罰の園 1-2 乖離

階段で1階まで降りると窓があった場所はスクラップで防がれていて、左右に伸びる廊下は階段を降りて踊り場ほどのスペースしかないようにバリケードで防がれていた。

さて、どっちのバリケードを超える必要があるか。見た光景では方向がなく、バリケードの先ということしかわからない。

廊下の様子についての情報もなかったし、2択になってしまった。

どっちが正しいのか悩んでいると、なぜか左という気持ちになった。

右に行くと、何かに押しつぶされると思った。

なぜかはわからない。

左右のバリケードは上部分に少し隙間があり、私の体であれば通り抜けられる。

右側の隙間から見えるバリケードの先の天井を見ても、何も仕掛けられていないただの天井だった。

左側も同じだ。

「勘を頼るか」

私は左側のバリケードを乗り越えることにした。バリケードをよじ登り、上の隙間を通り抜けてバリケードの反対側へ辿り着いた。

その後は何も起こらなかった。

バリケードの反対側は長い間使用されていないのか、床は綺麗にホコリを被っていた。

窓には板が打ち付けられていて、その隙間から光が差し込むくらいしか光源がなく、奥が見えなかった。

明かりがないと進むには危険だ。

「どうしようかな」

いっその事板を剥がしてみようか。

そう思って、手軽に剥がせそうな板を一枚剥がした。

板を剥がすと光は差し込んだが、窓の先にいた化物と目が合ってしまった。

あ…。

そう思った頃には化物が窓を割って入ってきた。

私にはその時に飛び散ったガラスが刺さり、その後は頭を掴まれて床に叩きつけられた。

気がつくと紫髪の女が目の前にいる状況に戻っていた。
なんとなく何が起きたかわかった。

私は紫髪の女に聞いた。

「今はどこまで進んだ状況?」

この問いには紫髪の女の隣にいる短髪の男の子?が答えた。

「下の階のバリケードを越えられていないところだよ」

「そう…」

私は死んだらここに戻っていたようだ。

バリケード前の見覚えがある光景は、このせいだったか。

 

バリケードを越えたところまで戻ってきた。

外に化物がいるのはわかったから、室内の光源を頼るしかない。

廊下を見上げると蛍光灯はあるものの、それをつけるためのスイッチは視界に見当たらなかった。

廊下も頼ることができなかった。

左側には部屋があり、少しだけ板から漏れる光で室内を覗くことができた。

引き戸を開けると、何かが入った箱はあるものの、ぱっと見で光源になりそうなものは見当たらなかった。

もう燃やすでもいいから光源が欲しい。

箱の中を漁ることにした。

紙とは少し違った材質で、釘の跡もないのに正方形を保っている箱の蓋を開けると、そこには布しか入っていなかった。

火口には使えるだろうか。

次に見つけた箱を開けると、どんぐりより一回り小さいガラス製品とコイルのような金属部品が入っていた。

ジャンク品と呼べるものだろう。その中に蛍光灯のような明るく光るようなものはなかった。

さらにもう一個の箱は、ガムテープで蓋が塞がっていた。

爪で剥がそうとしても全く剥がれる様子がなかった。

…さっきのジャンクで切れるものあるかな。

比較的鋭利なジャンクを見つけ、持つ部分には見つけた布を巻き、蓋の溝に沿って切れ目を入れていった。

まるで缶切りで缶を開けるようにいちいち力を入れないと溝に沿った切り口をつけられなかった。

そんな厳重に閉じられた蓋がやっと取れ、中には棒のように細長い長方形の物体が入っていた。

その長方形は先端部分を見ると軸のようなものがあり、回転させるギミックがあるようだ。

回してみると、外装の長方形部分の一部が動き、軸の発光している部分が顕になった。軸は発色に発光していて、周りがよく見える。

すごい魔法道具みたい。

・・・魔法?

ふとこの世界にはない概念の話が頭によぎったことを不思議に思った。

何はともあれ光源が見つかったので暗い部分も歩ける。

箱の中にまだ何本か合ったが、手に取った1本だけを持っていくことにした。

廊下へ戻って再度目標を整理した。

青い光を探すために、この階にあるはずのボールがたくさんある部屋を見つける必要がある。

ボールがたくさんある部屋にピンと来なかったので、とりあえず各部屋を探すことにした。

ボールがたくさんある部屋にはどのような役割があったのだろう。

ボールには浮かばせて道の妨害に使ったり、相手にぶつけたりということくらいしか思いつかないけど。

そう考えていると黄色い球が目の前に現れて光ったかと思うと何かの光景が脳内に映し出された。

その光景の中には2グループに分かれた人々が礼をしたあと、笛を合図に中央に置かれた茶色のボールを取り合った。

ボールは持って運ぶのではなくいちいち地面にバウンドしながら敵陣地へ切り込んでいき、敵陣地奥の高いところにある網へ茶色のボールを投げ込んだ。

そこへ入っただけで周囲は熱狂している様子だった。

「なんだこれ…何かの模擬戦?」

「これはスポーツだよ」

「え、誰だ」

「君はこの世界の考えには疎いから、私があなたにこの世界の知識を補足してあげる。

この世界にあるスポーツというのは、戦争に使うのではなく、戦争とは縁遠い国で行われる娯楽だよ。

元ネタは戦争が元になっているけど、相手を殺さない争い事として考えだされたのがスポーツだよ」

「戦争する理由をなくなっても争いにこだわるとは」

「…そのスポーツにボールが使われることが多いから、体育館というワードの近くにある部屋を探した方が良いよ」

「ねえ、あなた明るいんだから光源代わりになってよ」

「ダメだよ、この世界にあるもので解決していかないと。
それに私の役割は導きだし。じゃあ頑張ってね」

景色は暗い廊下に戻っていた。

なんなの、私何かに試されてるの?
あの光り、導きという癖に目的地を明確に示さないし。

それにしても、自分の考え方がこの世界と一致しない。

私はもともとこの世界にいなかったということ?だとするとどこからどうやってこの世界に来たのだろう。

そう考えていると、どこからか化物と思われる雄叫びが聞こえた。

…考えことは安全な場所ですべきだ。まずは体育館の目印を探そう。

部屋ではなく今度は体育館の場所を示す看板を探すことにした。

廊下を歩いていると、左右に引き戸になってる大きな扉がある場所が終点となっていた。その扉の上には体育館とはっきり書かれていた。

体育館の入り口と思われる扉には鉄板が打ち付けられていて中へ入ることはできない。扉の隙間からは血が滲み出ていて、扉の向こう側で何が起こったのか想像できてしまう。

匂いは…嗅ぐ気にはなれなかった。

ずっと埃に塗れた空間にいるし、あまりこの辺の空気は長く吸いたくない。無意識に息も浅くなってしまう。長時間いると酸欠になってしまいそうだ。

この付近に目的の部屋があるはず。

体育館に向かって左側の部屋につながるドアを開けると、ボールが沢山あった。

「ここかな」

そんなに広くない部屋で、一番奥にあるボール入れの中から青色の光が淡く見えた。

光に至るためにはボールが邪魔だったのでいくつか外に出し、やっと青い光を見つけた。

青い光は自由になると浮き上がり、私の中へ入ってきた。

その後、再び私の中にこの世界ではない光景が映った。

====

前に見た光景で出ていた人物が玉座に座る存在へ話しかけていた。

「・・・様、クゥドルが落ちました。

ゴンドワがこちら側についてくれたことによる勝利と言えるでしょう」

「そのような戦果報告は魔王へ伝えるだけで十分なはずだ。何か気になることでも?」

「…ゴンドワはクゥドルの中にいたまま魔族となり、我らへ貢献しました。

クゥドルは黒魔法の素質を検知次第直ちに追い出すという白魔法主義が行き過ぎた都市。
そんな場所に魔物が入り込めばすぐに追い出されるはず。

しかしゴンドワはクゥドルの城内で暴れるまでは黒魔法の検知が一切されなかったと言います。

…様、ゴンドワと接触しましたね?」

「なんだい、私が外を出歩こうが自由じゃないか」

「やはりですか。魔力の隠蔽はあなたの得意技ですものね。神格であるあなたはここにいてもらわなければ皆が心配します」

「ここに座っているだけではつまらないんだよ。ここにいたところで皆に何かできるわけでもないのに。

それなら外へ出て自ら強そうな奴を堕とすほうが楽しいに決まっているじゃないか」

「人間達に見つかった時のことも考えて行動してください」

「生じた混乱は魔王の方に処理してもらうさ」

「まったく、魔王 デルトロク様に怒られても知りませんよ」

「ふんっ、リースウェルに変わってこの世界の神となるためにも下界の出来事を見聞きすることは重要なんだ。

下界からの報告を聞くだけならリースウェルと変わらん。聞くだけで何がわかるというんだ」

「それはごもっともですが」

「今に見ていなさい、私がリースウェルを討ったあとは神あり方も変えてやるから」

私は何を見せられてるんだ。

分からない地名、分からない人名。

何も分からないこの光景を見せて私に何をさせたいんだ。

「この光景は回想の主人公にとって大事な行動理念が映し出された一幕だよ」

声の方向には黄色い光が浮いていた。

「導きの光か。回想の主人公にとって大事だったとして、それが私に見せられているのはなぜなの。私があれになれとでも言いたいの?」

「さあ。すべての光がそろえばわかるかもね」

====

回想はここで終わった。

この回想の主人公・・・まさか私なの?

いや、だとしたらなぜその頃の記憶を何も思い出せないの。

そう考えていると黄色の球が体から出てきて、目の前で光ったかと思うとどこかの光景が映し出された。

屋上の端っこにある床板を外した先。

化物も歩くくらい通路を進んで行った先にモニターがたくさんある部屋がある。

次の目標はそこのようだ。

黄色い光が体に引っ込んだ後、灯りをつけながら来た道を戻った。最初は埃しかなかった道には私の足跡がついていた。他に足跡はなく、化物が知らないうちに入り込んだというのもなさそうだ。

バリケードの反対側へ戻った時だった。

「お前、何やってんだ」

階段の上には腕を組んだタケヤがいた。

出てはいけないとこへ出ていってしまったことが知られてしまった。目的を話すわけにはいかないし、変に大人達へ知らされても困る。

答えに困っていると、右手に持っていたライトをタケヤへ見せた。

「灯りを、探していたの。バリケードの先にあったよ」

タケヤは階段を降りてきて、私が持っていたライトを奪った。

タケヤはライトを回すと蓋がされて消灯する仕組みに驚きながらも、見つけてきたライトを珍しそうに見回していた。

「これ、まだあったか?」

急に聞いてきたので私は無意識にうなづいてしまった。

そう言うとタケヤはニヤリと笑って奪ったライトを返してきた。

「俺にいい考えがある。

任せろって、チクるわけじゃないから」

そう言ってタケヤが上に戻った後、武器を持った大人2人と一緒に降りてきた。

「全く、タケヤと同じワンパクだったとはな」

1人の大人がこっちをみながらそう呟き、タケヤと一緒にバリケードの向こう側へと移動していった。

そのあとは私の持っているライトと同じものが10本程度、そして電子部品と呼ばれるものとボトルに入った数本の水が見つかったという。

「バリケードの向こう側へ勝手に行ったのはいただけないが、これは嬢ちゃんの手柄だな。助かったぜ」

見つかった物資に群がる男の1人がそう言った。

タケヤが近づいてきて私に話しかけた。

「外の探検に興味があるならそう言ってくれよ!一緒にやろうぜ!

タケヤの後ろに1人の女性が立ち、軽くタケヤの頭にゲンコツを入れた。

「何言ってるんだい。あんたの悪ふざけに別の子を巻き込むんじゃないよ」

「母ちゃん、友達できたんだからいいじゃん」

「やっていいことと悪いことがあるって言ってんの」

どうやらあの女性はタケヤの母親っぽい。

私は親というのを知らないけど、いたらあのようなやりとりもあったのだろうか。

2人の話を聞いていると、私の腹の虫が鳴いた。この世界で初めて空腹を感じた瞬間だった。

「なんだい、腹が減ってるのかい。

悪いけど今は食料の在庫が乏しいんだ、2人で上の畑で芋を回収してきてくれないか」

「え〜なんで俺も」

「取らないと今日の夜は飯抜きだよ」

「そりゃないよ」

そう言いながらタケヤは上に続く階段を登っていった。

私はタケヤの母親へ食料事情を聞いた。

「食料が足りないって話、本当?」

「ん?残念ながら本当の話さ。

節約してきた非常食はほとんどなくなって、屋上菜園が頼みの綱になっている状況さ。

外と連絡が取れないと、冬を越せる気がしないね」

外との連絡

この世界でここ以外に住んでいる人間はいるのだろうか。この世界で暮らすしかなくなるなら、少しは気にしたほうがいいかもしれない。

そう考えながら私は紫髪の女性のところへ向かっていた。

「どうしたの、探し物で困ったことがあった?」

紫髪の女性の隣にいる少年?が話しかけてきた。

「いや、あなた達に話しかけたほうがいいと思っただけ」

「そう。その考えは正しいから、探し物が見つかるたびに話しかけにきたほうがいいよ」

「わかった」

そうしないと死んだ時に困る、そんな気がした。

さて…

私は屋上へ向かった。

 

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