1-6 機転

再び本棚がある部屋へ辿り着き、気づかれるの覚悟でペン状のライトを点けて室内を調べた。

しかし倒れてくるであろう本棚に近づかず調べても、隠れられそうなのはかろうじて本棚の下にある隙間だった。

本棚の下にある隙間へ隠れる覚悟で先ほど倒れた本棚へ近づくと、再度倒れてきた。

外から化物が駆け寄ってくる音が聞こえる中、倒れた本棚に隠れていた壁に灯りが当たった。

するとその壁に隙間が少し見え、その隙間から見える壁の厚さは突き破れそうなくらい薄かった。

まさかの逃げ道が見つかり、私はその壁へ飛び込んだ。

その先はバグった廊下によって入れなかった部屋だった。

すぐに入れそうな戸棚があり、そこへ私は身を潜めて灯りを消した。

化物は薄い壁を破ってこちらの部屋の様子を伺う仕草を見せていた

しかし目が悪い化物は部屋の中まで入ってはこないで本棚がある部屋からも出ていったようで周囲は静かになった。

私は戸棚から出て一呼吸した。

部屋の中はほのかに木材の匂いがした。

周囲が静かになっているので再度ライトを点けて周囲を確認することにした。

部屋の中にある机は切り傷やドリルで開けたような穴がいくつかあった。
机の所々には何かを挟む器具が取り付けられている。
そして窓際にはドリルがついた台、円盤状のヤイバがついた台が並んでいた。

私はここが拷問室に使われていたのかと思った。どこか危機感を感じながら目的地へつながる道を探した。

入ってきた場所とは反対側に扉をみつけたが、鍵がかかっていて入ることができない。

鍵がかかっていると知って私は職員室の鍵箱が一瞬頭をよぎったが、私はそこへ向かうことを強く拒絶した。
鍵箱に関わると再びあの危機を体験しないといけなくなるのではと。

この部屋だけで解決する方法はないか。

今の自分の体の大きさ、筋力を考えて力尽くという選択肢はまず消えた。

次に思い浮かんだ選択肢はピッキング。

とはいえピッキングに関しては全く知識がなくてやりようがない。

やってみないとわからないこともある。

チャレンジしようと思い、鍵穴の奥が見えるかライトを鍵穴へ近づけた。

その鍵穴、なんと何者かにすでにいじられた後なのかボロボロになっていていた。正規の鍵を刺そうとしても刺さらないほどの状態に。

前にチャレンジした者がやったのだろうか。

殺意と共にため息が出てしまった。

こんな救いようもない扉、どう開くことができるのか。

何か使えるものがないか拷問器具だらけの部屋を歩き回った。

とはいえ使い方がわからない道具だらけ。

ドリルのような道具は台に固定されていて持ち出せない。

見慣れたノコギリがあったものの、扉へ刃の入れようがない。

ノミとハンマーが使えそうではあったものの、それは扉の素材次第。

扉と周囲の壁を観察すると、扉は木材でできているようだった。

ノミを蝶番近くに当てて、ノミのかつら部分をハンマーで叩いた。

部屋に響く金属音は弱々しく、扉にはごくわずかしかノミが食い込まなかった。

その後何度か叩いたが、扉に穴が開くには途方もない時間がかかると察した。

私は自分の非力さに呆れて思わずフフっと笑ってしまった。

もうどうにでもなれだ。

私に力がないなら、力がある奴を利用するまでだ。

私はわずかに食い込んだノミを引き抜いて地面に投げつけた。

私は顔を上げた先にある廊下に繋がる扉を見て少し考えた。

無駄に死ぬよりは次のために、少しは試してみるのもありか。

ハンマーを持ったまま私はバグが発生している廊下側の扉を開いた

廊下のほとんどはバグに侵食されていて、人が隣の部屋まで通れる隙間はなかった。

そんなバグの中へハンマーの先端をつけた。

そしてバグから引き抜くと、ハンマーの先端部分がバグに巻き込まれ始めていたものの、ハンマーへの侵食はほぼ進んではいなかった。

やけになった私はバグった側を扉へ叩きつけるようにハンマーを振った。

部屋には大きな音が響いた。

その反動が腕に来て、私はハンマーを持ったままその場で腕を押さえてしまった。

ハンマーを叩きつけた部分は少しバグり始めていたものの、穴は開いていなかった。

その後狂ったように何度も扉へハンマーを叩きつけた。

そんなことをしていると化物が気づいて部屋へ駆け込んできた。

私は感覚が無くなりそうな左腕を振り上げながら、扉を背にして化物へ怒鳴りつけた。

「ほら!来てみろよ!」

化物は奇声を上げて突進してきた。

私は化物が目の前に来た頃に廊下側へ素早く避けた。

化物は勢いのまま閉ざされた扉を突き破った。

私は急いで行けなかった部屋の中へ入った。

ライトを照らしながら部屋の中を見渡すと、目的だった通信機と思われるものと、赤く光る玉を見つけた。

「やっと辿り着けた」

そう呟いた横では化物が起き上がっていた。

そして再度奇声を上げながらこちらへ飛びかかってきた。

私は右手に持ったライトを落とし、左手に持っていたハンマーを両手で持つ形で大きく振り上げ、化物の頭へ振り下ろした。
バグった側が化物の頭に叩きつけられると、物理法則を無視するように化物の動きがその場で止まった。

私が恐る恐るハンマーから手を離すと、化物の頭に食い込んだのかハンマーは化物の頭から離れなかった。

その後は糸が切れた人形のように化物はその場へ倒れ込んだ。

私は死んだか確認するためにライトを拾い、何度も化物の顔部分へ蹴りを入れた。

・・・びくともしない。

流石に死んだだろうと判断した。

それにしてもこうも簡単に殺せる相手だっただろうか。

そう疑問に思っている中、バグが徐々に化物の頭を侵食している様子が見てとれた。
バグが化物の頭を侵食してくれたおかげだったかもしれない、そう思った。

バグは化物の武器になるというのは良い収穫だった。

今度は勝ち誇ったようにフフっと笑ってしまった。

私は赤く光る玉へ近付いた。
赤く光る玉は私に惹かれるように近付いてきて私の中へ吸収された
その後はいつものように頭の中へ回想が流れた。

 

=========

洞窟内で生きて向かい合っている人物が2人いる。

2人の周りには戦闘が行われた痕跡があり、男女が1人ずつ血を流して倒れている。

生きている2人は共に女性で、片方は魔法陣によって手足が固定されている。

その魔法陣は黒魔法で生成されたもので、人間が扱える魔法ではない。

捉えられた女性はもがいて魔法陣から逃れようとしているものの、魔法陣はびくともしない。

「なんで他の仲間は殺して、私だけ生かしてるんだ。裏切り者のアドシア!」

話しかけられている側の女性は捉えられた女性へ語りかけた。

「私の偽装に気付けないあなた達が情けないのよ。

そしてアドシアなんて名も偽り。

※※※※というのが本名よ」

肝心の名前部分が聞き取れない中、捉えられた女性は驚いた顔をしている。

「何言っているんだ。それは邪神の名だ。馬鹿にしているのか?」

「私の名を語る奴が他にいるならば始末しているわ。

※※※※という名は唯一無二。

神本人があなたを認めたのよ。感謝しなさい」

「嘘だ。神というのはもっと神々しいオーラがあるはず。

なのにお前は、オーラもなく魔物の雰囲気もない人間と同じじゃないか!」

捉えられた女性が混乱する中、邪神は人間の姿のまま語り続けた。

「あなた、白魔法を使うのに魔法戦士をやっているじゃない?

白魔法に魔法戦士という概念は今までなかった。白魔法を使いながら前衛を担う場合はパラディンに属されるからだ。

あなたは最初にギルドで魔法戦士判定されて魔物の擬態だと騒がれていたわね。

でも後にあなたはリースウェルの名のもとに最初の白魔法を扱える魔法戦士であると認定された。

白魔法でありながら黒魔法のような攻撃系の魔法を扱える希少な存在が、あなた。

そんな希少な存在、欲しくなっちゃうじゃないの」

「なんで私の経緯を知っている。

リースウェル様は私をいつも見ていただいて、その結果お認めくださった。

そんなことを、なぜ邪神は知っている?邪神は私のことをどこまで知っているんだ」

捉えられた女性は体を震わせ始めた。

「私を、どうするんだ」

「どうするって」

邪神は捉えられた女性の顔を指差した。

「私たちの仲間になりなさい。この私が直々に指名しているのだから待遇は良くするわ」

「断る!殺すなりなんなりしろ!
なんでこの魔方陣びくともしないんだ」

捉えられた女性は即答し、一層魔方陣から逃れようと暴れだした。

「まあ、知ってたけど」

そう言って邪神が指をパチンと鳴らした。

すると捉えられた女性の周囲から紫色の霧と共にドス黒い触手が生えてきた。

「魔瘴気?!いやだ!魔物になりたくはない!」

魔瘴気は体内に取り込みすぎると魔力の要素が変異して白魔法を扱う者は黒魔法に適応してしまう。

その際に肉体の性質も黒魔法に適応できるよう、人間から魔物へ変わってしまう。

触手は先端から捉えられた女性に向けて黒い液体を放った。

黒い液体に触れた衣服や鎧に該当するものは溶けていってしまった

腕と足に少し布が残った状態で捉えられた女性はほぼ全裸になってしまう。

そんな捉えられた女性に触手は絡まっていき、魔瘴気と呼ばれる霧が捉えられた女性を包んだ。

捉えられた女性が魔瘴気を吸わないように息を止める中、触手は乳首とクリトリスをなぶりだした。

捉えられた女性はしばらく耐えたが、酸素不足が限界になったのか、快楽で反応してしまったのか大きく息を吸ってしまった。

それからは早かった。

魔瘴気には淫らな感覚にさせる成分が含まれていたようで、魔瘴気を吸い込んだ瞬間に捉えられた女性は何度も絶頂してしまった。

陰部が潤った頃、触手がそこへ潜り込んで膣内に向けて上下運動を繰り返す。

抗っていた捉えられた女性は素直になって行為を楽しんでいる。

ついに触手が液体を捉えられた女性の体内へ放つと、周囲にいる触手達は液体を捉えられた女性の体へ放った。

紫色の液体が滴る中、捉えられた女性は笑顔になりながらビクンビクンと痙攣していた。

その後も触手は捉えられた女性の口内にも侵入し、何十分もかけて液体を捉えられた女性へ何度も注入していった。

2時間近く経過した頃、捉えられた女性の肌は青白く変異し、腰からは蝙蝠のような羽が生えた姿へと代わっていた。

邪神が様子を見に来ると、触手達が成果を報告するかのように拘束を解きながら変異した女性を差し出した。

「さあ、これからは私のもとで頑張るのよ」

「はい…」

その後、白魔法を使っていた魔法戦士は黒魔法を扱い、白魔法に耐性がある魔物として人間の脅威となったという。

 

私はこうやって白魔法を扱う珍しい人間を魔物側へ堕とすのが大好き。

次のターゲットは、もちろんあの異世界から来た少女。

=========

 

回想はここで終わったようで、次の目的地がすぐに映し出された。

地下へ続く階段を降り、化物達がたくさんいる廊下を進んだ先に赤いランプがついた箱型の機械がある部屋に、次の球がある。

はっとすると現実の風景に戻ってきていた。

あの回想は、本来の私の記憶だと思って良いのだろうか。あんなことを好んでいたのか。

私はなんとも言えない気持ちになったが、魔法の知識は少しだけ思い出した気がした。

残念ながら、この世界は魔法という概念がないのか、使える気がしなかった。

ただ、バグに関しては僅かに魔力を感じられた。

再びバグを使って何かできそうな気はした。

そんなことより、今は老人から頼まれていた通信機とやらを持ち帰らないといけない

通信機はなんとか持ち上げられ、謎のケーブルを束ねて図書室まで運んだ。

廊下には化物が相も変わらず徘徊している。

私は手に持てる瓦礫を拾い、バグ空間の方へ投げた。

バグ空間で瓦礫が床に落ちる音を立てた。

その方向に化物達が我先にと走っていく。

廊下にいた化物達は綺麗にバグ空間へ入っていった。

流石の化物もバグ空間に入ったら二度と出てこないだろう。

私は化物の気配がなくなった廊下を悠々と歩きながら校長室へ戻り、梯子を登った後にケーブルを握って通信機を引っ張り上げた。

その後は板の橋で間違えて落とさないよう慎重に運び、屋上の階段脇に通信機を置いた。

あとはつづりに報告しないと。

そう思って階段を降り、昼間に時間を変えた。

 

 

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罰の園 1-5 崩壊

階段を降りる際はバリケードを守る男がこっちを見ていないことを確認しながら紫髪の女のもとへと急いだ。

紫髪の女とその付き添いは夜にも関わらず昼間と同じ場所にいた。

「なんであなた達はずっとここにいられるのよ」

「さあ、何故でしょうね」

あまりの理不尽な扱いの差に、私は思わず声を荒げて訴えた。

「私を試してるのはあなた達なの?!
見張りに見つかるだけで進行不能になるとか何考えているの!」

紫髪の女は無言で槍を出現させて石突を床につけた。その後は以前のように周囲の時間が止まった。

「メタなところをついてくるのはいつになるかと思いましたが、大声で怒り狂うほどとは」

「話を逸らさないで答えなさいよ!」

「結果から言うと、この世界で私とブリンクは部外者だから認識されていないのですよ

そう話しながら紫髪の女は付き添いのこの肩をたたいた。話の流れからしてブリンクとは、付き添いの子のことだろうか。

あなたのように別世界から飛ばされてきた方達は私達を認識できます。
実は身近にあなたと同じ異世界の方がいるのですよ」

「それなら、私があなた達と話している時って、外から見たら独り言にしかなっていないってこと?」

「そうですね」

わたしは紫髪の女と話している場面を思い起こした。今まで第三者には壁へ話しかけているように見えていたのかと想像したが、何の感情も抱かなかった。
そのためそうなのかとすぐに飲み込めた。

「周りの人は私に話しかけてくる。
・・・私はこの世界にとって部外者ではないと言うこと?」

「そうですよ。

最初は無造作に異世界から飛ばされてきているのかと思っていましたが、この世界に限っては法則があるようです。

その法則に、あなたも当てはまるということです」

「素直に答えなさい。あなた達はなんなの」

「私のことはつづりと呼んでください。

これでもあなたを見守る者です。

誤解を解くために言いますが、この世界で起きるあなたに対する理不尽や怪現象はこの世界の意思が行っていることです。

心が折れて自暴自棄になるのはこの世界の思う壺ですよ」

理不尽に対して抱いたこの感情は、この世界の思惑通りの結果ということ?

この世界に居続けることになったら、間違いなく狂ってしまう。

つづりならこの世界から助かる方法を知っているのか?

「この世界から抜け出せないの?」

「抜け出すことは不可能です。

でも、あなたなら助かる可能性があります。
そのためにも今は導きの光が求めるものを集めてください。

そうすれば、あなたがこの世界の標的となった理由もわかるでしょう」

「私は、何者なの?」

「教えたら失敗すると思うので教えません。

しっかり光を集め切ってください」

つづりは私のことを知っている。教えたら失敗するとは、何のことなのか。

考えているとブリンクから声をかけてきた。

「辛い世界だと思うけど、めげずに頑張って!」

励まされても、校長室への入り方がないのにどうすれと。

つづりは思いついたように話し始めた。

「そうだ。助っ人らしく助言をしましょう。

階段近くにいる老人へ話しかけてみてください。彼は協力してくれるはずですよ。

昼でも夜でも、どっちでも構いません」

私は話を聞いて呆れた表情をつづりへ向けていたと思う。

「このまま解放してあげたいですが、

あなたが大声上げたため監視役がすぐにでもこっちに飛んでくるでしょうね」

バリケードを守る男の方を見ると、時間が停止している今時点で驚いた顔でこっちを見ていた。

「昼夜を変えられる部屋に入ってください。

入ったことを確認した後に時間を元に戻します」

言うとおりにしないといけないことにどこか抵抗感がありつつも、私は昼夜を変えられる部屋へ行くしかなかった。

扉は開いた状態でそのまま入れたが、扉を閉めようと引っ張ってもびくともしなかった。

「時間が止まっているので動くはずがないですよ!

部屋の奥、見つからない場所へ待機してください!」

そうつづりから伝えられ、私は昼夜を変えられるベッドの陰へ隠れた。

隠れた後に周囲の時間は再び動き出し、バリケードを守る男は部屋の出入り口を確認した。

何も変化が起きていないと確認できたのか、困った顔をしながら元の場所へ戻っていった。

私はその後すぐにベッドへ寝転がり、世界を昼に変えた。

昼に変わったことは寝る前には聞こえてこなかった話し声が聞こえてきたことですぐにわかった。

部屋を出て階段方向に進むと、バリケードを守る男を見つけた。

男と目が合ったが、特に何かアクションを起こしてくることはなかった。夜の出来事で顔を覚えられたということはないようだ。

つづりに言われたとおり階段付近に座り込み続けている老人へ話しかけた。

「老人さん、校長室について何か知っていない?」

その話をしてまず先に反応したのはバリケードを守る男だった。

「お前、校長室に何の用がある?あそこはすでに」

「いや、このことは私が話すから良い。あんたらは気にするな」

老人はそう言ってダルそうにゆっくりと立ち上がった。

その後何も言わずに老人は屋上へ行ってしまった。

「変なことしようとするなよ」

そう言ってバリケードを守る男はバリケードの先を監視し始めた。

 

私は老人のところへ向かった。

老人は屋上から荒廃した街がよく見える金網フェンス近くに立っていた。

ずっと座りっぱなしだったにしては背中が伸びた状態で立っていて、老人にしては元気そうな印象を受けた。

老人の横に立って尋ねた。

「校長室への入り方を知っている?」

「知っているさ。

本題に入る前に教えて欲しい。警備室に入って何か見たか?」

私は警備室に入ってすぐに流れた映像のことを話すことにした。

「なんて読むのかわからない文字とともに、2人の女性が踊っている映像が流れたよ」

「ほう。

ってことは職員室にも入ったってことか。あの惨状も見たと」

「入ってすぐはただの汚い部屋だった。

惨状と言える様子に変わったのは、鍵の箱へ警備室の鍵を戻した後よ」

「そうか。今もあそこはオカルトな現象が起きるのか。

そこまで知ってかつ生きてそこにいるならば、つづりに言われた人物だろうな」

私はつづりの名前が老人からサラッと出たことに驚いた。

「あなたつづりのことを知っていたの?」

「知っているさ。俺のような異世界から来たやつはつづりと一度は会話してる」

驚いた。私以外にもこの世界へ迷い込んできた異世界人が本当に近くにいるなんて。

見ただけでわかるはずがないのに、つづりは見てすぐにわかるというの?

疑問が頭の中をぐるぐると回る中、やっと口に出せたのは次の言葉だった。

「あなたは、この世界の住人じゃないの?」

老人はこちらを見下ろしてきた。

「ちがうな。

俺はこの世界と似通った世界で電気技師をやっていた。んで副業として犯罪の仕事も請け負っていてな、電気を繋げたり切断したりとやりたい放題していた。

ヘマをして死んだらこの世界で目覚めたんだから、しばらく何が起きたのか理解できなかったさ」

老人が語り出してしまった。
校長室へ入る方法を教えてもらうだけでよかったのに。

「俺がここにいる間に異世界から来たという人物は大勢いた。多くの人は元の世界へ帰りたい一心で学校の外へ出ようと試みた。

だが、そのほとんどは帰ってこなかった。いい場所見つけて帰ってこないだけなのか、それとも。
まあ、多くは後者だろうさ。

そんな中で1人だけ、どう行ったか知らないが校長室から降りた先の1階から逃げて帰ってきた子が1人いた。職員室の怪奇現象を見てしまい、錯乱していたよ。

その子は今もここにいる。今は落ち着いているから、気が向いたら見つけてみるといい」

生還者がいたのか。降りた後どうなっているかわからないし、その子へ降りた先の情報を聞いてから向かうのが良いか。

考えを巡らせていると、老人は鍵を掌に乗せて渡してきた。

「俺はここから出ることは無理だと思ってる。

だがつづりから聞いた通り、あんたはなぜかあの化物の空間から生きて帰ってくる。

これを渡してもまた無事に帰ってくる。

そう思うからこれを渡す。

あの怪奇現象と似たことを言わせてもらうが、用が終わったら返してくれよ」

私は何も言わず鍵を取った。タグがついていて「校長室」と書かれていた。

「そうだ、その鍵で行ける先に機械室がある。

気が向くなら、そこから通信機を持ってきて欲しい。無事なものならどんな機種でもいい」

「そう…気が向いたらね」

私はこの後に一度つづりの元へ向かった。

その時にブリンクが話しかけてきた。

「おじさんから次の場所へ行く方法を教えてもらえた?」

「渡されたが正しい。

貴方は職員室から生き延びた人?」

「いや、つづりの付き人だよ」

「そう・・・」

ならばこのやりとりも周りからは独り言に見えているのか。

まあ気にすることではない。

「一つ忠告しておくと、あの老人の頼み事は聞いておいた方がいいですよ。

今後のためにね」

つづりは右手の人差し指を立てながらそう言った。

忠告してきたということは、ある意味やらないといけないということ。

光の玉集めで精一杯だというのに。

私は生還経験のある子についてつづりへ聞いた。

その人物は、階段近くの窓から外を見つめている子だという。

随分と近くにいたものだ。

生還経験のある子は私より背は高いものの、大人というよりも少女という印象を受けた。そして、なぜか生きている雰囲気が無いに等しい。心臓が動いているのかも怪しいくらい気配がない。

「貴方、校長室の下のことについて知っていることを教えて」

空気に話しているのかと思うくらい、誰かに声をかけたという感覚がない気がした。

少女はこちらを見た。

少女の目は虚ろで、窓の外へ向き直った後に話し出した。

「一階は化物たちの往来が激しい。特に階段付近は。

古参じいさんの頼みを叶えたいならその階段を横切る必要がある。夜に行ったけど、それでも一匹は必ず階段近くにいる。

隠れ場なんてないのに、あいつらは視界に入った私を視認できていなかった。夜だと極端に視力が悪くなってるんじゃないかな。その分音には敏感かもね、知らないけど」

「職員室の怪奇現象を見て逃げてきたっていうけど、一階にはバリケードがあったはず」

「校長室側から見て左側は人1人通れる。捲れる板になっているだけだから私でも逃げられた。あいつらは何故か通れないと思ってるけど。

困ったら使ってみたら?」

「ありがとう。参考になった」

「隠す必要がないから伝えただけ。

どうせ終わるだけの世界で、意味があることか知らないけど」

話はそこで終わらせた。

私は世界を夜に変えて、隣の校舎にある校長室前まで向かった。

校長室の鍵を開けて中に入ると、床に人力でこじ開けられたであろう穴があり、そこには下へ降りるための梯子がかかっていた。

私はそれを使って降りた。

降りた先は荒れた教室で、窓にはとたんが打ち付けられていて外は見えなかった。

とはいえ、隙間から月明かりは差し込んでいた。

扉の隙間から廊下の様子を伺うと、2体ほど化物が廊下を彷徨いていた。

私は床に落ちていた手のひらサイズの石ころを片手に、音を立てないようゆっくりと扉を開けた。

音に反応するのが事実ならば、この石を投げて階段から遠ざけられる。

もし情報と違って視力も働いているならば、扉を開けた瞬間に終わりを迎えるだろう。

音を立てないよう、ゆっくりと扉を開けた。

開けた先ではちょうど化物が目の前を横切った。

心の中では焦りがあったものの、心臓の鼓動まで止めたい思いで音を立てないよう頭の中で意識し続けた。

心臓の鼓動までは察知できないのか、こちらに気づくことなく進行方向へ去っていった。

どうやら視力が良くないのは本当らしい。

次に手に持った石を、階段がある方とは反対側の廊下へ勢いよく投げた。その後はすぐに扉の裏に隠れた。

石は金属音を立てた後に床へ落ちた。

廊下にいた化物たちは音が発せられた方向へ急いで走っていった

足音は2体ではなく3体分聞こえた。

見えないところにもう一体いたらしい。

「イナイ、イナイ…」

そう呟く声が聞こえた後、私は音を立てないよう廊下に出て階段がある方向へ急いだ。

階段付近にはほとんど灯りになるものがなく、微かに漏れる月明かりのおかげで階段付近を抜けられたことは分かった。

ここからが困ったことに、どこが目的の部屋であるのかがわからない

奥には闇が広がっていて、いったい幾つの部屋が待ち構えているのかわからない。

次の目的地は端の部屋というだけで、間に幾つの部屋があるのかは不明だ。

この廊下に居続けてもいずれは化物に見つかってしまうので、近くにある部屋へ入ることにした。

暗闇に少し慣れた目でやったの思いに引き戸を見つけ、静かに部屋の中へ入った。

部屋の中には本棚が並んでいた。

床には引き摺られたような跡が残っていて、化物が立ち入った痕跡が残っている。

あの廊下をひたすら端まで進むというのが短絡的だがシンプルな考えだ。

とはいえ奥が視認できないほどの闇であることが引っかかっている。さすがに2、3部屋程度であれば置くくらい見えるものではないか。

本当にあの廊下は信用して良いのか、私の勘がよく考えるよう促している。

この建物の見取り図はないか部屋を歩いていると、血が滲み出ている掃除用具入れを見つけた。

音をなるべく立てたくない状況で中を確認しようとは思わなかった

その掃除用具入れを過ぎたタイミングで、目の前に本棚が倒れてきた。

大きな音が出て、廊下から化物たちが集まってくる音が聞こえた。

隠れないと…

そう思って周囲を見て隠れられそうなのは不気味な掃除用具入れと本棚の下にあるわずかな隙間。

私は咄嗟に掃除用具入れの中へ隠れた。

掃除用具入れの中は先客がいるというわけでもなく、底に血溜まりがあるくらいだった。

しかしまだ液状だった。

部屋の扉を開ける音がして、化物の足音が近づいてくる。

その足音は、掃除用具入れの前で止まった。

そして化物から声が聞こえた。

「まあそこに隠れるよね。

ワタシモオナジコトカンガエタ」

そう言って化物は掃除用具入れを開き、私の首を掴んで持ち上げた。

その後は私の足首を掴み、首から手を離すと私を床に何度も叩きつけた。

頭から叩きつけるようにしているのか、頭に何度も衝撃が走り、意識が飛んだ後は私の死体を第三者視点で見ているような視点になった。

化物は私の割れた頭蓋骨から脳を拾い上げて食べていた。

一通り平らげるとその化物から私の声が聞こえた。

「助けて、タスケテ…」

私は、化物達が食べた者の声を真似ることができるのを目撃した
やつらは、食った人間の声をまねることができるのか。

しばらくすると頭痛が襲い、気がつくとつづりの前に戻ってきていた。

ここからか。

私は心の中でそう呟き、再び本棚のある部屋前まで進んだ。

本棚の部屋はトラップだと思い、試しに深淵へ続きそうな廊下を進むことにした。

……

………

おかしい。

いくら進んでも景色が変わらない。

背後を見ると背後も深淵へ続くほどの闇に包まれていた。

この建物には怪奇現象は起きると聞いていたが、ここもその類なのだろうか。

助言してくれた光も現れることがない。

私は暗闇の部屋の中で何もできず自殺した時を思い出した。

あれと同じ結末になってしまうのか。

ほぼ諦めた気持ちになりながら奥へと進んでいくことにした。

奥に進むにつれて私の視界や数位の風景にノイズが走るようになっていった。

時間が経つとさらにひどくなり、周囲の風景はガラスが割れたかのようにバラバラになり始めた。

私の手を見るとノイズと共に部分的に黒塗りになったり、指が一部消えたり元に戻ったりを繰り返している。

私の頭もぼーっとし始め、私が何をしようとしていたのかも忘れようとしていた。

それでも進もうとする私に誰かが声をかけてきた。

「そんな危ない場所に飛び込むなんて、消えたくなければ私の名前を叫んでください」

私はかろうじて覚えていた人物の名前を叫んだ。

「つづり!」

その瞬間、周囲には黄緑色の四角形が円になって私を包み込み、気がつくと目の前につづりがいるいつもの廊下に戻っていた。
つづりの手には槍が握られていた。

「私の声は理解できますか?」

つづりからそう聞かれ、私はうなづいた。

あなたはあの空間から二度と戻ってくることができなくなるところだったのですよ。

自分が今何をしようとしているか思い出せますか?」

「光が見せた光景の場所へ行くのと、老人から頼まれた通信機を取りに行くこと」

「記憶の欠落は起きていないようですね。

それは良かった」

記憶の欠落は最初の頃からあることだけど、とにかく次の目的地は思い出せるようになったのだということは分かった。

あの空間のことが気になり、つづりへ聞いてみた。

「私が立ち入ったあの空間はなんだったの?」

「あそこはバグ空間。

あのままだったらあなたのデータが壊れて修復不可能になるところでしたよ」

「バグ?データ?」

「この世界が崩壊し始めているのです。

あの廊下の空間はすでに壊れてしまっていて、そこに踏み込んだものも壊れてしまう。

そう思ってくれていれば良いです」

世界の崩壊という穏やかではない話が出てきた。

この世界に留まり続けたとしても、私の存在は壊されてしまうのだろう。

時間が限られていることは分かったが、あの本棚がある部屋をどう切り抜けたらいいか。

 

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罰の園 1-3 昼夜

この学校の屋上には一度行ったことがある。

しかしあの時の場所とは離れていて、屋上菜園がある場所のさらに隣に離れた屋上がある。
三分割された学校、そういう仕組みらしい。三分割されたうちの真ん中がこの菜園状態になっている屋上。

次の目的地は屋上の端にある床板を外さないといけない。

その前に食料の件を解決しておくか。

 

屋上には4エリアほどレンガで囲われた畑があり、屋上中央には鳥が飛び立つ様子を表したようなオブジェクトがあった。

そのオブジェクトには屋根がついていて、その足元には広げられた扇一つと花が置いてあった。

畑の一つにはタクヤが屈んでいた。
タクヤに近づくと向こうから気づいて不貞腐れた顔でこっちを見てきた。

「遅いぞ。全部俺が掘るのかと思ったよ」

「それでもいいけど」

「ふざけんな、お前も掘れ!」

タクヤがいる場所は既に芋がいくつか掘り出されており、私は二つ奥の葉が枯れた場所を掘ることにした。

黙々と掘っていると芋が数珠繋ぎに出てきた。芋は薄茶色で丸めの形で、芽が少なかった。そして驚いたのは畑に深さがあることだった。

私は収穫を続けるタクヤへ話しかけた。

「この区画全部取るの?」

「ん、いや、葉が青いのは置いとく」

「そう・・・」

私は屋上中央にあるオブジェクトを見ながら呟いた。

「あれはなんなの」

「あん?」

タクヤは私の目線先にあるオブジェクトを見てあれかって顔をしながら教えてくれた。

「あれはウズメ様の祭壇だよ」

「ウズメ様?」

「おいおい、ウズメ様知らないってどんな田舎にいたんだよ。
ウズメ様はこの世界の神様で、この世界の安寧をもたらしてくれていたんだ。
でもある日から消えちまって、入れ替わるようにその辺へ化物が出てきたんだ」

「神様がこの世界から消えたのに、あのオブジェクトが残ってるのはなんで?」

「それは俺もしらね。

大人たちがいつか戻ってくるからって言いながらあのオブジェクトに供物してるんだ。
ただでさえ食料が少ないのに、大人の考えがわからないよ。

お前だってそう思うだろ?」

この世界には神様がいない。

それが事実なのかはわからない。

もし神様がいなくても、この世界があり続けているならば神様がいなくても世界というものは存在できるということになる。

安寧をもたらしてたっていうけど、本当にそうなのだろうか。

私はオブジェクトを見ながらそう考えていた。

「そうだね、よくわからないね」

「そう思うよな!

あーあ、神様どうこう言う前にやることあるよなー」

大人達が神様へ固執する気持ちは何故かわかる。

きっとどうしようもないから縋りたいのだろう。

何故こんな考えが出てくるのかは、私にも理屈では説明できなかった。

そう思えてしまうのだ。

「んじゃ、俺下に運ぶからついてこいよ」

そう言ってタクヤは収穫した芋の一部を持って下へ降りて行った。

私は隙ができたと思い、屋上の端のタイルを調べることにした。

4角全てを調べたが、どこも剥がれる様子がなかった。

映し出された光景と話が違う。

周囲を見渡すと、壊れて破れた柵の先にあるまだ踏み入れたことがない屋上の端のタイルが浮いているのを目撃した。

あっちか。

そう思った頃に後ろからタクヤに呼ばれた。

「来いって言ったろ!そこの収穫した芋をかごごと持ってこいよ!」

仕方がなく私は収穫物を下に持っていくことにした。

また隙をついて屋上に行くか。

収穫物を届けた後、報酬として私には小皿に入ったポテトサラダが渡された。
見た目は黄色一色だが暖かく、バターを混ぜてほぐされている。

「こんな報酬で悪いね。

夕飯の時間になったらちゃんと葉物も出すから」

厨房にいるタケヤの母親にそう言われた。

食べようかという気持ちになったら、食べるための道具がないことに気が付いた。スプーンがないか聞こうか。

・・・

まあいいやと思い私は素手で食べた。別に火傷をすることはなかったし。
手づかみで食べることに抵抗はなかった。食べるための道具を使用したほうがいいという思いはあったけど。

私はポテトサラダを食べた後、食器を洗って乾かす場所であろう網のところへ立てかけた。

そういえば、この世界に昼夜の概念はあるのだろうか。ここにきてずっと外の様子は昼のまま。

気になり、紫髪の女へこの世界に昼夜の概念があるか聞いた。

「一応ありますが、あなたの場合はベッドを仲介する必要があります」

「え、なんで、自然経過とか」

「それは、どうでしょうね。根気よく待ってみても良いかもしれませんよ」

「なにそれ」

私は視界に入った時計を見た。

時計の針は9時を指していた。外は明るい。
今まで過ごしてきた時間はそれなりにあったが、それでも9時?

…この世界は普通ではないようだ。

「ベッドで寝れば昼夜を変えられるでいいのよね」

「そうですよ」

何か行き詰まったら昼夜を変えることも選択肢に入れておこう。

私は再度屋上へ行った。

隣の屋上の端が怪しいので、行く方法を探すことにした。

屋上を囲っている網に破れている部分があるため、そこへ橋になるものをかければ移動できそうだ。

橋になりそうなものを周囲で探したが、すぐに手に取れるものでそれっぽいものは見当たらなかった。

そんな中、屋上にあるオブジェクトの裏側にちょうど良い長さのトタン板があった。しかしくたびれて見える。

その近くのオブジェクトを囲む壁の木板が外れかけていて、それも橋としてちょうどよさそうだ。

私はすぐに持ち出せそうなトタン板へ手を伸ばすと私の頭の中に光景が広がった。

そこにはトタン板を橋がわりに使用して渡ろうとする私が第三者視点で見えた。

橋の真ん中ぐらいまで進むとトタン板はバキッという音を立てて折れ、私は地面まで落下し、地面へ叩きつけられて即死した。

現実の光景へ戻ってくると何を見せられたのかはすぐに把握した。そして思わずため息が出た。

私はこんな2択も外すのか。

私は呆れを力に変えるように外れかけの木板を思いっきり剥がした。

こんなオブジェクトにはなにも思うことはないため躊躇もなかった。
木板は少し重く、橋として架けるには苦労した。

途中で折れないか恐る恐る渡った。

木板は途中で折れることなく、隣の屋上へ移動することができた。

屋上にある階段へ繋がるであろう扉には鍵がかけられていた。下へ降りるには予定通り端のタイルを外していくしかないようだ。

目的の端にある外れかけのタイルを除けると、誰かが意図的に開けたような穴があり、躊躇わず私はそこを降りた。

降りた先は廊下で、足元には化物の足跡がついていた。そして廊下の先から声が聞こえた。

「ダレカイル、ダレガイル」

声は人間に似ているが、どこか声帯を頑張って再現しているかのような人外の片言の雰囲気に似ていた。

どこかに隠れようとしたが、隠れ場所はなく、開かない屋上へ繋がる扉まで下がるしかなかった。

化物の足音は近づいてきて、ついに化物が視界に入ってしまった。

「ヨコセ!」

そう言って化物は私の頭を強く掴んだ。

頭を潰される時の痛さ。

頭痛のような内部での激しい痛さとは違い、外から加わる圧力で、神経がどうしようもないのに痛い痛いと警告を脳内へ伝えてくる。

なかなか死なせてもらえず、私はこの世界に来て初めて肉体的な苦痛を味わっている。
苦痛から逃れるために私は頭をつぶそうとする化物の腕をはがそうと掴んで力を入れても、びくともしなかった。

「カタイナ…」

そう聞こえた後、私は階段に叩きつけられるところまでは覚えていた。

 

私は紫髪の女の前で立っていた。

私は思わず頭を触って頭蓋骨が砕けていないか確認した。

私は再び死んでしまったようだ。

屋上へ行くと隣の屋上へ板が渡されていなかった。しかし屋上で芋が回収された後ではあるようだ。

状況をおおよそ把握し、再度オブジェクト付近から木板を回収して隣の屋上まで再度移動した。

今度は化物が出てきた方向へ駆け抜けてみるか。

下へ降りて急いでその階にある部屋へ向かった。手前の部屋には化物がいると思い、一つ奥の部屋へ入った。

しかしそこには化物が二匹いて、こちらを向いてすぐ首を掴まれた。

その後は首をぽっきり折られ、再度紫髪の女の前にいた。

きっと今の状態で向かってもすぐに化物に見つかってしまうだろう。

状況を変える方法としては、昼夜の変更だろうか。

私は視界に入ったタクヤの母親へ寝ることができる場所はどこか尋ねた。

芋を運び込んだ部屋、そこは調理室と呼ばれているようで、そこを出て右へ進んだ先にある左右にベッドが並べられている部屋がある。廊下を向いて左側にある教室内に空いているベッドがあるからそこを使うといいと伝えられた。

その教室内は廊下で見かけなかった老人や赤子を抱えている女性がいたりした。

各ベッドの上や周りには私物が転がっていて、ベッドしかない窓際にある一箇所がよく目立った。

私はそこへ横になった。

 

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罰の園 1-2 乖離

階段で1階まで降りると窓があった場所はスクラップで防がれていて、左右に伸びる廊下は階段を降りて踊り場ほどのスペースしかないようにバリケードで防がれていた。

さて、どっちのバリケードを超える必要があるか。見た光景では方向がなく、バリケードの先ということしかわからない。

廊下の様子についての情報もなかったし、2択になってしまった。

どっちが正しいのか悩んでいると、なぜか左という気持ちになった。

右に行くと、何かに押しつぶされると思った。

なぜかはわからない。

左右のバリケードは上部分に少し隙間があり、私の体であれば通り抜けられる。

右側の隙間から見えるバリケードの先の天井を見ても、何も仕掛けられていないただの天井だった。

左側も同じだ。

「勘を頼るか」

私は左側のバリケードを乗り越えることにした。バリケードをよじ登り、上の隙間を通り抜けてバリケードの反対側へ辿り着いた。

その後は何も起こらなかった。

バリケードの反対側は長い間使用されていないのか、床は綺麗にホコリを被っていた。

窓には板が打ち付けられていて、その隙間から光が差し込むくらいしか光源がなく、奥が見えなかった。

明かりがないと進むには危険だ。

「どうしようかな」

いっその事板を剥がしてみようか。

そう思って、手軽に剥がせそうな板を一枚剥がした。

板を剥がすと光は差し込んだが、窓の先にいた化物と目が合ってしまった。

あ…。

そう思った頃には化物が窓を割って入ってきた。

私にはその時に飛び散ったガラスが刺さり、その後は頭を掴まれて床に叩きつけられた。

気がつくと紫髪の女が目の前にいる状況に戻っていた。
なんとなく何が起きたかわかった。

私は紫髪の女に聞いた。

「今はどこまで進んだ状況?」

この問いには紫髪の女の隣にいる短髪の男の子?が答えた。

「下の階のバリケードを越えられていないところだよ」

「そう…」

私は死んだらここに戻っていたようだ。

バリケード前の見覚えがある光景は、このせいだったか。

 

バリケードを越えたところまで戻ってきた。

外に化物がいるのはわかったから、室内の光源を頼るしかない。

廊下を見上げると蛍光灯はあるものの、それをつけるためのスイッチは視界に見当たらなかった。

廊下も頼ることができなかった。

左側には部屋があり、少しだけ板から漏れる光で室内を覗くことができた。

引き戸を開けると、何かが入った箱はあるものの、ぱっと見で光源になりそうなものは見当たらなかった。

もう燃やすでもいいから光源が欲しい。

箱の中を漁ることにした。

紙とは少し違った材質で、釘の跡もないのに正方形を保っている箱の蓋を開けると、そこには布しか入っていなかった。

火口には使えるだろうか。

次に見つけた箱を開けると、どんぐりより一回り小さいガラス製品とコイルのような金属部品が入っていた。

ジャンク品と呼べるものだろう。その中に蛍光灯のような明るく光るようなものはなかった。

さらにもう一個の箱は、ガムテープで蓋が塞がっていた。

爪で剥がそうとしても全く剥がれる様子がなかった。

…さっきのジャンクで切れるものあるかな。

比較的鋭利なジャンクを見つけ、持つ部分には見つけた布を巻き、蓋の溝に沿って切れ目を入れていった。

まるで缶切りで缶を開けるようにいちいち力を入れないと溝に沿った切り口をつけられなかった。

そんな厳重に閉じられた蓋がやっと取れ、中には棒のように細長い長方形の物体が入っていた。

その長方形は先端部分を見ると軸のようなものがあり、回転させるギミックがあるようだ。

回してみると、外装の長方形部分の一部が動き、軸の発光している部分が顕になった。軸は発色に発光していて、周りがよく見える。

すごい魔法道具みたい。

・・・魔法?

ふとこの世界にはない概念の話が頭によぎったことを不思議に思った。

何はともあれ光源が見つかったので暗い部分も歩ける。

箱の中にまだ何本か合ったが、手に取った1本だけを持っていくことにした。

廊下へ戻って再度目標を整理した。

青い光を探すために、この階にあるはずのボールがたくさんある部屋を見つける必要がある。

ボールがたくさんある部屋にピンと来なかったので、とりあえず各部屋を探すことにした。

ボールがたくさんある部屋にはどのような役割があったのだろう。

ボールには浮かばせて道の妨害に使ったり、相手にぶつけたりということくらいしか思いつかないけど。

そう考えていると黄色い球が目の前に現れて光ったかと思うと何かの光景が脳内に映し出された。

その光景の中には2グループに分かれた人々が礼をしたあと、笛を合図に中央に置かれた茶色のボールを取り合った。

ボールは持って運ぶのではなくいちいち地面にバウンドしながら敵陣地へ切り込んでいき、敵陣地奥の高いところにある網へ茶色のボールを投げ込んだ。

そこへ入っただけで周囲は熱狂している様子だった。

「なんだこれ…何かの模擬戦?」

「これはスポーツだよ」

「え、誰だ」

「君はこの世界の考えには疎いから、私があなたにこの世界の知識を補足してあげる。

この世界にあるスポーツというのは、戦争に使うのではなく、戦争とは縁遠い国で行われる娯楽だよ。

元ネタは戦争が元になっているけど、相手を殺さない争い事として考えだされたのがスポーツだよ」

「戦争する理由をなくなっても争いにこだわるとは」

「…そのスポーツにボールが使われることが多いから、体育館というワードの近くにある部屋を探した方が良いよ」

「ねえ、あなた明るいんだから光源代わりになってよ」

「ダメだよ、この世界にあるもので解決していかないと。
それに私の役割は導きだし。じゃあ頑張ってね」

景色は暗い廊下に戻っていた。

なんなの、私何かに試されてるの?
あの光り、導きという癖に目的地を明確に示さないし。

それにしても、自分の考え方がこの世界と一致しない。

私はもともとこの世界にいなかったということ?だとするとどこからどうやってこの世界に来たのだろう。

そう考えていると、どこからか化物と思われる雄叫びが聞こえた。

…考えことは安全な場所ですべきだ。まずは体育館の目印を探そう。

部屋ではなく今度は体育館の場所を示す看板を探すことにした。

廊下を歩いていると、左右に引き戸になってる大きな扉がある場所が終点となっていた。その扉の上には体育館とはっきり書かれていた。

体育館の入り口と思われる扉には鉄板が打ち付けられていて中へ入ることはできない。扉の隙間からは血が滲み出ていて、扉の向こう側で何が起こったのか想像できてしまう。

匂いは…嗅ぐ気にはなれなかった。

ずっと埃に塗れた空間にいるし、あまりこの辺の空気は長く吸いたくない。無意識に息も浅くなってしまう。長時間いると酸欠になってしまいそうだ。

この付近に目的の部屋があるはず。

体育館に向かって左側の部屋につながるドアを開けると、ボールが沢山あった。

「ここかな」

そんなに広くない部屋で、一番奥にあるボール入れの中から青色の光が淡く見えた。

光に至るためにはボールが邪魔だったのでいくつか外に出し、やっと青い光を見つけた。

青い光は自由になると浮き上がり、私の中へ入ってきた。

その後、再び私の中にこの世界ではない光景が映った。

====

前に見た光景で出ていた人物が玉座に座る存在へ話しかけていた。

「・・・様、クゥドルが落ちました。

ゴンドワがこちら側についてくれたことによる勝利と言えるでしょう」

「そのような戦果報告は魔王へ伝えるだけで十分なはずだ。何か気になることでも?」

「…ゴンドワはクゥドルの中にいたまま魔族となり、我らへ貢献しました。

クゥドルは黒魔法の素質を検知次第直ちに追い出すという白魔法主義が行き過ぎた都市。
そんな場所に魔物が入り込めばすぐに追い出されるはず。

しかしゴンドワはクゥドルの城内で暴れるまでは黒魔法の検知が一切されなかったと言います。

…様、ゴンドワと接触しましたね?」

「なんだい、私が外を出歩こうが自由じゃないか」

「やはりですか。魔力の隠蔽はあなたの得意技ですものね。神格であるあなたはここにいてもらわなければ皆が心配します」

「ここに座っているだけではつまらないんだよ。ここにいたところで皆に何かできるわけでもないのに。

それなら外へ出て自ら強そうな奴を堕とすほうが楽しいに決まっているじゃないか」

「人間達に見つかった時のことも考えて行動してください」

「生じた混乱は魔王の方に処理してもらうさ」

「まったく、魔王 デルトロク様に怒られても知りませんよ」

「ふんっ、リースウェルに変わってこの世界の神となるためにも下界の出来事を見聞きすることは重要なんだ。

下界からの報告を聞くだけならリースウェルと変わらん。聞くだけで何がわかるというんだ」

「それはごもっともですが」

「今に見ていなさい、私がリースウェルを討ったあとは神あり方も変えてやるから」

私は何を見せられてるんだ。

分からない地名、分からない人名。

何も分からないこの光景を見せて私に何をさせたいんだ。

「この光景は回想の主人公にとって大事な行動理念が映し出された一幕だよ」

声の方向には黄色い光が浮いていた。

「導きの光か。回想の主人公にとって大事だったとして、それが私に見せられているのはなぜなの。私があれになれとでも言いたいの?」

「さあ。すべての光がそろえばわかるかもね」

====

回想はここで終わった。

この回想の主人公・・・まさか私なの?

いや、だとしたらなぜその頃の記憶を何も思い出せないの。

そう考えていると黄色の球が体から出てきて、目の前で光ったかと思うとどこかの光景が映し出された。

屋上の端っこにある床板を外した先。

化物も歩くくらい通路を進んで行った先にモニターがたくさんある部屋がある。

次の目標はそこのようだ。

黄色い光が体に引っ込んだ後、灯りをつけながら来た道を戻った。最初は埃しかなかった道には私の足跡がついていた。他に足跡はなく、化物が知らないうちに入り込んだというのもなさそうだ。

バリケードの反対側へ戻った時だった。

「お前、何やってんだ」

階段の上には腕を組んだタケヤがいた。

出てはいけないとこへ出ていってしまったことが知られてしまった。目的を話すわけにはいかないし、変に大人達へ知らされても困る。

答えに困っていると、右手に持っていたライトをタケヤへ見せた。

「灯りを、探していたの。バリケードの先にあったよ」

タケヤは階段を降りてきて、私が持っていたライトを奪った。

タケヤはライトを回すと蓋がされて消灯する仕組みに驚きながらも、見つけてきたライトを珍しそうに見回していた。

「これ、まだあったか?」

急に聞いてきたので私は無意識にうなづいてしまった。

そう言うとタケヤはニヤリと笑って奪ったライトを返してきた。

「俺にいい考えがある。

任せろって、チクるわけじゃないから」

そう言ってタケヤが上に戻った後、武器を持った大人2人と一緒に降りてきた。

「全く、タケヤと同じワンパクだったとはな」

1人の大人がこっちをみながらそう呟き、タケヤと一緒にバリケードの向こう側へと移動していった。

そのあとは私の持っているライトと同じものが10本程度、そして電子部品と呼ばれるものとボトルに入った数本の水が見つかったという。

「バリケードの向こう側へ勝手に行ったのはいただけないが、これは嬢ちゃんの手柄だな。助かったぜ」

見つかった物資に群がる男の1人がそう言った。

タケヤが近づいてきて私に話しかけた。

「外の探検に興味があるならそう言ってくれよ!一緒にやろうぜ!

タケヤの後ろに1人の女性が立ち、軽くタケヤの頭にゲンコツを入れた。

「何言ってるんだい。あんたの悪ふざけに別の子を巻き込むんじゃないよ」

「母ちゃん、友達できたんだからいいじゃん」

「やっていいことと悪いことがあるって言ってんの」

どうやらあの女性はタケヤの母親っぽい。

私は親というのを知らないけど、いたらあのようなやりとりもあったのだろうか。

2人の話を聞いていると、私の腹の虫が鳴いた。この世界で初めて空腹を感じた瞬間だった。

「なんだい、腹が減ってるのかい。

悪いけど今は食料の在庫が乏しいんだ、2人で上の畑で芋を回収してきてくれないか」

「え〜なんで俺も」

「取らないと今日の夜は飯抜きだよ」

「そりゃないよ」

そう言いながらタケヤは上に続く階段を登っていった。

私はタケヤの母親へ食料事情を聞いた。

「食料が足りないって話、本当?」

「ん?残念ながら本当の話さ。

節約してきた非常食はほとんどなくなって、屋上菜園が頼みの綱になっている状況さ。

外と連絡が取れないと、冬を越せる気がしないね」

外との連絡

この世界でここ以外に住んでいる人間はいるのだろうか。この世界で暮らすしかなくなるなら、少しは気にしたほうがいいかもしれない。

そう考えながら私は紫髪の女性のところへ向かっていた。

「どうしたの、探し物で困ったことがあった?」

紫髪の女性の隣にいる少年?が話しかけてきた。

「いや、あなた達に話しかけたほうがいいと思っただけ」

「そう。その考えは正しいから、探し物が見つかるたびに話しかけにきたほうがいいよ」

「わかった」

そうしないと死んだ時に困る、そんな気がした。

さて…

私は屋上へ向かった。

 

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【自作小説】罰の園(R-18G)

「私は何者に生み出された?何のために存在している?」

 

かつて神がいた世界。
その世界では原因不明の現象で神が消え、代わりに異世界の化物が世界を蹂躙する終末世界となっていた。

そんな世界で目を覚ました、自分が何者なのかが分からない少女。

その少女は各種の光の玉を集めることで、自分の謎を知ることになる。

 

この作品にはグロ要素、そして一部の話では性的表現が出てくるR-18Gな作品となっています。
該当する話の横には「グロ注意」や「R-18」といった表記はしますが、全体的に未成年には不向きな内容となっているため閲覧は十分にご注意ください。

 

 

1-1 遭遇

1-2 乖離

1-3 昼夜

1-4 惨状 ※グロ注意

1-5 崩壊

1-6 機転 ※R-18描写注意

 

罰の園 1-1 遭遇

グチャリ

カチッ ピッチュチュクリ

消えようとする意識の中でかろうじて聞こえてしまった謎の音。
その正体は第三者視点でしか確かめようはないが、きっと何かを貪る音なのだろうというのは、生前直前に起きた様子から想像は出来た。

私の直前の死因は、化物に頭がい骨を砕かれたからだ。

 

突然の出来事だった。

逃げ場もない部屋に、いきなりあんなものが入ってくるなんて…

 

 

薄暗い部屋

ここは少し埃っぽく、日の光はほとんど入ってこない場所のようだ。

私はこの部屋で目覚めた時、少々汚れたベッドに寝ていた。

ここはどこなのだろう

なぜこんな場所で寝ているのか、私にはわからなかった。

でもこの部屋でこれから起こるであろうことはなぜか察していた。

体を起こすとしっかりと手足はあり、自らの意思で動かせる体であることを確認した。
無意識に頭を触り、頭がい骨が割られて既に脳みそが見えてしまっているような状態ではないかを確認してしまった。

しっかり頭がい骨は脳みそを保護している。髪の上からしっかり確認できた。

夢…だったのか?

既に靴を履いている足を床に下ろし、ベッドに座る形でドアの方を見た。

ミシッ

この部屋で聞こえた環境音。

外では何か重々しい人ではない足音が聞こえた。

隠れなきゃ

私はその場で立ち上がり、周囲を見渡すと隠れられそうな場所は二箇所あった。

「ロッカー」と「ベッドの下」

私はベッドの下へ隠れた。

なるべく壁側まで体を寄せようとモゾモゾしていると、それは器用にドアノブの扉を開いて入ってきた。

足の形状は見ることはでき、爬虫類のように鱗状で爪は鋭い。そして二足歩行。

そんな化物はロッカーを乱暴に開けた。

その瞬間に私の脳内には、ロッカーに逃げてしまった場合の結末が再生された。

化物はトカゲのような顔をしていて、私の首へ掴み掛かる。

その後私を持ち上げてもう片方の手で頭をつかみ、人外な腕力で頭がい骨を割られてしまった。

なんてなっていたんだろうな。

化物は力強くロッカーを閉じ、ゆっくりと部屋を出ていった。

物音がしなくなるまで私はベットの下にいて、周囲が静寂した頃にベッドの下から出た。

「あれはなんなの」

私は部屋を出て廊下と思われる場所に出た。

廊下は窓が並べられており、ところどころのガラスが割れて床にガラス片が散らばっていた。

それとともに赤黒い液体だった跡も床には残っていた。

窓の外には明るいにもかかわらず、暗い雰囲気の光景が広がっていた。

見える町からは煙が数本伸びており、中には崩れた家も見えた。屋根の上にはさっきの化物みたいなやつが登っている場所もあった。

どうすればいいんだろう

そんな考えは浮かばず、私は何かに吸い寄せられるように廊下を歩いていった。

すぐに見えた階段をどんどん登っていき、あの化物にも出会うことなく屋上へ出ることができた。

屋上は風がなく、誰もいなかったが広い空間に白く光る球が浮いていた。

一体何なのかと近づくと、白く光る球の方から私に近づいてきた。

近づいてきたと気づいた頃には白く光る球は私の体に吸い込まれていた。

脳内にはいきなりどこかの光景が浮かび上がった。

今登ってきた階段を2階まで降り、右側へ進んでいくとバリケードがある。その隣の部屋には広い空間があって人がそれなりにいた。

ここまで見えて脳内の光景は消えてしまった。

「行くあてもないし、そこまで行ってみるか」

次は見えた光景の場所まで行くべきだ。私の頭はすっとそうすべきだと理解していた。それに疑問を抱くことはなかった。

私は2階まで階段を降りた。

道中であの化物を見ることはなかった。しかし襲われたあとであろう血痕や肉片が落ちていた。

そんなものを顧みずにバリケードの前までたどり着いた。

バリケードは何者かに引っ搔き回された跡があったものの、奥から鉄板を何重も重ね合わせているのか、奥は見えなかった。

バリケードの奥からは人の声が聞こえた。何か情報を手に入れたいけど。

「ここからどうしようか」

「あれ?誰かいるのか?」

右の部屋からそう聞こえた。

そこには同じ背丈ほどの男の子がいた。

左手には包帯が巻かれていて、額右側には大きめの絆創膏が貼られている。しかし服はそこまでボロボロではなく、整えられたTシャツを着ていて短パンを履いている。

「もしかして街から逃げてきたのか!」

「いや、気づいたらこの建物にいた」

「え?そんなことあるか?

まあいいや、外部の人間なんて久々だよ!」

喜んでいる男の子に対してバリケードの奥から低い男の声が聞こえてきた。

「タクヤ、外で騒ぐな!

あいつらが寄ってくるから中入れ!」

「わかったよ!

ほら、お前も来いよ」

そう言ってタクヤは私の手を引いて部屋の中へ連れて行った。

部屋の中にある本棚は引き摺った跡があり、タクヤはその本棚を横にずらし始めた。

本棚の後ろには人が通れるほどの穴が空いていた。

「ここを通っていくんだ」

そう言ってタクヤは穴の奥へ入って行った。

私もそのあとを追ってバリケードの奥へ入ることができた。

バリケード側の壁にはハンドルがあり、それをタクヤが回すと、本棚は元の位置へ戻って穴を塞いだ。

そうしている間に1人の見たことがないものを持った男が近づいてきた。持っている者は剣よりは長く槍よりは短い。
しかし先は鋭くなく、なぜか細い筒が付いている。よく見ると引き金が付いている。この世界特有の武器なのだろうか。
そう考えていると男がタクヤへ話しかけていた。

「タクヤ、生存者がいたのか!」

「そうなんだけどさ、こいつ気づいたらこの学校にいただってさ」

「そうか…」

男は私の目線へ合わせるようにしゃがんで話しかけてきた。

「ここへ辿り着くまで辛い思いをしただろう。

思い起こさなくていい、今はここで落ち着いて行ってほしい。

私たちは君を歓迎するよ」

「はい…」

「俺がここ案内してやるよ!

お前、名前は?」

名前

そう聞かれて思い当たる単語は思い浮かばなかった。

まず自分が何者であるのかも知らない。

私は思わず尋ねてしまった。

「ナマエって、なに?」

「は?普通父ちゃん母ちゃんにつけてもらうだろ」

「そうなの?全然思い当たらない」

「んじゃなんて呼べばいいんだよ」

「さっき『お前』って言ってたでしょ?そうやって呼びやすい言い方でいいよ」

「ええ…いいならそうするぞ」

そう言ってタクヤは階段を登って行ってしまった。
近くにいた男は、再びバリケード近くの監視に戻ったようだ。

バリケードの内側を見渡すと人がそれなりにいた。

上下階段近くで座って俯いている老人

廊下で立ち話する女性2人

近くの部屋で食料を管理している男3人

そして周りと雰囲気が違う2人

ここに来たところで私はどうしたら良いかわからない。屋上にあった白く光る球に導かれるようにここへ来た。

そんな中で私は周りと雰囲気が違う2人へ近づいて行った。

紫髪の女の前で、私には白く光る球と似た何かを感じた。

女の隣で男の子?と思われる人物が紫髪の女の袖を引っ張っていた。

しかし紫髪の女は特に反応を示さなかった。

何か言いたげな男の子?はこっちを困った顔で見ていた。

こんな状況、気になって仕方がない。

私は紫髪の女へ話しかけた。

「あなた、光る玉を持ってる?」

「今回は少しもたつきましたね」

そう言って紫髪の女は槍を出現させて石突を床についた。

その後、周囲の時間が止まった。

これに似たものになぜか覚えがあった。そのためあまり驚くことはなかった。しかし聞かざるを得なかった。

「いったい何をしたの」

「怪しまれないよう細工をしました。

手短に話しましょう。

私はあなたが言う光の玉を持っています」

紫髪の女は袖から黄色に光る玉を取り出した。

その光の球は浮かび上がり、私の体に吸い込まれて行った。

その後、知らない光景が脳に浮かび上がった。

====

城の中にいるようで、目線の先には玉座があった。その王座には長髪の角が生えた人ではない存在が座っていた。

紫色の装飾が多い中、青白い光が部屋を照らしている。

玉座に座った存在についての情報が、脳内に流れてくる。

-私は生まれた時からここにいた。

-通常の生物学でいう成長の過程を経た記憶がなく、いつの間にかそこにいた。

-しかし生まれたての赤子と違って自分が何者かということはわかっていて、生きる目的も設定されている。

-何者かに作られ、設置された存在。

-そんな違和感に、この世界の者は誰も追及しようとしない。

「—様、いかがなさいましたか」

玉座の存在の前には、自分より背が低い青肌の男が立っていた。

あれ…なぜ今話しかけられた存在が『自分』だと認識した?

この光景が、自分の見ている、または見た光景だとなぜ思えた?

見える光景は自分の意思に関わらず進んでいく。

私はああいう高いところから指示を出すだけというのは性に合わない。周りの奴らがそうしてほしいと言うからやっているが、私は直接強い奴と会いたいのだよ」

「魔族にとってあなたは希望です。

そう簡単に前線へ出られて傷を負うものなら皆が心配してしまいます」

「人間の神でさえ玉座に座らないと言うのに。

まああいつは上から見ているだけの臆病者だからなおのこと鬱陶しいが」

「象徴という役割も大事ですよ。

強そうなものはしっかりここへ誘導差し上げますから」

「それだけでは足りないな。

しっかり黒魔法に染まって白魔法を裏切ってもらわないと。

私はそのためにいるのだから」

====

この後、元の世界の光景に戻り、今いる場所を1階まで階段で降りて、バリケードの先にあるボールがたくさんある部屋に青色の光が見えた。

気がつくと紫髪の女が目の前にいる状況に戻っていた。

「なんなの、見えた情報が多すぎる」

「まずは見つけるべきと思うものを探してみては?

見た光景の続きが見えるかもしれませんよ?」

紫髪の女は何を知っている?

「あなたは何を知っているの?」

あなたが見つけるべきものをある程度見つけれたら教えてあげます

早く教えても無意味になりますし」

「なんなの…」

紫髪の女が持っている槍の石突を床につけたことで再度周囲の時間が動き始めた。

時間が動き始めたと同時に、紫髪の女は槍を隠したのか持ってはいなかった。

「時間が戻ったの?」

そうとしか思えなかったので、紫髪の女にそう聞いてしまった。

「どうでしょうね」

とりあえず動こう。
動かず時間が過ぎるだけでは朽ちる以外に未来が無い。動いて私が何者か、何をすべきなのかを見つけないと。

とりあえずあの青い光を探すことにしよう。あれを見つけることが、現状を打開する最短の存在なのだろうから。

 

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-18 次元改変の末路

「おーい、もしかして中にいるのはカミオカか?」

カミオカと呼ばれる男は回転椅子を声がした方向へ向けた。

「なんだ、とっくにみんなは帰ったぞ」

「また最後の1人になるまで研究所にいたのか。早く帰るようにしないと、カミさんと子ども達が泣くぞ」

「ふん、学院研究所からの依頼物について納期が近いから当然だろ。納期を守れないと家族の今後にも関わるんだ、こっちを優先するに決まってる。

で、お前はなんで戻ってきた」

「そうそう、その依頼物関連でさ。

熱心にやらなくてもいいのに、また1人で馬鹿正直に頑張ってるんだろうって思ってきただけさ」

「お前も他のやつらと同じく平和ボケしたのか?納期を守れないことがどれほど重罪かお前ならわかるだろ?」

「昔は経費削減と首に関わることだったからな、納期の遅延は。
厳格じゃなくなった今でも納期の遅延は研究者にとって恥であることはわかっているさ」

「だったら手伝え。

タービン機構からの脱却なんて無理難題に、ピストン機構の応用とかいう苦しい言い訳を書く知恵を貸せ」

「別に新しい発見じゃないことくらいみんな実感してやってるさ。

磁石とコイルの組み合わせで生まれる電子の動き以外で効率よく電子を制御する方法なんて西方国協会でも見つけられねぇよ」

「愚痴ではなく言い訳を考えてくれないか」

「愚痴じゃなくて助言をしたつもりだが」

その後時間が飛び、カミオカが自宅へ到着したシーンへ変わった。

戸建ての家はまだ内部が明るく、人が動く様子があった。

カミオカが玄関を通ってリビングへ行くと、妻と兄妹がみんな起きていた。

その様子にカミオカは驚いていた。
なぜならこの時間は次の日へ日付が変わってしまう時間帯であったからだ。

「おいおい、みんな揃って夜更かしなんてどうした」

「あなたにすぐに伝えたいニュースがあるからよ」

妻がそう言うと兄のコトアキがカミオカの前で大喜びしながら伝えた。

「父さん!学院研究所の試験に合格したんだ!」

「本当か!それは大ニュースだ!

コトアキが頑張った結果だ。父さんは嬉しいぞ」

学院研究所は通常の筆記試験、論文提出後の合格が必要となり、ここ東陸連合の中でも最難関の就職先とされている。

家族全員はその興奮で寝られなかったようだ。

みんなが笑顔の様子が映し出された後、再び日が飛んでカミオカは自宅でテレビを見ていた。

テレビには西方国協会が新原理でエネルギーを得られることを発表したと報道されていた。

西方国協会はアリザという新人研究員が発見したと報告した。

とあるサンプルの鉱石同士を液状にして混ぜ合わせると、原子同士が周囲の電子を吸収しながら近づき、衝突すると吸収した分の電子を放出しながら離れる。

そして再び原子同士が電子を吸収しながら引き合うという反応を繰り返す。

衝突するまでに必要な電子を初動で供給しなければいけないが、その後は電子の流れが途絶えないという。

サンプルになった鉱石をアリザという研究員がどこから持ち出したのかは極秘とされ、現在は類似する鉱石の採取場所を西方国協会では調査中という。

「とんでもない天才が現れたものだ」

カミオカがそう呑気に呟くと、隣で一緒にテレビを見ていたコトアキが休みだというのに電話で呼び出され、学院研究所へ急いで向かった。

きっと論文が共有されて、サンプルの調査依頼でも出されたのだろうと予想できた。

いつこっちにも依頼が来るのかと休みなのに心が休まらなかった。

再びシーンが飛び、カミオカは研究所の一室で所長と複数院研究員同士で会議をしているシーンになった。

それなりに時間が飛んだのか、最初のシーンに出てきた同僚は40代の見た目になっていた。

「西方国協会だが、学院研究所のリーク情報によると、どうやら技術の独占をするようになったと報告があった」

そう所長が伝えると1人の研究員が発言した。

「そりゃそうでしょうよ。

サンプル鉱石に合致するトロデウト鉱脈が見つかったらそれをどう扱うか情報公開せずにしばらく経たずにどんどん新技術の発表が出ていますから」

「火力発電所の取り壊しを進めてるっていうのも、そういうことでしょう」

最近は技術共有がされない限りトロデウトの持ち出しを西方国協会へ禁止するとか議論もされていたな」

会議室がガヤガヤしだすと所長は大声で話し出した。

「いいかお前たち!これは一大事だ!

西方国協会の新技術は軍事転用が可能なものも多い。

奴らは横暴になっているし戦争も想定しないといかん」

研究員たちは黙ってしまい、しばらく沈黙した後に所長が話し始めた。

「リーク情報と共に学院研究所からこのような依頼が届いた」

そう言って所長は机のど真ん中へ書類を出した。

書類の表紙には目を疑う文字があった。

『ニュートロンの兵器利用 水爆開発』

これを見てカミオカは言葉を発した。

「所長、水爆は我々が実用化目前で凍結されていたもののはずです。

それを再開しろということは、よっぽどなのですか」

「言いたいことはわかる。

東陸連合で扱う兵器は、今では西方国協会へ歯が立たないだろう。

東陸連合が唯一誇れるのはニュートロン技術だけだ。

抑止力で終わればいいが、最悪使うことも考えて実用化させなければいけない」

1人の研究員が頭を抱えながら所長の後に話した。

「俺たちが本領発揮できるのはいいですけどね。分厚い資料ってことはこれまで以上のものを求めてるってことですよね」

「中を見ればわかる。要求値が高いから骨が折れるぞ」

シーンが飛び、研究所の休憩室にあるテレビが映し出された。

そこには西方国協会で謎の失踪事件が増えているという内容が報道されていた。

カミオカの同僚がニュースを見てカミオカへ話しかけた。

「西方国協会、人攫ってやばい実験始めてんじゃないか。あいつら物質転移とかあり得ないことも実現させてたし」

再びシーンが飛び、カミオカは所長たちと共に核のマークをつけたミサイル基地の中にいた。

施設のテレビには「西方国協会が宣戦布告して10日。ニュートロン兵器の使用を意にも介さず進軍続く」というテロップが映っていた。

そしてテレビの目の前にいる軍服を着た人物の手元には、「承認」とハンコが押された資料があった。

「連合会長の許可が出た上でこの結果か。

仕掛けたのは奴らだ。均衡を崩したことを悔いるといい」

そう言って軍服を着た人物は端末の発射コードを打ち込んで赤いボタンを押した。

宇宙から地上を見下ろすシーンへ変わり、東陸連合からだけではなく、西方国協会からもミサイルが放たれていた。

ミサイル同士がぶつかることなく、双方の大陸へ次々とミサイルが直撃していく。

直撃した大地からはキノコ雲が上がり、10個程度のキノコ雲が形成された後に画面が暗くなった。

次に画面へ映ったのは、地上で生き残った人々が白い灰にあたったり吸い込んだりして倒れていく映像だった。

地上は人が住める環境ではなくなった。

地下で生き残ったカミオカは西方国協会の戦争反対派勢力と合流していた。

西方国協会の戦争反対派勢力が作り出したテレポート技術が連携されたことで、地上へ出ずに大陸間を行き来できるようになっていた。

地下はニュートロン兵器が発する放射能を遮断しきれず、地上に浅い層から次々と病気で倒れる人々が出てきた。

カミオカの家族は、皆癌になって死んでしまった。
最近まで生きていたカミオカの息子はカミオカの腕の中で息を引き取った。

「わかってはいた。こうなるだろうとはわかっていたのに・・・」

カミオカは息子を抱きしめて泣き出した。
そんなカミオカの横で西方国協会の研究員が話し出した。

「これでは人類は全滅してしまう。
互いに手を取り、生き延びる術を見出さないか。行方不明となったアリザの残した知識と、君たちのニュートロンの知識があれば救える命もあるだろうさ」

「わかったよ。事態が落ち着くまでは協力してやる」

カミオカ達は西方国協会に残されたアリザの人体実験結果を利用して、なんとか人類を生かす方法を模索するようになった。

死に物狂いになっていた彼らは、戦犯である西方国協会の戦争肯定派を実験台にして放射能に強く、食料をほぼ摂取せずに生きられる細胞を研究した。

人類の9割が死んだ頃、カミオカ達は不死に近い細胞を作り上げ、細胞を移植された人物は体が大きくなり、白い体毛に覆われたイエティと言える見た目になった。

生き残った研究員達は皆変わった体になって歓喜した。

その成果を生き残った人々へ伝えようとしたが。

「バケモノ!」

そうあしらわれてほとんどの人々は細胞の移植を拒んで餓死や癌による死を選んだ。

「なぜだ、なぜ人々は死を選ぶんだ。

こうして生きていられるようになったのに…」

この後カミオカ達はシェルターを出て、永遠とも言える地上の旅へ出て行った。

 

映し出された映像はここで全てが終了した。

「なるほど。

あの世界で回収した場違いな資料自体が次元改変を起こしたわけではなかったか」

ソラはそう言って持ち帰ってきた資料を眺めた。

「一緒にあった日記は、世界の終わりが確定した後に次元改変へ巻き込まれた人のものだったと。

ブリンクもあの世界へ飛ばされていたし、他にもあの世界へ飛ばされて果てた人がいそう」

つづりさんがそう言うと、ソラは脳みそを見ながら話した。

「そこまではこの脳みそでは把握できない。

ただ、あの世界で次元改変を発生させた主犯はアリザという人物だろう。

アリザという名前が出てから突然技術が異次元に進化した。アリザはあの世界の住人ではない可能性が高い」

アルはソラが持つ資料を見ながら話した。

「場違いな資料ってやつ、それがどうやってあの世界にやってきたかも気になるけど」

「その資料なんだけどさ、ソラさんには伝えたけど異世界の縁と繋がっているみたいなんだ。

2本の縁が見えるし、追っていけばその資料をばら撒いた犯人に辿り着けるかもしれない

そう話したつづりさんへカナデさんがこう言った。

「主犯捕まえたところで、起きた次元改変はどうしようもないでしょ」

「だからこそ止めないと。
次元改変の末路は、あの世界のような終わりを迎えることだろうからね」

ソラがそう言いながら映写機に触れると、光って映写機の上に本が誕生した。

その本を手に取ってソラはカナデさんへ答えた。

「広がりすぎてファミニアがいよいよ次元改変に巻き込まれるなんてことがないよう、主犯を見つけて広がる波紋を抑えることくらいはできるだろうね。

その道中で修復方法が判明するかもしれないし」

ソラが持っていた本はしばらくして青い光の粒になり、空がいつも持ち歩いている本へ吸収されて行った。

「こうして消える世界の情報も、少しは残せるといいけど」

「やれやれ。別世界を記録するだけになると思ったら、ファミニアを救うなんていうデカいことをはじめることになるとはね。

いつものように付きあうけどさ、この脳みそはどうするの。この世界のものじゃないから消えないでしょ」

「脳みそは肥料にできるか持ちかけて、干渉液は下水に流すでいいよ」

「え、その危なそうな液体を下水に流すの?!」

ブリンクはそう言いながら驚いた。

そんなブリンクへアルが答えた。

この世界の下水は存在自体を削除する。他の世界みたいに海へ垂れ流しなんてことはないよ」

「そ、そうなんだ」

脳みそを嫌な顔をしながら見ていたカナデさんはその顔のままソラへ話した。

「それで、その資料の縁を早速追うの?すでに手を出してる次元を増やしてんのにさ」

「一カ所はすぐに調べておきたいんだよね。あの一カ所だけで全てが繋がるかもだし」

すでに次元改変は連鎖的に発生し続けている。知らないだけですでに終わってしまった世界が他にもあるかもしれない。

ぼくたちに今からでもできることはあるのだろうか。

 

終わった世界 完

 

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-17 錬金術との再会

「早急に対処しなければいけない緊急事態は回避された。

となれば、次にやることは干渉液を使って例の生物の脳からあの終わった世界の情報を覗くことだ」

ソラが食事中に今後のことを話し始めた。

色々あったのに、周りのみんなは何もなかったかのように食事をしていた。

その脳みそは昨晩中に干渉液へ浸していつでも覗ける状態にしてあるし、記録できるようにもしておいたよ」

「え、そうなの?!」

「流石だね、アルは仕事が早い。

んで、驚いたカナデは何かあったのかな?」

「えっと、音の出力ができるようになるまで、待って欲しいかなって」

「カナデしっかりしてよね、音声がなかったら大事な情報が手に入れられないかもしれないじゃない」

私は他の世界の音声データを抜き出すっていう別作業があったんだよ!つづりんもタスクが重なったこの苦労わかれ!」

「はいはいわかってるよ」

「ほんとにわっかってんのか」

こんなやり取りもいつものこと。つづりさんはしっかりカナデさんの苦労は知っている。
つまりただ冗談を言い合っているだけ。

「まあまあ。少し時間が必要なら、ブリンクは自分にできることを試しに外へ出ていればいいと思うよ

「ブリンクにしかできないこと?」

「もう、イメージは頭に浮かんでいるはずだよね?」

ブリンクはソラの言いたいことがわかっているかのようにうなづいた。ぼくにはさっぱりわからなかった。

カナデさんの準備が終わるまで、ぼくはブリンクと一緒にシチィケムの河原へと来ていた。

シチィケムまではハルーで移動したためブリンクにしか出来ないことについて聞く時間がなかった。

だから河原へ着いて一呼吸置いた後に僕はブリンクへ質問した。

「ブリンク、そろそろブリンクにしかできないことについて教えてくれない?」

「ちょっと待ってて」

そう言ってブリンクは細長い草を何本かむしり取り、それらを折り合わせてトンボのようなものを作り上げた。

それを地面に置き、ブリンクがチョンと人差し指でその作り上げたものを触ると、少しだけその置物は黄色に光った。

そのあと、草でできたトンボは生きているかのように飛び上がった。

「すごい、作ったものが動いた。

ブリンクが使える能力って、作ったものを動かせる力なの?」

「少し違うよ。

私がやったのは、あの作り物に命を分けてあげただけ。今回は作り物に命を分けたけど、無機物なものにも同じことができるんだ」

「命を分け与える?

あまり穏やかではないね」

「あら?どうしてそう思うの?」

「命を分け与えるなんて、自分の命を削って能力を使っているみたいじゃない」

「実は能力、とは少し違う。

これは私が元いた世界で生まれた時から使えた唯一の錬金術。お母さんには、生命錬金って言われてたっけ」

「命を分け与えるのが錬金術?」

「錬金術は、無から有を生み出すことができない等価交換の術。

その原則の通り、私は自らの命の一部を変換して、命なきものへ命を与えられる。

与えられた者は自由に行動できるけど、私がその生物に取り憑いて、その生物の目線から観察が行えたり、アクションを起こすことができる。

悪い言い方に変えると、傀儡化ね」

「そんなことしたら、いつかブリンクの生命力がゼロになっちゃうんじゃ」

「そこは気にする必要がない」

そういうと、話している間ずっと旋回運動をしていた草のトンボがブリンクの右手のひらに降り立った。

そのあと、草のトンボは淡い赤い光を放って力なくただの草の塊になった。

「与えたものを返してもらうこともできる。

やろうと思えば奪うことだって、できちゃう」

「使い方によっては物騒なこともできるのか。やろうと思えばこの世界の人の命も奪えるってこと?」

「それは相手次第かな。少なくとも、この世界ではやらないよ」

相手次第か。早速第一犠牲者になる候補が一人思い浮かぶけど。

そう思いながら疑問に思っていたことを口に出した。

「でも、何でいまになってその錬金術を使えるようになったの?

魂のありかが変わったせい?」

「そのおかげかも。

実は私の錬金術は使いたくても元々いた世界では使えなかったの」

「世界の、概念が邪魔していたとか?」

「そうなのかな。

元いた世界で生命錬金をしようとしても、何かに阻まれるかのように邪魔されてまったくうまくいかなかった。

私は唯一無二の錬金術が使えないうえに、一般的な錬金術はからっきしだった。

そんな私を見て、お母さんをよく知る人からは可哀想な子ってよく言われていた」

「ちょっと待って、それ話してて辛い話だよね。無理して話さなくても」

「聞いてほしいから話しているの。最後まで聞き届けてくれる?」

急に昔話をしはじめた意図はわからない。

でも、聞かないという選択肢もなかった。好奇心とかではなく、聞き届けることでブリンクの気持ちが楽になるのならと、そういう考えだった。

「いいよ。聞いた話を全部受け止めてあげる」

「ありがと」

ブリンクは手のひらに乗った草を川に流して話を続けた。

「元いた世界では錬金術の鬼才と呼ばれていたお母さんは、私の使えない錬金術の存在をすぐに理解し、とても興奮していた。

私を慰めようともせず、生命錬金の可能性を私へ伝えるのに夢中だった。

その時の私はただ、傷ついた心を癒して欲しかった。

私は望んだことをしてくれない”母親”に大っ嫌いと一言吐き捨てて家を出たの。

私は丸一日家にも、学校にも行かなかった。
橋の下で寝転がって、このままどうしようかなって不貞腐れていた。

家出した次の日の夕方、私の”母親”は涙目で私の前に現れたの。

そして私の前で膝をついて私を抱きしめたの。

抱きしめられた瞬間、お母さんの体は冷え切っていて温もりなんてなかった。

でも

ごめんね、心が理解できなくて。辛かったでしょう?わかってあげられなかった、バカなお母さんでごめんね。

そんな言葉を聞いた時、何故か私には温もりを感じ取れたの。

その日からお母さんは私を出来損ない扱いする人には厳しく当たるようになった。

そして私が不愉快な思いをしないようにと、錬金術とは無縁の学校へ変えてくれた。

錬金術とは無縁の学校へ転校したことを機会に、私は錬金術とは縁を切った。

後からお父さんから聞いたんだけど、お母さんが考えを改めたのはお父さんがお母さんをきつく叱ったかららしい。
怖いもの知らずのお母さんでも、お父さんには逆らえないっていうのは知ってた。でもなんでかは二人とも教えてくれなかった。

転校してしばらくした後、急にあの真っ白な世界に飛ばされて、そしてソラさんたちに助けられた。
まさかこの世界でこの錬金術と再会を果たすなんて思いもよらなかった。

できれば、錬金術を使える私をお母さんとお父さんに見せてあげたかったなぁ」

ブリンクはボクに顔を合わせないよう、ボクの前に立った。

「つまらない話でしょ?全部、私のわがままなんだから」

ボクは首を横に振った。

「つまらないわけがない。大事な話だよ。

使えるはずの力が使えないのに、ブリンクはよく頑張ったよ!」

「そう…そう思ってくれるの」

ブリンクはそう言って、ボクの胸に顔を埋めた。

「ちょ、ちょっと?!」

「少しの間だけこうさせて。この方が、落ち着くの」

ボクは察してそのままブリンクを抱きしめた。

ブリンクはそのまま静かに泣いていた。
泣き顔が見られたくない人なんて、沢山いる。それくらいわかる。

それからしばらくブリンクはボクの胸に顔を埋めたままだった。男でもこういう役割はありなのかなと、ふと思ってしまった。

周りはぼくたちに関係なく動き続けていて、そよ風が草を揺らしていた。

「ありがとう、もう大丈夫だから」

「ブリンク、きっと君の錬金術は多くの人の役に立つと思うよ」

「えへへ、そうだといいな」

「そろそろカナデさんの準備も終わってるだろうし、家に戻ろうか」

「うん」

そこから手を繋いで帰るなんてこともなく、2人は横に並んで帰路へとついた。

家へ到着してドアを開くとなぜか部屋の中が暗かった。

足元に気をつけながらリビングに入ると映写機を囲んでカナデさん、つづりさん、そしてソラがいた。

「おーおかえり。準備はもうできているよ」

「なんで家の中全体で真っ暗なの」

「ん?何か問題ある?」

いつもは水晶に映す程度なのに、今日は映画の気分だったのかな?

「いやさ…、まあいいや。映写機ってことはもう覗く準備ができたってことだよね」

「そうそう、今回は見る人が多めだし少し映画を見る時風な感じにしてみたよ」

やっぱり映画な気分だったか。

干渉液に浸かった脳みそから伸びるコードは小さな画面から映写機へ接続されていて、音声用のコードはオーディオコンポと接続されている。

「ほらほら、ブリンクはこっちの席に座って」

「えっと、はい」

ブリンクはつづりさんの誘いを受けて映像を見るために用意された長いソファーへと座った。

ぼくは映写機横の席へカナデさんと並ぶように座った。

映写機で見られる映像には一般的な日常のようななんの変哲もない情景が長時間続くことがよくある。

そんな中でも世界を知る際に必要な情報を見るために記憶の早送り、または巻き戻しを行うことがよくある。

その操作をぼくがいつも行っている。情報の取捨選択についてはソラが判断している。

「それじゃあ、再生するよ」

映写機が動き出して壁には脳みその記憶が映し出された。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-16 魂と世界とのつながり

干渉液を手に入れたぼくたちは家への帰路についてた。
夕日が川に反射して赤みを帯びている中、ぼくたちは川辺に沿って歩いていた。

ぼくはブリンクに対してキエノラの話題を出した。

「キエノラに失礼じゃないか、急に飛び出していくなんて」

「苦手なものは苦手、あんな女に対して礼儀なんて疲れる行為をする必要もない!」

「やれやれ」

ブリンクと並んで歩いている中、右隣の足音が聞こえなくなってぼくは後ろを振り向いた。

そこには手を後ろに組んで、夕日を眺めるブリンクの姿があった。

「アルも、この世界の人ではないんだよね」

「…そうだよ。ボクもブリンクと同じでここではない別の世界から来た、らしい」

「らしいって、自分でも分からないってこと?」

「そう、ぼくはどこの世界から来たのかが分からないんだ。ソラもぼくが本当はどこの世界の住人なのか知らないって言うし」

「それって、普通は不安にならない?」

「なんでかな、そう考えたことはなかった」

「違和感とか、なかった?」

「…違和感?」

「周りの人と違って、自分だけが能力を使えないことが。
ゲミニカへ行く途中で話してくれたよね、この世界は能力を持っていることが当たり前なんだって」

「ブリンク、急にどうしたの」

「私、元いた世界では出来損ないだったの。
どう頑張っても錬金術は失敗するし、両親みたいに凄い力なんてない」

「落ち着いて、能力がなくてもこの世界の人は酷いことなんてしないから!」

ブリンクは素早くぼくの左手を掴み、そのまま泣き始めてしまった。

「ごめん、夕日を見ていたら急に悲しい気持ちになっちゃった。

私、わたし、役立たずなんかじゃないよね!」

ブリンクの感情が不安定になっている。この原因をぼくはよく知っている。

この世界に代謝は存在しない。その代わりにペシャンを摂取するか幸せを感じることで体内に溜まる「負」を消し去っている。幸せやペシャンを長時間摂取していない場合は、「負」が感情に作用し、最終的には自分で感情を制御できずに暴走をはじめてしまう。

暴走の結果、死者が出たこともある。
その後、暴走した者はCPUに連れていかれて行方不明のままとなっている。

この世界の住人であればよっぽど不幸が続かない限りは暴走に至ることはないが、ブリンクはまだこの世界の住人ではない。そのため「負」を消し去ることができずに体内へ溜まり続けている。

ぼくはブリンクの限界が近いと悟り、落ち着かせることにした。

「大丈夫、大丈夫だから!ブリンクにしかできないこと、絶対あるから!」

ぼくは両手でブリンクの両肩を掴み、ブリンクと目を合わせた。

「自分が何者なのか、それを知っているのはブリンクだけだ。

自分という本質を失わない限り、必ず自分にしかできないことは存在するはずだから!」

ブリンクは何も言わずにぼくの目を見つめていた。

しばらくしてブリンクは目を擦って涙を払った。

「ありがとう、アル。もう大丈夫」

「ブリンク、いったい」

「ほら、ハルーを使ってすぐに家へ帰ろう!」

ぼくは家に着くまで不安で仕方がなかった。

 

無事に何も起こらず家へ帰ってきたぼくたちは、ソラへ干渉液を手に入れるまでに起きたことを話した

そしてソラから驚きの発言が飛び出した。

「そうか、やっぱり二人そろって昏睡したか」

ぼくたちがディモノスリンで昏睡すると知ってお使いに出したの!?」

干渉液の材料はディモノスリンでしか手に入らないってことは知っていたからね。でも、無事に帰ってくることは信じていたよ」

「こっちは焦ったんだからね!ブリンクが目覚めなかったらどうしようかって」

「ごめんごめん。ブリンクにとっては、悪くなかったんじゃないの?」

ブリンクはにこやかに首を縦に振った。

「なら、いいけど」

でもキエノラのお気に入りになって変わった石を持ち帰ってくるとは思わなかったなぁ」

ソラは石を灯に照らしながらそう話していた。

「お気に入りになったら危ないって聞いたから、私もうゲルニカに立ち寄れないよ」

「うーん、キエノラ発信機でもアルに作ってもらったら?」

「作ってもらえるなら是非とも欲しい品ね!」

「あはは…」

「さぁてご飯にしようか。今日はシャケのムニエルだよ!」

「聞いたことがない食べ物、でも美味しそう!」

「干渉液は明日使用するとして、今夜はゆっくりするとしようか」

みんなが椅子に座っていただきますとともにシャケを箸で突き始めるかと思ったら、ブリンクは箸を不思議そうに眺めていた。

そんな様子を見てカナデが話し始めた。

「あ、もしかしてブリンクちゃんの世界に箸を使う習慣なかった感じ?」

「箸…。ただの棒2本かと思ったら、これも食事をするための道具だったんだ」

「うーんそうなったら、今度は箸の練習をしないといけないね」

そう言いながらつづりはキッチンへ行ってナイフとフォークを持ってきた。

「箸をマスターするのは結構時間かかるから、今日はナイフとフォークで食べるといいよ」

「そうしてもらえると助かるよ」

「箸の練習は大変だよ?

こうやって身を切って口元へ運んでこれるようになるまで、小豆を皿から皿に20粒移動できるようになるくらいじゃないと、マスターしたとは言えないからね」

「この動作を、20回も?!」

「ソラ、それは他の人でもできるか難しいと思う」

「え、そうかな?」

ブリンクはナイフとフォークが渡されて問題なく食事を行うことができた。

「ところで、キエノラに気に入られたきっかけって思い当たる節がある?

この世界の住人じゃないってだけじゃあ、お気に入り認定されるとは思えないんだよね」

「ぼくたちよりソラの方が知ってるんじゃない?キエノラの店を教えてくれたのはソラじゃん」

私は彼女と物々交換をした仲なだけであってお気に入りになる基準なんて知らないよ。

教えてほしなぁ、きっかけ」

ぼくとブリンクは少し悩んだ。

気に入られるきっかけ、何かあっただろうかと。

「そう言えばあの芸術家から質問されたのを思い出した」

「…どんな?」

「魂はどこにあるのかって。

私は、魂のありかに決まった場所はないって答えたよ」

「そうか。

気に入られたんだとしたら、ブリンクの魂に関する理論に興味を持たれたってところかな」

「そんな変わったことを言った覚えはないんだけど」

「まあでも、私も少しは安心したかな」

「え?」

「ブリンクに良い友人ができたことがさ」

「あの芸術家と友人なんて、考えたくもない!芸術家は苦手よ!」

「あらあら」

食事が終わって後片付けをしているとぼくはふと疑問に思ったことがあってソラに質問をした。

「え、アル達が行方不明になっていたのはどれくらいかって?」

「うん、その期間の長さによってはブリンクが危険な状態になる日も近いだろうから」

ちょうど食器を洗い終えたソラは蛇口を閉めて手についた水分をタオルで拭き取りながら話し始めた。

「1週間くらいかな。私たち流での換算では」

「1週間も?」

「ディモノスリンは、実はファミニアの端とも呼べる領域が含まれていてね。

前にも話したことがあったよね、ファミニアには端が存在するって」

「ファミニアの法則が及ばない闇の空間。

そこに踏み入れてすぐに戻れば何もないけど、長期間滞在したら何が起こるか分からない場所だよね。

ディモノスリンがそこに含まれるってこと?」

「ディモノスリンの詳細な広さは分かっていない。でも、ファミニアの端から先にも広がっているってことはわかっているんだ。

なんで外に踏み入れないように見えない壁が用意されていないか分からないけど」

「…それと今回の件で何か関係があることがあるの?」

「ディモノスリンでの時間の進み方だよ。

ファミニアの法則に囚われないのであれば他の世界同様に時間の進む法則さえ違う可能性がある。

さっき回答した一週間という基準は、他世界を探索するために私たちが他世界の情報をもとに算出しているものだし。
残念ながらファミニアでは時計というものが役に立たないから確かめようがないけれど、ファミニアでどれほど時間が進んだか知っても、あまり意味がないんじゃないかな」

「どうして不安にさせるようなことを言うの」

「不安?」

ブリンクは前までいた世界の習慣に従って眠るという行為を行っているだけで何も問題はない。

でも、目覚めなかったらどうしようかって。

そう考えていると、いきなり額に冷たい感触がしたので驚いた。その正体は、ソラが持っていた水の入ったコップだった。

「少しアルも休んだほうがいいよ。誰かに過干渉な状態になるなんて、らしくないよ」

「そう、だね」

ぼくはコップに入った水を飲んだ後、コップを片付けて自分の部屋へと戻った。

 

日の出の時間、いつもなら朝食の調達をする時間だけど、今日は違った。

ブリンクが目を覚さない。

そして、呼吸がとても浅い。

「そんな、こんなにも早く限界が近づくなんて」

アルの呼びかけにも応じないあたり、少し時間が経てば死んだ状態と変わらないものになるだろう。

「大丈夫だよ、アル。

私達はちゃんとこの事態を解決するための手段を用意できている」

「それなら、早く助けてあげようよ!」

「そうだね。

つづりん、拘束具を持ってきて」

「え、拘束具?」

つづりんは拘束具で手足が床から離れないよう固定した。

あとは拳を握りすぎて切り傷ができないよう、ブリンクの手にタオルを握らせた。

その後、私はアルがキエノラからもらってきた石をブリンクの胸元に置いた

「これはどういうこと?」

「これからブリンクの魂をこの石へ移動します」

「魂の移動?それだけで解決できるの?

いやでもそれをどうやって」

「アルくん、私はソラさんと二人が不在の間に別世界の観測を行っていてね、その世界では世界の法則から逃れる方法が存在していたんだよ」

「ぼくたちがキエノラの店へ行く前に話していたことだよね、それ」

「そう。その世界から助っ人を呼んでいてね。ブリンクちゃんを助ける手段は手に入れていたわけ。

でも、成功するかはブリンクちゃん次第だよ」

つづりんの光のない目を見てアルは少し怯えていた。

話終わったらつづりんはポケットに忍ばせていた子を取り出した。

「さて、手筈通りにお願いね」

「それは、石?」

[石とは失礼ね!シ…

私はれっきとした生物よ!]

「余計な言動は控えて。これが無事に済んだらカレンの元へ返してあげるから」

[わかってるわよ。でも、あいつみたいに上手くできるとは限らないからね。

じゃあ、始めるよ]

しゃべる石は輝き始め、それとともにブリンクと胸元の石も輝き出した。

胸元の石は宙に浮き始め、眩しいほどの輝きを放ち始めた。

すると、眠っていたブリンクは目を開け、何かに刺されたかのような悲鳴を上げながら暴れ始めた。

「ブリンク!」

[魂を抜き取るんだからそりゃ痛いだろうさ。望みさえすれば痛みは和らぐさ]

予想通り拳は強く握られ、タオルがなければ出血していただろう。

それに、ブリンクは口から泡を吹き出し始めた。

[さあ、ブリンクという名の少女。

己の中にある奇跡を輝かせなさい。

生きたいと言うならば、その奇跡を信じ、願いなさい]

「わたし…は…」

ブリンクは目を見開くながら声を絞り出そうとしていた。

[さあ、あなたの願いは]

「私は…生きる!生き続けていつか、お母さんたちと再会したい!」

浮いた石は失明するのではないかというほど輝き、輝きが落ち着いた頃に拘束具には電撃が走って砕けた。

[なかなかの奇跡の輝きね。

受け取りなさい。それがあなたの全てよ]

動けるようになったブリンクは宙に浮いた石を手に取った。

石は形状を変えてブリンクのブレスレットへと形状を変えた。

「体の調子はどう?ブリンクちゃん?」

「すごい、さっきまで死にそうなくらい苦しかったのに今は全然平気。

それに、気持ちも軽い」

[ふふ、シ…私にかかればこんなもの当然にできちゃうのよ]

「したっけ私はこの子をあるべき場所に返してくるから、何が起こったかはソラさんお願いね」

「はいはい」

そう言ってつづりんは別世界へと飛んでいってしまった。

「ソラ、ここで何が起きたか説明してくれる?」

「あの石が口走ってたと思うけど、今ブリンクの魂はそのブレスレットに格納された。

つまり、手に取れる形になったってこと」

それと代謝の概念がブリンクから消えることとどんな関係があるの?」

「代謝の概念?」

「ブリンクには説明していなかったね。

ブリンクは代謝のある世界から来ているけど、このファミニアには代謝という考え方が存在しないんだ。

その証拠に、汗をかかないでしょう?」

「そういえば、私この世界に来て一度もトイレに行きたいと思ったことがなかったかも!」

「うん、代謝がないこの世界ではもちろん老廃物なんて物も存在しない。でもさっきまでのブリンクには行き場のない老廃物が体内に溜まり続けていたんだ」

「え…それ考えただけで恐ろしいんだけど」

「実際危なかったんだ。少し遅れていたら死んでしまっていたかもね」

「そう、なんだ」

私は話が長くなることを考慮して、2人に椅子へ座るようジェスチャーで促した。

カナデは知らないうちに食材集めに行ってしまったようだ。

「んで、魂が石に入っただけでブリンクがなぜ救われたかなんだけど、魂の在処が変わったことで世界の概念から抜けることに成功したからなんだ」

「そこがわからないんだけど」

「世界の概念って生物という存在の何に作用すると思う?」

「肉体も、魂も。じゃないの?」

「その通りだけど、概念の情報を保持するのは魂だけなんだ。

肉体はただの器で、魂に保存された概念に影響されるだけの存在さ」

それはあなたたちが他の世界へ行っても無事でいられることと関係するの?」

「ブリンクは目の付け所がいい。

私達はファミニアの概念が染み付いた魂だから多次元に存在する他の世界の概念には縛られない。

不都合が生じる世界もたまにはあるけど、大抵は問題なく生活することができる」

「…私の魂が入っているこのブレスレットは、この世界の石。

この世界の概念が上書きされたから前の世界にあった代謝の概念が破棄されたんだね」

ブリンクは頭の回転が早いようだ。

「さっきソラが言ったように、ブリンクには老廃物が蓄積されていたんだけど、この世界の法則が適用されたことでそのこと自体が無かったことになってる。

安心していいよ」

「そうなんだ。よかっt…

あれ?じゃあ老廃物の情報って何に置き換わったの?!
エネルギーの法則が成り立たないよ!」

「それは感情エネルギーに影響するよ。感情エネルギーが減ると怒りやすくなって、最終的には感情を抑えられなくなるんだけど、今は穏やかな気持ちなんだよね?」

「うん、昨日まであった自暴自棄な気持ちにはならないよ」

「実は私も詳しくはわかってない。

あの子がブリンクの魂を石へ宿らせただけで、どういう過程で宿らせることができたのかは理解の範囲を超えているんだ」

「あのしゃべる石、一体なんだったの?」

「魂を手に取れる形にできる世界にいた存在、そしてその方法を模倣できる存在。

ここまでしか教えられないかな」

「…まあいいよ。後で記録をのぞいておくから」

「まあ、ブリンクは体にどんな怪我を負っても無事でいられるようにはなったけど、そのブレスレットが壊れでもしたら即死する存在になったことは理解してね」

「え、それって右腕を切り落とされたら終わりってこと?」

「ブレスレットと体がある程度離れたら、もしかしたら体を動かせなくなっちゃうかもね。

切り落とされたらブレスレットの回収だけは忘れないようにね」

「魂、手に取れる形になっちゃったね」

「あの芸術家には二度と近づけないわ!」

「さて、ブリンクには私たちの活動を手伝ってもらう方法もそうだけど、箸の使い方も覚えてもらわないとね」

「あはは、そうでした」

「みんなー、用事終わった感じ?

料理、調達してきたから下に降りてきてね。

つづりんも戻ってきているから」

「ありがとう、カナデ」

「なんのなんのー」

「それじゃあ、これからのことは食事をしながらゆっくり話すとしようかな」

 

こうして私達はブリンクをメンバーとして無事に迎え入れることができた。

アルではこんなことをしなくてもよかったのにブリンクには必要だった。
アルが元々いた世界には代謝の概念がなかったのかな?

私にも知らないことっていうのは、まだまだ尽きることがない。

特に、身近な存在ほど未知なことは多い。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-12 今帰れたところで私は嬉しくないし、逆に辛い

あれからつづりさんとかなでさん、ブリンクが戻ってきた。

戻ってきて早々、ソラはつづりさんへさっきまで探していた次元へ繋げるようお願いをした。

それからなぜかつづりさんだけが目的の次元へ飛び、ファミニアから観察を行うことになった。

何でこんな流れになったのかというと、ソラたちがいた世界の解析準備を行うためらしい。寄り道をしないとは何だったのか。

そしてぼくとブリンクは脳みそを浸からせるための干渉液を手に入れるために外へ出ている。

出る前にソラへいろいろ怒ったせいで消耗した感情エネルギー補給のために、ぼくとブリンクは食べ物を求めて歩いていた。

「ソラに何を怒っていたの?」

事実を知らせていないブリンクはぼくが怒る理由がわからなかった様子。

「いきなり寄り道するようなことを始めたからさ。まあ、すでに寄り道してるぼくが言えることじゃないけど」

「たまには寄り道も大事だと思うよ。急ぐことじゃないんでしょ?

干渉液に関しては、急ぐことじゃないかな。

「うん、そうだね」

「それで、今はどこに向かっているの?」

そうか、目的地を伝えずに歩いてたんだった。

「今は材料をもらうためにシチィケム  って場所に向かってるんだよ」

「あ、カナデから聞いたよ。食べ物と交換するための素材が集まる場所なんだってね」

農業都市 シチィケム

食べ物をもらうために要求される大抵のものはこのシチィケム にある。

ここには材料となる植物や動物がいてそれらを育て、管理する人たちが集まっている。育て屋と呼ばれる植物や動物の専門家は必ず一種類に1人だけ。これも育て方や管理方法を能力のおかげで知っているから。

育て屋たちは育てること、飼育すること自体が楽しいため、よっぽどのことがない限りは無償で材料を分けてくれる。

今回ぼくたちが集めるのはパンの材料となる小麦、挟むためのレタスとお肉。つまりはサンドウィッチを作りたいわけだ。

お肉は何でもよかったんだけどブリンクの要望で鹿肉になった。どうやらブリンクがもともといた世界では主食としていた家畜の姿に似ているかららしい。

鹿肉の育て屋にブリンクがいろいろ聞いていたようだけど、鹿について熱弁する育て屋にただただ驚いている様子だった。

ブリンクが思っていたものと類似している点は多かったみたいだけど、違ったのは鹿の主食だった様子。

私の世界にいるウカっていう動物はこの世界とだいぶ似てるんだよね。でも違うのは食べるもの。ウカは小動物を食べる肉食系なのよね」

あのツノで小動物を攻撃って、苦労するだろうなぁ。

レタスについては初めて見るらしく、キャベツのように葉っぱ系の植物が玉状になっているものはブリンクの世界になかったらしい。

球体の植物といえばタネの状態を食べるモカニンって植物があってね。珍しく果肉の方を捨てて食べるやつなんだよ。果肉は苦くて苦くて食べられたものじゃないけど、タネ部分は煮たりすりつぶしてパンの生地に混ぜたりすると甘くて美味しいんだ」

ブリンクは自分の世界の話についてはとてもいい笑顔で話す。しかも確実に伝えたいのかいつもよりゆっくりと話すからとても真剣なことがわかる。

あまり故郷のことを話すから気にしちゃったけど、ブリンクは知らない世界に夢中になっている様子だった。

「楽しそうだね、ブリンク」

「あの灰の世界よりもキラキラしているからね、そりゃはしゃいじゃうよ」

パンの材料となるライ麦の育て屋に材料をお願いしたところ、珍しく要求品を提示してきた。

「収穫のために動いていたんだが、思った以上にペシャンを使っちまってね。ちょっとこのタンク一杯分のペシャンを組んできてもらえないかな

タンクの大きさはドラム缶くらいといえば通じるか、まあ背丈より少し低いくらいの高さだ。

ブリンクは驚いていたけど、ファミニアでは大容量のカバンが出回っているから実はそこまで苦ではない要求だ。

少々手間なのは、少し高いところにあるペシャンの源泉まで行かないといけないということ。

育て屋が必要とするペシャンは新鮮な状態じゃないといけない。一番新鮮なのはペシャンの源泉であり、街中を流れるペシャンは途中で多くの人が触れるため、鮮度が落ちてしまう。

育て屋はペシャンが欲しいとだけ言ったけど、少々気を使って源泉まで行くことにした。

「アル、ペシャンの源泉ってここから近いの?」

「いや、ここからカムイナキを超えた向こう側にある場所だよ」

「え、遠くない?」

ファミニアの大きさは日々変わっていて拡大する一方だ。

ファミニアの土地はぼくたちの家がある中心都市 カムイナキを中心として外側へと拡大していく。

そのため、一週間前は1㎞先にあると表示されていた建物が今は1.2㎞先になっていることもある。

こんな不思議なことが起こっていると今回のようにただでさえ遠い場所がさらに遠くなってしまい不便だ。

「大丈夫。遠くの場所へ行くために、このハルーがあるからね」

ぼくが取り出したハルーに対してブリンクは夢中になっていた。

「この宝石みたいなやつがハルーって言うんだ。で、この石を使うとどうなるの、飛べるの?」

「飛ぶとは少し違うんだけど、ハルーは一度訪れた場所を記憶して、その場所へ一瞬で飛ばしてくれるんだよ」

「やっぱ飛ぶんじゃん」

「雰囲気としてはつづりさんが使う座標移動に近いかな」

「それって転送だよね。飛ぶと言うってことは何か違うの?」

ハルーが記憶するのは座標ではなく、記録したい場所の近くにあるプラキアと呼ばれる点を記録する。プラキアは始点を意味していて所持者が印象に残った場所がハルーの始点として記録される。座標を記録しないのはファミニアが常時変化しているということが影響してしまうからだ。

要するに一度は訪れたことがある場所にしかハルーでは移動できない。ブリンクは行ったことがなくても、ぼくがすでに訪れた場所だから一緒に移動することができる。

「じゃあ、ハルーを私が持ったところでペシャンの源泉には行けないってことか」

「そういうことになるね。じゃ、行こうか」

ブリンクと手を繋ぎ、ハルーを胸元に当ててぼくはペシャンの源泉を思い描いた。

すると気づいた時にはぼくたちはペシャンの源泉であるワッカイタクにいた。

「え、私たち動いた?周りだけが切り替わったみたいに何も感じなかったけど」

確かによく考えれば不思議な現象ではある。

別の場所へ瞬時に移動する際は何かしらの違和感が体で嫌でも感じることになる。

実は第三者視点で移動してきた人をみようと定点観測を行なったことがあった。

あの時は周囲を注意深く見ていても空間が歪んだり、いきなりその場に現れるなんてことが一切なくなんの収穫もなかった。

だからぼくは素直にこれが瞬間移動とか、指定した場所に飛ぶとか単純な言葉では言い表すことができない。

ハルーだからこういう芸当ができるという共通認識だから何も感じなかったが、よく考えるとハルーというものは得体のしれない奇妙なものであると再認識できてしまう。

「ねえアル、なんかあった?」

「え、ちょっと考え事してただけ。それじゃあ源泉に行こうか」

ペシャンの源泉は地下深くからペシャンが絶え間なく湧き続けるこの世界の生命線。

ここを独占するものが現れてもいいというほど重要な場所であるにもかかわらず、誰もそうしようとしない。

ハルー同様、そういうものだという考えで通っているんだろうけど今までにそう行った出来事が起きていないということが不思議でならない。

「源泉っていうから質素な場所かと思ったけど、噴水公園って言えるほど賑やかだね」

「何かとこの世界では材料になったり、感情エネルギーの補給だったりで人が絶えないからね。芸術好きな人たちが装飾して行ったって話だよ」

「芸術家ってあまりいい印象ないけど、湧き出るのが絵の具に変わってないあたりまだまともかな」

ブリンクの世界の芸術家って…。

ぼく達は新鮮なペシャンを回収してライ麦の育て屋へ届けた。

それから当初の目的だったサンドウィッチを手に入れて、ぼくとブリンクはペシャンの川へ足を浸からせていた。

「あの2人ともこの世界を歩き回ってみたけど、よくわからないなー」

「新しい世界ってそんなものじゃない?」

「いや、なんていうかどこにでもありそうな法則に全然当てはまらないってところが新鮮でさ」

この世界についてにこやかに話すブリンクを見ていると、ソラとの会話をふと思い出してしまった。

「当てっていうのは、ブリンクの魂と体を切り離す方法だよ。体っていうのは元いた世界の法則に縛られるんだけど、魂自体はどこに行っても普遍であって、縛られることはない。
器となる体がないと何処かに飛んで行っちゃうようなものだから、大抵は体とワンセットなんだよ」

「何を、言ってるのさ」

「ブリンクの魂を詰める器を作り、体を維持するエネルギーを感情エネルギーとする仕組みを作る、それが当てだよ」

「理解はできる。でもダメだよ!」

ソラは横目でこちらをみるだけだった。物言わずに人の方向を向くソラは時々怖さを覚える。

「わかるでしょ、代謝の概念がる世界の人が、どれほどからだと魂のつながりを気にしているのか」

「人は体あってこその存在。死んで初めて体と魂が切り離されて、魂は神様に救われるってのが普通だね」

「魂を切り離すなんて、ブリンクが首を縦に降るって、本当に考えているわけ?」

「最短でできるのはこの方法くらい。幸い、観測した次元の中にサンプルとして使えそうな法則があるからそれを使えばできる」

「ソラ!あんたは!」

ソラは表情1つ変えずぼくの目を見続けている。ソラの考えには人の気持ちが含まれていないことが良くある。

最近は良く考えるようになったと思ったらまたこれだ。

「あたしは当てを確実なものにするためにしばらく動けない。だからさ、頼みごとを完了する過程で聞き出してくれないかな。ブリンクの気持ちを」

聞くとしたら今かもしれない。

答えによっては、考え方を改めさせないといけない。尊重されるのは、本人の意思だ。

「ブリンクはさ、もし帰れるとしたら元いた世界に戻りたい?」

食べているサンドウィッチを全部口に入れて、飲み込んでからブリンクは話し始めた。

「戻れるなら戻りたいな。やっぱり元いた世界がしっくりくるし、戸惑うこともないだろうからね」

「なら」

「でも、今帰れたところで私は嬉しくないし、逆に辛い」

「帰りたくない理由って」

「お父さんとお母さん、2人とも私の世界ではちょっとした有名人でね。私の中では自慢の親だった」

「だった?」

ブリンクは頷いたあと、手遊びをしながら両親のことを話し始めた。

 

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