保別ピリカの記憶
私がまだ一桁の年だった頃、アイヌの村で生活していました。
この村には、村を脅かす存在を夜な夜な切って回ったという言い伝えがある刀が奉納されていて、村の長からは決して奉納櫓に近づくなと強く言われていました。
なんでも村の長が使える術によって封じ込まれた刀らしく、変に刺激を与えると術が溶けて人を襲い始めるらしい。
その刀は、人によっては「人喰い刀」と呼ばれていたそうです。
でも私たち子どもが好奇心で奉納櫓に侵入して、奉納されている刀を目にすることとなったのです。
その刀を目にした時、私は声を聞きました。
[足りない、足りない!私たちにひどいことをしたあいつらの血が!]
その言葉を聞いてから私は意識を失い、気がつくと村は荒れ、家が燃え、地面には多くの死体が倒れていたのです。
そして左手には血だらけの刀を手にしていて、皆が恐れた顔をしていました。
私は目の前に広がる光景に絶望し、膝をついて涙していると、目の前にキュゥべぇが現れたのです。
「願い事を教えてくれれば君たちの民族を救うことができるかもしれないよ」
私は藁にもすがる思いで願いました。
「わたしは、みんなに希望を与える存在になりたい!」
私がそう願うと私の周囲には三つの光が現れました。そしてその光はこう語ったのです。
[この娘が殺したのはアイヌを脅かす存在達だ。どれだけ親しい間柄であっただろうが、いずれお前達には不幸が及んでいただろう。
強く生き、外界からの襲撃に備えなさい]
私には何を言っているのかわからなかったけど、年配の村の人たちがその光を目にして涙を流していました。
「カムイが、カムイが我らに直接語りかけてくださっている!
ワシらは今後も生きて行けるぞ!」
よくわからないまま村の人たちはやる気を出して村を再興して行ったのですが、その間に世界では大きな大戦が起き、村にはある話が入ってきました。
「隣の島から追い出されたアイヌ達が人攫いの餌食にあったと言う。どうやらアイヌをターゲットにしている賊がいるらしいから注意するように」
人攫いの魔の手は私たちの村にも襲いかかってきました。
きっかけは私が人食い刀を手にした際に殺した人間の中に人攫いの仲間がいたことです。
その人が生きていようと、この村が標的になるのは変わらなかったでしょう。
私は魔法少女として手に入れた力で抵抗しようとしましたが、村の人が人質となってしまったので皆そろって人攫いにとらわれてしまいました。
人攫いはいわゆる奴隷商人を生業としていて、奴隷という考えがなかったこの国でも大戦で歪んでしまったのか表では話題にならない程度に奴隷が出回っていたのです。労働力としての奴隷ではなく、主に欲求の吐き捨て先として使用されていたようです。
そんな奴隷として使える人材をさらっては求める人物へ金と交換していたのです。
私たちが牢獄に囚われている中、私は隙をついて牢を食い破り、皆を外へ脱出させることに成功します。
願いと共に降臨したカムイ達に村人、囚われていた他の人たちの護衛を頼んで私も脱出しようとしたところ、人攫いが雇っていた魔法少女が現れて私だけがそのまま囚われることとなりました。
そこからはひどい記憶しかありません。
私は商品として処女を奪われ、調教という名の拷問を何度も行われました。
時には偽名で売春婦として働かせられ、私の体は汚れていきました。
人攫い達はいくら客と交えても妊娠しない、鮮度が落ちないことで私を重宝し出し、折れない私の心を折ろうと何度も拷問にかけましたが私の心は折れることがありませんでした。
そんな間も多くの人がとらわれ、調教される場面を目にしてきました。
快楽に溺れ、戻ってこない子もたくさんいました。
この頃、戦争に負けてこの国は快楽を求めていたと言う話を雇われた魔法少女から聞いたことがありました。
だからお金がたくさん貯まるこの仕事がやめられないと言っていました。
この頃から、私の人嫌いが加速していったのです。
私はある日、新たに囚われたアイヌの子を目にしました。見覚えがない子だったので別の集落の逃げ遅れなのだろうと思いました。
しかしアイヌの子を拷問しようとする姿に耐えることができず、私は鎖を外そうと暴れました。
「そう暴れんなよ。あんたのソウルジェムは私が持ってんだ。下手に暴れるとソウルジェム割っちゃうよ?」
そう、私が抵抗できなかったのはソウルジェムを奪われてしまっていたから。
ソウルジェムは私の魂だとカムイから聞かされていたので抵抗することができなかったのです。
しかし、私は目の前で行われているアイヌの子への拷問とその叫び声に耐えることができず、私は眠っていた人喰い刀を呼び出したのです。
[もう私はあんたのものだ。思うがままに存分に暴れるといいよ]
ソウルジェムから人食い刀 イペタムが飛び出し、そのまま人攫いの魔法少女の腕を切り落としました。
イペタムはソウルジェムと共に私の元へ戻ってきて魔法少女姿となった私はそのアイヌの子以外の人を無差別に殺していったのです。
建物が炎に包まれた中、生きている子がアイヌの子だけとなったのですがその子は既に弄ばれた後だったのです。そして少女は涙を流しながらこう言ってきたのです。
「殺して…もう…生きていたくない」
私は強い悲しみに包まれ、叫びながら少女の心臓を貫いたのです。
朦朧とした意識の中後ろを振り向くと、そこには見知らぬ魔法少女がいましたが私はその場で気を失ってしまったのです。
私が目を覚ますと目の前にはお父さんとお母さんがいて、起き上がった私を抱きしめました。
「生きててよかった!もうそれだけでお父さん達は幸せだよ!」
建物の入り口には腕を組んでこっちを見る人攫いのアジトで最後に見た魔法少女がいました。
これがカレンとの出会いでした。
カレンは放浪の旅の中、路頭に迷うアイヌ達を先導して村の再建、護衛に手を貸してくれていたのです。
そして信用に値すると判断したカムイが、カレンに私の居場所を教えてくれたのです。
私はカレンの元へ向かってカレンの両手を強く握り締めました。
「私がいない中、みんなを守ってくれてありがとうございます!」
「お、おう」
その後人攫い騒動は何もなかったかのように終息し、皆は現代社会でアイヌが生き抜くための準備を進めていました。
私はそんな中、カレンから提案されたのです。
「外の世界を見てみないか?きっとヒトの汚い部分しか見てきていないと思うけど、表の一面も見て欲しいんだ。その上でヒトに対して判断を下して欲しい」
アイヌ以外の人嫌いになっていた私でしたが、カレンと一緒ならという思いで私は外の世界を見たくなりました。
わたしはお父さんとお母さんに相談し、わたしは外の世界へ旅立つ許可をもらえました。
「私たちはもう大丈夫だ。都会の人たちと共に生きながらもアイヌの文化を守っていくよ。
だからピリカは好きな生き方を選びなさい。カレンさんは信用できる人だから、お父さん達はあの人についていくことを否定しないよ」
こうしてわたしは決心し、人を見定める旅にカレンと共に出たのです。
結局人を否定する結果とはなったけれど。
ヒトはお金のためなら手段を選ばない。どんなにひどいことをしてもお金のある人が幸せなことになるというこの世界の価値観が大っ嫌いなのです。
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紗良シオリの記憶
シオリは小学生の頃、周りの子よりも物覚えが悪かった。
周りの子よりもたくさん勉強しても、テストをするといつも50点以下ばかり。
両親は教師でありながら海外で授業をまともに受けられない子ども達のために学ぶ場を設けてあげたいという夢を持っていたのですが、シオリは両親のそんな夢を邪魔していたのでした。
「シオリちゃんは周りの子と比べてものを覚えるスピードが遅いんです。
もしかしたら、ADHDなのかもしれません」
「わたしの子を勝手に病気呼ばわりしないでください!」
そうお母さんが怒る場面を転校した学校でよく目にしました。
「シオリのためだ。海外へ研修に行くことは諦めてシオリのために生きていくことにしよう」
「そうよね、それが第一よね」
シオリは両親の優しさが辛かった。物覚えが悪いというだけでシオリは両親の夢を奪ってしまうのだから。
シオリは悔しくて勉強しながらノートに涙を流していました。
そんなある日、深夜の部屋にキュゥべぇが現れたのです。
「紗良シオリ。僕なら君の願いを叶えてあげられるよ。
君は何を願うんだい?」
アニメに出てきそうな動物を目にしても、なんでも願いを叶えられるという言葉に踊らされてシオリは願ったのです。
「見たもの、聞いたものを絶対に忘れないようになりたい!
お父さん、お母さんのためにも!」
そう願ってから授業を受けると教わったことが頭から離れなくなったのです。それどころか目に入ったもの、聞いたことすべてを覚えていられるようになったのです。
おかげで6年生の頃には中学校の授業を専攻して受けられるほど私の学力が跳ね上がったのです。
英語も理解できるようになり、そんなシオリを見た両親は海外で授業を教えるための資格を取るために海外研修を受ける決心をしました。
シオリは中学校から海外の学校で学ぶこととなり、一緒に戦っていた魔法少女達からはすごい、頑張ってねという言葉をもらって、海外へ旅立ちました。
世界の時間の基準となる場所近くの海外の学校へ通うようになったシオリですが、日本で習った時のイントネーションとは違った現地独特のなまりに苦戦しました。
でもみんなは優しく教えてくれたし、覚えるのも早かったのですぐに溶け込むことに成功しました。
中学2年生となった頃は飛び級という制度があったので高校に通ってみないかと勧められました。
シオリは両親へ相談して学びたいことはどんどん吸収しなさいと促されて高校へ飛び級することとなったのです。
もちろんそんなシオリを羨ましがっていじめようとする学生もいましたがブラックジョークなんかをぶつけて周りを味方にしながら難なく学業に励むことができたのです。
そんな激変した生活でしたが、日常生活に支障が出ていました。
それは、魔法少女になってから一睡もできなくなったのです。どれだけ寝ようと布団に入っても寝ることができず、次第に寝るという行為すら行わなくなったのです。
夜は魔法少女として魔女狩りに勤しんでいましたが、雷を放つか帯で打撃攻撃しかできないしおりに対して先輩魔法少女から闘いを工夫しなさいと怒られてしまいました。
人間社会では飛び級できても、魔法少女としては初心者。
シオリは魔法少女には得意不得意があると察し、不得意を補うために現代技術を応用した戦い方を考えたのです。
チームのみんなが苦戦している中で鉄塊を高速で飛ばして魔女を蜂の巣にしたり、砂鉄を集めて刃を作ってプラズマカッターのように扱ったりと戦い方を変えただけで自由度が増していったのです。
そんな先輩魔法少女達と戦っている中、ソウルジェムがシオリ達の魂であること、ソウルジェムが濁れば魔女になってしまうことを知りました。
でもシオリは後悔はしていません。
お父さんとお母さんが安心して夢へと向かうことができたんだから。
中学3年の年齢となる頃には大学編入の相談をされましたが先行して学びたい分野が定まっていないので悩んでいました。
そんなシオリをメディアはADHDと思われた中学3年生は天才となっていたと紹介し、世の中は物覚えが悪いとすぐに病気だと決めつけることをやめて行きました。
少し恥ずかしかったけど、それで物覚えに苦労している子達の立場が救われるのならいいかなって思いました。
シオリの両親は海外研修を終えて、見事に海外で勉強を教える資格を取得することに成功しました。
シオリは両親が海外で働くために一度母国へ戻ることとなりました。
海外の生活も悪くはなかったけど、今後はたくさんの国を回ることになるし、シオリも頑張らないと。
魔法少女チームのみんなに別れを告げて、シオリと両親は飛行機に乗って母国へと戻ろうとしました。
しかし、その飛行機がシオリの生き方を変える転換期となったのです。
飛行機はある宗教に心酔したテロリスト達に占拠され、そのテロリストたちは西の大国へ飛行機を落とそうとしたのです。
シオリは客にもテロリストが潜伏していると思うとなかなか手を出せずにいました。
そんな中、なかなか言うことを聞かない操縦士を脅すためにテロリスト達は人質を選定し出しました。
「5分経過する度に乗員を一人ずつ殺す。乗員を殺されたくなければ言う通りにするんだ」
そんな人質にシオリのお母さんが選ばれてしまったのです。
シオリは思わずテロリストに手を出してしまい、潜伏していたテロリストに脇腹を撃たれましたが魔法少女姿となって母親の手を離しませんでした。
お前達の倫理観にシオリ達を巻き込むんじゃない!
必死に抵抗していると、操縦席で銃声が聞こえた後に飛行機は急降下を始めたのです。
飛行機内には悲鳴が響き、瞬く間に飛行機は地面に打ち付けられてシオリは身にかかったGと衝撃で気を失ったのです。
気がつくと目の前にはぐちゃぐちゃとなった飛行機の残骸と吹き飛ばされた肉塊が広がっていました。
シオリの体には飛行機の部品が刺さっていて心臓を貫いていましたが魔法少女だったので生きていました。
そんなシオリが目線を下に下ろすと血が大量に吹き出し、四股や頭が散り散りとなった両親を目にしてしまったのです。
「お父さん、お母さん?」
シオリは心臓から部品を抜き取り、血を垂らしながら両親の元へ歩み寄りましたが、生きているはずがありませんでした。
シオリの目からは涙が溢れ出し、全てを奪ったテロリストに対する強い怒りが込み上げました。
「ヴァアアアアアアアアアアア!!!!!」
シオリは空を見上げて強く叫び、何かに塗りつぶされるかのように目の前が真っ暗となったのです。
目覚めることがないかと思ったけど、ある二人の声を聞いて久々に目を覚ますという感覚を体験しました。
シオリを助けたお人好しはカレンとピリカという二人の魔法少女。
シオリはなぜ助けたと二人に向かって怒鳴りましたが、二人はシオリが必要だと言い張るばかりでした。
シオリは一人になりたいとその場を離れますが、カレンが後をついてきたのです。
「ついてくんなよ!」
「たまたま行きたい方向が同じだっただけさ。そうかっかするんじゃないよ」
そう言ってシオリが座り込んだ木の隣の木へカレンが座った。
「シオリ、この世が憎いか」
「何を言い出すの、シオリが憎いのは倫理観が狂った奴らよ」
「もし、世界の在り方を変える力を持つ者がいると知ったら、シオリは興味を持つか」
「そんな奴が本当にいるなら、出会ってみたいに決まっているでしょ」
「じゃあ一緒にそいつへ会いに行かないか?どうせこのまま生きながらえても暇だろ?」
世界の在り方を変える奴なんて聞いたことがない。嘘に決まっている。
「嘘じゃないよ、紗良シオリ」
声を聞いて振り向くとピリカとキュゥべぇがいました。
「嘘だとぶっ飛ばすよ」
「嘘ではない。西側の国に昔に栄えた錬金術を扱える魔法少女の素質を持つ少女がいるんだ。
彼女は世界を変えるほどの素質を持つ。もし彼女に関われば、君たちのやりたいことも達成できるんじゃないかな」
錬金術
姿形は化学へと変えて現代にも残り続けているけど、本場の錬金術は異端だと罵られて姿を消したと聞いている。
でも極めたものは神に近い力を奮ったとも聞いている。
「それが本当なら、シオリはこんなところで腐ってるわけには行かないね」
「それじゃあシオリ、共に来ないか。
一緒にこの世界の在り方を変えるために」
「いいよ。でも、シオリをしっかり満足させてよね」
「刺激たっぷりの余生となることを約束するよ」
こうしてシオリはカレン、ピリカと共に行動することとなり、噂の錬金術師と出会って聖遺物を集める活動を開始しました。
そんな中でシオリは師匠から錬金術を学び、今でも活用しています。
師匠が死んでからは貰った力を使い、師匠と目指した世界を作るために活動してきたのです。
人類史を壊し、魔法少女の時代を始めるという夢を。
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私は現実に戻り、2人の激動の歴史を一気に見て体がふらつきました。
だから、ここまでしてヒトを殺そうと。
私は攻撃の気配がしてすぐに避けましたが、糸が脇腹を切りつけて行きました。
顔を上げると怒った顔のカレンさんが手を伸ばしていました。
「見たのか、シオリとピリカの記憶を!」
「見られたら仕方がないね」
「私たちと行動を共にするか、ここで死ぬか選びなさい!」
ピリカさんが刃を向けてきたのでももこさん達の方を見るとソウルジェムを残されたままボロボロになって気絶していました。
「協力はしますが傘下に加わる気はありません」
「そうか、じゃあ一緒にずっとついてきてもらうよう協力してもらわないといけないね」
「なぜ、記憶を覗かれることを嫌うのですか」
「嫌に決まっているだろう!知られたくないこと、掘り返されたくないこと。
それを見られて怒らない奴がどこにいる!」
場の殺気が強まったので私と出現しているななかさん達は攻撃態勢に入りました。
「届けー!」
そう声が聞こえた方向を向くとういちゃんと桜子さん、灯花ちゃん、ねむちゃんが凧に乗ってこちらへ突っ込んできました。
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