【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-15 決意の朝

村の空気は村を出る前の頃と変わらず、都会よりも居心地が良いものに変わりはありませんでした。

村の人達は私たちを笑顔で迎えてくれて、そんなにぎやかな雰囲気を聞きつけたのかお母さんと、静香ちゃんのお母さんが出迎えに来ました。

「みんなお帰りなさい」

私達はお母さん達と顔を合わせ、いつも通り平静を装おうとしましたが、その態度はすぐにお母さん達にバレてしまいました。

「みんな、ちょっと様子がおかしい気がするんだが。
神浜市に行って何があったか聞かせてくれないか」

静香ちゃんのお母さんがそう切り出してしまったため、私達は正直に神浜で起こった出来事を話さないといけなくなりました。

「わかりました。落ち着ける場所で話します」

私たちは神浜へと行って何が起こったのかを話しました。

神浜にいる巫達はとても優しくしてくれた。

でも、日継カレン達の行動によって私たちは平気で人を殺してしまえるほど、人を信じれなくなってしまったことも。

そして何よりも、しずかちゃんの大事な剣が奪われてしまったこと。

お母さん達はその話を聞いてとても悩ましい顔をしていました。

「人間を殺めてしまう経験もそうだけど、人間を信じれなくなったってのも問題だね」

一体どんなイメージを見せられてそう言った考えに至ったのかはわからないけど、この村の人たちのことは信じて欲しいわ。
ここのみんなが優しいのは、3人も知ってることでしょ?」

「でも、でも。

この村にいる人たちが実は悪いことを考える人たちで、魔法少女を対等な関係で見てくれていなかったり、悪いことに利用しようとしているんじゃないかって思って」

私は涙を滲ませながら回答をしました。

そんな私にすぐに返事を返したのは静香ちゃんのお母さんでした。

「そりゃ人なんだから悪いことの一つや二つは考えてしまうさ。
何でもかんでも善行でできている人間なんていないと言ってもいい

「お母様達も、悪いことを考えてしまうの?」

「そうだね。

娘達を親の同伴なしで都会に送り出すことだって、人によっては私達は悪いことをしてると捉えるだろうさ。

でも、私は娘との合意の上で送り出しているつもりだ。

何が言いたいかというと、悪ってのは見る角度によってそうかそうでないか変わるってことだ

「お母様、もっとわかりやすく教えてもらえますか」

「こういうのは人生経験で学ぶ物だと思うけどね。口だけの説明では理解しきれないだろうさ」

「…私たちが悩んでいるのは、守ろうとしていたこの国が悪いことを考える大人の考えでできているってことを知ってしまったから。

国民にはまともな人がいるかもしれない。

だとしても、人はお金や権力が絡むと非道なことができる。

それは、子ども思いの親も同じ」

「ちはる…」

その後の夕食はできるだけ今まで通りの楽しい雰囲気で過ごそうとしました。

私はどこか演じきったという感覚が拭えず、お母さん達に申し訳なさしかありませんでした。

夕食後、私はひとり夜風にあたりながら考えていました。

私たちに見せられたあの光景の数々が事実だとしたら、人間は許せるような存在ではない。

でも、お母さん達のような、お金や権力に引っ張られずに優しさを忘れない人がたくさんいるならば、まだこの国は守っていきたいと思える。

「わからない、わからないよ」

「ちはる」

声がした方を向くと、悲しげな顔をしたお母さんが立っていました。

「お母さん…」

お母さんは私の横に立ち、優しく私の手を握りました。

「ちはる、お母さんはあなたに無理して人を信じて欲しいとは思っていないわ

できれば信じていてほしいけど、きっと人に対する不信感は都会に長く滞在したからこそ感じたこと

その疑う気持ちは大事なことよ」

お母さんは真っ直ぐに私の目を見ました。

「周りの大人達は受け入れてくれないかもしれない。

それでも、あなたの信じる道に進んでちょうだい。

だとしても、人の道を外れるようなことをしてはいけなわよ。
ちはるがそんなことに慣れてしまったら、お母さん悲しんじゃうから」

やはり、会うべきではなかったかもしれない。

こうして面と向かって自分の心に従えなんて言われたら、もうお母さんに会うことは無くなっちゃうだろうから。

でも、それはもう今更なこと。

「うん、ありがとう」

これがきっと、お母さんにいう最後のありがとうになるだろう。

 

翌日、私達は神浜市へと戻りました。

お母さん達には笑顔で行って来ますとは言ったけど、もう帰ってくることはない。

すなおちゃんはというと、両親に結局顔を一度も合わせることなく静香ちゃんのお母さんに相談を行っただけでした。

静香ちゃんは改めて人を信じてみたいという決意を固めたようです

結局今回の帰省は、時女一族をさらに二つの勢力に分けてしまうような要因を作ってしまっただけかもしれません。

そんな結果を聞いて分家の子達は複雑な気持ちになっていました。

どうにかして静香ちゃんが人との共存を目指そうと説得を行うものの、みんなが賛同することはありませんでした。

なかなか一族が今まで通りに戻らない中、神浜でテレビが復旧したという話を受けて、珍しいものを見ようと静香ちゃん、すなおちゃんと一緒にテレビが設置されたという竜真館へ行きました。

そこには魔法少女がたくさんいて、一部の魔法少女は私たちに声をかけてきました。

「おや、あなた達は確か時女一族の方達ですよね」

しかし私たちには覚えがありませんでした。

覚えている方達といえば、いろはさんとあとはピリカさんに怪我を負わせた魔法少女くらい。

「ほら、あの顔合わせの会議の時ですよ。

まああの時はピリカさんが突然倒れてそれどころではなかったですが。

でも今まで外に姿を見せなかったのに、テレビの噂でも聞いて飛び出してきましたか」

「まあ、そんなところですね」

すなおちゃんがそう答え、私と静香ちゃんは苦笑いするしかできませんでした。

いたか覚えがないなんて、言えない。

テレビでは他愛もない番組が流れている中、画面が急に荒くなっていきました。

「なに、故障?」

みんなが故障を疑っている中、画面が復活したかと思うと世界を大きく変えることになる演説が映し出されました。

アンチマギアプログラム

その内容は人間が魔法少女の発生を抑制し、現存の魔法少女達を支配するような内容でした。

周囲の魔法少女達は怯えた顔をするばかりで、その中にはひっそりとついてきていた分家の子達もいました。

「ちかちゃんに、旭ちゃん?!」

「涼子殿もいるでありますよ」

「わざわざ報告しなくてもいいだろ」

「…みんな戻るわよ。

これは、いい加減決断しないといけないことよ」

真面目な顔をした静香ちゃんがそう言うと、みんなはうなづいて時女一族のみんなはお寺に戻りました。

そして、みんなを集めた静香ちゃんは、私たちに相談もせずこんなことを言い出しました。

「私たちは巫、魔法少女であると、日の本に明かしましょう」

みんなはざわつき始めます。そんな中、涼子ちゃんが切り出します。

「大将、自分が何を言っているのかわかってるのか」

彼らは私たちを確保するとは言ったけど始末するなんて言っていません。

日の本のために戦う存在が巫であると言えば、きっとわかってくれます。だから!」

「それで人の前に姿をあらわにすると。
静香さんも知っているはずです。この世の中には悪い人間がたくさんいると」

ちかちゃんがそう言っても、静香ちゃんは引き下がろうとしません。

「明日、政府へと申告しに向かいます。
一族のみんな、ついてきてもらえるかな」

みんな静まり返り、最初に発言したのは、私でした。

「嫌だ」

「ちゃる…冗談はやめて」

「冗談ではないよ。

あの放送の内容しっかり見たでしょ?

魔女になった魔法少女が人を襲った映像、そしてドッペルを出した神浜にいた魔法少女が人間を虐殺する様子

あれを見て魔法少女が危険な存在だって思わない人なんていないよ

私たちがいくら危害を加えないからって、普通の人間としては扱ってくれない。

きっと、危険な存在として監禁されるだけだよ」

「そんなこと!」

「そんなことあります」

次に声をあげたのはちかちゃんでした。

「私の魔法少女になった経緯は知っていますよね。

危険な存在だと認識された上で、まともな扱いがされないことは目に見えています。

きっと利用されるだけです。

考え直してください!」

「…私は、一族の長について行きます」

「お前、本気か!」

分家の一人が静香ちゃんに賛同したのです。

その声を筆頭にポツポツと静香ちゃんについて行きたいと言う声が出てきました。

「本気なのか、お前たち!」

「人にも優しい人は、お父さんとお母さんのように優しい人はきっといるはず。

そう信じたいのです!」

「私もです!」

「わ、わたしも」

「みんな…」

結局人を信じたいと思っていたみんなが静香ちゃんについて行くと言いました。

「すなお、あなたの意見も聞かせて」

すなおちゃんはとても悩んだ顔でなかなか話そうとしませんでした。

「すなおちゃん、はっきり言ったほうがいい時もあるよ」

私がそう言うとすなおちゃんは深呼吸をして、静香ちゃんの顔を見ながら言いました。

「私は、行くべきではないと思います。

きっと、酷い目に遭うだけです」

静香ちゃんは少し泣きそうな顔になってしまいました。

「どうして…わかってくれないの」

その後は静香ちゃんが個室にこもってしまったため、私は個別に今後どうするのか聞いて回りました。

最初は一緒に外で月を見ていたちかちゃんと旭ちゃんに意見を聞いてみることにしました。

「静香殿の気持ちはわからなくもないでありますが、アンチマギアプログラムなんてものが実施された世の中で魔法少女が生きていけるとは思えないでありますよ」

「人はいくらでも騙そうとしてきます。静香さんが信頼している人もきっと偉い人の命令となればいくらでも裏切ってくるでしょうに」

二人は静香ちゃんの意見に否定的なようです。それぞれがいう理由は、自分の経験から言っていることなのかなと少し気にはなりました。

あまり二人のことは深くは知らないけど。

「どうしたら静香ちゃんは考え直してくれると思う?」

「結構意志が硬めの表情でしたからね。諦めさせる方法がないくらい、説得は難しいと思います」

説得が無理なことはわかってる。

でも、行かせちゃいけないと思うんだ。

いろんな子に意見を聞いても意見がまとまらず、布団で寝転がりながら考えていると知らないうちに眠ってしまいました。

そして目覚めたのは、外が騒がしい中すなおちゃんに声をかけられた時でした。

「外が騒がしいけどどうしたの?」

「静香がここを発つっていうんです。

日本政府に姿を見せるんだって」

私は急いで騒がしい玄関へと急ぎました。

外では引き止めている涼子ちゃんと毅然と立っている静香ちゃんがいました。

「大将、あんな放送があった後だ。

人間が普通に接してくれるわけがない。

考え直してくれ」

「私たちの考えは変わらないわ。

涼子ちゃん、道をあけて」

両者が睨み合っているところに私は飛び込みました。

「ちょっと何やってるの静香ちゃん!

馬鹿な真似はやめて!」

「私は冷静よ、ちゃる。

おかしいのはあなたたちよ。

少しは人を信じようとしてみてよ」

「私たちはもう信じれないよ!

受け入れられたって、人間社会自体が」

「悪いものは私たちが正せばいい。

それで人間社会だって健全になるわ」

「いつの間にそんな傲慢な考え方を…」

「話しても無駄でしょ」

そう言うと静香ちゃんは見慣れない刀を取り出しました。

「その武器、一体どこから」

「魔法で生成するって方法を教えてもらったの。

我が一族の刀はどこかいっちゃったし」

静香ちゃんは鋭い目つきでこちらをみながら刀の先をこちらに向けてきました。

「構えなさい、ちゃる。

私を行かせたくないと言うなら」

私は仕方なく十手を構えましたが、そこにすなおちゃんが割って入りました。

「やめてください!

時女一族同士が争うなんておかしいです!」

「すなお、あなたはどっちなの!」

すなおちゃんは悩んだ顔をしながら静香ちゃんから目をそらし、少ししてから涼子ちゃんの方を見てこう言いました。

「涼子さん、静香を行かせてあげてください。

その後の結果は全て私の責任にして構いません!」

「だが」

「行かせてあげてください!」

涼子ちゃんはどこか不満げな顔をしながら道をあけました。

静香ちゃんは武器を下ろし、すなおちゃんに話しかけます。

「すなお、あなたは来てくれるの?」

すなおちゃんはうなだれたまま、ただ首を横に振るだけでした。

「…必ず、あなたたちを迎えにくるから」

そう言って静香と人間を信じたいと思う子たちは水徳寺を後にしました。

私たちはしばらく気持ちを切り替えずに過ごしていましたが、切り替えざるを得ない出来事が起きます。

静香ちゃん達が出て行ってから次の日の夜があけた頃、紫色の霧が水徳寺を覆いました。

私たちは急いで外に出ましたが、中で逃げ遅れた子達はだんだん動かなくなり、テレパシーを送ることも受け取ることもできなくなりました。

そして、私たちが飛び出した先にいたのは、テレビで見たことがある特殊部隊と言える服装をした兵士たちが銃をこちらに向けて包囲していました。

「おとなしく言うことを聞けば痛い思いをしなくて済む。

素直についてきてもらおう」

抵抗しようという子が感じ取れたので、全員に対して抵抗しないようテレパシーで伝えました。

私たちにはこの場をどうしようもできない。

そんな中、知らない魔力反応を示す魔法少女の集団が近づいてきました。

その場に突風が発生して、紫色の霧が周囲から消えたかと思ったら、見慣れない魔法少女達は鎖やら鎌で兵士たちが銃声を鳴らす間も無く首や引き金を弾く方の腕を切り落としていきました。

あっという間の出来事でした。

生きている兵士がいなくなった頃、鎌を持った魔法少女が話しかけてきました。

「随分と大所帯だが、どこに避難するかは決めているか?」

「いや、今は何が起きているんだかさっぱりで」

「特に決めていないならば中央区の電波塔跡を目指せ。

あそこに怪我人や避難したものが集まっている。

あそこにいれば少なくとも安全だろう」

そう言って鎌を持った集団は去っていきました。

「さてどうするでありますかね」

「旭ちゃん?」

なぜか旭ちゃんとちかちゃんは武器を手に持っていました。

「神浜中にあの妙な兵士さん達が現れているんですよね。

道中出会うかもしれませんし」

「それに、お世話になった皆さんを助けた方がいいとも思いましてね」

「二人とも」

「でもどうするよ、ちはる」

声をかけてきた涼子ちゃんも武器を構えた状態でした。

「涼子ちゃんまで」

私はみんなの向けてくる目を見ずに思いを伝えました。

「私の意見を待たなくてもいいよ。それに、もう一族が集まって動く必要も」

「そうは言ってもね。

私らは他に行き場所はないし、こうやって分家同士が集まってる方が心地良くなってるんだよ。

だからそんなこと言うなよ。

今まで通りやっていこうや」

周りの様子を伺ってみると、みんな涼子ちゃんの意見に賛成しているようでした。

みんなを率いていくなんて気は全然ないけど、意見を求められたら答えるくらいの心持ちでいようかな。

「じゃあ、私は神浜から変な兵士さん達を撃退しようと思うけど、ついてくるかどうかはみんなに任せるよ」

「ま、そんなノリでいいさ」

こうしてあの日、私たちは神浜の魔法少女達と協力して謎の兵士たちを追い出しました。

あんなことがあった後、静香ちゃん達が無事なのかは不安ですが、きっと無事だと信じています。

 

 

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