攻撃を放ったのとは別の魔法少女たちが私たちにドッペルを出しながら襲いかかってきます。
|三人はそこにいて、私が止めるから|
「私も戦う。5人を1人で相手なんて無理だよ」
「うい!無理だ!」
「大丈夫、私だって戦えるんだから」
電波望遠鏡を壊した魔法少女はその場でもがいたままで、他4人の魔法少女が襲いかかってきました。
ミラーズで見かける魔法少女とは違い、みんなドッペルを出したまま襲いかかってきます。
「ツバメさん!2人を守ってあげて」
攻撃するツバメさん、そして相手の攻撃に巻き込まれないよう灯花ちゃんとねむちゃんを守るツバメさん。
攻守の使い分けはだいぶできるようにはなってきたけど、自分を守る分のツバメさんを呼び出す余裕はありませんでした。
攻撃は最大の防御と鶴乃さんは言っていましたが、怯まない相手をする上では攻撃しても身を守れそうにありませんでした。
桜子さんも奮闘しますが、足や股関節、腕に傷を負っている相手のだれもが動きを止めません。
「この狂喜乱舞っぷりは、羽根たちを狂わせたとき以上の迫力だ。殺した方が早いという意見もわかるよ」
「絶対に、殺さないから!」
少し気を抜いてしまったのか両腕がヘビに変わっている魔法少女に足を絡めとられてしまい、私はそのまま地面に叩きつけられてしまいました。
私を守ってくれるツバメさんは、灯花ちゃん達のところにいるので、ダメージがそのまんま体に伝わりました。
入院していた頃には感じることがなかった打ち付けられるという痛み、体を起こそうとしても痛さのあまりに立ち上がることができませんでした。
|だめ、やめて!|
桜子さんの聞いたかともない大きな声に驚いて前を向くと、黒いオーラの魔法少女が鎌を振りかぶろうとしていました。
だめ、もう動けない
「うい!」
諦めて涙を流してしまった頃、聞きなれた声が聞こえてきました。
「アサルトパラノイア!」
前方は真っ白な霧に包まれ、桜子さんが押さえていた他の魔法少女みんな揃って苦しそうに倒れていました。
「みふゆ!」
「間一髪でした。彼女たちが教えてくれなければ間に合わなかったでしょう」
みふゆさんの後からついてきたのは、おでこが広めの赤いドレスを着た魔法少女と、マギウスの翼のローブを着た人たちでした。
「あなたは確か、何度もわたくしたちを勧誘してきた安積はぐむ」
「間に合ってよかった。大切なあなたたちを守れた」
「気を抜いてはいけません。もう皆さんは起き上がろうとしています」
「あなた怪我してますね。気休めですが、動けるようにはなると思います」
そう話しかけてきたローブを羽織った魔法少女が私に手をかざすと体の痛みが取れて、少しだけ傷も治りました。
「ありがとう!」
「今目の前にいるのはマギウスの翼のメンバーだ。君たちは何か知っているかい?」
「私たちが勧誘したら襲われて、みんなボロボロになって、時雨ちゃんたちが連れて行かれて。そしたら、あんな姿に」
「ぐぁ!」
話している間も応援に来てくれた元マギウスの翼の人たち、みふゆさん、桜子さんが黒いオーラの魔法少女と戦っていました。
「桜子でも手に負えない相手だ。君たちでは逆に殺されてしまうよ」
「私、信じたい。あのペンダントの時みたいに狂ってても、時雨ちゃんは答えてくれる」
そのままはぐむさんは重そうな大剣を持って電波望遠鏡を破壊した魔法少女へ一直線に近づいて行きました。
「うい、わたくしたちはここから離れよう。今じゃ何もできないよ」
「放っておけないよ!それに今逃げちゃうと、この後も逃げ続けることになっちゃう!」
「わたくしはどうなってもいい。でも、ういとねむだけでも逃げてよ!」
「さっきから灯花ちゃんらしくないよ!」
「わたくしだって限界なんだよ!お気に入りの場所が壊されて、何もできなくて、冷静でいられるわけないじゃない!」
感情を爆発させた灯花ちゃんからドッペルが出現して、マッチが一本擦られると擦ったマッチを灯花ちゃんは乱戦の場所を指し示しました。
するとその場が一瞬浮かび上がり、中心地で大きな爆発が起きました。
「灯花!みふゆたちを巻き込むってどういうことだ!」
爆発の後には、傷だらけになった魔法少女たちの姿がありました。
「殺しちゃうしか、最適解は無いからだよ」
灯花ちゃんはその場で泣き崩れてしまいました。
「爆発に巻き込まれたときはどうなるかと思いましたが、私たちへの被害は抑えるよう努力はしてくれたみたいです」
みふゆさんがそう言いながら立ち上がると、他の魔法少女も、桜子さんも立ち上がっていました。
「爆発なのに、一部だけ被害を抑えるなんてできるの?」
「灯花のドッペルの特性はよく知らないけれど、本人の望みが反映された結果じゃないかな。無差別に巻き込もうとしなかったのは評価できるよ」
「そんなの、慰めに、聞こえない」
はぐむさんは起き上がると倒れたままの黒いオーラを纏った魔法少女に語りかけていました。
「時雨ちゃん、お願い、元に戻って!
私たちの理想は遠くなっちゃったけど、今のままじゃいけないよ!元に戻って最初からやり直そう」
周りを見ると、血だらけでローブもボロボロなのにまだドッペルを出して戦おうとしている魔法少女たちの姿がありました。
「まだ立ち上がるのか」
「これじゃあ、私たちが保ちませんよ。はぐむさん、離れてください!」
「嫌です!殺して救われるなんて嫌!やっと同じ想いの子に出会ったのに、一緒に頑張ろうって歩き出したのに、惨めな思いをしたまま終わらせたくない
きゃっ!」
はぐむさんは突き飛ばされた後、周りのドッペルから攻撃を受けてしまいました。
はぐむさんは傷だらけのままその場に倒れています。
そしてはぐむさんを突き飛ばした魔法少女はそのまま灯花ちゃんたちの方へ頭から出ているドッペルを向けました。
|だめ、あれを撃たせては|
桜子さんが止めに入ろうとしますが、ドッペルたちの攻撃で近づけませんでした。
動けるのは私だけ。
私は灯花ちゃんたちの前に立ってツバメさんを何重にも重ねて壁を作りました。
「ういさん、無茶です!」
「無茶でもやらなきゃだめなんです!」
「時雨ちゃん、やめて!」
グァアアアアア!
時雨さんという魔法少女は恐ろしい叫び声を出しながらドッペルの攻撃を放とうとしています。
2人を守れるならそれで。
攻撃が放たれ、目を瞑っていましたが、風しか伝わってきませんでした。
前を見ると、目の前には緑色の円形の壁が現れていて、ドッペルの攻撃は防がれていました。その後、大きな閃光が広がり、しばらく前が見えなくなってしまいます。
やっと周りが見えるようになったときには、黒いオーラの魔法少女の姿はなく、体が爛れて血だらけの魔法少女たちの姿がありました。
「黒いオーラが消えてる」
「時雨ちゃん、ああ、このままだと怪我が酷くて死んじゃうよ!」
「そう簡単に死にはしないはずです。少し離れた場所に廃墟があるのでそこで一度安静にさせましょう。その後、治療が得意な魔法少女を集めます」
「「はい!」」
元マギウスの翼のメンバーは、瀕死の黒いオーラを纏っていた魔法少女たちを連れて行きました。
はぐむさんは連れて行く前に、私たちの方に来て大きく頭を下げました。
「ごめんなさい!皆さんに迷惑をかけてしまって!」
「頭を上げて。君たちはどちらかと言うと被害者だ。悪いのは君たちじゃない」
「でも、大事なものを壊してしまったから。時雨ちゃんが元気になったらまた謝りにきます。すみませんでした」
そう言うと、はぐむさんは時雨さんを抱えてみふゆさんたちが向かった方向へ消えて行きました。
「あのはぐむって子、望遠鏡を破壊した時雨と一緒にマギウスを再興しようと何度もわたくしたちに会いに来ていたんだよ。
しばらく来ないと思っていたら、こんなことになるなんて」
「しかし、なぜ黒いオーラがとれたのかが謎だ」
「まったく、要人を守ると次元がおかしくなるんだけどね」
聞き慣れない声の方を向くと、薄紫色の髪をした、白い服を着た人がいました。
「あなたは、誰ですか」
「場所を移しましょう。そして用件は手短に」
そう言うと女の人は槍を呼び出し、コツンと地面を槍で小突くと、私たちの周りに緑色の縁が現れました。
「あの攻撃を防いでくれたのって、もしかして」
光に包まれると、私たちは別の場所にいました。
一瞬で場所が変わってしまったようです。
あたりを見渡すと、長い間いた病室にいることがわかりました。
病室内はきれいに片付いていましたが、空の色が紫っぽくて不気味です。
「一瞬でぼくたちを転移させたのか。魔法少女ではないようだが、君は何者なんだ」
「私のことはつづりと呼んでください。そしてあなたたちにお願いがあってきました、この神浜にしかいられない魔法少女たち」
「この神浜にしか、いられない?」
「本来ならば存在しないはずのあなたたちがいる時点で次元が不安定になっているわけですが、今回は生きてもらわないと困るのでここへ連れてきました」
「聞きたいことは山ほどあるけど、黒いオーラの魔法少女を止めたのはつづりさんでしょ。そして黒いオーラをとってくれたのも」
「察しがいいですね。私は黒いオーラの取り方を知っています。そしてその方法を、柊ねむ、あなたに習得してもらいたくてきました」
「ぼくに魔法少女を救う方法を授けると言うのかい。しかしなぜぼく限定なんだ」
「私が使用する力はあなたたちの次元でいう魔力とは別の媒体を要求します。その仕様を別の世界の法則下で使用するとなると再現や具現といった方法しかないのです。
あなたが具現の力を使えることをすでに知っています。なので、力を具現化しやすいよう、軽い物語として巻物へ綴りました。
その内容をベースに具現化してもらえると黒いオーラの魔法少女を救う手段を習得できます」
巻物の内容を見ると、技の名前は「縁切り」と言い、呪いを運ぶ悪い縁を切ることができるようです。
「目に見えない縁で呪いを送り続けるなんて、絶対気付けないよ」
ねむちゃんは丁寧に巻物を丸めて紐で閉じ、膝の上へおきました。
「粗悪な物語だが、今までのぼくであれば具現は造作のないことだろう。
だが生憎、今ぼくは魔法少女になることができない」
「救う手段を手に入れて、なおも過去の断罪にこだわって罪を重ねるのですか」
「これはわたくしたちなりのけじめなんだよ。それに次元がどうとか言っているし、ねむが具現の力を使えるのを知っているし、もしかしてあなたは異世界の人なのかにゃ?」
「想像にお任せします。が、変に探ろうとすると命は保証しませんよ」
みんな何も不思議に思わずそのまま話を続けていますが、異世界な考え方に私はついていけていません。とりあえずねむちゃんが今の神浜を救える力を教えてもらったってことは理解しました。
そういえば、ここからどう出ればいいんだろう。
「あの、私たちずっとここに閉じ込められたままなんですか」
「まさか、あの扉へ触れてもらって、行きたい場所を念じると気づけばその場所へ移動できます。また、ここへ戻ってきたいと念じればここに戻ってくることができます」
「万年桜のウワサで今どの座標にいるかわからない?」
|検索してもどの座標にも該当しない。里見メディカルセンターにいるというわけでもないみたい|
「完全に異空間か、驚いたよ」
「外部とアクセスはできますが、外に出ることはできません。外に該当する空間に侵入してしまうとここに戻されます」
「なるほど、ぼくたちを外に意地でも出させないと言うわけか。アリナでもないのによく複雑な結界を作れたものだ」
「ここにいても暇でしょうし、ここから外に出る方法でも探ってみてはどうですか。きっと楽しいと思いますよ」
「わたくし的には、黒いオーラの取り方を知っているあなた1人で神浜中を駆け巡ってくれればいいだけだと思うんだけど」
「私たった1人ができたところで1人救った間に別の誰かがこの世を去ります。それを防ぐために使える人は多い方がいいと思うのですが」
「黒いオーラの魔法少女は少ないと聞いている。そこまで苦労することはないと思うが」
ねむちゃんの話を遮るように背中を見せていたつづりさんは槍で地面を小突き、ねむちゃんの方へ振り向きます。
「ならば全て他人に任せてここで悠久に過ごすといいでしょう。それが望みと言うならば」
「な!」
そうつづりさんが言うと、桜子さんのそばへ近づいて何かささやいていました。
小声だったのでなんと言っているのかはわかりませんでした。
「それでは失礼しますね」
「あ、待て!」
しかし待たずにつづりさんは黄緑色の粒子に包まれて消えてしまいました。
「もう、言いたい放題言って消えちゃったよ」
「あの、2人ともなんで平気に話についていけたの?」
「異世界から来たって言われても、キュゥべぇも地球外生命体だし全然驚かなかったよ。もし地球を助けに来た宇宙人だとしたら、とってもワクワクしない?」
「灯花はそれでいいとして、ぼくは一方的に大きな力を渡されてしまって困惑しているよ。魔法少女になれないという制限は償いのはずだったのに今となっては足かせとなってしまっているのがなんともいえない気分だよ」
灯花ちゃんたちがつけている腕輪は桜子さんによって管理されています。
ねむちゃんは産みの親が不正を侵せないようにウワサへ役目を書き換えられないような仕組みを作っていると聞いています。
きっと腕輪を壊そうとしても、桜の下で行った裁判の時のように襲いかかってくるのかもしれません。
どうするのが、一番いいのだろう。
助ける方法があるのに使うことができないなんて、お姉ちゃんに伝えたらなんていうんだろう。
今回の出来事をみんなに教えようか、悩んでしまっている私がそこにいました。