罰の園 1-3 昼夜

この学校の屋上には一度行ったことがある。

しかしあの時の場所とは離れていて、屋上菜園がある場所のさらに隣に離れた屋上がある。
三分割された学校、そういう仕組みらしい。三分割されたうちの真ん中がこの菜園状態になっている屋上。

次の目的地は屋上の端にある床板を外さないといけない。

その前に食料の件を解決しておくか。

 

屋上には4エリアほどレンガで囲われた畑があり、屋上中央には鳥が飛び立つ様子を表したようなオブジェクトがあった。

そのオブジェクトには屋根がついていて、その足元には広げられた扇一つと花が置いてあった。

畑の一つにはタクヤが屈んでいた。
タクヤに近づくと向こうから気づいて不貞腐れた顔でこっちを見てきた。

「遅いぞ。全部俺が掘るのかと思ったよ」

「それでもいいけど」

「ふざけんな、お前も掘れ!」

タクヤがいる場所は既に芋がいくつか掘り出されており、私は二つ奥の葉が枯れた場所を掘ることにした。

黙々と掘っていると芋が数珠繋ぎに出てきた。芋は薄茶色で丸めの形で、芽が少なかった。そして驚いたのは畑に深さがあることだった。

私は収穫を続けるタクヤへ話しかけた。

「この区画全部取るの?」

「ん、いや、葉が青いのは置いとく」

「そう・・・」

私は屋上中央にあるオブジェクトを見ながら呟いた。

「あれはなんなの」

「あん?」

タクヤは私の目線先にあるオブジェクトを見てあれかって顔をしながら教えてくれた。

「あれはウズメ様の祭壇だよ」

「ウズメ様?」

「おいおい、ウズメ様知らないってどんな田舎にいたんだよ。
ウズメ様はこの世界の神様で、この世界の安寧をもたらしてくれていたんだ。
でもある日から消えちまって、入れ替わるようにその辺へ化物が出てきたんだ」

「神様がこの世界から消えたのに、あのオブジェクトが残ってるのはなんで?」

「それは俺もしらね。

大人たちがいつか戻ってくるからって言いながらあのオブジェクトに供物してるんだ。
ただでさえ食料が少ないのに、大人の考えがわからないよ。

お前だってそう思うだろ?」

この世界には神様がいない。

それが事実なのかはわからない。

もし神様がいなくても、この世界があり続けているならば神様がいなくても世界というものは存在できるということになる。

安寧をもたらしてたっていうけど、本当にそうなのだろうか。

私はオブジェクトを見ながらそう考えていた。

「そうだね、よくわからないね」

「そう思うよな!

あーあ、神様どうこう言う前にやることあるよなー」

大人達が神様へ固執する気持ちは何故かわかる。

きっとどうしようもないから縋りたいのだろう。

何故こんな考えが出てくるのかは、私にも理屈では説明できなかった。

そう思えてしまうのだ。

「んじゃ、俺下に運ぶからついてこいよ」

そう言ってタクヤは収穫した芋の一部を持って下へ降りて行った。

私は隙ができたと思い、屋上の端のタイルを調べることにした。

4角全てを調べたが、どこも剥がれる様子がなかった。

映し出された光景と話が違う。

周囲を見渡すと、壊れて破れた柵の先にあるまだ踏み入れたことがない屋上の端のタイルが浮いているのを目撃した。

あっちか。

そう思った頃に後ろからタクヤに呼ばれた。

「来いって言ったろ!そこの収穫した芋をかごごと持ってこいよ!」

仕方がなく私は収穫物を下に持っていくことにした。

また隙をついて屋上に行くか。

収穫物を届けた後、報酬として私には小皿に入ったポテトサラダが渡された。
見た目は黄色一色だが暖かく、バターを混ぜてほぐされている。

「こんな報酬で悪いね。

夕飯の時間になったらちゃんと葉物も出すから」

厨房にいるタケヤの母親にそう言われた。

食べようかという気持ちになったら、食べるための道具がないことに気が付いた。スプーンがないか聞こうか。

・・・

まあいいやと思い私は素手で食べた。別に火傷をすることはなかったし。
手づかみで食べることに抵抗はなかった。食べるための道具を使用したほうがいいという思いはあったけど。

私はポテトサラダを食べた後、食器を洗って乾かす場所であろう網のところへ立てかけた。

そういえば、この世界に昼夜の概念はあるのだろうか。ここにきてずっと外の様子は昼のまま。

気になり、紫髪の女へこの世界に昼夜の概念があるか聞いた。

「一応ありますが、あなたの場合はベッドを仲介する必要があります」

「え、なんで、自然経過とか」

「それは、どうでしょうね。根気よく待ってみても良いかもしれませんよ」

「なにそれ」

私は視界に入った時計を見た。

時計の針は9時を指していた。外は明るい。
今まで過ごしてきた時間はそれなりにあったが、それでも9時?

…この世界は普通ではないようだ。

「ベッドで寝れば昼夜を変えられるでいいのよね」

「そうですよ」

何か行き詰まったら昼夜を変えることも選択肢に入れておこう。

私は再度屋上へ行った。

隣の屋上の端が怪しいので、行く方法を探すことにした。

屋上を囲っている網に破れている部分があるため、そこへ橋になるものをかければ移動できそうだ。

橋になりそうなものを周囲で探したが、すぐに手に取れるものでそれっぽいものは見当たらなかった。

そんな中、屋上にあるオブジェクトの裏側にちょうど良い長さのトタン板があった。しかしくたびれて見える。

その近くのオブジェクトを囲む壁の木板が外れかけていて、それも橋としてちょうどよさそうだ。

私はすぐに持ち出せそうなトタン板へ手を伸ばすと私の頭の中に光景が広がった。

そこにはトタン板を橋がわりに使用して渡ろうとする私が第三者視点で見えた。

橋の真ん中ぐらいまで進むとトタン板はバキッという音を立てて折れ、私は地面まで落下し、地面へ叩きつけられて即死した。

現実の光景へ戻ってくると何を見せられたのかはすぐに把握した。そして思わずため息が出た。

私はこんな2択も外すのか。

私は呆れを力に変えるように外れかけの木板を思いっきり剥がした。

こんなオブジェクトにはなにも思うことはないため躊躇もなかった。
木板は少し重く、橋として架けるには苦労した。

途中で折れないか恐る恐る渡った。

木板は途中で折れることなく、隣の屋上へ移動することができた。

屋上にある階段へ繋がるであろう扉には鍵がかけられていた。下へ降りるには予定通り端のタイルを外していくしかないようだ。

目的の端にある外れかけのタイルを除けると、誰かが意図的に開けたような穴があり、躊躇わず私はそこを降りた。

降りた先は廊下で、足元には化物の足跡がついていた。そして廊下の先から声が聞こえた。

「ダレカイル、ダレガイル」

声は人間に似ているが、どこか声帯を頑張って再現しているかのような人外の片言の雰囲気に似ていた。

どこかに隠れようとしたが、隠れ場所はなく、開かない屋上へ繋がる扉まで下がるしかなかった。

化物の足音は近づいてきて、ついに化物が視界に入ってしまった。

「ヨコセ!」

そう言って化物は私の頭を強く掴んだ。

頭を潰される時の痛さ。

頭痛のような内部での激しい痛さとは違い、外から加わる圧力で、神経がどうしようもないのに痛い痛いと警告を脳内へ伝えてくる。

なかなか死なせてもらえず、私はこの世界に来て初めて肉体的な苦痛を味わっている。
苦痛から逃れるために私は頭をつぶそうとする化物の腕をはがそうと掴んで力を入れても、びくともしなかった。

「カタイナ…」

そう聞こえた後、私は階段に叩きつけられるところまでは覚えていた。

 

私は紫髪の女の前で立っていた。

私は思わず頭を触って頭蓋骨が砕けていないか確認した。

私は再び死んでしまったようだ。

屋上へ行くと隣の屋上へ板が渡されていなかった。しかし屋上で芋が回収された後ではあるようだ。

状況をおおよそ把握し、再度オブジェクト付近から木板を回収して隣の屋上まで再度移動した。

今度は化物が出てきた方向へ駆け抜けてみるか。

下へ降りて急いでその階にある部屋へ向かった。手前の部屋には化物がいると思い、一つ奥の部屋へ入った。

しかしそこには化物が二匹いて、こちらを向いてすぐ首を掴まれた。

その後は首をぽっきり折られ、再度紫髪の女の前にいた。

きっと今の状態で向かってもすぐに化物に見つかってしまうだろう。

状況を変える方法としては、昼夜の変更だろうか。

私は視界に入ったタクヤの母親へ寝ることができる場所はどこか尋ねた。

芋を運び込んだ部屋、そこは調理室と呼ばれているようで、そこを出て右へ進んだ先にある左右にベッドが並べられている部屋がある。廊下を向いて左側にある教室内に空いているベッドがあるからそこを使うといいと伝えられた。

その教室内は廊下で見かけなかった老人や赤子を抱えている女性がいたりした。

各ベッドの上や周りには私物が転がっていて、ベッドしかない窓際にある一箇所がよく目立った。

私はそこへ横になった。

 

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罰の園 1-2 乖離

階段で1階まで降りると窓があった場所はスクラップで防がれていて、左右に伸びる廊下は階段を降りて踊り場ほどのスペースしかないようにバリケードで防がれていた。

さて、どっちのバリケードを超える必要があるか。見た光景では方向がなく、バリケードの先ということしかわからない。

廊下の様子についての情報もなかったし、2択になってしまった。

どっちが正しいのか悩んでいると、なぜか左という気持ちになった。

右に行くと、何かに押しつぶされると思った。

なぜかはわからない。

左右のバリケードは上部分に少し隙間があり、私の体であれば通り抜けられる。

右側の隙間から見えるバリケードの先の天井を見ても、何も仕掛けられていないただの天井だった。

左側も同じだ。

「勘を頼るか」

私は左側のバリケードを乗り越えることにした。バリケードをよじ登り、上の隙間を通り抜けてバリケードの反対側へ辿り着いた。

その後は何も起こらなかった。

バリケードの反対側は長い間使用されていないのか、床は綺麗にホコリを被っていた。

窓には板が打ち付けられていて、その隙間から光が差し込むくらいしか光源がなく、奥が見えなかった。

明かりがないと進むには危険だ。

「どうしようかな」

いっその事板を剥がしてみようか。

そう思って、手軽に剥がせそうな板を一枚剥がした。

板を剥がすと光は差し込んだが、窓の先にいた化物と目が合ってしまった。

あ…。

そう思った頃には化物が窓を割って入ってきた。

私にはその時に飛び散ったガラスが刺さり、その後は頭を掴まれて床に叩きつけられた。

気がつくと紫髪の女が目の前にいる状況に戻っていた。
なんとなく何が起きたかわかった。

私は紫髪の女に聞いた。

「今はどこまで進んだ状況?」

この問いには紫髪の女の隣にいる短髪の男の子?が答えた。

「下の階のバリケードを越えられていないところだよ」

「そう…」

私は死んだらここに戻っていたようだ。

バリケード前の見覚えがある光景は、このせいだったか。

 

バリケードを越えたところまで戻ってきた。

外に化物がいるのはわかったから、室内の光源を頼るしかない。

廊下を見上げると蛍光灯はあるものの、それをつけるためのスイッチは視界に見当たらなかった。

廊下も頼ることができなかった。

左側には部屋があり、少しだけ板から漏れる光で室内を覗くことができた。

引き戸を開けると、何かが入った箱はあるものの、ぱっと見で光源になりそうなものは見当たらなかった。

もう燃やすでもいいから光源が欲しい。

箱の中を漁ることにした。

紙とは少し違った材質で、釘の跡もないのに正方形を保っている箱の蓋を開けると、そこには布しか入っていなかった。

火口には使えるだろうか。

次に見つけた箱を開けると、どんぐりより一回り小さいガラス製品とコイルのような金属部品が入っていた。

ジャンク品と呼べるものだろう。その中に蛍光灯のような明るく光るようなものはなかった。

さらにもう一個の箱は、ガムテープで蓋が塞がっていた。

爪で剥がそうとしても全く剥がれる様子がなかった。

…さっきのジャンクで切れるものあるかな。

比較的鋭利なジャンクを見つけ、持つ部分には見つけた布を巻き、蓋の溝に沿って切れ目を入れていった。

まるで缶切りで缶を開けるようにいちいち力を入れないと溝に沿った切り口をつけられなかった。

そんな厳重に閉じられた蓋がやっと取れ、中には棒のように細長い長方形の物体が入っていた。

その長方形は先端部分を見ると軸のようなものがあり、回転させるギミックがあるようだ。

回してみると、外装の長方形部分の一部が動き、軸の発光している部分が顕になった。軸は発色に発光していて、周りがよく見える。

すごい魔法道具みたい。

・・・魔法?

ふとこの世界にはない概念の話が頭によぎったことを不思議に思った。

何はともあれ光源が見つかったので暗い部分も歩ける。

箱の中にまだ何本か合ったが、手に取った1本だけを持っていくことにした。

廊下へ戻って再度目標を整理した。

青い光を探すために、この階にあるはずのボールがたくさんある部屋を見つける必要がある。

ボールがたくさんある部屋にピンと来なかったので、とりあえず各部屋を探すことにした。

ボールがたくさんある部屋にはどのような役割があったのだろう。

ボールには浮かばせて道の妨害に使ったり、相手にぶつけたりということくらいしか思いつかないけど。

そう考えていると黄色い球が目の前に現れて光ったかと思うと何かの光景が脳内に映し出された。

その光景の中には2グループに分かれた人々が礼をしたあと、笛を合図に中央に置かれた茶色のボールを取り合った。

ボールは持って運ぶのではなくいちいち地面にバウンドしながら敵陣地へ切り込んでいき、敵陣地奥の高いところにある網へ茶色のボールを投げ込んだ。

そこへ入っただけで周囲は熱狂している様子だった。

「なんだこれ…何かの模擬戦?」

「これはスポーツだよ」

「え、誰だ」

「君はこの世界の考えには疎いから、私があなたにこの世界の知識を補足してあげる。

この世界にあるスポーツというのは、戦争に使うのではなく、戦争とは縁遠い国で行われる娯楽だよ。

元ネタは戦争が元になっているけど、相手を殺さない争い事として考えだされたのがスポーツだよ」

「戦争する理由をなくなっても争いにこだわるとは」

「…そのスポーツにボールが使われることが多いから、体育館というワードの近くにある部屋を探した方が良いよ」

「ねえ、あなた明るいんだから光源代わりになってよ」

「ダメだよ、この世界にあるもので解決していかないと。
それに私の役割は導きだし。じゃあ頑張ってね」

景色は暗い廊下に戻っていた。

なんなの、私何かに試されてるの?
あの光り、導きという癖に目的地を明確に示さないし。

それにしても、自分の考え方がこの世界と一致しない。

私はもともとこの世界にいなかったということ?だとするとどこからどうやってこの世界に来たのだろう。

そう考えていると、どこからか化物と思われる雄叫びが聞こえた。

…考えことは安全な場所ですべきだ。まずは体育館の目印を探そう。

部屋ではなく今度は体育館の場所を示す看板を探すことにした。

廊下を歩いていると、左右に引き戸になってる大きな扉がある場所が終点となっていた。その扉の上には体育館とはっきり書かれていた。

体育館の入り口と思われる扉には鉄板が打ち付けられていて中へ入ることはできない。扉の隙間からは血が滲み出ていて、扉の向こう側で何が起こったのか想像できてしまう。

匂いは…嗅ぐ気にはなれなかった。

ずっと埃に塗れた空間にいるし、あまりこの辺の空気は長く吸いたくない。無意識に息も浅くなってしまう。長時間いると酸欠になってしまいそうだ。

この付近に目的の部屋があるはず。

体育館に向かって左側の部屋につながるドアを開けると、ボールが沢山あった。

「ここかな」

そんなに広くない部屋で、一番奥にあるボール入れの中から青色の光が淡く見えた。

光に至るためにはボールが邪魔だったのでいくつか外に出し、やっと青い光を見つけた。

青い光は自由になると浮き上がり、私の中へ入ってきた。

その後、再び私の中にこの世界ではない光景が映った。

====

前に見た光景で出ていた人物が玉座に座る存在へ話しかけていた。

「・・・様、クゥドルが落ちました。

ゴンドワがこちら側についてくれたことによる勝利と言えるでしょう」

「そのような戦果報告は魔王へ伝えるだけで十分なはずだ。何か気になることでも?」

「…ゴンドワはクゥドルの中にいたまま魔族となり、我らへ貢献しました。

クゥドルは黒魔法の素質を検知次第直ちに追い出すという白魔法主義が行き過ぎた都市。
そんな場所に魔物が入り込めばすぐに追い出されるはず。

しかしゴンドワはクゥドルの城内で暴れるまでは黒魔法の検知が一切されなかったと言います。

…様、ゴンドワと接触しましたね?」

「なんだい、私が外を出歩こうが自由じゃないか」

「やはりですか。魔力の隠蔽はあなたの得意技ですものね。神格であるあなたはここにいてもらわなければ皆が心配します」

「ここに座っているだけではつまらないんだよ。ここにいたところで皆に何かできるわけでもないのに。

それなら外へ出て自ら強そうな奴を堕とすほうが楽しいに決まっているじゃないか」

「人間達に見つかった時のことも考えて行動してください」

「生じた混乱は魔王の方に処理してもらうさ」

「まったく、魔王 デルトロク様に怒られても知りませんよ」

「ふんっ、リースウェルに変わってこの世界の神となるためにも下界の出来事を見聞きすることは重要なんだ。

下界からの報告を聞くだけならリースウェルと変わらん。聞くだけで何がわかるというんだ」

「それはごもっともですが」

「今に見ていなさい、私がリースウェルを討ったあとは神あり方も変えてやるから」

私は何を見せられてるんだ。

分からない地名、分からない人名。

何も分からないこの光景を見せて私に何をさせたいんだ。

「この光景は回想の主人公にとって大事な行動理念が映し出された一幕だよ」

声の方向には黄色い光が浮いていた。

「導きの光か。回想の主人公にとって大事だったとして、それが私に見せられているのはなぜなの。私があれになれとでも言いたいの?」

「さあ。すべての光がそろえばわかるかもね」

====

回想はここで終わった。

この回想の主人公・・・まさか私なの?

いや、だとしたらなぜその頃の記憶を何も思い出せないの。

そう考えていると黄色の球が体から出てきて、目の前で光ったかと思うとどこかの光景が映し出された。

屋上の端っこにある床板を外した先。

化物も歩くくらい通路を進んで行った先にモニターがたくさんある部屋がある。

次の目標はそこのようだ。

黄色い光が体に引っ込んだ後、灯りをつけながら来た道を戻った。最初は埃しかなかった道には私の足跡がついていた。他に足跡はなく、化物が知らないうちに入り込んだというのもなさそうだ。

バリケードの反対側へ戻った時だった。

「お前、何やってんだ」

階段の上には腕を組んだタケヤがいた。

出てはいけないとこへ出ていってしまったことが知られてしまった。目的を話すわけにはいかないし、変に大人達へ知らされても困る。

答えに困っていると、右手に持っていたライトをタケヤへ見せた。

「灯りを、探していたの。バリケードの先にあったよ」

タケヤは階段を降りてきて、私が持っていたライトを奪った。

タケヤはライトを回すと蓋がされて消灯する仕組みに驚きながらも、見つけてきたライトを珍しそうに見回していた。

「これ、まだあったか?」

急に聞いてきたので私は無意識にうなづいてしまった。

そう言うとタケヤはニヤリと笑って奪ったライトを返してきた。

「俺にいい考えがある。

任せろって、チクるわけじゃないから」

そう言ってタケヤが上に戻った後、武器を持った大人2人と一緒に降りてきた。

「全く、タケヤと同じワンパクだったとはな」

1人の大人がこっちをみながらそう呟き、タケヤと一緒にバリケードの向こう側へと移動していった。

そのあとは私の持っているライトと同じものが10本程度、そして電子部品と呼ばれるものとボトルに入った数本の水が見つかったという。

「バリケードの向こう側へ勝手に行ったのはいただけないが、これは嬢ちゃんの手柄だな。助かったぜ」

見つかった物資に群がる男の1人がそう言った。

タケヤが近づいてきて私に話しかけた。

「外の探検に興味があるならそう言ってくれよ!一緒にやろうぜ!

タケヤの後ろに1人の女性が立ち、軽くタケヤの頭にゲンコツを入れた。

「何言ってるんだい。あんたの悪ふざけに別の子を巻き込むんじゃないよ」

「母ちゃん、友達できたんだからいいじゃん」

「やっていいことと悪いことがあるって言ってんの」

どうやらあの女性はタケヤの母親っぽい。

私は親というのを知らないけど、いたらあのようなやりとりもあったのだろうか。

2人の話を聞いていると、私の腹の虫が鳴いた。この世界で初めて空腹を感じた瞬間だった。

「なんだい、腹が減ってるのかい。

悪いけど今は食料の在庫が乏しいんだ、2人で上の畑で芋を回収してきてくれないか」

「え〜なんで俺も」

「取らないと今日の夜は飯抜きだよ」

「そりゃないよ」

そう言いながらタケヤは上に続く階段を登っていった。

私はタケヤの母親へ食料事情を聞いた。

「食料が足りないって話、本当?」

「ん?残念ながら本当の話さ。

節約してきた非常食はほとんどなくなって、屋上菜園が頼みの綱になっている状況さ。

外と連絡が取れないと、冬を越せる気がしないね」

外との連絡

この世界でここ以外に住んでいる人間はいるのだろうか。この世界で暮らすしかなくなるなら、少しは気にしたほうがいいかもしれない。

そう考えながら私は紫髪の女性のところへ向かっていた。

「どうしたの、探し物で困ったことがあった?」

紫髪の女性の隣にいる少年?が話しかけてきた。

「いや、あなた達に話しかけたほうがいいと思っただけ」

「そう。その考えは正しいから、探し物が見つかるたびに話しかけにきたほうがいいよ」

「わかった」

そうしないと死んだ時に困る、そんな気がした。

さて…

私は屋上へ向かった。

 

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【自作小説】罰の園(R-18G)

「私は何者に生み出された?何のために存在している?」

 

かつて神がいた世界。
その世界では原因不明の現象で神が消え、代わりに異世界の化物が世界を蹂躙する終末世界となっていた。

そんな世界で目を覚ました、自分が何者なのかが分からない少女。

その少女は各種の光の玉を集めることで、自分の謎を知ることになる。

 

この作品にはグロ要素、そして一部の話では性的表現が出てくるR-18Gな作品となっています。
該当する話の横には「グロ注意」や「R-18」といった表記はしますが、全体的に未成年には不向きな内容となっているため閲覧は十分にご注意ください。

 

 

1-1 遭遇

1-2 乖離

1-3 昼夜

1-4 惨状 ※グロ注意

 

 

罰の園 1-1 遭遇

グチャリ

カチッ ピッチュチュクリ

消えようとする意識の中でかろうじて聞こえてしまった謎の音。
その正体は第三者視点でしか確かめようはないが、きっと何かを貪る音なのだろうというのは、生前直前に起きた様子から想像は出来た。

私の直前の死因は、化物に頭がい骨を砕かれたからだ。

 

突然の出来事だった。

逃げ場もない部屋に、いきなりあんなものが入ってくるなんて…

 

 

薄暗い部屋

ここは少し埃っぽく、日の光はほとんど入ってこない場所のようだ。

私はこの部屋で目覚めた時、少々汚れたベッドに寝ていた。

ここはどこなのだろう

なぜこんな場所で寝ているのか、私にはわからなかった。

でもこの部屋でこれから起こるであろうことはなぜか察していた。

体を起こすとしっかりと手足はあり、自らの意思で動かせる体であることを確認した。
無意識に頭を触り、頭がい骨が割られて既に脳みそが見えてしまっているような状態ではないかを確認してしまった。

しっかり頭がい骨は脳みそを保護している。髪の上からしっかり確認できた。

夢…だったのか?

既に靴を履いている足を床に下ろし、ベッドに座る形でドアの方を見た。

ミシッ

この部屋で聞こえた環境音。

外では何か重々しい人ではない足音が聞こえた。

隠れなきゃ

私はその場で立ち上がり、周囲を見渡すと隠れられそうな場所は二箇所あった。

「ロッカー」と「ベッドの下」

私はベッドの下へ隠れた。

なるべく壁側まで体を寄せようとモゾモゾしていると、それは器用にドアノブの扉を開いて入ってきた。

足の形状は見ることはでき、爬虫類のように鱗状で爪は鋭い。そして二足歩行。

そんな化物はロッカーを乱暴に開けた。

その瞬間に私の脳内には、ロッカーに逃げてしまった場合の結末が再生された。

化物はトカゲのような顔をしていて、私の首へ掴み掛かる。

その後私を持ち上げてもう片方の手で頭をつかみ、人外な腕力で頭がい骨を割られてしまった。

なんてなっていたんだろうな。

化物は力強くロッカーを閉じ、ゆっくりと部屋を出ていった。

物音がしなくなるまで私はベットの下にいて、周囲が静寂した頃にベッドの下から出た。

「あれはなんなの」

私は部屋を出て廊下と思われる場所に出た。

廊下は窓が並べられており、ところどころのガラスが割れて床にガラス片が散らばっていた。

それとともに赤黒い液体だった跡も床には残っていた。

窓の外には明るいにもかかわらず、暗い雰囲気の光景が広がっていた。

見える町からは煙が数本伸びており、中には崩れた家も見えた。屋根の上にはさっきの化物みたいなやつが登っている場所もあった。

どうすればいいんだろう

そんな考えは浮かばず、私は何かに吸い寄せられるように廊下を歩いていった。

すぐに見えた階段をどんどん登っていき、あの化物にも出会うことなく屋上へ出ることができた。

屋上は風がなく、誰もいなかったが広い空間に白く光る球が浮いていた。

一体何なのかと近づくと、白く光る球の方から私に近づいてきた。

近づいてきたと気づいた頃には白く光る球は私の体に吸い込まれていた。

脳内にはいきなりどこかの光景が浮かび上がった。

今登ってきた階段を2階まで降り、右側へ進んでいくとバリケードがある。その隣の部屋には広い空間があって人がそれなりにいた。

ここまで見えて脳内の光景は消えてしまった。

「行くあてもないし、そこまで行ってみるか」

次は見えた光景の場所まで行くべきだ。私の頭はすっとそうすべきだと理解していた。それに疑問を抱くことはなかった。

私は2階まで階段を降りた。

道中であの化物を見ることはなかった。しかし襲われたあとであろう血痕や肉片が落ちていた。

そんなものを顧みずにバリケードの前までたどり着いた。

バリケードは何者かに引っ搔き回された跡があったものの、奥から鉄板を何重も重ね合わせているのか、奥は見えなかった。

バリケードの奥からは人の声が聞こえた。何か情報を手に入れたいけど。

「ここからどうしようか」

「あれ?誰かいるのか?」

右の部屋からそう聞こえた。

そこには同じ背丈ほどの男の子がいた。

左手には包帯が巻かれていて、額右側には大きめの絆創膏が貼られている。しかし服はそこまでボロボロではなく、整えられたTシャツを着ていて短パンを履いている。

「もしかして街から逃げてきたのか!」

「いや、気づいたらこの建物にいた」

「え?そんなことあるか?

まあいいや、外部の人間なんて久々だよ!」

喜んでいる男の子に対してバリケードの奥から低い男の声が聞こえてきた。

「タクヤ、外で騒ぐな!

あいつらが寄ってくるから中入れ!」

「わかったよ!

ほら、お前も来いよ」

そう言ってタクヤは私の手を引いて部屋の中へ連れて行った。

部屋の中にある本棚は引き摺った跡があり、タクヤはその本棚を横にずらし始めた。

本棚の後ろには人が通れるほどの穴が空いていた。

「ここを通っていくんだ」

そう言ってタクヤは穴の奥へ入って行った。

私もそのあとを追ってバリケードの奥へ入ることができた。

バリケード側の壁にはハンドルがあり、それをタクヤが回すと、本棚は元の位置へ戻って穴を塞いだ。

そうしている間に1人の見たことがないものを持った男が近づいてきた。持っている者は剣よりは長く槍よりは短い。
しかし先は鋭くなく、なぜか細い筒が付いている。よく見ると引き金が付いている。この世界特有の武器なのだろうか。
そう考えていると男がタクヤへ話しかけていた。

「タクヤ、生存者がいたのか!」

「そうなんだけどさ、こいつ気づいたらこの学校にいただってさ」

「そうか…」

男は私の目線へ合わせるようにしゃがんで話しかけてきた。

「ここへ辿り着くまで辛い思いをしただろう。

思い起こさなくていい、今はここで落ち着いて行ってほしい。

私たちは君を歓迎するよ」

「はい…」

「俺がここ案内してやるよ!

お前、名前は?」

名前

そう聞かれて思い当たる単語は思い浮かばなかった。

まず自分が何者であるのかも知らない。

私は思わず尋ねてしまった。

「ナマエって、なに?」

「は?普通父ちゃん母ちゃんにつけてもらうだろ」

「そうなの?全然思い当たらない」

「んじゃなんて呼べばいいんだよ」

「さっき『お前』って言ってたでしょ?そうやって呼びやすい言い方でいいよ」

「ええ…いいならそうするぞ」

そう言ってタクヤは階段を登って行ってしまった。
近くにいた男は、再びバリケード近くの監視に戻ったようだ。

バリケードの内側を見渡すと人がそれなりにいた。

上下階段近くで座って俯いている老人

廊下で立ち話する女性2人

近くの部屋で食料を管理している男3人

そして周りと雰囲気が違う2人

ここに来たところで私はどうしたら良いかわからない。屋上にあった白く光る球に導かれるようにここへ来た。

そんな中で私は周りと雰囲気が違う2人へ近づいて行った。

紫髪の女の前で、私には白く光る球と似た何かを感じた。

女の隣で男の子?と思われる人物が紫髪の女の袖を引っ張っていた。

しかし紫髪の女は特に反応を示さなかった。

何か言いたげな男の子?はこっちを困った顔で見ていた。

こんな状況、気になって仕方がない。

私は紫髪の女へ話しかけた。

「あなた、光る玉を持ってる?」

「今回は少しもたつきましたね」

そう言って紫髪の女は槍を出現させて石突を床についた。

その後、周囲の時間が止まった。

これに似たものになぜか覚えがあった。そのためあまり驚くことはなかった。しかし聞かざるを得なかった。

「いったい何をしたの」

「怪しまれないよう細工をしました。

手短に話しましょう。

私はあなたが言う光の玉を持っています」

紫髪の女は袖から黄色に光る玉を取り出した。

その光の球は浮かび上がり、私の体に吸い込まれて行った。

その後、知らない光景が脳に浮かび上がった。

====

城の中にいるようで、目線の先には玉座があった。その王座には長髪の角が生えた人ではない存在が座っていた。

紫色の装飾が多い中、青白い光が部屋を照らしている。

玉座に座った存在についての情報が、脳内に流れてくる。

-私は生まれた時からここにいた。

-通常の生物学でいう成長の過程を経た記憶がなく、いつの間にかそこにいた。

-しかし生まれたての赤子と違って自分が何者かということはわかっていて、生きる目的も設定されている。

-何者かに作られ、設置された存在。

-そんな違和感に、この世界の者は誰も追及しようとしない。

「—様、いかがなさいましたか」

玉座の存在の前には、自分より背が低い青肌の男が立っていた。

あれ…なぜ今話しかけられた存在が『自分』だと認識した?

この光景が、自分の見ている、または見た光景だとなぜ思えた?

見える光景は自分の意思に関わらず進んでいく。

私はああいう高いところから指示を出すだけというのは性に合わない。周りの奴らがそうしてほしいと言うからやっているが、私は直接強い奴と会いたいのだよ」

「魔族にとってあなたは希望です。

そう簡単に前線へ出られて傷を負うものなら皆が心配してしまいます」

「人間の神でさえ玉座に座らないと言うのに。

まああいつは上から見ているだけの臆病者だからなおのこと鬱陶しいが」

「象徴という役割も大事ですよ。

強そうなものはしっかりここへ誘導差し上げますから」

「それだけでは足りないな。

しっかり黒魔法に染まって白魔法を裏切ってもらわないと。

私はそのためにいるのだから」

====

この後、元の世界の光景に戻り、今いる場所を1階まで階段で降りて、バリケードの先にあるボールがたくさんある部屋に青色の光が見えた。

気がつくと紫髪の女が目の前にいる状況に戻っていた。

「なんなの、見えた情報が多すぎる」

「まずは見つけるべきと思うものを探してみては?

見た光景の続きが見えるかもしれませんよ?」

紫髪の女は何を知っている?

「あなたは何を知っているの?」

あなたが見つけるべきものをある程度見つけれたら教えてあげます

早く教えても無意味になりますし」

「なんなの…」

紫髪の女が持っている槍の石突を床につけたことで再度周囲の時間が動き始めた。

時間が動き始めたと同時に、紫髪の女は槍を隠したのか持ってはいなかった。

「時間が戻ったの?」

そうとしか思えなかったので、紫髪の女にそう聞いてしまった。

「どうでしょうね」

とりあえず動こう。
動かず時間が過ぎるだけでは朽ちる以外に未来が無い。動いて私が何者か、何をすべきなのかを見つけないと。

とりあえずあの青い光を探すことにしよう。あれを見つけることが、現状を打開する最短の存在なのだろうから。

 

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-18 次元改変の末路

「おーい、もしかして中にいるのはカミオカか?」

カミオカと呼ばれる男は回転椅子を声がした方向へ向けた。

「なんだ、とっくにみんなは帰ったぞ」

「また最後の1人になるまで研究所にいたのか。早く帰るようにしないと、カミさんと子ども達が泣くぞ」

「ふん、学院研究所からの依頼物について納期が近いから当然だろ。納期を守れないと家族の今後にも関わるんだ、こっちを優先するに決まってる。

で、お前はなんで戻ってきた」

「そうそう、その依頼物関連でさ。

熱心にやらなくてもいいのに、また1人で馬鹿正直に頑張ってるんだろうって思ってきただけさ」

「お前も他のやつらと同じく平和ボケしたのか?納期を守れないことがどれほど重罪かお前ならわかるだろ?」

「昔は経費削減と首に関わることだったからな、納期の遅延は。
厳格じゃなくなった今でも納期の遅延は研究者にとって恥であることはわかっているさ」

「だったら手伝え。

タービン機構からの脱却なんて無理難題に、ピストン機構の応用とかいう苦しい言い訳を書く知恵を貸せ」

「別に新しい発見じゃないことくらいみんな実感してやってるさ。

磁石とコイルの組み合わせで生まれる電子の動き以外で効率よく電子を制御する方法なんて西方国協会でも見つけられねぇよ」

「愚痴ではなく言い訳を考えてくれないか」

「愚痴じゃなくて助言をしたつもりだが」

その後時間が飛び、カミオカが自宅へ到着したシーンへ変わった。

戸建ての家はまだ内部が明るく、人が動く様子があった。

カミオカが玄関を通ってリビングへ行くと、妻と兄妹がみんな起きていた。

その様子にカミオカは驚いていた。
なぜならこの時間は次の日へ日付が変わってしまう時間帯であったからだ。

「おいおい、みんな揃って夜更かしなんてどうした」

「あなたにすぐに伝えたいニュースがあるからよ」

妻がそう言うと兄のコトアキがカミオカの前で大喜びしながら伝えた。

「父さん!学院研究所の試験に合格したんだ!」

「本当か!それは大ニュースだ!

コトアキが頑張った結果だ。父さんは嬉しいぞ」

学院研究所は通常の筆記試験、論文提出後の合格が必要となり、ここ東陸連合の中でも最難関の就職先とされている。

家族全員はその興奮で寝られなかったようだ。

みんなが笑顔の様子が映し出された後、再び日が飛んでカミオカは自宅でテレビを見ていた。

テレビには西方国協会が新原理でエネルギーを得られることを発表したと報道されていた。

西方国協会はアリザという新人研究員が発見したと報告した。

とあるサンプルの鉱石同士を液状にして混ぜ合わせると、原子同士が周囲の電子を吸収しながら近づき、衝突すると吸収した分の電子を放出しながら離れる。

そして再び原子同士が電子を吸収しながら引き合うという反応を繰り返す。

衝突するまでに必要な電子を初動で供給しなければいけないが、その後は電子の流れが途絶えないという。

サンプルになった鉱石をアリザという研究員がどこから持ち出したのかは極秘とされ、現在は類似する鉱石の採取場所を西方国協会では調査中という。

「とんでもない天才が現れたものだ」

カミオカがそう呑気に呟くと、隣で一緒にテレビを見ていたコトアキが休みだというのに電話で呼び出され、学院研究所へ急いで向かった。

きっと論文が共有されて、サンプルの調査依頼でも出されたのだろうと予想できた。

いつこっちにも依頼が来るのかと休みなのに心が休まらなかった。

再びシーンが飛び、カミオカは研究所の一室で所長と複数院研究員同士で会議をしているシーンになった。

それなりに時間が飛んだのか、最初のシーンに出てきた同僚は40代の見た目になっていた。

「西方国協会だが、学院研究所のリーク情報によると、どうやら技術の独占をするようになったと報告があった」

そう所長が伝えると1人の研究員が発言した。

「そりゃそうでしょうよ。

サンプル鉱石に合致するトロデウト鉱脈が見つかったらそれをどう扱うか情報公開せずにしばらく経たずにどんどん新技術の発表が出ていますから」

「火力発電所の取り壊しを進めてるっていうのも、そういうことでしょう」

最近は技術共有がされない限りトロデウトの持ち出しを西方国協会へ禁止するとか議論もされていたな」

会議室がガヤガヤしだすと所長は大声で話し出した。

「いいかお前たち!これは一大事だ!

西方国協会の新技術は軍事転用が可能なものも多い。

奴らは横暴になっているし戦争も想定しないといかん」

研究員たちは黙ってしまい、しばらく沈黙した後に所長が話し始めた。

「リーク情報と共に学院研究所からこのような依頼が届いた」

そう言って所長は机のど真ん中へ書類を出した。

書類の表紙には目を疑う文字があった。

『ニュートロンの兵器利用 水爆開発』

これを見てカミオカは言葉を発した。

「所長、水爆は我々が実用化目前で凍結されていたもののはずです。

それを再開しろということは、よっぽどなのですか」

「言いたいことはわかる。

東陸連合で扱う兵器は、今では西方国協会へ歯が立たないだろう。

東陸連合が唯一誇れるのはニュートロン技術だけだ。

抑止力で終わればいいが、最悪使うことも考えて実用化させなければいけない」

1人の研究員が頭を抱えながら所長の後に話した。

「俺たちが本領発揮できるのはいいですけどね。分厚い資料ってことはこれまで以上のものを求めてるってことですよね」

「中を見ればわかる。要求値が高いから骨が折れるぞ」

シーンが飛び、研究所の休憩室にあるテレビが映し出された。

そこには西方国協会で謎の失踪事件が増えているという内容が報道されていた。

カミオカの同僚がニュースを見てカミオカへ話しかけた。

「西方国協会、人攫ってやばい実験始めてんじゃないか。あいつら物質転移とかあり得ないことも実現させてたし」

再びシーンが飛び、カミオカは所長たちと共に核のマークをつけたミサイル基地の中にいた。

施設のテレビには「西方国協会が宣戦布告して10日。ニュートロン兵器の使用を意にも介さず進軍続く」というテロップが映っていた。

そしてテレビの目の前にいる軍服を着た人物の手元には、「承認」とハンコが押された資料があった。

「連合会長の許可が出た上でこの結果か。

仕掛けたのは奴らだ。均衡を崩したことを悔いるといい」

そう言って軍服を着た人物は端末の発射コードを打ち込んで赤いボタンを押した。

宇宙から地上を見下ろすシーンへ変わり、東陸連合からだけではなく、西方国協会からもミサイルが放たれていた。

ミサイル同士がぶつかることなく、双方の大陸へ次々とミサイルが直撃していく。

直撃した大地からはキノコ雲が上がり、10個程度のキノコ雲が形成された後に画面が暗くなった。

次に画面へ映ったのは、地上で生き残った人々が白い灰にあたったり吸い込んだりして倒れていく映像だった。

地上は人が住める環境ではなくなった。

地下で生き残ったカミオカは西方国協会の戦争反対派勢力と合流していた。

西方国協会の戦争反対派勢力が作り出したテレポート技術が連携されたことで、地上へ出ずに大陸間を行き来できるようになっていた。

地下はニュートロン兵器が発する放射能を遮断しきれず、地上に浅い層から次々と病気で倒れる人々が出てきた。

カミオカの家族は、皆癌になって死んでしまった。
最近まで生きていたカミオカの息子はカミオカの腕の中で息を引き取った。

「わかってはいた。こうなるだろうとはわかっていたのに・・・」

カミオカは息子を抱きしめて泣き出した。
そんなカミオカの横で西方国協会の研究員が話し出した。

「これでは人類は全滅してしまう。
互いに手を取り、生き延びる術を見出さないか。行方不明となったアリザの残した知識と、君たちのニュートロンの知識があれば救える命もあるだろうさ」

「わかったよ。事態が落ち着くまでは協力してやる」

カミオカ達は西方国協会に残されたアリザの人体実験結果を利用して、なんとか人類を生かす方法を模索するようになった。

死に物狂いになっていた彼らは、戦犯である西方国協会の戦争肯定派を実験台にして放射能に強く、食料をほぼ摂取せずに生きられる細胞を研究した。

人類の9割が死んだ頃、カミオカ達は不死に近い細胞を作り上げ、細胞を移植された人物は体が大きくなり、白い体毛に覆われたイエティと言える見た目になった。

生き残った研究員達は皆変わった体になって歓喜した。

その成果を生き残った人々へ伝えようとしたが。

「バケモノ!」

そうあしらわれてほとんどの人々は細胞の移植を拒んで餓死や癌による死を選んだ。

「なぜだ、なぜ人々は死を選ぶんだ。

こうして生きていられるようになったのに…」

この後カミオカ達はシェルターを出て、永遠とも言える地上の旅へ出て行った。

 

映し出された映像はここで全てが終了した。

「なるほど。

あの世界で回収した場違いな資料自体が次元改変を起こしたわけではなかったか」

ソラはそう言って持ち帰ってきた資料を眺めた。

「一緒にあった日記は、世界の終わりが確定した後に次元改変へ巻き込まれた人のものだったと。

ブリンクもあの世界へ飛ばされていたし、他にもあの世界へ飛ばされて果てた人がいそう」

つづりさんがそう言うと、ソラは脳みそを見ながら話した。

「そこまではこの脳みそでは把握できない。

ただ、あの世界で次元改変を発生させた主犯はアリザという人物だろう。

アリザという名前が出てから突然技術が異次元に進化した。アリザはあの世界の住人ではない可能性が高い」

アルはソラが持つ資料を見ながら話した。

「場違いな資料ってやつ、それがどうやってあの世界にやってきたかも気になるけど」

「その資料なんだけどさ、ソラさんには伝えたけど異世界の縁と繋がっているみたいなんだ。

2本の縁が見えるし、追っていけばその資料をばら撒いた犯人に辿り着けるかもしれない

そう話したつづりさんへカナデさんがこう言った。

「主犯捕まえたところで、起きた次元改変はどうしようもないでしょ」

「だからこそ止めないと。
次元改変の末路は、あの世界のような終わりを迎えることだろうからね」

ソラがそう言いながら映写機に触れると、光って映写機の上に本が誕生した。

その本を手に取ってソラはカナデさんへ答えた。

「広がりすぎてファミニアがいよいよ次元改変に巻き込まれるなんてことがないよう、主犯を見つけて広がる波紋を抑えることくらいはできるだろうね。

その道中で修復方法が判明するかもしれないし」

ソラが持っていた本はしばらくして青い光の粒になり、空がいつも持ち歩いている本へ吸収されて行った。

「こうして消える世界の情報も、少しは残せるといいけど」

「やれやれ。別世界を記録するだけになると思ったら、ファミニアを救うなんていうデカいことをはじめることになるとはね。

いつものように付きあうけどさ、この脳みそはどうするの。この世界のものじゃないから消えないでしょ」

「脳みそは肥料にできるか持ちかけて、干渉液は下水に流すでいいよ」

「え、その危なそうな液体を下水に流すの?!」

ブリンクはそう言いながら驚いた。

そんなブリンクへアルが答えた。

この世界の下水は存在自体を削除する。他の世界みたいに海へ垂れ流しなんてことはないよ」

「そ、そうなんだ」

脳みそを嫌な顔をしながら見ていたカナデさんはその顔のままソラへ話した。

「それで、その資料の縁を早速追うの?すでに手を出してる次元を増やしてんのにさ」

「一カ所はすぐに調べておきたいんだよね。あの一カ所だけで全てが繋がるかもだし」

すでに次元改変は連鎖的に発生し続けている。知らないだけですでに終わってしまった世界が他にもあるかもしれない。

ぼくたちに今からでもできることはあるのだろうか。

 

終わった世界 完

 

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-17 錬金術との再会

「早急に対処しなければいけない緊急事態は回避された。

となれば、次にやることは干渉液を使って例の生物の脳からあの終わった世界の情報を覗くことだ」

ソラが食事中に今後のことを話し始めた。

色々あったのに、周りのみんなは何もなかったかのように食事をしていた。

その脳みそは昨晩中に干渉液へ浸していつでも覗ける状態にしてあるし、記録できるようにもしておいたよ」

「え、そうなの?!」

「流石だね、アルは仕事が早い。

んで、驚いたカナデは何かあったのかな?」

「えっと、音の出力ができるようになるまで、待って欲しいかなって」

「カナデしっかりしてよね、音声がなかったら大事な情報が手に入れられないかもしれないじゃない」

私は他の世界の音声データを抜き出すっていう別作業があったんだよ!つづりんもタスクが重なったこの苦労わかれ!」

「はいはいわかってるよ」

「ほんとにわっかってんのか」

こんなやり取りもいつものこと。つづりさんはしっかりカナデさんの苦労は知っている。
つまりただ冗談を言い合っているだけ。

「まあまあ。少し時間が必要なら、ブリンクは自分にできることを試しに外へ出ていればいいと思うよ

「ブリンクにしかできないこと?」

「もう、イメージは頭に浮かんでいるはずだよね?」

ブリンクはソラの言いたいことがわかっているかのようにうなづいた。ぼくにはさっぱりわからなかった。

カナデさんの準備が終わるまで、ぼくはブリンクと一緒にシチィケムの河原へと来ていた。

シチィケムまではハルーで移動したためブリンクにしか出来ないことについて聞く時間がなかった。

だから河原へ着いて一呼吸置いた後に僕はブリンクへ質問した。

「ブリンク、そろそろブリンクにしかできないことについて教えてくれない?」

「ちょっと待ってて」

そう言ってブリンクは細長い草を何本かむしり取り、それらを折り合わせてトンボのようなものを作り上げた。

それを地面に置き、ブリンクがチョンと人差し指でその作り上げたものを触ると、少しだけその置物は黄色に光った。

そのあと、草でできたトンボは生きているかのように飛び上がった。

「すごい、作ったものが動いた。

ブリンクが使える能力って、作ったものを動かせる力なの?」

「少し違うよ。

私がやったのは、あの作り物に命を分けてあげただけ。今回は作り物に命を分けたけど、無機物なものにも同じことができるんだ」

「命を分け与える?

あまり穏やかではないね」

「あら?どうしてそう思うの?」

「命を分け与えるなんて、自分の命を削って能力を使っているみたいじゃない」

「実は能力、とは少し違う。

これは私が元いた世界で生まれた時から使えた唯一の錬金術。お母さんには、生命錬金って言われてたっけ」

「命を分け与えるのが錬金術?」

「錬金術は、無から有を生み出すことができない等価交換の術。

その原則の通り、私は自らの命の一部を変換して、命なきものへ命を与えられる。

与えられた者は自由に行動できるけど、私がその生物に取り憑いて、その生物の目線から観察が行えたり、アクションを起こすことができる。

悪い言い方に変えると、傀儡化ね」

「そんなことしたら、いつかブリンクの生命力がゼロになっちゃうんじゃ」

「そこは気にする必要がない」

そういうと、話している間ずっと旋回運動をしていた草のトンボがブリンクの右手のひらに降り立った。

そのあと、草のトンボは淡い赤い光を放って力なくただの草の塊になった。

「与えたものを返してもらうこともできる。

やろうと思えば奪うことだって、できちゃう」

「使い方によっては物騒なこともできるのか。やろうと思えばこの世界の人の命も奪えるってこと?」

「それは相手次第かな。少なくとも、この世界ではやらないよ」

相手次第か。早速第一犠牲者になる候補が一人思い浮かぶけど。

そう思いながら疑問に思っていたことを口に出した。

「でも、何でいまになってその錬金術を使えるようになったの?

魂のありかが変わったせい?」

「そのおかげかも。

実は私の錬金術は使いたくても元々いた世界では使えなかったの」

「世界の、概念が邪魔していたとか?」

「そうなのかな。

元いた世界で生命錬金をしようとしても、何かに阻まれるかのように邪魔されてまったくうまくいかなかった。

私は唯一無二の錬金術が使えないうえに、一般的な錬金術はからっきしだった。

そんな私を見て、お母さんをよく知る人からは可哀想な子ってよく言われていた」

「ちょっと待って、それ話してて辛い話だよね。無理して話さなくても」

「聞いてほしいから話しているの。最後まで聞き届けてくれる?」

急に昔話をしはじめた意図はわからない。

でも、聞かないという選択肢もなかった。好奇心とかではなく、聞き届けることでブリンクの気持ちが楽になるのならと、そういう考えだった。

「いいよ。聞いた話を全部受け止めてあげる」

「ありがと」

ブリンクは手のひらに乗った草を川に流して話を続けた。

「元いた世界では錬金術の鬼才と呼ばれていたお母さんは、私の使えない錬金術の存在をすぐに理解し、とても興奮していた。

私を慰めようともせず、生命錬金の可能性を私へ伝えるのに夢中だった。

その時の私はただ、傷ついた心を癒して欲しかった。

私は望んだことをしてくれない”母親”に大っ嫌いと一言吐き捨てて家を出たの。

私は丸一日家にも、学校にも行かなかった。
橋の下で寝転がって、このままどうしようかなって不貞腐れていた。

家出した次の日の夕方、私の”母親”は涙目で私の前に現れたの。

そして私の前で膝をついて私を抱きしめたの。

抱きしめられた瞬間、お母さんの体は冷え切っていて温もりなんてなかった。

でも

ごめんね、心が理解できなくて。辛かったでしょう?わかってあげられなかった、バカなお母さんでごめんね。

そんな言葉を聞いた時、何故か私には温もりを感じ取れたの。

その日からお母さんは私を出来損ない扱いする人には厳しく当たるようになった。

そして私が不愉快な思いをしないようにと、錬金術とは無縁の学校へ変えてくれた。

錬金術とは無縁の学校へ転校したことを機会に、私は錬金術とは縁を切った。

後からお父さんから聞いたんだけど、お母さんが考えを改めたのはお父さんがお母さんをきつく叱ったかららしい。
怖いもの知らずのお母さんでも、お父さんには逆らえないっていうのは知ってた。でもなんでかは二人とも教えてくれなかった。

転校してしばらくした後、急にあの真っ白な世界に飛ばされて、そしてソラさんたちに助けられた。
まさかこの世界でこの錬金術と再会を果たすなんて思いもよらなかった。

できれば、錬金術を使える私をお母さんとお父さんに見せてあげたかったなぁ」

ブリンクはボクに顔を合わせないよう、ボクの前に立った。

「つまらない話でしょ?全部、私のわがままなんだから」

ボクは首を横に振った。

「つまらないわけがない。大事な話だよ。

使えるはずの力が使えないのに、ブリンクはよく頑張ったよ!」

「そう…そう思ってくれるの」

ブリンクはそう言って、ボクの胸に顔を埋めた。

「ちょ、ちょっと?!」

「少しの間だけこうさせて。この方が、落ち着くの」

ボクは察してそのままブリンクを抱きしめた。

ブリンクはそのまま静かに泣いていた。
泣き顔が見られたくない人なんて、沢山いる。それくらいわかる。

それからしばらくブリンクはボクの胸に顔を埋めたままだった。男でもこういう役割はありなのかなと、ふと思ってしまった。

周りはぼくたちに関係なく動き続けていて、そよ風が草を揺らしていた。

「ありがとう、もう大丈夫だから」

「ブリンク、きっと君の錬金術は多くの人の役に立つと思うよ」

「えへへ、そうだといいな」

「そろそろカナデさんの準備も終わってるだろうし、家に戻ろうか」

「うん」

そこから手を繋いで帰るなんてこともなく、2人は横に並んで帰路へとついた。

家へ到着してドアを開くとなぜか部屋の中が暗かった。

足元に気をつけながらリビングに入ると映写機を囲んでカナデさん、つづりさん、そしてソラがいた。

「おーおかえり。準備はもうできているよ」

「なんで家の中全体で真っ暗なの」

「ん?何か問題ある?」

いつもは水晶に映す程度なのに、今日は映画の気分だったのかな?

「いやさ…、まあいいや。映写機ってことはもう覗く準備ができたってことだよね」

「そうそう、今回は見る人が多めだし少し映画を見る時風な感じにしてみたよ」

やっぱり映画な気分だったか。

干渉液に浸かった脳みそから伸びるコードは小さな画面から映写機へ接続されていて、音声用のコードはオーディオコンポと接続されている。

「ほらほら、ブリンクはこっちの席に座って」

「えっと、はい」

ブリンクはつづりさんの誘いを受けて映像を見るために用意された長いソファーへと座った。

ぼくは映写機横の席へカナデさんと並ぶように座った。

映写機で見られる映像には一般的な日常のようななんの変哲もない情景が長時間続くことがよくある。

そんな中でも世界を知る際に必要な情報を見るために記憶の早送り、または巻き戻しを行うことがよくある。

その操作をぼくがいつも行っている。情報の取捨選択についてはソラが判断している。

「それじゃあ、再生するよ」

映写機が動き出して壁には脳みその記憶が映し出された。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-16 魂と世界とのつながり

干渉液を手に入れたぼくたちは家への帰路についてた。
夕日が川に反射して赤みを帯びている中、ぼくたちは川辺に沿って歩いていた。

ぼくはブリンクに対してキエノラの話題を出した。

「キエノラに失礼じゃないか、急に飛び出していくなんて」

「苦手なものは苦手、あんな女に対して礼儀なんて疲れる行為をする必要もない!」

「やれやれ」

ブリンクと並んで歩いている中、右隣の足音が聞こえなくなってぼくは後ろを振り向いた。

そこには手を後ろに組んで、夕日を眺めるブリンクの姿があった。

「アルも、この世界の人ではないんだよね」

「…そうだよ。ボクもブリンクと同じでここではない別の世界から来た、らしい」

「らしいって、自分でも分からないってこと?」

「そう、ぼくはどこの世界から来たのかが分からないんだ。ソラもぼくが本当はどこの世界の住人なのか知らないって言うし」

「それって、普通は不安にならない?」

「なんでかな、そう考えたことはなかった」

「違和感とか、なかった?」

「…違和感?」

「周りの人と違って、自分だけが能力を使えないことが。
ゲミニカへ行く途中で話してくれたよね、この世界は能力を持っていることが当たり前なんだって」

「ブリンク、急にどうしたの」

「私、元いた世界では出来損ないだったの。
どう頑張っても錬金術は失敗するし、両親みたいに凄い力なんてない」

「落ち着いて、能力がなくてもこの世界の人は酷いことなんてしないから!」

ブリンクは素早くぼくの左手を掴み、そのまま泣き始めてしまった。

「ごめん、夕日を見ていたら急に悲しい気持ちになっちゃった。

私、わたし、役立たずなんかじゃないよね!」

ブリンクの感情が不安定になっている。この原因をぼくはよく知っている。

この世界に代謝は存在しない。その代わりにペシャンを摂取するか幸せを感じることで体内に溜まる「負」を消し去っている。幸せやペシャンを長時間摂取していない場合は、「負」が感情に作用し、最終的には自分で感情を制御できずに暴走をはじめてしまう。

暴走の結果、死者が出たこともある。
その後、暴走した者はCPUに連れていかれて行方不明のままとなっている。

この世界の住人であればよっぽど不幸が続かない限りは暴走に至ることはないが、ブリンクはまだこの世界の住人ではない。そのため「負」を消し去ることができずに体内へ溜まり続けている。

ぼくはブリンクの限界が近いと悟り、落ち着かせることにした。

「大丈夫、大丈夫だから!ブリンクにしかできないこと、絶対あるから!」

ぼくは両手でブリンクの両肩を掴み、ブリンクと目を合わせた。

「自分が何者なのか、それを知っているのはブリンクだけだ。

自分という本質を失わない限り、必ず自分にしかできないことは存在するはずだから!」

ブリンクは何も言わずにぼくの目を見つめていた。

しばらくしてブリンクは目を擦って涙を払った。

「ありがとう、アル。もう大丈夫」

「ブリンク、いったい」

「ほら、ハルーを使ってすぐに家へ帰ろう!」

ぼくは家に着くまで不安で仕方がなかった。

 

無事に何も起こらず家へ帰ってきたぼくたちは、ソラへ干渉液を手に入れるまでに起きたことを話した

そしてソラから驚きの発言が飛び出した。

「そうか、やっぱり二人そろって昏睡したか」

ぼくたちがディモノスリンで昏睡すると知ってお使いに出したの!?」

干渉液の材料はディモノスリンでしか手に入らないってことは知っていたからね。でも、無事に帰ってくることは信じていたよ」

「こっちは焦ったんだからね!ブリンクが目覚めなかったらどうしようかって」

「ごめんごめん。ブリンクにとっては、悪くなかったんじゃないの?」

ブリンクはにこやかに首を縦に振った。

「なら、いいけど」

でもキエノラのお気に入りになって変わった石を持ち帰ってくるとは思わなかったなぁ」

ソラは石を灯に照らしながらそう話していた。

「お気に入りになったら危ないって聞いたから、私もうゲルニカに立ち寄れないよ」

「うーん、キエノラ発信機でもアルに作ってもらったら?」

「作ってもらえるなら是非とも欲しい品ね!」

「あはは…」

「さぁてご飯にしようか。今日はシャケのムニエルだよ!」

「聞いたことがない食べ物、でも美味しそう!」

「干渉液は明日使用するとして、今夜はゆっくりするとしようか」

みんなが椅子に座っていただきますとともにシャケを箸で突き始めるかと思ったら、ブリンクは箸を不思議そうに眺めていた。

そんな様子を見てカナデが話し始めた。

「あ、もしかしてブリンクちゃんの世界に箸を使う習慣なかった感じ?」

「箸…。ただの棒2本かと思ったら、これも食事をするための道具だったんだ」

「うーんそうなったら、今度は箸の練習をしないといけないね」

そう言いながらつづりはキッチンへ行ってナイフとフォークを持ってきた。

「箸をマスターするのは結構時間かかるから、今日はナイフとフォークで食べるといいよ」

「そうしてもらえると助かるよ」

「箸の練習は大変だよ?

こうやって身を切って口元へ運んでこれるようになるまで、小豆を皿から皿に20粒移動できるようになるくらいじゃないと、マスターしたとは言えないからね」

「この動作を、20回も?!」

「ソラ、それは他の人でもできるか難しいと思う」

「え、そうかな?」

ブリンクはナイフとフォークが渡されて問題なく食事を行うことができた。

「ところで、キエノラに気に入られたきっかけって思い当たる節がある?

この世界の住人じゃないってだけじゃあ、お気に入り認定されるとは思えないんだよね」

「ぼくたちよりソラの方が知ってるんじゃない?キエノラの店を教えてくれたのはソラじゃん」

私は彼女と物々交換をした仲なだけであってお気に入りになる基準なんて知らないよ。

教えてほしなぁ、きっかけ」

ぼくとブリンクは少し悩んだ。

気に入られるきっかけ、何かあっただろうかと。

「そう言えばあの芸術家から質問されたのを思い出した」

「…どんな?」

「魂はどこにあるのかって。

私は、魂のありかに決まった場所はないって答えたよ」

「そうか。

気に入られたんだとしたら、ブリンクの魂に関する理論に興味を持たれたってところかな」

「そんな変わったことを言った覚えはないんだけど」

「まあでも、私も少しは安心したかな」

「え?」

「ブリンクに良い友人ができたことがさ」

「あの芸術家と友人なんて、考えたくもない!芸術家は苦手よ!」

「あらあら」

食事が終わって後片付けをしているとぼくはふと疑問に思ったことがあってソラに質問をした。

「え、アル達が行方不明になっていたのはどれくらいかって?」

「うん、その期間の長さによってはブリンクが危険な状態になる日も近いだろうから」

ちょうど食器を洗い終えたソラは蛇口を閉めて手についた水分をタオルで拭き取りながら話し始めた。

「1週間くらいかな。私たち流での換算では」

「1週間も?」

「ディモノスリンは、実はファミニアの端とも呼べる領域が含まれていてね。

前にも話したことがあったよね、ファミニアには端が存在するって」

「ファミニアの法則が及ばない闇の空間。

そこに踏み入れてすぐに戻れば何もないけど、長期間滞在したら何が起こるか分からない場所だよね。

ディモノスリンがそこに含まれるってこと?」

「ディモノスリンの詳細な広さは分かっていない。でも、ファミニアの端から先にも広がっているってことはわかっているんだ。

なんで外に踏み入れないように見えない壁が用意されていないか分からないけど」

「…それと今回の件で何か関係があることがあるの?」

「ディモノスリンでの時間の進み方だよ。

ファミニアの法則に囚われないのであれば他の世界同様に時間の進む法則さえ違う可能性がある。

さっき回答した一週間という基準は、他世界を探索するために私たちが他世界の情報をもとに算出しているものだし。
残念ながらファミニアでは時計というものが役に立たないから確かめようがないけれど、ファミニアでどれほど時間が進んだか知っても、あまり意味がないんじゃないかな」

「どうして不安にさせるようなことを言うの」

「不安?」

ブリンクは前までいた世界の習慣に従って眠るという行為を行っているだけで何も問題はない。

でも、目覚めなかったらどうしようかって。

そう考えていると、いきなり額に冷たい感触がしたので驚いた。その正体は、ソラが持っていた水の入ったコップだった。

「少しアルも休んだほうがいいよ。誰かに過干渉な状態になるなんて、らしくないよ」

「そう、だね」

ぼくはコップに入った水を飲んだ後、コップを片付けて自分の部屋へと戻った。

 

日の出の時間、いつもなら朝食の調達をする時間だけど、今日は違った。

ブリンクが目を覚さない。

そして、呼吸がとても浅い。

「そんな、こんなにも早く限界が近づくなんて」

アルの呼びかけにも応じないあたり、少し時間が経てば死んだ状態と変わらないものになるだろう。

「大丈夫だよ、アル。

私達はちゃんとこの事態を解決するための手段を用意できている」

「それなら、早く助けてあげようよ!」

「そうだね。

つづりん、拘束具を持ってきて」

「え、拘束具?」

つづりんは拘束具で手足が床から離れないよう固定した。

あとは拳を握りすぎて切り傷ができないよう、ブリンクの手にタオルを握らせた。

その後、私はアルがキエノラからもらってきた石をブリンクの胸元に置いた

「これはどういうこと?」

「これからブリンクの魂をこの石へ移動します」

「魂の移動?それだけで解決できるの?

いやでもそれをどうやって」

「アルくん、私はソラさんと二人が不在の間に別世界の観測を行っていてね、その世界では世界の法則から逃れる方法が存在していたんだよ」

「ぼくたちがキエノラの店へ行く前に話していたことだよね、それ」

「そう。その世界から助っ人を呼んでいてね。ブリンクちゃんを助ける手段は手に入れていたわけ。

でも、成功するかはブリンクちゃん次第だよ」

つづりんの光のない目を見てアルは少し怯えていた。

話終わったらつづりんはポケットに忍ばせていた子を取り出した。

「さて、手筈通りにお願いね」

「それは、石?」

[石とは失礼ね!シ…

私はれっきとした生物よ!]

「余計な言動は控えて。これが無事に済んだらカレンの元へ返してあげるから」

[わかってるわよ。でも、あいつみたいに上手くできるとは限らないからね。

じゃあ、始めるよ]

しゃべる石は輝き始め、それとともにブリンクと胸元の石も輝き出した。

胸元の石は宙に浮き始め、眩しいほどの輝きを放ち始めた。

すると、眠っていたブリンクは目を開け、何かに刺されたかのような悲鳴を上げながら暴れ始めた。

「ブリンク!」

[魂を抜き取るんだからそりゃ痛いだろうさ。望みさえすれば痛みは和らぐさ]

予想通り拳は強く握られ、タオルがなければ出血していただろう。

それに、ブリンクは口から泡を吹き出し始めた。

[さあ、ブリンクという名の少女。

己の中にある奇跡を輝かせなさい。

生きたいと言うならば、その奇跡を信じ、願いなさい]

「わたし…は…」

ブリンクは目を見開くながら声を絞り出そうとしていた。

[さあ、あなたの願いは]

「私は…生きる!生き続けていつか、お母さんたちと再会したい!」

浮いた石は失明するのではないかというほど輝き、輝きが落ち着いた頃に拘束具には電撃が走って砕けた。

[なかなかの奇跡の輝きね。

受け取りなさい。それがあなたの全てよ]

動けるようになったブリンクは宙に浮いた石を手に取った。

石は形状を変えてブリンクのブレスレットへと形状を変えた。

「体の調子はどう?ブリンクちゃん?」

「すごい、さっきまで死にそうなくらい苦しかったのに今は全然平気。

それに、気持ちも軽い」

[ふふ、シ…私にかかればこんなもの当然にできちゃうのよ]

「したっけ私はこの子をあるべき場所に返してくるから、何が起こったかはソラさんお願いね」

「はいはい」

そう言ってつづりんは別世界へと飛んでいってしまった。

「ソラ、ここで何が起きたか説明してくれる?」

「あの石が口走ってたと思うけど、今ブリンクの魂はそのブレスレットに格納された。

つまり、手に取れる形になったってこと」

それと代謝の概念がブリンクから消えることとどんな関係があるの?」

「代謝の概念?」

「ブリンクには説明していなかったね。

ブリンクは代謝のある世界から来ているけど、このファミニアには代謝という考え方が存在しないんだ。

その証拠に、汗をかかないでしょう?」

「そういえば、私この世界に来て一度もトイレに行きたいと思ったことがなかったかも!」

「うん、代謝がないこの世界ではもちろん老廃物なんて物も存在しない。でもさっきまでのブリンクには行き場のない老廃物が体内に溜まり続けていたんだ」

「え…それ考えただけで恐ろしいんだけど」

「実際危なかったんだ。少し遅れていたら死んでしまっていたかもね」

「そう、なんだ」

私は話が長くなることを考慮して、2人に椅子へ座るようジェスチャーで促した。

カナデは知らないうちに食材集めに行ってしまったようだ。

「んで、魂が石に入っただけでブリンクがなぜ救われたかなんだけど、魂の在処が変わったことで世界の概念から抜けることに成功したからなんだ」

「そこがわからないんだけど」

「世界の概念って生物という存在の何に作用すると思う?」

「肉体も、魂も。じゃないの?」

「その通りだけど、概念の情報を保持するのは魂だけなんだ。

肉体はただの器で、魂に保存された概念に影響されるだけの存在さ」

それはあなたたちが他の世界へ行っても無事でいられることと関係するの?」

「ブリンクは目の付け所がいい。

私達はファミニアの概念が染み付いた魂だから多次元に存在する他の世界の概念には縛られない。

不都合が生じる世界もたまにはあるけど、大抵は問題なく生活することができる」

「…私の魂が入っているこのブレスレットは、この世界の石。

この世界の概念が上書きされたから前の世界にあった代謝の概念が破棄されたんだね」

ブリンクは頭の回転が早いようだ。

「さっきソラが言ったように、ブリンクには老廃物が蓄積されていたんだけど、この世界の法則が適用されたことでそのこと自体が無かったことになってる。

安心していいよ」

「そうなんだ。よかっt…

あれ?じゃあ老廃物の情報って何に置き換わったの?!
エネルギーの法則が成り立たないよ!」

「それは感情エネルギーに影響するよ。感情エネルギーが減ると怒りやすくなって、最終的には感情を抑えられなくなるんだけど、今は穏やかな気持ちなんだよね?」

「うん、昨日まであった自暴自棄な気持ちにはならないよ」

「実は私も詳しくはわかってない。

あの子がブリンクの魂を石へ宿らせただけで、どういう過程で宿らせることができたのかは理解の範囲を超えているんだ」

「あのしゃべる石、一体なんだったの?」

「魂を手に取れる形にできる世界にいた存在、そしてその方法を模倣できる存在。

ここまでしか教えられないかな」

「…まあいいよ。後で記録をのぞいておくから」

「まあ、ブリンクは体にどんな怪我を負っても無事でいられるようにはなったけど、そのブレスレットが壊れでもしたら即死する存在になったことは理解してね」

「え、それって右腕を切り落とされたら終わりってこと?」

「ブレスレットと体がある程度離れたら、もしかしたら体を動かせなくなっちゃうかもね。

切り落とされたらブレスレットの回収だけは忘れないようにね」

「魂、手に取れる形になっちゃったね」

「あの芸術家には二度と近づけないわ!」

「さて、ブリンクには私たちの活動を手伝ってもらう方法もそうだけど、箸の使い方も覚えてもらわないとね」

「あはは、そうでした」

「みんなー、用事終わった感じ?

料理、調達してきたから下に降りてきてね。

つづりんも戻ってきているから」

「ありがとう、カナデ」

「なんのなんのー」

「それじゃあ、これからのことは食事をしながらゆっくり話すとしようかな」

 

こうして私達はブリンクをメンバーとして無事に迎え入れることができた。

アルではこんなことをしなくてもよかったのにブリンクには必要だった。
アルが元々いた世界には代謝の概念がなかったのかな?

私にも知らないことっていうのは、まだまだ尽きることがない。

特に、身近な存在ほど未知なことは多い。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-15 魂の在処とは

わたしは意識がぼんやりとした状態である親子の前に立っていた。

親子の姿は水色の粒子が集まったかのような見た目だった。周囲の景色もどこか水色がかっている。

その親子の会話をわたしはただ見つめているだけだった。

「______、少しお父さんの話を聞いてくれないか」

「いいよ!______に教えて!」

「お父さんは人を不幸にする仕事をしているんだ。お母さんからはみんなを救う仕事と聞いているかもしれないが、実は違うんだ」

「なんで違うの?」

「お父さんは人の命を奪って、そのお金でお前たちを支えているんだ」

「えっと、イノチヲウバウって人を殺しちゃうって事?」

「おいおい、そんな解釈どこで覚えたんだ?」

「お母さんが教えてくれたよ!穢い事も覚えておいた方が後々役に立つよって言ってた」

「あいつは全く・・・」

「えへへぇ」

この会話、親子の輪郭はぼんやりしているはずなのにわたしの中には鮮明な部分がある。

まだ、親子の会話は続いていた。

「______、人の命ってどこにあると思う?」

「どこだろう、カラダの中かな?」

「なるほど。

実は正解はないんだよ」

「ええ!真面目に考えたのに!」

「ごめんごめん。でも、答えがないのは確かだよ」

「それって、お父さんが人を不幸にするっていう話?」

「そう、お父さんはたくさんの人の命を奪っているんだ」

「人の物をとっちゃうって事でしょ?それは悪い事だよ!」

「ああ、そうだよ。悪い人だ」

「でも、とっちゃったって事はいまでもその人の物を持ったままなんだよね?」

「え?」

「奪うって、とっちゃうって事でしょ?じゃあいつかそれを返せるって事だよね!」

しばらく静寂が続いた。大人と思われる人物が何か考え込んでいる様子だった。

「はは、参っちゃうな全く」

「?」

「そうさ、お父さんは持ち続けてるのさ、奪ってしまった物をね」

「それならちゃんと返しに行かなきゃダメだね!」

「そうだな、とっちゃったものは、返さないといけないよな」

「でもでも!______はお父さんを悪い人だなんて思っていないよ!」

「え」

「だって、お父さんはお母さんのヒーローなんだもの!お家にお父さんのおかげで助かった、救われたっていう人が来てるもん!悪い人はそう言われないこと知ってるもん!」

「ありがとう、______」

「だから!お父さんはとっちゃったものなくしちゃダメなんだよ!

「ああ、無くさないよ。絶対にね」

ふと気づくと親子の姿は見えなくなっていて、大人と思われる人物が立ってこちらを見つめていた。

男は少し前へ歩いて再び振り返ってこちらを見つめていた。

ついて来い、そう言いたい気がしていた。

わたしは男の後ろをついて行って、ひたすら前へ歩いていた。

あるところで男が立ち止まると前の方を指差した。その先には青白い光を放つ花がたくさん咲いていた。

わたしは驚き戸惑っていると、男は前へ歩み出して花を摘み始めた。

男はそのままわたしの方を向いて花の束を差し出してきた。

「わたしに?」

笑みを浮かべた男は静かに頷いた。

そして、懐かしい声で話しかけてきた。

「胸の想いを信じ続けなさい。そしてこれは、お前のために大事なものだ」

わたしは不審に思わず、すんなりと受け取ってしまった。

受け取ったわたしの目からは不思議と涙が溢れてきて、こぼれると同時にその場へ膝をついてしまった。

胸の奥が熱くなって、花束を胸元に寄せてただひたすら泣き続けた。

「お父さん」

 

ふと気づくと心配そうに見つめるアルの姿があった。

「良かった!気がついたんだね」

「わたし、確かアルと一緒に森の中へ入ったはず」

そう、身を起こして周りを見渡すと少し薄暗い森の入り口付近にいた。

「僕も少し前に気づいたんだけど、隣にいるブリンクがなかなか起きなくて心配だったんだよ」

「そう」

わたしは手元を見ると、青白く輝く花束を持っていた。

「あれ、これって」

「その花、僕も夢の中で誰かにもらったんだ。誰かは覚えていないけれど」

「わたしは大事な人からもらった。そしてこの花って、探していたドコサーっていう花かな?」

「多分そうだろうから、しっかりと袋に入れておこう」

「うん、わかった」

わたしは胸に押し当てていた花を、アルに渡した。

ドコサーという花に間違いがないかハッカの元へ尋ねたときに知ったのだが、どうやら私とアルはあの森に入ってから3度の夜を迎えていたらしい。

この世界で飲まず食わずのまま3度の夜を迎えるというのは感情エネルギーが枯渇するに等しい期間に近いとのこと。

ハッカからはとにかく何か食べてと食べられる花をもらった。

しかし私たちには1、2時間経過したという実感しかなく、感情エネルギーとやらが不足した際に発生する発作も起きていなかった。

ドコサーという花であることを確認した私たちはキエノラの元へ戻った。

キエノラにも酷く心配されたが、森で起きたことを話した後には酷く高笑いをした。なんだこの人。

「いや悪いね、予想外の出来事を聞いて笑ってしまったよ」

あの森に入ったら寝ちゃうかもしれないって教えてくれなかったのはあんたじゃない」

「いや、本来ならば教える必要がないんだ。普通は寝ないで見つけられるものだからね」

「どういうこと?」

キエノラによると、ディモノスリンにはこんな話があったという。

ある人物がは連れと一緒にディモノスリンにある光る苔について調べるために入ったという。その人物森の中心へ進めば進むほど意識が遠くなっていき、最終的には倒れてしまったという。

倒れている間にその人物は生き別れた母親と会ったという。母親との再会に喜んだが、母親は自分のことを認識しておらず、目の前では自分の過去が流れ続けたという。

しばらく過去の情景が流れた後、母親は自分を認識しているかのように手招きしてきたという。

その後を追っていると、光る苔が生えている箇所を忠実に移動していたという。

その先で光る花を見つけ、母親はその人物へ花束にして光る花を渡したという。

ふと気がつき、目覚めると森の入りに寝ていたらしく、手元には夢の中でもらった花束を握っていたらしい。

日光に当たると萎れてしまうと知って、その人物は日に当たらないようハッカの元へ持っていって花について聞いたという。

しかし花について詳しいハッカでもその花については初めて知ったという。

ハッカは知人に花の調査を依頼し、その知人が花をすりつぶして液体へと混ぜたがなにも起きなかった

なにを間違えてか、液体をこぼしてしまった知人は液体がかかった宝石へ触れると宝石の持つ力に干渉できたという。

花の名前はハッカが名付け、実際に取りに行ってみると光る苔に沿って歩けば確かにドコサーを見つけることができた。

これがドコサーを発見し、干渉液が生まれたことについての話らしい。

「えっと、キエノラの昔話にしか聞こえなかったんだけど」

「いいじゃない、前置きっていうのはこれくらいがちょうどいいのさ。まだ干渉液ができるまで時間がかかるから、種明かしといこうか」

ドコサーを初めて見つけた人物というのは、この世界にもともといた人物ではなかったという。本人曰く、ここではない世界にいたが、気がついたらファミニアにいたという。

異世界に詳しい人物がその人物を訪ねてみようと試みたようだが、その時にはその人物は物言わぬモノへと変わっていたという。

実はこの記録自体はこの世界自体からは消えている。キエノラがこの話を知っているのは、本に残されていたからだという。

「実は私自身もディモノスリンに入ってみたんだが、意識を失うことなくドコサーを回収できている。他の人たちもそうさ、“ファミニアの住人”は誰も意識を失うことがなかったんだ」

私とアルは話を聞いて唖然としていた。試験管が熱せられてポコポコと音を立てる以外の音はしばらく発せられなかった。

「もう言いたいことはわかるだろ。君たちは、ファミニアの住人ではない。異世界の存在だということになる」

「まさか、あなたが楽しそうにしているのは私たちが異世界の人だからなの」

「そうさ。ファミニアにはない概念を君たちは持っている。

そう、魂という考えをね」

アルの話からだいぶ察してはいたが、アルもまた、私と同じくこの世界に紛れ込んだ人。私のことを心配したりしているのは、同じ境遇から来る気遣いなのだろうか。

「さて、ここで君たちに聞きたいことがある」

「な、なんでしょう」

「魂の在処はどこなのだろうか」

アルはこの言葉を聞いて、少し驚いた後私の方を見た。

「私が干渉液に執着しているのは、魂というものに触れてみたかったからなのさ。異世界の人だけが持つという魂というものはどのようなモノなのか私たちが見ることはほとんどない夢という空間を魂に触れれば踏込むことができるのかってね」

ファミニアには私たちのような異世界から来てしまった人たちは多いという。

でも、異世界から来たからと言って魂があるかどうかなんて見ただけじゃわからない。

異世界から来たという人物を訪ねては干渉液を塗りたくって魂に触れようとしたんだけど、それっぽいものに触れることはなかった。そのあと何度も同じことを繰り返しているうちに、私は触れ物なんて呼び方をされるようになったのさ」

キエノラは、静かに私を指差した。

「君はどう思う?魂は何処にあるんだろうか」

一呼吸おいて、私は答える。

「魂っていうのは必ずここにある、てものではないと思う」

「ほう」

「私だって、魂が何処にあるかなんてわからないけどこれだけははっきり言える

魂っていうのは体に縛られるものじゃない。体がなくなっちゃったとしても誰かについていっていつもそばにいる。どれだけ離れてしまっても、いずれは一番思い入れのある人のそばにある、そんなものだと思ってる」

「ブリンク」

「ならブリンクちゃん、もしかしたら誰のとこにもいきたくないという魂がいたら、その魂は何処に行ってしまうのだろう」

「そんな深いことはわからない。ただ、魂はここにないといけないっていう決まりはないと思うよ。魂を奪ったら、ずっと一緒に付き纏われちゃうって昔から考えていたんだ。もう、返す先なんてないんだろうけど」

キエノラは少し残念そうな顔をして立ち上がった。

「そうか、魂という考え方を持つ君の考えならば認めざるを得ないね。

でも、私は考えを改める気はない。魂っていうのは必ず触れられるものだと思って今後も探究し続けるよ」

そう言いながらキエノラは保存してあった干渉液をたくさん持ってきた。

「話を聞かせてくれてありがとう。約束通り干渉液を渡そう」

「ありがとうございます」

アルは干渉液を受け取り、一礼した。

「そして、君たちへのちょっとしたお礼だ」

キエノラは暖炉の上にあった鉱石のうち一つを持ってきた。掌サイズの少し緑がかった宝石だった。

「え、貴重そうな鉱石だけど良いの?」

「ああいいさ。持っていきなさい」

私はキエノラから渡された鉱石を受けとった。

「あ、そういえば名前を聞いていなかったね」

「ぼくはアル、隣がブリンクです」

「そうか、アルとブリンクちゃん君たちは私のお気に入りになったからね、今度は遊びに来て欲しいな」

この瞬間、私の頭ではハッカから聞いた話がこだました。

“ただ、あんまりあいつのお気に入りになるんじゃないよ。何でもかんでも知られちゃうからね”

「し、失礼しましたあ!」

そう言って私はキエノラの店を飛び出してしまった。私はもうキエノラの店へ行くことはないだろう。

「やっぱり芸術家は苦手だ!」

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-14 みんながみんな独特の発想を持っているとは限らないからね

干渉液を扱っているキエノラという人物は聞いたことがない人物。

ソラからここにくるよう伝えられただけで、実は下調べなんて行なっていない状態。調べる時間自体そんななかったし。

「芸術家にしては平凡な店構えね」

「みんながみんな独特の発想を持っているとは限らないからね」

「まあいいや、干渉液とやらをもらいに行こうよ」

ぼくは頷いて恐る恐る店の扉を開いた。

真ん中、右左と部屋を見渡してみると赤や緑で装飾された絨毯が敷いてあって、正面を向くと大きな暖炉の上にいくつか鉱石が置いてある。

床とかにも鉱石が置かれていて、右隣には植物と泡立つ緑色の液体が入った試験管が並べられていた

「あのー、キエノラさんいますか」

ブリンクが大きな声で尋ねて見ても、返事がなかった。

「留守かな」

そう思っていると二階から何かが転けた音がした。

それからせわしなく足音が一階まで迫ってきた。

「いやぁ悪いね、ちょっと二階で用事してたんだ。わたしの名前を読んだのは君たちかい」

「じゃあ、あなたが」

「そう、わたしがキエノラだよ。名前で呼ばれるのは慣れていないんだ」

キエノラ茶髪の細身な女性で、肌は黄色気味の肌色だけど、指先に近づくにつれて色が真っ白になっている。

「あの、二階ですごい音がしたんですけど大丈夫ですか」

「いやね、少し前に新発見に出会って二階でハッスルしていたんだよ。忘れないうちにメモらないとってね。まあ、なんともないよありがとね」

キエノラは先ほど目に止まった唯一植物がある場所の椅子に座ってこっちを見た。

「わたしを尋ねてきたということは、何か依頼があるのだろう」

「そうそう、私たち干渉液が欲しいのよ」

ブリンクがすごくフレンドリーに接している。初対面にもそんな対応するのか。

「干渉液を欲しがるとは、さては悪いことに使おうとしているな」

「い、いえ!違いますよ」

「んぁはは、大丈夫ちょっとしたコミュニケーションさ」

ニコニコしながら話していたから、冗談だろうなという感じはした。

「さて、干渉液についてなんだけど、実は先ほど見つけた新発見のために材料が多めに必要となってね。その材料の調達を手伝ってくれれば干渉液を渡すよ」

ぼくたちはキエノラから干渉液に必要な材料を教えてもらい、植物屋が集まる場所へ向かっていた。

干渉液に必要な材料は複数あるんだけど、今足りないのはドコサーという野草だ。そこら辺じゃ取引されていない植物だから、ゲミニカに店を構えているハッカという人物に話を聞けばいいよ。

「触れ物」からの依頼できたといえば素直に教えてくれるはずさ。

そうそう、ペシャンも持ってきてくれると嬉しいね

「なんかおしゃべりな人だね」

無音が苦手なのかってくらいキエノラは色々話しかけてきた。

彼女の能力を知らないからなんとも言えないけど、人によっては疲れる人かも知れない。

「きっと新発見とやらに興奮していたんじゃない?」

「なるほど、なら仕方がないね」

納得するんだ。さっきまでブリンクもそうだしそりゃそうか。

ハッカという人物のことについて聞いて回っていると、どうやら染料になる植物に詳しい人物らしい。色を組み合わせる能力を持っていて、植物でできた色というのは相手の気持ちを落ち着かせる力があるらしい。

ハッカの店はゲミニカの中心、ゲミ二カ統括城からすぐの場所にあった。ハルーで飛べば近かった。

ハッカを尋ね、「触れ物」の依頼できたと伝えると少し悪そうな顔をしながら話してきた。

「さてはあんたたち、キエノラがどんなやつか知らないでお使いをさせられてるね?」

確かに下調べなしできていたから本当の彼女をぼくは知らない。

「まああいつはおしゃべりだし、自分から話し出すでしょ。ただ、あんまりあいつのお気に入りになるんじゃないよ。何でもかんでも知られちゃうからね」

そう伝えられた後、ドコサーが生息している場所を教えてもらった。

ドコサーはゲミニカの北部にあるディモノスリンの奥深くだよ。

周囲が真っ暗になるくらい奥にあるんだけど、ドコサーを摘んだら必ず日光が当たらないようにしてね。

少しでも日光に当たるとしおれちゃって使い物にならないから注意だよ

ディモノスリンという場所があるのは知っていたけど、立ち入るのは今回が初めて。

何でも森の中はとても暗いらしく、手持ちライトでは手元が明るくなるだけというくらいだという。

そんな森の中には所々に光る苔やキノコ、花といった植物があるため、それらが唯一の目印らしい。

「ねえ、こういう森って絶対行方不明になるやつだと思うんだけど」

「行方不明にはなりたくないなぁ。ブリンク、離れないように手を繋いで、ひたすらまっすぐ進もう。それならまっすぐ戻れば間違いなく戻ってこれる」

「わかったけど、不安しかないな」

ぼくとブリンクは手を繋いで恐る恐る森の中へと入って行った。

明るめの手持ちライトは持ってきたけど、本当に手元しか光らなくて役に立たない。

まっすぐ進んでいるはずだけれども、時々木の根につまずきそうになったり木を避けたりとまっすぐ進めているか怪しくなってきた。

恐る恐る歩いていると周りに水色に輝く粒子が舞い始めた。

どこかの植物から噴出されたのだろうか。

そう考えているとブリンクの足取りが極端に重くなってきたのが伝わってきた。

「ブリンク、大丈夫?」

「なんか、意識が、遠く」

ブリンクの声を聞こうとしているとぼくの意識も遠くなっていくのを感じていた。

ぼくとブリンクはその場で気を失ってしまった。

 

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-13 生きることはあきらめないでほしい

私にはしっかりと両親がいた。

お母さんは世界でも有名な錬金術師で、お父さんは裏世界で有名なガンマン。

2人の出会いは裏世界から狙われているお母さんの護衛にお父さんがついたことが始まりらしい。
2人は恥ずかしい過去だって言うけど、絵に描いたようなかっこいい出会い。

こんな優秀な両親がいながら、私にできることは背中を見続けることだけだった。

そんな見続けた背中のうちの1人、お母さんが突然いなくなった。

お母さんがいなくなる数日前に突然所在不明の男が街に現れて、まるでこの世界のことをまったく知らないくらいに話がかみ合わなかったため、いったん身柄は国防に預けられた。

次の日、個室で1人になった男は身に潜めていた爆発物で逃げ出したと報道された。

決して国防が仕事をしなかったと言うわけではなく、錬金術で作られた危険物探知機を使用して異常はなかった。そんな中で国防の壁を破壊する爆薬が使われてしまった。

そう、私がいた世界はあらゆるものに錬金術がかけられていて錬金術という存在は貴重な存在となる世界だった。

お母さんは国防にあった探知機に異常がないか確かめに行った際に、取り調べ中だった男のカバンで気になるものを見つけてしまった。

お母さんはとてもワクワクした気持ちで部屋で持ってきたものを調べていたんだけど、姿を消したのはこの2日後だった。

世界的に大騒ぎになったこの出来事をきっかけに、私は親戚の家に預けられた。

お父さんからはお母さんのこどもだから狙われる可能性があると聞かされ、偽名で名乗る自体にもなってしまった。

お父さんはというと、探してくると言い残して何処かへ消えてしまた。

追ってきた背中を短期間で無くしてしまった私は、両親の得意分野をひたすら探求するしかなかった。
ただ真似していただけで、根幹となることは何も知らなかったのだと実感して、親戚の家で過ごす間はとても苦しかった。

それから一月経ち、お母さんが残したものの半分は他の錬金術師に扱えても、ブラックBOX化したものも数多いという。

もちろん私は扱い方も、直し方も知らない。

だって私にはそもそも。

過去のことを思い出しながら散歩していると、私は不思議と実家の前にいた。

実家は荒らされ、重要そうなものは手に持てるものだけ私に預けられてあとはお父さんが壊したとのこと。
きっと私と別れた後に実行したんだろう。

もはや廃墟と呼ぶにふさわしい外見となった家の玄関だった場所で私はただひたすら過去を追憶していた。

ただひたすら2人の真似事をしては怒られ、それでも優しく接してくれては苦手なはずなのに外で一緒に遊んでくれたりもした。

世の中では完璧人間な2人の不器用な失敗の数々は私にとってとてもいい思い出だった。

心が溶けそうなくらい痛くなって、その場に崩れ落ち、ただひたすら目から雫を落として柄にもなく大泣きしてしまった。

 

目を拭っていると目の前にガラスが割れたような裂け目が突然現れて、私は光に包まれてしまった。

それは一瞬であり、気付いた時にはあの、終わった世界にいた。

私はこの世界で、お父さんが得意なことの本当の意味を知った。
握った引き金はとても重くて、思い知らされた。

今帰ったって、追い続けた背中はいない。

今私の近くには別世界へと行ってしまうデタラメな出来事に対応できるヒトたちがいる。

ならば、わたしは

 

わたしが元いた世界に帰りたいのか、アルはそう聞いてきた。

いま帰ったって何もない元の世界に帰るくらいなら。

「わたしは戻ろうだなんて思ってないよ。あなたたちと会えたことで、ようやくやるべきことが見つかりそうなんだから」

「そう、そうか」

アルはそう呟くとしばらくペシャンとやらが流れる様子を眺めていた。

「なら、1つだけお願いがあるんだ」

アルは改まってわたしの前に両膝をついてわたしの手を握りしめた

「な、なに」

そのあと目を合わせてくるんだからなんだと思った。

「生きることはあきらめないでほしい」

わたしはしばらくなにを言っているのか理解できなかった。

きっとブリンクたちが行った世界よりももっと厳しい世界があるかも知れない。そんな世界に巻き込まれても、どうか生きることだけはあきらめないでほしい」

そうか、この子たちと一緒にいるといろんな世界に飛び込んでは危険な目に遭う日々が始まるってことか。
だからこそ見つけられそうな目的を確実性のあるものにできる。

そんなチャンス、逃すほどわたしの目は濁っていない。

「もちの論だよ。せっかくの拾われた命を簡単に捨てたりはしないよ」

「そうか、よかった」

アルは安堵した表情で立ち上がった。

「なら目的を果たしに行こうか。干渉液を手に入れないとね」

わたしは今後の目的が見つかりそうになっていたけど、目の前の目的を忘れていた。

「そうだった。ちょっと脳みその電流が足りなかったかな」

わたしとアルは干渉液とやらを探しに再び歩き出した。

干渉液とやらは一部の知識と力がある人物にしか作成ができないものらしい。

つづりやカナデからも聞いていたが、なんでもできる万能な人はこの世界にいないという。
でも、何か1つは必ず得意なことが存在し、この世界の人たちは得意不得意を協調で補い合っているとのこと。

独占できればお金儲けとか考える人が出そうだけど。

「え、お金って概念自体が存在しない?」

「ほかの世界だと当たり前にあるかもしれないけどね。ファミニアでは物のやりとりは依頼品との物々交換、または好意から来る一方的な受け渡しがほとんどなんだ」

「それ、お互いの求めている価値と釣り合ってるの?」

「価値とかそういう考え自体がないんだよ。お互いにできることを出し合って、相手の求めている不足感を満たし合う。
それが達成されただけでぼくたちは十分なんだよ」

「でも、有名になったりとか、名が知れ渡るようになりたいとかなんというか承認意欲みたいなものが少しはあるんじゃない?」

何をアルと話しているのかというと、はじまりは干渉液にいくらお金が必要なのかという話になったのがきっかけ。

ここまで物々交換だけで取引が行われていたから不思議で仕方がなかった。

「承認意欲か。ファミニアの人たちにもそういう欲求は存在するよ」

「なら」

「それでも、お互いの承認意欲の中には相手を思うという前提が必ずある。
お試しの飲み物を飲み物が欲しいと思わない人へ無理やり勧めはしないし、新技を披露する相手に対しても時間や状況を考慮して行っている」

「それって、アルたちの周りだけの話じゃない」

「早い話、取引条件として持ってる人も多いね。お試しの被験体になってもらうことを条件に相手の悩みを解決するとかね」

承認意欲があればそこから憧れや嫉妬が生まれて、自分だけのものにしようとする。
そんな考えが少しでもあれば必ず対価は大きなものを求めようとするはず。

無闇に主張して嫌がられたりとか、そんなのが普通だと思ってた。

この世界にはそんな考え自体がないの?

「なんか納得いかない」

「ファミニアで過ごせば自然と慣れちゃうよ」

「ふーん」

無意識にアルの後ろをついて回っていたけど、なんで私たち歩いているんだ?

「ねえ、あのハルーってやつ使って移動しないの?」

「実は一度も行ったことがない場所なんだ。距離的にここから歩いたほうが早いっていうのもあるね」

「最初が面倒なのはどこも同じなのね。で、今はどこに向かってるの?」

「このまま歩いていたら奇妙な門が見えてくるんだけど、そこを潜った先にある芸術都市ゲミニカに用があるんだ」

「アルはゲミニカって都市には行ったことないの?」

「ゲミニカ自体には行ったことがあるんだけど、門をくぐってすぐのところに目的地があるんだよ。
中央から歩くよりはいま歩く経路のほうが短いんだ」

「地図がないからわからないけど、ゲミニカってとこも広い都市なんだ」

「と、話していたら門が見えてきたよ」

門構えはわたしには理解できないほど酷いものだった。

門の表面は小山程度のトゲがたくさん出ていて、六角形やら五角形のような感じで虹からスポイトしたかのような色がぐちゃぐちゃに配してある。

そして何よりも気になるのが、照明として5個吊るされているライトが眼球の形をしていて青白く光っていること。

わたしのゲミニカに対する第一印象は思考がヤバい場所となった。

「芸術家の考え方を見直すところだったけど、やっぱダメだわ」

「あはは…」

門をくぐって2、3軒ほど建物を移動した場所に目的の場所がある

干渉液を扱っている人物、キエノラという人物が営んでいる店の前に僕たちは立ち止まった。

 

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