【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-12 自由に錬金術を行える場所

ディアのクローン体がある部屋へ入るとすでにディアは目を覚ましていた。

そんなディアへカルラは話しかけた。

「日本ほど距離が開いた場所で2体を動かしても制御には問題なかったようだな。

だが、体を取り替えたのか。どこに影響があった」

ディアは少し不機嫌そうにカルラへ答えた。

「目が覚めるととても気持ち悪くなってさ。

急に鼻血も出始めたからこりゃダメだって別の体に変えたよ」

「そうか。

脳へかかる負荷が体の限界を超えたのかもしれない。

そろそろ人体での運用には限界があるのではないか。脳内の電気信号ではなく魔法石を介した処理負担の軽減をいい加減に行った方がいい」

それを人体に組み込めないか今新しい素体へ試している最中だよ。

それよりも」

ディアは素体が成長中の一つのカプセルを指差した。

「私が眠っている間に一体持ち出したでしょ!」

「何も言わなかったのは悪かった。

ちょうど良いものだったからついな」

ディアはカルラからキュウべぇに視線を移した。

「私の体に入っているお前は誰だ」

「ぼくだよ、キュウべぇだよ」

その話を聞いてディアは驚きもしなかった。

「ああ、インキュベーターを捕まえてそれをどうするかの結果か。

わざわざ人型じゃなくてもって言ったのに」

「体の形状も影響するかもしれないだろ」

「ならこうもう少し耳を獣っぽくしたり尻尾生やしたりさ」

「ディア、私たちはインキュベーターを使役するわけじゃない。

ただの実験材料だ」

「んで、インキュベーターの魂をそこに入れただけ?

まだそこらへんで捕まえられる?」

ここでキュウべぇが話に割り込んできた。

「いや、この体に意思が固定されたことで今までの体は使えなくなってしまったんだ。

そういうわけで今君の目の前にいる僕しか人と接触する術はない」

「は?なにそれ面白すぎなんだけど。

でもそこに意思が固定されただけってこともあるのか。

ねぇ、自分で死のうとは思わないの?死んだら元の体に戻れるかもよ」

その話を聞いてキュウべぇは横に首を振った。

「悪いが命を自ら断つという行為自体が理解できないんだ。

自殺という考えを持っているのは君たち人間だけだ」

「じゃあ今教えてあげる」

ディアは腰につけた拳銃をすぐに撃てる状態にしてキュウべぇへ渡した。

「銃口はわかるでしょ?

それを自分の頭に向けて引き金を引くだけ。

簡単でしょ?」

キュウべぇは拳銃を手に取ろうとはしなかった。

「どうしたのよ、まさか命が惜しいわけ?」

「そうだね。

今この体を失うと二度と人類と接触できなくなるかもしれない。

そんなリスクを抱えたまま試そうとは思えないよ。

僕たちも目的があってこの星にいるわけだし」

私たちにとっては死んでいなくなってくれた方が有益だと思うけど

ずっとディアとキュウべぇのやり取りを見ていたカルラは話し始めた。

「ディア、せめてインキュベーターの本体へアクセスできるまでは待ってくれ

こいつらの知識は人智を超えたものというのは確かだからね」

ディアはむくれた顔をカルラに見せてから拳銃をしまい、プンプンしながら伝えた。

「じゃあ殺さない程度にインキュベーターで実験させてよ。

勝手にクローン体を使ったことまだ怒ってるんだから」

「構わないさ。死なない程度にね」

キュウべぇはカルラの返事を聞いてなんと驚いた顔をカルラへ向けた。

それを見たディアは珍しく驚いた。

「あんたそんな顔できたんだ」

「少しだけ感情の実験を進めたからね。

ほら、いくぞインキュベーター」

「待ってくれ、僕の了承なしで話を進めないでくれないかい?」

キュウべぇはカルラに連れられるように部屋を出て行った。

静かになった部屋の中、ディアは成長中のクローンを見ながら考えに耽った。

そういえば私以外の意思が入ったクローン体と会話するのはいつぶりだろうか。

 

私の家は魔女裁判を逃げ延びた錬金術師の家系で、という話は父側のじいちゃんから聞いた話で両親は錬金術についてはからっきしだった。

私も最初から錬金術に興味を持ったわけではない。

小学にあがる前から生物に興味を持った私は、よく生き物の部位を傷つけたり引きちぎったりしていた。

触覚を失った虫はまっすぐ歩けるのか、骨格だけになった鳥は走ることを覚えるのか、虫の羽は再生するのか。

人の感情を理解するのも周りの子より遅かったようで、小学校の頃はよく他の子へ暴力を振るって泣かせていた。

それはただのいじめではなく、痛みで笑顔になるのかという純粋な疑問であった。

ここまでの行為が探究心のみの行動であることは誰にも理解されず、サイコパスと判断されて普通の学校には通えなくなった。

それから私は学校という場所には行かなくなり、色々教えてくれる父側のじいちゃんのところへ行っていた。

そこでは普通の勉強の他に、錬金術に触れさせてくれる機会があった。

この時に私には錬金術の素質があることを知った。

そんな知識欲を満たす日々は長くは続かなかった。

父側のじいちゃんは老衰で死んでしまった。

じいちゃんが死ぬ間際に私へ秘密の言葉と呼ばれるものを教えてくれた。

その言葉をじいちゃんの部屋の至る所で唱え続けると本棚が反応して扉が出現した。

そこには錬金術の道具や本がたくさん詰まっていた。

しかしばあちゃんも後を追うようにすぐに死んでしまったため、じいちゃんの家は取り壊されてしまった。

無事に持ち出せたのはほんの一部で、その持ち出しに気づいた両親は私にひどく怒った。

「錬金術なんてものには興味を持つな」

そう言われてから私は両親には関心が向かなくなった。じいちゃんが教えてくれた素晴らしいものを「あんなもの」としか言えないのが親だったなんて。

もう、こいつらはどうでもいい。
そう思いつつも生きるためには食べなければいけなく、そのためには金も必要だったので仕方がなく親の前では「いい子」を演じ続けた。

ある日、両親に連れられて何かの社交会へ行くことがあった。

それがなんの目的だったかわからなかったし、すぐに帰りたいという思いが強かった。

好きでもないドレスを着せられて、私は嫌になってテラスに出て星を見て気を紛らわしていた。

そんな私に声をかけてきた女性がいた。

「ずいぶんと退屈そうじゃないか?」

私は他人と話すことが久しぶりで、なんて返せばいいのかわからず再び空に目線を戻した。

すると女性が私の隣に来て1人で話し始めた。

「星の力を利用するというのは物の例えで、肝心なのは夜であることというだけだ。

北極星を指すと言われるこの道具だって、実は北極点あたりを指すことと起動するのが夜限定というだけで、今考えれば夜間限定のコンパスというしょうもない物だ」

天球型の物体が女性の手の上で浮き上がり、天球の周囲についている輪っかの特に尖った部分が、北と思われる方向を指していた。

私は思わずそれに注目してしまった。

ここに集まる物たちもかつては貴族や高位の錬金術師と呼ばれた物たちの末裔で、昔は討論会や技術の披露宴などそれっぽさはあった。今となってはただの人間のパーティというしょうもない物だ」

女性はある石を私に向けながらこう言った。

「君はしょうもない人間か?」

私は少しイラっときて話し始めてしまった。

「両親はしょうもない人間よ。でも私は違うわ。
命について錬金術で試したいのよ。あなたはなんなのよ!」

すると女性が持っている石が青く輝き出した。

「そうか、君はまだ情熱を忘れない錬金術師だったか。

ならば行ってみないと思わないか?

自由に錬金術を行える場所へ」

「ほんとうか?

そんな場所に連れて行ってくれるのか!

行けるならば連れて行ってくれ!」

「OK。私はカルラだ。

君は?」

「ディアだ。さあ早く!」

カルラとの出会いはそんな感じ。

それからはカルラが社交界での出来事をでっち上げて、両親へ私をカルラが預かる理由を作り上げて私を両親から引き離した。

両親のことなんてもうどうでも良かったから都合が良かった。

でも大学への特別入学という結果を残さないといけないらしく、久々に勉強らしい勉強をカルラに叩き込まれた。

私が勉強に疲れた様子を見抜いては合間に錬金術も教えてくれて、じいちゃんといた時間以来に充実した日々を送った。

そして初めて生み出した生命体は、見事に失敗した。

この時は正当な成長過程を経ずに肉体を直接作り上げる禁忌の人体錬成を行った。

作り上げられた化け物は鼓膜を貫く奇声を上げて、そのせいで私の耳は使い物にならなくなった。

そんな部屋へカルラが入り込んできてヘッドフォンのようなものをした状態で刃が青白く輝く槍を持ち出して、奇声を上げる化け物を頭から真っ二つにした。

化け物は臭い液体になって原型はその場から消えた。

カルラから何かを言われても聞くことができなくなった私は、ジェスチャーで耳が聞こえないと伝えるしかなかった。

カルラは部屋を出ていき、しばらくすると野球帽をなぜか持ってきて私に被せた。

その後にカルラが話すと、なんと会話内容が脳で理解できた。

「私の考えが伝わるか?」

[すごい。わかる!カルラの伝えたいことがわかる!]

「これで禁忌と言われる理由がわかっただろ?

体が吹っ飛ばなかっただけ幸運だ」

[…私を止めなかった理由はあるの?]

「ディア、実験はやって初めて空論から確かな結果に変わる。

危険だと伝えて真に何が危険かを理解できるものはいない。

だが今把握できたじゃないか。

人なんてこんな過程では生成できず、自分の身が危うくなるだけだから禁忌なんだ」

[ええ、身に染みて理解したわ。

人体錬成の前に耳を使い物にできるものを用意しないと。

大学入試試験も近づいているし]

「わかってる。ささっと作ってくるよ」

その後私は見事に大学へ合格し、カルラが入っている研究室で一緒に研究を行うことになった。

天才児と騒がれたこともあったけど、サイコパスを前面に出した途端にみんな私から離れて行った。

そして私は研究と錬金術の経験から、人の寿命はどうあがいても限られているため長寿を目指すのは現実的ではないという結論に至った。

そこで私はクローンを生成して脳内情報はそのままで体だけ取り替えて擬似的に不死を実現させるという目標を見出した。

大きなカプセル内で正当な成長過程を踏んで私と同じ年齢くらいの姿形をしたクローン体第一号が完成した。

クローンは目を開けて周囲を見渡し、しばらくすると泣き出してしまった。

それもそのはず。この過程を踏むと脳は赤子と同然。

何者かわからずクローン体は泣き出してしまったのだ。

そんなのは想定済みで、カルラの協力もあって学習装置が用意してあった。それをクローン体に被せてしばらくするとしっかり喋りだして自らの意思で行動を開始した。

この成功をカルラへ伝えると、カルラは少し険しい顔をした。

「ディア、絶対外に出すなよ」

そう言われた理由はすぐにわかった。

クローンは私のクローンであることを認めず、1人の人間だとしてクローンを閉じ込めていた家から出ようと行動し始めた。

家の中はカルラが用意した結界のような物で破壊は行えないようになっていて、それでもクローンは破壊しようと壁や床を何度も叩きつけた。

そしてついには私にも襲いかかってきた。

私は処分するかと思い当たると、昔から自分に行いたかった実験をこのクローン体へ試すことにした。

脳を外付けにしても人は動けるのか、心臓は体が無くても動き続けるのか、どれくらいの温度の環境にいたら寿命が伸びるのか。

実際に行えたのは最後の寿命関係のものだけで、クローン体は凍死する最後まで私を恨んだ顔をしていた。

最初のクローン体の結末を知ったカルラと教授は驚くのではなく呆れた反応をした。

「カルラ、こいつはやばいと思ったがここまでとは思わなかったぞ」

「まあ、やりすぎだというのは承知ですがこういう人材が案外新発見するものですよ」

「やれやれ、しっかりこいつを責任もって見張るのだよ。

そのうち我々を実験道具にしかねない」

「もちろんですよ」

このクローンの生み出し方は失敗だった。

確かにクローンを生み出せたが、実現したいのは自分の体をただの入れ物として複製すること。

カルラに助言を求めると少し考えただけですぐに答えを出してきた

「真っ当な生物の誕生の段階を踏んでしまっているがために、体に命が宿ってしまうのが原因だ。

命が宿らない入れ物にしないといけないならば命の在処を理解しないといけない」

これが非常に面倒なものだった。

赤子は胎内でも命を持った状態なのかから始まって、魂は抜き出せるのかと実験しながら模索した。

そんな中、カルラから自我の複製実験に協力されてクローンに何度か自我を複製できないか試した。

その結果、クローンの種である頃から自我の複製情報を送信しておくとそのクローン体には自我が複製されたことが判明した。

何度目かのクローン体取り出しの際、私の脳内には自分と対面しているクローン両方の情報が入り込んできた。

服を着ているはずなのにクローン体の裸な感覚が伝わってきたり足が何故か裸足っぽい感覚がしたりとカオスな状態だった。

気づけば私は情報量に耐えきれず気絶してしまった。

とはいえ今では余計な魂が宿らないよう私の自我が常にアップデートされる専用カプセルを開発できたり、今では魔法少女の技術を使って地球どこでもクローン体を制御できるようになった。
そして魔法石というものを知って、最初の頃よりも増しに情報制御が行えて気絶する機会も減った。

本体の脳が破壊されない限り、いつまでも生きられる状態になったと言えるだろう。

ちなみに魔法少女と錬金術師は近しい存在だというのは、サピエンスに参加してからカルラに教えてもらった。

キュウべぇは私に目はつけていたものの、何をされるかわからないという理由で近づかなかったらしい。

思ったよりも臆病なやつだったよ。

そんなクローン技術がある中、カルラは体がある程度出来上がったクローンへキュウべぇの意思をいとも簡単に移植してみせた。

私の自我を常に送りながらクローンは育っていたはずなのに、横入りする形で別の意思を移植する技術がカルラにはあった。
もしかしたら、生きている人間へ直接別人の意思を移植するなんていうヤバいこともやろうと思えばカルラにはできてしまうのかもしれない。

まだ技術についてはカルラには敵わない。

カルラを越えようとは思わないけど、いつかはギャフンと言わせたいとは思っている。

「次にお前たちを動かしたら、いよいよ死ぬかもな」

次にクローン体を動かす時はここにいる奴らを全部動かす時。

強度を上げた体が間に合わなければ、いや、間に合ったとしても私は死ぬかもしれない。

せめて脳に流れる情報を大幅カットするくらいが精一杯か。

そう思いながらも今はキュウべぇを実験したいという思いが強かったのでクローン体が並ぶ部屋を後にした。

 

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