【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-14 売られる側の気持ち

3日前の話になりますが、私は神浜マギアユニオンの会議に参加しているときに十七夜という方の能力によって意識を失っていました。

目を開けたときには見知らぬ場所にいて、そこにいたのは時女一族の方々だけでした。

「あ、目覚ましたよ!」

「よかった、意識が戻ったんですね」

急に景色が変わっていたので私はゆっくりとあたりを見渡していました。

「えっと、頭大丈夫?」

「へ?」

「ちょっとちゃる!聞き方が失礼過ぎます」

「いやあのえっとね、悪気がある言い方じゃなくてね。でも実際に聞きたいのは頭が大丈夫だってことで、あれえ?」

「もう、落ち着いてください」

まあ大体聞きたいことは分かったので。

「大丈夫ですよ。別に記憶が飛んだりとか、変に痛むとかはないですよ」

「それならよかったです。ちゃるが変な聞き方をしてすみません」

「いえ、気にしてないですから」

「中が騒がしいと思ったらピリカさん、目を覚ましていたんですね」

「はい。えっと、時女静香さんでしたよね」

「そうよ。2人もあの場で自己紹介していたし、名前は分かりますよね」

「土岐すなおさんに広江ちはるさんですよね」

「正解!」

「記憶に問題はなさそうですね」

「しかし驚きました。記憶を覗くって言われた瞬間に目の前が真っ暗になったんですから

原因は大方見当がつきます。脳の情報へプロテクトをかけるなんていう芸当ができるのはシオリくらいですから。

それにしてもいつの間に仕込まれていたのか。

この後必死に皆さんから記憶を覗こうとした十七夜さんに悪気はなかったと説得されたのですが、十分に理解していました。

どちらかというと、周囲に誤解される状況に置かれた十七夜さんが被害者じゃないかなという気までしていました。

話を聞いている間に気になったのは、中立地帯と聞いていた調整屋が戦った後のようにボロボロだということでした。

「調整屋って中立地帯だって聞いていたんですがこの荒れ様、何があったんでしょうね」

「実は数日前に調整屋が襲われたんです。私たちは調整屋の壁を壊して出てきた魔法少女を見た程度なんですけど。襲った魔法少女の名前は日継カレンっていう方だそうです」

「確か、神浜マギアユニオンで要注意人物になっている方ですよね」

「でもあの人、悪意で行動しているわけじゃなさそうなんだよね」

「そう、ですか」

カレン、調整屋潰しをするって言ってたけど別れてすぐに行動に移すなんて

でも調整屋は無事だったし、消すなら苦労もしないはず。まさか捨て置く理由があったとか。

[カレン、この建物やばい気配がするよ。呪いが溢れている場所がある]

[本当?]

みんなには見えませんが、近くにいたカンナが私にそうささやきました。

中立地帯で呪いが溢れているってどういうこと?

私は1人でに呪いが強い場所へ進んでいくと調整夜の奥にある個室に入っていました。

「急にどうしたんですか」

「呪いが濃い場所があるんです。ここに」

「え、でも魔女の気配は感じられないよ」

呪いを発するのは魔女だけとは限りません。その卵も例外ではありません。

部屋にあった大きめの扉を開けると、中にはたくさんのグリーフシードがありました。しかしその全容は所々に使いかけのグリーフシードが混じっていたり、中には呪いを集め始めているグリーフシードもありました。

「何これ、グリーフシードがこんなにたくさん」

調整屋は対価としてグリーフシードを求めていると聞いています」

「だとしても多すぎる」

それに管理が杜撰すぎて放置しているだけで周りから呪いを集めている状態です。中立地帯だからといってグリーフシードをストックする場所として使用しているのであれば管理方法の根本から間違っています。

過去にグリーフシードをため込むという事例は見てきましたが、その末路は決まって同じでした。

私は中にしまわれている呪いを半分以上吸い込んでいるグリーフシードをかき集めました。

「ピリカさん?!勝手に持ち出すのは良くないですよ」

このままじゃグリーフシードが呪いをため込んでたくさんの魔女が孵化します。そうなる前にキュゥべぇへ渡してきます」

でもグリーフシードってソウルジェムから呪いを吸い取らなければ大丈夫なんじゃ」

「グリーフシードは魔女の卵です。長時間放置することがないので普通は気づかないですが、少しずつ周囲の呪いをため込むんです。周囲に別のグリーフシードがあれば、連鎖反応で孵化していくなんて事態にもなります」

「そんな」

「手伝ってもらえないでしょうか」

時女一族の方達に協力してもらい、穢れが溜まっているグリーフシードを神浜の外へ持ち出すことにしました。

調整屋のグリーフシードが入っていた扉は閉めておき、神浜の外へと急ぎました。

神浜の外でキュゥべぇを呼ぶとすぐに姿を現しました。

「見た感じ十数個はあるようだね。よくもまあここまで中途半端に残し続けたものだと感心するよ」

「これらの処分、お願いできますか」

「神浜の外から来た君たちは知らないかもしれないけど、神浜の魔法少女で使い切りのグリーフシードを持ってくる魔法少女はごく一部だったよ。
その間どう処理していたのかわからないんだけど、何か聞いているかい?」

「そういえば、神浜の人たちってどうやってグリーフシードを処分しているんだろう」

「教えてもらった魔法少女のSNSで早速聞いてみようよ」

「そうね」

キュゥべぇが全て回収し終わるのを見届けると私たちはその場を去りました。

「ピリカさん、夜も深まってきましたし、よかったら私たちの拠点としてる場所で泊まって行きませんか?」

「え、いいんですか」

「色々お話ししたいこともあるんだよね。他に外から来た魔法少女と話したことがあまりないし」

「迷惑にならなければですけどね」

まあ、断っても野宿だしいいか。

「では、お言葉に甘えてお願いできますか」

「やったあ!」

三人に連れられて着いた場所は水徳寺というお寺でした。

時女一族の関係者が提供してくれた場所らしく、おかげで神浜へ滞在し続けることが可能になっているとのことです

水徳寺でご馳走になったのは、精進料理かと思いきやお肉たっぷりの冷しゃぶでした。

そんな中、和尚さんは1人で精進料理を食べていてなんだか申し訳ない気持ちになってしまいます。

そんな和尚さんから聞いた話は。

美味しいものを目の前にしながらも質素な料理を食べるのもまた修行。しかし今回は肉を焼いていないから、楽しみは半減じゃな」

煩悩の刺激から遠ざけるとはいったいなんなのか、疑ってしまいました。

するといきなり、お寺の玄関を力強く開ける音がしました。

「腹減ったー!お、今日も肉か!」

「これ!お客様がみえとるんじゃぞ。行儀の悪い」

「おっと、これは失礼した。で、この方はどちら様?」

「魔法少女のピリカさんよ。最近神浜マギアユニオンに加わったのよ」

「なるほど、魔法少女だったか」

「でも涼子さん、昨日からどこに行っていたんですか。今日は一緒に行くっていっていたのに」

「それがねぇ、神浜の外から来たという素晴らしい脚を持つ魔法少女と出会って、追いかけ回していたら空腹のあまり、河原で気絶していたんだよ」

「え、もしかしてセルフ絶食?」

「そんなわけないでしょ」

「そんで、目覚めたら口にパンが突っ込まれていたんだよ」

「いやいや危ないでしょそれ」

そしてポケットにはこんな紙が入っていたんだ。

「えっと、

“パン食って帰って寝ろ”

なにこれ?」

「というわけで肉は惜しいがシャワー浴びて寝る。それじゃあね」

そう言って涼子という方はお寺の奥に消えて行きました。

「全く、騒がしい奴じゃ」

「えっと、和尚さんの前で魔法少女の話をして大丈夫なんですか」

「わしら時女の関係者は古くから巫の存在は知っていたからな。別に気にせんでいいぞ」

「あ、巫って私たちの村で言う魔法少女の別名みたいなものね」

「はあ」

食べ終わった食器などを片付けながら、隣にいたすなおさんへ村について聞いていました。

「代々日の本に助力してきた一族ですか」

「たくさんの魔法少女が村から誕生したのも、日の本のためにという本意から始まった行いでした。
しかし最近までは、村を牛耳る神子柴という存在の資金源として魔法少女の願いが売られている状態でした」

「そんな、たった一つの願いが売られるだなんて」

「しかしもうその心配は無くなりました。私たちは、崩れてしまった時女一族再興のためにも、魔女にならない仕組みが必要なんです」

「そうだったんですね」

一族のため。

私も民族のために願った身なのでその一生懸命さはよくわかります

しかし、願いが売られてしまっていたなんて、改めて人の価値観の愚かしさを認識しました。

「私は、大切な民族のために願ったんです」

「民族?」

「北の方を中心とする民族で、戦後一気に人数が減少していきました。
そんな民族の存続のために、私は願ったのです」

「では、遠くからこの街にきた理由は、その民族の方々を守りたいからですか」

「そう、ですね」

「お互い、大切なものを守るために、頑張りましょうね」

「はい、そうですね」

時女一族という方々は、この街の魔法少女よりも強い信念を持って行動しているようですね

でも、私たちの目的の前で、その信念とはぶつからないといけないようです。

「静香ちゃんそこでなにやってるの?」

「え、いや別に」

「ふーん、そうだ!ピリカさん、お風呂空いたよ!」

流れでシャワーを借りてしまいました。

魔法少女になって、代謝の制御というものを知って細胞分裂による死んだ皮膚や汗といった老廃物を一切出さない体になってこういった衛生面に気をつけた行為は水浴び以来でした。

久々に、体に刻まれた記憶を目にしました。

私が脱衣所で体の水を払っていると、偶然、入れ替わりに入ってきた静香さんと出会ってしまいました。

「…見られてしまいましたね。迂闊でした」

「あの、その痛々しい傷の数々は一体」

「時女の魔法少女って、最近まで人に願いを売られていたそうですね」

「すなおが話していましたね。その通りです」

「実は私も売られたことがあるんです。人に。
鞭で撃たれ、殴られ、弄ばれ、そして女の子として大事な膜も破られて」

「もういいです。すみません、きつい記憶について触れてしまって」

わたしは、この人たちには本心を打ち明けてもいい、そう確信しました。

「実はゆっくりお話ししたいことがあります。お風呂でスッキリした後、お庭で話を聞いてくれますか」

静香さんの返事を聞くことなく、私は服を着て脱衣所を後にしました。

月が映る庭にある池を見ながら私は待っていました。

この人たちは、人の黒い部分を体験している。なのに人への不信感を深めないのは、一族の在り方が支えているからなのでしょう。

そう、一度きりの人の黒い感情を見たところで人の価値観へ不信感を持つことはありません。

しかし時が経てば立つほど疑いは核心に変わる。守ろうとしている、この国の、世界の価値観のおかしさに気付いてしまう。

そう、知らないだけなのです。

後ろを振り向くと、そこには静香さんの姿がありました。

「きてくれてありがとうございます」

「話したいことって、なんですか」

「たったひとつの願いを、お金のために売られて人へ不信感を抱いたりしなかったのですか」

「あれはごく一部の人物が行った結果です。みんなが悪いわけでは」

「では、買う側について考えたことはありますか」

「日の本の偉い人たちですか。その人たちはカラクリを知らないだけです。悪意を持ってやっていることではないのでそこへ矛先を向けるのは違うと思います」

「お国のためとはいえ、たった一度しか叶えられない願いを無理やり使われたことには納得いっているのですか」

「それは」

「その願いで得した人は国ではなく自身の保身である可能性や、魔法少女の末路を考えてもその願いは釣り合うものですか」

「なにを、言いたいんですか」

「わたしは、人の価値観を変えるために活動しています。お金が全てとなってしまった、お金に踊らされて狂ってしまった人の世を変えるために」

「ピリカさん、あなたは一体」

「時女一族のみなさん、今一度考え直してください。現状の日の本は、世界は、守るに値しますか。
現状を理解して、懸命な判断をするようにしてください」

静香さんは何か言いたげな顔をしていましたが、震えて泣きそうな顔をこちらに向けているだけでした。

説得できたとは思っていません。

しかしくさびは打ち込めたはずです。これで将来の反動を抑えることができたと思いたいです。

きっと純粋すぎるこの人たちが事実に直面すると、すぐに壊れてしまうだろうから。

「わたしは失礼します。優しくしていただき、ありがとうございました」

わたしはそのまま水徳寺を後にしました。

きっと次に出会う頃には、全てを理解した後でしょう。

 

2-13:BACK
レコードを巻き戻す:top page
NEXT: 2-15