神浜は新興都市というだけあり、高層ビルや奇妙な形状の建物が多い。
また、その代償なのかそれともワルプルギスの夜が到来した影響なのか建設途中であったり、人気がなかったりという場所も多いことがわかった。
私たちは3カ所ほど拠点として利用できそうな廃墟を確保し、そのうちの一カ所に眠り続ける緑髪の少女を保護した。
「さて、早速計画がダメになっちゃったけど今後はどうしようか」
「なに、ワルプルギスの夜なんてやろうと思えば再現することなんていくらでもできるさ。方法は別の話だけどね」
「わたしとしてはあまり気が進まない方法なんだけど」
「なら、少しこの街を知るための調査を行わない?ワルプルギスの夜を倒した魔法少女、興味があるんだよねぇ」
「シオリ、喧嘩を売るとか考えないでよ」
「相手の気分によるさ」
「自分の気分を抑えて欲しいんだけどね」
「私は神浜中を回ってみるけど、シオリとピリカはどうする?」
話し合いの結果、シオリと私は神浜の調査、ピリカは見滝原へ向かうことになった。
一先ずの活動内容は決まったけど、問題は見つけた緑髪の魔法少女についてだった。
「この子どうしようか、せっかくだし知ってる人がいないか聞き込みしてみる?」
「イタズラに探るのはやめておこう。この子のテリトリーで敵対する相手に話しちゃったらそれはそれで面倒だし」
ピリカはしばらく緑髪の魔法少女を見つめていた。
「ねえ、変わりばんこでこの子のそばについててあげようよ。誰もいない時に見つかって死体扱いされたり、魔女化したりしちゃったら保護した意味ないでしょ?」
「シオリが初日は見守っててあげる。2人は情報収集とグリーフシードをよろしくね」
「シオリ、イタズラしちゃダメだよ」
「同性愛の趣味はないんだけど」
「なんでそっち方向に捉えたの?!」
廃墟の中で響く笑い声。いつもなら周囲を警戒して躊躇するところだが、珍しく人気が全くない場所であるため思い切って感情を表に出せる。3人揃って笑い合うのも久々ではないだろうか。
「それより私は布団が欲しい。ふかふかな中で眠りたいよ」
「まだ睡眠なんてことしてたの?魔法少女なんだから必要ないでしょ?」
「わたしは眠りたいの!布団で横になっている時が一番ゆっくりできるんだから」
「こういう街だと、買わなきゃ手に入らないと思うよ」
「む、したっけ災害にあった建物から調達するもん」
ピリカはムッとして廃墟の2階へいってしまった。ピリカは極度に金銭を使いたがらない。というのも、彼女の過去に関係があることが原因なんだけどね。
「全く、ピリカのお人好しはいつまでも治らないね」
「いいじゃない、同じくらい絶望しても私たちが捨てたものを持ち続けている。私たちよりは強い子だよ」
「人間らしい振る舞いが、果たして強いと言えるのかな」
価値観が全く違う私たちがここまでこれたのも、共通の最終目的があるから。そして一緒に人の嫌なところを見てきたから。
成長途中の街というのは格差が生まれがち。この街の人々も大きな闇を生み出している気しかしなかった。
「さて、シオリはちょっと外の見回りでも行ってこようかな」
「休める時くらい休めばいいのに」
「カレンは知ってるでしょ?シオリが寝られないことくらいはさ」
シオリは魔法少女になってから一睡もできなくなったらしい。本人自身、何度か寝ようと試みたものの、結局は寝られずに朝を迎えてしまったという。
そしてシオリは、その頃から人間であるという考えを失い始めたという。
2人ともどこかへ行ってしまったので私は緑髪の魔法少女のそばで休むことにした。
シオリたちは神浜という街について知らなさすぎる。
シオリの考えるところではどうもこの街は魔力の濃度が濃すぎる気がする。
まあ、魔力といえばその専門家について聞けばいいよねということでキュゥべぇを探していたんだけど、一向に姿を見せない。
「あいつ何個体もいるくせに姿見せないはずがないんだけどなぁ」
そう呟いていると神浜から少し離れた場所でようやくキュゥべぇと会うことができた。
応答しなかった理由を聞くと、そもそも呼びかけ自体が今いる地点で呼びかけていなければ一度も通じていなかったらしい。
「君には伝えていなかったけど、この神浜にはマギウスが仕掛けた結界のせいでボクたちは神浜に干渉できない状態なんだ」
「マギウス?」
マギウス
神浜に存在した魔法少女組織のトップのことであり、神浜へワルプルギスの夜が現れたのはマギウスの仕業とのこと。
そのマギウスがこの神浜へやらかした重要なことがあった。
「魔法少女が魔女化しないシステム、そんなものをマギウスが作り上げたっていうの?」
「ボクは神浜の魔法少女に聞いただけだけれども、ドッペルという現象を見た際に存在は疑わなくなったよ」
ドッペルというのは、魔女化するはずの魔法少女から出現するものらしく、これを出した魔法少女のソウルジェムは浄化された状態になるという。こんなデタラメがこの街にあるとは。
「そんな魔法少女なら誰でも飛びつきそうな情報、もちろん、持ち前の営業力を使っていろんな魔法少女に言いふらしてるんでしょ」
「営業という例え方はよく分からないけど、確かにこの国の魔法少女たちへ伝えてはいるよ。その方が、魔女化しないシステムについて知るいい手段になるだろうからね」
「ところで、魔女化しないシステムについてどう伝えて回ったの?」
「ボクは魔女化しないシステムについては手に取れる存在だと思っている。干渉し、観測が可能であれば制御ができる。この考えについては聖遺物を扱ってきた君たちの方がよく理解しているんじゃないかな?」
「なかなか誤解を生む伝え方をしてくれるじゃないの。持ち出せるかも定かではないのに」
「ボクは考えと事実を伝えただけさ。それをどう解釈するかは君たち人間次第だよ」
「シオリたちは、魔法少女だよ」
キュゥべぇと会話して神浜について大方理解ができた。
そして、外部から大勢の魔法少女たちが移動してきているということもわかった。
神浜での不毛な混乱は避けるために、まずは外へ目を向ける必要がある。
中には血の気の多い集団もいるらしく、そいつらの来る方向はキュゥべぇから聞き出しているのでまずはその対応が必要だろう。
そしてもう一つ気になることをキュゥべぇに聞いていた。
「神浜にあふれる魔力?ボクが干渉できたのは数日だから正確な回答は返せないんだけど、その魔力とやらは魔女化しないシステムとか神浜に貼られている結界が影響しているんじゃないかな」
キュゥべぇによると、キュゥべぇを出禁状態にしている結界は魔力を閉じ込める性質もあると考えているらしく、その結界がある限り神浜には濃度の高い魔力が漂い続けるだろうとの見解。
この情報は好機だった。既に存在している魔女化しないシステム。そしてそれを世界中に広げればいいという単純な考え。
これを実現するためにはもっと神浜を、神浜の魔法少女を知らないといけないと分かった。
「ありがとう、キュゥべぇ。おかげで今後の方針が明確になったよ」
「本当かい?ならばボクからもお願いがあるんだ」
「お願い?」
「魔女化しないシステムについて何かわかったら、ボクたちにも教えて欲しい。きっと君たちのためにもなるはずだよ」
「いいよ、すべてがわかったら教えてあげる」
キュゥべぇとの情報交換を終え、特になにもなく拠点へ戻るころには朝日が登っていた。
緑髪の魔法少女を見守っていたカレンには大雑把に夜にあったことを伝え、ピリカが降りてきた後、具体的にキュゥべぇと会話した内容を伝えた。
「もう既に魔女化しない仕組みが出来上がっているなんて」
「しかしそうなると血の気が多い集団とやらが気になるね」
血の気の多い集団というのは2グループに分かれるという。
まずはかつてこの都市で大暴れしたマギウスにつき従えていたマギウスの翼の残党である集団。なにやら最近は何処かに集まって何かを企てているらしく、行動動機によっては無力化する必要がある。
もう一つのグループは二木市という街から来る神浜絶対許さないを掲げる魔法少女たち。なにやら神浜に魔女をとられたせいで魔女不足になってひどい目にあったというが、その経緯を聞くとかなり無理がある考え方だった。
「ならばその血の気の多い奴らを鎮めに行こう。そのまま放っておくと今後の私たちの障害になるかもしれないし」
「二木市の魔法少女たち、テリトリー争いが激しかったらしいから、一番被害をもたらしそう」
「神浜の魔法少女を殺す勢いらしいからね。マギウスの翼とやらよりはよっぽど危険だろうね」
「んじゃ、決まりね」
神浜の魔法少女について調べる予定だったが、二木市から来る魔法少女の対策を行うことから始まった。
しばらく拠点を離れることになるため、緑髪の魔法少女がいる場所にだけは無意識化の結界を張っておいた。この結界はシオリが意識の遮断について調べた結果、人払いの魔法に拡散する魔力を上乗せすることで魔力反応を検知できないようにできたことから生み出した結界。
なんか神浜にいれば魔女化はしないらしいので放っておくことにした。ドッペルとやらで拠点が壊れていなければいいんだけど。
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