【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-2 ずっと続くはずがない「いつもの」

朝日が頭を出した頃に資料の整理が終わり、整理した結果を簡潔な内容にして叔父の机の上へ置いて私達はサピエンス本部へと向かった。

サピエンス本部へ辿り着くとキアラが大きなあくびをした。

「徹夜だったものね。少し休んできたら?」

「いや、イザベラを守らないといけないし」

私達は地下の実戦観察室の前まで移動してそこで改めてキアラへ伝えた。

「ここにはカルラもディアもいるわ。心配せず休んでちょうだい」

「・・・それなら少し休ませてもらうよ」

そう言ってキアラは近くの仮眠室へ眠そうに歩いて行った。

私が実戦観察室へ入るとカルラとディア、研究員2名が頼みものを囲んで談話していた。

「予定通り完成したかしら」

「レディ、通常のアンチマギアよりも簡単に魔女を切れることまでは確認できています」

「でもやっぱこれの類似品量産は難しいわよ。

通常のアンチマギアを使った剣やナイフで十分な上にそれを洗練させたとなると倍どころじゃない。

完全にキアラ専用になるわ」

「ディア、別に構わないわ。

で、これはドッペルには有効なんでしょうね」

私が退治した際に奴らのドッペルはアンチマギアのシールドを貫通した上に銃弾も怯む程度だった。

単純に魔女と一緒ではないというのはわかったけど、ドッペルではなく魔女でしか判断できない今はなんとも言えないわ」

「何よ、全然検証できていないじゃないの」

ドッペルとの遭遇は神浜でしかできないことはわかっているだろう

試した際はディアが手に入れた魔力パターンを似せたシールドを切ったにすぎない。

品質にケチをつけたい気持ちもわかるが、魔力パターンはしっかり再現したつもりだ」

私は不機嫌な顔をカルラへ向けた。そんな私の顔を見てカルラは呆れた顔で言ってきた。

「奴らが何かしらの手でドッペルを出すことの警戒だろうが、ドッペルは魔法少女の本体さえどうにかしてしまえばいいことは、魔法少女同士の衝突時に観測できた結果だ。

牽制できるレベルなら十分じゃないか」

「キアラにはしっかり叩き切ってもらわないと困るわ。

それに、ドッペルの攻撃は一般人では耐えられないわ」

「あとはキアラがどこまでの装備を許容してくれるかだが」

「鎧武者になるのは、おそらく嫌がるでしょうね」

アンチマギアを染み込ませた軽装と洗脳防止用インカムで大丈夫でしょ。

いつもクノイチみたいに薄着だし」

「どうしても刀といえばサムライのスタイルに近くになるのだな」

「だって刀といえばそうでしょ」

3人の会話を2人の研究員は苦笑いしながら聞いていた。

カルラはしばらく私を見た後に話しかけてきた。

「そんなに不安ならば魔法石を使用した法衣を使ってみないか」

「何よそれ」

「一部の錬金術師しか知らない、魔法少女の真似事ができる装備品だよ。
体の周囲に魔力を纏って魔法少女と同じように武器を具現化させて魔女へ対抗していた。もちろん身体能力も底上げできる」

「何よそれ、私そんなの知らないんだけど」

「ディアにはいらないだろ。それに魔法少女の真似事で勝ってうれしいか?」

「いやまあつまんないけど」

「だからだよ。それで、イザベラはどうする」

「今の話聞いて魅力的だと思うわけがないでしょ。
魔法少女にヒトとして勝つからこそ意味があるのよ。魔法少女へ勝つために自分が魔法少女になっては意味がないわ。
法衣ってやつは却下よ」

「そうか、その返事を聞けて私はうれしいよ」

そういったカルラは少しご機嫌な表情をしていた。

「なによ、気持ち悪いわね」

そのあとはキュゥべえの状況を聞いたりしているとキアラが部屋に入ってきた。

「しっかり休んだか?」

「意識だけははっきりするようになったよ」

「体力もあるならこれを試してみなさい。

以前話していた新しい刀よ」

先ほどまで話題の中心にあった刀は赤紫色と青紫の光沢が混じっていて明らかに二つの成分が混ざっている見た目をしている。

「思ったよりも長いな。

帯刀程度を想像していたけど」

「距離感も大事だと言うことで通常サイズだ」

「確かドッペル特化だったか。

魔法少女とも魔女とも違った特性をしているんだっけ。

それにしてもやたらと重いな」

それにはアンチマギアを結晶化させたものもそうだが魔女特化の魔法石を練り込んだ層も打ち付けられている。

それらは反発しあって効果が薄れてしまうため絶縁材料として純粋な銑鉄だけの素材を挟んだ層も打ち込まれている。

だから嫌でも重くなってしまったらしい」

「とはいえ重心は前気味なのか。

切れ味ではなく重さで叩き切る印象か」

「まあまずは試してくれ。部屋にはダミーを置いてある」

実戦観察室からはたくさんの魔法少女が使われる実験を眺めてきた

見下ろし方で実践室をみられるこの部屋から、キアラの試し切りを観察していた。

ダミーにはドッペルに似せた魔力パターンでシールドを張ったものがあったようでシールドの破損具合を計測していた。

キアラが振り下ろすとシールドは切り裂かれるという表現より叩き割るという表現が正しいエフェクトを発した。
刀はそのまま床にたたきつけられ、その床はへこむだけだった。

「前回実験時よりも破られる速度が速いです。

同じ刀を使ったのに」

使い方を知っているものとそうではないものでは結果の質も違うってことさ」

「これならドッペルも大丈夫でしょ」

私は床がへこむだけの結果に少し違和感を覚えた。

「ちょっと、あれ刃物というより鈍器じゃない?」

「その表現が正しいかもしれないな」

「不安しか残らない言い方やめてよね。ドッペルじゃないものに対してはどうなのよ」

「まさに鈍器さ。刀と言えるほどの切れ味はなく、質量で切り裂く。
鋼鉄は打ち破れたが、その後は潰してできた穴という感じだったよ」

「作り直させたいわね。イメージと全然違うわ」

「ならばもっとデータが必要だ。ドッペルと何体も戦うようになるような規模のね」

「もうそんな機会はないわよ。
神浜以外でドッペルが扱えない、そんな状態から変わらなければいいけど」

私は部屋を出て実践室前にある準備室でカラーガンと木刀を持ってダミーが倒れてスッキリした実践室へ入った。

「イザベラ、いきなり入ってきてどうした」

私はキアラに木刀を投げてキアラは反射的に木刀を受け取った。

「私の鬱憤晴らしに付き合いなさい。

久々に模擬戦しましょう?」

「まったく、上でなにがあったんだ」

キアラが新しい刀を納刀すると私はカラーガンでキアラの足を狙った。

キアラはローリングで避けて走って距離を詰めてきた。

キアラが足をつけるであろう場所へ撃ち込んでもキアラはすぐにコースを変えて距離を詰めてくる。

ついにキアラは木刀で私の脇腹を狙ったが私はカラーガンについた湾曲ナイフで防いだ。

サピエンスが使用する拳銃、サブマシンガンには標準でトリガー部分を囲うように、そして銃口の下側から突き出るように刃物が設置されている。

練習用は切れ味が存在しないが、実践用は軍用繊維ならば貫通できる切れ味がある。

キアラはつばぜり合うことなくするりと木刀を滑らせて、前のめりになって左手で私が銃を持つ左手を掴み、全体重をかけてきた。

するとキアラは勢いに任せて体を浮かび上がらせ、私の右肩と首の間へ木刀を差し込もうとした。

私は右袖に隠し持っていた練習用ナイフを取り出してキアラめがけて差し込んだ。

キアラも予想はしていたようで木刀でナイフを弾くとそのまま地面へ降りた。

降りた瞬間に私はカラーガンを撃ち込んだが射線に木刀を添えて飛び出た弾薬を弾きながらこちらの隙を狙っていた。

弾が切れる頃、右手のナイフを投げて腰につけていたもう一つのカラーガンを取り出してキアラに対して弾幕を張った。

撃ち切った左手のカラーガンはリロードせず腰にかけた。

キアラは弾道が見えているのかというレベルで移動先を変更し、時々弾丸を弾きながら距離を詰めてきた。

右側のカラーガンも弾が切れるとキアラは私にめがけて木刀を投げてきた。

私がそれを避けた方向にキアラはクナイを模したナイフを投げ込んできた。

私はカラーガンでそれらを弾くと右足首目掛けてキアラは蹴り込んできた。

いよいよ私は対応できず足払いされた状態となってその場に倒れ込んだ。

するとナイフで首元を狙ってきたが、左の袖に潜めていたナイフで逆にキアラの首元を狙うとキアラはすぐにローリングで避けた。

キアラが避けた方向には投げた木刀が転がっていて、キアラは流れで回収した

私が体制を整えると左手にもカラーガンを持ってカラーガンのナイフ部分でキアラに斬りかかった。

両手から刺し攻撃が飛んできて、キアラは弾くことなく避けるしかなかった。

私がクロスを描くように切り下ろし、さらに切り上げるとキアラは勢いで少し後ろに飛ばされた。

着地した頃に左のカラーガンをキアラに突き刺すと、キアラはナイフ部分を防ごうとする動きしかしなかった。

私は勝ちを確信し、右側のトリガーを引いた。

私がカラーガンを2丁しか持っていないとは言っていない。

私が左に持ち直したのは3丁目。

キアラは何もできず体でカラー弾丸を受け止めるしかなかった。

キアラの服は赤紫色で染まっていき、力が抜けたかのように座り込んでしまった。

そんな様子を見ていた研究員たちがこんな言葉をこぼした。

「あの2人の戦いは人の域を超えていますよ」

「片方は純粋な人間だけどな」

「絶対普通じゃないですって」

そこにカルラが会話に入った。

「キアラだって最初から銃に慣れていたわけではない。

訓練を重ねた結果であれだ。

動体視力が良いという下積みは影響しているだろうが成長の結果だ

そんなキアラさんに対応できて勝ってしまうイザベラさんはもっと怖いですよ」

「あいつはずる賢いだけだ。

全く同じ条件下ならば少し強いくらいで対抗はできる」

「本当ですか?」

そう話している中、私とキアラは実践室を出た。

これらは何気ない日常の一幕。

叔父の資料処理を手伝い、サピエンスに関わる仕事を処理する。

こんな特別変わったことをしているわけでもない日々に魔法少女たちの襲撃の日が迫っているのは確か。

 

そんな私を叔父は久々にディナーを共にしないかと言ってきた。

いつもは家族一緒だったはず。

ディナーは叔父が最近見つけたという店で個室で2人きりの食事になると言う。

時々給仕が入ってくる程度で外部へ情報を漏らさないとお墨付きらしい。

正直不安しかない。

そんな中食事が始まり、最初は他愛もない会話であった。

政治的な会話もなしに、世界情勢の愚痴を一方的に叔父から聞くこととなった。

その後に叔父の家族の話になったのだが。

「イザベラ、実は私に息子と娘が産まれそうなんだ」

「性違いの双子ですか。それはおめでとうございます」

「嫁が苦労しないように少し早めに仕事を切り上げるか、出勤できない日が発生するのは許してほしい」

「構いませんよ。家族第一と言ったのは私ですから」

「イザベラ、君も一般的な幸せを満喫してみないか」

私は手の動きを止めて叔父を見た。

「君はまだ若い。素敵なフィアンセを見つけて共に幸せな生活を送るようにしてもいいんじゃないか」

「いいですか叔父様、私の普通の生活は父親が消された瞬間から崩壊しました。

父親が生きている世界でならば普通の生活を送ろうとしたでしょう

でも今は全くそんな気は起きませんね」

「…

イザベラ、君はこの世界を今後どうしたいのだ」

「どうというのは」

「戦いを絶やさないようにすると言ったが、君が生きている限りずっと続ける気か?」

「そういえば私が死んだあとはどうしましょうかね。

サピエンス残党ってことでカルラにやってもらおうかしら」

「死ぬまでやることに変わりはないのか」

「言ったじゃないですか、人類は争わなければ衰退するだけです。

争いの手を止めないために私は必要悪になるというのですよ」

「くどいかもしれないが、考え直してくれないか」

出された皿の食事を終え、口元を拭いたイザベラは叔父の顔を見て答えた。

「ないですよ。考え直すなんて。

でも叔父様のお子様には被害が及ばないようしっかり配慮しますよ

仮に政治家にならなかった場合は、保証できないかもですが」

叔父は何も言えなかった。

「お仕事のお話はまた明日で。

ブラジル訪問の事後処理などありますから。

お代はここから出してください」

イザベラは札束を置いてその場を後にした。

「あれでは誰が言っても止まらないのだろうな。やはり依存した私のミスだったのか」

 

しばらく日々が経過し、その日は突然訪れた。

「日本から艦隊が出発しました!」

「今度は艦影が見えるでしょうね」

「はい。魔法少女産の船の両脇に5隻ずつのイージス艦 計11隻です」

衛生写真を見てダリウス将軍が呟いた。

「こんなに堂々としているとは、ここにくるまでにいくつか策がありそうだ」

「当然よ。

マッケンジー達にはしっかり待機場所へ行くように伝えておきなさい」

「了解」

「さて、今度はどう動いてくれるかしら」

 

back:2-4-1

レコードを撒き戻す:top page

Next:2-4-3