【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 3-5 塗りつぶされないその心に従って

音が届かない、夕日もほとんど差し込まない路地裏には4人の魔法少女と1人のヒトがいました。

「そこの倒れているのはチヒロじゃないか。かこ、これはどういうことヨ」

「ちひろさん、路地裏でこのヒト達に暴行を受けていたんですよ。蒼海幤に恨みを持っていて一方的に殴りかかってましたよ」

誰がどんな顔をしていたのか判断ができないほど肉塊が広がるだけの酷い光景でした。

これを、貴女がやったというのですか。

「どういうことですか、ヒトに手を下すなど、貴女らしくありませんよ」

「かこちゃん!何があったのか教えてよ!」

「私はもうななかさんたちの元へ戻れません。どうしてもというなら、もっと奥で話しましょう」

ちひろさんを血溜まりから離れた場所へ寝かせた後、私たちはかこさんの後を追って路地裏の奥へと進んで行きました。

「どうしてついてくるんですか」

「私達は貴女の仲間です。当然のことですよ。

まずは何があったのか話していただけますか」

「話したところで面白い話ではないですよ。ヒトと魔法少女は決してともに暮らせないと、そしてヒトは呪いの源、害だと気付いてしまったんですよ」

私は何か言い出そうとしたあきらさんを止め、かこさんの話を聞き続けます。

「お父さんとお母さんに見られちゃったんですよ、心臓に穴が開いても平気でいられる魔法少女の体を。

そして使い魔を倒して帰ったら、いつも名前で呼んでくれていた2人が私の事を人ではない、普通じゃないとしか言わなくなって。

それで私の前に私がもう1人現れたんですけど、うるさいから切っちゃったんですよ。

そして真っ暗な中を進んで扉があったので開いたら、目の前にはヒトだった肉があるだけでした。

それからたくさんのヒトを見て、呪いの源を断って、断って、断って。

そうしていると、もうヒトなんて救う必要ないんだって」

語るかこさんの目はももこさん達のように光のない目になっていました。

いえ、それよりももっと目の奥に闇が見えました。

そしてその顔は不気味な笑みを浮かべていて、なぜか涙を流していました。

ソウルジェムは、黒く濁るだけでなく七色が見え隠れしていました。

“あたしはあんたの反対側にいるんだよ。

でもね・・・いずれこっちに来る”

予言だったというのですか、貴女が私の中に幻影として現れたのは。

“あんたの反対側にいるんだ いずれこっちに“

私は魔法少女姿となって抜刀し、刃をかこさんへ向けます。

「ななか?!」

「かこさん、あなたを反対側に、“あちら側”に行かせるわけにはいきません!
必ず呼び戻します」

「ななか」

「あきらさん、美雨さん。今すぐここから立ち去ってください。これは私のケジメの問題です」

そう言ったにもかかわらず、あきらさんと美雨さんは魔法少女姿となり、私の横に並びました。

「何をしているのですか。生きて帰れる保証はないですよ!」

「何言ってるんだななか。ボクたちは仲間のためにここにいるんだよ。それに、人数がいれば止められる可能性だってあるんだから
それに、今のかこちゃんの姿をみんなに見せるわけにはいかないでしょ」

「ワタシは仲間を見捨てない。残るのは当然ネ」

2人ともに3対1という状況ができるにもかかわらず覚悟を決めたような顔をしています。

なぜでしょう、わたしも今のかこさんを前にして優位に立てると確信することができません。

戦わずとも既に知っていますが、“あちら側”のまま放っておくわけにはいきません。

「暖簾の先に進む覚悟がお有りなら、ひたすら付き合ってもらいますよ」

「当然!」

「わたしの前から消えてって言ってるのに!」

かこさんも魔法少女姿となり、いつもとは違った殺意の勢いで襲いかかってきました。

長柄の武器は突きよりもなぎ払う行動が多く、こちらが繰り出す攻撃は受け止めるよりも受け流してカウンターを取ろうとする動きが目立ちました。

そう、この行動原理は美雨さんのもの。

あきらさんと美雨さんの間髪ない攻撃の中、わずかに生じる隙を見逃さない回避経路を的確に見抜いています。

これはあきらさんの固有能力の応用。

かこさんは2人に構わずわたしにばかり積極的に攻撃を仕掛けてきます。

あきらさんと美雨さんがカバーに入ってくださるので猛攻を耐えてはいますが、これはわたしが司令塔であることを把握しての行動でしょう。

そう、かこさんは私たちの行動を後ろから今まで観察し、置いてかれないようについて行こうとしていました。

つまり、私たちの行動原理はお見通しなのです。

しかし一緒にいた私たちも同じ条件。

そのはずなのですが。

わたしはかこさんに飛び上がりを強要させるよう一閃を加え、飛び上がったかこさんをあきらさんが回し蹴りで地面に打ち付けようとします。

どんな身体能力を持っていようとこの世界の原理、重力に逆らう行動を取れる魔法少女はそう多くはありません。

その隙が生まれる着地の瞬間を狩るのが美雨さん。

しかし、かこさんは石突きを地面に打ち付け、その場にクレーターができたかと思うと黄緑色の光線ができたクレーターを囲うように放たれました。

「やはり、容赦はないようですね」

受けるはずの重力が右手に集中するその行動によってかこさんの右手は糸が切れた人形のようにだらんとしていましたが、即座に回復して地面に突き刺さった武器をその右手で抜き取りました。

やれると思ってもやらない戦法。

それはヒトとしての行動理念に反すること、ヒトとして大事なものを失う行動。

これらに該当する戦い方は勝てる場面でも使わないことが当然でした。

ヒトデハナイ

そう吹っ切れた方が相手だと、立ち回りにくいものですね。

戦況はお互い譲らずと言った状況でした。

私たちは擦り傷程度の損害に対してかこさんは切り傷や殴打による内出血ができる度に回復魔法で元に戻ります。

ここまで戦って不思議なのは、私たちのソウルジェムがそれほど濁っていないことに対し、かこさんのソウルジェムは真っ黒のままだということ。

「まだ構うんですか」

「当たり前です。あなたをこちら側に呼び戻すまでは引きません。あなたがまともに話を聞いてくれるようにならない限り、どこまでも」

「それにそろそろドッペルを抑えるのも限界なはずだよ」

「ドッペル、ですか。

そうですね、そんなに殺されたいナラ、切りキザマreちゃえばいIんですヨ!」

かこさんの足元から周囲に赤いリボンが巻きついた鉄柵、毒々しい植物が生茂る結界が展開され、空はほのかに夕日がこぼれていた時よりも紫がかった色へと変わっていきました。

「まさかこれ、魔女の結界」

「だめ、引き返せなくなります!」

わたしはかこさんのソウルジェム目掛けて駆け寄ろうとしますが、結界の茂みからは腹部分が本、頭部分が様々な花となっているモモンガな見た目をした使い魔まで現れました。

「ちょっとこれどういうこと?!神浜じゃ魔女にならないはずだよ!」

かこさんのソウルジェムから出てきた呪いの色をしたリボンがかこさんを包み、かこさんの見た目はかつて見たことがあるドッペルに似た姿へと変わっていきます。

スカート部分は本に何本もの栞が刺さった見た目をしていて上着部分は三原色が完全に混ざり切っていないパレットのような彩りに変わっていました。

そしてかこさんの目には光がない代わりに、赤い光が揺らめいていました。

そしてソウルジェムの中から取り出したのは身の丈ほどあるオオバサミ。

「ドッペルを着込んだというのですか」

かこさんはオオバサミを持ったまま素早くあきらさんへ詰め寄り、オオバサミで真っ二つにしようとします。

「いきなりか!」

しなやかにあきらさんは避け、美雨さんが詰め寄るとオオバサミは分離して二本の大剣となって攻撃を受け止めます。

「もうなんでもありカ」

使い魔たちの数が増え始め、私たちの行動を妨害するようになっていきました。

使い魔を振り払っているとかこさんのスカートにある栞が飛び出し、私たちの体に突き刺さりました。

そしてきっと魔力を吸い出したのでしょう、色が変わってそのままかこさんの元へ戻っていきました。

私たち3人は少々意識が朦朧としてしまい、その隙を突かれてあきらさんは壁に叩きつけられてしまいました。

そしてかこさんはあきらさんのソウルジェムがある側の腕を、オオバサミで切り落としてしまいました。

「アアアアアアアッ」

「あきらさん!」

かこさんはその後いつも使っている武器を生成してあきらさんの右足に突き刺してその場から動けないようにしてしまいました。

「かこ!」

美雨さんの突き出した拳はかこさんの左腕に突き刺さり、食い込んで抜けない中使い魔たちが美雨さんの視界を遮ります。

視界が開けた頃にはかこさんはオオバサミの片方を大剣のように振り払い、美雨さんは両足を失ってしまいます。

聞くことがないと思っていた美雨さんの叫び声が響き、右腕も斬り付けられて動けない状態となりました。

かこさんはわたしに振り返り、オオバサミを閉じて鋭利な先端を向けて急速に向かってきました。

そうです、そのままくるのです。

貴方にはまだ、ソウルジェムを壊さない優しさが残っているのですから。

わたしは無抵抗のまま心臓部分をオオバサミに貫かれました。

痛みに耐えながらわたしはかこさんを掴み、グリーフシードをかこさんのソウルジェムに当てました。

薄い意識の中、伝えるべきことを伝えるために声を絞り出します。

「かこさん、聞こえますか」

「ななか、さん」

「手短に話します。
貴女のヒトを嫌いになってしまう思考は、自動浄化システムが広がった際にいずれどの魔法少女にも、訪れることです。なので、否定はしません」

「わたし、わたしは」

かこさんの手は震えていて、元の魔法少女姿に戻ったかこさんの瞳には涙がたまっていました。

「しかし、闇に呑まれて全てを否定してはいけません。いつもの貴女らしさ、大事にしてください」

「わからない、わからないですよ私らしさなんて!ヒトを助ける気がなくなった私に何ができるんですか!」

「何を、おっしゃっていますか。もう貴女は既に貴女らしさを闇の中でも見せているじゃないですか

「え?」

人嫌いならば、あの場面でちひろさんも無差別に殺していたでしょう。

しかし殺そうとしなかったことで確信したのです。まだかこさんから良心は消えていないと。

呪いが満ちた状態を途切れさせるためにはグリーフシードで呪いを取り除けば言葉を伝える間が生まれる。

うまくいって良かったです。

8割呪いを吸い取ったグリーフシードを投げ捨て、もう一つ取り出して話を続けます。

「ここからは貴女の心に従ってください。大丈夫です、私たちは信じています」

「ななかさん」

ぼやける視界には路地の片隅に立つ見慣れたシルエット。左側だけ髪を結っている魔法少女。

「あのとき巻き込んでしまったことを後悔しそうでしたが、私は正しかった。

このどうしようもない状況を、打破出来る。

だから、わたしはかこさんを!」

最後の力を振り絞ってかこさんを横に突き飛ばし、わたしの意識はそこで途切れたのです。

 

 

ただの路地裏となった場所に3つの宝石が砕ける音が響きました。

ソウルジェムがあった場所まで伸びている糸の根本を見ると、そこにはカレンさんがいました。

ななかさんたちはヒトだった姿になっていました。

わたしの頭にはある場所の映像が流れてきました。
ここは、中央区の電波塔?

「自動浄化システム、広げたいと思うならそこに来い。夏目かこ、お前の再現の力が必要だ。

協力的であることを祈っているよ」

そう言ってカレンさんは去りました。

死んじゃった。わたしのせいで、ななかさん、あきらさん、美雨さん。

わたしはこれからどうすれば。

そう思っていると、わたしの中である確信が芽生えます。

倒すべき存在は、日継カレン。

いえ、復讐すべき存在。

私の肩には、ななかさんの手があったような気がしました。

やるべきことが見えました。

わたしは、いえ、“私たち”は自動浄化システムを世界に広めた後、あの三人に復讐し、償ってもらいます。

もちろん、生きてもらいながら。

路地裏には、1人しかいないはずの魔法少女の気配が、なぜか4つあったのでした。

 

 

この日の夜になる頃には、各地で大きな動きがありました。

どれも日継カレンたちの思惑通り。

ニュースに流れたことも含めて魔法少女たちの衝撃だけには止まらず、人間社会にも大きな影響が出ていました。

神浜市にいると化け物に襲われて殺される。

もはやウワサの域を出て、ノンフィクションだという認識が広まって行くこととなったのです

わからない。

日継カレン、紗良シオリ、保別ピリカという魔法少女の情報がふーちゃんからも入ってこない

全ての魔法少女の怒りと嫌悪の矛先は3人の魔法少女に集中している。

負の感情だけが漂う神浜市ではもっと大きな災厄が訪れそうで、胸が痛くなってしまいます。

「アルちゃん、この事を記録しても意味があるのかな」

“あるんじゃないかな。何が起きたか知ってもらって、理解する。そこからじゃないかな、なにもかも”

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 3-4 自責の権化を前にして

いつからでしょうか。

私はよく、夢を見るようになっていました。

あの時の、私が初めて心の底から許せないと思ってしまった方が夢に出るたびに、あの言葉が頭に木霊するようになったのです。

「あたしはあんたの反対側にいるんだよ。
でもね・・・いずれこっちに来る」

サラサハンナ

マギウスの翼の一件で忘れたかと思いましたが、黒いオーラの魔法少女を見てきたせいなのか再び記憶が蘇ってきたのです。

「ホント、面白いことが絶えないね、この街は」

「失せなさい。今頃何をしにきたのですか」

「なーんか魔法少女って成仏できないみたいでさ、あの後ずーっとあんた達を見ていたよ。

ワルプルギスの夜ってやつが倒された時はくっそつまらねって思ってたけどさ。

黒いオーラの魔法少女!

人間ぶっ殺したくなるとか超楽しいことになってるじゃない!」

「・・・」

「まああんた達に協力する気はないんだけどさ。あんた達が探してる子、生きてはいるよ」

「なぜそうと言えるのですか」

「でももしかしたら“こっち側”になっちゃってるかもねぇ、真っ黒になっちゃってさ!
アハハハハハッ!」

私は頭にまとわりつくような声を振り払いました。

それと同時に目を覚ましたのですが、目覚めの気分は最悪でした。

今日は沢山の魔法少女が集まる大きな会議が行われる日でしたが、かこさんを探すことを優先し、私たちは欠席することにしました。

探す当てがあるからです。

私は1日をかこさんの探索に当てることとしました。

忘れもしない朝のニュース。

かこさんのご両親が殺されたこと、そしてかこさん本人は行方不明という内容を。

しかしかこさんは魔法少女で魔女の仕業だとしてもあのような結果で終わるはずがありません。

あり得ることとしては、シオリさん達が手を出すこと。

私はその可能性を考えながら町中を回りました。その中でよく耳に入るようになったのは、路地裏で刃物によって殺されている人が増えているという情報でした。

この情報を集めているうちにやちよさんからは会議が無事に終わったと通知が来ました。

感触は良好。しかし目的地への潜入は明日の夕方になるという内容がありました

明日は平日で普通ならば皆さん学校へ行く日となるため致し方ありません。この生活サイクルの違いでシオリさん達と差がついてしまったと言っても言い逃れできないでしょうね。

もちろん我々の捜索も明日の夕方から再開することとなりました。

しかし一度各々が集めた情報を整理するために再び集まりました。

「かこさんの足取りは掴めなかったようですが、気になることがあるそうですね、あきらさん」

「うん、実は情報収集中にパトカーや救急車の音が普段より多く聞こえた気がするんだよ。試しに現場に行ってみたら、どうやら路地裏で殺された人がいたとか」

「きっとそれ、南や東も同じ。蒼海幤に付き纏っていたゴロツキ、強硬手段を使うことで恐れられていた暴力団の一味が刃物で殺されていた現場を見たと聞いてるヨ」

「急に増えたとなると同一の要因であることを疑いますが、何時ごろ起こったかまでは把握できませんでしたか」

「流石にわからないよ。わかるのは死体が見つかるまで2、3日の間は空いていないってことくらいかな。教えてくれた人、昨日は何もなかったって言ってたし」

いつもであれば魔女の仕業と考えることはできますが。

「ななかはどうだた」

「かこさんの古本屋周辺で話を聞いたのですが、どうやら昨日の昼過ぎから夕方の間には既に古本屋の前に血痕と気絶した刃物を持った男がいたそうです。

近所の人が何事かとかこさんのご両親に聞くと、かこさんは通りすがりの男に刺された後、何処かに行ってしまったようなのです。

男はその後警察に捕まったそうですが、何も覚えていないそうです」

「じゃあ、かこちゃんは魔女の仕業だと思って飛び出してそのまま帰っていないってこと」

「まさか1人で挑んで」

「かこさんはそこまでやわじゃありません。何かトラブルに巻き込まれた可能性があります。明日は学校の用事が終わった後に再び捜索を再開するとしましょう

解散した後も私はあらゆる可能性を模索しました。

かこさんのご両親が殺されたことと神浜中で起こっている殺人事件が同一犯だとしたら。

残念ながら現在は魔女以外に黒いオーラの魔法少女が該当します。

魔女であれば魔力の痕跡が残るはずですが、2人ともにそれはないと言っていました。

黒いオーラの魔法少女であれば忍ぶことを知らないうえに無差別に殺戮行為を働くため、今回のようにピンポイントに、そして密かに殺人を行うことは考えにくいでしょう。

だとすると、犯行を行なったのは複数の人間、または魔法少女による犯行となるでしょう。

そういえば人を殺すことを躊躇しない方達に心当たりがありますね

憶測で疑うのは良くありません。

明日は路地裏や人目のつかない場所を捜索することにしましょう。

彼女達のアジトへの襲撃は、やちよさん達に任せることとしました。

「如何して1人に固執するんだい?常盤ななかっていうのは目的のためにあらゆるものや人を手段として扱うやつじゃなかったかい?」

手段として利用してきたことは認めましょう。しかしそれは思い違いです。

仲間を助けるために行動しているのです。

「らしくないねぇ。紗良シオリとかいう魔法少女達を抑えるチャンスを逃してまで仲間を助けるだなんて」

あなたには関係ありません。今回の件はかこさんを見つけなければあとあと取り返しのつかないことになるという予感がしているからです。

「焦ったいね。素直に言えばいいじゃないか、あの魔法少女をこっちの世界へ誘導してしまったという自責の念から来てるとね」

死してなお私に固執するあなたに対して理解に苦しみます。

「アハハハハハッ

私はあんたが作り出した幻影だよ。むしろ固執してるのはあんたの方だよ。

楽しみだねぇ、あの子、もうこっち側になっちゃってるかもねぇ。

アハハハハハッ!!」

私は今回の件に対して冷静な判断よりも直感で行動していたのかもしれません。

更紗帆奈の幻影が、直感で行動することに拍車をかけていたのかもしれません。

なぜ今になって、彼女が。

放課後になった頃には刃物のようなもので殺される変事件は報道に取り上げられるほど話が発展していました。警察も動いているようですが、中央区ではお昼ごろに死傷者が出たと騒ぎになっていました。

現在一番新しい死亡者情報は新西区に集中していることもあり、私たちは新西区の路地裏を重点的に調べることになりました。

曲がりくねっている路地裏の一角、そこには2人の女子高生がいました。

そのうちの1人は友人の写真を持って訪ねていました。

「知ってるよ、その子。あたしらの仲間が昼間に見かけたらしいんだ」

「その話、詳しく教えて!」

「いやいやいや、あんた蒼海幤のメンバーだろう?あたしらの仲間をシマを守るためとか言って結構痛みつけてくれたみたいじゃないか」

「それは、貴方たちが昔のようにヤクザ業で一般人も危険に晒そうとしたから美雨さんが止めに入っただけでしょ!」

「そうそう!その中華っぽい名前のすごい強い子。あいつにはあたしらに詫びを入れてもらわないといけないんだよねぇ」

1人の少女が指を鳴らすとどこに隠れていたのかわからない柄の悪そうな男が5人出てきました。

「やめて、そんなことをしている場合じゃないの!」

変に暴れるとこいつらが粗相をしちゃうかもしれないから大人しくしておいたほうがいいと思うよ」

男たちは写真を持っていた少女を壁に打ち付け、腹に対して2、3発拳を振ります。

殴られた少女はその場に跪いてしまい、そのままもう1人の男が顔に蹴りを入れました。

「ハンゴロシで済ましとけよ、交渉する前に死なれちゃ困るからな」

「生きてないと俺らも楽しめないしな!」

ゲラゲラと笑う少女と男たち。

しかしここは表通りまでは声もほとんど届かない場所で、誰もここの出来事を知ることができません。

「そこの女の子が何をしたというのですか」

誰も来ないはずの路地裏へ黒いフードつきのパーカーを着た少女が現れました。

「お嬢ちゃん、タイミング悪いとこだったな。来ちゃいけないとこに来ちゃうとか、悪い子だね。悪いけど、お兄さんたちについてきてもらうよ」

そう言って手を出してきた男は長柄の槍のようなもので貫かれ、血を吹き出しながらその場に倒れました。

「ヒトは誰も彼も希望を与えるほどじゃない人ばかりですね」

「なんだてメェ!お前らチャカ使っちまえ!」

「お、おう!」

男たちは忍ばせていた銃器を手に取りますが、黒いフードの少女は銃弾が放たれる前に手や首を素早く切り落としてしまい、路地裏に響いたのは男女の悲鳴だけでした。

「貴女は」

「私にはもう、構わないでください」

暴行を受けていた少女は黒いフードの少女に気絶させられ、その場に生きているヒトは気絶した少女だけでした。

鉄の匂いが充満するその場には3人の魔法少女が現れます。

「やっと見つけましたよ、かこさん」

 

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【マギアレコード】 神浜市年表(ストーリーまとめ) 下巻

時間遡行のその先
誰もが予想しなかった繰り返しの連鎖から外れた特異なレコード
それが”マギアレコード”
レールを外れたその内容は日に日に不安定さを増し、いつ壊れてもおかしくないほど不安定な溝が刻まれてゆく

マギアレコードには

・主人公「環(たまき)いろは」を中心にしたストーリー「メインストーリー」
・アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」5人に焦点を当てた「アナザーストーリー」
・各魔法少女に焦点を当てた短編ストーリー
・鏡の魔女の用意した結界で起きるストーリー
など数多くのストーリーが交差しています。そのため、どの話がどうつながっているのか、また、まったくつながりがないのかわかりにくくなっています。

ここでは、このわかりにくくなっているストーリーを年表としてまとめていきます。

☆4キャラのストーリーは、入手後に魔法少女ストーリーで確認を行うという調査方法のため、かなり後になってから明らかになるかと思いますが、ご了承ください。

※ネタバレについては気にしないという方のみ閲覧してください。

 

*caution*

この年表作成にあたり、マギレコ内で開催された季節イベント、コラボイベントはメインストーリーで触れられたもの以外記載しないことにします。

理由としては、メインストーリーの季節が不明であること(特にホーリーマミの「突然失礼」冬イベント)。季節イベントのストーリーは、IFの扱いとします。 下巻ではメインストーリースタート時点からの内容を扱っていきます。

 

  上巻(メインストーリーがはじまる前の過去)     

集結の百禍篇

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-16 スクエル者、スクワレナイモノ

フェリシアさんとあやめさんが黒いオーラの魔法少女へ突撃していきますが、それと同時に路地裏に倒れていた人たちが起き上がりました。

「な、こいつら生きていたのか」

しかし様子がおかしい。

というのも、起き上がった人たちの瞳孔は開きっぱなしで、少しだけ魔力反応が感じられました。

「一旦この人たちを安全なところに」

そう言ってあきらさんは無防備な状態で起き上がった人たちへ近づきます。

すると1人があきらさんの腕を力強く握り、口を大きく開けました。

「え」

「あきらさん!」

「アェヤアム!」

わたしは構わず腕をつかんできた人のようなものの頭をアペで切り飛ばしました。

それでもなお人だったものはあきらさんを力強く掴み続け、離そうとしません。

そのままの勢いで腕も切り落としましたが今だにそこへ立ち続けていました。

「何なんだよ、こいつら!頭吹っ飛ばされても動くってゾンビどころじゃねぇぞ!」

「どうやら魔力を注がれて死体が動いているようです。もはやあれらは人ではありません」

「あの黒いオーラの魔法少女、吸血鬼のような性質があるのかもしれません」

「じゃあ、この人たちはもう」

「気にすることはありません。すでに死んでいるんですから」

そう言って私は躊躇なくグールとなった人だったものを切り刻んでいきました。

皆さんは少し怯えた顔をしてその場から動いていませんでした。

「何やってるんですか!逃げられますよ!」

「は、すみません!」

「何だか頭ごちゃごちゃしてるけど、わかんねぇけどぶっ飛ばしてやる!」

「あちしだって!」

2人が勢いよく黒いオーラの魔法少女へ飛びかかりますが相手は素早く移動し、爪で抵抗してきました。

「動きが速い。動きを抑えるのも一苦労だ」

「壁を壊して行動範囲を狭めてください!」

「何言ってんだ周りは民家だぞ!」

「逃げられて死体が増えるのとどっちがいいんですか!」

「んあーもうわかったよ!」

「フェリシア?!」

思ったよりも躊躇なくフェリシアさんは壁を壊してくれました。

行き場を探して黒いオーラの魔法少女は上へ飛びあがりますが、その挙動を読んだのかあきらさんが攻撃を加えます。

回し蹴りを喰らった黒いオーラの魔法少女は強く地面に叩きつけられ、コロコロと地面を転がって動かなくなってしまいます。

「よしこれで」

かこさんが何かをしようとして近づきますが、黒いオーラの魔法少女は目をあけました。

「いけない!」

黒いオーラの魔法少女がかこさんをなぎ払おうとしますが、かこさんは素早く反応して攻撃を避けました。
なかなかよい反射神経です。

黒いオーラの魔法少女はそのまま飛び上がり、大通りまで出て行ってしまいます。

「まずい!あっちには一般人が」

すでに手遅れであり、人の悲鳴が聞こえてきました。

私はかこさんへ訪ねました。

「かこさん、助けられると話しましたがここまでしたあの魔法少女をまだ助けたいと考えますか」

「どういうことだよ」

「助けたところであの魔法少女はまだ生きたいと思えるのかという話です。言い方を変えれば、守る価値はありますかということです」

「そんな言い方!」

あきらさんは怒りをあらわとしていますがかこさんは。

「助けます!たとえひどいことをしてしまっても、立ち直ってもらいます!」

「かこ…」

わたしは真っ直ぐな力強い目で答えたかこさんを見て決心しました。

「わかりました。路地裏へあの魔法少女を投げ込みますので素早く対処してください。
この中に記憶に関する固有能力を持つ方はいますか」

「それ多分俺だ。だけど何をすればいいんだ」

「コネクトしていただくだけで構いません」

「…ちゃんとあいつを助けるんだろうな」

「助けるつもりですよ。魔法少女は」

しばらく沈黙が訪れました。

「ほら、手出せよ」

わたしが片手を出すとフェリシアさんは手を重ね、フェリシアさんの力が分け与えられた状態となりました。

「助かります」

わたしはそう言った後、瓦礫の向こう側の空間へと飛び上がって移動しました。

瓦礫の向こう側は黒いオーラの魔法少女が人を食い荒らす光景が広がっていて、グールとなったもの達も人を襲っていました。

これは魔法少女を助けるため、ただそれだけ。

「さあポンベツカムイ!その名に冠する濁流で下界と隔て、人ならざる存在達を飲み込め!」

三体のカムイが合わさって現れたポンベツカムイは多少何もされていない人を飲み込んで結界を作るように水の壁を形成させます。

濁流に飲まれた黒いオーラの魔法少女へポンベツカムイは勢いをつけて突進します。

その勢いで黒いオーラの魔法少女はかこさん達がいる路地裏へ勢いよく飛んで行きました。

大通りでは濁流に飲み込まれた人たちが水の中で燃える炎に包まれ、雷が結界の中心へ一つ大きく落ちると辺りは眩い閃光に包まれました。

この閃光にはフェリシアさんの記憶に作用するコネクトが反映されています。

もし記憶した内容にまで効果が及ぶのであれば、閃光を目にしたものはここ短時間に起きた記憶は真っ白に塗りつぶされるはず。

イメージとしては、日光を浴び過ぎた写真が色褪せるという現象に似た感じです。

フェリシアさんが作った瓦礫の山があること、黒いオーラの魔法少女が路地裏にいることでかこさん達は閃光を目にすることはないでしょう。

ポンベツカムイが暴れた大通りは水浸しとなっていますが、幸いにも衝撃で排水管が破裂したのかマンホールから水が溢れています。

不思議現象として大きな話にはならないでしょう。

焼かれた人だったものの遺灰も水に流されるので都合が良いです。

路地裏では大火傷を負った黒いオーラの魔法少女へかこさんが何かしていました。

なにかを振り払うようなアクションを起こした後、黒いオーラが取れた魔法少女がそこにいました。

「うそ、本当に取れてる」

「あ、ピリカさん大通りは落ち着いたんですか」

「はい、グールになった方々は殺してしまいましたが死体は灰になるまで燃やしたので一般人へ影響はないです」

「あれ、でも見てた人いたよね」

「それはフェリシアさんのコネクトを乗せた閃光で記憶を忘れさせたので問題無いです」

「え、俺のコネクトでそんなことできんのか」

「でもこの子をどこに連れて行こうか。今調整屋は不定期に開いている状態だし」

「ではわたしがどこへ連れていくべきかお教えしましょう」

聞いたことがある声の方を向くと、そこには魔法少女姿のななかさんがいました。

魔法少女の姿だと眼鏡かけないんですね。

「ななか、来るのが遅いよ」

「すみません、別件がありましたので。それで、この方は以前ももこさんたちを介抱した場所へ連れていきましょう」

「それって美雨さんのところですか」

「そうです。あの時は臨時に使わせていただきましたが、場所が破れてしまったということで私たちに限っては使用を許されています」

「私たち、というのは」

「以前も言いましたが、私達は神浜マギアユニオンに所属はしていません。組織で使いたいのであれば正式に申し入れをいただく必要がある、ということです」

吸血鬼のようなドッペルを使用していた魔法少女はななかさんとあきらさんが連れて行くこととなりました。

私はかこさん達と一緒に出会った公園へ戻ることになりました。

解散する前に、一言ななかさんから声をかけられました。

「ピリカさん、元気なようで安心しました」

「はい、あの時はありがとうございます」

「お礼なら時女一族の方々に伝えておいてください。それでは」

ななかさん達と別れた後、フェリシアさんがぼやき始めました。

「なんか何度あってもななかの感じには慣れないなぁ」

「表情をあまり変えないから、かな」

「あちしは全然気にしないけどね」

「あやめは鈍感だからじゃねぇの?」

「な!あちしの方がフェリシアより気が効くし!」

「それなら俺だってやちよ達に気をかけてるし!」

「あちしの方ができてるし!」

なんか知らないうちに意地の張り合いに発展していました。

それにしてもななかさんの引っかかるところは私にも思い当たる節があります。

実は黒いオーラの魔法少女が大通りへ出て行った頃からななかさんの反応はすでに感知できていました。

そう、あの一部始終をあの人は見守っていたのです。

観察を熱心にしている方と言えばそれまでですが、感情をなかなか変えないというところで裏があると考えてしまいます。

フェリシアさんもそんなところを気にしてしまうのかもしれません。

公園へ戻った後、かこさんへ黒いオーラの魔法少女を助けた方法について聞いてみたのですが。

「それについてはお話できません。方法を教えてもらった方から無闇に話してはいけないと伝えられているので」

「でも、たくさんの人が使えた方が良くないですか?」

「適正、のようなものがあるみたいで、私以外には扱えないものだと言われましたね」

「なんだか不便ですね」

方法は知ることができなかった。でも、助ける方法が少なくともあることは知ることができました。

後気になるのは黒いオーラを纏っていたというあやめさんの事ですが。

そう考えているといきなり目の前で緑がかった閃光が走り、そこには小さな魔法少女がいました。

「え、ういちゃんいったいいつから」

「えっと、うーんと、イメージしたらここにいた、です」

かこさんは少し首を傾げていたのですが、頭の上に大きなはてなマークが浮かんでいる感じがしました。

私も急な出来事で驚いてはいますが。

「うお!やっぱういじゃん!さっきいきなりそこに現れたよな!テレポートか?」

「え、なになにテレポート使えんの?」

「えっとね、そんな感じなんだけどそれが自由にできるのは私だけみたいで」

「は?なんじゃそりゃ」

「私にもよくわからないんだけど、灯花ちゃん達はできないみたいなの」

「どのみちわかんねぇ」

ういさん、はいろはさん達と一緒にいた方で確かいろはさんの妹さんだったような。

なんだか不思議なことに巻き込まれているみたいです。

「えっと、ご迷惑お掛けしました」

そう言うとういさんは黄緑色の光に包まれてその場から消えてしまいました。

「なんか灯花のやべー実験に付き合ってんじゃねぇの」

「でもテレポート、使えたら便利じゃん!かこだって黒いオーラの魔法少女へひとっ飛びじゃん!」

「うん、使えたらすごく便利」

突風のように去っていったういさん。何処かへ消えた瞬間に魔力は感じられませんでした。しかし見た目は魔法。

一体どういうことなのでしょう。

「ってやば!帰らねぇとやちよに怒られる」

「む、このは達が心配し出す時間かぁ」

「うん、みんな気をつけて帰ってね。えっと、ピリカさんってどこか泊まる場所があるんですか」

「いえ、私は日々野宿してますよ。廃墟とかそんな感じのところで」

「え!えっと、私の家は他の人を泊める環境はないし、えっと、えっと」

「気にしなくていいですよ!野宿とか慣れっこですから」

「でも」

まあ野宿してる魔法少女なんてこの国では少ないですよね。ある意味幸せな環境である証拠ではありますが。

「じゃあみかづき荘に来いよ。オレが案内するからさ」

「…え!」

フェリシアさん以外の魔法少女が声を揃えて驚いてしまいました。

「なんだよ、来ねーのかよ」

「いやいや、お言葉に甘えてお邪魔させてもらいます」

「よし!決まりだな!」

あれ、この展開はどこかであったような。

私はうきうきしているフェリシアさんの後についていくようにかこさん、あやめさんと別れました。

「なんだろうフェリシア、全く知らない人を家に誘うなんてらしくない」

「いえ、フェリシアさんは元から優しい方ですし、何も違和感はないですよ」

「うーん、やっぱりらしくない!」

優しいフェリシアさんに違和感を覚えているあやめさんですが、それよりも私はななかさんから聞いたピリカさんについての話が気になっていました。

「かこさん、ピリカさんが大通りでどう闘っていたかは見えていましたか」

「いえ、私は瓦礫に挟まれている上に黒いオーラの魔法少女を待っていただけなので」

「そうですか。では今後は彼女の立ち回りに気をつけてください。

ピリカさんは、“人を殺すことを躊躇しません”」

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-13 足かせとなる断罪の証

攻撃を放ったのとは別の魔法少女たちが私たちにドッペルを出しながら襲いかかってきます。

|三人はそこにいて、私が止めるから|

「私も戦う。5人を1人で相手なんて無理だよ」

「うい!無理だ!」

「大丈夫、私だって戦えるんだから」

電波望遠鏡を壊した魔法少女はその場でもがいたままで、他4人の魔法少女が襲いかかってきました。

ミラーズで見かける魔法少女とは違い、みんなドッペルを出したまま襲いかかってきます。

「ツバメさん!2人を守ってあげて」

攻撃するツバメさん、そして相手の攻撃に巻き込まれないよう灯花ちゃんとねむちゃんを守るツバメさん。

攻守の使い分けはだいぶできるようにはなってきたけど、自分を守る分のツバメさんを呼び出す余裕はありませんでした。

攻撃は最大の防御と鶴乃さんは言っていましたが、怯まない相手をする上では攻撃しても身を守れそうにありませんでした。

桜子さんも奮闘しますが、足や股関節、腕に傷を負っている相手のだれもが動きを止めません。

「この狂喜乱舞っぷりは、羽根たちを狂わせたとき以上の迫力だ。殺した方が早いという意見もわかるよ」

「絶対に、殺さないから!」

少し気を抜いてしまったのか両腕がヘビに変わっている魔法少女に足を絡めとられてしまい、私はそのまま地面に叩きつけられてしまいました。

私を守ってくれるツバメさんは、灯花ちゃん達のところにいるので、ダメージがそのまんま体に伝わりました。

入院していた頃には感じることがなかった打ち付けられるという痛み、体を起こそうとしても痛さのあまりに立ち上がることができませんでした。

|だめ、やめて!|

桜子さんの聞いたかともない大きな声に驚いて前を向くと、黒いオーラの魔法少女が鎌を振りかぶろうとしていました。

だめ、もう動けない

「うい!」

諦めて涙を流してしまった頃、聞きなれた声が聞こえてきました。

「アサルトパラノイア!」

前方は真っ白な霧に包まれ、桜子さんが押さえていた他の魔法少女みんな揃って苦しそうに倒れていました。

「みふゆ!」

「間一髪でした。彼女たちが教えてくれなければ間に合わなかったでしょう」

みふゆさんの後からついてきたのは、おでこが広めの赤いドレスを着た魔法少女と、マギウスの翼のローブを着た人たちでした。

「あなたは確か、何度もわたくしたちを勧誘してきた安積はぐむ」

「間に合ってよかった。大切なあなたたちを守れた」

「気を抜いてはいけません。もう皆さんは起き上がろうとしています」

「あなた怪我してますね。気休めですが、動けるようにはなると思います」

そう話しかけてきたローブを羽織った魔法少女が私に手をかざすと体の痛みが取れて、少しだけ傷も治りました。

「ありがとう!」

「今目の前にいるのはマギウスの翼のメンバーだ。君たちは何か知っているかい?」

「私たちが勧誘したら襲われて、みんなボロボロになって、時雨ちゃんたちが連れて行かれて。そしたら、あんな姿に」

「ぐぁ!」

話している間も応援に来てくれた元マギウスの翼の人たち、みふゆさん、桜子さんが黒いオーラの魔法少女と戦っていました。

「桜子でも手に負えない相手だ。君たちでは逆に殺されてしまうよ」

「私、信じたい。あのペンダントの時みたいに狂ってても、時雨ちゃんは答えてくれる」

そのままはぐむさんは重そうな大剣を持って電波望遠鏡を破壊した魔法少女へ一直線に近づいて行きました。

「うい、わたくしたちはここから離れよう。今じゃ何もできないよ」

「放っておけないよ!それに今逃げちゃうと、この後も逃げ続けることになっちゃう!」

「わたくしはどうなってもいい。でも、ういとねむだけでも逃げてよ!」

「さっきから灯花ちゃんらしくないよ!」

「わたくしだって限界なんだよ!お気に入りの場所が壊されて、何もできなくて、冷静でいられるわけないじゃない!」

感情を爆発させた灯花ちゃんからドッペルが出現して、マッチが一本擦られると擦ったマッチを灯花ちゃんは乱戦の場所を指し示しました。

するとその場が一瞬浮かび上がり、中心地で大きな爆発が起きました。

「灯花!みふゆたちを巻き込むってどういうことだ!」

爆発の後には、傷だらけになった魔法少女たちの姿がありました。

「殺しちゃうしか、最適解は無いからだよ」

灯花ちゃんはその場で泣き崩れてしまいました。

「爆発に巻き込まれたときはどうなるかと思いましたが、私たちへの被害は抑えるよう努力はしてくれたみたいです」

みふゆさんがそう言いながら立ち上がると、他の魔法少女も、桜子さんも立ち上がっていました。

「爆発なのに、一部だけ被害を抑えるなんてできるの?」

「灯花のドッペルの特性はよく知らないけれど、本人の望みが反映された結果じゃないかな。無差別に巻き込もうとしなかったのは評価できるよ」

「そんなの、慰めに、聞こえない」

はぐむさんは起き上がると倒れたままの黒いオーラを纏った魔法少女に語りかけていました。

「時雨ちゃん、お願い、元に戻って!

私たちの理想は遠くなっちゃったけど、今のままじゃいけないよ!元に戻って最初からやり直そう」

周りを見ると、血だらけでローブもボロボロなのにまだドッペルを出して戦おうとしている魔法少女たちの姿がありました。

「まだ立ち上がるのか」

「これじゃあ、私たちが保ちませんよ。はぐむさん、離れてください!」

「嫌です!殺して救われるなんて嫌!やっと同じ想いの子に出会ったのに、一緒に頑張ろうって歩き出したのに、惨めな思いをしたまま終わらせたくない

きゃっ!」

はぐむさんは突き飛ばされた後、周りのドッペルから攻撃を受けてしまいました。

はぐむさんは傷だらけのままその場に倒れています。

そしてはぐむさんを突き飛ばした魔法少女はそのまま灯花ちゃんたちの方へ頭から出ているドッペルを向けました。

|だめ、あれを撃たせては|

桜子さんが止めに入ろうとしますが、ドッペルたちの攻撃で近づけませんでした。

動けるのは私だけ。

私は灯花ちゃんたちの前に立ってツバメさんを何重にも重ねて壁を作りました。

「ういさん、無茶です!」

「無茶でもやらなきゃだめなんです!」

「時雨ちゃん、やめて!」

グァアアアアア!

時雨さんという魔法少女は恐ろしい叫び声を出しながらドッペルの攻撃を放とうとしています。

2人を守れるならそれで。

攻撃が放たれ、目を瞑っていましたが、風しか伝わってきませんでした。

前を見ると、目の前には緑色の円形の壁が現れていて、ドッペルの攻撃は防がれていました。その後、大きな閃光が広がり、しばらく前が見えなくなってしまいます。

やっと周りが見えるようになったときには、黒いオーラの魔法少女の姿はなく、体が爛れて血だらけの魔法少女たちの姿がありました。

「黒いオーラが消えてる」

「時雨ちゃん、ああ、このままだと怪我が酷くて死んじゃうよ!」

「そう簡単に死にはしないはずです。少し離れた場所に廃墟があるのでそこで一度安静にさせましょう。その後、治療が得意な魔法少女を集めます」

「「はい!」」

元マギウスの翼のメンバーは、瀕死の黒いオーラを纏っていた魔法少女たちを連れて行きました。

はぐむさんは連れて行く前に、私たちの方に来て大きく頭を下げました。

「ごめんなさい!皆さんに迷惑をかけてしまって!」

「頭を上げて。君たちはどちらかと言うと被害者だ。悪いのは君たちじゃない」

「でも、大事なものを壊してしまったから。時雨ちゃんが元気になったらまた謝りにきます。すみませんでした」

そう言うと、はぐむさんは時雨さんを抱えてみふゆさんたちが向かった方向へ消えて行きました。

「あのはぐむって子、望遠鏡を破壊した時雨と一緒にマギウスを再興しようと何度もわたくしたちに会いに来ていたんだよ。
しばらく来ないと思っていたら、こんなことになるなんて」

「しかし、なぜ黒いオーラがとれたのかが謎だ」

「まったく、要人を守ると次元がおかしくなるんだけどね」

聞き慣れない声の方を向くと、薄紫色の髪をした、白い服を着た人がいました。

「あなたは、誰ですか」

「場所を移しましょう。そして用件は手短に」

そう言うと女の人は槍を呼び出し、コツンと地面を槍で小突くと、私たちの周りに緑色の縁が現れました。

「あの攻撃を防いでくれたのって、もしかして」

光に包まれると、私たちは別の場所にいました。

一瞬で場所が変わってしまったようです。

あたりを見渡すと、長い間いた病室にいることがわかりました。

病室内はきれいに片付いていましたが、空の色が紫っぽくて不気味です。

「一瞬でぼくたちを転移させたのか。魔法少女ではないようだが、君は何者なんだ」

「私のことはつづりと呼んでください。そしてあなたたちにお願いがあってきました、この神浜にしかいられない魔法少女たち」

「この神浜にしか、いられない?」

「本来ならば存在しないはずのあなたたちがいる時点で次元が不安定になっているわけですが、今回は生きてもらわないと困るのでここへ連れてきました」

「聞きたいことは山ほどあるけど、黒いオーラの魔法少女を止めたのはつづりさんでしょ。そして黒いオーラをとってくれたのも」

「察しがいいですね。私は黒いオーラの取り方を知っています。そしてその方法を、柊ねむ、あなたに習得してもらいたくてきました」

「ぼくに魔法少女を救う方法を授けると言うのかい。しかしなぜぼく限定なんだ」

「私が使用する力はあなたたちの次元でいう魔力とは別の媒体を要求します。その仕様を別の世界の法則下で使用するとなると再現や具現といった方法しかないのです。
あなたが具現の力を使えることをすでに知っています。なので、力を具現化しやすいよう、軽い物語として巻物へ綴りました。
その内容をベースに具現化してもらえると黒いオーラの魔法少女を救う手段を習得できます」

巻物の内容を見ると、技の名前は「縁切り」と言い、呪いを運ぶ悪い縁を切ることができるようです。

「目に見えない縁で呪いを送り続けるなんて、絶対気付けないよ」

ねむちゃんは丁寧に巻物を丸めて紐で閉じ、膝の上へおきました。

「粗悪な物語だが、今までのぼくであれば具現は造作のないことだろう。

だが生憎、今ぼくは魔法少女になることができない」

「救う手段を手に入れて、なおも過去の断罪にこだわって罪を重ねるのですか」

「これはわたくしたちなりのけじめなんだよ。それに次元がどうとか言っているし、ねむが具現の力を使えるのを知っているし、もしかしてあなたは異世界の人なのかにゃ?」

「想像にお任せします。が、変に探ろうとすると命は保証しませんよ」

みんな何も不思議に思わずそのまま話を続けていますが、異世界な考え方に私はついていけていません。とりあえずねむちゃんが今の神浜を救える力を教えてもらったってことは理解しました。

そういえば、ここからどう出ればいいんだろう。

「あの、私たちずっとここに閉じ込められたままなんですか」

「まさか、あの扉へ触れてもらって、行きたい場所を念じると気づけばその場所へ移動できます。また、ここへ戻ってきたいと念じればここに戻ってくることができます」

「万年桜のウワサで今どの座標にいるかわからない?」

|検索してもどの座標にも該当しない。里見メディカルセンターにいるというわけでもないみたい|

「完全に異空間か、驚いたよ」

「外部とアクセスはできますが、外に出ることはできません。外に該当する空間に侵入してしまうとここに戻されます」

「なるほど、ぼくたちを外に意地でも出させないと言うわけか。アリナでもないのによく複雑な結界を作れたものだ」

「ここにいても暇でしょうし、ここから外に出る方法でも探ってみてはどうですか。きっと楽しいと思いますよ」

「わたくし的には、黒いオーラの取り方を知っているあなた1人で神浜中を駆け巡ってくれればいいだけだと思うんだけど」

「私たった1人ができたところで1人救った間に別の誰かがこの世を去ります。それを防ぐために使える人は多い方がいいと思うのですが」

「黒いオーラの魔法少女は少ないと聞いている。そこまで苦労することはないと思うが」

ねむちゃんの話を遮るように背中を見せていたつづりさんは槍で地面を小突き、ねむちゃんの方へ振り向きます。

「ならば全て他人に任せてここで悠久に過ごすといいでしょう。それが望みと言うならば」

「な!」

そうつづりさんが言うと、桜子さんのそばへ近づいて何かささやいていました。

小声だったのでなんと言っているのかはわかりませんでした。

「それでは失礼しますね」

「あ、待て!」

しかし待たずにつづりさんは黄緑色の粒子に包まれて消えてしまいました。

「もう、言いたい放題言って消えちゃったよ」

「あの、2人ともなんで平気に話についていけたの?」

「異世界から来たって言われても、キュゥべぇも地球外生命体だし全然驚かなかったよ。もし地球を助けに来た宇宙人だとしたら、とってもワクワクしない?」

「灯花はそれでいいとして、ぼくは一方的に大きな力を渡されてしまって困惑しているよ。魔法少女になれないという制限は償いのはずだったのに今となっては足かせとなってしまっているのがなんともいえない気分だよ」

灯花ちゃんたちがつけている腕輪は桜子さんによって管理されています。

ねむちゃんは産みの親が不正を侵せないようにウワサへ役目を書き換えられないような仕組みを作っていると聞いています。

きっと腕輪を壊そうとしても、桜の下で行った裁判の時のように襲いかかってくるのかもしれません。

どうするのが、一番いいのだろう。

助ける方法があるのに使うことができないなんて、お姉ちゃんに伝えたらなんていうんだろう。

今回の出来事をみんなに教えようか、悩んでしまっている私がそこにいました。

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-12 ウワサは怖さを運んでくるサ

わたしはいつも、誰かに守られてばかり。

お姉ちゃんが魔法少女であると知った時、あの時に願った理由はお姉ちゃんを守るためだった。

なのに、結局守られてしまった。

今も、少しは戦えるようにはなったけど何をやるにも誰かの背中を追うばかり。

何かやってみようと動いても、危ないからと止められる日々。

今神浜で起きているという出来事も、私は全部を知っているわけではないし、誰も教えてくれない。

お姉ちゃんへ無理を言って参加した集まりで初めて知ったことも多かったです。

黒いオーラの魔法少女がいると知って、その対策方法が、殺してしまうしか方法がないだなんて。

悲しすぎる。辛すぎる。

私はいち早く灯花ちゃん達の意見を聞きたくて、お忍びで北養区に来ています。

お姉ちゃん達は中央区の見回りと忙しそうですが、私には外出を控えるようにしか伝えられていません。いても経ってもいられず、飛び出してきてしまいました。

今日は北養区にある電波望遠鏡に灯花ちゃん、ねむちゃん、桜子さんがいると電話で事前に確認をとっているため、確実に会うことができます。

山奥にある電波望遠鏡の建物へ入るといつものように難しそうな機械に囲まれた灯花ちゃんとねむちゃんがいました。

しかし何かお取り込み中のようです。

「なんだかみんなわたくしに冷たい感じがするんだよ」

「因果応報なだけだと思うけど。とはいえ、何も成果が出ていないのが大きな原因ではないかと思うよ」

「分からないものはわからないんだもん!いろいろ試してみても干渉できないし、何も掴めないんじゃ、お手上げだよね」

世の中には科学では証明しようもない現象というのは多く存在するもしかしたら自動浄化システムもそれに該当するのかもしれない」

人間は科学を発展させてきたことで不可能だと思われることを成し遂げてきたんだよ。いまある科学技術だって飛躍的に発展しているし、きっかけさえ見つければすぐだよ」

「そのきっかけが魔法少女である可能性もなくはない。不可能を可能とする存在は、今のところ魔法少女しかいないと思うよ」

「なら、誰か自動浄化システムを観測できるよう願っちゃえばいいんだよ」

「そんなこと考えるから冷たい目で見られるんだって」

なんか怖いことを灯花ちゃんが考えている瞬間を目撃した気がします。

まさか本当にやろうとしないよね。

|うい、そこにいるの?|

「あ、うん、いたよ」

「うい、来てたんだ。来ていたなら遠慮なく入ってきたらいいのに」

「えへへ、何だか会話に入りにくくて」

わたしは3人に黒いオーラの魔法少女について話しました。

話していて驚いたのは、2人が魔法少女のSNSでも展開されていたこの話題を全く知らないという事実でした。

「SNSっていっつもくだらない話題だらけだからチェック自体していなかったんだよ。たまには重要な話題も出るんだね」

「チェックを全くしていない人はともかく、ぼくはちょうどチェックしていないときに挙がった話題みたいだね
しかし、ドッペルを出し続けるというのはおかしい」

「そうだにゃ、ドッペルを出せばソウルジェムは浄化される。これは紛れもない事実だよ」

「でもななかさんや実際に目にした魔法少女のみんなは、何度でもドッペルを使ってきてきりがないって話だよ」

「少なくとも自動浄化システムの異常動作ではないね。もしエラーが起きているのであれば、今頃もっと該当する魔法少女がいてもおかしくないからね」

「じゃあ、どうすればいいかわかるかな」

「ドッペルが出続けるってことは、ソウルジェムが浄化された後に、間髪なく呪いが満ちてしまうっていう現象が起きているはず。

でもそんなことは通常ありえない。

あるとすれば魔女の仕業か、同等の存在である魔法少女の仕業としか考えられないね」

「原因として有力なのは黒いオーラじゃないかな。ドッペルを出した後も残り続けるんだろう?」

「うん、なくなったっていう話は聞いてないよ。
でも魔法少女が他の魔法少女へ酷いことをしているだなんてあまり考えたくないなぁ」

「ぼくたちにはその前科がある。それに魔法少女を襲うことを娯楽としている魔法少女がいたとしてもおかしくはない。元が同じ人間だからね」

こう話している間、灯花ちゃんは何か考えている様子でした。

それにしても今ある解決方法が魔法少女を殺す方法しかないだなんて」

「みんないろいろ試しているみたいだけど、全然解決策が見つからないんだって。だからわたしは灯花ちゃんやねむちゃんの意見を聞きたいなって思ったの」

一番早いのは肉体からソウルジェムを遠ざけることだと思うけど、これはソウルジェムがわかりやすいところにある魔法少女にしかできないよね」

「遠ざけたところで解決には至っていない。原因が判明するまでの間、持ち主の肉体の維持は誰がするっていうんだい。
とはいえ、すぐに殺してしまうよりはマシだね」

「黒いオーラ、一体なんなんだろう」

「聞くより見るが易しという言葉もあるし、どんな状況か実際に見た方が早いかもしれない」

「でも危険すぎるよ」

|いろはも無闇に外に出てはダメって言ってた。外へ調査に出るのは賛同しかねる|

「もう、だったら黒いオーラの魔法少女を連れてきて欲しいにゃ」

「外に出るのと状況が変わらないよ、それ」

そう話していると、近くで複数の魔法少女の反応を感じました。

ただの反応ではなく、苦しそうに泣き叫んでいる感覚が伝わってきました。

「みんな、苦しそうな反応」

「うい?」

|強力な熱源感知。ここから出よう!|

「まさか狙われてるの?!」

私と桜子さんで車椅子とねむちゃんを運び、外へ出ました。

外へ出ると同時に電波望遠鏡に何かが撃ち込まれてしまい、建物内は爆発して炎に包まれました。

そして金属が擦れる嫌な音を立てながら、望遠鏡本体が倒れ、壊れてしまいました。

「そんな、わたくしのお気に入りの場所が。

だれ!こんなことしたのは!」

攻撃が放たれた先にいたのは苦しそうな顔をしたドッペルを出し続けている魔法少女がたくさんいました。

「黒いオーラの、魔法少女」

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-11 煌道は縁切りから始まる

ドッペルを出し続ける魔法少女について周知したは良いものの、対処法は分からずじまい。

神浜で魔女にならない環境を作り上げた元マギウスの方達でもわからないとなってしまったら、たった一つの辛い選択しかなくなってしまいます。

保別ピリカという魔法少女が十七夜さんの心を読む能力を受けた影響で体にダメージを受けるという騒動が起き、わたしは時女の皆さんの後を追って調整屋へと向かっています。

何が起きたのかを理解するためと、十七夜さんへの誤解を解くのが目的です。

これをきっかけに貴重な方との協力関係を破棄されてしまうというのは現状避けなければなりません。

カレンさんやシオリさんと同じような魔力を感知させない能力の持ち主。

彼女たちとは全く無関係だと考えられないと、わたしの直感が言っています。

確かめなければなりません。

見えない出口の光となるかもしれませんからね。

調整屋に到着しましたが、中にはみたまさんがいない状態でした。

いないとはいえ、戸締りをしていないとは。本調子ではないと言っていましたが十七夜さんといい、どこか不安定になっている印象を受けます。

調整屋への襲撃がここまで影響してしまうとは。

時女さんたちは揃ってピリカさんを見守っていましたが、ピリカさんは眠ったままです。

何もせず黙っているわけにはいかないので、彼女たちへも誤解を解いておかなければなりません。

「十七夜さん、ピリカさんへ怪我を追わせてしまった方ですが、本来ならばあのようなことはしません。本人も悪気はなかったはずです」

「うん、あの人から悪意は感じなかったからそうじゃないかなって思ってた

「でも心を読もうとしただなんて、一体何が目的だったのでしょう」

そうです。彼女たちは神浜で起きている異変について深く理解しているわけではありません。

わたしはこれまでのことの顛末を説明し、本人たちへ今後のことについて聞きました。

「今この街の魔法少女にとって日継カレンさん、紗良シオリさんは共通の敵となろうとしています。神浜の外のあなたたちは無理して付き合う必要はありません。判断はお任せしますよ」

「魔女にならない仕組みを広げる方法を知っていたとしても、やっていいことと悪いことがあります。国を守ろうとする魔法少女と敵対する存在ならば、私たちも一緒に戦います」

日の本、国と彼女たちは私たちよりも大きな使命、いや、目的を持っているようです。

それ故に魔法少女のあり方を誤解している可能性が感じられます。しかしここで打ち明けることでもありません。

今は気にしないでおきましょう。

「ななかさんって神浜マギアユニオンの一員なんですか。リーダーである環さんよりも中心的な立場の方に見えたので」

「わたしは神浜マギアユニオンに加わってはいません。あくまで協力関係であり、ここ最近は危険な状況が続いているので関与したまでです」

「そうだったんですか」

「しかし神浜の魔法少女と共闘するとなると、黒いオーラを纏った魔法少女を殺すことになるかもしれません。覚悟はしていますか」

「ここだけの話、わたしは何人も魔法少女を殺してきた前科があります。躊躇しないと言えば嘘になりますが、いざとなれば殺す覚悟はあります」

「すなお」

「静香やちゃるが出来なくても、わたしがやります」

時女一族、きっと今のような出会い方ではなければ同盟を持ちかけていいほど素晴らしい方達です。しかし無理強いはできませんね。

「出会ったら必ず殺さなければいけないわけではありません。人へ危害を加える様子がなければ、無理せず引くことも考えておいてください」

こう話している間もピリカさんは目を開けません。脳内にダメージがいっているはずなので少々不安です。記憶などの機能に障害が起きていたら、聞きたいことも聞けないでしょうから。

「そう言えば、ななかさんって」

[ななか、聞こえる?調整屋にいるの]

[あきらさん、どうしましたか]

[美雨が黒いオーラの魔法少女を見つけたって]

[分かりました。調整屋の屋上で落ち合いましょう]

[了解!]

他の方達の手を汚さないための方法、私たちが早期発見し、対処するしかありません。

「すみません、急用ができました。先ほどのお話の続きはまたの機会で。
それでは、ピリカさんをお願いします」

「わ、わかりました」

調整屋の屋上へ出るとすぐにあきらさんの姿が見えました。

「かこさんへは?」

「もう伝えていて、今美雨のところに向かっているよ」

「そうですか。それで、場所はどこですか」

黒いオーラの魔法少女がいるのは南凪区。美雨さんは蒼海幇の拠点にいる際に気づいたらしく、本人自身、蒼海幇へ被害が出る前に対処したいと考えているでしょう。

西から南へ時間はかかりましたが到着し、発見場所には美雨さんとかこさんがいました。

「おまたせしました。それで、黒いオーラの魔法少女はどこに」

「その前に魔女の対処が必要ヨ。あの路地裏の先に隠れているようネ」

微かにですが、魔女の反応が感じられました。

「悪いが、魔女を優先したいヨ。ここは蒼海幇の拠点(シマ)の近く。放っておくわけにはいかないヨ」

「いいでしょう。魔女を迅速に倒し、黒いオーラの魔法少女を追います」

私たちが魔女の結界へ入るとそこには異様な光景が広がっていました。

「結界に戦った後がありますね。もうすでに誰かいるのでしょうか」

「でも、魔法少女の魔力は感じませんよ」

「まさか、奴らのうちの誰かが」

「慎重に進みましょう」

全くと言っていいほど使い魔の姿がありませんでした。布と糸で出来たような結界も所々がほつれています。

魔女の反応が強くなり始めた頃、魔女の前に立つ人の姿がありました。

「魔法少女じゃないようですね」

「早く助けましょう!」

「いえ、様子を見ましょう。もしかしたら、あの方がここまで使い魔を倒してきたのかもしれません」

「魔法少女じゃないのにそんなことが」

魔女に立ちはだかる少女は、槍をその場で出現させ、周囲に黄緑色の輪を纏いながら人とは思えないスピードで魔女へと迫り、攻撃を加えていました。

神浜の中では硬い個体が多い羊の魔女が相手ですが、彼女が繰り出す攻撃は羊の魔女を怯ませていました。

魔女へとりついて槍で斬りつける少女に対して魔女は魔力の玉を周囲に発生させ、少女を引き離そうとします。

少女は飛んでくる球を弾くのではなく、槍と体の角度を少し変えるだけで受け流して対処していました。

「硬いなぁ。これで決めるか」

そう囁いた少女は矛先に溜まった魔力のような何かを魔女へ放ち、当たった魔女にはマスカット色の正方形が形作る輪が発生しました

着地した少女が槍を構えると魔女へと一直線になるよう黄緑色の光の柱が立ち並びました。柱は私たちの前へも現れ、閉ざされた出入り口まで続いていました。魔女は前方へとしか逃げられない状態となりました。

羊の魔女は大体の個体がその場から動こうとしませんが、中には頻繁に結界内を転がり回る個体もいると聞いています。

今回の個体は動こうとする意思があるらしく、体を丸めて少女へと突進して行きました。

少女は高く飛び上がり、転がり続ける魔女の背後へと着地しました。

魔女は光の柱を崩して反対側を向うとしますがびくともせずにその場へ留まっています。

魔女に隠れて見えない状況でしたが、一瞬のうちにとてつもない強風が発生し、思わず目を瞑ってしまいました。

目を開けると動けなくなっていた魔女には大きな穴が開き、光の柱は粒子となって消えて行きました。

崩れていく魔女を見届けた後、閉ざされた出入り口前には少女が立っていて、崩れた魔女の残骸が彼女の右手の平と集まり、グリーフシードとなりました。

わたしは驚きなのか、それとも別の感情を抱いていたのか体が拘束されたように動きませんでした。他の皆さんも、少女を見ながら固まっていました。

魔女の結界が消えると、少女がこちらへと振り向きました。

「やっと見つけましたよ、夏目かこさん」

かこさんを知っている?

「かこちゃん、この人とどこか出会ったことあるの?」

「い、いえ」

わたしは少女と3人の間に入り、少女に対して問いかけます。

「あなた、魔法少女ではありませんね。それなのに魔女を倒せるその力、何者ですか」

「わたしはそこらへんの一般人ですよ」

「一般人はそんな奇抜な服を着ないと思うんだけど」

薄紫髪の少女は巫女服のような見た目ですが、胸部は明日香さんの魔法少女姿のようにさらしだけしか巻かれておらず、上半身は肌率が高めです。下半身は短パンと靴を履いているだけで上半身から下半身まで続く布を纏っているだけ。

あきらさんの言うとおり、一般人にしては露出が激しすぎる見た目です。

「戦いやすいから仕方がないね。そうそう、わたしのことはつづりって呼んでおけばいいよ」

「何か含みのある言い方ですね」

「それより、私には夏目かこさんに用があるんです」

「わたし、ですか」

魔法少女でもないあなたがかこさんに何の用があるのでしょうか」

「少々誤解されるかもしれませんが、伝えておきましょう。

わたしは、黒いオーラの魔法少女を救う方法を知っています」

この言葉の響き、紗良シオリさんの時と同じ雰囲気を感じてしまい、思わず武器を構えてしまいました。

「まあ、日継カレンや紗良シオリの件があってこう伝えられても警戒するだけだよね」

「お二人を知っているのですか」

「神浜の事情を知っているて言うのが正しいかな」

魔法少女でもないのに、と言う事項がつづりさんから溢れてくるようにでてきます。

シオリさんやカレンさんたち以上に素性が読めない方です。

「かこさんには、わたしの使う技を再現できるようになってもらいたいんです」

「再現、ワルプルギスの夜と戦った際に使いましたが、でも、何で知ってるんですか。わたしが再現の力を使えるって」

つづりさんへ突き詰めて質問しようとしましたが、背後から魔法少女の反応が近づいてきました。

3人の魔力を感じましたが、その姿を見た時、私たちは悲しみに包まれました。

黒いオーラの魔法少女であることに間違いはなかったのですが、その姿はももこさん、レナさん、かえでさんでした。

「かえでちゃん、そんな」

「いいタイミングです。皆さんの前で彼女たちを救う瞬間を見てもらうとしましょうか」

「待ちなさい。救うというのは、命を奪うことではないのですよね」

「誰が殺すって言いましたか」

3人は一斉にドッペルを出してこちらに攻撃を加えてきました。

目の前に黄緑色の結界が現れ、それが攻撃を防いでいました。発生させたのはどうやらつづりさんのようです。

「ここは任せてください、そして何をしたのか見ていてください。特にかこさんは!」

あまりにも無謀に見えました。

魔法少女から見ても1人のドッペルに苦戦するというのに、際限なく出続けるドッペルを3人分対処するというのは。

何をする気なのは見当がつきません。

「ななか、無茶だよ。加勢しようよ」

「加勢と言っても、あの状態にどう私たちが対処できますか」

あきらさんの言うとおり、加勢すれば少しはつづりさんの負担は減るかもしれません。

しかし目の前で繰り広げられていたのは三次元的に四方八方から来る攻撃へ見えないスピードで対処しているつづりさんの姿でした。

「半端に手を出しては邪魔をするだけです。今は見守り、撤退する体勢だけは取っておいてください」

そんな中、かこさんは食い入るように戦いを観察していました。

果たして、黒いオーラの魔法少女を止める解決手段はかこさんに再現できるものなのか。

これは見極める必要があります。

戦闘の様子はというと、ももこさんのドッペルが放つ攻撃がつづりさんが発生させた黄緑色の正方形が無数に集まって形成された円へ吸い込まれ、かえでさん、そしてレナさんへと降りかかるよう別の円から放出されていました

かえでさんのドッペルが放つ範囲攻撃はつづりさんが手放した槍が彼女の前で高速回転し、その回転によって円が形成されていました。

槍はドッペルの攻撃によって消滅したかに見えましたが、粒子状態となってつづりさんの手に集まり、元の形へと戻りました。

手元に武器が戻ったかと思うと今度は槍先から黄緑色の小さな円が放たれ、その後は槍をももこさん目掛けて投げてしまいました。

投げた槍の石突き部分はつづりさんの手元に残り、そこから先は黄緑色の鎖が石突きと柄の部分がつながる形で飛んでいきます。

ももこさんは回避しましたが槍は円の先へと飛んでいき、槍先から放たれた円が当たった地面から槍先が飛び出してきます。

少し視野を広く見ていると3人を囲むように円が宙にいくつも浮いていてその円を通して三次元的に槍が飛び交っています。そのまま3人を縛り上げるように黄緑色の鎖が絡まり合い、3人は一ヶ所に固められました。

見た目は空間移動を応用したような見た目ですが、無数の空間結合を制御するのはベテランの魔法少女でも無理でしょう。

3人からはドッペルが一斉に出て左手に槍を持つつづりさん向かって一緒のタイミングで攻撃しようとします。

つづりさんが石突きを地面へつけると3人の四方八方へ黄緑色の円が出現し、構わず攻撃した三体のドッペルの攻撃は円を通って反対側の円から放たれ、貫通した攻撃が、また別の円を通って放たれたりと、見ただけで放たれた攻撃が3人へ無限ループするように降りかかり続けることはわかりました。

攻撃の中心地にいる3人からは獣のような悲鳴が聞こえてきました。

「あれじゃ3人とも死んでしまうよ」

「つづりさん!そこまでにしてください、いくらなんでも3人の身体が保ちません!」

つづりさんは石突きを地面から離すと素早く3人の周囲を走り回り、時々地面へ槍を突き立てていました。

突き立てた後、何か糸のようなものが見えた気がしました。

「何かを切った?」

かこさんは、確かにそう呟きました。

糸のようなものを切ったのは間違いないのかもしれません。

つづりさんが動きを止めると3人を囲っていた円も、縛り続けていた鎖も消えていました。

3人はというと身体中傷だらけでしたが、変身が解けてその場に倒れ込みました。

私たちは急いで駆け寄り、ソウルジェムが無事であることを確認しました。

「本当に、3人を救えちゃったの」

「聞くより見るが早し、とは言いますがこれで救う手立てがあることは理解いただけましたか」

あなたが黒いオーラの魔法少女を助け出せることは理解しました。しかし、あなたは何者ですか」

「技の再現をしてもらうため、明日また伺いますね。3人へ重傷を負わせてしまったことはご容赦くださいね」

そう言って質問に答えず路地裏を挟む建物の上へと姿を消してしまいました。

「後を追うカ?」

「いえ、まずは3人を安静にできる場所へ運びましょう」

「なら蒼海幇が使っている空き部屋を使うといいネ。皆には話をつけておくヨ」

「ありがとうございます。皆さんで手分けして運びましょう」

あの無限ループするかのような攻撃の中、擦り傷切り傷だけで済んだのはドッペルの影響なのかそれとも。

3人はその日のうちに目を覚ますことはなく、3日経った頃に目を覚ましたそうです。

その間につづりさんは私たちの前へ何度も現れ、何人もの黒いオーラの魔法少女を相手にしているうちに、ついにかこさんはつづりさんの技を再現できてしまいました。

技の真相は、ソウルジェムへ穢れを送り続ける特定の「縁」を切るという「縁切り」を行うという内容でした。

かこさんはその特定の縁を切ることに特化した縁切りを再現できるようになりました。

その再現は一時的なものではなく、いつでも技を使えるまでになっていました。

かこさんの再現の力に限界はあるのかと気になってはいましたが、思った以上に大きな力を持っていたようです。

あの時の見極めは、間違っていなかったようです。

 

後日、目覚めたももこさん達三人へわたしは事情を聞きました。

三人はみたまさんを襲ったカレンさんの素性を調べていたそうです

そんな中、街中でカレンさんと出会ってしまい、人気のない場所で戦闘を挑んだとのことです。そこまでは覚えているものの、意識が無くなってしまうほどの攻撃を受けて、気づけば人の嫌なところばかりを見る悪夢を永遠と見ている状態だったとのことです。

かえでさんがいうには、この世の中を滅茶苦茶にしたいと思ってしまう心境にあったそうです。

おかげで三人は人間不信になってしまい、すぐにいつもの日常へ復帰するのは難しい状態でした。

三人の様子を見ていると、ふと頭の中にある言葉がよぎりました。

『あたしはあんたの反対側にいるんだよ

でもね・・いずれこっちに来る』

唯一心の底から殺意が湧いてしまった更紗帆奈の言葉でした。

黒いオーラの魔法少女は「あちら側」へと行ってしまった結果なのか。

なぜ今頃過去の記憶が頭に浮かんだのかは謎でしたが、神浜の異変へ対処できる手立てはできました。

あれから、つづりさんは姿を見せていません。

つづりさんについても気になるところではありますが、今は神浜の異変を終息させることに重点を置くことにします。

かこさんが事態を解決できる鍵を手に入れたことを神浜マギアユニオンの皆さんへ伝えないよう、あきらさんたちへ通達しました。

これは私たちだけの秘密とし、密かに黒いオーラの魔法少女へ対応していくこととしました。

神浜マギアユニオンには、もうすでに彼女たちへと繋がってしまう人が参加されていますからね。

 

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-9 お近づきはお食事の席から

「あの、お店へ電話をしたってことは予約をしていたのですか」

「いやいや、そのお店のシェフがおためしの料理を味見して欲しいって話だったからさ。1人分追加してもらわないと、ピリカさん食べられないでしょ」

「お店の名前はウォールナッツ。洋食店でシェフの腕は星3がつくほど美味しいんです。
ちなみにシェフも魔法少女なんですよ」

「そうなんですね」

ガツガツくるなぁ。

でも魔法少女で凄腕シェフって、願った結果なのではと考えてしまいましたが深くは追及しないことにしましょう。

お店へ到着すると、お客さんがすでにいました。

「あら莉愛さん来ていたんですね」

「あら奇遇ね。見慣れない方がご一緒のようですけど」

明日香さん達の友人かな。

「保和ピリカです。よろしくお願いします」

「ふふ、丁寧な挨拶をしていただける方は歓迎よ。まあ、私に対しては皆さん丁寧に挨拶していただけるので聴き慣れてしまっているけどね!」

「莉愛先輩にあまり関わらない方がいいですよ。無駄に疲れます」

「んな!」

「それよりも、ウォールナッツへようこそ。このお店のシェフを務めている胡桃まなかです。ご来店ありがとうございます」

「それよりもって何よ」

なんか個性に押しつぶされそうな店内でした。

「ではこれから試作品をお持ちしますので少々お待ちください」

「もちろん、4人分もってくるのよね」

「莉愛先輩もう食べたじゃないですか」

「に、2回食べてわかることもあるでしょうから、もう一回食べてあげるって言ってるのよ」

「はいはい、2回目はお代をいただきますからね」

「ぐぬぬ、い、いいわよ」

「食い意地は立派ですね」

まなかさんが厨房の奥へと行くとわたしは明日香さんへお代の話をしました。

「あの、このお店高級料理店に見えますけど、わたしそんなにお金持ってないんです」

「気にしなくていいよ、わたしと明日香がピリカさんの分も出すから」

「え、いいんですか」

「命の恩人ですからね、ご馳走されてください」

「では、お言葉に甘えて」

すると対面にいて頬杖をついている莉愛さんが話し始めます。

「ねぇ、あなた見かけない方ですけれど、神浜の外から来た方かしら」

「はい、北の遠くの方からきました」

「北って、牛タンが美味しい」

「もっと先ですね」

「じゃあ、北の大地かしら」

すごく目がキラキラしている気がする。

「そ、そんなところです」

「そんな遠くから?!」

まあ驚かれますよね。昔は一度この地域へ来たことがありましたがあの時は民間の飛行機なんてほとんど普及していない頃だったのであの頃よりは身近な距離になった気はします。

「そんな遠くから来る理由って、旅行か何かかしら」

「いえ、神浜に来たら魔女にならないと話を聞いたので来ました」

「まさかそんなところまでキュゥべえが伝えに回っているだなんて」

「ん、もしかして神浜の外から来たってことは調整屋を知らないのかな」

「話は聞いたことがありますが、行ったことはないですね」

まどかさんに聞いて以来、そういえば行ったことなかったなぁ。2人には止められたけど、一度行ってみようかな。

「じゃあ、調整を受けていない状態であの魔女を倒したというのですか」

「そういうことになりますね」

「え、あなた調整を受けないでこの街の魔女を倒したと言うの。で、でも明日香さん達の助けがあったからでしょう」

「いえ、私とささらさんは魔女に囚われた人たちを押さえ込んでいただけで、魔女を倒したのは紛れもなくピリカさんです。
それに、ピリカさんがいなければ私たちはどうしようもできませんでしたし」

「そ、それはすごいわね。ま、まあ私ほどではないですけれども」

調整を受けないでこの街の魔女を倒す。

これだけで神浜の魔法少女はみんな声を揃えて驚きます。

この街の魔女は確かに別格で強い個体ばかりで、外ではごくごく稀というレベルで出現する強さといえます。

これは目立ちすぎちゃうパターンかな。

「お待たせしました。今回は紅茶に合うようアレンジしたオムライスとなります」

見た目は少し赤みがかった卵の生地をしているオムライスでした。

「こちら、水名女学園と交流がある聖リリアンナ学園からの提案で、紅茶に合う料理を用意して欲しいという意見とオムライスがいいという意見を取り入れました」

学校に出す料理を作るって、すごい人。

「紅茶に合う食材として少し酸味が効いたトマトを使用し、普段出しているオムライスとは違って甘味が抑えられています。ただ、卵の味によって紅茶とのバランスが崩れてしまうので卵の生地へトマトのペーストを混ぜ込み、全体的に紅茶との組み合わせを邪魔をしないよう仕上げています。

単品で食べると味の主張が激しいので、聖リリアンナ学園から寄付された紅茶と一緒にお召し上がりください」

料理の説明が丁寧。願いで料理の腕を上げたってわけではなさそうでほっとしました。
それにしても、出す料理について細かく説明するあたり、やっぱり高級料理店だ。

「あら、酸味が強いのはそういう意味でしたの」

「莉愛先輩は構わずオムライスだけ食べましたからね。今度は紅茶を飲みながら食べた際の感想をくださいよ」

「それじゃあ、いただきます」

みんなでオムライスをつつき、スプーンですくって口へ運びます。

その味は口を抑えてしまうほど美味しいものでした。

ここまで美味しいものを食べたのはフランスでご馳走してもらった豪華な料理以来です。

愛情を考えると、もっと美味しいものもありますが。

みんなも声を揃えて美味しいと言っていました。

出されていた紅茶を飲みましたが、味音痴な私にはよくわかりませんでした。ただ、飲みやすかったのは確かです。

「なまら美味しいです、まなかさん」

「ん?喜んでもらえて何よりです」

「なるほど、これは確かに紅茶を飲みながらでも違和感ないわね」

「でもこれ、紅茶を飲み終わるまで残る量じゃない?」

「安心してください。聖リリアンナの方達へは半分の量でお出しするので」

「なら大丈夫ね」

「そういえば気になっていたのですが、三人はピリカさんとは既に会っていたりするのですか」

「え、今日初めて会いましたけど何か気になりましたか」

「いえ、自己紹介するそぶりがなく話が進行しているのが不思議だなって思った気がしただけです」

「…そうだよ!私たち自己紹介していないじゃん!」

「というか、なんで私たちの名前知っていたのですか」

[[今更かぁ]]

なんか心の声がまなかさんと重なった気がしました。

改めて自己紹介をしてもらい、私はみなさんが神浜マギアユニオンに参加していることを知ります。

「この街の魔法少女は組織というものを結成しているのですか」

「全員というわけではありませんが、多くの方達が参加しています。最近は神浜の外から来た魔法少女も参加したという話があります」

「行動方針はあるんですか」

「今のところはこの街にある魔女化しない仕組みを広げるっていうのが主ね」

知っていることではありますが、ここは知らないそぶりをするのがいいでしょう。

少し勝負に出てみますか。

「あの、私も協力したいなって思うのですがその神浜マギアユニオンへ参加することは可能でしょうか」

「大丈夫じゃないですかね。ただ、いろはさんたちへどこかで顔を合わせておいたほうがいいと思いますよ」

「いろはさん?」

「神浜マギアユニオンの中心人物である1人です。近々組織の近況報告を行うために我が道場で会議が執り行われますので、その時に顔合わせをすればいいと思いますよ」

「本当ですか!」

「はい、ピリカさんほどの強い方が参加いただけるのはありがたいことです」

「近頃は神浜の外から来た魔法少女に襲われるってことが増えているからどう見られるかは気をつけたほうがいいと思うわよ」

「大丈夫です。私がしっかり説明します」

「最初に疑ったのは明日香のくせに」

「ちょっとささらさん!過ぎた話を掘り返さないでください!」

なんだかすんなりと参加できそうです。

2人は得るものがなかったと言っていたけど、内部にいるからわかることもあるだろうし、後のことは参加できてから考えよう。

「では気を取り直しまして、我が道場の場所を教えたいと思うのですが、スマートフォンはお持ちですか」

「すみません、私もってなくて」

「このご時世、もっていない人は珍しいわね」

「魔法少女が使えるテレパシーで事足りていたので」

「ふーん」

明日香さんの家族が所有しているという道場の場所はお店を出た後に実際にその場へ行く形で教えてもらうことができました。会議が行われる時間も教えてもらったので明日からが本番です。

内部でしかわからない事実を、知るために。

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-7 黒いオーラの魔法少女

見滝原で出会った元黒羽根の子 黒さんに連れられて私と巴さん、なぎさちゃんは神浜への電車に乗っていました。

「なぎさちゃん、魔法少女だったんですね」

「この指輪に気づかないなんて、黒は魔法少女なりたてなのですか?」

「うぐっ」

「黒さん、緊急事態の詳細を教えてくれるかしら」

黒さんから伝えられたのは、シェアハウスしている友達が、黒い何者かに襲われてしまったとのことです。その友達を今はこれまた一緒にシェアハウスしている元白羽根の人が守りながら逃げている状況で、電話をかけてきた時も逃げている最中だったとのことです。

とっさに電話できたのが黒さんだけだったらしく、応援を呼んでほしいと伝えられ、今に至ります。

「電話が通じてるってことは、少なくとも使い魔や魔女ではないようね」

「なんでですか?」

「魔女の結界の中では電波が通じないのよ。結界を持たない魔女なんてワルプルギスの夜以外あり得ないでしょうし」

「じゃあ、襲ってくる黒い存在って」

「神浜の外から来た魔法少女、かもしれないわね」

「あのSNSで話題に上がった、外から来た魔法少女、なのかな」

鹿目さんがいろはさんへ連絡したときには特にそんな話題はなかったはずだけど。

やっぱり、今のままじゃ神浜の最新状況を知ることが出来ない。

急ぎたい気持ちとは違い、決まったレールを決まった時間で走り続ける電車に揺られ、神浜の西側にある駅で私たちは降りました。

駅のホームを出て10分ほど北側に進んだ裏路地に黒さんのお友達と思われる魔法少女が2人いました。

「欄さん!大丈夫ですか!」

「黒、来てくれたんだね。それに、巴マミと暁美ほむら!?」

「事情は後で話すわ。状況を教えてもらえるかしら」

欄と呼ばれている魔法少女の腕の中には、傷だらけになった1人の魔法少女がいました。呼吸はしていましたが、苦しそうに不規則なリズムで空気を吸ったり吐いたりしています。

もっと奥の路地裏でカオリが真っ黒な存在にサンドバックにされているのを目撃したのよ。ソウルジェムが壊されていないのが奇跡だった」

「その黒い存在って、何」

話していると急激に魔力の反応が二つ迫ってきました。二つの反応は私たちの前を横切り、私たちが入ってきた路地裏の入り口側に立ちはだかりました。

その魔力の反応は、まさしく

「出た。右側のやつが襲ってきたやつだよ。まさかもう一体連れてくるなんて」

「でもこの反応って」

「魔法少女」

見た目は黒いオーラを纏った感じで、オーラの端に行くほど赤色が目立っていました。

顔はとても苦しそうで、ソウルジェムと思われる宝石部分は真っ黒でした。

左側の1人が左手を高々と上げると腕はみるみるうちに大きくなり、泥のような見た目となった後、掌には一つの目玉が見開きました。

目を開くと同時に周囲には大きな衝撃が走りました。

「何よあれ」

「この魔力の迫力、まさかドッペル」

腕が伸びてきて、その腕は変身した黒さんを叩き潰してしまいます。

「黒さん!」

黒さんは苦しそうにしていましたが、再び立ち上がりました。

「この、返してよ!」

そういきなり黒さんが言うと、見覚えのある黒羽根が使用していた鎖を手のドッペルへと放ちました。

その先にあったのは黒さんがアラカル亭で買ったお菓子の袋でした

「黒さん迂闊よ!」

手のドッペルはそのまま鎖を掴んで黒さんを放り投げようとしました。

「黒!鎖を切れ!」

黒さんは欄さんの指示通りに鎖を手放したことで地面に叩きつけられることはありませんでした。

隣のもう1人の黒い魔法少女はと言うと頭を抱えながら苦しみ、その後はライオンのような外見になって襲いかかってきました。

私はとっさに時間停止を行いましたが、二体ともにドッペルを出しているだけでただの魔法少女。

足止めを考慮して足を不自由にさせるよう拳銃を撃ち込み、時間が動き出しました。

狙い通りに2発の弾丸は2人それぞれの太ももを貫通しました。2人はその場でもがき続けていました。

その瞬間に巴さんがリボンで拘束しようとしますが、手のドッペルを出している魔法少女が腕だけで前進してきてリボンの拘束を避け、欄さん目掛けて腕を伸ばしていきました。

「欄さん!」

「見つけたぞ食い物泥棒!」

見慣れた赤い鎖連なる矢先が手のドッペルを貫きました。

声のする方向を見ると、そこには佐倉さんがいてその後ろから美樹さんと、鹿目さんが追いかけてきました。

「マミさんにほむら?!こんなとこで何を。それにこの状況は一体」

「私だって聞きたいわよ。こっちは拘束するのに手一杯だけど、そっちの子はドッペルが治まったかしら」

「気をつけて!こいつらは何度もドッペルを出すよ!」

そう欄さんが言っていると、苦しそうに傷ついた左手を掴んでいた黒い魔法少女が再びドッペルを出しました。

「そういうことか。どうりで攻撃加えてもきりがねぇわけだ」

「鹿目さん、いったい何があったの」

「私たちは、神浜で買い物をしていただけなんだけど、いきなりあの黒い魔法少女が杏子ちゃんが買ったお菓子を奪っちゃってね。その後追いかけてきたの」

人様の食いもん奪っといてドッペルのせいだろうが容赦しねぇぞ」

「人のこと言えないと思うんですけど」

「うるさい!とにかく大人しくしやがれ!」

杏子さんは激しく槍で突き刺したり、多節棍の仕組みを駆使して打撃を与えていきますが、その攻撃のどれもがドッペルにしか当たらないようにしていました

激しく攻撃はしているものの、魔法少女自体への攻撃は避けているようでした。

相手が再びドッペルを引っ込める頃には二つの足で立ち上がっていました。

両腿にはしっかりと銃弾の跡が残っているのに、立ち上がっていたのです。

そして再び、ドッペルを出します。

「きりがない。もう、ソウルジェム自体を壊すしか」

「だめよ!殺してしまうのは一番だめよ!」

「んじゃどうすればいいんですか!こいつ、道中で一般人にも被害出してるんですよ。私やまどかで足や腕を不自由にするくらい攻撃してきましたけど、こうやって痛みを感じないみたいに何度も立ち上がってくるんですよ!」

ドッペルを出し続ける上に傷による痛みを顧みずに襲いかかってくる黒い魔法少女。

そんな正常じゃない状態を目前にして、私たちはどうしようもありませんでした。

「ならば私が動きを止めます」

そう言って黒さんは白羽根が使用していた光る長剣を手のドッペルを出している魔法少女の足へ突き刺し、その勢いで本体を鎖でグルグル巻きにして身動きを取れないようにしました。

「よし!」

しかし左手がフリーになっていた黒い魔法少女はドッペルを出して黒さんの目の前で目を血走らせながら大きく手を開いていました。

「黒!」

「黒さん!」

黒さんはとっさの出来事で身動きができていませんでした。

「ばっっかやっっろう!!!!」

赤い槍は伸びてドッペルを貫くと同時に胸元で黒く輝いていたソウルジェムも砕いてしまいました。

そのまま黒い魔法少女の変身は解け、口や目やらいたるところから血を流した少女だったものへと変わりました。

「なによ、これ」

巴さんが怯むとリボンの拘束が緩んで拘束していた獣の姿をした魔法少女が巴さんを引き裂こうとしました。

「マミさん!」

すると、遠くから緑色の光線が飛んできて黒い魔法少女は壁へ打ち付けられました。

「巴さん!すぐ拘束を行ってください!」

声の通りに巴さんは再び黒い魔法少女を拘束しました。

声の主人はかつて巴さんを調整屋へ運ぶ際に一緒だった魔法少女と、1人、2人、そして会ったことがある美雨さんがいました。

「まどかさん?!こんなとこで会うなんて」

「かこちゃん!?どうしてここに」

「私、チームで行動していただけですよ」

「ほむら、久しいナ。元気にしてたカ?」

「はい、美雨さんも元気そうで何よりです」

「あら、面識のある方が多いようですね。それよりも」

拘束された黒い魔法少女はなおも暴れていて、リボンがちぎれないのが不思議なくらいでした。

「常盤さん、これはどういうことですか。魔法少女がドッペルを出し続けるなんて。明らかにおかしいですよ」

「ええ、おかしいことです。私たちもついさっき目撃しましたから」

常盤さんが振り向いた先には魔法少女だったものがいました。

「あなたが、彼女を?」

「だったらなんだ、ああしなきゃこのちっこい黒いのが握りつぶされてた」

黒さんは腰を抜かして座り込んでいました。

「いいえ、正しい判断だったと思います。むしろ決断できたことに驚いています」

「ふんっ」

「ななか、この暴れてる子はどうする」

「気絶も苦痛も、説得も聞かないのであればソウルジェムを引き離すしか」

そう言って常盤さんが黒い魔法少女のソウルジェムへ手を伸ばしますが、触れた瞬間にソウルジェムが強い光を発しました。

常盤さんは慌てて手を引っ込めてしまいました。

「ななかさん!」

「大丈夫です。少し激痛が走っただけです」

常盤さんは一息つくと刀を抜きました。

「ななかさん?!」

「お覚悟を」

そう言うと、常盤さんは黒い魔法少女のソウルジェムを砕いてしまいました。

魔法少女姿が解けた後の少女の姿に、私たちはさらなる衝撃を受けます。

「このローブって、マギウスの翼」

「どういうこと、まさかまたマギウスが何かやり始めたんじゃ」

「あのガキどもが何かやり出したってか」

「杏子ちゃん、マミさん、決めつけは良くないよ」

「その通りです。現在マギウスの翼も、その残党も解散状態となっています。それに灯花さんとねむさんは定期的に環さん達と会っているので何かを企てるといったことはできないでしょう」

「それじゃあ、この黒い魔法少女はいったい」

「なにも分からずです。皆さんは黒い魔法少女を見かけたら関わらずに逃げてください」

「こいつらみたいのが、人を襲っていたらどうするのさ」

「その時は、人気のない場所へ誘導して逃げるのが無難です」

「それが無理なら」

「無理でもやってください。それとも、魔法少女を殺す覚悟でもお有りですか?」

美樹さんは黙ってしまいました。

黒い魔法少女を止めることは、ソウルジェムを壊すことだけ。

原因も、誰の仕業なのかもはっきりしません。

「私はこの件を神浜マギアユニオンへ持ち帰ります。私たちだけでは手に負えません。
私が魔法少女を殺したことについてはどうとも伝えていいですが、杏子さんについてはこの場だけの秘密としておきます」

「別に気にしちゃいねぇよ」

「では私たちは行きます。死体はそのままで構いません」

「まどかさん、また」

「うん…」

常盤さんたちはこの場を去っていきました。

私たちは場所を移動して、黒さんたちは家へと戻るとのことです。

私は黒さんへ自分の分のチョコレートを手渡しました。

「ほむら、これはあなたのでしょ」

「黒さんのお菓子取られちゃったし、友達に食べさせたかったんでしょ。受け取って欲しいな」

恐る恐る、黒さんは私の手からチョコレートを受け取りました。

「ありがとう、ほむら。またどこかで会おうね!」

そう挨拶を交わすと黒さんは欄さんと一緒に傷ついた仲間を抱えて家へと戻っていきました。

「さて、私は気分を晴らすために食い物屋にでも行こうかな」

「ならなぎさも一緒するのです」

「なんだ、お前もついてきてたのか」

「最初からいたのです」

「それじゃあ、佐倉さんおすすめの美味しいラーメン屋さんにみんなで行かない?

「「サンセー!」」

「うぉい勝手に決めるなよ」

「いいじゃんいいじゃん!杏子の分は私が出してあげるからさ」

「ち、なら仕方ねぇ」

「ちょろいのです」

「んあ??」

そう佐倉さんとなぎさちゃんが口喧嘩をしながら私たちは風見野へと向かいました。

今回体験した黒い魔法少女との遭遇今まで巡ってきたどの時間軸でも体験したことがない対処が難しい自体です。

殺すのは簡単。

でも、本当にそんな方法でいいのかが、私の倫理観が邪魔をしてしまい、どうすればよかったのかと悩み続けることとなります。

しかし、一つだけ確かなことは言えます。

鹿目さんを襲うというのであれば、

容赦はしない。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 1-5 血の理の不尽へピリオドを

中心部分ではアオの方かららんかが降ってきて人数が増えた状況となっていた。

「あんた、樹里さまの炎が弱いとか言ったな。ならば出し惜しみなしの最大火力をお見舞いしてやるよ。ウェルダン通り越して消炭になっても後悔するなよ!」

そう言って次女は火炎放射器へ魔力を溜めて最大火力で糸の魔法少女へ放った。炎は一次的に出るのではなく、数十秒出続けた。

周囲の鉄骨の表面は熱されて形を歪ませるほどの熱量だった。

撃ち切った次女の顔には驚きと恐れが混じったような表情が浮かんでいた。

「なんでだよ、なんで服が少し燃えるくらいで済んでるんだよ。おかしいだろ!」

「炎耐性なんて魔力でどうにだってできるさ。まあもちろん特性を知った上での話だけどね。ちょっとだけネタバラシすると消防隊員が来ている服を参考にしているよ」

「そうかい、ならば最大火力を何度も浴びせ続ければいいだけさ!」

「少し頭を冷やしてもらおうか。ここで魔女化されても困るだけなんだ」

そう言うと糸の魔法少女は次女の周囲を素早く動いては糸を何本も打ち出してきた。次女は躱すことしかできず、打ち出された糸が周囲の地面へ食い込んでいる様子を見逃していた。

そして糸の魔法少女が後ろに下がると周囲に打ち込まれた糸が次女を中心として収束し、次女を縛り上げてしまった。

「次女さん!」

「くそ、動きを止めるためにわざと外したってか。だがこんな糸、すぐに引きちぎって」

次女が力ずくで糸を切ろうともがくと、皮膚へ食い込んだ糸がそのまま肉を切り始めた。

次女は動きを止めるしかなかった。

「動いても構わないぞ。ただ、もがくたびに苦しむのは自分だけだ。長女さんの戦いが終わるまで静かにしていてもらうよ」

「次女さんを離せ!」

割って入ったのはアオの方から中心へ飛ばされたらんかだった。

らんかが糸の魔法少女へ武器で殴り掛かったが、あっさりと糸状の剣で受け止められてしまった。

「ピリカの方から降ってきたやつか。まあ数が増えても変わらない、まともに動けるのはお前だけだからね」

そう、一番人数がいたはずの中心地は今となってはらんかだけしか動けない状態となっていた。この時点で力量ははっきりしていた。それでも、私は引こうとはしなかった。

「あんた、ソウルジェムのあたりがゲームのコントローラーみたいな形してるね。さてはゲーム好きだな」

「っ!それがどうした!」

糸の魔法少女に払い飛ばされ、らんかがさらなる攻撃を加えようとするとらんかの目の前に脆めの糸の壁が出現した。

「ゲーム好きなら選択肢を選ぶこともあるだろう。いま形成した糸の壁は破ろうと思えば容易に破れる。しかしその糸のどれかはあなたの仲間の次女をさらに縛り上げる。これ以上縛られたら骨にまで食い込むだろうね。
さあ選べ、壁を破ってくるか、黙って長女の決着を待つか」

選択の余地なんてなかった。感情に流されて仲間のことを気にしないほどらんかは非情じゃない。らんかはもともと優しい心は持ち合わせていると次女からは聞いている。

らんかはその場で踏みとどまり、武器を下ろしてしまった。

「私だって、敵わないなんてわかってるよ。仲間を痛みつけて前に進むなんて、もう嫌なんだ」

「ならば私も攻撃は加えない。あとはあっちの決着がつくかだけだ」

ガツン、ガツンと確かに何かをつぶす感覚は伝わる。しかし目の前で認識できる様子とは異なっていた。

何度殴りつけようと、何度蹴り飛ばそうとも、小さな魔法少女には傷一つなかった。

彼女の周りにある結界を取り除かなければ、そもそも攻撃なんて通らないとそう考えるのは容易なはず。

それでも私は武器を振り回し続けていた。

頭の中でこだまするかつて聞いた叫び声、そして内側から湧き出る感情に流されるがままに私の体は動き続けていた。

小さな魔法少女が何かを語りかけてこようと、私には関係ない。

ただひたすら怒りに、怒りに、怒りに。

混濁した思考の中、突然今までにない感覚が私を襲った。

手元に伝わったのは、柔らかい何かに食い込む武器の感覚。

目の前を見ると、私の一撃が小さな魔法少女の脇腹に食い込んでいた。

「無茶しやがって」

中心地からそんな言葉が聞こえたあと、小さな魔法少女は私に生えたツノを握りしめた。

「やっと正気に戻ったか、修羅の門でも開いて戻ってこないかと思ったよ」

そう語る小さな魔法少女は、体と口から血を垂らしながら手の中に何かを持っていた。

「私のソウルジェム!」

「そんな憎しみの象徴みたいな場所にぶら下げるから制御できなくなるんだ、どうだ、周りの状況が見えるようになったか」

私以外のみんなはすでに戦意を喪失していた。それどころか私の狂乱っぷりに怯えを感じているものもいた。

そして私の頭の中には突然、周囲を気にせず、ただ相手を殺そうと暴れる私の様子が第三者視点でフラッシュバックした。

「全く、シオリが体で受け止めてなかったらあんた完全に帰ってこれなくなってたよ。それに、あんたが、ここまで正常じゃないことも、うっ」

シオリと呼ぶ小さな魔法少女は膝をついて吐血してしまった。

彼女の脇には私の武器と同じくらいのくぼみができていた。きっと骨も何本か砕けてしまっただろう。そんな様子を見せる彼女の前で私は追撃を加える気にはならなかった。

「これ以上攻撃しないのは懸命だ。ここで感情のまま動けば、あんたはいよいよ居場所を失う。感情のまま動き、皆の首を絞め、破滅へ進み続けた原因はいままさにあんたが体現させた」

シオリという魔法少女は重傷にも関わらずよく喋った。彼女が発する言葉が重なるごとに私には別の感情が襲いかかってきた。

「怒りに任せてキュゥべぇを追い出し、怒りに任せてその代償を神浜という街に押しつけに来た。そして怒りに任せて魔法少女が救われる可能性を潰そうとしている。だからシオリは止めたのさ、あんた達を!
正気に戻りなよ、な」

シオリはすでにまともに立っていた。血も止まっていた。

しかし私の中では後悔と自負の念がグルグル回っていた。なにもかも、私のせいなのかと。

今まで怒りを原動力としていた私は、この一瞬で原動力を全て奪われたかのように抜け殻だった。本当に、一瞬で何かが消えてしまったかのようだった。それは大事だと思っていた、何か。

その隙間に入り込んできたのは、死にたいという感情だった。
平穏を求めていたのに、求めれば求めるほど破滅へと導いてしまうのなら、私は。

「私を殺しなさい。私がここまでの悲劇を招いたというのであれば、早く殺しなさい!じゃなければ私は、同じことを繰り返してしまう」

「なに、言ってるんだ長女さんよ」

中心地から聞こえてきた声は糸から解放された次女だった。

「私はあんたのものになったはずだ。死ぬのが責任逃れって言うならば、私だっていまここで死ぬよ」

「ひかるも同じっす。長女さんがいなきゃ、ひかるは生きてる意味がないっす」

「みんなに残されたら私もどうしようもなくなっちゃうからね、みんなが消えちゃうなら私もともに行かないとね」

私の死は、みんなの死であることを思い知った。こんなにも、みんなは私を中心として動いてくれていた。

「そう、そう言われると死に辛くなるわねぇ」

シオリという魔法少女は座り込んだ私と目線を合わせるように目の前へしゃがみ込んだ。

「呪縛から解放されたわけではないだろうが、あんたは生き続けるんだろ」

そして彼女は私の前に私のソウルジェムを差し出してきた。

「受け取りな。あんたがまだ生きたいと思うならね」

「当たり前よ」

私は静かに私のソウルジェムを手にとった。

そして私は立ち上がってみんなに伝えた。

「一旦引くわぁ。今後のことは、仮の拠点に戻ってから考えましょう」

二木市の魔法少女たちは笑顔でうなづいた。

傷だらけの次女の肩を持ち、その場を去ろうとすると、三女の方で戦っていた魔法少女が私たちに話しかけてきた。

「あの、これ持っていってください」

手の中にあったのは5つのグリーフシードだった。

「こんなにたくさん、襲い掛かったのはこっちっす。そんな大事なもの受け取れないっす」

「好意は受け取るものよ、貰っておきなさい」

「なら、いただくっす」

私は次女の肩を持ちながら立ちはだかった三人の魔法少女の方を向いた。

「今回の件である程度頭は冷えたわぁ。それでも神浜には目的があるから引かない。そしていずれは、あなたたちと決着をつけるわぁ」

「そうか、ならば名前を伝えておこうか。私は日継カレンだ。楽しみに待っているよ」

「シオリのことはシオリって覚えてくれればいいよ」

「私はピリカって言います」

「私は紅晴結菜。私のことだけ覚えておけばいいわぁ」

「そうか、では結菜達、またいずれ会う日まで」

「イライライケレ。お大事に」

こうして私たちの目的は神浜の魔法少女へ苦しみを与えるという目的から、魔女化しないシステムを手に入れるという目的が最優先順位となった。

あのシオリという魔法少女が言っていた通り、私は怒りに飲まれて抜け出せなくなっていたのかもしれない。

そして私の威圧に流されるがままだったみんなのまともな声も聞くことができた。

あのまま進んでいたら私たちはどうなっていたのだろう。

そう考えを巡らせている中、三女からは対面していたピリカという魔法少女と情報交換を行っていたという。

まず魔女化しないシステムというのは決して手に取れるものではないと伝えられた。

しかし彼女たちは神浜にある魔女化しないシステムを世界に広げる算段が整いつつあるという。

そして彼女たちの本当の目的は、人間の考え方を崩壊させること。

魔法少女による魔法少女らしい魔法少女のための世界を目指しているという。

いずれは、私たちも必要になるとそうも言っていたらしい。

「いいじゃない、皆の傷が癒えたら向かうわよ、神浜へ」

私の中にこだましていた魔法少女の悲鳴は日に日に小さくなっていた。何故だろうか、今まで治る様子なんてなかったのに。

もしかすると、ソウルジェムを奪われた時に何かされたのかもしれない。

だとしても、聞こえなくなったとしても、悲劇が繰り返されたことは忘れない。

忘れずに生きていくことが、きっと私にとっての償いなのかもしれないから。

 

 

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