ロシア地域にある何の変哲もない街、チェルノブイリ。
歴史を振り返れば悲惨なこと続きなこの街だが、政府から気に留められることがなくなったことをいいことに、土壌改善を含めた農業開発が粛々と進められた。
その結果、ロシアの中でも大事な農業地帯に成り上がり、自然が豊かということで定住する人も、移住してくる人も増えていった。
また、土壌改善に成功した珍しい例としても注目されてその改善技術は他の土地でも使用されて世に大きな貢献を残した。
これが今残るチェルノブイリの歴史。
でも。
「政府が押し進めようとした燃料開発プロジェクトで原発の建設予定がチェルノブイリにはあった。
そこまでは記録に残っているが、ある日突然その話題がパッタリと消えた」
「この事実を教えてくれた人のところを訪れて、何故急にプロジェクトが雲隠れしたのか調べるわ」
「歴史が変わったが故に生まれたと思われる違和感、果たして魔法少女は関係あるのかな」
私はプロジェクトの関係者と接触して話を聞いた。
プロジェクト資料を手に持っていたその人は、その資料をどこで手に入れたのかを覚えていないらしい。その資料は同じプロジェクトに参加していたメンバーならばみんな持っていたはず、彼はそう語っていた。
他の人達と違った立ち回りをしていなかったか聞いてみると、父親の病気が悪化したことで仕事かばんを持ったまま仕事場を離れてしまったことがあったらしい。
その次の日、プロジェクトはなかったことになってプロジェクト内容が建設場所を検討するための評価実験になっていたとのこと。
原発の開発は度重なる評価実験の末、海辺に開発されたが世界のエネルギー開発競争の中でロシアは遅れをとることになった。
彼はこう言った。
この資料の作成日から原発開発が進んでいたら、この国はもっとマシな順位を手に入れていただろう。
彼以外の関係者で、プロジェクト資料を所持している存在はいない。
紛失してしまったという可能性を考えても、たった一つしか残っていないなんてことがあるのか。
「さて、ここから魔法少女に繋がるなんてことあるか?」
「なぁに、魔法少女の専門家に聞けばいいだけの話さ」
私達はキュゥべえへこの周辺で一番長生きしている魔法少女について聞いた。
「この辺りで一番長生きしていると言えばイリーナだろう。
とはいえ7年程度で君達が求めている年代から生きていた子はもういない」
「ありがとう、それで十分よ」
私は魔法少女を疑われないよう宝石を用意し、そこに魔力を込めて魔法少女と偽ってイリーナと呼ばれる存在へ接触した。
「20年前にこの町で何かなかったかだって?」
「そんな昔のことを知って、何をしたいの」
「長生きしている魔法少女に会いたいの。魔法少女の宿命の中、どうやってそこまで長く生き続けることができるのか」
イリーナの取り巻きがあーだこーだと話しかけてくる中、イリーナが話し始めた。
「私の先輩から聞いたことがある。
もともとこの街には原発が作られていて、そのおかげでこの街は生計を立てれていたとか。でも、原発は事故を起こしてこの街は死に溢れかえった。
そんな現実を見て、1人の少女が願ったらしいの。
“事故が起こる原因となった原発開発を無かったことにして”
そして今のチェルノブイリがある。
先輩から聞いた話よ」
「そんなことがこの街に」
「事実かどうか知る方法は?」
「あるわけないでしょ。当時のことを知る先輩たちは、死んだり魔女になったりしたわ。
先輩から話を聞いてなきゃ、誰もそんな事実知らない」
一呼吸した後、イリーナは話をつづけた。
「でも、どうやら原発計画を無くすよう願った子は10年以上生き続けたらしいわ。最後は、私の先輩の先輩をかばって死んだらしい。
いつも笑顔で、希望に満ち溢れていたような子だったって先輩は聞かされていたみたい。
魔法少女で長生きする秘訣は、とにかく明るい希望を持ち続けることじゃないかしら」
「そう、ありがとう」
私は十分に情報を集められたと判断し、次の場所へ移動する準備を始めた。
「あの話が事実だとして、おそらく誰も信じないだろう」
「ええ、人は自分の体験したことしか信じない。
または周りが信じるから事実だろうという同調圧力による信じ込ませでしか事実だと認めてくれない」
「チェルノブイリ、歴史が変わった場所として覚えておきましょう」
次に向かったのは朝鮮半島。
ここには朝鮮と呼ばれる朝鮮半島丸々一つを国土とする国だ。
大昔は北と南で分断されていたらしいが、第二次世界大戦後を境に南北が統一されたという。
しかしこの朝鮮の歴史、なぜ北と南で領土が分断されたのか、どういう経緯で統一されたのかが曖昧となっている。
再びキュゥべえにこの土地の魔法少女について聞いていたのだが。
「仮に願いで歴史を変えようと願っても、願った少女の背負う因果量によっては歴史が中途半端に変わるというのはよくあることだよ」
「じゃあ歴史を変えた前例を全て教えてくれないかしら」
「それは無理だ。
ボクも歴史改変に飲み込まれているだろうからね、どう歴史が変わったかなんて全ては把握できないよ。
チェルノブイリのことについても、ボクは願った子のことさえ覚えていない」
「知っているだけ教えてくれないかしら」
こうやってキュゥべえに情報提供を求めた結果、朝鮮半島で歴史を変えるような願いを行った少女がいたという。
だがどう願ってどういう結果になったかは覚えていないという。
「朝鮮半島の歴史、学校ではあっさりした内容だから気にもならなかった」
「簡略化されているからこそ気づかない違和感ね。どう統一されたのか、現地の人たちにも聞いてみましょうか」
こうして南側と北側に住む人たちへ話を聞いてみると、第二次世界大戦後に日本から解放された朝鮮半島は復刻を掲げて朝鮮として再び動き出した。
皆こう答えてくる。
「でもおかしいわね、朝鮮半島については米国とソ連で領土分配の話し合いが行われていたという話があったはず」
「それがなかったことになった…
あれ、この展開って」
「外部から何かチカラが加わったのか、それとも史実と受け取って良いのか。
切り込み口は見つかったけど、後は願いで変わったという証拠があればいいんだけど」
チェルノブイリの時同様、イザベラは魔法少女のフリをして魔法少女たちへ聞き込みを行なった。
私は遠くから見守っていたが、チェルノブイリの時と違ってイザベラが危険な目にあう場面が多発した。魔女を相手にして危険な目にあうのではなく、魔法少女同士の争いで危なくなる場面が多かった。
何故魔法少女同士の争いが多いのか。魔女と戦わずにほかの魔法少女からグリーフシードを奪うという考えが日常化していたからだ。
何故そんな考えが日常化してしまったのか。
イザベラが聞き込みを行っていると、気になる情報が飛び込んできた。
「え、もともと北側と南側で魔法少女のテリトリーが分かれてたって?」
「国同士がそうだったからね、魔法少女の間でも自然とそうなっていった」
「まて、国が分かれてたってどういうこと?」
「なんだ、あんたも影響を受けた腹か。やっぱりあいつのそばにいた私しか、真実を知らないんだな」
「真実?」
「悪いな、あいつの頼みで真実を教えるつもりはない。知りたきゃ自力で探し出してみな。私から力づくで聞こうとしても無駄だよ、無関係な奴に絶対に話す気はないからね。
まあ、北側を探せば何かあるかもな」
言われた通り北側を探索していたが、イザベラはテリトリーにうるさい魔法少女と出会ってしまった。
「逃げるな!無断でテリトリーに入ったんだから許さねーぞ!」
「ここもうそのテリトリーの外だと思うんだけどなぁ。めんどくさい」
「助太刀しようか」
「いや、私が魔法少女じゃないとバレる方がまずい。いざとなったらでよろしく」
仕方がないから相手が見失うまで逃げていると、足元がコンクリートの謎な場所にいた。
「何だここ、少しだが魔力を感じる」
周りを調べていると重厚なハッチを見つけた。どう壊そうか悩んでいると、後ろから追ってきていた魔法少女たちに追いつかれた。
「見つけた、覚悟しやがれ!」
魔法少女は魔法で生成した爆弾を取り出して私に投げつけてきた。イザベラは避けたが、ちょうどよくハッチが壊されて中に入れる状態になった。
「ありがとね」
イザベラはハッチの下にある空間へ飛び込んだが、思ったよりも深い空間だった。
降り立った場所は、鉄製の通路のようで周りが暗くて状況を掴めない。
イザベラがライトを取り出して周囲を確認すると、驚くべきものが目に入った。
ライトをつけた後、追いかけてきていた魔法少女たちはハッチの中までやってきた。
「チクショウ、お前いい加減に!」
「まて、ここで争うのは禁止だ」
「はぁ?何を言って」
イザベラはライトを当てている先を指差し、魔法少女たちもそこをみた。
ライトが当たっている場所には、核を表すマークがあった。
そしてライトで上から下まで照らしてみると、明らかにミサイルが目の前にあることがわかった。
「核、ミサイル、だと」
これはとんでもないものを見つけてしまったのかもしれない。
そして周りをよく観察すると、見たことがない国名が目に入ってきた。
「北朝鮮?何だこれ、秘密組織の名前か何かか?」
「あら、まさかこんなものが消えず残ってたなんてね。核を隠すくらいしか因果量が足りなかったってことかな」
聞き覚えの声がする方を振り返ると、真実を知っているらしい魔法少女がいた。
「お前はシェンヤン!何でここにいる!」
「そこにいる異国の魔法少女を追ってきたのさ。それにしてもあいつ、歴史変えてもこれ残っちゃダメだろ」
「歴史を、変える?」
「ああ、あいつが変えたんだ。米国とソ連のせいで生まれてしまった南北問題を無かったことにしたいと願って」
「真実にたどり着いたから教えてくれるのか?」
「まさか、詳しくは教えない。
でも、あいつのおかげで朝鮮半島から無駄な争いが消えたという事実を多くの人には覚えてもらいたい。
まあ、ただの気まぐれさ」
北朝鮮、きっと願いによって消えてしまった国なのだろう。
「歴史が変えられていなかったら、どうなっていたんだ」
「そうだねぇ、北の人は貧困に苦しみ、南北同士で殺し合いになっていたかもしれない。
さらに言うとこのミサイルだ。
朝鮮半島だけでなく、世界が不幸になっていただろう」
「そいつのおかげで、朝鮮の私達はまともに暮らせてるって言いたいのか?」
「そうね、少なくとも私はあいつが願ったのは間違いないと思っている」
核ミサイルを作れるほどの国が生まれた歴史。
きっとその結果は人類にとっても不幸な結果なのかもしれない。
願いによって平和な方向へ動いた結果になったところで、
人類の軌跡が踏み躙られたことに変わりはない。
「ところで、なんでシャンヤンは歴史が変わったと覚えている?」
「何故だろうね。願った瞬間、目の前にいたからかな」
私達は施設内の資料を集めていたのだが、施設内を歩き回るシャンヤンにイザベラがある質問をした。
「ねえシャンヤン、なんで朝鮮の魔法少女は魔法少女同士で争うようになってしまったの」
「あんたの地元のことは知らないけど、朝鮮には魔女が少ないんだ。
その割には魔法少女の数が多くて、それ故にグリーフシードの奪い合いが多発した。
それと、聖遺物の争奪戦なんかも発生した時期もあって魔法少女同士が争い合うのが当たり前になったんだ」
「聖遺物の争奪戦・・・。
中華民国へ遠征したりしないのか」
「まさか。
あっちのやつらに侵入がばれたらそれこそ魔法少女同士の争いが激化してしまう。
いいか、世界中を旅するのはいいが郷に入っては郷に従えともいう。その土地の決まりや考え方は理解したうえで行動したほうがいい。じゃないと早死にするよ」
「警告どうも」
あの施設についてはその場にいた者達の秘密にしようと言う結果で収まった。
そして新たに聞いた聖遺物争奪戦という話。そういえばロバートも聖遺物について言っていた気がする。
魔法少女のことを知るためには聖遺物についても調査してみるといいかもしれない。
「決定的な証拠だと思うけど、北朝鮮、大韓民国なんて国があったという歴史がない以上、信じる人は少ないかも」
「そうね。まだこれくらいじゃ足りないけど、魔法少女に対する評価は概ね決まりそうよ」
今までは歴史が変わったという疑いしかない土地しか回ってこなかったが、次のポイントは違う。
歴史を振り返っても、明らかに歴史が何者かによって変えられたという痕跡が残る場所だ。何者かというのは言わずもがな、魔法少女だ。
そうして私たちが来たのはイタリアという謎の有毒な地底から噴き出るガス地帯を領土内に持つ国である。
ガス地帯を中心とした半径5キロメートルは侵入禁止地帯となっていて一部の許可が得られたものにしか侵入が許されない。
しかし、今私達はガスに触れないギリギリの距離まで移動してきている。
入るまでにいろいろごたついたが、政府の権限というのは便利ながらなかなかにずるいものだと実感した。
「地下からガスが噴き出たというのは第一次世界大戦よりも前で、ジャンヌ・ダルクが奇跡を見せた時代よりも後らしい。
約500年の間にここら一帯は謎の有毒ガスによって人が住めるような土地ではなくなったらしい。
でも現地に来てわかった。あの有毒ガスには魔力がこもっている」
「その有毒ガスだが、調査した研究者たち曰く、現代技術で作り上げられるどの防護服でもあのガスに触れると死んでしまったらしい。
死因は穴という穴から血が噴き出たことによる出血死。
そんな危険地帯にどう足を踏み入れるんだ」
「そうだねぇ」
イザベラはその辺を歩いていた猫を捕まえて、何か魔力をかけていた。
そしてその猫を毒ガス方面へ放った。
「イザベラ、何をして」
猫はガスに触れてもまだ生きていた。イザベラの様子を見ると、魔力を猫へ送り続けている様子だった。
2分しないうちにイザベラはへとへとになり、魔力供給が終わるとガスに触れていた猫は血を噴き出して死んでしまった。
「イザベラ、一度道徳を学び直したほうがいいんじゃないか。実験動物でもないものを実験に使うのはよろしくないと思うよ」
「別に気にすることでもないわ。おかげで魔力を防ぐバリアを周囲に張ればあのガス地帯でも動けると確認できた」
でも2分ももたなかった。これではまともに調査する時間がない。
「それがわかったところでまともに調査はできない」
「なぁに、すでに実現できそうな人材に目星はつけている」
イザベラはある資料を私に渡してきた。
そこにはテロメアに関する論文と、その論文を書いた人たちのリストがあった。
「この論文を書いた人がいる、大学にある生物学科に行こうっていうのか。
なんでこうも先のことを考えてこんな的確な資料を狙い撃ちで手に入れられるのか。私は魔力を持っていることよりもその才能に疑問を持つよ」
「偶然よ。もともとこの霧を乗り越えるために調べた結果で見つけたわけじゃないし」
「そうかい」
とある大学の生物学科には奇才と呼ばれる研究生がいるらしい。
その学生は生物の進化をテーマに研究をしているらしいが、噂によると自分の体に別の動物の血を混ぜようとしたり、動物たちを争わせて生き残った個体の生存能力が向上していないか調べたり、死体安置所で実験したりとかなりクレイジーな性格をしているとのこと。
しかし成果は出していて、最近ではテロメアを延ばせる可能性についての論文を出していた。
生物学の先端を歩む存在ではあると思うが、大丈夫なのだろうか。
大学に到着し、目当ての研究員について聞いて回っているとある研究者が声をかけてきた。
「おや、もしかしてディアを尋ねにきた方ですかな」
「あなたは?」
「電話でお話ししましたディア達を雇っている者です」
「教授でしたか。気付けず申し訳ありません」
「いえいえ、お気になさらず。ささ、彼女達がいる部屋へ案内します」
その頃、研究室では。
広めのケージに入っている2匹のモルモットを注目する少女がいた。
その研究室へ、1人の背が高めな女性が入ってきた。
「ディア、もうすぐ来客の時間だ。応接室へ行くよ」
「待って、今いいとこなんだ。
本体とクローンが対面した時の反応を観察している最中で」
話を遮るかのように女性はディアを左脇に抱え上げて無理やり部屋から出そうとした。
「離せカルラ!今いいとこなんだ!」
「無礼は私だけにしておけ。せめて来賓する客に無礼を働くな」
「そんなの知るか!離せ、離せー!」
そんなことがあり、応接室に2人は向かった。
back:2-1-8
レコードを撒き戻す:top page
Next:2-1-10