さつきさんが開いた扉の先には3本の糸しかつながって
魔女は細身で銀色の肌、
体は細く、爪部分は鎌のように鋭くなっていました。
「これじゃ魔女の結界と代わりないわね」
「あれの動きを止め続ければいいんだよね」
「そうよ。あれに奪われた主導権を妹さん自らが奪い返すまであいつの注意をこちらに向け続ける必要がある。
つまり、ほぼ植物人間状態になってしまうかもってことよ」
「じゃあぼくたちは待つしかないんだね。
ういが元に戻るまで」
「そうよ。いろはさん、頼んだわ」
「わかりました」
私はういに向かって走り出しました。
その後ろにワルプルガさんもついてきました。
「え、危ないですよ!」
「最初に声をかけるのは私のほうがいい。お母さんに声が届くのは、
そういえばういはずっとワルプルガさんに対してはずっと接する態度が変
なんでだろう。
なぜかはわからないけど、
でも危ないし、私が抱えていけばいいか。
「それじゃあ」
私はワルプルガさんを抱えてういがとらわれている場所へと向かい
ういのもとへたどり着くと、急に周りが闇に包まれました。
外部から見ると私たちは暗闇に包まれてから消えていたようで、私とワルプルガさんが消えたことにやちよさんは驚いていました。
「2人が消えた?!」
「妹さんの魂への接触を開始したんですよ。
こちらではやるべきことをやりましょう」
さつきさんは無数の札を呼び出し、ういと魔女との間に札の壁を生成しました。
「今あなたを妹さんへ触らせるわけにはいかないのよ」
魔女は爪でその壁を破壊しようとします。
そんな腕に対してやちよさんたちは攻撃をしかけて魔女を壁から離そうとします。
「あなたに邪魔はさせないから!」
外でみんなが戦っている中、どうやら私たちは別の空間へと飛ばされてしまったようです。
その空間の中心と思われる場所にういはうずくまっていました。
私が声をかけようとすると、ワルプルガさんは私を止め、
「お母さん、こんなところにいたんだ。
探したんだよ?」
「ワルプルガ、ちゃん…」
ういの声は弱々しく、なかなかに聞き取りにくいものでした。
「まだこんなところに居続けるの?」
「外の世界は嫌だ。
変わるのは仕方がないけれど、今の変わり方は嫌だ。
「私は困るよ」
「放っておいてよ」
ワルプルガさんは少し困った顔をしたあと、
「お母さん、実は会わせたい人がいるんだ」
「会わせたい人?」
そう言われた時、
うい
その声を聞いた瞬間にういの顔は怯えた顔となり、
「いやだいやだいやだ、あんなのお姉ちゃんじゃない、
想像もできない反応をされて私は深く傷つきました。それでも、私はういへ言葉を届けようとしました。
「う、うい、お姉ちゃんの話を」
「そうだよ、本当のお姉ちゃんは私の記憶の中にいるお姉ちゃんだ。
あれはお姉ちゃんじゃない。違う違う違う!」
壊れたように何かを唱え、
見たことがない酷い顔。
私は今すぐにでも抱きしめて幸せにしてあげないといけないという
そうしているうちに何かを打つ音が聞こえました。
そこには、ういの頬を叩いたワルプルガさんの姿がありました。
「ワルプルガちゃん?」
「過去にばっかり逃げて今を見ないお母さんなんて嫌いだよ!」
「私が悪いの?
人を平気で殺す魔法少女だけになった今の世界で、どうやっていままで通り
「いろはさんはその答えを見つけ出してきた。
だから聞いてあげて。お母さんの考えている“今のいろはさん”と
ういの発作のような何かは収まり、
「うい、まずは世界がどうなっちゃったのかを教えるね」
私はアンチマギアプログラムの告知がされた時の映像をういの脳内
「これは、想像のお話?」
「ううん、事実の話だよ。
世界中で魔法少女が囚われる世の中になっちゃって、
「そんな、
「そんなことないよ」
私は今度は竜真館でのさつきさんとキクさん、連れてきた3人の人の子どもが
「この子達は、魔法少女じゃ、ない?」
「そうだよ。
この子達は他の魔法少女達と一緒に暮らしている魔法少女ではない子達でね、
魔法少女のみんなも3人を受け入れていて、みんなが幸せになれていたよ。
世界中のみんなってことにはならないかもしれないけど、
人と一緒に生活する将来は、ありえないことはないってことだよ」
「お姉ちゃんも、そんな将来を目指しているの?」
「そうだね。そうなったほうが最適だなって思って行動してるよ」
「そうか。まだ、頑張ろうって思える光景があったんだ」
ういの目は輝きを取り戻していきました。
わたしはそんなういに手を差し出しました。
「だからさ、うい。希望溢れる世界に戻ろう!」
ういがこちらに手を伸ばそうとすると目の前にいるういとは違うう
「本当にいいの?そんな簡単に信じちゃっていいの?
みんながみんな人との共存なんて望んでいるはずないのに
お姉ちゃんの嘘や妄言かもしれないのに」
別の方向から聞こえてきたういの声の方向を向くと、ういの記憶を見たときに出てきたういになり替わろうとする魔女がいました。
「あなたは、私に変わった私」
「あなた、あの魔女の!」
「
人殺しの姉もどきさん」
私は魔女とういの間に入って魔女に向けて武器を構えました。
「どうやって入ってきたの。外ではやちよさんたちが対応しているはず」
「ここは私の空間だよ?
“環うい”のほとんどを手に入れた私がここにいるのは当たり前でしょ?」
「そんな」
まさか、ういの主導権を奪っているってことはわかっていたけど、魂の中に入り込んでいただなんて。
「外の光景を見て耐えられるかな?
どうせ神浜の魔法少女達は、人なんて簡単に殺せちゃうんだから!」
そう言って魔女は何処で手に入れたかわからない神浜を奇襲してきた特殊部隊の兵士たちを魔法少女達が殺していく様子をういに見せました。
ういの目からは再び光が消えていきました。
「あなたは!」
ういがするはずがないような悪い顔をしてあの魔女はういの心を潰そうとし
ういは心が揺らいでしまったようで、
そんなういの手をワルプルガさんが握ります。
「ワルプルガちゃん…」
「誰かを信じてあげないと、
それに、動き出さないと何も始まらないんだから」
「ワルプルガさん」
ほんと、
「へんなことを吹き込むな!
動いたって変わらない、変えられない!誰も聞き入れてくれない!
何をしたって無駄なんだよ!」
魔女は怒鳴り始めてしまいました。
「だとしても」
うい?
そこには目に光が戻ったういがいました。いったい何があったの?
ワルプルガさんが何かやったの?
「聞き入れてくれる人が少ないとしても、
動かないよりは、動いたほうが成功する可能性は大きいはずだから。
だから!」
ういのソウルジェムは輝き出し、
そして気がつくと魔女がいる空間にいて、
「お姉さま、うい!」
「無事なようで何よりだ」
灯花ちゃんとねむちゃんの安堵する声を聞いて、
「さあ、この一件に決着をつけないと」
「うん!」
私はういと手を繋ぎ、
そして魔女を取り囲むように出されたういの凧へボウガンが装着さ
その凧達は次々と魔女につながる魂の糸を切っていき、
「へぇ、そうやって戻っていくこともあるんだ」
さつきさんのそんな呟きが聞こえた頃には魂の糸はういに全て繋が
そのあと、ういが私に話しかけてきました。
「私は人と魔法少女が争う今の世の中を受け入れられない。
でも、そんな世の中を変えようと動いている魔法少女達がいる。
それなら、私も少しは頑張らないとって思ったの」
「じゃあ、ワルプルガさんが何かやったわけではなく」
「わたしが、自分の意志で現実を受け入れた。ただそれだけ」
ういは糸が一本も繋がっていない魔女にボウガンを向けます。
「私の代わりをしてくれて、ありがとう」
ういがそう言うとボウガンが放たれ、魔女に命中したところから花びらに変わっていき、魔女は消えてしまいました。
魔女の結界内は眩しい光に包まれていき、
「…戻ってきたのね」
「うい、元に戻れたんだよね?」
灯花ちゃんの問いに対してういは笑顔で答えました。
「うん、もう元通りだよ!」
「よかった〜」
嬉しさのあまりに灯花ちゃんはういへ抱きついていました。
わたしはさつきさんへ感謝を伝えないとと思ってさつきさんのとこ
「さつきさん、やっと目的を果たせました。
ありがとうございました」
「いいのよ。
こちらだって助けてもらっちゃったし、
妹さん、戻ってよかったですね」
「はい!」
「それじゃあ、やっと目的を果たせるんだよね?」
灯花ちゃんのそんな話を聞いて、
そう、
「うい、あのね、ワルプルガさんのことなんだけど」
「わかっているよ」
「ワルプルガさん?」
「私が願えば、
「理解はしているのね。
あなたは願ってしまってもいいの?
やちよさんの問いかけに対してワルプルガさんは顔を縦に振りまし
「いろはさんがお母さんに見せてくれたあの明るい光景、
だから、願ってもいいよ。
お母さん、いいよね」
ういはワルプルガさんへ笑顔で答えました。
「ワルプルガちゃんが覚悟できているなら、いいよ」
やっと、一番解決しないといけないことが解決する。
そんなワクワクで胸いっぱいにしながら私はキュウべぇを呼びまし
「キュウべぇ、いるんでしょ?」
でも、キュウべぇは姿を現してくれません。
「おかしいなぁ。いつもひょっこり出てくるのに」
「外へ出てみましょう」
やちよさんの提案に乗って外でキュウべぇを呼んでも姿を現してく
「どうして、どうして姿を現してくれないの?」
「あら、どうしたのぉ?」
結菜さんが私たちに声をかけてきました。
「もしかして環ういを元に戻せた感じっすか?」
「うん、そうなんだけどキュウべぇが出てきてくれなくて」
「あの白いの、
「エネルギー回収のノルマだって達成していないだろうし、
その日は神浜中でキュウべぇを探し回りましたが、
「どこに行っちゃったの、キュウべぇ」
ペンタゴンの地下にあるサピエンスの研究施設。
その廊下をカルラは今まで通りタバコを咥えながら歩いていた。
その足を向ける先は、ディアが使用しているクローン体製造部屋。
カルラはそのクローン体が入る容器に触れて笑みを浮かべた。
「ディアより上手くはできていないと思うが、
そんな声が聞こえたのか、クローン体は容器の中で目を開け、
「わかったわかった、いま開けるから待っていろ」
カルラが装置を操作して、
ディアのクローン体は通常はディアの意思を流し込み、その体を直接操作するという流れだが、そのクローン体はひとりでにカルラに話しはじめる。
「なんだこの体は、君がやったというのか」
「人の体に入った気分はどうだ、
“キュウべぇ“ 」
第二章:神浜にて紡ぎ出され始める交響曲(シンフォニー) 完
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