気がついて目を開けたときに感じたのは、冷たいコンクリートの床の感触と吹き抜ける風の冷たさ。
そして周りを見渡してみると腕を組んで壁に寄りかかっているカレンさんと体育座りで顔をうずめているかりんちゃん、そしてかりんちゃんを見つめるピリカさんがいました。
「ここは」
私がそう呟くとかりんちゃんが顔を上げて私に近づいて来て目の前に座りました。
「いろはさん、お願いなの。先輩を、アリナ先輩を助けて!」
いきなり行方不明のアリナさんの話が出てきて話に追いつきませんでした。
「こら、事情も説明しないで頼んだって困るだけでしょ。まずは事情を説明させてくれるかい、いろはさん、あとはピリカも」
ピリカさんはどうやらカレンさん達の仲間らしく、別行動をしていたのは神浜市を見極めるためだったとのこと。
見極めた結果を聞きたいのは山々ですが、今はアリナさんを助ける事情を教えてもらっている最中です。
「元マギウスの一人、アリナ・グレイを助けたい理由はマギウスの経緯を知りたいという理由と、彼女が張っている被膜を解除してもらうためだ」
「張っている皮膜を?でも、アリナさんのソウルジェム、ヒビが入っているのでそんな膨大な魔力は行使できないと思うんですが」
「現にキュゥべえは今だに神浜へ入ることができない状態だ。この状態は私たちの計画にも支障をきたすんだよ」
「キュゥべえと契約させるために、ですか」
「そうさ。一人の願いでみんなが救われる。しかもすぐに魔女化してしまうような結果もドッペルを出すだけで終わるんだ。これ以上に簡潔な方法はないはずだよ」
願いを叶えるはずの少女の意思、そしてその結果生じてしまうという人へ降りかかる呪い。
この人たちはそんな結果が待っていようと最善策を考えようとしてくれません。
きっと、アリナさんの意識を取り戻してしまうとカレンさん達の計画は加速するでしょう。
でも、それがアリナさんを助けない理由にもならない。
かりんちゃん、この人たちの目的を知った上で協力してるんだろうか。
「かりんちゃん、カレンさん達が何をしようとしているのかわかってるの?アリナさんを助けたら、キュゥべえが神浜に入れるようになってたくさんの人が、また不幸になるかもしれないんだよ」
「この人たちがやろうとしていることは怖いことなんだってことはわかるの。でも、一番怖いのは助けたい人を助けられなかったって後悔するときなの。
みんなに普通に伝えたらアリナ先輩は間違いなくひどいことをされるの。
それに、シオリさん達はアリナ先輩を守ってくれるって約束してくれたから」
「それは楽観的すぎるよ。アリナさんだって、あの時と同じままだったら」
「アリナ先輩は私が説得するの!だからお願い、アリナ先輩を目覚めさせてあげてほしいの。みふゆさんの時のように」
アリナさんのソウルジェムはヒビが入っていて、みふゆさんの時くらい損傷していました。
「補足しておくと、この状態でも魔力は消費していてね、実は何度かドッペルが出ているんだ」
「ソウルジェムが、こんな状態なのにですか?!」
「正直私も驚いているよ。ソウルジェムへ負荷がかかっているはずなのに砕けずに耐えているのが奇跡なくらいだ。でも確実にヒビは深くなっている。もうそんなに長くは保たないだろう」
「お願いいろはさん、時間がないの!」
アリナさんを助けるべきか否か。
いつも選択が迫ると近くにいるはずのクレメルの姿はなく、相談できる人もいない。
助ける理由も、断る理由も実はない。
この人はねむちゃんによって偽りの記憶を植え付けられた結果、あんなひどいことをしてしまっただけでかりんちゃんの言う通り優しい人なのかもしれない。
でも、やちよさんによるとアリナさんは元々価値観は特殊で、ウワサに操られていない状況でも同じことを繰り返しかねないともいっていた。
確かに、アリナさんが作った死者蘇生シリーズの作品を見たときは、初めて会った時のアリナさんそのままの印象と一致してしまった。
でもそれはあくまでアリナさんの一面。かりんちゃんが言う、優しいアリナさんも別の一面。
どちらも不確定な要素でどの選択を行ってもみんなは納得できない。
最善の、最善の方法は。
私は大きく深呼吸をします。
「わかった。アリナさんを助けるね」
「はあ!本当!?」
「でもかりんちゃん、約束して。
かつて灯花ちゃんやねむちゃんが受けたように、アリナさんも裁判を受けてもらうから。そこでかりんちゃんの知っている優しいアリナさんをみんなに教えてほしいの。そして、みんなが納得する結果になるよう、アリナさんを説得してほしい。
もちろん、かりんちゃんも納得するようにね」
「わかってるの」
私はアリナさんの指にはめられたソウルジェムへ魔力を注ぎます。
助けたいという、ただそれだけの想いで使用することができたソウルジェムを修復する魔法。
助けなくてもいいという雑念がこもらないよう、ただ助けることだけに集中しました。
かりんちゃんを、これ以上悲しませたくないから。
少しだけ時間が経過し、アリナさんのソウルジェムは修復されましたが、アリナさんは眠ったままでした。
「これで、あとは気がつくのを待てばいいはず」
きゃあっ!
かりんちゃんの叫び声の方を向くと、かりんちゃんは糸でぐるぐる巻きにされていました。
「環いろはさん。蘇生の力、確かに拝見させてもらった。その命を救済する力は、私たちには必要だ」
「シオリさん、カレンさん、何をしてるんですか。かりんちゃんを離してください!」
「なに、アリナ・グレイの意識を取り戻すという目的もあったけど、一番の目的は貴方だ。蘇生できるというウワサ程度の話を目の前で観測できたんだからね。感謝しているよ」
私は急いで逃げようとしますが、素早くピリカさんに首を掴まれ、壁に打ち付けられてしまいました。
ピリカさんの手には、禍々しいオーラを放つ剣が握られていました。
私は首を掴まれたまま足が浮いた状態だったのでだんだんと意識が朦朧となっていきました。
「ピリカさん、なんで」
「私が神浜を見定めた結果を伝えていませんでしたね。
環いろはさん。
私は、貴方達の行動理念、そして、人と共存しようとする貴方達の考えを容認できません。
西と東の不毛な考えは人から魔法少女へ伝染し、魔女化の恐怖から逃れられても文化とお金によってさらなる絶望を生むでしょう。
なので貴方には見直してもらいます。
本当に人は、助けるに値するのかを!」
私のお腹を、ピリカさんの剣が貫きます。
かりんちゃんが泣きながら何か話しかけてきますが、呼吸できなくて変に頭に熱がこもっていた筈ですが、どんどん血が抜けるように、どこかに沈んでいくように寒く感じてきました。
この感覚はそう、初めてドッペルを出した時と同じ感覚でした。
長いドリームの中にいた。
ホスピタルの上から飛び降りようとした日から、アリナはナイトメアのようなアメイジングな夢を見ていたのかもしれない。
でもそれはリアルで、ノンフィクションだとフールガールの声が語りかけてきていた。
記憶も鮮明だし、嘘ではないと思うんだけど、今目の前で起きていることは、何のおふざけだと疑ったワケ。
捕まったフールガールに、血を流しながらドッペルを出す見覚えのあるピンク髪の少女。
そして、見覚えのない三人。
そのうちの一人が、アリナにこう話しかけてきた。
「おはよう、アリナ・グレイ。悪いが、あの化け物を閉じ込める檻を用意してもらえないか?」
「…ワッツ?」
第二章:アツァ リマ エノキゲン ハ センノウ 完
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