私が神浜に来てからたくさんの出来事がありました。
最初は小さなキュゥべぇを探すことから始まり、ういを探す為に神浜に滞在するようになって、最終的にはワルプルギスの夜を倒してしまいました。
ういは戻ってきたけれど、マギウスが成し遂げようとしていた自動浄化システムを世界に広げて魔法少女の解放を目指すという新たな目的ができました。
自動浄化システムを広げること、そしてキュゥべぇとの共存を目指すという目的を掲げて、神浜マギアユニオンという組織まで誕生してしまいました。
神浜マギアユニオン結成後はマギウスの翼残党と戦ったり、灯花ちゃんの考えた果てなしのミラーズを通して不思議な力と接触しようとしてトラブルが起きちゃったりといろいろありました。
いろいろあっただけに、私の頭の中は物事の整理ができていない状態です。
そんな休日なのに頭を抱えている私を見たからなのか、やちよさんから一緒に外を見て回ろうって提案されたので、今は被害が大きかった中央区へと歩いています。
他のみかづき荘のメンバーはというと、
鶴乃ちゃんはお店を再開できるようにするための手伝い、
フェリシアちゃんは友達のところへ、
さなちゃんはまなかさんのところへ、
そしてういは灯花ちゃんとねむちゃんのところにいます。
やちよさんと2人きりというのは久々のことでした。
中央区へ着くと、電波塔の周囲は瓦礫撤去で忙しそうな雰囲気でした。
しかし、そこから少し離れるとほとんどのお店が営業を再開していて多くの人で賑わっていました。
「すごいですね、大災害があったあと少ししか時間が経っていないのに、もういつも通りな感じになってます」
「そうね。お店自体にも打撃はあったでしょうけど、活気があるのはいいことよ」
「そうですね。わたしも前に進めるよう早く考えないとなぁ」
「いろは、せっかく気分をリフレッシュしにきたのに考え込みすぎわいけないわ。ちょっと近くのカフェによって気持ちを楽にしましょ」
「すみませんやちよさん、そうさせてもらいます」
神浜マギアユニオンを結成すると宣言した私たちは、今後の神浜の魔法少女達のことを考える立場になりました。
何かトラブルがあったり悩み事があれば解決するために動く。
そしていまだに謎な自動浄化システムについても進展がなく、わたしは少し焦っていたのかもしれません。
魔法少女のことについて考えるのもそうですが、学校生活についても考えていかないといけないことが多くなります。
今までも学校生活と魔法少女活動の両立をやってきましたが、最近は魔法少女活動に偏っていて学校生活が疎かになっている気がしてなりません。
これもきっと、焦ってしまう理由なのかもしれません。
どこか休める場所を探していると、妙に人気が少ない広場に出ました。
「あれ、周りはお店の準備がされている状態なのに人がいない」
「鍵も開いた状態ね。カバンが置きっぱなしのお店もあるし、もしかしたら」
その時、わたしのソウルジェムに反応がありました。
魔法少女になってから戦い続けないといけない存在の反応です。
「こんなところに魔女がいるなんて」
私たちは魔女の結界に飲み込まれ、周囲の風景は見慣れた異様な空間へと変わっていきました。
私とやちよさんは魔法少女へと変身し、結界の奥へと進んで行きました。
入り口付近は使い魔の数が少なく、2、3階層ほど進んだ頃に魔法少女の反応を検知しました。
「他の魔法少女がいる?」
「苦戦しているのかもしれないわ、いくわよ、いろは」
「はい!」
最深部へ行く道のりから少し離れたところに魔法少女はいました。
見た様子は苦戦している様子ではないようでしたが。
「あら、この街の魔法少女ですか?」
「そうだけど、なんですか、この状態は」
結界の中で出会った魔法少女の後ろには保護された人たちが眠っていました。
しかし周囲には鋭利なもので何度も刺された状態の死体が沢山あったのです。
「使い魔の仕業ですよ。私が来た頃には見ての通り数人は手遅れだった。だがここで保護している人たちで全員のはずです」
「神浜でここまでする使い魔は久々かも」
魔女のほとんどは人々を捕らえ、魔女の口づけを付けてどんどん被害を広げていく場合がほとんどです。
今回のように、結界の中で直接手を下す魔女というのは滅多に見たことがありません。
「私はこの人たちを守っています。あなた達でここの魔女を倒してもらえますか」
「ありがとう、助かるわ」
「お願いします」
私たちは再び最深層へ進みますが、使い魔の数はこれまた少なめでした。
最深層へ行くと、柵のような壁の中で震える羊のような魔女を発見しました。
「厄介な相手ね。相手が反撃態勢に入ったらあまり攻撃を加えないようにね」
「はい」
神浜にいる魔女は、マギウスによって増やされた魔女の残りがたくさんいる状態であり、目の前にいる羊の魔女も何度も見かけた魔女のうちの一体です。
強さは時によっては違いますが、羊の魔女は高確率で攻撃を加えた相手へカウンターを行ってきます。
倒せると確信できる時以外は、無理に攻撃しないほうが良いです。
羊の魔女は紫色の球体をいくつも私たちの方へ飛ばしてきました。
私はかわすことしかできませんが、やちよさんはいくつかを払い落としながら進んでいました。
そのおかげか、魔女はやちよさんの方へ夢中になり、私はその間に柵へとダメージを与えます。
5、6撃ほど弓矢を当てると魔女の周囲に貼ってあった柵は崩れていきました。
突然柵が壊れたことで魔女は動揺していました。
「やちよさん、おまたせしました!お願いします!」
私は魔力を込めた弓をやちよさんの頭上へ放ち、上空ではじけた矢はやちよさんを癒し、槍へ魔力をまとわせました。
「ありがとう、このまま終わらせる」
やちよさんは周囲へ槍を複製し、魔女へ向けて放ちました。
動かないタイプの魔女だと知っているため、放たれた槍はすべて魔女へと刺さりました。
「出し惜しみしないわ」
魔女の側へと近づいたやちよさんは上空に再び槍をいくつも複製し、魔女へ向けて降り注がせます。
槍だらけとなった魔女は最後の反撃と言わんばかりに紫色の球体をやちよさんへ向けて放ってきました。
「当たって!」
私が放った矢で怯んだ魔女へやちよさんがとどめをさします。
「終わりよ」
やちよさんの攻撃で魔女は貫かれ、糸がほつれるように形が崩れていくと同時に結界も崩れていきました。
「やちよさん、やりましたね」
「ちょっと手強かったけど、ありがとう、助かったわ」
いつも通りに魔女を倒した私たちは、巻き込まれた人たちを保護してくれた子のもとへと行きました。
「お疲れ様です。魔女は倒せたようですね」
「あなたがこの人たちを保護してくれていたおかげよ」
結界の中で会った魔法少女は変身を解いた状態でした。パーカーに短パンというどこか杏子さんに似た服装をしていましたが、帽子をかぶっていたのでまた別の雰囲気に感じました。
「そうだ、これも何かの縁だから神浜のことについて教えて欲しいな。どこか落ち着いた場所で話したいし、カフェに行きませんか?お金は私が出しますよ」
「いろは、どうする?」
「ちょうど私たちもリラックスしたかったところなんです。なので、お言葉に甘えてもいいですか?」
「ありがとう、助かるよ」
近くのお店へ入り、改めてお名前を聞いた彼女は日継カレンさんといい、自動浄化システムに興味を持って仲間と一緒に神浜へきたとのことです。
私たちも自己紹介をして、神浜で最近まであったことを簡単に話しました。
「それにしても、魔法少女の話を一般人が多い中するっていうのも不思議な感じです」
「そうですか、私たちはあまり気にしないで話していることが多いですけど」
「いやほら、キュゥべぇと話する時とか不思議ちゃんに見られそうで気にしないですか」
「キュゥべぇは神浜には現れないわ」
「うん?キュゥべぇならそこに小さいのがいるじゃない」
小さなキュゥべぇについては話せば長くなってしまうので軽く説明して終わりました。流石にういの記憶を持っていたとか、この子のおかげで自動浄化システムが維持されたとかは話していませんが。
「なるほど、ワルプルギスの夜を倒した後は神浜マギアユニオンという組織を作ってこの街の魔法少女達で自動浄化システムを広げようとしてるのですね」
「そうなんです。まだまだ発足したばかりですけど、よかったら参加しませんか。自動浄化システムを広げようとしているなら、協力しあったほうがいいと思うんです」
「協力ね。でも、あまり進展がないんでしょう?」
「そう言われると、何も言えないです」
「おっと!気を落とさないで、まさか悩んでいるっていうのはその件で?」
「そうなんです。考えることも多い上に何も進んでいないのが何だかリーダーとして情けないなって」
「いろは」
思わず本音を出してしまいました。初対面の、しかも神浜の外から来た魔法少女へと。
カレンさんはその後相談に乗ってくれました。
思い起こせば、ただ一方的に私とやちよさんで今後のことについて話していましたが、カレンさんは真剣に話を聞いて、助言等をくれました。
その助言の中でも、特別驚いたのが。
「キュゥべぇへ自動浄化システムについての情報を共有?」
「でもリスクが高いわ。万が一、彼らに何か手を加えられるようなことがあれば」
「ちょっと待って、キュゥべぇとの共存も掲げているんでしょ?いずれ共有するだろうに」
「実は、何度か会話しているんですけど、考え方が一致しない状態で。だから、今のところは自動浄化システムのことに集中しようってことにしてるんです」
「そういう方針ならいいけど。それじゃあ、そのキュゥべぇから神浜についてなんて伝えられたか教えてあげる」
カレンさんによると、神浜の外の魔法少女へは自動浄化システムは手に入れられるものであり、中には奪おうとしてる人たちもいるということも知りました。
「現状と違った情報が広がっている。私たちが、しっかりとキュゥべぇへ伝えなかったから」
「魔法少女にとって、キュゥべぇっていうのは貴重な情報源。キュゥべぇは嘘をつかないけど、意識の違いがあれば彼らなりの推測で話が進んでしまう。それをみんなは真実だと思って行動しちゃうんです」
「迂闊だったわ。キュゥべぇが外部へどう伝えて回るのかまで考えていなかった。これは外から来た子たちに会ってしっかり説明しないと」
ガムシャラに解決方法を探して回っていた日々から、今回の話し合いで何処をどう探せばいいのか、どう対処すればいいのかが整理されていきました。おかげで、みんなにお願いしたいことも明確になっていきました。
「しかし肝心の自動浄化システムの正体が掴めていないのは今後に響く気がします。その件については、私から仲間へも伝えておきます。組織に加わっても、そうじゃなかったとしても協力はしますよ」
私の心の中は少しだけスッキリしていました。きっと本音を気にせず話してしまったからかもしれません。
お金を出そうとしましたがカレンさんに止められてしまい、私たちはお店の外へと出ました。
「ちょっとは悩み事が解消されましたか?」
「はい、おかげさまで少し楽になりました」
カレンさんはその場を去り、私とやちよさんだけになりました。
「そう言えばやちよさん、さっきから静かでしたけど何かありました?」
「いえ、カレンさんなんだけど実はお店の中にいる間、一度も彼女から魔力反応を感じられなかったのよ」
「え、それってどういうことですか。さなちゃんみたいに気配を消せるってことですか」
「その可能性はあるかもしれないわ。でも一番の問題は、彼女の魔力パターンが分からなかったことよ。初対面で警戒していたかもしれないけれど、終始魔力を隠し続けたということは何か裏を感じるわ」
「考えすぎだとは、思いますけど」
みかづき荘へ帰る道中、私は自動浄化システムのことについて考えていました。
自動浄化システムはイヴへういの記憶を持っていた小さなキュゥべぇ”クレメル”が合わさったことで完成したことまでは知っています。
でもういはあの後自動浄化システムについては何も感じ取れなくなったといっていました。その代わり、神浜の雰囲気が温かい感じになったというようになったのです。
例えると、コタツの中にずっといるような、との事です。
つまり、今のところは自動浄化システムについてのつかみどころが全くない状態なのです。
いつかは実現できるからと言い続けるしかできないのがとても辛いのです。
もし神浜の外から来た魔法少女が納得してくれなかったら。
悩み事解決のために出かけたはずが、もっと考え込む結果となってしまいました。
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