みかづき荘にいたメンバーが揃ってカレンさんへついて行きました。
時間は19時を回っていますが、協力関係になりたいと申し出て来たカレンさん。
目的地は調整屋。
何かの罠だったとしてもこの機会を逃すわけにはいきません。
ただ黙ってついて行くのは気まずいので私はカレンさんの横に並んで話しかけました。
「あの、調整屋を襲った理由、あれは魔法少女のことを思ってですか」
「それは勿論ですよ。この街を回ってわかったことですが、魔女の数は減って来ていますよね。なおのこと、穢れのスピードが早まるのはデメリットにしかならないと思うんですよ」
「・・・敬語じゃなくてもいいですよ。堅くてくすぐったくなっちゃいます」
「そう、それはありがたいね。私も堅苦しいのは苦手なんだ」
「調整の話ですが、受けるのは自己責任だと、そう伝えて回るようにしました。
前の神浜ならともかく、今は協力してくれる方も多いので」
「それはどうかな」
「え?」
「簡単に強くなる方法があれば、誰だってイージーモードを求めて調整を受けるだろう。
それに魔女が少なくなればグリーフシードの奪い合いだって嫌でも増えるだろう。
ましてや魔女化しないシステムがあると知った有象無象は強さで差をつけるために調整を受けるだろう」
「それは」
「大元から潰せば終わるんだ。でもまあ、ここの調整屋は儲けを目的としているわけではないし、活動も自粛しているから追い込みはしないさ」
「ここの?」
みたまさんから調整の力は他の人から教えてもらったという話を聞いたことがあります。
その教えてくれた人のことを言っているのか、それとも教わった他の人のことを言っているのか。
「他の調整屋はグリーフシード目当の儲けに重みを置いた活動をしていてね。まさか3人もいるとは思わなかったよ」
「3人も!?」
「驚くだろう、魔力を調整できるのが知っている中でも4人もいたなんてさ。
この街の調整屋以外はグルで動いてたらしくてね、1人を殺したらフェロモンを感じ取った蜂のように集まって来たよ。
お得意さんだった魔法少女も連れて来てはいたが、まとめて潰したよ」
言葉も出ませんでした。私の知らない間に、カレンさんは神浜周囲にいる調整できる魔法少女を探して回っていたこと、そして、みんな殺してしまったこと。
敵に回してはいけないんだ、この人は。
「それで戻って来てみたら何だか黒いオーラを纏っている魔法少女がドッペル出して襲いかかってくるんだから驚いたよ」
「・・・実は、その黒いオーラの魔法少女について私たちも困っている状況なんです」
「ならば都合がいい。今回の話はそれに関わる」
話している間に調整屋さんへたどり着いていました。
調整屋さんは壁に開いた穴もそのままで、本当の廃墟のような状態でした。
「さて、協力関係になりたいって、どういう風の吹き回しかしら」
「今の神浜を見たらわかるでしょう。どこから現れたのか、どのような過程を経て生まれたのかもわからない黒いオーラの魔法少女が蔓延る現状。
これは自動浄化システムを世界へ広げる活動をしている場合ではない。だからですよ」
「しかし信用に至るまでの行いをあなた達は行っていないわ。調整屋の襲撃から始まり、紗良シオリによる襲撃事件の数々。
そう簡単に協力関係になることはできないわ」
「シオリの件は悪かった。あいつにはきつくお灸を据えておいたが、最近は悪さをしている感じではないだろう?」
「確かに最近はそう言った話は聞かないけど、手を出したことには変わりないよ」
だめ、このままでは協力できないまま話が終わってしまう。
今は一番争わなくていい方法、カレンさん達との協力を優先させないと。
「協力関係となる条件として、まずはあなたの魔力パターンを教えてください。
そして黒いオーラの魔法少女を助ける方法を探して、その情報を共有してください。それが条件です」
「いろはさん?!」
「そうだね、弱点を教えてくれるくらいの覚悟があるなら私たちも少しは信用できるかも」
「いいでしょう、私たちはそこまでしなくちゃいけないほどあなた達の組織に損害を与えていますからね」
そう言うとカレンさんは両手に糸によって形作られた扇を出現させ、何か踊りを始めました。
体をしなやかに動かし、周囲から何かをかき集め、天へ恵むような動きを流れるように行います。
そんな中、私たちにはカレンさんから眩いばかりの強い力を感じ取れるようになりました。
今までに出会ったことがないほどの、大きな魔力の反応でした。
魔力の大きさに驚いていると、カレンさんが鳴らした扇を閉じる音で我に帰ります。
そして右手を胸に当てて私たちへ向けて一礼しました。
「これで魔力パターンを感じることができるようになりましたかね」
「はい、すごく大きな魔力反応で驚いています。あの、今の踊りは一体」
「開示の舞です。これでも舞で戦うのが本来のスタイルでね、この開示の舞では魔力を多く周囲に展開するんで魔力パターンを曝け出すと言う欠点があるんです。
どうですか、これでもまだ私を疑いますか」
「魔力パターンは覚えたわ。これで何か変な動きをしたら追跡できるし、少しは見直したわ。でもこれだけでみんなは納得しないわ。
いろはの言うとおり、まずは黒いオーラの魔法少女を救う方法を提供して頂戴。それからよ」
ここにちはるちゃんがいれば、と思ってしまいましたが、カレンさんは協力姿勢であることをアピールしてくれています。このまま上手くいけばいいけど。
「それならばこちらも気になることがあるんだ。自動浄化システムの生みの親、マギウスの見解が知りたい」
「灯花ちゃんとねむちゃんは自動浄化システムに問題は起きていないって言ってるよ。2人とも真剣に考えている最中、です」
ういが進んで報告してくれました。
そういえば最近灯花ちゃん達と会っていないけど、望遠鏡の施設が壊された後以来会えていないことを思い起こします。
「自動浄化システムはドッペルを出した後ソウルジェムを浄化してくれると聞いています。ドッペルで穢れが消費されたにもかかわらず、またドッペルが出るということは、浄化システムが働いていないのでは、と考えていましたが考えすぎでしたか」
「あなた達はよく知らないはずの自動浄化システムを広げる方法を突き止めるほどの知恵があるはずよ。別の要因がないかという考えには至らないのかしら」
「ええ、ある程度要因であろうものは目星がついています。
だが、教える前にやるべきことがあるようだ!」
そう言うと同時にカレンさんは調整屋にあった廃棄された機械を糸で絡め取り、カレンさんの背後に投げ込みます。
すると何かが機械を斬って爆発を起こします。
爆風によって舞い上がったホコリによって周囲の様子を把握できない状況でしたが、カレンさんがいた場所からは赤い斬撃の軌道が見えました。
視界が良くなると、カレンさんがももこさんの大剣を受け止めている状態でした。
「ももこさん!?」
「今頃何をしに来た死に損ない。お前の輝きでは叶わないと知っておきながらまだ争うか!」
「当たり前だ。お前達の思い通りにはさせないぞ」
カレンさんの足元には見慣れた植物の蔓が現れてカレンさんを締め上げようとしますが、フリーハンドな右手で右足に絡み付いた蔓を切り落とし、左手で形作った剣を滑らせるように動かし、ももこさんの力が籠った大剣で左足の蔓を切り落とします。
すると素早く飛んできた水色の複数の槍を避けるように調整屋の奥へ移動しました。
「ももこにレナにかえで!今までどこにいたのさ」
ももこさん達は今まで行方不明者として捜索している最中でした。まさかこんなところで、こんな形で再会するなんて。
「鶴乃、それにいろはちゃん、こいつの話なんて真に受けるな。全ての元凶はこいつらだ!」
「いいだろう、主張してみろ」
「いろはちゃん達は知っていると思うが、私たちは調整屋を襲ったことを後悔させるためにこいつらを追っていた。
見つけることができたものの、私たちでは歯が立たなかった」
「肝心なのはここからでね、私たちはカレンに何かされた後、人の嫌なことが頭の中でぐるぐる回るようになったんだ。おかげで私はお父さんとお母さんを含めて人が嫌いになっちゃったんだ」
「そうなったのもこいつに負けてからよ。そしてレナ達が正気に戻った頃に目の前にいたのはななかさんよ。
ななかさんが言うには、私たちには呪いを運ぶ縁が結ばれていたらしいの」
「呪いを運ぶ、縁?」
「他の襲われた子達もななかさんに救われたって言っていた。その救われた子達に共通しているのが、最後に目の前にいたのがこいつってわけだ」
ななかさんがももこさん達を助けた?それに呪いを運ぶ縁が原因ってどうやって知ったの?
それが本当なら、その人達と出会っている、カレンさんが原因。
「真実かどうかはわからないぞ。
さあ、神浜マギアユニオンのリーダー、信用に至らない私を信じるか、不確かな情報で揺さぶる仲間を信じるか、あなた次第だ」
「全て知ってるくせによくそんなことを言えるな!」
口調が荒いももこさん、レナちゃん、かえでちゃんの目に光はありませんでした。
しかし嘘をついているようには見えません。
カレンさん達とは敵対するしかないの?
「いろはちゃん、ももこ達を信じるべきだよ!」
「俺もそう思うぞ」
「いろは、今は懸命な判断をすべきよ」
「・・・お姉ちゃん」
みんなの顔を見た後、カレンさんの方を向きます。
「ご采配を、環いろはさん」
私個人としてはカレンさんと協力したいというわがままを通したい。でも、今背負っているのは神浜の魔法少女達の総意。
なら、ならばみんなの意見を汲み取るしかない。
「現時点をもって日継カレンさん、紗良シオリさんを危険人物とします。危険行為を働いた彼女達を、拘束してください」
そう言うとみんなは一斉に魔法少女へ変身しました。
カレンさんは素早く調整屋の奥へ行き、グリーフシードが収められている棚を開きました。
「カレンさん、何をする気?!」
「杜撰な管理をする神浜マギアユニオンへグリーフシードの大量放置で何が起こるのかわからせるためさ。
それに、一般人を巻き込みたくないのだろう!」
そう言うとカレンさんは調整屋の地面へ計10個のグリーフシードを投げつけます。
投げつけられて地面へ突き刺さったグリーフシードのどれもがなぜか半分近く穢れを貯めている状態でした。
調整屋内は魔女の結界に包まれ、神殿のような景色に変わっていきました。
魔女の結界はグリーフシードを何かの展覧会のように個別のガラスケースで囲い、全てに創作中のタイトルがついていました。
そして周囲には様々な種類の使い魔が現れ、結界の外へ散っていきます。
「何をする気だ」
「グリーフシードっていうのはね、ただのモノではなく、生きている品なんだ。何の処置もしなければ周囲からどんどん呪いを収集して知らぬ間に使い魔が卵を孵化させるためにせっせと動き始めるのさ。
それが一箇所で一気に起きて、一箇所に呪いが集まるとどうなってしまうだろうね」
「みんな!孵化する前にグリーフシードを壊してください!」
そう言ってみんなが各グリーフシードの前へ移動しますが使い魔達が行手を阻みます。
「悪いが私達は日継カレンを倒す!」
「できるのか?あれから学んだか?それともwikiにでも書かれていたか?」
「余裕こいてられるのもいまのうちよ!」
「いいだろう、お前達の希望を輝かせてみせろ!」
私達はひとつひとつグリーフシードを潰していくことに専念していました。ももこさん達の方を見る余裕はあまりありませんでしたが劣勢であることはわかりました。
「全く、ももこったらどうしたのかしら」
「らしくないよね」
「理由なんか後でいいだろ、今はこいつをぶっ潰せばいいんだろ!」
フェリシアちゃんの強い一撃ですぐにグリーフシードが壊れてくれるのでとても頼もしいです。
「ももこさん達、まさかドッペルを使おうとしてるの?」
ピリカさんがそう呟いたのでももこさん達の方を向くとももこさん達には薄らと黒いオーラが見えていました。
「ダメよももこ、ドッペルを安易に使うのは!」
「何言ってんだやちよさん、こいつらを倒すにはドッペルを使っても足りないくらいだ!」
そう言うとももこさん達の体からはドッペルが現れてカレンさんへ集中攻撃を行います。
カレンさんはと言うと両手に鉄パイプを持って襲い掛かる攻撃を受け流すかのように動き回ります。
「く、何で当たらないのよ!」
4人の様子を見ている隙を与えないかのように結界内の使い魔達は私たちに襲いかかります。
使い魔達の動向を見ているとツアーガイドのような見た目をした使い魔が外からうつろな目をした人たちを連れてきていました。
「もう人を襲って連れて来てる」
「止めなきゃ!」
その列へカレンさんが降り立つとそこに構わずドッペルの攻撃が放たれます。
「だめ、そこには襲われた人たちが!」
しかし時すでに遅く、結界に入った人たちはドッペルが放った苔に包まれてその場で爆散して跡形も無くなってしまいました。
「そんな、人を構わず攻撃しちゃうなんて」
「ももこ達、正気じゃないわ」
その頃には7つほどグリーフシードが壊されている状態でした。
私は目の前の出来事にショックを受けてしまったのか、体が少し重く感じました。
周りを見渡してみるとみんな揃って動きが鈍くなっていました。
「何でだ、知らないうちに体に力が入らなく」
ももこさん達の方を向くと、手足が殴打されて潰れた状態にされていました。
「ドッペルなんてものを使おうが、中身が変わらないんじゃそんなものだ」
カレンさんはそう言うと私たちの手足へ地面へ擦り付けたせいか尖った鉄パイプで攻撃を加えて行きました。
私はクロスボウをつけている左手と右足を貫かれて思わず悲鳴を上げてしまいました。
「悪いね、ここで拘束されるわけにはいかないんだ。それにすでに弱点を伝えたはずだ、私は舞で戦うと」
「攻撃を避けながら、舞を踊っていたと言うの」
ダメです。こんな全てが器用な人にかなうはずがない。
そう諦めかけた頃、カレンさんがういの目の前にいました。そんな中でもういは立ち続けていました。
「里見灯花と柊ねむに最も近いのは環うい、君だけのはずだ。大人しく2人の居場所を教えてくれれば痛い思いをしないで済むぞ」
「ういに、手を出さないで」
「姉が妹を助けられないという心情は、辛いよな、環いろは」
その言葉は皮肉には聞こえず、真っ直ぐなカレンさんの正直な思いである感じがしました。
「教えないよ!悪い人には、2人の居場所は教えません!」
「そうか、残念だな」
そう言うとカレンさんは鉄パイプをういに、向けて。
「ダメ!!!!!」
叫ぶのと同時に目を閉じてしまいました。それはそうです、目の前で見たくもない結果になろうとしていたのですから。
恐る恐る目を開けるとういは無傷でした。
カレンさんはというと、ういの反対側を向いてピリカさんの攻撃を受け止めていました。
「ピリカさん!」
「へぇ、足は射抜いていたはずだけどね」
「痛みなんてどうとでも」
魔女の結界内にいる私達はみんな揃って手、足の片方は筋部分をピンポイントで射抜かれていました。
そう、回復魔法がなければ立ち上がることもできないはず。
この人は一体。
「立ちなさい神浜のリーダー!それでも数十人をまとめる魔法少女ですか!」
少々怒り気味のトーンでそう語りかけて来たピリカさんはカレンさんと引き続き戦っていました。
回復魔法を使えるとは言え、アキレス腱を修復するには時間がかかります。その間はピリカさんの戦っている様子を見ているしかありませんでした。
炎の剣から出る斬撃はカレンさんに振り払われ、カレンさんが片方の鉄パイプを回転させながら投げつけますが、剣や槍を踏み台にしてピリカさんが避けてと武器で時々つばぜりあってはお互いの攻撃を交わすという繰り返しでした。
そんな二人の覇気に押されてか使い魔達は近づこうとしません。
「ういちゃん、孵化しそうなグリーフシードはまだ三つも残ってる。今のうちに壊しちゃおう!とはいっても私は動けないんだけどね」
「わかりました!」
私も早く動けるようにならないと。でも、痛みも相まってなかなか集中できない。
私たちに立ち塞がるあの人達とは、次元が違いすぎることを思い知らされます。
ピリカさんは魔法を使っているのに、カレンさんは鉄パイプしか使っていない。
踊りで魔力は使ったとはいえ、鉄パイプしか使っていない魔法少女に負けてしまうなんて。
でもおかしい、ここまで戦えば穢れも溜まってドッペルが使えるはずなのに、私のソウルジェムには半分しか穢れが溜まっていません。
「ここまで平気に立っていられるなんて大したものだね」
「生憎、命を奪うのは避けてるモノで。でも、もう命の保証はできませんよ。
ワッカ!濁流とか化せ!
カンナ!ターゲットへ招来せよ!」
「律儀に詠唱するから遅れるんだ!」
カレンさんは詠唱のために立ち止まっていたピリカさんの脇腹を狙いますが、絶妙に体をずらしたおかげでピリカさんはかすり傷で済みました。
その後、カレンさんの周りは水の壁で囲まれてその周囲へ幾つも落雷しました。
そんな中ピリカさんは何かを唱えていました。
私はようやく立ち上がる程度まで回復すると、ういが戦っているおかげで無防備になっていた二つのグリーフシードを射抜いて破壊しました。
「お姉ちゃん!」
「遅れてごめん。あと一つは」
「カレンさんの後ろです」
さなちゃんの声の通りカレンさんの方を向くと、ピリカさんが首長竜のような生き物に乗った状態でした。
カレンさんはというと、落雷を受けたのか服が所々焦げていました。
「ここまで追い詰めたのは褒めてやるよ」
「すみませんが、痛い思いをしてもらいます。
ポンベツカムイ、目の前の魔法少女を」
「だが時間切れだ」
カレンさんがそういうと、後ろの方にあったグリーフシードから見慣れたウサギの見た目をした魔女が生まれて来ました。
魔女はカレンさんを無視して動けない鶴乃ちゃん達に襲いかかりました。
「仲間と殺意どちらを選ぶ!」
「くっ、ポンベツカムイ、魔女を葬りなさい!」
そういうと首長竜はヒレで魔女を結界の壁へ叩きつけ、その場でジャンプすると着地と同時に強力な水の衝撃波が魔女を襲い、それを受けた魔女は水でも消えない炎に包まれてしまいました。
魔女はしばらくその場でもがきましたが、やがて動かなくなってチリとなってしまいました。
すると魔女の結界は消えて、入って来た時よりも荒れた調整屋にいました。
「そう、一度魔力パターンが分かっても直ぐに魔力を感知されないようにされると追うこともできないってことね」
「そういうことです」
「ピリカさん」
「みなさん無事のようですね。それだけでもよかったです」
笑顔で返されてしまいましたが、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
「グリーフシードの保管方法、カレンさんも言っていましたが改める必要はあるかと思います。
時女一族の人も驚いていましたよ」
「え、静香さん達も」
どうやらピリカさんが調整屋に運ばれて来たときにグリーフシードの場所を知ったそうです。
いくつか穢れが満ちそうなグリーフシードをキュゥべえの場所まで持っていってくれたそうです。
「グリーフシードの保管方法については後日考えることにしましょ。まずはももこ達に話を聞かないと」
ももこさん達の手足はすでに元に戻っていましたが、すごくダルそうにソファへ座っていました。
みんなは足を負傷しているため床に座ったまま話が進みました。
「あなた達、いったい誰に助けられたか教えてもらえないかしら」
「ななかさんに聞いたんだけど教えてくれなかったんだ。試しに聞いてみるといいよ、結果は同じだろうけどさ」
「かえで、構わず人をドッペルで殺したよね。あれってどういうこと」
「どういうことって、邪魔だったし、別に気遣う必要もないし」
「はあ?」
「鶴乃、私達はもう人なんてどうでも良くなっちゃったのさ。黒いオーラに包まれた魔法少女はみんなそうさ。ドッペルを出し続けている間に、人が嫌いになっちゃったのさ」
「何よそれ、そうなっても考えを改めようとしないの」
「ないさ。人が変わらない限りね」
レナちゃんはいきなり重そうな体を起こし、私の前まで来て手を差し出しました。
「あんた達動けないんでしょ。肩貸すわよ」
どうやら魔法少女への思いやりは今までのようです。
満足に動けない私達はももこさん達におんぶられてみかづき荘への帰路についていました。
切れたアキレス腱を修復する際に激痛が伴ってしまうということもあり、何があっても安心できるみかづき荘に着いてから直そうという話になりました。
「そういえば、ももこさん達も重症だったはずですが、私たちよりも回復が早いのはどうして」
「魔法少女って魔力を使えば人よりも怪我の治りって早いだろ、直す際にも修復の過程で痛みも伴うけどさ、痛みを遮断しちゃえば結構治るのが早くてさ」
「痛みを、遮断」
「危機感が鈍るからあまりお勧めしないわよ」
痛みを遮断だなんて、そんなことをしちゃったら本当に私達は人をやめたことになってしまう。
私はまだ、人でありたい。
じゃないと、対等に向き合えないから。
「いろは!」
やちよさんの叫び声を最後に、私は気を失ってしまったようです。
いろはさんに魔力の篭った石が投げつけられ、いろはさんは気を失ってしまいました。
そのあと間髪入れず、レナさんが何者かに襲われるといろはさんの姿が見えなくなりました。
周囲を見渡すと、月を背に家の屋根の上でいろはさんを抱える魔法少女の姿がありました。
「蘇生の力を持つ環いろは、貰い受ける」
「御園かりん、あなた!」
かりんという魔法少女はそのまま何も言わず何処かへ姿を眩まそうと逃げ出します。
「レナさん鶴乃さんを頼みます」
「ちょっとあんた!」
私はおんぶっていた鶴乃さんをレナさんに渡し、かりんさんを追いかけました。
いろはさんを助ける目的で行動していましたが、嫌な予感がしたのでかりんさんを追いかけていました。
かりんさんから、魔力の反応がしないからです。
魔力を感知させない力はそう簡単に身につけられるモノではありません。付け焼き刃でも擬似的に魔力反応を消すことができるのは一人しか知りません。
かりんさんが辿り着いたのは見覚えがある廃墟でした。
私が廃墟の中に入るとそこには。
「数分ぶりだね、ピリカ」
「カレン、あなたどういうつもり?いろはさん達にちょっかい出したり調整屋を襲ったり。
調整屋はともかく、いろはさん達は」
「環いろはは計画に必要不可欠な存在だ。今回はその先駆けさ」
「先駆けって」
「いろはさんには先輩を助けてもらいたからさらったの!他の人が一緒だと絶対話を聞いてくれないと思って。
だからこの人たちに協力してもらったの!」
「かりんさん、そうですか。あなたがアリナ・グレイさんを唯一助けたいと思っているという方でしたか」
「もう時期シオリは視察から戻ってくるだろう。それから詳細な話を」
ドサッ
突然裏口から何かが倒れる音がしたので恐る恐る見に行きました。
そこにはびしょ濡れで傷だらけのシオリが倒れていました。
「シオリ!」
「どういうことだ、お前がここまでボロボロなのは久々だぞ。何があった」
「してやられたさ、あいつらが、常盤ななかたちが!」
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