【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-7 黒いオーラの魔法少女

見滝原で出会った元黒羽根の子 黒さんに連れられて私と巴さん、なぎさちゃんは神浜への電車に乗っていました。

「なぎさちゃん、魔法少女だったんですね」

「この指輪に気づかないなんて、黒は魔法少女なりたてなのですか?」

「うぐっ」

「黒さん、緊急事態の詳細を教えてくれるかしら」

黒さんから伝えられたのは、シェアハウスしている友達が、黒い何者かに襲われてしまったとのことです。その友達を今はこれまた一緒にシェアハウスしている元白羽根の人が守りながら逃げている状況で、電話をかけてきた時も逃げている最中だったとのことです。

とっさに電話できたのが黒さんだけだったらしく、応援を呼んでほしいと伝えられ、今に至ります。

「電話が通じてるってことは、少なくとも使い魔や魔女ではないようね」

「なんでですか?」

「魔女の結界の中では電波が通じないのよ。結界を持たない魔女なんてワルプルギスの夜以外あり得ないでしょうし」

「じゃあ、襲ってくる黒い存在って」

「神浜の外から来た魔法少女、かもしれないわね」

「あのSNSで話題に上がった、外から来た魔法少女、なのかな」

鹿目さんがいろはさんへ連絡したときには特にそんな話題はなかったはずだけど。

やっぱり、今のままじゃ神浜の最新状況を知ることが出来ない。

急ぎたい気持ちとは違い、決まったレールを決まった時間で走り続ける電車に揺られ、神浜の西側にある駅で私たちは降りました。

駅のホームを出て10分ほど北側に進んだ裏路地に黒さんのお友達と思われる魔法少女が2人いました。

「欄さん!大丈夫ですか!」

「黒、来てくれたんだね。それに、巴マミと暁美ほむら!?」

「事情は後で話すわ。状況を教えてもらえるかしら」

欄と呼ばれている魔法少女の腕の中には、傷だらけになった1人の魔法少女がいました。呼吸はしていましたが、苦しそうに不規則なリズムで空気を吸ったり吐いたりしています。

もっと奥の路地裏でカオリが真っ黒な存在にサンドバックにされているのを目撃したのよ。ソウルジェムが壊されていないのが奇跡だった」

「その黒い存在って、何」

話していると急激に魔力の反応が二つ迫ってきました。二つの反応は私たちの前を横切り、私たちが入ってきた路地裏の入り口側に立ちはだかりました。

その魔力の反応は、まさしく

「出た。右側のやつが襲ってきたやつだよ。まさかもう一体連れてくるなんて」

「でもこの反応って」

「魔法少女」

見た目は黒いオーラを纏った感じで、オーラの端に行くほど赤色が目立っていました。

顔はとても苦しそうで、ソウルジェムと思われる宝石部分は真っ黒でした。

左側の1人が左手を高々と上げると腕はみるみるうちに大きくなり、泥のような見た目となった後、掌には一つの目玉が見開きました。

目を開くと同時に周囲には大きな衝撃が走りました。

「何よあれ」

「この魔力の迫力、まさかドッペル」

腕が伸びてきて、その腕は変身した黒さんを叩き潰してしまいます。

「黒さん!」

黒さんは苦しそうにしていましたが、再び立ち上がりました。

「この、返してよ!」

そういきなり黒さんが言うと、見覚えのある黒羽根が使用していた鎖を手のドッペルへと放ちました。

その先にあったのは黒さんがアラカル亭で買ったお菓子の袋でした

「黒さん迂闊よ!」

手のドッペルはそのまま鎖を掴んで黒さんを放り投げようとしました。

「黒!鎖を切れ!」

黒さんは欄さんの指示通りに鎖を手放したことで地面に叩きつけられることはありませんでした。

隣のもう1人の黒い魔法少女はと言うと頭を抱えながら苦しみ、その後はライオンのような外見になって襲いかかってきました。

私はとっさに時間停止を行いましたが、二体ともにドッペルを出しているだけでただの魔法少女。

足止めを考慮して足を不自由にさせるよう拳銃を撃ち込み、時間が動き出しました。

狙い通りに2発の弾丸は2人それぞれの太ももを貫通しました。2人はその場でもがき続けていました。

その瞬間に巴さんがリボンで拘束しようとしますが、手のドッペルを出している魔法少女が腕だけで前進してきてリボンの拘束を避け、欄さん目掛けて腕を伸ばしていきました。

「欄さん!」

「見つけたぞ食い物泥棒!」

見慣れた赤い鎖連なる矢先が手のドッペルを貫きました。

声のする方向を見ると、そこには佐倉さんがいてその後ろから美樹さんと、鹿目さんが追いかけてきました。

「マミさんにほむら?!こんなとこで何を。それにこの状況は一体」

「私だって聞きたいわよ。こっちは拘束するのに手一杯だけど、そっちの子はドッペルが治まったかしら」

「気をつけて!こいつらは何度もドッペルを出すよ!」

そう欄さんが言っていると、苦しそうに傷ついた左手を掴んでいた黒い魔法少女が再びドッペルを出しました。

「そういうことか。どうりで攻撃加えてもきりがねぇわけだ」

「鹿目さん、いったい何があったの」

「私たちは、神浜で買い物をしていただけなんだけど、いきなりあの黒い魔法少女が杏子ちゃんが買ったお菓子を奪っちゃってね。その後追いかけてきたの」

人様の食いもん奪っといてドッペルのせいだろうが容赦しねぇぞ」

「人のこと言えないと思うんですけど」

「うるさい!とにかく大人しくしやがれ!」

杏子さんは激しく槍で突き刺したり、多節棍の仕組みを駆使して打撃を与えていきますが、その攻撃のどれもがドッペルにしか当たらないようにしていました

激しく攻撃はしているものの、魔法少女自体への攻撃は避けているようでした。

相手が再びドッペルを引っ込める頃には二つの足で立ち上がっていました。

両腿にはしっかりと銃弾の跡が残っているのに、立ち上がっていたのです。

そして再び、ドッペルを出します。

「きりがない。もう、ソウルジェム自体を壊すしか」

「だめよ!殺してしまうのは一番だめよ!」

「んじゃどうすればいいんですか!こいつ、道中で一般人にも被害出してるんですよ。私やまどかで足や腕を不自由にするくらい攻撃してきましたけど、こうやって痛みを感じないみたいに何度も立ち上がってくるんですよ!」

ドッペルを出し続ける上に傷による痛みを顧みずに襲いかかってくる黒い魔法少女。

そんな正常じゃない状態を目前にして、私たちはどうしようもありませんでした。

「ならば私が動きを止めます」

そう言って黒さんは白羽根が使用していた光る長剣を手のドッペルを出している魔法少女の足へ突き刺し、その勢いで本体を鎖でグルグル巻きにして身動きを取れないようにしました。

「よし!」

しかし左手がフリーになっていた黒い魔法少女はドッペルを出して黒さんの目の前で目を血走らせながら大きく手を開いていました。

「黒!」

「黒さん!」

黒さんはとっさの出来事で身動きができていませんでした。

「ばっっかやっっろう!!!!」

赤い槍は伸びてドッペルを貫くと同時に胸元で黒く輝いていたソウルジェムも砕いてしまいました。

そのまま黒い魔法少女の変身は解け、口や目やらいたるところから血を流した少女だったものへと変わりました。

「なによ、これ」

巴さんが怯むとリボンの拘束が緩んで拘束していた獣の姿をした魔法少女が巴さんを引き裂こうとしました。

「マミさん!」

すると、遠くから緑色の光線が飛んできて黒い魔法少女は壁へ打ち付けられました。

「巴さん!すぐ拘束を行ってください!」

声の通りに巴さんは再び黒い魔法少女を拘束しました。

声の主人はかつて巴さんを調整屋へ運ぶ際に一緒だった魔法少女と、1人、2人、そして会ったことがある美雨さんがいました。

「まどかさん?!こんなとこで会うなんて」

「かこちゃん!?どうしてここに」

「私、チームで行動していただけですよ」

「ほむら、久しいナ。元気にしてたカ?」

「はい、美雨さんも元気そうで何よりです」

「あら、面識のある方が多いようですね。それよりも」

拘束された黒い魔法少女はなおも暴れていて、リボンがちぎれないのが不思議なくらいでした。

「常盤さん、これはどういうことですか。魔法少女がドッペルを出し続けるなんて。明らかにおかしいですよ」

「ええ、おかしいことです。私たちもついさっき目撃しましたから」

常盤さんが振り向いた先には魔法少女だったものがいました。

「あなたが、彼女を?」

「だったらなんだ、ああしなきゃこのちっこい黒いのが握りつぶされてた」

黒さんは腰を抜かして座り込んでいました。

「いいえ、正しい判断だったと思います。むしろ決断できたことに驚いています」

「ふんっ」

「ななか、この暴れてる子はどうする」

「気絶も苦痛も、説得も聞かないのであればソウルジェムを引き離すしか」

そう言って常盤さんが黒い魔法少女のソウルジェムへ手を伸ばしますが、触れた瞬間にソウルジェムが強い光を発しました。

常盤さんは慌てて手を引っ込めてしまいました。

「ななかさん!」

「大丈夫です。少し激痛が走っただけです」

常盤さんは一息つくと刀を抜きました。

「ななかさん?!」

「お覚悟を」

そう言うと、常盤さんは黒い魔法少女のソウルジェムを砕いてしまいました。

魔法少女姿が解けた後の少女の姿に、私たちはさらなる衝撃を受けます。

「このローブって、マギウスの翼」

「どういうこと、まさかまたマギウスが何かやり始めたんじゃ」

「あのガキどもが何かやり出したってか」

「杏子ちゃん、マミさん、決めつけは良くないよ」

「その通りです。現在マギウスの翼も、その残党も解散状態となっています。それに灯花さんとねむさんは定期的に環さん達と会っているので何かを企てるといったことはできないでしょう」

「それじゃあ、この黒い魔法少女はいったい」

「なにも分からずです。皆さんは黒い魔法少女を見かけたら関わらずに逃げてください」

「こいつらみたいのが、人を襲っていたらどうするのさ」

「その時は、人気のない場所へ誘導して逃げるのが無難です」

「それが無理なら」

「無理でもやってください。それとも、魔法少女を殺す覚悟でもお有りですか?」

美樹さんは黙ってしまいました。

黒い魔法少女を止めることは、ソウルジェムを壊すことだけ。

原因も、誰の仕業なのかもはっきりしません。

「私はこの件を神浜マギアユニオンへ持ち帰ります。私たちだけでは手に負えません。
私が魔法少女を殺したことについてはどうとも伝えていいですが、杏子さんについてはこの場だけの秘密としておきます」

「別に気にしちゃいねぇよ」

「では私たちは行きます。死体はそのままで構いません」

「まどかさん、また」

「うん…」

常盤さんたちはこの場を去っていきました。

私たちは場所を移動して、黒さんたちは家へと戻るとのことです。

私は黒さんへ自分の分のチョコレートを手渡しました。

「ほむら、これはあなたのでしょ」

「黒さんのお菓子取られちゃったし、友達に食べさせたかったんでしょ。受け取って欲しいな」

恐る恐る、黒さんは私の手からチョコレートを受け取りました。

「ありがとう、ほむら。またどこかで会おうね!」

そう挨拶を交わすと黒さんは欄さんと一緒に傷ついた仲間を抱えて家へと戻っていきました。

「さて、私は気分を晴らすために食い物屋にでも行こうかな」

「ならなぎさも一緒するのです」

「なんだ、お前もついてきてたのか」

「最初からいたのです」

「それじゃあ、佐倉さんおすすめの美味しいラーメン屋さんにみんなで行かない?

「「サンセー!」」

「うぉい勝手に決めるなよ」

「いいじゃんいいじゃん!杏子の分は私が出してあげるからさ」

「ち、なら仕方ねぇ」

「ちょろいのです」

「んあ??」

そう佐倉さんとなぎさちゃんが口喧嘩をしながら私たちは風見野へと向かいました。

今回体験した黒い魔法少女との遭遇今まで巡ってきたどの時間軸でも体験したことがない対処が難しい自体です。

殺すのは簡単。

でも、本当にそんな方法でいいのかが、私の倫理観が邪魔をしてしまい、どうすればよかったのかと悩み続けることとなります。

しかし、一つだけ確かなことは言えます。

鹿目さんを襲うというのであれば、

容赦はしない。

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-6 匿名希望のお菓子屋探し

私は今確かにここにいる。

守ろうと決めた彼女がこの世界にいる。

そして今、私が時を巻き戻すたびにたどり着いていた病院の前に、私がいる。

来ることを願っていた日々の内容とは少し違うけれど、鹿目さんと一緒に過ごす日々が他の世界よりも確実に長くなっているのは確かです。

誰も死なずに、そして、みんなが仲良く過ごす事ができているこの世界に巡り会えたのは、とても幸運なことです。

しかし、肝心なのはここからだとわかっています。

未だにこの見滝原ではソウルジェムが濁りきれば他の世界同様魔女になってしまう。

一つの油断が、鹿目さんを魔女にしてしまいかねないためこれから何が起こるかわからないこの世界では、なるべく鹿目さんと一緒に行動して、危なくなれば神浜へと急ぐしかない。

こんな心配をしなくて済むよう、神浜マギアユニオンで実施している自動浄化システムを広げるという考えが実現してくれればいいんだけど、そう甘くはない。

だからと言って私にも方法はわからない。

今は、そんな計画を邪魔する人が現れないよう見守るしかない。

今回はその決意として、入院していた病院の前にいるんだけど、鹿目さんはというとさやかさんと一緒に杏子さんのところへ行ってます。

グリーフシードも多く持っている様子だったし、さやかさんと杏子さんがいるならば大丈夫だろうと、今日は自分の用事を優先しています。

なんか決意のために来たはずが、いきなり矛盾したことをしているような気もしないではありません

せっかくここまできたので、病院にいる頃に知ったお菓子屋さんへ向かったのですが、もうそのお店はありませんでした。

「あれ、ここだったような」

ふと隣を見ると女の子が立っていました。

「あの、ここにあったお菓子屋さんを探しにきたのですか」

「あ、暁美ほむら!っと、もう黒羽じゃないから気にしなくていいんだ」

私のことを知っていて、今黒羽って言ったのかな。

「もしかして、マギウスの翼にいたんですか」

「そ、そうですけどもう関係ありません!マギウスが解散を宣言したときに私も羽をやめているので!」

例のローブも着ていないし、残党が隙をついて、というわけではなさそう。

「話を戻すんですけど、ここにあったお菓子屋さんに用事があったのですか」

「はい、じつは私もあの病院に入院していた時期があって」

「え!」

まさか同じ病院で入院していた子と出会うことになるとは思っても見ませんでした。

「入院中に、美味しいお菓子屋さんがあるんだよって看護師さんやお見舞いに来てくれた両親が教えてくれたので、気になって来てみたんですが」

できれば、ここのお店の行方を知りたい。

張り紙がないから、お店を閉めてしまった可能性もあるけれど、探してみてもいいかも知れない。

「あの、ここのお店について少し聞いて回ってみませんか。もしかしたら移転しただけかもしれないので」

「い、いいんですか!私なんかと一緒で!」

「わ、私こそ一緒に来てくれるなら嬉しいです!」

「ええっと、ではお願いします!あ!名前は教えないですが黒って呼んでください。羽根をやめたときにシェアハウスすることになった部屋友からそう呼ばれているので」

部屋友?

聴きなれない言葉だけど、同居している友達ってことかな。じゃあ、あだ名って感じかな。

「はい、よろしくお願いします。黒さん」

こうして黒さんとお菓子屋さんを探すことになったのですが、何の手がかりもないのでは探しようがないので病院に入って聞き込みをしてみました。

聞き込みの結果、お菓子屋さんは見滝原の街中へ移転していたことがわかりました。

なかなか声をかけることが出来ない私たちでも聞き込みをできたのは、黒さんがかつてお世話になったという看護婦さんと会うことが出来たからです。

私だけだったらお菓子屋さんが移転しているだなんて情報を手に入れられなかったかもしれない。

街中への移動はバスを利用したのですが、バスの中で黒さんについて少しだけ知ることが出来ました。

「私に部屋友ができたのは、マギウスの翼があったからなんです。いろんな人に迷惑をかけてしかいないかもしれませんが、私はマギウスの翼に参加できてよかったなって思ってます。
きっとマギウスの翼がなかったら、私はこの街で魔女になっていたかもしれないから」

「マギウスの翼があったから、ですか」

「私は弱くて、他の人と接するのも苦手で孤立しがちだったんです。
でも、マギウスの翼で白羽根の人に声をかけてもらって、それで人生変わりましたね」

「そうなんですね。私も特別な人に出会えたから、今の私がいるのですごくわかります」

「えっと、特別な人って彼氏さんですか」

「ちが、いま、す!」

鹿目さんがいなければ私も孤立したまま、何もできないまま終わっていたかも知れない。

そう、私にとって鹿目さんは特別な人なんです。時間を巻き戻してまで、救いたいほどに。

バスを降りて看護婦さんから聞いた場所にくると見慣れた人が声をかけてきました。

「あら暁美さん、こんなところでどうしたの」

「えと、黒さんと一緒にお菓子屋さんを探していたんです」

「黒さんって、お隣にいる子かしら」

(うん、うん!)

黒さんがそう言っているかのように二回うなづいた気がしました。

「そうだったの。それで、お菓子屋さんの名前はなんていうのかしら」

「アラカル亭っていう名前です」

「あら、そこならついさっきなぎさちゃんと一緒に入ったお店ね」

「え!」

巴さんに連れられてアラカル亭の前まで来ました。こんな偶然ってあるものなんですね。

「ちょうどいいし、買い物が終わったら一緒にお茶するのはどうかしら。黒さんもどうかしら」

(うん!うん!)

また頷くだけでした。

「だったらさっさと買ってくるのです!なぎさはマミが紅茶に合うお菓子しか買ってくれなかったからご立腹なのです!」

「もう、ちゃんとミルクティーに合わせたものも買ったじゃないの」

「チーズに合わせるのです!」

「じゃあ、ここで待っているわね」

私と黒さんはアラカル亭で買い物をしながら頷くだけだった理由を聞きました。

「巴さんって、あの聖女様だよね」

「やっぱり、それで頷くだけだったんですか」

「私は話を聞いていただけで、したっぱだったし、姿もマギウスと並んでいたときくらいしか知らなかったし。
それに全て終わった頃は東区の車両基地で気絶していましたし」

「じゃあ、今の巴さんが普通だっていうのは」

「もちろん知っていますよ。部屋友に聞いたので」

よかった、事情は知っているみたい。

でもここであの時の話題を再び掘り返すことになるかもしれない。

そう不安になりながら私と鹿目さんの分のお菓子を買い終え、みんな揃って近くの少しおしゃれな喫茶店に来ました。

天井でシーリングファンが回っている。

もうそれだけでおしゃれな感じがするのに、メニューもカタカナばかり。

絶対1人じゃ入れないお店だ!

4人みんな頼んだものが出そろうと巴さんから話を始めました。

「暁美さん、用事があるって言ってたけどお菓子屋さん探しだったのね」

「本当は気持ちを改めるために病院へ行ったのですが、ふとアラカル亭のことを思い出してしまったんです。その途中で黒さんに会ったんです」

「えっと、黒です。神浜から来ました」

「神浜、もしかして神浜の魔法少女かしら」

「今はそうです。前まで黒羽根やってたんです」

「え、そうなのね。じゃあ私は当然知っているわけね」

思った通り、巴さんの声は暗くなってしまいました。

立ち直ったとはいえ、掘り返しちゃったのは不味かったかも。

「でも、巴さんが今の状態が普通なんだなってわかってますし、巴さんのことを悪く思っているメンバーなんていないです」

黒さんは話し上手じゃないにもかかわらず、思うことをスラスラと口に出していきます。

「私、マギウスの翼だったメンバーとシェアハウスしているんですけど、みんな巴さんのことを悪く言っていません!むしろ元に戻ってよかったねって言ってます!」

巴さんはずっと驚いた顔をしていました。少なくとも、暗い顔にはなっていません。

「だから、はあ、気にしなくていいですよ。
はあ、はあ」

酸素不足になる程話しきった黒さんの後に巴さんが話し始めます。

「気を使ってくれてありがとう。でも、もう私は弱くないから全然気にしてないわよ」

「なら、よかったです」

大丈夫だった。私の目の前には私がよく知る強い巴さんでした。何故かちょっとした事実で心が折れてしまうかもと不安になってしまいましたが、気のせいだったようです。

「なぎさはよくわからないですが、ここは大きな声を出していい場所なのです?」

ふとカウンターを見てみるとちょっと困り顔で見つめている店員さんがいました。

「し、失礼しました」

「さ、紅茶が冷めちゃう前に、明るい話題をお話ししましょ」

「ですね」

場の空気が元に戻ったところで、私は黒さんが頼んだザクロのお茶というのが気になりました。

「黒さん、ザクロのお茶って珍しいと思うんですけど」

「あ、私も気になってたの。ザクロのお茶って見たことなかったから」

「いえ、じつは私も知らなくて。ただザクロが使われてるから頼んでみたって感じです」

「ザクロに思い入れでもあるの?」

「ザクロじゃなくて、ザクロが出てくる物語が好きなんです。入院していた時は、飽きずに何度も読み返すほどでした」

「そうなのね。本に出てきた珍しいものってつい興味が出て手を出しちゃうのよね

「そ、そんな感じです」

思い入れから選ぶこともある。

そもそも今回のお菓子屋さん探しも、私の思い入れから始まっていた。そして、黒さんに会うこともできた。

選択に迫られた時、とっさに思い浮かんだことほど望んだ答えに辿り着くのかもしれない。

今後もきっと出てくる選択肢。

ここまできているんだから、最悪の選択をしないようにしたい。

もう時間を戻ることなんて、やりたくないから。

みんなが飲み物を飲み終わる頃、黒さんは電話に出るためにお店の外へ出ていました。

「暁美さんが買ったお菓子、鹿目さんの分も含めてでしょ」

「え!なんでわかったんですか」

「そりゃあわかるわよ。暁美さん、鹿目さんのために一生懸命な事がすごく伝わってくるんだもの」

やっぱり巴さんには敵わないなぁ。

「でも、たまには自分の身の安全も考えなきゃダメよ。そのうち無理しちゃうんじゃないかってこっちは心配なんだから」

「はい、気をつけます」

「マミこそ自分のことを考えなきゃいけない立場なのです」

「そ、そうね」

たじたじになる巴さん。そうさせるなぎさという子はこの時間にくる前の世界では出会うことが一度もなかった。

これも、いろんなことが起きてしまう時間軸だからこそなのだろうか。

そう考えていると、黒さんが血相を変えて席に戻ってきました。

「暁美さん、巴さん。友達を助けるために、神浜に来てくれませんか!」

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-5 広がる波紋は朱を広げゆく

梨花が牽制して攻撃を加えるが、相手はただ移動しているかのように避けていた。

「もう、本気で当てっからね!」

その後に撃ち込んだ攻撃に合わせてあたしも攻撃を加えたがどれも当たらないどころか薬品の瓶が割れた後に溢れる有害な煙の範囲も把握して避けていた。

「くそ、初見のはずなのに避けれるってのはどういうことだ」

「ならこれでどうよ!」

衣美里がシオリの近くで武器である尻尾を振り回し、相手が避けた先に梨花が攻撃を加えた。

シオリは服から伸びる帯で攻撃を弾いた後、既にれんの追撃が届いていた。

しかし器用にもう一本ある帯でれんの攻撃を弾いてしまった。

「まじですか!」

「もう一声が足りなかったようだね」

シオリは衣美里へやり返すかのように近くで帯を振り回したが、衣美里はふわっと飛び上がって避けた。

そのあとシオリは梨花とれんへ向かって雷を飛ばした。腕からと、時間差で二本の帯からほぼ同時に電撃が飛ばされた。

梨花とれんはその場から動かなくても当たることはなかったが、雷は見事に2人の周囲に当たっていた。無理して避けていたら当たっていただろう。

そしてここまでの流れは完全に3人が仕掛けた攻撃のやり返しだった。

「あの一瞬でコンビネーションを真似たのか」

「真似されやすい方法じゃオリジナリティも面白さもないよ!」

シオリは近くに束ねられてあったパイプを二本抜き取り、あたしらの方へ投げ込んできた。

その後に何本も投げ込まれたが、鋭利さがないはずなのに着弾地点にあるコンテナを貫通していた。

「あれやばすぎっしょ!」

「見りゃわかるわ!」

そう言ってあたしらは逃げていると無意識に4人でまとまった場所にいた。

その周囲へパイプが半分に切られて計4本となってあたしたちの周囲の地面へ突き刺された。

塗装が剥がれたパイプの切れ目にはよく電気が通る。

「しまった。みんな、パイプの上に立て!」

「な、そんな器用ことできないよ!」

「魔法少女なんだからできるに決まってるだろ!」

「無茶言い過ぎ!」

そう言ってあたしたちはシオリの突き刺したパイプの上に立った。

しかしこのままではどのみち雷が直撃してしまう。

[衣美里の合図でコンテナへ飛べ!]

[ちょっとみゃーこ先輩無茶ぶりっしょ!]

[いいから相手見ろ!]

[ああもう、いくよ、せーの!]

流れで衣美里が合図を出したが、みんなしっかり反応して近くのコンテナに手をかけたり、武器を刺したりしてコンテナへと取り付いていた。

実は衣美里が流れで出した合図と同時にシオリは出力の強い雷を4本のパイプへ落とし、いつの間にか地面に巻かれていた砂鉄を通して地面には電撃が走っていた。

あのまま地面にいても、パイプの上にいてもただでは済まなかっただろう。

あたしらがタイミング良くコンテナへ飛び移ると思わなかったのか、シオリは驚いた表情をしていた。

「おかしいな、タイミング読むほどの能力を持っているとは思えなかったが。想像とは違って少し嬉しいよ」

「エミリーすっごーい!相手ベタ褒めじゃん!」

「マジで!超テキトーだったんだけど」

本人はそう言っているが、衣美里の勘はいいとあきらから聞いていたからな。頼ってよかった。

「でも助かったぞ衣美里」

「本当!?んじゃこのノリでみゃーこ先輩とのドキドキ化学見せちゃうから!」

そう言うと衣美里はいきなりあたしにコネクトしてきた。

「んな!急すぎんぞ!」

「みゃーこ先輩もやったしお返しだ!」

あたしは衣美里からのコネクトを利用して相手を楽しませる方法をすぐに思いついた。

[お前達、奴へ私が目眩しを使うからその間に手渡す薬品を周囲に配置してくれ!]

[みゃこ先輩なにする気?!]

[なに、やつを楽しませるための仕掛けさ。いいか、薬品はこぼすんじゃないぞ!]

[は、はい!]

「さあ、反撃させてもらうぞ。来れ化学反応!」

あたしは衣美里の魔力が篭った薬品をこれでもかとシオリの周りに投げつけた。四方八方から催涙性のある目くらましの煙が出るだけではなく、衣美里が使える幻惑の力が働いて物理的に防げても精神的に目がくらむ状態となる。

いくら煙の挙動を把握しているシオリでも、周囲に満遍なく巻かれたら混乱して上に飛び上がることすら忘れるだろう。

さあ準備は整った。

あとはシオリが火を入れるだけだ。

[みんな離れとけ!]

煙がかった中心地で煙を払うように雷の衝撃波が発生するとそれと反応するかのように周囲に3人が配置した薬品が一斉に爆発した。

爆発音こそは大きかったものの、地面をえぐるほどの威力はない。しかしこの爆発で発生する熱量自体は大きい為、火傷では済まないほどの大怪我を負うことになる。

「うおー!すっごい眩しい!」

「小さい瓶に入った、薬品も、こんなに、恐ろしいものになるん、ですね」

「みゃーこ先輩、あの薬品って魔女に使うヤバいやつ?」

「んなわけあるか。実際に化学実験で使用される薬品ばかりだ」

爆心地からは笑い声が聞こえてきた。

「そうかい、魔力で生み出していない薬品だけで皮膚を爛れさせるほどの熱量を生み出したのか。
これは薬品の扱いに長けてなきゃつまらない爆発しか起きないだろうに」

そう話すシオリは得意なシールドを張らずにモロに攻撃を受けていたようだ。

服は所々焦げていて、口にした通り所々がただれた状態だった。

「みゃこ先輩、あたし痛々しくて見ていられないんだけど」

「…実験には危険がつきものだ。最悪はああなるから細心の注意が必要なんだ」

「危険だって知っていながら使うとはとんだマッドサイエンティストだ。予想もできない事が立て続けに起きて楽しくなってきちゃったじゃないか」

「まだ満足できないか」

「あったりまえじゃない!」

シオリはれんに対して迫り、攻撃を庇おうとして飛び出した梨花とれんが一つの倉庫へと吹っ飛ばされてしまった。

その後シオリが間髪入れず素早く衣美里へ迫ったら反射的にあたしは衣美里を庇った。

あたし達も梨花とれん同様に倉庫へ突き飛ばされてしまった。

帯二本で2人の魔法少女を吹き飛ばしてしまうほどの威力を実感し、相手の底知れない実力に恐ろしさを覚えてしまいそうだった。

倉庫内には追撃でいくつか鉄塊が飛んできたが倉庫内の積荷にあたるだけで誰にも被害が出ていなかった。

「みんな、無事か」

「大丈夫、ちょっと擦りむいただけだし」

「大丈夫、です。はい」

「みゃーこ先輩、あの子満足させるってハードルバリ高と思うんだけど」

勝ち目がないから賭けてみたが、あらゆることに底がないと理解した今では無謀だと理解していた。

どこだ、どこで気づけばこいつらを巻き込まずに済んだんだ。

そう考えていると、倉庫の周囲からは何か重いものがいくつも押しつけられる衝撃が伝わってきた。

扉から漏れていた光が見えなくなっていると言うことは、まさかコンテナを押し付けているのか。

完全にあたしらは逃げ場を失ってしまったようだ。

倉庫の上からはシオリの声が聞こえてきた。

「なかなか楽しかったよ。楽しませてくれたお礼に、そこから無事に出られたらお臨の魔法少女の居場所を教えてあげる。
時間は1分だよ。はい、スタート」

きっと倉庫はコンテナで覆われている。

一番突き破りやすいのは天井だが、安直に出ると相手の待ち伏せを受け入れに行くようなものだ。

コンテナは梨花の攻撃で突き破れないこともないが、倉庫群の被害は甚大なものとなるだろう。正直、この街の経済状況へ悪影響を及ぼしてまで生きようとも思わん。

「んっもう!扉歪んじゃって開きもしないよ」

「外からの光、入って来ないから暗いのですね」

「それにこの倉庫煙いし煙かかったみたいになってるし」

煙?

慌てて周囲を見渡すと積荷に書かれていた文字で察した。

このままでは全員助からない!

幸いにも中が空のコンテナを発見する事ができた。

せめて巻き込んだあいつらだけでも。

「おいみんな、一旦身を潜めるからそこのコンテナに入れ!」

「わ、わかった!」

「・・・みゃーこ先輩?」

れんと梨花は素直にコンテナに入ってくれたが、衣美里の動きはどこかぎこちなかった。

「ほら、みゃこ先輩も早く」

あたしは気取られる前に扉を素早く閉めようとしたが、衣美里が足を挟めて閉じられないようにした。

「やっぱりみゃーこ先輩、外に1人で残る気っしょ」

「衣美里足をどけ!時間がないんだ!」

「1人で残る必要ないでしょ!」

「外からじゃないと完全にロックできないんだよ!お前達を閉じ込めるわけじゃないから安心しろ」

「んじゃ入りゃいいじゃん!」

「それだと爆風でみんな死ぬぞ!」

思わず口にしてしまった。

頑丈なコンテナとはいえ、扉がロックされていなければ内部へ爆風が入り込んでただじゃ済まない。だがロックするためには、外に誰かいないといけない。

それが、あたしと言うわけだ。

「嫌だ!みゃこ先輩も入って!」

「聞かないやつらだな!どけと言ってるんだ!」

衣美里だけでなく梨花、れんと扉の隙間に指を通してこじ開けようとしてくる。

もう時間がない。

そんなとっさに思いついてしまったからか、あたしは大切な後輩達をコンテナの奥へ突き飛ばしてしまっていた。

情けないな、後輩を突き飛ばしちまうなんて。

無事だったら、謝らないとな。

「「「みゃーこ先輩(みゃこ先輩)(都先輩)!!」」」

ガシャンッ

 

扉が閉じられて間も無く、倉庫内では地面へ突き刺さる金属音がした後、爆発が発生しました。

倉庫内にいた私達ですが、爆発による振動でコンテナの壁に叩きつけられてしまい、数分間気絶してしまったようです。

気がつくとコンテナの扉が歪んでいて、外の夕日が漏れてきていました。

身体中が痛い中、外へ出るとエミリーさんと梨花ちゃんが既にいました。

倉庫内は真っ黒に焦げていて、所々燃えていました。

天井は大きく口を開けていて、私たちの入っていたコンテナは外へと吹き飛ばされてしまっていたようです。

出入口に配置されていたコンテナは爆風で遠くへ飛ばされていました。

そのコンテナの一つを見て、私は、大きな絶望感を味わうことになります。

「みゃーこ先輩!」

エミリーさんはすごい勢いで都先輩のもとへ向かいますが、都先輩はコンテナに打ち付けられ、コンテナには放射状に血が飛んでいました。

魔法少女姿は解けていて、制服は血だらけで、所々焦げていました。

都先輩自身はと言うと、身体中から血が出ていて、真っ赤で、火傷もひどい状況でした。

「みゃーこ先輩、返事して!答えてよ!」

「エミリー落ち着いて!ソウルジェムは無事だから!まずは調整屋に連れて行こう!」

梨花ちゃんとエミリーさんが話している中、私は張り紙がつけられた令さんのカメラが都先輩のそばにあるのを発見しました。

実は、都先輩がコンテナを閉めようとしている時、すでに令さんのカメラがなかったのです。

カメラは外から見た感じ無事であり、保存された画像を見ると、綺麗に私たちと戦った魔法少女に関わる写真が全て消されていました。

そして張り紙の内容は、令さんがいる場所を示したものでした。

それと一緒に、こんな一文も。

“目的は果たしたから令っていう魔法少女の隠し場所を教えてあげる。あまり余計なことに手を出そうとするんじゃないよ。先輩みたいになっちゃうからね
シオリ”

私は梨花ちゃんとエミリーさんに一声かけて、令さんのいる場所へ急ぎました。

令さんがいるという倉庫の扉を開くと、令さんは確かにいましたが、周囲は何か爆発したような跡がいくつかありました。

令さん自身は擦り傷がひどく、意識がありませんでした。しかしソウルジェムは無事です。

そのまま令さんを連れて、私は梨花ちゃん達を追うように調整屋へと向かいました。

夜になっても調整屋は開いていて、そこにはみたまさんとももこさんがいました。

事情を伝えると、すぐにいろはさん達も駆けつけ、いろはさんから灯花さんへ話を通してもらえたようで、里見メディカルセンターの一室に緊急入院という形で都先輩は回復を待つことになりました。

ここからは話を聞いただけですが、令さんのお見舞いに来た郁美さんは、気がついた令さんと無事だったカメラを持ちながら、包帯だらけの迎え側にいる都先輩を見て、とても大きく泣き叫んだそうです。

都先輩の両親へは港で起きた爆発事故に巻き込まれたと説明され、この一件は幕を閉じます。

中央と南のまとめ役が動けなくなったため、神浜マギアユニオンでは代理のまとめ役を誰にするのか緊急会議が行われたのですが、立候補者も出ず、いろはさんとやちよさんが時々様子を見にくるということで話題は終了しました。

こうなってしまった経緯は私たちの記憶でしか残っておらず、明確な証拠がないため、シオリさんを一方的に責めるという人はほとんどいませんでした。

私たちはどうしていれば、みんな無事に丸く治ったのでしょうか。

私たちがいないうちにあったという調整屋の襲撃以来、みたまさんの不調が続いています。

私は、もっと悪い出来事が起きてしまう予感がしてなりません。

今はただ、都先輩が元気になることを祈るばかりです。

 

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4 たった一敵から始まる波紋

糸を使う魔法少女と雷を使うという魔法少女が危険だと伝えられた集会を後にし、あたしは電話がかかってきた相手のもとへと急いだ。

電話をしてきたのは牧野郁美。元マギウスの翼だったがマギウス解散後はよく行動を一緒にするようになった1人だ。

今日はかりんの様子を見に行くと言っていたはずだが、あの電話越しから伝わる焦りから何かがあったと考えるのは容易だった。

後輩達も一緒についてきてしまっているが、構わず郁美の所へと急いだ。

「郁美、傷だらけじゃないか。何があった!」

「ひなのさん。令ちゃんが、令ちゃんが!」

「令がどうしたって。まずは落ち着いて話せ」

「令ちゃんが魔法少女を襲った相手の写真を撮ったんだけど、そのあと撮られた相手に襲われて、駆けつけたんだけどこれをひなのさんに届けろって令ちゃんが」

「一回落ち着こ!」

梨花とれんが郁美を落ち着かせている間、あたしは郁美から預かった令のカメラに保存された画像を見ていた。

人のカメラの中を勝手に覗くのはよくないが、あたしに渡すよう言ってきたという事は何かしら意味があるのだろう。

最後に撮影された写真には粟根こころ、加賀見まさらを襲う小柄の魔法少女の姿が捉えられていた。

「この魔法少女が令ちんを襲った魔法少女?見た目みゃーこ先輩よりも小さいじゃん。もしかしたらななか様が言っていた魔法少女の1人じゃない?」

「おまえななかには様付けなんだな」

しかし、衣美里の言っている事は確かかもしれない。近頃はマギウスの残党ぐらいしか暴れる奴はいなかったし、中央区で被害が出たというのなら話を聞くしかあるまい。

「令が伝えたい事はわかった。それで、令は一体どこにいたんだ」

郁美が言うには、令は追いかけられてそのまま南凪区まで逃げていたらしい。しかしその途中で追いつかれてしまったと言う。

郁美は怪我が酷かったので一緒に来ないよう伝えておいた。

「おまえ達まで来る事はないだろ」

「だって相手ってすっごい強いって言ってたじゃん。人数多い方が逃げる確率上がるでしょ」

「ダメって言われても、私はついていきます。はい」

「全く、れんは強情なとこが梨花に似ちまったな」

「あ、ひっどーい」

そうくだらない話をしていると倉庫群に入った。ここが最後に令を確認できた場所だという。
ただしここの倉庫群は観光名所ともなっていて人も多い。そんな中で令が襲われるとも思わない。

「おい衣美里、本当に郁美がここで令を見たって言ってたのか」

「おっかしいなぁ、いくみんは倉庫群で見たのが最後って言っていたんだけどなぁ。
りかっぺ、倉庫群って意外に何か言ってなかったの?」

「あっ」

「どうした、れん」

「そういえば、コンテナがたくさんある倉庫群って言ってた気がします。震えた声だったので、気のせいかもしれませんが」

コンテナが集まる倉庫群といえば南凪区の南側にある港のことだろう。あそこは場所によっては人気がないからな、争ったとすればきっとそこだろう。

「おそらく南の港のことだろう。ここじゃないならそこしかない。
しかしもう日が落ちそうだ、おまえ達はもう家に帰れ」

「ちょっとちょっと何言ってるのみゃーこ先輩、危ない相手と会うのに1人とか危ないっしょ」

「そうだよ、別に令さんを襲ったヤバい魔法少女を倒すわけじゃないんでしょ」

「おまえら、親が心配することも考えろ」

「ダイジョブだって、怒られたらごめんなさいするだけだし」

衣美里がそう言った後、梨花もれんも揃って頷きやがった。

ここから中央区はともかく、新西区までどれだけ距離があると思ってるんだ。

「強情な後輩ばかりで私は疲れるよ」

「それ本人の前で言う?」

「分かったよ。ついてくるからには無事に帰られるようにするんだぞ」

「「「はーい!」」」

結局4人でさらに南へ向かうことになり、本当の目的地だと思われる倉庫群に着いた頃には日が水平線に隠れようとしている頃だった。

「来たはいいが、港となると敷地が広いしどこにいるか見当もつかないぞ」

「あれ、コンテナの上に誰か、いるような」

れんが向いている方向には写真に収められていた小柄な魔法少女が立っていた。

待っていたというのか。

「その首からかけているカメラ、あの写真家の魔法少女のやつだよね」

小柄な魔法少女はそう話しながら4段ほど積み上げられたコンテナの上からゆっくりと降りてきた。

「おまえが令を襲った魔法少女か。なんで令を襲った」

「確証もなく犯人扱いされても困るんだけど」

「残っている写真とここに来るまでに聞いた証言で十分わかるさ。それにおまえは要注意人物だと神浜中に伝わっているぞ、紗良シオリ」

「ふーん、ななかさんが早速周知させたってことか。私も有名人になっちゃったかな」

「答えをまだ聞いていないぞ。令をなぜ襲った。令はどこにいった」

シオリという魔法少女は海に背を向けるよう移動しながら答え始めた。

「シオリはプライバシーの侵害だって写真の削除をお願いしただけだよ。なのにその令って子が写真を拡散させるっていうもんだから実力行使に出たんじゃないの」

「ただ写真を撮られたのならそういう話で納得はいくが、中央区の魔法少女を襲っている写真だから納得はいかない。中央区の魔法少女を襲ったのはなぜだ」

「質問が多いね。シオリ達の目的を知りたいっていうから正直に話したらいきなり襲いかかってきたからさ。正当防衛ってやつじゃない?」

襲われた中央区のメンツは粟根こころと加賀見まさら、江利あいみだろう。

仕掛けるとしたらまさらだろうが、まさらが手を出すのはこころに何かあったからか。

「ねえ、良かったらあーし達にその目的話してよ。それでまともな内容だったら疑いも晴れるっしょ」

衣美里、いきなりすぎるぞ!

「いいよ。真っ直ぐな好奇心、嫌いじゃないから教えてあげる」

教えてくれるのか!

「シオリ達はね、ある物質に因果を集め、そこに希望を集めて魔法少女を誕生させるのが目的なんだ。その願いはもちろん、自動浄化システムが世界は愚か宇宙にまで広げること。
これがあんた達神浜の魔法少女にはできない自動浄化システムを広げる方法さ」

「魔法少女を誕生させるだと。それは、素質のある少女を生み出すと言いたいのか」

「そうよ。でもその物質を利用する際に膨大な呪いが周囲に溢れちゃうの。その呪いを、この街の人間に押し付ける必要があるの」

「おい待て、それは一般人を犠牲にして自動浄化システムを広げるってことじゃないか」

「そういうこと。あの時は黄色い硬い子が両親も巻き込まれちゃうって泣いちゃってから透明感ある子が襲いかかってきてっていう経緯ね」

状況は把握した。

シオリのいう計画は決して擁護できるものではないが、手を出したまさらにも非がある。一方的に責めるわけにもいかないな。

「そうか、中央区の魔法少女が迷惑をかけたな。それだけは謝っておこう。
だが、おまえ達の計画とやらは擁護できん。この話は神浜の魔法少女へ伝えることになるが、おまえが令を返してくれればおまえの写真をカメラから消すよう令にお願いする。それで文句はないだろ」

「相手のことを考えられる魔法少女は好きだよ。でも令という魔法少女の場所は教えられないね」

「無事なら無事で教えてよ、それだけでいいじゃない!」

「教えて欲しいなら、シオリを楽しませてよ。満足したら返してあげる」

今思えばこいつはずっとここで私たちを待っていた。もしかしたら元から戦う気でいたのかもしれない。

何が目的かわからない分、危険な相手だ。

「これ以上話し合いでは進まないようだな。それで、お前は私たちにどうしてほしいんだ」

「なに、もしかして察しが悪い感じ?戦って楽しませてよって意味だったんだけど。シオリは攻撃されるまで動かないから、諦めて帰るのか、力尽くでも取り戻すか判断はあなた達に任せるよ」

[みゃこ先輩、令さんを助けるために戦うしかないんじゃない?]

[いや、こちらから攻撃すると相手の思う壺だ。また正当防衛だと言って非を私たちに押し付けられるだけだ]

[では、どうすれば]

相手は手を出さないとは言いつつ、戦いたい気持ちは大きいだろう。何か挑発して手を出させれば言い逃れできない状況となるだろう。

言い方は悪いが、相手を挑発できる奴が今近くにいるのは幸いだな。

[衣美里、お前の得意なダベりとやらで相手を説得してくれないか]

[ええ、話まともに聞いてくれっかな]

[エミリー、ファイト!]

[梨花っぺまで!?]

[大丈夫だ、お前ならできるって]

衣美里は不安そうな顔を少ししたが、すぐに笑顔になってシオリへ話しかけ始めた。

「ねえシオリンさぁ、もっと会話してお互いの理解深めるってのはどうよ」

「シオリンって、シオリの目的は話したはずだよ。それに対してあんた達が容認できないんじゃ、これ以上話したってわかろうとしないでしょ。それに令って子はいいのかい」

「まあ大丈夫っしょ。無事なら無事で、話終わった後迎えに行けばいいし。まあまあ話してみればみんなわかってくれっから。そこから降りてきてゆっくり話しようよ」

そう言いながら衣美里はシオリの場所まで行って隣に立った。接近にも程があるぞ。

「いやー、近づいてみるとみゃーこ先輩より小さいね。もしかして、まじもんの小学生だったり」

「お前…」

「あ、もしもうちょい年齢上だとしても大丈夫だから。この街、年齢詐欺じゃねって魔法少女いっぱいいるから!
そうだ、今の勢いで会いに行こうよ!そのままのノリで、シオリンのやりたいこと、みんなに伝えようよ!」

バチンッ!

衣美里のいた場所に電撃が走ったが、衣美里はすぐに避けて無事だった。

「ちょ、何何?!」

「衣美里、大丈夫か!」

「話す度に脳波に影響してきやがって。耐えられずに手が出ちゃったじゃないか!」

「予想した結果とは違ったが、これで最初に手を出したのはお前ってこよになったな。結果はどうであれ、望み通り戦って満足させてやる」

あたしは三人に戦闘体制に入るよう指示した。

「行くぞ!」

「これカレンに怒られるのは必死かなぁ」

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3 素直に、そして真っ直ぐに

「八雲!無事か」

「無事では、ないわね」

「ちょっと、これはどういうことよ」

調整屋さんは壁に二箇所大きな穴が開いて中は荒れた状況でした。

私はももこさん達に状況を聞きました。

「糸を使う魔法少女がみたまさんを襲った?!」

「ああ、最初は神浜を乗っ取ることを考えて襲いかかってきたかと警戒していたんだけど、話を聞いていると何も言い返せなかった」

「その魔法少女がね。みたまさんが調整する事は魔法少女を魔女化しやすくしているだけだって言っていたよ」

「ったく。神浜にいれば関係ないって言っているのに、その魔法少女全然聞かなかったのよ」

糸の魔法少女というのはおそらくカレンさんのことでしょう。

初対面した際も正論を聞かされましたが、今回襲った理由も実はまともな理由だったのです。

「確かに普段は使えない魔力を使用するのだから、魔力の消費は激しくなるわね」

「それは魔力の使い方の問題だ。消費を控えればいいだけのことだろう」

「えと、私魔力を控えるとか全然できなくて。むしろ控えちゃうと全然戦えなくて」

「かえでが魔法使うの下手なだけでしょ」

「レナちゃんだってアクセル全開でいつも武器を投げて回ってるでしょ」

「そのほうが早く終わるからに決まってるでしょ!」

「でもいつもグリーフシードの消費が多いの知ってるもん」

「それは、そうだけど」

「いろはちゃん、やちよさん。相手の言葉が正論に聞こえて何も言い返せなかった。守ろうとしてる側なのに何やってるんだか。ごめん」

ももこさん、レナちゃん、かえでちゃんはカレンさんの言葉に対して反論できなかったようです。

みたまさんはソファーの上に寝ていて、十七夜さんと話していましたが、とても暗い顔をしていました。

「十七夜、私はやっぱり、だれかを呪うことを願ってしまったからこうなってしまったのかしら」

「考え込むな八雲。神浜の魔法少女は救いになっている。それだけで十分だ」

「でも、でも!」

泣きそうなみたまさんへももこさんが後ろから抱きつきました。

「ちょっとももこ!」

「大丈夫だ調整屋。私たちだって、いろはちゃんだって、やちよさんだって、十七夜さんだって、レナやかえで、みんなみんなお前がいなければこの街の魔女と十分に戦えるようにはなっていなかったかもしれないんだ。
調整屋がいたから今の私たちがいるんだ。それが呪いだろうがなんだろうが、良かれと思ってやっていたんだろ。

だから胸張れよ。泣きたいなら、その間ずっとここにいてやるよ」

「ももこ…」

そのままみたまさんは、ももこさんの腕の中で小さな子どものように泣いていました。

そんなみたまさんを、ももこさんは真剣に受け止めていました。

「環くん、七海、少しいいか」

そう言うと、十七夜さんは外へと私たちを連れ出しました。

「今回の件、いくら手を出すなと言われても擁護しきれん。私は糸の魔法少女を探し、本心を聞き出す」

「それは危険すぎるわ。ななかさん達でも歯が立たなかった相手よ。それにその強さは十七夜も目の前で目撃しているはず」

「だから黙って行いを見過ごせと言うのか。神浜へ害を加えるようなら、私はただみるのではなく行動へ移すぞ」

「行動すると言うのであれば約束してください。まずは話し合おうとしてみてください。そのあと襲われたら、身を守るために戦ってください。相手に襲いかかると言う考えだけはしないようにお願いします」

「…心得た。無理はしない」

そう言って十七夜さんは調整屋の中へと戻って行きました。

「十七夜、ちゃんと理解してくれたかしら」

「大丈夫だと思いますよ。十七夜さんは無鉄砲な人ではないと知っていますから」

「いろはがそう言うなら、信じてみるわ」

やちよさんと話していると電話が震え、手に取ると画面には「ちゃるちゃん」と言う文字がありました。

ちはるちゃんからかかってきた電話は、今神浜に居るから確認したいことがあると言う内容でした。

ちはるちゃん達は以前スーパーで会った後に移動した広場にいました。会った時と同じように3人揃っていました。

「おまたせしました」

「お久しぶりです。えと、隣にいるのは誰でしょう」

「私の仲間の七海やちよさんです」

「よろしくね。静香さん、でよかったかしら」

「はい、よろしくお願いします。それで話なのですが調整屋についてです」

静香さん達は調整屋さんがカレンさんに襲われた際、ちょうどその場に居合わせていたそうです。その時にカレンさんから調整を受けすぎないようにと忠告を受けたそうです。

「カレンさんがそんなことを」

「そうなんです。だから真意を聞かせてください。調整屋を勧めたのは私たちの穢れを早くするためだったのですか」

「ちょっと静香。いきなりすぎます」

「答え方と内容によっては、関係を改めないといけません」

どうやら静香さん達は調整屋さんへ誘う行いが悪意のあることかどうか気になってしまったようです。ここで変に調整屋のことを擁護する言い方をすると、真実を伝えることができないかもしれない。

ならば。

「調整を受ければこの街で魔女と戦いやすくなるというのは事実です。でも、調整を受けることで穢れが溜まりやすくなるというのは私たちも知りませんでした。真実も知らずに安易に勧めてしまってごめんなさい。

だから、改めて伝えさせてください。調整を受けるのは自己責任でお願いします。穢れは早くなっちゃうかもしれませんが、神浜の魔女を倒すのが厳しいと思ったら調整を受けることを考えてみてください。

あと、調整を受けると静香さん達の記憶を覗かれてしまうのでそれも嫌なら調整は受けないことをお勧めします」

「嘘偽りは無いのですね」

「はい」

静香さんの目は力強く、会った時は平気だったのに今は怯んでしまいそうでした。しかしここで目を逸らしてしまうと嘘だと思われしまうかもしれないと思い、目を見続けていました。

静香さんはちはるちゃんを一度見て、そのあとちはるちゃんは笑顔で頷きました。

「ありがとういろはさん。ちゃんと真実を伝えてくれて。ちゃるが悪意を感じることもなかったし、今後も仲良くしていけます」

「良かったです。心臓がはち切れちゃうかと思いました」

「ごめんなさいいろはさん。静香がどうしてもっていうので」

「いえ、誤解が続くよりは全然いいです」

誤解が解けた中、やちよさんがちはるちゃんへ質問をしました。

「ちはるさん、もしかしてあなた相手に悪意があるかどうか見破ることができるの」

「見破るというか、嗅ぎ取るというか」

「ちゃるは魔法少女になってから人の悪意を嗅ぎとれるようになって、悪さを考えているとすぐに気づいてしまうんです」

「静香ちゃんが私が大事にとっていたプリンを隠れて食べようとした時も、ちゃんと嗅ぎ取ったくらいだからね」

「あれはちゃんと謝ったでしょ〜」

「ああ、思い出したらイライラしてきた!」

「もう、ちゃるも静香もやめなさい」

「完全に私は巻き添いよ」

話はそれてしまっている気がしましたが、3人の仲が良い事はよく伝わりました。

「話に戻っていいかしら。悪意を嗅ぎとれるって事は、カレンさんと会った時も嗅ぎとれたはずよね。どうだったか教えてもらえないかしら」

「その事なんですけど、実はそこから静香ちゃんの疑いが膨らんじゃったの」

「それってもしかして」

「そのカレンさんから悪意は全く感じなかったんだ。襲うようなことをしたのに悪意がないって、それはもう正義がある行いってことだよね。だから」

カレンさんがやったことに悪意はなかった。ちはるちゃんの能力が確かであれば、カレンさんの行いはどう見届ければいいのだろうか。

十七夜さんもなぜか雑念が多くて真実を読み取れなかったと言っていたし、話してみないとわからないことには変わりないようです。

「時間をとってしまってごめんなさい。そうだ、魔法少女の集会というのは近々行われるでしょうか」

「実は今日あったんですけど、次回がいつになるかはちょっとわからないですね」

「では今度空いてる日を教えますので、タイミングがあえば参加させてください」

「わかりました」

静香さん達と別れた後、わたしたちもみかづき荘へ向かって歩き出しました。

「あの子達が前言っていた協力してくれるって言っていた子達かしら」

「そうです。今回も話してわかってくれてよかったです」

「せっかくの外部からの協力者、ちゃんとみんなに紹介しないといけないわね」

「はい」

みかづき荘へ戻ると、なんだか雰囲気が重くなっていました。

「鶴乃、それにみんなどうしたの」

「ししょー、いろはちゃん、魔法少女のSNSを見ていなかったの?!ひなのさんが大変なんだよ!」

一難去ってまた一難。

私たちのわからないところで事件が起きてしまったようです。

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2 度を越すということは

神浜市西側の廃墟へ店を構える調整屋には1人の魔法少女がいる。

その魔法少女は八雲みたまといい、魔法少女のソウルジェムをいじって普段は使えない魔力の領域を広げ、能力を強化するという調整の力を使用できるという。

神浜の魔法少女、および周囲の街の魔法少女は調整を受けているらしく、遠くから来た魔法少女へは強気に立ち振る舞える状況だという。

うまい話には裏がある。

調整のデメリットを聞くと神浜の魔法少女は恥ずかしい記憶を調整屋に見られてしまうと声を揃えて言っていた。

しかし私は調整を受けた魔法少女達に会って確信したデメリットがある。

果たしてこのデメリットは、ここまで放置され続けて来たことに疑問を隠しきれない。

確かめに行くしかないだろう。

調整屋のある廃墟を見ると、周囲の新しい建築物とは違ってレトロな雰囲気を醸し出していた。

建築途中の場所が多く放置されている現状を見ると、これも成長による代償の一部なのだろうと考えてしまう。

「すみません、誰かいますか」

薄暗い広い空間の壁一面に貼られたガラス細工の円形模様を背に、1人がこちらを向いていた。

「あら、見たことない子ね。もしかして神浜の外から来たのかしら」

「はい、神浜の魔法少女に来るといいって勧められて来ました」

「あら、遠いところ来てくれてありがとうね」

白髪の女性の髪飾りには見慣れた魔力を込めた宝石が見えていた。まさか、ここにいる間はずっと変身し続けているというのか。なかなかに不思議な考え方をしている。

「調整屋さんに来たって事は、ここで何ができるかはすでに知っている感じかしら」

「はい。魔力を強化してくれるけど、グリーフシードはちゃんと持っていくようにと伝えられました。代金として請求されるからって」

「丁寧に教えてもらったようね。調整屋さんの説明が省けて助かるわ。さ、調整を始めるからそこの寝台に寝転がって」

どうやら調整のデメリットは自分から話さないらしい。誰だって不利な事は口に出したくないだろう。

「すみません、調整って痛みを伴うのでしょうか。魔力を強化ってなにかしら副作用がありそうなのですが」

「あら、ごめんなさい。調整する時はね、あなたのソウルジェムに触れさせてもらうわ。
初めての子は最初に痛みが伴うかもしれないけれど、一瞬だから気にしなくてもいいくらいよ。あと、調整を受けた後は魔力が馴染むまで体が熱くなっちゃって具合が悪くなる子もいたわね。でもそれで今後の活動に支障は出ないから安心してね」

「そうですか、それくらいですか」

「ええ、それくらいよ」

調整の結果どうなるのか、理解しているかが疑わしい。しかしそんなことは関係ない。
調整屋は、いちゃいけないんだから。

「いけませんよ八雲みたまさん、デメリットを隠し続けるというのは」

「え」

私は糸で調整屋のソウルジェムを狙ったが、思った以上に素早い動きで避けられてしまった。

放たれた糸は周囲に散らばるガラクタの一つに当たってガラガラと音を立てて土煙が上がった。

「あなた、なんのつもり!」

「調整されて相手がどうなるか一部話した事は評価しよう。だが、記憶を覗くとなぜ説明しないか!」

次は調整屋の足元へ放射状に糸を放ったため調整屋の片足に当たってその場から動けない状態となっていた。

「そこまで知っていて、なんで襲うの。なにが目的なの、私を殺したってみんなに不利益を与えるだけよ」

「利益しか与えていないとそういいたいのか!」

「そうよ調整はみんなの利益にしかならないわ」

「そうか、そこまで自信があるならいいだろう。善人だと認識したまま逝くといい」

ドゴォン!

とどめを刺そうとすると近づいてきた魔力反応が私と調整屋の間に割って入った。

ガラクタが宙を舞う中にいたのは黄色の服装をした魔法少女だった

「ももこ!」

「悪い調整屋、緊急だから壁を壊させてもらったよ」

「別にいいわよ、それよりも」

ももこという魔法少女は武器を構えたまま私に問いかけてきた。

「調整屋を襲うってどういう事だ。事と次第によっては容赦しないぞ」

お前は神浜の外の魔法少女へ調整屋に行ったほうがいいと勧める口か」

「そうだが、それがどうした」

「ちょっとももこ!壁ぶち抜いていきなりどうしたって、これどういう状況よ」

「調整屋さん、もしかして襲われたの」

本来の出入り口に仲間と思われる魔法少女2人が到着し、状況は挟み込まれている。退路は作る以外方法はない。

「お前達は魔力強化を受けた結果どうなるか考えたことがあるか」

「魔力が強化されたら、そりゃ魔女を倒しやすくなるでしょ」

「普段使えなかった魔力を使うんだ。魔力消費が増えるとなぜ考えないんだ」

「この街には魔女がたくさんいるし、この街にいれば魔女にはならないから気にする事はないじゃないか

やはりその回答か。この街の魔法少女は「この街」を中心にして物事を考えているようだ。予想通りで残念だ。

「そうやって神浜の外から来た魔法少女へ説明する気か。調整を受けたら神浜に居続けろとそういいたいのか」

「そこまでは言っていないだろ。戻りたいなら自分の街に戻るのは自由だろ」

「魔力消費を激しくしておいて、お前達は神浜の外の魔法少女を魔女化させたいのか!」

「そうとも言っていないだろう!」

「なんで考えないんだ、この調整屋は、魔力をいじって魔女化しやすくしているだけだということを」

「な!」

三人は何を言っているのか分からない顔をしていたが、調整屋だけは何か気づいたかのような顔をしていた。

「言いがかりも大概にしろ!調整屋はみんなを魔女にしたくてやっている事じゃない!」

「本心はそうかもしれない。だが、調整は使えないはずの力を無理やり行使できるようにしてしまい、穢れを加速させる結果となる。無闇に神浜の魔法少女へ勧めるんじゃない。この街ではドッペルがでても、外では魔女になるだけだ。その罪の重さを自覚したほうがいい」

ついに黄色の魔法少女は何も言わなくなった。

「今回は捨て置く。生きて行いを見直し続け、呪い続けるといい」

私は壁を打ち抜き、調整屋の外へとでた。

「ちょっと何!ここって中立地帯って聞いたけど」

外に出た先には三人の魔法少女がいた。

「お前達は神浜の魔法少女か」

「いいえ、私は霧峰村ってところから来た魔法少女よ」

「そうか。調整を安易に受け続けるな。調整されると魔力消費が増えて穢れやすくなるだけだ。よく考えてから調整を受けるといい」

「えと、はい」

調整屋の排除には失敗したが、あの調整屋の反応は期待できる結果だ。

ただでさえ自動浄化システムを広げることができない段階だ。

今調整を受けて外へ戻ってしまったら、外の魔法少女が消えていくだけだ。

 

とりあえず調整屋は無力化させた。これでしばらくは「記憶をたどった捜索」は滞ることだろう。

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-1 開幕を示す悲劇の狼煙

掴みどころがないというのは、複雑な気分となってしまいます。

あるのはわかる。
でも、それをどうすればいいのかがわからない。

この街の魔法少女にはともかく、静香さんやカレンさんのような遠い場所から来た魔法少女へ何もわかりませんというのは、とても申し訳ない気持ちになります。

一番関係がありそうなういも、クレメルも自動浄化システムがどこにあるのかが分からない状態です。

今日は神浜マギアユニオンとしての集まりがあり、みんなの事情を考慮して午後に集まることとなりました。

明日香さんにお願いして、午後に道場を開けてもらうことができたので明日香さんの実家が運営している道場で会議を行う予定となっています。

今回の会議にはななかさんも参加するとのことなので、情報交換が捗りそうです。

前もってSNSでみんなから神浜にしかないものについて情報交換がされていたのでその整理からですね。

あとは、数日前に久々にまどかちゃんとメールをやり取りして、見滝原のみんなは神浜マギアユニオンには参加せず、神浜の外だからこそわかる情報を伝えるという方針になったと伝えられました。

私も神浜で起こった事はまどかちゃんに伝えるようにすると返信しました。

SNSに参加できるかはサーバー管理している灯花ちゃんの返事待ちとなっています。

ようやく前に進め出せそうな気がしていました。

会議にはやちよさんとさなちゃんとういが参加して、鶴乃ちゃんとフェリシアちゃんは万々歳のお手伝いに行っています

東側からは十七夜さんが、南と中央区の代表としてひなのさんが参加してくれます。

道場へ着くと明日香さんがお出迎えしてくれて、中にはすでにひなのさんとエミリーさん、れんさんに梨花さんもいました。

「人数が多くてすまないな。道中でバッタリと会ってしまってな」

「まあまあ、そもそもうちらを呼んだのあすきゅんだし。折角だからってみゃこ先輩についてきた感じよ」

「そうなんですか、明日香さん」

「はい、エミリーさんの何気ない発想で今までに何度も窮地を脱した事がありますからね。行き詰まりが生じた場合は、是非エミリーさんから何かご教授いただけたらと思ったのです」

エミリーさんはお悩み相談所でいろんな人と話してはアドバイスを与えてくれると神浜の魔法少女の間では人気となっています。

「それじゃあ、何か悩んだらお願いしちゃおうかな」

「おう!ろっはー任せなさいって」

「あたしらも、それなりに情報持ってるからちゃんと共有するね」

「ありがとうございます」

「ふむ、今日は随分と賑やかだな」

十七夜さんと一緒にななかさんも道場へ到着しました。

「あらためまして、組織に組していないのに参加させていただき、ありがとうございます」

「いえ、わたしもななかさんたちから見た考えを知りたいなと思っていたので」

「そこでだ環くん、今日の話す内容についてなのだが、まずは神浜の外から来た魔法少女について情報交換したいと思う」

「神浜の外から来た魔法少女、ですか」

「はい、わたしがこの会議へ参加したいと考えたのもお伝えしなければいけない事があるからです。できるのならば、早急に」

当初の予定とは変わりましたが、神浜マギアユニオンとしての会議は神浜の外から来た魔法少女についての話し合いから始まりました。

「私達はすでに神浜の外から来た魔法少女に会っていますね。会った人たちは、みんなはそろってキュゥべぇからこの街に自動浄化システムがある事を聞いて訪れたと言っていました」

「やはりそうですか」

「東側で会った魔法少女も同じことを言っていた。その内容については少々複雑なこととなっているがな」

「わたしも、会いました。自動浄化システムが、手に入るって、聞きました。はい」

神浜の東西南北、どの場所でも神浜の外から来た魔法少女は自動浄化システムが手に取れるものだと伝えられて来ていると再確認できました。

「この事態、わたしは非常によろしくない事態だと考えています。外から来た魔法少女と争いごとのきっかけになってしまうのではないかと考えています」

「しかし事実だ。手に取れるようなものではないと伝えるしかあるまい」

「その伝え方について、考えの共有が必要だと思います。それぞれの見解で伝えてしまうと、誤解を招く結果となります」

「実はすでに外から来た子に説明をしたのですが、わたしは説明するときにちょっと回答を濁らせてしまいました」

「それで相手は納得してくれたのか」

「はい、調査中なら協力もするって言ってくれました」

今回のわたしのように曖昧な回答だったら納得してくれない子が出てくるかもしれない。でも、どう伝えればいいんだろう。

「そんな難しく考えないでさ、ガツンと事実伝えてあとは相手に任せればいいっしょ」

「私も、嘘を伝えられるのは嫌かな。わからないならわからないって言って欲しいな」

「そうですね、素直に事実を伝えることにしましょう」

「伝えたうえで襲われたりした場合は1人で相手しないようにする、という決まりも必要そうね。みたまの調整を受けているからそう簡単にやられる子はいないと思うけど」

「うむ、わかった」

「これで一つの議題は解決ですね。引き続き私から一つよろしいでしょうか」

ななかさんが主催のようになっていますが、特に気にしていませんでした。ななかさんが来てくれる機会は多くはないので、聞けるうちに聞いておこうと思っていたのです。

やちよさんから、ななかさんは頼れる人だ、というのは十分に聞いて言いたので。

「みなさんは電気を操る、または糸を操る外から来た魔法少女をご存知でしょうか」

私たちが会っているのは静香さん達とカレンさんだけです。戦っている姿はカレンさんしか見ていませんが、どういう力を使うかまでは知りませんでした。

「すみません、私達は話をしただけだったのでどういう力を使うかまではわからないです」

「私は外から来た魔法少女の集団に会ってはいるが、ツノがあったり暑苦しかったりと特徴に合う魔法少女はいなかったな」

「わたしは糸を使う魔法少女については知っている。しつこく勧誘してくるマギウスの残党へきつくお灸を添えたらしくてな、ちょうどその現場に居合わせていた」

「その話、詳しく聞かせてもらえますか」

十七夜さんによると、東側ではマギウスの残党が集まって何かを企てている動きがあったようです。そこへ糸を使う魔法少女が勧誘されたらしいのですが、怒った勢いでそのまま解散させてしまうくらいの迫力で襲いかかっていたとのことです。

ケガ人はたくさん出ましたが、みんなソウルジェムは無事だったとのことです。

ちなみにそのマギウスの残党の数というのが。

「30人いたのに1人で倒しちゃったの!?」

「この目で見ていたから間違いない。それに彼女は傷一つつかずにその場を収めていたからな。外から来た魔法少女にしてはあまりにも強すぎると思っていた」

「巴さんでもかなり強かったのに、巴さん以上の魔法少女がいるなんて」

しかし過去を遡ればななかくんたちを振り回したという魔法少女もいたからな。この国だけでも強い魔法少女はまだまだいるだろう」

「ちなみに名前は聞いたんですか」

「うむ。彼女は日継カレンという名前だったな」

「「カレンさん」ですか」

あ・・・。

ななかさんと被ってしまいましたが、カレンさんの名前を聞いて思わず声に出てしまいました。

「ソウルジェムの反応を検知できないと思ったら、そんな実力者だったようね」

どうやらわたしが訪ねた人物とひなのさんたち以外は面識があるようですね」

「中央と南で見かけなかったという事は、わざわざ外側を見て回っているのかそいつは」

ななかさんはしばらく考えたあと、十七夜さんへ訪ねました。

「十七夜さん、確認ですがカレンさんの心は読みましたか」

「その事なのだが、彼女の心をのぞかせてもらったがなぜか数十人の思考が右往左往している奇妙な状況だった。あれは魔女の心を読むとは別の意味で気分が悪くなってしまった」

「数十人の思考が1人の中でなんてそんな事があるのか」

「いや、あり得ん事だな。人1人に一つの心と考えたらなおさらだ

私たちが出会ったカレンさんは色々悩みを聞いてくれた上に助言をしてくれたいい人だと思っていましたが、実態は奇妙なとても強い人だったようです。

「では、その魔法少女について知っていることをお話しします。
わたしはつい数日前、カレンさんに宣戦布告を受けました」

「え!」

「不穏な流れだな。何かしたのか」

「私達は直接何かをしたわけではありません。しかし彼女たちには危険な存在だと認識されてしまったようで、今後は神浜に対しても敵対する意思でいるようです」

「カレンさん、なんでそんなことを考えているんでしょう」

「実はカレンさんは知っているらしいのです。自動浄化システムを世界に広げる方法を」

「そんな、灯花ちゃん達でも苦労して探っている最中なのに」

「事実かはわかりません。しかしあの揺るぎない自信と実力を考えると本当なのかもしれないですね」

手詰まりかと思われた状況の中、まさかの解決方法を知っているという魔法少女がいるという衝撃の事実にどう対応していいかわからなくなっていました。

ななかさんによれば、変に探ろうとしてしまうと敵対していると判断されてしまうらしく、話し合いは慎重に行わなければいけない事がわかりました。

それにしても、カレンさんと会ったのは数日前でその時は神浜に来たばかりと言っていました。

まさかあの時から全てわかっていたのかもしれない。

そう考えると、カレンさんがだんだんと怖い人に思えてきました。

自動浄化システムの広げ方を知っているというのであれば近いうちに何か動きはあるだろう。今は様子を見て、神浜へ被害が出るようであれば対抗するしかあるまい」

「でも、30人の魔法少女と平気に渡り合う相手にどう対抗するんだ。下手したら最盛期のマギウスよりも厄介だぞ。ちなみにだが、電気を使う魔法少女というのはどうだったんだ」

「少なくとも、私たちのチームでは歯が立ちませんでした。あの方は電気とはいえ知識を利用して応用力で勝負を仕掛けて来ました。
戦闘能力はカレンさんと同じ程度と思った方が良いでしょう」

「それ、どうしようもないんじゃ」

「おガキ様のように過激な方向へ進まないことを祈るばかりだな。
む、十咎くんから電話か。少し失礼する」

「なんかあたし達、今結構やばい状況にいるんじゃないの」

「今はこれ以上敵対的な魔法少女が増えないよう、事実を伝えていくしかないようね」

「なに!八雲が襲われただと!」

ももこさんから来た電話は、みたまさんが見知らぬ魔法少女に襲われたという電話でした。

十七夜さんは急いでみたまさんの元へ向かい、私たちも状況把握のために調整屋さんへ向かうことにしました。

そのまま会議は中断となり、残った議題は引き続きSNSの方で会話していくことにしました。

「おねえちゃん、私も行くよ」

「ういはみかづき荘に戻ってて。もしかしたら襲った人がまだ居るかもしれないし」

「私だって、力になりたいんだもの。お願い、連れて行って!」

「今回はダメ。さなちゃんと一緒に先に戻って待ってて。お願い」

「…うん」

返事をしたういは、どこか悲しげな表情をして、そのままみかづき荘へと戻って行きました。

「えっと、ごめんねさなちゃん。ういをお願い」

「はい、わかりました。ういちゃんと一緒にみかづき荘で待ってますね」

私はさなちゃんへ頷いた後、やちよさんと一緒に調整屋へと向かいました。

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 1-12 突然の別れはいきなり

神浜の街を巡り、私の意思は固まった。

あとはシオリとピリカが戻ってくるのを待つだけだが、それぞれ違った日に違ったタイミングで探索に向かったためみんなが集まるというのは夜のほんの一瞬だけ。

シオリには宣戦布告役として駆り出されたりと面倒なことをやらされはしたが、この緑髪の魔法少女の事について情報を得られたのはありがたい。

マギウスについて聞いていたシオリは、マギウスの一人であるアリナ・グレイが今だに行方不明であるという情報を手に入れていた。

アリナという魔法少女はこの街を破壊しようとした前科持ちらしく、探し回っている魔法少女もいるという。

そのアリナという魔法少女の特徴と、いま目の前で眠り続けている魔法少女の特徴が合致しているため、こいつがアリナ・グレイで間違いないだろう。

彼女を話題に出さなかったのは正解だったようだ。

と、シオリからの情報はここで時々聞かされていたから分かるのだが、ピリカは見滝原とその周辺を見に行っているためしばらくは戻ってきていない。

出発して1週間は経つ。

グリーフシードを持っているとはいえ、寝る事にこだわる彼女はどう夜を過ごしたのやら。

「戻ったよー」

そう考えていたらピリカが戻ってきたようだ。

「おかえり。随分な長旅だったじゃないか」

「本当はもう少し早く戻ってくるはずだったんだけどね。道に迷ってしまったので」

「そういえばなぜか都会の方が迷うよなピリカは」

「目印にしていた建物が何軒もあるとか、通れると思った道が通れなかったりとか、自動歩道に巻き込まれたりとか」

「何やってるんだか」

でもキュゥべぇとも会ってきて貴重な情報は手に入れてきたんだから」

見滝原の魔法少女については、ワルプルギスの夜と戦う運命にあったということもあってその強さと能力については入念に調べる必要があった。

ピリカはカムイにお願いし、力の強い魔法少女に当たりをつけてもらっていたらしいのだが、二人の魔法少女に注目したという。

「鹿目まどかと暁美ほむら。その二人が特に力が強かったってことか」

「キュゥべぇに確認をとると、ほむらさんは魔法少女なんだけど、契約した記憶がないんだって。理由はわからないけど、時間を止めることができるらしいよ」

時間を止めるだけなら過去に戦ったことがある魔法少女にいた。

しかし、契約した覚えがないというのは妙だ。記憶操作という事もあるが、大それた理由として思いつくことはあるが私と同じ境遇が他にいるとは思えない。

「あと、アペにまどかさんを見てもらったんだけどワルプルギスの夜を倒す可能性を秘めているみたいだよ」

「ほう、それは随分と因果量が高そうと考えられる情報だね」

「候補の一人には十分なるんじゃないかな」

また、ピリカから神浜には私たちが出会った以外の調整屋がいるという情報を手に入れていた。

神浜とその周辺の地域にはすでに知れ渡っているらしく、多くの魔法少女が調整を施されているのだろう。

調整屋については私が尋ねてみる事にした。

ピリカからは安易に殺さないよう釘を打たれたが、調整屋という存在自体は今はいてはいけない存在だ。少なくとも、神浜にしか自動浄化システムがある間は。

「あら、二人とも戻ってきていたんだ」

シオリも戻ってきたようで、私たちは各々が集めた情報の整理を始めた。

全員一致で自動浄化システムが何物なのかを神浜の魔法少女から聞き出すことはできなかった。それは同時にこのままでは自動浄化システムが世界に広がることなど叶うはずがないことを意味していた。

神浜の魔法少女は外へ目を向けようという考えがほとんどないらしく、一部の者しか気にしていない有様なので外から来た魔法少女はそれはそれは居心地が悪い思いをするだろうという印象も受けていた

神浜の外にいる魔法少女は用がなければ神浜へはいかないらしく、それを彼女たちは何も気にしていない様子だったという。

不安を抱えつつも神浜には留まらない、というよりは留まれないのだろう。

人間関係や学校やバイトなど、理由は様々だがその理由のほとんどは魔法少女の世界から見ればこの先役立つとは思えないことばかり。
人間社会というものはそんなものだ。

神浜の魔法少女へ宣戦布告した話をピリカにするとそれはもう怒りどころか呆れられてしまった。

「何で敵増やすようなことするのよ。折角初対面で何の思い込みもなく情報交換できるチャンスをなくすようなものでしょ」

「あてになる情報なんてなさそうだって判断したからさ。人間社会に精一杯な奴らと話したところでいい情報なんて手に入らないだろうからさ。
あぁあ、この町のすごいがわからなくなっちゃったよ」

ピリカはムッとした顔でシオリを見続けていた。

「ま、それでもカレンへ宣戦布告してもらったグループのメンバーは洞察力と分析に長けていたよ」

「それって、過去に計画を妨害されたグループと同じ特徴」

私たちのやろうとしている事は受け入れてもらえるような方法ではない。協力関係になれたところで、あの時みたいに邪魔をされて無駄になるか遠回りする結果となる。
だから関係を険悪にしておいたのさ」

「変に注目されちゃうかもしれないよ」

「それはその時だ。忠告はもう伝えてあるからね」

「忠告を律儀に守ってくれればいいんだけど」

「なに、関わりすぎるなら潰されるくらいあの魔法少女たちなら理解できてるだろうさ」

「やめてよね」

一通り話を終えたあと、今後の行動についての話を始めた。

「さて、しばらくは神浜の状況観察を行いたいと思う。魔女化しない代わりに出るドッペルという存在をよく知る必要があるからね」

「ドッペルは出した後に疲労感しか感じないらしいけど、中には体の一部が動かなくなったりと体に不都合が出る子もいたらしいの」

「ドッペルってやつの代償をよく知らないといけないよね。でも、この街でそう頻繁にドッペルって出るものなの?見滝原や宝崎ではみんな神浜でもドッペルは出さないようにしてるって聞いたよ」

ドッペルを出す機会に出会える確率も、ドッペルを何十回と出し続ける現場も何十年とかけて観察したところでわかるはずがないだろう。

それでも、ドッペルの代償については知っておかないといけない。

そのためならば。

「ピリカ、突然なんだが、伝えたい事があるんだ」

「なに?」

「お前との関係はここまでだ」

「…え?」

 

第一章:スゴィガ ワカ ラナイ 完

 

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NEXTSTAGE: 2-1

【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 1-11 睡蓮はまた悩む

またこの展開となりました。協力関係となりたい相手に対して、ななかさん達は必ずというほど相手と一度は一戦を交えてしまうのです。

私はななかさんと戦ってチームに入ったわけではありませんが、あきらさんも、美雨さんも一度戦ってななかさんについてきた人たちです。

そういえば私、ななかさんと面と向かって戦ったことがないことに気がつきました。

魔法少女になる前も、後も守られてばかりな場面が多いような。

私たちはお店へ支払いを行った後、人気のない路地裏まで来ました。

「さて、手合わせ願おうじゃない。まとめてかかってきても構わないよ」

「随分な自信ネ」

「いいでしょう、皆さん始めてください」

「先手はぼくが!」

「続けるヨ」

いつもの通り、先にあきらさんと美雨さんが前へと出ます。

二人は格闘を得意としているため前へ出るのは必然ですが、スピードがあるため撃って下がるという切り替えも早いです。

二人は力強い拳を繰り出しますが、シオリさんが操る帯には傷一つついていませんでした。

その帯は巧みに角度を変えていて、四方八方から来る攻撃に対応していました。

二人が一歩下がった後、私は武器を構えて矛先に貯めた力を地面へと叩きつけました。この時、大まかな相手の弱点を掴んでいたからか、シオリさんはワンテンポ対応に遅れたかのようですが、しっかりと回避されてしまいました。

そこへななかさんが間髪入れず切り込みましたが、今度は腕にある宝石から光る盾のようなものを形成してシオリさんは身を守りました。

「こっちを使わないといけなくなるとは思わなかったよ」

ななかさんも下がり、私たちは防衛体制へと入っていました。

シオリさんはあきらさんの方へ向かい、帯を素早く、しなやかに叩きつけて行きました。

あきらさんは防御姿勢で耐えていましたが、どんどん動きが鈍くなっていきました。

「まずいですね。あきらさんそこまでです。戦線離脱してください」

「わ、わかったよ」

あきらさんは後ろに下がってはこれましたが、座り込んだ後に動けなくなってしまいました。

「いい判断だね。あのまま戦っていたら何もできずに終わっていただろうね」

[あきらさん、体の様子は]

[完全に痺れたみたい。ごめん、動きそうにない]

[なら、私が]

私があきらさんを回復させようとすると何か素早い気配を感じました。

「かこさん!そこから離れてください!」

気づいた時には手遅れでした。足元には鉄釘が刺さっていてそこから電気が流れて私はダメージを受けたと同時に体が動かなくなってしまいました。

「遠距離できるヒーラーとは優秀だね。ただ、反射神経はまだまだだね」

「あんたも遅いヨ」

気づいた頃にはシオリさんの真後ろに美雨さんがいて、勝負ありかと思われました。

「したっけ勝てるかい!」

美雨さんは寸止めで終わる気だったのでしょう。しかし自らシオリさんは両手を美雨さんの爪へ突き刺し、帯でそのままみぞおちを突きました。

「両者そこまで!」

ななかさんは戦いをやめさせました。

さらなる追撃を用意していたのか構えていたシオリさんは魔法少女姿を解きました。

腕の傷を治すために痺れた体を何とか動かしてシオリさんの傷を癒しました。

「ありがと、かこさん」

シオリさんはすぐ元どおりに自由に動かせる腕へと戻っていました。

「お強いですね。私たちの完敗です」

「シオリに傷をつけておいて完敗だって言われると私の方が情けなくなるんだけど」

「いいえ、あそこで止めていなければ美雨さんは危ない状況になっていたでしょう。私も手のだしようがありませんでした」

「何言ってるのさ。十分強いよ、あなた達」

そう言った後、シオリさんはななかさんへグリーフシードを渡しました。

「これはガサツな誘いに乗ってくれたお礼だよ。協力するかどうかは仲間と話し合ってから報告するね。今日の夜、私とあなた達があった場所に来れるかしら」

「わかりました。前向きな返事をお待ちしています」

シオリさんはそのままどこかへと行ってしまいました。

「ななかさん、シオリさんは」

「あの強さは間違いありません。この神浜では、誰も対抗できないでしょう」

話は戻ってみんなで集まっているななかさんの家。ここまでの話でこのはさん達はいろいろ時になることがあったようです。

「そのシオリって子、危なっかしくて怖いんだけど」

「そうね、ななかさんからも怖い発言がよく出るけど、シオリさんもなかなかね」

「あら、私は普通に話をしただけですよ」

「ななかのいう普通は普通じゃないと思うヨ」

「そうでしょうか」

「んでんで、そのあとの返事ってどうだったのさ!」

実はその結果を私とあきらさんは知らされていませんでした。

結果を聞きに行ったのはななかさんと美雨さんだけでした。私とあきらさんはこ来ないよう釘を刺されていたもので。

「ではお話ししましょう。結末と、今後の活動について」

夜に会うという時間が曖昧な中、ななかさんは18時の暗くなり掛けの頃に指定の場所へ行き、少し待った頃に声をかけてきた少女がきたとのことです。

「あなたが、常盤ななかさんですね」

「どこかでお会いしたでしょうか」

「私はシオリの仲間、日継カレンだ。あなた達からの協力関係についての話は聞かせてもらったよ」

「そうでしたか。シオリさんはご一緒ではないようですね」

「シオリにも都合があるからね。仕方がないさ。それで、協力関係について何だが」

そう話したあと、カレンさんは魔法少女姿になったあと話を続けました。

「協力関係は断らせてもらう。実力が釣り合わないとか、目的が違うというわけではない。あなた達は少々相手を探りすぎる癖があるとシオリから聞いてね」

「探られるとまずいことをしている、そういう意味ですか」

「ななかさんには伝えておくが、私たちは既に魔女化しないシステムを世界に広げる方法を知っている。そして実現も可能だ。
だがこの方法は、絶対あなた達神浜の魔法少女と争ってしまうような方法だ。だから協力できないというわけだ」

「話してみないとわからないこともあるかと思いますが」

「忠告しよう。これ以上私たちを探るんじゃない。私たちに触れすぎるとあなたも、仲間も傷がつくところじゃ済まないよ。
なに、話す機会はいずれ来るだろうさ」

ななかさんは隙を見て変身しようとしましたが、周囲に鋭利な糸のようなものが張られて変身することを躊躇していました。

「いい判断だ」

カレンさんはななかさんへ背中を向けて、ななかさんへこう伝えたとのことです。

「神浜マギアユニオンへ伝えておいてくれ。外から来た魔法少女を失望させ続けることしかできないのなら、私たちは動くと」

美雨さんへアジトを探らせる予定だったようですが、ななかさんは追跡をやめさせます。

結果は残念なところか、神浜に危険が訪れてしまう予告まで受け取ってしまったのです。

「シオリさんとカレンさん。彼女たちは神浜の魔法少女では魔女化しないシステムを世界に広げるのは不可能だと踏んでいるようです」

「相手はハッタリで知っていると言ってきた可能性はあるけれど」

「彼女たちの実力は計り知れません。探ってみるしか方法はありませんが」

「ななかさ、一人で探ろうなんて思うんじゃないよ」

ななかさんは少しの間黙ってしまいました。

「私は今度の神浜マギアユニオンの集会へ参加し、今回のことを皆さんへ周知しようと思います。彼女たちへ出会ってしまっても、目撃したとしても関わることはないように」

事態は絶望的でした。

シオリさんとカレンさん。

彼女たちとまともに話し合いをできる日はくるのか。そして、魔女化しないシステムを世界に広げる方法とはどんな方法なのか。

この状況の中、私はあまりにも無力で情けない気持ちでいたのでした。

 

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【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 1-10 ユリとアザミが咲く中で

ななかさんと出会って魔法少女となり、いまではたくさんの経験をしてきたなと感じてしまいます。

私たちはいろはさん達が提示した自動浄化システムの広げ方を探すこと、そしてキュゥべぇと共存するという考えに対し、協力だけはするという立場にいます。

そのため、神浜の魔法少女が集まった神浜マギアユニオンという組織にも参加していません。

これはチームとしての方針であり、この考えにはこのはさん、葉月さん、あやめちゃんも乗っかり、私たちと共に行動しています。

そんな私たちはある日、ななかさんの家に集まっていました。

「みなさん集まりましたね。では、話を始めさせていただきます。
今日皆さんに集まってもらったのは、先日私たちが遭遇した魔法少女について伝えなければいけないからです」

「その魔法少女っていうのは、神浜の子ではないの」

「違います。彼女は神浜の外から来たとのことです。そんな彼女について、私たちが体感したことを共有するのが今回の目的です」

そうして私たちが体験した、神浜の外から来た魔法少女、紗良シオリさんについての話が始まりました。

私とあきらさん、美雨さん、そしてななかさんと一緒に魔女討伐のために結界へ入ったのですが、その結界の中には使い魔の姿がなく、一戦も交えずに最深部へと向かうことができました。

道中はすでに誰かが戦った後があり、最深部では魔法少女の反応がありました。

魔法少女の反応へ違和感を感じている中、ななかさんからはその場で待機し、様子見をする指示が出ました。

魔女と戦っていた魔法少女は、小さな魔法少女でした。

服から伸びた帯で魔女へ攻撃している様子でしたが、攻撃はすべて回避されていました。

「もう!スズランテープみたいにピロピロ動いて。足元狙ってもな」

そう言って小さな魔法少女はバルーンを周囲に浮かべた魔女の足元の釘を壊しました。

しかし、どこからともなく現れた使い魔によって魔女は再び地面へ固定されてしまいます。

寄ってきた使い魔を帯で軽く遠くへはたき飛ばしてしまった小さな魔法少女は別のアクションを起こします。

小さな魔法少女は魔女の結界内に散乱していたビニール袋を集め、そこに何かを詰めてはそのひとつひとつを魔女へ向かって投げて行きました。

すると、投げたビニール袋が次々と魔女へとまとわりついて行きました。

「静電気で逃げちゃうなら、その静電気でお返しよ」

そう言って小さな魔法少女が周囲に電気を発生させるとその電気はビニール袋を通して魔女へとダメージを与えていました。

ビニール袋の中には小さな金属体のような黒いものが入っていました。

見たことない戦い方を目にして私はすごく感激していました。

魔女は電気を浴び続け、身体中が焦げてしまったあとはバルーンごと粉々に砕け散っていきました。

「全く、シオリを少し考えさせた点は褒めてあげるんだから」

シオリと呼ぶ魔法少女がススの中からグリーフシードを拾い上げると、なぜか私たちの方向を向きました。

「さっきから隠れて見て、出てきなさい。少なくとも4人はいるはずよ」

なんと私たちがいることは完全にバレていました。

ななかさんからの姿を見せる指示もあり、魔女の結界が消えると同時に私は姿を表しました。

「すみません、変わった戦い方をしていたもので思わず見物させてもらいました」

シオリさんは魔法少女姿を解かないまま私たちの方を向いたままでした。

「あら、失礼しました。私たちはあなたと話をしたいと考えているのですが警戒させてしまったようですね」

そう言うとななかさんは変身を解き、私たちも変身を解きました。

シオリさんも変身を解きました。

シオリさんはひざ下あたりまでの長さがあるスカートに薄い上着を羽織った私服の姿でした。そして変身を解くと眼鏡をかけていたのです。

そういえばななかさんも変身を解くと視力が戻ってしまうと話を聞きました。

シオリさんもそうなのでしょうか。

「ごめんなさいね、警戒しちゃって。で、話って何さ」

「率直に言いますと、神浜の外から見た神浜とはどんなものか教えて欲しいのです。生憎、私たちは神浜の外の情報に疎いもので」

「できれば、協力していけたらって思うんだよね」

(うん、うん!)

「なるほどね、ちょうどシオリもこの町のことは知りたか、ちょっと待って、いつシオリが神浜の外から来たって知ったの」

「神浜の中で知らない魔力パターンでしたので、憶測で話していましたが、違いましたか」

シオリさんは少し驚いた後、面白そうに笑顔で話しました。

「面白いねあなた。間違いはないわ、シオリは神浜の外から来た魔法少女よ。是非とも情報交換させてもらいたいわ」

「よろしくお願いします、シオリさん」

「よろしくねって、なんでシオリの名前知ってるのさ」

「すでに口に出してるネ」

「…あら」

なんだか面白い人だなというのが第一印象でした。

私たちは近くのファミリーレストランへ入り、みんなはそれぞれ好きな飲み物を頼んでいきます。ななかさん達はシオリさんのとなりには座らないだろうと思い、私がとなりへ座りました。みんなが席へ着席したことを合図に情報交換が始まりました。

「今回は協力していただき、ありがとうございます。私は常盤ななかといいます」

「ぼくは志伸あきら。よろしくね」

「純美雨ネ」

「夏目かこです。よろしくお願いします」

「シオリの名前は紗良シオリ。突然聞くけれど、この街「神浜」では一般人を気にしたりしないの?」

「まあ、あまり気にすることはありませんね。もちろん、何も考えていないわけではありません」

私たちが今座っている席はななかさんが決めた場所です。

窓がなく、お店の端っこであるこの場所は一番人気がない場所です。

隣の席にいる人にしか話が聞こえないので魔法少女の話が普通の人たちに聞こえないよう気をつけた結果です。

ななかさんは、さらっとこんなことを考えてしまう人なのです。

「なるほどね。気を遣ってはいるようだけど、警戒は緩めってことはわかったよ」

「さて、早速ですが神浜に魔女化しない仕組みがあるという話は、誰に聞いたのでしょうか」

「キュゥべぇよ。あいつから魔女化しない街があるって話を聞いて食いついたわけ。自分で魔女化する仕組みを放置してるくせに、魔女にならない仕組みが手に入るぞ、なんて伝えて回ってたよ」

「それは、本当ですか」

「情報交換なのに嘘を伝える必要がある?」

ななかさんは冷静に話していましたが、私は驚いていました。そもそもキュゥべぇが魔女化しないシステムの事を知っていることそして魔女化しないシステムが手に取れるものであるかのような話で伝えて回っていることが。

「そうですか、キュゥべぇさんがそう伝えて回っているのですね」

「あら、キュゥべぇへ神浜の魔法少女がそう伝えたんじゃないの」

「少なくとも私たちは伝えていません。もし誰かが伝えていたところで魔女化しない仕組みは決して手に取れるようなものではないと伝えているはずです」

神浜にある魔女化しないシステムというのは、マギウスという3人の魔法少女が暗躍し始めた頃から存在するシステムです。つい最近はいろはさんの妹であるういさんが戻ってきたあの日を境に元マギウスである灯花さん、ねむさんでも魔女化しないシステムについて全くわからない状態となってしまっています。

いろはさん達はもっと詳細なことを知っているようですが、なかなか情報をみんなに共有してくれません。

きっと何か理由はあると思うのですが。

「きっとそうだとして、この神浜はもう手遅れな状態なのかもね」

「手遅れっていうと」

「手に取れるものだとしたら奪おうとする奴らがいる。もし手に取れないのならこの場所ごと自らのテリトリーとしようとする奴もいるだろうさ。
ま、私はどっちでもないけどね」

「持ち出せないなら自分のシマにする。考えつくことではあるネ」

「でも、外から来た子達にちゃんと説明すれば分かってくれるはずだよ」

「なんて説明するつもりなのさ。個々人の判断で見解を伝えていくつもり?そんな危険なことはしないでしょうね」

まるで神浜の魔法少女同士で情報共有ができていないような言い方ですね」

「事実、だと思うんだけど」

神浜の魔法少女は情報交換できるよう、専用のSNSグループが作られています。

そこで情報交換はされているのですが、今回の件は一度も話題に上がったことがありませんでした。

つまり、誰も今まで外から来た魔法少女へ現状をしっかりと説明しようという考えすらなかったのです。

「情報共有をする方法はあります。しかし今回の話題は挙がったことがありませんね」

イチゴミルクを少し飲んだ後、シオリさんが話し始めました。

「状況は把握したわ。その情報共有ってどうやっているの」

「主に専用のSNSで行っています。しかし、メンバーへ加わるには神浜マギアユニオンのまとめ役である方々に一度会う必要がありますね」

「神浜マギアユニオン?何なのこの街って組織化されているわけ」

「たいていの方達は参加されていますね。ただ、私たちは参加せずに協力の立場でいます」

「どういうこと?」

「私たちは組織に留まらず、独自の行動を行っていきたいためです。神浜の魔法少女同士で仲が悪いわけではありませんよ」

その後も会話が進んでいきましたが、情報を伝える量は私たちが7割という状況でした。1対4という状況なので当然かなという感じはしていました。

ななかさんが席を外した後、私たちはどんどんシオリさんへ質問をしていきました。

「あの、魔女と戦っているときのあのビニール袋を使った方法、あれってどこで知ったんですか」

「知ったも何も、持ってる知識を使っただけだよ。あの戦い方なら物理の中盤あたりまで学んでいれば思いつくんじゃないかしら」

「わ、私はまだ序盤しか触れていないからわからないかもです」

そう私がいうと、シオリさんはストローのビニール袋を手に取りました。

「冬場にドアへ手をかけるとバチってくるじゃない?あれって何でだと思う?」

「それは静電気が体に溜まって。あ!」

「気がつくのが早いね。そう、こんな感じに磁石でも何でもないのに皮膚へビニール袋がくっついてくる。この仕組みを使っただけよ」

考えなくても、日々日常で感じる現象でした。それでも、そんな些細なことを戦いの中で思いつくのはかなり冷静かそれ以上の何かがなければ使おうとも考えつきません。

この瞬間でシオリさんは強い方だと察することができました。

「魔法少女って、それぞれ得意不得意があるじゃない?それって最初からもらった力だけではどうにもならないから、こうやって身の回りを見て戦い方に取り込んでいっているのよ」

「なるほど、勉強になります」

「シオリさんって誰かとチームを組んでいたりするの」

「チームっていうのかね。2人でやってるからコンビって言ったほうがいいかもね」

「出来れば、そのもう一人ともあってみたいな」

「変わり者だからお勧めはしないよ。ま、協力することになったら会うことになるかもね」

「それはどういう事か」

「すぐに分かるさ」

そう、シオリさんが話すとななかさんが戻ってきました。

「みなさんで盛り上がっていたようですね」

私たちと協力関係になりたいっていう思いが十分に伝わるほどにね

「では、ご協力いただけますでしょうか」

「この場ですぐに応えることはできないね。あんた達が、他人に頼りっきりな存在にならないか確かめるまではね」

一気に空気が重くなりました。ななかさんは椅子へと座らず、そのまま出入り口の方を向いていました。

「では、参りましょうか。手合わせするために」

「分かるじゃないの、ななかさん」

 

 

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