次元縁書ソラノメモリー 1-15 魂の在処とは

わたしは意識がぼんやりとした状態である親子の前に立っていた。

親子の姿は水色の粒子が集まったかのような見た目だった。周囲の景色もどこか水色がかっている。

その親子の会話をわたしはただ見つめているだけだった。

「______、少しお父さんの話を聞いてくれないか」

「いいよ!______に教えて!」

「お父さんは人を不幸にする仕事をしているんだ。お母さんからはみんなを救う仕事と聞いているかもしれないが、実は違うんだ」

「なんで違うの?」

「お父さんは人の命を奪って、そのお金でお前たちを支えているんだ」

「えっと、イノチヲウバウって人を殺しちゃうって事?」

「おいおい、そんな解釈どこで覚えたんだ?」

「お母さんが教えてくれたよ!穢い事も覚えておいた方が後々役に立つよって言ってた」

「あいつは全く・・・」

「えへへぇ」

この会話、親子の輪郭はぼんやりしているはずなのにわたしの中には鮮明な部分がある。

まだ、親子の会話は続いていた。

「______、人の命ってどこにあると思う?」

「どこだろう、カラダの中かな?」

「なるほど。

実は正解はないんだよ」

「ええ!真面目に考えたのに!」

「ごめんごめん。でも、答えがないのは確かだよ」

「それって、お父さんが人を不幸にするっていう話?」

「そう、お父さんはたくさんの人の命を奪っているんだ」

「人の物をとっちゃうって事でしょ?それは悪い事だよ!」

「ああ、そうだよ。悪い人だ」

「でも、とっちゃったって事はいまでもその人の物を持ったままなんだよね?」

「え?」

「奪うって、とっちゃうって事でしょ?じゃあいつかそれを返せるって事だよね!」

しばらく静寂が続いた。大人と思われる人物が何か考え込んでいる様子だった。

「はは、参っちゃうな全く」

「?」

「そうさ、お父さんは持ち続けてるのさ、奪ってしまった物をね」

「それならちゃんと返しに行かなきゃダメだね!」

「そうだな、とっちゃったものは、返さないといけないよな」

「でもでも!______はお父さんを悪い人だなんて思っていないよ!」

「え」

「だって、お父さんはお母さんのヒーローなんだもの!お家にお父さんのおかげで助かった、救われたっていう人が来てるもん!悪い人はそう言われないこと知ってるもん!」

「ありがとう、______」

「だから!お父さんはとっちゃったものなくしちゃダメなんだよ!

「ああ、無くさないよ。絶対にね」

ふと気づくと親子の姿は見えなくなっていて、大人と思われる人物が立ってこちらを見つめていた。

男は少し前へ歩いて再び振り返ってこちらを見つめていた。

ついて来い、そう言いたい気がしていた。

わたしは男の後ろをついて行って、ひたすら前へ歩いていた。

あるところで男が立ち止まると前の方を指差した。その先には青白い光を放つ花がたくさん咲いていた。

わたしは驚き戸惑っていると、男は前へ歩み出して花を摘み始めた。

男はそのままわたしの方を向いて花の束を差し出してきた。

「わたしに?」

笑みを浮かべた男は静かに頷いた。

そして、懐かしい声で話しかけてきた。

「胸の想いを信じ続けなさい。そしてこれは、お前のために大事なものだ」

わたしは不審に思わず、すんなりと受け取ってしまった。

受け取ったわたしの目からは不思議と涙が溢れてきて、こぼれると同時にその場へ膝をついてしまった。

胸の奥が熱くなって、花束を胸元に寄せてただひたすら泣き続けた。

「お父さん」

 

ふと気づくと心配そうに見つめるアルの姿があった。

「良かった!気がついたんだね」

「わたし、確かアルと一緒に森の中へ入ったはず」

そう、身を起こして周りを見渡すと少し薄暗い森の入り口付近にいた。

「僕も少し前に気づいたんだけど、隣にいるブリンクがなかなか起きなくて心配だったんだよ」

「そう」

わたしは手元を見ると、青白く輝く花束を持っていた。

「あれ、これって」

「その花、僕も夢の中で誰かにもらったんだ。誰かは覚えていないけれど」

「わたしは大事な人からもらった。そしてこの花って、探していたドコサーっていう花かな?」

「多分そうだろうから、しっかりと袋に入れておこう」

「うん、わかった」

わたしは胸に押し当てていた花を、アルに渡した。

ドコサーという花に間違いがないかハッカの元へ尋ねたときに知ったのだが、どうやら私とアルはあの森に入ってから3度の夜を迎えていたらしい。

この世界で飲まず食わずのまま3度の夜を迎えるというのは感情エネルギーが枯渇するに等しい期間に近いとのこと。

ハッカからはとにかく何か食べてと食べられる花をもらった。

しかし私たちには1、2時間経過したという実感しかなく、感情エネルギーとやらが不足した際に発生する発作も起きていなかった。

ドコサーという花であることを確認した私たちはキエノラの元へ戻った。

キエノラにも酷く心配されたが、森で起きたことを話した後には酷く高笑いをした。なんだこの人。

「いや悪いね、予想外の出来事を聞いて笑ってしまったよ」

あの森に入ったら寝ちゃうかもしれないって教えてくれなかったのはあんたじゃない」

「いや、本来ならば教える必要がないんだ。普通は寝ないで見つけられるものだからね」

「どういうこと?」

キエノラによると、ディモノスリンにはこんな話があったという。

ある人物がは連れと一緒にディモノスリンにある光る苔について調べるために入ったという。その人物森の中心へ進めば進むほど意識が遠くなっていき、最終的には倒れてしまったという。

倒れている間にその人物は生き別れた母親と会ったという。母親との再会に喜んだが、母親は自分のことを認識しておらず、目の前では自分の過去が流れ続けたという。

しばらく過去の情景が流れた後、母親は自分を認識しているかのように手招きしてきたという。

その後を追っていると、光る苔が生えている箇所を忠実に移動していたという。

その先で光る花を見つけ、母親はその人物へ花束にして光る花を渡したという。

ふと気がつき、目覚めると森の入りに寝ていたらしく、手元には夢の中でもらった花束を握っていたらしい。

日光に当たると萎れてしまうと知って、その人物は日に当たらないようハッカの元へ持っていって花について聞いたという。

しかし花について詳しいハッカでもその花については初めて知ったという。

ハッカは知人に花の調査を依頼し、その知人が花をすりつぶして液体へと混ぜたがなにも起きなかった

なにを間違えてか、液体をこぼしてしまった知人は液体がかかった宝石へ触れると宝石の持つ力に干渉できたという。

花の名前はハッカが名付け、実際に取りに行ってみると光る苔に沿って歩けば確かにドコサーを見つけることができた。

これがドコサーを発見し、干渉液が生まれたことについての話らしい。

「えっと、キエノラの昔話にしか聞こえなかったんだけど」

「いいじゃない、前置きっていうのはこれくらいがちょうどいいのさ。まだ干渉液ができるまで時間がかかるから、種明かしといこうか」

ドコサーを初めて見つけた人物というのは、この世界にもともといた人物ではなかったという。本人曰く、ここではない世界にいたが、気がついたらファミニアにいたという。

異世界に詳しい人物がその人物を訪ねてみようと試みたようだが、その時にはその人物は物言わぬモノへと変わっていたという。

実はこの記録自体はこの世界自体からは消えている。キエノラがこの話を知っているのは、本に残されていたからだという。

「実は私自身もディモノスリンに入ってみたんだが、意識を失うことなくドコサーを回収できている。他の人たちもそうさ、“ファミニアの住人”は誰も意識を失うことがなかったんだ」

私とアルは話を聞いて唖然としていた。試験管が熱せられてポコポコと音を立てる以外の音はしばらく発せられなかった。

「もう言いたいことはわかるだろ。君たちは、ファミニアの住人ではない。異世界の存在だということになる」

「まさか、あなたが楽しそうにしているのは私たちが異世界の人だからなの」

「そうさ。ファミニアにはない概念を君たちは持っている。

そう、魂という考えをね」

アルの話からだいぶ察してはいたが、アルもまた、私と同じくこの世界に紛れ込んだ人。私のことを心配したりしているのは、同じ境遇から来る気遣いなのだろうか。

「さて、ここで君たちに聞きたいことがある」

「な、なんでしょう」

「魂の在処はどこなのだろうか」

アルはこの言葉を聞いて、少し驚いた後私の方を見た。

「私が干渉液に執着しているのは、魂というものに触れてみたかったからなのさ。異世界の人だけが持つという魂というものはどのようなモノなのか私たちが見ることはほとんどない夢という空間を魂に触れれば踏込むことができるのかってね」

ファミニアには私たちのような異世界から来てしまった人たちは多いという。

でも、異世界から来たからと言って魂があるかどうかなんて見ただけじゃわからない。

異世界から来たという人物を訪ねては干渉液を塗りたくって魂に触れようとしたんだけど、それっぽいものに触れることはなかった。そのあと何度も同じことを繰り返しているうちに、私は触れ物なんて呼び方をされるようになったのさ」

キエノラは、静かに私を指差した。

「君はどう思う?魂は何処にあるんだろうか」

一呼吸おいて、私は答える。

「魂っていうのは必ずここにある、てものではないと思う」

「ほう」

「私だって、魂が何処にあるかなんてわからないけどこれだけははっきり言える

魂っていうのは体に縛られるものじゃない。体がなくなっちゃったとしても誰かについていっていつもそばにいる。どれだけ離れてしまっても、いずれは一番思い入れのある人のそばにある、そんなものだと思ってる」

「ブリンク」

「ならブリンクちゃん、もしかしたら誰のとこにもいきたくないという魂がいたら、その魂は何処に行ってしまうのだろう」

「そんな深いことはわからない。ただ、魂はここにないといけないっていう決まりはないと思うよ。魂を奪ったら、ずっと一緒に付き纏われちゃうって昔から考えていたんだ。もう、返す先なんてないんだろうけど」

キエノラは少し残念そうな顔をして立ち上がった。

「そうか、魂という考え方を持つ君の考えならば認めざるを得ないね。

でも、私は考えを改める気はない。魂っていうのは必ず触れられるものだと思って今後も探究し続けるよ」

そう言いながらキエノラは保存してあった干渉液をたくさん持ってきた。

「話を聞かせてくれてありがとう。約束通り干渉液を渡そう」

「ありがとうございます」

アルは干渉液を受け取り、一礼した。

「そして、君たちへのちょっとしたお礼だ」

キエノラは暖炉の上にあった鉱石のうち一つを持ってきた。掌サイズの少し緑がかった宝石だった。

「え、貴重そうな鉱石だけど良いの?」

「ああいいさ。持っていきなさい」

私はキエノラから渡された鉱石を受けとった。

「あ、そういえば名前を聞いていなかったね」

「ぼくはアル、隣がブリンクです」

「そうか、アルとブリンクちゃん君たちは私のお気に入りになったからね、今度は遊びに来て欲しいな」

この瞬間、私の頭ではハッカから聞いた話がこだました。

“ただ、あんまりあいつのお気に入りになるんじゃないよ。何でもかんでも知られちゃうからね”

「し、失礼しましたあ!」

そう言って私はキエノラの店を飛び出してしまった。私はもうキエノラの店へ行くことはないだろう。

「やっぱり芸術家は苦手だ!」

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2- エピローグ

ペンタゴンの中庭で願いを唱えた後、どうなったのか。

記憶がぷつんと途切れていた。

閉じた覚えがない目を開けると、そこは豪勢な中庭で植物が生い茂っていて白い石畳の先には花が浮かんだ噴水があった。

周囲には蝶と見覚えがある希望の光が浮かぶ中、場違いな真っ黒なトカゲが赤い目を向けながらこっちにこいと言わんばかりにこちらを振り向いていた。

私がトカゲの後を追っていると、中庭の屋根がある場所で見覚えのある人物が椅子に座っていた。

「お前が円環の理か」

そう尋ねると見覚えがある存在は黄色い目を向けてきた。

「まさかここまできちゃうなんて。私と繋がりを持ちすぎちゃうから・・・」

その見た目は鹿目まどかで間違いなかった。

「私にはお前が知っている人物にしか見えない。概念っていうのは好きに姿を変えられるのか」

「いいえ、円環の理は鹿目まどかの一部よ」

そう言って黒いトカゲが円環の理の横まで移動すると今度は黒いこれまた見覚えのある存在へと姿を変えた。

「暁美ほむら、その魔力は私たちを殺そうと神浜の奴らを誘導した存在の一つだな?」

「あの世界の私がそう望んだから手助けしただけよ。

あの世界の私と私をつなげる要因を作ったのはあなたでしょ?」

「ただの結果だ。お前は円環の理のなんだ」

「かつて鹿目まどかという円環の理の核を奪い去ろうとした存在。今は円環の理の一部よ」

ゴスロリと言える格好をした暁美ほむらは赤い目で見つめながらそう答えた。

「まあいい。

私が概念と対峙できているのはつながりすぎたのが原因だろう?

元の世界には戻れないのか?」

「戻れるかどうかはここで決まっちゃうの。

あなたはこっち側に来るか、戻れるようになるかの境目にいるの」

「そうか。できれば戻りたいんだが何をすればいい?」

「「そのまま帰って問題ないよ」」

声が聞こえた後ろ方向を見ると、そこには肉体を持ったピリカとシオリがいた。

「お前ら、なんで」

「カレンが繋がっているならば」

「シオリ達が繋がっていると同じでしょ」

カレンは円環の理というものがなんなのか繋がったことで知識は持っていた。

別世界での因果律が途方もない量で願った鹿目まどかの結果、それが円環の理。
ほとんどの次元では円環の理によって魔法少女達は魔女化する前に魂が回収される。
そのため円環の理に集まる魔法少女の情報はさまざまな次元での情報が反映されている。

だからあえてカレンは2人へ尋ねた。

「お前達はどの世界の存在だ」

「私はカレンに助けてもらう前の世界の記憶を持っている。

絶望はしても両親やコタンの仲間の無事な姿を見せられてわずかな希望で円環の理の一部になった私。

でも今目の前にいるのはカレンと共に過ごした私」

シオリはほとんどの次元で飛行機の破片で貫かれながら本当の両親なのかわからない2人に呪う必要はないと宥められて妥協し、円環の理の一部となった。

シオリにとってはカレンに救われた世界が一番さ。

ということで目の前にいるのはカレンをよく知るシオリだよ」

「そうか。

下手に延命させてしまっただけで申し訳なさまであったが」

「何言ってるのさ。

シオリの魔女は円環の理に回収されるまではインターネットに張り付いているだけのつまんないやつだったし、魔女になるより全然マシさ」

私の場合は生きて両親がいるコタンへ帰れたのはカレンと出会った世界だけだった。

それだけでも嬉しいことだよ」

「そうか、余計なお世話ではなかった時点で良かった」

カレンは円環の理へ振り返った。

「3人で戻るということは叶わないのか」

あなたはあの世界で一つのソウルジェムの許容量を超える量の希望を受け取った。

普通とは違うソウルジェムみたいだけど、だとしてもソウルジェムを無事に保てるのは一つだけだった。

私もしっかりサポートしたんだけど、ごめんね」

「だからそのまま帰れと言ったのか」

「あの世界にカレンは必要だ。

次元改変とやらにカレンは関わっているのだろう?つづりから聞いたよ」

「あの世界ではカレンを求めている人がたくさんいる。

だったら尚更だよ」

そして私には死ねない理由がある。

妹といつか会えることを。

「悪いな。

したっけ失礼させてもらうよ」

「うん、いつでも待っているからね」

ピリカのその言葉が引っかかったが、中庭を出るようまっすぐ進むと目の前が真っ暗になった。

その後は別のページにある通り、元の世界へ戻ったのは私だけだった。

 

それからしばらくはサピエンスの後始末と人間移住のためにカルラと共に行動していた。

そして人間の追い出しが完了するまでの間に私はつづりと再会した。

「この世界最大の歪み『イザベラ・ジャクソン』の排除お疲れ様です」

「あれは一体なんだったんだ。この世界が生み出したものなのか」

イザベラはあなたの歪めた世界を帳尻合わせするためにこの世界が生み出したものの一部です。
本来であればイザベラの母 シャルロッテがその役割を担うはずでしたが、彼女はあなたを追うのではなく私情を優先してその役割が娘へ引き継がれた。

あなたがこの世界に来なければ、アンチマギアや彼女たち二人も生まれはしませんでした」

しっかり人生があったやつなのにこの世界に生み出された存在だなんて。

神様が用意したのか?」

「神様なんてどの世界にも存在しません。
この世界で生み出されているものは、防衛機構 『シナリオライター』と呼ばれるもので作りだされたものに過ぎません。
円環の理というものでさえ、シナリオライターに用意されただけのもの。この世界で生まれた存在は絶対にシナリオライターにかないません。この世界では「意思」ともよばれていたそうですね」

「そんなものに、私は抗えたのか」

「お手柄です。
あなたのおかげで、シナリオライターに抗える可能性が示されました。
次元改変の拡大防止と阻止を他の世界でも促してみるとします。

ありがとう」

「私は褒められたことなんてやっていない。
つづりが時々ちょっかいを出しに来ていたからこそできた結果だ。つづりがいないと抗えなかったさ」

「私はあなたの補助をしただけですよ。あなたがこの世界を救ったのが事実・・・。

そうだ」

つづりは一つだけというジェスチャーをとった。

カガリさんを連れてくる前にもう一度円環の理に会ってくれますか

あなたがこの世界で発生させた改変が別次元の鹿目まどかに関わる世界へ歪みを生み出し始めています。

この世界の導き手となるために円環の理から事情を聞いてください

カガリさんと会わせるのはそのあとです」

「その歪みとやらも、シナリオライターのせいなのか」

「そうです。シナリオライターの意地でも自分の筋書き通りに戻そうとする強硬手段が、次元改変に繋がります」

「厄介なものだな、防衛機構というくせにめちゃくちゃにするなんて。

まて、円環の理に簡単に行けるのか、私が?」

「繋がったあなたならよく知っているはずです」

繋がり方にはなぜか覚えがある。
円環の理との縁に意識を集中させるだけで、すぐに見覚えのある中庭に来てしまった。

「嘘だろ…」

「やっぱり、すぐに戻ってきた」

ピリカにそう言われても私は唖然とした顔を変えられなかった。

「もう、行き来自由になっちゃったのはほむらちゃんだけだと思ったのに」

円環の理は困った顔を見せていた。

「容易に繋がっちゃうからだよ、概念になっても甘いんだから」

そう言うのは円環の理の隣に立っていた美樹さやかだった。

「円環の理には随分と多彩な姿があるのだな」

そう言うあんたらも繋がったんだから円環の理の一部ってことになってるよ。

ほむらやなぎさみたいにあっちこっちに好きに行き来できるんだから困っちゃうよ」

「シオリとピリカも、自由に生き気ができるのか?」

「そう、その2人も自由に行き来できちゃう。

ソウルジェムと肉体がなくなっているから円環の理に用意してもらわないといけないけどね」

「そうかい。

円環の理っていうのはなんでもありだな」

「レコードを壊さない程度にしないといけないっていう制約はあるよ」

「そのレコードに関する話だが、レコードが破壊されるほどの歪みが発生していると聞いたのだが」

「聞いたって誰からさ」

「私のスポンサーからさ」

「さやかちゃん、協力してもらおうよ。私たちじゃ手に負えないものだったし」

円環の理の掌の上には6つのヒビが入り始めているレコードが出現した。

そこへピリカとシオリも寄ってきた。

「あまり近づかないでね、すぐにでも壊れちゃいそうだから」

「このレコードが一つの世界ってこと?」

「そう、そして少なくともこれらの世界には起こるはずがない変化が起こり始めているの。

変化の発生源は、カレンさんのいるマギアレコード。

それが分かっても対処の方法がわからないの」

「それは次元改変というやつだろう。

私たちの世界で無理やり次元改変を止めたから他のレコードに飛び火した。

で、対処できないとはどういうことだ」

この6つのレコードは円環の理が触れてしまうとすぐに壊れてしまいそうなマギアレコードの複製された存在。

その世界に干渉した痕跡を残しちゃうと、レコードの歪みをかえって大きくしてしまうから手の出しようがないの」

「歪みの原因までは調べがついているの?」

シオリがそう聞くと円環の理は首を横に振った。

「円環の理って無能か?」

「ふざけた事言うんじゃないよ」

「事実を言っただけでしょ?」

シオリとさやかが睨み合っている中、私が歪み始めているレコードの一つへ触れると動画のシークバーをいじるかの如く好きな時間を覗くことができた。

覗き見たレコードでは神浜でワルプルギスの夜の討伐に失敗していた。
失敗原因を辿ると由比鶴乃を救えなかったことが大きな原因となったようだった。
救えない理由もさらに遡ることができた。

私は円環の理を見て思わず言ってしまった。

「なぜこの程度もできない?」

「できるあんたがおかしいんだよ!」

さやかが怒りっぱなしだが、私にやりようがあるということは判明した。

「元は私が世界を乱したのが原因だ。

しっかり修正はさせてもらうよ」

「原因がわかったところで痕跡はどうするのさ。

あんた達も円環の理の一部って言ったでしょ?」

「スポンサーの技に痕跡を消せるものがある。

当てはあるってことさ」

円環の理とさやかが驚いて黙ってしまったあと、円環の理が話し始めた。

「わかった。カレンさんに一度任せてみるよ」

「したっけ行動に移らせてもらうよ」

 

私は元の世界へ戻ってからつづりへ縁切りを教えるよう伝えたが答えは想定とは違った。

「無理。」

「そんな言い捨てるように言わないでくれるか」

「縁切りは私たちの世界で扱える能力で、それを別の世界の住人へ伝授するにはその世界に則って取得できる素質がなければいけません。

夏目かこは再現の力のおかげで取得でき、柊ねむは具現の力で縁切りの力をこの世界で具現化できたのです。

あなたは繋げるだけ。だから素質がないということです」

「柊ねむか。そういえばあいつも使えたか。

夏目かこを別世界へ連れ回すわけにもいかないし、ウワサとやらで複製できるか試してもらうのもありかもしれない」

「むしろウワサを活用する方法しか許しませんよ。夏目さんを連れて歩こうとするところで止めます」

「わかっているさ」

 

私は神浜で柊ねむがいるシェルターを訪れた。
シェルターには都合よく柊ねむしかいなかった。

「珍しい客人だね。何か用かい?」

「1人だけなのか」

「ここ最近は特にね。

それで、世間話を持ち込んできたわけではないのだろう?

どんな厄介ごとを聞きにきたんだい?」

「お前は縁切りという力を使えるらしいな。つづりから聞いた。

その縁切りをウワサで私にも扱えるようにしてほしい」

「驚いたね、まさかつづりとの関係者だったとは。

ならば尚更知っているはずだ。ボクがつづりから縁切りの力を受け取ったのは日継カレン、君たちの神浜での暴走を断ち切るためのものだ。

君たちを律するために与えられた力を求めるというのであれば、ボクは必要となる事情を把握する義務がある。

そうは思わないかい?」

「素直に進む話ではないか」

「当然だ」

私は少し悩んだが、柊ねむへ円環の理のこととなんのために縁切りが必要であるのかを全て伝えた。

そして知ったからには全てに協力してもらうことも伝えた。

話を聞く間、柊ねむは終始表情を変えなかった。

「円環の理か。

ボク達を見守り続ける概念があるということは興味深い上に、パラレル世界がレコードとして存在しているという世界構想であることも理解した。

灯花が一緒にいなくてよかったよ」

「ことの重大さは理解してもらえたか」

「君が今どのような状況に置かれているのかはね。

だが君が今までにボク達へどのような振る舞いをしてきたのかを踏まえると、はいそうですかと一言では了承しかねる」

「…何を求めている」

今魔法少女達の間で流行りの『依頼』を完遂できればボクは対応する、というのはどうだろうか」

魔法少女達の間では通貨というものを使用しない代わりに、依頼に答えて報酬として見合った物々交換を行うという行為が流行っている。

ケーキの素材は揃えるからケーキを作って欲しい。

農作業の手伝いを頼まれ、農作業は手伝うけど収穫分を一部分けてほしいと答える。

こんな感じのやり取りだ。

一方的に物をよこすような要求はあるにはあるが、好戦的な魔法少女によって決闘という形でしばかれるという共通認識も浸透している。決闘したがりでなければ滅多に起きない。

ただし理不尽な要求が行われる場合もあるため、互いが合意できるやり取りは必須だ。

「内容次第だが言ってみろ」

「最近はお姉さんやうい、更に灯花と4人が揃う機会というものがめっきり減ってしまってね

君には1日中4人が揃ってゆっくり過ごせる機会を作ってもらいたい。

この依頼をこなせたら、君でも縁切りが使えるようウワサを生み出してあげよう」

「その3人へここで話したことを漏らさないだろうな?」

「ここでのやり取りの秘匿は保証しよう。

そうだね、この発言を信じてくれることも追加の依頼としよう」

「言ってくれるじゃないか」

「それで、君はどう対応してくれるんだい?」

「依頼は受け入れよう。

4人集まれる機会というのは、場所と時間に指定はあるか」

「そうだね…」

柊ねむは最近のやりとりを記録していたのか、付箋や文字がたくさん残されたノートをしばらくペラペラとめくりながら考えていた。

そうしている間に覚えのある魔力反応が迫ってきた。

「ねむちゃん、今いいかな」

部屋に入ってきた環ういは私の姿を見て固まってしまった。

「おやおや、タイミングがよろしくなかったね」

「えっと、なんでカレンさんがここに」

「柊ねむへ頼み事に来ていたんだ。

用があるなら先にどうぞ」

「いえ、ただお話ししに来ただけだから頼み事の話を進めてもらっていいですよ」

環ういがそう話す後ろにはワルプルガが隠れていた。

そんなワルプルガへ私は話しかけた。

「時が経っても環ういについてまわっているのか」

「お母さんの手伝いをするのがちょうどいいからね。

1人だけでいるのは不安だし」

「そうかい、それでワルプルガが幸せなら私は何も言わないよ」

「まあ今回の依頼はういにも関わることだ。2人も混ざるといいよ」

「え、いったい何をやるの?」

柊ねむはういとワルプルガへ私の頼み事と円環の理についての話は伏せて、4人が集まれる機会を作りたいという話だけを伝えた。

環ういは快く話を受け入れ、柊ねむと共にどこで1日過ごしたいのかについて話をはじめた。

私は話を聞くだけであったが、とりあえず集まる場所と日は決まった。

「そういうわけだ。カレン、お姉さんと灯花が安心して集まれるようよろしくね」

「わかったよ」

環いろはが忙しい理由は、神浜で他の魔法少女がやりたがらない掃除や問題解決に対応しているから。

里見灯花が忙しいのは人間移住に参加して人類を月に送るためのロケット開発や実験に夢中だから。

里見灯花に関しては説得一つで解決したが、環いろはは簡単にはいかなかった。

人間でも大勢を動員して行っていた掃除や水道管理、治安維持活動について他のみかづき荘メンバーと共に実施していた

悩み事相談は都ひなのたちが受け持つようになったようだが、ルールを設けることは支配者を産むという考えから、明確に誰に任せるといったものは決まっていない。

その為、環いろは側から首を突っ込むことが多い。
予定を空けることを相談しても。

「どうしよう、指示とかそういうのやっちゃいけないんですよね?

と言って誰かに任せようとしない。

普段ならば勝手にしろと言いたいが、依頼達成のためにそうはいかないのが辛い。

七海やちよへ依頼形式を使わないのか伝えたが。

依頼に対してのリターンを私たちから提示できるものがないのよ。
掃除をやってくれたら何を与えられるか。
何かやったら必ずリターンがあるという仕組みは良くないわ」

単純な協力の呼びかけに答えてくれないくらい、ここの住民は非情なのか?」

「呼びかける方法がないのよ。マギアネットワークも整備中でしょ?」

「遠慮が過ぎるのか頭が硬いのか…」

私はこれから何をするのか環いろはと七海やちよへテレパシーを送った後に、神浜全域へテレパシーで伝えた。

[神浜にいる全員へ。

環いろはにフリーな日を作りたい。

環いろはが無計画に受け持ったあれやこれやの解決に協力できる奴は明日の9時に電波塔跡地へ集まれ!]

次の日、電波塔跡地には見慣れた顔がたくさん集まって環いろはが抱えていた物事はあっという間に割り振られて環いろははフリーとなった。

「いろはさん、協力して欲しい時はいつでも言ってくださいよ!みんな結構暇なんですから」

「れいら、他の人に失礼でしょ」

伊吹れいらの言葉で環いろはは少し救われたのか笑顔を見せた。

これで依頼が完遂できるようになり、柊ねむ達5人は南凪の噴水公園へ集合した。

環いろは以外の4人は年月が経ったことで18歳くらいの見た目まで成長していて、衣服もおしゃれな物を着ていた。

「いやぁ、白衣以外を着るのは久々だよ」

「私も混ざってよかったの?」

「ワルプルガちゃんも歓迎だよ!」

「なんか私だけ地味で恥ずかしい…」

「お姉さん、今日はボク達で楽しむ日だ。お姉さんはお姉さんらしい格好で良いと思うよ」

「そう、かな?」

「ほらほら、今日はたくさん楽しもう!」

環いろは達が動き始めた後、私は邪魔が入らないよう遠くから監視を行っていた。

環いろは達が見滝原の魔法少女達が営む喫茶店で楽しくおしゃべりを楽しんでいる頃、私の近くには七海やちよ、夏目かこ、佐鳥かごめが集まっていた。

ここに来るまでに次々とついてきた結果だ。

「なんで着いてくるんだよ…」

七海やちよは

「いろはが楽しめているか見守るためよ」

夏目かこは

「あなた(カレン)が余計なことをしないか見張っているのですよ」

佐鳥かごめは

「この素晴らしい時間を記録に残すためです」

私は呆れてしまった。

「お願いだから全員どっか行ってくれ」

環いろは達は喫茶店を出た後、神浜周辺を巡った。

その間について回っていた3人は各々の都合で私から離れていった

日も落ちる頃、万年桜のウワサというものの入り口があった森林の先に5人が集まり、いきなり環ういがテレパシーで私を探し始めた。

[カレンさん、聞こえていたら私たちのところに来てくれますか?]

私は嫌な予感がしていた。

柊ねむの依頼を利用してあの5人は私に何かを仕掛けようとしている。

私はテレパシーを返した。

[どういう事だ。柊ねむの依頼は既に達成されたはずだ]

[君にその報酬を渡すために必要な事だ]

[・・・柊ねむ、貴様は口が固かったのではないのか]

そう言うと、柊ねむからテレパシーでつづりとのやり取りが脳内に流れてきた。

柊ねむと接触したつづりは柊ねむだけが秘密を所持していた世界は失敗したことを告げていた。

環姉妹、里見灯花、柊ねむの4人が秘密を持つことなく過ごす世界であることが世界を壊す要因を防ぐと言っていた。

私は事情を理解して5人の前に姿を現した。

そして環ういへ尋ねた。

「これから知らされること、ワルプルガも巻き込む気か?」

環ういではなくワルプルガが答えた。

「私のことは気にしなくていいよ。

巻き込まれたことについてはしっかり言うことを聞くよ」

話していると私たちを取り囲むように黄緑色の円が光り出した。

その後すぐに目の前は真っ白になり、視界が晴れた頃には見覚えのある空から地上を見下ろせる空間にいた。

そして前方にはつづりが待っていた。

周囲にはさっきのメンバーからワルプルガだけが消えていた。

「ワルプルガちゃん?!」

「ご心配なく、ここは元の世界とは繋がっていません。

ワルプルガさんを待たせることがない時間へお返しできるので、ひとりぼっちになるのは一瞬ですよ」

「そ、そうなんだ」

つづりを初めて見る環いろはは何が起きているのかがわからず口を開けたまま動けずにいた。

私は状況を整理するためにつづりへ尋ねた。

「さて、柊ねむ以外も巻き込んだ理由をしっかり教えてくれ」

「いいですよ。

あなた達5人はマギアレコードの世界を存続させるために欠かせない存在となっています。

誰かが欠けただけで、または誰かが秘密を持って1人で抱え込んだ時点で、マギアレコードや付随する別世界も破滅へ向かうようになってしまっています。

柊ねむだけではなく他3人を呼んだ理由はそういうことです」

「まあ私は事前に話を聞いていたからいいけどさ、聞きたいことは山ほどあるんだから」

里見灯花がそう言っている後ろで環いろはは蚊帳の外だった。

「環いろはさん、今目の前で起きていることは受け流してもらっていい。
4人でここで起きたことを知ってもらうことが大事なので」

「えっと、はい…」

「柊ねむ、依頼の報酬を頼む」

「…つづり、ここは自動浄化システムの影響を受けるでいいのかい?」

「大丈夫ですよ」

「その言葉を信じるよ」

柊ねむは魔法少女姿となって、武器として使用している本を開いた。

本が1人でに開くと中から光る紙が飛び出してきて、ハサミを持った妖精が体現されていった。

縁切りの物語から飛び出した君は数多の時空を跨ぐことになるであろう。

君はそんな時空達との縁を断ち切る」

縁断ちバサミのウワサ

柊ねむによって生み出されたそのウワサの魔力は私へまとわりつき目の前に浮かび上がって一つお辞儀をすると星を出して消えてしまった。

柊ねむはウワサを作ると必ずドッペルを出すほどの魔力を消費していたようだが、その大量の穢れは私が受け止めた。

柊ねむがドッペルを出さないことに他の3人は驚いていた。

「あれ、ドッペルが出ない」

「私が全て受け止めたからな。フィラデルフィアのコイルを使うよりは少ないのだな」

「カレンはそんな気遣いできたんだ」

「さて、依頼も完了して報酬も受け取った。
だが4人には言っておくが、円環の理について触れさせたり私がやろうとしていることにはかかわらせる気はない。
特に里見灯花、お前には円環の理に触れようとした前科があるらしいな。
絶対に触れようとするなよ」

「そんなこと言われても困るんだにゃー」

「土産話だけは聞かせてやる。
だからこの件を外部に漏らさないことも関わらないことも約束してくれ。
そういうことが起きている、あるという事実だけを知るで留めて欲しい」

「いいよ、わたくしも大人になったししっかり報告してくれるなら手を出さないよ」

「大人ねぇ・・・」

「何よねむ」

「要件は終わりですかね、では元の世界に戻しますね」

そういった後つづりは持っていた槍の石突で床をたたいた。
その後、私たちは元々いた場所へ戻っていた。

 

あれから私は一つのレコードを修正した。
その結果を見て私は今後も円環の理を通して別世界の歪を修正して回ることになった。
その報告をつづりへ行うと、ついにカガリと会えるようになった。

どの世界とも切り離された空間で、私は下に見える世界を座って見ていた。
そうしていると、背中の方で黄緑色の光が見え、その瞬間に懐かしい声が聞こえた。

「お姉ちゃん!」

声がしたほうを向くと、つづりの隣に記憶の中にあったよりも大きくなった妹の姿があった。
私より低かった身長は私を超し、髪は束ねているものの全体的な見た目はピリカに似ていた。

やっとだといううれし涙がをこらえて、私は妹へ声をかけた。

「久しぶりだね、カガリ」

カガリはそのまま走ってきて私へ抱き着いた。
それはカガリが実体ある存在だと気づかせてくれていて、昔のようにカガリの頭を撫でた。

「すっかり私よりも大きくなって。顔の面影以外別人みたいじゃないか」

「お姉ちゃんの見た目が変わらなさすぎるんだよ。
記憶の中にある姿とほぼ一緒だからびっくりしたよ。でも、その右手は別の意味でびっくりしたよ」

私の右手はアンチマギア製の刀で切られてからまだ再生できるほどアンチマギアが抜け切れていなかった。
そのせいがあって糸でつなぎ合わせながら糸で腕と指を動かしている状態だった。

「この世界で苦労した結果だよ。

ここには邪魔をするものもないし、山ほど積もったお互いの話をしようじゃないか」

「うん!」

切り離された空間にはつづりによって椅子が2つ用意され、そこで私はカガリが得意げに語り掛けてくる話を聞いた。

カガリは別世界に飛ばされた後、魔物を主導する邪神へ対抗するためにその世界の人間と一緒に戦っていたという。
その世界にはなぜか私たちが元々いた世界の神様までついてきていたらしく、神楽舞で魔物に対抗していたという。

「神も巻き込まれたって次元改変はとんでもないな」

「ほんとだよ。最初は神様も力を失っちゃってて、神楽舞を試すまでは人間と同じように一緒に過ごしたり、その世界の神様ともめ事になったりで大変だったんだから」

「それでも生きられているってことは邪神は倒したのか」

「一応ね。でも、お姉ちゃんには見せてもいいかな」

そう言ってカガリが立ち上がり、開示の舞と似た舞を踊ると、カガリの姿は青白いサキュバスのような見た目になった。
私はその場で驚いて立ち上がった。

「ごめんね、冒険している中でただの人間ではなくなっちゃったんだ。
体は魔物にされちゃったけど、心はいつもの私だよ。

こんな私でも、お姉ちゃんは妹だと思ってくれる?」

「大丈夫だ。今までの会話の中で見た目は変わってもカガリは私の妹に変わりない。
別世界でつらい思いをしてきたんだな」

「ありがと」

カガリは持っていた扇を閉じると見た目は人間に戻った。

「は~、一番心配していたことが問題なくてよかったよ。
ごめんね、私ばっかりおしゃべりしちゃって」

「全然かまわないさ。しっかりその世界の味方として動いていたようで何よりだ」

「お姉ちゃんはどう?見た目が昔と同じなのがとても気になってたの」

私はなまら話しにくかった。
まさかその世界にとって悪役となって地球から人間を追い出そうとする主犯になっているだなんて。
カガリに嫌われてもいいと思い、私は今までやってきたことを伝えた。

話を聞いていたカガリは、悲しげな顔をしたままだった。

話を終えるとカガリが一言口にした。

「お姉ちゃんが、人類の敵に・・・」

「嫌ってくれて構わない。人間や魔法少女を平気で殺してきたんだ。カガリの世界では悪魔と言われても当然のことをしてきた」

「受け入れがたいけど、お姉ちゃんを嫌いにはならないよ!
酷いことをしてきちゃったんだなっていうのはわかるけど、いま目の前にいるお姉ちゃんは、ちゃんと優しいお姉ちゃんだもん。
絶対嫌いになんてならない!」

私はほっとしたのかその場でうつむいた。

「そうか、そう言ってもらえると助かるよ」

そんな私にカガリは手を差し伸べてきた。

「気分転換に踊ろうよ!
ここだと躍るなって怒る大人もいないし」

私たちの世界では、私たちの踊りは神に刺激を与えるものとなってしまうため祭事以外に躍ることを禁じられていた。
踊りが好きなカガリにとってはとても苦痛な日々であった。

私はつづりの方を一度見た。

「ここでは気にしなくていいですよ。どこの世界ともつながっていないので、踊りによる効果はどの世界にも及びませんのでご自由にしてください」

「やったぁ!」

カガリが喜んでいる中、私はカガリの手を取った。

その後は二人で気が済むまで自由に踊り続けた。
周囲には黄色の光の粒が現れ、次々と天まで登って行った。

お互いに手をつなぎながら笑顔で、満足するまで踊り続けた。

 

お互いに元の世界に戻った後も、私にはカガリとの縁が見え続けていた。
そのおかげでなにがあっても心が潰れずに生きていくことができている。

頻繁にカガリと会えるわけではないが、縁のつながりがカガリの無事を伝え続けてくれる。

自暴自棄から始まったこの世界の活動が、いつの間にか別の次元含めた世界を守る側の活動になるなんて、昔の私には予想もできなかったことだ。
まさか今では生きたいと思う気持ちが強いだなんて。

生きようと思えるのは、心から大事にしたいと思える存在がいるが故なのかもしれない。

私はこの世界は好きではない。むしろ嫌いだ。

姉妹のつながりがあり続けている。
ただそれだけの理由で、私は生き続けている。

 

 

魔叙事詩カグラ・マギカ 続く・・・

【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-13 奇跡が創る世界

日継カレンはアメリカ大統領であるケーネスがいるシェルターの場所をカルラから聞き出した。

その後、カレンはイザベラの遺体を持ってケーネスがいるシェルターの場所へと向かった。
シェルターの扉は開いていて、外にはケーネス本人も出ていた。

カレンはそんなケーネスの前までたどり着き、イザベラの遺体を見せた。

「魔法少女か。そしてイザベラ・・・腕が!」

「あなたがアメリカ大統領、そしてイザベラの叔父であるケーネスさんですね」

カレンがそう言うと、ケーネスの護衛をしていたボディガードが銃をカレンへ向けた。その瞬間にボディガードの1人はカレンが出した魔法の糸によって簡単に切り刻まれてしまった。

周囲からは一般人の悲鳴が聞こえた。

「銃を下ろせ。攻撃の意思がある者は気にせず殺す」

「何を偉そうに!」

歯向かおうとするボディガードへケーネスは制止を促した。

そしてケーネスはカレンへ話しかけた。

「私は魔法少女のことをよく知っている。そしてイザベラが生きて帰ってこなかった、核がこの世界から消えたということがどういうことを意味しているのか、私はよく理解している」

「話の理解が早くて助かります。

では、人類の敗北宣言を実施いただけますよね」

「人類の敗北だと?!」

状況を理解できない一般人はざわついていたが、ケーネスは静かに首を縦に振った。

「だが人類の代表が私でよいのか?」

「アメリカという国以外が人間を主導したことがありますか?
人類への影響力でいえば、あなた以外適任がいません」

「わかった。君たち魔法少女は人類へ何を望むのだ?」

カレンはケーネスへ事前にヨーロッパの魔法少女達で用意していた原稿を渡した。ケーネスはその内容を見て少し渋い顔をしたが、敗北宣言を行うことを受け入れた。

「いいだろう。イザベラの後始末、私が担わせてもらう」

その後はケーネスからマギアネットワークを通じて世界へ人類の敗北宣言が行われた。

世界の人間はこの宣言の意味をほとんど理解できていなかった。

ケーネスは人類敗北宣言を行った後に、この後人間がどうなってしまうのかを原稿の中身を理解した上で読み上げた。

地球上から人間を追い出す。

そのために人類には月へ移り住むことを今後の目標としてもらう。
世界中の残った人間は人種関係なく北アメリカ大陸のNASA宇宙局周辺へ全員詰め込ませてもらう。

魔法少女へ反抗する、危害を加えようとするものは容赦なく殺す。
人間の法律や権威はすべて意味を成さない。
魔法少女への抵抗は死を意味すると思ってほしい。

人類の敗北宣言が行われた後、カレンはペンタゴン跡地へと向かった。

 

ペンタゴンの地下ではディアがいるはずの場所へカルラが向かった

しかしそこに残っていたのは、耳や口から血を出して心肺停止したディアだったものが横たわっているだけだった。

ディアのクローンによる延命技術は、本体が壊れる前に乗り換えを行う仕組みであるため本体が壊れてしまうと意味を成さない。
クローン培養装置内には眠ったままの個体一体が眠ったままだった。

クローンが培養器から出てくる前に本体との脳内データリンクが途切れてしまうと、クローンは本体とは違う人格が入ってしまうと過去の実験で実証済であった。そのためディアの脳内データが正常に引き継がれている確率は絶望的だった

ディアは脳内データの引き継ぎがうまくいかず、死んでしまった。

本体が壊れてしまった理由としてはデータが残っていて、高熱の魔法に晒された状況で大量のドッペルによる攻撃や魔法による攻撃を受け、一度に複数体のクローンが絶命した。このことによる脳内にもたらされたデータストームに耐えられなかったことが原因であった。

カルラは残ったクローン培養装置を開いてクローンを起こしたが、残念ながらクローン体は周囲を見渡した後に赤子のように泣き出してしまった。

「また私は錬金術師を潰しただけか」

カルラは悔しい感情を抱きながら槍を出現させ、その場でクローンを殺した。

「ディア、すまない。
私はお前を引き留めるべきではなかったのか。

私はあと何人の死を見届けなければいけないんだ」

カルラはその場で自分を刺そうとした。
そこへカレンが居合わせた。

「おかしいですね。
師匠からあなたは強い人だと聞いていましたが」

「・・・キミアは私への過大評価が過ぎる」

カルラは出現させた槍を地面へ力強く突き刺した。

「私は結局なにも生み出せなかった。今回で思い知らされたよ。
キミアへ大口叩いておきながら、魔法少女を高みへ導けたキミアに比べ、私は人を新たなステージへ導くために犠牲しか出してこなかった。

そしてこの結果だ。

感情を殺していたはずなのに、どうしてこんなに悔しさがこみあげてくるんだ」

そう語ったカルラは無意識に涙を流していた。

そんなカルラへカレンは近づき、カルラの横にあぐらをかいて話しはじめた。

「師匠もあんたと同じことに悩んでいたよ。

愚痴を聞いてくれと切り出された後、師匠はこの世界の人について絶望しているといっていた。


人は私が錬金術を教えた時から技術は進んでも、人の本質は全く変化しようとしていなかった。

死なない程度の食糧を蓄えて同じ土地の人々と助け合い、侵略者から土地を守るために「集団とリーダー」という概念ができた。

そこまでならよかったものの、技術が進んでやれること、やるべきことが増えるとリーダーはその土地を便利にするために、別の地域とのやり取りが欠かせなくなっていった。

初めての他国とのやり取りはそんなための事だったはず。

いつしか人は「自分のために」と考える輩が増えて、そこで人の本質の進化は止まった。

「自分のために」を重視する輩が集まった結果、「人間社会」が作られてそれが人のスタンダードになってしまった。

進化を促す芽を持った者もいたが、そのほとんどは「自分のために」を重視する「人間社会」の標的となって消されていった。「自分のために」には「現状維持」が必須だからだ。

魔女裁判や人種差別、常識という固定概念はいい例だ。

それが変わらず今まで続いている。

変えようとしたら何十億人という人々が「人間社会」と「金」を駆使して潰しにかかってくるこの世界で、人間の本質が進化すると思ったか?

魔法少女に賭けたが、結局は「人間社会」に消されるだけの運命だと悟っていた。

そんな絶望の中で、カレン、お前のようなこの世界の概念に抗う大きな力を持つ者がいたからこうして希望を抱けているのだよ。

どうがんばっても詰みな世界なことは師匠も承知していた。
アンタが何も生み出せなくても、攻める必要はない」

「そうか、カレン、お前がいたからこそだったか。

お前はいったい何者なんだ?」

「それはもっと親しくなってから話すことだ。

そのためにもまずは手伝ってくれないか。地下にあるアンチマギア施設の今後について協力してほしい」

「そうか。ならばもう少し長生きしてもよいかもしれない」

そう言ってカルラは槍を消し、目の前のディアの入れ物になるはずだった死体へ手をかざすと死体は青い炎に包まれた。

「火は気にするな。焼き尽くした後自然と消える。
アンチマギアを理解できる魔法少女はいるか?」

カレンは立ち上がってから答えた。

「わかっていると自称しているやつは既に地下にいるよ」

「そうか、まったくわからないよりはいい」

ペンタゴン地下に存在するアンチマギア製造装置は、最終的には聖遺物として扱うこととなって解体し、ヨーロッパへ輸送することとなった。

 

世界中では人類の敗北宣言の通り、人間の大移動が開始された。

魔法少女とのみ生活を共にしていた人間は対象から外されたが、人間社会の中で一定期間生活した人間はすべて移動対象となった。

これは人間社会という概念を破壊するためである。

主に陸路と海路が使用された。人間輸送を担当したのはヨーロッパの魔法少女と、戦いを好む魔法少女達によって実施された。

指示に従う人間は大人しく車両や船へ乗り込んでいったが、納得できないもの達は魔法少女達へ自分たちの立場と人間の常識を持ち出して反抗した。

しかし魔法少女に人間内の常識や階級は関係ない。

大手会社の社長であっても一国の議員であっても問答無用で船へ押し込んだ。

言うことを聞かない人類は多く、この時点で多くの人間が魔法少女に殺された。

魔法少女への対抗手段がない人間は次第に抵抗する者が減っていった。

人間を船に詰め込んだ後もトラブルは発生した。

移動中は人間用に用意された水と非常食しか載せられておらず、摂取量を守れないものがいた船は目的地に着く前に餓死者が出始め、内部で暴動が起きた。

魔法少女に危機が及んだ時は、エンジン室を破壊した後に魔法少女は船へ持ち込んでいたミラーズの鏡で避難した。

船に乗っていた人間は船の爆発に巻き込まれてそのまま海底へ沈んでいった。

地上では魔法少女から隠れてゲリラ化する人間が現れ、輸送が落ち着いた後はしばらくゲリラ化した人間の掃討が行われた

北アメリカ大陸へ固められた人類は外部へ逃げ出さないよう南北アメリカの魔法少女達に監視されることとなり、脱走者はすぐに殺された。

今の状況に納得しない人間がいる中、NASAを中心に月へ移住する計画が進められた。

その計画には錬金術師と魔法少女も協力し、科学や化学では解決できない問題を魔法で補い、期間短縮を図っていた。

北アメリカ大陸へ密集した人間は人間社会という仕組みを捨て切れず、人種ごとにコロニーを形成していた。

外部から食料や水が提供されないため北アメリカ大陸内での自給自足を余儀なくされた。

植物や家畜を育てやすい場所とそうではない場所があることで、コロニーの領地争いが当たり前のように起きた。

平和解決しようと話し合いで収まったコロニーはあったが、なぜか資源の優先権についての話が持ち出されて結局は揉めてしまった。

金についても種類がバラバラで金の価値を決める市場が無くなってしまったため、何で価値を測ればいいのか混乱が起きた。

アメリカ合衆国のコロニーがドルを基準にしようと言い出すと、ユーロ使用国が対抗してユーロを基準と言い出してどんどんと本来の金のあり方から遠ざかる議論が展開されてもいた。

そういった今までの生活様式から脱却できない人間はリーダーは、ルールは、誰がどこに住むのかという最低限の衣食住を全員が確保できるようにするという話に行き着くまでは時間がかかる状態であった。

 

魔法少女達はどう生きていくべきか試行錯誤を開始していた。

ヨーロッパや神浜での過ごし方を基準として考えられ、

・リーダーはつくらない

・金のような価値を代理するものは作りださない

まずはこれが最重要事項として、まずは最低限の暮らしができるよう衣食住を中心に皆が動いていった。

国という煩わしいものがなくなった今、国境というものを気にせず農業から始まり、畜産や漁業とできることから始めていった。

怠惰な魔法少女達も衣食住を整える重要性をテレパシーで共有され、いやいや協力してくれていた。

もちろんトラブルがないわけではない。

「おいおい、チョコを残すべきだからここはカカオ農園にしたほうがいいだろ」

「いやいやチョコなんて加工が難しいし、挽けばいいだけのコーヒー豆がいいだろ」

テレパシーでも譲れない状態になることは多々あった。
そんな状態になったときに、血気盛んなヨーロッパの魔法少女達が意見を出した。

「そういうことなら喧嘩で決着をつけようじゃないか。
場所は用意してやるから準備しておけよ」

ということが引き金となり、戦う力を鍛える場にちょうど良いとしてコロッセオを再利用した闘技場が用意された。

闘技場はかつての見世物や賭けの場となってはいけないということから、管理者を置くべきではないといわれていた。
だが結局は仲裁や死者を出さないようにということから、争いごとに慣れた二木市の魔法少女やヨーロッパや中東の血の気が濃い連中が闘技場を見守るようになっていった。

二木市の魔法少女と言えば、結奈は存命だ。

戦いが終わってソウルジェムにヒビが入ったまま神浜に戻ったのだが、その様子を見たいろはが結奈のソウルジェム修復を実行したらしい。

そのおかげで結奈のソウルジェムは元に戻り、変身後の姿は角が生える前の本来の姿に戻ったらしい。
結奈は心からいろはに感謝したという。

「ありがとう。神浜にいるあなた達との向き合い方、しっかり見直さないといけないわね」

これをきっかけに神浜の魔法少女と二木市の魔法少女との間で和解が完全に成立したらしい。今は仲良くやっているという。

丁度良いので現在の神浜についても話ておこう。

神浜は魔法少女だけでどう生きていけばよいのか迷う魔法少女達がまず行く場所となっていた。

テレポートの実験が成功していたこともあり、ヨーロッパだけではなくオーストラリアや南北アメリカ大陸、ロシアやアフリカにもテレポートが設置された。

神浜で衣食住の確立方法を学んだあと、学んだ魔法少女達は地元へ散っていくらしい。

その学びの中で、物々交換では限界があったようだ。
ゲームの中にあるようなクエスト形式で物のやり取りがされるようになった。
依頼を受け、報酬としてモノを受け取る。
主に食料や材料は依頼の品として納める必要があり、その見返りとして料理やモノを提供するといった感じだ。
中には材料を報酬として、材料を手に入れるための手伝いを依頼ということもある。
労力が物の価値と割に合うかなどは今も試行錯誤中らしい。

いろはを含めたみかづき荘のメンバーは衣食住を学びたい魔法少女達のサポートを行っている。
主に思いやりといった心について教えて回っていて、他の魔法少女がやりたがらない作業も進んで実施している。
いろはは相も変わらず自分のことが後回しになっているようで、疲れている様子に声をかけても「大丈夫」と言うだけで不安になっている者は多い。

神浜では歴史収集にも積極的だという。
魔法少女の歴史を残すうえでは旧時代の人類がやってきたことも後世に残すべきだとし、本好きの魔法少女達が世界に残っている書物を神浜に持ち込んでいる。
マギアネットワークに取り込まれたネット情報だけではなく、現物として残っている書物は大変貴重らしい。
そんな集まった書物たちを管理するために、かこもこの取り組みに参加しているらしい。
時には古本を当時の新品に能力で変えてしまう魔法少女もいるようで、読み解くには助かるが少し残念がる魔法少女も出たという。

歴史でいうならば、各土地に残る文化を残そうと活動する魔法少女達もいる。
時女一族は自分たちの持つ文化と共に日本の文化を守る活動を開始していた。
そこに賛同する日本の魔法少女達が集まり、日本の文化にあこがれていた魔法少女達はその活動に注目した。
部族出身の魔法少女達も文化を守りたいと時女一族を参考に、文化を守る動きをはじめていた。
主に無形文化財と人間が指定していたものは、このように魔法少女達が守っていくようになった。

見滝原の魔法少女達は相談した結果、マミを中心にして茶菓子の店を始めたらしい。
茶菓子店を魔法少女だけで確立させたのは初めてらしく、多くの魔法少女が詰め寄って初日は大変だったという。
今では世界中に菓子店などが増えたが、今でも味の評判は変わらず見滝原の魔法少女達が営む店には来客が絶えないという。

 

魔法少女だけで生きる道を開拓し始めたはじまりの地と言えるヨーロッパの隠れ家は、その役割を神浜に移して今はテレポートやマギアネットワーク、人類の排除状況、クエスト管理といった管理面の拠点となっている。
クエスト管理はマギアネットワークを利用して発行と完了状況が管理できるようになっている。
この拠点にはミアラの姿がなくなっている。
それはなぜか・・・。

この世界を救い、変えるきっかけとなったカレンは過去に多くの悪業もしているため、多くの魔法少女達の目の敵となっていた。
そんなカレンは魔法少女達の嫌われ者を続けており、各地の困りごとを解決しながら魔法少女達のガス抜きを行っている。
追いかけられては打ちのめして追い返す。そんなことを繰り返しているが、カレンは今でも元気にしている。

カレンがいつまでも元気そうな姿のため、協力者がいるのではと魔法少女達は考えを巡らせている。
協力者がいるのは事実で、ミアラがヨーロッパから姿を消したのはそのためだった。
新たな隠れ場をオーストラリアに用意し、カレンをサポートし続けている。
そこにはジーナやヨーロッパの魔法少女達も関わっており、かこも監視役として参加している。
カレンをサポートしている彼女たちだが、時にカレンが本当にどこに行ったのかわからなくなる時があるらしい。
この世界から消えてしまったのかというくらい姿を見せない期間が少しあり、しばらくすると何もなかったかのように姿を見せるらしい。
カレンとよく会っているカルラは「別世界も救いに行っているのではないか」と冗談交じりに言う。近くにいるキュゥべえも「カルラの言う通りかもよ?」と最近は冗談も覚えて笑って言って来るだけであった。

カレンは本当に別世界も救いに行っているのではないか、そんな噂が飛び交っている。

 

人間が月へ居住区を作り出すまでにも様々な出来事があった。

ロケットの打ち上げはもはや人体実験と言って良いレベルで繰り返され、多くの人間が犠牲になった。

重力脱出速度を実現させる方法として、ロケットの切り離しによるその場しのぎな方法は資源の無駄とされ波動砲の原理を使用したソニックロケッターという方法が考案された。

これは波動砲に使用された魔法石が生み出す衝撃波を初速を生み出すエネルギーとして利用し、減速することなく重力圏を脱出させるというものだった。

宇宙に出てからは水素燃料を消費するロケットへ切り替えられる。

発射台は垂直ではなく、地上から66.6度傾けた大型衝撃砲を使用する。

つまり衝撃波を生み出すのは発射台であって操縦席やコンテナは弾丸という扱いになる。

この初速に必要な魔法石の実験や、初速に人間が耐える方法のために多くの犠牲が出た。

そして大きな問題は打ち上げられる機体に地球へ戻ってくる方法が考慮されていないことだった。

人間側の研究者はもちろんそこを指摘したが、主任の魔法少女である灯花はこう答えた。

「追い出すことが前提なのに、戻ってくることなんて普通考えないでしょ?」

その回答を聞いて、カルラをよく知る研究者はカルラに助けを求めた。

「カルラさん、あの子をどうにかしてくださいよ」

「人間が絶滅する前に月へ定住できる方法を見つける方が早いだろうさ。
かかるGの抑制も、着陸後の生命維持施設の確立まで行けているのだからもう一押しさ」

「そんな・・・キュゥべえさんも何とか言ってくださいよ」

白衣を着てカルラの助手となったキュゥべえは表情を変えず答えた。

「ぼくとしても人類・・・いや今は人間と呼称するのが正しいかな。人間が絶滅するのは困るからね。
灯花には遊びもほどほどにとは言っておくよ」

「今まで遊びも含まれていたんですか?!」

キュゥべえは最近覚えた苦笑いを研究員へ見せた。

そんな中、人間は月へ到達することへ成功し、酸素が切れて窒息死する前にコンテナへ積んだ生命維持施設の設置に必死となった。

五月雨式に人間は月へ強制的に打ち上げられ、体の弱い老人などは初速のGで死んでしまったものも出た。

それでも人間の追い出しは強行され、アメリカ大陸から最後の人間が打ち上げられた頃には計画着手から50年が経過していた。

50年が経過すると魔法少女達は生活を安定させて活動しており、ほとんどは寿命を捨てて魔法少女になった頃の姿をとどめていた。

魔法少女でも子どもを求める者たちが現れ始め、ディアのクローン技術を応用した赤子の生成技術について進展も開始していた。

 

そこからさらに20年経過し、ある2人の魔法少女に育てられた子どもは、この魔叙事詩を見ていた。

「お母さん、私は今は人間なの?魔法少女なの?」

「鈴花ちゃんは人間だよ」

「私も魔法少女にならないといけないの?」

「無理になる必要はないよ。

魔法少女になった後に困ることをしっかり理解してから、どうしようか考えようね」

「そっか」

「梨花ちゃん、鈴花!

ちょっと手伝って!」

「わかったよ!

鈴花ちゃん、れんちゃんのとこ行こうか」

「うん!」

魔法少女の間に生まれた子どもは全員女性となるようになっており魔法少女の適齢期に入るまでに魔叙事詩で魔法少女について学ばせる場合が多い。

魔叙事詩にはこの世界でしか起こらなかった出来事が多数記載されている。

佐鳥かごめによってまとめられたマギアレコードと呼ばれる魔法少女の記録とは別に、ヨーロッパの魔法少女たちも関わった裏文書として魔叙事詩が執筆されている。

その魔叙事詩は今の魔法少女中心の世界に導いた存在 日継カレンにちなんで

『魔叙事詩 カグラマギカ』

と名付けられた。

この世界ではマギアレコードよりも魔叙事詩の執筆が進んでいる。

マギアレコードの執筆が途絶えてしまっても、この世界では魔叙事詩のページは増え続けるだろう。

この世界が続く限り、ずっと。

 

月に放り出された人間は、地球を取り戻そうと躍起になっていたが魔法少女達はそれを阻止することはなく放置していた。

そんな月にキュゥべえが訪れ、ひとりの少女と話をしていた。
その少女は、先祖代々受け継がれてきた魔法を打ち消すペンダントを持っていた。

「キュゥべえ、あなたは何でも願いをかなえてくれるんだよね?」

未だにディアとおなじ見た目をしているキュゥべえは少し困った顔をしながら答えた。

「君の因果量は確かにすごいが、願いたい内容によっては少し考えちゃうかな。
それに、ここで願ったらどのような扱いを受けるか、君ならわかるよね?」

「わかっているよ。
だから覚悟のうえで願わせて」

「そうか、君はその命を対価にして何を願うんだい」

「私の願いは・・・・!」

 

 

そう、どうなろうと、この魔叙事詩に次々物語は綴られていく・・・。

いつまでも、恒久に。

 

新時代へ導く神楽舞(カグラマギカ)  完

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-12 カグラマギカ

カレン達は通路を急いで進み、地下7階部分の穴から外へと出ていた。

カレンはデコーダを浮かせて糸をペンタゴンの壁へ貼り付けてワイヤーアクションのように移動して屋上へと向かった。

その後を追うようにジーナとかこも壁を登って行ったがカレンには追いつけなかった。

ペンタゴンの屋上には自動砲塔が用意されていたものの、電気が通っていないのか銃口を下げた状態で動こうともしなかった

そんな屋上をただ通り過ぎたカレンはペンタゴンの中庭まで走り抜け、中央に立つ電波塔へデコーダをかざした。

「入場可能コードを確認」

電波塔の扉からアナウンスが聞こえた後、扉はロックが外れる音を出して自動で開いた。

電波塔の中は薄暗く、大きな画面とキーボードが一つ、そしてデコーダを差し込むことができる端末ひとつしかなかった。

カレンがデコーダを端末へ差し込むと画面が起動して接続先を聞いてきた。

その選択肢にはマギアネットワークの選択肢もあった。

[ここからはシオリの出番だね。

ピリカは希望を集める準備をして]

[わかったよ]

[後はこいつで集めた希望を願いへ具現化できるかだけど]

シオリはカレンの体を借りてキーボードを打ってネットワークを繋げていった。

大きな画面には次々とネットワークが繋がってゆく様子が映し出されていた。

[アドレス知らなくても繋げてくれるから楽勝だわ]

画面に映し出された接続先に全て接続されたことを確認したシオリは、ピリカへ体の操作権を譲った。

「イペタム、デコーダを通して希望を集めて!」

目の前にイペタムが現れ、デコーダから希望を吸い上げ始めた。

さらにデコーダにはカレンの糸が接続され、世界中へ語りかけた。

カレンの語り掛けはデコーダによって統合されたインターネット、マギアネットワークを通して世界中の魔法少女達へ伝わった。

[魔法少女達、今この世界ではもうすぐ核ミサイルが発射されてしまう。

だが、何もすることもできないとあきらめないでほしい。

核ミサイルなんてものともしない明るい未来があると、希望を捨てず願ってほしい

その皆が輝かせた希望を、私たちが願いへと変換してみせる。

だから、あきらめず輝かせてほしい、皆の希望を!]

その声を聞いて気絶していたミアラが目を覚ました。

ミアラが目を開けたことで周囲の魔法少女達が歓喜した。

「ミアラ!よかった目を覚ましてくれて!」

「頭痛はひどいが、なんとか生きているようだ。

今の状況は最悪で、頼みの綱はカレンといったところか」

「ミアラにも声が聞こえていたの?」

マギアネットワークがろくに機能しない状況でよく声をここまで届けられたものだ

まあ今は願って協力するしかない。皆の未来のためだ」

戦闘が行われていない地域では魔法少女達が核のない未来を思い描き始めており、魔法少女達の周囲には黄色く輝く光が空へ飛んでいきはじめた。

戦闘が行われている地域では、手を止める魔法少女が出始めるものの、警戒のために祈りまでに至るものは少なかった。

「人間にさっきの声は聞こえていないのかよ!」

「手を止めないってことはそういうことだろ。

つくづく残念な奴らだと思ってしまうよ」

「仕方ない、他の奴らに願ってもらってことが済むのを待つしかない」

戦闘中の魔法少女はこんな考えに至るものが多かった。

魔法少女達が抱く希望はインターネットを介してデコーダを中継して電波塔へ集められていた。

「足りない。この程度の希望だと核ミサイルの脅威を覆せない」

[人の罪を覆すほどの希望が足りないって言うのか。

まあ殺された数と戦闘中の魔法少女もいるとしたらそうなってしまうか]

[ダメだよ、敵わないで終わるだなんて]

カレンは電波塔を出て中庭へ出て両手に糸で形成された扇を持った

[カレンやめろ!今やってもソウルジェムが耐えられない!]

シオリがそう言ってもカレンは止まろうとしなかった。

「気にするな。ただ神頼みするだけだ。

神呼びの神楽くらいなら死にはしないよ」

カレンはその場で神呼びの神楽と呼ばれる舞をはじめた。

神呼びの神楽はカレンが異世界から来た人物であることの証である。

カレンがもといた世界では世界の安寧を保つために定期的に行われていた演舞があった。それは神呼びの神楽と呼ばれていた。

例えその世界へ意地でも干渉しようとしない神であったとしても、神呼びの神楽だけは快く受け入れ、世界に降りて人々へ信託と力をもたらしていた。

神呼びの神楽には舞子となる人物の素質が反映されていて、基本となる踊りの型は体が覚えるまで練習が必要だが、ほとんどは心のままに踊ることが主流であった。

そのため舞には舞子の価値観がそのまま反映されて、その内容によっては神が降りてきたあとに人々へいきなり説教を始めたこともあったという。

カレンの場合は両手の扇を開いたまま周囲から何かを引き寄せる動き、その後は周囲へ何かを撒く動きをした後に両手の扇を閉じて3度ぶつけ合う。

再度扇を開いて両手で波を描くように上下へ振り、身体は円を描くように歩いていた。

これを神から応答があるまで続ける。

両手の扇を閉じて3度ぶつけ合うことは、カレンがいた世界では神に対する不敬となる行為であった。

神のこれまでの行為を嘲笑う。そんな意味が込められてしまっていると言う。

カレンが踊る神呼びの神楽は不敬上等な内容であり、「世界を見守る立場でこんな結果になるまで放っておく奴なのか」そういう想いが反映された結果であった。

しかしこれはカレンがいた世界での解釈。

この世界ではこの舞で、一度神に似た何かがカレンへ応答したことがあった。

カレンはそれを頼りに舞を舞っている。

[さあ答えてみろ。

一度繋がったんだ、この事態でこの世界を見捨てるような奴なのか?]

カレンはそう思いながら舞い続けた。

そして、聞き覚えがある声が聞こえてきた。

[やっと見つけた。あなたの声は聞こえているよ]

カレンの舞に反応したのは鹿目まどかに似た声の「何か」だった。

その声が聞こえた後に、「何か」は世界中の魔法少女達へ語り掛けた。

[大丈夫、みんなの頑張りを絶望で終わらせたりはしない]

その声が聞こえた後、世界中の空からピンク色に光る羽根が落ち始めた。

ピンク色に光る羽根が地面へ落ちると、地上から次々と黄色い光が天へ登り始めた。

これは魔法少女だけではなくただの人間にも目視できるようで、戦いの中にいる魔法少女と人間双方が手を止めた。

「何が起きているんだ」

世界中の戦いが止み、魔法少女達には再びカレンからのメッセージが聞こえてきた。

[お願いだ、みんなの希望を輝かせてくれ。

願ってくれ、核ミサイルが地上に落ちない未来を!]

戦っていた魔法少女達は無理を承知でその場で祈り始めた。

「いいよ願ってやるよ、叶えてくれよカレン!」

この不思議な現象は神浜でも発生していて、全ての魔法少女が希望を抱きながら祈っていた。

灯花とねむは空から降ってくるピンク色の羽根を見てどこか懐かしんでいた。

ワルプルギスの夜を討伐した時もこんな現象が発生していたよね」

「灯花が無理して観測しようとして、結局断念した挙句にあらぬ疑いも生んだことを覚えているよ」

「もう、変な話を掘り返さなくていいから」

「仮説でしかないが、魔法少女を後押ししようとする何かの力であるのは確かだね」

「これだけじゃ終わらないはずだよ」

そんな中、なぎさは動かなくなったピンク色のキュゥべえを掴み、空を見上げるだけだった。

「もう、なぎさが探すまでもなかったのです。

あのカレンって奴が円環の理との接触を図った奴だったのですね。

もうここまで繋がったら円環の理とピッタリ繋がったも同然なのです。

円環の理はそれで良いのですか。ほむらの時のようなことが起きても知らないのですよ」

カレンは動きを一度止めて別の舞に切り替えた。

[自称神、希望収集を手伝ってくれ。

願いは私が叶える]

[カレン?]

シオリやピリカも不思議に思う中、カレンは両手の扇を広げた後、左右から顔の前で奥義が重なるようにゆっくり動かした。

カレンはゆっくりと目を閉じた後に目を開いて両手を天へ向けた。

「希望を、願いへ!」

カレンがそう唱えると電波塔に集まっていた希望は糸をつたって一気にカレンへ流れ込み、扇を通して天へ希望が流れていった。

[カレンやめろ!こんな量を仲介したらソウルジェムが壊れる!]

[知ったことか。1人の犠牲で一つの世界が救われるんだ。安いものじゃないか]

カレンは扇を地面に向けたまましゃがみ込み、地面を掘り返すような動きで立ち上がって扇を天へ向けた。

しばらくはその動作を周囲に行った。

この間に地面からは希望と同じ光が天へ向かっていった。

そして同時に不可思議なことが起こっていた。

カレンへ向けて祈っている魔法少女達の周囲には、死んだり魔女化したはずの魔法少女達が幽霊のような姿で現れるようになっていた。

ミアラの近くにはアンカーを操っていた魔法少女が笑顔で現れていて、近くにいたレベッカには肩をポンポンと叩いて励ましているようだった。

「なんだよこれ、ずるいじゃないか」

泣いてしまったレベッカの涙を拭ったアンカーを操っていた魔法少女は何も喋らず、レベッカの頭を撫でるだけだった。

「これは。バチカンの時とは違う。
何が起きてるんだ」

いろは達の近くにはかなえやメルの他に十七夜やみたま、ももこ、レナ、かえでとたくさんの魔法少女達が現れていた。

「みんな、力を貸してくれるの?」

いろはがそう尋ねると皆恥ずかしそうな笑顔を見せた後にうなづいた。

「ありがとう、みんなお願いね」

半透明になっているメンツに十七夜が混ざっていたことにやちよは悲しんでいた。

ひなのや令達のところへも十七夜は現れ、皆が十七夜の行方を察してその場で悲しんだ。

欄のところへは燦が現れていた。

「今更目の前に現れてなんの用だ。

化けて出るならみふゆさんのところにでも行け」

燦はどこか自信ありげな顔をした後に欄へ指を差した。

「消えてからもイラつかせる奴だな。これから私は好きに生きさせてもらう。

もう構わず成仏しろ」

そう言う欄を燦は困った顔で見つめるだけだった。

ペンタゴン周辺でもこの世を去ったはずの魔法少女達が出現していた。

結奈と樹里の近くにはアオとひかる、そして結奈の先輩が出現した。

その姿を見て、弱々しく樹里の膝の上に頭を乗せていた結奈がつぶやいた。

「あら、もう迎えがくる頃だったかしら」

「縁起でもねぇこと言うんじゃねぇ」

そんな2人を見守っていた博のところへ咲とツバキが戻ってきた。

「博!なんともなかったか」

ツバキがそう博へ話しかけると、博の後ろから1人の魔法少女が笑顔で顔をのぞこせていた。

「トドロキ!」

トドロキと呼ばれる魔法少女は三重崎の魔法少女のメンバーであったが、カレンとの揉め事で殺された魔法少女だった。

「ふむ、カレンは粋なことをしてくれたようだな」

博が1人で納得しているとツバキがトドロキへ抱きついて泣いてしまっていた。

質量はあるようで、トドロキはツバキを受け入れることができていた。

「今はあの世と近いってことか?」

「いや、魔法少女はあの世とか言う概念なく漂っているだけじゃないのか。

幽霊みたいにさ」

「幽霊ねぇ。一体何千年分の魂が溜まっているんだか」

ペンタゴンの屋上では空を見上げていたかこの近くにななか、あきら、美雨が現れていた。

自分が作り出した再現ではないとわかった瞬間に、かこはななかの手を握り、膝をついて泣きながら懺悔した。

「ごめんなさい。私が弱かったばかりに皆さんを・・・
ごめんなさい・・・」

3人は優しい顔でかこの頭を撫でるだけだった。

そんなかこの様子を眺めていたジーナの近くには、同じく魔法少女になって魔女化してしまったジーナの妹が現れていた。

「なんだよ、あの時と同じ大きさじゃないか。

お前を魔法少女にするべきじゃなかったのに、悪かったな」

ジーナの妹は不安そうな顔をしていたが、首を横に振った後に満面の笑みを浮かべた。

「励ました気か?ありがとよ」

 

ペンタゴンの外まで来ていたカルラとイザベラは大きなペンタゴンの残骸付近にいた。

カルラはイザベラを残骸に寄りかかるよう座らせて、イザベラがつけているインカムを外して近くに投げ捨てた。

その瞬間にイザベラの頭には希望を願う魔法少女達の声が聞こえてきた。

「何が、起こっているんだ」

意識が朦朧としているイザベラの近くには半透明な魔法少女が立っていた。

その姿は黒髪で白人にしては鼻が少し低め、イザベラと同じく目はこげ茶色だった。

そして声が聞こえてきた。

「もう、ここまでめちゃくちゃにしちゃって悪い子ね。

でも私はイザベラを否定しないよ。よくここまで頑張ったね、えらいえらい」

「誰の声だ?」

イザベラは声がした方向にいる半透明な魔法少女の顔を見ても誰なのかはわからなかった。
しかしその声と漂う魔力からは懐かしさを感じていた。

そんな2人を横目に見ていたカルラは半透明の魔法少女へ話しかけた。

「言葉を伝えられるのはお前だけか」

カルラの問いに反応して半透明な魔法少女が反応した。

あなたは声を伝えるべきっていう円環の理とカレンからの粋な計らいだよ。

イザベラがお世話になっております」

「円環の理か…
それにしてもこんな結末で褒めるとは、母親としてどうなんだ」

「あら、長く生きているのに何も変えられなかったあなたが言うこと?
人を変えようと一生懸命足掻いたイザベラの方がましじゃないかしら」

「知ったような口を利くじゃないか」

そう話している間にキュゥべえがカルラ達に追いついた。

「やっと追いついた。

イザベラがまだ生きているようで助かったよ」

「何をする気だ」

カルラがそう聞くと、ディアがいつも見せていたような悪い笑顔でキュゥべえが答えた。

「それはもちろん」

キュゥべえがイザベラの顔を見ながら問いかけた。

「イザベラ、僕と契約して魔法少女にならないかい?

君ほどの因果量であればこの状況を覆すことが可能だろう」

「この期に及んで貴様は」

カルラはそう言って呆れている中、半透明な魔法少女は不安そうな顔をしていた。

イザベラはアンチマギアと失血によって意識が朦朧としている中、右手で拳を作り、鬼のような形相で答えた。

「ふざけるんじゃない。

人類史は人類自らが作り替えたり覆すからこそ意味があるんだ。

魔法少女なんて力、死んでも借りる気はない!」

「やれやれ。

シャルロットからも娘であるイザベラを説得してくれないか」

「私がそんなことをするわけないじゃないの。諦めなさい」

「人間の親子というものには絆というものがあるんじゃないかい?

それならなおさら」

カルラは空を見上げながらキュゥべえへ話しかけた。

「そこまでだインキュベーター。今後もお前を見張らないといけないことはよくわかったよ。

お前達的には今の状況をどうも思ってはいないのか」

キュゥべえはカルラの隣まで移動してから話しかけた。

「やりようがなければ必死にイザベラを止めていただろうね。

でも今は日継カレン達がどうにかできるという期待があるから焦るべきことではない。

彼女達には実績があるからね。君の友人であるキミアを葬ったのはこの力だよ」

「そうか、キミアに対してこんなことがされていたのか」

「希望を集めて願いを実現させる力、そりゃ興味が湧くよ。

個体数がいれば念密に観察を行いたかったよ」

「だが、今回はどうだろうね」

カレンはペンタゴンの中庭で踊り続けていて、扇で波を描くようにその場をくるくる回っていた。

カレンの体は青白く輝くようになっていて、カレンを通して地上の輝きが空へと流れていた。

そしてついに核ミサイルのカウントがゼロとなり、全世界の核を搭載したICBMやミサイルが空に向かって打ち上げられた。

カレンは天高く扇を掲げて願った。

「核兵器や放射能による被害を、この世界から打ち消して!」

その願いは世界中の魔法少女達にも伝わり、天を漂っていた希望の光は地球全体を包み込んだ。

地球を包み込む光は全てカレンを通して形成されていった。

カレンの体からは青白い粒子が空へ飛んでいくようになり、カレンの両方手の甲にある宝石は静かに砕けていってその破片はカレンを包み始めた。

無情にもICBMは空高くへ飛んでいき、外気圏へ突入した。すると軌道が修正される前に次々と外気圏でミサイルが爆発していった。

爆発した後は爆風や放射能が周囲に広がる前に黄色い光が包んでいった。

次々と核の爆発を包んだ光球が形成されていき、それらを魔法少女達は固唾を飲んで見守ることしかできなかった。

地上には上空からピンク色に輝く羽根と共に黄色い光が落ちていき、地上にたどり着くと波紋を生んで消えていった。

これによって核汚染された地域の放射能が次々と安全値まで減少していった。

原子炉や原子力発電所では反応が止まっていき、反応寸前までは推移するものの核分裂した瞬間に光に包まれて放射能も熱も生まれなかった。

空はすべての核を搭載したミサイルが外気圏で炸裂するまで、太陽が近くにいるかのような眩しさに包まれていた。

半透明な魔法少女は反比例するように次々と地上から姿を消していった。

その様子を見ていたカルラは1人でつぶやいた。

「地上付近で起爆するものはなさそうだ。

放射能については調べてみないと確証は得られないが」

その呟きにキュゥべえが反応した。

「彼女達の願いは実現されているだろうさ。

そうじゃなければこんな奇跡自体が発生しない」

「お前達がやっている願いを叶える方法と近いということか」

「希望を消費しているから僕たちとはプロセスは違う。だが願いが叶うまでの流れは同じと言っていいだろう。

彼女達の願いは地球付近だけだが概念を書き換えた。

人間がここまで僕たちに近づいてしまうとは、驚いてしまうよ」

「そうか」

「こんなことはこの世界の概念にとらわれないカレンの能力だからこそ成し得た結果だろう。こんな逸材を残し続けたキミアには感謝しないとね。
カレンは自分の能力を神楽と呼んでいたし、まさに今回の奇跡は
カグラマギカ
と呼ぶべきかな」

「概念にとらわれない能力か」

カルラは心の中でつぶやいた。

キミア、お前はいつも回りくどいが最良の結果を導き出してきた。

魔法少女にこの星を任せるべきというお前の仮説は、今目の前で立証されたよ。
この世界は魔法少女を中心に変わっていくことだろう。
まったく、お前が弟子を取るのは意外だったが、この結果を見て納得だ。

だがお前が死ぬ必要はあったのか?おまえ自身が立証のための生贄とならなくてもよかっただろうに。

いつも結果が出た後の後始末を私に押し付けてきたが、今回お前が死んだのはそのつもりだったからなのか?

まあいい、仕方がないからこの星の行く末は見守ってやるよ。

なんだか隣でキミアが私に向かって得意げな笑顔を見せた気がした。

気のせいだろう。あいつは魔法少女じゃない。今は煉獄で彷徨っている頃だろう。
私はいつお前の所へ行けるんだ?

 

空の光球が全て消えてしばらくすると、空を覆っていた輝きは薄れていって天の川のような一筋の光が土星にある輪のようになって、上空をゆらゆらと揺れるだけになった。

動けるようになったかことジーナがペンタゴンの中庭へ行くと、そこには仰向けに倒れて動かない変身が解けたカレンがいた。

近くには2色の砕けたソウルジェムが落ちていた。

「カレンさん!」

かこがカレンに近寄って体を持ち上げると、死体を持ち上げた時のように硬直していた。

「そんな!カレンさんのソウルジェムは」

「こいつのソウルジェムがどこかなんて誰も知らないよ。指輪さえ見たことないし」

ジーナが冷静に答える中、かこはカレンの名前を呼び続けた。

「カレンさん!勝手に死ぬなんて許さないですからね!

目を開けてください、カレンさん!」

 

目を開けているのか閉じているのかもわからない真っ暗な空間にいた。

自分の体が見えるまで首を下に向けても真っ暗で何も見えない。

一体ここはどこなんだ。

そんな空間で小さな光が現れた。

ひかり…

進んでいるのかわからない中、カレンは小さな光を目指した。

今は死にたくない理由を見つけたんだ、その光が変化をもたらしてくれるのか。

小さな光からは小さく声が聞こえてきた。

「…さん、カレンさん!」

私を呼ぶ声が聞こえる。

助かるのか?

ピリカ、シオリ、お前達は。

そう思った時、カレンの背中を2人が押した。

押された勢いでカレンは小さな光に接触した。

 

カレンは長い夢から覚めたかのような感覚でその場で目を覚ました

目の前にはカレンを抱えているかこと心配そうに見つめているジーナがいた。

「カレンさん!」

「大丈夫大丈夫だ聞こえてるよ。世界の方は無事か」

「お陰様でな。それで、残りの2人は」

カレンはソウルジェムの中を探ったが自分の魂しかなかった。

「あいつら、私のために」

「まさか、消えたのか」

ジーナにそう聞かれた後、カレンは近くに砕けていた2色の宝石の破片をいじった後に答えた

「…綺麗さっぱり消えたみたいだ。

これはしっかり生き残らないとあいつらに申し訳ないな」

「そりゃな。

お前が生きていないと生き様を失うのがたくさんいるからね。

しっかり生き残ってくれよ」

「ふん、どんとこいさ」

カレンは夕日で照らされた空をしばらく見上げた。

「この世界を救えたで、いいんだよな」

いつの間にか天から降っていたピンク色に輝く羽根は消えていて、天からは黄色い光が少し降ってくるだけになっていた。

カレンは魔法少女姿に戻り、かこ、ジーナと共に魔力を頼りにイザベラを探した。

3人はイザベラ、カルラ、キュゥべえがいるところまでたどり着いた。

「外まで出てきていたのか」

「ことの顛末を見守る必要があったからね」

カルラがそう答える中、イザベラは動かなかった。

「こいつ死んだのか」

ジーナがそう言うとイザベラが弱々しく口だけ動かした。

「残念ながら生きているさ。

でももう目が使い物にならない上に体まで動かないときた。

私達は、負けたのか」

カレンはイザベラの前に立って答えた。

「そうだ。お前達人類は核なんてものを持ち出しても魔法少女の奇跡にねじ伏せられたんだ。

負けを認めろ、サピエンスのイザベラ」

「そうか…。

ならば潔く殺したほうがいいんじゃないかな」

「いいや、お前には生き続けてもらう。

何もできず生き続けることは、死よりも辛いものだ。

と言うことで、自分のやってきたことを精算するまで魔法少女に尽くしてもらうよ

「それは…嫌だね!」

イザベラは動けないと言っていたはずの左腕を瞬時に動かしながら指先をカレンがいる方向へ向け、袖から手のひらサイズの拳銃が飛び出してきた。

イザベラが引き金に指をかけようとしている中、周囲のメンバーは驚いて動き出そうとしていた。

しかしイザベラが拳銃の引き金を引く前にイザベラの左手付け根がカレンの糸で切り落とされた。

「こうもあっさりとは」

イザベラの左手からは数滴の血しか流れ出ず、イザベラの体は糸が切れた人形のように重力に任せて倒れた。
イザベラからは既に魔力を感じられなくなっていた。

「死んでしまいましたか」

かこの言葉にカルラが反応した。

「一矢報いるためにずっと魔力を使って意識を保っていたのだろう。

魔法少女を殺そうという執念だけは最後まですごいと言えただろう

「で、お前はどうだ?

サピエンスの責任者はお前だけだろ?」

ジーナの問いにカルラは両手を挙げて答えた。

「降参だ。この星の管理権は魔法少女に委ねるよ。

それで人類をどうするつもりだ?」

「人類にはこの星を出ていってもらう。

そのためにも、師匠の友人であるあなたには手伝ってもらう」

「やれやれ、弟子にもこき使われるとはね」

カレンはジーナとかこを見た後に言った。

「さて、これからも忙しくなるぞ」

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-10 終の引き金

中華民国のアンチマギア生産工場の地下にいたメンバーへも自動浄化システムが世界に広がった話は伝わっていた。

「もう、魔女になる仲間はいないんだね!」

「でも怖いことに変わりはないよ。魔女の代わりにドッペルっていうものが出るんでしょ?
自我を持ち続けられるのか不安だよ」

「だったら私が試す…。

もうグリーフシードもないんでしょ」

そう言って穢れが満ちそうな魔法少女が地上に繋がる道へ歩き始めた。

その通路からは先走って地上へ出ようとしたメンバーがサピエンス部隊の攻撃を受けていた。

穢れが満ちた魔法少女はサピエンス部隊の目の前でドッペルを出した。

ドッペルは主人を白い布で覆い、サピエンス部隊へ突撃した。

サピエンス部隊は魔法少女相手に使っていた銃のまま銃弾をばら撒いたが、ドッペルに傷はつかなかった。

「結界がない。話にあった魔女のようなものを出す現象か」

そう言って部隊メンバーが魔女用の銃を取り出している間にドッペルが通った跡から白い腕が何本も生えてきた。

細い通路だったこともあり、外への階段へつながる道がドッペルに防がれて通路に侵入した隊員全員が白い腕に掴まれることになった。

白いドッペルはただ道を見つめるだけで、白い腕は次々と隊員の四股や頭を掴んで引きちぎろうとしてきた。

隊員たちは銃や剣を使用して白い腕を引き剥がそうとするが、白い腕はびくともしない。

「なんで魔女用の銃もダメなんだよ!」

何もできない隊員達は次々と悲鳴を上げながら各部位を引きちぎられて行った。

1人の隊員がアンチマギア製の剣で白い腕を刺すと貫けはしたものの、動きを止めることは出来なかった。

横へ振り払って白い腕を切ることができたとしても、すぐに再生して顔を掴んできた。

隊員の一人が、地上にいるメンバーへ通信で伝えた。

「地上部隊は入らず逃げろ!敵うはずが」

その後すぐに潰される音と肉が床に落ちる音がした。

地上にいる隊長は地下の様子を察し、サピエンス本部へ連絡を行った。

「本部、魔女を出す魔法少女が出た!あれはカミハマ限定ではないのか!」

通信を受けたダリウス将軍は冷静に答えた。

「イザベラが冗談で言っていたことが実現したんだろうさ。

魔女を出す魔法少女へは既存の武器では対抗できない。その場から逃げ出せ!」

「なんだと?!」

「逃げ出して避難民の救助を優先しろというんだ。それが嫌なら立ちはだかって死んでこい」

「何を言うんだ。勝って終わらねば意味がないだろう!」

そう言って中華民国を担当している隊長は回線を切った。

その後、瓦礫の中から亀の姿をしたドッペルが出現し、サピエンス部隊を押し潰すために飛び上がった。

隊員達は急いでその場から逃げてアンチマギアの手榴弾を投げつけた。

手榴弾を確かに受けたはずなのに亀のドッペルはアンチマギアをモノともせず、サピエンス部隊へ突撃してきた。

持ち込んでいた衝撃砲をチャージした一撃でやっと怯んだが、そうしている間に別の瓦礫の下から蛇の姿をしたドッペルが主人と思われる魔法少女の体を舌で巻き取った状態で現れた。

周辺にいた国連軍が戦車を持ち出してドッペルへ攻撃を仕掛けようとした。

中華民国担当のサピエンス部隊のリーダーは急いで国連軍へインカムで構わないよう言いつけた。

それでも国連軍はドッペルへ戦車の砲弾を発射した。
しかし砲弾をまともに食らっても、ドッペルはびくともしなかった。

蛇のドッペルは背びれを頭部へ移動させて鋭利な刃物へ変化させた

その刃物は振動しながら赤い粒子を放ち始め、その状態で蛇のドッペルは戦車へ突っ込んだ。

99式をさらに発展させた100式試験型が相手をしていたが、その装甲は容易く斬り裂かれてそのままエンジンまで破壊された。

爆炎が上がる中、蛇のドッペルは目を光らせて他の戦車も貫き始めた。

周囲にいる兵士たちには尾で薙ぎ払うだけであっさりと殺していった。

中華民国担当のサピエンス部隊のリーダーが唖然としている中、次々と瓦礫の中からドッペルが出現してきた。

「探査を行った際に反応した数と一致しています!」

ソウルジェムを入念に破壊しろと言っていたのはこのためだったのか…」

「隊長!こんなの抗ったって無駄ですよ!」

中華民国担当のサピエンス部隊のリーダーの隣で報告を行った隊員はそう言った後にその場から逃げ出した。

「逃げるな!戦え!このままでは人類は」

うわぁああああああ!

リーダーの周りで隊員たちが次々とドッペルに殺されていった。
ついにはリーダーもドッペルたちに囲まれてしまった。

「化け物どもがーーーー!」

中華民国担当のサピエンス部隊のリーダーは叫びながら効果のない銃をドッペルへ向けて撃ち続けた。

弾を受けていた亀のドッペルはリーダーの前で右足をあげ、動こうとしないリーダーをその場で踏み潰した。

 

サピエンス本部ではドッペルの脅威について各地からの報告を聞いて十分に把握できていた。

ダリウス将軍は全ての部隊へ撤退を呼びかけていた。

そんな中、ディアが守っていた通路が突破されたという連絡が入ってきた。

ダリウス将軍は本部の全員へ伝えた。

「皆シェルターへ避難しろ!この本部は放棄する」

それを聞いた本部のメンバーは全員驚いた。

「どういうことですか!人類の負けを認めるというのですか!」

「この結果を見てそう判断できないならば何を期待している。

ドッペルというものはアンチマギアでさえ相手にしない。対ドッペルとして用意されたものもほとんど用意されていない。

人類の限界を認めるしかあるまい」

「持久戦ともいかないのですか」

「ドッペルは穢れを浄化すると共に発生する化け物だ。ジリ貧になるのは人類だ。だから言っているのだよ」

そう話している間にディアが守っていたはずの通路から3人の魔法少女が現れた。

そして本部全体へこう伝えた。

「死にたい奴は銃を向けろ。

生きたい奴はさっさとここから失せろ!」

魔法少女達へダリウス将軍はすぐに拳銃を向けた。

「将軍!」

「何度も言わせるな!全員地下のシェルターへむかえ!」

 

イザベラのいる空間では、イザベラが演説をしている間にかこはピリカのソウルジェムをカレンへ渡した。

そしてドッペルを使えるようになったと聞いて、真っ先に試したのはかこだった。

[従者を止めるので本命を皆さんでお願いします]

そうテレパシーで伝えてかこはドッペルを着込んだ。

周囲には結界が広がり、その結界はキアラのみを巻き込んだ。

「キアラ!」

「自分の心配をしたらどうですか」

そう言ってカレンの体は右手を天井に向けた。

「イペタム!魔法少女たちに希望を!」

そう唱えるとカレンの右手には禍々しく紫色に光る刀が出現し、カレンの服は赤紫色に変化した。

イザベラは弾薬を変えるのではなく、新たにコンテナから別の銃を取り出した。
元々持っていた銃は腰に差した。

カレンは何も言わずイザベラへ斬りかかった。

 

キアラの方は結界内で姿が変わったかこと対面していた。

「あなたには主人が倒れるまでここにいてもらいます」

「その気はないよ」

見えないほどの速さでかこに詰め寄ったキアラは対ドッペル用の刀で斬り伏せようとした。

かこは裁ち鋏で防ごうとしたものの、あっさり粉砕されてしまった。

「こうもあっさりだなんて」

「ドッペルにはしっかり効果ありか」

かこが再び裁ち鋏を出現させてキアラは刀を振り下ろしたが、今度は裁ち鋏は壊れず、刀を挟んだままにできた。

「なんだと!」

「少々その武器は正直すぎるようですね。魔力の比率を変えただけでこうとは」

「便利なんだな、ドッペルというものは」

キアラは刀を手放して腰にあるクナイを持ってかこの脇腹を狙った

そこに結果内を飛び回るモモンガが飛び出してきてクナイを代わりに受け止めた。他のモモンガも飛び出してきて、キアラの行手を阻んでしまった。

キアラがしばらくその場から動けずにいると、刀が落ちるカランという音が聞こえた。

キアラは急いで音がした方向へ向かい、刀を拾って駆け抜けた。

刀があった場所へかこは裁ち鋏を突き刺したが、キアラを捕えることはできなかった。

「イザベラの思惑通りなのは解せないが」

そう言ってキアラが腰にある射出装置のボタンを押すと、左右につけているクナイの射出装置が前を向いて結界の壁目掛けて射出された。
このクナイにはイザベラが結界へ穴をあける際に使用する魔力を充填した魔法石が装飾されていた。

射出されたクナイが結界に触れると穴が空いた。キアラはすぐにそこから脱出した。

キアラが結界から出た後の光景は、イペタムを持ったカレンと背中から水色のチューリップを出すジーナに詰められている様子だった。

遠くでは中東の魔法少女が立ちあがろうとしていた。

イペタムを受け止めたイザベラは違和感で一瞬だけ動きを止めた。

おかしい、魔力を放っているのにアンチマギアで打ち消すことができていない

その一瞬でもカレンは中の人物が入れ替わったかのように力任せの正直な重い斬撃に変わり、キアラよりも見えない動きを見せてきた。

イザベラはそれらを全て受け流すことをできているが、キアラの様子を確認する余裕はなくなっていた。

イザベラとカレンによる一進一退の見えない動きが目の前で繰り広げられている中、ジーナがカレンの応援に入ろうとチューリップの先端からイザベラに向けて氷のブレスのような吹雪を放った。

それは床を凍らせながらイザベラとカレンの周囲を凍させた。

イザベラが移動しようとする先を中東の魔法少女がライフルで狙っていた。

動けない状態だったキアラも流石に動いてイザベラと中東の魔法少女の間に立った。

「キアラ!その程度か!」

背中からイザベラの怒鳴り声が聞こえてきた。

「片腕動かない人間に無理を言うじゃないか。

でも私はイザベラの従者だ!」

そう言ってキアラは見えない速さでジーナに詰め寄り、刀で瞬時にチューリップを切り落とした。

痛覚が共有されているのかジーナが頭を押さえている中、キアラがジーナを斬ろうとするが中東の魔法少女の銃弾で止められてしまった。

さらに横からかこが召喚したななか達の幻影がキアラに襲いかかり、キアラはジーナから離れてイザベラの側へ戻った。

「呼吸を合わせないと厳しすぎる」

「キアラが合わせなさい」

「全く、テレパシーが使える魔法少女が羨ましくなってしまうよ」

「なったら背中から撃ち殺してやるよ」

そう言ってイザベラはサブマシンガンを左手に持ってカレンへ突撃した。

カレンはそれをイペタムで迎え撃とうとしていると、横にはいつの間にかキアラがいて斬り上げようとしていた。

カレンの周囲にはその辺に散らばっていた鉄塊が浮かび上がり、鉄塊はイザベラの方へ密集し、カレンはキアラの斬撃をイペタムで受け止めることに専念した。

イペタムは対ドッペル用の刀では粉砕されず、見えない糸でキアラの動かない左手を斬り落とそうとするとイザベラがサブマシンガンで糸を切ってきた。

「片手で無理しますね」

カレンはイペタムでキアラの左目や耳を狙うようにした。

キアラは狙いを察知したのか避けることに専念するようにした。

この間にイザベラはかこが召喚した幻影を刀で軽くあしらい、動けないジーナへ銃弾を放っていた。

そんなジーナの前へかこが立って裁ち鋏で銃弾を防いでいた。

[ドッペルを切られただけで座り込まないでください]

かこにテレパシーで伝えられたジーナはかこを睨みながらテレパシーを返した。

[無理言うんじゃないよ。ドッペルがこんなに心を侵食してくるものなんて]

[セルディさんは]

そうテレパシーで尋ねられた中東の魔法少女 セルディはライフルでイザベラを追いかけながらテレパシーを返した。

[レイラ達がみんなやられたのに穢れが満ちる気がしないよ。

援護したいけど、動きが見えないんだよ]

[ジーナさんの言うとおり、使い慣れていないならばドッペルは使わないほうがいいですよ]

[ドッペルに関しては神浜の奴らが上手か。少し考えを改めたよ]

[褒めても態度は変えませんよ。早く起き上がってください。カレンさんの援護ができないです]

とはいえかこでもカレンとイザベラの動きは捉えられずにいた。

イザベラが無意識に出す魔力のおかげで、かろうじて動きを予測できてはいた。

カレンは右手に持ったイペタムをカレンから見て右側へ投げた。

キアラは目線を変えることなく、左手に用意された握り拳に警戒していた。

予想通りカレンの左手はキアラの腹を殴ろうとしていた。

しかしキアラから見た左側からカタカタと言う音が鳴って投げられたイペタムが刃を向けてキアラの心臓向けて飛んできていた。

「世話が焼けるね!」

そう言ってイザベラは持っていた刀をイペタムの先端へぶつけた。

イザベラとイペタムが拮抗している中でキアラはカレンのパンチを避け、追撃で飛んできた回し蹴りも後ろへ回転して回避した。

カレンは試しにイザベラの首へ糸を絡めようとした。
しかし不思議な力で首に触れる前に糸は力なく消え去ってしまった。

見えないがアンチマギアのシールドは張っていたか。

キアラにはかことセルディからさらに追撃が飛んできた。
キアラはさらに後ろへ回避した

「迂闊だキアラ!」

そう言われた頃にはジーナが再度ドッペルを出して、イザベラとキアラの間に吹雪が発生した。

今度は床を凍らせるだけではなく氷柱も出現してキアラの行く手を阻んだ。

さらに氷柱へ赤いリボンが結ばれていき、キアラが壁を破壊しようとしても赤いリボンに弾かれてしまった。

イペタムは後ろへ引き、カレンの左側へ回るとなんとカレンの左腕を根本から切り落としてしまった。

その腕を掴んでカレンは右腕でイザベラへ左腕を叩きつけた。

イザベラへは血が降りかかり、左目が血によって開いていられなくなった。

カレンは左腕を捨てて右手に残っていた鉄パイプを持ち、イザベラの左側へはイペタムが移動した。

イザベラは右目だけを開いてカレンへ銃弾を放つが鉄塊に塞がれて刀を振ると何故かカレンは鉄パイプで対抗し、鉄パイプは真っ二つになった

カレンは恐れず右手を伸ばし、刀で骨まで見えるほど抉られたにも関わらず糸で瞬時に補強してイザベラが刀を持つ左手を掴んだ。

イザベラは驚いて左目を開けてしまい、左目にはカレンの血が行き渡った。

その目が見たのは、切り落とされたはずの左手から紫色のモヤが放たれ、それはすぐに手の形となってイザベラの腹をとらえた。

カレンの左手が再生したと同時にイザベラの腹には衝撃波が放たれた。

これは再生した左手でカレンがイザベラを突き飛ばしただけだが、再生仕切る前だったためか第三者からは衝撃波が発生したように見えていた。

流石のイザベラも何が起きたのか理解できず、気づけば自分の左手を掴んでいたはずのカレンの手にはマグナムが握られていた。

イザベラは必死に体へ呼びかけて右手に持つサブマシンガンの引き金を引いた。

カレンは鉄塊によって守られ、一部鉄塊の破片がほほを掠ってそこから血が出た。マグナムから放たれた弾丸はアンチマギア特有の赤紫の弾頭を光らせてイザベラの右脇腹を抉った。弾丸は貫通せずにイザベラの脇腹へとどまった。

これでもカレンの照準からは外れていて、本来は心臓を撃ち抜く予定だった。

急所は避けられたものの、回避できなかったのは人間としての限界であった。

イザベラには遅れて身体中に痛みが行き渡り、初めてアンチマギアを飲んだ時のような吐き気と悪寒が襲ってきた

さらには体を逆流して血が口から流れ出した。

イザベラは体を震わせながら床に倒れて、床へ血を吐きだした。

「敵への有効手段が自分の弱点とは、兵器利用に持ち出すのは浅はかだったのではないか」

氷柱に阻まれていたキアラは氷柱の隙間に思いっきり刀を突き立て、その反動で上へ飛び上がって壁を越えた。

目には必死に体を動かしてカレンへ銃を向けようとする倒れたままのイザベラが映った。

「イザベラ!」

キアラはイザベラの前に立ってセルディから飛んでくる弾丸を刀で防いだ。

カレンは銃を向けたまま撃とうとはせず、セルディは構わず何発もイザベラへ撃ち込んでいた。

キアラが弾丸を弾いているうちにイザベラはゆらゆらと立ち上がった。

「アンタ本当に人間か!」

セルディは思わずそう言葉を放って攻撃を止めてしまった。

キアラは床へ刀を突き刺し、左手首についた端末を操作してなんと本部へつながる扉を開けた。

イザベラは何かを言いそうであったがそんな暇を与える間もなく、キアラはイザベラの首根っこを掴んで本部へつながる通路へ投げ入れた。

通路へイザベラが転がったことを確認すると、再び手首の端末をいじって再度扉を閉じた。

扉はアンチマギア製に変わっており、自動ロックされる音がした。

「キアラ!どういうことだ、制御できないはずなのに。それに」

扉の向こうからイザベラの声が聞こえる中、キアラはイザベラが落としたアンチマギア製の刀を拾い上げた。

「情けない声を出さないでくれ。イザベラらしく堂々と命令したらいいじゃないか」

「さっさと開けろ!私はまだやれる」

「バカ言うんじゃないよ。

脇腹撃たれてまともに目の前にいる魔法少女を相手できるのか」

「それはキアラも同じだろ!」

「人類に大事なのはイザベラだ。

私はただの従者。従者らしく見事に主人の逃げる時間を稼いであげましょう」

「そんなのいらない、キアラ!」

ここでキアラはインカムの接続を切って指だけはかろうじて動く左手で対ドッペル用の刀を拾った。

イザベラは扉を開こうとするがアンチマギアが塗布されていて触れただけで体に痛みが走った。

「ここの割り込み処理なんてカルラにしかできない。

何もかも邪魔して」

そう言いつつイザベラは脇腹に応急処置用のゼリー状止血剤を脇腹に押し付けた。

止血剤はかさぶたのように周囲から肌へ馴染むように硬くなっていき、銃弾の穴を塞いだ。

「ふっ、サピエンスを用意しても人類はここまでか」

イザベラはゆっくりと本部へ向けて歩き出した。

「キアラ、お前が死んだら私は」

そう言いながらイザベラは叔父が対核シェルターにいることを端末で確認した。

「躊躇する要素はすべて消える。

試してやろうじゃないか、その希望で人類の大罪に立ち向かえるのかをね」

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-9 舞台装置が正位置となる時

ドッペル対策で用意された刀をカレンに奪われ、キアラはアンチマギア製の刀を右手で握り、どう取り戻そうかと考えていた。

しかしカレンの周囲では魔力の籠った鉄パイプが3本も浮いていて、自分の対処できる許容範囲を超えていることを理解はできた。

やりようがなく動けない中、イザベラのいる方向から魔法少女の悲鳴が聞こえた。

カレンとキアラは驚いてその方向を向くとイザベラの周囲には魔法少女達が倒れており、ジーナの利き腕を握りつぶそうとしているイザベラがいた。

「ジーナ!」

「キアラは何やってるんだ!」

そう言ってイザベラはジーナの裾を掴んでカレンへ放り投げた。

カレンはジーナを受け止めるのではなく避けてジーナとイザベラの間へ立つように刀でガードの態勢に入った。

イザベラはサブマシンガンの銃口をカレンへ向けていて、引き金を引き続けながらキアラの方向へ歩いて行った。

カレンはジーナを庇うように刀で銃弾を防ぎ、防ぎ切れない分は周囲に浮かんでいた鉄パイプで防いでいた。

イザベラはカレンの前に立ち、カレンへ銃口を向けながらキアラへ話しかけた。

「さっさと立て、それでも私の従者か」

キアラは気が緩んでしまったのか、思わず弱音を吐いてしまった。

「あれは他と違う。目の前に1人だけのはずなのにわたしの四方を囲うような気配に包まれている感じがした。

あの中に何人いるんだ」

「弱音を吐くなと言いたいところだが、あいつ相手は荷が重すぎると認めるよ」

そう言ってイザベラはカレン目掛けて突撃した。

カレンはただ棒立ちするようにし、イザベラの突進後のアクションに備えた。

イザベラはサブマシンガンからカチッという音を鳴らした後に魔法少女達が倒れている方向へ投げた。

その後イザベラの右袖からは鉄製の鞭がニュルリと姿を見せた。

「ジーナからがめったか!」

イザベラは表情変えず鞭を操り、カレンを拘束しようとした。

しかしその先端はカレンが刀を持つ方向を向いていて、刀をどうにかしたいことは感づけた。

カレンは試しに刀で鞭を切り落とそうとするが、鞭と接触して火花をあげるだけで切り落とすことはできなかった。

「どんだけ鈍なんだよこれ!」

「斬る相手が違うんだよ!」

イザベラは左手にナイフを持ってさらにカレンを壁へ追いやろうとした。

それでもカレンの腕力が強めなのか、刀の威力に押されてイザベラの思う方向へカレンは誘導されずにいた。

テレパシーが使えない中、浮いている鉄パイプがカレンの背中を3回叩いた。

シオリが伝えたいことはわかった。

3歩ならまだ余裕はあるな。その前にやれることはあるだろう。

浮いている一つの鉄パイプがイザベラの投げた銃の方へ飛んでいき、銃の引き金部分を破壊した。

「ドローンみたいな付属品が厄介だね」

イザベラがそう言った後、別の鉄パイプはイザベラの背後に回って首を殴ろうとした

イザベラは急にその場で回り始め、勢いに任せて背後にある鉄パイプを左手のナイフで叩き落とした。

アンチマギア製のナイフであったため鉄パイプは制御を失ってそのまま転がってしまった。

鞭はイザベラを囲うような挙動をした後、イザベラは回転をやめて鞭を地面へ叩きつけた。
その後、鞭は地を這う大蛇のようにカレンの左足を狙った。

「まさか魔力を!」

「誰が魔力なんて使うか!」

刀でその鞭を防ぐと、目の前にはアンチマギア製のグレネードが飛んできた。

カレンが焦った顔をしていると周囲に飛んでいた鉄パイプがそのグレネードを打ち返そうとした。

しかし接触式だったのか鉄パイプが触れた瞬間にその場で爆発し、残り一本の浮かんでいた鉄パイプがカレンの前で回転したことで破片がカレンへ当たることはなかった。

アンチマギアの霧でイザベラが見えない中、アンチマギアの影響を受けて魔力で浮いていた鉄パイプが地面へ落ちると、その音を合図にアンチマギアの霧の中からイザベラが飛び出してきた。

「こいつ!」

イザベラは目から血を流しながら右腕に持つ鞭で薙ぎ払うと、それをカレンは刀で防いだ。
イザベラは間髪入れずに右手に持つアンチマギア製のナイフでカレンの左腕を突き刺した。

左腕に激痛が走って苦しみながらも、カレンはイザベラへ問いかけた。

「お前もアンチマギアの影響を受けるだろうに!」

「それがどうした。

全て魔力で動かしているお前達と比べたら軽傷だよ」

そう言いながらイザベラはナイフを下側へ移動した。そのままだと左腕ごと引きちぎられそうな勢いだった。

「返してもらうぞ!」

そう言って腕力を失った左手からイザベラは刀を奪い返した。

「そしてその命も奪わせてもらう!」

そう言ってイザベラがナイフをカレンの左手の甲にある宝石目掛けて振り下ろした。

「したっけ勝てるかい!」

そう言うとなんとカレンの左腕が動き、イザベラの右腕を掴んだ。

骨を砕かれると思ったイザベラは急いで右腕の鞭を手放し、ナイフでカレンの左腕を追い払った。

カレンにナイフが当たることはなく、カレンはゆっくりと鞭を拾い上げた。

イザベラは後ろに下がりながらカレンへ話しかけた。

「何故だ、アンチマギア製のナイフで神経まで到達したはず」

「腕の動かし方にも色々あるってことだ」

イザベラは、微かにカレンの左腕に糸のようなものが見えた。

「なるほど、できるじゃないか」

イザベラはキアラの前に奪い返した刀を突き刺し、キアラからアンチマギア製の刀を奪った。

「あいつを殺すまでだ。あまり気にするな」

そう言ってイザベラはアンチマギア製の刀の柄部分にアンチマギア製のナイフを包帯で巻きつけた。

イザベラは刀を持った状態でカレンへ再度突撃した。

止血のために左腕の根本を糸で縛り付けていたカレンは急いでその場から離れた。

イザベラはそのままの勢いで倒れているジーナへ斬りかかろうとした。

「そうやって!」

カレンは糸を出してジーナや他の倒れている魔法少女達を巻き取り、キアラの近くへ飛ばした。

そしてカレンは鞭でキアラを叩きつけようとした。

キアラは対ドッペル用の刀を引き抜く勢いで鞭を打ち返した。

さらにカレンが鞭で攻撃を加えようとすると、後ろからイザベラが迫ってきた

カレンが鞭で対抗しようとしたものの、鞭をアンチマギア製の刀があっさりと斬り落としてしまった。

「切れ味が違いすぎる」

「適材適所ってやつさ!」

刀を振り上げたイザベラはそのまま柄の部分に縛られたナイフでカレンを突き刺した。

カレンは躊躇なく左腕で受け止め、勢いで床に倒れてしまった。

そのままイザベラに体を踏みつけられてしまい、カレンはイザベラの足をどかそうとするものの何故かイザベラはびくともしなかった。

「なっ!」

「しまいだ!」

頭上では対魔法少女用の刀が、イザベラによって振り上げられていた。

[まさか、殺されるのか]

カレンは心の中でそう思った。

イザベラが刀を振り下ろそうとした時に大広間を閉じていたシャッターが大きく歪み、声が響き渡った。

「アェヤム!」

イザベラの目の前には、歪んだシャッターを突き破って雷の槍が五月雨に飛んできた。
イザベラは命の危険を感じ、カレンへとどめを刺さずにカレンから離れた。

シャッターを吹き飛ばした存在は飛び上がり、カレンとイザベラの間に着地した。

そして立ち上がりながらカレンへ話しかけた。

「まったく、カレンはちょっとでも自分で対処してよね」

「ピリカか!」

[2人共に無事ですか]

使用できないはずのテレパシーが聞こえてきてカレン達は驚いた。

[夏目かこ、何故テレパシーが使える]

[ほんとだ使える!

カレンとコミュニケーション取れなくてヒヤヒヤしたよ]

[随分とボロボロにされたみたいだね]

様子を伺っていたイザベラは口で会話しようとしないカレン達を見て不思議に思っていた。

「増援が来たところで変わらない。

だがその妙な沈黙は、テレパシーが使えるのか」

「さあどうでしょうね」

ピリカがそう言うと、外から不気味な笑い声が小さな衝撃波と共に聞こえてきた。

「今度はなんだ!」

「この声、ワルプルギスの夜…」

ワルプルギスの夜というワードにイザベラは反応した。

「ワルプルギスの夜だと?魔法少女達で消したのではないのか。だとしたらこれは」

[速報速報!ワルプルガが無事に願いを叶えて魔女化することは無くなったよ!

みんな頑張ってね!]

突然聞きなれないテレパシーが聞こえて皆困惑していた。

「使えるようになったのか。ドッペルが」

「いったい何が起きているっていうんだ」

神浜では願いを叶えたワルプルガが魔法少女姿になっており、下半身部分はドッペルに変化していて舞台装置の魔女が頭を上にした状態で不気味な笑い声を世界中に発していた。

その近くでは魔法少女となった佐鳥かごめがアルちゃんを空に掲げ、世界中にドッペルが使えるようになったことを伝えていた。

ワルプルガの様子を見てヨーロッパの魔法少女達は唖然とすることしかできていなかった。

「ワルプルギスの夜ってこんなでかいやつだったのか」

「いや普通じゃない。普通は頭が下のはずだ。

たしか伝承では通常は逆位置状態で、正位置になった時に文明がひっくり返ると言われている」

「じゃあ、まさに今にぴったりじゃないか!」

ワルプルガを見ているほむらは別の感情を抱いていた。

何度も倒そうと試みてきたワルプルギスの夜が、今度は助ける側に回るだなんて。

この時間軸はおかしすぎる。

[でもこの世界ならまどかと自然と仲良く過ごせるようになるのね。

この答えに至ったあなたが羨ましいわ]

ほむらの中にいる謎の存在がほむらへそう語りかけてきた。

「そうね。このまま無事に全てが終われば」

 

二木市の魔法少女達が対抗している通路ではディア達が道を再度塞いだ中、衝撃砲が発射されていた。
わずかな隙間をぬって残ったメンバーは回避した。

十七夜は床にへばりつくことで回避したが、格闘形態に入ったディアによって顔を蹴り飛ばされてしまった。

「神浜の!」

ヨーロッパの魔法少女が十七夜へ声をかけると十七夜は受け身をとって少し体をふらつかせた。

蹴られた左目からは血が出ていた。

「右ではないから問題ない」

「しかしこれどうすれば」

そんな時にこちら側にも例のテレパシーが聞こえてきた。

[速報速報!ワルプルガが無事に願いを叶えて魔女化することは無くなったよ!

みんな頑張ってね!]

「今の聞こえたか!」

「ならば試すしかあるまい」

そう言って十七夜は穢れが溜まりそうな記憶を思い起こし、一気にソウルジェムに穢れを満たした。

その後右目から青い炎が出始め、十七夜の上半身は4本の剣を持ったドッペルへ変化した。

十七夜はシールドを構えた2人のディアの間をかき分けるように剣を差し込んだ。

後ろにいるディアのうち1人が衝撃砲を発するものの、ドッペルの腕が一つ吹っ飛ぶくらいで十七夜は動きを止めなかった

シールド持ちを掻き分けてディア達の中心へ到達した十七夜は剣を振り回した。

その剣を避けるためにディア達は離れたが、シールド持ちの一体を結奈のドッペルが掴み上げた。

「なnドでもにg Iりツブす!」

神浜で戦ったディアと違って周囲に展開できるシールドを持ち合わせていないため、握られたディアはシールドがびくともしない中身体は簡単に潰され、床には大量の血が散らばった。

「限界だったんだ。全部受け取りやがれ!」

そう言って樹里もドッペルを出し、樹里のドッペルがディア達を指さすと口から炎を吐き出し、十七夜を巻き込みながらディア達を燃やし始めた。

爆弾を持っているヨーロッパの魔法少女は暴れるドッペル達を見て驚いていた。

「これが魔女化しない代わりに出るドッペルか。

第三者から見ると恐ろしいことに変わりはないな」

残り5体となったディアはやられるだけではなく。ドッペル用に用意していた銃弾へ換装したガトリングを背負っているコンテナから取り出した。
そして十七夜へ銃口を向けて銃弾を浴びせた。

防御を考えていない十七夜のドッペルは無力に弾痕をつけられて剣は次々と折れていった。

ついに本体も銃弾が貫いていき、後方でディアをさらに握りつぶそうとしていた結奈の腕と体も貫いた。

「まだあんなものを!」

爆弾を持つ魔法少女は接触起爆式の手榴弾をガトリングを持っているディアのいる天井へ投げ、爆発した後破片がディア達に降り注いだ。

これでガトリングを持つディアを含めて2人が死んでしまい、ガトリングは破損して銃口が赤いまま床に落ちた。

ガトリングをモロに受けた十七夜は無事なはずがなく、ドッペルが消えると身体中に穴が空いてかつ右目をソウルジェムと共に破壊されて倒れていた。

結奈はソウルジェムの破壊は免れたものの、ガトリングを防ごうと動いたことで負荷が強かったのかソウルジェムへヒビが入った状態で倒れていた。

そんな間に樹里はドッペルで炎を吐き続けていた。

周囲の壁はアンチマギア製であったがドッペルの魔力には未対応だったのか、熱によって変形が始まっていた。

炎をモノともしないディア達が壁から何かを取り出そうとしても、ハッチになっていると思われる場所が溶接されたように溶けて開かなかった。

ディアはフラフラしながら背負っているコンテナからアサルトライフルを取り出した。

そこに銃弾が飛んできてディアの1人が頭を撃ち抜かれて倒れてしまった。

爆弾を持つ魔法少女が急いで銃弾が飛んできた方向を見ると、そこには三重崎の魔法少女達がいた。

「サバゲ部か!」

「しっちゃかめっちゃかではあるが絶望的ではないようだな」

「手伝え、後一押しだ」

やっと樹里のドッペルがおさまり、ディア達は炎にさらされることは無くなったが、肌が焦げている上に動きがぎこちなかった。

「おかしい、からだがいうことをキカない…」

そう呟きながらコンテナから銃を取り出してもうまく銃を持てず落としてしまったり、コンテナから伸びたアームが変な方向へ向き始めていた。

ライフルを持ったツバキは容赦なくぎこちない動きをするディア達を撃ち抜き、動けるディアはいなくなってしまった。

「あっさり終わってしまったが、何があったんだ」

「私が知るか。

なんであれ道が開けたんだ。本部へ行くぞ」

「おい起きろよ!」

突然の叫び声にびっくりして爆弾を持つ魔法少女達は声を発した樹里のところへ集まった。

樹里はソウルジェムへヒビが入った結奈の体を揺さぶっていた。

博が樹里の腕を掴んで動かせないようにした。

「落ち着け、揺らすと余計割れやすくなる」

「どうすればいいんだよ、樹里さまを1人にするんじゃねぇよ」

「樹里さん・・・」

博は樹里以外の魔法少女達へテレパシーを送った。

[こいつは私が見ておく。3人は本部へ向かってくれ]

[テレパシー使えたのか!

って、別に残らなくてもいいだろ]

[こいつは癇癪持ちと聞いている。

放っておくと何するかわからない。ヒビが入っているこいつも助かる可能性を潰されるかもしれない]

[…勝手にしろ。罠がまだ作動するかもしれないし早めにここからは離れろよ]

[咲、ツバキ、そいつについていけ。

ここは気にするな]

「わかったよ」

3人は本部へ向けて走っていき、博はその場に胡座をかいた。

樹里は泣くだけで特に何かをするわけでもなかった。

生き残った二木市の魔法少女達も、ただその様子を見ることしかできなかった。

 

ケンタッキー州でもワルプルギスの夜の笑い声は響き渡っており、かごめによるアナウンスも広がっていた。

マッケンジー達は不気味な笑い声に警戒していた。

「なんだこれは、魔女によるものか」

ベチャッ

マッケンジーの近くへ強酸性の吐瀉物が飛んできた。

飛ばしてきた方向には魔法少女から魔女のような見た目をしたカバが毒々しい液体を垂らしながらこちらを見ていた。

「結界が展開されない。魔女とは違うのか」

近くの隊員がマッケンジーへ近づいて話しかけた。

「マッケンジー、レディが言っていた魔法少女のまま魔女を出す現象じゃないか」

「もしかしたらがあると言っていたが、本当に起こるとは」

「隊長!他のメンバーからも魔法少女から魔女のようなものを出す現場に遭遇しています。

中には死亡者も発生しています」

マッケンジーは米軍が使用している回線へ繋ぐとそこでは悲惨なやり取りしか聞こえてこなかった。

[魔女の結界が解けた跡から化け物が飛び出している!]

[撤退命令を!結界を展開しない魔女なんて聞いていない!]

[助けてくれ!(骨が砕けるような音)]

「すでに手遅れか」

そう思った時、サピエンスのメンバーたちにイザベラから通信が入った。

「サピエンスのメンバーへ。

裏切者はどの組織にだっているものだ。
これは予定していた通りだ。予定通り奇跡は再び人類を裏切った。

わかっただろう、奇跡はこの程度だ!

だからこそ奇跡に挑戦してやろうではないか。

人類をなめるなと!

人類は醜く多くを自分勝手に犠牲にしてきた。その軌跡の先に私たちがいる。

だからこそ無駄にするな!
人類の底力を、人類の軌跡を誇り、目の前のやつらを進化の糧にしてやろうじゃないか。

醜く抗え、これこそが人間だと。

そうだろう!」

 

ウォーーーーーーーーー!

 

マッケンジー達が歓声をいきなり上げて、周囲の魔法少女達は驚いた。

イザベラの通信が切れた後、マッケンジーはインカムでメンバー全員に伝えた。

「全員私を中心に集結せよ!

集結までは抵抗しようとせずその場を離れることに専念せよ!」

メンバー達が移動を開始すると、魔法少女レーダーを見た隊員が何かに気づいた。

「あいつら俺たちしか眼中にないのか一緒になって集まっている」

「それでいい。

銃は魔女用と魔法少女用両方持った状態にしておけ」

カバの姿をしたドッペルは毒を撒き散らしながらマッケンジー達へ突進した。

マッケンジー達は対魔女用の銃弾で抵抗するが、弾痕をつけるだけで魔女を相手にしているほどのダメージは与えられていなかった。

隊員達はドッペルの突進を避けて魔法少女本体を狙おうとしてもどこにいるのかが特定できなかった。

「本当にこいつ魔女じゃないのか」

サピエンスの隊員達は次々とマッケンジーを中心に集結し、周囲に集まってくる魔法少女へ銃弾をばら撒き続けた。

中には銃弾を受けて倒れる魔法少女もいたが、ドッペルについては全く有効打を与えられていなかった。

マッケンジー達が銃弾をばら撒いている間に衝撃砲を持つメンバーが到着し、衝撃砲がカバの姿をしたドッペルへ直撃した。

衝撃はドッペルの顔左側半分を吹き飛ばし、ドッペルは液状になってその場から消えた。

ドッペルを出していた魔法少女は生きていて、全力疾走をした後かのようにその場で座り込んで深く呼吸をしていた。

他にもドッペルを出している魔法少女達がサピエンスの部隊を取り囲み、攻撃を加えていた。

中には米軍兵士の遺体を引きずりながら近づいてくるドッペルもいた。

「マッケンジー、集まってどうする気ですか!」

「全員撃つのをやめろ!」

マッケンジーがそういうと隊員達は驚いた表情で引き金を引くのをやめた。

魔法少女達も攻撃を止めた。

魔法少女達はサピエンスが攻撃を加えてこないと知ると、武器は構えているものの攻撃は加えてこなかった。

その間に次々とドッペルは消えていった。

マッケンジーは正面の魔法少女達へ大声で語りかけた。

「言葉はわかるか!

お前達の目的は武装集団の殲滅か!」

魔法少女達が顔を合わせてオドオドしている中、マッケンジーの前へ翼を持つ魔法少女が降りて話しかけた。

「貴様のいうとおり我々はサピエンスを中心とした魔法少女を攻撃しようとする連中の殲滅を念頭に置いている。

攻撃しようと考えてもいない民間人を虐殺しようなんてことはしない」

「それは事実か」

「アメリカ大陸では少なくともそうだ。他の場所は知らない。殲滅規模はお任せなのでね」

「判断の難しい回答だな。では今ここから逃げ出した奴の背中は撃たないのか?」

「逃げ出すといいさ。

我々は復讐などという私念に該当するものは無駄だと知っている。

再度銃を向ける時があれば、その時に始末するまでだ」

「そうか。

全員聞いたか!尻尾を巻いて逃げれば見逃してくれるらしい。

逃げたい奴はすぐに逃げろ!」

そう言われて隊員達はその場を動こうとせず、銃のリロードや衝撃砲のチャージを行っていた。

1人の若い隊員がマッケンジーへ話しかけた。

「マッケンジー、これが答えだよ。

覚悟できてるって言ったじゃないか」

マッケンジーは翼の生えた魔法少女へ答えた。

このとおり、この場にいるのは魔法少女を殺したくて仕方がないバカの集まりだ。

主となる者からの激励もあったんだ、なおさらだ」

マッケンジーは背負っていた大剣の先を翼の生えた魔法少女へ向けて、柄のボタンを押すと大剣が中央から割れて銃口が顕になった。

そしてなんの声かけもなく大剣から7.62mmの弾丸が連射された。

魔法少女達は一斉に散った。

サピエンスの隊員達はマッケンジーの攻撃を合図に魔法少女達へ攻撃を開始した。

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-8 鶴と亀がすべった。後ろの正面だぁれ?

もう一つの通路側では唯一立っている状態の結奈がディア達へ棍棒を持って殴りかかった。

後ろに控えていたアサルトライフルを持ったディア2人が結奈へ向けて発砲したが、結奈は棍棒で身を守りながらディア達に突進した。

結奈が持っている棍棒はヨーロッパの魔法少女達が用意していたアンチマギアへ対抗するための武器の一つで、弾幕を受けても壊れないよう頑丈に作られている。

突進した結奈はシールドを持ったディアに激突するとその奥へ手榴弾を5個も投げ入れた。

結奈が急いでその場を去った後、後ろに控えていた盾持ちのディアも含めて4人が手榴弾にシールドを向け、他のディアは盾持ちの後ろへ回った。

手榴弾が炸裂した頃には、盾を踏み台にして弾倉交換中のディアへ結奈が棍棒で殴った

殴られたディアはコンテナに付属するアームを起動させ、剣を取り出して防御をしたが棍棒で簡単に振り払われて頭が吹っ飛んでしまった。

「もう一つ!」

結奈がもう1人を殴ろうとするとチャージが浅い衝撃砲が発射されて結奈へ直撃した。

盾持ちのディアは吹っ飛ぶ結奈を避けるように移動し、結奈は床を転がる程度で済んだ。
しかし装填が終わったアサルトライフルが結奈をとらえていた。

「結奈さん!」

ひかるが体の感覚を消して結奈とディア達の間に立ちはだかった。

そのままひかるはひかる軍団を呼び出してアサルトライフルを持ったディア達へ襲い掛からせた。

ひかる軍団はあっさりと撃ち落とされていき、ひかるにも銃弾が当たっていった。

「ひかる、やめなさい!」

「だったらテメェがまともに動いてやれよ!」

そう言って樹里も痛覚を消してディア達の方向へ火炎放射を放っていた。

炎は壁は愚かシールドで消滅してしまってディア達には届いていなかった。

しかし熱は伝わるようで、銃を持つディアは撃つことをやめて下がっていた。

銃撃がおさまるとひかる軍団は消え、全身で銃弾を受け止めたひかるはその場に倒れてしまった。

「ひかる!」

「バカ!そいつはもうダメだ」

そう言って樹里は結奈を後ろへ引きずっていった。

「離しなさい。グリーフシードがあるし、まだ」

「ユナサンハ…マモル…」

そうひかるから声が聞こえた後、ひかるを中心にして周囲へ衝撃が伝わった。

そして周囲には結界が広がって、シャッターで阻まれていた十七夜達も結界に飲み込まれてシャッターの先で何が起こったのかを見ることができるようになった。

「魔女の結界、誰かが魔女化したのか」

銃を持ったディア達が弾倉交換を行っている間にひかる軍団へ手足が生えたかのような使い魔達が現れ、周囲の生き物へ無差別に攻撃を開始した。

そんな中、使い魔に引っ張られる形で大昔のローマで使われたとされる戦車 メルカバの姿をした魔女が現れた。

魔女は結奈とディア達の間に配置され、そこから動こうとしなかった。

「こいつ、魔女になっても長女を守ろうってか」

「ひかる…」

「まさか、魔女になったのってひかるさん」

「せっかく広くなったんだから動けお前達!」

ヨーロッパの魔法少女は盾持ちのディアの後ろへ爆発物を積極的に投げ込んだ。

投げ込まれた爆発物は銃や衝撃砲で撃ち返されていたが、そのおかげで魔法少女達へ攻撃されることはなかった。

「使い魔は厄介だが、治療するなら今だ」

「治療できるやつはもう逝ったよ」

樹里はそう言い、結奈は十七夜達と一緒にいた二木市の魔法少女に抱えられていた。

「もう1人で動くのもやっとなんですから引きましょうよ」

「引くってどこによ。

ひかるが体を張っているんだからやるしかないでしょ」

「そんな状態で何ができる。ここではドッペルを出せんぞ」

そう言って十七夜は背負っていた槍を手に持ってヨーロッパの魔法少女に混じってディアへの攻撃を開始した。

十七夜が盾持ちのディアを槍で貫こうとすると、急に集結していたディア達が散開し始めた。

十七夜には格闘の姿勢になった1人のディアがナックルを装備して十七夜へ殴りかかった

槍のリーチでは対応が難しく、十七夜は少しでも距離おおくことに専念した。

そうしている間に残り6人のディアは皆銃を持っていて、魔女を囲うように移動して魔女へと攻撃を開始した。

普通の魔女よりは堅かったものの、ダメージは入っているようで弾痕がどんどんついていった。

結奈は立ちあがろうとしても転がった際にアンチマギアに触れてしまったのか足が動こうとしなかった。

「情けないわね全く…」

「ほんとだよ!」

樹里やヨーロッパの魔法少女、生き残った二木市の魔法少女が散ったディア達へ攻撃を開始した。

ディア達は十七夜に対抗しているディアの後ろへ再度集結した。

その頃には魔女はボロボロとなっていて、横へ倒れた後に結界と共に消えてしまった。

結奈の前にはゆっくりと魔女のグリーフシードが出現した。

ディア達は再度シールドと衝撃砲を持ち出して道の封鎖に専念した

爆弾を扱うヨーロッパの魔法少女がつぶやいた。
「結界に紛れて突破できると思ったがそうはいかないか。
あっちの方が地獄かと思ったが、こっちも変わらず地獄。私たちはサピエンスを少々なめ過ぎていたのかもしれない」

 

ケンタッキー州では魔女になる魔法少女が出現している中、翼を持った魔法少女とマッケンジーが対峙していた。

「神浜で見たやつか。ここまで来るとは」

「ゆっくり話す必要はない。失せろ」

そう言ってマッケンジーは手榴弾を魔法少女近くへ投げた。

それは空中でネズミ花火のようにクルクルと回り始め、周囲に火花が散り始めた。

マッケンジーはもう一個投げ込み、手榴弾の間に飛ぶ翼を持つ魔法少女へサブマシンガンを放った。

回避し切れないと判断した翼を持つ魔法少女は急降下し、瓦礫に隠れた。

マッケンジーは腕装備に付属している魔力レーダーで翼を持つ魔法少女の居場所をサーチしたが何故か引っ掛からなかった。

「どういうことだ」

マッケンジーがそう呟くと隣のサピエンス隊員がしゃがむようハンドサインを出し、しゃがんだ2人は会話を始めた。

他の隊員からも魔力レーダーが使えないという報告が出ている。

中には魔女の結界へ入られて追跡不能になるものもあるようだが、結界の外でも感知できていないと」

イザベラから魔力検知ができない魔法少女がいるとは聞いている。
だがその概要は1人しかいないと聞いていないが。

周囲の状況は」

把握できる中で最初は魔法少女達を米軍と挟み込む陣形だったが撃ち落とした船から脱出した魔法少女や結界を移動して迂回した魔法少女もいるため陣形は意味をなしちゃいない」

マッケンジーは通信を繋げて隊員全員へ伝えた。

我々の目的は魔女化を促す他にペンタゴンへ他の魔法少女を近づけさせないことだ。

米軍の開けた穴は埋めるよう動け」

その後マッケンジーはチャンネルをダリウス将軍オンリーに切り替えた。

「将軍、米軍が開けた穴は現地では把握できない。指示を頼む」

「マッケンジー、米軍は船の撃墜のために動いていた。その後は発生した魔女退治と民間人の避難所への誘導だ。
ペンタゴンは飛んできた船のミサイルで外の警備は役に立たなくなっている。
予定通り把握できる限りの魔法少女排除と魔女化に優先しろ」

「全く役に立っていないのか。抜けられたらすぐ地下に到達されるが」

「出来るならやってみせろ。魔力レーダーが役に立たないのだろ?」

「・・・将軍、作戦説明時も伝えたが、勝つ気があるのか?
フィラデルフィアでの出来事以来お前を信用してはいないが、開き直りか?」

「どうとでも思え。
だが今大事なのは何をもって勝ちと判断するかだ。
不利だと判断できる状態になれば全員連れて離脱し、民間人の護衛に専念しろ

バレたら私が責任を取ってやる」

「どういうつもりだ」

「昔の教訓だ。お前なら私の罪を十分に理解できるだろう?
イザベラに賛同して終わりない戦いを行いたいなら止めはしないが、お前がそう判断するとは思えないな」

そう言ってダリウス将軍は通信を切ってしまった。

しばらく動きを止めていたマッケンジーを見て隊員が声をかけた。

「マッケンジー、どうした」

「いや、気にするな」

マッケンジーは全隊員へ回線を繋いだ。

「全員へ。魔法少女のサーチアンドキルに変わりはない。

ただしここからは前言撤回だ。
命は大事にしろ。
無理な進軍は不要。

もう時期状況が変わるだろう・・・

もう一度言う。命を第一に行動せよ」

 

翼を持つ魔法少女は近くに発生した魔女の結界へと逃げていた。
その中で魔女を退治する兵士から身を隠していると、別の魔法少女と出会した。

「おお、ちゃんと生きていたか」

「なんとかね。だがマギアネットワークどころかテレパシーすら使えない状態では、ここで行動する意味もわからん」

「まあ陽動だからね。それにテレパシーが使えない状況なんて何度もシミュレーションされたことじゃないか」

「まあそうだが。

神浜のやつがピリカをしっかりカレンのところへ連れて行ってるといいが」

「なんかサピエンスのやつらからあまりやる気を感じないし、大丈夫だろう」

「消極的すぎるのも何かやってきそうで怖いんだけどな」

結界の中心では魔女が大声で泣き叫び始めた。

「魔女が限界だ。移動しようか」

2人の魔法少女はマッケンジーがいた場所とは反対方向へ向けて結界を出ていった。

他の北アメリカ大陸にいる魔法少女達はサピエンスの部隊をペンタゴンへ向かわせないための陽動に努めていた。

民間人へ攻撃を行おうとする魔法少女達はおらず、逆に魔女が民間人へ手を出そうとすると率先して魔女退治を行っていた。
そんな行動に米軍は少し困惑していた。

「どういうことだ、真っ直ぐペンタゴンへ向かうと思っていたが」

「民間人への攻撃するどころか守ってくれているみたいだし。

一部はペンタゴンへ戻ったほうがいいんじゃないか?」

「俺たちが魔法少女にどう対抗するってんだ。

まだ湧き出るであろう魔女に対抗していればいいんだよ」

「サピエンスがいないと手も足も出せないってか。全く」

米軍の司令部はサピエンス本部とは別に設けられており、前線の状況確認よりもペンタゴン周辺の被害状況確認で忙しくしていた。

ペンタゴン周辺の商業施設は爆風や飛んできた残骸で被害を被っており、住宅地にも一部被害が出ていた。

避難用シェルターへの誘導指示は事前に出てはいたが、避難が完了していなかったため少数だが死者が出ている。

空きのあるシェルター情報のやり取りで精一杯であった。

この避難シェルターへの誘導は世界中でも実施が指示されていた。

アンチマギア生産工場の残党処理をサピエンスへ引き継ぎ終わったフランスの軍隊は避難シェルターへの民間人誘導に専念していた。

「魔法少女がこんなところまで襲ってくるのか?」

「事が起きてからじゃ遅いだろ?後で文句言われるよりはいいじゃないか」

「だとしても世界中って。

世界中に魔女が溢れるわけでもあるまいし」

「黙示録が訪れるかもしれないぞ?」

「もし本当に訪れたら俺は宗教派側に寝返るよ」

そんな雑談ができるほど周囲に危機はなく、劣勢な国へ救援に向かう案が検討され始めている頃だった。

 

アンチマギア生産工場跡地ではサピエンスの部隊が残党探しを開始していた。

「気は抜くな!あの爆風でも生きている可能性があることは忘れるな!」

瓦礫を漁っていた隊員の1人が体の焦げた遺体を発見した。

恐る恐る銃剣で遺体を転がしながらソウルジェムが残っていないか探った。

すると左手だけが何故か焦げておらず、黒くなり掛けの宝石が腕輪についていた。

隊員は急いでソウルジェムを撃って破壊した。

「銃声どうした!」

近くにいる隊員が驚いて近づいてくると銃を撃った隊員が大丈夫だというアクションをした。

「本当に生き残ってるやつがいて驚いたよ…」

「しっかり探しておかないと痛い目見そうだな」

「早く地下通路を探せ!ネズミのように地下で増えられてはたまらん」

各国のアンチマギア生産工場の地下にいた魔法少女達については、中華民国やロシアで行動している魔法少女の一部が地下から地上に出ようとしていた。

「ヨーロッパの魔法少女なんて信じるんじゃなかった。

さっさと地上に出て不利な状態から建て直さないと」

そんな中、一部の魔法少女は地上へ出ようとしなかった。

「やめようよ、出たって撃たれて終わるだけだって。

待っていたらもしかしたら解決手段が出てくるかもしれないし」

「待っていてどんなものが来るっていうんだ。

要のマギアネットワークもこの様だ。人間社会を壊すというから乗ったのに」

そう言って懐疑的になった魔法少女達は地上を目指してしまった。

1人が皆を止めようと声をかけようとしても、もう1人の魔法少女が行かないよう指示した。

「テレパシーが使えない今何を言っても無駄だ。

あいつらのせいで地下の道が見つかるだろうし、なるべく深いところへ行こう。

幸いグリーフシードはあるが、解決してくれる時間はどれほどかかるか」

ヨーロッパで魔法少女の拠点となっている場所ではほとんどがサピエンス本部やアンチマギア生産工場の破壊へ向かったため、マギアネットワークを管理する魔法少女と少数のゲートを護衛する魔法少女しかいなかった。

いまだにミアラは目を覚まさず、回復魔法で目覚めるのを待っているところだった。

そんな中、一枚の鏡が光だしてゲートの防衛を行っていた魔法少女達がその鏡へ銃を向けた。

そこから出てきたのはアメリカにいた魔法少女達だった。そのメンバーはマーニャのところにいたメンバーであったため銃を向けていた魔法少女達はすぐに銃を下ろした。

「お前達、マーニャから捕まったと聞いたが」

「事情は後で話すから、急いで教えて!こいつを神浜に連れて行きたいの。

神浜に通じるゲートはどこ!」

「待て何を言ってるんだ。こいつって誰だよ」

アメリカの魔法少女が指さす先には、白髪のツインテールで目が赤い少女がいた。

「こいつを連れて行ってなんになるんだ」

白髪のツインテール少女が喋り始めた。

「やれやれ、テレパシーが使えなくなるだけで説明が必要になるだなんてね。今だけは声帯のある体であることに感謝しないとね。

神浜にいるワルプルガの願いを叶えてあげないといけないんだ。

そのためには僕が必要。魔法少女ならわかるだろう?」

「まさか、お前!」

ゲートを守っていた魔法少女は、急いで神浜に通じるゲートへ魔法少女達を案内した。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-7 立ちはだかる人間らしさ

二木市のグループは地下10階へつながる階段への直線通路に差し掛かっていた。

「気をつけろ、ここには異様に非常シャッターが多かった。

閉じ込められたらそこで終わりだろう」

「だったらさっさと作動させちまえばいいんだよ」

そう言って樹里が列の先頭まで走り、通路の先へ火炎放射を放った。

炎はまっすぐ進み、通路の半分行ったあたりでシールドが発生して通路内には警報が鳴ると共にアナウンスが流れた。

「異常量の魔力を検知、3秒後強制的に区画が区切られます」

「気が早すぎるんだよ!」

そう言ってヨーロッパの魔法少女が2人前へ走り込み、2人の二木市の魔法少女がつられて前に出た。

「なんで前に出る!シャッターから離れろ!」

十七夜がそう言うと皆シャッターが降りる場所から離れた。
その後すぐにシャッターが勢いよく降りた。その勢いは間に人がいれば簡単に潰されてしまうほどの勢いだった

魔法少女達は4区画に隔離されてしまい、先行した4人の後に3人の二木市の魔法少女達、次に結奈、樹里、ひかると1人の二木市の魔法少女達、十七夜とヨーロッパの魔法少女1人、残りの二木市の魔法少女達と分けられた。

先行したヨーロッパの魔法少女がシャッターを壊そうとハンマーを取り出してシャッターを殴ると、少しだけ歪んだ。

しかし一番引っかかったのは、魔法製の武器で殴ってもダメージが入ったことだった。

「アンチマギア製じゃないだと」

最後尾にいるヨーロッパの魔法少女は先頭へテレパシーを行おうとすると何故か返事がなかった。

「おかしい、前のやつから反応がない」

その反応を見て十七夜もテレパシーを試した。

[テレパシーが伝わらないだと?]

隣のヨーロッパの魔法少女へ伝えたはずなのになんの反応も見せなかった。

「セレシア、今テレパシーを送ったのだが何も聞こえなかったのか?」

十七夜からそう言われて初めてヨーロッパの魔法少女の1人であるセレシアはテレパシーが送られていたという事実を知った。

「え、何も聞こえなかった。そんな、どうなっているの」

先頭から次の区画に閉じ込められた魔法少女達はなんとか出ようとシャッターを攻撃していた。

そうしていると天井でカチッと言う音が鳴って煙が出てきた。それは見覚えがある紫色のものだった。

「そんな、無理だよ…」

結奈達のところではカチッという音の後に紫色の液体が天井の消化用放水機から噴出した。

ひかるが潜入用に持ち込んでいたレジャーシートを全員の頭にかけたことで全身にかかることはないものの、かけられるまで少し頭にあたり、足元は液状アンチマギアが溜まり始めていた。

「備えて靴は履いてきたけど、問題は部屋いっぱいになるまでこれが出続けるかね」

「このシャッター案外脆いし殴っていれば壊れそうなのによ」

「樹里さんダメですよ、アンチマギアがあたっちゃいます」

「止まるのを待つしかないわね」

先頭の方ではシールドが発生したあたりで横の壁が開き、そこから盾を持ったディアの顔をした存在が2人出てきた。

さらに後ろには6人のディアが現れた。

「同じ顔が8人?!」

「あの顔、結奈さん達が殺したはず!」

皆が驚いている中、無慈悲にも魔法少女達には充填された衝撃砲が4つ向けられた。

「そんな」

衝撃砲が放たれたと同時に粉上アンチマギアが展開された区画に続くシャッターが衝撃で壊されてしまった。

粉状アンチマギアが舞う中、衝撃砲充填中に魔法少女がいる場所へはガトリング砲が撃ち込まれた。

動くものが何もいなくなった中、衝撃砲が二つ発射され、結奈達を閉じ込めていたシャッターが破壊された。

シャッターが壊れた方を見ると結奈達は言葉を失った。

充填された衝撃砲が二つこっちを向いていて、床は液状アンチマギアと血肉が混ざり合い、前方にいたはずの魔法少女達が原型がないほどの肉になってしまっていた。

そして衝撃砲を向ける人物の姿を見て結奈には怒りが込み上げてきた。

「こんな偶然もあるんだね」

ディアがそう言うと2つの衝撃砲が放たれた。

衝撃砲には結奈以外の魔法少女が巻き込まれ、皆シャッターに叩きつけられて体から血が出た。

1人の魔法少女は衝撃でソウルジェムが壊れて即死してしまった。

ひかると樹里はかろうじて動けるものの激痛でスムーズには動けなかった。

「何故なの、何故またあなたなの!」

「好んで来たわけじゃなかったのかい?
でもこれが結果だよ、鬼の魔法少女」

 

ケンタッキー州では船護衛に動いていた魔法少女達がペンタゴンに向けて動き出していた。

そこをマッケンジー率いるサピエンス部隊が対抗していた。

その戦場でも異変が起きていた。

「おかしい、全然情報が入ってこない」

ミアラに問題があったとしてもテレパシーが全然通じないなんてあるのか?!」

ある場所でははぐれた魔法少女が泣きながら助けを求めていた。

「誰か答えて!

グリーフシードが足りないの!だれか!」

その声に応えたのはサピエンスの兵士で、無慈悲にもその魔法少女はライフルでソウルジェムを撃ち抜かれてしまった。

グリーフシード不足は他の場所でも起きていて、グリーフシードを分け合うためか魔法少女同士が集まる場面が増えた。

その様子はサピエンス本部でも確認できていた。

「無慈悲だが、人類に歯向かう方が悪いんだ」

そう言ってダリウス将軍は近くにあるマップに映し出された魔法少女の密集地をタップしてSGボムの起爆コードを押した。

グリーフシードの交換を行っていた魔法少女の中にソウルジェムが赤く光る魔法少女がいた。

「お前まさか!」

皆急いで周囲に散り、ソウルジェムが光った魔法少女は爆発してしまった。

気づかない集団もあったようで、爆発に巻き込まれた者や目の前で爆発する様を目撃してしまったものもいた。

いやああああああ!

そのせいで穢れが限界に達した魔法少女が魔女になってしまっていた。

マッケンジーは魔女が現れたことを確認すると近くの米軍へ依頼を出した。

「籠の鳥プログラムは変異の段階に入った。予定通り処理を優先で頼む」

「アルファ了解」

前線に残っていた米軍は魔女が発生した場所へ移動を開始し、その穴を埋めるようにサピエンス部隊が展開を開始した。

その様子を遠くからかこは見ていた。

テレパシーが使えないとピリカさんとコミュニケーションさえできないなんて」

「夏目!見つけたぞ!」

そう言って近づいてきたのは三重崎の魔法少女達だった。

「無事でしたか。でも全員ではないですね」

「そんなうまく集合はできないさ」

「トランシーバー持ってるし少しは離れてもやり取りできるよ!」

「なんで持ってるんですか」

「私たちはテレパシーに頼らない日々を送ってきたから。その結果だよ」

「ピリカってやつををカレンの場所へ連れて行く必要があるんだろ?手伝ってやるよ」

「それはありがたいのですが、どうして」

かこに返事をすることなく博は遠くにいる三重崎の魔法少女へトランシーバーで指示を出すと2つビルを挟んだ先でオレンジ色の信号弾が打ち上げられた。

「あれで少しは敵の思考を混乱できるだろうさ。

さて、私たちは足を手に入れるか」

「そう、ですね」

理由を聞く間がないまま、かこたちはペンタゴンへ向けて動き出した。

 

ロシアや中華民国、フランスでは魔法少女達がアンチマギア工場の内部まで入ることができていて、生産装置の破壊まで完了していた。

しかし外でサピエンス部隊が待ち構えている上に、テレパシーが使えない状態になってしまったことで内部から動けずにいた。

「ミアラの奴め、テレパシーが使えなくなるなんて聞いていない」

やっぱりテレパシーが使えないと周囲の情報を共有するのは難しいです。無理して出ようとしてやられた奴もいるって話です」

「これじゃはめられたみたいじゃないか」

外では戦車がアンチマギア工場に集まり、照準を工場に合わせていた。

「…撃て」

指示のままに各車両から砲弾やミサイルが工場へ向かい、工場は爆発に巻き込まれた。

その爆発は工場の機関部にも直撃し、工場は大爆発を起こした。

「目標に到達した。これより残党処理に移る」

他のアンチマギア工場でも同様の結果となった。

 

テレパシーが使えなくなった後の世界の映像を、カレン達は見せられている。カレン達はテレパシーを試したが、繋がることがなかった。

「テレパシーを封じるなんて、魔法だったとしても世界規模でなんてできるはずが」

「魔法少女の得意技はテレパシーによる意識や情報の共有だ。それさえなくなってしまえば身体能力が高い人間と変わりない
少しせこい手は使わせてもらったが、これでも君たち魔法少女達は抗うか?」

イザベラがそう言いながらカレンへ銃口を向けたところで、カレンが反論した

「人類は拒絶するものを生み出すのだけは得意なようだな」

「人類は知恵を得た時から拒絶が得意なことに変わりない。だからこそここまで個性豊かな個体が増えたと言えるが、愚かなのは事実だ。否定はしない」

「イザベラ、あんたは」

セシルがそういうとイザベラはなぜか銃を下ろした。

「さっさと私に手を出したらどうだ?それともテレパシーを使えずおじけづいたか?」

「言わせておけば!」

ニードルガンを持つ魔法少女はイザベラへ向けてニードルガンを放った。

 

研究室ではデコーダに繋がって別の装置が動いていた。

テレパシー遮断波はデコーダの助けを受けて問題なく世界中へ行き渡っています。

しかしインターネットとつなげたままにしていることが原因なのか、インターネット上で誤動作が多発中。インターネットが行き届いていない地域にはテレパシー遮断波の効果が出ていない状態となっています」

報告を受けたカルラは冷静だった。

「予定通りだ。大事なのはアンチマギア工場がある場所らしいからな。

神浜にあいつが侵入したと同時に止めることを忘れるな」

「でもやっぱりこれただの利敵ですよ。無事に人類が勝てば間違いなく」

「いいのさ、人類も多少は試す必要がある。人類が勝つことがあれば潔く殺されるさ」

「そ、そうですか」

「降りたい者は今からシェルターに入っておけ、気にしないものはそのままデータ収集と解析に努めろ」

「その、なんでシェルターに誘導するのですか」

「人類が追い詰められた結末はある程度見当がついている。お前たちなら理解できるだろう」

「まあ、降りる気ないから関係ないですけど」

その言葉を聞いて部屋の中の研究員たちは軽く笑い、その後すぐに画面へ向かってデーター収集を再開した。

「まったく、忠告はしたからな。
こんなはずじゃなかったなんて思ってくれるなよ」

 

イザベラのところではニードルガンを持つ魔法少女がイザベラに向けてニードルガンを乱射していた。

しかしそれは全てキアラに防がれてしまった。

「邪魔すんな!アバも見たままじゃなくて手伝えよ!」

「落ち着きなよ、怒ったってなんも変わんないって」

「我慢の限界なんだよ。

カレンもさっさとそいつ殺せよ!モニターの向こうで仲間が殺されてんだぞ!」

そう言いながらイザベラに向けてニードルガンを持つ魔法少女は走り出した。

「ミア!」

そう言ってアバはキアラとミアの間に割って入るように武器を向けた。

キアラが武器を構えるとイザベラが指示を出した。

「キアラ、stay。手出し無用だ」

ミアと呼ばれるニードルガンを持つ魔法少女はイザベラの左脇腹へニードルガンを突き刺そうとすると、イザベラは左の袖に隠していたナイフを持ってニードルガンを切った。

そのナイフはアンチマギア製であったためニードルガンは粉上になって跡形もなく消えてしまった。

ミアは左手で実体剣の直剣を持っていてそれでイザベラの首を切り落とそうと剣を振った。

それはイザベラが右手に持っていたサブマシンガンに付属している曲剣によって防がれてしまった。

そこからミアが力ずくで押し切ろうとしても何故か腕力で負けているのか押し返されてしまった。

その間、イザベラの左手は暇そうにナイフを袖に戻していた。

押し切られたミアは後ろにのけぞり、そこへイザベラはサブマシンガンを放った。

ミアは勢いにまかせてバク転で回避した。

イザベラが引き金を引き続けていると、サブマシンガンからは弾切れのカチッと言う音がして弾が出なくなった。

ミアは隙だと思い、走ってイザベラの腹へ直剣を差し込もうとした。

しかしイザベラはサブマシンガンを下ろそうとせず少し険しい顔をした。

「ミア迂闊だ!」

そう言ってアバがミアを急いで横から突き飛ばした。

その後すぐにイザベラが持つサブマシンガンから一発の弾丸が飛び出し、それがアバに命中してアバはそのまま倒れてしまった。

「アバ!」

「少しは利口な奴がいたようだね。弾切れを装ったことによく気づけたな」

そう言ってイザベラはアバに向けて4回引き金を引くとそれとともに単発で4発の弾丸がアバに命中した。

それらはアバの服にある宝石へ的確に命中しており、その一つがソウルジェムであったためアバはそのまま死んでしまった。

「き、貴様!」

ミアは怒り狂ってイザベラへ襲いかかった。

ミアやめろ、穢れの分配が間に合わない。

カレンはそう心の中で思ったがテレパシーが遮断されているためミアには届かなかった。

他の仲間達はキアラがいるため動けない状態となり、見つめることしかできなかった。

ミアの出鱈目な直剣の動きをイザベラは表情変えず回避しながら次々とミアの四股へサブマシンガンの弾を撃ち込んでいった。

ミアが走れない状態となった時、ミアのソウルジェムに穢れが満ちてミアを中心として部屋に衝撃が広がった。

皆が衝撃に争っている中、ミアのソウルジェムからはロングバスほどの大きさのあるムカデが出現した。

その後周囲は魔女の結界に包まれて使い魔として曲剣を足につけたトンボがたくさんイザベラへ飛んでいった。

「ただの魔女か。つまらない結果を見せやがって。

キアラ!すぐ処分だ」

「内心で結果はわかっていたくせに」

キアラは今まで持っていた刀を腰に刺し、背負っていた別の刀を抜いた。そして牽制していた魔法少女達へ背を向ける形で魔女へと迫った。

魔女は使い魔よりも早くイザベラへ突撃した。

イザベラは避けて弾倉を外すとそれを服の中へしまい、新たに二つの弾倉をサブマシンガンへ取り付けた。

その後カチッと音が鳴ってサブマシンガンは再度連射されるようになった。

群れで迫ってくる使い魔へはイザベラが対応して走り回る魔女へはキアラが対応していた。

キアラが魔女の前へ立ちはだかると、魔女は口についた牙をカチカチと鳴らしてキアラへと突進した。

キアラは横へ避けた後に尻尾部分を切り落とした。

尻尾部分は緑色の血を流しながら地面に落ちると、ニードルガンのような弾が撃ち出された。

その射線にいた魔法少女達は急いで結界内の障害物へ隠れ、放たれた弾は障害物や壁に刺さった。

魔女は怒り狂ってキアラへと突撃するだけだった。

「行動パターンは魔女になっても変わらないか」

そう言ってキアラは尻尾に近い胴体を一振りで切り落とした。

さらに体が短くなった魔女は逃げることなくキアラを追いかけ回した。

キアラは魔女の正面へ立ち、魔女の顔へ刀を振り下ろした。

刀は魔女の装甲を割っただけで肉には届かず、キアラは刀を持ったまま魔女の背中を転がるように移動した。

魔女がキアラを探す動きをしていると使い魔処理が終わったイザベラが魔女の頭へ銃を撃ち込んだ。

装甲がなくなっていたため銃弾はそのまま肉を貫いて尾の部分まで銃弾が貫通した。

連射されたことで体に穴ができた魔女は動きを止めてその場で倒れ、腐ったように体が崩れ落ちると結界が解除された。

出現したグリーフシードはキアラがすぐに刀で叩き切って壊してしまった。

その瞬間にキアラへはカレンが迫っていた。

カレンは糸を束ねた剣で戦いを挑んでいて、キアラが刀で糸を跳ね除けてもアンチマギアのようにすぐに形が崩れ落ちることがなかった。

アンチマギア製ほど切れ味がないことに気づいたキアラは少し焦り始め、刀を持ち替える隙をうかがった。

イザベラ側にはキアラに止められていた魔法少女達が迫り、人数の差をものともせず跳ね除けていた。

その中でキアラの様子がおかしいことに気づいた。

「まさか切れないのか」

ゆっくりと周囲を確認する暇はなく、ジーナがイザベラの動きを止めようと鞭を生きているかのように動かした。

「カレン以外が雑魚だと思うなよ」

「あんたあの時忠告してきたやつか」

「覚えていたか。今回はしっかり殺してやるよ」

キアラの方はカレンの攻撃を振り払うことができず、攻撃を受け流すことしかできなかった。

カレンはというと密かにキアラへ糸を伸ばして縛り上げようとしていたが、キアラの防具にアンチマギアが使用されており、さらには関節部分にはシールドが貼られる物のようで、魔法製の糸では傷をつけられないことに気づいた。

カレンは持ってきていた鉄パイプに持ち替え、キアラを殴打する方向へ切り替えた。

鉄パイプではキアラの腕を狙い、シオリの魔法で浮かんだ鉄パイプでは足を殴打した。

キアラは攻撃を受け止めると脱臼するしかないことを承知で左腕に刀を持って攻撃を受け止めた。

少しだけ体を浮かすことで刀1本で2本の鉄パイプを受け止め、衝撃で吹き飛ばされはしたものの体幹を崩すことなく着地した。

床を少しだけ後ろ方向へ滑った後に止まることはできたが左腕は少し痺れていた。

そんな中カレンは間髪入れず追撃を入れてきた。

キアラは右腕に刀を持ち替えてそれを床に突き刺した。

突き刺した場所はちょうどカレンとシオリが鉄パイプを振るった軌道上にあり、両方を刀が受け止めた。

それで刺さった刀はびくともしなかった。

キアラはやっと腰に差していたアンチマギア製の刀を抜く隙を手に入れ、右腕で抜いた後、目の前のカレンへ振り下ろした。

カレンはキアラの右腕側に回り込んだ。

キアラは勢いに任せて右側へ振り払おうとしたが、左側に回り込んでいたシオリの操る鉄パイプに気づいた時には手遅れだった。

鉄パイプは勢いよくキアラの左腕を殴った。

慣性までは防具で無効化できず、キアラの左腕はあっさり骨が折れてしまった。

挟み込まれてしまったことでキアラは後ろに下がることができず、痛みを紛らわすためにその場で深呼吸した。

床に刺さったままになってしまった刀はカレンが手に入れてしまった。

「こんな重たいものを振るっていたのか」

カレンがそう雑談を交えてもキアラが答えることはなかった。

「ピリカほどではないが、お前はどこまで耐えられる?」

そう言ってカレンはキアラへ奪ったドッペル向けの刀を向けた。

「どこまでも耐えてみせる。それがイザベラの従者となった私の意地だ!」

「したっけかかってこい。人間としての希望を輝かせて見せろ!」

 

back:2-4-6

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-6 本命がエサとなりえるか

ペンタゴンへ突撃した魔法少女の船は機能を停止させ、船から出てきた30人の魔法少女達は穴が開いた地下7階へ侵入していた。

セシルが通路に異常がないことを確認した後につぶやいた。

「随分と簡単に深く潜り込めたもんだ。5階から激戦を予想していたが肩透かしだ」

その呟きにカレンが反応した。

「ソフィーが逃げずに照準を合わせ続けた結果だろ?」

「死ぬ必要はなかったと思うけどな」

「ここは敵地よ。おしゃべりの暇なんてないわよ」

そう言って結奈が率いる神浜からの参加組がずんずんと施設の奥地へと向かっていった。

神浜から参加したメンバーは二木市のメンバーが主流となっており、そこに十七夜とヨーロッパから参加した3名が混ざっている。

カレンを中心としたヨーロッパ組にはカレン含めた9名に神浜へ避難していた中東のメンバー6人が混ざったグループで構成されている。

神浜に設置された転送装置で可能になった神浜メンバーのペンタゴン奇襲への参加によって、ヨーロッパ組の一部は陽動用の船団に人員を割くことができた。陽動用の船団には夏目かこと三重崎のメンバーも参加しているため、ピリカのソウルジェムの安全性も問題ないレベルとなった。

ペンタゴンへ潜入したメンバーはすでにミアラからの応答がない状態であることは知っていて、予定通り2グループに分かれてサピエンス本部へ侵攻し、魔力消費を考えてテレパシーの使用は控えることにした。

二木市のメンバーの姿が見えなくなるとカレン達も行動を開始した

「さて、どっちに本命がぶち当たるだろうね」

イザベラってやつと顔合わせたことがあるのはカレンとセシルくらいだろ」

「私はこんなビッグになる前のイザベラへ忠告した程度だ。

一番最近接触したのはカレンくらいだし、好かれてたらこっちにくるんじゃないか?」

「そう知ってて付いてくる死にたがりはお前らだろ?」

実物のアサルトライフルをリロードしながら中東から参加した1人が話し始めた。

「本命を殺せるチャンスだ。乗り掛かるしかないじゃないか」

「まったく。

したっけ向かおうじゃないか」

ペンタゴン地下7階には特に罠は用意されておらず、兵士たちの待機部屋として使用されている階だった。

本来であれば5、6階には液状アンチマギアが消火装置にセットされて通路を通ろうとすれば確実に脱落者が出る作りとなっていた。

そこから先、8、9階には銃器を携えたドローンが粉状アンチマギアを振り撒ける状態で待機している。

そしてサピエンス本部は地下10階に存在していて研究施設は地下11、12階に存在している。

ここまでペンタゴンの詳細を魔法少女が知っている理由としてはマーニャがカルラから受け取った見取り図によって明らかになったものだった。

さらにはミアラが抜き取ったペンタゴンの罠を配置する指示の内容とも一致していたため、魔法少女達は見取り図を信じて進んでいた。

2グループに分かれている理由も見取り図を参考にした結果であり、本部へ通じる通路は二つあり、片方にイザベラが出てももう片方が本部を潰せるからである。

地下8階を進んでいた二木市のグループは何の問題もなくドローンを排除して先へ進めていた。

そんな状態に思わず結奈は呟いてしまった。

「妙ね…」

「何がっすか」

「ミアラさんからイザベラは狡猾と聞いていたのだけど、ここまで見取り図通りなのは素直すぎて」

「いいじゃねぇか、素直なのは嫌いじゃねぇ」

二木市のメンバーの会話に十七夜が割り込んでくる。

「紅晴の言う通りだ。

突然壁から銃が飛び出してくるかもしれないぞ」

「水さすんじゃねえよ。
そんなことされたら壁ごとぶっ壊してやる」

「でもここの壁って」

そう言って二木市の魔法少女の1人が壁に向かって魔法製のハンマーを叩きつけると魔法製のハンマーは光の粒になって消えてしまった。

その様子を見て樹里は驚いた。

「おいおい、触れたらやばい壁だったのかよ」

「見取り図やミアラさんの情報にはなかった。

もうすでに未知の対策をされ始めているってことよ」

「全然気づかなかった。

もしかしたらもうすでに未知のトラップを踏んでるかもしれないってことか」

ヨーロッパから参加した魔法少女も会話に参加してきた。

「そうだろうさ。

本来であればシールドに電力を取られてここの通路は予備電源で暗いライトしかついていないはずだ。

それがこんなに白々しく明るい。

ほんとに壁から銃が出てくるかもしれないな」

「マジかよ」

一方のカレンのグループでも壁の異変に気付きつつ10階に続く階段に通じる通路途中にある大広間に到達していた。

その大広間は直径50mほどある半球体の空間だった。

しかしそこはカレン達にとって予想外の場所であった。

「なんだこれ、まっすぐな通路が階段に続くだけじゃないのか」

「入ってしまってなんだが引き返した方が」

ニードルガンを持つ魔法少女がそう言うとカレン達が通ってきた通路へ急速にシャッターが降りて道が塞がれてしまった。

「おい!これで液体流し込まれたら終わるぞ!」

「いや、近づいてくる魔力で何も起こらないことはわかるよ」

カレンがそう言うと本部へつながる通路から銃弾が飛んできた。

魔法少女達は急いで避けて通路の先から来る存在に備えて武器を構えていた。

「籠の鳥は30ってか。その程度で超えられると思ったのか」

そう言いながら暗い通路の先から現れたのは、いつもの服装で小型のコンテナを背負ったイザベラとコートタイプの軽装と脛当てを装備したキアラが現れた。

姿が見えてすぐに中東の魔法少女達はアサルトライフルを放った。

イザベラとキアラは左右に素早く避け、イザベラは走りながらサブマシンガンで魔法少女達へ反撃した。

キアラは弾を避けながら魔法少女達の背後へ素早く回った。

他の魔法少女達も攻撃へ参加し、イザベラには近接の、キアラには遠距離タイプの魔法少女が対面する形になった。

「動きがいい。でも!」

キアラがそう言うと白い筒がついたクナイを遠距離の魔法少女達が集まる場所へ投げた。

それをレイラが撃ち落とすとクナイについた白い筒が弾けて周囲は白い光に包まれた。

それに反応するようにイザベラは閃光弾を取り出して足元に投げつけた。

魔法少女達は背中を取られないよう集まる中、カレンは魔力反応がする方向から飛んできたフックに引っ掛けられて引き抜かれてしまった。

周囲の視界が戻ると、イザベラにカレンのみが対面する状態になり、その2人に背を向けるようにキアラが、キアラの目線の先に14人の魔法少女達が集まっている状況になっていた。

「なんのつもりだ」

カレンがそう言うとイザベラは銃口を向けながら返事をした。

「首長竜使い、お前と少し話がしたくてね。

キアラ!他の有象無象は任せた」

「了解」

そのやり取りを見たニードルガンを持つ魔法少女が怒り出した。

「なめんじゃねぇ!」

ニードルガンを連射されるとキアラは避けるのではなく刀で切り落としていった。

アンチマギア製の刀を使っているようで魔法で生成された弾丸は斬られた後に消し去られてしまった。

ニードルガンを持つ魔法少女に対してアバが話しかけた。

「やめなって、あいつマーニャ達を1人でやったやつだよ」

「なんだって?」

別の魔法少女もニードルガンを持つ魔法少女へ冷静になるよう伝えた。

「アバの言うとおりだ。下手に行動すると一瞬でやってくるぞ。

名前はキアラ。イザベラの懐刀で人間なのに魔法少女以上の身体能力を持っている

「対抗方法ぐらい話し合っただろ」

「それは相手がやる気になればの話だ」

話しかけていた魔法少女が後ろで戦っているイザベラへサブマシンガンを放とうとすると、キアラはそれを斬ろうと動き出した。

「単純だからいいがな!」

中東の魔法少女達が一斉にイザベラ目掛けて銃を放とうとすると、キアラは足元に円盤状の物体を投げつけた。

そこからは赤紫色の半透明な壁が出現し、銃弾はその壁で防がれた。

その光景に目を向けていた魔法少女達は、目の前でキアラが銃器を切り落としにかかっていることに気付けなかった。

キアラを止めるために近接魔法少女達が前に出て手足を狙おうとするものの、わずかな股下のスペースへ滑り込み、立ち上がる勢いに回転を混ぜて中東の魔法少女達へ刀を振るった。

中東の魔法少女達は急いで銃器を投げて自分たちの手と銃器を守った。

キアラは刀ではなかなか行われない刺突を1人の魔法少女へ行うと、その間の一瞬で、1人のソウルジェムを破壊されてしまった。

そのまま切り上げて左側にいる魔法少女へ振り下ろすと体と共にソウルジェムを叩き切った。

そこから流れるように周囲を薙ぎ払った。

その動きを見てセシルは思わず呟いた。

「やばいとは思っていたが、本当に人間か?」

 

カレンと対面しているイザベラは話を始めるわけではなくいきなりサブマシンガンの引き金を引いた。

カレンもイザベラを殺すために実体のある鉄パイプを持ち出してイザベラへ殴りかかった。

飛んでくる銃弾は避けつつシオリが操る鉄塊で防がれていた。
シオリとテレパシーでのやり取りが行われない中でも、二人の動きは互いを邪魔していなかった。

先端が鋭利となったパイプで突こうとするとサブマシンガンについた短剣で防がれ、イザベラの右手に持っているナイフが迫ってきて咄嗟に糸を束ねた剣で防ぐと、消滅させられるのではなく防げてしまった。

アンチマギア製じゃない?

疑問に思ったカレンはイザベラへテレパシーで伝えようとした。

[なぜアンチマギア製のものを持ち出していない]

しかしテレパシーが来ていることも知らないかのようにイザベラはマグナムを放ち始めた。

楽しそうにマグナムを放つイザベラを見てカレンは苦笑いした。

[話し合う気があるとは思えないな]

マグナムを撃ち終えるとそれはイザベラが背中に背負うコンテナへ格納され、イザベラは右手のナイフをしまって両手にサブマシンガンがアームによって手渡された。

最初よりも密度が高い弾幕が飛んできた。

カレンがキアラの真後ろまで移動するとキアラと対面していた魔法少女達が驚いた。

「カレン?!」

するとイザベラは容赦なくカレンの方へ銃を放った。

キアラも少し驚いた顔をして皆射線上から逃げた。

カレンはそこで紛れて仲間と合流しようとしたが、イザベラが放ったフックが左腕に絡みついて動けなかった。

「逃すわけないだろ、首長竜使い」

フックをすぐに切り落としても、すでに仲間との間にはキアラが割って入っていて合流はできそうになかった。

キアラがカレンを見ながら攻撃をしてこないためカレンはキアラへ問いかけた。

「どうした、自分から仕掛けはしないのか」

「その必要はない。時間をかける方がこちらの得になる」

「どういうことだ」

「こういうことさ」

そう言ってイザベラがポケットから端末を取り出して何かを押すと、半球体の天井には映像が映し出された。

そこには各地の戦場の様子が映し出されていた。

中には別ルートで行った二木市のグループも映し出されていた。

「なんのつもりだ」

「まあみんな手を止めてゆっくり鑑賞してみようじゃないか。
勘が良ければすぐにわかるさ」

 

back:2-4-5

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-4-5 籠の鳥プログラム

衝撃砲が配布された米軍でも船団を抑えられない中、ついに魔法少女達の船団がレミングの射程内に入った。

「レミング、射程に入りました!」

「チャージ始め。

周囲の僚軍にはレミングを死守するよう伝えろ」

SGボムをつけた魔法少女は各国で魔法少女達に溶け込めたようです。

ヨーロッパではすでに処理され始めているのか数が減っています」

「奴らに情報が筒抜けなのは承知の上だ。レミングを放てるかどうかが勝敗を分ける。死んでも守れ!」

ダリウス将軍が指示を出している中、イザベラはカルラへ回線を繋いだ。

「カルラ、ぶっつけ本番になるけど用意はできている?」

「大丈夫だよ。あとは合図待ちだ」

「OK。

さて、お前達はどこまで勘付けるかな?
魔法少女諸君」

大通りにキャタピラで移動してきたレミングは前後左右の四方に設置された足を地面に突き刺して車体を固定した。

そして砲身となる筒部分の周りを螺旋状の部品が包んでいき、先端にはパラボラ状のものが展開され、エネルギーチャージが開始された。

砲身の形状を見て何かを察したのか地上の魔法少女達、および船団がレミングに向けて攻撃を開始した。

レミング周辺には試作品の実弾を防げるバリアが用意されており、爆風のない武器は防げていた。

しかしイージス艦から放たれる主砲や魚雷を受けると地面ごと抉られてしまうため次々とシールドが脱落していった。

「守るだけではだめだな。ドローンを惜しみなく投入しろ!

戦闘車両は孤立せずライン陣形を維持。脱出する際は自爆処置を怠るな」

なんとかイージス艦の関心を逸らそうと、米軍は空中へたくさんのドローンを放った。蝗害で作物に群がる虫の如く各船をドローンが取り囲んだ。

「まだこんなにドローンを持っているのか!」

甲板にいる魔法少女達はドローンの排除で一生懸命な様子。

地上では砲身がついた戦車が並べられていて、魔法少女がいると思われる場所へ容赦なく徹甲弾が撃ち込まれはじめた。周囲のビルはレミングの方向へ倒れないよう破壊され、その瓦礫が魔法少女達の行手を阻む。

「チャージは!」

「60%到達!」

「100にならないとダメだ!踏ん張り続けろ!」

瓦礫を乗り越えてきた魔法少女達によって戦車が破壊され始めた。中には動けなくなった戦車を持ち上げ、レミングへ叩きつけてくる魔法少女もいた。

レミングの砲身に当たることはなかったものの、左前側の足が破壊されたことでレミングの照準が左前側へ傾くことになった。

レミング操舵手が残った3本の足を打ち込む深さについて調整を開始し、照準のブレが発生しないようにしていく。

破壊された戦車では自爆装置が発動してそれに巻き込まれる魔法少女が現れ始めた。自爆装置が不発し、使用不可能のまま残ってしまった車両は米軍がロケットランチャーで利用される前に破壊するようにもしていた。

レミングを守るシールドが剥がれ始めた頃、充填率は90%に達していた。

レミングは照準の調整を続けていたが、なかなか船団の母艦をロックできずにいた。

「照準がブレてとらえられない!」

「自動照準に頼るな。

マニュアルで合わせるんだ、訓練で使っていたエイブラムスと同じだ」

「長さも何もかも違うのに何を言ってるんだ。

うわ!」

魔法少女達がレミングのある地面を削り始め、バランスを崩すのは時間の問題であった。

「レディ!レミングの防衛、100%まで耐えられません!」

「情けないな。まあ米軍にしては耐えた方と思っておくか。

マッケンジー!予定より早いが地上を手伝ってやれ。その後は予定通り進んだあとだ」

イザベラがマッケンジーに対して指示を出すと、ちょうどレミングを囲もうとしている魔法少女達の後ろ側にある地下鉄出入口から、液状のアンチマギアが地上へ放水され始めた。

「なんだ?!」

魔法少女達が驚いている中、地下からは液状アンチマギアを振り撒くドローンが展開され、レミングを取り囲むように液状アンチマギアが散布された。

「アンチマギア?!サピエンスか」

今度は道路の真ん中にあるマンホールが吹き飛び、地面を抉るように円柱が地下から飛び出した。その円柱に埋め込まれたアンチマギアを含んだ弾丸が周囲へばら撒かれ始めた。

魔法少女達は弾丸に当たらないよう瓦礫に隠れるように逃げた。

その隠れた先に試作品の光学迷彩でサピエンスの兵士たちが潜伏していた。兵士たちは迷彩を解いて逃げ込んできたソウルジェムめがけてハンマーを振り下ろした。

「遠慮はいらない。砕け」

魔法少女のソウルジェムが割れる音が響く中、ようやくレミングの充填率が100%に達した。

そして照準も定まった。

「いけます!」

「全員耳を塞いで口を開けろ!」

レミング周囲の兵士には自己防衛指示が出された。

「放て!」

ダリウス将軍の指示を合図にレミングは発射された。

サピエンスの兵士たちはマッケンジーの指示で衝撃に備える動きが優先された。

レミングの発射に備えられなかった周囲の魔法少女達は発生した衝撃によって生まれた音で耳が破壊されてしまった。

目に見えない衝撃が魔法少女の船へ到達する前に船から魔法少女達は飛び降りていき、ほぼ無人となった船団の中央にある船には見えない衝撃が命中した。

船は正面から押し潰されたかのように圧縮され、破片を撒き散らしながら海めがけて飛んでいった。

「やったぞ!」

レミング周辺の米兵は目標の撃破に喜んでいた。

しかし周囲にある10隻のイージス艦はまだ浮いた状態だった。

10隻のイージス艦にはスクリュー部分に何かが点火し、加速をかけ始め、全てがミサイルほどのスピードとなってある一箇所に向かって進み出した。

「残りの船が特攻を仕掛けてきます!」

「目的地はどこだ!」

「ペンタゴンのシールド展開!安全が確保されるまで電源は全てシールドに回せ!

全員!衝撃に備えろ!」

10秒もしない間にイザベラがそう指示を出すとペンタゴンにはレミングに使用されていたものよりも強度が高いシールドが地上および地下にある施設を囲うように展開された。

勢いよく特攻してくるイージス艦を止められるものはなく、すべてが五月雨にペンタゴンへ突撃した。

その一つ一つが爆薬を積んでいたのか大きな爆発を起こし、ペンタゴン内は地下の施設にいても立っていられないほどの衝撃が襲った。

立ったままであったイザベラは揺れに耐えられず倒れそうになったが、キアラがイザベラを抱きかかえてイザベラが直接床に倒れないよう守った。

座っているサピエンスの司令部にいるメンバーには強い揺れで椅子から転げ落ちてしまう者もいた。

同時に街中では衝撃砲の反動に耐えられなかったレミングが爆発し、魔法少女の船から脱出した魔法少女達が着陸していた。

皆が大きな爆発が発生したペンタゴンの方を見ていた。

サピエンス本部は揺れが収まって数秒は真っ暗だったものの、予備電源が起動して薄暗く赤いランプが室内を照らし出した。

ほとんどのメンバーが床に倒れている中、いち早く態勢を整えたのはダリウス将軍だった。

「ダメージレポート、急げ!」

急いでオペレーターたちが席につくと、画面が荒い中でペンタゴン周辺の損傷状況を調べ出した。

イザベラは近くにいたキアラに起こされる形で立ち上がった。

次々とメンバーが起き上がっていく中、オペレーターが報告を始めた。

「報告します。

ペンタゴンの施設自体はシールドにより無傷。

全ての電力がシールドに消費され、一瞬の許容量を超えたため主電源はオーバーヒートを起こして停止。そのため現在はシールドが消滅しています。

施設内は全て予備電源で動いています。

ペンタゴン周辺は大きく吹き飛び、ひどいところは地下3階まで地面がえぐれているようです。

他は監視カメラが死んでいて状況つかめません」

「施設を無傷で守れたならば上出来じゃないか」

司令室内が安堵の空気になる中、アラームが鳴り響く。

「魔力反応だと、どこだ!」

「大西洋側で、レミングで吹き飛ばしたものと同型である船の反応です!」

大西洋側のペンタゴン近くに姿を消していた船は透明化を解き、同時に消えていた影も出現した。

「やはりきていたか」

「シールドは現在使えません!」

「この段取り、全てこのためか」

空飛ぶ魔法少女の船は主砲をペンタゴンへ向けていた。

「カルラ、アンテナが破壊される前に籠の鳥プログラムを進めなさい!

「了解」

カルラは通信を切った後に同じ部屋にいる研究員へ指示を出した。

「籠の鳥の指示が出た。籠の中にいる鳥の感覚を消しにかかる。デコーダ起動!」

「了解。デコーダのネットワークへの接続開始。

全ての掌握まで30秒」

その間に主砲が発射され、それは地下三階付近の地面へ直撃した。

カルラ達がいる場所は地下10階のため衝撃が伝わってくる程度だった。

「デコーダOKです」

「悪く思うなよ、これも試練だと思え。

デコーダ発動!情報の覗き魔へお仕置きをしてやれ」

デコーダと呼ばれるヒューズのような見た目をした手のひらほどのサイズがある装置は内部の芯が発光し、一時的に世界中のネットワークがダウンした。

この事態に驚いたのはヨーロッパにいるミアラ達であった。

「ミアラ!世界中のネットワークが」

「悪影響は相手側にもあるはず。どういうつもりだ」

ミアラが不思議に思っていると、一瞬の間にミアラには世界中のデータ量が5倍に増幅された情報量が流れ込んできた。

固有魔法としてあらゆる情報を収集する能力を持つミアラは立ち話だけではなく、ネットワーク上の情報も隅々まで収集してしまう。

普段は魔法少女達の隠れ家にある情報処理装置の補助があって問題は出ていなかったが、大量のデータが流れ込んだことで補助装置も破壊されてしまった。

装置をいじっていた魔法少女は突然端末から火花が飛んでその場に倒れてしまった。

「一体何?」

装置から火が出てしばらくするとミアラは耳から血を出して倒れてしまった。

「ミアラ?!」

「ミアラしっかりしてよ!」

「どうしよう、マギアネットワークも機能しなくなっちゃったよ」

「ミアラ起きて!私をひとりにしないでよ、ミアラ!」

魔法少女達はミアラの能力を経由したテレパシーを世界中で共有できるマギアネットワークという通信機構を用意していた。

これによって世界中の統制をとっていたが、ミアラが倒れたことでマギアネットワークが機能しなくなってしまった。

それは戦場ですぐに影響が出た。

「なんだ、情報が流れてこなくなったぞ」

「カレン達はうまくいったのか!」

デコーダがうまく稼働したことを魔法少女達の反応で察したカルラは研究員たちへ次の指示を出した。

「デコーダとのつながりを持たせたままネットワークの再起動を開始しなさい」

「でもよいのですか、テレパシー遮断を止める予定で通常ネットワークとつなげたままって」

「かまわないさ、最悪の状態になったときのための保険だ。
気にするな。すべての責任は私が負うさ」

「わかりました。予定通り進めます」

通常のネットワークが再稼働した後、カルラはイザベラへ通信を行った。

「籠の鳥プログラム、鳥たちから感覚を奪い去る事に成功。
通常のネットワークは正常に再稼働された状態になったことも確認。
次の段階へ移ることができる」

「了解。

籠の鳥プログラムはへんげの段階へ移行しなさい!

全員、戦場に出てすべてを魔女化させなさい」

それを合図にアンチマギア製造施設がある各国では魔法少女達の背後をとる形でサピエンス所属の兵士たちが魔法少女を奇襲した。

「なに!一体どうなってるの?!」

「こんなの聞いていないわ。アメリカではどうなっているの!」

ロシアに現れたサピエンス部隊は魔法少女達へ液状のアンチマギアを放水し、銃ではなく液状のアンチマギアを浴びせて動きを止める作戦を実行していた。

退路を塞がれる形でサピエンス部隊が出現したため、魔法少女は逃げ場がなくわずかな安全地帯を探すために走り回った。

施設の外に出れば合図と共に地上へ出現したサピエンス部隊の銃弾が待っており、アンチマギアの銃によって魔法少女達は倒れていった。

生き残っていた一般兵にはサピエンスの兵士たちからアンチマギアが練り込まれた武器が手渡された。

「待たせたな。反撃といこうじゃないか」

「ほんとに遅いぜ。でもありがたい!」

世界中でサピエンス部隊が動き出した頃、大西洋側に現れた船はペンタゴンの地下を掘るように主砲を放ち続けていた。

魔法少女の船はペンタゴンの壁ではなくただひたすらに地面へ主砲を撃ち込み、空いた穴へ追い打ちで魚雷を8発撃ち込んだ。

さらには船首部分へ魔法で生成されたドリルが出現し、地下7階まで穴を開けた。魔法少女の船が地面へ突き刺さる状態のまま、船はなぜか突然に機能を停止した。船の中にいた魔法少女は全員外へ出て、地下7階に当たる場所へ爆弾のようなもので穴をあけてペンタゴン内部へなだれ込んだ。

サピエンス本部では地下7階で魔法少女の反応があったことを確認していた。

「随分とショートカットしてくれたじゃないか」

「イザベラ、そろそろ」

「そうだね」

イザベラはディアに対して回線を繋いだ。

「準備しなさい。ほぼ無傷でくるわよ」

「了解」

無機質な返事を聞いた後に通信を切り、イザベラはダリウス将軍へ指示を出した。

「将軍、ここから各部隊への指示はあなたに一任します。私がいなくなった後にみんなで逃げ出してしまってもいいですよ」

「ふん、そこまで無駄口を叩けるならかえって安心する。

安心しろ、最後までこの国のために尽くすさ」

「臆病な方が長生きしやすいですよ」

「十分憶病に生きてきた人生だ。私だけでも最後まで抗うさ。
過去のように魔法少女の前から逃げ出すようなことはもうしない」

「ではフィラデルフィアのコイルを盗まれたときの教訓、今一度しっかり見せてくださいね。

キアラ、行くよ!」

「了解」

イザベラはキアラと共に侵入してきた魔法少女を迎え撃つために司令室を出た。

 

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