持ってもらわないといけませんから」

「2日後だったか。

これまでのブラジルの成果は及第点ではあるが、まだマフィアには甘いようだ」

「マフィアに甘いだけまだいいですよ。そんなマフィア達には合法覚醒剤さえ作れればいくらでもキメていいことにして大金渡してるんですから」

「おかげで愉快犯達の割り出しはできたからいいがな。

やっぱり覚醒剤は」

禁止しても言うこと聞かないんですからビジネスにしてもらったほうが得ですよ。

今までの治安の悪さはなんでも覚醒剤でしたから」

「まったく。

ブラジルがやる気になっているのはとてもよいことだが、覚せい剤の合法化以外に黒人迫害の謝罪を白人が行うという取引材料もあったからじゃないかと思って悲しくなってしまうよ」

「謝罪以外もありますよ。

差別行為は犯罪になるようにして、過去の奴隷の印象を一切無くして同じ人間だという扱いになるよう取り決めることの約束も重要です。

中にはいきすぎた黒人優遇もありますからね。
まあ、全ては今までの白人たちがひどすぎたことが元凶ですが」

「まったく。ブラジルがうまく行ったら次はアフリカだな」

「いい発想力ですね。もちろんですよ」

そう話していると私と叔父の間へキアラが資料の山を持ってきた。

「とりあえず目についた急ぎの案件の資料をまとめてきました。

イザベラ、まだ山のようにあるから期日が近いものから渡していくよ」

「外部向きの案件をさらに優先して。

国内は後回しで」

「わかったよ」

私は目の前に積まれた資料に一つ一つ目を通して急ぎや不要な案件とわかるものは横にはじいて行った。

その中にはブラジル訪問に先駆ける案件も含まれていた。

「なんだこれ、ブルガリア産のコーヒー豆を米国優遇で取引できるよう根回しなんて。

こんなバカな話をする奴がまだいるのですか」

「誰だ、見せてくれ」

叔父が資料に目を通すと近くのコーヒーメーカーに目を移した後に答えた。

「こいつは普段は行儀はいいが、安くて上手いが売りなマウンテンネクストのCEOと繋がりがある奴だ。

ブラジル監視下になったブルガリア経済は南米だけのための資金となるが、以前まではマウンテンネクストに一部横流しされていた。

それがバレるのはやばいからやめて、その横流ししていた分を取引額減少で誤魔化したいのだろう」

「そんなの許可してはダメですよ。

南米の稼ぎは全て南米で消費してもらわないといけないです。

南米の稼ぎを別国が、ましてや米国が搾取してしまうのはもってのほかです」

「わかってるよ。

だがマウンテンネクストは米国内の経済を大きく回してくれる会社だ。

金の周りは悪くなるかもしれない」

「汚い金の根回しで生まれた流れなんていらないです。

潔く切り落として、失業者を見越し、土木建築に熱を入れておくべきです。

保留していた補修工事があったはず」

「日雇いか。

その場しのぎではあるが」

「失業するにはわけがあります。

何でもかんでも国が補助をすることはできないですよ。やりすぎると働く方が損になりますから」

「そうだな。

それは日本を見て思い知っているよ」

「ではこれはきっぱり断りを入れさせてもらいます」

このようにして私達は山のような資料を捌いて行ったが、叔父には途中で席を外して夕飯と就寝をとるよう伝えた。

そして深夜近くまで私とキアラで資料を捌いて行った。

これはよくある対応だ。

叔父には健康体で家族にも力を入れてもらわなければならない。くだらない資料に時間を使うのは私たちだけでいい。

叔父に見てもらわないといけないものがあったとしても私たちが処理してしまう。

ほとんどがそうしてしまっても問題ないものだ。

「イザベラ、本当にペーパーレスにしなくてよかったのか。

これらは突き返した後にシュレッダーにかけられるのだろう?

記録に残るようデジタルでも」

「キアラ、デジタルも便利だしこの程度の内容だけならそれでも問題ないわ。

でも中には2日後のブラジル訪問のような大統領の動向を察することができるものもある。

そういったものをデジタルの海に放り込むと何かの拍子にのぞき見られてロクな結果にならないこともある。

資料がある場所でしかわからないことができるから実物でのやり取りが大事なのよ」

「そんな単純な話かな」

「それに、デジタルにあるだけの情報はその保存先であるサーバが吹っ飛んだだけで復元不能になって消失するリスクがあるわ。
バックアップのためのバックアップとサーバを増やすだけでも大金がかかるだけ。

証拠品ありきの政治世界ではペーパーレスは難しいことなのよ」

「こんなにごみを出す結果も、あとのことを考えれば安いものとみえるか、か」

「ほら、終わらせないと睡眠時間がなくなるわよ」

私たちはせっせと中身を見て、そのほとんどをゴミ箱へ投げるという作業を続けた。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-15 どの時間軸にもない澄んだ空

「リーダーを辞めるってどういうことですか!」

そう魔法少女達に言い詰められていたのは十七夜さんでした。

「そのままの意味だ。

魔法少女の間にリーダーという存在は不要な動きにある。いつまでも私が皆を仕切るというのは周囲に比べて不公正ではないか?」

「そうじゃないですよ、急になんでそんなことを言い出したんですかってことですよ」

「ふむ、ならば最初からそう言え。

私はサピエンス本部へ戦いに向かう。そのためだ」

「全然答えになっていないですよ。まさか1人だけで参加する気ですか」

「何を言っている?和泉十七夜は1人だけだ。それにリーダーはやめると言った。

私が決めたことだが、何か問題があるか?」

「えっと、もう少し周りの人が困っちゃうってこととかあると思うのですよ。

だって、行ったら生きて帰れないんですよね?」

十七夜さんは黙ってしまい、みんなに背を向けました。

「すまん、しばらく1人にしてくれ」

そう言って十七夜さんは港に向かって歩き始めました。

「十七夜さん!」

十七夜さんを追いかけようとした魔法少女へ飾利潤さんが止めに入ります。

「十七夜だって心の整理が必要だろうさ。1人にしてやれ」

そう言われて十七夜さんを追いかける魔法少女はいませんでした。

十七夜さんは夕陽が見える中、港の倉庫へ運び込まれるテレポーターを見ていました。

すると急にひなのさんが声をかけてきました。

「人も転送できるテレポーターだってさ。すごい奴らだよな」

十七夜さんが声がする方向を見るとそこにはひなのさんの他に令さんと郁美さんがいました。

「都、キミはサピエンス本部へ向かうのか?」

「ん?何言ってんだ行くわけないだろ。

先の戦いで大いに実感したからな。あたしじゃ足手纏いだよ。

それに、逝っちまうと悲しむ奴らが多くなっちまったからな。

それが理由だ」

「悲しむ者か。都にはそんな仲間がいるのだな」

「何言ってるんですか。あなたがいなくなって悲しむ人は大勢いるんですよ」

令さんがそう言った後、令さんは自身を指差しました。

「まずはここにね」

「クミもだよ」

「あたしだってお前がいなくなったら悲しいさ」

「お前達」

「・・・十七夜、なんで戦いに行こうと思ったのか教えてくれないか。お前のことだ、何か思うことがあったんだろう」

十七夜さんは少し考え、夕日に染まった空を見ながら話し始めます。

先の戦いで私は見慣れぬ魔法少女のソウルジェムが爆散する様を目の当たりにした。

その爆発に巻き込まれた者もいる。

あんな非人道なことを行えてしまうサピエンスを放っておくと、いつか我々もあれらと同じ道を辿ることになる。

あんな特攻兵のような扱いをする奴らを許すわけにはいかん。

戦いに赴き今後の脅威を排除する。

だからだ」

「そうか。目の前で爆発されたんだったな」

「みふゆさんはそれで参って寝込んじゃっていたね」

「お前の意思決定を否定する気はないが、これだけははっきり言っておく」

「・・・」

「十七夜、生きて帰る気がないなら行くな」

「それを判断するのは」

「難しいっていうなら行くな。魔法少女達が安全に暮らせる未来に自分を含めないのはなぜだ。

皆のためとか言っておいて自殺願望を満たすために行くだけならばただの迷惑だ。

やめろ」

「言わせておけば私を自殺志願者のように」

「ならなぜ言えない。

ただの強がりでも『生きて帰ってくる』となぜ口に出せないんだ」

十七夜さんは何も言えなくなり、黙ってしまいました。

「十七夜、私だって十七夜と親しくやってこれたかは自信がない。

でもだ、今は私たちしかいないんだ。

今なら心の内を打ち明けてくれてもいいんじゃないか?

そんなに私たちが信用できないか?」

十七夜さんは一度変身しようか悩みましたが、思いとどまって少しだけ泣きそうな顔になってひなのさん達に話しかけます。

「私は生きる意味を失ったような状態なのだよ。

かつては東側の扱いが西側と平等になるよう行動し続けた。その点では八雲とは最も意気投合していたといえよう。

だが、日継カレンが現れたことで東西の偏見という概念自体がねじ伏せられ、さらには八雲を追いやられてしまった。

この時点で私は生きる原動力となる動機を失っていた。

今まで生きているのは皆に頼られてしまっているという惰性からだ

日継カレンは私にとっては許し難い相手だ。

だがそれ以上に、サピエンスが人間と魔法少女の扱いを不平等にしようとしている。

ならば公平な関係の頃に戻るよう、サピエンスを倒すために行動を起こそうとするだろう。

しかしだ。

元々人間と魔法少女は公平であったか?

日継カレンたち海外の魔法少女達は人間社会崩壊を狙っている。

それも人間と魔法少女を不公平にする行為ではないか?

今まで公平さを重視してきた私の中に魔法少女優遇な世が望ましいと思う私がいるのだ。

都、観鳥、牧野、私はどう判断すべきなのだ」

ひなのさんは背伸びをして十七夜さんの右肩をポンポンと叩きました。

「よく話してくれたな。

一言言わせてもらうと、その公平さの考えは無視してみてもいいんじゃないか?」

「なんだと」

令さんは写真を一枚撮った後に十七夜さんへ話しかけます。

「十七夜さん、あなたには硬く考えてしまう癖がある。

だから自分のルールから外れることも許せないんだろうね。

でもね、私達は感情を持つ生き物だ。

たまには今見せてくれている表情のように、直感に従って行動してみたらどうですか?」

そう言って令さんはカメラで撮った画像を十七夜さんに見せます。

すると十七夜さんは軽く笑いました。

「私がこんな情けない顔をするなんてな」

十七夜さんが見ていたカメラを郁美さんが取り上げます。

「まあまあ、感情を持った生き物ならそういうことはありますって。

だから十七夜さん、今のお気持ちをどうぞ!」

十七夜さんは少し嬉しそうな顔をして答えました。

「私はサピエンスが許せん。

サピエンスを倒し、魔法少女の安寧を最優先としたい。

もちろんその中には私も含めてな」

「言えたじゃないか。

それなら私は何も言わん。しっかり倒して帰ってこいよ」

ひなのさんに続くように令さんと郁美さんも笑顔を見せます。

「3人ともに、感謝する」

十七夜さんは、最初の頃よりも覚悟を決めてサピエンス本部へ向かうことを決めました。

 

船で連れてきた他の地域の魔法少女達の受け入れが落ち着いた頃、私達もサピエンス本部へ向かうのか考えることにしました。

その話題を出すと欄さんは即答しました。

「あたしはパスだ。

もうサピエンスの件は大詰めなんだろ?あいつらだけでなんとかなるだろうし、面倒なだけだろうし降りさせてもらうよ」

すると近くにいた黒さんが口を挟みます。

「そう言ってマギウスの翼から速攻抜けてましたよね」

「あれはやばそうだからってのもあったけど、今回はただただ面倒そうだからだ」

「欄さん絶対活躍できるのに」

「そんなに行きたいなら黒がみんな連れて行けよ」

「なんでそうなるんですか!」

「まあ大人しく待っておこうや。

というわけだ、いいな夏目」

「はい。反論はありません。

無理なことでもいままで賛同してついてきてくれたことに感謝しています。ありがとうございました」

あんたについて行けばここで腐ってるよりは刺激を得られると思ってついて行っただけさ。

思った通り刺激的で楽しかったよ。

じゃあな、生きて帰ってきたらちゃんと土産話聞かせろよ」

「はい」

欄さん達を見送った後に次に話を聞いたのは氷室さんと那由多さんです。
お二人に話を聞くと先に口を開いたのは那由多さんでした。

「私は嫌ですよ。

北海道に連れて行かれた時も美味しいものが食べられると思ったのに、そんな暇なく殺し合いに巻き込まれるのですもの。

あんなものに参加するのはごめんですわ」

「私は那由多様についていくだけですので、私も不参加です」

「あら、私に合わせなくてもいいのですよ?」

「別にあなたに合わせなくても行く気はなかったですよ。

私は元々傍観者。主戦場に参加する気はないですよ」

「そ、そうですの」

「久しいですな、ラビ殿…」

声がした方には時女一族の子がいました。

「あなたは時女一族の」

「旭、新たな居場所を見つけられたようで何より」

「えっと、目的から外れて行動してしまい申し訳ない。

2人についても」

「いや、あの場にいないことは正解だった。

調整屋を庇わなかったとしても、その仲間として日継カレン達に蹂躙されただけだったでしょう。

あの場で生き残ってしまった私こそが罪ですよ」

「ラビさん、あの大怪我で帰ってきた日にそんなことがあったのですの?」

「那由多様はしばらく黙っててください」

「うぐっ」

「旭、湯国の出身者で集まる必要はもうないわ。

世界はすでに大きく動き出して最悪なシナリオを歩みながらも魔法少女だけで生きていける世の中へ動き出している。

私達はそれが【意思】によって邪魔されるか否かを見守るだけよ」

「そうでありますか」

「旭はどうするの?」

「時女一族が不安なので残るでありますよ。しばらくはちはる殿ひとりぼっちでありますからな。

皆が回復した後も共に歩もうと思うであります」

「そう、それはよかった」

「ラビ殿も居場所は見つけられているようでありますな」

「私が?どこに」

隣で那由多さんが胸を張っていました。

「ラビさんのそばには私がいますわ。悩んだらなんでも言ってください」

「那由多様に相談しても謎が深まるだけだと思います」

「そ、そんなことないですわ!」

「ありますよ。ふふっ」

「冗談を言い合える仲なら十分でありますな」

私はその場を後にして北海道から持ってきた軍艦の甲板にいるあやめちゃん達に話を聞きに行きました。

質問に答えたのは葉月さんでした。

「私たちの中で相談したんだけどね、悪いけど不参加ってことで」

「はい、全然問題ないですよ」

「かこは行くの?」

「私は行きますよ。結末をしっかり見届けないといけないから」

「なら、ならさ!」

このはさんがあやめちゃんを止めに入ります。

「あやめ、何があっても連れて行かないって言ったでしょ?

今まだでだって十分危なかったけど、次は海外だし生きて帰られる保証もないなんてところへは連れて行けません」

「うう、わかってるよ」

「絶対帰ってくるから、フェリシアちゃんと一緒に待ってて」

「おう、あいつにも久々に会わないとね」

葉月さんが少し真剣な顔で話しかけてきました。

「かこちゃん、日継カレンにこだわり続けるのはいいけどかこちゃん自身はそのままでいいの?」

「特に」

「かこちゃんがななか達を殺す原因を作ったことは、今後も背負っていくべき罪であることはわかっているよ。

でも今のかこちゃんは前とは違って倒すべき相手ばかり見つめている気がするんだ。

あの人のようにね」

「…否定はできないです」

「かこちゃんの人生はかこちゃんのものだと思うんだ。

自分が今後どうしていきたいかは、しっかり持っておいたほうがいいよ。

そうしないと、命が軽くなっちゃうからね」

「わかりました。忠告ありがとうございます。

自分のやりたいことをしっかり持っておきます。

あやめちゃん、フェリシアちゃんと3人でまた遊べるようにちゃんと帰ってくるからね」

「おうよ!絶対だよ!」

私がその場をさった後にこのはさん達が話を始めます。

「葉月、なんであんなことをわざわざ言ったの?」

「いやね、ななかも危なっかしさがあったから。

彼女の背中を参考に行動しているかこちゃんにも同じ危うさを感じられたのさ。

だからかな」

「まったく、お節介さんね」

 

次の日、港はテレポーターの起動する様子を見ようと多くの魔法少女が押しかけていました。

テレポーターは倉庫の外に出された状態でたくさんの線が倉庫内に伸びていました。

私とやちよさん、ういに灯花ちゃんにねむちゃん、ワルプルガさんとさつきさんが揃ってテレポーターを見にきていました。

「あのテレポーターに灯花ちゃんも関わったんだっけ?」

「そうだよ。魔法石の魔力制御と座標指定でちょっと助言をしてあげたんだ」

「すごいね!海外の子も助けちゃうなんて」

「天才だから当然だよ!」

「あの輪っかから人が出てくるんだよね?」

「そうだね。別のテレポーターと座標が共有されて空間がつながった状態になる

その境目となるあの輪の歪みで問題が発生しないかが注目すべきところだ」

テレポーターをいじっていた技術者さんが装置へ魔法石をはめるとテレポーターの輪っかは青白く光だし、輪っかの中にはブラックホールのような渦の模様が現れました。

「よし、あとはヨーロッパにつながるかだ」

「通過したら体が粒子になって消え去るかもね」

「こ、これからくぐる奴が目の前にいるのに不安になること言うなよ」

「えへへ、悪かったね」

技術者さん同士で冗談を言い合った後、その中の1人が覚悟を決めてテレポーターをくぐりました。

姿は消えてしまい、私達は無事に転送されたのかどうかわかりませんでした。

みんなが見守る中で灯花ちゃんはテレポーターに近づいていきました。

「ちょっと灯花ちゃん!」

灯花ちゃんはテレポーターの近くにあるモニターを見ていました。

「これなら大丈夫かな」

灯花ちゃんがそう言うとテレポーターからさっきの技術者さんが出てきました。

「よし、成功だ!」

周囲からは歓声が上がりました。

そしてすぐにテレポーターの向こう側から次々と魔法少女が出てきました。

私達はテレポーターから出てきた魔法少女達へテレパシーで話しかけました。

[神浜へようこそ!

徒歩での移動になりますが、魔法少女が集まって生活している場所があるのでそちらへ案内しますね]

「oh,Japanese magical girl using telepathy!」

「You too have to tell her by telepathy」

「oh! Sorry」

[ごめんごめん。神浜の皆さん、ちゃんと伝わったよ。

じゃあ日本の魔法少女さん、この後もたくさん来るから順次案内よろしく!]

海外の魔法少女達の案内は、協力してくれると申し出てくれた魔法少女達が受け持ってくれています。

「えっとまさら、テレパシーじゃないと通じないんだっけ」

「そう。でもいつも通りよ」

[はいはーい、皆さんしっかりついてきてくださいね!]

[持ちきれないほどの荷物がある方はいますか?

あるなら持つの手伝いますよ]

「この阿見莉愛が皆様をしっかりエスコートして差し上げるわ!」

「先輩、テレパシーじゃないと伝わらないですよ」

次々とテレポーターから魔法少女が出てくる中、魔力反応が少し違う子が混ざっていました。

「魔法少女ではない反応ね。何者かしら」

その反応が気になったのかさつきさんと、なぜかねむちゃんが変わった魔力反応がすると言ってその子の場所へと向かいました。

変わった反応を見せていた子は手には人形を持っていて、少し大きめなリュックを背負っていました。

「ちょっとあなたいいですか?」

「は、はい!」

「え?!日本人?!」

「わ、わたしはえっと」

私達は何かがあったと思ってさつきさん達のところへと向かいました。

「まあ日本語がわかる子が混じっていても不思議なことではない。

率直に聞かせてもらうよ。

君は“風の伝道師のウワサ”を連れているね?」

「それって、フゥちゃんのこと?」

[フゥちゃんとは偶然出会って、それから魔法少女の情報を集めてくれているよ]

「あれ?

いまあなたが話しました?」

[違うよ、これは腹話術。

直接話すのが苦手なかごめちゃんはこうやって私を通して話すことがあることが多いんだ]

「人形にしゃべってもらっている感じですか」

「ここで立ち話をするのは少し迷惑よ。落ち着いて話ができる場所へ移動しましょう」

やちよさんの提案で私達は南凪の公園で座って話を続けました。

「事情はだいたい把握した。

君が魔法少女達の声を受け取れるのは風の伝道師のウワサが拾っているからだろう。

その情報を集めて何に活用しているんだい?」

「魔法少女のことを多くの人に知って欲しいから、というのが目的で。

でも今は純粋に記録を残したいってだけ、です」

「あの米国大統領の演説とは関係がないのね?」

「関係ないですよ!あの時は私神浜市にいましたし」

「神浜で酷い状況を見た後に助けてもらったと思ったら、ホワイトハウスに監禁。

そこから攫われたかと思ったら保護されていた。

大変な日々だったね」

「そう、ですね。

大変でした」

「魔法少女の記録をしている子が来ていると聞いたのですが」

そう言って近づいてきたのはかこちゃんでした。

「いつのまに」

「記録はどこに残しているのですか?本に残しているのですか!」

「ファ、ファイルにまとめていて今は10冊に至りそうな勢いで」

「すごい数ね」

「その内容、見せてもらっていいですか!」

かこちゃんは久しく無邪気な顔を見せていました。いともはどこか恐ろしい表情をしているので。

「え、ええ?!」

困惑しているかごめちゃんの前にさつきさんが割って入ります。

「ダメです。まずはこの子が落ち着ける場所へ連れていくのが第一です」

「そうでしたね。すみません取り乱しました」

その後かこちゃんは港の方をしばらく見た後にかごめちゃんへ話しかけます。

「全てが落ち着いたらまた伺おうと思います。その時にはゆっくり記録を見せてくださいね」

「は、はい」

かこちゃんは港へと向かっていきました。

「そうか、いつ見てもらってもいいように整理しておかないとなぁ」

かごめちゃんはそうつぶやきました。

まあ今後のことはさつきさんが言った通り落ち着ける場所を確保してからだよ。

とはいえしばらくはテント暮らしだろうけど」

「そうですか」

私が周囲を見渡すと灯花ちゃんがいないことに気づきました。

「あれ、灯花ちゃんは?」

「話に飽きちゃったって言って港の方に行っちゃったよ」

「ええ、見てきた方がいいかな」

「きっとテレポーターを見に行ったんでしょ。他の魔法少女もいるし大丈夫よ」

私達はそのまま居住区となっている栄区へと向かいました。

 

港ではヨーロッパからテレポーターで来る魔法少女が落ち着いた後に、サピエンス本部へ向かうと手を挙げた魔法少女を試すための決闘がはじまっていました。

決闘中は魔法を使うことが可能で、その様子を船の甲板からカレンさんとジーナさんが眺めていました。

「あんな魔法使える状況で見定めて意味あんのか?」

あたし達では魔法を打ち消すシールドくらいしか用意できないし、守るばっかじゃつまらないってあいつが言って聞かなかった結果さ

「まあ最悪肉壁にはなるだろうけど」

「最悪な妥協案だな」

「あたしらですら生きて帰られるかわからないんだ。

イザベラと対峙した事はあったが、今じゃどんな化け物になっているのか」

「問題は従者の方もそうだろ?」

マーニャによると人間なのに魔法少女に楽に勝つヤバいやつって話だっけ。

なんだよ英雄クラスかよ」

「魔法少女に負けず劣らずの人間は過去にもいたし、おかしい話ではない」

「ぬわぁ?!」

目の前で繰り広げられていた決闘が終わった。

「また神浜側の負けか。

本当に大丈夫か?」

戦った者同士が少しだけ討論をした後、ヨーロッパの魔法少女は戦った神浜側の魔法少女を船へ招き入れた

「あれ、全員乗せちゃった」

「誰も止めないならキレやすいあいつらが妥協できたってことだ。気にする必要はないさ」

少ししてからジーナさんがカレンさんへ問いかけます。

「今回の戦い、バチカンの時以上になると思うか」

「人類が最終手段としてあれを持ち出すならば必然的にそうなるだろうさ」

「あの時お前たちは人類が終わるような状況に奇跡を見せた。だからミアラや私たちはお前たちの師匠が言った言葉を信じてここまでついてきた」

「『やっと見つけた奇跡の体現者。私の目に狂いはなかった。どうかこの世界を救ってくれ』だったか」

「そう言ってお前たちの師匠は死んでいった。
人類があれを使ったらバチカンで起こした奇跡以上の負担がお前たちにかかるんだろう?あのときだってソウルジェムにヒビが入るまでの負担だったのに」

「らしくないな。心配してくれるのか」

「お前を殺すことを生きがいにしてるやつらが困るって言いたいんだよ。
ちゃんと責任もって生きてくれよ」

「今は生きる理由があるんだ。簡単に死ぬ気はないよ」

「・・・前から行っている見つけた生きる理由ってなんだよ」

「誰が教えるかよ」

そう言ってカレンさんは空を眺めてこう言いました。

「あれから随分と遠いところまで来たものだ」

 

これからしばらくして、世界を巻きこむ魔法少女VS人類の大戦が始まる。

 

第三章:激闘と見せかけた神浜鎮圧作戦(ミスディレクション) 完

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-14 個人が尊重されるということ

これからこの世界では大きな戦いが始まるらしい。
その戦いに参加するのか、しないのか選べとミアラという魔法少女は言っていた。
本当ならばみんなに相談して決めるんだけど、今相談できる相手はいない。

みんな包帯が巻かれて息はしていても目を覚ましてはいない。

いろはちゃん達は説明した後に多くの魔法少女に囲まれて忙しそうだし。

私は考えがまとまらず、晴れた空の下で馴染みのある場所へと歩いた。

以前よりも周囲が少し荒れた道を辿っていると水徳寺に辿り着いていた。
あの戦いがあっても建物は壊れていなかった。

池の近くにあるベンチに座って一呼吸すると誰かが声をかけてきた。

「今時女一族で動けるのはあなただけですか?」

声のした方へ素早く振り向くとそこにはカレンさんがいた。

「カレンさんか。あの様子を間近で見ていたならわかるでしょ?

旭ちゃんは見つからないし、あんなこと言われても1人じゃ決められないよ」

カレンさんは私の隣に座って、両掌を前に出すとカレンさんの掌の上が輝きだした。

すると見慣れた剣の形になってカレンさんはそれを両手で持っていた。

「時女一族の剣!

でもそれを持って行ったのはピリカさんのはず」

するとカレンさんは笑顔を見せてから。

「あの時も気づいていないようですが、今あなたと話しているのはカレンではないですよ」

私は少し悩み、話し方がピリカさんに似ていることに気づいた。

「え、ピリカさん?

いやでも今目の前にいるのはカレンさんで」

「確かに今はカレンの体を借りている状態です。私の体はワルプルガを再臨させた際に失われました。

しかしソウルジェムが無事だったのでこうしてあなたとお話しできています」

ピリカさんは時女一族の剣へ目をやる。

これを静香さんから取り上げたのは聖遺物だからというだけではなく、この剣には信念を貫く力が宿っているからです。

あの時私達は神浜にいる魔法少女の心を折れる状態にする必要がありました。

だから取り上げたのですが、静香さんは考えを変えてくれなかったようですね」

「静香ちゃんは人間の愚かさは理解していたみたい。

でも、日の本を守ることは民を守ることっていう考えは変えられなかったみたい。

静香ちゃんのお母さんの影響もあるかもしれないけど」

「そうですか」

ピリカさんは私に時女一族の剣を渡してきた。

「本当は静香さんにお返しするものですが、今はあなたが適任だと判断してお返しします」

「そんな、私にはそれを持つ資格なんてないよ」

「資格とかいう問題ではありません。

この剣には歴代の時女一族の想いが込められています。静香さんの想いも少しは込められているはず。

静香さんとを繋ぐもの、お守りとして持ってはどうですか?

その影響で私たちを裏切られてしまっては困りますけどね」

「静香ちゃんの、想い」

私は時女一族の剣を受け取った。

それには確かに魔力を感じられ、その中には微かに静香ちゃんの魔力を感じた気がした。

急に私の中に静香ちゃんとの思い出が込み上げてきて私は泣き出してしまった。

わたしの頭をピリカさんが優しく撫で、私は促されるがままにカレンさんの胸で思いっきり泣いてしまった。

「ずっと押さえ込んでいたんですね。

今は強がりも必要ないです。気の済むまで思いを吐き出してください」

相談は周りの子にたくさんした。

それでも私にはみんなを率いていくんだという重圧があった。

こんな思いを静香ちゃんは1人で抱えていたのかと静香ちゃんを尊敬することもあった。

でもそんなことで心が潰れそうになることはなかった。

やっぱり一番心に来たのは静香ちゃんが死んでしまったこと。

あの爆発した瞬間、私の心が壊れなかったことが不思議なくらいの衝撃だった。

それから時間が経ってこうして大泣きしてしまったということは、気づかないうちに胸に押さえ込んでいたのかもしれない。

悲しむという感覚を。

しばらく大泣きしてしまい、気持ちが落ち着くと私はカレンさんから離れた。

「すみません、ありがとうございます」

「いえいえ。

それであなたにどうしたいのかと聞いた手前申し訳ないのですが、貴方はサピエンス本部へ連れて行けません」

「え、どうして」

「貴方では力不足です。

結果的にあなたは静香さんに勝つことができなかった。静香さんは並よりも少し上の実力者でしたが、彼女でギリギリ許されるか怪しいです。

そんな静香さんに勝てなかったあなたが生き残れるのかと言われたら、正直無理です」

「そうか…」

「でも神浜に残る魔法少女にも神浜を守るという役割と、魔法少女だけで生きていける術を探るという役割がしっかりあります。

そちらに注力してもらったほうがいいでしょう」

カレンさんは立ち上がって池の目の前まで歩き、振り向いてこう言いました。

「どうしても連れて行って欲しいのならば、明日船まで来てください。

そんな選択をしないことを、祈っています」

そう言ってカレンさんは高く飛び上がって水徳寺を後にした。

「わたしは…」

手元にある時女一族の剣を見つめながら、私は今後どうすべきか考えることにした。

私にできることは。

 

血の惨劇とは比べ物にならないほどの被害が出てしまった。

ごく一部の神浜に残っていた蛇の宮の子達以外の蛇の宮出身者は全滅、他にも少数の犠牲者が出てしまった。

みんなを殺した張本人はこの手で握りつぶせたものの、皆の怒りの矛先はサピエンスへ向いていた。

私の頭に響いていた二木市の魔法少女達の悲鳴はほぼ響かなくなり、感情の起伏がなくなりつつある感覚さえ覚え始めていた。
そのため神浜を発った時ほどサピエンスを滅ぼすという熱量はなかった。

私達は仲間の遺体を二木市から出る際に使用した列車近くへ集めていた。

遺体は棺桶に入れた後に土をかけて保存することにしている。ここではミイラ化させるほどの道具を揃えられないと判断したやむを得ない処置である。

神浜に放っておくとその辺の魔法少女が容赦なく炎の中へ放り込むか燃やしてしまう。

骨だけでもいいから、二木市へは返してあげたい。

そう思い、船から帰るまでの間に仲間たちは集められる限りの二木市の仲間たちの遺体を集めていた。

私も棺へ収める作業を手伝っていたのだけど、ひかるが声をかけてきた。

「結奈さんそういうのはひかる達がやるっすよ」

「気にしなくていいわ。

こうしていないと、落ち着かないのよ」

「そうっすか」

わたしとひかるはアオの棺桶の前にきた。

「アオさん、危なっかしい時もあったけど一緒にゲームしている時は楽しかったっすよ」

「そうね。あの子は心が弱い上に心の拠り所がゲームになっていたし、心を開く相手が少なかったわね。

私が聞けるようにしてあげるべきだったのだろうけど、叶わなかったわ。

全然ダメね」

「結奈さ、あんまり思い詰めないでよ」

そう言って近づいてきたのはさくやだった。

さくやは樹里の様子を見に行っていたはず。

「ありがとうさくや。樹里の様子はどうだったの」

「サピエンスがどうとか竜ヶ崎のメンバーと盛り上がっていたよ。

結奈、船で聞いた話ってのと関係してるの?」

「あなた達にも聞かせないといけないのだけれど、まずは仲間達の体が腐る前に棺へ入れる作業が先よ。

話してしまったら、それすら手につかなくなるだろうから」

二木市の魔法少女の分だけ棺へ納める作業が完了して私は改めてみんなを呼んで船で聞いた話を伝えた。

その結果は予想外だった。

神浜へ向かう前の二木市の様子とは違って騒ぎ出したのは少数だった。そのほとんどは初期の頃に二木市へ残っていたメンバーだった。

「サピエンスってやつを潰せば二木市に帰られるんだろ?

なら潰しに行くしかない!」

「死んだあいつのために倒しに行かないとね」

そうまわりが騒いでいる中、樹里は冷静だった。

その様子を見てらんかが樹里へ声をかけた。

「あんたみんな集めて言ったこと改めて伝えないの?」

その後に竜ヶ崎の魔法少女の1人が樹里へ話しかけた。

「樹里さん、あんなこと言われた後でも納得できないですよ!

私たちも一緒に」

「バカやろう!」

樹里の怒鳴りに周りが反応して静かになった。

「神浜にいた奴らならわかるはずだ。

サピエンスだかってやつは魔法少女を殺すプロだ。

人間たった1人潰すだけで樹里様と結奈が瀕死になったし挑んだやつに死人も出てる。

そんな奴らが大勢いるような場所に気軽に連れて行こうだなんて言えるかよ」

「あら、珍しく意見が合うわね。あなたにも少しは心境の変化があったのね」

「アオ達の末路を見れば樹里様の癇癪も嫌でもおさまるさ。

戦うことにワクワクもしねぇしよ」

私は武器を取り出して地面に叩きつけた。

「いいかしら。

樹里の言う通り、サピエンスの本部への殴り込みは神浜の魔法少女を潰そうって言った、かつての考えとは比べ物にならないほど慎重に考えてちょうだい。

控えめに言っても自ら死にに行き、地獄へ向かう覚悟がなければ神浜へ残ってちょうだい」

周囲は少しざわつき、竜ヶ崎の1人が名乗り出ました。

「私は死ぬ覚悟ができている。だから連れて行ってくれ!」

樹里はその子へ歩み寄り、胸ぐらを掴んでそのまま殴り飛ばした。

殴り飛ばされた子は受け身を取って口が切れて出た血を拭ってその場で立ち上がた。

「それぐらいじゃ折れない覚悟ですよ」

すると樹里はニヤリと笑った。

「いいだろう、そんなに死にてぇならついてきな!」

「はい!」

その様子を見て二木市の魔法少女達は次々と樹里へと群がった。

そんな中、樹里はらんかを見て伝えた。

「らんか、おまえは絶対連れて行けねぇから残れよ」

「何よ急に、言われなくても残る気だったわよ」

「ならいい。樹里様がいなくなった後を頼むやつがいなくなっちまうからな」

「急に怖いこと言わないでよ」

私はひかるにも残るよう伝えた。

それでも。

「結奈さんそんなこと言わないでくれっす。

ひかるは結奈さん無しでは生きて行けないことを知ってるはずっす

わたしはひかるの飽きやすい性格を思い出した。

願いで私に夢中になって今があるのに、私がいなくなったらそれは生き残れてもひかるにとっては幸せなのか。

「生きて帰られない覚悟があるかしら?」

「もちろんっす。なんなら結奈さんが死ぬくらいならひかるが庇って死ぬっす」

ならあなたも樹里に殴られて立ち上がる覚悟があるか試してきなさい」

「あ、あれやらないといけないんっすか」

「だって不公平でしょ」

私はさくやを探してさくやと面と向かって伝えた。

「らんかだけだと悪いけど不安だわ。さくや、あなたが残って他のメンバーの面倒を見てちょうだい」

「まあそういう結果になるよね。仕方がないね、私は残るよ」

「よろしくねぇ」

「でも結奈、これだけは約束して」

「…なにかしら」

「決して死にに行くことが目的ではないことを忘れないで。今の落ち着きすぎた結奈を見ていると不安で仕方がない。

生きて帰ってくることをゴールにして」

「努力するわ」

賑やかになっている樹里の方から声が聞こえてきた。

「おい!人数が多すぎるんだよ。

結奈も手伝ってくれよ」

「あら、それなら腕力がない代わりにこの金槌で度胸試ししてあげようかしら」

「結奈、冗談がすぎるよ」

こうして二木市の魔法少女達は樹里が殴り疲れるまで起き上がれる者と気絶したままの者を出しながら戦場に赴くメンバーが決まって行った。

 

神浜の魔法少女達はいろはから船での話を聞き、ほとんどの子は参加しようと言い出す子はいませんでした。

「戦いだなんて、神浜が襲われた時だって何もできなかったし」

「なんだったら魔法少女だけで生きる術を探るって方が楽しそう」

「戦いを止めるためには必要。でも絶対私では力になれない」

そう言った意見が出る中、まどかちゃん達も話を聞いていたのでどう判断するのか聞きに行きました。

そこには見慣れない小さな子がいました。まどかちゃん達があの時探してるって言っていた子かな。

「あれ、見慣れない子がいるわね」

「やちよさん、あの時探していた子ってこのなぎさちゃんなの」

「ほんと、あんな大変な時に迷子になるなんて」

「ごめんなさいなのです。

なぎさは怖くて陰に隠れていたのですよ。だからこうして無事なのです!」

「世話のかけるちみっこだね」

「突然いなくなるあんたにも言えるけどね」

そんな賑やかな見滝原の魔法少女達に今後どう行動するのか聞きました。

「私は戦いなんて嫌だから行きたくないなぁ」

「まどかが行かないなら私も行かないわ」

「他に行く奴らがいるんだろ?ならそいつらに任せたほうがいい」

「私もパスだね」

「まあこんな感じで、私達は神浜に残るわ」

「そうですか、わかりました」

話を聞いている中、なぎさちゃんがずっと私のことを見続けていたことが気になっていました。
なぎさちゃんの様子に気を取られている中、まどかちゃんが問いかけてきました。

「いろはちゃん達はどうするの?」

私達は話を伝えようということで頭がいっぱいで、自分たちがどうしようか話をしていませんでした。

私はやちよさんの方を向くとやちよさんが話し始めます。

誰がなんと言おうとみかづき荘のメンバーは神浜から離れることは許さないわ」

まあオレ達が動かなくても他の奴らがやっつけてくれるみたいだしな」

「無理していく必要はない!

私達は私たちだけで生きていくことを考えることに専念だ!」

「あら、頼もしいわね」

こうやって残ることに対して笑顔で話し合っている中、密かにサピエンス本部への攻撃に参加しようとする魔法少女もいました。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-13 最後の手引き先

神浜には久々に雨が降っていました。

神浜に撒かれたアンチマギアは雨に流されてやがて海に消えていくでしょう。

そんな神浜は怪我人の看病と死体整理に追われていました。

今までに死体処理については色々試されていたようで、最終的には火葬で灰にすることでおさまったようです。

焼く場所は限られていて、焼き場になっている水名区の城跡地にはまだ焼き切れていない死体がありました。

いい加減腐敗臭もするようになっていて、炎を扱える魔法少女達が手伝ってくれていたのですが、雨の日なので炉に投入できるようになるまで死体は置いたままです。

そのまま埋めてしまいたいですが、最近の死体は肉がついたまま埋めてしまうと土がダメになるとも聞きましたし、置いたままです。

この作業を神浜の方は淡々とやっていたのでしょうか。

ここにいることは今の世界事情を考えると安全であることは間違いはないですが、ここの価値観に慣れること自体は怖く、難しいことでしょう。

今は露の温度が上がりきるまで見ているだけ。死体の投入をやる気はないから、心はまだ大丈夫。

大丈夫、私はまだ大丈夫・・・。

燃えている炉の前で立ったままのさつきのところへ、傘を持った1人の魔法少女が入ってきました。

「ここでは死体を燃やしているのですね」

みたことがない魔法少女と思われる人物へさつきは恐る恐る話しかけます。

「見かけない方ですね。どこからきたのですか?」

「港に停泊している船からですよ。

ちなみに燃やした後の骨はどうしてるのですか?」

「・・・炉の中に残したままと聞いています」

「それは勿体無いですね。

人の骨とはいえ、粉々の粉末状にして畑に撒けば十分に肥料として役立ちますよ。

死んでしまった方達も土に帰れて、かつ植物の成長にも貢献できるし、良いことではないですか?」

「そうなのですね。ご希望で土に撒く方はいらっしゃいましたが、肥料として使ってもいいかもしれませんね。

でもあの船って外国から来たのですよね。

外国の方が火葬について詳しいなんて」

「いえ、私は日本に滞在した時期がありまして日本の文化は知っているのですよ。

外国でも火葬をする場合もありますけどね」

悪い人ではないと思ったさつきは船のことについて聞こうと思いました。

「あの、よければ色々教えてくれませんか。

今起きていることがさっぱりで」

「ならば後でいろはさんに聞いてください。

ではこれで」

そう言って魔法少女は玄関へと向かっていきました。

炉が設置された施設の玄関で、みかづき荘のメンバーが玄関から出ようとする魔法少女と鉢合わせました。

そしていろはがこう言いました。

「カレンさん、どうして生きているのですか」

「お久しぶりですね、いろはさん。

腕は大丈夫ですか?」

いろはは包帯が巻かれた左肩を少し触った後、カレンへ話しかけます。

「あなたは死んだものだと思っていました」

「私も潔く死のうと思ったんだけどさ、運悪くこうして生きているわけさ。

環いろは、神浜の皆へ今世界で何が起きているのか知りたい者は港に停泊されている船へ明日来るよう伝えてくれ」

カレンに対してやちよが話しかけます。

「状況を知りたいのは確かよ。

でもあなたが生きていると知ったらどれほどの子たちが船に殺到するか」

「私が生きていることを伝えるかどうかはお任せします。

その場合は、今は魔法少女同士で戦いあっている場合じゃないことは知らせておいてくださいね」

そう言ってカレンは傘をさして南凪区へ歩いていきました。

話している内容が気になったのか、玄関にさつきさんが来ていました。

「いろはさん達、あの方をご存知なのですか。

なんか死んだとか物騒な話を聞きましたが」

いろは達は炉から離れた机を囲むように人数分の椅子で囲んでさつきへ事情を説明しました。

「そう、あの方がこの神浜を変えた張本人なのですか。

初対面だと全然そういうことをする人だとは。

あとは魔力反応がないのは、そういった術をご存知の方だからだったのですね」

「隠すのが上手なのよ。

他にいた2人にもうまく立ち回られて私たちでは何もできなかったわ」

さつきは情報整理のためか黙り込んでしまいました。

するとフェリシアが話し始めます。

「なあ、そういえばなんでここまで来たんだっけ」

その問いには鶴乃が答えます。

「栄区へ行くついでに寄ろうって話になったでしょ?

まさかカレンに会うなんて思わなかったけど」

「でもさつきさんがここにいるのは意外でした。

巫女さんをやっていたとは聞きましたが、死体処理まで経験したこともあるのですか」

さながさつきへ聞くとさつきは我に帰ったかのような反応をしました。

「死体処理に直接かかわったかといえば、依頼で土に撒くことになったときくらいですね。

困っていると聞いてここまで来たのですが、まさか死体処理のお手伝いまでさせられるなんて」

「で、頼んだ子はどこへ?」

「アンチマギアで眠ったままだった友人が目を覚ましたと聞いて、どこかへ行ってしまいました」

「ええ?!

それはすみませんでした」

「いろはさんが謝ることではないですよ。

ここの担当なんて、誰もやりたくないのはわかっていますから。

誰かはやらないと」

「私たちがやっておきますから、さつきさんはキクさん達のところへ戻って大丈夫ですよ」

「そうですか。でも私もやりますよ。

流石に死体の投入はやりたくないですが、炉の温度を上げるまでは」

神浜ではどの作業を誰がやるという明確な役割分担はありません。

今となっては戦った後の後片付けに協力してくれる方は多いですが、多くの人は参加したがりません。

避難所である栄区や元鏡屋敷付近に溜まっている場合が多いです。

命令する権力や、やらないといけない義務といったものも存在しないため、誰もやりたがらないことはほっとかれがちです。

なので今回のように少々押し付けられたようなケースは、

「そのまま放っておこうよ」

というのが適切な状態になっています。

そんなほっとかれているであろうからこそ私たちは寄ったのですが

この状況を解決しようとは思っていません。
しようとすると、「強制」と「支配」が必須になるので。

私たちは炉での作業を終えると、栄区へと向かいました。

さすがに死体の投入段階に入る時にはさつきさんに先に帰ってよいと伝えて、さつきさんは既に栄区へ戻っていました。

栄区には無事か軽傷の魔法少女が滞在していて、重症か意識不明の魔法少女は里見グループが用意していたというシェルターの一つへ収容されています。

私達は栄区にいる子達へカレンさんから聞いたことをそのまま伝えてまわりました。

もちろんカレンさんの存在は隠してです。

聞きに行きたいという子は想像以上に多く、負傷中である結奈さんやちはるちゃんも参加すると言っていました

他には鏡を通ってきた魔法少女達、三重崎の魔法少女達、ひなのさん、そして十七夜さんもです。

ひなのさんはさらに気になることも言っていました。

「港なんだが、衣美里から今日の間に3隻も軍艦が来たと聞いている。

乗っていたのは魔法少女だというのだが、軍艦なんか持ち出して何を始める気なんだ。

まずはそれを聞きに行かねばならん」

軍艦が港にいることは初めて知りました。

雨で見通しが悪いせいか気づけませんでした。

この話を灯花ちゃんに話すと、なんと驚きの返事が返ってきました。

「その話は海外の魔法少女からすでに聞いているよ」

「え?!一体いつの間に」

だってお姉様が神浜から離れた頃からずっとやりとりしていたもの

船での話し合いももちろん聞いているよ。私もねむも参加する予定なんだ。

お姉様とういも来る?」

「わたしは参加するけど、ういはどうする?」

「わたしも、事情は知りたいかな」

ういがワルプルガさんの方を向くとワルプルガさんはうなづきました。

「お母さんが行くなら私も行く」

「ワルプルガさんも来るの?」

「願うという意思をさらに固めることになるだろうから。
逆効果、なんてことはないはず。カレンが絡んでいることでしょ?

「カレンさんは…その」

「生きてたでしょ?知ってるよ?」

「え、ええ?!」

「ごめんねお姉さん、カレンが生きているという事実は神浜の魔法少女にとってはよくない情報だ。
割り切れた子もいるだろうが、諦めきれずに躍起となる子が出ても迷惑なだけだからね。伏せておくに越したことはない。

わかってくれるかい?」

「それはそうだけど。

じゃあ他にもなんか情報のやり取りをしていたの?」

「私も詳しくは聞けていないんだ。

でも技術共有だけは行ったよ。その成果であるテレポーターがあの船にはあるし」

「えっと、驚くことしかできない」

「お姉ちゃん、驚きすぎて顔が疲れちゃってるよ」

 

翌日、話を聞きたいという魔法少女が港に集まりました。

そこで驚いたのは、港に1隻の変わった船と5隻のイージス艦が停泊していたことです。

各船には魔法少女達がいて、変わった船の前には見慣れた顔がありました。

「かこちゃんと欄さん、でしたっけ」

2人は私の方を向いて、欄さんが話し始めました。

「環いろはか。久々に顔を見たな。

確か最後に見たのはあんたが神浜を発つ前だったかな」

その次にかこちゃんが話し始めます。

「お久しぶりですねいろはさん。

ういちゃんの件はとっくに解決した後でしたかね」

「うん、ういはもう大丈夫。

でも自動浄化システムについてなんだけど」

「知ってます。

キュウべぇが行方不明なんですよね。すでに別の方から聞いています」

「その別の方っていうのは」

そう尋ねるとタイミングを見計らったかのように変わった船からカレンさんが降りてきました。

カレンさんを見て、事情を知らない他の子達がざわつき始めます。
その中でも三重崎の魔法少女が真っ先にカレンさんへ投げかけます

「てめぇ!なんで生きてる!」

「私も死ぬ予定だったんだけどね、この通りさ」

「お前が生きているなんて、この船の数もお前の差金か?」

ひなのさんがそう聞くとその様子を見て船から1人魔法少女が降りてきました。

「何々?あんたここでも嫌われてるの?」

そう言いながら船から降りてきた魔法少女は腰に鞭を下げていて、カレンさんに寄りかかりました。

「ジーナ、私たちのやり方を知ってるならある程度予想できただろ?」

「あんたヨーロッパだけでも目の敵にされてんのに懲りないねぇ」

「ヨーロッパでもって、どういうことですか」

「気にするな。

今回船に呼んだのはこんな立ち話のためじゃない。
まずは中に入れ。一応全員入れるはずだ」

カレンさんに促されて船の中には20人以上が入り、その中にある大広間では狭いと感じることはない空間でそこには大きなモニターが設置されていました。

全員が部屋に入ると扉は閉じられて部屋は少し暗くなりました。

その後にモニターがつくとそこには1人の魔法少女が映し出されました。

そのモニターに対してカレンさんが話しかけます。

「ミアラ、しっかり集めたから説明よろしく」

その言葉を合図にミアラという魔法少女が話し始めます。

「わかった。

まずは神浜の魔法少女達、君たちは今我々がやろうとしていることが何なのか知りたいから集まったという考えで良いのかな」

「そうだよ。だから素直に教えてよ」

灯花ちゃんがなぜかフレンドリーに話しかけていました。

「灯花には世話になったな。さっそくそうさせてもらうよ。

我々は人間社会の破壊を目的にサピエンスを葬るため準備を進めている。

今世界中ではアンチマギア生産施設の破壊と撹乱のため世界中の魔法少女達が動き出している。

神浜がいち早く戦場になることは認識した上で、我々は神浜を避難所として扱うこととした。

すでに戦いを終えて分かったと思うが、今日本にはサピエンスの兵士や兵器は存在しない。

逃げた奴らは日本から脱出したようだからな。

自衛隊本部についてはミア達によって抑えてもらえたようだし、現状魔法少女にとって世界で一番安全なのは神浜だ。

神浜には戦いに参加したくない、できない魔法少女を集める。

そして日本から船を拝借してその船と共に太平洋を突っ切ってサピエンス本部であるペンタゴンを落としてもらう。

あとはヨーロッパから出る別働隊も必要だ。そっちは本命な上に生きて帰る保証はないという物だ。

荒くて簡潔だが我々の計画はこんなものだ。

参加しろとは言わないが、志願者がいるなら名乗り出てくれ」

しばらくの沈黙の後、十七夜さんが話し始めます。

「聞いている限りお前が指揮しているよう聞こえたが、我々は従わされる側となるのか?」

「言っておくがこれは組織的な計画ではない。

我々がやりたいと言って賛同してついてきたものが多いだけだ。もちろん賛同せず勝手に動く奴らもいる。

だが情報が命なことは魔法少女でも変わらない。

我々が情報収集に長けているということもあって付いてくるものが多いだけだ」

すると三重崎の魔法少女が話に入ってきました。

「あんたらにはしっかり強みがあるわけだ。

情報収集能力はどの程度だ?」

「サピエンス本部のやり取り、インターネットを使用した機密情報も筒抜けだ」

「なんだそれ、出鱈目すぎるだろ」

現状世界中でアンチマギアは神の声も聞けなくなるというデマが意図的に流されている。

これもサピエンス本部しか知り得ない事実だ」

「なにそれ、宗教戦争でも始めるわけ?」

「我々はそれも利用する。

たとえそれが奴らの罠だとしても」

話がおさまったのを見計らって私はミアラさんに聞きます。

「仮に協力する場合、私たちには何ができますか?」

「神浜の魔法少女にとって協力といっても2種類ある。

一つは戦えない魔法少女の保護と魔法少女のみで生きていくための仕組みの模索、あとはそこにある船に乗って、またはカレンについて行ってサピエンス本部を目指して戦ってもらうことだ」

神浜ではすでに魔法少女だけで生きていけるように動いてはいる。

避難してきた奴らがどこまで協力的になってくれるか次第だが」

「安心しろ、我々はお前達以上に魔法少女のみで生きていく術を習得している。

きっと合流するのは良い刺激を与えることになるだろう」

「戦いに行く奴らってのは、死ぬ覚悟が必要だよな?」

三重崎の魔法少女の問いかけに対してジーナさんが答えます。

「この前の神浜の戦いはまだ甘い方だ。

奴らにとってはただの実験や実践訓練程度しか力を発揮していない

「あそこまでの被害で手を抜いていたっていうの?」

「だから奴らも予想以上に被害が出たんだろうがな。

あたしらの知らない衝撃波を発生させるやつやAKなんかじゃない新型のアサルトライフルやシールドも持ち込まれていた。

わかるやつはわかったと思うが、あいつらは魔法少女保護が念頭にあったからソウルジェムをあえて避けていた。

あえて避けられるってことはだ、サピエンス本部襲撃の際は容赦なくソウルジェムを狙われるってことだ。特殊部隊上がりもアメリカ軍も容赦なく攻撃してくるだろう。

戦いに行くなら死ぬ覚悟で参加しろ」

周囲は少しざわつき、その場で参加すると言い出したのは三重崎の魔法少女と外人の魔法少女でした。

外人の魔法少女はカレンさんと目配せをして、納得した表情を見せた後にテレパシーが飛んできました。

[私達は参加させてもらうよ。

一度避難してきた身だが、今回で戦場の方が居心地がいいのがわかってしまったからね]

次は三重崎の魔法少女です。

「私達も参加させてもらおう。

サピエンスを潰せば落ち着いた生活をできるっているなら喜んで参加させてもらおう」

他に名乗り出るものはいませんでした。

その様子を見てミアラさんが話し始めます。

「まあ今すぐに決めろとは言わない。

だが長く待つ猶予はない。明日までに結果を出してくれ。

とりあえず今回は終いだ。カレン、全員を連れ出してくれ」

そう言われたカレンさんは私たちを船の外へ追いやりました。

全員が船から降りたことを確認すると、船に通じる通路が閉じられてしまいました。

私は戦いに行こうとは思わないけど、他の子はどうなのだろうか。

 

がらんとした空間にわたしとジーナ、そしてモニターの先にいるミアラだけになった。

「言語はしっかり聞き取れたか?」

「日本語は大丈夫だと思ったがやはり怪しい。

カレンとも日本語が基本だが少々翻訳用イヤホンは当てにならない

「したっけテレパシーを送ると同時に喋る技は必須だな。

神浜の連中にもしっかり伝えるようにしてくれ」

「それにしても今回の申し入れをするのは神浜が最後か。
ワルプルギスの夜の件もあって日本に関わる気はなかったが、計画の大事な場所が最後に申し入れを行う場所になるとはね」

「仕方がないさ。日本は聖遺物争奪の際にかかわりがなかったからね」

そこにジーナがいきなり話に割り込む。

「あの参加を申し出てきた奴らは連れてっていいのか?

足手纏いがこられても困るんだけど」

「あいつらは問題ない。

銃撃戦を十分に経験しているうえにアンチマギアも理解しているようだし、何もできない奴らじゃない」

「ならいいけど」

「…ソフィーの様子を見てくる」

「おう」

私は司令室まで登って中に入ると眼鏡をかけてセーラー服を着ているソフィーが指示を出している場面に直面した。

「全艦砲塔右向け!」

そう指示するとアイリス号といつの間にか名付けられているこの船の砲塔と共に盗んできたイージス艦の砲塔も指示した方向へ向いた

「2、5番艦は左向け!」

目に見える限りでは1隻しか左を向いていないようだがどうやら成功はしていたらしい。

「舵右、左、もう一回右!」

そう指示すると操舵にいる魔道人形が指示通りに舵輪を回していた

そんな指示の練習をしているソフィーへ私は話しかけた。

「魔導人形の調子はどうだ」

「あ?ああ。

指示はしっかり伝わるし配置も問題なさそうだ」

「でもこの船まで魔導人形にまかせるのか?」

「万が一のためにだ。本番はちゃんと他の子が担当するさ」

「それにしても、こんな頼りない小さな魔導人形でよかったのか?

脚力と腕力はあるようだが」

「製作者の趣味だ。それに可愛いだろ?」

私はやれやれと思って何も言えなかった。

「シオリ、魔力の消費量はどんな感じだ?」

すると船のスピーカーからシオリの声が聞こえてきた。

「そうだねぇ、一体あたり魔法少女1人の平均消費量の30%程度かな。待機中は全く消費していないっていいほど使わないね」

「そうか。

11隻分となるとあまり褒められた量ではないな」

そこにソフィーが話に入ってきた。

「これでもミアラからうるさく言われて製作者が削減した結果だ」

「最終的には灯花に助言を求めたってやつか。天才を交えてもその程度か」

「シオリが最終確認した方が良かったんじゃないの?」

「それなら灯花同様にまず体がいらないって言い出すじゃないか!

「ソフィー、見た目が優先されたせいなのか?」

「ええ。そこは制作者と共に譲らなかったよ!」

ソフィーは自慢げな顔をしているが、消費する側の身にはなってほしい。

そして突然ソフィーは何かを思い出したかのように手を合わせた。

「ああそうだ。

テレポーターは港に設置するらしい。灯花の指示らしいな」

「そうか。設置場所が決まったならテストもしないとな」

「そう言えば結局アイリス号の動力には誰がなるんだ?」

「ピリカで変わりはない。そういう話にはなっているからね」

「ならピリカは神浜の用事を済ませてきてよ。

今回シオリが動力になったのはそれが理由でしょ?」

それを聞いて私の体はピリカに主導権が回った。

「そうだった。まだやらないといけないことあるんだよ。

ごめんねシオリ、もう少し待っててもらえる?」

「なら明日がいいんじゃない?

今日はあいつら情報整理で忙しいでしょ?」

「うーん、遠くから様子を見て良さそうなら今日でも用事を済ませちゃおうかな」

「わかったよ。

出発するまでに変わってくれればいいからしっかりやること片付けてきなよ」

「うん!」

そう言って私の体はブリッジを出た。

 

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-12 自由に錬金術を行える場所

ディアのクローン体がある部屋へ入るとすでにディアは目を覚ましていた。

そんなディアへカルラは話しかけた。

「日本ほど距離が開いた場所で2体を動かしても制御には問題なかったようだな。

だが、体を取り替えたのか。どこに影響があった」

ディアは少し不機嫌そうにカルラへ答えた。

「目が覚めるととても気持ち悪くなってさ。

急に鼻血も出始めたからこりゃダメだって別の体に変えたよ」

「そうか。

脳へかかる負荷が体の限界を超えたのかもしれない。

そろそろ人体での運用には限界があるのではないか。脳内の電気信号ではなく魔法石を介した処理負担の軽減をいい加減に行った方がいい」

それを人体に組み込めないか今新しい素体へ試している最中だよ。

それよりも」

ディアは素体が成長中の一つのカプセルを指差した。

「私が眠っている間に一体持ち出したでしょ!」

「何も言わなかったのは悪かった。

ちょうど良いものだったからついな」

ディアはカルラからキュウべぇに視線を移した。

「私の体に入っているお前は誰だ」

「ぼくだよ、キュウべぇだよ」

その話を聞いてディアは驚きもしなかった。

「ああ、インキュベーターを捕まえてそれをどうするかの結果か。

わざわざ人型じゃなくてもって言ったのに」

「体の形状も影響するかもしれないだろ」

「ならこうもう少し耳を獣っぽくしたり尻尾生やしたりさ」

「ディア、私たちはインキュベーターを使役するわけじゃない。

ただの実験材料だ」

「んで、インキュベーターの魂をそこに入れただけ?

まだそこらへんで捕まえられる?」

ここでキュウべぇが話に割り込んできた。

「いや、この体に意思が固定されたことで今までの体は使えなくなってしまったんだ。

そういうわけで今君の目の前にいる僕しか人と接触する術はない」

「は?なにそれ面白すぎなんだけど。

でもそこに意思が固定されただけってこともあるのか。

ねぇ、自分で死のうとは思わないの?死んだら元の体に戻れるかもよ」

その話を聞いてキュウべぇは横に首を振った。

「悪いが命を自ら断つという行為自体が理解できないんだ。

自殺という考えを持っているのは君たち人間だけだ」

「じゃあ今教えてあげる」

ディアは腰につけた拳銃をすぐに撃てる状態にしてキュウべぇへ渡した。

「銃口はわかるでしょ?

それを自分の頭に向けて引き金を引くだけ。

簡単でしょ?」

キュウべぇは拳銃を手に取ろうとはしなかった。

「どうしたのよ、まさか命が惜しいわけ?」

「そうだね。

今この体を失うと二度と人類と接触できなくなるかもしれない。

そんなリスクを抱えたまま試そうとは思えないよ。

僕たちも目的があってこの星にいるわけだし」

私たちにとっては死んでいなくなってくれた方が有益だと思うけど

ずっとディアとキュウべぇのやり取りを見ていたカルラは話し始めた。

「ディア、せめてインキュベーターの本体へアクセスできるまでは待ってくれ

こいつらの知識は人智を超えたものというのは確かだからね」

ディアはむくれた顔をカルラに見せてから拳銃をしまい、プンプンしながら伝えた。

「じゃあ殺さない程度にインキュベーターで実験させてよ。

勝手にクローン体を使ったことまだ怒ってるんだから」

「構わないさ。死なない程度にね」

キュウべぇはカルラの返事を聞いてなんと驚いた顔をカルラへ向けた。

それを見たディアは珍しく驚いた。

「あんたそんな顔できたんだ」

「少しだけ感情の実験を進めたからね。

ほら、いくぞインキュベーター」

「待ってくれ、僕の了承なしで話を進めないでくれないかい?」

キュウべぇはカルラに連れられるように部屋を出て行った。

静かになった部屋の中、ディアは成長中のクローンを見ながら考えに耽った。

そういえば私以外の意思が入ったクローン体と会話するのはいつぶりだろうか。

 

私の家は魔女裁判を逃げ延びた錬金術師の家系で、という話は父側のじいちゃんから聞いた話で両親は錬金術についてはからっきしだった。

私も最初から錬金術に興味を持ったわけではない。

小学にあがる前から生物に興味を持った私は、よく生き物の部位を傷つけたり引きちぎったりしていた。

触覚を失った虫はまっすぐ歩けるのか、骨格だけになった鳥は走ることを覚えるのか、虫の羽は再生するのか。

人の感情を理解するのも周りの子より遅かったようで、小学校の頃はよく他の子へ暴力を振るって泣かせていた。

それはただのいじめではなく、痛みで笑顔になるのかという純粋な疑問であった。

ここまでの行為が探究心のみの行動であることは誰にも理解されず、サイコパスと判断されて普通の学校には通えなくなった。

それから私は学校という場所には行かなくなり、色々教えてくれる父側のじいちゃんのところへ行っていた。

そこでは普通の勉強の他に、錬金術に触れさせてくれる機会があった。

この時に私には錬金術の素質があることを知った。

そんな知識欲を満たす日々は長くは続かなかった。

父側のじいちゃんは老衰で死んでしまった。

じいちゃんが死ぬ間際に私へ秘密の言葉と呼ばれるものを教えてくれた。

その言葉をじいちゃんの部屋の至る所で唱え続けると本棚が反応して扉が出現した。

そこには錬金術の道具や本がたくさん詰まっていた。

しかしばあちゃんも後を追うようにすぐに死んでしまったため、じいちゃんの家は取り壊されてしまった。

無事に持ち出せたのはほんの一部で、その持ち出しに気づいた両親は私にひどく怒った。

「錬金術なんてものには興味を持つな」

そう言われてから私は両親には関心が向かなくなった。じいちゃんが教えてくれた素晴らしいものを「あんなもの」としか言えないのが親だったなんて。

もう、こいつらはどうでもいい。
そう思いつつも生きるためには食べなければいけなく、そのためには金も必要だったので仕方がなく親の前では「いい子」を演じ続けた。

ある日、両親に連れられて何かの社交会へ行くことがあった。

それがなんの目的だったかわからなかったし、すぐに帰りたいという思いが強かった。

好きでもないドレスを着せられて、私は嫌になってテラスに出て星を見て気を紛らわしていた。

そんな私に声をかけてきた女性がいた。

「ずいぶんと退屈そうじゃないか?」

私は他人と話すことが久しぶりで、なんて返せばいいのかわからず再び空に目線を戻した。

すると女性が私の隣に来て1人で話し始めた。

「星の力を利用するというのは物の例えで、肝心なのは夜であることというだけだ。

北極星を指すと言われるこの道具だって、実は北極点あたりを指すことと起動するのが夜限定というだけで、今考えれば夜間限定のコンパスというしょうもない物だ」

天球型の物体が女性の手の上で浮き上がり、天球の周囲についている輪っかの特に尖った部分が、北と思われる方向を指していた。

私は思わずそれに注目してしまった。

ここに集まる物たちもかつては貴族や高位の錬金術師と呼ばれた物たちの末裔で、昔は討論会や技術の披露宴などそれっぽさはあった。今となってはただの人間のパーティというしょうもない物だ」

女性はある石を私に向けながらこう言った。

「君はしょうもない人間か?」

私は少しイラっときて話し始めてしまった。

「両親はしょうもない人間よ。でも私は違うわ。
命について錬金術で試したいのよ。あなたはなんなのよ!」

すると女性が持っている石が青く輝き出した。

「そうか、君はまだ情熱を忘れない錬金術師だったか。

ならば行ってみないと思わないか?

自由に錬金術を行える場所へ」

「ほんとうか?

そんな場所に連れて行ってくれるのか!

行けるならば連れて行ってくれ!」

「OK。私はカルラだ。

君は?」

「ディアだ。さあ早く!」

カルラとの出会いはそんな感じ。

それからはカルラが社交界での出来事をでっち上げて、両親へ私をカルラが預かる理由を作り上げて私を両親から引き離した。

両親のことなんてもうどうでも良かったから都合が良かった。

でも大学への特別入学という結果を残さないといけないらしく、久々に勉強らしい勉強をカルラに叩き込まれた。

私が勉強に疲れた様子を見抜いては合間に錬金術も教えてくれて、じいちゃんといた時間以来に充実した日々を送った。

そして初めて生み出した生命体は、見事に失敗した。

この時は正当な成長過程を経ずに肉体を直接作り上げる禁忌の人体錬成を行った。

作り上げられた化け物は鼓膜を貫く奇声を上げて、そのせいで私の耳は使い物にならなくなった。

そんな部屋へカルラが入り込んできてヘッドフォンのようなものをした状態で刃が青白く輝く槍を持ち出して、奇声を上げる化け物を頭から真っ二つにした。

化け物は臭い液体になって原型はその場から消えた。

カルラから何かを言われても聞くことができなくなった私は、ジェスチャーで耳が聞こえないと伝えるしかなかった。

カルラは部屋を出ていき、しばらくすると野球帽をなぜか持ってきて私に被せた。

その後にカルラが話すと、なんと会話内容が脳で理解できた。

「私の考えが伝わるか?」

[すごい。わかる!カルラの伝えたいことがわかる!]

「これで禁忌と言われる理由がわかっただろ?

体が吹っ飛ばなかっただけ幸運だ」

[…私を止めなかった理由はあるの?]

「ディア、実験はやって初めて空論から確かな結果に変わる。

危険だと伝えて真に何が危険かを理解できるものはいない。

だが今把握できたじゃないか。

人なんてこんな過程では生成できず、自分の身が危うくなるだけだから禁忌なんだ」

[ええ、身に染みて理解したわ。

人体錬成の前に耳を使い物にできるものを用意しないと。

大学入試試験も近づいているし]

「わかってる。ささっと作ってくるよ」

その後私は見事に大学へ合格し、カルラが入っている研究室で一緒に研究を行うことになった。

天才児と騒がれたこともあったけど、サイコパスを前面に出した途端にみんな私から離れて行った。

そして私は研究と錬金術の経験から、人の寿命はどうあがいても限られているため長寿を目指すのは現実的ではないという結論に至った。

そこで私はクローンを生成して脳内情報はそのままで体だけ取り替えて擬似的に不死を実現させるという目標を見出した。

大きなカプセル内で正当な成長過程を踏んで私と同じ年齢くらいの姿形をしたクローン体第一号が完成した。

クローンは目を開けて周囲を見渡し、しばらくすると泣き出してしまった。

それもそのはず。この過程を踏むと脳は赤子と同然。

何者かわからずクローン体は泣き出してしまったのだ。

そんなのは想定済みで、カルラの協力もあって学習装置が用意してあった。それをクローン体に被せてしばらくするとしっかり喋りだして自らの意思で行動を開始した。

この成功をカルラへ伝えると、カルラは少し険しい顔をした。

「ディア、絶対外に出すなよ」

そう言われた理由はすぐにわかった。

クローンは私のクローンであることを認めず、1人の人間だとしてクローンを閉じ込めていた家から出ようと行動し始めた。

家の中はカルラが用意した結界のような物で破壊は行えないようになっていて、それでもクローンは破壊しようと壁や床を何度も叩きつけた。

そしてついには私にも襲いかかってきた。

私は処分するかと思い当たると、昔から自分に行いたかった実験をこのクローン体へ試すことにした。

脳を外付けにしても人は動けるのか、心臓は体が無くても動き続けるのか、どれくらいの温度の環境にいたら寿命が伸びるのか。

実際に行えたのは最後の寿命関係のものだけで、クローン体は凍死する最後まで私を恨んだ顔をしていた。

最初のクローン体の結末を知ったカルラと教授は驚くのではなく呆れた反応をした。

「カルラ、こいつはやばいと思ったがここまでとは思わなかったぞ」

「まあ、やりすぎだというのは承知ですがこういう人材が案外新発見するものですよ」

「やれやれ、しっかりこいつを責任もって見張るのだよ。

そのうち我々を実験道具にしかねない」

「もちろんですよ」

このクローンの生み出し方は失敗だった。

確かにクローンを生み出せたが、実現したいのは自分の体をただの入れ物として複製すること。

カルラに助言を求めると少し考えただけですぐに答えを出してきた

「真っ当な生物の誕生の段階を踏んでしまっているがために、体に命が宿ってしまうのが原因だ。

命が宿らない入れ物にしないといけないならば命の在処を理解しないといけない」

これが非常に面倒なものだった。

赤子は胎内でも命を持った状態なのかから始まって、魂は抜き出せるのかと実験しながら模索した。

そんな中、カルラから自我の複製実験に協力されてクローンに何度か自我を複製できないか試した。

その結果、クローンの種である頃から自我の複製情報を送信しておくとそのクローン体には自我が複製されたことが判明した。

何度目かのクローン体取り出しの際、私の脳内には自分と対面しているクローン両方の情報が入り込んできた。

服を着ているはずなのにクローン体の裸な感覚が伝わってきたり足が何故か裸足っぽい感覚がしたりとカオスな状態だった。

気づけば私は情報量に耐えきれず気絶してしまった。

とはいえ今では余計な魂が宿らないよう私の自我が常にアップデートされる専用カプセルを開発できたり、今では魔法少女の技術を使って地球どこでもクローン体を制御できるようになった。
そして魔法石というものを知って、最初の頃よりも増しに情報制御が行えて気絶する機会も減った。

本体の脳が破壊されない限り、いつまでも生きられる状態になったと言えるだろう。

ちなみに魔法少女と錬金術師は近しい存在だというのは、サピエンスに参加してからカルラに教えてもらった。

キュウべぇは私に目はつけていたものの、何をされるかわからないという理由で近づかなかったらしい。

思ったよりも臆病なやつだったよ。

そんなクローン技術がある中、カルラは体がある程度出来上がったクローンへキュウべぇの意思をいとも簡単に移植してみせた。

私の自我を常に送りながらクローンは育っていたはずなのに、横入りする形で別の意思を移植する技術がカルラにはあった。
もしかしたら、生きている人間へ直接別人の意思を移植するなんていうヤバいこともやろうと思えばカルラにはできてしまうのかもしれない。

まだ技術についてはカルラには敵わない。

カルラを越えようとは思わないけど、いつかはギャフンと言わせたいとは思っている。

「次にお前たちを動かしたら、いよいよ死ぬかもな」

次にクローン体を動かす時はここにいる奴らを全部動かす時。

強度を上げた体が間に合わなければ、いや、間に合ったとしても私は死ぬかもしれない。

せめて脳に流れる情報を大幅カットするくらいが精一杯か。

そう思いながらも今はキュウべぇを実験したいという思いが強かったのでクローン体が並ぶ部屋を後にした。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-11 神浜鎮圧作戦・本命

謎の船が現れて試験艦が破壊され、さらには日本の北と南の航空基地が攻撃されたと連絡を受けたサピエンスは終始冷静だった。

ミサイルから魔法少女が飛び出してくる様子も観察を行なっていて、そんな中で一つの報告が行われた。

「謎の船の出発点特定しました!

場所はオーストラリア クイーンランド州北、一番南側に窪んでいる土地で僅かに船のような影、船が通った後の白波が海上で確認できます!」

そう説明しながら司令部の大画面の片隅に説明された映像が張り出された。

その報告を受けてイザベラは指示を出した。

「通信部、オーストラリアの大臣へさっきの場所を調べさせるよう伝えなさい

「了解!」

その後イザベラは愚痴をこぼした。

「どうしてこの程度の変化が報告されなかった。ずっと監視はさせているはずだ」

その愚痴に対して隣にいるダリウス将軍が答えた。

ダリウス将軍はサピエンスの特殊部隊を束ねる立場にあり、サピエンス関連の作戦には彼がいつも携わっている。

「レディ、我々が24時間監視しているのはアメリカ領の海域付近のみだ。

他国の海の監視もしていたら皆倒れてしまう」

「だとしてもオーストラリアの怠慢でしょ?まったく」

「いいじゃないか、こうして特定できたんだ。

奴らが造船施設を持ったままというのは脅威でしかない」

イザベラはため息をひとつつくと別の話題に切り替えた。

「国連の方はどうかしら」

この問いかけにはオペレーターが答えた。

「はい、まもなく目的の地点まで話が進みます」

「ではそろそろ仕掛けましょうか」

イザベラは近くの通信機を操作して中華民国の劉総書記へ繋げた。

アポは取られていないが、数秒後にテレビ電話がつながりそのには劉総書記の姿が映っていた

「おやおやレディ、大切な作戦中になんのご用かな?」

「とぼけないでください。

作戦実行中の領海へ侵入するなと再三伝えているはずです。

まさかご存知ないわけがないですよね?」

「何をおっしゃっている。

おかしいのは貴方達ではないか?

我らは我らの移動可能な範囲内で訓練を行っているだけだ」

「領海という概念をご存知ないのか?」

「我々は正しい行動をしている。

侵入してはいけない範囲を勝手に決めつけているは君たちだ。

全く困ったものだ。

君の持ち前の交渉術でこの辺を整理してもらいたいのだけどね」

「劉総書記、アンチマギアプログラムが実行されている間は他国への侵略、挑発行為は禁じられている。

これを犯すものは国連の決定次第では国連の手でその国を罰さなければならない。

これはアンチマギアについて国連で取り決められた条約であることもご存知のはず。

覚悟があるという認識で良いか?」

「ふん、君たちの言い分が通るはずがないだろう。

用がそれだけならば通信は終わらせてもらうよ」

そう言って総書記の方から回線を切ってしまった。

その頃国連では中華民国の挑発的な行為を理由に罰を与えるべきかの協議結果が出ようとしていた。

これまでに国連での話し合いの結果は常任理事国が1国でも拒否権を行使した時点で否決された。

しかしこの考えはアンチマギアプログラム発令のための法改正の際に見直された。

常任理事国が罰せられる対象となった場合、その当事国が拒否権を行使した時点で法的に罰することが叶わないという、常任理事国から被害を受けた国々からしてみれば理不尽極まりないことであることは散々指摘されてきたことだ。

その意見が汲み取られ、たった1国の常任理事国が拒否権を出してもそれは否決扱いにはされなくなり、2国以上の常任理事国が拒否権を行使した際に否決となる仕組みへと変えられた。

今回の中華民国に対する罰を与えるべきかの協議にはこの決まりが当てはめられた。

非常任理事国からは罰を与えるべきという意見が多数の中、常任理事国の協議結果は中華民国のみが拒否権を出すという結果になった。

この結果に中華民国の代表者は怒りをあらわにしながらロシアの代表者を睨んだ。

「なぜだ、ありえん!

サピエンス、やつらが我らを潰そうと企てたのだろう。

今すぐこの結果を取り消せ!」

「この場での決定は絶対である。

この結果に不服があるならばしっかり議題としてあらためて提起していただきたい」

協議をしきる長が中華民国の代表者へ伝えると、その代表者はお付きの者からスマホを奪い取りながらその部屋を後にした。

「急いで書記長へ伝えなければ!」

代表者は急いで用意された車へ乗り込んでその中で劉総書記の秘書へ電話を繋いだ。

「急いで総書記へ国連が裏切ったと伝えろ。

そして総書記を安全な場所へ避難させるんだ!」

そう一方的に伝えた後、代表者は運転手へ怒鳴りつけた。

「早く空港へ向かいたまえ!

このままではきっと私も」

そう言っている間に代表者が乗った車へ一台の車が突っ込み、大きくその場でスピンした後にエンジンに火がついて代表者が乗った車は爆発してしまった。

劉総書記へは国連の結果が伝えられ、劉総書記は驚いた顔を見せた。

「ありえん、ロシアが裏切ったというのか。

まずは逃げるぞ」

劉総書記がいる部屋にはノックをして1人の軍人が入ってきた。

「おう、張か。驚かせるな。

事情はすでに把握しているのではないか?早く安全な場所まで案内しろ」

張と呼ばれる軍人は扉を閉じて動こうとしなかった。

「どうしたんだ、早く安全な場所へ連れて行け!」

「すみませんね、もう、私はあっち側なんですよ」

そう言いながら張はサプレッサー付きのピストルを取り出して劉総書記とその秘書へ心臓、頭部に数発の銃弾を撃ち込んだ。

張はドアを3回ノックすると扉が開かれて遺体処理班とカメラを持った者が部屋へ入ってきた。

そして世界へアンチマギアプログラムの規定を破ったとして、劉総書記の遺体を見せながら中華民国は国連の指揮下に入ったことが報道された。

これを見て悲しむ国民がいれば喜ぶ国民もいた。

そんな反応の違いで中華民国内では争いも起き始め、国連指揮下に入った中華民国の突撃軍が鎮圧に動き始めた。

サピエンスはこの様子を平然と眺めていた。

「これで本来の目的は達成か」

キアラはイザベラに向けて聞いた。

「そうね。これで人類にとっての不安分子は一つ取り除けた。

神浜の様子は?」

「はい、鎮圧作戦に向かったメンバーはN班とS班以外は全滅。

海に展開された勢力も観測用潜水艦除いて全滅しています」

「ディアの反応はまだある。

でも作戦継続は無理だろう」

観測用潜水艦は試験艦の船団を背後からついて行き、観測ドローンを通してサピエンス本部へ神浜の様子を伝えるための存在である。

特殊部隊の現状やSGボムをつけた魔法少女の位置まで全てがこの潜水艦を通してサピエンスへ筒抜けとなっている。

「この状態でもSGボムが全て弾けていないということは、自衛隊はやっぱり覚悟が足りなかったということか」

「一部の魔法少女については起爆が行われたようだ。

残りも作動させる必要性は感じないが、させる気なのだろう?」

カルラがイザベラへ尋ねると顔色ひとつ変えずに返事をした。

「当たり前よ。

しっかり働かなかった罰は与えないと。

お偉い様はしっかり理解しているはずよ」

「イザベラ、また何か釘を刺したのか」

キアラが呆れた顔でイザベラへ聞いた。

「ええ、向こうでディアが作戦会議を行うよりも前にね」

その頃、自衛隊の司令室には防衛大臣が入り込んできた。

「防衛大臣、どのようなご用でこのような場所へ。まだ作戦継続中ですよ」

高田1佐がそう伝えると防衛大臣は不機嫌そうに返事をした。

「なんの用だと?

米国との取り決めで決めたことを貴様ができていないから来たのではないか」

「確かに我々は神浜鎮圧作戦を継続できない状態になりました。

しかしこれは予想外の乱入があって」

「そうではない!

貴様が持っているSGボムの起爆装置。それをなぜ持たされているのか聞いていなかったのか!」

高田1佐は近くにある司令室の机上に置いたままの起爆装置をチラリと見た後に防衛大臣へ弁明します。

「魔法少女も役割を果たした結果です。

あれを使うほどではないのではないでしょうか」

防衛大臣は何も言わずに起爆装置を奪い取ってしまい、起爆のためのコードを打ち込み始めます。

そんな防衛大臣の腕を掴みながら高田1佐が訴えかけます。

「考え直してください!

彼女達は魔法少女ですが、人の子です!

こんな道具みたいな使い捨て方はあんまりです!」

「なんであろうとこれは国交にかかわることなのだよ!」

防衛大臣は気にもとめず起爆スイッチを押してしまいます。

それからSGボムを仕掛けられた魔法少女達のソウルジェムが一斉に光だします。

「静香ちゃん、ソウルジェムが」

静香はソウルジェムが光っている理由が理解できませんでした。

「なに、何なのよこれ」

その様子を見てカレンは急いでちはるを静香から引き離します。

「カレンさん、静香ちゃんどうしちゃったの!」

「時女静香はもう助からない。諦めろ」

カレンとちはるが見ている前で静香のソウルジェムが爆発し、静香の体は丸ごと爆発に巻き込まれて周囲には爆風が広がった。

その時に血飛沫も周囲に飛んでその一部がちはるの体にかかった。

降りかかる値を避けようとせず、爆発する瞬間も目をそらさず見てしまったちはるは目を丸くして何が起きたのか理解できずにいた。

カレンがちはるの手を離すとちはるはその場へ座り込み、静香がいた場所を見つめ続けた。

「あ…ああ…」

言葉にならない様な音を喉から出しながら、ちはるは涙を流した。

東側の魔法少女達がSGボムをつけられた魔法少女達を栄区へ連れている最中、SGボムをつけられた魔法少女達のソウルジェムが一斉に光出した。

その様子を見て十七夜達はソウルジェムが光った魔法少女達から離れた。

ソウルジェムが光った魔法少女達は怯えながら十七夜達へ縋りつこうとした。

「いやだ、死にたくない!」

縋りつかれてどうすればわからず身動きができない魔法少女もいた

「じゅ、潤!この子達に掴まれて動けない!」

「あんまこんなことやりたくないんだけどな!」

潤と呼ばれる魔法少女は助けを求めた黄色い姿をした魔法少女につかまる魔法少女達を武器で払い落としていった。

他の場所でもソウルジェムが光る魔法少女を神浜の魔法少女が引きはがしていた。

「みとから、はなれなさい!」

「乱暴したくないから言うことを聞いて!」

そうしている間に光っていたソウルジェムが次々と爆発していった

爆発の規模は均一ではなく、中には掴まれたまま巻き込まれた魔法少女も出てしまった。

周囲は魔法少女だったり肉が散乱し、その様子を理解するのに数秒時間がかかった魔法少女達は次々と恐怖の表情へと変わっていって泣き出すものやその場に腰を抜かすものが出た。

「みと!意識を保って!

だめ、血が止まらないよ」

「だれか!この子爆発に巻き込まれて!」

その様子を見て十七夜はすぐにはその場を動き出せなかった。

「こんなこと、魔女よりも残忍ではないか。これをこの国の人間がやったというのか」

十七夜が動けない間、令は何度も十七夜のことを呼んでいた。

しかし十七夜はその声が聞こえないのか反応を示さなかった。

痺れを切らした令は冷静に周囲へ指示を出していき、ゆっくりではあるものの栄区への移動を再開した。

北養区の森の中では、銃撃を受けた魔法少女達から文句を言いながら銃弾を取り出しているニードルガンを扱う魔法少女がいた。

そんな魔法少女をサポートするアバと呼ばれる魔法少女は、倒れた魔法少女達を2か所に集めていきました。

そんな2人の魔法少女をみふゆ達は見ることしかできなかった

「やっちゃんにテレパシーで声をかけたのですが、怪我人を運ぶとのことでこちらには来てくれない様です」

「お姉様は無事なの?」

「やっちゃんとは一緒にいるようですよ」

「お姉様が無事ならわたくしはなんだっていいよ」

みふゆはその怪我人がいろはであることを言わなかった。

灯花がまた何かをしでかしてしまうのではと思ったからである。

アバはみふゆ達の方を見てしばらくじっと見つめていた。

アバは背負っていた死体をその場に投げてテレパシーでみふゆ達に話しかけてきた。

[ねえ、そこで何もしないなら少しは情報頂戴よ。

誰がSGボムをつけられた子?]

そう聞かれると燦がすぐに答えた。

[貴方が何したいかは大体わかる。

今から指を刺していくからその対象を処理してくれ]

[ふーん、じゃああんたはあまり近寄らないでよ。

巻き込まれたくないし]

燦は次々とソウルジェムが無事な魔法少女達を指差して行った。

その魔法少女達は、魔法少女だった死体の方へと放り投げられていった。

「え、何をしてるのですか」

みふゆはその行いに驚いた。

はぐむと時雨も驚いている中、呆れた顔で灯花が説明しはじめた。

「SGボムって爆弾だよ?

そんないつ爆発するかわからない物と助ける者を分けるのは当然でしょ?」

「でもわざわざ死体の方に移動しなくても」

「爆発したら綺麗に吹き飛ばせるじゃん」

「灯花…」

まだSGボムが施された魔法少女とそうではない魔法少女が混ざった状態の中、SGボムが施された魔法少女のソウルジェムが光りはじめた。

「気づかれたか…」

そう言って燦は死体の山の方へと向かった。

「そんな、まさか」

燦は特に何も言わず目を閉じてその時を待った。

そしてSGボムは一斉に爆発し、死体の山は次々と爆発に巻き込まれていった。

綺麗には爆発に巻き込まれなかったようで、死体の山があった場所には血肉が残ることとなった。

助けられる魔法少女の中にもSGボムが施された魔法少女がいたことで爆発に巻き込まれてソウルジェムが割れる魔法少女が出ていた。

「ちっ汚ねえな」

SGボムが弾けても依然として行動しようとしないみふゆ達を見てニードルガンを持つ魔法少女はついにキレてしまった。

[いい加減助けを連れてくるか何か行動してくれねぇかな!

仲間が巻き込まれたくせにボソッとしやがって]

その魔法少女はさらにみふゆ達にニードルガンを向けた。

[さっさと動けよ。

じゃないと撃つぞ!]

3人がオドオドとしている中、灯花はゆっくりとその場を後にしていった。

「おい天才、おめぇは何処に行くんだよ」

「わたくしのシェルターに戻るんだよ。

倒れた子達のことはよろしくねー」

みふゆ達はニードルガンに撃たれるのは嫌だったので、背負える無事な魔法少女は背負って栄区へと向かうことにした

勝手にその場を後にした灯花に対してニードルガンを持つ魔法少女は舌打ちをするだけで特に何をするわけでもなかった。

 

SGボムが作動したことを確認できた自衛隊本部では防衛大臣以外の人々が皆引いた顔をしていた。

SGボムが無事に作動したことを確認した後、防衛大臣は高田1佐の隣の人物へ話しかけた。

「張替一佐、お前を臨時指揮官とする。

そしてこの反逆者を捕えろ」

「防衛大臣!何を言い出すのですか!」

張替一佐の話を聞くことなく防衛大臣は淡々と話しを続ける。

「高田1佐、君は今回の件でこの国と魔法少女、どちらを助けたかったのかね?」

「彼女達も、日本国民ではないのですか!

彼女達は不思議な力を持っても人間には変わりないはずです!」

では米国に逆らってこの国への支援が途切れて国民が飢える結果になっても国を守ったと言えるのか」

高田1佐はその話を聞いて言い返せなくなった。

「この行為はこの国を守るために大事なことなのだよ。

君は勝手な判断でこの国を危機的状況に追い込もうとした。

違うか?」

高田1佐は最後の抵抗として言っては行けないことを言ってしまいます。

「他国の言いなりになるのが、この国のためだというのですか」

「高田1佐、君は現時点で除名処分だ。

独房でしっかり反省したまえ」

「防衛大臣!」

「やめろ、張替」

防衛大臣へ抗議する張替一佐に対して高田1佐が止めるよう言った。

「なぜですか、こんなのおかしいですよ」

「いいんだ、しっかり指示に従うんだ。

責任を負うのは私だけでいい」

張替一佐はやるせない気持ちを拳でどこかにぶつけてしまいそうになりますが、必死に堪えて周囲に指示を出した。

「申し訳ありません。

高田1佐を独房へ連れて行け!」

近くにいた2人の隊員が高田1佐を掴んだ状態で、高田1佐は作戦司令室から連れ出されてしまった。

高田1佐が出て行った後に防衛大臣が張替一佐へさらに指示を出た。

「我々にはサピエンスの部隊を逃すという任務も残っている。

気を抜くんじゃないぞ。

君たちはこの国を守るための存在なのだからな」

防衛大臣は表情一つ変えず作戦司令室を後にした。

高田1佐が連行されている道中、作戦司令室へ殴り込みに行く勢いの時女一族の母親2人がいた

高田1佐の顔を見て時女静香の母親は素早く駆け寄って高田1佐へ問いかけた。

「高田さん、娘は無事なのか!」

「…申し訳ありません。娘さん達を守れませんでした」

「なん、だって。静香はどうしたんだ」

「くれぐれも出過ぎた行為はしないようにしてください」

「すみません。失礼します」

連れている2人のうち1人がそう言って高田1佐は連れて行かれてしまった。

ちはるの母親はその場で泣き崩れ、静香の母親は壁を殴って悔しがるしかできなかった。

そんなことが日本で起きている間にサピエンスではSGボムが無事に作動したことを確認できていた。

「SGボムを施された魔法少女の生存数は0、すべて作動されたか死亡したようです」

その報告を聞いてキアラはイザベラへ話しかけた。

「これで捕まったらSGボムで殺されると印象付けてしまったがいいのか」

「いいのよ、その方がしっかり仕掛けてきてくれるじゃないの」

「平和的に解決させる気ゼロだな」

ホワイトハウスを襲撃したあの魔法少女の言葉を覚えているでしょう?」

「みんながみんなあの考えだとは思わないけど」

そう話している間に神浜を観測していた潜水艦が魚雷接近のアラームをあげた。

それから潜水艦はあり得ない挙動をする魚雷が3発動力炉付近に直撃して破壊されてしまった。

「潜水艦の反応ロスト、神浜の観測がリアルタイムに行えなくなりました」

「気づくのが早いな。

さて、あとは生き残りがしっかり逃げてくれればこの作戦は一区切りですかね」

ダリウス将軍がイザベラへそう聞くとイザベラは肯定した。

「そうね。

奴らが船を使うことがわかったし、海軍にはしっかり伝えておいてね」

「はい、滞りなく」

ひと段落したと判断したカルラは立ち上がってイザベラへ話しかけた。

終わったのならば見てもらいたいものがあるからついてきてくれないか」

「なによ、つまらない物だったら怒るわよ」

「おもしろいかどうかはイザベラ次第だろうさ」

イザベラ、キアラ、カルラは司令室を後にして地下の研究所へと向かった。

ほぼいつも通りのルートで、見下ろし型の実践試験場の観察室に3人は入った。

そこには研究員はおらず白髪のツインテールの髪型になったディアがいた。

その姿を見てイザベラ少し残念そうな顔をした。

「ディア、貴方いつからツインテールなんて試すようになったのよ」

ディアの姿をした者は首を傾げてカルラへと話した。

「カルラ、僕のことを説明していないのかい?」

あえて日本語で会話がされ、一人称の違いに疑問を持ったのはキアラだった。

「あれ、いまぼくって」

「そうだよ。日本語で話しかけた方が面白い反応をされるだろうって言われたからね。

住む地域によって人間は一人称の扱いに幅があるのだろう?

英語だとIやMEで終わってしまうんだっけ?」

確かに声はディアのものだった。

何かに気づいた2人はマジマジと白髪の少女を眺めた。

そんな2人を見てカルラは思わず表情が緩くなってしまった。

「こうして会わせてみると2人ともおもしろい反応をするね。

まだわからないのか、それとも信じられないのか」

イザベラは少し不機嫌な顔になってカルラへ話した。

「いい加減何が成功したのか教えなさい。

ただのコスプレなんて言ったら許さないんだから」

「もういいよ、いつも通りで」

カルラがそう伝えると白髪の少女は口を開かずに会話をはじめた。

「こんな姿になってしまったけど、ぼくはぼくだ。

キュウべぇだ」

種明かしをされて2人は驚いた顔をした。

イザベラについてはそのあとににやけ顔になってキュウべぇの顔に近づいた。

「何あんた、人間の殻に入れられたの?

カルラすごいじゃない、もしかして人間の体のまま増殖しちゃうわけ?」

「いや、インキュベーターの意思はこの体に固定されてさらに増殖もできないようになっている。

つまりは世界にキュゥべえはここの一体しか存在していないことになる」

イザベラはその話を聞いて笑いながらキュウべぇに銃を向けた。

「ならこいつ殺せば全部解決するか!」

銃を向けられたキュウべぇは怯えたような動きをし、キアラはイザベラを止めに入った。

「やめろイザベラ、すぐ殺すのは早計過ぎる」

「どきなさいキアラ、そいつを殺せないわ」

その様子を見ていたカルラは話し始めた。

確かにこいつを殺せばインキュベーターは人間との接触は叶わなくなるかもしれない。

しかしこの体を失った時点で今までの体が再インストールされて再び神出鬼没になってしまう危険もある。

そうなればここに縛り付けておいた場合以上に、余計な願いを叶えられる可能性も出てくる。

君ならどっちが現状有益かわかると思うが」

イザベラはカルラに向けていた目を一度キュウべえへ向けてカルラへ視線を戻した後に銃をしまった。

「まあいいわ。ここにいる限り願いによる妨害はないってことだし。

でもしっかり監視しておきなさいよ。逃したら流石にカルラでも銃殺だからね」

「わかってるさ。今はキュウべぇを使った感情の実験を進めているし、私にも逃げられては困る」

「へぇ、感情の実験ってどんな」

カルラは後ろの机の上にあるレポートの一部をイザベラへ渡した。

「後でしっかりさせたものを渡すが、インキュベーターには現在感情が芽生える前兆が見られる。

無感情の生物に人間のような感情を覚醒させることはできるのかという問いに、前向きな結果が導き出される可能性がある」

イザベラがレポートを読む中、キアラは横からこっそりとレポートの中身を見た。

その中には痛みに関わる項目が多く、銃に撃たれるだけではなく爪を剥がされたり氷水につけられたりと言った内容が見えた。

後半には食について味覚をどう捉えるかの実験も書かれていた。

「カルラ、拷問の報告書にしか見えないんだけど」

キアラは思わずカルラにそう伝えてしまった。

「そう思ってしまうのも仕方がない。

マイナスの感情は動物ならば誰でも持っている可能性があるものだ

人間のようなプラスな感情を持つのは稀だ。

それを試すのはマイナスの感情を表に出せるようになってからだ」

そう聞いてもキアラは難しい顔のままだった。

「わかるようなわからないような」

イザベラは一通り目を通したようで報告書の一部を表紙へ捲り直した。

「まあ恐怖で表情が変わり始めているのはいい傾向よ。

さっき銃を向けた時もいい反応していたし」

キュウべえは少し呆れた時にするような表情をしていた。

イザベラは報告書の一部を近くの机に置いてキアラに向けて笑顔で話し始めた。

「気分がいいわ、キアラ、ディナー行くわよ。

最近話題になっている、高級料理を格安の限界にチャレンジしているレストランが気になっているのよ」

「なんだその矛盾なコンセプト。

いやそれよりも明日は中華民国の今後についての会議にむけて、叔父さんと話し合いするんじゃなかったのか」

「大丈夫よ。明日の午前中をすっぽかしても十分に間に合うから」

「わかったよ。まったく、気まぐれに巻き込まれたケーネス叔父さんが可哀想だよ」

2人が部屋を出ようとすると、イザベラが扉の前で立ち止まってカルラに振り返って忠告した。

「カルラ、そいつを絶対外に出すんじゃないよ」

「わかっているさ」

2人は部屋を出ていき、カルラとキュウべえだけが部屋にいる状態になった。

「さて、ディアにも言っておかないとな。

インキュベーター、ついてこい」

キュウべぇは何も言わずにカルラへついて行った。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-10 神浜鎮圧作戦・その6

水名区北側、ここではディアが謎の船から発射された10発のミサイルを眺めていました。

「まさか試験艦がこうもあっさり沈むなんてね」

海を眺めてみると巡洋艦を蹂躙していたはずの首長竜が消えていることに気付いた。

「なんだ?海はもういいってか。

じゃあ次の標的はこっちか」

そう思いながら各ミサイルを目で追っていると、魔法少女の集団がディアへ近づいてきた。

その集団はディアに気づかれないよう周囲を囲み、殺意を向けていた。

ディアは特に気にせず盾役のディアの盾に仕組まれた棒を取り出した。

それを手に持って、腕部分に装備している装置に組み込まれたライト部分が黄緑色に光ると、折りたたまれていた部分が開いて螺旋模様を描いた。

棒の先端にはピコピコハンマーのようなものが膨らみ、ディアはその先端を魔法少女がいるであろう場所へ向けた。

手元から螺旋状の部分を黄緑色の光が登っていき、それが先端に到達しようという時に魔法少女達は慌てはじめて右側からは魔法で生成された騎士の集団が迫ってきた。

その方向へは盾持ちのディアが立ちはだかり、螺旋状の武器は先端方向へジェット機が横切ったのかと思えるほど素早い衝撃を放った。

衝撃波が通った跡は地面がえぐられ、逃げ遅れた1人の魔法少女は衝撃波に触れただけで体がバラバラになってしまった。

衝撃波は100mほど先まで伸びて道中巻き込んだものは100m先の廃墟に全て打ち付けられた。

「いい威力だけど即効性に欠けるか」

そう分析している間に盾役の方では魔法製の騎士の攻撃を受け止めていた。

「それじゃあ次はこっちだ」

魔法少女達が一斉に襲いかかってきたところにディアは飛び上がり一本角が生えた魔法少女へ螺旋状の棒を向けると瞬時に先端から衝撃波が前方に発せられた。

一本角が生えた魔法少女は反応できるはずもなく衝撃波を受けて地面に打ち付けられてしまった。

「結奈さん!」

そう呼んで騎士の格好をした魔法少女が結奈と呼ばれる魔法少女へ駆け寄り、ディアにはやけに足が速い魔法少女が斬り込んできた。

その魔法少女へは盾役が反応し、攻撃を受け止めるとディアは足が速い魔法少女へ武器を向けた。

盾役が避けたと同時に衝撃波が出たがとっくに魔法少女はいなかった。

そりゃあ間に合わないか。

そう思ったディアは螺旋状の武器を盾役の背中にしまった。

それと同時に背中に背負っているコンテナが開いてそこからアームが伸びてきて拳銃サイズの銃剣が2丁ディアの両手へ運ばれた。

銃剣はサブマシンガンタイプの連射が効くもので刃は持ち手部分まで広がっていて容易に持ち手部分を切りつけるのは叶わない。

銃剣を両手に持ったディアはコンテナを背負っているとは思えないほど軽やかに走りながら結奈に向かって銃弾を放った。

連射された銃弾は立ち上がれない結奈と介抱している騎士の魔法少女めがけて飛んでいった。

そんな2人を庇って3人の魔法少女が射線に立ちはだかり、3人ともに銃弾で倒れてしまった。

銃弾をばら撒くディアの横からは涙を流しながら青色の魔法少女が斧を振り下ろしてきた。

それを軽やかに避けたディアは青い魔法少女を見てニヤリと笑った

「そうか、あんたそんな度胸があったか」

「三女、てめぇなんで出てきやがった!」

火炎放射器を持つ魔法少女は三女と呼ばれる魔法少女へ怒鳴った。

すると三女は啜り泣きながら斧を構え直した。

「どうせ死ぬなら、悔い残したくない!」

そう言って三女に続いて他のSGボムをつけられた二木市の魔法少女達がディアへ襲いかかった。

火炎放射器の魔法少女へかかりっきりの盾役に構わず、ディアは二木市の魔法少女へ引金を引き続けた。

弾切れする頃にはサブアームがコンテナからマガジンが取り出され、2丁の銃剣からマガジンが自重で抜け落ちるとサブアームがマガジンを装填してディアはさらに撃ち続けた。

何人かSGボムがつけられた魔法少女が銃弾で倒れ、それでも弾幕を潜り抜けてくる者はいた。

そんな魔法少女達へディアは銃剣についた刃部分で殴り付けていた

その刃はもちろんアンチマギアが塗り込まれたものであるため刃に接触した魔法少女の武器は手応えなく消滅してなすすべなくディアにソウルジェムを破壊されていった。

周囲の魔法少女は作戦変更のためか瓦礫の後ろへ姿を隠していった

「学ぶ脳みそがないのかい?」

そう言いながらディアは銃剣をサブアームへ預けて盾役の背中から螺旋状の武器を再度取り出した。

そして結奈が隠れた瓦礫目掛けて長めに溜めた衝撃波を放った。

しかし瓦礫の後ろに肉片は確認できず、疑問を抱いた頃には脇腹部分へいつの間にか魔法少女が刃を突き立てていた。

ディアの命の危機を感じる脳波を感じ取り、脇腹部分には小さなアンチマギア製のシールドが発生して刃が肉体に刺さることはなかった。

その魔法少女は驚いて凄まじいスピードで姿を隠してしまった。

「咄嗟の発動はもう問題なさそうだな。いやぁほんとに助かるよ」

魔法少女からの反応は無かった。

「まだまだ付き合ってもらうよ。

試したいものは山ほどあるんだから」

そう言ってもう一度螺旋状の武器を充填し始めると火炎放射器を持つ魔法少女が飛び出してきて炎を放った。

それには盾役が反応したが斧を持った魔法少女が突っ込んできたためそれについてはサブアームが銃剣を撃って対応した。

そこへ畳み掛けるように高速で瓦礫が飛んできてそれは螺旋状の武器を壊してしまった。

ディアは腕のウェポンからアンチマギアを含んだグレネードを2発瓦礫が飛んできた方向へ撃ち込み、後ろへ下がると左右から挟み込むように結奈と騎士の格好をした魔法少女が武器を振るってきた。

するとディアは両腕のウェポンを2人に向けるとそこから生成されたシールドで攻撃を受け止めてしまった。

そのシールドは魔法製を模倣した科学で生み出されたシールドであった。

「こうもいい結果が続くとアドレナリンが止まらないなぁ!」

ウェポンの横側から排熱が行われるとディアの腕はシールドで覆われて騎士の魔法少女へ殴りかかった。

それはカンガルーに殴られる以上の衝撃で、避けきれずパンチを受け止めた魔法少女の右腕はぐにゃりと曲がってしまった

骨が折れる音と共に叫び声が聞こえ、後ろからは殺意がこもった棍棒が迫ってきた。

それもシールドで受け止めてしまい、ディアはとてもご満悦だった。

そうしている間、盾役に阻まれていた火炎放射器を持つ魔法少女は斧を持つ魔法少女に助けられてやっとディアに向けて殴り込んできた。

「出鱈目なものばかり出してきやがって!」

「あんたらよりは真っ当だよ!」

ディアと火炎放射器の魔法少女は拳をぶつけ合い、共に力が拮抗していた。

ディアは一歩引いて、盾役の方を見ると斧を持った魔法少女にかかりきりであることを認識した。

「もういらないや」

そう言ってディアは大きなボタンがついたタブレットを取り出して数字を入力し出した。

「あれよ、さくや!」

結奈がそう言うとさくやと呼ばれる魔法少女が突っ込んできた。

さくやと呼ばれるその魔法少女に対してディアは脳内で想像しただけでコンテナが反応し、コンテナ内の別のサブアームが直剣を取り出してさくやに対して振り下ろした。

それをさくやは無理な姿勢で回避して地面を痛々しく転がっていった。

そうしている間にディアにはクレーンゲームのアームのようなものが迫っていた。

それに対してはサブアームの銃剣が対応して銃弾を受けたクレーンゲームのアームは消えてしまった。

「あんたらは何もできないさ」

そう言ってディアは数字を入力した後ボタンを押した。

するとアオを含めた蛇の宮の魔法少女のソウルジェムが光り始めた

「い、いやだ!死にたくない!」

「助けて!」

蛇の宮の魔法少女はその場でオドオドするしか無かった。

他の二木市の魔法少女もどうしたらいいのかわからなかった。

アオもとうとう盾役に敵わなくてその場に座り込んでしまった。

そして何もすることができず、光ったソウルジェムが一斉に爆発した。

爆発した位置によるが、体の部位も吹き飛んで中には頭が粉々になる者、上半身が吹っ飛ぶものなど、爆発は肉体が残る程度の小さなものだった。

皆が唖然とする中、結奈はディアに向けて金棒を振り下ろした。

しかしそれは盾役に防がれて魔法でできた金棒は消え去ってしまった。

「貴様は!」

怒り狂った結奈は金棒を再度生成してその場で振りかざした。

「対象…変更!」

地面を叩いた衝撃はそのまま地面へは伝わらず、対象変更の魔法を受けてディアの脳天へ衝撃が伝わるはずだった。

しかしディアの服は特殊部隊同様に魔法の影響を受けないようになっているため頭部であっても無意味だった。

「許さなイ、お前を叩きツブス!」

そう言うと結奈はドッペルを出してディアに向かって襲いかかった

「結奈さん…」

周りの魔法少女がショックで動けないでいる中ディアはドッペルと対面して喜んでいた。

「これが魔法少女のまま出せる魔女ってやつか!」

サブアームの銃剣が銃弾を放つもののドッペルにはあまり効いていないようだった。

「そうかい、なら!」

4本目にあたるサブアームがコンテナから伸びてきて銃剣とは別のサブマシンガンをディアの手元まで運んだ。

そしてそのサブマシンガンをドッペルに向けて放つとドッペルは怯んだ。

「なーんだ、案外単純じゃないか!その魔力は魔女に似てるだけってかい?!」

ドッペルが腕を伸ばしてくるとディアはサブマシンガンを撃ちながら後方へ下がった。

火炎放射器を持つ魔法少女は追撃しにこようとするが再度盾役が目の前に立ちはだかった。

「うぜぇんだよ!おまえ!」

盾役へのイライラが増える一方の中、クレーンゲームのアームが盾役にちょっかいを出して注意を逸らし始めた。

「樹里、いけ!」

コントローラーを持った魔法少女がそう言うと礼を言うことなく樹里はディア目掛けて直行した。

樹里は銃弾を避けながらディアのコンテナに乗っかるとディアの首を強く締めた。

ディアははじめて慌てる表情を見せてコンテナからアンチマギアが付与されていない直剣を持ったサブアームが飛び出してきて樹里の背中へ突き立てた。

それでも樹里は離そうとせず、銃剣を持つサブアームが動かなくなり、意識がもうろうとなり始めたディアは持っているサブマシンガンを落としてしまった。

邪魔が入らなくなった結奈のドッペルは両手でディアを鷲掴みにしようとした。

それに対してディアの物理シールドが反射的に反応してすぐに握り潰されはしないものの、シールド内部に樹里がいたままで引き続き首を締め続けた。

「うぐぐぐぐぐ・・・」

苦しそうにうなりながら10秒ほどは耐えられたものの、ついにディアの首の骨が折れてしまい、それと同時に物理シールドも消えてあっさりとディアはドッペルに握りつぶされてしまった。

血と肉が混じったものが周囲に飛び散る中、樹里はドッペルの腕に倒れかかった後、背中を上にして地面に倒れ込んだ。

樹里の背中には4本の直剣が刺さったままだった。

盾役はディアが潰されたと同時に糸が切れたかのようにその場へ倒れ込み、持っていた盾と背負っていた螺旋状の武器はその場で爆発した。

樹里のもとへはコントローラーを持った魔法少女と竜ヶ崎の魔法少女が集まった。

「樹里!生きてるなら返事しろ!」

「樹里さん!」

樹里が呼びかけに答えない中、ドッペルがおさまった結奈の側へは騎士の格好をした魔法少女とさくやが近寄った。

「結奈さん、大丈夫っすか」

結奈はその場に膝をついた状態で涙を流しながら地面へ叫んだ。

「助けられなかった、また助けられなかった!

私は、どうすればよかったのよ。

みんな、みんな…」

ここまでの様子をミサイルから飛び出した魔法少女のうちの1人が見ていた。

特に手出しすることなく静観することにした彼女は仲間にテレパシーで伝えた。

[二木市だっけ、その連中は一応大丈夫だったよ。

そっちはどうだい、カレン]

 

 

静香とちはるはドッペルが出たまま戦いを続けていました。

静香側の時女一族は何度打ち倒されても起き上がり続けました。

その様子を見て涼子は言葉を漏らしてしまいます。

「お前ら、なんでそんなになるまで必死に人間側につくんだよ」

この問いに対して静香側の時女一族の1人が答えます。

「どんな状態になろうとこの国を守るための存在が時女一族。

たとえ一部の人間に巫が道具のように思われていようと、この国が存続するためならば、

喜んでこの身を捧げます」

そこへちかが会話に割り込んできます。

「あなた達もこの国の現状を見せられたはずです。
どんなに私たちが頑張ろうとこの国はもう」

「だとしてもこの国には日の本の象徴と呼べる方達がおります。

あの方達が居られる限り、この国は不滅です!

だから私たちはこの国を守るために、こうして、目的を誤っているあなた達に立ち向かっているのです!」

「そこまで話を広げやがるか」

膝をついた状態だった静香側の時女一族の1人が立ち上がって再び武器を構えます。

「国は民あってこそ。

そんな日本国民の生活を脅かすあなた達は、日の本を脅かす“敵”です!

そんな物に、私たちは負けられないんです!」

すなおがそう語る魔法少女のソウルジェムを確認すると、黒く濁り切ろうとしていました。

そして全員に伝えました。

「皆さん下がってください!

彼女達はドッペルを出す気です!」

そう言われると皆、静香側の時女一族から離れます。

その後静香側の時女一族は次々とドッペルを出して襲いかかってきました。

花のようなドッペルがたくさん出現し、各々は鋭利な花びらを神浜側の時女一族へ飛ばしました。

それらは花吹雪となって襲い掛かり、神浜側の時女一族を傷つけていきました。

これによってすなおはちはるたちの様子を確認できなくなりました

「ちゃる、静香!」

一方、ちはるがドッペルへ指示を出すと静香のドッペルを囲うように鉤爪が出現して一斉に静香のドッペルを地面へ引き摺り込もうとします

これに対して静香のドッペルは鉤爪の数だけ腕を出現させてドッペルの台座へ触れさせないように鉤爪を掴みました。

そこからはドッペルの力合わせでした。

「シズカチャンヲヒキズリコムマデハ!」

「アナタタチヲワカラセルンダカラ!」

理性を失いかけている2人はドッペルのぶつかり合いをやめさせようとはしません。

鉤爪でボロボロになった腕の代わりに別の腕が押さえ込んだり、握りつぶされてボロボロになった鉤爪が消えたら新たな一本が現れてと拮抗状態でした。

そんな中、ちはるにはかすかにテレパシーが届きました。

「タス、ケテ…」

ちはるはそのテレパシーでハッと我に返りますがドッペルが力負けして静香のドッペルに吹っ飛ばされてしまいます。

地面を転がったちはるがテレパシーを送ってきた方向を見ると、そこには花吹雪で傷付き続けている神浜側の時女一族が目に映りました。
花吹雪によって身が切り裂かれ、巻き込まれている皆が血を流していました。

ちはるは絶望したような表情をして、おさまったはずのドッペルを再度出現させました。

「みんな!間に合って!」

そう言って花吹雪の中、7本の鉤爪が地面から出現して次々と神浜側の時女一族を花吹雪の射程から外して行きました。

一人一人と射程外へ連れ出されますが皆肌にはたくさんの切り傷がついていて中には目が花びらによって抉られた子もいました。

ちはるが必死に仲間の救出を行っている中、遠くからは旭が花吹雪を発生させているドッペル達へ銃撃を行っていました。

ソウルジェムを避けて胴体や四肢、果てには頭を撃ち抜き続けていますが誰もドッペルをおさめる様子がありません。

「これでは過去に起きた暴走する魔法少女と同じでありますよ。

最後の手段となるではありますが…」

旭が花吹雪を発生させているドッペルのうち1人のソウルジェムへ狙いをつけようとしていると、何者かが近づいているところを目撃します。

「あれは?」

一方、静香はドッペルを出したままちはるの背後へ近づきます。

「アナタタチヘオシエコンデアゲル」

ドッペルは腕を出現させてちはるめがけて振り下ろしました。

振り下ろそうとする瞬間に背後に気がついたため、ちはるは避けることが出来ません。

しかし、振り下ろされようとする腕はなぜか動きを止めました。

潰されなかったことに疑問を持ったちはるは静香を見るとドッペルが糸のような物に縛られて身動きが取れなくなっていました。

花吹雪を発生させているドッペル達にも糸が縛り付けられ、遠くへと次々に投げ飛ばされます。

これで神浜側の時女一族で花吹雪にさらされるものはいなくなりましたが、皆切り傷と血だらけで動ける状態ではありませんでした。

「みんな…」

ちはるのドッペルはおさまり、ドッペルが投げ飛ばされた方向で唸り声が聞こえたのでみてみるといまだにドッペルを出したままの時女一族とみたことがある背中を見せる魔法少女がいました。

「あれって」

その見慣れた魔法少女は糸状の剣を出現させます。

「まさか普通にドッペルがおさまらない現象が起こるなんてね」

そう言って糸を使う魔法少女はドッペルを出す時女一族を静香を残して全員ソウルジェムを砕いてしまいました。

もちろんドッペルはおさまり、魔法少女だった肉体が転がりました。

その糸を使う魔法少女は糸の剣をおさめてちはるに近づきました。

「あなたは無事でしたか、ちはるさん」

「日継、カレン」

「まあ、今の体だとそう思われても仕方がないですね。

さて」

ちはるの頭に疑問符が残ったまま、ピリカは縛られてもがく静香に近づきました。

「まさか貴方がこんな状態になってしまうなんて。

何をやっても、貴方は人間を諦めきれなかったのですね。

カンナ、貫け!」

ピリカが雷の槍を生成させるとそれを静香のドッペルへと突き刺しました。

突き刺されたドッペルには電撃が走り、静香は叫び声を上げます。

そして静香がおとなしくなった頃にはドッペルは消えて静香はその場に倒れ込みます。

「静香ちゃん!」

そう言って静香に近寄ろうとするちはるをピリカは遮りました。

「まだだめです。正気に戻ったかわかりません」

そう言われてそのまま静香の様子を伺っていると、静香は苦しそうに起き上がりました。

そして顔を上げると驚いた顔でカレンを見ました。

「あなた、なんでここにいるの」

「正気には戻ったようですね、静香さん」

静香はそのまま戦いに移ろうとしたのか武器を取り出しますが、腕に力が入らないのかそのまま武器を落としてしまいました。

「静香ちゃん、もうやめようよ!

もう戦える子なんていないよ」

ちはるにそう言われてはじめて静香は周囲の状況を把握しました。

ソウルジェムを割られた仲間、切り傷だらけでボロボロな時女一族。

そんな周りの様子を見て静香は泣き出してしまいました。

「こんなこと望んでなかった。

ここまで傷つけあってまで戦おうだなんて、そんなことは最初は思ってもいなかったのに。

こんなはずじゃ、なかった」

そんな静香をちはるは頭を撫でながら慰めることしかできませんでした。

「私は、どうすればよかったの?」

そんな様子を眺めるだけだったカレンの近くには旭が近づいてきました。

「カレン殿、礼は言っておくであります。

あのままだと共倒れしたのは確かでありますから」

カレンは少し困った後、旭に向き直って伝えました。

早めに手当てをしないと体の維持で傷ついた子達がいたずらに穢れを溜めるだけです。

ここら辺りで治療を行う場所は決まっていますか」

「今は栄区に魔法少女が集まっているはずであります。

そこへ伝えれば助けは来てくれるはずでありますよ」

「ならば呼びに行ってもらえますか?

ほら、私たちが行ったら別の混乱が起こるでしょうし」

「それは、そうでありますな」

旭はちはるの方を向いて尋ねました。

「今の話は聞いてたでありますな、ちはる殿」

ちはるは小さく頷きました。

「我は助けを呼んでくるであります。

何かあればカレン殿に伝えるであります。

今ここで動けるのは、彼女だけでありますから」

「うん、お願い」

旭は栄区に向けて走って行きました。

カレンには仲間からテレパシーが飛んできていました。

[二木市だっけ、一応大丈夫だったよ。

そっちはどうだい、カレン]

[こっちは酷い有様だ。

まともに動ける魔法少女がほとんどいなかった。

サピエンスも自衛隊もいないのにこんなことになるなんて]

[そうか。

私たちは気にせず逃げたサピエンスを追うが、予定通りでいいんだな?]

[構わないさ。

神浜の後処理は神浜の魔法少女へ任せればいい]

テレパシーのやり取りが終わっても、静香はそれからしばらく泣き続けていました。

 

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-9 神浜鎮圧作戦・その5

ポンベツカムイが姿を現した時、その姿を見ていろは達は驚きました。

「あれって、ピリカさんが呼び出せる首長竜じゃ」

「そうであればおかしいですよ。

だってあの人たちは」

そう話している間にひなのと衣美里が梨花とれんを背負ったまま急いでもどってきました。

「お前ら高台へ急げ!」

急にそう言われてなんのことかすぐには判断できなかったいろは達ですが、海でポンベツカムイが大波を発生させているのを見て何が起きるのかを察しました。

いろは達は近くにあった倉庫の屋根へと登って波をやり過ごすことにしました。

ひなの達も無事に屋根へと移動し終わった頃に波は海岸を飲み込んで行きました。

いろは達がいる倉庫付近には地上にいたとしてもくるぶしくらいの高さ程度しか波がやってきませんでした。

波がやってきた頃、海では試験艦が爆散し、陸地には数発の対地ミサイルが飛んできていました。

「一体何が起きているの?」

 

アリナ達の奇襲を受けて状況確認を行っていた自衛隊は、さらに謎の船が現れたことでさらに混乱していました。

そんな中でも魔法少女の居場所を監視するドローンは機能していて燦の裏切り行動や二木市の魔法少女が自由に行動できていることは筒抜けでした。

「高田1佐、この状況って」

「そうだな、本来ならばここで警告して聞かないようであれば、これを使わなければならない」

高田一佐が手に持った起動装置を見ていると、司令部にはそんな魔法少女達の動向で新たな報告が入ってきていました。

「空から複数の魔法少女が現れたと言う報告があります。
ミサイルから飛び出してきた存在と同一と思われます」

「被害状況は」

「ミサイルによるものと飛び出した魔法少女によるものと2種類ありますがどちらでしょうか」

「ミサイルによる被害は把握できている。後者だ」

「では…。

主に被害を受けているのはサピエンス直属の部隊のようです。
対魔法少女に慣れていない我々では参戦は困難だと部隊長達から声が上がっています。

いかが致しますか」

「要である船隊は壊滅して地上は混乱。

残存兵の救助を優先して神浜からは撤退するように各隊へ伝えろ」

「よろしいのですか?!」

「これ以上命のやり取りは無駄だ。早く伝えろ!」

「りょ、了解」

「それよりも日本海側の様子は」

「はい、間違いなく日本海域ギリギリで中華民国の艦隊が待機していることを確認しました」

「防衛大臣からは何もないのか」

「それが、防衛大臣からは何もないのですがこちらへ向かっているという話を聞いています」

「大臣自らだと、一体どういうことだ」

 

戦場ではミサイルから飛び出してきた魔法少女達が活動を開始していました。

「いやぁ、案外なんとかなるものだね」

そう言った魔法少女は工匠区付近で青白く輝くナイフを取り出して特殊部隊が隠れている瓦礫へ投げ込みます。

そのナイフは瓦礫へ突き刺さった途端に爆発し、爆散した瓦礫の一部が特殊部隊達を襲います。

「なぜここがバレている!」

「内部情報が筒抜けだって噂、本当かもしれないな」

「いいからあの化け物を止めるぞ!」

特殊部隊はナイフを持った魔法少女以外に1人他の魔法少女が迫ってきていることを察知し、アンチマギアを周囲に散布しながら魔法少女がいると思われる場所へ迎撃を行います。

しかし手応えはなく、魔法製だと思われたナイフはアンチマギアを貫通して地面に刺さったナイフは接続されていた起爆装置が作動してどのみち爆散してしまいました。

その爆風でアンチマギアが離散し、その隙間を縫うようにもう1人の魔法少女がマグナムを数発撃ち込み、これにより兵士が1人即死、複数人が怪我を負ってしまいました。

そんな様子を見てマグナムを撃ったカウボーイ風の魔法少女は嘆きました。

「どうした?ヨーロッパから出張してきたにしては情けないじゃねぇか。
これじゃあ一方的にこっちがぶっ殺すだけになるじゃねぇか。

ほら、どうした!」

カウボーイ風の魔法少女は現物のマグナムを交えることでアンチマギアをモノとはしない戦いを繰り広げます。

そんなカウボーイ風の魔法少女は目の前の兵士を殺すことに夢中になっていたのか、回り込んだ特殊部隊員には気付いていませんでした。

その兵士に対してはナイフを持った魔法少女が気付き、ナイフを投げるとそれは首を貫いて兵士は首と口から血を出しながら倒れました。

「回り込まれるとは油断してるんじゃないか?」

「なに、やり用はあったさ」

工匠区 栄区寄りの地域ではサピエンス側の魔法少女達をどこに待機させようかと話し合っているところにミサイルから飛び出した魔法少女の1人が飛来してきました。

その魔法少女は修道女のような服装で、廃墟に対して魔法で生成した岩を投げつけると、そこからサピエンスの特殊部隊が飛び出してきました。

特殊部隊員達は岩を生成する魔法少女に対してアンチマギアとアサルトライフルで応戦しますが、それらをすり抜けた岩石が反応しきれなかった1人の隊員の顔面に直撃して即死してしまいました。

岩を生成する魔法少女は岩の壁を生成させながら十七夜達がいる場所まで後退してきて話しかけました。

「what are you doing here!」

「ここで何をやっているだと、まずお前は誰だ」

十七夜は岩を生成する魔法少女に対してそう聞き返すと、相手が困った顔を少しした後に何か閃いたように十七夜を見ます。

[ごめんごめん、これの方が通じるか。

少なくとも私たちは味方だよ]

[そうか、考えたな。

だがお前達が何者かはっきりしない以上、信用するわけにはいかない]

[信用なんて今はいい。あの兵士たちは私たちが相手する。

神浜のあんた達は避難にでも専念しな。信用するかどうかは任せるけど、ここに棒立ちしてると間違いなく死ぬよ]

岩を生成する魔法少女は十七夜へそう言って岩の壁の向こう側へ行ってしまいました。

壁の向こう側では既存の岩を操って特殊部隊を蹂躙し始めています。

壁の向こう側で特殊部隊員の悲鳴しか聞こえない中、十七夜へ令が話しかけます。

「あいつのテレパシーは観鳥さん達にも聞こえました。

ここはあいつを放っておいて避難を優先させませんか。

別地域の魔法少女と戦ってみんなクタクタですよ」

十七夜が一度保護した魔法少女、一緒に戦った魔法少女達を見ると疲れた顔をしているものが大半でした。

「そうだな。

我々はいまできることに専念しよう」

「工匠区に該当する他の場所でも特殊部隊が紛れていたなら、中央寄りに避難した方がいいと思うけど」

「栄区のキャンプは健在らしいですよ。そっちに行きましょうよ!」

「そうか、では移動だ。

動ける者は動けない者の手助けをしろ」

東側の魔法少女達はこうして栄区への移動を開始しました。

 

南側には2人の魔法少女が飛来し、その2人は真っ直ぐマッケンジーたちの部隊へ向かって行きました。

[おいおい、予定より数が多いよ]

[数が多かろうがぶっ飛ばせばいいだけだ]

マッケンジー達は迫ってきていた大波を携帯式緊急救命ボートでやり過ごしていて、倉庫の陰で情報集めをしていました。

上空から魔法少女がやってくると知るとマッケンジー含んだ3人の特殊部隊員がグラップリングフックで倉庫の屋根へ登ってやってくる魔法少女を迎え入れる態勢をとります。

1人の魔法少女は銀製の翼を広げて鋭い銀の羽を地面へ向かって五月雨に放ちはじめました。

マッケンジー達は移動しながら銀の羽へアサルトライフルで弾幕を張って屋根へほとんど羽を寄せ付けません。

流れ弾は降下中の魔法少女が拡げる傘にも当たりはしたものの、予定通り傘が空中分解すると、もう1人の魔法少女は魔法性の青白く輝く鞭を4本倉庫の屋根に放ち、その鞭より前方へ飛び込むことで屋根から抜けようとする鞭でブレーキがかけられて荒々しく着地しました。

そこへマッケンジー達がアサルトライフルを撃とうとしましたが、空を漂う銀の羽を放つ魔法少女によって妨害されてしまいます。

マッケンジーは鞭の方、残り2人は銀翼の魔法少女を相手にすることにしました。

その判断は一瞬のアイサインで済んだようです。

2人が銀翼の魔法少女を牽制している中、マッケンジーは鞭の魔法少女へ突っ込みながら背中に背負っていた直剣を引き抜き、柄頭を引っ張ると直剣の先が割れてさらに長い大剣サイズと変化します

飛び出た刃は紫色に輝いていてそれはアンチマギアが練り込まれていることがすぐにわかりました。

鞭の魔法少女はマッケンジーへ鞭を放ったものの大剣によってあっさりと切り落とされてしまいました。

鞭はそのまま消滅していき、マッケンジーが大剣を振り下ろし、それを避けるように鞭の魔法少女は後ろに下がります。

マッケンジーは振り下ろした勢いで前転し、1回転する頃には腰のサブマシンガンを鞭の魔法少女へ向けていました。

焦った顔をしながら鞭の魔法少女は袖から実体のある鞭を伸ばして、器用にしならせてサブマシンガンを防ぎます。

そのままサブマシンガンが放たれることはなく、その場からマッケンジーが移動したと同時にマッケンジーがいた場所には銀の羽が突き刺さっていました。

「この強さ、こいつらサピエンスの本命か」

マッケンジーのインカムへ通信が一つ入りました。

「魔法少女の反応がない場所まで撤退完了。

よってSとN班についてはクリアです。

EとWは応答なし」

「OK。我々の役目は終わりだ」

マッケンジー達はその場で数個のアンチマギアグレネードを放って煙幕のようにアンチマギアが散布されました。

その隙に3人はグラップリングフックを活用してあっという間に戦線を離脱してしまいました。

「ちくしょう、なんだあいつら」

ここまでの一部始終をいろは達はただ見ることしかできませんでした。

「なんだあれ、あいつらの動き目で追えなかったぞ。

魔法少女と戦ってたの、人間だよな?」

「違いないわ。人間にも魔法少女を簡単にあしらえる存在がいるってことよ。
他では好き放題できてるって話もあるし、質はバラバラなのかしら」

みんなが唖然としている中、マッケンジー達と戦っていた2人がいろは達のところへ近づいていきます。

[あんた達は何が目的でここにいる?]

この問いに回答したのはやちよさんです。

[私達は救助が必要な魔法少女がいないか探しているところよ。

あなた達はなんなの?]

[大事な安全地帯を守りにきた。

占領しようだなんてわけではないからそこは勘違いするな]

テレパシーのやり取りに銀翼の魔法少女が飛んだまま割り込んできます。

[私たちが知りたいのは、お前達は生きることに専念しているのか、兵士達を殺すことに専念しているのか。

どっちなのかだ]

その問いかけにはいろはが答えました。

[生きるため、です。

この後私達は、救助活動に戻ります]

「ダメよ、まずはいろはを安全な場所に連れて行かないと」

銀翼の魔法少女と鞭の魔法少女は少し顔を合わせた後、銀翼の魔法少女がテレパシーで話しかけてきます。

[とりあえずあいつらを殺すのは我々だけでいいということはわかった。

後で詳しいことはミアラから聞くことになるだろう。しっかり生きろよ]

そう言って銀翼の魔法少女は鞭を持つ魔法少女に向けて手を伸ばし、鞭の魔法少女はその手をつかんだ後、銀翼の魔法少女に抱えられる状態で特殊部隊が逃げた方向へ飛び去ってしまいました。

いろは達が少し思考を止めてしまっていると、さやかと杏子がやってきました。

「ここにきてって言うから来たんだけど、

もしかして終わっちゃった後?」

「えっと、そうなっちゃうわね」

「なんだよ、やっぱ急ぐ必要なかったじゃねぇか」

「いや助け求められたら急ぐでしょ」

見滝原組が話している間、ひなのはやちよへ話しかけました。

「あたしらは怪我人を抱えているから栄区へ行く。

お前達はどうする」

やちよはいろはの動かなくなった左手を見た後。

「私たちも栄区へ一度行きましょう。

これ以上いろはを連れ歩くわけにはいかないわ」

「じゃあ、目的地は栄区だね!」

この後いろは達は栄区へ、見滝原組は引き続きなぎさの捜索を行うことにしました。

 

北養区では一度落ち着いたので別の地域へ応援に向かおうとしていました。

そのためにみふゆ達が森を抜けた瞬間、正面から銃弾の雨が襲い掛かります。

その銃弾を避けられたのはみふゆと燦だけでついてきていた天音姉妹とミユリは銃弾の雨にさらされてその場に倒れてしまいました。

「そんな!教官これはどういうことですか」

「私も紛れていたなんて知らない」

銃を向けている特殊部隊員はみふゆ達へ忠告を行いました。

「そのまま身動きをとるな。

今は大人しくしていろ」

みふゆは幻覚の魔法を使うタイミングを見計いますが、森の方から悲鳴と銃声が聞こえてきます。

W班が囮魔法少女、自衛隊が共に機能しなくなったと判断したためです。

撃たれた魔法少女の中にはSGボムを仕掛けられた魔法少女も含まれていました。

森の中の悲鳴が聞こえてみふゆはその場から動こうとしますが燦に止められてしまいます。

そしてテレパシーで話しかけます。

[みふゆさん、動いちゃダメだ]

[でもこのままでは]

[大丈夫だ、宮尾と安積を信じるんだ]

全くみふゆが安心できていない状況の中、銃声がした森の方から爆発音が聞こえてきました。

また特殊部隊が何か仕掛けたのかと思ったら特殊部隊員も何か驚いている様子で、彼らが想定していない爆発であることがわかります。

そんな状況の中、林の中から見慣れない魔法少女が走り込んできて、特殊部隊員が魔法少女の反応に気づいた頃には1人の隊員が湾曲したナイフを銃で防いでいました。

その魔法少女を遠ざけようと必死になっている隙に、みふゆと燦は特殊部隊員へ攻撃を行って特殊部隊員たちと距離を開けることができました。

隊員の中の1人がマッケンジーへ通信を行うと爆発音があった森の中からパチンコによって放たれた魔法の球が隊員の頭を捉えて、隊員の頭には穴が空いた状態で倒れてしまいました。

さらにもう1人には太い針のもののようなものが飛んできましたが間一髪で避けました。
しかし背後からナイフを持った魔法少女に刺されて殺されてしまいます。

「皆、離脱してマッケンジーと」

そう指示をしていた隊員に対してナイフを持った魔法少女が瞬時に迫り、その隊員はその場でアンチマギアを撒いたものの意識外から飛んできたニードルガンに貫かれて殺されてしまいます。

「フーン、良い反応だったじゃん」

みふゆ達が森の中を見ると時雨にはぐむ、そして灯花に見慣れない魔法少女が1人いました。

そして灯花がこう話し始めます。

「まったく、敵が尾行してくるような状況で私達を呼びに行かせるってどう言うこと?

頭ワルワルじゃないの?」

「灯花、それってどういう・・・

それよりもたくさんの魔法少女が撃たれてしまって」

[ソウルジェムが割れた者もいるが、徹底的に銃弾を撃ち込まれているだけの者もいる。

治療施設があれば良いのだがここにはあるのか]

そうテレパシーで話しかけてきたのは自然と灯花の横にいるニードルガンという太い針を銃のような者で打ち出す武器を持った魔法少女でした。

みふゆはどう返事をしようか少し迷ている中、みふゆ達に銃を向けていた隊員たちはナイフを持った魔法少女と戦う二人の隊員しか生きていない状況でした。

[な、なんなんですかあなた達。あの兵士たちを簡単にあしらうなんて]

ナイフを持った魔法少女が苦戦している様子を見ていたニードルガンを持つ魔法少女は、一発兵士に向けて撃ち込むとそれは隊員の脇腹に命中し、怯んだ隙にナイフで首を貫かれてしまいます。

残り1人が銃をこちらに向けますが灯花が傘を兵士に向けると炎の火の玉が弾丸のように上空から降り注ぎ、兵士はアンチマギアを展開させるものの爆風でまき散らされて無惨に燃やされて死んでしまいました。

「爆風だけでどうにかできちゃうんだから楽なものだね」

「え、ええと」

[そろそろ質問に答えてくれないか]

みふゆは頭の整理ができない中一呼吸して答えられることだけ答えました。

[以前はあったのですが、攻撃を受けてからはここらあたりでキャンプを構えようとしていました]

[それでこのザマか。

森林に潜む敵は殲滅したはずだから急いで撃たれた奴らの体から銃弾を取り出したほうがいい。

弾丸に含まれたアンチマギアが体に浸透して魔力で回復できず体が腐敗するだけになってしまう]

「そんな、銃弾を体から取り出すなんて」

「流石に私でもそんなことできないよ」

「ぼ、僕たちもそういうの専門外だし」

その場でやろうとする魔法少女は誰1人いませんでした。

「けっ、めんどくさいな。

アバ、弾丸取り出して行くから手伝え」

「わかったよー」

そう言ってアバと呼ばれる湾曲したナイフを持った魔法少女がニードルガンを持つ魔法少女へついていきました。

こうしてしばらくの間、北養区ではミサイルから飛び出してきた魔法少女を中心に銃弾で倒れた魔法少女の治療が行われました。

 

 

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