【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 3-5 塗りつぶされないその心に従って

音が届かない、夕日もほとんど差し込まない路地裏には4人の魔法少女と1人のヒトがいました。

「そこの倒れているのはチヒロじゃないか。かこ、これはどういうことヨ」

「ちひろさん、路地裏でこのヒト達に暴行を受けていたんですよ。蒼海幤に恨みを持っていて一方的に殴りかかってましたよ」

誰がどんな顔をしていたのか判断ができないほど肉塊が広がるだけの酷い光景でした。

これを、貴女がやったというのですか。

「どういうことですか、ヒトに手を下すなど、貴女らしくありませんよ」

「かこちゃん!何があったのか教えてよ!」

「私はもうななかさんたちの元へ戻れません。どうしてもというなら、もっと奥で話しましょう」

ちひろさんを血溜まりから離れた場所へ寝かせた後、私たちはかこさんの後を追って路地裏の奥へと進んで行きました。

「どうしてついてくるんですか」

「私達は貴女の仲間です。当然のことですよ。

まずは何があったのか話していただけますか」

「話したところで面白い話ではないですよ。ヒトと魔法少女は決してともに暮らせないと、そしてヒトは呪いの源、害だと気付いてしまったんですよ」

私は何か言い出そうとしたあきらさんを止め、かこさんの話を聞き続けます。

「お父さんとお母さんに見られちゃったんですよ、心臓に穴が開いても平気でいられる魔法少女の体を。

そして使い魔を倒して帰ったら、いつも名前で呼んでくれていた2人が私の事を人ではない、普通じゃないとしか言わなくなって。

それで私の前に私がもう1人現れたんですけど、うるさいから切っちゃったんですよ。

そして真っ暗な中を進んで扉があったので開いたら、目の前にはヒトだった肉があるだけでした。

それからたくさんのヒトを見て、呪いの源を断って、断って、断って。

そうしていると、もうヒトなんて救う必要ないんだって」

語るかこさんの目はももこさん達のように光のない目になっていました。

いえ、それよりももっと目の奥に闇が見えました。

そしてその顔は不気味な笑みを浮かべていて、なぜか涙を流していました。

ソウルジェムは、黒く濁るだけでなく七色が見え隠れしていました。

“あたしはあんたの反対側にいるんだよ。

でもね・・・いずれこっちに来る”

予言だったというのですか、貴女が私の中に幻影として現れたのは。

“あんたの反対側にいるんだ いずれこっちに“

私は魔法少女姿となって抜刀し、刃をかこさんへ向けます。

「ななか?!」

「かこさん、あなたを反対側に、“あちら側”に行かせるわけにはいきません!
必ず呼び戻します」

「ななか」

「あきらさん、美雨さん。今すぐここから立ち去ってください。これは私のケジメの問題です」

そう言ったにもかかわらず、あきらさんと美雨さんは魔法少女姿となり、私の横に並びました。

「何をしているのですか。生きて帰れる保証はないですよ!」

「何言ってるんだななか。ボクたちは仲間のためにここにいるんだよ。それに、人数がいれば止められる可能性だってあるんだから
それに、今のかこちゃんの姿をみんなに見せるわけにはいかないでしょ」

「ワタシは仲間を見捨てない。残るのは当然ネ」

2人ともに3対1という状況ができるにもかかわらず覚悟を決めたような顔をしています。

なぜでしょう、わたしも今のかこさんを前にして優位に立てると確信することができません。

戦わずとも既に知っていますが、“あちら側”のまま放っておくわけにはいきません。

「暖簾の先に進む覚悟がお有りなら、ひたすら付き合ってもらいますよ」

「当然!」

「わたしの前から消えてって言ってるのに!」

かこさんも魔法少女姿となり、いつもとは違った殺意の勢いで襲いかかってきました。

長柄の武器は突きよりもなぎ払う行動が多く、こちらが繰り出す攻撃は受け止めるよりも受け流してカウンターを取ろうとする動きが目立ちました。

そう、この行動原理は美雨さんのもの。

あきらさんと美雨さんの間髪ない攻撃の中、わずかに生じる隙を見逃さない回避経路を的確に見抜いています。

これはあきらさんの固有能力の応用。

かこさんは2人に構わずわたしにばかり積極的に攻撃を仕掛けてきます。

あきらさんと美雨さんがカバーに入ってくださるので猛攻を耐えてはいますが、これはわたしが司令塔であることを把握しての行動でしょう。

そう、かこさんは私たちの行動を後ろから今まで観察し、置いてかれないようについて行こうとしていました。

つまり、私たちの行動原理はお見通しなのです。

しかし一緒にいた私たちも同じ条件。

そのはずなのですが。

わたしはかこさんに飛び上がりを強要させるよう一閃を加え、飛び上がったかこさんをあきらさんが回し蹴りで地面に打ち付けようとします。

どんな身体能力を持っていようとこの世界の原理、重力に逆らう行動を取れる魔法少女はそう多くはありません。

その隙が生まれる着地の瞬間を狩るのが美雨さん。

しかし、かこさんは石突きを地面に打ち付け、その場にクレーターができたかと思うと黄緑色の光線ができたクレーターを囲うように放たれました。

「やはり、容赦はないようですね」

受けるはずの重力が右手に集中するその行動によってかこさんの右手は糸が切れた人形のようにだらんとしていましたが、即座に回復して地面に突き刺さった武器をその右手で抜き取りました。

やれると思ってもやらない戦法。

それはヒトとしての行動理念に反すること、ヒトとして大事なものを失う行動。

これらに該当する戦い方は勝てる場面でも使わないことが当然でした。

ヒトデハナイ

そう吹っ切れた方が相手だと、立ち回りにくいものですね。

戦況はお互い譲らずと言った状況でした。

私たちは擦り傷程度の損害に対してかこさんは切り傷や殴打による内出血ができる度に回復魔法で元に戻ります。

ここまで戦って不思議なのは、私たちのソウルジェムがそれほど濁っていないことに対し、かこさんのソウルジェムは真っ黒のままだということ。

「まだ構うんですか」

「当たり前です。あなたをこちら側に呼び戻すまでは引きません。あなたがまともに話を聞いてくれるようにならない限り、どこまでも」

「それにそろそろドッペルを抑えるのも限界なはずだよ」

「ドッペル、ですか。

そうですね、そんなに殺されたいナラ、切りキザマreちゃえばいIんですヨ!」

かこさんの足元から周囲に赤いリボンが巻きついた鉄柵、毒々しい植物が生茂る結界が展開され、空はほのかに夕日がこぼれていた時よりも紫がかった色へと変わっていきました。

「まさかこれ、魔女の結界」

「だめ、引き返せなくなります!」

わたしはかこさんのソウルジェム目掛けて駆け寄ろうとしますが、結界の茂みからは腹部分が本、頭部分が様々な花となっているモモンガな見た目をした使い魔まで現れました。

「ちょっとこれどういうこと?!神浜じゃ魔女にならないはずだよ!」

かこさんのソウルジェムから出てきた呪いの色をしたリボンがかこさんを包み、かこさんの見た目はかつて見たことがあるドッペルに似た姿へと変わっていきます。

スカート部分は本に何本もの栞が刺さった見た目をしていて上着部分は三原色が完全に混ざり切っていないパレットのような彩りに変わっていました。

そしてかこさんの目には光がない代わりに、赤い光が揺らめいていました。

そしてソウルジェムの中から取り出したのは身の丈ほどあるオオバサミ。

「ドッペルを着込んだというのですか」

かこさんはオオバサミを持ったまま素早くあきらさんへ詰め寄り、オオバサミで真っ二つにしようとします。

「いきなりか!」

しなやかにあきらさんは避け、美雨さんが詰め寄るとオオバサミは分離して二本の大剣となって攻撃を受け止めます。

「もうなんでもありカ」

使い魔たちの数が増え始め、私たちの行動を妨害するようになっていきました。

使い魔を振り払っているとかこさんのスカートにある栞が飛び出し、私たちの体に突き刺さりました。

そしてきっと魔力を吸い出したのでしょう、色が変わってそのままかこさんの元へ戻っていきました。

私たち3人は少々意識が朦朧としてしまい、その隙を突かれてあきらさんは壁に叩きつけられてしまいました。

そしてかこさんはあきらさんのソウルジェムがある側の腕を、オオバサミで切り落としてしまいました。

「アアアアアアアッ」

「あきらさん!」

かこさんはその後いつも使っている武器を生成してあきらさんの右足に突き刺してその場から動けないようにしてしまいました。

「かこ!」

美雨さんの突き出した拳はかこさんの左腕に突き刺さり、食い込んで抜けない中使い魔たちが美雨さんの視界を遮ります。

視界が開けた頃にはかこさんはオオバサミの片方を大剣のように振り払い、美雨さんは両足を失ってしまいます。

聞くことがないと思っていた美雨さんの叫び声が響き、右腕も斬り付けられて動けない状態となりました。

かこさんはわたしに振り返り、オオバサミを閉じて鋭利な先端を向けて急速に向かってきました。

そうです、そのままくるのです。

貴方にはまだ、ソウルジェムを壊さない優しさが残っているのですから。

わたしは無抵抗のまま心臓部分をオオバサミに貫かれました。

痛みに耐えながらわたしはかこさんを掴み、グリーフシードをかこさんのソウルジェムに当てました。

薄い意識の中、伝えるべきことを伝えるために声を絞り出します。

「かこさん、聞こえますか」

「ななか、さん」

「手短に話します。
貴女のヒトを嫌いになってしまう思考は、自動浄化システムが広がった際にいずれどの魔法少女にも、訪れることです。なので、否定はしません」

「わたし、わたしは」

かこさんの手は震えていて、元の魔法少女姿に戻ったかこさんの瞳には涙がたまっていました。

「しかし、闇に呑まれて全てを否定してはいけません。いつもの貴女らしさ、大事にしてください」

「わからない、わからないですよ私らしさなんて!ヒトを助ける気がなくなった私に何ができるんですか!」

「何を、おっしゃっていますか。もう貴女は既に貴女らしさを闇の中でも見せているじゃないですか

「え?」

人嫌いならば、あの場面でちひろさんも無差別に殺していたでしょう。

しかし殺そうとしなかったことで確信したのです。まだかこさんから良心は消えていないと。

呪いが満ちた状態を途切れさせるためにはグリーフシードで呪いを取り除けば言葉を伝える間が生まれる。

うまくいって良かったです。

8割呪いを吸い取ったグリーフシードを投げ捨て、もう一つ取り出して話を続けます。

「ここからは貴女の心に従ってください。大丈夫です、私たちは信じています」

「ななかさん」

ぼやける視界には路地の片隅に立つ見慣れたシルエット。左側だけ髪を結っている魔法少女。

「あのとき巻き込んでしまったことを後悔しそうでしたが、私は正しかった。

このどうしようもない状況を、打破出来る。

だから、わたしはかこさんを!」

最後の力を振り絞ってかこさんを横に突き飛ばし、わたしの意識はそこで途切れたのです。

 

 

ただの路地裏となった場所に3つの宝石が砕ける音が響きました。

ソウルジェムがあった場所まで伸びている糸の根本を見ると、そこにはカレンさんがいました。

ななかさんたちはヒトだった姿になっていました。

わたしの頭にはある場所の映像が流れてきました。
ここは、中央区の電波塔?

「自動浄化システム、広げたいと思うならそこに来い。夏目かこ、お前の再現の力が必要だ。

協力的であることを祈っているよ」

そう言ってカレンさんは去りました。

死んじゃった。わたしのせいで、ななかさん、あきらさん、美雨さん。

わたしはこれからどうすれば。

そう思っていると、わたしの中である確信が芽生えます。

倒すべき存在は、日継カレン。

いえ、復讐すべき存在。

私の肩には、ななかさんの手があったような気がしました。

やるべきことが見えました。

わたしは、いえ、“私たち”は自動浄化システムを世界に広めた後、あの三人に復讐し、償ってもらいます。

もちろん、生きてもらいながら。

路地裏には、1人しかいないはずの魔法少女の気配が、なぜか4つあったのでした。

 

 

この日の夜になる頃には、各地で大きな動きがありました。

どれも日継カレンたちの思惑通り。

ニュースに流れたことも含めて魔法少女たちの衝撃だけには止まらず、人間社会にも大きな影響が出ていました。

神浜市にいると化け物に襲われて殺される。

もはやウワサの域を出て、ノンフィクションだという認識が広まって行くこととなったのです

わからない。

日継カレン、紗良シオリ、保別ピリカという魔法少女の情報がふーちゃんからも入ってこない

全ての魔法少女の怒りと嫌悪の矛先は3人の魔法少女に集中している。

負の感情だけが漂う神浜市ではもっと大きな災厄が訪れそうで、胸が痛くなってしまいます。

「アルちゃん、この事を記録しても意味があるのかな」

“あるんじゃないかな。何が起きたか知ってもらって、理解する。そこからじゃないかな、なにもかも”

 

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