【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-1 団結できるという創作のまやかし

中華民国が支配者を失ってしばらく日付が経過した。

中華民国の政府が主張していた社会主義という考えは速やかに捨てられ、資本主義国として常任理事国の監視下で経済を回すようになった。
中華民国は常任理事国から外され、その空いた枠に別の国が入ることはなかった。
入ろうと目論む国はあるものの、空いた枠にどの国も入ることができない理由があった。

世界中では政府が推奨する少女へ行うキュゥべえを認知させないためのワクチン接種に対して、そのワクチンを打ってしまうとその少女は神や仏の声を聞けなくなるという噂が広まっていた。

その噂を耳にしたサピエンスはワクチン接種を妨害する組織は、反社会的組織として取り締まるとした。いくら名の知れた組織であったとしても。

これに黙っていられなかったのが宗教にお熱な集団だった。

イスラム教どころかキリスト教、仏教まで騒ぎ出した。

しかしそれは予定通り。

きっかけを作ることに成功した事で、サピエンスは宗教関係の組織排除も実施することとなった。

サピエンスは「宗教は魔法少女の妄言から始まった」とそれらしい理由をつけてあらゆる教会や寺院の破壊を独断で開始した。
サピエンスの隊員は躊躇すること無く行動に移してくれた。

これによって宗教に浸かった汚職議員が釣り上げられて次々とそんな議員をスキャンダルや暗殺で退場させていった。

もちろんここまで荒事をすれば大統領とサピエンスの独裁だと騒ぎ出す者も出てくる。

今は人間の間でも宗教派とサピエンス派で別れようとしている。
宗教派は魔法少女の脅威を思い知った者から見てみると「魔法少女に操られる哀れな者」と呼ばれ、神や仏を信じて現実を考慮しない者達はサピエンス派を「神を信じれぬ異端者」と罵り合う。
国連はアンチマギアの取引やそれにかかる条例改正によってほぼサピエンスの息がかかった集団と化していて、宗教にお熱な国は常任理事国へ選ばれるはずがなかった。

さて、果たしてこんなことになってしまう人類を救いたいと思える者はいるだろうか?
「だとしても」と人類を救おうと思える者は、事実を直視できていない愚か者か脳死の自称ヒーローくらいだろう。

そんな話を、私は目の前にいる叔父へ話した。

叔父はアメリカ合衆国内で破壊された教会の数についての報告書を見下ろしながら頭を抱えていた。

「イザベラ、この結果になるのは君の狙い通りなのか」

「私達は噂を流した程度です。

神や仏なんて見えなければ聞こえるものでもない。

信じるか信じないか。

元はそれだけだったものが無意味な噂だけでここまでになってしまうのです。

虚しいと思いませんか?」

「いいかイザベラ。

世の中には心の拠り所として宗教を活用するもの達がいる。

その多くは死後の心配や今体験している罪の心配だ。

現世で苦しいのは試練で、キリストの教えを守り、祈り続ければ必ず救われると。

そういうものがなければ心が潰れてしまうのだよ」

「父にもよく言われましたよ」

「ならわかるだろう?」

「わかりません」

「なぜだ。私はキリシタンだが今は中立的な意見を君に伝えたんだ。

宗教を扱って争いを起こそうなんて間違っている!どれだけの人々が苦しむと思っている」

「いいですか叔父様。

我々人間は争い続けなければ気が済まない生物なのです。

何事にも悪者を作って、それを退治するような動きを作らなければ人類史は衰退する一方なのですよ。

楽園実験というものをご存知ですか?

あれでもそう言った結果が証明されています」

「だからと言ってわざわざ宗教を引き合いに出す必要はないだろ」

「必要なことです。

今こうしている間に魔法少女達は隙だと察知して準備を早めているはず」

「・・・イザベラ、私には君が何をしたいのかがわからない」

殺意むき出しの魔法少女を目の前に宗教派はどういった行動をするのでしょうね。

人間側、魔法少女側どっちにつくのか」

「イザベラ、そういう考えはやめなさい」

「目を逸らさずちゃんと直視してください。人間はそんなものですよ」

イザベラは叔父の後ろに移動して話を続けた。

「今の私の行いを見たら、父は当然怒りをあらわにするでしょうね。
でも私は父が目指した場所とは逆の道を歩むことにしました。

父が歩もうとした道は叔父様が歩んでください。

私が、サピエンスが人類の憎まれ役となって人類の進化を躍進させましょう。

でもそれは魔法少女達を黙らせた後の話。

それまでは協力していきましょうね」

「・・・イザベラは映画を見ることはないか。
宇宙人のような地球外から来た脅威へ人類が団結して立ち向かうという物語を見たことはないか。
ああならないだろうかと希望を抱いてはくれないのか」

「無理ですね。宗教を禁止しようとしているだけで人類が分裂するなんて、その結果のどこに希望を見つけられますか。

人類の団結というのは創作のまやかしです。
結局は目先の利益ありきなんですよ。

故に私は人類になんて期待はしていません。叔父様とご家族は例外ですよ」

叔父は何も言わず黙り込んでしまった。

「では私は失礼します」

イザベラが部屋を出て行った後、ケーネスは首にかけているネックレスをつかみながらつぶやいた。

「チャールズ、シャル、君たちの娘は人類に絶望してしまったようだ。

私が彼女に頼らず人類の希望を見せられたら少しは変わったのだろうか。

いや、無理だ。誰も彼女には敵わない。

どうかこんな結果にしてしまったことを許してほしい。

私には、見守ることしかできない」

 

次の日、イザベラはグリーンベレーも使用している訓練所にいるマッケンジーのところへ向かった。

キアラがマッケンジーのいる場所を受付へ聞き、トレーニング室にいると教えてもらって2人はトレーニング室へと入った。

空気清浄が行われているトレーニング室でマッケンジーは上半身裸で筋肉を鍛えていた。

周囲には誰もいなかった。

せっかくの休暇なんだからこんなところに来てまで筋トレしなくてもいいのに」

マッケンジーはおもりを持ち上げて体をプルプルさせながら答えた。

「話があると呼びつけたのはお前だろ。

自宅になんて来てほしくないしな」

「そうかい」

マッケンジーはおもりを下ろして立ち上がった。

「待ってろ、少しシャワーを浴びてくる」

シャワーを浴びてしっかり上着を着たマッケンジーは机が一緒にある椅子へ座った。

「神浜では予想以上の被害が出たが、お前は神浜の連中以外も参入すると考えていなかったのか」

「考えてはいたわ。そのための外側に向けた自衛隊の配置よ。

でも海からミサイルに乗ってヨーロッパの魔法少女が乱入してくるなんて、普通の頭じゃ考えもつかないわ。

まあ、中華民国も協力的だったらもっとましな結果だったかもしれないわね」

「・・・E班には魔法少女との実戦経験のある者もいたのだがな。

ダリウスから事前にヨーロッパにいる魔法少女はヤバいとは聞いていたが、魔法少女をよく知る軍人上がりでも簡単に死んでしまうほどの相手だったとはな。

そんな連中がいても俺たちは帰ってこれたのだから、生き残った俺たちは十分に幸運だったのだろうな」

「自衛隊の協力もあったけどね。

脱出の段取りとしては十分だったでしょう?」

「そうだな。

元から脱出させる予定だったように周到だったがな。

どこまでがイザベラの思い通りだ」

「さあ、なんのことやら」

「・・・まあいい。

それで本題はなんだ。今更反省会だけの用ではないだろ」

「そうね。今後の活動について簡単に伝えに来たわ。いきなり伝えるよりは理解が早まるでしょ」

そう言ったあとイザベラはキアラに合図を出して、キアラは持ち歩いていたアタッシュケースから3枚程度のまとめられた資料をマッケンジーへ出した。

「サピエンス直属の部隊は本部を除いた3ヶ所のアンチマギア生産工場と米国前線の護衛に努めてもらうわ。

でも条件があって、指示があるまで息を潜めておくこと。何があってもね」

「狙いはなんだ」

「率直にいうと不意打ちね。

奴らと正面から戦ってボロボロになってもらうのは地元の一般軍人達。

多くの死者は出るでしょうね。

最悪は施設が破壊されて奴らが余韻に浸ったところを、襲撃して全滅してもらうのがサピエンス部隊の目的」

「犠牲ありきとはいつもの酷い作戦だ。

息を潜めるというのは方法はあるのか」

各施設近くには関係者を避難させるためのシェルターを建設したのだけれど、表向きには別業務優先のため建設計画中断としているわ。これは情報が魔法少女に筒抜けである事実を考慮した結果よ。

そこに潜んでちょうだい。

もちろん米国全線へ通じる地下通路も用意している。前線担当はそこに潜むことになるわ」

「奴らも使いそうだがな」

「だから隠れ方も気をつけてもらいたいわ。

区画地図にない部屋を各地に一箇所ずつ用意しているから、そこに隠れていれば見つかる確率は減るはずよ」

マッケンジーは話を聞きながら軽く資料を見てイザベラへ返事をした。

「お前らしい残酷な作戦だ。
一般軍人はただの時間稼ぎの役。
サピエンス部隊は絶望させるためのトリガー。
そして、いったいどれほどの魔法少女が…。

だがいつまで待つことになるんだ」

「いま神浜では日本の軍艦を集める動きがあるわ。その船団がペンタゴンへ辿り着くかその付近まで来たら合図でしょうね。

奴らは個々の力はあっても数は人類が圧倒的よ。

それを承知で奴らはちまちまとした方法よりもガツンとくる一撃にかけるはず。

最悪は核施設が狙われることも考えないといけないわ」

「奴らにそこまでの度胸があるかだが。

気は進まないが人類の未来がかかっているんだ。今回も前向きに参加するとしよう」

「助かるわ」

「部下達への褒美はしっかり用意しておけよ」

「もちろんよ。

そのおかげでこの休暇中に嫁や子どもとバカンスに行った奴もいるって話じゃない?」

「あああのバカか。

まあアイツらしいがな」

「2日後には業務再開だからそれまではしっかり休んでちょうだいね。

では失礼するわ」

 

私達はトレーニング施設を後にしてホワイトハウスへと向かった。

ホワイトハウスには住民との交流を終えた叔父が疲れた表情で椅子に座っていた。

その目の前にはたくさんの資料が積まれていた。

「今日も案件が多いようですね」

「ああまったくだ。街はキリスト教が禁止されてしまうのかと不安な声を出す住民が多かったよ」

「この国はキリシタンが多いですからね、無理もない話です。

それで、そんなキリシタンのために私を公の場に引き摺り出しますか?」

「冗談でもそんなことは言うんじゃない」

「でも国民からの信頼は命ですからね。

切り捨てるなら消す覚悟がいいですよ。絶対他の奴らが権利欲しさに宗教保守とかほざきますからね」

「人間の醜いところがよくわかるな。だが消せるわけがないだろ」

「ならば堅実に支持を集めましょう。

今度のブラジル訪問時にブラジルをもっと褒めて南米の指導者として後世に自信を持ってもらわないといけませんから」

「2日後だったか。

これまでのブラジルの成果は及第点ではあるが、まだマフィアには甘いようだ」

「マフィアに甘いだけまだいいですよ。そんなマフィア達には合法覚醒剤さえ作れればいくらでもキメていいことにして大金渡してるんですから」

「おかげで愉快犯達の割り出しはできたからいいがな。

やっぱり覚醒剤は」

禁止しても言うこと聞かないんですからビジネスにしてもらったほうが得ですよ。

今までの治安の悪さはなんでも覚醒剤でしたから」

「まったく。

ブラジルがやる気になっているのはとてもよいことだが、覚せい剤の合法化以外に黒人迫害の謝罪を白人が行うという取引材料もあったからじゃないかと思って悲しくなってしまうよ」

「謝罪以外もありますよ。

差別行為は犯罪になるようにして、過去の奴隷の印象を一切無くして同じ人間だという扱いになるよう取り決めることの約束も重要です。

中にはいきすぎた黒人優遇もありますからね。
まあ、全ては今までの白人たちがひどすぎたことが元凶ですが」

「まったく。ブラジルがうまく行ったら次はアフリカだな」

「いい発想力ですね。もちろんですよ」

そう話していると私と叔父の間へキアラが資料の山を持ってきた。

「とりあえず目についた急ぎの案件の資料をまとめてきました。

イザベラ、まだ山のようにあるから期日が近いものから渡していくよ」

「外部向きの案件をさらに優先して。

国内は後回しで」

「わかったよ」

私は目の前に積まれた資料に一つ一つ目を通して急ぎや不要な案件とわかるものは横にはじいて行った。

その中にはブラジル訪問に先駆ける案件も含まれていた。

「なんだこれ、ブルガリア産のコーヒー豆を米国優遇で取引できるよう根回しなんて。

こんなバカな話をする奴がまだいるのですか」

「誰だ、見せてくれ」

叔父が資料に目を通すと近くのコーヒーメーカーに目を移した後に答えた。

「こいつは普段は行儀はいいが、安くて上手いが売りなマウンテンネクストのCEOと繋がりがある奴だ。

ブラジル監視下になったブルガリア経済は南米だけのための資金となるが、以前まではマウンテンネクストに一部横流しされていた。

それがバレるのはやばいからやめて、その横流ししていた分を取引額減少で誤魔化したいのだろう」

「そんなの許可してはダメですよ。

南米の稼ぎは全て南米で消費してもらわないといけないです。

南米の稼ぎを別国が、ましてや米国が搾取してしまうのはもってのほかです」

「わかってるよ。

だがマウンテンネクストは米国内の経済を大きく回してくれる会社だ。

金の周りは悪くなるかもしれない」

「汚い金の根回しで生まれた流れなんていらないです。

潔く切り落として、失業者を見越し、土木建築に熱を入れておくべきです。

保留していた補修工事があったはず」

「日雇いか。

その場しのぎではあるが」

「失業するにはわけがあります。

何でもかんでも国が補助をすることはできないですよ。やりすぎると働く方が損になりますから」

「そうだな。

それは日本を見て思い知っているよ」

「ではこれはきっぱり断りを入れさせてもらいます」

このようにして私達は山のような資料を捌いて行ったが、叔父には途中で席を外して夕飯と就寝をとるよう伝えた。

そして深夜近くまで私とキアラで資料を捌いて行った。

これはよくある対応だ。

叔父には健康体で家族にも力を入れてもらわなければならない。くだらない資料に時間を使うのは私たちだけでいい。

叔父に見てもらわないといけないものがあったとしても私たちが処理してしまう。

ほとんどがそうしてしまっても問題ないものだ。

「イザベラ、本当にペーパーレスにしなくてよかったのか。

これらは突き返した後にシュレッダーにかけられるのだろう?

記録に残るようデジタルでも」

「キアラ、デジタルも便利だしこの程度の内容だけならそれでも問題ないわ。

でも中には2日後のブラジル訪問のような大統領の動向を察することができるものもある。

そういったものをデジタルの海に放り込むと何かの拍子にのぞき見られてロクな結果にならないこともある。

資料がある場所でしかわからないことができるから実物でのやり取りが大事なのよ」

「そんな単純な話かな」

「それに、デジタルにあるだけの情報はその保存先であるサーバが吹っ飛んだだけで復元不能になって消失するリスクがあるわ。
バックアップのためのバックアップとサーバを増やすだけでも大金がかかるだけ。

証拠品ありきの政治世界ではペーパーレスは難しいことなのよ」

「こんなにごみを出す結果も、あとのことを考えれば安いものとみえるか、か」

「ほら、終わらせないと睡眠時間がなくなるわよ」

私たちはせっせと中身を見て、そのほとんどをゴミ箱へ投げるという作業を続けた。

 

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