【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-6 本命がエサとなりえるか

ペンタゴンへ突撃した魔法少女の船は機能を停止させ、船から出てきた30人の魔法少女達は穴が開いた地下7階へ侵入していた。

セシルが通路に異常がないことを確認した後につぶやいた。

「随分と簡単に深く潜り込めたもんだ。5階から激戦を予想していたが肩透かしだ」

その呟きにカレンが反応した。

「ソフィーが逃げずに照準を合わせ続けた結果だろ?」

「死ぬ必要はなかったと思うけどな」

「ここは敵地よ。おしゃべりの暇なんてないわよ」

そう言って結奈が率いる神浜からの参加組がずんずんと施設の奥地へと向かっていった。

神浜から参加したメンバーは二木市のメンバーが主流となっており、そこに十七夜とヨーロッパから参加した3名が混ざっている。

カレンを中心としたヨーロッパ組にはカレン含めた9名に神浜へ避難していた中東のメンバー6人が混ざったグループで構成されている。

神浜に設置された転送装置で可能になった神浜メンバーのペンタゴン奇襲への参加によって、ヨーロッパ組の一部は陽動用の船団に人員を割くことができた。陽動用の船団には夏目かこと三重崎のメンバーも参加しているため、ピリカのソウルジェムの安全性も問題ないレベルとなった。

ペンタゴンへ潜入したメンバーはすでにミアラからの応答がない状態であることは知っていて、予定通り2グループに分かれてサピエンス本部へ侵攻し、魔力消費を考えてテレパシーの使用は控えることにした。

二木市のメンバーの姿が見えなくなるとカレン達も行動を開始した

「さて、どっちに本命がぶち当たるだろうね」

イザベラってやつと顔合わせたことがあるのはカレンとセシルくらいだろ」

「私はこんなビッグになる前のイザベラへ忠告した程度だ。

一番最近接触したのはカレンくらいだし、好かれてたらこっちにくるんじゃないか?」

「そう知ってて付いてくる死にたがりはお前らだろ?」

実物のアサルトライフルをリロードしながら中東から参加した1人が話し始めた。

「本命を殺せるチャンスだ。乗り掛かるしかないじゃないか」

「まったく。

したっけ向かおうじゃないか」

ペンタゴン地下7階には特に罠は用意されておらず、兵士たちの待機部屋として使用されている階だった。

本来であれば5、6階には液状アンチマギアが消火装置にセットされて通路を通ろうとすれば確実に脱落者が出る作りとなっていた。

そこから先、8、9階には銃器を携えたドローンが粉状アンチマギアを振り撒ける状態で待機している。

そしてサピエンス本部は地下10階に存在していて研究施設は地下11、12階に存在している。

ここまでペンタゴンの詳細を魔法少女が知っている理由としてはマーニャがカルラから受け取った見取り図によって明らかになったものだった。

さらにはミアラが抜き取ったペンタゴンの罠を配置する指示の内容とも一致していたため、魔法少女達は見取り図を信じて進んでいた。

2グループに分かれている理由も見取り図を参考にした結果であり、本部へ通じる通路は二つあり、片方にイザベラが出てももう片方が本部を潰せるからである。

地下8階を進んでいた二木市のグループは何の問題もなくドローンを排除して先へ進めていた。

そんな状態に思わず結奈は呟いてしまった。

「妙ね…」

「何がっすか」

「ミアラさんからイザベラは狡猾と聞いていたのだけど、ここまで見取り図通りなのは素直すぎて」

「いいじゃねぇか、素直なのは嫌いじゃねぇ」

二木市のメンバーの会話に十七夜が割り込んでくる。

「紅晴の言う通りだ。

突然壁から銃が飛び出してくるかもしれないぞ」

「水さすんじゃねえよ。
そんなことされたら壁ごとぶっ壊してやる」

「でもここの壁って」

そう言って二木市の魔法少女の1人が壁に向かって魔法製のハンマーを叩きつけると魔法製のハンマーは光の粒になって消えてしまった。

その様子を見て樹里は驚いた。

「おいおい、触れたらやばい壁だったのかよ」

「見取り図やミアラさんの情報にはなかった。

もうすでに未知の対策をされ始めているってことよ」

「全然気づかなかった。

もしかしたらもうすでに未知のトラップを踏んでるかもしれないってことか」

ヨーロッパから参加した魔法少女も会話に参加してきた。

「そうだろうさ。

本来であればシールドに電力を取られてここの通路は予備電源で暗いライトしかついていないはずだ。

それがこんなに白々しく明るい。

ほんとに壁から銃が出てくるかもしれないな」

「マジかよ」

一方のカレンのグループでも壁の異変に気付きつつ10階に続く階段に通じる通路途中にある大広間に到達していた。

その大広間は直径50mほどある半球体の空間だった。

しかしそこはカレン達にとって予想外の場所であった。

「なんだこれ、まっすぐな通路が階段に続くだけじゃないのか」

「入ってしまってなんだが引き返した方が」

ニードルガンを持つ魔法少女がそう言うとカレン達が通ってきた通路へ急速にシャッターが降りて道が塞がれてしまった。

「おい!これで液体流し込まれたら終わるぞ!」

「いや、近づいてくる魔力で何も起こらないことはわかるよ」

カレンがそう言うと本部へつながる通路から銃弾が飛んできた。

魔法少女達は急いで避けて通路の先から来る存在に備えて武器を構えていた。

「籠の鳥は30ってか。その程度で超えられると思ったのか」

そう言いながら暗い通路の先から現れたのは、いつもの服装で小型のコンテナを背負ったイザベラとコートタイプの軽装と脛当てを装備したキアラが現れた。

姿が見えてすぐに中東の魔法少女達はアサルトライフルを放った。

イザベラとキアラは左右に素早く避け、イザベラは走りながらサブマシンガンで魔法少女達へ反撃した。

キアラは弾を避けながら魔法少女達の背後へ素早く回った。

他の魔法少女達も攻撃へ参加し、イザベラには近接の、キアラには遠距離タイプの魔法少女が対面する形になった。

「動きがいい。でも!」

キアラがそう言うと白い筒がついたクナイを遠距離の魔法少女達が集まる場所へ投げた。

それをレイラが撃ち落とすとクナイについた白い筒が弾けて周囲は白い光に包まれた。

それに反応するようにイザベラは閃光弾を取り出して足元に投げつけた。

魔法少女達は背中を取られないよう集まる中、カレンは魔力反応がする方向から飛んできたフックに引っ掛けられて引き抜かれてしまった。

周囲の視界が戻ると、イザベラにカレンのみが対面する状態になり、その2人に背を向けるようにキアラが、キアラの目線の先に14人の魔法少女達が集まっている状況になっていた。

「なんのつもりだ」

カレンがそう言うとイザベラは銃口を向けながら返事をした。

「首長竜使い、お前と少し話がしたくてね。

キアラ!他の有象無象は任せた」

「了解」

そのやり取りを見たニードルガンを持つ魔法少女が怒り出した。

「なめんじゃねぇ!」

ニードルガンを連射されるとキアラは避けるのではなく刀で切り落としていった。

アンチマギア製の刀を使っているようで魔法で生成された弾丸は斬られた後に消し去られてしまった。

ニードルガンを持つ魔法少女に対してアバが話しかけた。

「やめなって、あいつマーニャ達を1人でやったやつだよ」

「なんだって?」

別の魔法少女もニードルガンを持つ魔法少女へ冷静になるよう伝えた。

「アバの言うとおりだ。下手に行動すると一瞬でやってくるぞ。

名前はキアラ。イザベラの懐刀で人間なのに魔法少女以上の身体能力を持っている

「対抗方法ぐらい話し合っただろ」

「それは相手がやる気になればの話だ」

話しかけていた魔法少女が後ろで戦っているイザベラへサブマシンガンを放とうとすると、キアラはそれを斬ろうと動き出した。

「単純だからいいがな!」

中東の魔法少女達が一斉にイザベラ目掛けて銃を放とうとすると、キアラは足元に円盤状の物体を投げつけた。

そこからは赤紫色の半透明な壁が出現し、銃弾はその壁で防がれた。

その光景に目を向けていた魔法少女達は、目の前でキアラが銃器を切り落としにかかっていることに気付けなかった。

キアラを止めるために近接魔法少女達が前に出て手足を狙おうとするものの、わずかな股下のスペースへ滑り込み、立ち上がる勢いに回転を混ぜて中東の魔法少女達へ刀を振るった。

中東の魔法少女達は急いで銃器を投げて自分たちの手と銃器を守った。

キアラは刀ではなかなか行われない刺突を1人の魔法少女へ行うと、その間の一瞬で、1人のソウルジェムを破壊されてしまった。

そのまま切り上げて左側にいる魔法少女へ振り下ろすと体と共にソウルジェムを叩き切った。

そこから流れるように周囲を薙ぎ払った。

その動きを見てセシルは思わず呟いた。

「やばいとは思っていたが、本当に人間か?」

 

カレンと対面しているイザベラは話を始めるわけではなくいきなりサブマシンガンの引き金を引いた。

カレンもイザベラを殺すために実体のある鉄パイプを持ち出してイザベラへ殴りかかった。

飛んでくる銃弾は避けつつシオリが操る鉄塊で防がれていた。
シオリとテレパシーでのやり取りが行われない中でも、二人の動きは互いを邪魔していなかった。

先端が鋭利となったパイプで突こうとするとサブマシンガンについた短剣で防がれ、イザベラの右手に持っているナイフが迫ってきて咄嗟に糸を束ねた剣で防ぐと、消滅させられるのではなく防げてしまった。

アンチマギア製じゃない?

疑問に思ったカレンはイザベラへテレパシーで伝えようとした。

[なぜアンチマギア製のものを持ち出していない]

しかしテレパシーが来ていることも知らないかのようにイザベラはマグナムを放ち始めた。

楽しそうにマグナムを放つイザベラを見てカレンは苦笑いした。

[話し合う気があるとは思えないな]

マグナムを撃ち終えるとそれはイザベラが背中に背負うコンテナへ格納され、イザベラは右手のナイフをしまって両手にサブマシンガンがアームによって手渡された。

最初よりも密度が高い弾幕が飛んできた。

カレンがキアラの真後ろまで移動するとキアラと対面していた魔法少女達が驚いた。

「カレン?!」

するとイザベラは容赦なくカレンの方へ銃を放った。

キアラも少し驚いた顔をして皆射線上から逃げた。

カレンはそこで紛れて仲間と合流しようとしたが、イザベラが放ったフックが左腕に絡みついて動けなかった。

「逃すわけないだろ、首長竜使い」

フックをすぐに切り落としても、すでに仲間との間にはキアラが割って入っていて合流はできそうになかった。

キアラがカレンを見ながら攻撃をしてこないためカレンはキアラへ問いかけた。

「どうした、自分から仕掛けはしないのか」

「その必要はない。時間をかける方がこちらの得になる」

「どういうことだ」

「こういうことさ」

そう言ってイザベラがポケットから端末を取り出して何かを押すと、半球体の天井には映像が映し出された。

そこには各地の戦場の様子が映し出されていた。

中には別ルートで行った二木市のグループも映し出されていた。

「なんのつもりだ」

「まあみんな手を止めてゆっくり鑑賞してみようじゃないか。
勘が良ければすぐにわかるさ」

 

back:2-4-5

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-5 籠の鳥プログラム

衝撃砲が配布された米軍でも船団を抑えられない中、ついに魔法少女達の船団がレミングの射程内に入った。

「レミング、射程に入りました!」

「チャージ始め。

周囲の僚軍にはレミングを死守するよう伝えろ」

SGボムをつけた魔法少女は各国で魔法少女達に溶け込めたようです。

ヨーロッパではすでに処理され始めているのか数が減っています」

「奴らに情報が筒抜けなのは承知の上だ。レミングを放てるかどうかが勝敗を分ける。死んでも守れ!」

ダリウス将軍が指示を出している中、イザベラはカルラへ回線を繋いだ。

「カルラ、ぶっつけ本番になるけど用意はできている?」

「大丈夫だよ。あとは合図待ちだ」

「OK。

さて、お前達はどこまで勘付けるかな?
魔法少女諸君」

大通りにキャタピラで移動してきたレミングは前後左右の四方に設置された足を地面に突き刺して車体を固定した。

そして砲身となる筒部分の周りを螺旋状の部品が包んでいき、先端にはパラボラ状のものが展開され、エネルギーチャージが開始された。

砲身の形状を見て何かを察したのか地上の魔法少女達、および船団がレミングに向けて攻撃を開始した。

レミング周辺には試作品の実弾を防げるバリアが用意されており、爆風のない武器は防げていた。

しかしイージス艦から放たれる主砲や魚雷を受けると地面ごと抉られてしまうため次々とシールドが脱落していった。

「守るだけではだめだな。ドローンを惜しみなく投入しろ!

戦闘車両は孤立せずライン陣形を維持。脱出する際は自爆処置を怠るな」

なんとかイージス艦の関心を逸らそうと、米軍は空中へたくさんのドローンを放った。蝗害で作物に群がる虫の如く各船をドローンが取り囲んだ。

「まだこんなにドローンを持っているのか!」

甲板にいる魔法少女達はドローンの排除で一生懸命な様子。

地上では砲身がついた戦車が並べられていて、魔法少女がいると思われる場所へ容赦なく徹甲弾が撃ち込まれはじめた。周囲のビルはレミングの方向へ倒れないよう破壊され、その瓦礫が魔法少女達の行手を阻む。

「チャージは!」

「60%到達!」

「100にならないとダメだ!踏ん張り続けろ!」

瓦礫を乗り越えてきた魔法少女達によって戦車が破壊され始めた。中には動けなくなった戦車を持ち上げ、レミングへ叩きつけてくる魔法少女もいた。

レミングの砲身に当たることはなかったものの、左前側の足が破壊されたことでレミングの照準が左前側へ傾くことになった。

レミング操舵手が残った3本の足を打ち込む深さについて調整を開始し、照準のブレが発生しないようにしていく。

破壊された戦車では自爆装置が発動してそれに巻き込まれる魔法少女が現れ始めた。自爆装置が不発し、使用不可能のまま残ってしまった車両は米軍がロケットランチャーで利用される前に破壊するようにもしていた。

レミングを守るシールドが剥がれ始めた頃、充填率は90%に達していた。

レミングは照準の調整を続けていたが、なかなか船団の母艦をロックできずにいた。

「照準がブレてとらえられない!」

「自動照準に頼るな。

マニュアルで合わせるんだ、訓練で使っていたエイブラムスと同じだ」

「長さも何もかも違うのに何を言ってるんだ。

うわ!」

魔法少女達がレミングのある地面を削り始め、バランスを崩すのは時間の問題であった。

「レディ!レミングの防衛、100%まで耐えられません!」

「情けないな。まあ米軍にしては耐えた方と思っておくか。

マッケンジー!予定より早いが地上を手伝ってやれ。その後は予定通り進んだあとだ」

イザベラがマッケンジーに対して指示を出すと、ちょうどレミングを囲もうとしている魔法少女達の後ろ側にある地下鉄出入口から、液状のアンチマギアが地上へ放水され始めた。

「なんだ?!」

魔法少女達が驚いている中、地下からは液状アンチマギアを振り撒くドローンが展開され、レミングを取り囲むように液状アンチマギアが散布された。

「アンチマギア?!サピエンスか」

今度は道路の真ん中にあるマンホールが吹き飛び、地面を抉るように円柱が地下から飛び出した。その円柱に埋め込まれたアンチマギアを含んだ弾丸が周囲へばら撒かれ始めた。

魔法少女達は弾丸に当たらないよう瓦礫に隠れるように逃げた。

その隠れた先に試作品の光学迷彩でサピエンスの兵士たちが潜伏していた。兵士たちは迷彩を解いて逃げ込んできたソウルジェムめがけてハンマーを振り下ろした。

「遠慮はいらない。砕け」

魔法少女のソウルジェムが割れる音が響く中、ようやくレミングの充填率が100%に達した。

そして照準も定まった。

「いけます!」

「全員耳を塞いで口を開けろ!」

レミング周囲の兵士には自己防衛指示が出された。

「放て!」

ダリウス将軍の指示を合図にレミングは発射された。

サピエンスの兵士たちはマッケンジーの指示で衝撃に備える動きが優先された。

レミングの発射に備えられなかった周囲の魔法少女達は発生した衝撃によって生まれた音で耳が破壊されてしまった。

目に見えない衝撃が魔法少女の船へ到達する前に船から魔法少女達は飛び降りていき、ほぼ無人となった船団の中央にある船には見えない衝撃が命中した。

船は正面から押し潰されたかのように圧縮され、破片を撒き散らしながら海めがけて飛んでいった。

「やったぞ!」

レミング周辺の米兵は目標の撃破に喜んでいた。

しかし周囲にある10隻のイージス艦はまだ浮いた状態だった。

10隻のイージス艦にはスクリュー部分に何かが点火し、加速をかけ始め、全てがミサイルほどのスピードとなってある一箇所に向かって進み出した。

「残りの船が特攻を仕掛けてきます!」

「目的地はどこだ!」

「ペンタゴンのシールド展開!安全が確保されるまで電源は全てシールドに回せ!

全員!衝撃に備えろ!」

10秒もしない間にイザベラがそう指示を出すとペンタゴンにはレミングに使用されていたものよりも強度が高いシールドが地上および地下にある施設を囲うように展開された。

勢いよく特攻してくるイージス艦を止められるものはなく、すべてが五月雨にペンタゴンへ突撃した。

その一つ一つが爆薬を積んでいたのか大きな爆発を起こし、ペンタゴン内は地下の施設にいても立っていられないほどの衝撃が襲った。

立ったままであったイザベラは揺れに耐えられず倒れそうになったが、キアラがイザベラを抱きかかえてイザベラが直接床に倒れないよう守った。

座っているサピエンスの司令部にいるメンバーには強い揺れで椅子から転げ落ちてしまう者もいた。

同時に街中では衝撃砲の反動に耐えられなかったレミングが爆発し、魔法少女の船から脱出した魔法少女達が着陸していた。

皆が大きな爆発が発生したペンタゴンの方を見ていた。

サピエンス本部は揺れが収まって数秒は真っ暗だったものの、予備電源が起動して薄暗く赤いランプが室内を照らし出した。

ほとんどのメンバーが床に倒れている中、いち早く態勢を整えたのはダリウス将軍だった。

「ダメージレポート、急げ!」

急いでオペレーターたちが席につくと、画面が荒い中でペンタゴン周辺の損傷状況を調べ出した。

イザベラは近くにいたキアラに起こされる形で立ち上がった。

次々とメンバーが起き上がっていく中、オペレーターが報告を始めた。

「報告します。

ペンタゴンの施設自体はシールドにより無傷。

全ての電力がシールドに消費され、一瞬の許容量を超えたため主電源はオーバーヒートを起こして停止。そのため現在はシールドが消滅しています。

施設内は全て予備電源で動いています。

ペンタゴン周辺は大きく吹き飛び、ひどいところは地下3階まで地面がえぐれているようです。

他は監視カメラが死んでいて状況つかめません」

「施設を無傷で守れたならば上出来じゃないか」

司令室内が安堵の空気になる中、アラームが鳴り響く。

「魔力反応だと、どこだ!」

「大西洋側で、レミングで吹き飛ばしたものと同型である船の反応です!」

大西洋側のペンタゴン近くに姿を消していた船は透明化を解き、同時に消えていた影も出現した。

「やはりきていたか」

「シールドは現在使えません!」

「この段取り、全てこのためか」

空飛ぶ魔法少女の船は主砲をペンタゴンへ向けていた。

「カルラ、アンテナが破壊される前に籠の鳥プログラムを進めなさい!

「了解」

カルラは通信を切った後に同じ部屋にいる研究員へ指示を出した。

「籠の鳥の指示が出た。籠の中にいる鳥の感覚を消しにかかる。デコーダ起動!」

「了解。デコーダのネットワークへの接続開始。

全ての掌握まで30秒」

その間に主砲が発射され、それは地下三階付近の地面へ直撃した。

カルラ達がいる場所は地下10階のため衝撃が伝わってくる程度だった。

「デコーダOKです」

「悪く思うなよ、これも試練だと思え。

デコーダ発動!情報の覗き魔へお仕置きをしてやれ」

デコーダと呼ばれるヒューズのような見た目をした手のひらほどのサイズがある装置は内部の芯が発光し、一時的に世界中のネットワークがダウンした。

この事態に驚いたのはヨーロッパにいるミアラ達であった。

「ミアラ!世界中のネットワークが」

「悪影響は相手側にもあるはず。どういうつもりだ」

ミアラが不思議に思っていると、一瞬の間にミアラには世界中のデータ量が5倍に増幅された情報量が流れ込んできた。

固有魔法としてあらゆる情報を収集する能力を持つミアラは立ち話だけではなく、ネットワーク上の情報も隅々まで収集してしまう。

普段は魔法少女達の隠れ家にある情報処理装置の補助があって問題は出ていなかったが、大量のデータが流れ込んだことで補助装置も破壊されてしまった。

装置をいじっていた魔法少女は突然端末から火花が飛んでその場に倒れてしまった。

「一体何?」

装置から火が出てしばらくするとミアラは耳から血を出して倒れてしまった。

「ミアラ?!」

「ミアラしっかりしてよ!」

「どうしよう、マギアネットワークも機能しなくなっちゃったよ」

「ミアラ起きて!私をひとりにしないでよ、ミアラ!」

魔法少女達はミアラの能力を経由したテレパシーを世界中で共有できるマギアネットワークという通信機構を用意していた。

これによって世界中の統制をとっていたが、ミアラが倒れたことでマギアネットワークが機能しなくなってしまった。

それは戦場ですぐに影響が出た。

「なんだ、情報が流れてこなくなったぞ」

「カレン達はうまくいったのか!」

デコーダがうまく稼働したことを魔法少女達の反応で察したカルラは研究員たちへ次の指示を出した。

「デコーダとのつながりを持たせたままネットワークの再起動を開始しなさい」

「でもよいのですか、テレパシー遮断を止める予定で通常ネットワークとつなげたままって」

「かまわないさ、最悪の状態になったときのための保険だ。
気にするな。すべての責任は私が負うさ」

「わかりました。予定通り進めます」

通常のネットワークが再稼働した後、カルラはイザベラへ通信を行った。

「籠の鳥プログラム、鳥たちから感覚を奪い去る事に成功。
通常のネットワークは正常に再稼働された状態になったことも確認。
次の段階へ移ることができる」

「了解。

籠の鳥プログラムはへんげの段階へ移行しなさい!

全員、戦場に出てすべてを魔女化させなさい」

それを合図にアンチマギア製造施設がある各国では魔法少女達の背後をとる形でサピエンス所属の兵士たちが魔法少女を奇襲した。

「なに!一体どうなってるの?!」

「こんなの聞いていないわ。アメリカではどうなっているの!」

ロシアに現れたサピエンス部隊は魔法少女達へ液状のアンチマギアを放水し、銃ではなく液状のアンチマギアを浴びせて動きを止める作戦を実行していた。

退路を塞がれる形でサピエンス部隊が出現したため、魔法少女は逃げ場がなくわずかな安全地帯を探すために走り回った。

施設の外に出れば合図と共に地上へ出現したサピエンス部隊の銃弾が待っており、アンチマギアの銃によって魔法少女達は倒れていった。

生き残っていた一般兵にはサピエンスの兵士たちからアンチマギアが練り込まれた武器が手渡された。

「待たせたな。反撃といこうじゃないか」

「ほんとに遅いぜ。でもありがたい!」

世界中でサピエンス部隊が動き出した頃、大西洋側に現れた船はペンタゴンの地下を掘るように主砲を放ち続けていた。

魔法少女の船はペンタゴンの壁ではなくただひたすらに地面へ主砲を撃ち込み、空いた穴へ追い打ちで魚雷を8発撃ち込んだ。

さらには船首部分へ魔法で生成されたドリルが出現し、地下7階まで穴を開けた。魔法少女の船が地面へ突き刺さる状態のまま、船はなぜか突然に機能を停止した。船の中にいた魔法少女は全員外へ出て、地下7階に当たる場所へ爆弾のようなもので穴をあけてペンタゴン内部へなだれ込んだ。

サピエンス本部では地下7階で魔法少女の反応があったことを確認していた。

「随分とショートカットしてくれたじゃないか」

「イザベラ、そろそろ」

「そうだね」

イザベラはディアに対して回線を繋いだ。

「準備しなさい。ほぼ無傷でくるわよ」

「了解」

無機質な返事を聞いた後に通信を切り、イザベラはダリウス将軍へ指示を出した。

「将軍、ここから各部隊への指示はあなたに一任します。私がいなくなった後にみんなで逃げ出してしまってもいいですよ」

「ふん、そこまで無駄口を叩けるならかえって安心する。

安心しろ、最後までこの国のために尽くすさ」

「臆病な方が長生きしやすいですよ」

「十分憶病に生きてきた人生だ。私だけでも最後まで抗うさ。
過去のように魔法少女の前から逃げ出すようなことはもうしない」

「ではフィラデルフィアのコイルを盗まれたときの教訓、今一度しっかり見せてくださいね。

キアラ、行くよ!」

「了解」

イザベラはキアラと共に侵入してきた魔法少女を迎え撃つために司令室を出た。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-4 魔法少女がもたらすハルマゲドン

世界の空路が破壊されて15日が経過した。

その間に世界中の港も攻撃され、ハワイに関しては戦える軍人は残っていなかった。

世界には避難勧告が出され、多くの人々は10日以上も避難所暮らしする者もいる。

中には志願して非正規兵になる者も現れ、もはやテロではなく戦争と言える規模となっていた。

中東では政府が魔法少女に便乗した武装集団によって破壊され、無政府状態になった後に指導者になろうとするイスラム教徒とそれを阻止しようとする元政府支持派で争いが続いていた。

難民となった一般人を匿ってくれる場所はなく、中東と区分される地域はもはや国と呼べるものがなくなっていた。

ロシアでは空港が破壊されてしまったものの、アンチマギア生産施設は死守できていた。

そこへ通ずる市街地は戦場になっているものの、空港や港、アンチマギア生産施設とは離れている都市は戦場にはなっていなかった。

避難所では不条理な出来事に嘆く者がいれば、自分の子どもが魔法少女であり、世界の敵になったと知って悲しむ者もいた。

ロシアとヨーロッパで共同管理されている黒海は以前から魔法少女の行き来にも欠かせない場所となっていて、軍艦のありかは魔法少女にもよく知られていた。

魔法少女達はその軍艦を強奪しようと動き、黒海周辺はアンチマギア生産施設側よりも激しい戦いが行われていた。

ヨーロッパはもっと酷く、アンチマギア生産施設は陥落寸前だった。

施設入り口まで詰められており、内部に入られて生産装置が破壊されるのは時間の問題だった。

施設を防衛する一般兵士たちはアンチマギア装備を使用してはいるものの、アンチマギアに慣れてしまったヨーロッパの魔法少女相手には足止めにもならなかった。
魔法少女達は魔法ではない実体のある武器を持ち出しており、粉末状アンチマギアは吹き飛ばされて意味がなかった。
一般兵が牽制に用いることができたのは銃だけで、それもなぜかアンチマギアで無効化できないバリアで弾かれてしまっていた。

アフリカやブラジルでも空港が攻撃されたものの、市街地には特に被害が出ていなかった。そのため避難勧告とはいえ都市部にいる住民は外出禁止という処置がとられていた。

アフリカの魔法少女達が特に群がったのは宝石が採掘できる鉱山で、そこで働いていた鉱山夫達は皆逃げ出してしまった。

中華民国は国連指揮下ということもあり多国籍軍状態で魔法少女達に対抗していた。
空港や港は一般人が使える状態ではなくなり、アンチマギア生産施設も攻撃を受けていた。

指揮は中華民国の兵士が実施しているものの、多国籍軍の統率はとれているとは言えないものだった。各々が思い通りに動いた結果、偶然魔法少女達を抑えられているという状態だ。

そんな中で中華民国にとって特に厄介なのはインドから流れてくるサピエンス反対派だった。

人口総人数第一位になっているインドでは、仏教を侮辱しているとしてサピエンス反対派が魔法少女達と協力してサピエンス本部へつながる同線を作ろうとしていた。

インドの空港は魔法少女達を運ぶためとして破壊よりも占領が優先され、同時進行で中華民国へと攻め込んでいた。中華民国へ不満を持っていた周辺国はこれに便乗して戦いに参加している場所もあった。
インド政府はこれらの動きを黙認し、この戦いが終わった後のことしか考えていなかった。

オーストラリアでは魔法少女達が使っていた造船所を調査されていたものの、施設に踏み入れようとした瞬間に施設は自爆してしまった。

そんな経緯があり、もう魔法少女はいないと思われた中で魔法少女達はシドニーに現れた。

しかし人員が少ないのかまだ無事な空港は存在した。

空港は使えるもののオーストラリア側の難民受け入れ体制が整っておらず、オーストラリアに入ってくる航空機はない。

そんな世界中が混乱している中、カリフォルニア沖では神浜から出発した船団を目視できていた。

サピエンス本部では海岸線がすでに魔法少女に占領されていた様子を嘆いていた。

「ほんと結果を見ると情けないわね。対抗策は用意できるのにあっさり制圧されるなんて」

「テロリストの首領を討てば少しは変わると思ったが、びくともしないか」

私たちが魔法少女を利用するのと同じことをあいつらもやったってことよ。

来てしまうのは仕方がないわ。

大型波動砲「レミング」を前進させておきなさい」

「レディ、再確認を実施しましたが海岸線に移動に使用すると思われる車両が見当たりません」

「あいつら、地上は歩きで移動する気か」

イザベラは魔法少女達が使う船のデータを思い出していた。

その中でも大波の中その船だけびくともしなかったというデータを思い出した時に閃いた。

「まさか…」

「どうしたイザベラ」

イザベラの変化に気づいたキアラが声をかけた。

イザベラはキアラの反応を気にすることなく米軍司令部に通信を繋げた。

「カリフォルニア州に出せる対空ドローンはある?」

米軍司令部は突然通信が繋がって驚いていた。

「対空だと?対地ではなくか」

「対空だと言ってるでしょ!出せるなら出しなさい!あいつらを無傷で通すことになるわよ!」

そんなやりとりをしていると魔法少女の船団は勢いを落とすことなく進み続け、そして陸が目の前に迫ると船全ての船体が浮かび上がって空を航行し始めた。

その様子を見た米軍の兵は驚くしかなかった。

「なん、だと」

「レディが何を危惧したかわかった。まったく、出鱈目がすぎるぞ!」

米軍は半信半疑だった対空ドローンの用意を急いだ。

サピエンス本部では皆冷静に次のための備えに動いていた。

あんなことされたら次は地中からドリルでこられても驚きもしないが」

「地中では何も起きていないことは確認できているからいいのよ。地下道を掘られていたらいやでも振動計器が反応するはずよ。

問題は大西洋側。

奴らが大きな物体を浮かべる技術を身につけているならば」

「反対側でもやられておかしくないか。

だが不審な影も白波も確認できない。空を飛んできていた場合でも流石に対処のしようがない」

「いい状況ではないわね。

レミングは中心にいる船に照準を当てたまま前進。護衛には死んでも波動砲は守りなさいと伝えなさい」

魔法少女達の船団は飛んでくるドローンを対空砲や甲板にいる魔法少女、そして地上にいる魔法少女達が対応して、無傷でサピエンス本部へと近づいていった。

米軍がやっと増援の対空砲やPACシリーズのミサイル装置を用意して迎撃を行っても、魔法少女の船は一緒にいるイージス艦含めてシールドを張っており、それらを受け付けなかった。
魔法少女の船は魚雷を地上へ撃ち込み、米軍は一方的にやられていた。

「流石に弱すぎないかしら、人類」

イザベラの発言にダリウス将軍が反応した。

「イザベラがいなきゃ人類はこの程度だってことだ。数年じゃ対策なんてしようがないさ。

まだ動かさないのか」

「早すぎるわ。少なくとも悠々と飛んでいるあれを事前に落としてくれないと」

「とはいえこの様子だとコロラドまでは難なく素通りしてくるだろうな」

ダリウス将軍とイザベラが話しているとオペレーターが声をかけてきた。

「レディ、米軍司令部が話し合いを求めています」

「全部却下よ。好きなようにしていなさいと伝えなさい」

「りょ、了解」

「しつこく通知を送ってきても無視しておきなさい」

「やれやれ可哀想に」

「世界最強を目指した国が呆れるわ。私が伝えたことも半信半疑になってすぐ言うこと聞かないし。

自分たちだけで魔法少女くらい止めてみなさいよ」

魔法少女の船団がコロラド州に入り始めた頃、米軍は市街地に戦車を並べて兵士の一部には衝撃砲が配られていた。

その部隊へ地上を移動している魔法少女達が攻撃を加えはじめた。

人の大きさを相手するのに戦車は不向きで、魔法少女の集団へ一発撃ち込むと魔法少女に詰め寄られて主砲どころか車体もすぐに破壊されてしまった。

随伴歩兵は獣の姿をした魔法少女集団に次々と切り裂かれており、戦車を守れる状態ではなかった。

「調子に乗るんじゃない!」

そう言って衝撃砲が1発放たれてやっと魔法少女達に被害が出た。

猫のような姿をした魔法少女の1人が衝撃砲に巻き込まれて建物に叩きつけられ、建物の壁には叩きつけられた魔法少女を中心に放射状の血の跡がついた。

「よし、効いてる!」

「もう一発どうだ!」

そう言ってもう1人が建物へ叩きつけられた魔法少女へ衝撃砲を放つと魔法少女の体は圧力で潰れてその場には肉片と血が飛び散った。

「効果ありです!」

「連射はできない。敵の動揺を突いてやれ!」

銃での追撃では魔法少女を倒せなかったものの、魔法少女達は瓦礫に身を潜めて前に出てこなくなった。

しかしその上空を魔法少女達の船団は通り抜けていく。

サピエンス本部には前線で少しは成果があったことが報告された。

「やっと敵が乱れ出したか。

魔法少女の捕虜達を解き放ちなさい。予定通りカンザスあたりでいい感じに混ざってくれるはずよ」

「気乗りはしないがな」

「内部で暴れられるよりはマシよ」

「レディ、前線で魔女が大量発生中との報告!一部は民間人の避難地近くへ向かっています」

「魔女化には早いわ。奴らが解き放ったやつでしょうけどサピエンスの兵士たちは予定タイミングまで動かさないで。

魔法少女狩りの名残で魔女対策の武器くらいなら一般兵には配られてる。米軍司令部へはお前達で対処しろと伝えなさい」

そんなサピエンスの判断を受けて米軍司令部は激怒していた。

「あいつら!この国を守る気あるのか!」

「今のところ何もしていないですよ」

「レディめ、この国が滅ぶまで静観する気じゃないだろうな。

仕方がない!我々は魔法少女よりも魔女へ対処する。前線へそう伝えろ!」

指示を受けた軍人達はマガジンを魔女用に切り替えて魔女の結界へ突入していった。

そうすると前線に穴が開くのは当然で、魔法少女達の船団はその場を通り過ぎていった。

カンザス州も通り過ぎようという頃、ヨーロッパから連絡が入った。その内容をオペレーターが報告した。

「レディ!フランスのアンチマギア生産施設が破壊されました」

「ことごとく信用を落としていく地域ね全く。

防衛目標がなくなっても潜伏した部隊は合図があれば襲撃してもらうからね」

「それなら何を目的に戦うことになるんだ」

「事前会議で伝えた通りよ。奴らを追い込むことに意味がある」

世界中で戦いが始まって1日が経過した。

中東で政府や秩序は失われ、ブラジルやアフリカでは軍事施設も破壊されたものの、市街地は無事なままだった。

他の主要な国も襲われているのは軍事関係の施設であって、魔法少女達は一般人に被害を出そうとはしていなかった。

しかし魔法少女に便乗した武装集団の中には、特定の人種の虐待行為を開始するものも現れており、魔法少女以外の武装集団へ対策しなければいけないことには変わりなかった。むしろ一般兵は魔法少女よりも人間の武装集団を鎮圧するために人員が回されるようになっていて、魔法少女を相手にする軍人は少なくなっていた。

短期間で魔法少女の思い通りになっている世界の様子を見てダリウス将軍は嘆いた。

「こうも簡単に世界はめちゃくちゃにされるものなのだな」

その呟きにハリーと呼ばれる観測士が答えた。

「それにしても魔法少女達は統率が取られすぎている気がします。こちらの情報が筒抜けというのも事実かのようにものとしませんし

そのためにイザベラが通信装置を使わず下準備を進めているんだ。

直近だとレミングが要だ。レミングはどこまで動かせた」

「現在バージニアをでてケンタッキーを移動中です。

まだ射程には捉えられません」

「バージニアを抜けられたのであれば十分だ。

確実に中央の船を狙え。何発も撃てるものではないからな」

一方、キアラは部屋の中で落ち込んでいた。その部屋へイザベラが入るとキアラはなんでもなかったかのように出迎えた。

「どうした、司令室にいなくていいのか」

「将軍がいるし、しばらくは大丈夫よ。

それにしても日本人の悪い癖ね。言いたいことがあればはっきり言いなさい」

「…別に何もないさ」

「まだロバート達のことを引きずっているの?彼らは人類を守ろうと行動している我々への反逆よ。

いかなる理由があろうと政府に対するテロ行為は罰しなければならない。

それが武力を持つ我々ができる守という行為よ」

「ロバート達を言葉で説得することはできなかったのだろうか」

「仲良くしようと説得しても相手が殺してやるとしか言わなかったら、会話にすらならないじゃない?

そんな奴らに説得なんて必要かしら?」

「わかってはいるさ。何を言おうと平和的に生きられない奴らがいることなんて。

そんな現状を変えることはできないのか」

「無理ね。

人類から感情を消そうと、欲を取り払おうと、相手の気持ちを完璧に理解することが不可能な人間にとって争いない世界の実現は無理な話。

今あなたとこうして言い争いが発生してしまっているようにね」

「・・・イザベラは人類を戦わせ続ける選択を取ったのか」

「私は父ほど優秀ではないわ。

だからこんな役割しか果たせない。ロバート達だって、考えた結果あの結末しか迎えられなかったのよ。

あなたがあそこで裏切ったとしても、私が殺していたでしょうし結末は変わらなかったわ」

キアラは何も答えなかった。

「キアラ、間違いなく魔法少女達はここに攻め込んでくるわ。そいつらを私は正面から迎え撃つ。
あなたはそんな覚悟で、正面から魔法少女達を切ることができるの?」

「余計な心配をさせてしまったようだね。
何の躊躇もなく敵を切り倒せる覚悟はできている」

「そう」

「それに簡単に死ぬわけにはいかないさ。どうせあれの準備を進めているのだろう?」

「・・・脅しじゃないけど、あなたがいなくなったら私の行動は早いわよ」

「十分脅しじゃないか。

まあわかっているさ。私はイザベラが危なっかしいからこうしてボディーガードをしているんだ

でもイザベラの命に変えても守るよ。それもボディーガードの務めだからね」

「キアラが死んだら意味がないじゃないの」

イザベラが部屋から出ていった後、キアラは施設の地下へと向かった。

地下の研究室にいるカルラをキアラは訪ねた。

カルラはディアのメンテナンスを行っていて、脳波検査をしていた。

キアラが来たことに気づいてカルラが話しかけてきた。

「ボディーガードナーが主人のそばを離れてはダメじゃないか」

「カルラ、聞きたいことがある」

「取り込み中だ。手短に済むなら構わん」

「魔法少女の奇跡は人為的に起こせるものなのか」

カルラはディアに被せていた装置を外した。そして測定結果と思われる画面に映った波形を見ながらカルラは語り出した。

「一つ実例があるから教えてあげよう。

とあるバカな錬金術師が自分を犠牲に奇跡を起こそうとした。でもその結果はお前達が探って回ったイタリアの猛毒地域を見た通りだ。
あそこは魔法少女の奇跡を人為的に起こそうとした成れの果てだ。

つまりそういうことだ。奇跡なんて狙って起こせるものではない」

「その錬金術師は、どんな奇跡を起こそうとしたんだ」

「知らないな。

私が受け取ったのは奴の遺書だけだ。だから奴が死んだということしか知らない」

「そうか。

変なことを聞きに来て悪かったね」

「別に変ではない。疑問を得て解消しようという動きは良いことだ。

今の状況ならそんな疑問を抱きたい気持ちもわかる」

「そう、ありがとう。おかげで覚悟が確実なものになったよ」

そう言ってキアラは部屋から出ていった。

キアラの足跡が聞こえなくなった頃、黙っていたディアがカルラへ話しかけた。

「らしくない回答だね。キアラが勘違いしちゃったじゃないか」

「らしくないっていうのはどういうことだ」

「バカな錬金術師というのがどんな奴だったのかは私は知らない。でも少なくとも私が知っているカルラは結果だけで失敗か否かを判断するやつではない。

その錬金術師は確かに死んだかもしれないが、それは過程で実は望んだ結論が導かれていたかもしれないんじゃないの?

なぜキアラに嘘をついた」

ディアは珍しく鋭い目つきでカルラをにらみつけた。

カルラは感情のない顔でディアの顔を見つめた後に話した。

あのバカが証明したかったことがなんなのかがはっきりしないというのは事実さ。
あいつは遠回しなやり方でもやることはいつでも正しかった。きっと死んだことに意味がある結論が出た結果なのだろうと思いたい私がいることも確かだ。

それに、真実をそのまま伝えて良いことと悪いことがある。

特に希望というものには期待を込めてはいけない。

キアラには最後まで従順な従者として生きてほしいからね、彼女の思い込んだ結果は私には望ましい結果だ」

「ひどいねカルラは」

「それよりも脳内情報のバックアップだが、やはり実施は無理なレベルだ。

記録をとった時の脳波情報は保存できても、それは一時的で断片的な記録だ。

今の技術レベルではディアの脳内情報や思考が全てコピーできるようなものではないようだ」

「うーん、そうなると脳みそだけ培養液の中に浮かべるしか方法はないか」

「感心しない結論だ。

身体の替が効いても脳本体の電源が切られたら全てが終わることに変わりはない」

「分身全てが私となることは未だに成功できていない。そうできればいいのに、本体となる体が必ず一つ必要なのが現状の問題でしょ」

「今回は8体同時だからな、情報過多で本体がイカれることは否定できない。でもやる気なのだろう?」

「もう時間がないし、仕方がないさ。強化した本体が耐えてくれることを願うよ」

そう言った後、ディアはカルラの手を握ってきた。

「カルラ、カルラはバカな錬金術師のように自分を犠牲にして仮説を証明したりしないよね?」

「そうだな。サピエンスが私だけになって責任とって首を切ることになれば死んで人類の負けを証明しないといけないかもね」

「ふざけたことを言うんじゃない。裏切るんだったら私にもちゃんと教えてよね」

「まあ・・・私はできる限り、人類を信じるさ。

今の人類に勝ち目なんてないとわかっていてもね」

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-3 終に向かい始める世界

日本から11隻の船が出航してから1日経過した頃の夜、突然世界中で敵襲のアラームが鳴り響いた。

そのアラームは魔法少女にもそうだが、テロリスト対策用のアラームも同時に鳴った。

その余りもの多さに監視部署は混乱してしまった。

「こんな一斉になんておかしいだろ!」

「誤報ではないのか?」

「すべて正常な動作です!

アンチマギア生産施設の有無問わずテロが発生しています」

ペンタゴンの監視部署ではマニュアルにもない非常事態でただ慌てるしかなかった。

サピエンス本部の司令室にも世界中でアラームが上がっている情報が入っていた。ダリウス将軍とその部下達はいつかは起こることを知っていたかのように冷静であった。

「情報収集に専念しろ。人間が混ざっているならどこの奴らなのかもわかるようにな。

一応聞いておくが、日本以外に落ち着いている土地はあるか」

「南極基地には出現していないようです。

あとはなぜかニュージーランドが安全地帯となっているようで」

「ニュージーランド?

魔法少女がいないだけかもしれないが、オーストラリアにはしっかり調査するよう伝えろ」

「了解!」

「将軍!米国とヨーロッパではキリスト教信者もサピエンス反対を掲げて攻撃活動に参加しているとの報告です」

「結局はイザベラの思い通りか。

米国内は一般人の避難を急げ!

特に敵とここを直線で繋げたライン上の住人は速やかにだ!」

「我々の兵は出しますか?」

「イザベラの話を聞いていないのか。

我々は最後まで兵は出さない。地元の兵士たちで回してもらう。

我々は情報収集に努めよ」

「了解!」

「将軍!」

「今度はなんだ」

「敵の狙いは海岸線と空港のようです」

「空港?日本のやり方で味を占めたか」

世界中の空港がテロリストや魔法少女達によって攻撃を受けていた

中でもハワイや米国のカリフォルニア沖は沿岸部分も攻撃され、事前に用意さていた対艦ミサイルシステムが次々と破壊されていた

「船の航行に妨げとなるものは全て排除しろ!
ここハワイは外部との動線を全て潰せ!」

指示をしている魔法少女に対してハワイにいる米国兵は銃を放つ。

魔法少女はすぐに反応して空気中の水分を凍らせて鋭い刃となったものが五月雨に兵士たちへ降り注ぐ。

そんな魔法少女達の攻撃に米国兵士たちは何もできなかった。

「魔法少女がまだ島にいるなんて聞いていないぞ!」

「サピエンスめ、とり逃しやがっていたな。

応援もよこさないし何やってるんだ!」

 

ヨーロッパにある空港では滑走路が攻撃されて飛行機が飛べない状態になったあと、魔法少女達は垂直離着陸機へ攻撃を開始した。

地元の兵士たちが迎撃に出たことで魔法少女には被害がない中、魔法少女に加担しているテロリストと兵士には死人が出始めるようになった。

一般兵には魔女対策用のアンチマギア装備以外は支給されていないため、魔法少女には蹂躙される形でやられていった。

ダリウス将軍が世界の様子をモニタリングしているとイザベラとキアラが司令室へ入ってきた。

「ハワイにも出たってどういうことよ。あそこの魔法少女勢力は一掃していたはずよ」

イザベラの問いには同じ指令室にいるオペレーターが答えた。

「地元情報によると水中から現れたとの報告です!」

「もうなんでもありね。国内はどうなっているの」

「各地の主要な空港が攻撃を受けています。

地方にある小さな場所はまだ生きていますが、いつまで無事でいられるか」

「我が国の軍は動いてるんでしょ。たまにはしっかり働かせないと」

「だがこれだけは伝えないといけないな」

そう言ってダリウス将軍がメインモニターの画像を切り替えると、そこにはテロリストを指揮しながらペンタゴンに迫るロバート達の姿が映し出された。

「ロバート達、なんで」

「あらあら、彼らは信頼できると言ったのは誰だったかしらね」

キアラが画面を見て固まっている中、イザベラがキアラの肩を叩いた。

ビクッとしたキアラの耳元でイザベラは呟いた。

「さあ、日本人であるあなたならどう落とし前をつけるか知っているでしょう。

まさかこの後に及んでまだ彼らを擁護するなんてこと、ないわよね」

周囲の空気は凍りついていた。

それはイザベラのキアラに対する態度だけではなく、イザベラの左手にナイフが見えていたからだ。

キアラは暫く目を瞑って、目を開けてから答えた。

「わかっている。

わかっているさ」

「そう?それなら頼んだわよ。あなたならあれくらいどうってことないだろうし」

キアラは悔しそうな顔をしながら司令室を出て行った。

ダリウス将軍はため息をひとつついた後にイザベラへ話しかけた。

「たった1人でいいのか。

責任を取らせるたって流石に1人は」

「いいえ十分よ。

何人を相手にしようと、勝って終わるようじゃないと私の従者は務まっていないわ。

ああそうそう、キアラを運ぶための自動運転設定した装甲車は一台用意してあげてね」

「無茶がすぎる」

「見ていればわかるわ。

ほら、世界のモニタリングを続けなさい。どのタイミングでアンチマギア生産施設が狙われるのかはわからないのだから」

ロバートなどの裏世界の住人達は魔法少女とともにペンタゴンへ向かうための活路を開いていた。

FBIも装甲車を出して動きを止めようとするものの、魔法製の武器や魔法によってあっさりと突破されてしまった。

「歯応えのない奴らばかりだな。まともな戦車くらい出てこないのか」

別の場所では爆発が起きて夜空が赤く照らされていた。

「おやっさん、早く前に進んで終わらせましょうよ」

「バカ言ってんじゃねぇ。俺たちはここで暴れればいいんだよ。

大事なのは他の奴らがやってんだからな」

「ロバート!ペンタゴンから来る車両ひとつ!」

「さあ、誰が乗っている」

車がロバート達の目の前を通り過ぎると同時に1人車両から飛び出してきた。

飛び出してきたのは戦闘服に着替えたキアラだった。

車はキアラを下ろした後に急いでその場を離れようとしたものの、スナイパーライフルで燃料タンクを撃ち抜かれて爆発してしまった

キアラの目の前に立っているのはロバートにマーニャ、5人の男達と3人の魔法少女だった。

他にも建物内に銃を持って数人は潜んでいる状況だった。

「たった1人でか。俺たちも舐められたものだな」

「…どうしてですか」

「ああん?」

「なぜこんなテロじみたようなことをしたのですか!

一般人は、関係ないのに」

キアラの問いにロバートとは違う男が答えた。

「前にも話しただろう。

俺たちはイザベラの、サピエンスのやり方が気に入らないんだ」

「テメェらを潰せるなら俺たちはマーニャに協力するし、見て見ぬ振りをする奴らや分らず屋にも、俺たちは喜んで銃を向けるのさ」

「キアラ、あなただってイザベラのやり方が間違っているくらいわかるでしょ

マーニャにもそう言われ、キアラは歯を食いしばりながら腰の刀に手を伸ばす。

「ええ。彼女のやり方は間違いなく不幸になる人々が増える。

だが、こうして一般人を巻き込むテロを行っているあなた達よりは良心的だ!」

「動かなきゃ世の中変わらないんだよ。

特に俺たちのような社会的弱者はこうやって派手に、そしてきにくわネェ奴をぶっ飛ばすしか変える方法がないんだよ」

「そうですか。

・・・

お覚悟を!」

目にとらえられないような速さでキアラはロバートへ切りかかったものの、ロバートが持っていた斧ですぐに防がれてしまった。

周囲から銃弾が飛んでくる中、右側建物付近にいる傭兵にキアラは接近して銃ごと右手を切り落としてしまった。

そのまま建物へ侵入し、建物内部に潜んでいた傭兵達を次々と斬っていった。

ロバートは建物内部へ入ろうとする傭兵達を止め、出入り口と上空を警戒するよう指示を出した。

建物の3階からは正面から叩き切られた死体が両断された銃とともに落ちてきた。

魔法少女対策がされているとはいえ鉄を容易く切れるなんて恐ろしいな、刀ってやつは」

「キアラの腕力がおかしいだけでしょ」

「お前さては刀をよく知らないな?」

建物内には魔法少女もいたものの、争う音はすぐに止んでしまった。

4階の窓から反対の建物にはグレネードが投げ込まれ、グレネードが弾けたと同時にキアラが反対の建物へ飛んで移った。

その飛び移る間に銃弾は飛んだものの服を貫通するだけでキアラ本体には当たらなかった。

決して傭兵達の射撃は下手ではなかったが、キアラが少し体を捻りながら飛び移ったためか体の軸を狙った弾は的を外していた。

飛び移った先の建物内にいた傭兵達はサブマシンガンで対抗したものの、刀で銃弾を防がれながらクナイで喉を貫かれていった。

建物内に生存者はいないと判断したロバートは背負っていたガトリングを取り出してキアラがいる建物に満遍なく撃ち込んだ。

上から下まで撃ち込まれ、強度を失った建物は隣の建物に寄りかかりながらロバート達とは反対側に崩れていった。

それでもいくつかの破片はロバート達の方にも飛んできて、ロバート以外はその場から逃げて距離を取った。

銃口が赤くなったガトリングが止まって辺りが土埃に包まれている中、周囲では何者かに次々と後退した傭兵達が殺されていった。

魔法少女はなんとか反応できて脇腹を通ろうとする刀を弾いていた

「ロバートこれじゃ逆効果だよ!」

マーニャにそう言われたロバートは斧を振り上げた。

「ごちゃごちゃうるさいんだよ!」

ロバートが斧を地面に叩きつけるとハンマーを打ちつけたのではないかと思うほどの衝撃波が発生して周囲の土埃は周囲から消えてしまった。

姿をあらわにしたキアラは傭兵の心臓を貫いているところだった。

心臓から刀を引き抜いて血を振り払った後にキアラは刀を一度鞘に納めた。

少しだけ動きを止めた後にキアラは背負っていたもう一本の刀を素早く抜いてロバートの脇をたたきつけた。

しかし装甲を破った後にゼリーの感触が伝わったらと思うと刀を動かせなくなった。

そんな焦ったキアラにロバートは斧の柄部分で殴ってきたがキアラは刀から手を離してその場から離れた。

「いったい何」

「教えるわけねぇだろ。

地獄で会うことがあればその時に教えてやるよ」

ロバートの後ろから傭兵達は銃を放ち始め、弾道を縫うように魔法少女達も迫ってきた。

キアラは再度腰の刀を取り出して弾を避けながら魔法少女の攻撃を弾いていった。

ロバートは脇に刀が刺さったまま斧をキアラに振りかぶってきた。

キアラはその衝撃で飛んできたコンクリートの破片で顔に切り傷がついてしまった。

キアラは一度瓦礫に隠れ、大回りでロバート達の後ろ側に回り込んでクナイで2人の喉を貫いた。

「ちくしょう、ちょこまかと」

あたりが再度静まり返ると突然闇から刀が飛んできて、そこにほとんどの人々が注目していた。

その隙にキアラがマーニャへ突撃してクナイを2本両肩に突き刺した。

それでもマーニャの腕は動いてキアラは振り払われた。

その勢いでキアラはロバートへ突撃し、糸で繋がっているのか、投げた刀は引き摺られてキアラに近付いていった。

キアラはロバートの左肩に体重をかけて飛び上がり、手元に戻ってきた刀で左側広頸筋あたりから心臓目掛けて突き刺した。

ロバートはぎこちなくなった動きでキアラを掴もうとするが、キアラはするりと突き刺した刀を抜いてロバートから離れた。

その様子を見て固まっていた傭兵を容赦なくキアラは首を切り落としてしまった。

「キアラ!」

マーニャは警棒のようなものの先端に電撃を発しながらキアラに殴りかかった。

しかし周囲では生き残りの傭兵と魔法少女がキアラの動きが止まるのを待っていた。

キアラは刀を空中に放り投げ、マーニャの攻撃を避けた後にロバートの遺体へと走った。

そして抜けかけになっていたロバートの脇へ刺さっていた刀を回収してマーニャ以外の魔法少女と傭兵へ切り掛かった。

もはや銃では動きを止めることはできず、引き金を引く手を切られた後に心臓を貫かれる、目を刀で斬られた後に正面から思い切り斬られたりとキアラのやりたい放題だった。

キアラが投げた刀が地面に突き刺さる頃には20人近くいた傭兵や魔法少女はマーニャしか生きていない状態となった。

「キアラは強いと思っていたけれど、敵わないねぇ」

「逃げずに挑んだことは評価します。

それが逃す理由にはなりません。

実験台にはされないようしっかり殺させてもらいます」

「気遣いのようでなっていない言い方だね。まあタダで死ぬ気はないよ。

クナイをアンチマギアにしなかったこと後悔しな!」

マーニャが三角形の石を使用したタリスマンを取り出すと、キアラの足が瞬時に岩で固められてしまった。

「すぐには解けないはずさ!」

動けないキアラに対してマーニャは紫色の汁が滴るナイフを突き刺そうとしてきた。

それはキアラの体の軸をとらえていてどう動こうとその刃が身体に刺さってしまう。

キアラは刀でマーニャのナイフを受け止めてしまった。一般人に魔法少女の腕力が受け止め切れるはずもなく、急所は避けられたものの右肩にナイフが刺さってしまった。

キアラはまだ動かすことができる左手に刀を持ってマーニャめがけて切りあげた。

それはマーニャのソウルジェムを両断し、マーニャは胸部分から血を出しながら倒れた。

ナイフの毒が体に行き渡り始めたのかキアラは意識が朦朧となり出した。

そんな中ナイフを抜き、地面に突き立ったアンチマギア製の刀を抜いて傷口に突き刺した。

それでも意識は回復せず、アンチマギア製の刀を刺したまま腰にかけていた応急処置用の注射を左腕に突き刺して注入した。

この注射は種類がある中でも解毒剤にあたるもので、毒ガスを吸ってしまった時等に対応できるよう用意されていた。

呼吸が苦しくなる中、注射を打ったことでやっと意識も呼吸も落ち着いてきた。

そしてやっと周囲を見渡す余裕が出た頃にイザベラから通信が入った。

「その周辺のテロリストは掃討できたみたいね。

お疲れ様。

迎えをよこすから少しだけ待っていてちょうだい」

そう言って通信は切れてしまった。

キアラは周囲を見渡すと見慣れた顔の死体が血を流して転がっていた。

「あなた達が、悪いんですからね・・・」

キアラは迎えが来るまでにその場で涙を流した。

キアラの戦いぶりを見ていたダリウス将軍はイザベラに話しかけた

「全滅させてしまったのは驚きだが、傷を負ったところを見ると少し無理をさせすぎたんじゃないか」

「無理も承知よ。こんないらない結果を招いたのはキアラが彼らを甘く見た結果よ」

「自業自得ってか。従者には優しくしてやれよ」

「うるさいわね。他の情けない結果をフォローすることに専念しなさい」

同時に世界中で発生していた空港や施設の襲撃は人間側は惨敗状態だった。

ほとんどの空港は使い物にならなくなり、小さな国は政治家が殺され始めていた。

「やはり一般兵器では歯が立たない。

衝撃砲くらいは軍へ提供してやったほうがいいんじゃないか。

これじゃ本命すら止められないぞ」

「情けないわね、手持ち用のものなら余裕があるかしら。
ちょっと生産工場がオーバーワークになるかもしれないけど」

そう言いながらモニターをいじってイザベラは衝撃砲の生産状況を確認した。

「やっぱり余分な数は生産できていないわね。

ハリー、奴らの船団はどの程度でカリフォルニア沖に来るかしら」

「現在の速度ですと、およそ17日と10時間ほどでカリフォルニア沖に姿を見せます」

「そう、一応猶予はあるわね」

そう言ってイザベラは衝撃砲の発注を32本分行った。

その様子を見ていたダリウス将軍はイザベラに尋ねた。

「あれには魔法石が必要じゃなかったか。

そんなに調達できるのか」

「カルラ達に任せるわ。

もともとあれは彼女達が自前で用意しているし」

「だったらカルラ達にも」

「伝えるわよ。確か今は中庭にいたかしら」

 

現在ペンタゴンの中庭だった場所には高いアンテナが建設最中である。

そんな建設最中のアンテナタワーを見上げながらカルラはタバコを吸っていた。

カルラの隣には研究員がいて資料片手にアンテナを見ていた。

「カルラ、いまいい?」

私がそう声をかけるとカルラは研究員へ私が来た方とは反対側へ行くよう指示し、研究員はその場からさった。

その後カルラはこっちを向いた。

「なんだ、アラームの件は落ち着いたのか」

「私がいようがいまいが変わらない状況にはなったわね。

んでお願いしたいことがあってきたのよ」

「願いね。

無茶振りには対応できないよ」

「衝撃砲を一般兵にも配りたいのよ。

32本分用意をお願い」

「…猶予は」

「12日よ。残り3日で本体と接続と動作テストしてそのまま現場へ直送って流れよ」

カルラはタバコを一度蒸すとアンテナを見上げながらイザベラと話を続けた。

「イザベラ、このアンテナをパラポラにしなかった理由はわかるか」

「何よいきなり。

日照権の問題でしょ。じゃないとこんな古典的な鉄骨を繋ぎ合わせたようなスカスカなツリー型になならないわよ」

「建設承認関係で伝えたと思うが、こいつは通常の電波以外にも魔法少女が使用しているテレパシーにも関与するため、しかも盗聴している輩に対抗するために必要と伝えた。

このタワーにはテレパシー受信および発信用の魔法石も使用されている」

「それはわかっているわよ」

「何を言いたいのかというと使いたい魔法石、つまり純度の高い魔法石は今目の前のタワーに使用した。

今から純度の高いものを用意するとなると、このアメリカ大陸に現存しているのかも怪しいため12日は確約できない。

最悪アフリカのダイアモンド鉱山に赴く必要もあるかもしれない」

「もうアメリカにある宝石では純度が悪いって言いたいの?」

お前なら持てばわかると思うが、一般人の純度がいいと魔法を感知できる人物の純度がいいは訳が違う。

内包している魔力量がアメリカにあるものは少ないのだよ。

今まではその中でもましなものを使ったまでさ」

「純度が悪いと変わるのは威力と電力貯蔵量かしら」

「発射にかかる充填速度にも関わる」

「理論はいいからできるかどうかを伝えなさいよ」

「ではお前の願いを叶えるために私からも要望を出させてもらう。

エメラルドかダイヤモンドの原石でもいい。

削った結果イザベラの親指程度の大きさの結晶になるものをお前が欲しがっていた要求数の4倍、128個を用意出来たらイザベラの要望を達成させると保証しよう」

「いいわ。5日で用意してあげる」

「助かるよ。こっちは製錬の準備を進めておくよ」

「言っておくけど原石でいいのよね!」

「別にいいが間に合うか怪しいな」

「わかったわよ削って渡せばいいんでしょ!」

イザベラは怒って建物の中に戻った。

中庭でそんなイザベラを見て笑顔だったのはカルラだけだった。

その様子を見ていた建設員達が言葉を交わした。

「レディと言い合える上に言いくるめるなんて」

「カルラさんも怖いよな」

「いやサピエンスのトップはみんなやばいし人外だって」

「あれらに歯向かう奴らは考え直したほうがいいぜまったく」

 

イザベラが室内に戻った頃、各国の空港は魔法少女に占領されつつあった。

「将軍、状況はどう?」

「空路はもう諦めるしかないレベルでやられているよ」

「一箇所10人も魔法少女はいないはずでしょ?」

「君の目線で考えるな。

銃があっても人間には反応速度の限界がある。マッケンジー達のように鍛えられた先鋭くらいじゃないと一対一でさえ務まらないさ」

「ちなみに一般人は」

「夜行便に乗っていた一般人が巻き込まれて全滅している。

空港勤務の従業員やパイロットも生存は絶望的だろう。

政府は行方不明者リストを作るのに一生懸命だ」

「無駄なことを」

「言ってやるな。わずかな希望に縋りたいものもいるが故の対応だ」

「希望ねぇ」

そう話しているとオペレーターから報告が上がってきました。

「レディ、キアラの収容完了。1時間後には本部に戻る予定です」

「わかったわ。

迎えの車を付け狙う者がいないかは見張っておきなさい」

「了解」

夜明け頃、世界の空路は壊滅して次は海路が狙われようとしていた。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-2 ずっと続くはずがない「いつもの」

朝日が頭を出した頃に資料の整理が終わり、整理した結果を簡潔な内容にして叔父の机の上へ置いて私達はサピエンス本部へと向かった。

サピエンス本部へ辿り着くとキアラが大きなあくびをした。

「徹夜だったものね。少し休んできたら?」

「いや、イザベラを守らないといけないし」

私達は地下の実戦観察室の前まで移動してそこで改めてキアラへ伝えた。

「ここにはカルラもディアもいるわ。心配せず休んでちょうだい」

「・・・それなら少し休ませてもらうよ」

そう言ってキアラは近くの仮眠室へ眠そうに歩いて行った。

私が実戦観察室へ入るとカルラとディア、研究員2名が頼みものを囲んで談話していた。

「予定通り完成したかしら」

「レディ、通常のアンチマギアよりも簡単に魔女を切れることまでは確認できています」

「でもやっぱこれの類似品量産は難しいわよ。

通常のアンチマギアを使った剣やナイフで十分な上にそれを洗練させたとなると倍どころじゃない。

完全にキアラ専用になるわ」

「ディア、別に構わないわ。

で、これはドッペルには有効なんでしょうね」

私が退治した際に奴らのドッペルはアンチマギアのシールドを貫通した上に銃弾も怯む程度だった。

単純に魔女と一緒ではないというのはわかったけど、ドッペルではなく魔女でしか判断できない今はなんとも言えないわ」

「何よ、全然検証できていないじゃないの」

ドッペルとの遭遇は神浜でしかできないことはわかっているだろう

試した際はディアが手に入れた魔力パターンを似せたシールドを切ったにすぎない。

品質にケチをつけたい気持ちもわかるが、魔力パターンはしっかり再現したつもりだ」

私は不機嫌な顔をカルラへ向けた。そんな私の顔を見てカルラは呆れた顔で言ってきた。

「奴らが何かしらの手でドッペルを出すことの警戒だろうが、ドッペルは魔法少女の本体さえどうにかしてしまえばいいことは、魔法少女同士の衝突時に観測できた結果だ。

牽制できるレベルなら十分じゃないか」

「キアラにはしっかり叩き切ってもらわないと困るわ。

それに、ドッペルの攻撃は一般人では耐えられないわ」

「あとはキアラがどこまでの装備を許容してくれるかだが」

「鎧武者になるのは、おそらく嫌がるでしょうね」

アンチマギアを染み込ませた軽装と洗脳防止用インカムで大丈夫でしょ。

いつもクノイチみたいに薄着だし」

「どうしても刀といえばサムライのスタイルに近くになるのだな」

「だって刀といえばそうでしょ」

3人の会話を2人の研究員は苦笑いしながら聞いていた。

カルラはしばらく私を見た後に話しかけてきた。

「そんなに不安ならば魔法石を使用した法衣を使ってみないか」

「何よそれ」

「一部の錬金術師しか知らない、魔法少女の真似事ができる装備品だよ。
体の周囲に魔力を纏って魔法少女と同じように武器を具現化させて魔女へ対抗していた。もちろん身体能力も底上げできる」

「何よそれ、私そんなの知らないんだけど」

「ディアにはいらないだろ。それに魔法少女の真似事で勝ってうれしいか?」

「いやまあつまんないけど」

「だからだよ。それで、イザベラはどうする」

「今の話聞いて魅力的だと思うわけがないでしょ。
魔法少女にヒトとして勝つからこそ意味があるのよ。魔法少女へ勝つために自分が魔法少女になっては意味がないわ。
法衣ってやつは却下よ」

「そうか、その返事を聞けて私はうれしいよ」

そういったカルラは少しご機嫌な表情をしていた。

「なによ、気持ち悪いわね」

そのあとはキュゥべえの状況を聞いたりしているとキアラが部屋に入ってきた。

「しっかり休んだか?」

「意識だけははっきりするようになったよ」

「体力もあるならこれを試してみなさい。

以前話していた新しい刀よ」

先ほどまで話題の中心にあった刀は赤紫色と青紫の光沢が混じっていて明らかに二つの成分が混ざっている見た目をしている。

「思ったよりも長いな。

帯刀程度を想像していたけど」

「距離感も大事だと言うことで通常サイズだ」

「確かドッペル特化だったか。

魔法少女とも魔女とも違った特性をしているんだっけ。

それにしてもやたらと重いな」

それにはアンチマギアを結晶化させたものもそうだが魔女特化の魔法石を練り込んだ層も打ち付けられている。

それらは反発しあって効果が薄れてしまうため絶縁材料として純粋な銑鉄だけの素材を挟んだ層も打ち込まれている。

だから嫌でも重くなってしまったらしい」

「とはいえ重心は前気味なのか。

切れ味ではなく重さで叩き切る印象か」

「まあまずは試してくれ。部屋にはダミーを置いてある」

実戦観察室からはたくさんの魔法少女が使われる実験を眺めてきた

見下ろし方で実践室をみられるこの部屋から、キアラの試し切りを観察していた。

ダミーにはドッペルに似せた魔力パターンでシールドを張ったものがあったようでシールドの破損具合を計測していた。

キアラが振り下ろすとシールドは切り裂かれるという表現より叩き割るという表現が正しいエフェクトを発した。
刀はそのまま床にたたきつけられ、その床はへこむだけだった。

「前回実験時よりも破られる速度が速いです。

同じ刀を使ったのに」

使い方を知っているものとそうではないものでは結果の質も違うってことさ」

「これならドッペルも大丈夫でしょ」

私は床がへこむだけの結果に少し違和感を覚えた。

「ちょっと、あれ刃物というより鈍器じゃない?」

「その表現が正しいかもしれないな」

「不安しか残らない言い方やめてよね。ドッペルじゃないものに対してはどうなのよ」

「まさに鈍器さ。刀と言えるほどの切れ味はなく、質量で切り裂く。
鋼鉄は打ち破れたが、その後は潰してできた穴という感じだったよ」

「作り直させたいわね。イメージと全然違うわ」

「ならばもっとデータが必要だ。ドッペルと何体も戦うようになるような規模のね」

「もうそんな機会はないわよ。
神浜以外でドッペルが扱えない、そんな状態から変わらなければいいけど」

私は部屋を出て実践室前にある準備室でカラーガンと木刀を持ってダミーが倒れてスッキリした実践室へ入った。

「イザベラ、いきなり入ってきてどうした」

私はキアラに木刀を投げてキアラは反射的に木刀を受け取った。

「私の鬱憤晴らしに付き合いなさい。

久々に模擬戦しましょう?」

「まったく、上でなにがあったんだ」

キアラが新しい刀を納刀すると私はカラーガンでキアラの足を狙った。

キアラはローリングで避けて走って距離を詰めてきた。

キアラが足をつけるであろう場所へ撃ち込んでもキアラはすぐにコースを変えて距離を詰めてくる。

ついにキアラは木刀で私の脇腹を狙ったが私はカラーガンについた湾曲ナイフで防いだ。

サピエンスが使用する拳銃、サブマシンガンには標準でトリガー部分を囲うように、そして銃口の下側から突き出るように刃物が設置されている。

練習用は切れ味が存在しないが、実践用は軍用繊維ならば貫通できる切れ味がある。

キアラはつばぜり合うことなくするりと木刀を滑らせて、前のめりになって左手で私が銃を持つ左手を掴み、全体重をかけてきた。

するとキアラは勢いに任せて体を浮かび上がらせ、私の右肩と首の間へ木刀を差し込もうとした。

私は右袖に隠し持っていた練習用ナイフを取り出してキアラめがけて差し込んだ。

キアラも予想はしていたようで木刀でナイフを弾くとそのまま地面へ降りた。

降りた瞬間に私はカラーガンを撃ち込んだが射線に木刀を添えて飛び出た弾薬を弾きながらこちらの隙を狙っていた。

弾が切れる頃、右手のナイフを投げて腰につけていたもう一つのカラーガンを取り出してキアラに対して弾幕を張った。

撃ち切った左手のカラーガンはリロードせず腰にかけた。

キアラは弾道が見えているのかというレベルで移動先を変更し、時々弾丸を弾きながら距離を詰めてきた。

右側のカラーガンも弾が切れるとキアラは私にめがけて木刀を投げてきた。

私がそれを避けた方向にキアラはクナイを模したナイフを投げ込んできた。

私はカラーガンでそれらを弾くと右足首目掛けてキアラは蹴り込んできた。

いよいよ私は対応できず足払いされた状態となってその場に倒れ込んだ。

するとナイフで首元を狙ってきたが、左の袖に潜めていたナイフで逆にキアラの首元を狙うとキアラはすぐにローリングで避けた。

キアラが避けた方向には投げた木刀が転がっていて、キアラは流れで回収した

私が体制を整えると左手にもカラーガンを持ってカラーガンのナイフ部分でキアラに斬りかかった。

両手から刺し攻撃が飛んできて、キアラは弾くことなく避けるしかなかった。

私がクロスを描くように切り下ろし、さらに切り上げるとキアラは勢いで少し後ろに飛ばされた。

着地した頃に左のカラーガンをキアラに突き刺すと、キアラはナイフ部分を防ごうとする動きしかしなかった。

私は勝ちを確信し、右側のトリガーを引いた。

私がカラーガンを2丁しか持っていないとは言っていない。

私が左に持ち直したのは3丁目。

キアラは何もできず体でカラー弾丸を受け止めるしかなかった。

キアラの服は赤紫色で染まっていき、力が抜けたかのように座り込んでしまった。

そんな様子を見ていた研究員たちがこんな言葉をこぼした。

「あの2人の戦いは人の域を超えていますよ」

「片方は純粋な人間だけどな」

「絶対普通じゃないですって」

そこにカルラが会話に入った。

「キアラだって最初から銃に慣れていたわけではない。

訓練を重ねた結果であれだ。

動体視力が良いという下積みは影響しているだろうが成長の結果だ

そんなキアラさんに対応できて勝ってしまうイザベラさんはもっと怖いですよ」

「あいつはずる賢いだけだ。

全く同じ条件下ならば少し強いくらいで対抗はできる」

「本当ですか?」

そう話している中、私とキアラは実践室を出た。

これらは何気ない日常の一幕。

叔父の資料処理を手伝い、サピエンスに関わる仕事を処理する。

こんな特別変わったことをしているわけでもない日々に魔法少女たちの襲撃の日が迫っているのは確か。

 

そんな私を叔父は久々にディナーを共にしないかと言ってきた。

いつもは家族一緒だったはず。

ディナーは叔父が最近見つけたという店で個室で2人きりの食事になると言う。

時々給仕が入ってくる程度で外部へ情報を漏らさないとお墨付きらしい。

正直不安しかない。

そんな中食事が始まり、最初は他愛もない会話であった。

政治的な会話もなしに、世界情勢の愚痴を一方的に叔父から聞くこととなった。

その後に叔父の家族の話になったのだが。

「イザベラ、実は私に息子と娘が産まれそうなんだ」

「性違いの双子ですか。それはおめでとうございます」

「嫁が苦労しないように少し早めに仕事を切り上げるか、出勤できない日が発生するのは許してほしい」

「構いませんよ。家族第一と言ったのは私ですから」

「イザベラ、君も一般的な幸せを満喫してみないか」

私は手の動きを止めて叔父を見た。

「君はまだ若い。素敵なフィアンセを見つけて共に幸せな生活を送るようにしてもいいんじゃないか」

「いいですか叔父様、私の普通の生活は父親が消された瞬間から崩壊しました。

父親が生きている世界でならば普通の生活を送ろうとしたでしょう

でも今は全くそんな気は起きませんね」

「…

イザベラ、君はこの世界を今後どうしたいのだ」

「どうというのは」

「戦いを絶やさないようにすると言ったが、君が生きている限りずっと続ける気か?」

「そういえば私が死んだあとはどうしましょうかね。

サピエンス残党ってことでカルラにやってもらおうかしら」

「死ぬまでやることに変わりはないのか」

「言ったじゃないですか、人類は争わなければ衰退するだけです。

争いの手を止めないために私は必要悪になるというのですよ」

「くどいかもしれないが、考え直してくれないか」

出された皿の食事を終え、口元を拭いたイザベラは叔父の顔を見て答えた。

「ないですよ。考え直すなんて。

でも叔父様のお子様には被害が及ばないようしっかり配慮しますよ

仮に政治家にならなかった場合は、保証できないかもですが」

叔父は何も言えなかった。

「お仕事のお話はまた明日で。

ブラジル訪問の事後処理などありますから。

お代はここから出してください」

イザベラは札束を置いてその場を後にした。

「あれでは誰が言っても止まらないのだろうな。やはり依存した私のミスだったのか」

 

しばらく日々が経過し、その日は突然訪れた。

「日本から艦隊が出発しました!」

「今度は艦影が見えるでしょうね」

「はい。魔法少女産の船の両脇に5隻ずつのイージス艦 計11隻です」

衛生写真を見てダリウス将軍が呟いた。

「こんなに堂々としているとは、ここにくるまでにいくつか策がありそうだ」

「当然よ。

マッケンジー達にはしっかり待機場所へ行くように伝えておきなさい」

「了解」

「さて、今度はどう動いてくれるかしら」

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-1 団結できるという創作のまやかし

中華民国が支配者を失ってしばらく日付が経過した。

中華民国の政府が主張していた社会主義という考えは速やかに捨てられ、資本主義国として常任理事国の監視下で経済を回すようになった。
中華民国は常任理事国から外され、その空いた枠に別の国が入ることはなかった。
入ろうと目論む国はあるものの、空いた枠にどの国も入ることができない理由があった。

世界中では政府が推奨する少女へ行うキュゥべえを認知させないためのワクチン接種に対して、そのワクチンを打ってしまうとその少女は神や仏の声を聞けなくなるという噂が広まっていた。

その噂を耳にしたサピエンスはワクチン接種を妨害する組織は、反社会的組織として取り締まるとした。いくら名の知れた組織であったとしても。

これに黙っていられなかったのが宗教にお熱な集団だった。

イスラム教どころかキリスト教、仏教まで騒ぎ出した。

しかしそれは予定通り。

きっかけを作ることに成功した事で、サピエンスは宗教関係の組織排除も実施することとなった。

サピエンスは「宗教は魔法少女の妄言から始まった」とそれらしい理由をつけてあらゆる教会や寺院の破壊を独断で開始した。
サピエンスの隊員は躊躇すること無く行動に移してくれた。

これによって宗教に浸かった汚職議員が釣り上げられて次々とそんな議員をスキャンダルや暗殺で退場させていった。

もちろんここまで荒事をすれば大統領とサピエンスの独裁だと騒ぎ出す者も出てくる。

今は人間の間でも宗教派とサピエンス派で別れようとしている。
宗教派は魔法少女の脅威を思い知った者から見てみると「魔法少女に操られる哀れな者」と呼ばれ、神や仏を信じて現実を考慮しない者達はサピエンス派を「神を信じれぬ異端者」と罵り合う。
国連はアンチマギアの取引やそれにかかる条例改正によってほぼサピエンスの息がかかった集団と化していて、宗教にお熱な国は常任理事国へ選ばれるはずがなかった。

さて、果たしてこんなことになってしまう人類を救いたいと思える者はいるだろうか?
「だとしても」と人類を救おうと思える者は、事実を直視できていない愚か者か脳死の自称ヒーローくらいだろう。

そんな話を、私は目の前にいる叔父へ話した。

叔父はアメリカ合衆国内で破壊された教会の数についての報告書を見下ろしながら頭を抱えていた。

「イザベラ、この結果になるのは君の狙い通りなのか」

「私達は噂を流した程度です。

神や仏なんて見えなければ聞こえるものでもない。

信じるか信じないか。

元はそれだけだったものが無意味な噂だけでここまでになってしまうのです。

虚しいと思いませんか?」

「いいかイザベラ。

世の中には心の拠り所として宗教を活用するもの達がいる。

その多くは死後の心配や今体験している罪の心配だ。

現世で苦しいのは試練で、キリストの教えを守り、祈り続ければ必ず救われると。

そういうものがなければ心が潰れてしまうのだよ」

「父にもよく言われましたよ」

「ならわかるだろう?」

「わかりません」

「なぜだ。私はキリシタンだが今は中立的な意見を君に伝えたんだ。

宗教を扱って争いを起こそうなんて間違っている!どれだけの人々が苦しむと思っている」

「いいですか叔父様。

我々人間は争い続けなければ気が済まない生物なのです。

何事にも悪者を作って、それを退治するような動きを作らなければ人類史は衰退する一方なのですよ。

楽園実験というものをご存知ですか?

あれでもそう言った結果が証明されています」

「だからと言ってわざわざ宗教を引き合いに出す必要はないだろ」

「必要なことです。

今こうしている間に魔法少女達は隙だと察知して準備を早めているはず」

「・・・イザベラ、私には君が何をしたいのかがわからない」

殺意むき出しの魔法少女を目の前に宗教派はどういった行動をするのでしょうね。

人間側、魔法少女側どっちにつくのか」

「イザベラ、そういう考えはやめなさい」

「目を逸らさずちゃんと直視してください。人間はそんなものですよ」

イザベラは叔父の後ろに移動して話を続けた。

「今の私の行いを見たら、父は当然怒りをあらわにするでしょうね。
でも私は父が目指した場所とは逆の道を歩むことにしました。

父が歩もうとした道は叔父様が歩んでください。

私が、サピエンスが人類の憎まれ役となって人類の進化を躍進させましょう。

でもそれは魔法少女達を黙らせた後の話。

それまでは協力していきましょうね」

「・・・イザベラは映画を見ることはないか。
宇宙人のような地球外から来た脅威へ人類が団結して立ち向かうという物語を見たことはないか。
ああならないだろうかと希望を抱いてはくれないのか」

「無理ですね。宗教を禁止しようとしているだけで人類が分裂するなんて、その結果のどこに希望を見つけられますか。

人類の団結というのは創作のまやかしです。
結局は目先の利益ありきなんですよ。

故に私は人類になんて期待はしていません。叔父様とご家族は例外ですよ」

叔父は何も言わず黙り込んでしまった。

「では私は失礼します」

イザベラが部屋を出て行った後、ケーネスは首にかけているネックレスをつかみながらつぶやいた。

「チャールズ、シャル、君たちの娘は人類に絶望してしまったようだ。

私が彼女に頼らず人類の希望を見せられたら少しは変わったのだろうか。

いや、無理だ。誰も彼女には敵わない。

どうかこんな結果にしてしまったことを許してほしい。

私には、見守ることしかできない」

 

次の日、イザベラはグリーンベレーも使用している訓練所にいるマッケンジーのところへ向かった。

キアラがマッケンジーのいる場所を受付へ聞き、トレーニング室にいると教えてもらって2人はトレーニング室へと入った。

空気清浄が行われているトレーニング室でマッケンジーは上半身裸で筋肉を鍛えていた。

周囲には誰もいなかった。

せっかくの休暇なんだからこんなところに来てまで筋トレしなくてもいいのに」

マッケンジーはおもりを持ち上げて体をプルプルさせながら答えた。

「話があると呼びつけたのはお前だろ。

自宅になんて来てほしくないしな」

「そうかい」

マッケンジーはおもりを下ろして立ち上がった。

「待ってろ、少しシャワーを浴びてくる」

シャワーを浴びてしっかり上着を着たマッケンジーは机が一緒にある椅子へ座った。

「神浜では予想以上の被害が出たが、お前は神浜の連中以外も参入すると考えていなかったのか」

「考えてはいたわ。そのための外側に向けた自衛隊の配置よ。

でも海からミサイルに乗ってヨーロッパの魔法少女が乱入してくるなんて、普通の頭じゃ考えもつかないわ。

まあ、中華民国も協力的だったらもっとましな結果だったかもしれないわね」

「・・・E班には魔法少女との実戦経験のある者もいたのだがな。

ダリウスから事前にヨーロッパにいる魔法少女はヤバいとは聞いていたが、魔法少女をよく知る軍人上がりでも簡単に死んでしまうほどの相手だったとはな。

そんな連中がいても俺たちは帰ってこれたのだから、生き残った俺たちは十分に幸運だったのだろうな」

「自衛隊の協力もあったけどね。

脱出の段取りとしては十分だったでしょう?」

「そうだな。

元から脱出させる予定だったように周到だったがな。

どこまでがイザベラの思い通りだ」

「さあ、なんのことやら」

「・・・まあいい。

それで本題はなんだ。今更反省会だけの用ではないだろ」

「そうね。今後の活動について簡単に伝えに来たわ。いきなり伝えるよりは理解が早まるでしょ」

そう言ったあとイザベラはキアラに合図を出して、キアラは持ち歩いていたアタッシュケースから3枚程度のまとめられた資料をマッケンジーへ出した。

「サピエンス直属の部隊は本部を除いた3ヶ所のアンチマギア生産工場と米国前線の護衛に努めてもらうわ。

でも条件があって、指示があるまで息を潜めておくこと。何があってもね」

「狙いはなんだ」

「率直にいうと不意打ちね。

奴らと正面から戦ってボロボロになってもらうのは地元の一般軍人達。

多くの死者は出るでしょうね。

最悪は施設が破壊されて奴らが余韻に浸ったところを、襲撃して全滅してもらうのがサピエンス部隊の目的」

「犠牲ありきとはいつもの酷い作戦だ。

息を潜めるというのは方法はあるのか」

各施設近くには関係者を避難させるためのシェルターを建設したのだけれど、表向きには別業務優先のため建設計画中断としているわ。これは情報が魔法少女に筒抜けである事実を考慮した結果よ。

そこに潜んでちょうだい。

もちろん米国全線へ通じる地下通路も用意している。前線担当はそこに潜むことになるわ」

「奴らも使いそうだがな」

「だから隠れ方も気をつけてもらいたいわ。

区画地図にない部屋を各地に一箇所ずつ用意しているから、そこに隠れていれば見つかる確率は減るはずよ」

マッケンジーは話を聞きながら軽く資料を見てイザベラへ返事をした。

「お前らしい残酷な作戦だ。
一般軍人はただの時間稼ぎの役。
サピエンス部隊は絶望させるためのトリガー。
そして、いったいどれほどの魔法少女が…。

だがいつまで待つことになるんだ」

「いま神浜では日本の軍艦を集める動きがあるわ。その船団がペンタゴンへ辿り着くかその付近まで来たら合図でしょうね。

奴らは個々の力はあっても数は人類が圧倒的よ。

それを承知で奴らはちまちまとした方法よりもガツンとくる一撃にかけるはず。

最悪は核施設が狙われることも考えないといけないわ」

「奴らにそこまでの度胸があるかだが。

気は進まないが人類の未来がかかっているんだ。今回も前向きに参加するとしよう」

「助かるわ」

「部下達への褒美はしっかり用意しておけよ」

「もちろんよ。

そのおかげでこの休暇中に嫁や子どもとバカンスに行った奴もいるって話じゃない?」

「あああのバカか。

まあアイツらしいがな」

「2日後には業務再開だからそれまではしっかり休んでちょうだいね。

では失礼するわ」

 

私達はトレーニング施設を後にしてホワイトハウスへと向かった。

ホワイトハウスには住民との交流を終えた叔父が疲れた表情で椅子に座っていた。

その目の前にはたくさんの資料が積まれていた。

「今日も案件が多いようですね」

「ああまったくだ。街はキリスト教が禁止されてしまうのかと不安な声を出す住民が多かったよ」

「この国はキリシタンが多いですからね、無理もない話です。

それで、そんなキリシタンのために私を公の場に引き摺り出しますか?」

「冗談でもそんなことは言うんじゃない」

「でも国民からの信頼は命ですからね。

切り捨てるなら消す覚悟がいいですよ。絶対他の奴らが権利欲しさに宗教保守とかほざきますからね」

「人間の醜いところがよくわかるな。だが消せるわけがないだろ」

「ならば堅実に支持を集めましょう。

今度のブラジル訪問時にブラジルをもっと褒めて南米の指導者として後世に自信を持ってもらわないといけませんから」

「2日後だったか。

これまでのブラジルの成果は及第点ではあるが、まだマフィアには甘いようだ」

「マフィアに甘いだけまだいいですよ。そんなマフィア達には合法覚醒剤さえ作れればいくらでもキメていいことにして大金渡してるんですから」

「おかげで愉快犯達の割り出しはできたからいいがな。

やっぱり覚醒剤は」

禁止しても言うこと聞かないんですからビジネスにしてもらったほうが得ですよ。

今までの治安の悪さはなんでも覚醒剤でしたから」

「まったく。

ブラジルがやる気になっているのはとてもよいことだが、覚せい剤の合法化以外に黒人迫害の謝罪を白人が行うという取引材料もあったからじゃないかと思って悲しくなってしまうよ」

「謝罪以外もありますよ。

差別行為は犯罪になるようにして、過去の奴隷の印象を一切無くして同じ人間だという扱いになるよう取り決めることの約束も重要です。

中にはいきすぎた黒人優遇もありますからね。
まあ、全ては今までの白人たちがひどすぎたことが元凶ですが」

「まったく。ブラジルがうまく行ったら次はアフリカだな」

「いい発想力ですね。もちろんですよ」

そう話していると私と叔父の間へキアラが資料の山を持ってきた。

「とりあえず目についた急ぎの案件の資料をまとめてきました。

イザベラ、まだ山のようにあるから期日が近いものから渡していくよ」

「外部向きの案件をさらに優先して。

国内は後回しで」

「わかったよ」

私は目の前に積まれた資料に一つ一つ目を通して急ぎや不要な案件とわかるものは横にはじいて行った。

その中にはブラジル訪問に先駆ける案件も含まれていた。

「なんだこれ、ブルガリア産のコーヒー豆を米国優遇で取引できるよう根回しなんて。

こんなバカな話をする奴がまだいるのですか」

「誰だ、見せてくれ」

叔父が資料に目を通すと近くのコーヒーメーカーに目を移した後に答えた。

「こいつは普段は行儀はいいが、安くて上手いが売りなマウンテンネクストのCEOと繋がりがある奴だ。

ブラジル監視下になったブルガリア経済は南米だけのための資金となるが、以前まではマウンテンネクストに一部横流しされていた。

それがバレるのはやばいからやめて、その横流ししていた分を取引額減少で誤魔化したいのだろう」

「そんなの許可してはダメですよ。

南米の稼ぎは全て南米で消費してもらわないといけないです。

南米の稼ぎを別国が、ましてや米国が搾取してしまうのはもってのほかです」

「わかってるよ。

だがマウンテンネクストは米国内の経済を大きく回してくれる会社だ。

金の周りは悪くなるかもしれない」

「汚い金の根回しで生まれた流れなんていらないです。

潔く切り落として、失業者を見越し、土木建築に熱を入れておくべきです。

保留していた補修工事があったはず」

「日雇いか。

その場しのぎではあるが」

「失業するにはわけがあります。

何でもかんでも国が補助をすることはできないですよ。やりすぎると働く方が損になりますから」

「そうだな。

それは日本を見て思い知っているよ」

「ではこれはきっぱり断りを入れさせてもらいます」

このようにして私達は山のような資料を捌いて行ったが、叔父には途中で席を外して夕飯と就寝をとるよう伝えた。

そして深夜近くまで私とキアラで資料を捌いて行った。

これはよくある対応だ。

叔父には健康体で家族にも力を入れてもらわなければならない。くだらない資料に時間を使うのは私たちだけでいい。

叔父に見てもらわないといけないものがあったとしても私たちが処理してしまう。

ほとんどがそうしてしまっても問題ないものだ。

「イザベラ、本当にペーパーレスにしなくてよかったのか。

これらは突き返した後にシュレッダーにかけられるのだろう?

記録に残るようデジタルでも」

「キアラ、デジタルも便利だしこの程度の内容だけならそれでも問題ないわ。

でも中には2日後のブラジル訪問のような大統領の動向を察することができるものもある。

そういったものをデジタルの海に放り込むと何かの拍子にのぞき見られてロクな結果にならないこともある。

資料がある場所でしかわからないことができるから実物でのやり取りが大事なのよ」

「そんな単純な話かな」

「それに、デジタルにあるだけの情報はその保存先であるサーバが吹っ飛んだだけで復元不能になって消失するリスクがあるわ。
バックアップのためのバックアップとサーバを増やすだけでも大金がかかるだけ。

証拠品ありきの政治世界ではペーパーレスは難しいことなのよ」

「こんなにごみを出す結果も、あとのことを考えれば安いものとみえるか、か」

「ほら、終わらせないと睡眠時間がなくなるわよ」

私たちはせっせと中身を見て、そのほとんどをゴミ箱へ投げるという作業を続けた。

 

back:2-3-15

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-15 どの時間軸にもない澄んだ空

「リーダーを辞めるってどういうことですか!」

そう魔法少女達に言い詰められていたのは十七夜さんでした。

「そのままの意味だ。

魔法少女の間にリーダーという存在は不要な動きにある。いつまでも私が皆を仕切るというのは周囲に比べて不公正ではないか?」

「そうじゃないですよ、急になんでそんなことを言い出したんですかってことですよ」

「ふむ、ならば最初からそう言え。

私はサピエンス本部へ戦いに向かう。そのためだ」

「全然答えになっていないですよ。まさか1人だけで参加する気ですか」

「何を言っている?和泉十七夜は1人だけだ。それにリーダーはやめると言った。

私が決めたことだが、何か問題があるか?」

「えっと、もう少し周りの人が困っちゃうってこととかあると思うのですよ。

だって、行ったら生きて帰れないんですよね?」

十七夜さんは黙ってしまい、みんなに背を向けました。

「すまん、しばらく1人にしてくれ」

そう言って十七夜さんは港に向かって歩き始めました。

「十七夜さん!」

十七夜さんを追いかけようとした魔法少女へ飾利潤さんが止めに入ります。

「十七夜だって心の整理が必要だろうさ。1人にしてやれ」

そう言われて十七夜さんを追いかける魔法少女はいませんでした。

十七夜さんは夕陽が見える中、港の倉庫へ運び込まれるテレポーターを見ていました。

すると急にひなのさんが声をかけてきました。

「人も転送できるテレポーターだってさ。すごい奴らだよな」

十七夜さんが声がする方向を見るとそこにはひなのさんの他に令さんと郁美さんがいました。

「都、キミはサピエンス本部へ向かうのか?」

「ん?何言ってんだ行くわけないだろ。

先の戦いで大いに実感したからな。あたしじゃ足手纏いだよ。

それに、逝っちまうと悲しむ奴らが多くなっちまったからな。

それが理由だ」

「悲しむ者か。都にはそんな仲間がいるのだな」

「何言ってるんですか。あなたがいなくなって悲しむ人は大勢いるんですよ」

令さんがそう言った後、令さんは自身を指差しました。

「まずはここにね」

「クミもだよ」

「あたしだってお前がいなくなったら悲しいさ」

「お前達」

「・・・十七夜、なんで戦いに行こうと思ったのか教えてくれないか。お前のことだ、何か思うことがあったんだろう」

十七夜さんは少し考え、夕日に染まった空を見ながら話し始めます。

先の戦いで私は見慣れぬ魔法少女のソウルジェムが爆散する様を目の当たりにした。

その爆発に巻き込まれた者もいる。

あんな非人道なことを行えてしまうサピエンスを放っておくと、いつか我々もあれらと同じ道を辿ることになる。

あんな特攻兵のような扱いをする奴らを許すわけにはいかん。

戦いに赴き今後の脅威を排除する。

だからだ」

「そうか。目の前で爆発されたんだったな」

「みふゆさんはそれで参って寝込んじゃっていたね」

「お前の意思決定を否定する気はないが、これだけははっきり言っておく」

「・・・」

「十七夜、生きて帰る気がないなら行くな」

「それを判断するのは」

「難しいっていうなら行くな。魔法少女達が安全に暮らせる未来に自分を含めないのはなぜだ。

皆のためとか言っておいて自殺願望を満たすために行くだけならばただの迷惑だ。

やめろ」

「言わせておけば私を自殺志願者のように」

「ならなぜ言えない。

ただの強がりでも『生きて帰ってくる』となぜ口に出せないんだ」

十七夜さんは何も言えなくなり、黙ってしまいました。

「十七夜、私だって十七夜と親しくやってこれたかは自信がない。

でもだ、今は私たちしかいないんだ。

今なら心の内を打ち明けてくれてもいいんじゃないか?

そんなに私たちが信用できないか?」

十七夜さんは一度変身しようか悩みましたが、思いとどまって少しだけ泣きそうな顔になってひなのさん達に話しかけます。

「私は生きる意味を失ったような状態なのだよ。

かつては東側の扱いが西側と平等になるよう行動し続けた。その点では八雲とは最も意気投合していたといえよう。

だが、日継カレンが現れたことで東西の偏見という概念自体がねじ伏せられ、さらには八雲を追いやられてしまった。

この時点で私は生きる原動力となる動機を失っていた。

今まで生きているのは皆に頼られてしまっているという惰性からだ

日継カレンは私にとっては許し難い相手だ。

だがそれ以上に、サピエンスが人間と魔法少女の扱いを不平等にしようとしている。

ならば公平な関係の頃に戻るよう、サピエンスを倒すために行動を起こそうとするだろう。

しかしだ。

元々人間と魔法少女は公平であったか?

日継カレンたち海外の魔法少女達は人間社会崩壊を狙っている。

それも人間と魔法少女を不公平にする行為ではないか?

今まで公平さを重視してきた私の中に魔法少女優遇な世が望ましいと思う私がいるのだ。

都、観鳥、牧野、私はどう判断すべきなのだ」

ひなのさんは背伸びをして十七夜さんの右肩をポンポンと叩きました。

「よく話してくれたな。

一言言わせてもらうと、その公平さの考えは無視してみてもいいんじゃないか?」

「なんだと」

令さんは写真を一枚撮った後に十七夜さんへ話しかけます。

「十七夜さん、あなたには硬く考えてしまう癖がある。

だから自分のルールから外れることも許せないんだろうね。

でもね、私達は感情を持つ生き物だ。

たまには今見せてくれている表情のように、直感に従って行動してみたらどうですか?」

そう言って令さんはカメラで撮った画像を十七夜さんに見せます。

すると十七夜さんは軽く笑いました。

「私がこんな情けない顔をするなんてな」

十七夜さんが見ていたカメラを郁美さんが取り上げます。

「まあまあ、感情を持った生き物ならそういうことはありますって。

だから十七夜さん、今のお気持ちをどうぞ!」

十七夜さんは少し嬉しそうな顔をして答えました。

「私はサピエンスが許せん。

サピエンスを倒し、魔法少女の安寧を最優先としたい。

もちろんその中には私も含めてな」

「言えたじゃないか。

それなら私は何も言わん。しっかり倒して帰ってこいよ」

ひなのさんに続くように令さんと郁美さんも笑顔を見せます。

「3人ともに、感謝する」

十七夜さんは、最初の頃よりも覚悟を決めてサピエンス本部へ向かうことを決めました。

 

船で連れてきた他の地域の魔法少女達の受け入れが落ち着いた頃、私達もサピエンス本部へ向かうのか考えることにしました。

その話題を出すと欄さんは即答しました。

「あたしはパスだ。

もうサピエンスの件は大詰めなんだろ?あいつらだけでなんとかなるだろうし、面倒なだけだろうし降りさせてもらうよ」

すると近くにいた黒さんが口を挟みます。

「そう言ってマギウスの翼から速攻抜けてましたよね」

「あれはやばそうだからってのもあったけど、今回はただただ面倒そうだからだ」

「欄さん絶対活躍できるのに」

「そんなに行きたいなら黒がみんな連れて行けよ」

「なんでそうなるんですか!」

「まあ大人しく待っておこうや。

というわけだ、いいな夏目」

「はい。反論はありません。

無理なことでもいままで賛同してついてきてくれたことに感謝しています。ありがとうございました」

あんたについて行けばここで腐ってるよりは刺激を得られると思ってついて行っただけさ。

思った通り刺激的で楽しかったよ。

じゃあな、生きて帰ってきたらちゃんと土産話聞かせろよ」

「はい」

欄さん達を見送った後に次に話を聞いたのは氷室さんと那由多さんです。
お二人に話を聞くと先に口を開いたのは那由多さんでした。

「私は嫌ですよ。

北海道に連れて行かれた時も美味しいものが食べられると思ったのに、そんな暇なく殺し合いに巻き込まれるのですもの。

あんなものに参加するのはごめんですわ」

「私は那由多様についていくだけですので、私も不参加です」

「あら、私に合わせなくてもいいのですよ?」

「別にあなたに合わせなくても行く気はなかったですよ。

私は元々傍観者。主戦場に参加する気はないですよ」

「そ、そうですの」

「久しいですな、ラビ殿…」

声がした方には時女一族の子がいました。

「あなたは時女一族の」

「旭、新たな居場所を見つけられたようで何より」

「えっと、目的から外れて行動してしまい申し訳ない。

2人についても」

「いや、あの場にいないことは正解だった。

調整屋を庇わなかったとしても、その仲間として日継カレン達に蹂躙されただけだったでしょう。

あの場で生き残ってしまった私こそが罪ですよ」

「ラビさん、あの大怪我で帰ってきた日にそんなことがあったのですの?」

「那由多様はしばらく黙っててください」

「うぐっ」

「旭、湯国の出身者で集まる必要はもうないわ。

世界はすでに大きく動き出して最悪なシナリオを歩みながらも魔法少女だけで生きていける世の中へ動き出している。

私達はそれが【意思】によって邪魔されるか否かを見守るだけよ」

「そうでありますか」

「旭はどうするの?」

「時女一族が不安なので残るでありますよ。しばらくはちはる殿ひとりぼっちでありますからな。

皆が回復した後も共に歩もうと思うであります」

「そう、それはよかった」

「ラビ殿も居場所は見つけられているようでありますな」

「私が?どこに」

隣で那由多さんが胸を張っていました。

「ラビさんのそばには私がいますわ。悩んだらなんでも言ってください」

「那由多様に相談しても謎が深まるだけだと思います」

「そ、そんなことないですわ!」

「ありますよ。ふふっ」

「冗談を言い合える仲なら十分でありますな」

私はその場を後にして北海道から持ってきた軍艦の甲板にいるあやめちゃん達に話を聞きに行きました。

質問に答えたのは葉月さんでした。

「私たちの中で相談したんだけどね、悪いけど不参加ってことで」

「はい、全然問題ないですよ」

「かこは行くの?」

「私は行きますよ。結末をしっかり見届けないといけないから」

「なら、ならさ!」

このはさんがあやめちゃんを止めに入ります。

「あやめ、何があっても連れて行かないって言ったでしょ?

今まだでだって十分危なかったけど、次は海外だし生きて帰られる保証もないなんてところへは連れて行けません」

「うう、わかってるよ」

「絶対帰ってくるから、フェリシアちゃんと一緒に待ってて」

「おう、あいつにも久々に会わないとね」

葉月さんが少し真剣な顔で話しかけてきました。

「かこちゃん、日継カレンにこだわり続けるのはいいけどかこちゃん自身はそのままでいいの?」

「特に」

「かこちゃんがななか達を殺す原因を作ったことは、今後も背負っていくべき罪であることはわかっているよ。

でも今のかこちゃんは前とは違って倒すべき相手ばかり見つめている気がするんだ。

あの人のようにね」

「…否定はできないです」

「かこちゃんの人生はかこちゃんのものだと思うんだ。

自分が今後どうしていきたいかは、しっかり持っておいたほうがいいよ。

そうしないと、命が軽くなっちゃうからね」

「わかりました。忠告ありがとうございます。

自分のやりたいことをしっかり持っておきます。

あやめちゃん、フェリシアちゃんと3人でまた遊べるようにちゃんと帰ってくるからね」

「おうよ!絶対だよ!」

私がその場をさった後にこのはさん達が話を始めます。

「葉月、なんであんなことをわざわざ言ったの?」

「いやね、ななかも危なっかしさがあったから。

彼女の背中を参考に行動しているかこちゃんにも同じ危うさを感じられたのさ。

だからかな」

「まったく、お節介さんね」

 

次の日、港はテレポーターの起動する様子を見ようと多くの魔法少女が押しかけていました。

テレポーターは倉庫の外に出された状態でたくさんの線が倉庫内に伸びていました。

私とやちよさん、ういに灯花ちゃんにねむちゃん、ワルプルガさんとさつきさんが揃ってテレポーターを見にきていました。

「あのテレポーターに灯花ちゃんも関わったんだっけ?」

「そうだよ。魔法石の魔力制御と座標指定でちょっと助言をしてあげたんだ」

「すごいね!海外の子も助けちゃうなんて」

「天才だから当然だよ!」

「あの輪っかから人が出てくるんだよね?」

「そうだね。別のテレポーターと座標が共有されて空間がつながった状態になる

その境目となるあの輪の歪みで問題が発生しないかが注目すべきところだ」

テレポーターをいじっていた技術者さんが装置へ魔法石をはめるとテレポーターの輪っかは青白く光だし、輪っかの中にはブラックホールのような渦の模様が現れました。

「よし、あとはヨーロッパにつながるかだ」

「通過したら体が粒子になって消え去るかもね」

「こ、これからくぐる奴が目の前にいるのに不安になること言うなよ」

「えへへ、悪かったね」

技術者さん同士で冗談を言い合った後、その中の1人が覚悟を決めてテレポーターをくぐりました。

姿は消えてしまい、私達は無事に転送されたのかどうかわかりませんでした。

みんなが見守る中で灯花ちゃんはテレポーターに近づいていきました。

「ちょっと灯花ちゃん!」

灯花ちゃんはテレポーターの近くにあるモニターを見ていました。

「これなら大丈夫かな」

灯花ちゃんがそう言うとテレポーターからさっきの技術者さんが出てきました。

「よし、成功だ!」

周囲からは歓声が上がりました。

そしてすぐにテレポーターの向こう側から次々と魔法少女が出てきました。

私達はテレポーターから出てきた魔法少女達へテレパシーで話しかけました。

[神浜へようこそ!

徒歩での移動になりますが、魔法少女が集まって生活している場所があるのでそちらへ案内しますね]

「oh,Japanese magical girl using telepathy!」

「You too have to tell her by telepathy」

「oh! Sorry」

[ごめんごめん。神浜の皆さん、ちゃんと伝わったよ。

じゃあ日本の魔法少女さん、この後もたくさん来るから順次案内よろしく!]

海外の魔法少女達の案内は、協力してくれると申し出てくれた魔法少女達が受け持ってくれています。

「えっとまさら、テレパシーじゃないと通じないんだっけ」

「そう。でもいつも通りよ」

[はいはーい、皆さんしっかりついてきてくださいね!]

[持ちきれないほどの荷物がある方はいますか?

あるなら持つの手伝いますよ]

「この阿見莉愛が皆様をしっかりエスコートして差し上げるわ!」

「先輩、テレパシーじゃないと伝わらないですよ」

次々とテレポーターから魔法少女が出てくる中、魔力反応が少し違う子が混ざっていました。

「魔法少女ではない反応ね。何者かしら」

その反応が気になったのかさつきさんと、なぜかねむちゃんが変わった魔力反応がすると言ってその子の場所へと向かいました。

変わった反応を見せていた子は手には人形を持っていて、少し大きめなリュックを背負っていました。

「ちょっとあなたいいですか?」

「は、はい!」

「え?!日本人?!」

「わ、わたしはえっと」

私達は何かがあったと思ってさつきさん達のところへと向かいました。

「まあ日本語がわかる子が混じっていても不思議なことではない。

率直に聞かせてもらうよ。

君は“風の伝道師のウワサ”を連れているね?」

「それって、フゥちゃんのこと?」

[フゥちゃんとは偶然出会って、それから魔法少女の情報を集めてくれているよ]

「あれ?

いまあなたが話しました?」

[違うよ、これは腹話術。

直接話すのが苦手なかごめちゃんはこうやって私を通して話すことがあることが多いんだ]

「人形にしゃべってもらっている感じですか」

「ここで立ち話をするのは少し迷惑よ。落ち着いて話ができる場所へ移動しましょう」

やちよさんの提案で私達は南凪の公園で座って話を続けました。

「事情はだいたい把握した。

君が魔法少女達の声を受け取れるのは風の伝道師のウワサが拾っているからだろう。

その情報を集めて何に活用しているんだい?」

「魔法少女のことを多くの人に知って欲しいから、というのが目的で。

でも今は純粋に記録を残したいってだけ、です」

「あの米国大統領の演説とは関係がないのね?」

「関係ないですよ!あの時は私神浜市にいましたし」

「神浜で酷い状況を見た後に助けてもらったと思ったら、ホワイトハウスに監禁。

そこから攫われたかと思ったら保護されていた。

大変な日々だったね」

「そう、ですね。

大変でした」

「魔法少女の記録をしている子が来ていると聞いたのですが」

そう言って近づいてきたのはかこちゃんでした。

「いつのまに」

「記録はどこに残しているのですか?本に残しているのですか!」

「ファ、ファイルにまとめていて今は10冊に至りそうな勢いで」

「すごい数ね」

「その内容、見せてもらっていいですか!」

かこちゃんは久しく無邪気な顔を見せていました。いともはどこか恐ろしい表情をしているので。

「え、ええ?!」

困惑しているかごめちゃんの前にさつきさんが割って入ります。

「ダメです。まずはこの子が落ち着ける場所へ連れていくのが第一です」

「そうでしたね。すみません取り乱しました」

その後かこちゃんは港の方をしばらく見た後にかごめちゃんへ話しかけます。

「全てが落ち着いたらまた伺おうと思います。その時にはゆっくり記録を見せてくださいね」

「は、はい」

かこちゃんは港へと向かっていきました。

「そうか、いつ見てもらってもいいように整理しておかないとなぁ」

かごめちゃんはそうつぶやきました。

まあ今後のことはさつきさんが言った通り落ち着ける場所を確保してからだよ。

とはいえしばらくはテント暮らしだろうけど」

「そうですか」

私が周囲を見渡すと灯花ちゃんがいないことに気づきました。

「あれ、灯花ちゃんは?」

「話に飽きちゃったって言って港の方に行っちゃったよ」

「ええ、見てきた方がいいかな」

「きっとテレポーターを見に行ったんでしょ。他の魔法少女もいるし大丈夫よ」

私達はそのまま居住区となっている栄区へと向かいました。

 

港ではヨーロッパからテレポーターで来る魔法少女が落ち着いた後に、サピエンス本部へ向かうと手を挙げた魔法少女を試すための決闘がはじまっていました。

決闘中は魔法を使うことが可能で、その様子を船の甲板からカレンさんとジーナさんが眺めていました。

「あんな魔法使える状況で見定めて意味あんのか?」

あたし達では魔法を打ち消すシールドくらいしか用意できないし、守るばっかじゃつまらないってあいつが言って聞かなかった結果さ

「まあ最悪肉壁にはなるだろうけど」

「最悪な妥協案だな」

「あたしらですら生きて帰られるかわからないんだ。

イザベラと対峙した事はあったが、今じゃどんな化け物になっているのか」

「問題は従者の方もそうだろ?」

マーニャによると人間なのに魔法少女に楽に勝つヤバいやつって話だっけ。

なんだよ英雄クラスかよ」

「魔法少女に負けず劣らずの人間は過去にもいたし、おかしい話ではない」

「ぬわぁ?!」

目の前で繰り広げられていた決闘が終わった。

「また神浜側の負けか。

本当に大丈夫か?」

戦った者同士が少しだけ討論をした後、ヨーロッパの魔法少女は戦った神浜側の魔法少女を船へ招き入れた

「あれ、全員乗せちゃった」

「誰も止めないならキレやすいあいつらが妥協できたってことだ。気にする必要はないさ」

少ししてからジーナさんがカレンさんへ問いかけます。

「今回の戦い、バチカンの時以上になると思うか」

「人類が最終手段としてあれを持ち出すならば必然的にそうなるだろうさ」

「あの時お前たちは人類が終わるような状況に奇跡を見せた。だからミアラや私たちはお前たちの師匠が言った言葉を信じてここまでついてきた」

「『やっと見つけた奇跡の体現者。私の目に狂いはなかった。どうかこの世界を救ってくれ』だったか」

「そう言ってお前たちの師匠は死んでいった。
人類があれを使ったらバチカンで起こした奇跡以上の負担がお前たちにかかるんだろう?あのときだってソウルジェムにヒビが入るまでの負担だったのに」

「らしくないな。心配してくれるのか」

「お前を殺すことを生きがいにしてるやつらが困るって言いたいんだよ。
ちゃんと責任もって生きてくれよ」

「今は生きる理由があるんだ。簡単に死ぬ気はないよ」

「・・・前から行っている見つけた生きる理由ってなんだよ」

「誰が教えるかよ」

そう言ってカレンさんは空を眺めてこう言いました。

「あれから随分と遠いところまで来たものだ」

 

これからしばらくして、世界を巻きこむ魔法少女VS人類の大戦が始まる。

 

第三章:激闘と見せかけた神浜鎮圧作戦(ミスディレクション) 完

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-14 個人が尊重されるということ

これからこの世界では大きな戦いが始まるらしい。
その戦いに参加するのか、しないのか選べとミアラという魔法少女は言っていた。
本当ならばみんなに相談して決めるんだけど、今相談できる相手はいない。

みんな包帯が巻かれて息はしていても目を覚ましてはいない。

いろはちゃん達は説明した後に多くの魔法少女に囲まれて忙しそうだし。

私は考えがまとまらず、晴れた空の下で馴染みのある場所へと歩いた。

以前よりも周囲が少し荒れた道を辿っていると水徳寺に辿り着いていた。
あの戦いがあっても建物は壊れていなかった。

池の近くにあるベンチに座って一呼吸すると誰かが声をかけてきた。

「今時女一族で動けるのはあなただけですか?」

声のした方へ素早く振り向くとそこにはカレンさんがいた。

「カレンさんか。あの様子を間近で見ていたならわかるでしょ?

旭ちゃんは見つからないし、あんなこと言われても1人じゃ決められないよ」

カレンさんは私の隣に座って、両掌を前に出すとカレンさんの掌の上が輝きだした。

すると見慣れた剣の形になってカレンさんはそれを両手で持っていた。

「時女一族の剣!

でもそれを持って行ったのはピリカさんのはず」

するとカレンさんは笑顔を見せてから。

「あの時も気づいていないようですが、今あなたと話しているのはカレンではないですよ」

私は少し悩み、話し方がピリカさんに似ていることに気づいた。

「え、ピリカさん?

いやでも今目の前にいるのはカレンさんで」

「確かに今はカレンの体を借りている状態です。私の体はワルプルガを再臨させた際に失われました。

しかしソウルジェムが無事だったのでこうしてあなたとお話しできています」

ピリカさんは時女一族の剣へ目をやる。

これを静香さんから取り上げたのは聖遺物だからというだけではなく、この剣には信念を貫く力が宿っているからです。

あの時私達は神浜にいる魔法少女の心を折れる状態にする必要がありました。

だから取り上げたのですが、静香さんは考えを変えてくれなかったようですね」

「静香ちゃんは人間の愚かさは理解していたみたい。

でも、日の本を守ることは民を守ることっていう考えは変えられなかったみたい。

静香ちゃんのお母さんの影響もあるかもしれないけど」

「そうですか」

ピリカさんは私に時女一族の剣を渡してきた。

「本当は静香さんにお返しするものですが、今はあなたが適任だと判断してお返しします」

「そんな、私にはそれを持つ資格なんてないよ」

「資格とかいう問題ではありません。

この剣には歴代の時女一族の想いが込められています。静香さんの想いも少しは込められているはず。

静香さんとを繋ぐもの、お守りとして持ってはどうですか?

その影響で私たちを裏切られてしまっては困りますけどね」

「静香ちゃんの、想い」

私は時女一族の剣を受け取った。

それには確かに魔力を感じられ、その中には微かに静香ちゃんの魔力を感じた気がした。

急に私の中に静香ちゃんとの思い出が込み上げてきて私は泣き出してしまった。

わたしの頭をピリカさんが優しく撫で、私は促されるがままにカレンさんの胸で思いっきり泣いてしまった。

「ずっと押さえ込んでいたんですね。

今は強がりも必要ないです。気の済むまで思いを吐き出してください」

相談は周りの子にたくさんした。

それでも私にはみんなを率いていくんだという重圧があった。

こんな思いを静香ちゃんは1人で抱えていたのかと静香ちゃんを尊敬することもあった。

でもそんなことで心が潰れそうになることはなかった。

やっぱり一番心に来たのは静香ちゃんが死んでしまったこと。

あの爆発した瞬間、私の心が壊れなかったことが不思議なくらいの衝撃だった。

それから時間が経ってこうして大泣きしてしまったということは、気づかないうちに胸に押さえ込んでいたのかもしれない。

悲しむという感覚を。

しばらく大泣きしてしまい、気持ちが落ち着くと私はカレンさんから離れた。

「すみません、ありがとうございます」

「いえいえ。

それであなたにどうしたいのかと聞いた手前申し訳ないのですが、貴方はサピエンス本部へ連れて行けません」

「え、どうして」

「貴方では力不足です。

結果的にあなたは静香さんに勝つことができなかった。静香さんは並よりも少し上の実力者でしたが、彼女でギリギリ許されるか怪しいです。

そんな静香さんに勝てなかったあなたが生き残れるのかと言われたら、正直無理です」

「そうか…」

「でも神浜に残る魔法少女にも神浜を守るという役割と、魔法少女だけで生きていける術を探るという役割がしっかりあります。

そちらに注力してもらったほうがいいでしょう」

カレンさんは立ち上がって池の目の前まで歩き、振り向いてこう言いました。

「どうしても連れて行って欲しいのならば、明日船まで来てください。

そんな選択をしないことを、祈っています」

そう言ってカレンさんは高く飛び上がって水徳寺を後にした。

「わたしは…」

手元にある時女一族の剣を見つめながら、私は今後どうすべきか考えることにした。

私にできることは。

 

血の惨劇とは比べ物にならないほどの被害が出てしまった。

ごく一部の神浜に残っていた蛇の宮の子達以外の蛇の宮出身者は全滅、他にも少数の犠牲者が出てしまった。

みんなを殺した張本人はこの手で握りつぶせたものの、皆の怒りの矛先はサピエンスへ向いていた。

私の頭に響いていた二木市の魔法少女達の悲鳴はほぼ響かなくなり、感情の起伏がなくなりつつある感覚さえ覚え始めていた。
そのため神浜を発った時ほどサピエンスを滅ぼすという熱量はなかった。

私達は仲間の遺体を二木市から出る際に使用した列車近くへ集めていた。

遺体は棺桶に入れた後に土をかけて保存することにしている。ここではミイラ化させるほどの道具を揃えられないと判断したやむを得ない処置である。

神浜に放っておくとその辺の魔法少女が容赦なく炎の中へ放り込むか燃やしてしまう。

骨だけでもいいから、二木市へは返してあげたい。

そう思い、船から帰るまでの間に仲間たちは集められる限りの二木市の仲間たちの遺体を集めていた。

私も棺へ収める作業を手伝っていたのだけど、ひかるが声をかけてきた。

「結奈さんそういうのはひかる達がやるっすよ」

「気にしなくていいわ。

こうしていないと、落ち着かないのよ」

「そうっすか」

わたしとひかるはアオの棺桶の前にきた。

「アオさん、危なっかしい時もあったけど一緒にゲームしている時は楽しかったっすよ」

「そうね。あの子は心が弱い上に心の拠り所がゲームになっていたし、心を開く相手が少なかったわね。

私が聞けるようにしてあげるべきだったのだろうけど、叶わなかったわ。

全然ダメね」

「結奈さ、あんまり思い詰めないでよ」

そう言って近づいてきたのはさくやだった。

さくやは樹里の様子を見に行っていたはず。

「ありがとうさくや。樹里の様子はどうだったの」

「サピエンスがどうとか竜ヶ崎のメンバーと盛り上がっていたよ。

結奈、船で聞いた話ってのと関係してるの?」

「あなた達にも聞かせないといけないのだけれど、まずは仲間達の体が腐る前に棺へ入れる作業が先よ。

話してしまったら、それすら手につかなくなるだろうから」

二木市の魔法少女の分だけ棺へ納める作業が完了して私は改めてみんなを呼んで船で聞いた話を伝えた。

その結果は予想外だった。

神浜へ向かう前の二木市の様子とは違って騒ぎ出したのは少数だった。そのほとんどは初期の頃に二木市へ残っていたメンバーだった。

「サピエンスってやつを潰せば二木市に帰られるんだろ?

なら潰しに行くしかない!」

「死んだあいつのために倒しに行かないとね」

そうまわりが騒いでいる中、樹里は冷静だった。

その様子を見てらんかが樹里へ声をかけた。

「あんたみんな集めて言ったこと改めて伝えないの?」

その後に竜ヶ崎の魔法少女の1人が樹里へ話しかけた。

「樹里さん、あんなこと言われた後でも納得できないですよ!

私たちも一緒に」

「バカやろう!」

樹里の怒鳴りに周りが反応して静かになった。

「神浜にいた奴らならわかるはずだ。

サピエンスだかってやつは魔法少女を殺すプロだ。

人間たった1人潰すだけで樹里様と結奈が瀕死になったし挑んだやつに死人も出てる。

そんな奴らが大勢いるような場所に気軽に連れて行こうだなんて言えるかよ」

「あら、珍しく意見が合うわね。あなたにも少しは心境の変化があったのね」

「アオ達の末路を見れば樹里様の癇癪も嫌でもおさまるさ。

戦うことにワクワクもしねぇしよ」

私は武器を取り出して地面に叩きつけた。

「いいかしら。

樹里の言う通り、サピエンスの本部への殴り込みは神浜の魔法少女を潰そうって言った、かつての考えとは比べ物にならないほど慎重に考えてちょうだい。

控えめに言っても自ら死にに行き、地獄へ向かう覚悟がなければ神浜へ残ってちょうだい」

周囲は少しざわつき、竜ヶ崎の1人が名乗り出ました。

「私は死ぬ覚悟ができている。だから連れて行ってくれ!」

樹里はその子へ歩み寄り、胸ぐらを掴んでそのまま殴り飛ばした。

殴り飛ばされた子は受け身を取って口が切れて出た血を拭ってその場で立ち上がた。

「それぐらいじゃ折れない覚悟ですよ」

すると樹里はニヤリと笑った。

「いいだろう、そんなに死にてぇならついてきな!」

「はい!」

その様子を見て二木市の魔法少女達は次々と樹里へと群がった。

そんな中、樹里はらんかを見て伝えた。

「らんか、おまえは絶対連れて行けねぇから残れよ」

「何よ急に、言われなくても残る気だったわよ」

「ならいい。樹里様がいなくなった後を頼むやつがいなくなっちまうからな」

「急に怖いこと言わないでよ」

私はひかるにも残るよう伝えた。

それでも。

「結奈さんそんなこと言わないでくれっす。

ひかるは結奈さん無しでは生きて行けないことを知ってるはずっす

わたしはひかるの飽きやすい性格を思い出した。

願いで私に夢中になって今があるのに、私がいなくなったらそれは生き残れてもひかるにとっては幸せなのか。

「生きて帰られない覚悟があるかしら?」

「もちろんっす。なんなら結奈さんが死ぬくらいならひかるが庇って死ぬっす」

ならあなたも樹里に殴られて立ち上がる覚悟があるか試してきなさい」

「あ、あれやらないといけないんっすか」

「だって不公平でしょ」

私はさくやを探してさくやと面と向かって伝えた。

「らんかだけだと悪いけど不安だわ。さくや、あなたが残って他のメンバーの面倒を見てちょうだい」

「まあそういう結果になるよね。仕方がないね、私は残るよ」

「よろしくねぇ」

「でも結奈、これだけは約束して」

「…なにかしら」

「決して死にに行くことが目的ではないことを忘れないで。今の落ち着きすぎた結奈を見ていると不安で仕方がない。

生きて帰ってくることをゴールにして」

「努力するわ」

賑やかになっている樹里の方から声が聞こえてきた。

「おい!人数が多すぎるんだよ。

結奈も手伝ってくれよ」

「あら、それなら腕力がない代わりにこの金槌で度胸試ししてあげようかしら」

「結奈、冗談がすぎるよ」

こうして二木市の魔法少女達は樹里が殴り疲れるまで起き上がれる者と気絶したままの者を出しながら戦場に赴くメンバーが決まって行った。

 

神浜の魔法少女達はいろはから船での話を聞き、ほとんどの子は参加しようと言い出す子はいませんでした。

「戦いだなんて、神浜が襲われた時だって何もできなかったし」

「なんだったら魔法少女だけで生きる術を探るって方が楽しそう」

「戦いを止めるためには必要。でも絶対私では力になれない」

そう言った意見が出る中、まどかちゃん達も話を聞いていたのでどう判断するのか聞きに行きました。

そこには見慣れない小さな子がいました。まどかちゃん達があの時探してるって言っていた子かな。

「あれ、見慣れない子がいるわね」

「やちよさん、あの時探していた子ってこのなぎさちゃんなの」

「ほんと、あんな大変な時に迷子になるなんて」

「ごめんなさいなのです。

なぎさは怖くて陰に隠れていたのですよ。だからこうして無事なのです!」

「世話のかけるちみっこだね」

「突然いなくなるあんたにも言えるけどね」

そんな賑やかな見滝原の魔法少女達に今後どう行動するのか聞きました。

「私は戦いなんて嫌だから行きたくないなぁ」

「まどかが行かないなら私も行かないわ」

「他に行く奴らがいるんだろ?ならそいつらに任せたほうがいい」

「私もパスだね」

「まあこんな感じで、私達は神浜に残るわ」

「そうですか、わかりました」

話を聞いている中、なぎさちゃんがずっと私のことを見続けていたことが気になっていました。
なぎさちゃんの様子に気を取られている中、まどかちゃんが問いかけてきました。

「いろはちゃん達はどうするの?」

私達は話を伝えようということで頭がいっぱいで、自分たちがどうしようか話をしていませんでした。

私はやちよさんの方を向くとやちよさんが話し始めます。

誰がなんと言おうとみかづき荘のメンバーは神浜から離れることは許さないわ」

まあオレ達が動かなくても他の奴らがやっつけてくれるみたいだしな」

「無理していく必要はない!

私達は私たちだけで生きていくことを考えることに専念だ!」

「あら、頼もしいわね」

こうやって残ることに対して笑顔で話し合っている中、密かにサピエンス本部への攻撃に参加しようとする魔法少女もいました。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-13 最後の手引き先

神浜には久々に雨が降っていました。

神浜に撒かれたアンチマギアは雨に流されてやがて海に消えていくでしょう。

そんな神浜は怪我人の看病と死体整理に追われていました。

今までに死体処理については色々試されていたようで、最終的には火葬で灰にすることでおさまったようです。

焼く場所は限られていて、焼き場になっている水名区の城跡地にはまだ焼き切れていない死体がありました。

いい加減腐敗臭もするようになっていて、炎を扱える魔法少女達が手伝ってくれていたのですが、雨の日なので炉に投入できるようになるまで死体は置いたままです。

そのまま埋めてしまいたいですが、最近の死体は肉がついたまま埋めてしまうと土がダメになるとも聞きましたし、置いたままです。

この作業を神浜の方は淡々とやっていたのでしょうか。

ここにいることは今の世界事情を考えると安全であることは間違いはないですが、ここの価値観に慣れること自体は怖く、難しいことでしょう。

今は露の温度が上がりきるまで見ているだけ。死体の投入をやる気はないから、心はまだ大丈夫。

大丈夫、私はまだ大丈夫・・・。

燃えている炉の前で立ったままのさつきのところへ、傘を持った1人の魔法少女が入ってきました。

「ここでは死体を燃やしているのですね」

みたことがない魔法少女と思われる人物へさつきは恐る恐る話しかけます。

「見かけない方ですね。どこからきたのですか?」

「港に停泊している船からですよ。

ちなみに燃やした後の骨はどうしてるのですか?」

「・・・炉の中に残したままと聞いています」

「それは勿体無いですね。

人の骨とはいえ、粉々の粉末状にして畑に撒けば十分に肥料として役立ちますよ。

死んでしまった方達も土に帰れて、かつ植物の成長にも貢献できるし、良いことではないですか?」

「そうなのですね。ご希望で土に撒く方はいらっしゃいましたが、肥料として使ってもいいかもしれませんね。

でもあの船って外国から来たのですよね。

外国の方が火葬について詳しいなんて」

「いえ、私は日本に滞在した時期がありまして日本の文化は知っているのですよ。

外国でも火葬をする場合もありますけどね」

悪い人ではないと思ったさつきは船のことについて聞こうと思いました。

「あの、よければ色々教えてくれませんか。

今起きていることがさっぱりで」

「ならば後でいろはさんに聞いてください。

ではこれで」

そう言って魔法少女は玄関へと向かっていきました。

炉が設置された施設の玄関で、みかづき荘のメンバーが玄関から出ようとする魔法少女と鉢合わせました。

そしていろはがこう言いました。

「カレンさん、どうして生きているのですか」

「お久しぶりですね、いろはさん。

腕は大丈夫ですか?」

いろはは包帯が巻かれた左肩を少し触った後、カレンへ話しかけます。

「あなたは死んだものだと思っていました」

「私も潔く死のうと思ったんだけどさ、運悪くこうして生きているわけさ。

環いろは、神浜の皆へ今世界で何が起きているのか知りたい者は港に停泊されている船へ明日来るよう伝えてくれ」

カレンに対してやちよが話しかけます。

「状況を知りたいのは確かよ。

でもあなたが生きていると知ったらどれほどの子たちが船に殺到するか」

「私が生きていることを伝えるかどうかはお任せします。

その場合は、今は魔法少女同士で戦いあっている場合じゃないことは知らせておいてくださいね」

そう言ってカレンは傘をさして南凪区へ歩いていきました。

話している内容が気になったのか、玄関にさつきさんが来ていました。

「いろはさん達、あの方をご存知なのですか。

なんか死んだとか物騒な話を聞きましたが」

いろは達は炉から離れた机を囲むように人数分の椅子で囲んでさつきへ事情を説明しました。

「そう、あの方がこの神浜を変えた張本人なのですか。

初対面だと全然そういうことをする人だとは。

あとは魔力反応がないのは、そういった術をご存知の方だからだったのですね」

「隠すのが上手なのよ。

他にいた2人にもうまく立ち回られて私たちでは何もできなかったわ」

さつきは情報整理のためか黙り込んでしまいました。

するとフェリシアが話し始めます。

「なあ、そういえばなんでここまで来たんだっけ」

その問いには鶴乃が答えます。

「栄区へ行くついでに寄ろうって話になったでしょ?

まさかカレンに会うなんて思わなかったけど」

「でもさつきさんがここにいるのは意外でした。

巫女さんをやっていたとは聞きましたが、死体処理まで経験したこともあるのですか」

さながさつきへ聞くとさつきは我に帰ったかのような反応をしました。

「死体処理に直接かかわったかといえば、依頼で土に撒くことになったときくらいですね。

困っていると聞いてここまで来たのですが、まさか死体処理のお手伝いまでさせられるなんて」

「で、頼んだ子はどこへ?」

「アンチマギアで眠ったままだった友人が目を覚ましたと聞いて、どこかへ行ってしまいました」

「ええ?!

それはすみませんでした」

「いろはさんが謝ることではないですよ。

ここの担当なんて、誰もやりたくないのはわかっていますから。

誰かはやらないと」

「私たちがやっておきますから、さつきさんはキクさん達のところへ戻って大丈夫ですよ」

「そうですか。でも私もやりますよ。

流石に死体の投入はやりたくないですが、炉の温度を上げるまでは」

神浜ではどの作業を誰がやるという明確な役割分担はありません。

今となっては戦った後の後片付けに協力してくれる方は多いですが、多くの人は参加したがりません。

避難所である栄区や元鏡屋敷付近に溜まっている場合が多いです。

命令する権力や、やらないといけない義務といったものも存在しないため、誰もやりたがらないことはほっとかれがちです。

なので今回のように少々押し付けられたようなケースは、

「そのまま放っておこうよ」

というのが適切な状態になっています。

そんなほっとかれているであろうからこそ私たちは寄ったのですが

この状況を解決しようとは思っていません。
しようとすると、「強制」と「支配」が必須になるので。

私たちは炉での作業を終えると、栄区へと向かいました。

さすがに死体の投入段階に入る時にはさつきさんに先に帰ってよいと伝えて、さつきさんは既に栄区へ戻っていました。

栄区には無事か軽傷の魔法少女が滞在していて、重症か意識不明の魔法少女は里見グループが用意していたというシェルターの一つへ収容されています。

私達は栄区にいる子達へカレンさんから聞いたことをそのまま伝えてまわりました。

もちろんカレンさんの存在は隠してです。

聞きに行きたいという子は想像以上に多く、負傷中である結奈さんやちはるちゃんも参加すると言っていました

他には鏡を通ってきた魔法少女達、三重崎の魔法少女達、ひなのさん、そして十七夜さんもです。

ひなのさんはさらに気になることも言っていました。

「港なんだが、衣美里から今日の間に3隻も軍艦が来たと聞いている。

乗っていたのは魔法少女だというのだが、軍艦なんか持ち出して何を始める気なんだ。

まずはそれを聞きに行かねばならん」

軍艦が港にいることは初めて知りました。

雨で見通しが悪いせいか気づけませんでした。

この話を灯花ちゃんに話すと、なんと驚きの返事が返ってきました。

「その話は海外の魔法少女からすでに聞いているよ」

「え?!一体いつの間に」

だってお姉様が神浜から離れた頃からずっとやりとりしていたもの

船での話し合いももちろん聞いているよ。私もねむも参加する予定なんだ。

お姉様とういも来る?」

「わたしは参加するけど、ういはどうする?」

「わたしも、事情は知りたいかな」

ういがワルプルガさんの方を向くとワルプルガさんはうなづきました。

「お母さんが行くなら私も行く」

「ワルプルガさんも来るの?」

「願うという意思をさらに固めることになるだろうから。
逆効果、なんてことはないはず。カレンが絡んでいることでしょ?

「カレンさんは…その」

「生きてたでしょ?知ってるよ?」

「え、ええ?!」

「ごめんねお姉さん、カレンが生きているという事実は神浜の魔法少女にとってはよくない情報だ。
割り切れた子もいるだろうが、諦めきれずに躍起となる子が出ても迷惑なだけだからね。伏せておくに越したことはない。

わかってくれるかい?」

「それはそうだけど。

じゃあ他にもなんか情報のやり取りをしていたの?」

「私も詳しくは聞けていないんだ。

でも技術共有だけは行ったよ。その成果であるテレポーターがあの船にはあるし」

「えっと、驚くことしかできない」

「お姉ちゃん、驚きすぎて顔が疲れちゃってるよ」

 

翌日、話を聞きたいという魔法少女が港に集まりました。

そこで驚いたのは、港に1隻の変わった船と5隻のイージス艦が停泊していたことです。

各船には魔法少女達がいて、変わった船の前には見慣れた顔がありました。

「かこちゃんと欄さん、でしたっけ」

2人は私の方を向いて、欄さんが話し始めました。

「環いろはか。久々に顔を見たな。

確か最後に見たのはあんたが神浜を発つ前だったかな」

その次にかこちゃんが話し始めます。

「お久しぶりですねいろはさん。

ういちゃんの件はとっくに解決した後でしたかね」

「うん、ういはもう大丈夫。

でも自動浄化システムについてなんだけど」

「知ってます。

キュウべぇが行方不明なんですよね。すでに別の方から聞いています」

「その別の方っていうのは」

そう尋ねるとタイミングを見計らったかのように変わった船からカレンさんが降りてきました。

カレンさんを見て、事情を知らない他の子達がざわつき始めます。
その中でも三重崎の魔法少女が真っ先にカレンさんへ投げかけます

「てめぇ!なんで生きてる!」

「私も死ぬ予定だったんだけどね、この通りさ」

「お前が生きているなんて、この船の数もお前の差金か?」

ひなのさんがそう聞くとその様子を見て船から1人魔法少女が降りてきました。

「何々?あんたここでも嫌われてるの?」

そう言いながら船から降りてきた魔法少女は腰に鞭を下げていて、カレンさんに寄りかかりました。

「ジーナ、私たちのやり方を知ってるならある程度予想できただろ?」

「あんたヨーロッパだけでも目の敵にされてんのに懲りないねぇ」

「ヨーロッパでもって、どういうことですか」

「気にするな。

今回船に呼んだのはこんな立ち話のためじゃない。
まずは中に入れ。一応全員入れるはずだ」

カレンさんに促されて船の中には20人以上が入り、その中にある大広間では狭いと感じることはない空間でそこには大きなモニターが設置されていました。

全員が部屋に入ると扉は閉じられて部屋は少し暗くなりました。

その後にモニターがつくとそこには1人の魔法少女が映し出されました。

そのモニターに対してカレンさんが話しかけます。

「ミアラ、しっかり集めたから説明よろしく」

その言葉を合図にミアラという魔法少女が話し始めます。

「わかった。

まずは神浜の魔法少女達、君たちは今我々がやろうとしていることが何なのか知りたいから集まったという考えで良いのかな」

「そうだよ。だから素直に教えてよ」

灯花ちゃんがなぜかフレンドリーに話しかけていました。

「灯花には世話になったな。さっそくそうさせてもらうよ。

我々は人間社会の破壊を目的にサピエンスを葬るため準備を進めている。

今世界中ではアンチマギア生産施設の破壊と撹乱のため世界中の魔法少女達が動き出している。

神浜がいち早く戦場になることは認識した上で、我々は神浜を避難所として扱うこととした。

すでに戦いを終えて分かったと思うが、今日本にはサピエンスの兵士や兵器は存在しない。

逃げた奴らは日本から脱出したようだからな。

自衛隊本部についてはミア達によって抑えてもらえたようだし、現状魔法少女にとって世界で一番安全なのは神浜だ。

神浜には戦いに参加したくない、できない魔法少女を集める。

そして日本から船を拝借してその船と共に太平洋を突っ切ってサピエンス本部であるペンタゴンを落としてもらう。

あとはヨーロッパから出る別働隊も必要だ。そっちは本命な上に生きて帰る保証はないという物だ。

荒くて簡潔だが我々の計画はこんなものだ。

参加しろとは言わないが、志願者がいるなら名乗り出てくれ」

しばらくの沈黙の後、十七夜さんが話し始めます。

「聞いている限りお前が指揮しているよう聞こえたが、我々は従わされる側となるのか?」

「言っておくがこれは組織的な計画ではない。

我々がやりたいと言って賛同してついてきたものが多いだけだ。もちろん賛同せず勝手に動く奴らもいる。

だが情報が命なことは魔法少女でも変わらない。

我々が情報収集に長けているということもあって付いてくるものが多いだけだ」

すると三重崎の魔法少女が話に入ってきました。

「あんたらにはしっかり強みがあるわけだ。

情報収集能力はどの程度だ?」

「サピエンス本部のやり取り、インターネットを使用した機密情報も筒抜けだ」

「なんだそれ、出鱈目すぎるだろ」

現状世界中でアンチマギアは神の声も聞けなくなるというデマが意図的に流されている。

これもサピエンス本部しか知り得ない事実だ」

「なにそれ、宗教戦争でも始めるわけ?」

「我々はそれも利用する。

たとえそれが奴らの罠だとしても」

話がおさまったのを見計らって私はミアラさんに聞きます。

「仮に協力する場合、私たちには何ができますか?」

「神浜の魔法少女にとって協力といっても2種類ある。

一つは戦えない魔法少女の保護と魔法少女のみで生きていくための仕組みの模索、あとはそこにある船に乗って、またはカレンについて行ってサピエンス本部を目指して戦ってもらうことだ」

神浜ではすでに魔法少女だけで生きていけるように動いてはいる。

避難してきた奴らがどこまで協力的になってくれるか次第だが」

「安心しろ、我々はお前達以上に魔法少女のみで生きていく術を習得している。

きっと合流するのは良い刺激を与えることになるだろう」

「戦いに行く奴らってのは、死ぬ覚悟が必要だよな?」

三重崎の魔法少女の問いかけに対してジーナさんが答えます。

「この前の神浜の戦いはまだ甘い方だ。

奴らにとってはただの実験や実践訓練程度しか力を発揮していない

「あそこまでの被害で手を抜いていたっていうの?」

「だから奴らも予想以上に被害が出たんだろうがな。

あたしらの知らない衝撃波を発生させるやつやAKなんかじゃない新型のアサルトライフルやシールドも持ち込まれていた。

わかるやつはわかったと思うが、あいつらは魔法少女保護が念頭にあったからソウルジェムをあえて避けていた。

あえて避けられるってことはだ、サピエンス本部襲撃の際は容赦なくソウルジェムを狙われるってことだ。特殊部隊上がりもアメリカ軍も容赦なく攻撃してくるだろう。

戦いに行くなら死ぬ覚悟で参加しろ」

周囲は少しざわつき、その場で参加すると言い出したのは三重崎の魔法少女と外人の魔法少女でした。

外人の魔法少女はカレンさんと目配せをして、納得した表情を見せた後にテレパシーが飛んできました。

[私達は参加させてもらうよ。

一度避難してきた身だが、今回で戦場の方が居心地がいいのがわかってしまったからね]

次は三重崎の魔法少女です。

「私達も参加させてもらおう。

サピエンスを潰せば落ち着いた生活をできるっているなら喜んで参加させてもらおう」

他に名乗り出るものはいませんでした。

その様子を見てミアラさんが話し始めます。

「まあ今すぐに決めろとは言わない。

だが長く待つ猶予はない。明日までに結果を出してくれ。

とりあえず今回は終いだ。カレン、全員を連れ出してくれ」

そう言われたカレンさんは私たちを船の外へ追いやりました。

全員が船から降りたことを確認すると、船に通じる通路が閉じられてしまいました。

私は戦いに行こうとは思わないけど、他の子はどうなのだろうか。

 

がらんとした空間にわたしとジーナ、そしてモニターの先にいるミアラだけになった。

「言語はしっかり聞き取れたか?」

「日本語は大丈夫だと思ったがやはり怪しい。

カレンとも日本語が基本だが少々翻訳用イヤホンは当てにならない

「したっけテレパシーを送ると同時に喋る技は必須だな。

神浜の連中にもしっかり伝えるようにしてくれ」

「それにしても今回の申し入れをするのは神浜が最後か。
ワルプルギスの夜の件もあって日本に関わる気はなかったが、計画の大事な場所が最後に申し入れを行う場所になるとはね」

「仕方がないさ。日本は聖遺物争奪の際にかかわりがなかったからね」

そこにジーナがいきなり話に割り込む。

「あの参加を申し出てきた奴らは連れてっていいのか?

足手纏いがこられても困るんだけど」

「あいつらは問題ない。

銃撃戦を十分に経験しているうえにアンチマギアも理解しているようだし、何もできない奴らじゃない」

「ならいいけど」

「…ソフィーの様子を見てくる」

「おう」

私は司令室まで登って中に入ると眼鏡をかけてセーラー服を着ているソフィーが指示を出している場面に直面した。

「全艦砲塔右向け!」

そう指示するとアイリス号といつの間にか名付けられているこの船の砲塔と共に盗んできたイージス艦の砲塔も指示した方向へ向いた

「2、5番艦は左向け!」

目に見える限りでは1隻しか左を向いていないようだがどうやら成功はしていたらしい。

「舵右、左、もう一回右!」

そう指示すると操舵にいる魔道人形が指示通りに舵輪を回していた

そんな指示の練習をしているソフィーへ私は話しかけた。

「魔導人形の調子はどうだ」

「あ?ああ。

指示はしっかり伝わるし配置も問題なさそうだ」

「でもこの船まで魔導人形にまかせるのか?」

「万が一のためにだ。本番はちゃんと他の子が担当するさ」

「それにしても、こんな頼りない小さな魔導人形でよかったのか?

脚力と腕力はあるようだが」

「製作者の趣味だ。それに可愛いだろ?」

私はやれやれと思って何も言えなかった。

「シオリ、魔力の消費量はどんな感じだ?」

すると船のスピーカーからシオリの声が聞こえてきた。

「そうだねぇ、一体あたり魔法少女1人の平均消費量の30%程度かな。待機中は全く消費していないっていいほど使わないね」

「そうか。

11隻分となるとあまり褒められた量ではないな」

そこにソフィーが話に入ってきた。

「これでもミアラからうるさく言われて製作者が削減した結果だ」

「最終的には灯花に助言を求めたってやつか。天才を交えてもその程度か」

「シオリが最終確認した方が良かったんじゃないの?」

「それなら灯花同様にまず体がいらないって言い出すじゃないか!

「ソフィー、見た目が優先されたせいなのか?」

「ええ。そこは制作者と共に譲らなかったよ!」

ソフィーは自慢げな顔をしているが、消費する側の身にはなってほしい。

そして突然ソフィーは何かを思い出したかのように手を合わせた。

「ああそうだ。

テレポーターは港に設置するらしい。灯花の指示らしいな」

「そうか。設置場所が決まったならテストもしないとな」

「そう言えば結局アイリス号の動力には誰がなるんだ?」

「ピリカで変わりはない。そういう話にはなっているからね」

「ならピリカは神浜の用事を済ませてきてよ。

今回シオリが動力になったのはそれが理由でしょ?」

それを聞いて私の体はピリカに主導権が回った。

「そうだった。まだやらないといけないことあるんだよ。

ごめんねシオリ、もう少し待っててもらえる?」

「なら明日がいいんじゃない?

今日はあいつら情報整理で忙しいでしょ?」

「うーん、遠くから様子を見て良さそうなら今日でも用事を済ませちゃおうかな」

「わかったよ。

出発するまでに変わってくれればいいからしっかりやること片付けてきなよ」

「うん!」

そう言って私の体はブリッジを出た。

 

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-12 自由に錬金術を行える場所

ディアのクローン体がある部屋へ入るとすでにディアは目を覚ましていた。

そんなディアへカルラは話しかけた。

「日本ほど距離が開いた場所で2体を動かしても制御には問題なかったようだな。

だが、体を取り替えたのか。どこに影響があった」

ディアは少し不機嫌そうにカルラへ答えた。

「目が覚めるととても気持ち悪くなってさ。

急に鼻血も出始めたからこりゃダメだって別の体に変えたよ」

「そうか。

脳へかかる負荷が体の限界を超えたのかもしれない。

そろそろ人体での運用には限界があるのではないか。脳内の電気信号ではなく魔法石を介した処理負担の軽減をいい加減に行った方がいい」

それを人体に組み込めないか今新しい素体へ試している最中だよ。

それよりも」

ディアは素体が成長中の一つのカプセルを指差した。

「私が眠っている間に一体持ち出したでしょ!」

「何も言わなかったのは悪かった。

ちょうど良いものだったからついな」

ディアはカルラからキュウべぇに視線を移した。

「私の体に入っているお前は誰だ」

「ぼくだよ、キュウべぇだよ」

その話を聞いてディアは驚きもしなかった。

「ああ、インキュベーターを捕まえてそれをどうするかの結果か。

わざわざ人型じゃなくてもって言ったのに」

「体の形状も影響するかもしれないだろ」

「ならこうもう少し耳を獣っぽくしたり尻尾生やしたりさ」

「ディア、私たちはインキュベーターを使役するわけじゃない。

ただの実験材料だ」

「んで、インキュベーターの魂をそこに入れただけ?

まだそこらへんで捕まえられる?」

ここでキュウべぇが話に割り込んできた。

「いや、この体に意思が固定されたことで今までの体は使えなくなってしまったんだ。

そういうわけで今君の目の前にいる僕しか人と接触する術はない」

「は?なにそれ面白すぎなんだけど。

でもそこに意思が固定されただけってこともあるのか。

ねぇ、自分で死のうとは思わないの?死んだら元の体に戻れるかもよ」

その話を聞いてキュウべぇは横に首を振った。

「悪いが命を自ら断つという行為自体が理解できないんだ。

自殺という考えを持っているのは君たち人間だけだ」

「じゃあ今教えてあげる」

ディアは腰につけた拳銃をすぐに撃てる状態にしてキュウべぇへ渡した。

「銃口はわかるでしょ?

それを自分の頭に向けて引き金を引くだけ。

簡単でしょ?」

キュウべぇは拳銃を手に取ろうとはしなかった。

「どうしたのよ、まさか命が惜しいわけ?」

「そうだね。

今この体を失うと二度と人類と接触できなくなるかもしれない。

そんなリスクを抱えたまま試そうとは思えないよ。

僕たちも目的があってこの星にいるわけだし」

私たちにとっては死んでいなくなってくれた方が有益だと思うけど

ずっとディアとキュウべぇのやり取りを見ていたカルラは話し始めた。

「ディア、せめてインキュベーターの本体へアクセスできるまでは待ってくれ

こいつらの知識は人智を超えたものというのは確かだからね」

ディアはむくれた顔をカルラに見せてから拳銃をしまい、プンプンしながら伝えた。

「じゃあ殺さない程度にインキュベーターで実験させてよ。

勝手にクローン体を使ったことまだ怒ってるんだから」

「構わないさ。死なない程度にね」

キュウべぇはカルラの返事を聞いてなんと驚いた顔をカルラへ向けた。

それを見たディアは珍しく驚いた。

「あんたそんな顔できたんだ」

「少しだけ感情の実験を進めたからね。

ほら、いくぞインキュベーター」

「待ってくれ、僕の了承なしで話を進めないでくれないかい?」

キュウべぇはカルラに連れられるように部屋を出て行った。

静かになった部屋の中、ディアは成長中のクローンを見ながら考えに耽った。

そういえば私以外の意思が入ったクローン体と会話するのはいつぶりだろうか。

 

私の家は魔女裁判を逃げ延びた錬金術師の家系で、という話は父側のじいちゃんから聞いた話で両親は錬金術についてはからっきしだった。

私も最初から錬金術に興味を持ったわけではない。

小学にあがる前から生物に興味を持った私は、よく生き物の部位を傷つけたり引きちぎったりしていた。

触覚を失った虫はまっすぐ歩けるのか、骨格だけになった鳥は走ることを覚えるのか、虫の羽は再生するのか。

人の感情を理解するのも周りの子より遅かったようで、小学校の頃はよく他の子へ暴力を振るって泣かせていた。

それはただのいじめではなく、痛みで笑顔になるのかという純粋な疑問であった。

ここまでの行為が探究心のみの行動であることは誰にも理解されず、サイコパスと判断されて普通の学校には通えなくなった。

それから私は学校という場所には行かなくなり、色々教えてくれる父側のじいちゃんのところへ行っていた。

そこでは普通の勉強の他に、錬金術に触れさせてくれる機会があった。

この時に私には錬金術の素質があることを知った。

そんな知識欲を満たす日々は長くは続かなかった。

父側のじいちゃんは老衰で死んでしまった。

じいちゃんが死ぬ間際に私へ秘密の言葉と呼ばれるものを教えてくれた。

その言葉をじいちゃんの部屋の至る所で唱え続けると本棚が反応して扉が出現した。

そこには錬金術の道具や本がたくさん詰まっていた。

しかしばあちゃんも後を追うようにすぐに死んでしまったため、じいちゃんの家は取り壊されてしまった。

無事に持ち出せたのはほんの一部で、その持ち出しに気づいた両親は私にひどく怒った。

「錬金術なんてものには興味を持つな」

そう言われてから私は両親には関心が向かなくなった。じいちゃんが教えてくれた素晴らしいものを「あんなもの」としか言えないのが親だったなんて。

もう、こいつらはどうでもいい。
そう思いつつも生きるためには食べなければいけなく、そのためには金も必要だったので仕方がなく親の前では「いい子」を演じ続けた。

ある日、両親に連れられて何かの社交会へ行くことがあった。

それがなんの目的だったかわからなかったし、すぐに帰りたいという思いが強かった。

好きでもないドレスを着せられて、私は嫌になってテラスに出て星を見て気を紛らわしていた。

そんな私に声をかけてきた女性がいた。

「ずいぶんと退屈そうじゃないか?」

私は他人と話すことが久しぶりで、なんて返せばいいのかわからず再び空に目線を戻した。

すると女性が私の隣に来て1人で話し始めた。

「星の力を利用するというのは物の例えで、肝心なのは夜であることというだけだ。

北極星を指すと言われるこの道具だって、実は北極点あたりを指すことと起動するのが夜限定というだけで、今考えれば夜間限定のコンパスというしょうもない物だ」

天球型の物体が女性の手の上で浮き上がり、天球の周囲についている輪っかの特に尖った部分が、北と思われる方向を指していた。

私は思わずそれに注目してしまった。

ここに集まる物たちもかつては貴族や高位の錬金術師と呼ばれた物たちの末裔で、昔は討論会や技術の披露宴などそれっぽさはあった。今となってはただの人間のパーティというしょうもない物だ」

女性はある石を私に向けながらこう言った。

「君はしょうもない人間か?」

私は少しイラっときて話し始めてしまった。

「両親はしょうもない人間よ。でも私は違うわ。
命について錬金術で試したいのよ。あなたはなんなのよ!」

すると女性が持っている石が青く輝き出した。

「そうか、君はまだ情熱を忘れない錬金術師だったか。

ならば行ってみないと思わないか?

自由に錬金術を行える場所へ」

「ほんとうか?

そんな場所に連れて行ってくれるのか!

行けるならば連れて行ってくれ!」

「OK。私はカルラだ。

君は?」

「ディアだ。さあ早く!」

カルラとの出会いはそんな感じ。

それからはカルラが社交界での出来事をでっち上げて、両親へ私をカルラが預かる理由を作り上げて私を両親から引き離した。

両親のことなんてもうどうでも良かったから都合が良かった。

でも大学への特別入学という結果を残さないといけないらしく、久々に勉強らしい勉強をカルラに叩き込まれた。

私が勉強に疲れた様子を見抜いては合間に錬金術も教えてくれて、じいちゃんといた時間以来に充実した日々を送った。

そして初めて生み出した生命体は、見事に失敗した。

この時は正当な成長過程を経ずに肉体を直接作り上げる禁忌の人体錬成を行った。

作り上げられた化け物は鼓膜を貫く奇声を上げて、そのせいで私の耳は使い物にならなくなった。

そんな部屋へカルラが入り込んできてヘッドフォンのようなものをした状態で刃が青白く輝く槍を持ち出して、奇声を上げる化け物を頭から真っ二つにした。

化け物は臭い液体になって原型はその場から消えた。

カルラから何かを言われても聞くことができなくなった私は、ジェスチャーで耳が聞こえないと伝えるしかなかった。

カルラは部屋を出ていき、しばらくすると野球帽をなぜか持ってきて私に被せた。

その後にカルラが話すと、なんと会話内容が脳で理解できた。

「私の考えが伝わるか?」

[すごい。わかる!カルラの伝えたいことがわかる!]

「これで禁忌と言われる理由がわかっただろ?

体が吹っ飛ばなかっただけ幸運だ」

[…私を止めなかった理由はあるの?]

「ディア、実験はやって初めて空論から確かな結果に変わる。

危険だと伝えて真に何が危険かを理解できるものはいない。

だが今把握できたじゃないか。

人なんてこんな過程では生成できず、自分の身が危うくなるだけだから禁忌なんだ」

[ええ、身に染みて理解したわ。

人体錬成の前に耳を使い物にできるものを用意しないと。

大学入試試験も近づいているし]

「わかってる。ささっと作ってくるよ」

その後私は見事に大学へ合格し、カルラが入っている研究室で一緒に研究を行うことになった。

天才児と騒がれたこともあったけど、サイコパスを前面に出した途端にみんな私から離れて行った。

そして私は研究と錬金術の経験から、人の寿命はどうあがいても限られているため長寿を目指すのは現実的ではないという結論に至った。

そこで私はクローンを生成して脳内情報はそのままで体だけ取り替えて擬似的に不死を実現させるという目標を見出した。

大きなカプセル内で正当な成長過程を踏んで私と同じ年齢くらいの姿形をしたクローン体第一号が完成した。

クローンは目を開けて周囲を見渡し、しばらくすると泣き出してしまった。

それもそのはず。この過程を踏むと脳は赤子と同然。

何者かわからずクローン体は泣き出してしまったのだ。

そんなのは想定済みで、カルラの協力もあって学習装置が用意してあった。それをクローン体に被せてしばらくするとしっかり喋りだして自らの意思で行動を開始した。

この成功をカルラへ伝えると、カルラは少し険しい顔をした。

「ディア、絶対外に出すなよ」

そう言われた理由はすぐにわかった。

クローンは私のクローンであることを認めず、1人の人間だとしてクローンを閉じ込めていた家から出ようと行動し始めた。

家の中はカルラが用意した結界のような物で破壊は行えないようになっていて、それでもクローンは破壊しようと壁や床を何度も叩きつけた。

そしてついには私にも襲いかかってきた。

私は処分するかと思い当たると、昔から自分に行いたかった実験をこのクローン体へ試すことにした。

脳を外付けにしても人は動けるのか、心臓は体が無くても動き続けるのか、どれくらいの温度の環境にいたら寿命が伸びるのか。

実際に行えたのは最後の寿命関係のものだけで、クローン体は凍死する最後まで私を恨んだ顔をしていた。

最初のクローン体の結末を知ったカルラと教授は驚くのではなく呆れた反応をした。

「カルラ、こいつはやばいと思ったがここまでとは思わなかったぞ」

「まあ、やりすぎだというのは承知ですがこういう人材が案外新発見するものですよ」

「やれやれ、しっかりこいつを責任もって見張るのだよ。

そのうち我々を実験道具にしかねない」

「もちろんですよ」

このクローンの生み出し方は失敗だった。

確かにクローンを生み出せたが、実現したいのは自分の体をただの入れ物として複製すること。

カルラに助言を求めると少し考えただけですぐに答えを出してきた

「真っ当な生物の誕生の段階を踏んでしまっているがために、体に命が宿ってしまうのが原因だ。

命が宿らない入れ物にしないといけないならば命の在処を理解しないといけない」

これが非常に面倒なものだった。

赤子は胎内でも命を持った状態なのかから始まって、魂は抜き出せるのかと実験しながら模索した。

そんな中、カルラから自我の複製実験に協力されてクローンに何度か自我を複製できないか試した。

その結果、クローンの種である頃から自我の複製情報を送信しておくとそのクローン体には自我が複製されたことが判明した。

何度目かのクローン体取り出しの際、私の脳内には自分と対面しているクローン両方の情報が入り込んできた。

服を着ているはずなのにクローン体の裸な感覚が伝わってきたり足が何故か裸足っぽい感覚がしたりとカオスな状態だった。

気づけば私は情報量に耐えきれず気絶してしまった。

とはいえ今では余計な魂が宿らないよう私の自我が常にアップデートされる専用カプセルを開発できたり、今では魔法少女の技術を使って地球どこでもクローン体を制御できるようになった。
そして魔法石というものを知って、最初の頃よりも増しに情報制御が行えて気絶する機会も減った。

本体の脳が破壊されない限り、いつまでも生きられる状態になったと言えるだろう。

ちなみに魔法少女と錬金術師は近しい存在だというのは、サピエンスに参加してからカルラに教えてもらった。

キュウべぇは私に目はつけていたものの、何をされるかわからないという理由で近づかなかったらしい。

思ったよりも臆病なやつだったよ。

そんなクローン技術がある中、カルラは体がある程度出来上がったクローンへキュウべぇの意思をいとも簡単に移植してみせた。

私の自我を常に送りながらクローンは育っていたはずなのに、横入りする形で別の意思を移植する技術がカルラにはあった。
もしかしたら、生きている人間へ直接別人の意思を移植するなんていうヤバいこともやろうと思えばカルラにはできてしまうのかもしれない。

まだ技術についてはカルラには敵わない。

カルラを越えようとは思わないけど、いつかはギャフンと言わせたいとは思っている。

「次にお前たちを動かしたら、いよいよ死ぬかもな」

次にクローン体を動かす時はここにいる奴らを全部動かす時。

強度を上げた体が間に合わなければ、いや、間に合ったとしても私は死ぬかもしれない。

せめて脳に流れる情報を大幅カットするくらいが精一杯か。

そう思いながらも今はキュウべぇを実験したいという思いが強かったのでクローン体が並ぶ部屋を後にした。

 

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