【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-9 神浜鎮圧作戦・その5

ポンベツカムイが姿を現した時、その姿を見ていろは達は驚きました。

「あれって、ピリカさんが呼び出せる首長竜じゃ」

「そうであればおかしいですよ。

だってあの人たちは」

そう話している間にひなのと衣美里が梨花とれんを背負ったまま急いでもどってきました。

「お前ら高台へ急げ!」

急にそう言われてなんのことかすぐには判断できなかったいろは達ですが、海でポンベツカムイが大波を発生させているのを見て何が起きるのかを察しました。

いろは達は近くにあった倉庫の屋根へと登って波をやり過ごすことにしました。

ひなの達も無事に屋根へと移動し終わった頃に波は海岸を飲み込んで行きました。

いろは達がいる倉庫付近には地上にいたとしてもくるぶしくらいの高さ程度しか波がやってきませんでした。

波がやってきた頃、海では試験艦が爆散し、陸地には数発の対地ミサイルが飛んできていました。

「一体何が起きているの?」

 

アリナ達の奇襲を受けて状況確認を行っていた自衛隊は、さらに謎の船が現れたことでさらに混乱していました。

そんな中でも魔法少女の居場所を監視するドローンは機能していて燦の裏切り行動や二木市の魔法少女が自由に行動できていることは筒抜けでした。

「高田1佐、この状況って」

「そうだな、本来ならばここで警告して聞かないようであれば、これを使わなければならない」

高田一佐が手に持った起動装置を見ていると、司令部にはそんな魔法少女達の動向で新たな報告が入ってきていました。

「空から複数の魔法少女が現れたと言う報告があります。
ミサイルから飛び出してきた存在と同一と思われます」

「被害状況は」

「ミサイルによるものと飛び出した魔法少女によるものと2種類ありますがどちらでしょうか」

「ミサイルによる被害は把握できている。後者だ」

「では…。

主に被害を受けているのはサピエンス直属の部隊のようです。
対魔法少女に慣れていない我々では参戦は困難だと部隊長達から声が上がっています。

いかが致しますか」

「要である船隊は壊滅して地上は混乱。

残存兵の救助を優先して神浜からは撤退するように各隊へ伝えろ」

「よろしいのですか?!」

「これ以上命のやり取りは無駄だ。早く伝えろ!」

「りょ、了解」

「それよりも日本海側の様子は」

「はい、間違いなく日本海域ギリギリで中華民国の艦隊が待機していることを確認しました」

「防衛大臣からは何もないのか」

「それが、防衛大臣からは何もないのですがこちらへ向かっているという話を聞いています」

「大臣自らだと、一体どういうことだ」

 

戦場ではミサイルから飛び出してきた魔法少女達が活動を開始していました。

「いやぁ、案外なんとかなるものだね」

そう言った魔法少女は工匠区付近で青白く輝くナイフを取り出して特殊部隊が隠れている瓦礫へ投げ込みます。

そのナイフは瓦礫へ突き刺さった途端に爆発し、爆散した瓦礫の一部が特殊部隊達を襲います。

「なぜここがバレている!」

「内部情報が筒抜けだって噂、本当かもしれないな」

「いいからあの化け物を止めるぞ!」

特殊部隊はナイフを持った魔法少女以外に1人他の魔法少女が迫ってきていることを察知し、アンチマギアを周囲に散布しながら魔法少女がいると思われる場所へ迎撃を行います。

しかし手応えはなく、魔法製だと思われたナイフはアンチマギアを貫通して地面に刺さったナイフは接続されていた起爆装置が作動してどのみち爆散してしまいました。

その爆風でアンチマギアが離散し、その隙間を縫うようにもう1人の魔法少女がマグナムを数発撃ち込み、これにより兵士が1人即死、複数人が怪我を負ってしまいました。

そんな様子を見てマグナムを撃ったカウボーイ風の魔法少女は嘆きました。

「どうした?ヨーロッパから出張してきたにしては情けないじゃねぇか。
これじゃあ一方的にこっちがぶっ殺すだけになるじゃねぇか。

ほら、どうした!」

カウボーイ風の魔法少女は現物のマグナムを交えることでアンチマギアをモノとはしない戦いを繰り広げます。

そんなカウボーイ風の魔法少女は目の前の兵士を殺すことに夢中になっていたのか、回り込んだ特殊部隊員には気付いていませんでした。

その兵士に対してはナイフを持った魔法少女が気付き、ナイフを投げるとそれは首を貫いて兵士は首と口から血を出しながら倒れました。

「回り込まれるとは油断してるんじゃないか?」

「なに、やり用はあったさ」

工匠区 栄区寄りの地域ではサピエンス側の魔法少女達をどこに待機させようかと話し合っているところにミサイルから飛び出した魔法少女の1人が飛来してきました。

その魔法少女は修道女のような服装で、廃墟に対して魔法で生成した岩を投げつけると、そこからサピエンスの特殊部隊が飛び出してきました。

特殊部隊員達は岩を生成する魔法少女に対してアンチマギアとアサルトライフルで応戦しますが、それらをすり抜けた岩石が反応しきれなかった1人の隊員の顔面に直撃して即死してしまいました。

岩を生成する魔法少女は岩の壁を生成させながら十七夜達がいる場所まで後退してきて話しかけました。

「what are you doing here!」

「ここで何をやっているだと、まずお前は誰だ」

十七夜は岩を生成する魔法少女に対してそう聞き返すと、相手が困った顔を少しした後に何か閃いたように十七夜を見ます。

[ごめんごめん、これの方が通じるか。

少なくとも私たちは味方だよ]

[そうか、考えたな。

だがお前達が何者かはっきりしない以上、信用するわけにはいかない]

[信用なんて今はいい。あの兵士たちは私たちが相手する。

神浜のあんた達は避難にでも専念しな。信用するかどうかは任せるけど、ここに棒立ちしてると間違いなく死ぬよ]

岩を生成する魔法少女は十七夜へそう言って岩の壁の向こう側へ行ってしまいました。

壁の向こう側では既存の岩を操って特殊部隊を蹂躙し始めています。

壁の向こう側で特殊部隊員の悲鳴しか聞こえない中、十七夜へ令が話しかけます。

「あいつのテレパシーは観鳥さん達にも聞こえました。

ここはあいつを放っておいて避難を優先させませんか。

別地域の魔法少女と戦ってみんなクタクタですよ」

十七夜が一度保護した魔法少女、一緒に戦った魔法少女達を見ると疲れた顔をしているものが大半でした。

「そうだな。

我々はいまできることに専念しよう」

「工匠区に該当する他の場所でも特殊部隊が紛れていたなら、中央寄りに避難した方がいいと思うけど」

「栄区のキャンプは健在らしいですよ。そっちに行きましょうよ!」

「そうか、では移動だ。

動ける者は動けない者の手助けをしろ」

東側の魔法少女達はこうして栄区への移動を開始しました。

 

南側には2人の魔法少女が飛来し、その2人は真っ直ぐマッケンジーたちの部隊へ向かって行きました。

[おいおい、予定より数が多いよ]

[数が多かろうがぶっ飛ばせばいいだけだ]

マッケンジー達は迫ってきていた大波を携帯式緊急救命ボートでやり過ごしていて、倉庫の陰で情報集めをしていました。

上空から魔法少女がやってくると知るとマッケンジー含んだ3人の特殊部隊員がグラップリングフックで倉庫の屋根へ登ってやってくる魔法少女を迎え入れる態勢をとります。

1人の魔法少女は銀製の翼を広げて鋭い銀の羽を地面へ向かって五月雨に放ちはじめました。

マッケンジー達は移動しながら銀の羽へアサルトライフルで弾幕を張って屋根へほとんど羽を寄せ付けません。

流れ弾は降下中の魔法少女が拡げる傘にも当たりはしたものの、予定通り傘が空中分解すると、もう1人の魔法少女は魔法性の青白く輝く鞭を4本倉庫の屋根に放ち、その鞭より前方へ飛び込むことで屋根から抜けようとする鞭でブレーキがかけられて荒々しく着地しました。

そこへマッケンジー達がアサルトライフルを撃とうとしましたが、空を漂う銀の羽を放つ魔法少女によって妨害されてしまいます。

マッケンジーは鞭の方、残り2人は銀翼の魔法少女を相手にすることにしました。

その判断は一瞬のアイサインで済んだようです。

2人が銀翼の魔法少女を牽制している中、マッケンジーは鞭の魔法少女へ突っ込みながら背中に背負っていた直剣を引き抜き、柄頭を引っ張ると直剣の先が割れてさらに長い大剣サイズと変化します

飛び出た刃は紫色に輝いていてそれはアンチマギアが練り込まれていることがすぐにわかりました。

鞭の魔法少女はマッケンジーへ鞭を放ったものの大剣によってあっさりと切り落とされてしまいました。

鞭はそのまま消滅していき、マッケンジーが大剣を振り下ろし、それを避けるように鞭の魔法少女は後ろに下がります。

マッケンジーは振り下ろした勢いで前転し、1回転する頃には腰のサブマシンガンを鞭の魔法少女へ向けていました。

焦った顔をしながら鞭の魔法少女は袖から実体のある鞭を伸ばして、器用にしならせてサブマシンガンを防ぎます。

そのままサブマシンガンが放たれることはなく、その場からマッケンジーが移動したと同時にマッケンジーがいた場所には銀の羽が突き刺さっていました。

「この強さ、こいつらサピエンスの本命か」

マッケンジーのインカムへ通信が一つ入りました。

「魔法少女の反応がない場所まで撤退完了。

よってSとN班についてはクリアです。

EとWは応答なし」

「OK。我々の役目は終わりだ」

マッケンジー達はその場で数個のアンチマギアグレネードを放って煙幕のようにアンチマギアが散布されました。

その隙に3人はグラップリングフックを活用してあっという間に戦線を離脱してしまいました。

「ちくしょう、なんだあいつら」

ここまでの一部始終をいろは達はただ見ることしかできませんでした。

「なんだあれ、あいつらの動き目で追えなかったぞ。

魔法少女と戦ってたの、人間だよな?」

「違いないわ。人間にも魔法少女を簡単にあしらえる存在がいるってことよ。
他では好き放題できてるって話もあるし、質はバラバラなのかしら」

みんなが唖然としている中、マッケンジー達と戦っていた2人がいろは達のところへ近づいていきます。

[あんた達は何が目的でここにいる?]

この問いに回答したのはやちよさんです。

[私達は救助が必要な魔法少女がいないか探しているところよ。

あなた達はなんなの?]

[大事な安全地帯を守りにきた。

占領しようだなんてわけではないからそこは勘違いするな]

テレパシーのやり取りに銀翼の魔法少女が飛んだまま割り込んできます。

[私たちが知りたいのは、お前達は生きることに専念しているのか、兵士達を殺すことに専念しているのか。

どっちなのかだ]

その問いかけにはいろはが答えました。

[生きるため、です。

この後私達は、救助活動に戻ります]

「ダメよ、まずはいろはを安全な場所に連れて行かないと」

銀翼の魔法少女と鞭の魔法少女は少し顔を合わせた後、銀翼の魔法少女がテレパシーで話しかけてきます。

[とりあえずあいつらを殺すのは我々だけでいいということはわかった。

後で詳しいことはミアラから聞くことになるだろう。しっかり生きろよ]

そう言って銀翼の魔法少女は鞭を持つ魔法少女に向けて手を伸ばし、鞭の魔法少女はその手をつかんだ後、銀翼の魔法少女に抱えられる状態で特殊部隊が逃げた方向へ飛び去ってしまいました。

いろは達が少し思考を止めてしまっていると、さやかと杏子がやってきました。

「ここにきてって言うから来たんだけど、

もしかして終わっちゃった後?」

「えっと、そうなっちゃうわね」

「なんだよ、やっぱ急ぐ必要なかったじゃねぇか」

「いや助け求められたら急ぐでしょ」

見滝原組が話している間、ひなのはやちよへ話しかけました。

「あたしらは怪我人を抱えているから栄区へ行く。

お前達はどうする」

やちよはいろはの動かなくなった左手を見た後。

「私たちも栄区へ一度行きましょう。

これ以上いろはを連れ歩くわけにはいかないわ」

「じゃあ、目的地は栄区だね!」

この後いろは達は栄区へ、見滝原組は引き続きなぎさの捜索を行うことにしました。

 

北養区では一度落ち着いたので別の地域へ応援に向かおうとしていました。

そのためにみふゆ達が森を抜けた瞬間、正面から銃弾の雨が襲い掛かります。

その銃弾を避けられたのはみふゆと燦だけでついてきていた天音姉妹とミユリは銃弾の雨にさらされてその場に倒れてしまいました。

「そんな!教官これはどういうことですか」

「私も紛れていたなんて知らない」

銃を向けている特殊部隊員はみふゆ達へ忠告を行いました。

「そのまま身動きをとるな。

今は大人しくしていろ」

みふゆは幻覚の魔法を使うタイミングを見計いますが、森の方から悲鳴と銃声が聞こえてきます。

W班が囮魔法少女、自衛隊が共に機能しなくなったと判断したためです。

撃たれた魔法少女の中にはSGボムを仕掛けられた魔法少女も含まれていました。

森の中の悲鳴が聞こえてみふゆはその場から動こうとしますが燦に止められてしまいます。

そしてテレパシーで話しかけます。

[みふゆさん、動いちゃダメだ]

[でもこのままでは]

[大丈夫だ、宮尾と安積を信じるんだ]

全くみふゆが安心できていない状況の中、銃声がした森の方から爆発音が聞こえてきました。

また特殊部隊が何か仕掛けたのかと思ったら特殊部隊員も何か驚いている様子で、彼らが想定していない爆発であることがわかります。

そんな状況の中、林の中から見慣れない魔法少女が走り込んできて、特殊部隊員が魔法少女の反応に気づいた頃には1人の隊員が湾曲したナイフを銃で防いでいました。

その魔法少女を遠ざけようと必死になっている隙に、みふゆと燦は特殊部隊員へ攻撃を行って特殊部隊員たちと距離を開けることができました。

隊員の中の1人がマッケンジーへ通信を行うと爆発音があった森の中からパチンコによって放たれた魔法の球が隊員の頭を捉えて、隊員の頭には穴が空いた状態で倒れてしまいました。

さらにもう1人には太い針のもののようなものが飛んできましたが間一髪で避けました。
しかし背後からナイフを持った魔法少女に刺されて殺されてしまいます。

「皆、離脱してマッケンジーと」

そう指示をしていた隊員に対してナイフを持った魔法少女が瞬時に迫り、その隊員はその場でアンチマギアを撒いたものの意識外から飛んできたニードルガンに貫かれて殺されてしまいます。

「フーン、良い反応だったじゃん」

みふゆ達が森の中を見ると時雨にはぐむ、そして灯花に見慣れない魔法少女が1人いました。

そして灯花がこう話し始めます。

「まったく、敵が尾行してくるような状況で私達を呼びに行かせるってどう言うこと?

頭ワルワルじゃないの?」

「灯花、それってどういう・・・

それよりもたくさんの魔法少女が撃たれてしまって」

[ソウルジェムが割れた者もいるが、徹底的に銃弾を撃ち込まれているだけの者もいる。

治療施設があれば良いのだがここにはあるのか]

そうテレパシーで話しかけてきたのは自然と灯花の横にいるニードルガンという太い針を銃のような者で打ち出す武器を持った魔法少女でした。

みふゆはどう返事をしようか少し迷ている中、みふゆ達に銃を向けていた隊員たちはナイフを持った魔法少女と戦う二人の隊員しか生きていない状況でした。

[な、なんなんですかあなた達。あの兵士たちを簡単にあしらうなんて]

ナイフを持った魔法少女が苦戦している様子を見ていたニードルガンを持つ魔法少女は、一発兵士に向けて撃ち込むとそれは隊員の脇腹に命中し、怯んだ隙にナイフで首を貫かれてしまいます。

残り1人が銃をこちらに向けますが灯花が傘を兵士に向けると炎の火の玉が弾丸のように上空から降り注ぎ、兵士はアンチマギアを展開させるものの爆風でまき散らされて無惨に燃やされて死んでしまいました。

「爆風だけでどうにかできちゃうんだから楽なものだね」

「え、ええと」

[そろそろ質問に答えてくれないか]

みふゆは頭の整理ができない中一呼吸して答えられることだけ答えました。

[以前はあったのですが、攻撃を受けてからはここらあたりでキャンプを構えようとしていました]

[それでこのザマか。

森林に潜む敵は殲滅したはずだから急いで撃たれた奴らの体から銃弾を取り出したほうがいい。

弾丸に含まれたアンチマギアが体に浸透して魔力で回復できず体が腐敗するだけになってしまう]

「そんな、銃弾を体から取り出すなんて」

「流石に私でもそんなことできないよ」

「ぼ、僕たちもそういうの専門外だし」

その場でやろうとする魔法少女は誰1人いませんでした。

「けっ、めんどくさいな。

アバ、弾丸取り出して行くから手伝え」

「わかったよー」

そう言ってアバと呼ばれる湾曲したナイフを持った魔法少女がニードルガンを持つ魔法少女へついていきました。

こうしてしばらくの間、北養区ではミサイルから飛び出してきた魔法少女を中心に銃弾で倒れた魔法少女の治療が行われました。

 

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-7 神浜鎮圧作戦・その3

特殊部隊か何か知らないけれど、魔法少女をキャッチするために、人間が魔法少女へ襲いかかった。

もっとハードでアメイジングな結果になると思っていたら、あっさりウィンしてつまらない日々が続いてしまった。

でも今目の前では、再び命の削り合いが起きている。

創作意欲が湧き出てきて、今目の前に起きているものをアートとして残してしまいたい!

「もう、アリナ先輩、ただ見ているだけでいいの?」

「ワッツ?

今でもいい感じなのにフールガールは何を求めるわけ?」

「だってほら、魔法少女同士が戦っているのに、人間はそれを見ているだけなの。

あの人たちも、アリナ先輩が望む芸術に参加させてあげたほうがいいと思うの」

「へぇ。

まあ確かに傍観だけさせておくのは癪だよね。

いいよいいよ!あいつらの命の輝きもこの神浜というキャンパスに添えてあげる。

言い出したんだから、フールガールも協力してよね!」

「わかったの!

いっしょに…

“人間を殺しに行くの!”」

そう、フールガールも、この街の魔法少女もみんな変わった。

みんなが殺し合いを躊躇しなくなっただけ、カレンには感謝だよね。

 

 

今目の前にはずっと一緒だと思った親友がいる。

刃を交えたのも、戦いの練習をする時くらいだった。

なのに、どうしてなの、静香ちゃん。

私が静香ちゃんへ命令した人の元へ向かおうとすると静香ちゃんが止めてくる。
逆らったらソウルジェムを破壊されると、静香ちゃんからそう聞いた。
その恐怖だけで、静香ちゃんは私たちの前に立ちはだかっているわけではない。

「あなた達に本当に守るべきものを、思い出させてあげる」

そう言って静香ちゃん達は私たちへ襲いかかってきた。

[旭ちゃん、あの人を追って!
旭ちゃんなら狙えるかもしれないから!]

[残念ながらそうはいかないであります]

[どういうこと?!]

[静香殿の後方には軍人達が控えているのを発見したであります。

我がここで見張っていなければ、奴らが参戦してきた時に我らは敗色が濃くなるでありますよ]

[そんな簡単に私たちは!]

[落ち着いてくださいちゃる]

[すなおちゃん]

[その兵士達がみんなアンチマギアを使ったらどうなると思いますか

静香も、巻き込むかもしれませんよ]

「さっきから動きが鈍いわよ!」

静香ちゃんの攻撃で私はテレパシーに集中できなくなりました。

静香ちゃんの攻撃をやり過ごすのがやっとで、動きをとらえきれない。

水徳寺で訓練をしていた時から、私は静香ちゃんより優位に立てたことはない。

このままでは倒されるだけだと思った時に、頭の中をよぎった言葉があった。

“人というものは常識にとらわれがちだ。

解決の道を見出せない場合は、時に非常識な行いで切り開かれることだってあるのさ“

等々力耕一が苦労した犯人がそう言っていたことを思い出した。

そう、非常識、静香ちゃんにとって非常識になること。

ならば!

私は静香ちゃんが突き攻撃をよく出してくる正面から突撃した。

「訓練から学べてないのかしら。そんなのじゃダメよ!」

そう言って静香ちゃんは予定通り突き攻撃をしてきた。

その剣はそのまま私の左腕の付け根を貫いた。

私は痛みよ消えろ!と心の中で唱え続けて本来来るであろう激痛を無視し続けた。

静香ちゃんが驚いた顔を見せる中、私はそのままの勢いで静香ちゃんの首元に齧り付いた。

いやぁああああ!

静香ちゃんが叫ぶ中、私は十手を空高く掲げて私ごと静香ちゃんを縛り上げた。

[ちゃる!何やってるんですか!]

すなおちゃんのテレパシーを聞くことなく私は静香ちゃんへテレパシーを飛ばした。

[諦めてくれないとこのまま首を噛みちぎるから!]

[やめて、ちゃる…人間を辞めるどころか獣に成り下がるあなたなんて、見たくなかった…]

[ほら、どうするの!]

静香ちゃんは涙を流すもののテレパシーには答えなかった。

そんな中、静香ちゃんを助けにこようとする子達を牽制しながらすなおちゃんが私の十手の紐を魔法で切ってしまった。

驚いて私が静香ちゃんの首から口を話した隙にすなおちゃんに抱え上げられ、そのあと私にすなおちゃんは私の頬を一発叩いた。

「冷静になってください。
人はやめていてもケモノになってしまうなんて許しませんよ!」

「でも、静香ちゃんに勝つにはこうした常識はずれなことじゃないと」

「勝ちにこだわって理性を失っては意味がありません!

少しは加減を考えてください。あのままでは静香もちゃるも死んでいたかもしれませんよ」

そう言いながら血が垂れ続けている左腕の付け根をすなおちゃんは癒してくた。

「あ、ありがとう…」

ドーン!

自衛隊達が待機しているという方向から爆発音が聞こえてきた

みんなが戦いの手を止めて爆発のあった方向を向くと、上空を飛ぶ魔法少女に向けて自衛隊達が発砲している様子を見て取れた。

「何が起きているの?」

状況を飲み込みきれずにいると、テレパシーで旭ちゃんが話しかけてきた。

[自衛隊は上空のものに注目しているであります。

今の隙であればに向こうに行った皆をこちらに連れ戻すチャンスであります!]

「そうか。

静香ちゃん、一緒に!」

静香ちゃんの方を見ると静香ちゃんはフラフラと立ちあがろうとしていた。

「どうして…」

静香ちゃんがそう呟きながら立ち上った。私が噛み付いた方とは逆側に首を傾げながら静香ちゃんはこちらを見ていた。

「どうして、そんなになってしまったの、ちゃる…」

「どうしたの静香ちゃん、私の声が聞こえていないの?」

「みんながちゃるのようになる前に、私が正さなければ!」

そういうと静香ちゃんからドッペルが出現して静香ちゃんのドッペルはこちらに殴りかかってきた。

「静香!」

すなおちゃんは叫ぶことしかせず、私は静香ちゃんの攻撃をわざと受けて穢れを満たしてドッペルを出現させた。

ドッペルの鉤爪が一つ一つ静香ちゃんのドッペルの腕を止めていき、7つ全ての鉤爪が静香ちゃんのドッペルの動きを止めた。

そして私は再び静香ちゃんへ襲い掛かる。

「このわからずや!」

「それはこっちのセリフよ!」

互いの武器が鍔迫り合い、互いに睨み合う中、静香ちゃん側のドッペルは腕が一つ自由に動かせるはずなのに動かない。

ドッペルが躊躇している?

もしそうだとしたら、私と本気で戦う気がないの?

「本気じゃないでしょ、静香ちゃん!」

「私たちの目的は殺し合いじゃない、そうでしょ!」

「だったらどうしたら私たちは元に戻れるの。

人に管理されながら一緒なんて、嫌なんだから!」

「そんなの私も知りたいよ!

わからないよ。みんながこっちにきてくれたら済む話。

それだけ。なのに」

「お願いだから…」

「わからないって言ってるでしょ!」

噛み合わない主張。いや、噛み合うことを拒んでいる。

互いの主張がぶつかり合い、その中で妥協点なんて優しいものは生まれない。

きっと、どちらかが折れなければ終わらない。

だから、止められないんだよ。

 

立ちはだかっている蛇の宮を中心とした二木市の魔法少女達は本気で私たちを殺そうとしている。

そうしなければ殺される、そう彼女達は言っていた。

その手は震えつつも、かつて争いあった時のように。

しかしその力量はたかが知れていた。

次々と蛇の宮の魔法少女達は神浜側についた二木市の魔法少女に膝をついていった。

ひかるの呼び出した軍団に拘束されて跪いたまま動けないアオに対して私は見下ろしながら問いかけた。

「あなた達の命が誰かに握られているのはわかったわ。

そいつらを叩き潰せばあなた達は安心できるのでしょう?」

「やめて!

その人達に歯向かった時点で、私たちはボタンひとつで殺されちゃうの!」

「ならば教えず死ぬか、教えた後私たちがミスをして殺されるか。

アオ、あなたが生きられる可能性はどっちだと思う?」

アオは震えて泣き出してしまった。

「分からないよ。

わからないけど生きたい、私はそれだけだよ!」

「だったら早くそのボタンを持った奴のことを!」

「あらあら、ここはもうギブアップなの?」

聞きなれない声の方を見ると重武装の少女がそこにはいた。

「そのまま殺されちゃうと実験の意味がないからさ、ほら、この町で出るっていう魔女みたいなやつだしてから死んでくれない?」

「あんた、こんなところに来て平気でいられると思ってんのか!」

そう言って樹里が少女めがけて火炎放射を大火力で放ってしまった。

その炎は少女と同じ姿をしたもう1人の少女の盾の目の前で打ち消されてしまった。

「な、もう1人同じやつだって」

「それに、次女さんの炎全然届いてないっすよ」

「魔法製のものが効くわけないじゃないか」

そう言いながら盾を持たない少女はスイッチのようなものを取り出した。

「まさかそれって!」

アオが言っていたスイッチという言葉を思い出して、アオ達に爆弾をつけた犯人であることにはすぐに結びついた。

しかし思考を巡らせている間に少女は数字を打ち込んでスイッチを押してしまった。

すると蛇の宮の魔法少女の1人のソウルジェムが赤くひかりだした。

「い、嫌だ!死にたくない、死にたくないいいいい!」

そう言って少女の方へソウルジェムが赤く光った魔法少女が走り出した。

その魔法少女を少女は掴んで、その体をらんかの方へと放り投げた。

そしてらんかの頭上でソウルジェムは爆発した。

爆発は人の体を包む程度の威力で、至近距離だと爆発に巻き込まれて体が吹き飛ぶかもしれないほどの威力だった。

らんかは自分の武器で爆発を防いでいたが、同時に血飛沫と魔法少女だった肉がらんかの目の前へ落ちてきた。

「な、なんだよ、これ」

「いやぁぁっぁぁ!」

皆が動揺して動けない中、私はすぐに少女へ殴りかかった。

するとすぐに盾を持った少女が前に出てきた。

「邪魔だ!」

盾ごと殴り潰そうと思って振り下ろした棍棒は盾に当たった途端に形を失っていき、持ち手部分まで砂のように崩れ去ってしまった。

「魔法が効かないって、武器まで分解してしまうの?」

盾を持たない少女はアオの方を見て話し出した。

「ほら、死ぬ気で殺し合ってよね、じゃないとあの子みたいになっちゃうよ?」

「貴様!」

樹里が怒りをあらわにしているとアオが何かを呟きながら起き上がった。

「…にたくない。死にたくない。死にたくない」

そう呟くアオのソウルジェムは真っ黒だった。

「じゃあ、あとは楽しんでね」

そう言って少女達はその場から離れていった。

「お前!待ちやがれ!」

追いかけようとする樹里の前にドッペルを出す魔法少女達が立ちはだかった。

「お前ら。

邪魔するってんならウェルダン通り越して炭にしてやる!

あんなもので消される前にさ」

樹里が放った炎をドッペルを出した魔法少女達は受け入れ、次々と焼かれていった。

「ふざけるなフザケルナふざけるなふざけるなふざけるな!!!!

樹里は涙を浮かべながら魔法少女達を燃やしていった。

「死ぬってわかってるなら少しは協力しろっつうの」

結奈はドッペルを出したアオに行く手を阻まれていた。

「わかってる。こうやって姉ちゃん達を邪魔することが間違ってるって」

「ならどうして」

「ワンチャンがないかって思っちゃったからだよ。

もし勝てたら、もし成功したら、今より長く生きられるんじゃないかって」

「今を耐えられてもまた次の戦場でいいように使われるだけよ!

ワンチャンスなんて都合のいいものは」

「もう嫌だよ、早く解放してよ。

お姉ちゃん…」

アオのドッペルのギロチンがアオの首目掛けて自由落下した。

そして飛び出た黄色の液体が人型になって結奈へと襲いかかった。

黄色い人形が襲い掛かろうとするとそこにひかるが現れて人型の動きを抑えていた。

「結奈さん、こいつはひかるが引き受けるっす。

今のうちにアオさんのところへ!」

「助かるわ」

結奈はドッペルを出したままうなだれているアオの顔をあげ、目を見ながら言いつけた。

「私はあなた達を助ける方法を知らない。

でもあなた達を殺すスイッチを持っているあいつを殺せばそのスイッチが押されることは無くなるかもしれない」

話しかけてもアオは何も反応を示さなかった。

「あいつを殺すことに協力しなさい。

人間にいいように使われるのと、私たちに協力するの、どちらかを選びなさい!」

アオは返事をすることなくドッペルは消えてしまいました。

「結奈さん、アオさんは」

アオはその場で顔を上げることなく動こうとしませんでした。

結奈は周囲がどうなっているのかを確認した。
蛇の宮の魔法少女は皆樹里によって消し炭にされたわけではなく、中には神浜側の二木市の魔法少女に拘束されたままになった無事な子もいた。

蛇の宮の魔法少女との戦いが落ち着いたことを確認すると、結奈はテレパシーで皆に伝えた。

[動けるものはついてきなさい。

あの重武装の女を殺しに行くわ]

 

神浜の魔法少女が避難場所にしようとしていた北養区には、マギウスの翼にいた時に教官と呼ばれていた神楽燦が率いる宝崎の魔法少女を中心としたグループが待ち受けていました。

神楽燦が率いる魔法少女グループは神浜側の魔法少女へ攻撃を開始しますが、攻撃を行う魔法少女達は戦いを始める前に、相手へ必ずテレパシーでこう伝えました。

[戦うフリをしてください]

戦いをするフリという言葉にみふゆは困惑しました。

「燦さん、一体どういうつもりですか」

神浜側の魔法少女は困惑する者が多く現れました。

[みふゆさん、どうするんですか]

[きっと本気では来ないはずです。信じて訓練の要領で挑んでください]

そう言われて各々は神楽側の魔法少女達と刃を交え始めます。

言っていたことは本当のようで、どこか本気ではない様子でした。

そんな中、みふゆは燦と対面していました。

[これはどういうことか説明してください。どうして戦うマネなんていうことを]

[仕方がないんです。こうでもしていないと私たちは殺されてしまいますから]

[殺される?どういうことですか]

テレパシーでみふゆは燦から訳を聞き出します。

私はアンチマギアプロジェクトの話が世界に広まったあと、宝崎市を中心とした魔法少女達へ神浜へ行くことをやめるよう言って回っていたのです。

あそこは最も狙われやすい場所であるため、神浜以外で匿ってもらう必要があると考えていました。

その当てが青年会のメンバーでした。

しかし親しかったメンバーは庇ってはくれず、わたし達は特殊部隊に捕まっていたのです。

私は青年会のメンバーへ訳を聞かずにはいられませんでした。
聞いた結果は残酷なものでした。

「どうして、私はみんなと一緒にまつりの存続を願っていたのに」

「悪いな、俺たちじゃ何もできない。世界の決まりになってしまったからな」

「そんな、そんなことって!」

「殺されるわけじゃないんだろ。

落ち着いたら、またやり直せるかもな」

私は裏切られたとは思いたくなかった。

きっとまた戻ってきて元に戻れるとそう思い込み続けました。

でも捕まった後にSGボムというボタンひとつでソウルジェムを破壊されてしまうという状態にされてしまった時、私はひどく後悔したのです。

宝崎の魔法少女には私を責める者もいました。

「あなたが止めさえしていなければ!」

「燦様はみんなのことを思って行動したのですよ。助けられておいてそんなことを言うなんて」

「だって、じゃあこの憤りはどこにぶつければいいのよ!」

「スイッチさえ押されなければ生き延びられる可能性はある。

あの女さえどうにかすれば」

そんな皆が落ち込んでいる中で皆に合意してもらえたのが、戦うフリをしながら助けを求めることだったのです。

[教官らしくないですね。

それで、倒さないといけない相手というのは誰なのですか]

[サピエンスという組織に所属している科学者です。

名前は知らない、銀髪の小さい女で戦場に来ているのは確か。

そいつが殺されたと判明するまではそちらに寝返ることはできません]

[そうですか。

私は教官を信じますよ、いいですね?]

[みふゆさん、ありがとう]

みふゆは銀髪の小さい女がSGボムの起爆装置を握っているとテレパシーで周囲の魔法少女へ伝えていきました。

「灯花へ今のことを伝えてください!

探すくらいはしてくれるはずです」

その話を聞いて反応したのは宮尾とはぐむでした。

[私たちが伝えてきます!]

[場所はわかりますか?]

[手伝いに、何度か行っていたから多分]

[わかりました。

わからなければやっちゃん達に伝えてください。そうすれば確実に伝わります]

[[はい!]]

宮尾達はその場を離れましたが二人をを追おうとする魔法少女はいませんでした。

自衛隊も追うことはありません。

「自衛隊は追おうとはしないのですね」

「彼らは私たちの監視をしているだけです。

もしかしたら、彼らに見られていなければもしかしたら」

戦いながら器用にテレパシーと会話を織り交ぜながら情報交換をしていると、自衛隊が空を見上げて東側へ発砲を始めました。

その方向を見るとそこには鎌に乗った二人組がいて、そのうちの1人はみふゆ達が見慣れた存在でした。

「あれは、アリナ?!」

アリナ達は自衛隊の頭上で手榴弾などの爆発物を放り投げ、自衛隊は逃げ惑って混乱していました。

[皆いまだ、身を隠せ!]

燦達は一斉に森の中へ隠れて自衛隊の目が届かない場所へ姿を隠しました。

「みふゆさん、動くのは私だけでいい。

戦えない魔法少女と一緒にみんなをここに置いてくれませんか。

もちろん、最悪の事態を考えて離れておいた方がいい」

「良いのですか?見つかったらすぐに起爆されてしまうかもしれませんよ」

「SGボムをつけられた時点で、もう死んでいるようなものですよ」

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-6 神浜鎮圧作戦・その2

水名区北部で偵察を行っていた時女一族のメンバーの前には、時女静香の部隊が遭遇していました。

「静香ちゃん…」

「ちゃる、迎えにきたわよ」

双方見つめ合って動かない中、その場に武装したディアが通りかかります。

「何やってるんだ、早く殺し合いなさいよ」

そんなディアを見て涼子がディアへ話しかけます。

「何だあんたは」

「あんたらを保護する存在だ。

投降してくれてもいいが、私としては殺し合いをしてもらったほうがありがたいんだけどね」

パンッ

ディアに向けて1発のライフル弾が放たれます。

その弾は少し遠い距離から撃たれたにも関わらずディアの頭部を撃ち抜く軌道でした。

しかし、その軌道の間に人が1人割り込みます。
その見た目はディアと同じ見た目で体と同じ大きさほどある盾を持っていました。

その盾をライフル弾が貫くことはできず、少しの凹み傷を付けただけでした。

「何?!」

「うーん、反応はいい感じかな」

「同じ人が、2人?」

「時女の、分かってるでしょう?」

そう言いながらディアはボタンのようなものをちらつかせます。

「はい、もちろんです」

静香はいつもとは違った刀を抜き、刃をちはるたちへと向けます。

「かかれ!」

そう静香が号令をかけると静香側についた時女一族がちはるたちへと襲い掛かります。
思いもよらない襲撃に神浜側の時女一族は皆戸惑いながらも襲い掛かってきた魔法少女達へ対応していきます。

ちはるへは静香が斬りかかってきたため、ちはるは咄嗟に武器を構えて静香の攻撃を受け止めます。

「静香ちゃん、どうして!」

神浜に残った時女一族は応戦しはじめ、だんだんと誰がどっち側の時女一族なのかが分からないほど混ざっていきました。

「何で私たちが戦わないといけないの!」

「そうしないと、あたし達は殺されるからよ!」

「どういうこと」

 

他の場所でも魔法少女同士の戦いは始まっていました。

二木市の魔法少女達は蛇の宮の魔法少女達と対峙して既に刃を交えていました。

「まさか臆病なテメェらがこの樹里様に噛み付くとはな」

「私たちだって、でも、死にたくないから!」

樹里とアオの間にひかるの呼び出した軍団が割り込んで2人を引き離します。

「邪魔するな馬!」

その場へ結奈が到着し、持っている金槌を地面へ振りかざした後にアオ達へ問いかけました
アオ達は金槌が地面にたたきつけられた衝撃に一瞬動きを止めて結奈を見てしまいました。

「いいからなぜ殺されるか話しなさい。

周りにいる自衛隊を始末したら殺されないの?

それとも別の何かに狙われているの?」

「違うよ、命令を無視したら、ソウルジェムが爆破されるんだよ」

「はぁ?なに言ってるんだ」

樹里の反応の後に蛇の宮の魔法少女が1人話に割り込みます。

「わたしら、あいつらにソウルジェムへ細工されたんだ。

それが、命令に反したら爆発させるものだって」

「どこにそれがついてる、直ぐに外してやる」

「無理だよ、ソウルジェムに溶け込む装置だから。

どうしようもないんだよ」

アオは泣き顔になりながらそう答えた。

神浜市側の二木市の魔法少女達が絶句する中、アオ達のインカムにディアが語りかけます。

「真剣に殺し合えよ、じゃないと直ぐに起爆させちゃうよ〜?」

蛇の宮の魔法少女達は一斉に結奈達へ切り掛かります。

「貴様ら!」

「お願いだから私たちに負けてよ!そうしたらみんな一緒だから」

「うるせぇ!

焼き尽くして大人しくしてやる!」

「みんな!全員の動きを止めなさい!

最悪四肢を粉砕しても構わないわ。ソウルジェムだけは外しなさい!」

「そんなのじゃダメだよ、どうせやるなら一思いにやってよ!」

泣きながらも笑みを浮かべて攻撃してきたアオへ攻撃を受け止めながら結奈は悲しげな顔をするしかありませんでした。

 

北養区でも再会の挨拶から始まっていました。

「お久しぶりです、みふゆさん」

「教官、あなた程の方がどうして」

「他の子達を守るために、そして地元の人たちを守るためにです」

「あなたは、こんな世界でも諦めきれずにいるのですか。あなたの守りたいものを」

「私だって諦めたくないと思っています。でも、いまとなってはそれも」

そう話しているとインラインスケートを装備した魔法少女がみふゆへ攻撃を仕掛けてきます。

「ミユリさん?!」

「さあ、大人しく私たちにつき合ってください。しっかり説明はしますよ」

そう言って教官こと燦が武器を構え、後続の魔法少女たちがみふゆが連れていた魔法少女たちへ襲いかかります。

 

囚われた魔法少女の4グループと名付けられた寄せ集めの魔法少女集団は大東区へ攻撃を仕掛けており、十七夜を中心とした東側の魔法少女達が対応していた。

「まさか戦う相手が魔法少女になるなんて」

十七夜は躊躇なく襲ってくる魔法少女達を気絶させていき、4グループ目の魔法少女達は順調に戦える数が減っていった。

「この程度何の障害にもならんな。

観鳥、他に怪しい集団はいないか」

そう言いながらテレパシーで聞くと、偵察を行っていた観鳥は報告を行った。

[建物に隠れるように自衛隊が待機しています。

魔法少女と戦わせて疲弊した私たちに仕掛ける気でしょうね]

「ふむ、あまり良くないな。

私が魔法少女達の相手をするから皆は隠れている自衛隊へ対処しろ

「1人でやる気ですか?!」

「これくらいの相手、造作もない」

「あら、もしかしてまた1人で抱え込もうとしていませんか?」

十七夜の顔を覗き込むように郁美が話しかけた。

「なに?」

[そうだね。

十七夜さんはもっとみんなに頼ったほうがいい。

あなたが思っている以上に、覚悟が決まっているメンバーは多いんだよ]

テレパシーで観鳥がそう十七夜に話しかけると、十七夜の周りにいる魔法少女達が笑顔でうなづいた。

「お前達、本当に覚悟はできているのだな」

「くどいですよ、ちゃんと信じてください!」

周囲の魔法少女達は十七夜へ笑顔を見せた後に人間側の魔法少女達を止めようと戦いへ向かっていきました。

「ふむ、そうだったな。
だが、死なせはしないからな」

 

南側はひなのを中心に迫り来る艦隊に対応しようとしていたが特殊部隊の存在を知ってしまって身動きが取れない状態になっていた。

奴らに気づかれないように一撃で艦隊に打撃を与えられないものか

「みゃーこ先輩、そんな簡単にできたら苦労しないよ」

「だが奴らに睨みをきかされているようじゃ、どこも安全だなんていえない。

梨花、一発でいい。

中央にある空母に一発撃ち込めないか」

「と、届くかな。

やってはみるけど、絶対位置はバレるっからね」

「分かってるさ、命中を確認できたらさっさと北養区へ逃げるぞ」

「それじゃあやるかんね!」

梨花は武器であるコンパクトをコンテナの裏で巨大化させ、試験艦へ向けて渾身の一撃を放った。

その一撃は試験艦を捉えていて確かに命中するコースであった。

しかしその一撃は試験艦手前でバリアのようなものに防がれ、弾かれた魔法の破片が海水を蒸発させて試験艦周囲は蒸気で包まれた。

バリアを展開したときの試験艦では

「バリア、正常に稼働しました!

動力炉不安定化、しばらくこの場から動けません」

「護衛艦に被害は」

「ありません。全て防げたようです」

「いいだろう。

動力炉安定化後、前進を開始する」

 

試験艦を破壊できなかったことに梨花は驚いていた。

「そんな、直撃したはず」

「いいから逃げるぞ!」

攻撃が効かないということか。
だとすると、あたしらにうつ手はないぞ。

[海岸にいる魔法少女達聞こえるかにゃ?]

[灯花、何のようだ]

[しっかり耳を塞いでよね。
じゃないと、そこから動けなくなっちゃうから]

[おい、何なんだいきなり]

[3、2]

こちらの問いかけを聞き入れず淡々とカウントを始めた。

[全員耳を塞げ!]

カウントがゼロになると近くにある非常放送用のスピーカーから音が発せられ、私らを発見した特殊部隊達は頭を抱えて倒れていった。

「なんだ、これは」

ひなのと衣美里が耳を塞いでいる中、梨花とれんは耳を塞ぎ損ねたのかその場に気絶して倒れてしまった。

「おい、二人とも!」

二人からはテレパシーでも返事はなかった。

 

南側で発生したことについてはマッケンジーにも報告が入っていた

「音だと?」

「はい。S班の最終報告によると頭が割れるような音が発生したとのことです」

「他の場所では」

「そのような報告はありません」

「魔法の影響を受けない装備を身につけているのだから、その音とやらは科学的に解決すべきものだろうな。

魔法少女達が扱ったのか」

「どうします?発生源を吹き飛ばせば済む話ですが」

「俺たちにできるのはそれだけか」

マッケンジーはディラン大佐へ回線を繋げた。

「ディラン大佐、港付近で発生した音の出所を自衛隊へ共有できるか」

「何を考えているマッケンジー」

「港を使えないと上陸作戦自体が敵わないだろう。

何のために港を標的に入れなかったと思っている」

「爆撃無人機の発進準備はできている。日本に頼らずとも」

「港で動けないS班ごと吹き飛ばす気か!」

「目標の近くで倒れる奴が悪いのではないか」

マッケンジーはディラン大佐との回線を強制的に切断した。

「ふざけたことをしてくれる」

マッケンジーは待機命令を出していたN班と共に南へと向かった。
そんなマッケンジーに対して隊員は困惑していた。

「大尉、何をする気ですか?!」

「爆撃機が任務を無事に完遂できるとは限らん。

ロケットランチャーを持って音の出所を破壊しに行くぞ」

「大尉が言うなら従いますが、知りませんよ」

想定外の事態へ対応するためのマッケンジー率いるN班が動き始めたことを知り、ディアはマッケンジーへ回線を繋いで問いかけた。

「何やってんだ、まだ何も起きていないだろ」

「港の出来事を共有されていないのか」

「もちろん知ってるさ。

何も急ぐ必要はないだろうさ。今行ったってどのみち間に合わない」

「仲間が吹き飛ばされると知って動かない奴があるか!」

「マッケンジー、少し感情的すぎるぞ。

軍隊にそんなものは不要じゃないか?」

「サピエンスの特殊部隊は軍隊ではない。そんなルールに則る必要はない。

お前も、ディラン大佐達も固く考えすぎだ。埋め合わせはするさ」

咄嗟にマッケンジーはディアとのプライベート回線に切り替えた。

「この本気じゃない戦いで命を落とすほど無駄なことはない。そうではないか?」

そう言ってマッケンジーは一方的に回線を切った。

ディアは目の前で戦う魔法少女達を眺めながら呟いた。

「ものは言いようだねぇ。

まあ、港がどうなろうがどうでもいいが。

それにしても行動不能にさせる音か。

動けなくなる原因の症状を聴かないと明言できないが、体に異常をきたすならば音圧の仕組みを利用したものだろう。

だとしたらそれは音として認知できるのか?

ヘクトパスカル台のものでなければそんな症状は起きないはずだ。

どうであれ、下手に近づかないのが賢明だろうね」

試験艦から発進した無人機は魔法少女達の目にも留まることになった。

南凪区近くで逃げ遅れた魔法少女達の救助を行っていたいろは達には、灯花から港には近づかないよう伝えられていた。

[そんなことを言われても、港の方には都さん達がいたはずだよ]

[彼女達にも伝えたよー?ちゃんとそこから離れられたかは別だけどね]

[灯花ちゃん、一体何をしたの]

[教えないよー]

「ちょ、ちょっと!」

灯花へさらに話を聞こうとしていると、遠くからまどか達がいろはたちに声をかけていました。

「まどかちゃん、避難していないの?!」

「えっと、私たち人探しをしていて」

まどかちゃんと一緒にいたのはほむらちゃんと巴さんでした。

巴さんが探している人について話し始めます。

「実は小さい子を探していて。

なぎさちゃんって言うんだけど、どこかに行ってしまってここまで探しに来たのよ」

「なぎさちゃん。

すみません、どういう見た目の子かわからないと」

「ケータイに画像があるはずなんだけど、今は手元になくて」

でも小さいこと言っても見覚えのある子達にしか会っていないわ。

多分見かけてはいないわね」

「そう、ですか」

やちよさんの回答に、少し巴さんは悲しそうな表情を見せます。

そんな中、まどかちゃんは南の方角に指を指します。

「あれ、何だろう」

船が見える方角からは鳥の群れとも言える黒い塊が向かってきていました。

「絶対良くないものだよあれ」

そう考えを巡らせていると三重崎の魔法少女から報告がされます。

[船団から来る物体、形状が無人機で、下にミサイルみたいなものがついている。

もしかしたら特攻型の無人機ミサイルの可能性があるから南側の奴らは特に注意しろ!]

あれが全部、ミサイル?!

それを聞いてまどかちゃんが弓を無人機の集団に向けますがほむらちゃんが止めに入ります。

「無理よ、ここから届きにくいし全部落とせなんてしない。

逃げたほうがいいわ」

「でも、放っておけないよ」

そう言うまどかちゃんに対して私は手を差し出しました。

「2人で力を合わせれば、できるかもしれない」

私と目を合わせて聞いていたまどかちゃんはうなづいて私の手を握ります。

コネクトが発動し、私のクロスボウとまどかちゃんの弓が合体したような武器は、ミサイル達を捕らえた上空に紋章を生み出し、その中央目掛けて私たちは矢を放ちました。

紋章にかろうじて矢は届き、紋章はその矢に反応して真下へ無数の矢が放たれました。

ミサイルは逃げようとする動きは見せたものの、逃げきれずに全てが撃ち落とされてしまいました。

私たちは達成感でその場で笑顔になりながら動けずにいました。

「これほどの力、攻め込んできた奴らを一掃できるんじゃない?」

ほむらちゃんの問いかけに対して私はこう答えます。

「魔法少女が敵に混ざっていなかったらやっていたかも。

でも、相手が魔法少女ならやりにくいよ」

その答えにほむらちゃんは表情を変えず何の反応も見せてくれませんでした。

そんななか、さなちゃんが話しはじめます。

「その、なぎさちゃんを探しませんか?

逃げ遅れているのかもしれないですし」

「そうね。

私たちも協力しましょう」

そう話していると、急に鶴乃が大きな声を出します。

「危ない!」

そう言って鶴乃ちゃんは私とまどかちゃんを突き飛ばしました。もともと私たちがいた場所へは二発の弾丸が飛んできました。

「良い感を持っている奴がいたか」

その声の方角には、マッケンジー率いるN班の姿があった。

「見つけたからには対処させてもらうぞ、魔法少女共」

 

 

高いビルの上から、小さな魔法少女が戦場となった神浜を眺めていました。

「この世界はここだけな出来事が多すぎるのです。

マミ達まで人間に好戦的になってしまって、これでもお前はこの世界も救いたいと言うのですか?」

話しかけられているピンク色のキュゥべえは何も答えません。

大昔にこの世界の何者かに声をかけられて、円環の理はこの世界にちょっかいを出したのです。

確かに円環の理に声をかけられる存在なんて前代未聞なのです。

そいつを見つけ出せれば満足ですか」

ピンク色のキュゥべえは何も答えません。

「まあいいのです。

なぎさはここから見守るだけなのです。

なぎさは人と殺し合いなんて、したくないのです」

手元にいるお菓子の魔女の手下をこちょこちょといじくり回しながら、彼女はただ神浜を見つめるだけでした。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-5 神浜鎮圧作戦・その1

夜に襲撃があった際、私たちには全く被害が出ませんでした。

しかし昨夜の戦いはどうやらテレビでリアルタイムに流れた様で、日本政府は神浜の奪還を支持しているようでした。

ドローンによる索敵が行われていたことも考慮し、中央区に設置されていたキャンプは放棄して栄区と大東区に生活場所を移動することになりました。

今朝はその移動作業で大忙しです。

「何で移動しないといけないのさ」

「ドローンでどこに生活拠点があるか見られてたんだとさ。

居続けてもいいけど攻撃の的になるのは確かだよって言われて動かないわけにはいかないでしょ」

「また戦いになるの?嫌だなぁ」

移動作業中にドローンに覗き見されていないか偵察を行う魔法少女はもちろんいて、今のところは発見されていないようです。

さつきさんたちが滞在している竜真館も魔法少女が集まる場所として別の場所へ移動するよう推奨される場所に指定されていました。
この推奨される場所の指定というのは三重崎の魔法少女や灯花ちゃんたちが勝手に言っているだけで話し合いで決めたというものではありません。
みんなは多少疑問に思いつつも、危ないというならばということで半信半疑で別の場所へ移動を行っているところです。

「せっかく畑の準備ができてきたっていうのに、ここが戦場になる可能性があるだなんて」

「安全に暮らせる場所、まあここは他の場所よりましなんだろうけど全然落ち着かないな」

さつきさんとキクさんがそう話していると魔法少女になっていない子たちが2人に話しかけてきました。

「ねえ、ここ壊されちゃうの?なんで?」

「私たちを弱いものとしていじめてくるからだよ」

「また私たちの居場所を奪おうとするの?
それなら・・・」

「変ことを考えようとするんじゃない。
いまはキュゥべえがどこかへ行ってしまったし、変なことなんてできやしないと思うけどね」

「でも、本当に襲ってくるのかしら」

いつ襲ってくるか気を抜けないままお昼過ぎ。

中央区から魔法少女達がほとんどいなくなった頃、南側を偵察していた都さんから連絡がありました。

[軍艦と思われる集団が迫ってる。目視できても2隻や3隻じゃないぞ]

「船だなんて、そんな」

都さんのテレパシーは灯花ちゃんにも届いて、南側で生きている監視カメラを使ってその様子を確認しました
同じ部屋にいた私たちも、たくさんの軍艦が迫ってきていることを確認できました。

「空母級に巡洋艦複数…

もう国を奪う程度の戦力じゃん」

「砲撃どころかミサイルの嵐、上陸されたら多くの兵士が傾れ込んでくるだろうね」

「これだと地上にいることが危険かもしれないわ」

「迫ってきているのは軍艦だけじゃないはずだよ。

陸に空、あらゆる侵攻ルート、方法で迫ってくるとみていいだろう」

「それやりようあんのか?」

やらないとこちらがやられる状況、でもみんなには死んでほしくない。

「昨夜同様に好戦的なメンバーにだけ前に出てもらいましょう。
他のみんなは自分を守ること優先で」

「それじゃダメだよ」

やちよさんの意見に灯花ちゃんが反対します。

「まずは艦隊をどうにかしないと何も解決しない。

一方的にミサイルと砲撃で蹂躙されるだけ。

自分の身を守るのはやるべきことをやってからだよ」

「海上戦なんてできる子いたかしら」

これからどうしようか考えている時に偵察を行っていた時女一族の子から連絡がありました。

[武装した集団がこっちに近づいてくるよ!]

今は私たちにできることをやるだけ。

「私たちは動けない子達の救助に専念したいんだけど、みんなはどうかな」

「それでいいと思います」

「私もそのほうが良いと思うわ」

「何だよ、倒しに行かないのかよ」

フェリシアちゃんは少し不満そうでした。そこへ鶴乃ちゃんがフェリシアちゃんに話しかけます。

「フェリシアは人を躊躇なく殺せる?」

「そりゃできるぜ」

「じゃあ、当たったら終わりな弾が当たって二度と動けなくなる覚悟もある?

「それは、二度と動けなくなるのは嫌だけど」

「それは覚悟が決まっていないって言うのよ。無理をする必要はないわ」

「フェリシアちゃんが私たちを守ってくれたら、ありがたいなって思うんだけど」

「2人がそこまで言うなら、仕方がねぇな」

「ちょっと、私もでしょ!」

私たちが部屋から出て行こうとすると私は灯花ちゃんに呼び止められました。

「お姉さま、海岸と北の境界には近づかないでね、絶対だからね」

「う、うん、わかったよ。みんなにも伝えておくね」

私は”なぜか”を聞かずに外へと向かいました。

私たちが部屋から出ていったタイミングで2人は話を始めました。

「そうやって詳しく伝えない」

「だって、教えたら絶対反対されるだろうし」

「人体に悪影響な波長を設置した拡声器から発して、気絶に追い込む。

敵を無力化できるかもしれないが魔法少女にも影響がある。

ある意味前線に出る子達を餌にすることになるだろうが、お姉さんには反対されていただろうね」

「さっきも話していたけど、覚悟ができた子達が前に出ているんだから、少しくらいいいじゃない?」

「まったく。うまく行かなかった時の次は準備できているかい?」

「もちろん。

火薬があまりなかったから、地味なことしかできないけどね」

「あったら何をする気だったのか」

「2人とも、会話が怖いよ・・・」

部屋に一緒に残っているういとワルプルガさんはただただ二人の会話を聞くことしかできませんでした。

 

 

武装した集団が迫っていることはテレパシーで伝えられ、魔法少女達は個々人で判断して行動し始めました。

十七夜さん達は

「我々がありのままでいられるのはここだけだ。

精一杯争わせてもらう。

君たちは戦えない魔法少女たちの避難を優先してくれ」

「何言ってるんですか十七夜さん」

「私たちも一緒に行きますよ」

「…無事に帰れると思うなよ」

「わかってますよ、1人で抱える必要はないですって。それだけですよ」

 

みふゆさんたちは

私たちは戦えない魔法少女たちの救助と避難を支援する動きをとりましょう。

ひとまずは北養区のフェントホープ跡地周辺に避難しましょう」

「わかりました!」

「やっちゃん、どうか無事で」

 

結奈達は

「ここで踏ん張らなければ二木市に戻ることさえ叶わないわ。

昔の因縁は一度胸にしまって目の前の脅威を排除するわよ」

「アオさん達を助けに行かないといけないっすからね」

「何だっていい、思いっきり暴れさせてもらうぜ」

 

ちはる達は

「静香ちゃんが出てくるかもしれないから、私は前に出て戦うよ。

でもみんな揃っている必要はないよ、ちゃんと逃げてよ」

「大将を呼び戻すチャンスだ。

他の血の気の多い奴らに倒されるなんて事態は避けたいだろ」

「私たちは精一杯生き残ります。だから、ちゃるも無理はしないで」

 

三重崎の子達は

「まさかサバゲーじゃなくて実戦をやることになるなんてね」

「実際に生身の人間を撃ち抜く、私たちにちょうどいいじゃないか」

「当たったら終わりはこちらも変わらない。

自衛隊だってアンチマギアを使ってくるだろうからな」

「まずは他の魔法少女への支援を優先しよう。あいつらに索敵の脳はないだろうからな」

「積極的に動いていた夏目の奴らがこんな時にいないなんて。

あいつら今は何をしているんだ」

 

魔法少女が動き出したことは自衛隊側は把握していました。

「魔法少女に動きあり。

我々の前進行為を察知して行動を開始したようです」

「我々はサピエンスの部隊とは完全に別行動だ。

行動不能になった敵味方の魔法少女達の救助、及び神浜外へ流れ弾が出ないかの監視、魔法少女達の行動監視が優先だ」

高田一佐は自衛隊への指示を終えた後にディアにつながる回線へ切り替えます。

「サピエンスの科学者、会議中にも言ったが作戦範囲外に被害が出ることは厳禁だ。

それは気をつけてくれ」

「わかっているさ。そっちこそ、SGボムの使用は渋るんじゃないよ。

場合によっては敗因に繋がるんだからね」

「…承知している」

「それじゃあよろしく」

ディアは回線を切り替え、試験艦のディラン大佐に繋ぎます。

「大佐、データは昨日送った通りよ。

昨晩魔法少女達が溜まっていたと思われる場所へ対地ミサイルの発射をお願い」

「信用して良いのだな」

「日本はデータ収集だけは優秀よ。

仮に魔法少女へ直撃したとしても、そいつらの運が悪いだけだから」

「いいだろう」

ディラン大佐は回線を切り替え、艦隊全体に指示を出した。この回線はマッケンジー達の部隊へも繋がっていました。

「これよりカミハマシティ鎮圧プログラムを実行する。

第一フェーズの実行を開始する。

各艦は事前通知していた地点へAM -2ミサイルを発射せよ」

試験艦及び巡洋艦の対地ミサイル用のハッチが開き、上空に向けてミサイルが発射されました。

魔法少女達にミサイルを迎撃する手段などなく、着弾すると思われる場所から離れることしかできませんでした。

ミサイルは大東区、中央区電波塔跡地、竜真館周辺へと着弾し、爆発と同時に周囲へアンチマギアが拡散されました。

またAM -2ミサイルには液状化されたアンチマギアが試験的に採用されており、爆発と同時に周囲へ散布されました。

しかしその散布範囲は狭く、着弾した地点から半径50m程度しか液状化したアンチマギアがばら撒かれず、粉末状のアンチマギアは予想値よりも周囲に離散してしまい、濃度が薄い状態になっていました。

「AM -2ミサイル、予定距離も250m狭い範囲にしか散布されていません!」

「サピエンスにクレームを入れとけ!

不良品を出すんじゃないとな」

ペンタゴンで観測を行っているイザベラの元へ直ぐにディラン大佐のクレームは届けられました。

「見てたから分かってるって。

カルラ、AM -2ミサイルを担当した技術者に繋げなさい」

「イザベラ、あれはヨーロッパでの最終テストを行う前の規格で作ったものだ。

搭載する前に伝えたはずだ」

「だからって散布範囲が半分以下ってどう言うことよ」

イザベラの隣で座っているカルラはだるそうに持っていたタブレットからAM -2ミサイルの設計図を見つけ出してイザベラに見せつけるように画面を押し付けました。

「液状、粉末ともにミサイル着弾後に上空へ飛び出し半径250m散布予定だったがそれぞれの射出容器の強度が足らず着弾と同時にミサイルの火薬と共にその場で爆発してしまう欠点はすでに洗い出されている。

データの再度洗い出しを行わせず容器強度をおおまかな数値でGOを出したのはお前だ。

クレームを入れられるのも当然だ」

「ヨーロッパの武器庫が破壊された影響がここまでとは」

イザベラはディラン大佐へ回線を繋ぎます。

「ディラン大佐、AM -2は試験艦へ搭載できる想定積載量よりも倍の数を搭載させています。

それで制圧を続けてください」

せっかく撒いた粉末状のアンチマギアが離散しすぎて使い物にならんぞ」

「ちっ、言わないとわからんか」

「レディ、立場をわきまえろ!」

怒るディラン大佐の言葉に耳を貸さず、AM -2ミサイルの設計図を少し見た後に軽くタブレットで計算した後にイザベラは試験艦へ向かってデータを送ります。

「設置起爆ではなく時限起爆に変更しなさい。

変更コードは送ったわ。

それを適用させたところで多少の誤差は出るからそこはそっちで調整しなさい」

「この数分でコードを書き換えたのか」

「文句を言う前にさっさと対処しなさい」

隣で一連のやりとりを見ていてキアラはディラン大佐を気の毒に思っていました。

天才だからかその場で修正を当たり前だと思っていたのか何なのか不良品を少しでも使えるよう数分でミサイル起爆のシステムにコードを埋め込もうだなんて、誰が思いつくか。

試験艦からはコードが書き換えられたAM -2ミサイルが3発神浜市へ飛んでいき、上空500mで爆散していきます。

液状化したアンチマギアは隙間が生まれたもののほぼ半径250mに撒き散らされ、粉末状アンチマギアは想定以上の範囲へ濃度を保ったまま散布されました。

これらのミサイルに直撃する魔法少女はいなかったものの、親しみのあった場所が爆撃されたことに悲しみを感じる魔法少女達は多い様子でした。

「目標値達成。次のフェーズに向けて索敵ドローン、散布ドローン発進」

「第ニフェーズに移行。

ドローンにて魔法少女がいると思われる場所へアンチマギアの散布を開始する。

地上部隊は鎮圧マニュアルの実行を行え」

マッケンジー達は待機状態から変わらず、動き出したのは人間側についた魔法少女達でした。

「ドタバタはあったがなんとかマニュアル通りの運びになったか」

ドローンは予定通り中央区中心に外側へ魔法少女が逃げるよう誘導開始。

魔法少女反応もカミハマシティの外側へ広がっていきます」

「北部の押さえ込みは囮に任せろ。

我々は海岸の安全確保を優先する。

S班は索敵に専念し、沿岸部分にいる魔法少女を洗い出せ。
E班、W班は囮と自衛隊が完全に機能しなくなってから動き出せ。

的になるのは自衛隊だけでいい」

マッケンジーが指示を出し終わったあと、近くにいた兵士がマッケンジーに話しかけます。

「我々の出る幕はあるでしょうか」

「常に最悪のケースを想定して動かなければ簡単に死ぬものだ。

それに相手は非常識な連中だ、今こうしている間にも地面が割れて奈落に落とされるかもしれない

「さ、流石にそれは」

「可能性はゼロではないと思う程度でいい。

我々が動くのは艦砲射撃が一通り完了してからだ。その時にどうなっているか」

 

一方、神浜市の様子を観察しているペンタゴンでは不審な影を捉えていました

「レディ、中華民国から軍艦が数隻発進しているようです」

そういえばあいつらこのタイミングで軍事演習とかほざいていたわね。

しっかり監視しておきなさい。

あとは予定通り中華民国以外に対魔法少女条例違反時の対応連絡を出しなさい」

「ロシアにも伝えるのですか?!」

「あそこはすでにサピエンスの犬よ。

構わず伝えなさい。こんなところで裏切るほど奴らに度胸はないわ」

「了解!」

キアラはイザベラに話しかけます。

「本当にこの機会に日本をものにしようとするだなんてあるのか」

「うちの国に工作員を散々潜り込ませていて、さらにはあの脳内のデータよ。確信よ」

「人間に対してもあれを使ったのか?!」

「誰が魔法少女用と言った?

やらかしそうな国なんて調べがついているのよ。

邪魔なんてさせないわ」

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-19 手を伸ばした先にある結果は

さつきさんが開いた扉の先には3本の糸しかつながっていない魔法少女姿のういと、たくさんの糸が絡まっている長身の魔女がいました。

魔女は細身で銀色の肌、頭部と思われる部分はピンク色のパールが一つ埋め込まれていました。

体は細く、爪部分は鎌のように鋭くなっていました。

「これじゃ魔女の結界と代わりないわね」

「あれの動きを止め続ければいいんだよね」

「そうよ。あれに奪われた主導権を妹さん自らが奪い返すまであいつの注意をこちらに向け続ける必要がある。変に邪魔が入ってしまうと、仮に妹さんへ主導権が戻ったところで魂とのつながりがほとんどないままとなってしまうかもしれない。

つまり、ほぼ植物人間状態になってしまうかもってことよ」

「じゃあぼくたちは待つしかないんだね。

ういが元に戻るまで」

「そうよ。いろはさん、頼んだわ」

「わかりました」

私はういに向かって走り出しました。

その後ろにワルプルガさんもついてきました。

「え、危ないですよ!」

「最初に声をかけるのは私のほうがいい。お母さんに声が届くのは、今は私の声だけだから」

そういえばういはずっとワルプルガさんに対してはずっと接する態度が変わっていなかった。

なんでだろう。

なぜかはわからないけど、話を少しでも聞いてもらうために最初からいてもらったほうがいいかも。

でも危ないし、私が抱えていけばいいか。

「それじゃあ」

私はワルプルガさんを抱えてういがとらわれている場所へと向かいました。

ういのもとへたどり着くと、急に周りが闇に包まれました。

外部から見ると私たちは暗闇に包まれてから消えていたようで、私とワルプルガさんが消えたことにやちよさんは驚いていました。

「2人が消えた?!」

「妹さんの魂への接触を開始したんですよ。
こちらではやるべきことをやりましょう」

さつきさんは無数の札を呼び出し、ういと魔女との間に札の壁を生成しました。

「今あなたを妹さんへ触らせるわけにはいかないのよ」

魔女は爪でその壁を破壊しようとします。

そんな腕に対してやちよさんたちは攻撃をしかけて魔女を壁から離そうとします。

「あなたに邪魔はさせないから!」

 

外でみんなが戦っている中、どうやら私たちは別の空間へと飛ばされてしまったようです。

その空間の中心と思われる場所にういはうずくまっていました。

私が声をかけようとすると、ワルプルガさんは私を止め、ゆっくりとういのところへと歩いて行きました。

「お母さん、こんなところにいたんだ。

探したんだよ?」

「ワルプルガ、ちゃん…」

ういの声は弱々しく、なかなかに聞き取りにくいものでした。

「まだこんなところに居続けるの?」

「外の世界は嫌だ。

変わるのは仕方がないけれど、今の変わり方は嫌だ。変わったいまを見たくないから私はここに居たい」

「私は困るよ」

「放っておいてよ」

ワルプルガさんは少し困った顔をしたあと、再び話しかけ始めました。

「お母さん、実は会わせたい人がいるんだ」

「会わせたい人?」

そう言われた時、私は我慢できずういの名前を声に出してしまいました。

うい

その声を聞いた瞬間にういの顔は怯えた顔となり、恐る恐る私の方を見て私の存在を認識すると悲鳴をあげて頭を抱えてしまいました。

「いやだいやだいやだ、あんなのお姉ちゃんじゃない、優しいあのお姉ちゃんじゃない」

想像もできない反応をされて私は深く傷つきました。それでも、私はういへ言葉を届けようとしました。

「う、うい、お姉ちゃんの話を」

「そうだよ、本当のお姉ちゃんは私の記憶の中にいるお姉ちゃんだ。

あれはお姉ちゃんじゃない。違う違う違う!」

壊れたように何かを唱え、涙を流しながら笑みを浮かべるういの姿がそこにはありました。

見たことがない酷い顔。

私は今すぐにでも抱きしめて幸せにしてあげないといけないという込み上げる思いを抑えながら、どうすれば声を聞いてくれるか考えました。

そうしているうちに何かを打つ音が聞こえました。

そこには、ういの頬を叩いたワルプルガさんの姿がありました。

「ワルプルガちゃん?」

「過去にばっかり逃げて今を見ないお母さんなんて嫌いだよ!」

「私が悪いの?
人を平気で殺す魔法少女だけになった今の世界で、どうやっていままで通り過ごせるっていうの?」

「いろはさんはその答えを見つけ出してきた。

だから聞いてあげて。お母さんの考えている“今のいろはさん”とは印象が違うはずだから」

ういの発作のような何かは収まり、やっと私はういに伝えたいことを伝えられるようになりました。

「うい、まずは世界がどうなっちゃったのかを教えるね」

私はアンチマギアプログラムの告知がされた時の映像をういの脳内へテレパシーで送りました。

「これは、想像のお話?」

「ううん、事実の話だよ。

世界中で魔法少女が囚われる世の中になっちゃって、私たちは人へどう立ち向かおうか考えている最中なの」

「そんな、人と魔法少女は一緒に生活することができなくなっちゃったの?」

「そんなことないよ」

私は今度は竜真館でのさつきさんとキクさん、連れてきた3人の人の子どもがひなのさん達と楽しく過ごしている様子をういに見せました。

「この子達は、魔法少女じゃ、ない?」

「そうだよ。

この子達は他の魔法少女達と一緒に暮らしている魔法少女ではない子達でね、あの放送を見た後でも魔法少女達と笑って過ごせているよ。
魔法少女のみんなも3人を受け入れていて、みんなが幸せになれていたよ。

世界中のみんなってことにはならないかもしれないけど、人間社会に染まりきっていない子達とは一緒に暮らしていくことができるかもしれない。

人と一緒に生活する将来は、ありえないことはないってことだよ」

「お姉ちゃんも、そんな将来を目指しているの?」

「そうだね。そうなったほうが最適だなって思って行動してるよ」

「そうか。まだ、頑張ろうって思える光景があったんだ」

ういの目は輝きを取り戻していきました。

わたしはそんなういに手を差し出しました。

「だからさ、うい。希望溢れる世界に戻ろう!」

ういがこちらに手を伸ばそうとすると目の前にいるういとは違うういの声が聞こえてきました。

「本当にいいの?そんな簡単に信じちゃっていいの?

みんながみんな人との共存なんて望んでいるはずないのに

お姉ちゃんの嘘や妄言かもしれないのに」

別の方向から聞こえてきたういの声の方向を向くと、ういの記憶を見たときに出てきたういになり替わろうとする魔女がいました。

「あなたは、私に変わった私」

「あなた、あの魔女の!」

その子が代わりになってっていうから変わってあげているだけだよ

人殺しの姉もどきさん」

私は魔女とういの間に入って魔女に向けて武器を構えました。

「どうやって入ってきたの。外ではやちよさんたちが対応しているはず」

「ここは私の空間だよ?

“環うい”のほとんどを手に入れた私がここにいるのは当たり前でしょ?」

「そんな」

まさか、ういの主導権を奪っているってことはわかっていたけど、魂の中に入り込んでいただなんて。

「外の光景を見て耐えられるかな?

どうせ神浜の魔法少女達は、人なんて簡単に殺せちゃうんだから!」

そう言って魔女は何処で手に入れたかわからない神浜を奇襲してきた特殊部隊の兵士たちを魔法少女達が殺していく様子をういに見せました。

ういの目からは再び光が消えていきました。

「あなたは!」

ういがするはずがないような悪い顔をしてあの魔女はういの心を潰そうとしてきます。

ういは心が揺らいでしまったようで、私に伸ばそうとした手を引っ込めてしまいました。

そんなういの手をワルプルガさんが握ります。

「ワルプルガちゃん…」

「誰かを信じてあげないと、お母さんのことを誰も信じてくれないよ。

それに、動き出さないと何も始まらないんだから」

「ワルプルガさん」

ほんと、初対面した子どもっぽい様子とは大違いの態度をワルプルガさんは見せてくれます。

「へんなことを吹き込むな!

動いたって変わらない、変えられない!誰も聞き入れてくれない!

何をしたって無駄なんだよ!」

魔女は怒鳴り始めてしまいました。

「だとしても」

うい?

そこには目に光が戻ったういがいました。いったい何があったの?
ワルプルガさんが何かやったの?

「聞き入れてくれる人が少ないとしても、

動かないよりは、動いたほうが成功する可能性は大きいはずだから。

だから!」

ういのソウルジェムは輝き出し、真っ暗だった空間は花畑が広がる光景へと変わっていきました。

そして気がつくと魔女がいる空間にいて、わたしとういはワルプルガさんと手を繋いだ状態で立っていました

「お姉さま、うい!」

「無事なようで何よりだ」

灯花ちゃんとねむちゃんの安堵する声を聞いて、戻ってきたことを実感した後に私はういに話しかけました。

「さあ、この一件に決着をつけないと」

「うん!」

私はういと手を繋ぎ、魔力を共有して白く輝くボウガンがわたしとういの間に現れました

そして魔女を取り囲むように出されたういの凧へボウガンが装着されていきました。

その凧達は次々と魔女につながる魂の糸を切っていき、切られた糸は次々とういに繋がっていきました。

「へぇ、そうやって戻っていくこともあるんだ」

さつきさんのそんな呟きが聞こえた頃には魂の糸はういに全て繋がっていました。
そのあと、ういが私に話しかけてきました。

「私は人と魔法少女が争う今の世の中を受け入れられない。
でも、そんな世の中を変えようと動いている魔法少女達がいる。
それなら、私も少しは頑張らないとって思ったの」

「じゃあ、ワルプルガさんが何かやったわけではなく」

「わたしが、自分の意志で現実を受け入れた。ただそれだけ」

ういは糸が一本も繋がっていない魔女にボウガンを向けます。

「私の代わりをしてくれて、ありがとう」

ういがそう言うとボウガンが放たれ、魔女に命中したところから花びらに変わっていき、魔女は消えてしまいました。

魔女の結界内は眩しい光に包まれていき、気がつくと元いた部屋に戻っていました。

「…戻ってきたのね」

「うい、元に戻れたんだよね?」

灯花ちゃんの問いに対してういは笑顔で答えました。

「うん、もう元通りだよ!」

「よかった〜」

嬉しさのあまりに灯花ちゃんはういへ抱きついていました。

わたしはさつきさんへ感謝を伝えないとと思ってさつきさんのところへと行きました。

「さつきさん、やっと目的を果たせました。

ありがとうございました」

「いいのよ。

こちらだって助けてもらっちゃったし、やっとお返しできてよかったって思っているくらいです。

妹さん、戻ってよかったですね」

「はい!」

「それじゃあ、やっと目的を果たせるんだよね?」

灯花ちゃんのそんな話を聞いて、私は無意識にワルプルガさんの方を向いてしまいました。

そう、ういを元へ戻したのもワルプルガさんに自動浄化システムを広げるよう願わせるため。

「うい、あのね、ワルプルガさんのことなんだけど」

「わかっているよ」

「ワルプルガさん?」

「私が願えば、世界中の魔法少女が魔女化の恐怖から解放されるんだよね?」

「理解はしているのね。

あなたは願ってしまってもいいの?魔法少女がどういう存在なのか、世界でどんな立場になろうとしているのかも理解しているはずよ」

やちよさんの問いかけに対してワルプルガさんは顔を縦に振りました。

「いろはさんがお母さんに見せてくれたあの明るい光景、そんな光景が当たり前になるように、私もお手伝いできないかなって。

だから、願ってもいいよ。

お母さん、いいよね」

ういはワルプルガさんへ笑顔で答えました。

「ワルプルガちゃんが覚悟できているなら、いいよ」

やっと、一番解決しないといけないことが解決する。

そんなワクワクで胸いっぱいにしながら私はキュウべぇを呼びました。

「キュウべぇ、いるんでしょ?」

でも、キュウべぇは姿を現してくれません。

「おかしいなぁ。いつもひょっこり出てくるのに」

「外へ出てみましょう」

やちよさんの提案に乗って外でキュウべぇを呼んでも姿を現してくれません。

「どうして、どうして姿を現してくれないの?」

「あら、どうしたのぉ?」

結菜さんが私たちに声をかけてきました。

「もしかして環ういを元に戻せた感じっすか?」

「うん、そうなんだけどキュウべぇが出てきてくれなくて」

「あの白いの、倒しても湧き出るくせに出てこないなんてどういうことかしら」

「エネルギー回収のノルマだって達成していないだろうし、一体どこに行ってしまったの?」

その日は神浜中でキュウべぇを探し回りましたが、ついにキュウべぇは姿を見せてくれませんでした。

「どこに行っちゃったの、キュウべぇ」

 

 

ペンタゴンの地下にあるサピエンスの研究施設。

その廊下をカルラは今まで通りタバコを咥えながら歩いていた。

その足を向ける先は、ディアが使用しているクローン体製造部屋。そこには成長したディアの体が並ぶ中、耳と大きな尻尾を身につけた周りとは異質な見た目をしているクローン体が眠っていた。

カルラはそのクローン体が入る容器に触れて笑みを浮かべた。

「ディアより上手くはできていないと思うが、なかなか思い通りに仕上がっているじゃないか」

そんな声が聞こえたのか、クローン体は容器の中で目を開け、カルラをしばらく見つめた後に何かに驚いたように容器のガラスへ両手をつけた。

「わかったわかった、いま開けるから待っていろ」

カルラが装置を操作して、容器内の液体が抜かれた後に容器が開き、クローン体がぺたりと床に座り込んだ。
ディアのクローン体は通常はディアの意思を流し込み、その体を直接操作するという流れだが、そのクローン体はひとりでにカルラに話しはじめる。

「なんだこの体は、君がやったというのか」

「人の体に入った気分はどうだ、

“キュウべぇ“ 」

 

 

第二章:神浜にて紡ぎ出され始める交響曲(シンフォニー) 完

 

 

back:2-2-18

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-18 人と同じ道を歩まぬためには

翌日、さつきさんの札が整ったためみんなはういがいる部屋の前に集まりました。

さつきさんが持つ3つの札を見て灯花ちゃんがさつきさんへ質問をしました。

「その札だけで本当にういの魂に入り込めるの?」

「ええ、何も問題が発生しなければこれで済むはずよ。

では、妹さんの押さえつけはお願いしますよ」

「分かったわ」

私たちは部屋へと突入し、やちよさん、キクさん、ねむちゃんはすぐにういを動けないよう抑え込みました。

「痛い、やめて!私が何をしたっていうの!離して、離してよ!」

ういは苦しそうな声をあげます。

でも、今は耐える時。

「では、失礼します」

さつきさんが取り出した3つの札はさつきさんの手を離れ、ういを取り囲みました。

それぞれの札が青く光ったかと思うとういを中心に淡く青い円形の結界が発生し、抵抗していたういは動かなくなりました。

「うまくいったか。ならば次」

そう言ってさつきさんはもう1枚の札を取り出して結界に押しつけました。時間がかかったものの、札を押し付けた場所には大きな次元の裂け目のようなものが現れました。

札の効果が発動する様子にねむちゃんは興味を示したようでさつきさんへ質問をしました。

「これは、どういう仕組みなのかな」

「最初のうち1枚は妹さんのソウルジェムから体へ送られる魔力を遮断し、一定時間体の鮮度を保つ効果があります。これで魂へ侵入している間に変に暴れられる心配はなくなります。
そのあとに使用した札で妹さんの魂につながる道を開きました。

無事に開いたということは、やはりみなさんが見たという悪夢と人が大量に死んだ光景がトラウマとなっていたようですね」

「なぜそんなことがわかるの」

「対象の悩みを知るのが魂へ潜入するための必須条件なのです。わかっているのは当然でなければいけないのです。
とはいえ、魂へ侵入するための扉を開くのが最も難関なポイントだったので安心しました。

さて、これらの札は長くはもちません。いろはさん、この後の結果はあなた次第です」

「はい、分かっています」

私はワルプルガさんに手を差し伸べました。

「いまのういには、あなたの存在も必要なの。ついてきてくれる?

ワルプルガさんは迷わず私の手を取りました。

「元からそのつもりだよ」

いまのういが最も心を許しているのはワルプルガさんだけ。

私の声が届かなかった場合、ワルプルガさんに頼らないといけなくなる。そうならないのが一番だけど。

そうして私たちは、ういの魂へと潜入したのです。

 

魂の中は、どこか魔女の結界に似た様子でした。この光景にやちよさんは驚いていました。

「これって魔女の結界じゃ。まさか、魂に潜むという魔女の仕業じゃ」

「いや、魔女の結界のように仕立てたのは私です」

「仕立てた?」

私たちは結界を進みながらさつきさんの説明を聞くことにしました。

「魂へと潜入して悩みを解決する方法には様々な方法があります。その中でも私は感覚を掴みやすく魔女の結界を模倣してあえて結界を形成し、その結界に悩みを反映させて最深部で救うという方法をとっています。
結界化は普通であれば札1枚で行えることなのですが、まあ、今回は本当に魔女がいるので介入されないように防護の札も織り交ぜたので少々大掛かりとなりました」

「あなた、思ったよりもすごい人だったんだ」

灯花ちゃんの呟きにさつきさんは敏感に反応しました。

「確かあなたは科学の天才でしたっけ。

いくら科学が発展しようと、人の心に潜入して悩みを解決するなんてことは呪法には敵わないですよ」

「むっ!時間はかかってもできちゃうかもしれないよ!人は科学を進歩させて絵空事のようなことを現実にしてきている。

イメージの投影技術なんかはできてきているんだから」

「でも、確かな心に秘めた悩みを探り出すのは厳しいでしょう。

そんな絵空事を容易く実現できてしまうのが魔法少女。

科学の発展なしに高度なことは魔法少女だけでも可能だとは思いますが、果たして皆が幸せに暮らせる世界にはなれるのか」

私はそこに口を挟んでしまいました。

「できますよ。私たちがやってみせるんです」

「そうだね。マギウスの時も一応魔法少女だけでやっていけていたし、しかもお姉さまがトップになるなら間違いなくみんな幸せになるんじゃないかな」

「ふふ、信用が厚いんですね」

「私は何も。みんなが協力してくれるからこそですよ」

「それだけみんなを笑顔にできるというなら、妹さんも大丈夫でしょうかね」

話していると目の前に見慣れたツバメの使い魔が現れました。

「使い魔?!」

「魔女の結界を模倣するんです。使い魔のようなものも現れますよ」

「でもあれは、見慣れた使い魔のような」

私たちの反応にさつきさん達は少し違和感を覚える様子でした。

何を気にしているのかを聞かずに、私たちは奥へと進んでいきました。

奥へ進むと、壁にはさまざまなういの姿が映し出されていました。

「なんなの、ここ」

おそらく魂の持ち主である妹さんの記憶が映し出されている空間でしょう。

このエリアがあったのは好都合です」

「好都合って、何にですか」

ここで妹さんについて聞きたいことを思いながら壁に触れてみてください。

きっと、いろはさんが疑問に思っていることが解決すると思いますよ」

そんなことができるのかな。

私は疑問に思いつつ、一番ういに聞きたいことを思いながら壁に触れました。

ういは一体何に絶望したの?

すると周囲は一気に暗闇に包まれ、私の頭の中へいきなり多くの情報が流れ込むと同時に目の前は光に包まれていきました。

目を開けると高校生になったういが友達と思える人物と会話していました。
私はその様子をまるで同じ空間にいるかのような感覚で見届けていました。

「あの子は退学確定だろうってさ」

「でも勉強を頑張ってたのに、東側の出身だからって」

「仕方がないよ。

西側よりも東出身の人が優秀なんてなったら大人達が黙っていないだろうからね」

「でも、おかしいよ」

「ういはそういう考えと無縁だから良いよね。

でも気をつけたほうがいいよ。東側の子をかばった子がいじめられたってことが過去にあったみたいだし」

「う、うん・・・」

様子を見ているといきなりういの考えが頭の中へ流れ込んできました。

“なんで、東側の人は西側の人と一緒に扱われないのだろう。

でも私には、どうにも。”

そのあともういが見たであろう悪夢が次々と映し出されていきました。

「なんなの、これ」

「お母さんが絶望するに至ったビジョンだよ」

声がした方を見るとそこにはワルプルガさんがいました。

「ワルプルガさん、なんでここに」

「あなたが壁に触れてからピクリとも動かなくなったから、さつきという人物に助けに行くよう伝えられたから来たんだよ」

「そう、なんだ。

でも、なんでワルプルガさんにはここがどういう場所なのかわかるの?」

「お母さんが絶望に巻き込まれる瞬間に立ち会ったからだよ」

「それ、だけで?」

「テレパシーに乗せられて全てが筒抜けだった。

あの光景だけは、流石に私にもこたえた。

とはいえ、今のはあなた達が見たという悪夢の一部。

とどめになったのはもっと別の要因だよ」

「あなたって、いったい」

ワルプルガさんの話に夢中になっていると再び別の光景が映し出されました。

映し出された光景は、私たちが怒りに任せてカレンさんを撃った時でした。

その一撃はカレンさん達を巻き込み、そして里見メディカルセンターに直撃しました。

その途端に里見メディカルセンターにいた人々の断末魔が私たちの頭の中で鳴り響いたことで正気を取り戻したことは覚えています。

しかし、ういの感じたものは違いました。

 

お姉ちゃん、みんな、怖いよ。

どうしてそんなにカレンさんを殺そうとすることしか考えていないの!

そして里見メディカルセンターに直撃した瞬間は。

悲鳴が聞こえる。脳の容量を軽く越える量の人々の悲鳴が入り込んでくる。

いやだ、こんなの嘘だ。

よく部屋に訪れて話してくれた看護婦さん、灯花ちゃんのお父さん、そして商店街のよく知る人たち。

みんないい人なのに、どうして死なないといけないの!

お姉ちゃん達が、撃たなければ。

いやだ、いやだよ。

みんな、こんなの嫌だよ。

 

見ているだけで苦しかった。私たちが聞いた悲鳴以上にういにはたくさんの声を聞き入れていました。
見ているだけで私のソウルジェムは黒くなっていき、半分ほど穢れが溜まったかと思う頃に別の様子が映し出されました。

それは電波塔の上でカレンさんたちと戦っていた時の様子でした。
シオリさんが撃ちだした何かがういに命中したところが映し出されました。
その撃ち込まれたものからは魔女に似た魔力が感じられ、里見メディカルセンターに私たちの直撃した瞬間にその魔女の魔力を放つものはういの中で弾けたのでした。

ういがこんなことになってしまったのは、シオリさんが撃ちこんだものが原因だったというの?

そんな様子が映し出された後、声が聞こえてきました。

“だったら捨てちゃいなよ”

誰かわからない声がういに問いかけました。

「あなたは?」

“ういの代わりをしてあげるための存在。

あなたの代わりに、私がういになってあげる。

嫌なんでしょ。こんな世界も、あんなお姉ちゃんも”

「それも、いいかもしれない」

だめ、自分を捨てないで、うい!

私がういに向かって手を伸ばそうとすると、その腕を誰かが掴みました。

私が正気に戻って掴んだ手の方を見ると、無表情に私を見つめるワルプルガさんがいました。

「これで分かったでしょ。

お母さんをこんなことにしたのは、あなた達のせいなんだから」

「あ、あれはカレンは倒さないといけないと思ったから」

「なんで魔法少女同士が争わないといけないの」

「あの時は、そうするしか」

「お母さんはそんな答えじゃ納得しないよ。

そんな考えが当たり前になるなら、感情を持って生まれた存在自体がいちゃいけないんだ」

「私にだってわからない!
みんなを傷つけたカレンさん達を、許せるわけがないよ!
許せないのに、怒りの感情を抑えるなんて」

「魔法少女も、人間と同じ道を歩むの?
なぜ怒るの?なぜ妬むの?なぜそれらの感情から暴力へと繋がるの」

私はどこかで、ワルプルガさんは何も知らない子どもだとばかり思い込んでいました。

でも、今目の前にいるワルプルガさんはどこか大人びていて、カレンさん達を相手にしているような感じがします。
分かっているくせに、試してくるかのような感じ。

「なぜ怒るのかって言われても」

周囲ではういに見せられた悪夢が映し出される中、私は怒りについて考え始めました。

私は過去に怒りを感じた瞬間を思い起こそうとしました。
でもなぜか怒りをおぼえる場面を想像できません。生きている間に怒りを感じることは何度でもあっただろうに。

そんな中ういの悪夢の中に、ある一場面が映し出されていました。

ショッピングモールで、ねだったものが買ってもらえなかったのか駄々をこねる子ども。
お母さんをポコポコと弱弱しく叩いているあの行動も一種の怒りから来る行動の表れなのでしょう。

欲しかったものを買ってもらわなかっただけでなぜそんなに怒ってしまものでしょうか。

私の場合はどうしても欲しいものが買えなかった場合、がっかりする、つまりは悲しい気持ちになるだけで終わるでしょう。
望んだ結果に、ならなかったから。

望んだ結果に、ならなかったから?

負の感情をいだいてしまうのは、望んでしまうからなの?
何かを求めてしまうから、その結果によって感情が動いてしまうのかも。

では、なにも望まなければいいとなってしまう。

なにも望まない世の中というのは、楽しいのだろうか。

そう思っているときに、私はみかづき荘でみんなが笑顔で過ごしている様子が思い浮かびました。
みんなで過ごしているときは何を望んでいるわけでもない。ただそこにいるだけで温かい気持ちになれた。

ただただ散歩しているときだってそう、見知った人と会話をしているときだってそう、私は何の望みを思い浮かべなくても楽しいという気持ちを抱けていた。

きっと過去のように、
私の会話はみんなを楽しませているだろうかという、どこか私は他人と話すときはその会話で他人を楽しませないといけないという使命感のような望みを抱えていた。
だからか、会話を楽しめてはいなかった。

だとしたら、怒りをいだいてしまう答えは。

「怒りは、何かを望んでしまうから。
望んでしまうからその結果通りにならなければ悲しみや怒りといった感情に繋がってしまう。
望みを抱かなければ、怒りなんて感情は抱かなくても済むはずなんじゃないかな」

ずっと私の方を見ているワルプルガさんは、ちょっとだけ間を開けてから再び真顔で話しかけてきます。

「それが、私念を抑え込む答え?
それさえできれば、誰も争わなくて済むの?」

「わからない。
他人を困らせることで喜びを感じてしまう人もいる。そういった人たちを止めるために争いはなくならない。
でもそれは必要な争いだと思っているよ。ういだって、それはわかってくれるはず」

「そうか。じゃあその答えも含めて今後も大丈夫っていう安心感をお母さんへ与えてあげて。お母さんの中にある希望を大きくしないと」

「希望を、大きく。でも望んでしまったら負の感情をいだくきっかけになっちゃう」

無表情だったワルプルガさんが、笑顔を見せながら私の手を握りました。

「希望はそんな単純なものではないはずだよ。
だって希望は、生きるための源なんだから」

希望に感じること

ういはあんな悪夢を見せられても人への希望を失わなかった。

そんなういにとって希望となる光景は・・・

不思議と心当たりはあった。人と魔法少女が共に生きれるかもしれないという希望が。

そうか、あれがういとの向き合うための希望になるのか・・・

「答えを見つけ出せたみたいだね。じゃあ、みんなのところへ戻ろうか」

 

はっと気づくと壁にいろんな記憶が映し出されている部屋に戻っていました。

「いろは!」

声がした方向を向くと、真っ直ぐにやちよさんが抱きついてきました。

「気がついたのね。心配させないでよ」

「やちよさん?」

「お姉さまが壁に触れてから10分近くずっと動かないままになっていたんだよ」

この部屋に意識が持っていかれてしまったのではないかとヒヤヒヤしたよ。

でもよかった」

灯花ちゃんとねむちゃんの話を聞くに、どうやら私は壁に触れたままびくとも動かなくなっていたらしいです。

さつきさん達は落ち着いた様子だったので、こうなることはわかっていたかも?

「収穫はしっかりあったかい?」

キクさんがそう問いかけてきて、私は自信を持って答えました。

「はい、大丈夫です!」

「いいことだ。

じゃあ、妹さんに直接会いに行こうか」

さつきさんが向かった方向には扉があり、その扉の中からは魔女の気配が感じられました。

きっと大丈夫、あの時気付いた答えでういに再び希望が与えられるはず。

待っててね、うい!

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-17 憂いの思いは過去の私念から

二木市から私たちを乗せていた貨物列車は無事に神浜の車両基地へと到着しました

そこにはミリタリーな格好をした1人の魔法少女がすでにいました。
その人は博さんというようで、いつもは列車を運転してくれた方、銃をもって応戦してくれた方と一緒の3人グループで行動しているようです。
2人プラスアルファのメンバーで協力してくれたのは、神浜に来てから仲間が増えたからだそうです。

私が列車から降りると博さんが話しかけてきました。

「環いろはさんだよね?
咲たちが迷惑かけなかったか」

「いえ迷惑だなんて。とても助かりましたよ」

「三崎~、私たちがへまするように見えたのかい?」

「火炎放射器のやつと戦うチャンスだって駆け込んだこと忘れていないぞ」

「なーに、これでいつでも戦えるチャンスができたんだから同じ結果だって」

博さんたちの会話を聞いている間に、車両基地に入る列車を見たのか十七夜さんを含めた東側に住む魔法少女達が集まってきました。

その人達が二木市の魔法少女を見て、神浜に迎え入れてもいいのかと少し口論にはなりました。

しかしその場で争いを起こした理由を結奈さんが説明し、皆が納得したわけではありませんがその場は一旦治りました。

この件は少しずつでいいからみんなで協力しあえる環境を作っていけばいい。

気がかりだった出来事が片付き、いよいよういを正気に戻す行動に移らなければいけません。

私はやちよさんにまかせてしまっていたさつきさん達のもとへと向かいました。

やちよさん達がいたのは竜真館で、そこでは3人の子ども達が魔法少女達と遊んでいて、その様子をやちよさん、さつきさん、キクさんの3人が見守っていました。

そんな中、やちよさんがこちらにきづきました。

「いろは、戻ってきたのね」

「はい、お待たせしました」

「おかえりなさい、いろはさん。

あの3人、みんなに受け入れてもらえたようで楽しく過ごしているわ」

「それは良かったです。

えっと、大事な本題の話になっても大丈夫そうですかね」

「ええ。早く妹さんを助けに行きましょう」

さつきさん達が滞在することになった部屋へといくと、そこには何か札が用意されていました。

「あの札って」

「妹さんの心の中へと複数人で侵入するのでしょう?
私一人はともかく、複数人の侵入となると札にも準備が必要なのよ」

「え、私複数人で侵入するって言いましたっけ?」

「あら、経路を作る私とあなたの時点で十分複数人扱いよ。

1人以上であれば複数人扱いで対処するのは当たり前でしょ」

「それは、そうでした」

「ともあれ、相手の魂を傷つけないためにも侵入先をよく分析する必要があるわ

妹さんのところへ連れて行ってもらえるかしら」

そういえばういは今どこにいるのだろう。

神浜で何があったのかをよくわかっているひなのさんにういがどこにいるのか聞いてみました。

「ういちゃんの居場所は、里見灯花と柊ねむがよく知っているはずだ。

あいつらが強引に連れて行ったからな。

どこで匿っているかまでは知らん」

「そうでしたか。ありがとうございます」

私が灯花ちゃんとねむちゃんに会うために行動していると、2人の方から私たちの前へと姿を表しました。

「もう、帰ってきているならすぐ知らせに来てよね!」

「待ちくたびれていたところだよ」

「ごめんね。

さっそくだけど、ういの居場所に案内してもらえるかな」

付けてきている者がいないかを確認しながら、私たちは巧妙に隠されたシェルターへと案内されました。

「壊れていないシェルターなんてまだあったのね」

「里見グループ限定の隠されたシェルターだからね。ここなら誰にも邪魔されずに過ごせるんだよ」

シェルターの奥へと進んでいくと、その中の一室にういとワルプルガさんがいました。

部屋の中は綺麗で、見慣れたういの部屋と似た状態でした。

そんな部屋の中で、ういは編み物をしていました。

「…何か用?」

「えっとね、今日はういに会わせたい子がいて」

「社交辞令はいいわ。ちょっと失礼するわよ、妹さん」

そう言ってさつきさんは右手を前に出してういの魔力を探り出しました。

その間、ういは警戒して怖い顔をこちらに向けてきました。

さつきさんは魔力を探っていると、いきなり何かに弾かれたかのようにその場へと倒れ込んでしまいました。

「さつき!」

キクさんが慌てて駆け寄り、さつきさんは大丈夫だと言うジェスチャーを向けました。

「これは思った以上に重労働ね」

そう言ってさつきさんは一枚の札を取り出しました。

「失礼するわよ」

そう言ってさつきさんは一瞬で札をういの指輪へと当て、反撃される間も無く札へとういの魔力を込めました。

「ちょっと、何をしたの!」

ういの問いかけに耳を傾けることもなく、さつきさんは失礼しますという一言を言い残して部屋を出てしまいました。

私たちもそのまま部屋を出てしまいました。

「さつきさん、下見はもう十分なのでしょうか」

「ええ。でも思った以上に大物を相手にしないといけないようね。

神社で戦ったあいつよりは弱いけど」

「それって、どういうことですか」

さつきさんは神妙な顔つきでこちらを見てきました。

「ういちゃんのソウルジェムの中には、魔女がいる状態よ」

さつきさんの発言に私は驚かずにはいられませんでした。

「ソウルジェムの中に魔女がいるだなんて。そんなことあるんですか?!」

「そんなことあり得るの?」

「魔女は結界さえあればどこにでも潜める、と言うことを前提とすればあり得ない話ではない。

なんでソウルジェムの中へ入り込んでしまったのかというのは私も知りたいくらいだわ」

「あなた、ソウルジェムの中にいる魔女を倒す方法を知ってるんでしょ?」

「ソウルジェムの中へ入り込んで討伐するのは造作もないこと。

でもあの妹さんの言動はいつもの言動ではないのだろう?

だとしたら魂の主導権はほぼ魔女になってしまっている可能性がある」

「そんな」

「だからただ倒すだけではいけない。

妹さんが魂の主導権を取り戻さなければいけない。

そのためには、いろはさん。

彼女をよく知る存在の協力と、説得までに魔女を倒さず押さえ込む人員が必須よ」

「魔女を倒すだけではダメなの?」

やちよさんの問いかけに対して、灯花ちゃんが答えます。

「体の主導権を魔女が持った状態で倒してしまうと、その大部分の主導権が魔女と一緒に失うかもしれないんだよ。
ういは助けられても二度と目を覚ましてくれないかもしれないよ。

あなたが言いたいのは、ういが魔女から主導権を奪わないと意味がないってことでしょ」

灯花ちゃんの問いかけにさつきさんは頷きませんでした。

「ことはそれ以上に深刻かもしれない。

説得が長時間に及べば、争う魔女を押さえ込むのに激しい戦いを強いられるだろう。それによって魂が傷つけられ、主導権を取り戻せたとして元の妹さんに戻れない可能性がある。

なぜ主導権が魔女に奪われつつあるか、それを知った上で説得をスムーズに進められるようにしたほうがいいだろう」

そう言った後、さつきさんは私の方へと向きました。

「いろはさん、あたなたは妹さんに、何をしたの?」

「え?」

「あの魂の状態は、よっぽど深いトラウマを受けなければならない状態だった。

考えたくはないのだが、虐待とかしたのではないか」

「お姉さまがそんなことするわけがないでしょ!」

「ならば教えて。

何があれば、妹さんはあんなに心を閉ざすの。

これは妹さんを元に戻すためにも重要な案件だ」

「それは、話が長くなるので落ち着いて話せる場所へと移動しましょうか」

私たちはシェルターの一室でお茶を飲みながらさつきさん達へこの町で起きたことを話しました。

「そうか。この街に来てからずっと違和感を持っていたが、そのようなことが」

「でもあの子達にみんな仲良くしてくれていた。根っからに人間嫌いになったわけではないのね」

「だとしたらおかしい。あの子達と同じぐらいの歳の子も人間嫌いになる悪夢を見ていたはずだ。

ならばなぜういちゃんだけが心を閉ざさなければいけない」

「私にも、そこがわからないのです」

みんながなぜなのか悩んでいるところ、ねむちゃんが提案をしてきました。

今のういが唯一心を許しているワルプルガに話を聞いたほうがいいだろう」

「ねむちゃん?」

「近くにいる存在にしか気づかないこともある。ういから何か聞かされている可能性もあるからね」

「なら、ういちゃんが寝ている間にワルプルガさんに話を聞いたほうがよさそうね。

ういちゃんが起きている間はまともに話してもらえなさそうだし」

「じゃあ、もう少しここで待ってみようか」

「ならば私は札の作成道具をここに持ってくるわ」

「私も行こう」

「ちょっと、では一利するなら他の子に気付かれないようにしてよね。
ここは大事な場所なんだから!」

そうして、私たちはういが眠りにつくのを待ちました。

ういが眠ったかどうかは灯花ちゃんが監視カメラで確認してくれて、私は静かに部屋の扉を開けました。

私はテレパシーでワルプルガさんにだけ呼びかけ、気がついたワルプルガさんは静かに部屋を出てきてくれました。

「あなたは、いろはさんですよね」

「そうです。ういから聞いていましたか」

「いや、私が目覚めたときにされた入れ知恵のせいだよ」

「入れ知恵って、まさか」

ワルプルガさんはリビングがある方向へと歩き始めます。

入れ知恵といえば、確かワルプルガさんを復活させる際にシオリさんがやっていたこと

もしかしたら、私たちのことについても既に学習させていたのかもしれない。

私たちが知らないことも、知っていたり。

リビングにはみんなが集まって、ういがどんな状況であるのかをワルプルガさんに聞いていきました

「さて、ワルプルガさん。ういちゃんから何か辛い記憶とか苦しい記憶のことについて聞いていないかしら」

「私に聞くってことは、お母さんが私以外に絶対話さないようなことですよね」

「察しが良いわね」

「話すわけないですよ。

今のお母さんは、別の何かに塗りつぶされようとしているんですから」

「そこまで知ってるの?!」

「全て入れ知恵がいずれそうなるとなっていたので」

「入れ知恵?」

「それに」

ワルプルガさんは私の方を向きました。

「お母さんが塗りつぶされ始めた原因は、お母さんが見ている前で人殺しをした、いろはさん達が原因というのも」

全員その言葉で驚きました。

ういの目の前で人を殺す?!

私がやった人殺しといえば、カレンさん達を吹き飛ばそうという思考に塗りつぶされた結果放った一撃が、避難所になっていた里見メディカルセンターを破壊した時くらい。

あの光景が、ういにも共有されてそれが原因ということなの?

「いろはさん。それはどういうことですか。

内容によっては協力できるかも怪しくなりますよ」

「さつき…」

「わかりました。

おそらくういがトラウマになったである出来事のことを説明します」

私は包み隠さずカレンさんたちを殺すに至った経緯をさつきさん達に説明しました。

2人は終始驚いた顔つきでした。

全てを説明し終わり、最初に話し出したのはキクさんでした。

「恨みや妬みは盲目にさせるとは言うが、その件は飲み込まれた側も悪いだろうな」

「それに、この町の魔法少女は平気で人を殺せるのか」

わたしはさつきさんが協力をしてくれなくなるのではないかと怖くなっていました。

「でもそこまでの覚悟がないと、わたくし達は既に捕まっていたんだよ?

「捕まったらどうなるのかいまだにわからないが、嫌な思いをするのは明白だ。

投降なんてことも得策ではない」

「そのカレンという方は、こうなることを見越してあなた達の常識を塗り替えたと、それが正しかったのだというのですか」

「この街のみんなは、そうは思っていないけどね」

「幸いしたのは確かだけどねー。

私達がここに魔法少女の安全地帯を作っていなければ、あなた達だってとっくに捕まっていたのかもしれないよ?

むしろ感謝してほしいくらいだよ」

「灯花、言葉が過ぎる」

さつきさんは少しだけ難しい顔をした後に話し始めます。

「受け入れ難い事実ではある。

しかし、今無事であるのもこの環境があるからこそ。

それに、魔女に塗り潰されようとしている被害者を見過ごす理由にはなりません」

「では」

「妹さんを助けることには協力しましょう。

その後は、好きにさせてもらいますよ」

「はい。協力してもらえるだけで嬉しいです」

「そういうことであれば、妹さんの心を開く鍵はおそらく人がたくさん死んだ光景を見たことに対してのケアでしょう」

「少し難しいことになったわね」

「純粋な子どもが人の死を、それも大量に目の当たりにしてしまった時は大抵トラウマとなるでしょう。

それを克服しようとしたところで膨大な時間をかけての自然治癒くらいで、すぐに解決するものかは」

「では、どうしたら」

みんなが少し黙ってしまった中、ねむちゃんが提案してきました。

「トラウマの克服は種類や状況で変わるが、やりやすい方法として認知処理療法というものがある」

「認知処理療法?」

「何がトラウマの原因となったのか、今は何で心を苦しくしてしまうのか。

つまりはトラウマを抱えた人の悩みを真摯に聞き、心の内を全て開示させてその内容に理解を示すんだ。

それだけで心が安らかになり、トラウマ克服の糸口になったりするらしい」

「それならいろはが適任ね」

いきなりやちよさんに名指しされました。

「私が?!」

「あなたは聞く能力と、相手を安心させる能力があるわ。

きっとういちゃんの悩みも、いろはにはなせば解消されるはずよ」

「ならば気をつけてください。

人殺しを躊躇しないあなた達とは違って、妹さんは人の一般的な常識を持ったままだと思います。

いろはさん、人殺しはもうしないでほしいと聞かれて、正直に答えられますか。

街のみんなも、もうそんなことしないでほしいと言われて、心から妹さんの考えを肯定できますか」

「それは。

嘘でもそうするしか」

「その場で嘘がバレたら手遅れなんです。

妹さんがどれほど心を読む術に長けているかは謎だが、嘘を使うなら失敗する覚悟で望んでください。

彼女の魂は塗りつぶされかけているのですから、嘘をつかれていると気づいた瞬間に」

「はい…分かってます」

いつものように正直に向き合うことは、本当にできないのだろうか。

嘘が下手なのは分かっている。

ういの悩みが、正直に答えられるものなら良いけど。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-16 のちに響く計略

アンチマギアプログラムが全世界へ認知されてから数日経過したころ。

米国の魔法少女狩りが行われている中、イザベラもお世話になっていたテロリストのメンバーの中にマーニャという魔法少女がいたのだが、その人も標的にされてしまった。

裏路地でマーニャさんが見つかったという話を聞き、私はその場所まで急いだ。

そこには特殊部隊に囲まれて動けないマーニャさんの姿があった。

テロリスト達と関わっている間何度か話したことがある人だが、魔法少女である以上逃すわけにはいかない。

私は特殊部隊のメンバーよりも前へ出てマーニャさんへ話しかけた。

「悪く思わないでください。
今の世界の常識では、あなたを見逃すわけにはいかない」

「キアラ、いまはイザベラはいない。考え直して!」

「私たちが使用していた魔法の鏡をことごとく割って回ったこと、米国の魔法少女の確保状況が良くないこと。

あなたが全て手回ししていたことは既に知っています」

「なんでそんなことを知っている。

まさかとらえた子の脳みそでもいじったか。
外道め!」

実際事実であるから言い返せない。

魔法少女の脳波をいじくり回し、ついには記憶さえも観測できてしまうというとんでもないものをディア達は作り上げている。

もちろんだがいじられた子達は負荷に耐えきれず魔女化してしまい、皆始末された。

あなたを捉えれば世界を脅かそうとする存在達の情報も聞き出せるでしょう。

それに、今あなたを逃せば私たちの負けは確定する。そんな気がする」

「…そうか~

なら、私たちのアジトの場所を教えると言ったら逃してくれるのかな」

兵士たちから銃を向けられていてもいつも通りの態度を崩さないマーニャさん。
こういった状況に慣れているからなのか、緊張感自体を感じないからなのか正直分からない。
マーニャさんとの付き合いはそれなりにはあるが、いつもいま目の前で見せているような余裕を持った態度しか見たことがない。

私は念のためマーニャさんへ確認をとった。

「嘘ではないんでしょうね」

「嘘はつかないよ。嘘だった時の報復が怖いからね。
イザベラならヨーロッパをまるごと吹き飛ばすとか言い出しそうだし」

「それは、あり得るから困る」

できればマーニャさんには苦しんでほしくない。

アジトがわかれば、イザベラは考えをあらためてくれるだろうか。

「キアラさん、もうよろしいのではないでしょうか」

特殊部隊の1人が私へ声をかけてきた。

「そうだな、もういい頃だろう」

私がそう言葉を発すると夜闇から音をたてず人々が現れて次々と特殊部隊たちを気絶させていった。
突然現れた人物たちの危険を察して逃れた兵士に対しては私がひそかに気絶させた。

マーニャさんが困惑する中、火が付いていないたばこを咥えた一人の男が言葉を発した。

「なんだよ、サピエンス直属の特殊部隊と聞いていたがこの程度か」

「ロバート、なんでここにいるんだ。

それに、みんなまで」

夜闇から出てきたのはロバートが率いるテロリストたち。彼らとは手を組んでいるため現れたことについて私は少しも驚きはしなかった。

「え、なんで?もしかして、キアラもグル?」

「じゃなきゃ俺たちもこんな堂々とやらねぇって。俺たちだってキアラにはかなわねぇってことぐらいわかってるさ」

「そ、そうだよね。よかった」

「よかったじゃねぇ!」

いきなりロバートさんが怒鳴りだしてこれにはさすがに私も驚いた。

「さっさと消えろ。じゃねぇと他のやつらに気付かれちまう」

「ロバート・・・」

ロバートは悲しそうなマーニャさんの顔を見ると、ぎこちない笑顔を見せた。

「達者でな」

そんなぎこちない笑顔を見てもマーニャさんは笑顔を見せた。

「うん。
みんな、キアラ、ありがとう!」

そう言ってマーニャさんはその場から姿を消しました。

私はマーニャさんが姿を消したことを確認した後、ポケットにしまっていた魔法少女の探査端末を取り出した。その端末にはマーニャさんであろう反応がしっかりと映っていた。
感知できていることを確認した後、私はカルラへと通信を繋げた。

「取り巻きは対処したよ。
あとはそっちで好きなようにして」

「感謝する。前にも言ったがこれはイザベラ達には内密に。あんたにも響くことだろうからね」

「わかってるよ。こちらで呼んでおいた応援もそちらに向かわせる。
助力なだけだからあまり信用はしないでくれ」

「わかった」

通信が切れた後、わたしは探査端末をロバートに渡した。

「どういうことだ」

「あなたたちに声をかけたのはマーニャさんを逃がすため意外にも目的があります。
それは、マーニャさんが逃げた後彼女たちが使用している転送の鏡を確保することです」

「てめぇ!マーニャをはめたのか!」

「マーニャさんが無事であればいいのです。
それに、ここであなたたちが魔法少女狩りに貢献しておけばあなたたちへ矛先が向くことも無くなるでしょう」

「おまえ、俺たちのことまで」

「今は人同士が争っている時ではないのです。
その不安分子を取り除いたくらいに過ぎません。さあ、その探知機が示す場所へ急いでください」

これで段取りはすべて踏んだ。あとはカルラが何かたくらんでいたようだが何をするのかまでは聞いていない。
いったい何をしたのかは、すべてが済んだ後に聞きに行ってみよう。

 

 

ヨーロッパを中心として活動している魔法少女達は、元ベルリンの壁跡地の地下深くの魔力で作られた空間をアジトとしている。
魔力を籠らせた魔法石がトリガーとなって入場審査を行っている

ただその魔法石があるだけでもダメ。ちゃんとその魔力を籠らせた本人じゃなきゃ入場が許可されない。

それに、敵に捕まったと判明すればすぐにその所持者の魔法石では入場不可にしてしまう。
とはいえ、ミラーズという場所で作られた鏡を通ってくるところまではカバーができていない。
なので別の空間と繋がっているその鏡についてはアジトへ侵入できる穴となっている。

そんな鏡の一つを使用してわたしはアジトへと逃げようとしていた。

しかし、なぜかその場所へサピエンスの特殊部隊が姿を現した。
まさかキアラが。いや、だとすると私を逃がした意味が分からない。

「マーニャさん、でしたっけ」

話しかけてきたのは白衣に身を包んだ女性だった。
私の名前を知っているのはキアラから聞いたからなのだろう。

「あなたには少し用があってね。変に攻撃をしてこなければ話だけで済まそうと思う」

他の魔法少女が白衣の女性に対して言葉を放った。

「その言葉を信じれと。サピエンスの言葉を魔法少女が信じるものか」

「まあそれはそうか。
では、サピエンスの本拠地があるペンタゴンの見取り図を渡すと言ったら大人しくしてくれるか」

そう言って白衣の女性は手に持っていた地図をこちらに見せてきた。
暗闇ではあるものの、五角形の図形の中へびっしりと複雑な線と文字が書き込まれていたのは確認できた。それが本物だとしても。

「正気なのかお前は。
それを伝えたところでお前たちに何の利益がある」

「これをどう利用するのかはお前たちに任せる。
だが、これを受け取れないというならばお前たちを”捕らえる”という形で保護しなければならない」

「どのみち抵抗しないと捕まるだけだ」

「言ったはずだ。話し合いだけで済ませたいと。
たまには信じるという選択肢を取ってみたらどうだ。争ったとしてもそうじゃないとしても、君たちは保護しないといけないからな」

「マーニャさん、どうします」

あの地図自体が罠だとしても、サピエンスの拠点がどうなっているのかを知ることができれば今後の作成に大いに役立つだろう。
でも、こいつが言っている保護とはどういうことだ。

「保護の意味を教えてくれたらお前の意見を飲もう」

「言葉の通りだ、実験にも拷問にもかけたりしない。他のサピエンスのメンバーに気付かれないよう守るだけだ」

これは、サピエンス内も一枚岩ではないということか。
表情一つ変えず淡々と話す白衣の女性を見ていると信じるのは怖くなってくる。

「・・・いいだろう」

私は見取り図を受け取ってメンバーに見送られながらその場を後にした。

鏡を通って私は拠点へ辿り着き、ミアラの場所へと急いだ。

ミアラのところへと到着するとすぐに手に入れた情報を渡した。

その情報を見て、その場の全員が驚いた。

「これ、ペンタゴンの見取り図じゃないか!

これ本物なのか?!」

「渡してくれた人は本物と言っていたよ。
でも引き換えに私たちが使用しようとしていた鏡一枚とその場にいたメンバーたちが保護された」

「バカかお前!早く鏡を割らないと奴ら直接入ってくるぞ」

「いや、まて」

ミアラさんは見取り図を見ながら何か考え込んでいた。

私たちはペンタゴンにサピエンスの人員や物品が頻繁に出入りしていることからサピエンスの拠点になっているのではないかということはわかっていた。
そのうえでペンタゴンの攻め方を模索していた。

ただでさえ難攻不落と呼ばれているペンタゴン。

この見取り図が信用できるならば、サピエンスの拠点はペンタゴンの地下に存在する。

「協力者がいたのか」

そうミアラさんから質問された。

「協力者、でいいのかな。あの人は確かにサピエンスの一員みたいでしたが、鏡を手渡すことを条件にこのデータをくれたんです」

「それで鏡とメンバーは保護されたと。何に使用するのかまでは聞かなかったのか」

「えっと、争わずに話し合いで済ませてくれれば捕まえるではなく保護するって言われたから」

「はぁ?!

やっぱ馬鹿だろお前!」

「私だってそうするしかなかったんだよ!

あいつら私らの脳みそを覗き見る装置を作ったみたいなんだ。

捕まったほうが何倍もマイナスだったよ!」

「まあみんなそんなに責めるな。

マーニャ、生きて帰ってきてくれただけ嬉しいよ」

「ミアラさん…」

「やつらが鏡を確保したのであれば、こちらに攻め込まれる可能性があり、逆にこちらから攻め込めることにもなる。
とはいえ、すべて負担がかかるのは神浜だ」

「神浜、カレン達がうまく追い払ってくれるといいですね」

「そうだな。こちらは鏡の間の警戒を怠らないようにしよう」

 

あの白衣の女性は何を考えて保護などという言葉を使ったのか。
私の選択は、正しかったのだろうか。

 

 

わたしはマーニャさんに関する一件が落ち着いた頃、なにが目的であのような段取りを用意したのかカルラへ聞きに向かっていた。

イザベラへは鏡を確保したことまでは報告されておらず、その場にいた魔法少女達をロバート達テロリストの協力のもと確保に成功したという報告がされていたようだ。
ロバート達の扱いはしばらく保留されることとなり、気絶させられた特殊部隊のメンバーについては申し訳ないが魔法少女達にやられたという扱いになってしまったようだ。

研究室にいたカルラへ話しかけると、カルラの個室へと案内された。

部屋のドアが閉じられてからようやくカルラは話しはじめた。

「わるいな、あの一件はほんの一部のものにしか聞かせていないことだったからな。盗み聞きされないここまで来てもらった」

「・・・あれはいったい何が目的だったんだ。マーニャさんは逃げたようだがまさかイザベラには秘密で鏡も調達するとは思わなかった。
カルラ、あなたは一体何をする気なんだ」

カルラはタバコへ火をつけてそれを口にくわえると話しはじめた。

「キアラ、あんた今のイザベラのやり方をどう思う」

「やり過ぎだとは思っているさ。
でも、神浜にやろうとしている作戦の準備中である今制止を促すのは中途半端な気がしている」

「まあ懐刀であるあんたの前で言うことではないと思うが、信用しているからこそ言わせてもらう。
あの鏡は魔法少女達を脱出させるために使う」

「そんなことをしたらカルラは殺されてしまう!」

「だろうな。だが時期を間違えなければあれは魔法少女側へ勝利をもたらすキーに変わる」

「カルラ、あなたは人類側を敗北させようとしているのか」

「別に人類を敗北へ導こうなんてわけじゃない。魔法少女と人類、どちらがこの星の主導権を握ればまともになるのかを見定めた後にあの鏡を使用するさ。
今あの鏡は保護した魔法少女達に守ってもらっている。
時が来るまで彼女たちも鏡もイザベラは気づかないだろうさ」

カルラは人類が負ける不安分子を用意していた。それがこれまでの段取りの意味だったのか。
私は人類が勝利で終わることを望んでいる。
とはいえ、魔法少女へ酷な未来が来てほしくないとも思っている。

なんとも中途半端な考えであると我ながら思ってしまった。

「まあ、キアラは今まで通り過ごせばいい。
私たちをどうにかするかは、まあ、この世の情勢を見て判断すればいいさ」

 

果たして私は、カルラは、この世界の主導権を握るのはどちらがふさわしいと判断することになるのだろうか。

いまはまだ、わからない。

 

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-15 決意の朝

村の空気は村を出る前の頃と変わらず、都会よりも居心地が良いものに変わりはありませんでした。

村の人達は私たちを笑顔で迎えてくれて、そんなにぎやかな雰囲気を聞きつけたのかお母さんと、静香ちゃんのお母さんが出迎えに来ました。

「みんなお帰りなさい」

私達はお母さん達と顔を合わせ、いつも通り平静を装おうとしましたが、その態度はすぐにお母さん達にバレてしまいました。

「みんな、ちょっと様子がおかしい気がするんだが。
神浜市に行って何があったか聞かせてくれないか」

静香ちゃんのお母さんがそう切り出してしまったため、私達は正直に神浜で起こった出来事を話さないといけなくなりました。

「わかりました。落ち着ける場所で話します」

私たちは神浜へと行って何が起こったのかを話しました。

神浜にいる巫達はとても優しくしてくれた。

でも、日継カレン達の行動によって私たちは平気で人を殺してしまえるほど、人を信じれなくなってしまったことも。

そして何よりも、しずかちゃんの大事な剣が奪われてしまったこと。

お母さん達はその話を聞いてとても悩ましい顔をしていました。

「人間を殺めてしまう経験もそうだけど、人間を信じれなくなったってのも問題だね」

一体どんなイメージを見せられてそう言った考えに至ったのかはわからないけど、この村の人たちのことは信じて欲しいわ。
ここのみんなが優しいのは、3人も知ってることでしょ?」

「でも、でも。

この村にいる人たちが実は悪いことを考える人たちで、魔法少女を対等な関係で見てくれていなかったり、悪いことに利用しようとしているんじゃないかって思って」

私は涙を滲ませながら回答をしました。

そんな私にすぐに返事を返したのは静香ちゃんのお母さんでした。

「そりゃ人なんだから悪いことの一つや二つは考えてしまうさ。
何でもかんでも善行でできている人間なんていないと言ってもいい

「お母様達も、悪いことを考えてしまうの?」

「そうだね。

娘達を親の同伴なしで都会に送り出すことだって、人によっては私達は悪いことをしてると捉えるだろうさ。

でも、私は娘との合意の上で送り出しているつもりだ。

何が言いたいかというと、悪ってのは見る角度によってそうかそうでないか変わるってことだ

「お母様、もっとわかりやすく教えてもらえますか」

「こういうのは人生経験で学ぶ物だと思うけどね。口だけの説明では理解しきれないだろうさ」

「…私たちが悩んでいるのは、守ろうとしていたこの国が悪いことを考える大人の考えでできているってことを知ってしまったから。

国民にはまともな人がいるかもしれない。

だとしても、人はお金や権力が絡むと非道なことができる。

それは、子ども思いの親も同じ」

「ちはる…」

その後の夕食はできるだけ今まで通りの楽しい雰囲気で過ごそうとしました。

私はどこか演じきったという感覚が拭えず、お母さん達に申し訳なさしかありませんでした。

夕食後、私はひとり夜風にあたりながら考えていました。

私たちに見せられたあの光景の数々が事実だとしたら、人間は許せるような存在ではない。

でも、お母さん達のような、お金や権力に引っ張られずに優しさを忘れない人がたくさんいるならば、まだこの国は守っていきたいと思える。

「わからない、わからないよ」

「ちはる」

声がした方を向くと、悲しげな顔をしたお母さんが立っていました。

「お母さん…」

お母さんは私の横に立ち、優しく私の手を握りました。

「ちはる、お母さんはあなたに無理して人を信じて欲しいとは思っていないわ

できれば信じていてほしいけど、きっと人に対する不信感は都会に長く滞在したからこそ感じたこと

その疑う気持ちは大事なことよ」

お母さんは真っ直ぐに私の目を見ました。

「周りの大人達は受け入れてくれないかもしれない。

それでも、あなたの信じる道に進んでちょうだい。

だとしても、人の道を外れるようなことをしてはいけなわよ。
ちはるがそんなことに慣れてしまったら、お母さん悲しんじゃうから」

やはり、会うべきではなかったかもしれない。

こうして面と向かって自分の心に従えなんて言われたら、もうお母さんに会うことは無くなっちゃうだろうから。

でも、それはもう今更なこと。

「うん、ありがとう」

これがきっと、お母さんにいう最後のありがとうになるだろう。

 

翌日、私達は神浜市へと戻りました。

お母さん達には笑顔で行って来ますとは言ったけど、もう帰ってくることはない。

すなおちゃんはというと、両親に結局顔を一度も合わせることなく静香ちゃんのお母さんに相談を行っただけでした。

静香ちゃんは改めて人を信じてみたいという決意を固めたようです

結局今回の帰省は、時女一族をさらに二つの勢力に分けてしまうような要因を作ってしまっただけかもしれません。

そんな結果を聞いて分家の子達は複雑な気持ちになっていました。

どうにかして静香ちゃんが人との共存を目指そうと説得を行うものの、みんなが賛同することはありませんでした。

なかなか一族が今まで通りに戻らない中、神浜でテレビが復旧したという話を受けて、珍しいものを見ようと静香ちゃん、すなおちゃんと一緒にテレビが設置されたという竜真館へ行きました。

そこには魔法少女がたくさんいて、一部の魔法少女は私たちに声をかけてきました。

「おや、あなた達は確か時女一族の方達ですよね」

しかし私たちには覚えがありませんでした。

覚えている方達といえば、いろはさんとあとはピリカさんに怪我を負わせた魔法少女くらい。

「ほら、あの顔合わせの会議の時ですよ。

まああの時はピリカさんが突然倒れてそれどころではなかったですが。

でも今まで外に姿を見せなかったのに、テレビの噂でも聞いて飛び出してきましたか」

「まあ、そんなところですね」

すなおちゃんがそう答え、私と静香ちゃんは苦笑いするしかできませんでした。

いたか覚えがないなんて、言えない。

テレビでは他愛もない番組が流れている中、画面が急に荒くなっていきました。

「なに、故障?」

みんなが故障を疑っている中、画面が復活したかと思うと世界を大きく変えることになる演説が映し出されました。

アンチマギアプログラム

その内容は人間が魔法少女の発生を抑制し、現存の魔法少女達を支配するような内容でした。

周囲の魔法少女達は怯えた顔をするばかりで、その中にはひっそりとついてきていた分家の子達もいました。

「ちかちゃんに、旭ちゃん?!」

「涼子殿もいるでありますよ」

「わざわざ報告しなくてもいいだろ」

「…みんな戻るわよ。

これは、いい加減決断しないといけないことよ」

真面目な顔をした静香ちゃんがそう言うと、みんなはうなづいて時女一族のみんなはお寺に戻りました。

そして、みんなを集めた静香ちゃんは、私たちに相談もせずこんなことを言い出しました。

「私たちは巫、魔法少女であると、日の本に明かしましょう」

みんなはざわつき始めます。そんな中、涼子ちゃんが切り出します。

「大将、自分が何を言っているのかわかってるのか」

彼らは私たちを確保するとは言ったけど始末するなんて言っていません。

日の本のために戦う存在が巫であると言えば、きっとわかってくれます。だから!」

「それで人の前に姿をあらわにすると。
静香さんも知っているはずです。この世の中には悪い人間がたくさんいると」

ちかちゃんがそう言っても、静香ちゃんは引き下がろうとしません。

「明日、政府へと申告しに向かいます。
一族のみんな、ついてきてもらえるかな」

みんな静まり返り、最初に発言したのは、私でした。

「嫌だ」

「ちゃる…冗談はやめて」

「冗談ではないよ。

あの放送の内容しっかり見たでしょ?

魔女になった魔法少女が人を襲った映像、そしてドッペルを出した神浜にいた魔法少女が人間を虐殺する様子

あれを見て魔法少女が危険な存在だって思わない人なんていないよ

私たちがいくら危害を加えないからって、普通の人間としては扱ってくれない。

きっと、危険な存在として監禁されるだけだよ」

「そんなこと!」

「そんなことあります」

次に声をあげたのはちかちゃんでした。

「私の魔法少女になった経緯は知っていますよね。

危険な存在だと認識された上で、まともな扱いがされないことは目に見えています。

きっと利用されるだけです。

考え直してください!」

「…私は、一族の長について行きます」

「お前、本気か!」

分家の一人が静香ちゃんに賛同したのです。

その声を筆頭にポツポツと静香ちゃんについて行きたいと言う声が出てきました。

「本気なのか、お前たち!」

「人にも優しい人は、お父さんとお母さんのように優しい人はきっといるはず。

そう信じたいのです!」

「私もです!」

「わ、わたしも」

「みんな…」

結局人を信じたいと思っていたみんなが静香ちゃんについて行くと言いました。

「すなお、あなたの意見も聞かせて」

すなおちゃんはとても悩んだ顔でなかなか話そうとしませんでした。

「すなおちゃん、はっきり言ったほうがいい時もあるよ」

私がそう言うとすなおちゃんは深呼吸をして、静香ちゃんの顔を見ながら言いました。

「私は、行くべきではないと思います。

きっと、酷い目に遭うだけです」

静香ちゃんは少し泣きそうな顔になってしまいました。

「どうして…わかってくれないの」

その後は静香ちゃんが個室にこもってしまったため、私は個別に今後どうするのか聞いて回りました。

最初は一緒に外で月を見ていたちかちゃんと旭ちゃんに意見を聞いてみることにしました。

「静香殿の気持ちはわからなくもないでありますが、アンチマギアプログラムなんてものが実施された世の中で魔法少女が生きていけるとは思えないでありますよ」

「人はいくらでも騙そうとしてきます。静香さんが信頼している人もきっと偉い人の命令となればいくらでも裏切ってくるでしょうに」

二人は静香ちゃんの意見に否定的なようです。それぞれがいう理由は、自分の経験から言っていることなのかなと少し気にはなりました。

あまり二人のことは深くは知らないけど。

「どうしたら静香ちゃんは考え直してくれると思う?」

「結構意志が硬めの表情でしたからね。諦めさせる方法がないくらい、説得は難しいと思います」

説得が無理なことはわかってる。

でも、行かせちゃいけないと思うんだ。

いろんな子に意見を聞いても意見がまとまらず、布団で寝転がりながら考えていると知らないうちに眠ってしまいました。

そして目覚めたのは、外が騒がしい中すなおちゃんに声をかけられた時でした。

「外が騒がしいけどどうしたの?」

「静香がここを発つっていうんです。

日本政府に姿を見せるんだって」

私は急いで騒がしい玄関へと急ぎました。

外では引き止めている涼子ちゃんと毅然と立っている静香ちゃんがいました。

「大将、あんな放送があった後だ。

人間が普通に接してくれるわけがない。

考え直してくれ」

「私たちの考えは変わらないわ。

涼子ちゃん、道をあけて」

両者が睨み合っているところに私は飛び込みました。

「ちょっと何やってるの静香ちゃん!

馬鹿な真似はやめて!」

「私は冷静よ、ちゃる。

おかしいのはあなたたちよ。

少しは人を信じようとしてみてよ」

「私たちはもう信じれないよ!

受け入れられたって、人間社会自体が」

「悪いものは私たちが正せばいい。

それで人間社会だって健全になるわ」

「いつの間にそんな傲慢な考え方を…」

「話しても無駄でしょ」

そう言うと静香ちゃんは見慣れない刀を取り出しました。

「その武器、一体どこから」

「魔法で生成するって方法を教えてもらったの。

我が一族の刀はどこかいっちゃったし」

静香ちゃんは鋭い目つきでこちらをみながら刀の先をこちらに向けてきました。

「構えなさい、ちゃる。

私を行かせたくないと言うなら」

私は仕方なく十手を構えましたが、そこにすなおちゃんが割って入りました。

「やめてください!

時女一族同士が争うなんておかしいです!」

「すなお、あなたはどっちなの!」

すなおちゃんは悩んだ顔をしながら静香ちゃんから目をそらし、少ししてから涼子ちゃんの方を見てこう言いました。

「涼子さん、静香を行かせてあげてください。

その後の結果は全て私の責任にして構いません!」

「だが」

「行かせてあげてください!」

涼子ちゃんはどこか不満げな顔をしながら道をあけました。

静香ちゃんは武器を下ろし、すなおちゃんに話しかけます。

「すなお、あなたは来てくれるの?」

すなおちゃんはうなだれたまま、ただ首を横に振るだけでした。

「…必ず、あなたたちを迎えにくるから」

そう言って静香と人間を信じたいと思う子たちは水徳寺を後にしました。

私たちはしばらく気持ちを切り替えずに過ごしていましたが、切り替えざるを得ない出来事が起きます。

静香ちゃん達が出て行ってから次の日の夜があけた頃、紫色の霧が水徳寺を覆いました。

私たちは急いで外に出ましたが、中で逃げ遅れた子達はだんだん動かなくなり、テレパシーを送ることも受け取ることもできなくなりました。

そして、私たちが飛び出した先にいたのは、テレビで見たことがある特殊部隊と言える服装をした兵士たちが銃をこちらに向けて包囲していました。

「おとなしく言うことを聞けば痛い思いをしなくて済む。

素直についてきてもらおう」

抵抗しようという子が感じ取れたので、全員に対して抵抗しないようテレパシーで伝えました。

私たちにはこの場をどうしようもできない。

そんな中、知らない魔力反応を示す魔法少女の集団が近づいてきました。

その場に突風が発生して、紫色の霧が周囲から消えたかと思ったら、見慣れない魔法少女達は鎖やら鎌で兵士たちが銃声を鳴らす間も無く首や引き金を弾く方の腕を切り落としていきました。

あっという間の出来事でした。

生きている兵士がいなくなった頃、鎌を持った魔法少女が話しかけてきました。

「随分と大所帯だが、どこに避難するかは決めているか?」

「いや、今は何が起きているんだかさっぱりで」

「特に決めていないならば中央区の電波塔跡を目指せ。

あそこに怪我人や避難したものが集まっている。

あそこにいれば少なくとも安全だろう」

そう言って鎌を持った集団は去っていきました。

「さてどうするでありますかね」

「旭ちゃん?」

なぜか旭ちゃんとちかちゃんは武器を手に持っていました。

「神浜中にあの妙な兵士さん達が現れているんですよね。

道中出会うかもしれませんし」

「それに、お世話になった皆さんを助けた方がいいとも思いましてね」

「二人とも」

「でもどうするよ、ちはる」

声をかけてきた涼子ちゃんも武器を構えた状態でした。

「涼子ちゃんまで」

私はみんなの向けてくる目を見ずに思いを伝えました。

「私の意見を待たなくてもいいよ。それに、もう一族が集まって動く必要も」

「そうは言ってもね。

私らは他に行き場所はないし、こうやって分家同士が集まってる方が心地良くなってるんだよ。

だからそんなこと言うなよ。

今まで通りやっていこうや」

周りの様子を伺ってみると、みんな涼子ちゃんの意見に賛成しているようでした。

みんなを率いていくなんて気は全然ないけど、意見を求められたら答えるくらいの心持ちでいようかな。

「じゃあ、私は神浜から変な兵士さん達を撃退しようと思うけど、ついてくるかどうかはみんなに任せるよ」

「ま、そんなノリでいいさ」

こうしてあの日、私たちは神浜の魔法少女達と協力して謎の兵士たちを追い出しました。

あんなことがあった後、静香ちゃん達が無事なのかは不安ですが、きっと無事だと信じています。

 

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-14 国を守る 国の何を守る?

私達はあの日、神浜市から人が誰もいなくなった日に気がつくと皆散り散りとなっていました。

だれもがどうしてここにいるのか分からず、特に何かがあったら集まるようルールも決めていないのに、みんなは水徳寺に行けば誰かいるのではと自然と集まっていきました。

静香ちゃんは大怪我を負ったまま旭ちゃんに保護されて、今は寝室で寝たままとなっています。

私は静香ちゃんが目を覚ますまでの間、他の時女一族の子達の様子を見て聞いて回りました。

やはりみんな変わってしまっていました。

でもその変化を受け入れる者、抗いたい者がいて、時々喧嘩が起きては私たちが仲裁するの日々でした。

今日も静香ちゃんが眠る寝室へと来ていました。

寝室ではすなおちゃんが静香ちゃんの看病をおこなっていました。

「ソウルジェムは無事でよかったけど、傷が塞がらない前にきっとドッペルを出し続けたんだよね」

「そうだと思います。

ここへ運び込まれた時は本当に血の気がない真っ白な状態でしたが、今ではこうして元の顔色に戻っています。

輸血もしないのにここまで回復できたのは、魔法少女だからとしか言いようがないですね」

「そうだよね。なかなか目覚めないのも、体の回復がまだだからなんだよね。

いつか目が覚めるよね」

「もちろんですよ。そう思いながら、今は待つしかないです」

私は静かに寝室を後にしました。

寝室を出ると、廊下で涼子ちゃんが声をかけてきました。

「大将、まだ目を覚ます様子はないか」

「私には分からないかな。

今は静香ちゃんが目覚めても安心できるように時女一族のみんなを見守ることしかできないし」

「・・・旭から聞いたんだが、どうやら神浜にいる他の魔法少女は二木市ってところから来た魔法少女達と争いをはじめているらしい」

「今はそんなことをしているときじゃないと思うけど」

私達は話しながらお寺の縁側へと向かっていました。
縁側から見える月は変わらず綺麗でしたが、私の心には雲がかかりっきりです。

「今日ケンカしてた子達はどう?」

「ちはるのおかげで3人は落ち着いてはいたよ。
だがお互いに顔を合わせられるような状況ではないな」

「仕方がないよ、考え方の違いをわかりあうのは時間がかかるし」

立ったままだった涼子ちゃんは私の隣へと座りました。

「ちはる、あんたはもう時女一族の考え方にはついていけないのか」

「この国を守っていくって考え方は変わらない。守る対象は国であって、人間ではないだけ」

だが国ってもんは人間のお偉いさん達と国民から成り立ってるもんだ。
仮に人間を悪として成敗していったら、国がなくなると思わないか」

「国の考え方が違うよ。私が国として守りたいのは文化。

ここのお寺みたいなこの国ならでわの建築方法とか、昔話とか遊びとか。

季節ごとのイベントとかそういったものは人間が作り上げてきたと同時に、魔法少女も守ってきたものだから。

この国ならでわのものを守っていくって考えに、私は変わったの」

「国の考え方ねぇ」

今日ケンカしたという3人の子も、時女一族の理念について議論した結果生まれた衝突でした。

人間あっての国

文化があっての国

前者の考えであれば、人間を否定するとこの国を守ることを否定することになる。

後者の考えであれば、人間はいくら否定しちゃってもいいけど文化で国というものは成り立つのか。

国の捉え方で今は二つに分かれていて、今は若干文化があっての国という子達が多い状態です。

「人間あっての国というのは否定しないよ。

そう考えちゃうと、悪いことしか考えない国の偉い人たちをどうするのかって話になっちゃうのが怖いだけ」

「みんな同じ経験をしたんだ。
奴らの行いを暴いたらみんな構わずこの国のお偉いさんの命を奪うだろうだろうな。
それがこの国を守ろうとする行為なのか、それをしっかり考えなくちゃいけねぇ。

ちはる、あんたらの考えはこの悩みから逃げてるだけにしか聞こえないんだ

「やめてよ涼子ちゃん、わかってるよ。
でもこうして考えた方が、今後理念を守っていくにはちょうどいいと思う」

どの意見が正しいかなんて分からない。

本当は、どっちが正しいと決めつけるのが悪いことだと思うけど。

 

次の日の夜、すなおちゃんが私の元へと走ってきました。

「ど、どうしたの?!」

「静香が目を覚ましました!」

私はすなおちゃんと一緒に静香ちゃんがいる寝室へと急ぎました。

襖を開くと、そこには体を起こした静香ちゃんがいました。

「ちゃる…」

私は思わず静香ちゃんに抱きつきました。

「よかった、目を覚ましてくれて!
今は、それだけでもとっても嬉しいよ」

「うん…心配かけちゃってごめんね」

みんなが静香ちゃんが目覚めたと聞いて寝室まで集まってきて、この時ばかりは時女一族のみんなが明るい顔をしていました。

昨日まで喧嘩をしていた子同士が顔を合わせて笑顔を見せるほどでした。

状況が落ち着いてからわたしとすなおちゃん、静香ちゃんだけが寝室に残ってこれまでに何が起きたのかを話しました。

「そう、私達は人を殺めてしまっていたのね。

そして、人は守るほどの存在と認識するようになってしまったと」

私は思わず聞いてしまいました。

「静香ちゃんは、まだ人間のために巫を続けようと思う?」

「わからないわ。

人なんか守るほどのものではないっていうのはみんなと同じものを見たからわからなくはない。

でも、信じたくないのよ。
お母様までもが、あの人たちと同じであってほしくないって。
だから、わからないわ。すなおとちゃるは?」

すなおちゃんが申し訳なさそうに話を始めました。

「ごめんなさい。
私はもう、人のために悪鬼とは戦えません。
でも、この国は守りたいと思っています」

「でも、この国の人を守りたくないのなら」

「確かに国は人が作り上げた結果できたものです。そんな人が作り上げたものは嫌ってしまう。でも、その国で生まれた文化はなぜか嫌うことができませんでした。

なのでかろうじて、私はこの国を守ろうという意思自体はあります」

それを聞いた静香ちゃんは難しい顔をしてしまいました。

「文化と人って、切り離せるものかしら」

「人間ではなく、私たちが引き継いでも残ります。

文化のために人にこだわる必要はないと思います」

「そう…私にはよくわからないわ。

ごめんなさい」

「大丈夫ですよ。すぐにわかってもらう必要はないですから」

「ちゃるは、どうなの?」

私は答えにくかった。

回答したのはすなおちゃんと同じ意見。

少し違うことを言ったと言えば。

「私、お母さんに会うのが怖いんだ」

「どうして?

何か助言してくれるかもしれないじゃない?」

「お母さんに相談したら、それが最後の会話になりそうで、怖いんだよ。

静香ちゃんと同じく、お母さん達は違うって信じたい。

それで、あの見てきた光景と同じ考えを持つ人だと断定されてしまったらって思って。

嫌なんだ、嫌なんだよ、決まっちゃうのが」

私は思わず泣いてしまいました。

信じていたい。
でも出会ったらそうではないと確定してしまうという予感が優ってしまう。

きっともう私達は人を信じれない。

だから、そうであってほしいでとどめていたいのです。

私達はみんな暗い顔をしたままそれぞれの寝床へ戻りました。

静香ちゃんはきっとお母さん達に会いに行こうというでしょう。

でもそれは、とても危険な気がします。

この時女一族という集まりが、離散してしまう決定打になりそうと私の勘が告げてくるのです。

一緒に行こうと言われたら・・・。

次の日、静香ちゃんは今の時女一族がどんな状況なのかを見て回りました。

静香ちゃんの意見に賛同する者、そうではない者
それぞれの意見を聞いて回ったようですが、静香ちゃんへの賛成派は3分の1程度でした。

静香ちゃんは内部のこともそうですが外部のことも気になっていました。

外部のことについては自ら偵察に出ていた旭ちゃんがよく知っていました。

「環さん、今はいないのね」

「はいであります。

一応皆は人間をこの神浜に寄せ付けず、環ういを正気に戻す方法をいろは殿が持ち帰るのを待っているという状況のようであります」

「それがもう、3日前…」

「いろは殿が神浜を出た後、うい殿とワルプルガを奪おうと動く勢力が現れて神浜はまだ安心できる状況ではないであります」

他の魔法少女は動き始めている。

でもそれは、人間を否定する考えの上で。

それに、魔法少女同士で争い始めてしまっている。

今の神浜の事実を知って、静香ちゃんはいつまでも納得できない顔でいました。

次の日、静香ちゃんは分家もいる前で宣言しました。

「私達本家は、一度霧峰村へと戻ります」

「静香?!」

「静香ちゃん?!」

「人を守る気を本当に無くしてしまっていいのか。
それが私達時女一族として正しい選択なのかを、原点に帰って考え直す必要があると思うのよ。

分家の方達には、神浜で待っていてもらいます」

そう説明している中、分家の1人が静香たんに尋ねました。

「しかしよろしいのですか、もし親と対面してしまったら」

「だからこそ。

親子の関係はそうそう切れない物。

そして時女一族の人間が皆良心が確かにあるとわかれば、私達は人などどうでもいいと言えなくなります。

それを確かめに行きます」

みんなへの宣言が終わった後、私は特に反論することなく静香ちゃん、すなおちゃんと一緒に霧峰村へと戻りました。

 

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