【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-14 国を守る 国の何を守る?

私達はあの日、神浜市から人が誰もいなくなった日に気がつくと皆散り散りとなっていました。

だれもがどうしてここにいるのか分からず、特に何かがあったら集まるようルールも決めていないのに、みんなは水徳寺に行けば誰かいるのではと自然と集まっていきました。

静香ちゃんは大怪我を負ったまま旭ちゃんに保護されて、今は寝室で寝たままとなっています。

私は静香ちゃんが目を覚ますまでの間、他の時女一族の子達の様子を見て聞いて回りました。

やはりみんな変わってしまっていました。

でもその変化を受け入れる者、抗いたい者がいて、時々喧嘩が起きては私たちが仲裁するの日々でした。

今日も静香ちゃんが眠る寝室へと来ていました。

寝室ではすなおちゃんが静香ちゃんの看病をおこなっていました。

「ソウルジェムは無事でよかったけど、傷が塞がらない前にきっとドッペルを出し続けたんだよね」

「そうだと思います。

ここへ運び込まれた時は本当に血の気がない真っ白な状態でしたが、今ではこうして元の顔色に戻っています。

輸血もしないのにここまで回復できたのは、魔法少女だからとしか言いようがないですね」

「そうだよね。なかなか目覚めないのも、体の回復がまだだからなんだよね。

いつか目が覚めるよね」

「もちろんですよ。そう思いながら、今は待つしかないです」

私は静かに寝室を後にしました。

寝室を出ると、廊下で涼子ちゃんが声をかけてきました。

「大将、まだ目を覚ます様子はないか」

「私には分からないかな。

今は静香ちゃんが目覚めても安心できるように時女一族のみんなを見守ることしかできないし」

「・・・旭から聞いたんだが、どうやら神浜にいる他の魔法少女は二木市ってところから来た魔法少女達と争いをはじめているらしい」

「今はそんなことをしているときじゃないと思うけど」

私達は話しながらお寺の縁側へと向かっていました。
縁側から見える月は変わらず綺麗でしたが、私の心には雲がかかりっきりです。

「今日ケンカしてた子達はどう?」

「ちはるのおかげで3人は落ち着いてはいたよ。
だがお互いに顔を合わせられるような状況ではないな」

「仕方がないよ、考え方の違いをわかりあうのは時間がかかるし」

立ったままだった涼子ちゃんは私の隣へと座りました。

「ちはる、あんたはもう時女一族の考え方にはついていけないのか」

「この国を守っていくって考え方は変わらない。守る対象は国であって、人間ではないだけ」

だが国ってもんは人間のお偉いさん達と国民から成り立ってるもんだ。
仮に人間を悪として成敗していったら、国がなくなると思わないか」

「国の考え方が違うよ。私が国として守りたいのは文化。

ここのお寺みたいなこの国ならでわの建築方法とか、昔話とか遊びとか。

季節ごとのイベントとかそういったものは人間が作り上げてきたと同時に、魔法少女も守ってきたものだから。

この国ならでわのものを守っていくって考えに、私は変わったの」

「国の考え方ねぇ」

今日ケンカしたという3人の子も、時女一族の理念について議論した結果生まれた衝突でした。

人間あっての国

文化があっての国

前者の考えであれば、人間を否定するとこの国を守ることを否定することになる。

後者の考えであれば、人間はいくら否定しちゃってもいいけど文化で国というものは成り立つのか。

国の捉え方で今は二つに分かれていて、今は若干文化があっての国という子達が多い状態です。

「人間あっての国というのは否定しないよ。

そう考えちゃうと、悪いことしか考えない国の偉い人たちをどうするのかって話になっちゃうのが怖いだけ」

「みんな同じ経験をしたんだ。
奴らの行いを暴いたらみんな構わずこの国のお偉いさんの命を奪うだろうだろうな。
それがこの国を守ろうとする行為なのか、それをしっかり考えなくちゃいけねぇ。

ちはる、あんたらの考えはこの悩みから逃げてるだけにしか聞こえないんだ

「やめてよ涼子ちゃん、わかってるよ。
でもこうして考えた方が、今後理念を守っていくにはちょうどいいと思う」

どの意見が正しいかなんて分からない。

本当は、どっちが正しいと決めつけるのが悪いことだと思うけど。

 

次の日の夜、すなおちゃんが私の元へと走ってきました。

「ど、どうしたの?!」

「静香が目を覚ましました!」

私はすなおちゃんと一緒に静香ちゃんがいる寝室へと急ぎました。

襖を開くと、そこには体を起こした静香ちゃんがいました。

「ちゃる…」

私は思わず静香ちゃんに抱きつきました。

「よかった、目を覚ましてくれて!
今は、それだけでもとっても嬉しいよ」

「うん…心配かけちゃってごめんね」

みんなが静香ちゃんが目覚めたと聞いて寝室まで集まってきて、この時ばかりは時女一族のみんなが明るい顔をしていました。

昨日まで喧嘩をしていた子同士が顔を合わせて笑顔を見せるほどでした。

状況が落ち着いてからわたしとすなおちゃん、静香ちゃんだけが寝室に残ってこれまでに何が起きたのかを話しました。

「そう、私達は人を殺めてしまっていたのね。

そして、人は守るほどの存在と認識するようになってしまったと」

私は思わず聞いてしまいました。

「静香ちゃんは、まだ人間のために巫を続けようと思う?」

「わからないわ。

人なんか守るほどのものではないっていうのはみんなと同じものを見たからわからなくはない。

でも、信じたくないのよ。
お母様までもが、あの人たちと同じであってほしくないって。
だから、わからないわ。すなおとちゃるは?」

すなおちゃんが申し訳なさそうに話を始めました。

「ごめんなさい。
私はもう、人のために悪鬼とは戦えません。
でも、この国は守りたいと思っています」

「でも、この国の人を守りたくないのなら」

「確かに国は人が作り上げた結果できたものです。そんな人が作り上げたものは嫌ってしまう。でも、その国で生まれた文化はなぜか嫌うことができませんでした。

なのでかろうじて、私はこの国を守ろうという意思自体はあります」

それを聞いた静香ちゃんは難しい顔をしてしまいました。

「文化と人って、切り離せるものかしら」

「人間ではなく、私たちが引き継いでも残ります。

文化のために人にこだわる必要はないと思います」

「そう…私にはよくわからないわ。

ごめんなさい」

「大丈夫ですよ。すぐにわかってもらう必要はないですから」

「ちゃるは、どうなの?」

私は答えにくかった。

回答したのはすなおちゃんと同じ意見。

少し違うことを言ったと言えば。

「私、お母さんに会うのが怖いんだ」

「どうして?

何か助言してくれるかもしれないじゃない?」

「お母さんに相談したら、それが最後の会話になりそうで、怖いんだよ。

静香ちゃんと同じく、お母さん達は違うって信じたい。

それで、あの見てきた光景と同じ考えを持つ人だと断定されてしまったらって思って。

嫌なんだ、嫌なんだよ、決まっちゃうのが」

私は思わず泣いてしまいました。

信じていたい。
でも出会ったらそうではないと確定してしまうという予感が優ってしまう。

きっともう私達は人を信じれない。

だから、そうであってほしいでとどめていたいのです。

私達はみんな暗い顔をしたままそれぞれの寝床へ戻りました。

静香ちゃんはきっとお母さん達に会いに行こうというでしょう。

でもそれは、とても危険な気がします。

この時女一族という集まりが、離散してしまう決定打になりそうと私の勘が告げてくるのです。

一緒に行こうと言われたら・・・。

次の日、静香ちゃんは今の時女一族がどんな状況なのかを見て回りました。

静香ちゃんの意見に賛同する者、そうではない者
それぞれの意見を聞いて回ったようですが、静香ちゃんへの賛成派は3分の1程度でした。

静香ちゃんは内部のこともそうですが外部のことも気になっていました。

外部のことについては自ら偵察に出ていた旭ちゃんがよく知っていました。

「環さん、今はいないのね」

「はいであります。

一応皆は人間をこの神浜に寄せ付けず、環ういを正気に戻す方法をいろは殿が持ち帰るのを待っているという状況のようであります」

「それがもう、3日前…」

「いろは殿が神浜を出た後、うい殿とワルプルガを奪おうと動く勢力が現れて神浜はまだ安心できる状況ではないであります」

他の魔法少女は動き始めている。

でもそれは、人間を否定する考えの上で。

それに、魔法少女同士で争い始めてしまっている。

今の神浜の事実を知って、静香ちゃんはいつまでも納得できない顔でいました。

次の日、静香ちゃんは分家もいる前で宣言しました。

「私達本家は、一度霧峰村へと戻ります」

「静香?!」

「静香ちゃん?!」

「人を守る気を本当に無くしてしまっていいのか。
それが私達時女一族として正しい選択なのかを、原点に帰って考え直す必要があると思うのよ。

分家の方達には、神浜で待っていてもらいます」

そう説明している中、分家の1人が静香たんに尋ねました。

「しかしよろしいのですか、もし親と対面してしまったら」

「だからこそ。

親子の関係はそうそう切れない物。

そして時女一族の人間が皆良心が確かにあるとわかれば、私達は人などどうでもいいと言えなくなります。

それを確かめに行きます」

みんなへの宣言が終わった後、私は特に反論することなく静香ちゃん、すなおちゃんと一緒に霧峰村へと戻りました。

 

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