【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-18 人と同じ道を歩まぬためには

翌日、さつきさんの札が整ったためみんなはういがいる部屋の前に集まりました。

さつきさんが持つ3つの札を見て灯花ちゃんがさつきさんへ質問をしました。

「その札だけで本当にういの魂に入り込めるの?」

「ええ、何も問題が発生しなければこれで済むはずよ。

では、妹さんの押さえつけはお願いしますよ」

「分かったわ」

私たちは部屋へと突入し、やちよさん、キクさん、ねむちゃんはすぐにういを動けないよう抑え込みました。

「痛い、やめて!私が何をしたっていうの!離して、離してよ!」

ういは苦しそうな声をあげます。

でも、今は耐える時。

「では、失礼します」

さつきさんが取り出した3つの札はさつきさんの手を離れ、ういを取り囲みました。

それぞれの札が青く光ったかと思うとういを中心に淡く青い円形の結界が発生し、抵抗していたういは動かなくなりました。

「うまくいったか。ならば次」

そう言ってさつきさんはもう1枚の札を取り出して結界に押しつけました。時間がかかったものの、札を押し付けた場所には大きな次元の裂け目のようなものが現れました。

札の効果が発動する様子にねむちゃんは興味を示したようでさつきさんへ質問をしました。

「これは、どういう仕組みなのかな」

「最初のうち1枚は妹さんのソウルジェムから体へ送られる魔力を遮断し、一定時間体の鮮度を保つ効果があります。これで魂へ侵入している間に変に暴れられる心配はなくなります。
そのあとに使用した札で妹さんの魂につながる道を開きました。

無事に開いたということは、やはりみなさんが見たという悪夢と人が大量に死んだ光景がトラウマとなっていたようですね」

「なぜそんなことがわかるの」

「対象の悩みを知るのが魂へ潜入するための必須条件なのです。わかっているのは当然でなければいけないのです。
とはいえ、魂へ侵入するための扉を開くのが最も難関なポイントだったので安心しました。

さて、これらの札は長くはもちません。いろはさん、この後の結果はあなた次第です」

「はい、分かっています」

私はワルプルガさんに手を差し伸べました。

「いまのういには、あなたの存在も必要なの。ついてきてくれる?

ワルプルガさんは迷わず私の手を取りました。

「元からそのつもりだよ」

いまのういが最も心を許しているのはワルプルガさんだけ。

私の声が届かなかった場合、ワルプルガさんに頼らないといけなくなる。そうならないのが一番だけど。

そうして私たちは、ういの魂へと潜入したのです。

 

魂の中は、どこか魔女の結界に似た様子でした。この光景にやちよさんは驚いていました。

「これって魔女の結界じゃ。まさか、魂に潜むという魔女の仕業じゃ」

「いや、魔女の結界のように仕立てたのは私です」

「仕立てた?」

私たちは結界を進みながらさつきさんの説明を聞くことにしました。

「魂へと潜入して悩みを解決する方法には様々な方法があります。その中でも私は感覚を掴みやすく魔女の結界を模倣してあえて結界を形成し、その結界に悩みを反映させて最深部で救うという方法をとっています。
結界化は普通であれば札1枚で行えることなのですが、まあ、今回は本当に魔女がいるので介入されないように防護の札も織り交ぜたので少々大掛かりとなりました」

「あなた、思ったよりもすごい人だったんだ」

灯花ちゃんの呟きにさつきさんは敏感に反応しました。

「確かあなたは科学の天才でしたっけ。

いくら科学が発展しようと、人の心に潜入して悩みを解決するなんてことは呪法には敵わないですよ」

「むっ!時間はかかってもできちゃうかもしれないよ!人は科学を進歩させて絵空事のようなことを現実にしてきている。

イメージの投影技術なんかはできてきているんだから」

「でも、確かな心に秘めた悩みを探り出すのは厳しいでしょう。

そんな絵空事を容易く実現できてしまうのが魔法少女。

科学の発展なしに高度なことは魔法少女だけでも可能だとは思いますが、果たして皆が幸せに暮らせる世界にはなれるのか」

私はそこに口を挟んでしまいました。

「できますよ。私たちがやってみせるんです」

「そうだね。マギウスの時も一応魔法少女だけでやっていけていたし、しかもお姉さまがトップになるなら間違いなくみんな幸せになるんじゃないかな」

「ふふ、信用が厚いんですね」

「私は何も。みんなが協力してくれるからこそですよ」

「それだけみんなを笑顔にできるというなら、妹さんも大丈夫でしょうかね」

話していると目の前に見慣れたツバメの使い魔が現れました。

「使い魔?!」

「魔女の結界を模倣するんです。使い魔のようなものも現れますよ」

「でもあれは、見慣れた使い魔のような」

私たちの反応にさつきさん達は少し違和感を覚える様子でした。

何を気にしているのかを聞かずに、私たちは奥へと進んでいきました。

奥へ進むと、壁にはさまざまなういの姿が映し出されていました。

「なんなの、ここ」

おそらく魂の持ち主である妹さんの記憶が映し出されている空間でしょう。

このエリアがあったのは好都合です」

「好都合って、何にですか」

ここで妹さんについて聞きたいことを思いながら壁に触れてみてください。

きっと、いろはさんが疑問に思っていることが解決すると思いますよ」

そんなことができるのかな。

私は疑問に思いつつ、一番ういに聞きたいことを思いながら壁に触れました。

ういは一体何に絶望したの?

すると周囲は一気に暗闇に包まれ、私の頭の中へいきなり多くの情報が流れ込むと同時に目の前は光に包まれていきました。

目を開けると高校生になったういが友達と思える人物と会話していました。
私はその様子をまるで同じ空間にいるかのような感覚で見届けていました。

「あの子は退学確定だろうってさ」

「でも勉強を頑張ってたのに、東側の出身だからって」

「仕方がないよ。

西側よりも東出身の人が優秀なんてなったら大人達が黙っていないだろうからね」

「でも、おかしいよ」

「ういはそういう考えと無縁だから良いよね。

でも気をつけたほうがいいよ。東側の子をかばった子がいじめられたってことが過去にあったみたいだし」

「う、うん・・・」

様子を見ているといきなりういの考えが頭の中へ流れ込んできました。

“なんで、東側の人は西側の人と一緒に扱われないのだろう。

でも私には、どうにも。”

そのあともういが見たであろう悪夢が次々と映し出されていきました。

「なんなの、これ」

「お母さんが絶望するに至ったビジョンだよ」

声がした方を見るとそこにはワルプルガさんがいました。

「ワルプルガさん、なんでここに」

「あなたが壁に触れてからピクリとも動かなくなったから、さつきという人物に助けに行くよう伝えられたから来たんだよ」

「そう、なんだ。

でも、なんでワルプルガさんにはここがどういう場所なのかわかるの?」

「お母さんが絶望に巻き込まれる瞬間に立ち会ったからだよ」

「それ、だけで?」

「テレパシーに乗せられて全てが筒抜けだった。

あの光景だけは、流石に私にもこたえた。

とはいえ、今のはあなた達が見たという悪夢の一部。

とどめになったのはもっと別の要因だよ」

「あなたって、いったい」

ワルプルガさんの話に夢中になっていると再び別の光景が映し出されました。

映し出された光景は、私たちが怒りに任せてカレンさんを撃った時でした。

その一撃はカレンさん達を巻き込み、そして里見メディカルセンターに直撃しました。

その途端に里見メディカルセンターにいた人々の断末魔が私たちの頭の中で鳴り響いたことで正気を取り戻したことは覚えています。

しかし、ういの感じたものは違いました。

 

お姉ちゃん、みんな、怖いよ。

どうしてそんなにカレンさんを殺そうとすることしか考えていないの!

そして里見メディカルセンターに直撃した瞬間は。

悲鳴が聞こえる。脳の容量を軽く越える量の人々の悲鳴が入り込んでくる。

いやだ、こんなの嘘だ。

よく部屋に訪れて話してくれた看護婦さん、灯花ちゃんのお父さん、そして商店街のよく知る人たち。

みんないい人なのに、どうして死なないといけないの!

お姉ちゃん達が、撃たなければ。

いやだ、いやだよ。

みんな、こんなの嫌だよ。

 

見ているだけで苦しかった。私たちが聞いた悲鳴以上にういにはたくさんの声を聞き入れていました。
見ているだけで私のソウルジェムは黒くなっていき、半分ほど穢れが溜まったかと思う頃に別の様子が映し出されました。

それは電波塔の上でカレンさんたちと戦っていた時の様子でした。
シオリさんが撃ちだした何かがういに命中したところが映し出されました。
その撃ち込まれたものからは魔女に似た魔力が感じられ、里見メディカルセンターに私たちの直撃した瞬間にその魔女の魔力を放つものはういの中で弾けたのでした。

ういがこんなことになってしまったのは、シオリさんが撃ちこんだものが原因だったというの?

そんな様子が映し出された後、声が聞こえてきました。

“だったら捨てちゃいなよ”

誰かわからない声がういに問いかけました。

「あなたは?」

“ういの代わりをしてあげるための存在。

あなたの代わりに、私がういになってあげる。

嫌なんでしょ。こんな世界も、あんなお姉ちゃんも”

「それも、いいかもしれない」

だめ、自分を捨てないで、うい!

私がういに向かって手を伸ばそうとすると、その腕を誰かが掴みました。

私が正気に戻って掴んだ手の方を見ると、無表情に私を見つめるワルプルガさんがいました。

「これで分かったでしょ。

お母さんをこんなことにしたのは、あなた達のせいなんだから」

「あ、あれはカレンは倒さないといけないと思ったから」

「なんで魔法少女同士が争わないといけないの」

「あの時は、そうするしか」

「お母さんはそんな答えじゃ納得しないよ。

そんな考えが当たり前になるなら、感情を持って生まれた存在自体がいちゃいけないんだ」

「私にだってわからない!
みんなを傷つけたカレンさん達を、許せるわけがないよ!
許せないのに、怒りの感情を抑えるなんて」

「魔法少女も、人間と同じ道を歩むの?
なぜ怒るの?なぜ妬むの?なぜそれらの感情から暴力へと繋がるの」

私はどこかで、ワルプルガさんは何も知らない子どもだとばかり思い込んでいました。

でも、今目の前にいるワルプルガさんはどこか大人びていて、カレンさん達を相手にしているような感じがします。
分かっているくせに、試してくるかのような感じ。

「なぜ怒るのかって言われても」

周囲ではういに見せられた悪夢が映し出される中、私は怒りについて考え始めました。

私は過去に怒りを感じた瞬間を思い起こそうとしました。
でもなぜか怒りをおぼえる場面を想像できません。生きている間に怒りを感じることは何度でもあっただろうに。

そんな中ういの悪夢の中に、ある一場面が映し出されていました。

ショッピングモールで、ねだったものが買ってもらえなかったのか駄々をこねる子ども。
お母さんをポコポコと弱弱しく叩いているあの行動も一種の怒りから来る行動の表れなのでしょう。

欲しかったものを買ってもらわなかっただけでなぜそんなに怒ってしまものでしょうか。

私の場合はどうしても欲しいものが買えなかった場合、がっかりする、つまりは悲しい気持ちになるだけで終わるでしょう。
望んだ結果に、ならなかったから。

望んだ結果に、ならなかったから?

負の感情をいだいてしまうのは、望んでしまうからなの?
何かを求めてしまうから、その結果によって感情が動いてしまうのかも。

では、なにも望まなければいいとなってしまう。

なにも望まない世の中というのは、楽しいのだろうか。

そう思っているときに、私はみかづき荘でみんなが笑顔で過ごしている様子が思い浮かびました。
みんなで過ごしているときは何を望んでいるわけでもない。ただそこにいるだけで温かい気持ちになれた。

ただただ散歩しているときだってそう、見知った人と会話をしているときだってそう、私は何の望みを思い浮かべなくても楽しいという気持ちを抱けていた。

きっと過去のように、
私の会話はみんなを楽しませているだろうかという、どこか私は他人と話すときはその会話で他人を楽しませないといけないという使命感のような望みを抱えていた。
だからか、会話を楽しめてはいなかった。

だとしたら、怒りをいだいてしまう答えは。

「怒りは、何かを望んでしまうから。
望んでしまうからその結果通りにならなければ悲しみや怒りといった感情に繋がってしまう。
望みを抱かなければ、怒りなんて感情は抱かなくても済むはずなんじゃないかな」

ずっと私の方を見ているワルプルガさんは、ちょっとだけ間を開けてから再び真顔で話しかけてきます。

「それが、私念を抑え込む答え?
それさえできれば、誰も争わなくて済むの?」

「わからない。
他人を困らせることで喜びを感じてしまう人もいる。そういった人たちを止めるために争いはなくならない。
でもそれは必要な争いだと思っているよ。ういだって、それはわかってくれるはず」

「そうか。じゃあその答えも含めて今後も大丈夫っていう安心感をお母さんへ与えてあげて。お母さんの中にある希望を大きくしないと」

「希望を、大きく。でも望んでしまったら負の感情をいだくきっかけになっちゃう」

無表情だったワルプルガさんが、笑顔を見せながら私の手を握りました。

「希望はそんな単純なものではないはずだよ。
だって希望は、生きるための源なんだから」

希望に感じること

ういはあんな悪夢を見せられても人への希望を失わなかった。

そんなういにとって希望となる光景は・・・

不思議と心当たりはあった。人と魔法少女が共に生きれるかもしれないという希望が。

そうか、あれがういとの向き合うための希望になるのか・・・

「答えを見つけ出せたみたいだね。じゃあ、みんなのところへ戻ろうか」

 

はっと気づくと壁にいろんな記憶が映し出されている部屋に戻っていました。

「いろは!」

声がした方向を向くと、真っ直ぐにやちよさんが抱きついてきました。

「気がついたのね。心配させないでよ」

「やちよさん?」

「お姉さまが壁に触れてから10分近くずっと動かないままになっていたんだよ」

この部屋に意識が持っていかれてしまったのではないかとヒヤヒヤしたよ。

でもよかった」

灯花ちゃんとねむちゃんの話を聞くに、どうやら私は壁に触れたままびくとも動かなくなっていたらしいです。

さつきさん達は落ち着いた様子だったので、こうなることはわかっていたかも?

「収穫はしっかりあったかい?」

キクさんがそう問いかけてきて、私は自信を持って答えました。

「はい、大丈夫です!」

「いいことだ。

じゃあ、妹さんに直接会いに行こうか」

さつきさんが向かった方向には扉があり、その扉の中からは魔女の気配が感じられました。

きっと大丈夫、あの時気付いた答えでういに再び希望が与えられるはず。

待っててね、うい!

 

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