【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-17 憂いの思いは過去の私念から

二木市から私たちを乗せていた貨物列車は無事に神浜の車両基地へと到着しました

そこにはミリタリーな格好をした1人の魔法少女がすでにいました。
その人は博さんというようで、いつもは列車を運転してくれた方、銃をもって応戦してくれた方と一緒の3人グループで行動しているようです。
2人プラスアルファのメンバーで協力してくれたのは、神浜に来てから仲間が増えたからだそうです。

私が列車から降りると博さんが話しかけてきました。

「環いろはさんだよね?
咲たちが迷惑かけなかったか」

「いえ迷惑だなんて。とても助かりましたよ」

「三崎~、私たちがへまするように見えたのかい?」

「火炎放射器のやつと戦うチャンスだって駆け込んだこと忘れていないぞ」

「なーに、これでいつでも戦えるチャンスができたんだから同じ結果だって」

博さんたちの会話を聞いている間に、車両基地に入る列車を見たのか十七夜さんを含めた東側に住む魔法少女達が集まってきました。

その人達が二木市の魔法少女を見て、神浜に迎え入れてもいいのかと少し口論にはなりました。

しかしその場で争いを起こした理由を結奈さんが説明し、皆が納得したわけではありませんがその場は一旦治りました。

この件は少しずつでいいからみんなで協力しあえる環境を作っていけばいい。

気がかりだった出来事が片付き、いよいよういを正気に戻す行動に移らなければいけません。

私はやちよさんにまかせてしまっていたさつきさん達のもとへと向かいました。

やちよさん達がいたのは竜真館で、そこでは3人の子ども達が魔法少女達と遊んでいて、その様子をやちよさん、さつきさん、キクさんの3人が見守っていました。

そんな中、やちよさんがこちらにきづきました。

「いろは、戻ってきたのね」

「はい、お待たせしました」

「おかえりなさい、いろはさん。

あの3人、みんなに受け入れてもらえたようで楽しく過ごしているわ」

「それは良かったです。

えっと、大事な本題の話になっても大丈夫そうですかね」

「ええ。早く妹さんを助けに行きましょう」

さつきさん達が滞在することになった部屋へといくと、そこには何か札が用意されていました。

「あの札って」

「妹さんの心の中へと複数人で侵入するのでしょう?
私一人はともかく、複数人の侵入となると札にも準備が必要なのよ」

「え、私複数人で侵入するって言いましたっけ?」

「あら、経路を作る私とあなたの時点で十分複数人扱いよ。

1人以上であれば複数人扱いで対処するのは当たり前でしょ」

「それは、そうでした」

「ともあれ、相手の魂を傷つけないためにも侵入先をよく分析する必要があるわ

妹さんのところへ連れて行ってもらえるかしら」

そういえばういは今どこにいるのだろう。

神浜で何があったのかをよくわかっているひなのさんにういがどこにいるのか聞いてみました。

「ういちゃんの居場所は、里見灯花と柊ねむがよく知っているはずだ。

あいつらが強引に連れて行ったからな。

どこで匿っているかまでは知らん」

「そうでしたか。ありがとうございます」

私が灯花ちゃんとねむちゃんに会うために行動していると、2人の方から私たちの前へと姿を表しました。

「もう、帰ってきているならすぐ知らせに来てよね!」

「待ちくたびれていたところだよ」

「ごめんね。

さっそくだけど、ういの居場所に案内してもらえるかな」

付けてきている者がいないかを確認しながら、私たちは巧妙に隠されたシェルターへと案内されました。

「壊れていないシェルターなんてまだあったのね」

「里見グループ限定の隠されたシェルターだからね。ここなら誰にも邪魔されずに過ごせるんだよ」

シェルターの奥へと進んでいくと、その中の一室にういとワルプルガさんがいました。

部屋の中は綺麗で、見慣れたういの部屋と似た状態でした。

そんな部屋の中で、ういは編み物をしていました。

「…何か用?」

「えっとね、今日はういに会わせたい子がいて」

「社交辞令はいいわ。ちょっと失礼するわよ、妹さん」

そう言ってさつきさんは右手を前に出してういの魔力を探り出しました。

その間、ういは警戒して怖い顔をこちらに向けてきました。

さつきさんは魔力を探っていると、いきなり何かに弾かれたかのようにその場へと倒れ込んでしまいました。

「さつき!」

キクさんが慌てて駆け寄り、さつきさんは大丈夫だと言うジェスチャーを向けました。

「これは思った以上に重労働ね」

そう言ってさつきさんは一枚の札を取り出しました。

「失礼するわよ」

そう言ってさつきさんは一瞬で札をういの指輪へと当て、反撃される間も無く札へとういの魔力を込めました。

「ちょっと、何をしたの!」

ういの問いかけに耳を傾けることもなく、さつきさんは失礼しますという一言を言い残して部屋を出てしまいました。

私たちもそのまま部屋を出てしまいました。

「さつきさん、下見はもう十分なのでしょうか」

「ええ。でも思った以上に大物を相手にしないといけないようね。

神社で戦ったあいつよりは弱いけど」

「それって、どういうことですか」

さつきさんは神妙な顔つきでこちらを見てきました。

「ういちゃんのソウルジェムの中には、魔女がいる状態よ」

さつきさんの発言に私は驚かずにはいられませんでした。

「ソウルジェムの中に魔女がいるだなんて。そんなことあるんですか?!」

「そんなことあり得るの?」

「魔女は結界さえあればどこにでも潜める、と言うことを前提とすればあり得ない話ではない。

なんでソウルジェムの中へ入り込んでしまったのかというのは私も知りたいくらいだわ」

「あなた、ソウルジェムの中にいる魔女を倒す方法を知ってるんでしょ?」

「ソウルジェムの中へ入り込んで討伐するのは造作もないこと。

でもあの妹さんの言動はいつもの言動ではないのだろう?

だとしたら魂の主導権はほぼ魔女になってしまっている可能性がある」

「そんな」

「だからただ倒すだけではいけない。

妹さんが魂の主導権を取り戻さなければいけない。

そのためには、いろはさん。

彼女をよく知る存在の協力と、説得までに魔女を倒さず押さえ込む人員が必須よ」

「魔女を倒すだけではダメなの?」

やちよさんの問いかけに対して、灯花ちゃんが答えます。

「体の主導権を魔女が持った状態で倒してしまうと、その大部分の主導権が魔女と一緒に失うかもしれないんだよ。
ういは助けられても二度と目を覚ましてくれないかもしれないよ。

あなたが言いたいのは、ういが魔女から主導権を奪わないと意味がないってことでしょ」

灯花ちゃんの問いかけにさつきさんは頷きませんでした。

「ことはそれ以上に深刻かもしれない。

説得が長時間に及べば、争う魔女を押さえ込むのに激しい戦いを強いられるだろう。それによって魂が傷つけられ、主導権を取り戻せたとして元の妹さんに戻れない可能性がある。

なぜ主導権が魔女に奪われつつあるか、それを知った上で説得をスムーズに進められるようにしたほうがいいだろう」

そう言った後、さつきさんは私の方へと向きました。

「いろはさん、あたなたは妹さんに、何をしたの?」

「え?」

「あの魂の状態は、よっぽど深いトラウマを受けなければならない状態だった。

考えたくはないのだが、虐待とかしたのではないか」

「お姉さまがそんなことするわけがないでしょ!」

「ならば教えて。

何があれば、妹さんはあんなに心を閉ざすの。

これは妹さんを元に戻すためにも重要な案件だ」

「それは、話が長くなるので落ち着いて話せる場所へと移動しましょうか」

私たちはシェルターの一室でお茶を飲みながらさつきさん達へこの町で起きたことを話しました。

「そうか。この街に来てからずっと違和感を持っていたが、そのようなことが」

「でもあの子達にみんな仲良くしてくれていた。根っからに人間嫌いになったわけではないのね」

「だとしたらおかしい。あの子達と同じぐらいの歳の子も人間嫌いになる悪夢を見ていたはずだ。

ならばなぜういちゃんだけが心を閉ざさなければいけない」

「私にも、そこがわからないのです」

みんながなぜなのか悩んでいるところ、ねむちゃんが提案をしてきました。

今のういが唯一心を許しているワルプルガに話を聞いたほうがいいだろう」

「ねむちゃん?」

「近くにいる存在にしか気づかないこともある。ういから何か聞かされている可能性もあるからね」

「なら、ういちゃんが寝ている間にワルプルガさんに話を聞いたほうがよさそうね。

ういちゃんが起きている間はまともに話してもらえなさそうだし」

「じゃあ、もう少しここで待ってみようか」

「ならば私は札の作成道具をここに持ってくるわ」

「私も行こう」

「ちょっと、では一利するなら他の子に気付かれないようにしてよね。
ここは大事な場所なんだから!」

そうして、私たちはういが眠りにつくのを待ちました。

ういが眠ったかどうかは灯花ちゃんが監視カメラで確認してくれて、私は静かに部屋の扉を開けました。

私はテレパシーでワルプルガさんにだけ呼びかけ、気がついたワルプルガさんは静かに部屋を出てきてくれました。

「あなたは、いろはさんですよね」

「そうです。ういから聞いていましたか」

「いや、私が目覚めたときにされた入れ知恵のせいだよ」

「入れ知恵って、まさか」

ワルプルガさんはリビングがある方向へと歩き始めます。

入れ知恵といえば、確かワルプルガさんを復活させる際にシオリさんがやっていたこと

もしかしたら、私たちのことについても既に学習させていたのかもしれない。

私たちが知らないことも、知っていたり。

リビングにはみんなが集まって、ういがどんな状況であるのかをワルプルガさんに聞いていきました

「さて、ワルプルガさん。ういちゃんから何か辛い記憶とか苦しい記憶のことについて聞いていないかしら」

「私に聞くってことは、お母さんが私以外に絶対話さないようなことですよね」

「察しが良いわね」

「話すわけないですよ。

今のお母さんは、別の何かに塗りつぶされようとしているんですから」

「そこまで知ってるの?!」

「全て入れ知恵がいずれそうなるとなっていたので」

「入れ知恵?」

「それに」

ワルプルガさんは私の方を向きました。

「お母さんが塗りつぶされ始めた原因は、お母さんが見ている前で人殺しをした、いろはさん達が原因というのも」

全員その言葉で驚きました。

ういの目の前で人を殺す?!

私がやった人殺しといえば、カレンさん達を吹き飛ばそうという思考に塗りつぶされた結果放った一撃が、避難所になっていた里見メディカルセンターを破壊した時くらい。

あの光景が、ういにも共有されてそれが原因ということなの?

「いろはさん。それはどういうことですか。

内容によっては協力できるかも怪しくなりますよ」

「さつき…」

「わかりました。

おそらくういがトラウマになったである出来事のことを説明します」

私は包み隠さずカレンさんたちを殺すに至った経緯をさつきさん達に説明しました。

2人は終始驚いた顔つきでした。

全てを説明し終わり、最初に話し出したのはキクさんでした。

「恨みや妬みは盲目にさせるとは言うが、その件は飲み込まれた側も悪いだろうな」

「それに、この町の魔法少女は平気で人を殺せるのか」

わたしはさつきさんが協力をしてくれなくなるのではないかと怖くなっていました。

「でもそこまでの覚悟がないと、わたくし達は既に捕まっていたんだよ?

「捕まったらどうなるのかいまだにわからないが、嫌な思いをするのは明白だ。

投降なんてことも得策ではない」

「そのカレンという方は、こうなることを見越してあなた達の常識を塗り替えたと、それが正しかったのだというのですか」

「この街のみんなは、そうは思っていないけどね」

「幸いしたのは確かだけどねー。

私達がここに魔法少女の安全地帯を作っていなければ、あなた達だってとっくに捕まっていたのかもしれないよ?

むしろ感謝してほしいくらいだよ」

「灯花、言葉が過ぎる」

さつきさんは少しだけ難しい顔をした後に話し始めます。

「受け入れ難い事実ではある。

しかし、今無事であるのもこの環境があるからこそ。

それに、魔女に塗り潰されようとしている被害者を見過ごす理由にはなりません」

「では」

「妹さんを助けることには協力しましょう。

その後は、好きにさせてもらいますよ」

「はい。協力してもらえるだけで嬉しいです」

「そういうことであれば、妹さんの心を開く鍵はおそらく人がたくさん死んだ光景を見たことに対してのケアでしょう」

「少し難しいことになったわね」

「純粋な子どもが人の死を、それも大量に目の当たりにしてしまった時は大抵トラウマとなるでしょう。

それを克服しようとしたところで膨大な時間をかけての自然治癒くらいで、すぐに解決するものかは」

「では、どうしたら」

みんなが少し黙ってしまった中、ねむちゃんが提案してきました。

「トラウマの克服は種類や状況で変わるが、やりやすい方法として認知処理療法というものがある」

「認知処理療法?」

「何がトラウマの原因となったのか、今は何で心を苦しくしてしまうのか。

つまりはトラウマを抱えた人の悩みを真摯に聞き、心の内を全て開示させてその内容に理解を示すんだ。

それだけで心が安らかになり、トラウマ克服の糸口になったりするらしい」

「それならいろはが適任ね」

いきなりやちよさんに名指しされました。

「私が?!」

「あなたは聞く能力と、相手を安心させる能力があるわ。

きっとういちゃんの悩みも、いろはにはなせば解消されるはずよ」

「ならば気をつけてください。

人殺しを躊躇しないあなた達とは違って、妹さんは人の一般的な常識を持ったままだと思います。

いろはさん、人殺しはもうしないでほしいと聞かれて、正直に答えられますか。

街のみんなも、もうそんなことしないでほしいと言われて、心から妹さんの考えを肯定できますか」

「それは。

嘘でもそうするしか」

「その場で嘘がバレたら手遅れなんです。

妹さんがどれほど心を読む術に長けているかは謎だが、嘘を使うなら失敗する覚悟で望んでください。

彼女の魂は塗りつぶされかけているのですから、嘘をつかれていると気づいた瞬間に」

「はい…分かってます」

いつものように正直に向き合うことは、本当にできないのだろうか。

嘘が下手なのは分かっている。

ういの悩みが、正直に答えられるものなら良いけど。

 

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