「八雲!無事か」
「無事では、ないわね」
「ちょっと、これはどういうことよ」
調整屋さんは壁に二箇所大きな穴が開いて中は荒れた状況でした。
私はももこさん達に状況を聞きました。
「糸を使う魔法少女がみたまさんを襲った?!」
「ああ、最初は神浜を乗っ取ることを考えて襲いかかってきたかと警戒していたんだけど、話を聞いていると何も言い返せなかった」
「その魔法少女がね。みたまさんが調整する事は魔法少女を魔女化しやすくしているだけだって言っていたよ」
「ったく。神浜にいれば関係ないって言っているのに、その魔法少女全然聞かなかったのよ」
糸の魔法少女というのはおそらくカレンさんのことでしょう。
初対面した際も正論を聞かされましたが、今回襲った理由も実はまともな理由だったのです。
「確かに普段は使えない魔力を使用するのだから、魔力の消費は激しくなるわね」
「それは魔力の使い方の問題だ。消費を控えればいいだけのことだろう」
「えと、私魔力を控えるとか全然できなくて。むしろ控えちゃうと全然戦えなくて」
「かえでが魔法使うの下手なだけでしょ」
「レナちゃんだってアクセル全開でいつも武器を投げて回ってるでしょ」
「そのほうが早く終わるからに決まってるでしょ!」
「でもいつもグリーフシードの消費が多いの知ってるもん」
「それは、そうだけど」
「いろはちゃん、やちよさん。相手の言葉が正論に聞こえて何も言い返せなかった。守ろうとしてる側なのに何やってるんだか。ごめん」
ももこさん、レナちゃん、かえでちゃんはカレンさんの言葉に対して反論できなかったようです。
みたまさんはソファーの上に寝ていて、十七夜さんと話していましたが、とても暗い顔をしていました。
「十七夜、私はやっぱり、だれかを呪うことを願ってしまったからこうなってしまったのかしら」
「考え込むな八雲。神浜の魔法少女は救いになっている。それだけで十分だ」
「でも、でも!」
泣きそうなみたまさんへももこさんが後ろから抱きつきました。
「ちょっとももこ!」
「大丈夫だ調整屋。私たちだって、いろはちゃんだって、やちよさんだって、十七夜さんだって、レナやかえで、みんなみんなお前がいなければこの街の魔女と十分に戦えるようにはなっていなかったかもしれないんだ。
調整屋がいたから今の私たちがいるんだ。それが呪いだろうがなんだろうが、良かれと思ってやっていたんだろ。
だから胸張れよ。泣きたいなら、その間ずっとここにいてやるよ」
「ももこ…」
そのままみたまさんは、ももこさんの腕の中で小さな子どものように泣いていました。
そんなみたまさんを、ももこさんは真剣に受け止めていました。
「環くん、七海、少しいいか」
そう言うと、十七夜さんは外へと私たちを連れ出しました。
「今回の件、いくら手を出すなと言われても擁護しきれん。私は糸の魔法少女を探し、本心を聞き出す」
「それは危険すぎるわ。ななかさん達でも歯が立たなかった相手よ。それにその強さは十七夜も目の前で目撃しているはず」
「だから黙って行いを見過ごせと言うのか。神浜へ害を加えるようなら、私はただみるのではなく行動へ移すぞ」
「行動すると言うのであれば約束してください。まずは話し合おうとしてみてください。そのあと襲われたら、身を守るために戦ってください。相手に襲いかかると言う考えだけはしないようにお願いします」
「…心得た。無理はしない」
そう言って十七夜さんは調整屋の中へと戻って行きました。
「十七夜、ちゃんと理解してくれたかしら」
「大丈夫だと思いますよ。十七夜さんは無鉄砲な人ではないと知っていますから」
「いろはがそう言うなら、信じてみるわ」
やちよさんと話していると電話が震え、手に取ると画面には「ちゃるちゃん」と言う文字がありました。
ちはるちゃんからかかってきた電話は、今神浜に居るから確認したいことがあると言う内容でした。
ちはるちゃん達は以前スーパーで会った後に移動した広場にいました。会った時と同じように3人揃っていました。
「おまたせしました」
「お久しぶりです。えと、隣にいるのは誰でしょう」
「私の仲間の七海やちよさんです」
「よろしくね。静香さん、でよかったかしら」
「はい、よろしくお願いします。それで話なのですが調整屋についてです」
静香さん達は調整屋さんがカレンさんに襲われた際、ちょうどその場に居合わせていたそうです。その時にカレンさんから調整を受けすぎないようにと忠告を受けたそうです。
「カレンさんがそんなことを」
「そうなんです。だから真意を聞かせてください。調整屋を勧めたのは私たちの穢れを早くするためだったのですか」
「ちょっと静香。いきなりすぎます」
「答え方と内容によっては、関係を改めないといけません」
どうやら静香さん達は調整屋さんへ誘う行いが悪意のあることかどうか気になってしまったようです。ここで変に調整屋のことを擁護する言い方をすると、真実を伝えることができないかもしれない。
ならば。
「調整を受ければこの街で魔女と戦いやすくなるというのは事実です。でも、調整を受けることで穢れが溜まりやすくなるというのは私たちも知りませんでした。真実も知らずに安易に勧めてしまってごめんなさい。
だから、改めて伝えさせてください。調整を受けるのは自己責任でお願いします。穢れは早くなっちゃうかもしれませんが、神浜の魔女を倒すのが厳しいと思ったら調整を受けることを考えてみてください。
あと、調整を受けると静香さん達の記憶を覗かれてしまうのでそれも嫌なら調整は受けないことをお勧めします」
「嘘偽りは無いのですね」
「はい」
静香さんの目は力強く、会った時は平気だったのに今は怯んでしまいそうでした。しかしここで目を逸らしてしまうと嘘だと思われしまうかもしれないと思い、目を見続けていました。
静香さんはちはるちゃんを一度見て、そのあとちはるちゃんは笑顔で頷きました。
「ありがとういろはさん。ちゃんと真実を伝えてくれて。ちゃるが悪意を感じることもなかったし、今後も仲良くしていけます」
「良かったです。心臓がはち切れちゃうかと思いました」
「ごめんなさいいろはさん。静香がどうしてもっていうので」
「いえ、誤解が続くよりは全然いいです」
誤解が解けた中、やちよさんがちはるちゃんへ質問をしました。
「ちはるさん、もしかしてあなた相手に悪意があるかどうか見破ることができるの」
「見破るというか、嗅ぎ取るというか」
「ちゃるは魔法少女になってから人の悪意を嗅ぎとれるようになって、悪さを考えているとすぐに気づいてしまうんです」
「静香ちゃんが私が大事にとっていたプリンを隠れて食べようとした時も、ちゃんと嗅ぎ取ったくらいだからね」
「あれはちゃんと謝ったでしょ〜」
「ああ、思い出したらイライラしてきた!」
「もう、ちゃるも静香もやめなさい」
「完全に私は巻き添いよ」
話はそれてしまっている気がしましたが、3人の仲が良い事はよく伝わりました。
「話に戻っていいかしら。悪意を嗅ぎとれるって事は、カレンさんと会った時も嗅ぎとれたはずよね。どうだったか教えてもらえないかしら」
「その事なんですけど、実はそこから静香ちゃんの疑いが膨らんじゃったの」
「それってもしかして」
「そのカレンさんから悪意は全く感じなかったんだ。襲うようなことをしたのに悪意がないって、それはもう正義がある行いってことだよね。だから」
カレンさんがやったことに悪意はなかった。ちはるちゃんの能力が確かであれば、カレンさんの行いはどう見届ければいいのだろうか。
十七夜さんもなぜか雑念が多くて真実を読み取れなかったと言っていたし、話してみないとわからないことには変わりないようです。
「時間をとってしまってごめんなさい。そうだ、魔法少女の集会というのは近々行われるでしょうか」
「実は今日あったんですけど、次回がいつになるかはちょっとわからないですね」
「では今度空いてる日を教えますので、タイミングがあえば参加させてください」
「わかりました」
静香さん達と別れた後、わたしたちもみかづき荘へ向かって歩き出しました。
「あの子達が前言っていた協力してくれるって言っていた子達かしら」
「そうです。今回も話してわかってくれてよかったです」
「せっかくの外部からの協力者、ちゃんとみんなに紹介しないといけないわね」
「はい」
みかづき荘へ戻ると、なんだか雰囲気が重くなっていました。
「鶴乃、それにみんなどうしたの」
「ししょー、いろはちゃん、魔法少女のSNSを見ていなかったの?!ひなのさんが大変なんだよ!」
一難去ってまた一難。
私たちのわからないところで事件が起きてしまったようです。