【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-11 再起の巫女

「キク、本気で言ってるの?」

「ああ。私は環達と一緒に神浜へ行く」

「私を置いて行くの?」

「お前がついてこないっていうなら、置いて行くしかないな」

神社の裏側の本殿と呼ばれる場所にいたさつきさんへ、キクさんには神浜に行くという演技をしてもらうことになりました

心が不安定になったら、さつきさんをおかしくした何かが本性を表すかもしれない。そういうやちよさんからの案です。

さつきさんの顔は曇り、小声で何かを呟き続けました。

そして、わたしたちの方を睨みつけました。

「あなた達ね、環さんと七海さんがたぶらかしたのね!」

「私達は神浜がどんな場所か教えただけです。
その後に自分で決めたのはキクさん自身です」

「さつき、そろそろお前も自分で決めて行動したらどうだ」

「私はいつだって自分で決めているわよ!」

「じゃあここから離れられない理由はなんだ」

「それはお父さんとお母さんに頼ま…」

さつきさんは何かに気付いたかのように言いとどまってしまいました。

「あれ、私は自分の意志でここに残らないとと思った。そうよ、残らないとって思う理由が確かにあった。

でもこれ、自分の意志じゃなく、い、言われたからみたいじゃないの」

綻びが見え始めました。

どうやら本当の目的があったからここから離れられなかったようです。

でもそれがいつの間にか、父親と母親に言われた言葉がきっかけで残っているに変わってしまった。

「行かないで・・・キク・・・行かないで」

さつきさんは肩を震わせながら泣き始めてしまいました。

「だったらなんで動かない事に固執するんだ。ここにはもう何も」

「いえ、ここ封印した」

“カワイソウニ,カワイソウニ“

さつきさんが何か思い出そうとした時、声が聞こえてきました。

”オトウサントオカアサンノイッタコトヲマモッテルダケナノニ“

本殿内は魔女の気配で包まれました。

「この反応、あいつと同じ」

”キクハイイコ、イイコ、ダイジナモノヲウバウワルイヤツハ、ハイジョシナイト“

「排除、しないと」

さつきさんの目から光が消え、何かに操られるかのようにさつきさんは私たちへ襲い掛かってきました。

無数の光る札が私たちへ放たれ、それは避けられるような密度ではありませんでした。
受け止める術がない私のためかやちよさんは前に立って無数の槍を生成して光る札を相殺していきました。
しかしいくつかはすり抜けてきてそれらはやちよさんが槍で弾いたものの、2,3発はじいたところで槍が砕けてしまい、私とやちよさんは2,3カ所に切り傷を負ってしまいました。
その頃には召喚された光る札は消えていました。

「やちよさん!」

「この町で一番強いとは聞いていたけど、想像以上の強さね」

「さつき!しっかりしろ!」

周囲はいつの間にか魔女の空間へと変わっていました。

「いろは、少しだけ彼女の注意を引いてもらえる?」

「わかりました」

わたしはさつきさんへ矢を放ち、私へ注意を引き付けます。やちよさんはその間にキクさんへ何か聞いていました。

「キクさん、あなたの家族はあの魔女にどうやって殺されたの」

キクさんは歯を食いしばって答えていました。

「忘れるものか。あんな感じに家族を洗脳して私と対峙させ、最終的に自殺させたんだ」

「そう、洗脳が得意な魔女なのね」

「ふざけやがって!」

キクさんは普段武器として使用している斧を構えてさつきさんに突っ込みました。

さつきさんは避けようともせず、キクさんの斧を受け止め、柄の部分を容易く折ってしまいました。斧を受け止めた際、さつきさんが足をつけていた地面はえぐれましたが、さつきさんはびくともしません。

キクさんは構わず武器を捨て、何度もさつきさんの顔へ拳を打ち続けました。

「おまえは、そうやって!誰にでも優しく、しようとするから!つけ込まれるんだ!

不器用なくせに!勉強もできないくせに!他人にばっか優しくしようとして!少しは自分も大事にしろ!

バカヤロウが!」

さつきさんは繰り出される拳を何度も受け止めていましたが、最後の一撃だけはなぜか防ごうともせず、キクさんの拳はさつきさんの顔を殴りました。すると間もなくさつきさんの背後から複数の札が出現し、キクさんの動きを止めました。そして逆にさつきさんがキクさんを押し倒したのです。

「キクさん!」

しかしさつきさんは手を出そうとしません。

「さつき?」

「そんなにひどく言わなくていいでしょ!

全く、今のは結構効いたわよ」

さつきさんの目には光が戻っていました。

「正気に戻ったか!」

「ええ、こいつを封印した後、こいつを倒せる魔法少女が現れるまでここから離れられないって思ってたところまで思い出したわよ」

さつきさんは禍々しく光る札の方へ向き直りました。

「ふざけた真似してくれたわね!」

そう言ってさつきさんは禍々しく光る札へ勢いよく別の札を飛ばし、禍々しく光る札は真っ二つに裂かれました。

その中から出てきた魔女は、シルクハットを被り、白い手袋を履いた足のないお化けのような見た目をしていました。

「バカ!なんで解き放った」

魔女は見た目を変えていき、男女の人間へと姿を変えました。

”サツキ、ワタシタチノカワリニ“

さつきさんは膝をつき、頭痛を抑えようとしているかのように頭に手を当てていました。

「さつき!」

「なんでよ、なんで抗えないのよ!
あのふたつは、偽物なのに!」

”ナニモカンガエナクテイイ,イワレタトオリニシテ”

私達は魔女を弱らせるために攻撃しようとしますが、さつきさんから札が飛んできて身動きが取れなくなりました。

札の縛り付ける力は強く、いくら力を入れてもほどける気がしません。

「さつき、やめろ!」

「わたしは、ワタシは」

再びさつきさんの目から光が消えつつありました。

男女の人間はさつきさんに近づきながら包丁を手に構えました。

“ダイジョウブ、ラクニシテアゲルカラ”

そう言って男女の人間が包丁を振り下ろすと、その間へキクさんが割って入りました。

キクさんは背中で包丁を受け、深く体に刺さり込んでいました。

その状況を見てさつきさんの目には再び光が戻ります。それと同時に私たちを縛っていた札が消えました。

それと同時にわたしたちを拘束していた札が消えていきました。

「キク!」

「大丈夫さ。魔法少女の体は頑丈だからな。ソウルジェムが壊されない限り耐えられる」

苦しそうにそう言うキクさんへ、男女の人間は再び包丁を振り下ろします。

キクさんは苦しそうにそれを受け止めます。

「キク!」

「さつき、こんな状態でも、魔女は倒せない存在なのか」

さつきさんは怯えた顔になって、男女の人間を見ました。

「ごめん、私だけじゃ・・・」

震えた声で怯えるさつきさんへ私は手を伸ばしました。

「さつきさん、ひとりでがんばらなくてもいいんです。

私が手伝います」

私の方を見たさつきさんは小さくうなづき、私の手を取りました。

その時にコネクトが発動し、私とさつきさんの手の中には和弓がボウガンのようになった武器が握られていました。

それでも怯えているさつきさんへ私は声をかけました。

「さつきさんはきっと、魔女という存在を誤解しています。

あれは、魔法少女だった子が残した後悔なんです。

あれを倒さないと、魔法少女だった子は快く成仏できないんです。ずっと苦しんだままになっちゃうんです。

魔女退治っていうのは、苦しんでいる子達を、楽にしてあげる役目もあるんです」

「本当?倒しちゃったら、魔法少女だった子を殺すことにならない?!」

「殺したことにはならないですよ。

魔女を倒した方が、魔女になってしまった子も喜んでくれます」

私がさつきさんを説得している間、やちよさんが魔女を抑えてくれていました。
キクさんは血を流しながら魔女から離れていきました。

そんな空間へ、3人の子達が入ってきてしまいました。

「ここ、どうなってるの」

そんな子達へ魔女が手を鋭くして子どもたちへ伸ばしていきました

“カワイソウニ”

「お前ら逃げろ!」

すばやく動けないキクさんを尻目に魔女の手は勢いよく子どもたちの方へ向かっていきました。

誰も止められないと思った時、さつきさんの右手から放たれた札が魔女の手を止めました。

「そうよね。躊躇してちゃ、ダメよね」

札は増殖して魔女の手を締め付けていき、引きちぎってしまいました。

“ドウ、シテ”

さつきさんは大きな魔力の篭った破魔矢を生み出し、ボウガンにセットしました。

「一緒に放ってくれるかしら、環さん」

「はい、あの魔女を倒して楽にしてあげましょう!」

さつきさんは札を呼び出して魔女を縛り上げ、やちよさんの助けがなくても魔女は動けない状態になりました。

魔女は縛られながらも再び男女の人間に変わりました。

“ヤメテ、サツキ”

「私の記憶を好き勝手使って…

もう、迷わないんだから!

消えなさい!マガイモノ!」

破魔矢は放たれ、男女の人間を貫きました。

魔女は元の姿へと戻って破魔矢が貫いた場所から溢れる光に包まれ、魔女は消え去りました。

周囲には温かい光が残り、それはキクさんの傷を癒しました。包丁に刺された傷が元に戻るくらいの治癒力でした。

そして魔女の空間は消え去り、屋根が吹っ飛んだ本殿に戻ってきました。
魔女がいた場所には一つのグリーフシードだけが残っていました。

「何今の、すごい!」

子どもたちは勝手に盛り上がっていて、さつきさんはキクさんへ手を伸ばしました。

「よくもまあ私をぶん殴るなんて乱暴なことしたわね」

「思いっきりぶん殴られたら誰だって少しは正気に戻るだろうと思ってさ。魔法少女だからって思いっきりやらせてもらったよ」

「絶対正気に戻そうって以外の雑念あったでしょ」

「さあ、どうかな」

さつきさんとキクさんは笑い合っていました。

私達は二人の談笑が終わるまで待ち、話が終わったところでさつきさんはこちらに話しかけてきました。

「ありがとう、環さん、七海さん。

私あなたたちに大きな迷惑をかけてしまったわね。ごめんなさい」

「私からは礼を言わせてくれ。やってわかったと思うが、私だけじゃどうすることもできなかった。だから二人がいてくれてよかった。ありがとう」

「気にしないでください。さつきさんが元に戻ったようでよかったです。

えっと、それで神浜に行く話ですが」

「ええ、私も神浜へ行くわ。

もちろん、この子たちを連れて。いいでしょ?」

「まあ、来てくれるのでしたら。

いいですよ。みんなで行きましょう!」

「何何?どこへ行くの?」

「神浜って場所へ旅行よ。さあ、出かける準備して」

「はーい!」

こうしてさつきさんは神浜へ来てくれることになりました。

思った以上に神浜を離れちゃったけど今はどうなっているのだろう

そして、世界中にアンチマギアプログラムという存在が知れ渡ったのは、私達が神浜へ出発したすぐ後でした。

 

 

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