【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-14 個人が尊重されるということ

これからこの世界では大きな戦いが始まるらしい。
その戦いに参加するのか、しないのか選べとミアラという魔法少女は言っていた。
本当ならばみんなに相談して決めるんだけど、今相談できる相手はいない。

みんな包帯が巻かれて息はしていても目を覚ましてはいない。

いろはちゃん達は説明した後に多くの魔法少女に囲まれて忙しそうだし。

私は考えがまとまらず、晴れた空の下で馴染みのある場所へと歩いた。

以前よりも周囲が少し荒れた道を辿っていると水徳寺に辿り着いていた。
あの戦いがあっても建物は壊れていなかった。

池の近くにあるベンチに座って一呼吸すると誰かが声をかけてきた。

「今時女一族で動けるのはあなただけですか?」

声のした方へ素早く振り向くとそこにはカレンさんがいた。

「カレンさんか。あの様子を間近で見ていたならわかるでしょ?

旭ちゃんは見つからないし、あんなこと言われても1人じゃ決められないよ」

カレンさんは私の隣に座って、両掌を前に出すとカレンさんの掌の上が輝きだした。

すると見慣れた剣の形になってカレンさんはそれを両手で持っていた。

「時女一族の剣!

でもそれを持って行ったのはピリカさんのはず」

するとカレンさんは笑顔を見せてから。

「あの時も気づいていないようですが、今あなたと話しているのはカレンではないですよ」

私は少し悩み、話し方がピリカさんに似ていることに気づいた。

「え、ピリカさん?

いやでも今目の前にいるのはカレンさんで」

「確かに今はカレンの体を借りている状態です。私の体はワルプルガを再臨させた際に失われました。

しかしソウルジェムが無事だったのでこうしてあなたとお話しできています」

ピリカさんは時女一族の剣へ目をやる。

これを静香さんから取り上げたのは聖遺物だからというだけではなく、この剣には信念を貫く力が宿っているからです。

あの時私達は神浜にいる魔法少女の心を折れる状態にする必要がありました。

だから取り上げたのですが、静香さんは考えを変えてくれなかったようですね」

「静香ちゃんは人間の愚かさは理解していたみたい。

でも、日の本を守ることは民を守ることっていう考えは変えられなかったみたい。

静香ちゃんのお母さんの影響もあるかもしれないけど」

「そうですか」

ピリカさんは私に時女一族の剣を渡してきた。

「本当は静香さんにお返しするものですが、今はあなたが適任だと判断してお返しします」

「そんな、私にはそれを持つ資格なんてないよ」

「資格とかいう問題ではありません。

この剣には歴代の時女一族の想いが込められています。静香さんの想いも少しは込められているはず。

静香さんとを繋ぐもの、お守りとして持ってはどうですか?

その影響で私たちを裏切られてしまっては困りますけどね」

「静香ちゃんの、想い」

私は時女一族の剣を受け取った。

それには確かに魔力を感じられ、その中には微かに静香ちゃんの魔力を感じた気がした。

急に私の中に静香ちゃんとの思い出が込み上げてきて私は泣き出してしまった。

わたしの頭をピリカさんが優しく撫で、私は促されるがままにカレンさんの胸で思いっきり泣いてしまった。

「ずっと押さえ込んでいたんですね。

今は強がりも必要ないです。気の済むまで思いを吐き出してください」

相談は周りの子にたくさんした。

それでも私にはみんなを率いていくんだという重圧があった。

こんな思いを静香ちゃんは1人で抱えていたのかと静香ちゃんを尊敬することもあった。

でもそんなことで心が潰れそうになることはなかった。

やっぱり一番心に来たのは静香ちゃんが死んでしまったこと。

あの爆発した瞬間、私の心が壊れなかったことが不思議なくらいの衝撃だった。

それから時間が経ってこうして大泣きしてしまったということは、気づかないうちに胸に押さえ込んでいたのかもしれない。

悲しむという感覚を。

しばらく大泣きしてしまい、気持ちが落ち着くと私はカレンさんから離れた。

「すみません、ありがとうございます」

「いえいえ。

それであなたにどうしたいのかと聞いた手前申し訳ないのですが、貴方はサピエンス本部へ連れて行けません」

「え、どうして」

「貴方では力不足です。

結果的にあなたは静香さんに勝つことができなかった。静香さんは並よりも少し上の実力者でしたが、彼女でギリギリ許されるか怪しいです。

そんな静香さんに勝てなかったあなたが生き残れるのかと言われたら、正直無理です」

「そうか…」

「でも神浜に残る魔法少女にも神浜を守るという役割と、魔法少女だけで生きていける術を探るという役割がしっかりあります。

そちらに注力してもらったほうがいいでしょう」

カレンさんは立ち上がって池の目の前まで歩き、振り向いてこう言いました。

「どうしても連れて行って欲しいのならば、明日船まで来てください。

そんな選択をしないことを、祈っています」

そう言ってカレンさんは高く飛び上がって水徳寺を後にした。

「わたしは…」

手元にある時女一族の剣を見つめながら、私は今後どうすべきか考えることにした。

私にできることは。

 

血の惨劇とは比べ物にならないほどの被害が出てしまった。

ごく一部の神浜に残っていた蛇の宮の子達以外の蛇の宮出身者は全滅、他にも少数の犠牲者が出てしまった。

みんなを殺した張本人はこの手で握りつぶせたものの、皆の怒りの矛先はサピエンスへ向いていた。

私の頭に響いていた二木市の魔法少女達の悲鳴はほぼ響かなくなり、感情の起伏がなくなりつつある感覚さえ覚え始めていた。
そのため神浜を発った時ほどサピエンスを滅ぼすという熱量はなかった。

私達は仲間の遺体を二木市から出る際に使用した列車近くへ集めていた。

遺体は棺桶に入れた後に土をかけて保存することにしている。ここではミイラ化させるほどの道具を揃えられないと判断したやむを得ない処置である。

神浜に放っておくとその辺の魔法少女が容赦なく炎の中へ放り込むか燃やしてしまう。

骨だけでもいいから、二木市へは返してあげたい。

そう思い、船から帰るまでの間に仲間たちは集められる限りの二木市の仲間たちの遺体を集めていた。

私も棺へ収める作業を手伝っていたのだけど、ひかるが声をかけてきた。

「結奈さんそういうのはひかる達がやるっすよ」

「気にしなくていいわ。

こうしていないと、落ち着かないのよ」

「そうっすか」

わたしとひかるはアオの棺桶の前にきた。

「アオさん、危なっかしい時もあったけど一緒にゲームしている時は楽しかったっすよ」

「そうね。あの子は心が弱い上に心の拠り所がゲームになっていたし、心を開く相手が少なかったわね。

私が聞けるようにしてあげるべきだったのだろうけど、叶わなかったわ。

全然ダメね」

「結奈さ、あんまり思い詰めないでよ」

そう言って近づいてきたのはさくやだった。

さくやは樹里の様子を見に行っていたはず。

「ありがとうさくや。樹里の様子はどうだったの」

「サピエンスがどうとか竜ヶ崎のメンバーと盛り上がっていたよ。

結奈、船で聞いた話ってのと関係してるの?」

「あなた達にも聞かせないといけないのだけれど、まずは仲間達の体が腐る前に棺へ入れる作業が先よ。

話してしまったら、それすら手につかなくなるだろうから」

二木市の魔法少女の分だけ棺へ納める作業が完了して私は改めてみんなを呼んで船で聞いた話を伝えた。

その結果は予想外だった。

神浜へ向かう前の二木市の様子とは違って騒ぎ出したのは少数だった。そのほとんどは初期の頃に二木市へ残っていたメンバーだった。

「サピエンスってやつを潰せば二木市に帰られるんだろ?

なら潰しに行くしかない!」

「死んだあいつのために倒しに行かないとね」

そうまわりが騒いでいる中、樹里は冷静だった。

その様子を見てらんかが樹里へ声をかけた。

「あんたみんな集めて言ったこと改めて伝えないの?」

その後に竜ヶ崎の魔法少女の1人が樹里へ話しかけた。

「樹里さん、あんなこと言われた後でも納得できないですよ!

私たちも一緒に」

「バカやろう!」

樹里の怒鳴りに周りが反応して静かになった。

「神浜にいた奴らならわかるはずだ。

サピエンスだかってやつは魔法少女を殺すプロだ。

人間たった1人潰すだけで樹里様と結奈が瀕死になったし挑んだやつに死人も出てる。

そんな奴らが大勢いるような場所に気軽に連れて行こうだなんて言えるかよ」

「あら、珍しく意見が合うわね。あなたにも少しは心境の変化があったのね」

「アオ達の末路を見れば樹里様の癇癪も嫌でもおさまるさ。

戦うことにワクワクもしねぇしよ」

私は武器を取り出して地面に叩きつけた。

「いいかしら。

樹里の言う通り、サピエンスの本部への殴り込みは神浜の魔法少女を潰そうって言った、かつての考えとは比べ物にならないほど慎重に考えてちょうだい。

控えめに言っても自ら死にに行き、地獄へ向かう覚悟がなければ神浜へ残ってちょうだい」

周囲は少しざわつき、竜ヶ崎の1人が名乗り出ました。

「私は死ぬ覚悟ができている。だから連れて行ってくれ!」

樹里はその子へ歩み寄り、胸ぐらを掴んでそのまま殴り飛ばした。

殴り飛ばされた子は受け身を取って口が切れて出た血を拭ってその場で立ち上がた。

「それぐらいじゃ折れない覚悟ですよ」

すると樹里はニヤリと笑った。

「いいだろう、そんなに死にてぇならついてきな!」

「はい!」

その様子を見て二木市の魔法少女達は次々と樹里へと群がった。

そんな中、樹里はらんかを見て伝えた。

「らんか、おまえは絶対連れて行けねぇから残れよ」

「何よ急に、言われなくても残る気だったわよ」

「ならいい。樹里様がいなくなった後を頼むやつがいなくなっちまうからな」

「急に怖いこと言わないでよ」

私はひかるにも残るよう伝えた。

それでも。

「結奈さんそんなこと言わないでくれっす。

ひかるは結奈さん無しでは生きて行けないことを知ってるはずっす

わたしはひかるの飽きやすい性格を思い出した。

願いで私に夢中になって今があるのに、私がいなくなったらそれは生き残れてもひかるにとっては幸せなのか。

「生きて帰られない覚悟があるかしら?」

「もちろんっす。なんなら結奈さんが死ぬくらいならひかるが庇って死ぬっす」

ならあなたも樹里に殴られて立ち上がる覚悟があるか試してきなさい」

「あ、あれやらないといけないんっすか」

「だって不公平でしょ」

私はさくやを探してさくやと面と向かって伝えた。

「らんかだけだと悪いけど不安だわ。さくや、あなたが残って他のメンバーの面倒を見てちょうだい」

「まあそういう結果になるよね。仕方がないね、私は残るよ」

「よろしくねぇ」

「でも結奈、これだけは約束して」

「…なにかしら」

「決して死にに行くことが目的ではないことを忘れないで。今の落ち着きすぎた結奈を見ていると不安で仕方がない。

生きて帰ってくることをゴールにして」

「努力するわ」

賑やかになっている樹里の方から声が聞こえてきた。

「おい!人数が多すぎるんだよ。

結奈も手伝ってくれよ」

「あら、それなら腕力がない代わりにこの金槌で度胸試ししてあげようかしら」

「結奈、冗談がすぎるよ」

こうして二木市の魔法少女達は樹里が殴り疲れるまで起き上がれる者と気絶したままの者を出しながら戦場に赴くメンバーが決まって行った。

 

神浜の魔法少女達はいろはから船での話を聞き、ほとんどの子は参加しようと言い出す子はいませんでした。

「戦いだなんて、神浜が襲われた時だって何もできなかったし」

「なんだったら魔法少女だけで生きる術を探るって方が楽しそう」

「戦いを止めるためには必要。でも絶対私では力になれない」

そう言った意見が出る中、まどかちゃん達も話を聞いていたのでどう判断するのか聞きに行きました。

そこには見慣れない小さな子がいました。まどかちゃん達があの時探してるって言っていた子かな。

「あれ、見慣れない子がいるわね」

「やちよさん、あの時探していた子ってこのなぎさちゃんなの」

「ほんと、あんな大変な時に迷子になるなんて」

「ごめんなさいなのです。

なぎさは怖くて陰に隠れていたのですよ。だからこうして無事なのです!」

「世話のかけるちみっこだね」

「突然いなくなるあんたにも言えるけどね」

そんな賑やかな見滝原の魔法少女達に今後どう行動するのか聞きました。

「私は戦いなんて嫌だから行きたくないなぁ」

「まどかが行かないなら私も行かないわ」

「他に行く奴らがいるんだろ?ならそいつらに任せたほうがいい」

「私もパスだね」

「まあこんな感じで、私達は神浜に残るわ」

「そうですか、わかりました」

話を聞いている中、なぎさちゃんがずっと私のことを見続けていたことが気になっていました。
なぎさちゃんの様子に気を取られている中、まどかちゃんが問いかけてきました。

「いろはちゃん達はどうするの?」

私達は話を伝えようということで頭がいっぱいで、自分たちがどうしようか話をしていませんでした。

私はやちよさんの方を向くとやちよさんが話し始めます。

誰がなんと言おうとみかづき荘のメンバーは神浜から離れることは許さないわ」

まあオレ達が動かなくても他の奴らがやっつけてくれるみたいだしな」

「無理していく必要はない!

私達は私たちだけで生きていくことを考えることに専念だ!」

「あら、頼もしいわね」

こうやって残ることに対して笑顔で話し合っている中、密かにサピエンス本部への攻撃に参加しようとする魔法少女もいました。

 

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