次元縁書ソラノメモリー 1-13 生きることはあきらめないでほしい

私にはしっかりと両親がいた。

お母さんは世界でも有名な錬金術師で、お父さんは裏世界で有名なガンマン。

2人の出会いは裏世界から狙われているお母さんの護衛にお父さんがついたことが始まりらしい。
2人は恥ずかしい過去だって言うけど、絵に描いたようなかっこいい出会い。

こんな優秀な両親がいながら、私にできることは背中を見続けることだけだった。

そんな見続けた背中のうちの1人、お母さんが突然いなくなった。

お母さんがいなくなる数日前に突然所在不明の男が街に現れて、まるでこの世界のことをまったく知らないくらいに話がかみ合わなかったため、いったん身柄は国防に預けられた。

次の日、個室で1人になった男は身に潜めていた爆発物で逃げ出したと報道された。

決して国防が仕事をしなかったと言うわけではなく、錬金術で作られた危険物探知機を使用して異常はなかった。そんな中で国防の壁を破壊する爆薬が使われてしまった。

そう、私がいた世界はあらゆるものに錬金術がかけられていて錬金術という存在は貴重な存在となる世界だった。

お母さんは国防にあった探知機に異常がないか確かめに行った際に、取り調べ中だった男のカバンで気になるものを見つけてしまった。

お母さんはとてもワクワクした気持ちで部屋で持ってきたものを調べていたんだけど、姿を消したのはこの2日後だった。

世界的に大騒ぎになったこの出来事をきっかけに、私は親戚の家に預けられた。

お父さんからはお母さんのこどもだから狙われる可能性があると聞かされ、偽名で名乗る自体にもなってしまった。

お父さんはというと、探してくると言い残して何処かへ消えてしまた。

追ってきた背中を短期間で無くしてしまった私は、両親の得意分野をひたすら探求するしかなかった。
ただ真似していただけで、根幹となることは何も知らなかったのだと実感して、親戚の家で過ごす間はとても苦しかった。

それから一月経ち、お母さんが残したものの半分は他の錬金術師に扱えても、ブラックBOX化したものも数多いという。

もちろん私は扱い方も、直し方も知らない。

だって私にはそもそも。

過去のことを思い出しながら散歩していると、私は不思議と実家の前にいた。

実家は荒らされ、重要そうなものは手に持てるものだけ私に預けられてあとはお父さんが壊したとのこと。
きっと私と別れた後に実行したんだろう。

もはや廃墟と呼ぶにふさわしい外見となった家の玄関だった場所で私はただひたすら過去を追憶していた。

ただひたすら2人の真似事をしては怒られ、それでも優しく接してくれては苦手なはずなのに外で一緒に遊んでくれたりもした。

世の中では完璧人間な2人の不器用な失敗の数々は私にとってとてもいい思い出だった。

心が溶けそうなくらい痛くなって、その場に崩れ落ち、ただひたすら目から雫を落として柄にもなく大泣きしてしまった。

 

目を拭っていると目の前にガラスが割れたような裂け目が突然現れて、私は光に包まれてしまった。

それは一瞬であり、気付いた時にはあの、終わった世界にいた。

私はこの世界で、お父さんが得意なことの本当の意味を知った。
握った引き金はとても重くて、思い知らされた。

今帰ったって、追い続けた背中はいない。

今私の近くには別世界へと行ってしまうデタラメな出来事に対応できるヒトたちがいる。

ならば、わたしは

 

わたしが元いた世界に帰りたいのか、アルはそう聞いてきた。

いま帰ったって何もない元の世界に帰るくらいなら。

「わたしは戻ろうだなんて思ってないよ。あなたたちと会えたことで、ようやくやるべきことが見つかりそうなんだから」

「そう、そうか」

アルはそう呟くとしばらくペシャンとやらが流れる様子を眺めていた。

「なら、1つだけお願いがあるんだ」

アルは改まってわたしの前に両膝をついてわたしの手を握りしめた

「な、なに」

そのあと目を合わせてくるんだからなんだと思った。

「生きることはあきらめないでほしい」

わたしはしばらくなにを言っているのか理解できなかった。

きっとブリンクたちが行った世界よりももっと厳しい世界があるかも知れない。そんな世界に巻き込まれても、どうか生きることだけはあきらめないでほしい」

そうか、この子たちと一緒にいるといろんな世界に飛び込んでは危険な目に遭う日々が始まるってことか。
だからこそ見つけられそうな目的を確実性のあるものにできる。

そんなチャンス、逃すほどわたしの目は濁っていない。

「もちの論だよ。せっかくの拾われた命を簡単に捨てたりはしないよ」

「そうか、よかった」

アルは安堵した表情で立ち上がった。

「なら目的を果たしに行こうか。干渉液を手に入れないとね」

わたしは今後の目的が見つかりそうになっていたけど、目の前の目的を忘れていた。

「そうだった。ちょっと脳みその電流が足りなかったかな」

わたしとアルは干渉液とやらを探しに再び歩き出した。

干渉液とやらは一部の知識と力がある人物にしか作成ができないものらしい。

つづりやカナデからも聞いていたが、なんでもできる万能な人はこの世界にいないという。
でも、何か1つは必ず得意なことが存在し、この世界の人たちは得意不得意を協調で補い合っているとのこと。

独占できればお金儲けとか考える人が出そうだけど。

「え、お金って概念自体が存在しない?」

「ほかの世界だと当たり前にあるかもしれないけどね。ファミニアでは物のやりとりは依頼品との物々交換、または好意から来る一方的な受け渡しがほとんどなんだ」

「それ、お互いの求めている価値と釣り合ってるの?」

「価値とかそういう考え自体がないんだよ。お互いにできることを出し合って、相手の求めている不足感を満たし合う。
それが達成されただけでぼくたちは十分なんだよ」

「でも、有名になったりとか、名が知れ渡るようになりたいとかなんというか承認意欲みたいなものが少しはあるんじゃない?」

何をアルと話しているのかというと、はじまりは干渉液にいくらお金が必要なのかという話になったのがきっかけ。

ここまで物々交換だけで取引が行われていたから不思議で仕方がなかった。

「承認意欲か。ファミニアの人たちにもそういう欲求は存在するよ」

「なら」

「それでも、お互いの承認意欲の中には相手を思うという前提が必ずある。
お試しの飲み物を飲み物が欲しいと思わない人へ無理やり勧めはしないし、新技を披露する相手に対しても時間や状況を考慮して行っている」

「それって、アルたちの周りだけの話じゃない」

「早い話、取引条件として持ってる人も多いね。お試しの被験体になってもらうことを条件に相手の悩みを解決するとかね」

承認意欲があればそこから憧れや嫉妬が生まれて、自分だけのものにしようとする。
そんな考えが少しでもあれば必ず対価は大きなものを求めようとするはず。

無闇に主張して嫌がられたりとか、そんなのが普通だと思ってた。

この世界にはそんな考え自体がないの?

「なんか納得いかない」

「ファミニアで過ごせば自然と慣れちゃうよ」

「ふーん」

無意識にアルの後ろをついて回っていたけど、なんで私たち歩いているんだ?

「ねえ、あのハルーってやつ使って移動しないの?」

「実は一度も行ったことがない場所なんだ。距離的にここから歩いたほうが早いっていうのもあるね」

「最初が面倒なのはどこも同じなのね。で、今はどこに向かってるの?」

「このまま歩いていたら奇妙な門が見えてくるんだけど、そこを潜った先にある芸術都市ゲミニカに用があるんだ」

「アルはゲミニカって都市には行ったことないの?」

「ゲミニカ自体には行ったことがあるんだけど、門をくぐってすぐのところに目的地があるんだよ。
中央から歩くよりはいま歩く経路のほうが短いんだ」

「地図がないからわからないけど、ゲミニカってとこも広い都市なんだ」

「と、話していたら門が見えてきたよ」

門構えはわたしには理解できないほど酷いものだった。

門の表面は小山程度のトゲがたくさん出ていて、六角形やら五角形のような感じで虹からスポイトしたかのような色がぐちゃぐちゃに配してある。

そして何よりも気になるのが、照明として5個吊るされているライトが眼球の形をしていて青白く光っていること。

わたしのゲミニカに対する第一印象は思考がヤバい場所となった。

「芸術家の考え方を見直すところだったけど、やっぱダメだわ」

「あはは…」

門をくぐって2、3軒ほど建物を移動した場所に目的の場所がある

干渉液を扱っている人物、キエノラという人物が営んでいる店の前に僕たちは立ち止まった。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-12 今帰れたところで私は嬉しくないし、逆に辛い

あれからつづりさんとかなでさん、ブリンクが戻ってきた。

戻ってきて早々、ソラはつづりさんへさっきまで探していた次元へ繋げるようお願いをした。

それからなぜかつづりさんだけが目的の次元へ飛び、ファミニアから観察を行うことになった。

何でこんな流れになったのかというと、ソラたちがいた世界の解析準備を行うためらしい。寄り道をしないとは何だったのか。

そしてぼくとブリンクは脳みそを浸からせるための干渉液を手に入れるために外へ出ている。

出る前にソラへいろいろ怒ったせいで消耗した感情エネルギー補給のために、ぼくとブリンクは食べ物を求めて歩いていた。

「ソラに何を怒っていたの?」

事実を知らせていないブリンクはぼくが怒る理由がわからなかった様子。

「いきなり寄り道するようなことを始めたからさ。まあ、すでに寄り道してるぼくが言えることじゃないけど」

「たまには寄り道も大事だと思うよ。急ぐことじゃないんでしょ?

干渉液に関しては、急ぐことじゃないかな。

「うん、そうだね」

「それで、今はどこに向かっているの?」

そうか、目的地を伝えずに歩いてたんだった。

「今は材料をもらうためにシチィケム  って場所に向かってるんだよ」

「あ、カナデから聞いたよ。食べ物と交換するための素材が集まる場所なんだってね」

農業都市 シチィケム

食べ物をもらうために要求される大抵のものはこのシチィケム にある。

ここには材料となる植物や動物がいてそれらを育て、管理する人たちが集まっている。育て屋と呼ばれる植物や動物の専門家は必ず一種類に1人だけ。これも育て方や管理方法を能力のおかげで知っているから。

育て屋たちは育てること、飼育すること自体が楽しいため、よっぽどのことがない限りは無償で材料を分けてくれる。

今回ぼくたちが集めるのはパンの材料となる小麦、挟むためのレタスとお肉。つまりはサンドウィッチを作りたいわけだ。

お肉は何でもよかったんだけどブリンクの要望で鹿肉になった。どうやらブリンクがもともといた世界では主食としていた家畜の姿に似ているかららしい。

鹿肉の育て屋にブリンクがいろいろ聞いていたようだけど、鹿について熱弁する育て屋にただただ驚いている様子だった。

ブリンクが思っていたものと類似している点は多かったみたいだけど、違ったのは鹿の主食だった様子。

私の世界にいるウカっていう動物はこの世界とだいぶ似てるんだよね。でも違うのは食べるもの。ウカは小動物を食べる肉食系なのよね」

あのツノで小動物を攻撃って、苦労するだろうなぁ。

レタスについては初めて見るらしく、キャベツのように葉っぱ系の植物が玉状になっているものはブリンクの世界になかったらしい。

球体の植物といえばタネの状態を食べるモカニンって植物があってね。珍しく果肉の方を捨てて食べるやつなんだよ。果肉は苦くて苦くて食べられたものじゃないけど、タネ部分は煮たりすりつぶしてパンの生地に混ぜたりすると甘くて美味しいんだ」

ブリンクは自分の世界の話についてはとてもいい笑顔で話す。しかも確実に伝えたいのかいつもよりゆっくりと話すからとても真剣なことがわかる。

あまり故郷のことを話すから気にしちゃったけど、ブリンクは知らない世界に夢中になっている様子だった。

「楽しそうだね、ブリンク」

「あの灰の世界よりもキラキラしているからね、そりゃはしゃいじゃうよ」

パンの材料となるライ麦の育て屋に材料をお願いしたところ、珍しく要求品を提示してきた。

「収穫のために動いていたんだが、思った以上にペシャンを使っちまってね。ちょっとこのタンク一杯分のペシャンを組んできてもらえないかな

タンクの大きさはドラム缶くらいといえば通じるか、まあ背丈より少し低いくらいの高さだ。

ブリンクは驚いていたけど、ファミニアでは大容量のカバンが出回っているから実はそこまで苦ではない要求だ。

少々手間なのは、少し高いところにあるペシャンの源泉まで行かないといけないということ。

育て屋が必要とするペシャンは新鮮な状態じゃないといけない。一番新鮮なのはペシャンの源泉であり、街中を流れるペシャンは途中で多くの人が触れるため、鮮度が落ちてしまう。

育て屋はペシャンが欲しいとだけ言ったけど、少々気を使って源泉まで行くことにした。

「アル、ペシャンの源泉ってここから近いの?」

「いや、ここからカムイナキを超えた向こう側にある場所だよ」

「え、遠くない?」

ファミニアの大きさは日々変わっていて拡大する一方だ。

ファミニアの土地はぼくたちの家がある中心都市 カムイナキを中心として外側へと拡大していく。

そのため、一週間前は1㎞先にあると表示されていた建物が今は1.2㎞先になっていることもある。

こんな不思議なことが起こっていると今回のようにただでさえ遠い場所がさらに遠くなってしまい不便だ。

「大丈夫。遠くの場所へ行くために、このハルーがあるからね」

ぼくが取り出したハルーに対してブリンクは夢中になっていた。

「この宝石みたいなやつがハルーって言うんだ。で、この石を使うとどうなるの、飛べるの?」

「飛ぶとは少し違うんだけど、ハルーは一度訪れた場所を記憶して、その場所へ一瞬で飛ばしてくれるんだよ」

「やっぱ飛ぶんじゃん」

「雰囲気としてはつづりさんが使う座標移動に近いかな」

「それって転送だよね。飛ぶと言うってことは何か違うの?」

ハルーが記憶するのは座標ではなく、記録したい場所の近くにあるプラキアと呼ばれる点を記録する。プラキアは始点を意味していて所持者が印象に残った場所がハルーの始点として記録される。座標を記録しないのはファミニアが常時変化しているということが影響してしまうからだ。

要するに一度は訪れたことがある場所にしかハルーでは移動できない。ブリンクは行ったことがなくても、ぼくがすでに訪れた場所だから一緒に移動することができる。

「じゃあ、ハルーを私が持ったところでペシャンの源泉には行けないってことか」

「そういうことになるね。じゃ、行こうか」

ブリンクと手を繋ぎ、ハルーを胸元に当ててぼくはペシャンの源泉を思い描いた。

すると気づいた時にはぼくたちはペシャンの源泉であるワッカイタクにいた。

「え、私たち動いた?周りだけが切り替わったみたいに何も感じなかったけど」

確かによく考えれば不思議な現象ではある。

別の場所へ瞬時に移動する際は何かしらの違和感が体で嫌でも感じることになる。

実は第三者視点で移動してきた人をみようと定点観測を行なったことがあった。

あの時は周囲を注意深く見ていても空間が歪んだり、いきなりその場に現れるなんてことが一切なくなんの収穫もなかった。

だからぼくは素直にこれが瞬間移動とか、指定した場所に飛ぶとか単純な言葉では言い表すことができない。

ハルーだからこういう芸当ができるという共通認識だから何も感じなかったが、よく考えるとハルーというものは得体のしれない奇妙なものであると再認識できてしまう。

「ねえアル、なんかあった?」

「え、ちょっと考え事してただけ。それじゃあ源泉に行こうか」

ペシャンの源泉は地下深くからペシャンが絶え間なく湧き続けるこの世界の生命線。

ここを独占するものが現れてもいいというほど重要な場所であるにもかかわらず、誰もそうしようとしない。

ハルー同様、そういうものだという考えで通っているんだろうけど今までにそう行った出来事が起きていないということが不思議でならない。

「源泉っていうから質素な場所かと思ったけど、噴水公園って言えるほど賑やかだね」

「何かとこの世界では材料になったり、感情エネルギーの補給だったりで人が絶えないからね。芸術好きな人たちが装飾して行ったって話だよ」

「芸術家ってあまりいい印象ないけど、湧き出るのが絵の具に変わってないあたりまだまともかな」

ブリンクの世界の芸術家って…。

ぼく達は新鮮なペシャンを回収してライ麦の育て屋へ届けた。

それから当初の目的だったサンドウィッチを手に入れて、ぼくとブリンクはペシャンの川へ足を浸からせていた。

「あの2人ともこの世界を歩き回ってみたけど、よくわからないなー」

「新しい世界ってそんなものじゃない?」

「いや、なんていうかどこにでもありそうな法則に全然当てはまらないってところが新鮮でさ」

この世界についてにこやかに話すブリンクを見ていると、ソラとの会話をふと思い出してしまった。

「当てっていうのは、ブリンクの魂と体を切り離す方法だよ。体っていうのは元いた世界の法則に縛られるんだけど、魂自体はどこに行っても普遍であって、縛られることはない。
器となる体がないと何処かに飛んで行っちゃうようなものだから、大抵は体とワンセットなんだよ」

「何を、言ってるのさ」

「ブリンクの魂を詰める器を作り、体を維持するエネルギーを感情エネルギーとする仕組みを作る、それが当てだよ」

「理解はできる。でもダメだよ!」

ソラは横目でこちらをみるだけだった。物言わずに人の方向を向くソラは時々怖さを覚える。

「わかるでしょ、代謝の概念がる世界の人が、どれほどからだと魂のつながりを気にしているのか」

「人は体あってこその存在。死んで初めて体と魂が切り離されて、魂は神様に救われるってのが普通だね」

「魂を切り離すなんて、ブリンクが首を縦に降るって、本当に考えているわけ?」

「最短でできるのはこの方法くらい。幸い、観測した次元の中にサンプルとして使えそうな法則があるからそれを使えばできる」

「ソラ!あんたは!」

ソラは表情1つ変えずぼくの目を見続けている。ソラの考えには人の気持ちが含まれていないことが良くある。

最近は良く考えるようになったと思ったらまたこれだ。

「あたしは当てを確実なものにするためにしばらく動けない。だからさ、頼みごとを完了する過程で聞き出してくれないかな。ブリンクの気持ちを」

聞くとしたら今かもしれない。

答えによっては、考え方を改めさせないといけない。尊重されるのは、本人の意思だ。

「ブリンクはさ、もし帰れるとしたら元いた世界に戻りたい?」

食べているサンドウィッチを全部口に入れて、飲み込んでからブリンクは話し始めた。

「戻れるなら戻りたいな。やっぱり元いた世界がしっくりくるし、戸惑うこともないだろうからね」

「なら」

「でも、今帰れたところで私は嬉しくないし、逆に辛い」

「帰りたくない理由って」

「お父さんとお母さん、2人とも私の世界ではちょっとした有名人でね。私の中では自慢の親だった」

「だった?」

ブリンクは頷いたあと、手遊びをしながら両親のことを話し始めた。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-5 まあ、いろんな場所に行ってますからな

 元の世界へ戻れるかの保証はありません。

 実は次元渡りも万能ではないのです。安全装置として元の世界へ戻るためにはカナデとアルの応答がなければならないという仕組みにしてあります。

 着地狩りという戦法はご存知でしょうか?
どううまく立ち回ろうとも、一度飛び上がってしまったら重力下の中では必ず地面に体の一部がついてしまうという概念がほとんどの次元に存在します。
そんな仕組みを利用して着地の瞬間に攻撃を加えるのが着地狩り。

攻撃を受ける側はあまりにも無防備で、ごく一部の超能力者を除けばもれなく受けてしまうという恐ろしい攻撃方法です。

カナデとアルが応答しなければ帰れないという安全装置は、二人の安全確認を兼ねていると同時に、私たちの変える場所で着地狩りを受けないためにあるのです。

 今回は向こうとの通信が途絶え、安全装置によって逆に苦しめられるという状態だから正直焦っています。
万能な安全装置なんてそうそう存在しないものですね。

 なんとかなるなるというゆるい考えで正気を保ちつつ、今行っているのは情報集め。この世界の案内人を連れることに成功したものの、実は名前を聞いていませんでした。

「ねえ、あなたの名前教えてくれる?」

 この世界にいた女の子は少し悩んでいる様子でした。まだ疑っているのか、別の問題でもあるのか。

一呼吸置いて彼女は答えます。

「ブリンク。しばらくはこう呼んでもらいたいな」

本名ではないとの断言は出来ないかな。世界によって名前の法則も意味も違うし。

「じゃあブリンク、確認したいけどこの建物ってもう調べ尽くしてあるの?」

「私がこの世界に来てずっといた場所だからね。生きてる人も、食べ物もないかな」

「んじゃ、向こうのビルにでも行こうか」

 つづりんが槍を手に取りながら向かい側に見えるビルを目指しました

「待って!私が危ないって言ったこともう忘れたの?」

 ブリンクは慌てているけど、まあ無理もないか。

「大丈夫だよ、この灰に触れることはないからさ」

 縁結の矛に沿って黄緑色の輪が矛先へと近づいていき、その輪が向かいのビルの床へと撃ち出されます。

輪が床へ命中するとその場が黄緑色に輝き、つづりんとわたし、ブリンクの足元も輝きます。

「え、なになに!?」

 ブリンクが驚いてあたふたしているうちにわたしたちは向かえにあるビルの床の上にいました。

「うそ、空間移動だなんて、お母さんも苦労して手に入れるのが叶わなかったのに」

 空間移動の概念を知っているということは、かなり技術か知識が発展した世界にいたのかな。

 「すごいでしょ、これで目に見える限りの建物へは灰に触れず移動ができるよ!」

 つづりんが得意げに話していると、ブリンクのお腹の虫が鳴きました。

「さっきの言い方だと食べ物に困っている感じだよね」

「そ、そうだね。あの建物にあった食べ物は食べつくしたに等しかったからしばらく何も食べてなかった」

頬を赤く染めてしまったブリンクへ私は朝の騒動で大量に残ったおにぎりをブリンクに渡します。

「ソラさん、持ってきてたんだね」

「あのままあっても消えるだけでしょ」

私の掌の上にある竹の葉にくるんであったおにぎりをブリンクは素早く掴み、そのまま2個をペロッと食べてしまいました。

「なにこれ?!これ本当におにぎり?!具も入っていないのに美味しいんだけど!」

おにぎり知ってるんだ。ほんと、どの世界にもおにぎりって存在しているんだなぁ。

ブリンクはおにぎりを食べ終わってから一呼吸置くと、別人のように元気になっていました。

「いや〜元気でたわ。ありがとう!」

ブリンクは軽快な足取りでビルの階段へと向かっていきました。

「ほら、早いとここのビルを制覇しちゃおうよ!」

感情エネルギーは人を変えるんだなと思った瞬間でした。まあ、あれが素の彼女だろうけど。

この世界の建物は安全地帯であると同時に生き延びようと容赦のない人が身を潜めるデンジャーゾーンでもあります。
戦いを知らなかったこの世界に身を潜めるための地下施設という概念はなく、地下にはライフラインと言える電気と水だけが駆け巡っています。

そのため、非常食というものを備える習慣もありません。

この世界に残る食料は、建物に備え付けてある小規模な保存庫にしかありません。
中身によっては10日くらいなら余裕で生きていけるらしいです。それ故に保存庫の前を陣取る人も多いです。

「じゃあブリンクは何日この世界にいたかもわからずに、ずっとあのビルの中にいたってこと?」

私たちは安全が確認できた2階を調べながらこれまでのブリンクの過ごし方を聞いていました。

「何日って言われても、この世界は昼夜が切り替わる様子がないうえに、周囲の変化もほとんどないから確認のしようがなかったんだよ」

「本当に私たちが知っていたころの世界からは大きく変わっちゃったんだね」

するとブリンクがとても不思議な顔をしました。

「本当のって、本当にあなたたちは何なのさ」

「特に何者でもないよ。ちょっと変わったことができるだけ」

「一般人から見たらちょっとじゃないんだけど」

 

何事もなく4階へたどり着くとブリンクは踊り場で私たちへ止まるよう合図を出しました。
彼女が指差す先には銃弾の跡があり、まだ少しだけ腐肉が残った人だったものがいました。

ブリンクが銃を構えて慎重に銃弾が放たれたであろう部屋の中を探索し始めました。

人だったものは右の大腿骨と左中心寄りの肋骨に銃弾の跡がありました

銃弾に限りあるこの世界で脳を狙わないのは意外です。この人だったものにした人物は、あまり命を奪うことに慣れていない人かもしれないです。
心臓を撃ち抜いても、しばらく意識があって一矢報いられる可能性がありますから。

「大丈夫だよ」

ブリンクが声を出して呼んだということは完全に警戒モードを解いた様子。

「死体を見ても動じないということは、2人もこう言った状況には慣れっこってことかな?」

「まあ、いろんな場所に行ってますからな」

つづりんはにへらっとした顔で答えました。

「この部屋にも人だったものが転がっているね」

私の目に止まったのは唯一頭蓋骨が貫通された人だったもの。
その迎えには心臓をダイレクトに撃ち抜かれたであろうものがいました
この頭蓋骨を撃ち抜かれたものがあの踊り場のものをやったのかな。見事に一矢報いられちゃって。

「ソラさん、こいつだけおかしい」

「ん?人の殺し方をこいつだけ知らないってことが」

「どこからそんな考えが浮かぶのさ。この死体、この世界の人じゃないよ」

ブリンクが驚いた顔をしている中、わたしはそばにあったバッグを漁りました。
その中にあった紙切れは、この世界のものではないと同時に、とても重要なものだでした。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-4「まずはあなたを信じるのが大事でしょ」

この世界に来てどれほど経っただろう。
見渡しても建物だった瓦礫の山と高くそびえたつ石の塊となったビル。
そして、絶対に触れてはいけない白い灰が降り続いている。
ここに来てしまった方法もわからず、戻る方法もわからない。

いきなり目の前で目の前の光景がガラスが割れたように割れて、まぶしい紫の色にびっくりして目を閉じていたら、いつの間にかここにいた。

人は数人見かけたけれど、まともに会話できた人はいなかった。みんな必死で、私も必死だったから。

どうすることもできず、どのみち朽ちることしかできないというのに、生存本能が邪魔をして生きようとしてしまう。
その結果握ってしまったこの拳銃ですでに何体もの命を奪っている。
彼らも必死だったんだろうが、私には関係ない。生きるために必要だったんだから。
こうしてまたお腹がすくまで瓦礫の隅でうずくまるしかない。

「いたっ!」

「って、なによ、これ・・・」

人の声がいきなりして驚いた。
そもそもまともに言葉を発する人自体が久々だった。
いつからかは知らないけど瓦礫の向こう側にいる。

「もしかして飛ぶ場所間違えた?」

「不干渉次元がおかしかったから、変な場所につながっちゃったのかも」

「そんなことある?」

2人いると思われる会話から察するに、きっとこの世界の人ではない。私以外にも紛れ込んじゃう人がいるなんて。

「あるとの交信も途絶えちゃったし困ったなぁ」

「まあ調べるだけ調べてみようよ」

足音が近づいてくる。いざとなったらこの銃で。
でも2人の足音はそのまま外へと向かっている様子だ。どうしよう、このままじゃ2人とも死んじゃう!
忘れてしまったと思っていた良心が咄嗟に反応し、私は銃を握って瓦礫から身を晒した。

「動かないで!」

2人は驚いてこちらを向き、外へ出ることはなかった。

「死にたくなかったらさっきまでいた場所に戻って」

2人が現れたのはこの建物の中心付近。間違っても灰に触れることはない。
1人は怖がった顔で指示に従ってくれたけど、もう1人は表情を変えずにこっちを見ながら指示に従った。まるで銃に慣れているかのようだった。
2人のうちの1人、紫髪の子がまず話しはじめた。

「私たち、この世界のことがよくわからないんだよね。あなたはこの世界の住人なの?」

もしこの世界の住人ならば、何を言っているのかと疑問に思う問いかけだ。でも、私はその質問の意味を知っている。
私は立場を上に見せるため、銃を下ろさずに問いかけに答える。

「いいえ、私はこの世界の住人じゃない。きっとあなたたちもそうなんでしょ?」

「そうなんだ。よかったらこの世界に起きていることを教えてくれない?」

「いや、まずはお互いのことを知るべきだと思う。警戒されたままだとお互いに疲れちゃうよ」

背の小さい子は対等な立場で話したいらしい。

「ごめんなさい、この世界に来てから人間不信になってしまったの。そう簡単に私のことを話す気はないよ」

「そう・・・」

背の小さい子が私の方へ歩いてきた。何を考えているの?

「止まりなさい!私は躊躇しないわよ!」

彼女は歩みを止めず、ついにその額を私の握る銃につけた。

「ソラさん!」

「ちょっと、何を考えて・・・」

ソラというらしい少女は何の躊躇いもなく私に目を合わせて話しはじめた。

「初めまして。私はソラっていうの。
あっちの子が結月つづり。
私たちは訳あってこの世界に今まで来ていたの。
でも不思議なことに世界が一変。辺りが終わった世界のようになっていて驚いているの」

こっちが驚いているよ。
不思議と、私は引き金を引けなくなっていた。
この世界に来て何度も引いてきたはずなのに私の人差し指は動こうとしない。

「私、落ち着いて一緒に話がしたいな」

「・・・」

「だから、銃を下ろして」

私の頭は混乱していた。
イレギュラー、予測不能なことだらけのことを処理できずに私はとうとう膝を折り、うなだれてしまった。

「大丈夫?!」

結月つづりという女の子が慌てて駆け寄り、私を支えてくれた。
この世界に来て久々に味わったこの感覚。懐かしくて目尻が熱くなってしまった。

「ね、ねぇ・・・」

私は顔をあげて答えた。

「ごめん、何もかもが久々で、びっくりしただけだから」

「ならよかった」

結月つづりは振り返ってソラという少女と話しはじめた。

「ソラさんは無理しすぎだよ。何も銃口を額につけなくても」

「まあ心検査するには一番手っ取り早いし。でも撃たれたらどうしようってヒヤヒヤしていたよ」

「やっぱりしてたのね」

「でも信じていたから、この人は絶対撃たないって」

「なんで、初対面の人を信じれるのさ。ただでさえこんな感じの世界なのに」

私の言葉にソラという少女とつづりという人は顔を見合わせてそのあとそろってにっこりと笑い、ソラという人が答えた。

「だって、私たちを信じてほしいなら、まずはあなたを信じるのが大事でしょ」

知らない世界へ飛ばされた私は、元の世界に戻れないという理由でどこか荒んでいたのかもしれない。

でも、いま目の前には元の世界に戻れる可能性がある。
私はこの時、この人たちに賭けてみようと思った。目の前に現れた、微かな希望なんだから。

「なら・・・」

私が口を開くとつづりとソラがこちらを見てきた。

「なら、私も信じてみようかな、あなたたちを」

「もちろんだよ!よろしくね!」

手を差し伸べてきたつづりと手を結び、私は彼女たちと行動するようになった。

 

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【オリジナル小説】次元縁書ソラノメモリー

「肉体と概念のその先へ」

 

思考も、在り方も、概念も世界それぞれ。
それを否定するのが正しいのか、肯定するのが正しいのか。
果たして、正しいとは何なのか。

それはきっと世界に縛られる肉体と、概念の先にあるはず。

 

この物語から人の在り方、概念、思想から何殻を考え直すきっかけになってもらえればうれしい限りです。

このページはあおソラいろが書いている小説「次元縁書ソラノメモリー」のトップページです。


1章 終わりが始まる世界
 1-1 ここはファミニア
 1-2 正夢の噂、ですね
 1-3 何がどうなっているのさ!
 1-4 まずはあなたを信じるのが大事でしょ
 1-5 まあ、いろんな場所に行ってますからな
 1-6 まったく、お前はどこから来たんだ?
 1-7 確かに存在したという証としてね
 1-8 あなたは私たちが怖いですか?
    1-9    この世界にとって、今や死は救済。生きる者に、救済を!
    1-10  わたしだって考えなしってわけじゃない
    1-11  しないよ、今回に限っては
    1-12  今帰れたところで私は嬉しくないし、逆に辛い
    1-13  生きることはあきらめないでほしい
 1-14  みんながみんな独特の発想を持っているとは限らないからね

 

この小説はあおソラいろの著作物ということになります。
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