次元縁書ソラノメモリー 1-16 魂と世界とのつながり

干渉液を手に入れたぼくたちは家への帰路についてた。
夕日が川に反射して赤みを帯びている中、ぼくたちは川辺に沿って歩いていた。

ぼくはブリンクに対してキエノラの話題を出した。

「キエノラに失礼じゃないか、急に飛び出していくなんて」

「苦手なものは苦手、あんな女に対して礼儀なんて疲れる行為をする必要もない!」

「やれやれ」

ブリンクと並んで歩いている中、右隣の足音が聞こえなくなってぼくは後ろを振り向いた。

そこには手を後ろに組んで、夕日を眺めるブリンクの姿があった。

「アルも、この世界の人ではないんだよね」

「…そうだよ。ボクもブリンクと同じでここではない別の世界から来た、らしい」

「らしいって、自分でも分からないってこと?」

「そう、ぼくはどこの世界から来たのかが分からないんだ。ソラもぼくが本当はどこの世界の住人なのか知らないって言うし」

「それって、普通は不安にならない?」

「なんでかな、そう考えたことはなかった」

「違和感とか、なかった?」

「…違和感?」

「周りの人と違って、自分だけが能力を使えないことが。
ゲミニカへ行く途中で話してくれたよね、この世界は能力を持っていることが当たり前なんだって」

「ブリンク、急にどうしたの」

「私、元いた世界では出来損ないだったの。
どう頑張っても錬金術は失敗するし、両親みたいに凄い力なんてない」

「落ち着いて、能力がなくてもこの世界の人は酷いことなんてしないから!」

ブリンクは素早くぼくの左手を掴み、そのまま泣き始めてしまった。

「ごめん、夕日を見ていたら急に悲しい気持ちになっちゃった。

私、わたし、役立たずなんかじゃないよね!」

ブリンクの感情が不安定になっている。この原因をぼくはよく知っている。

この世界に代謝は存在しない。その代わりにペシャンを摂取するか幸せを感じることで体内に溜まる「負」を消し去っている。幸せやペシャンを長時間摂取していない場合は、「負」が感情に作用し、最終的には自分で感情を制御できずに暴走をはじめてしまう。

暴走の結果、死者が出たこともある。
その後、暴走した者はCPUに連れていかれて行方不明のままとなっている。

この世界の住人であればよっぽど不幸が続かない限りは暴走に至ることはないが、ブリンクはまだこの世界の住人ではない。そのため「負」を消し去ることができずに体内へ溜まり続けている。

ぼくはブリンクの限界が近いと悟り、落ち着かせることにした。

「大丈夫、大丈夫だから!ブリンクにしかできないこと、絶対あるから!」

ぼくは両手でブリンクの両肩を掴み、ブリンクと目を合わせた。

「自分が何者なのか、それを知っているのはブリンクだけだ。

自分という本質を失わない限り、必ず自分にしかできないことは存在するはずだから!」

ブリンクは何も言わずにぼくの目を見つめていた。

しばらくしてブリンクは目を擦って涙を払った。

「ありがとう、アル。もう大丈夫」

「ブリンク、いったい」

「ほら、ハルーを使ってすぐに家へ帰ろう!」

ぼくは家に着くまで不安で仕方がなかった。

 

無事に何も起こらず家へ帰ってきたぼくたちは、ソラへ干渉液を手に入れるまでに起きたことを話した

そしてソラから驚きの発言が飛び出した。

「そうか、やっぱり二人そろって昏睡したか」

ぼくたちがディモノスリンで昏睡すると知ってお使いに出したの!?」

干渉液の材料はディモノスリンでしか手に入らないってことは知っていたからね。でも、無事に帰ってくることは信じていたよ」

「こっちは焦ったんだからね!ブリンクが目覚めなかったらどうしようかって」

「ごめんごめん。ブリンクにとっては、悪くなかったんじゃないの?」

ブリンクはにこやかに首を縦に振った。

「なら、いいけど」

でもキエノラのお気に入りになって変わった石を持ち帰ってくるとは思わなかったなぁ」

ソラは石を灯に照らしながらそう話していた。

「お気に入りになったら危ないって聞いたから、私もうゲルニカに立ち寄れないよ」

「うーん、キエノラ発信機でもアルに作ってもらったら?」

「作ってもらえるなら是非とも欲しい品ね!」

「あはは…」

「さぁてご飯にしようか。今日はシャケのムニエルだよ!」

「聞いたことがない食べ物、でも美味しそう!」

「干渉液は明日使用するとして、今夜はゆっくりするとしようか」

みんなが椅子に座っていただきますとともにシャケを箸で突き始めるかと思ったら、ブリンクは箸を不思議そうに眺めていた。

そんな様子を見てカナデが話し始めた。

「あ、もしかしてブリンクちゃんの世界に箸を使う習慣なかった感じ?」

「箸…。ただの棒2本かと思ったら、これも食事をするための道具だったんだ」

「うーんそうなったら、今度は箸の練習をしないといけないね」

そう言いながらつづりはキッチンへ行ってナイフとフォークを持ってきた。

「箸をマスターするのは結構時間かかるから、今日はナイフとフォークで食べるといいよ」

「そうしてもらえると助かるよ」

「箸の練習は大変だよ?

こうやって身を切って口元へ運んでこれるようになるまで、小豆を皿から皿に20粒移動できるようになるくらいじゃないと、マスターしたとは言えないからね」

「この動作を、20回も?!」

「ソラ、それは他の人でもできるか難しいと思う」

「え、そうかな?」

ブリンクはナイフとフォークが渡されて問題なく食事を行うことができた。

「ところで、キエノラに気に入られたきっかけって思い当たる節がある?

この世界の住人じゃないってだけじゃあ、お気に入り認定されるとは思えないんだよね」

「ぼくたちよりソラの方が知ってるんじゃない?キエノラの店を教えてくれたのはソラじゃん」

私は彼女と物々交換をした仲なだけであってお気に入りになる基準なんて知らないよ。

教えてほしなぁ、きっかけ」

ぼくとブリンクは少し悩んだ。

気に入られるきっかけ、何かあっただろうかと。

「そう言えばあの芸術家から質問されたのを思い出した」

「…どんな?」

「魂はどこにあるのかって。

私は、魂のありかに決まった場所はないって答えたよ」

「そうか。

気に入られたんだとしたら、ブリンクの魂に関する理論に興味を持たれたってところかな」

「そんな変わったことを言った覚えはないんだけど」

「まあでも、私も少しは安心したかな」

「え?」

「ブリンクに良い友人ができたことがさ」

「あの芸術家と友人なんて、考えたくもない!芸術家は苦手よ!」

「あらあら」

食事が終わって後片付けをしているとぼくはふと疑問に思ったことがあってソラに質問をした。

「え、アル達が行方不明になっていたのはどれくらいかって?」

「うん、その期間の長さによってはブリンクが危険な状態になる日も近いだろうから」

ちょうど食器を洗い終えたソラは蛇口を閉めて手についた水分をタオルで拭き取りながら話し始めた。

「1週間くらいかな。私たち流での換算では」

「1週間も?」

「ディモノスリンは、実はファミニアの端とも呼べる領域が含まれていてね。

前にも話したことがあったよね、ファミニアには端が存在するって」

「ファミニアの法則が及ばない闇の空間。

そこに踏み入れてすぐに戻れば何もないけど、長期間滞在したら何が起こるか分からない場所だよね。

ディモノスリンがそこに含まれるってこと?」

「ディモノスリンの詳細な広さは分かっていない。でも、ファミニアの端から先にも広がっているってことはわかっているんだ。

なんで外に踏み入れないように見えない壁が用意されていないか分からないけど」

「…それと今回の件で何か関係があることがあるの?」

「ディモノスリンでの時間の進み方だよ。

ファミニアの法則に囚われないのであれば他の世界同様に時間の進む法則さえ違う可能性がある。

さっき回答した一週間という基準は、他世界を探索するために私たちが他世界の情報をもとに算出しているものだし。
残念ながらファミニアでは時計というものが役に立たないから確かめようがないけれど、ファミニアでどれほど時間が進んだか知っても、あまり意味がないんじゃないかな」

「どうして不安にさせるようなことを言うの」

「不安?」

ブリンクは前までいた世界の習慣に従って眠るという行為を行っているだけで何も問題はない。

でも、目覚めなかったらどうしようかって。

そう考えていると、いきなり額に冷たい感触がしたので驚いた。その正体は、ソラが持っていた水の入ったコップだった。

「少しアルも休んだほうがいいよ。誰かに過干渉な状態になるなんて、らしくないよ」

「そう、だね」

ぼくはコップに入った水を飲んだ後、コップを片付けて自分の部屋へと戻った。

 

日の出の時間、いつもなら朝食の調達をする時間だけど、今日は違った。

ブリンクが目を覚さない。

そして、呼吸がとても浅い。

「そんな、こんなにも早く限界が近づくなんて」

アルの呼びかけにも応じないあたり、少し時間が経てば死んだ状態と変わらないものになるだろう。

「大丈夫だよ、アル。

私達はちゃんとこの事態を解決するための手段を用意できている」

「それなら、早く助けてあげようよ!」

「そうだね。

つづりん、拘束具を持ってきて」

「え、拘束具?」

つづりんは拘束具で手足が床から離れないよう固定した。

あとは拳を握りすぎて切り傷ができないよう、ブリンクの手にタオルを握らせた。

その後、私はアルがキエノラからもらってきた石をブリンクの胸元に置いた

「これはどういうこと?」

「これからブリンクの魂をこの石へ移動します」

「魂の移動?それだけで解決できるの?

いやでもそれをどうやって」

「アルくん、私はソラさんと二人が不在の間に別世界の観測を行っていてね、その世界では世界の法則から逃れる方法が存在していたんだよ」

「ぼくたちがキエノラの店へ行く前に話していたことだよね、それ」

「そう。その世界から助っ人を呼んでいてね。ブリンクちゃんを助ける手段は手に入れていたわけ。

でも、成功するかはブリンクちゃん次第だよ」

つづりんの光のない目を見てアルは少し怯えていた。

話終わったらつづりんはポケットに忍ばせていた子を取り出した。

「さて、手筈通りにお願いね」

「それは、石?」

[石とは失礼ね!シ…

私はれっきとした生物よ!]

「余計な言動は控えて。これが無事に済んだらカレンの元へ返してあげるから」

[わかってるわよ。でも、あいつみたいに上手くできるとは限らないからね。

じゃあ、始めるよ]

しゃべる石は輝き始め、それとともにブリンクと胸元の石も輝き出した。

胸元の石は宙に浮き始め、眩しいほどの輝きを放ち始めた。

すると、眠っていたブリンクは目を開け、何かに刺されたかのような悲鳴を上げながら暴れ始めた。

「ブリンク!」

[魂を抜き取るんだからそりゃ痛いだろうさ。望みさえすれば痛みは和らぐさ]

予想通り拳は強く握られ、タオルがなければ出血していただろう。

それに、ブリンクは口から泡を吹き出し始めた。

[さあ、ブリンクという名の少女。

己の中にある奇跡を輝かせなさい。

生きたいと言うならば、その奇跡を信じ、願いなさい]

「わたし…は…」

ブリンクは目を見開くながら声を絞り出そうとしていた。

[さあ、あなたの願いは]

「私は…生きる!生き続けていつか、お母さんたちと再会したい!」

浮いた石は失明するのではないかというほど輝き、輝きが落ち着いた頃に拘束具には電撃が走って砕けた。

[なかなかの奇跡の輝きね。

受け取りなさい。それがあなたの全てよ]

動けるようになったブリンクは宙に浮いた石を手に取った。

石は形状を変えてブリンクのブレスレットへと形状を変えた。

「体の調子はどう?ブリンクちゃん?」

「すごい、さっきまで死にそうなくらい苦しかったのに今は全然平気。

それに、気持ちも軽い」

[ふふ、シ…私にかかればこんなもの当然にできちゃうのよ]

「したっけ私はこの子をあるべき場所に返してくるから、何が起こったかはソラさんお願いね」

「はいはい」

そう言ってつづりんは別世界へと飛んでいってしまった。

「ソラ、ここで何が起きたか説明してくれる?」

「あの石が口走ってたと思うけど、今ブリンクの魂はそのブレスレットに格納された。

つまり、手に取れる形になったってこと」

それと代謝の概念がブリンクから消えることとどんな関係があるの?」

「代謝の概念?」

「ブリンクには説明していなかったね。

ブリンクは代謝のある世界から来ているけど、このファミニアには代謝という考え方が存在しないんだ。

その証拠に、汗をかかないでしょう?」

「そういえば、私この世界に来て一度もトイレに行きたいと思ったことがなかったかも!」

「うん、代謝がないこの世界ではもちろん老廃物なんて物も存在しない。でもさっきまでのブリンクには行き場のない老廃物が体内に溜まり続けていたんだ」

「え…それ考えただけで恐ろしいんだけど」

「実際危なかったんだ。少し遅れていたら死んでしまっていたかもね」

「そう、なんだ」

私は話が長くなることを考慮して、2人に椅子へ座るようジェスチャーで促した。

カナデは知らないうちに食材集めに行ってしまったようだ。

「んで、魂が石に入っただけでブリンクがなぜ救われたかなんだけど、魂の在処が変わったことで世界の概念から抜けることに成功したからなんだ」

「そこがわからないんだけど」

「世界の概念って生物という存在の何に作用すると思う?」

「肉体も、魂も。じゃないの?」

「その通りだけど、概念の情報を保持するのは魂だけなんだ。

肉体はただの器で、魂に保存された概念に影響されるだけの存在さ」

それはあなたたちが他の世界へ行っても無事でいられることと関係するの?」

「ブリンクは目の付け所がいい。

私達はファミニアの概念が染み付いた魂だから多次元に存在する他の世界の概念には縛られない。

不都合が生じる世界もたまにはあるけど、大抵は問題なく生活することができる」

「…私の魂が入っているこのブレスレットは、この世界の石。

この世界の概念が上書きされたから前の世界にあった代謝の概念が破棄されたんだね」

ブリンクは頭の回転が早いようだ。

「さっきソラが言ったように、ブリンクには老廃物が蓄積されていたんだけど、この世界の法則が適用されたことでそのこと自体が無かったことになってる。

安心していいよ」

「そうなんだ。よかっt…

あれ?じゃあ老廃物の情報って何に置き換わったの?!
エネルギーの法則が成り立たないよ!」

「それは感情エネルギーに影響するよ。感情エネルギーが減ると怒りやすくなって、最終的には感情を抑えられなくなるんだけど、今は穏やかな気持ちなんだよね?」

「うん、昨日まであった自暴自棄な気持ちにはならないよ」

「実は私も詳しくはわかってない。

あの子がブリンクの魂を石へ宿らせただけで、どういう過程で宿らせることができたのかは理解の範囲を超えているんだ」

「あのしゃべる石、一体なんだったの?」

「魂を手に取れる形にできる世界にいた存在、そしてその方法を模倣できる存在。

ここまでしか教えられないかな」

「…まあいいよ。後で記録をのぞいておくから」

「まあ、ブリンクは体にどんな怪我を負っても無事でいられるようにはなったけど、そのブレスレットが壊れでもしたら即死する存在になったことは理解してね」

「え、それって右腕を切り落とされたら終わりってこと?」

「ブレスレットと体がある程度離れたら、もしかしたら体を動かせなくなっちゃうかもね。

切り落とされたらブレスレットの回収だけは忘れないようにね」

「魂、手に取れる形になっちゃったね」

「あの芸術家には二度と近づけないわ!」

「さて、ブリンクには私たちの活動を手伝ってもらう方法もそうだけど、箸の使い方も覚えてもらわないとね」

「あはは、そうでした」

「みんなー、用事終わった感じ?

料理、調達してきたから下に降りてきてね。

つづりんも戻ってきているから」

「ありがとう、カナデ」

「なんのなんのー」

「それじゃあ、これからのことは食事をしながらゆっくり話すとしようかな」

 

こうして私達はブリンクをメンバーとして無事に迎え入れることができた。

アルではこんなことをしなくてもよかったのにブリンクには必要だった。
アルが元々いた世界には代謝の概念がなかったのかな?

私にも知らないことっていうのは、まだまだ尽きることがない。

特に、身近な存在ほど未知なことは多い。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-12 今帰れたところで私は嬉しくないし、逆に辛い

あれからつづりさんとかなでさん、ブリンクが戻ってきた。

戻ってきて早々、ソラはつづりさんへさっきまで探していた次元へ繋げるようお願いをした。

それからなぜかつづりさんだけが目的の次元へ飛び、ファミニアから観察を行うことになった。

何でこんな流れになったのかというと、ソラたちがいた世界の解析準備を行うためらしい。寄り道をしないとは何だったのか。

そしてぼくとブリンクは脳みそを浸からせるための干渉液を手に入れるために外へ出ている。

出る前にソラへいろいろ怒ったせいで消耗した感情エネルギー補給のために、ぼくとブリンクは食べ物を求めて歩いていた。

「ソラに何を怒っていたの?」

事実を知らせていないブリンクはぼくが怒る理由がわからなかった様子。

「いきなり寄り道するようなことを始めたからさ。まあ、すでに寄り道してるぼくが言えることじゃないけど」

「たまには寄り道も大事だと思うよ。急ぐことじゃないんでしょ?

干渉液に関しては、急ぐことじゃないかな。

「うん、そうだね」

「それで、今はどこに向かっているの?」

そうか、目的地を伝えずに歩いてたんだった。

「今は材料をもらうためにシチィケム  って場所に向かってるんだよ」

「あ、カナデから聞いたよ。食べ物と交換するための素材が集まる場所なんだってね」

農業都市 シチィケム

食べ物をもらうために要求される大抵のものはこのシチィケム にある。

ここには材料となる植物や動物がいてそれらを育て、管理する人たちが集まっている。育て屋と呼ばれる植物や動物の専門家は必ず一種類に1人だけ。これも育て方や管理方法を能力のおかげで知っているから。

育て屋たちは育てること、飼育すること自体が楽しいため、よっぽどのことがない限りは無償で材料を分けてくれる。

今回ぼくたちが集めるのはパンの材料となる小麦、挟むためのレタスとお肉。つまりはサンドウィッチを作りたいわけだ。

お肉は何でもよかったんだけどブリンクの要望で鹿肉になった。どうやらブリンクがもともといた世界では主食としていた家畜の姿に似ているかららしい。

鹿肉の育て屋にブリンクがいろいろ聞いていたようだけど、鹿について熱弁する育て屋にただただ驚いている様子だった。

ブリンクが思っていたものと類似している点は多かったみたいだけど、違ったのは鹿の主食だった様子。

私の世界にいるウカっていう動物はこの世界とだいぶ似てるんだよね。でも違うのは食べるもの。ウカは小動物を食べる肉食系なのよね」

あのツノで小動物を攻撃って、苦労するだろうなぁ。

レタスについては初めて見るらしく、キャベツのように葉っぱ系の植物が玉状になっているものはブリンクの世界になかったらしい。

球体の植物といえばタネの状態を食べるモカニンって植物があってね。珍しく果肉の方を捨てて食べるやつなんだよ。果肉は苦くて苦くて食べられたものじゃないけど、タネ部分は煮たりすりつぶしてパンの生地に混ぜたりすると甘くて美味しいんだ」

ブリンクは自分の世界の話についてはとてもいい笑顔で話す。しかも確実に伝えたいのかいつもよりゆっくりと話すからとても真剣なことがわかる。

あまり故郷のことを話すから気にしちゃったけど、ブリンクは知らない世界に夢中になっている様子だった。

「楽しそうだね、ブリンク」

「あの灰の世界よりもキラキラしているからね、そりゃはしゃいじゃうよ」

パンの材料となるライ麦の育て屋に材料をお願いしたところ、珍しく要求品を提示してきた。

「収穫のために動いていたんだが、思った以上にペシャンを使っちまってね。ちょっとこのタンク一杯分のペシャンを組んできてもらえないかな

タンクの大きさはドラム缶くらいといえば通じるか、まあ背丈より少し低いくらいの高さだ。

ブリンクは驚いていたけど、ファミニアでは大容量のカバンが出回っているから実はそこまで苦ではない要求だ。

少々手間なのは、少し高いところにあるペシャンの源泉まで行かないといけないということ。

育て屋が必要とするペシャンは新鮮な状態じゃないといけない。一番新鮮なのはペシャンの源泉であり、街中を流れるペシャンは途中で多くの人が触れるため、鮮度が落ちてしまう。

育て屋はペシャンが欲しいとだけ言ったけど、少々気を使って源泉まで行くことにした。

「アル、ペシャンの源泉ってここから近いの?」

「いや、ここからカムイナキを超えた向こう側にある場所だよ」

「え、遠くない?」

ファミニアの大きさは日々変わっていて拡大する一方だ。

ファミニアの土地はぼくたちの家がある中心都市 カムイナキを中心として外側へと拡大していく。

そのため、一週間前は1㎞先にあると表示されていた建物が今は1.2㎞先になっていることもある。

こんな不思議なことが起こっていると今回のようにただでさえ遠い場所がさらに遠くなってしまい不便だ。

「大丈夫。遠くの場所へ行くために、このハルーがあるからね」

ぼくが取り出したハルーに対してブリンクは夢中になっていた。

「この宝石みたいなやつがハルーって言うんだ。で、この石を使うとどうなるの、飛べるの?」

「飛ぶとは少し違うんだけど、ハルーは一度訪れた場所を記憶して、その場所へ一瞬で飛ばしてくれるんだよ」

「やっぱ飛ぶんじゃん」

「雰囲気としてはつづりさんが使う座標移動に近いかな」

「それって転送だよね。飛ぶと言うってことは何か違うの?」

ハルーが記憶するのは座標ではなく、記録したい場所の近くにあるプラキアと呼ばれる点を記録する。プラキアは始点を意味していて所持者が印象に残った場所がハルーの始点として記録される。座標を記録しないのはファミニアが常時変化しているということが影響してしまうからだ。

要するに一度は訪れたことがある場所にしかハルーでは移動できない。ブリンクは行ったことがなくても、ぼくがすでに訪れた場所だから一緒に移動することができる。

「じゃあ、ハルーを私が持ったところでペシャンの源泉には行けないってことか」

「そういうことになるね。じゃ、行こうか」

ブリンクと手を繋ぎ、ハルーを胸元に当ててぼくはペシャンの源泉を思い描いた。

すると気づいた時にはぼくたちはペシャンの源泉であるワッカイタクにいた。

「え、私たち動いた?周りだけが切り替わったみたいに何も感じなかったけど」

確かによく考えれば不思議な現象ではある。

別の場所へ瞬時に移動する際は何かしらの違和感が体で嫌でも感じることになる。

実は第三者視点で移動してきた人をみようと定点観測を行なったことがあった。

あの時は周囲を注意深く見ていても空間が歪んだり、いきなりその場に現れるなんてことが一切なくなんの収穫もなかった。

だからぼくは素直にこれが瞬間移動とか、指定した場所に飛ぶとか単純な言葉では言い表すことができない。

ハルーだからこういう芸当ができるという共通認識だから何も感じなかったが、よく考えるとハルーというものは得体のしれない奇妙なものであると再認識できてしまう。

「ねえアル、なんかあった?」

「え、ちょっと考え事してただけ。それじゃあ源泉に行こうか」

ペシャンの源泉は地下深くからペシャンが絶え間なく湧き続けるこの世界の生命線。

ここを独占するものが現れてもいいというほど重要な場所であるにもかかわらず、誰もそうしようとしない。

ハルー同様、そういうものだという考えで通っているんだろうけど今までにそう行った出来事が起きていないということが不思議でならない。

「源泉っていうから質素な場所かと思ったけど、噴水公園って言えるほど賑やかだね」

「何かとこの世界では材料になったり、感情エネルギーの補給だったりで人が絶えないからね。芸術好きな人たちが装飾して行ったって話だよ」

「芸術家ってあまりいい印象ないけど、湧き出るのが絵の具に変わってないあたりまだまともかな」

ブリンクの世界の芸術家って…。

ぼく達は新鮮なペシャンを回収してライ麦の育て屋へ届けた。

それから当初の目的だったサンドウィッチを手に入れて、ぼくとブリンクはペシャンの川へ足を浸からせていた。

「あの2人ともこの世界を歩き回ってみたけど、よくわからないなー」

「新しい世界ってそんなものじゃない?」

「いや、なんていうかどこにでもありそうな法則に全然当てはまらないってところが新鮮でさ」

この世界についてにこやかに話すブリンクを見ていると、ソラとの会話をふと思い出してしまった。

「当てっていうのは、ブリンクの魂と体を切り離す方法だよ。体っていうのは元いた世界の法則に縛られるんだけど、魂自体はどこに行っても普遍であって、縛られることはない。
器となる体がないと何処かに飛んで行っちゃうようなものだから、大抵は体とワンセットなんだよ」

「何を、言ってるのさ」

「ブリンクの魂を詰める器を作り、体を維持するエネルギーを感情エネルギーとする仕組みを作る、それが当てだよ」

「理解はできる。でもダメだよ!」

ソラは横目でこちらをみるだけだった。物言わずに人の方向を向くソラは時々怖さを覚える。

「わかるでしょ、代謝の概念がる世界の人が、どれほどからだと魂のつながりを気にしているのか」

「人は体あってこその存在。死んで初めて体と魂が切り離されて、魂は神様に救われるってのが普通だね」

「魂を切り離すなんて、ブリンクが首を縦に降るって、本当に考えているわけ?」

「最短でできるのはこの方法くらい。幸い、観測した次元の中にサンプルとして使えそうな法則があるからそれを使えばできる」

「ソラ!あんたは!」

ソラは表情1つ変えずぼくの目を見続けている。ソラの考えには人の気持ちが含まれていないことが良くある。

最近は良く考えるようになったと思ったらまたこれだ。

「あたしは当てを確実なものにするためにしばらく動けない。だからさ、頼みごとを完了する過程で聞き出してくれないかな。ブリンクの気持ちを」

聞くとしたら今かもしれない。

答えによっては、考え方を改めさせないといけない。尊重されるのは、本人の意思だ。

「ブリンクはさ、もし帰れるとしたら元いた世界に戻りたい?」

食べているサンドウィッチを全部口に入れて、飲み込んでからブリンクは話し始めた。

「戻れるなら戻りたいな。やっぱり元いた世界がしっくりくるし、戸惑うこともないだろうからね」

「なら」

「でも、今帰れたところで私は嬉しくないし、逆に辛い」

「帰りたくない理由って」

「お父さんとお母さん、2人とも私の世界ではちょっとした有名人でね。私の中では自慢の親だった」

「だった?」

ブリンクは頷いたあと、手遊びをしながら両親のことを話し始めた。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-3「なにがどうなっているのさ!」 

情報屋から戻ってくると、つづりさんとソラは以前行った世界について話していました。
ボクたちindementionは4人の力を合わせて多次元へ飛んではその世界の情報を多次元目録へまとめています。

つづりさんの力は繋がる力。その力は人とのつながりを見ることができるだけでなく、別次元とのつながりも観測でき、そこへ移動できるというすごい能力です。でもこれには欠点があり、つながってもいつのどこに到達するのかが不安定であり、元の多次元へ戻る方法も確立されていませんでした。

ファミニアの人々にはなにかしらの能力が備わっていますが、そのどれもが不完全であり、完全であればあるほど不足する点が浮き彫りとなります。
つづりさんの場合は、別世界ともつながることができるという強大な力を持っているけど制御は完全ではないという状態です。


不完全な繋がる力を補うために使用されるのが、つづりさん用に作られた武器『縁結の矛』です。縁結の矛は始点と終点を指定することで元いた次元と移動先の次元を見失ってしまう欠点を補っています。これはソラの記憶する力を縁結の矛と連携できるようにしているからであり、始点と終点を結んでいるのはつづりさんの力。


また、つづりさんが行えない移動先の座標と時間指定はボクが作ったヘアピンとカナデさんが使用できる集音の力で調整を行っています。
ヘアピンでは周囲の画像情報を収集し、ヘアピンを通しての会話も別次元通しで可能となっています。このヘアピンで音を収集し、音を記録できないソラのため、カナデさんが音を記録できる形に変換してくれるのです。
ヘアピンは集めた音情報を記録するため以外にも、周囲の状況を大まかに知ることができる材料にもなっています。とんだ先が空中なのか、水中なのか、はたまた地中なのか。
これで判断を行い、座標の調整を行っているのです。
これが完了すればその世界へ再び行くことになっても安全と判断された座標へ再び飛べばいいだけなので、二回目以降は初めて行くよりも簡単です。
今二人が行こうとしている世界はこれで二度目の世界ですので、ヘアピンを通して座標と時間を共有するだけで十分。あとは映像と音声を拾って記録を行えばいいだけです。


記録先は映像と音を記録できる水晶で、これには記憶ができる量に上限があります。水晶に記録された映像と音の二つの要素を一つの本へ記録するのは今のところソラにしかできない芸当です。その本を開くと映像と音声が立体的に再生され、原本はソラに記録されます。
こうやってボクたちはお互いのできることを共有し、支えあっています。

「それじゃ、よろしく!」
「任されましたよっと」
つづりさんが専用の武器を具現化させると石突を床につけます。すると、淡い黄緑色の光がつづりさんとソラを包みこみます。

「座標、時間共に前回の離脱時期に指定」
縁結の矛に埋め込まれた宝石が光り、足元は円形にエメラルドグリーンに発光しています。
「んじゃ、留守は任せたよ」
ソラがそういうと縁結の矛が宙に浮き、宝石が眩く光りだします。するとソラとつづりさんの姿が一瞬で消え、部屋にはボクとカナデさんが残りました。
どうやら二人は無事に次元以降に移れたようです。

情報屋の不安が気になるけど。

ボクは情報屋の元を離れる前に、珍しく情報屋に引き留められたのです。
他人と話すのがとても苦手な彼女がボクに話しかけてきたとき、その聞き取りやすい言葉はミノに話しかけるのと同等なほど流暢な話し方でした。

「小さな変化に気を張って。今の多次元は、気まぐれで道を変えるだけで大きな変化が起きてしまう状態だから。あなたたちが、主犯にはなってほしくない」

「情報屋・・・」

多くの次元が存在するということは、何かの拍子に次元同士が干渉してしまうということがあるのです。

次元にも終わりが存在し、大抵は消えるときは静かに消滅するのですが、時々爆発のような現象を起こして周囲の次元に影響を残して消滅する世界が存在します。
この現象が発生する原因は定かではありませんが、その次元はとても不安定だったことということが今までの調査で明らかになっています。

不安定な次元というのは、次元の在り方や法則、概念が定まっていないカオス状態であればあるほど不安定だと調べがついています。

おそらく情報屋が警戒しているのは、今回起きた正夢の噂が原因でファミニア、もしくはほかの次元が不安定になるということに注意してほしいとのことかもしれません。

そうなると、ボクはソラやつづりさんの行動に気を配らないといけないのです。彼女たちには、寄り道癖があるからです。

 

次元移動の道中


次元移動中は周囲にピンク色の糸が縦横無尽に絡み合い、時々光る粒子が飛び交う不思議な空間に入ります。その中にある一本の糸をわたしとつづりんが飛ぶように目的地へと移動します。
この空間はとても不確かで、観測が不可能なので不干渉次元と呼んでいます。この次元からすべての次元に行けるようなので、この膨大な空間の中に多次元が広がっているのかもしれません。
もし始点と終点を見失ってしまうと、不干渉次元をさまようことになり、どこかわからない次元に放り出されてしまうでしょう。
これもあくまで憶測だけど。

次元移動をしていると突然つづりんが話し出します。
「ソラさん、この空間ってこんなに光の粒子少なかったっけ」

改めて周囲を見渡してみると、確かにいつもより粒子の数が少ない、というよりも全くない。
すると突然大量の粒子が降りかかってきて周囲の糸が大きく揺れ始めました。
「ソラ!つづりさんにつかまって!}
ヘアピンから聞こえた声に反射的に反応し、わたしはつづりんへしがみつきます。どうやら声の主はアルのようです。

何があったのかと問う間もなく、真横からショックウェーブが襲い掛かってきました。つづりんは苦しい表情になりながら次元間のつながりを維持していました。
今までに経験したことがないショックウェーブによって周囲の糸は次々とちぎれていきます。そして、ちぎれた糸がデタラメにつながっていったのです。
「なにがどうなっているのさ!」
つづりんの問いかけに対してヘアピンから声は聞こえてきません。

私とつづりんが通っていた糸もついに切れてしまい、私たちは終点へ吸い込まれていったのです。

 

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【オリジナル小説】次元縁書ソラノメモリー

「肉体と概念のその先へ」

 

思考も、在り方も、概念も世界それぞれ。
それを否定するのが正しいのか、肯定するのが正しいのか。
果たして、正しいとは何なのか。

それはきっと世界に縛られる肉体と、概念の先にあるはず。

 

この物語から人の在り方、概念、思想というあらゆる考え方をを考え直すきっかけになってもらえればうれしい限りです。

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1章 終わりが始まる世界
 1-1 ここはファミニア
 1-2 正夢の噂、ですね
 1-3 何がどうなっているのさ!
 1-4 まずはあなたを信じるのが大事でしょ
 1-5 まあ、いろんな場所に行ってますからな
 1-6 まったく、お前はどこから来たんだ?
 1-7 確かに存在したという証としてね
 1-8 あなたは私たちが怖いですか?
    1-9    この世界にとって、今や死は救済。生きる者に、救済を!
    1-10  わたしだって考えなしってわけじゃない
    1-11  しないよ、今回に限っては
    1-12  今帰れたところで私は嬉しくないし、逆に辛い
    1-13  生きることはあきらめないでほしい
 1-14  みんながみんな独特の発想を持っているとは限らないからね
 1-15 魂の在処とは
 1-16 魂と世界とのつながり

 

この小説はあおソラいろの著作物ということになります。
無断使用はしないでください。あなたの思いやりを信じさせてください。