「あ、おねえちゃん、やちよさんお帰りなさい」
「お帰りなさい」
みかづき荘にはういとさなちゃんが戻ってきていました。
まなかさんのところへ行っていたさなちゃんはウォールナッツのお店の中で水名女学園の魔法少女達と交流していたとの事です。
雰囲気はいつも通りで、楽しい時間を過ごせたと嬉しそうに話してくれました。
ういは灯花ちゃんとねむちゃんのところに行ってお話をしていたみたいなんだけど、自動浄化システムについて少し話が進んだという話をしていたのです。
「この世に観測できない物があるなんてあり得ない!って灯花ちゃんが悩んでいたんだけど、そこからねむちゃんや桜子さんと一緒に観測できないものって何だろうなって考えてたの。みんなは何だと思う?」
「そうね、概念とかかしら。人は呼吸しないといけないとか、寝なきゃいけないとか」
「すごいやちよさん!すぐに思いついちゃうんだ!」
「それ以外って言われると難しいわね」
「概念なら仕方がないよねーって話になった後、じゃあ概念はどう観測できるかとか難しい話になっちゃって、聞いてる私は疲れちゃった」
「結局わからなかったって事ですね」
「概念だって片付けられちゃうと、どうしようもないわね」
灯花ちゃんはまだ諦めていないみたいだけど、私たちにはこれ以上自動浄化システムについて調べることは無理だという結論になってしまいました。
「神浜にしかないっていうのが何かヒントにならないかな」
「神浜のみんなに聞いてみてはどうでしょうか。何かいい答えが出るかも」
「そうだね、みんなに意見を求めてみるね」
神浜の魔法少女の間ではワルプルギスの夜を倒した後に専用のSNSを用意して情報交換を行うようになりました。
そこへ私はういから聞いた話を書き込み、さなちゃんからの提案通り、神浜にしかないものを募集しました。
その結果、今度の集まりで意見をまとめることになりました。
ちょっとは活動方針を示せたのはいいことかな。
太陽が夕日に変わる頃、ふとやちよさんが話し始めます。
「そういえば夕ご飯の買い出しがまだだったわね」
「あ、それなら私が行ってきますよ。ここからそんなに遠くないですし」
「おねえちゃん、私も行く」
「私もご一緒しますよ」
「それなら私は留守番しておくわ。フェリシアが帰ってきた時に誰もいなかったら何があるかわからないし」
「あはは」
私とうい、さなちゃんで夕ご飯の買い出しへ行くことになりました。今日は新西区の西側にあるスーパーで安売りが行われているとやちよさんが言っていたのでそこへ向かうことにしました。
「えっと、今日の料理担当は」
「私とういちゃんです」
「ああ、だから」
「もうおねえちゃんったら、昨日の夜に話したのに」
「へ!そうだったけ、ごめんね」
昨日の夜のこと、普通ならば覚えているはずなのに、今日は衝撃な出来事が多くて頭から抜けてしまっていたようです。
魔法少女のこと、考えすぎたらいけないなと実感した瞬間でした。
「おねえちゃん、何か食べたいものある?」
「そうだなぁ、今日は揚げ物が食べた気分だなぁ」
「あ、それならお野菜とかの天ぷらにするね!私天ぷら作ってみたかったんだ」
「でも、作るときは跳ねる油に気をつけなきゃダメだよ」
「大丈夫ですよいろはさん、私も手伝いますから」
「うん、お願いね、さなちゃん」
ういと、さなちゃんと話していると自然にいつもの日々に戻ってきた気がしました。
何気ない会話を交わして、みんなで楽しい時間を過ごせる。
やっぱりみかづき荘のメンバーが集まるほどに、楽しい気分になっていく気がする。
楽しい気分だと、自然と行き先が近く感じてしまいます。
スーパーに着いた後は、出かける前に書いて持ってきたメモに沿って買うものをカゴに入れていく、といういつもの流れです。
そういえば、最近のスーパーではお客さん自らがバーコードをかざして袋に入れ、そのまま支払いをするというセルフレジが増えています。
私も使用したことはありましたが、バーコードをなぜか読み込んでくれなかったり、バーコードがない商品はどうすればいいのかなど、わからないことだらけだったことを覚えています。
やちよさんから使用方法を教えてもらったことで人が少ない状態であれば時々使うくらいまで使いこなせるようにはなりました。
今回もセルフレジの方で会計を行おうと向かったところ、1人の女の子がセルフレジを見つめながら何か悩んでいました。
「ねえ、おねえちゃん」
「なに、うい」
「あの女の人、初めてセルフレジに触れたおねえちゃんみたいになってない?」
「えっと、ちょっとお手伝いしてくる」
何気ない話し方で図星しちゃうことを言っちゃうういの言葉を聞いて、灯花ちゃんに似た考えにならないかなと不安になってしまいました。
「あの、よかったら」
「うわわごめんなさい店員さん!バーコードが無いからどうするかわからなかっただけなんです!」
「わ、私店員さんじゃないですよ」
「え、じゃああなたは?」
「困ってそうなので声をかけてしまいました。よかったら使い方を教えましょうか」
「えと、すみません、お願いします」
セルフレジの使い方について教えている間、さなちゃんとういは無難に店員さんのいるレジに並んで会計を行ったようです。
セルフレジに悩んでいた女の子が買い物袋を持っていなかったのでどうしようか悩んでいたところ、女の子の友達が駆けつけてきました。
「静香、普通のレジにいないと思ったら難易度の高いセルフレジにチャレンジしていたんですか」
「そうだよ静香ちゃん、普通にレジに並ぼうよ」
「いや、今後はセルフレジが主流になっていくらしいじゃない?なら、少しは使えるようになっておこうと思って」
「最近ICカードへチャージできることを覚えたばかりなのに、急ぎすぎですよ。人様にも迷惑をかけてしまっていますよ」
「えっと、今回はありがとうございます。助かりました」
「いえ、突然声をかけてご迷惑になっていなければよかったです」
「はあ、村から出た時にレジを触ったことがあるから大丈夫だと思ったんだけどなぁ」
「え、今、村からって」
「えと、私たちは最近神浜に来たばかりで、あまり都会に慣れていないんです」
神浜に来たばかりの女の子達は、時女静香さん、広江ちはるさん、土岐すなおさんと言い、今は急いで都会の生活に慣れようと頑張っているところでした。
「なんでそんなに慣れようと急いでいるんでしょう」
「理由は話せないんですけど、どうしても慣れる必要があるんです」
あれ、今さなちゃんの問いかけに答えたのかな。
「もしかして、3人は魔法少女ですか」
「「え!」」
「それなら、私が見えてるってことですか」
「もちろん見えているよ」
「魔法少女のことを知っているってことはあなた達も?!ちょっとお店を出てから話しましょう」
まさかのさなちゃんを認識できるというそれだけで3人が魔法少女であるということがわかってしまいました。
やちよさんは魔力反応を検知できるとのことですが、私たちはさなちゃんがいなければ静香さん達が魔法少女だなんて知ることもできませんでした。
「静香さん達が神浜に来た理由って、もしかして自動浄化システムについて話を聞いたからですか」
「自動浄化システムって、魔法少女が魔女にならない力のことですか」
「そうですよ」
「それならば、答えはその通りです。私たちは九兵衛様から神浜のことを聞いて、その力を手に入れるために神浜へ来ました」
「手に入れるって言っても、別に奪っちゃうとかそういうわけじゃないよ。分けてもらおうと思っているだけ」
やはり静香さん達にも自動浄化システムは手に取れるものだと伝えられて、ここまで来ていたのです。
午前中にカレンさんに言われた通りに伝わってしまっている。ならば、わかってもらうために話し合わないと。
「実は私たち、神浜の魔法少女達で自動浄化システムを広げることを目標として組織みたいなものを作ったんです。今は広げ方を話し合っている最中で、よかったら話し合いに参加してもらえないでしょうか」
唐突なお願いで、静香さん達はお互いに顔を合わせて何かを話し合っていました。これが誤解を解いていくための初めての試みとなってしまって不安でいっぱいでした。
「いろはさん、その話、喜んで参加させてもらいます。いや、むしろ参加させてください」
「本当ですか」
「ただ、私たちも他の魔法少女を束ねる立場にいます。なので神浜の組織には参加しないで、協力の立場とさせてください」
「大丈夫ですよ、宜しくお願いします」
「神浜に滞在するなら調整屋さんを教えたほうがいいね」
「調整屋さん?」
私たちは情報交換を行うためにお互いの連絡先を交換しました。
魔法少女のSNSについては3人とも使い方がわからないということもあり、情報交換はメールや電話でのやりとりで行うことになりました。
調整屋さんの場所については後日訪れたいとのことだったので場所だけは地図も合わせて教えておきました。
「今回は本当にありがとうございました。今度行われる話し合い、楽しみにしています」
「はい、こちらこそお待ちしています」
「ういちゃん、さなちゃん、またね!」
「またねー」
私が静香さん、すなおさんと話をしている中、ちはるさんとうい、さなちゃんはお互いの夕ご飯についての話で盛り上がっていたようで、すっかり仲良くなってしまったようです。
「遅くなっちゃいましたね。真っ暗になる前に帰りましょう」
「そうだね、さなちゃん」
詳細なことは話せていないけれど、話し合いの場に参加してくれるということになりホッとしました。
話せばわかってくれる。
もっと外から来た魔法少女と話し合って、そして。
そういえばまどかちゃん達との情報交換をしばらく行っていないことを思い出しました。
帰ったら一言メッセージを送っておかないと。
「「ただいまー」」
悩むことはたくさんあるけれど、みかづき荘のみんなといると、とてもリラックスした気分になります。
今晩は、妹が作った料理を食べられて、とても幸せな気分になっちゃいました。