【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-4 魔法少女がもたらすハルマゲドン

世界の空路が破壊されて15日が経過した。

その間に世界中の港も攻撃され、ハワイに関しては戦える軍人は残っていなかった。

世界には避難勧告が出され、多くの人々は10日以上も避難所暮らしする者もいる。

中には志願して非正規兵になる者も現れ、もはやテロではなく戦争と言える規模となっていた。

中東では政府が魔法少女に便乗した武装集団によって破壊され、無政府状態になった後に指導者になろうとするイスラム教徒とそれを阻止しようとする元政府支持派で争いが続いていた。

難民となった一般人を匿ってくれる場所はなく、中東と区分される地域はもはや国と呼べるものがなくなっていた。

ロシアでは空港が破壊されてしまったものの、アンチマギア生産施設は死守できていた。

そこへ通ずる市街地は戦場になっているものの、空港や港、アンチマギア生産施設とは離れている都市は戦場にはなっていなかった。

避難所では不条理な出来事に嘆く者がいれば、自分の子どもが魔法少女であり、世界の敵になったと知って悲しむ者もいた。

ロシアとヨーロッパで共同管理されている黒海は以前から魔法少女の行き来にも欠かせない場所となっていて、軍艦のありかは魔法少女にもよく知られていた。

魔法少女達はその軍艦を強奪しようと動き、黒海周辺はアンチマギア生産施設側よりも激しい戦いが行われていた。

ヨーロッパはもっと酷く、アンチマギア生産施設は陥落寸前だった。

施設入り口まで詰められており、内部に入られて生産装置が破壊されるのは時間の問題だった。

施設を防衛する一般兵士たちはアンチマギア装備を使用してはいるものの、アンチマギアに慣れてしまったヨーロッパの魔法少女相手には足止めにもならなかった。
魔法少女達は魔法ではない実体のある武器を持ち出しており、粉末状アンチマギアは吹き飛ばされて意味がなかった。
一般兵が牽制に用いることができたのは銃だけで、それもなぜかアンチマギアで無効化できないバリアで弾かれてしまっていた。

アフリカやブラジルでも空港が攻撃されたものの、市街地には特に被害が出ていなかった。そのため避難勧告とはいえ都市部にいる住民は外出禁止という処置がとられていた。

アフリカの魔法少女達が特に群がったのは宝石が採掘できる鉱山で、そこで働いていた鉱山夫達は皆逃げ出してしまった。

中華民国は国連指揮下ということもあり多国籍軍状態で魔法少女達に対抗していた。
空港や港は一般人が使える状態ではなくなり、アンチマギア生産施設も攻撃を受けていた。

指揮は中華民国の兵士が実施しているものの、多国籍軍の統率はとれているとは言えないものだった。各々が思い通りに動いた結果、偶然魔法少女達を抑えられているという状態だ。

そんな中で中華民国にとって特に厄介なのはインドから流れてくるサピエンス反対派だった。

人口総人数第一位になっているインドでは、仏教を侮辱しているとしてサピエンス反対派が魔法少女達と協力してサピエンス本部へつながる同線を作ろうとしていた。

インドの空港は魔法少女達を運ぶためとして破壊よりも占領が優先され、同時進行で中華民国へと攻め込んでいた。中華民国へ不満を持っていた周辺国はこれに便乗して戦いに参加している場所もあった。
インド政府はこれらの動きを黙認し、この戦いが終わった後のことしか考えていなかった。

オーストラリアでは魔法少女達が使っていた造船所を調査されていたものの、施設に踏み入れようとした瞬間に施設は自爆してしまった。

そんな経緯があり、もう魔法少女はいないと思われた中で魔法少女達はシドニーに現れた。

しかし人員が少ないのかまだ無事な空港は存在した。

空港は使えるもののオーストラリア側の難民受け入れ体制が整っておらず、オーストラリアに入ってくる航空機はない。

そんな世界中が混乱している中、カリフォルニア沖では神浜から出発した船団を目視できていた。

サピエンス本部では海岸線がすでに魔法少女に占領されていた様子を嘆いていた。

「ほんと結果を見ると情けないわね。対抗策は用意できるのにあっさり制圧されるなんて」

「テロリストの首領を討てば少しは変わると思ったが、びくともしないか」

私たちが魔法少女を利用するのと同じことをあいつらもやったってことよ。

来てしまうのは仕方がないわ。

大型波動砲「レミング」を前進させておきなさい」

「レディ、再確認を実施しましたが海岸線に移動に使用すると思われる車両が見当たりません」

「あいつら、地上は歩きで移動する気か」

イザベラは魔法少女達が使う船のデータを思い出していた。

その中でも大波の中その船だけびくともしなかったというデータを思い出した時に閃いた。

「まさか…」

「どうしたイザベラ」

イザベラの変化に気づいたキアラが声をかけた。

イザベラはキアラの反応を気にすることなく米軍司令部に通信を繋げた。

「カリフォルニア州に出せる対空ドローンはある?」

米軍司令部は突然通信が繋がって驚いていた。

「対空だと?対地ではなくか」

「対空だと言ってるでしょ!出せるなら出しなさい!あいつらを無傷で通すことになるわよ!」

そんなやりとりをしていると魔法少女の船団は勢いを落とすことなく進み続け、そして陸が目の前に迫ると船全ての船体が浮かび上がって空を航行し始めた。

その様子を見た米軍の兵は驚くしかなかった。

「なん、だと」

「レディが何を危惧したかわかった。まったく、出鱈目がすぎるぞ!」

米軍は半信半疑だった対空ドローンの用意を急いだ。

サピエンス本部では皆冷静に次のための備えに動いていた。

あんなことされたら次は地中からドリルでこられても驚きもしないが」

「地中では何も起きていないことは確認できているからいいのよ。地下道を掘られていたらいやでも振動計器が反応するはずよ。

問題は大西洋側。

奴らが大きな物体を浮かべる技術を身につけているならば」

「反対側でもやられておかしくないか。

だが不審な影も白波も確認できない。空を飛んできていた場合でも流石に対処のしようがない」

「いい状況ではないわね。

レミングは中心にいる船に照準を当てたまま前進。護衛には死んでも波動砲は守りなさいと伝えなさい」

魔法少女達の船団は飛んでくるドローンを対空砲や甲板にいる魔法少女、そして地上にいる魔法少女達が対応して、無傷でサピエンス本部へと近づいていった。

米軍がやっと増援の対空砲やPACシリーズのミサイル装置を用意して迎撃を行っても、魔法少女の船は一緒にいるイージス艦含めてシールドを張っており、それらを受け付けなかった。
魔法少女の船は魚雷を地上へ撃ち込み、米軍は一方的にやられていた。

「流石に弱すぎないかしら、人類」

イザベラの発言にダリウス将軍が反応した。

「イザベラがいなきゃ人類はこの程度だってことだ。数年じゃ対策なんてしようがないさ。

まだ動かさないのか」

「早すぎるわ。少なくとも悠々と飛んでいるあれを事前に落としてくれないと」

「とはいえこの様子だとコロラドまでは難なく素通りしてくるだろうな」

ダリウス将軍とイザベラが話しているとオペレーターが声をかけてきた。

「レディ、米軍司令部が話し合いを求めています」

「全部却下よ。好きなようにしていなさいと伝えなさい」

「りょ、了解」

「しつこく通知を送ってきても無視しておきなさい」

「やれやれ可哀想に」

「世界最強を目指した国が呆れるわ。私が伝えたことも半信半疑になってすぐ言うこと聞かないし。

自分たちだけで魔法少女くらい止めてみなさいよ」

魔法少女の船団がコロラド州に入り始めた頃、米軍は市街地に戦車を並べて兵士の一部には衝撃砲が配られていた。

その部隊へ地上を移動している魔法少女達が攻撃を加えはじめた。

人の大きさを相手するのに戦車は不向きで、魔法少女の集団へ一発撃ち込むと魔法少女に詰め寄られて主砲どころか車体もすぐに破壊されてしまった。

随伴歩兵は獣の姿をした魔法少女集団に次々と切り裂かれており、戦車を守れる状態ではなかった。

「調子に乗るんじゃない!」

そう言って衝撃砲が1発放たれてやっと魔法少女達に被害が出た。

猫のような姿をした魔法少女の1人が衝撃砲に巻き込まれて建物に叩きつけられ、建物の壁には叩きつけられた魔法少女を中心に放射状の血の跡がついた。

「よし、効いてる!」

「もう一発どうだ!」

そう言ってもう1人が建物へ叩きつけられた魔法少女へ衝撃砲を放つと魔法少女の体は圧力で潰れてその場には肉片と血が飛び散った。

「効果ありです!」

「連射はできない。敵の動揺を突いてやれ!」

銃での追撃では魔法少女を倒せなかったものの、魔法少女達は瓦礫に身を潜めて前に出てこなくなった。

しかしその上空を魔法少女達の船団は通り抜けていく。

サピエンス本部には前線で少しは成果があったことが報告された。

「やっと敵が乱れ出したか。

魔法少女の捕虜達を解き放ちなさい。予定通りカンザスあたりでいい感じに混ざってくれるはずよ」

「気乗りはしないがな」

「内部で暴れられるよりはマシよ」

「レディ、前線で魔女が大量発生中との報告!一部は民間人の避難地近くへ向かっています」

「魔女化には早いわ。奴らが解き放ったやつでしょうけどサピエンスの兵士たちは予定タイミングまで動かさないで。

魔法少女狩りの名残で魔女対策の武器くらいなら一般兵には配られてる。米軍司令部へはお前達で対処しろと伝えなさい」

そんなサピエンスの判断を受けて米軍司令部は激怒していた。

「あいつら!この国を守る気あるのか!」

「今のところ何もしていないですよ」

「レディめ、この国が滅ぶまで静観する気じゃないだろうな。

仕方がない!我々は魔法少女よりも魔女へ対処する。前線へそう伝えろ!」

指示を受けた軍人達はマガジンを魔女用に切り替えて魔女の結界へ突入していった。

そうすると前線に穴が開くのは当然で、魔法少女達の船団はその場を通り過ぎていった。

カンザス州も通り過ぎようという頃、ヨーロッパから連絡が入った。その内容をオペレーターが報告した。

「レディ!フランスのアンチマギア生産施設が破壊されました」

「ことごとく信用を落としていく地域ね全く。

防衛目標がなくなっても潜伏した部隊は合図があれば襲撃してもらうからね」

「それなら何を目的に戦うことになるんだ」

「事前会議で伝えた通りよ。奴らを追い込むことに意味がある」

世界中で戦いが始まって1日が経過した。

中東で政府や秩序は失われ、ブラジルやアフリカでは軍事施設も破壊されたものの、市街地は無事なままだった。

他の主要な国も襲われているのは軍事関係の施設であって、魔法少女達は一般人に被害を出そうとはしていなかった。

しかし魔法少女に便乗した武装集団の中には、特定の人種の虐待行為を開始するものも現れており、魔法少女以外の武装集団へ対策しなければいけないことには変わりなかった。むしろ一般兵は魔法少女よりも人間の武装集団を鎮圧するために人員が回されるようになっていて、魔法少女を相手にする軍人は少なくなっていた。

短期間で魔法少女の思い通りになっている世界の様子を見てダリウス将軍は嘆いた。

「こうも簡単に世界はめちゃくちゃにされるものなのだな」

その呟きにハリーと呼ばれる観測士が答えた。

「それにしても魔法少女達は統率が取られすぎている気がします。こちらの情報が筒抜けというのも事実かのようにものとしませんし

そのためにイザベラが通信装置を使わず下準備を進めているんだ。

直近だとレミングが要だ。レミングはどこまで動かせた」

「現在バージニアをでてケンタッキーを移動中です。

まだ射程には捉えられません」

「バージニアを抜けられたのであれば十分だ。

確実に中央の船を狙え。何発も撃てるものではないからな」

一方、キアラは部屋の中で落ち込んでいた。その部屋へイザベラが入るとキアラはなんでもなかったかのように出迎えた。

「どうした、司令室にいなくていいのか」

「将軍がいるし、しばらくは大丈夫よ。

それにしても日本人の悪い癖ね。言いたいことがあればはっきり言いなさい」

「…別に何もないさ」

「まだロバート達のことを引きずっているの?彼らは人類を守ろうと行動している我々への反逆よ。

いかなる理由があろうと政府に対するテロ行為は罰しなければならない。

それが武力を持つ我々ができる守という行為よ」

「ロバート達を言葉で説得することはできなかったのだろうか」

「仲良くしようと説得しても相手が殺してやるとしか言わなかったら、会話にすらならないじゃない?

そんな奴らに説得なんて必要かしら?」

「わかってはいるさ。何を言おうと平和的に生きられない奴らがいることなんて。

そんな現状を変えることはできないのか」

「無理ね。

人類から感情を消そうと、欲を取り払おうと、相手の気持ちを完璧に理解することが不可能な人間にとって争いない世界の実現は無理な話。

今あなたとこうして言い争いが発生してしまっているようにね」

「・・・イザベラは人類を戦わせ続ける選択を取ったのか」

「私は父ほど優秀ではないわ。

だからこんな役割しか果たせない。ロバート達だって、考えた結果あの結末しか迎えられなかったのよ。

あなたがあそこで裏切ったとしても、私が殺していたでしょうし結末は変わらなかったわ」

キアラは何も答えなかった。

「キアラ、間違いなく魔法少女達はここに攻め込んでくるわ。そいつらを私は正面から迎え撃つ。
あなたはそんな覚悟で、正面から魔法少女達を切ることができるの?」

「余計な心配をさせてしまったようだね。
何の躊躇もなく敵を切り倒せる覚悟はできている」

「そう」

「それに簡単に死ぬわけにはいかないさ。どうせあれの準備を進めているのだろう?」

「・・・脅しじゃないけど、あなたがいなくなったら私の行動は早いわよ」

「十分脅しじゃないか。

まあわかっているさ。私はイザベラが危なっかしいからこうしてボディーガードをしているんだ

でもイザベラの命に変えても守るよ。それもボディーガードの務めだからね」

「キアラが死んだら意味がないじゃないの」

イザベラが部屋から出ていった後、キアラは施設の地下へと向かった。

地下の研究室にいるカルラをキアラは訪ねた。

カルラはディアのメンテナンスを行っていて、脳波検査をしていた。

キアラが来たことに気づいてカルラが話しかけてきた。

「ボディーガードナーが主人のそばを離れてはダメじゃないか」

「カルラ、聞きたいことがある」

「取り込み中だ。手短に済むなら構わん」

「魔法少女の奇跡は人為的に起こせるものなのか」

カルラはディアに被せていた装置を外した。そして測定結果と思われる画面に映った波形を見ながらカルラは語り出した。

「一つ実例があるから教えてあげよう。

とあるバカな錬金術師が自分を犠牲に奇跡を起こそうとした。でもその結果はお前達が探って回ったイタリアの猛毒地域を見た通りだ。
あそこは魔法少女の奇跡を人為的に起こそうとした成れの果てだ。

つまりそういうことだ。奇跡なんて狙って起こせるものではない」

「その錬金術師は、どんな奇跡を起こそうとしたんだ」

「知らないな。

私が受け取ったのは奴の遺書だけだ。だから奴が死んだということしか知らない」

「そうか。

変なことを聞きに来て悪かったね」

「別に変ではない。疑問を得て解消しようという動きは良いことだ。

今の状況ならそんな疑問を抱きたい気持ちもわかる」

「そう、ありがとう。おかげで覚悟が確実なものになったよ」

そう言ってキアラは部屋から出ていった。

キアラの足跡が聞こえなくなった頃、黙っていたディアがカルラへ話しかけた。

「らしくない回答だね。キアラが勘違いしちゃったじゃないか」

「らしくないっていうのはどういうことだ」

「バカな錬金術師というのがどんな奴だったのかは私は知らない。でも少なくとも私が知っているカルラは結果だけで失敗か否かを判断するやつではない。

その錬金術師は確かに死んだかもしれないが、それは過程で実は望んだ結論が導かれていたかもしれないんじゃないの?

なぜキアラに嘘をついた」

ディアは珍しく鋭い目つきでカルラをにらみつけた。

カルラは感情のない顔でディアの顔を見つめた後に話した。

あのバカが証明したかったことがなんなのかがはっきりしないというのは事実さ。
あいつは遠回しなやり方でもやることはいつでも正しかった。きっと死んだことに意味がある結論が出た結果なのだろうと思いたい私がいることも確かだ。

それに、真実をそのまま伝えて良いことと悪いことがある。

特に希望というものには期待を込めてはいけない。

キアラには最後まで従順な従者として生きてほしいからね、彼女の思い込んだ結果は私には望ましい結果だ」

「ひどいねカルラは」

「それよりも脳内情報のバックアップだが、やはり実施は無理なレベルだ。

記録をとった時の脳波情報は保存できても、それは一時的で断片的な記録だ。

今の技術レベルではディアの脳内情報や思考が全てコピーできるようなものではないようだ」

「うーん、そうなると脳みそだけ培養液の中に浮かべるしか方法はないか」

「感心しない結論だ。

身体の替が効いても脳本体の電源が切られたら全てが終わることに変わりはない」

「分身全てが私となることは未だに成功できていない。そうできればいいのに、本体となる体が必ず一つ必要なのが現状の問題でしょ」

「今回は8体同時だからな、情報過多で本体がイカれることは否定できない。でもやる気なのだろう?」

「もう時間がないし、仕方がないさ。強化した本体が耐えてくれることを願うよ」

そう言った後、ディアはカルラの手を握ってきた。

「カルラ、カルラはバカな錬金術師のように自分を犠牲にして仮説を証明したりしないよね?」

「そうだな。サピエンスが私だけになって責任とって首を切ることになれば死んで人類の負けを証明しないといけないかもね」

「ふざけたことを言うんじゃない。裏切るんだったら私にもちゃんと教えてよね」

「まあ・・・私はできる限り、人類を信じるさ。

今の人類に勝ち目なんてないとわかっていてもね」

 

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