【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-1 人になった者と人でなし

容器から出てきたキュウべぇをディアがクローン体の調整を実施する部屋へと連れて行った。

そこで私はキュウべぇへ薄着のシャツを着せ、髪を乾かし始めた。

キュウべぇの体の色に合わせて髪は白髪にしていて、ディアのDNAを流用しているせいか、長髪でありながら触り心地はディアそっくりだった。

髪を乾かしている間、キュウべぇは表情を変えようとしなかった。
感情がない生き物だったし、感情一つ見せないのは想定内のことだ。

乾かし終わった髪を、私はツインテールになるよう整えた。

「どうだ、元の姿に似せてみたが」

「ボクは見た目なんて気にしないよ」

「そうかい」

私はキュウべぇをそのままの姿で私の部屋へと連れて行った。
裸足のまま歩かせたがそれでも特に表情は変えず、私の部屋へたどり着くまでは私の靴音とキュウべぇの足音しか聞こえなかった。

扉の鍵をかけて私が椅子へと座ってもキュウべぇは何も話し出そうとせず、その場にじっと立ったままだった。

「座ればいいじゃないか。いつもの体でも話すときくらい座っていただろう」

キュウべぇはしばらく足元を見て考え込み、最終的に座りはしたのだがあぐらの姿勢だった。
ディアはあぐらで座る癖はあるが、あいつのデータは根こそぎ抜いておいたはずだ。
動物が人間になったらあぐらの姿勢をとりやすいとでもいうのだろうか。
無駄に観察項目が増えてしまった。

あぐらの件についてメモを取り終えると、私はキュウべぇへと質問をしていくことにした。

「気になっているんじゃないか、どうしてその体に入れることができたとか、何が目的なのかとか」

「ボクは現状確認に忙しいんだ。

元の体に戻れないし、個体数だってここにいるボク1体以外に確認できない」

私はしばらくキュウべぇを見つめていると、何かに気づくようにハッとしてこちらをみた。

「書き換えたというのか、ボク達が使う体の情報を」

「最初に見せる表情にしてはいい感じだな。

お前達の中枢へ直接アクセスはできていないが、お前達の個体をいくつか捕まえて体への情報の出入りを観測しているうちに体へ情報を入り込む仕組みは解析が完了した。

まあ、全ては魔法少女が使用する波形観測の副産物ではあるが」

「だからと言って入れ物を変えることができるなんて」

「それは私が驚くことだ。

一個体の意識だけ人の体へ入れられればいいと思っていたが、まさか制御権丸ごと移行されていたなんてね。

他者に観測されることは想定できなかったのか」

「人類が僕たちに干渉できるだなんて想像もしていなかった。

ボクにだってわからない、こんなことになるだなんて」

キュウべぇが困ったような動きをするのは新鮮であった

「どこかで自分たちは人類よりも上位の存在であるとおごっていたのだろうな」

「ボクたちにそんなものはない」

「だが人類はここまで到達することができた。
こんな可能性もろくに予見できないならば、お前たちは十二分に無意識な傲りを持っていたのだろうよ」

キュウべぇは無表情のまま真っ赤な目でこちらを見つめていた。
きっと今までの流れが煽りなのだろうとこいつは理解していないのだろう。これは理解できなきゃ人間も同じ反応をするか。

「それに、お前をその体に入れた目的はしっかりある」

「その目的というのは?」

「お前、利用する前に感情について調査を行ったんだろう?本当に人類に頼るしかなかったのか」

「ボクたちに感情というものが出るのは稀な精神疾患でしかない。
意図的に発生させられるものでもなかった。だが、宇宙を探し回り、生まれた生命誰もが感情を持つ君たちを見つけたんだ。
協力してもらう以外に方法がないだろう」

人の感情についての不思議はいまだに解決されていない。
感情を持つ人自身でさえ、感情というものを何故持つのかをはっきりと理解できていない。

「そんな不確かなものによく手を出したな」

「宇宙の寿命を延ばす必要があったんだ」

こいつらは本当に徹底的に探究を行ったのだろうか。ならば、なぜこれを試さなかったのかが気になる。

「それで目的なのだが、人の体へ入れば感情が生まれるのではないかと思ってね」

「人の体にだって?」

「感情というものを自由自在に操れるのは全ての生物の中で人間だけだ。
人間以外の動物も感情というものは存在するらしいが、人間ほど多彩には持ち合わせていない。

魂と体で分離して考え、魂が感情を生み出していると仮定すれば他の動物に感情があってもおかしくない。
だが、なぜ人の魂にだけ多彩な感情が与えられていると言えるのだろうか。魂は皆等しい存在ではないだろうか。
魂の時点で優劣が存在するならば、それはこの世界を作りだした存在の欠陥だといえよう。

魂は皆等しいと仮定し直そう。感情を生み出せるのはその魂が入る器に影響されてではないかと。

ならば、多彩な感情を生み出すであろう人の体に、感情を持たない魂を移せば多彩な感情を手に入れるのではないか。

これはその実験だ」

「なんてことを思いつくんだ。

そんなことだと証明されればボク達は」

私は腰につけていた拳銃を取り出して、躊躇なくキュウべぇの左腕を撃った。

腕を銃弾が貫通し、キュウべぇの左腕からは血が出てきた。

キュウべぇは苦しそうな表情を見せ、痛みに耐えようと体を震わせていた。

「なんだこれ、君たちが言う、痛覚ってやつなのか」

「今は私と対等だと思ってくれるな。」

私はもう一発キュウべぇの左腕へと撃ち込んだ。

今度はキュウべぇは悲鳴をあげて左腕を押さえていた。

キュウべぇの悲鳴、新鮮で少し嬉しくなってしまった。

私がキュウべぇの額に銃口を当てると、キュウべぇは恐怖を覚えたような表情をしていた。

「今お前は恐怖の感情を覚えた、違うか?」

「そんなの、知らない。

この逃げたいと思うこと、それが恐怖だというのか」

私は拳銃をしまい、救急箱を取り出した。

「もっといろんな感情を覚えるといい。

これを使え。止血と鎮痛を一度に行える救急キットだ」

その救急キットを使用したことで、キュウべぇの体の震えはやっと止まった

「人の体というのは欠陥だらけで不便すぎる」

「知恵を得た代償だ。100年生きられるだけまだ十分だろう」

私はここまでの表情変化についての経緯を記録した後、私的なことをキュウべぇへ聞いた。

「お前はヨーロッパで活躍した錬金術師のことを知っているか」

「錬金術師と呼ばれた魔法少女はたくさんいたが、それがどうしたんだい」

部屋の監視装置は停止してあり、盗み聞きされる隙はない。

今なら聞いても問題ないだろう。

「聖遺物争奪戦に参加していたという”キミア“という女に覚えがないか」

「キミアか。魔法少女になることを拒み続けた多くの錬金術の祖となった人物だね。

確か君も近くにいたね、カルラ」

「あいつは今どうしている」

「死んだよ。

世界を変えるために聖遺物を大量に行使して、呪いに耐えきれなくなって暴走してね」

「そうか。あいつはもうこの世にいないのか」

 

キミアとの付き合いは昔の出来事になる。

錬金術というものが周知されるよりも前の時代、元素という存在が一部の哲学者からもたらされ数百年したころ。
あの時代にはあり得ないと思えることを実現させようと試みる者が増えていた。
私もその1人だった。

すぐに火をつけられる道具があると便利だろうと考えた私は、火が付くものについて調べるようになった。
そんな中、酒を飲んでいる男がろうそく周辺に酒をばらまくと、その酒を伝ってその酒場が一気に燃え盛ってしまったという事件を聞きつけた。
そこからヒントを得て、私は火をつける液体を見つけ出し、その町では一目置かれる存在となった。

そんな私の話を聞きつけて、ある人物が私を訪ねてきた。
その人物の名は忘れてしまったが、彼は錬金術師だと名乗っていた。

私はその錬金術師に連れられて、学院と呼ばれている場所で知恵をつけていくこととなった。

あらたな実験を行うために、私は素材をとりにある錬金術師の元へと訪れていた。

そこにはその錬金術師へ何かを教えている少女がいた。

「あの、頼んでいたものを取りに来たのですが」

「なに、今が肝心なところなんだから静かにしていてちょうだい」

見知らぬ少女にそう言われて何をしているのか気になった私はそっと何をしているのか観察した。

どうやら毒性を取り除いて良質な回復薬品を作る術の最中だったようだ。

その少女が教えていたのは複雑ながらも最適な方法だった。

とはいえ、そんな方法であれば生成結果は想定よりも少なくなってしまうことが私には理解できた。

中継させているアレンビックの行き先をよく冷やした容器にして結露させる量を増やしたほうがいい。

気化して逃げていく分が勿体無い」

横槍を受けてかその少女はムッとしてしまった。

「なに、私のやり方にケチをつける気?」

「最適な方法を助言したまでだ」

「なんなの、ここの創設者にケチをつける気?」

「創設者?」

「まあまあやってみようじゃないか」

教えられていた錬金術師は私の助言を取り入れて時間をかけてのぞみの回復薬ができていた。

その結果を見て少女は不機嫌そうな顔をして私に迫ってきた。

「この屈辱忘れないから。

あんたの住んでいる場所教えなさい!」

「私はここに触媒をとりにきただけだ。

来たいならついてくるといいよ。

で、あんたの名前は?」

「ここに通っていて私の名前も知らないの?

キミアよ」

これがキミアとの出会いだった。

後で知った話だが、ここらあたりで錬金術師という存在を生み出したのはキミアらしく、その豊富な知恵を前にして多くの術師はキミアとの会話を怖がったらしい。

確かにキミアの知識はすさまじく、世界を変えられる規模のものだってあった。
だが、そんな天才にも知識の穴はある。
彼女の知らない小技を口出ししているうちに、彼女は私の負け顔を拝みたかったのか私に付きまとうようになった。

負けず嫌いのキミアは私にいつも付き纏ってきて、わたしはいよいよめんどくさくなってきた。

「今日は魔法石の研究を行うんじゃなかったのか。
あれを扱えるのは一部のものにしか扱えないってのが不思議だがな」

「そうよ・・・だから、あんたに会わせたいやつがいるのよ」

「キミア?」

そう言われてキミアに連れられた私は、白い生き物の目の前へと連れられた。

「こいつは、なんだ?」

「ボクはキューブと呼ばれているものだ。
君たちには魔法少女の素質がある。とはいえ、君たちは特殊な生い立ちをしているようだね」

魔法石を扱える存在、それは魔法を扱える魔法少女のみが扱えるものだった。
魔法少女ではない私たちが扱えたのには、私たちに魔法少女の魔力が受け継がれているからだという。

「魔法少女は短命な子が多いが、その中で子を残すものは少なくない。
君たちに魔力が備わっているのはそのせいだろう」

私の父と母は普通の人間だった。母親は魔法少女なんてたいそうな存在でもなかった。
私はいったい何者なんだ。

その時は後にキュウべぇと呼ばれる存在の誘いを私たちは断った。
もちろんそれは魔法少女になるとどうなってしまうのかを徹底的に聞いたというのもあるが、願いひとつで何もかも変わってしまうことが気にくわなかった。

あれからしばらく、私たちは魔法少女のことは考えないようにした。

のんきに研究の日々を過ごしている間に、キミアは錬金術師の祖としていつも以上に崇められるようになった。

キミアと記した錬金術の書物は多くの錬金術師が重宝するものとなり、錬金術師ならば持っているのが当たり前だと言えるくらいの書物も含まれていた。

私達はしばらく探究を共に歩んでいたが、ヨーロッパでの出来事をきっかけにキミアは変わって行った。

賢者の石の完成

万能の秘宝と呼ばれる賢者の石を最初に完成させたのはキミアだった。

しかしその作成方法は、人の命を使うものだった。

私も教えられた通り山間の集落へ魔法陣を施して実行すると人々の命が合わさって真っ赤な賢者の石が完成した。

キミアは得意げな顔をしていたが私は一発分殴った。

「人の命をなんだと思っている。

こんなやり方、禁術になるのは明らかだ!」

「ふん、人の扱いなんてこんなものでいいさ」

「何を、言っているんだ」

「人なんて魔法少女を前にして何もできない。そのくせこの世界を支配しようだなんてさ。

カルラ、私は人に可能性を見出せなくなった。私は魔法少女に可能性を見出してみるよ」

「お前、まだ魔法少女の存在を気にかけていたのか」

「お前も魔法石を扱えるならば、魔法少女の末裔だということだ。
ここまで他の人と比べて肉体の劣化がお互いに遅いのもおかしいと思わないか」

「それはいろんな延命のための薬品を自分たちの体で実験した代償であって、血に混じった魔力の影響だなんて」

「人が学ぶには寿命というものは邪魔過ぎる。
カルラもどうだ、寿命なんて存在しない魔法少女についてもっと調べてみないか」

「そうかい。私はまだ人間を見限る気はない」

 

そしてジャンヌという存在がヨーロッパを救ったという頃、私はキミアと別れる日がやってきた。

キミアが勝手に私の体へ賢者の石を埋め込み、不死の存在へとしてしまった。

お揃いだと言っていたからあいつも自身に施したのだろう。

私は怒りのあまりキミアの胸ぐらを掴んでしまった。

「お前は、そこまで外道に成り下がったか!

不死になることがどれほど恐ろしいことか、錬金術師ならば理解しているはずだ!」

「そうさ。悠久の時を生きて見定めようじゃないさ。

魔法少女と人、誰がこの星の主導権を握るに相応しいかさ」

「そうか。

私は人の可能性を諦めたわけではない。そう伝えたはずだ!」

私はその場を去る準備を始めたが、キミアは優しそうな表情を見せるだけだった。

「ここからは別々の探究を進めるとしよう。

さよならだ、キミア」

「ああ。道は違えど、親友であることは変わらないでくれるか」

「そうだな、お前と親友という関係は、変えないさ」

それから私は身を潜めながら人間が持つ障害の一つである言葉の壁を解決する方法を探し、脳波の研究を行うに至った。

世界の技術力が上がり、私は錬金術師ではなく研究者として身を潜めるようになった。

そんなある日、久しくキミアから手紙が届いた。

どうやって居場所を突き止めたのか。

”私は悲願を成し遂げる準備ができた。

これが成功したら、お前よりも先に、私の考えが正しかったという証明になるだろう。

聖遺物

これがあれば、世界中の人々を断罪できる。

全てが解決した世界でまた会おう“

聖遺物

そう、あの頃は魔法少女の間では聖遺物を争奪する動きが強くなっていた。

魔法少女の魔力が籠ったそれを使えば呪いが降りかかる。

そんな危険なものに可能性を見出したというのか。

あれからキミアとの接点はなかった。

だが死んだとわかった今、聖遺物の使用は失敗だったのだろうと悟った。

「まったく。ろくでなしの最後を遂げたか」

「でも彼女は魔法少女の弟子を取っていたね」

「あいつが弟子を取るとは、少しは心境の変化があったのか。

それで、その弟子というのは、生きているのか」

「今生きているのは日継カレン、紗良シオリ、ピリカだね」

その3人、今も生きているというならどこかで会ってみたいものだ。

まあ今はいい。キュウべぇの観察を優先しよう。

「さて、どこまで表情を変えられるか試しに行こうか」

私はキュウべぇを部屋から連れ出し、喜びの感情を教えようと思った。

どう覚えさせるかは、これから考えるさ。

 

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