【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-1-10 これは貴方が求めていたものに値するかい?

私たちが応接室に入ると、そこには1人の女性と不貞腐れている少女がいた。

「どうぞ、お座りください」

「えっと、不機嫌そうですね」

「気にしないでもらいたい」

「では、今回訪れた理由となる資料をお渡しします。まずはそれに目を通してみてから感想を聞かせてもらえますか」

不貞腐れている少女に渡したのは魔法と魔法少女についての調査内容を記載した資料だ。

その資料を不貞腐れた少女を中心として教授と付き添いの女性も読んでいた。

その資料を読んだ後の最初に話し始めたのは教授だった。

「イザベラさん、我々はオカルト研究ではなく生物学についての研究を専攻していまして、ここに書かれている内容はいささかファンタジーが過ぎるのではないでしょうか」

「そのファンタジー、現代技術でどうにか立証及び実現できないでしょうか」

「ですから、ファンタジーな時点で」

「面白い内容じゃない?」

「ディア?」

不貞腐れた少女はディアという名前らしく、興味津々に資料を眺めていた。

「この魂を石に変換するってところ面白いわ。これを科学技術に転用できれば私のクローン研究が大きく進展するわ」

「ディア、お前の提唱するクローン技術は過激だと言っている。出した論文もマイルドな部分のみで報告したのもそのためだと伝えたはずだ」

あんな実現したところでどうだっていい内容になったから見向きする人が現れなかったのですよ。

イザベラだっけ?魔法についての調査、請け負ってもいいわよ」

「あら本当?」

「こら、私の許可なく話を進めるな。そもそもお前には私が出している課題があるだろう」

「あんな課題もう提出する準備ができていますよ。その後は好きにさせてもらいますから」

「ディア、おまえは!」

「では雇うという形でディアさんをお借りします。それ相応のお金は前払いさせてもらいますよ」

「そ、そうか。ならば好きにしろ」

俗物め。

「じゃあカルラも一緒でお願い。私、カルラと一緒じゃないと嫌だから」

「私からもお願いしたい。私なしだとディアはすぐに暴走してしまうからな」

「あなたは、カルラさんというのですね」

「脳波の研究を専攻している。きっと役に立つだろう」

こうしてイザベラは変わり者な2人の研究者を雇った。

 

2人にはイタリアにあるシェルターを貸し与え、そこで魔力でできた霧を突破する方法を研究してもらうと伝えた。

部屋の準備が整うと、ディアはさっそくイザベラへ頼みごとをしてきた。

「さて、早速だけどあなたの血を採取させてもらえないかしら」

「私の血を?」

「ええ。何の媒体も使用せずに魔法が使えると言うのであれば、体組織に魔力の類のものが溶け込んでいたっておかしくないわ。
だから資料として頂戴」

「いいわよ。でも、常識の範囲内の量でお願いね」

「吸血鬼じゃないんだし、心配しないで」

そうは言っていたがイザベラの血液は献血並みに抜き取られた。

その後の血液の使われ方を聞いたら絶句した。

火で炙ってなかなか固まらなかったり蒸発しないことに興奮して、溶解した鉄の液体に血を垂らして血液の性質を保てるか実験したという。

致死量の毒を血に混ぜると驚きのスピードで解毒したという。

冷凍庫に保存しても暖かさを保って腐りもしなかったという。

調べる角度はなかなかクレイジーだが、魔力が籠った血は生命力を高める効果があるというのは立証された

「すごいよ!イザベラの血液だけでこの世では出ないはずの結果がたくさん出て驚いたよ!
できれば銃で撃たれた後の傷口が塞がるスピードも調べさせてもらいたい」

「調子に乗るな」

「それで、魔力の霧を突破する方法は分かりそうなの?」

「それについては魔力についてのサンプルがもう少し欲しい。

見せてくれた資料によると聖遺物と呼ばれるものには魔力がこもっているらしいじゃないの。

いくつか持ってきてくれない?」

なにが聖遺物に該当するのかというのははっきりしていない。

それに、この聖遺物について魔法少女の間では争奪戦が行われたことで人間が所持している聖遺物は数少ない。

イザベラは一度ヨーロッパ地方にいる魔法少女へ聖遺物について聞いてみた。

「あんた、まさかこの辺りの事情に疎い?」

「えっと、そう」

「あまり聖遺物の話題を出さない方がいいよ。昔ほどじゃないけど、聖遺物のやりとりはよく争いが起きるんだから」

「そうなんだ」

「変な争いは避けたいでしょ、グリーフシードは有限なんだから」

「そうね。教えてくれてありがとう、気をつけるわ」

ヨーロッパ地方での聖遺物事情を知り、私達はインド周辺や中東で聖遺物探しを行った。

しかし、ここら辺の地域でも魔法少女達は聖遺物については敏感に反応して、危うく殺されかける時もあった。

研究材料となる聖遺物が確保できず、しばらくの間目的が果たせずにいた。

そんな中ディアは。

「じゃあ魔法少女を直接生捕にしてきてよ。その子をそのまま実験材料にするからさ」

「あんた、生き物の命を何だと思ってるんだ!」

「キアラさん、ディアはこういうやつだ。慣れては欲しくないが、いちいち気にしてると精神がもたないよ」

「・・・カルラさん、よく一緒の研究室でやっていけましたね」

カルラさんは私に後ろから覆いかぶさるように右手を私の右肩にかけ、私の左耳にささやいてきた。

「普段他人には見せない一面が好きだからさ。あなた達も長い付き合いになったら見ることができるんじゃないかな」

「想像もできない」

もちろん魔法少女の生捕なんてやらずに最適な素材がないか考えた

そしてイザベラは大きな決断をした。

「両親の形見であるそのペンダントを材料にしてしまうのか!」

「これしかもう方法がない。

たくさんの魔法少女に目をつけられて行動しづらくなるよりは、これを使うしかない」

「でも、大事なものを失った後イザベラはイザベラでいられるのか」

「どういうこと?」

「経験したことがあるかわからないが、大切なものを失うと人が変わる場合がある。

中には全く別人に変わってしまう人もいる。それがイザベラに訪れないか不安なんだ」

「キアラ、私の精神力を甘く見過ぎじゃない?
大丈夫よ、私は私のままでいられるわ」

そうしてイザベラは首からかけていたペンダントをディアに渡し、ディアはペンダントを調べると言ってからしばらく研究室から出てこなかった。

ディアが研究室に閉じこもっている間、私たちには大きな出来事が起きていた。

ヨーロッパ地方の魔法少女に目をつけられてしまったのだ。

ドイツで魔女狩りをしていた際にイザベラは魔法少女からこう質問された。

「ねぇ、今ここで魔法少女姿を解いてみてちょうだい?」

「必要性を感じないのだけど、どうして?

私を襲う気?」

「まあ当然の反応よね。じゃあソウルジェムをいつもの持ち運べる形に変えてくれない?」

「意味がわからない。おちょくってるだけなら帰らせてもらうわ」

「あなたが魔法少女に化けた何者かじゃないかって、噂になっているのよ」

イザベラは瞳孔が開くぐらいの衝撃を受けてゆっくりと魔法少女の顔を見た。

魔法少女は意地悪そうな笑みを浮かべていた。

「今ここで変身を解いたり、ソウルジェムの形状変化を見せてくれれば当たり前に魔法少女だよねって私は理解できる。

でもここでそんなこともできず怒って逃げ出しちゃったら、魔法少女に化けたやばいやつってみんなに伝えるしかないんだよねぇ」

イザベラは癖である何かやばいことを考えている時の顔になっていた。

私は遠くから静観してるよう言われてきたが、流石に今回は手出しのために現場へ駆け寄って行った。

「あなたを今消せば、誰にも伝わらないわよね?」

イザベラがそう言った瞬間、魔法少女は武器である鞭を取り出してイザベラへ攻撃を行った。

鞭は常識で言う通りの鞭の動きをせず、蛇のように重力を無視してイザベラを追い回した。

イザベラが銃と剣で対抗しても追い払うことができず、鞭の先端がイザベラの心臓を捉えた。

「何してるんだイザベラ!」

私は刀で鞭を打ち払い、魔法少女は攻撃の手を止めた。

「いい従者を連れているのね」

「何故出てきたキアラ!」

「私がいないと死んでただろ!しかも、もう隠す必要もないでしょ」

「そうよ。あなたはもうすでに魔法少女と共闘するには怪しすぎる危険人物として認定されているわ。

何を企んでいるか知らないけど、これ以上魔法少女を危険に晒さないでくれるかしら。

貴方がいると、また大きな争いが起きそうで怖いのよ」

「知ったことか」

「逃げるための時間もあるだろうし、今日は生きて返してあげる。

次に会ったら消すから」

イザベラは何も言わずその場から去ったため、私もイザベラの後をつけるようにその場を去った。

そんなことがあり、私たちは魔法少女の前に姿を晒すことが叶わなくなった。今までのように魔法少女について調査して回ることも、もう出来ないだろう。

そんな出来事があった後、ディアが研究室から飛び出してきた。

「イザベラ、いいものが出来たぞ!早速試してくれ!」

そう言ってディアは怪しげな紫色の液体が入った小さな試験管をイザベラに渡してきた。

イザベラはこれをどうしろと、という顔をしたがディアは飲み物を飲むようなジェスチャーを返してきた。

「この紫色に光るやばい液体を飲めと?」

「そうよ!これを飲んだ貴方の体内から魔力反応が消えたら魔法を打ち消す薬が完成したことになるわ!

あ、貴方の血液で魔力反応を消せたことまではテスト済みだからきっとうまくいくはずよ」

「イザベラ、やめといた方が」

「いいえ、この体から魔力が消えるのであれば好都合よ」

そう言ってイザベラは試験管に入った紫色の液体を一気に飲み干した。

イザベラは試験管を手から離し、床に落ちた試験管は割れてしまった。

そのガラスの破片が散らばる場所にイザベラは膝をつき、体が小刻みに震えて涙を出しながらその場に吐いてしまった。

「イザベラ!」

その後イザベラの体は痙攣を始め、目の瞳孔は開きっぱなしだった。

もうこれは毒を盛られたとしか思えなかった。

私は殺意を込めてディアへ刀を突き立てた。刀の勢いが強すぎたのか、その刀はディア左肩を貫通していた。

「キアラ、やめろ!」

「すごいね…貴方そんな強い殺意を持っていたんだ」

「このままイザベラが死んでみろ!お前も後を追わせてやる!」

「できるかな?」

「2人ともそこまでにしろ!

まずはイザベラの看病が先だ。顔を下にしてあげないと吐いたもので窒息死してしまう」

カルラの冷静な判断を見て私も冷静さを取り戻した。

私達はイザベラをベッドに連れて行って容態が落ちつくまで見守った。

 

夜になってようやくイザベラが目を覚ました。

「私はいったい。すごく頭が痛い」

私は歓喜した。イザベラが正気に戻ってくれただけで安心した。

「起きた?じゃあ早速血液取らせて?」

「いい加減にしろディア!」

イザベラの体力が戻った後にイザベラは血液検査を受けた。その結果、イザベラの体から魔力は消えていないことがわかった。

しかし紫色の液体に魔力を消す力があるのは本当らしく、イザベラが魔力を込めた物体に紫色の液体をかけるとその物体から魔力反応が消えたという。

そもそも魔力反応があるかないかなんてイザベラなしでどう判断していたんだ」

魔力が籠ったイザベラの血液は炎で炙っても固形化しない特徴があると以前伝えたでしょ?

それで判断したのよ」

「それだけでか」

「結局、この紫色の液体は何なのかしら」

「イザベラからもらったペンダントを液状化させて、そこに貴方の血液を混ぜた結果生まれたものよ。

面白いのよこの液体、乾かせば粉末にできるし、ここに鉄分を混ぜればいくらでも培養できるのよ!

量産だって可能よ!」

「なんか本当に魔法みたいな方法だ」

「魔法と似ているかもしれないが、錬金術と呼ばれる方法を参考にしているのさ」

「錬金術?」

「現代では化学と呼ばれるようになったものの原点だ。私たちの生物学は、錬金術を織り交ぜている」

「貴方達、もしかして錬金術師と呼ばれる存在なの?」

「ディアと縁があるのはそういうことだ。
私たちの先祖は錬金術師として縁があった。そして祖先の末端である私たちもほんの少しだがその血を引いている。

少々化学では説明しきれないことも出来てしまうのは許してほしい

「そうだったのか」

「さあイザベラ、これは貴方が求めていたものに値するかい?」

ディアがそうイザベラに問いかけるとイザベラは笑顔で答えた。

「ええそうよ、想像より効果は薄いけど私が追い求めていたものはこれよ!

魔法を打ち消せるこの物質、名前はアンチマギアと名付けるわ!」

「よし、じゃあこれからこの新物質はアンチマギアだ!」

こういう経緯でこの世界にアンチマギアは誕生した。

そして私達は無断でアンチマギアを織り交ぜた防護服で魔力の霧に覆われた立ち入り禁止区域に潜入した。

防護服は魔力を完全に遮断し、安全に霧の中を探索することができた。

しかし空気の浄化までは出来ないので、酸素ボンベの酸素が切れるまでが探索のリミットではある。

霧の中を歩いていると、私達は祈りを捧げるようなポーズを取った何かの亡骸に辿り着いた

「何だこれ。銅像でもないけど、もし500年以上ここにある物だとしても原型を保っているなんてことがあるのか」

そして私はある看板を発見した。

そこに記されていたのは見たことがない地名だった。

「バチカン?ここの地名?」

「聞いたことがない。でも、当たり前のようにそこらじゅうにバチカンと一緒に周りの地名が記載されてる」

「キアラ、このバチカンという街は魔法によって歴史から消されたんじゃないかしら」

「そうだとしか思えないけど、どうやって魔法のせいだと証明させる?」

「この霧が答えじゃないの。魔法の霧で隠すような場所、魔法の影響を受けていないわけがないわ」

「アンチマギアがあるからこそ、証明できるってことか」

「それにこの旅で確信したわ。
魔法少女は、人類にとって悪となる存在だということを」

 

 

何を根拠に言い出すのかと尋ねる者は多いだろうが、これまでの事例を振り返るとどうだろう。

魔法少女になる時の願い、そして願った後の能力によってこの世界の人間の軌跡はいとも簡単に破壊されてしまうということを目の当たりにしてきた。

“人間の軌跡が存在ごと消される”

インターネットや機械技術、金を使用した物々交換や一般常識がすべてなかったことにされてファンタジーだと思っていたことが当たり前の世界になるかもしれない。

人間の軌跡が消されて悪いことがあるのか?
一部の人物しか幸せになれないこの世の中なんて、消えてしまったほうが好都合だ。そう考える人も少なくはないだろう。

でも何億人もいる人間が浮かべる幸せな世界の事例なんてみんなが納得できる内容になるわけがない。一部の人にとっては他人を傷つけ、もだえ苦しむ無様な姿を見て愉悦に浸ることが幸せ、愉悦感に浸れない世の中は消えてしまった方が都合がいいと考える人がいないとは言えない。

みんなの幸せとは、誰基準で考えた幸せだ?

過去の人間の軌跡を振り返って及第点の幸せを指導者が実現し、なるべく多くの労働者に還元する。それが私の信じる人間社会原理だ。

その「幸せの基準」の決定権を魔法少女という人間社会をまともに知らないであろう存在たちが握っている現状が恐ろしくないのかと。

だから制御してやらないといけないんだ。

魔法少女が幸せになって、人間が不幸になる軌跡が当たり前とならないために。

 

back:2-1-9

レコードを撒き戻す:top page

Next:2-1-11

 

【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-1-9 軌跡が変えられた痕跡を求めて

ロシア地域にある何の変哲もない街、チェルノブイリ。

歴史を振り返れば悲惨なこと続きなこの街だが、政府から気に留められることがなくなったことをいいことに、土壌改善を含めた農業開発が粛々と進められた。

その結果、ロシアの中でも大事な農業地帯に成り上がり、自然が豊かということで定住する人も、移住してくる人も増えていった。
また、土壌改善に成功した珍しい例としても注目されてその改善技術は他の土地でも使用されて世に大きな貢献を残した。

これが今残るチェルノブイリの歴史。

でも。

政府が押し進めようとした燃料開発プロジェクトで原発の建設予定がチェルノブイリにはあった。
そこまでは記録に残っているが、ある日突然その話題がパッタリと消えた」

「この事実を教えてくれた人のところを訪れて、何故急にプロジェクトが雲隠れしたのか調べるわ」

「歴史が変わったが故に生まれたと思われる違和感、果たして魔法少女は関係あるのかな」

私はプロジェクトの関係者と接触して話を聞いた。

プロジェクト資料を手に持っていたその人は、その資料をどこで手に入れたのかを覚えていないらしい。その資料は同じプロジェクトに参加していたメンバーならばみんな持っていたはず、彼はそう語っていた。

他の人達と違った立ち回りをしていなかったか聞いてみると、父親の病気が悪化したことで仕事かばんを持ったまま仕事場を離れてしまったことがあったらしい。
その次の日、プロジェクトはなかったことになってプロジェクト内容が建設場所を検討するための評価実験になっていたとのこと。

原発の開発は度重なる評価実験の末、海辺に開発されたが世界のエネルギー開発競争の中でロシアは遅れをとることになった。

彼はこう言った。

この資料の作成日から原発開発が進んでいたら、この国はもっとマシな順位を手に入れていただろう。

彼以外の関係者で、プロジェクト資料を所持している存在はいない。

紛失してしまったという可能性を考えても、たった一つしか残っていないなんてことがあるのか。

「さて、ここから魔法少女に繋がるなんてことあるか?」

「なぁに、魔法少女の専門家に聞けばいいだけの話さ」

私達はキュゥべえへこの周辺で一番長生きしている魔法少女について聞いた。

「この辺りで一番長生きしていると言えばイリーナだろう。
とはいえ7年程度で君達が求めている年代から生きていた子はもういない」

「ありがとう、それで十分よ」

私は魔法少女を疑われないよう宝石を用意し、そこに魔力を込めて魔法少女と偽ってイリーナと呼ばれる存在へ接触した。

「20年前にこの町で何かなかったかだって?」

「そんな昔のことを知って、何をしたいの」

「長生きしている魔法少女に会いたいの。魔法少女の宿命の中、どうやってそこまで長く生き続けることができるのか」

イリーナの取り巻きがあーだこーだと話しかけてくる中、イリーナが話し始めた。

「私の先輩から聞いたことがある。

もともとこの街には原発が作られていて、そのおかげでこの街は生計を立てれていたとか。でも、原発は事故を起こしてこの街は死に溢れかえった。
そんな現実を見て、1人の少女が願ったらしいの。

“事故が起こる原因となった原発開発を無かったことにして”

そして今のチェルノブイリがある。

先輩から聞いた話よ」

「そんなことがこの街に」

「事実かどうか知る方法は?」

「あるわけないでしょ。当時のことを知る先輩たちは、死んだり魔女になったりしたわ。
先輩から話を聞いてなきゃ、誰もそんな事実知らない」

一呼吸した後、イリーナは話をつづけた。

「でも、どうやら原発計画を無くすよう願った子は10年以上生き続けたらしいわ。最後は、私の先輩の先輩をかばって死んだらしい。
いつも笑顔で、希望に満ち溢れていたような子だったって先輩は聞かされていたみたい。
魔法少女で長生きする秘訣は、とにかく明るい希望を持ち続けることじゃないかしら」

「そう、ありがとう」

 

私は十分に情報を集められたと判断し、次の場所へ移動する準備を始めた。

「あの話が事実だとして、おそらく誰も信じないだろう」

「ええ、人は自分の体験したことしか信じない。

または周りが信じるから事実だろうという同調圧力による信じ込ませでしか事実だと認めてくれない」

「チェルノブイリ、歴史が変わった場所として覚えておきましょう」

 

次に向かったのは朝鮮半島。

ここには朝鮮と呼ばれる朝鮮半島丸々一つを国土とする国だ。

大昔は北と南で分断されていたらしいが、第二次世界大戦後を境に南北が統一されたという。

しかしこの朝鮮の歴史、なぜ北と南で領土が分断されたのか、どういう経緯で統一されたのかが曖昧となっている。

再びキュゥべえにこの土地の魔法少女について聞いていたのだが。

「仮に願いで歴史を変えようと願っても、願った少女の背負う因果量によっては歴史が中途半端に変わるというのはよくあることだよ」

「じゃあ歴史を変えた前例を全て教えてくれないかしら」

「それは無理だ。

ボクも歴史改変に飲み込まれているだろうからね、どう歴史が変わったかなんて全ては把握できないよ。

チェルノブイリのことについても、ボクは願った子のことさえ覚えていない」

「知っているだけ教えてくれないかしら」

こうやってキュゥべえに情報提供を求めた結果、朝鮮半島で歴史を変えるような願いを行った少女がいたという。

だがどう願ってどういう結果になったかは覚えていないという。

「朝鮮半島の歴史、学校ではあっさりした内容だから気にもならなかった」

「簡略化されているからこそ気づかない違和感ね。どう統一されたのか、現地の人たちにも聞いてみましょうか」

こうして南側と北側に住む人たちへ話を聞いてみると、第二次世界大戦後に日本から解放された朝鮮半島は復刻を掲げて朝鮮として再び動き出した。

皆こう答えてくる。

「でもおかしいわね、朝鮮半島については米国とソ連で領土分配の話し合いが行われていたという話があったはず」

「それがなかったことになった…

あれ、この展開って」

「外部から何かチカラが加わったのか、それとも史実と受け取って良いのか。

切り込み口は見つかったけど、後は願いで変わったという証拠があればいいんだけど」

チェルノブイリの時同様、イザベラは魔法少女のフリをして魔法少女たちへ聞き込みを行なった。
私は遠くから見守っていたが、チェルノブイリの時と違ってイザベラが危険な目にあう場面が多発した。魔女を相手にして危険な目にあうのではなく、魔法少女同士の争いで危なくなる場面が多かった。
何故魔法少女同士の争いが多いのか。魔女と戦わずにほかの魔法少女からグリーフシードを奪うという考えが日常化していたからだ。
何故そんな考えが日常化してしまったのか。

イザベラが聞き込みを行っていると、気になる情報が飛び込んできた。

「え、もともと北側と南側で魔法少女のテリトリーが分かれてたって?」

「国同士がそうだったからね、魔法少女の間でも自然とそうなっていった」

「まて、国が分かれてたってどういうこと?」

「なんだ、あんたも影響を受けた腹か。やっぱりあいつのそばにいた私しか、真実を知らないんだな」

「真実?」

「悪いな、あいつの頼みで真実を教えるつもりはない。知りたきゃ自力で探し出してみな。私から力づくで聞こうとしても無駄だよ、無関係な奴に絶対に話す気はないからね。

まあ、北側を探せば何かあるかもな」

言われた通り北側を探索していたが、イザベラはテリトリーにうるさい魔法少女と出会ってしまった。

「逃げるな!無断でテリトリーに入ったんだから許さねーぞ!」

「ここもうそのテリトリーの外だと思うんだけどなぁ。めんどくさい」

「助太刀しようか」

「いや、私が魔法少女じゃないとバレる方がまずい。いざとなったらでよろしく」

仕方がないから相手が見失うまで逃げていると、足元がコンクリートの謎な場所にいた。

「何だここ、少しだが魔力を感じる」

周りを調べていると重厚なハッチを見つけた。どう壊そうか悩んでいると、後ろから追ってきていた魔法少女たちに追いつかれた。

「見つけた、覚悟しやがれ!」

魔法少女は魔法で生成した爆弾を取り出して私に投げつけてきた。イザベラは避けたが、ちょうどよくハッチが壊されて中に入れる状態になった。

「ありがとね」

イザベラはハッチの下にある空間へ飛び込んだが、思ったよりも深い空間だった。

降り立った場所は、鉄製の通路のようで周りが暗くて状況を掴めない。

イザベラがライトを取り出して周囲を確認すると、驚くべきものが目に入った。

ライトをつけた後、追いかけてきていた魔法少女たちはハッチの中までやってきた。

「チクショウ、お前いい加減に!」

「まて、ここで争うのは禁止だ」

「はぁ?何を言って」

イザベラはライトを当てている先を指差し、魔法少女たちもそこをみた。

ライトが当たっている場所には、核を表すマークがあった。

そしてライトで上から下まで照らしてみると、明らかにミサイルが目の前にあることがわかった。

「核、ミサイル、だと」

これはとんでもないものを見つけてしまったのかもしれない。

そして周りをよく観察すると、見たことがない国名が目に入ってきた。

「北朝鮮?何だこれ、秘密組織の名前か何かか?」

「あら、まさかこんなものが消えず残ってたなんてね。核を隠すくらいしか因果量が足りなかったってことかな」

聞き覚えの声がする方を振り返ると、真実を知っているらしい魔法少女がいた。

「お前はシェンヤン!何でここにいる!」

「そこにいる異国の魔法少女を追ってきたのさ。それにしてもあいつ、歴史変えてもこれ残っちゃダメだろ」

「歴史を、変える?」

「ああ、あいつが変えたんだ。米国とソ連のせいで生まれてしまった南北問題を無かったことにしたいと願って」

「真実にたどり着いたから教えてくれるのか?」

「まさか、詳しくは教えない。

でも、あいつのおかげで朝鮮半島から無駄な争いが消えたという事実を多くの人には覚えてもらいたい。

まあ、ただの気まぐれさ」

北朝鮮、きっと願いによって消えてしまった国なのだろう。

「歴史が変えられていなかったら、どうなっていたんだ」

「そうだねぇ、北の人は貧困に苦しみ、南北同士で殺し合いになっていたかもしれない。

さらに言うとこのミサイルだ。

朝鮮半島だけでなく、世界が不幸になっていただろう」

「そいつのおかげで、朝鮮の私達はまともに暮らせてるって言いたいのか?」

「そうね、少なくとも私はあいつが願ったのは間違いないと思っている」

核ミサイルを作れるほどの国が生まれた歴史。

きっとその結果は人類にとっても不幸な結果なのかもしれない。

願いによって平和な方向へ動いた結果になったところで、

人類の軌跡が踏み躙られたことに変わりはない。

「ところで、なんでシャンヤンは歴史が変わったと覚えている?」

「何故だろうね。願った瞬間、目の前にいたからかな」

私達は施設内の資料を集めていたのだが、施設内を歩き回るシャンヤンにイザベラがある質問をした。

「ねえシャンヤン、なんで朝鮮の魔法少女は魔法少女同士で争うようになってしまったの」

「あんたの地元のことは知らないけど、朝鮮には魔女が少ないんだ。
その割には魔法少女の数が多くて、それ故にグリーフシードの奪い合いが多発した。
それと、聖遺物の争奪戦なんかも発生した時期もあって魔法少女同士が争い合うのが当たり前になったんだ」

「聖遺物の争奪戦・・・。
中華民国へ遠征したりしないのか」

「まさか。
あっちのやつらに侵入がばれたらそれこそ魔法少女同士の争いが激化してしまう。
いいか、世界中を旅するのはいいが郷に入っては郷に従えともいう。その土地の決まりや考え方は理解したうえで行動したほうがいい。じゃないと早死にするよ」

「警告どうも」

あの施設についてはその場にいた者達の秘密にしようと言う結果で収まった。

そして新たに聞いた聖遺物争奪戦という話。そういえばロバートも聖遺物について言っていた気がする。
魔法少女のことを知るためには聖遺物についても調査してみるといいかもしれない。

「決定的な証拠だと思うけど、北朝鮮、大韓民国なんて国があったという歴史がない以上、信じる人は少ないかも」

「そうね。まだこれくらいじゃ足りないけど、魔法少女に対する評価は概ね決まりそうよ」

今までは歴史が変わったという疑いしかない土地しか回ってこなかったが、次のポイントは違う。

歴史を振り返っても、明らかに歴史が何者かによって変えられたという痕跡が残る場所だ。何者かというのは言わずもがな、魔法少女だ。

そうして私たちが来たのはイタリアという謎の有毒な地底から噴き出るガス地帯を領土内に持つ国である。

ガス地帯を中心とした半径5キロメートルは侵入禁止地帯となっていて一部の許可が得られたものにしか侵入が許されない。

しかし、今私達はガスに触れないギリギリの距離まで移動してきている。

入るまでにいろいろごたついたが、政府の権限というのは便利ながらなかなかにずるいものだと実感した。

「地下からガスが噴き出たというのは第一次世界大戦よりも前で、ジャンヌ・ダルクが奇跡を見せた時代よりも後らしい。
約500年の間にここら一帯は謎の有毒ガスによって人が住めるような土地ではなくなったらしい。

でも現地に来てわかった。あの有毒ガスには魔力がこもっている」

「その有毒ガスだが、調査した研究者たち曰く、現代技術で作り上げられるどの防護服でもあのガスに触れると死んでしまったらしい。

死因は穴という穴から血が噴き出たことによる出血死。

そんな危険地帯にどう足を踏み入れるんだ」

「そうだねぇ」

イザベラはその辺を歩いていた猫を捕まえて、何か魔力をかけていた。

そしてその猫を毒ガス方面へ放った。

「イザベラ、何をして」

猫はガスに触れてもまだ生きていた。イザベラの様子を見ると、魔力を猫へ送り続けている様子だった。

2分しないうちにイザベラはへとへとになり、魔力供給が終わるとガスに触れていた猫は血を噴き出して死んでしまった。

「イザベラ、一度道徳を学び直したほうがいいんじゃないか。実験動物でもないものを実験に使うのはよろしくないと思うよ」

「別に気にすることでもないわ。おかげで魔力を防ぐバリアを周囲に張ればあのガス地帯でも動けると確認できた」

でも2分ももたなかった。これではまともに調査する時間がない。

「それがわかったところでまともに調査はできない」

「なぁに、すでに実現できそうな人材に目星はつけている」

イザベラはある資料を私に渡してきた。
そこにはテロメアに関する論文と、その論文を書いた人たちのリストがあった。

「この論文を書いた人がいる、大学にある生物学科に行こうっていうのか。
なんでこうも先のことを考えてこんな的確な資料を狙い撃ちで手に入れられるのか。私は魔力を持っていることよりもその才能に疑問を持つよ」

「偶然よ。もともとこの霧を乗り越えるために調べた結果で見つけたわけじゃないし」

「そうかい」

とある大学の生物学科には奇才と呼ばれる研究生がいるらしい。

その学生は生物の進化をテーマに研究をしているらしいが、噂によると自分の体に別の動物の血を混ぜようとしたり、動物たちを争わせて生き残った個体の生存能力が向上していないか調べたり、死体安置所で実験したりとかなりクレイジーな性格をしているとのこと。

しかし成果は出していて、最近ではテロメアを延ばせる可能性についての論文を出していた。

生物学の先端を歩む存在ではあると思うが、大丈夫なのだろうか。

大学に到着し、目当ての研究員について聞いて回っているとある研究者が声をかけてきた。

「おや、もしかしてディアを尋ねにきた方ですかな」

「あなたは?」

「電話でお話ししましたディア達を雇っている者です」

「教授でしたか。気付けず申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらず。ささ、彼女達がいる部屋へ案内します」

 

その頃、研究室では。

広めのケージに入っている2匹のモルモットを注目する少女がいた

その研究室へ、1人の背が高めな女性が入ってきた。

「ディア、もうすぐ来客の時間だ。応接室へ行くよ」

「待って、今いいとこなんだ。

本体とクローンが対面した時の反応を観察している最中で」

話を遮るかのように女性はディアを左脇に抱え上げて無理やり部屋から出そうとした。

「離せカルラ!今いいとこなんだ!」

「無礼は私だけにしておけ。せめて来賓する客に無礼を働くな」

「そんなの知るか!離せ、離せー!」

そんなことがあり、応接室に2人は向かった。

 

 

back:2-1-8

レコードを撒き戻す:top page

Next:2-1-10

 

 

【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-1-8 お安い御用と言ったでしょ

早朝に叔父の家へ戻ったが、想像通り私達は叔父に強く叱られた。
朝にはキアラの両親も顔を出し、キアラはそのまま帰ってしまうかと思った。

でもキアラの両親はキアラへ甘かった。

キアラのやりたいようにすればいいと言い残し、キアラの退学処理もやってくれるとのこと。

キアラは私の部屋の隣にある空き部屋に滞在することになったけど、私はだからこそ軽率に聞いてしまったのかもしれない。

「キアラの両親、少し考えが甘すぎない?まさか、政治家に近い存在になれておこぼれもらえるって期待してるんじゃ

「いや、今はあれが普通だよ、違ったのは小学校の前半まで。
理由は河原で話したときの通りだよ」

「そうか」

私達はキアラの家へと移動し、キアラの部屋へと入った。

「今は父親の都合で米国で暮らすことになったけど、剣道が習える学校に転入できたのは父親のおかげかもしれない」

部屋にあった竹刀に触れながらキアラはそう喋った。

キアラは持ち出す荷物を整理するとのことなので、私は一階にいる父親へキアラの過去について聞いた。

「自分の夢を息子に押し付けるんじゃないと、私の師となる人に怒られてね。

妻の父親にもこっぴどく怒られた。怒られた後しばらくは納得いかなかったが、目覚めずに痩せていく我が子の姿を見続け、これが私が夢を強要した結果なのかと後悔するようになった。

そして私は妻が大きなショックを受けておかしくなってしまっていたことにも気づけなかった。気づいた頃には、もう手遅れだった。

私は目覚めるよう毎日キアラの手を握りながら願った。
悪かった、私を1人にしないでくれと。

そうやって数ヶ月後、やっとキアラが目覚めたんだ。

あれからキアラのわがままは可能な限り聞いてやろうと決めた。すべては私の認識が悪かったせいで招いたことばかりだったからな。

イザベラさん、彼女のこと、よろしく頼むよ」

「お任せください。というより私がキアラに助けられちゃうかもしれませんが」

この会話を隠れてキアラが聞いていたのは知らなかった。

でも、叔父様の屋敷へ戻る際に少しソワソワしていたのはそのせいだったかもしれない。

性別による育てられ方の違いは当たり前にあることだ。

とはいえ、入れ物と精神で性別が違う状態で生き続けるというのは死んでしまいたいと思うほど苦痛なことなのだろうか。

きっと苦痛だろうな。私だって耐え切れないだろう。

人間社会の見直しには、こういった点にも気にかけるべきなのだろうな。

叔父様の屋敷へ着き、荷物を置いたキアラは私の部屋にいた。

「それで、今後あなたはどんな活動をしていきたいわけ?」

「まずは魔法少女について見極めたい。私の知っている魔法少女は母親とあの畜生だけ。

これらの情報だけで判断するのは早計だ」

「見極めるったって、魔法少女を探してインタビューでもしていくのか?」

「いや、世界中を回って魔法少女が遺した痕跡を探す」

「世界ときたか。世界中旅する資金なんて何処から調達する気だ」

私は静かに地面を指さした。

「はっきり言ってくれないか、私はイザベラほど頭が良くない」

キアラったら、謙遜しちゃって。

「叔父からもらうわ」

いくらイザベラの父親がお世話になったからと言って子どもへ簡単に資金援助とするわけないでしょ。しかもそれが旅のためだと知ったら尚更だ」

「まあ、勝算はある」

 

次の日、私は叔父へ資金援助と旅へ出る許可をお願いしたが、あっさりと断られてしまった。

しかし普通ならばとても難しい難題をクリアした場合に限り承諾してもいいという。その内容は。

「おじさんを、大統領にしたらか。なかなか冗談がきつい」

「いえ、叔父様に父親と同じ方法で支持者を増やしてもらえば解決よ」

そんな簡単に大統領になれる方法があるなら誰でも飛びついて内容を聞きに来るよ」

「まあ最終的には叔父様の頑張り次第でしょうね。

私達は目立たないところで叔父様のサポートを行うわ。父親を殺した魔法少女へ指示を出したのは政治家かもしれないし」

「なるほど、事実だとしたらあまりよろしくない事態だね」

私は叔父へこのような提案を行った。

叔父の元へ届いた資料、及び会議に必要な資料は私が対処する。

叔父は米国各地を自分の足で見て周り、国民がどんな人たちなのかをしっかり理解して時には手助けしてあげること。

「そのやり方は、あいつと同じ」

「叔父様には、父親と同じ道を歩んでもらいます。どれほど効果があったかは、記憶が残っている叔父様ならよくわかるはずです」

叔父は了承し、次の日から実行に移された。

届く資料は文字が多いだけで要点はそれほどでもないものばかり。行われた会議の議事録を見ても何も決まらない会議ばかりで無駄が多かった。

そんな中、怪しげな行動をする政治家を見つけ出すことができたためキアラと共に調査を行った。

「金で物事をねじ伏せる政治家はいると思ったが、まさかテロリストを利用する輩がいるとは」

「権力を手に入れるためにはなりふり構わないさ。そんなテロリストも魔法少女を利用していると分かって、正直この世界終わってると思ったわ」

「しかし、雇われる魔法少女のふりをして潜入できるのか?」

「キアラは気付かれないように隠れていなさい。私が危なくなったらその時はよろしく」

「了解」

「でも悪いわね。まともな武器が拳銃しか支給できなくて。
キアラにぴったりな武器を用意してもらってるから少しの間辛抱してね」

「いや、ガードマンとして認めてもらえただけで十分だけど」

私はキアラと別れ、誰も尾行してきていないことを確認して夜のビル街 路地裏へと入った。

路地裏にはマスクとフードを身につけた二人組がいた。

「アンタが雇ってほしいと言う魔法少女か」

「魔法少女を何処で知ったかは知らないけど、金のためなら仕事を受けるわ」

「いいだろう」

フードの2人は誰かと無線で連絡しているような素振りを見せた後、私に端末を渡してきた。

「開いてすぐ表示される人物を人気のないところで始末しろ」

記載されていた人物は財務長官だった。

確か裏金関連の政策実現に向けて動いていて、目をつけていた奴は批判的な態度を取っていたわね。

「いいわ。報酬はいつ?」

「始末を確認したらその端末へ場所を送る。そこでそれなりの金額を渡そう」

私は端末をそっと床に置き、素早く2人の首を絞めた。

2人は銃器を携帯していたが突然襲い掛かられ、正常な判断ができず抜けずにいた。

すると物陰から1人の少女が出てきて私にナイフを向けてきた。

だが、隠れていたキアラがやってきて現れた少女の身柄をあっさりと拘束した。
もしかしてキアラ、武器なんていらないんじゃないのか。

「魔力を感じる。計器もなしに魔法少女か判断できるのかと思ったけど、判断するための存在を連れていたか」

酸素不足で動きが鈍くなっていた2人を気絶させ、私は少女に問いかけた。

「あなたの雇い主は何処にいるの?」

「教えるわけないでしょ」

「雇われないと生きていけないって、あなた達普通に生活することできないの?」

「仕事はやっていたさ。だが、魔女退治をしないといけない都合上、まともにバイトや8時間勤務なんてできないんだ。社会はそれを認めてくれない。

だから私達は普通に働けない。

あなたも魔法少女ならわかるでしょ!」

「魔女、休みの日に狩ればいいだけでしょ?」

「そんな都合よく見つかるわけないだろ。見つけた時に倒さないと、手持ちのグリーフシードが無くなる」

グリーフシード、キュウべえが言っていたやつか。

「分かったらこいつに離すよう指示して!アンタの連れなんでしょ!」

私が魔法少女について詳しく聞こうとすると路地裏の奥から数人の気配がした。

「ただ金目当てで釣れたやつかと思ったが、とんでもない大物だったみたいだな」

「ボス…」

少女の反応を見るに、私に話しかけてきた男が政治家と繋がるテロリストの頭らしい。

「アンタ、政治家とつながってるようだけど何が目的?」

「それは俺も知りたいな。一体誰の依頼で俺たちをかぎまわっている?」

「これは独断よ。肉親が政治家なだけで私が気になったから動いているだけ」

「それにしては知り過ぎている。もし独断でここまでやれるなら素晴らしい才能だ。
どうだ、少し話をしないか?」

「ボロノスさん、何を」

私に興味を持ってきた。力づくで情報を聞き出そうと思ったけど、穏便に聞き出せるなら越したことはない。

叔父には書き置きをしてあるし、1日くらいなら大丈夫よね。

「ありがとう、私もあなた達について気になっていたの。色々教えてほしいわ。
キアラ、その子を解放して」

キアラは少女を解放して私の後ろまで戻った。

「じゃあついてこい」

私とキアラは男達が乗ってきた車に乗せられてとある酒場へと着いた。

お酒しかない店だったため、私には水が用意されて男の前に座った。

「さて、アンタは米国のやり方をどう思う?」

「そうね、今も昔も米国は何処から生まれたか知らない強大な権力で世界を牽引してるわ。少し気に食わないけどね」

「ほう、たとえば?」

男はタバコに火をつけて私の回答を待っていた。

こいつらは狂信者か?それともただのごろつきの集まりか。

「慢心しているからよ。

自分たちがいつまでもトップだと周りに思い込ませて、更なる上を目指すものを出さないようにしている。

このままだと衰退するだけだから、気に食わないのよ」

「そうか。

一度俺たちの仕事を手伝ってみろ。その働きっぷりを見てお前を判断してやる」

「あら、聞くのはこの程度でいいの?なら私からいろいろ聞いてもいいかしら」

「ほう、聞かせてやってもいいが、俺がおまえを認めてやった後に聞いたほうがいいと思うぞ」

殺意の視線を感じる。今はこいつの仕事を手伝うと答える以外選択肢はないようだ。

「いいわ、手伝ってあげる」

「明日、俺たちが出会った場所と時間で打ち合おう。
さ、帰ってもらって構わない」

私とキアラはチップ程度の金を置いて店を去った。

男たちから監視されている気配がなくなった場所でキアラが私に話しかけてきた。

「正気か!テロリストの仕事を手伝うなんて米国政府を敵に回すことになるかもしてないのに」

「あの様子、まだテロリストかどうかを判断しきれない」

「どういうことだ?テロリストだと目をつけて行動してたんじゃないのか」

噂と見た目で判断なんてできないのはどれも一緒だ。
一緒の空間に留まってみて分かったが、彼らは思考を止めた野蛮人ではない。

次の日、私達は中東で活発に動き続けている狂信者たちが集まる拠点近くにいた。

「こんなところに奴らが潜伏していたなんて」

「意外だろう。入国審査をしっかり行っているこの国でも資料と見た目だけで判断して、本当に狂っている奴らも平気に入国させてしまう」

同行している男がその場を離れようとしたから私は話しかけた。

「あなた達は宗教を信じているの?」

男は少しキョトンとした顔をした後、何かを堪えるかのように顔へ手を当てていた。

「やめてくれ、敵陣の真っただ中で笑い殺す気か。

神はほどほどに信じている。だが神が全てこの世界を救ってくれるだなんてメンバーは誰も思っていない」

「そう、それがわかればいい。

キアラ、行くよ」

私達は狂信者達へ圧倒的な力の差を見せつけてリーダーと思われる存在以外は皆殺しにした。

そして狂信者たちが崇めていたキリストの像を破壊した。これも何故か任務だった。

狂信者を怒り狂わせたかったのか。

「なんだ、仕事が早いじゃないか」

テロリストのリーダーが声をかけてきた。

「お安い御用と言ったでしょ。

どうかしら、私は宗教なんて信じてないって分かってもらえたかしら」

「そう捉えたか。

俺たちは神へ縋ったりしない。狂った奴らを始末する裏仕事をするのが俺たちの仕事さ」

内情を教えてくれた。警戒心を示す方が失礼か。

「私はイザベラよ。あなたたちに協力するわ」

「俺はロバートだ。俺はお前が気に入った。
これからもよろしく頼むぜ、イザベラ。
そうだお前の知りたいと思っていることも可能な限り教えてやる」

「ありがたいわ」

彼らに魔法少女という存在をどこで知ったのか聞いた。話によると彼らの組織の起源はヨーロッパにあるらしく、ヨーロッパで活動しているときは聖遺物と呼ばれる不思議な力がこもったアイテムを集めて金にしていたらしい。
その時に偶然魔法少女と呼ばれる集団が聖遺物の争奪戦をしていると知り、それを機会に魔法少女を利用した活動を始めていったという。

あっさりと認められてしまったが、どうやら彼らは裏仕事に特化しているようだ。もし政治家から仕事を受けて政治潰しなんて考え出したら奴らを潰すしかなくなる。

今は監視状態でいいだろう、選挙戦も大詰めだ。叔父の様子を観察しておこう。

叔父は米国中を歩き回り、国民の声を直に聞いたことで顔が広い存在となった。
今の税で苦しむ人々のラインはどの程度なのか、今流行りの物事は何なのか、国全体での幸福度はどれくらいなのか。
これらのことなんて、部屋に籠って資料を処理しているだけでは正しい判断ができない。

叔父は考え方を少し変えたようで、政策の内容は国民に見合うような内容となっていった。

選挙当日、叔父の支持率は他の政治家を大きく突き放していた。

そして叔父は、見事に大統領の座を射止めた。

「おめでとうございます、叔父様」

「イザベラ、君のおかげでここにくることができた。

以前の私ならここで満足してあとは惰性で続けていたかもしれないが、ここからが大事だと強く実感できるようになった。

ありがとう」

「それはよかった」

「そうだキアラ、イザベラから頼まれていた君専用の武器が完成しているから渡しておこう」

そう言ってキアラに渡されたのは刀だった。

「これって」

「ずっと竹刀で戦わせるわけにはいかないと言われてね、ボディーガードをしてもらうわけだし日本の刀職人に作ってもらった。
拳銃もそうだが、国の法律には気を付けて持ち歩くんだよ」

「あ、ありがとうございます!」

キアラは今までに見せたことがない笑顔をしていた。
竹刀の状態でも強かったのに、刀なんて手にしたらどんな強さを見せてくれるのか。

こうして私は魔法少女調査のための資金援助を受けることができるようになった。

 

そして私は今空港にいる。

叔父からの資金援助が約束された今、魔法少女について知るための旅を心置きなく行えるようになった。

それと一緒にロバートの手伝いもさせられることになったが、なんの差し支えもない。

「資金援助だけでいいのに、ファーストクラスを使うのはやりすぎじゃないか?」

「時間に縛られなくていいじゃない。旅は追われる中やるものじゃないでしょ」

「まあいいさ。最初はロシア地域だっけ?」

「そう、まずは何の変哲もない街

チェルノブイリから行きましょうか」

 

back:2-1-7

レコードを撒き戻す:top page

Next:2-1-9

 

【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-1-7 どうですか、私は役に立ちますよ

イザベラが魔法少女と戦うと言って窓から飛び出してしまった。

彼女が言い残したこと、帰ってくる気がないかのような。

「君はどうしたいんだい?キアラ」

真後ろから聞こえた声の正体は、白い四足歩行を行う生き物だった。

「しゃべる、動物だと」

「このままだとイザベラは殺されてしまうだろう」

そんなことわかっている。

「でも、君が魔法少女となって加勢すればイザベラが生き残る可能性は上がるだろう」

魔法少女となれば、と言ったか?

あんな得体の知れない存在に、私にもなれと言ったのか?

到底魔法少女になる気はないが、人が死ぬと知ってハイそうですかと受け入れたくはない。

「きみ、わたしをイザベラのところへ連れて行ってくれ。判断はそれからだ」

「いいだろう、ついてきて」

私は白い生き物の言う通りの道を進んで行った。

途中で家によって竹刀を持ってこようと思ったけど、白い生き物に寄り道しないよう止められてしまった。

武器がなければ対抗できない。

そう考えながら裏路地に入ると、目の前には変に空間が歪んだ場所があった。

「このまま進むと、イザベラのいる魔女の結界へ入ることができるよ。
準備はできているかい?」

私は周囲を見渡し、武器になるものがないか探したけど壊れた傘くらいしか転がっていなかった。

ないよりはマシか。

私は壊れた傘を拾い上げて白い生き物など気にせずに結界の中へ侵入した。

結界の中へ入ると広い空間が広がっていて、障害物はほとんどなかった。

床には建物の瓦礫が広がっていて、所々に鉄筋が顕となった柱だったものが乱立していた。

そんな空間の中心地点でワニのような怪物に乗った魔法少女とイザベラが戦っていた。

ワニのような怪物はあちらこちらから血が噴き出ていた。

「イザベラ1人でやったのか、ここまで」

「おや、ここに人が入り込むとは。運が悪かったね」

そういうと魔法少女は杖をこちらに向けてきた。

「キアラ、逃げて!」

白い生き物の声が聞こえたかと思うと目の前は閃光に包まれた。

思わず身を守るために両手を前に出してしまったが、目の前には不思議な力で閃光を弾き続けるイザベラの姿があった。

「イザベラ、その力は」

「なんで追いかけてきた!対抗手段もないくせに!」

「ごめん、私は」

イザベラは突然私が持っていた傘を握りしめた。すると傘は青白い光を纏って気持ち鋭くなった。

「それで魔女たちに有効打は与えられるはずだ。ここまで来たんだ、私の役に立ってみなさい!」

そう言ってイザベラは人とは思えない跳躍力で魔法少女の元へ向かっていった。

「どうやら彼女によって魔力が込められたみたいだね」

「魔力を、イザベラが?イザベラも魔法少女なのか?」

「彼女は違う。魔法少女から魔力を持って生まれた、イレギュラーな存在さ」

じゃあ、この空間でただの人間って私だけなのか。人間を超えた存在に、私は太刀打ちできるのか?

“私の役に立ってみせなさい!”

イザベラの言葉が私の頭の中にこだました。

いいだろう、当たって砕けろだ。

ここで救えなきゃ、追ってきた意味だって無意味になってしまう。

「そのまま行ったところで体がもたないだろう。だから」

私は白い生き物の言葉を聞くことなく魔女と呼ばれる存在へ突撃した。

「やれやれ、無謀にも程がある」

イザベラは魔力が籠った拳銃を乱射し、魔女の両目を撃ち抜いた。

それが体力の限界を与えたのか、苦しそうに大口を開けた魔女は、そのあと力なく地面にへばりつき、体が塵のようになって消えていった。

それと同時に結界だった空間は歪んで、外の景色が見えるようになった。

「なんなんだよ、なんで人間なのに魔力が使えるんだよ!」

「あんたに教える必要はない、ここで消えろ!」

イザベラはナイフを取り出し、魔法少女目掛けて斬りつけた。

魔法少女は杖を前に出して障壁を作り、イザベラの攻撃を防いでいた。

イザベラは左手に持った拳銃でも攻撃を行っていたが、攻撃が通る様子がない。

イザベラが攻撃の手を止めると地面から生えた茨でイザベラの足が拘束されてしまった。

魔法少女が杖で攻撃をするために杖をイザベラに向けた瞬間、私は魔法少女の背後に到着して手にした傘で切り上げた。

すると、傘とは思えない切れ味で、魔法少女には脇腹から左肩にかけて深い切り傷がついた。

「しまった、周囲警戒が」

魔法少女は殺意の目を向けて杖で私を殴ってきた。

私は傘で防いだが、その一撃で肩が外れそうだった。

その間にイザベラは茨から逃れ、魔法少女の腰から宝石をちぎり取った。

「それ以上動くな。ソウルジェムを割るぞ」

そう言われると魔法少女は大人しくなり、両膝を地面についた。

私は、思考が止まってしまったのか持っていた傘をその場に落とした。

「あんたのスポンサーは誰だ。私の父親を殺すよう指示した奴は誰だ」

「誰が話すか」

「・・・じゃあ聞き方を変えよう。なんであんたは父親を殺す依頼を受けた」

「そうしないと生きれなかったからさ。
魔法少女は人を超えた力を持っているが、人間社会で暮らしていくにはあまりにも不向きすぎる。
8時間以上自由行動を縛られた中、グリーフシード回収のための外出許可だって理解してもらえない。そんなの、死ねって言ってるようなものじゃないの。
だから非人道的なことをして生命維持をしていたのさ。魔法少女を知っているであろうあんたにはわかるだろう?」

イザベラは宝石を地面に置き、魔法少女が話し終わると同時に宝石を拳銃で撃ち抜いた。

「誰が同情するか」

魔法少女は力無く倒れてしまった。

「動かなくなった。死んだの?」

「そう、彼女は死んだわ。ソウルジェムを砕いたからね」

私は理解ができなかった。

宝石が、あの魔法少女の命だと言っているようなものだ。そんなことがあるのか。

イザベラは私が持っていた傘を奪っての持ち手部分を切り落とした。そのあと私へ持ち手部分だけ渡してきた。

「持っていきなさい。あなたの指紋が残っていたらあなたが殺人犯と勘違いされるわ」

私は何も言わず取手を手に取った。

「全く、後戻りできない手前までついてきちゃって。

今すぐにでもまっすぐ家へ帰りなさい。あなたのご両親には私から話をつけておいてあげる」

「私はあなたを放っておけないわ」

私がそういうと、イザベラは踵を返した。

「あなたは本来無関係の人間よ。ここから先、現実離れしたことに付き合う必要はないわよ」

「確かに無関係だ。おせっかいかもしれないが、私はイザベラの危ない行動を放っておけなくなった。このまま放置すると取り返しのつかないことをしでかすんじゃないかと、そう思うんだ。

だから!」

「・・・じゃあ、ついてきなさい」

私はイザベラに黙ってついていった。

 

道中、イザベラは腕の長さくらいある鉄パイプを2本拾っていた。

私達は川辺にある広場へ着き、そこでイザベラは足を止めた。

周囲に人気は全くなかった。

イザベラはこちらへ振り向き、持っていた鉄パイプをこちらに一本投げてきた。私はそれを地面に落とすことなく受け取った。

「イザベラ?」

「私を倒してみなさい。そうすれば、あなたをボディーガードとして正式に雇うよう叔父様に交渉してあげる」

「力を示せってこと?もしかして私の経歴を知らないの?」

「知るわけないじゃない。

私エスパーじゃないのよ?あなたのことなんてなーんも知らないわ」

「じゃあ、戦いながら教えてあげるよ」

イザベラが私にパイプの先を向ける。

「さあ、あなたの覚悟を見せなさい!」

手を抜いてはいけない。相手は人を越えた力を持つ存在なのだから。

「いざ!」

私は鉄パイプでイザベラに殴りかかった。

イザベラは鉄パイプで私の一撃を受け止め、しばらく鍔迫り合ったあと、私に向けて振りかぶってきた。

私はその一撃を受け止めようとしたが、鉄パイプ同士がぶつかり合った衝撃が腕に伝わってきた後すぐに受け流した。

私は確信した。イザベラの一撃はまともに受け止めたら脱臼どころでは済まない。腕が使い物にならなくなってしまう。

その後もイザベラは鉄パイプでこちらに殴りかかってきて、その度に私は回避に専念した。

「どうしたの、剣道の時もそんな動きなの?」

初めて会ったときに竹刀を持っていたからか、剣道をやっているのが分かったのだろうか。

「回避も立派な選択肢よ。大事なのは隙を逃さないこと」

「なら少しはあなたから仕掛けてみてはどう?」

隙を探すので手一杯だ。

こちらから仕掛けたところで今のままだと体が動かせない状態にされかねない。

「どうしてキアラは私についてこようとするの?あなたと魔法少女は関係のない存在でしょ。このままついてきたところで」

「ついていくのに理由が必要か!」

「当たり前だ!私についてくるってことはまともな生活を送れなくなるし死と隣り合わせ。

私にこだわる必要もないでしょ」

私はイザベラに仕掛けた。

「面白そうだから、じゃ、ダメか!」

「甘く考えるな!」

イザベラが激情した瞬間に隙が見えて、私は思いっきりイザベラの脇腹を打ちつけた。

イザベラは鉄パイプを手から離しはしなかったものの、激痛のあまり膝をついてしまった。

「やるわね」

私はイザベラの首元へ鉄パイプの先端を当てた。そしてそのまま私は私の過去についてイザベラに話した。

実は私も厳密にいうと普通の人間ではない。
私は日本で生まれたが、男として生まれてきた。でも物心がついた頃から私の心は女だと認識していた。世の中では心と体の性別が一致しない性同一性障害というものに私はなっていた。

そのため周りから男扱いされてきたことがとてもつらかった。小学校から剣道をやっていたが、トレーニングでは男扱いされる機会が多くて嫌になって剣道から逃げ出したときもあった。
親は性同一性障害について理解してくれず、毎日がストレスで満ち溢れていた。

そして私は、一度自殺を試みた。学校の屋上から落下したが、打ち所が悪く奇跡的に生き延びてしまった。しばらく喋れない期間はあったもののしばらくしたら普通に生活できるレベルにまで回復した。
しかし回復するまでの間、私が自殺しようとしたのがよっぽどショックだったのか私の母親はメンタルを拗らせてしまい、うわの空で外を歩いているときに車の事故に遭って死んでしまった。

母親の死をきっかけに、父親は考え方を変えたという。すべては子の悩みをないがしろにしたことが原因なのだと。

そのおかげか、父親は私が性同一性障害であることをようやく理解し、私は中性化の手術を受けることができた。
もちろん小学生で中性化の手術を受けるのは法ぎりぎりの行為であり、ホルモンバランス不調による今後の生活に出る支障を考慮して女性化の手術を受ける等の施しを受け続けた。
その結果、中学に上がるころには外見は女性と間違われないほど変化した。戸籍も女性へ変更し、周りから女性として見られるよう理解を得ることもできた。

性別によるストレスから解放された私は、気兼ねなく剣道に取り組めるようになり、中学二年の頃には国内順位上位に食い込むほどの実力を身につけることができた。

私が行動を起こしたからこそ、性別で困らない今の私がいる。でもその行動のせいで母親が死んでしまった。決して喜んでいい結果ではない。

私が自殺しようとしたせいで母親が死んでしまった。この事実については死ぬまでずっと罪として背負っていかないといけない。

今は父親の仕事の都合上、海外で生活することになったが今でも剣道を続けている。

そして、いまに至る。

「私は命を大事にしない行いがどれほど周りに影響を及ぼすのかを体験した。
だから、というのはおかしいかもしれないが、イザベラを放っておけなくなった」

「面白い経歴を持っていたのね、興味を持つには十分の内容だったわ」

私はイザベラに手を伸ばした。

「どうですか、私は役に立ちますよ」

イザベラはニヤリと笑った。

「いいわ、そんなに地獄に行きたいなら一緒に連れていってあげる。
だから一生私のパートナーとしてついてくるのよ」

「元からそのつもりよ」

その夜、私はイザベラと手を繋いで屋敷へと帰った。

これが私が、イザベラのパートナーとなった時の話。

とてもわがままで、道理なんて効かない理由だけれど、そんなものでは説明し切れないほど私の気持ちは強かった。

そして私は、イザベラ専属のボディーガードとなった。

 

back:2-1-6

レコードを撒き戻す:top page

Next:2-1-8

 

【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-1-6 イザベラなら大丈夫だよね?

私の記憶の中に、母親の姿はほとんどない。

小学校にも通っていないくらいの歳の時に頭を撫でられて。

“イザベラなら大丈夫だよね?”

この質問に対して私はなんて返事したのかは覚えていないし、どんな顔をして母親が出かけて行ったのかも覚えていない。

母親との記憶はこれが最後。政治家の父親と使用人に育てられた記憶しかない。

過去に小学校の同級生に母親がいないことについてからかわれて家へ帰った時、父親は母親についてこう話してくれた。

“お母さんはイザベラを愛していた。イザベラを嫌いになってどこかへ行ってしまったわけではないよ”

“じゃあ、マムはどこへ行っちゃったの?”

“お母さんはこの世界の悪い存在と戦い続けている。今イザベラと会ってしまうと、悪い存在にイザベラが狙われて、怖い思いをさせてしまうかもしれない。

だからお母さんは帰ってこれないんだよ”

“私は強いよ!悪い存在なんてやっつけられるわ”

“イザベラ、この世界にはイザベラの知らない怖いことがたくさんある。
今はお母さんが安心して帰ってこられるように、たくさん知識をつけることに専念しなさい。
私も教えられる範囲内で知識をあげるから”

私が世界を知って、賢く、強くなればお母さんが帰ってくるかもしれない。

そんな無邪気な願いを持って、私は知識をつけること、そして父親の背中を追い続けた。

そんな無邪気な願いを持っていた頃、私は魔女と呼ばれる存在に捕まったことがあった。その時に私はキュゥべえという白い生き物に魔法少女にならないかと勧誘を受けた。
しかしその時、私は魔法少女という存在じゃないのに魔女と呼ばれる存在の攻撃を防げる障壁を発動できた。なぜかは知らないが魔法というものを使用できたらしく、そのまま魔女を倒してしまった。その場に駆け付けた魔法少女と呼ばれる存在はとても驚いていた。

私が魔法少女ではないことを魔法少女と呼ばれる女の人へ話すと、こう忠告してきた。

“絶対に魔法少女にはなるんじゃない”

私はそのあと魔法少女になってはいけない理由を知るためにキュゥべえと父親へいろいろ聞いた。
魔法少女は魔女になる、魔法少女になると魂はソウルジェムというものに変換される。

ここまでほとんどはキュゥべえから聞いた話だが、なぜか父親は魔法少女について知っていた。なぜかというと、母親が魔法少女だったから。

そして私が魔法を使える理由は、魔法少女である母親から生まれたからではないかとキュゥべえから聞いた。結構イレギュラーな例らしい。

魔法少女になってはいけない理由も理解したし、母親がどこかへ行ってしまった理由も何となく察した。

魔法少女について父親へ聞いた時、同時に父親の過去も聞くことができた。

実は父親はもともとミュージシャンで政治家などではなかった。

でもミュージシャンの頃から世界を変えたいという思想はあったらしく、その考えが歌詞に現れていた。

父親の政治活動をサポートしてくれていた、今では叔父と呼んでいる人が父親と母親について私に聞かせてくれたことがあった。

“イザベラのお父さん「チャールズ」はね、路上ライブ中に君のお母さんと出会ったんだよ。

あれはチャールズが高校上がりたてで本格的にミュージシャンとして食っていこうと考えていた頃だ。

道ゆく人たちが足を止めずに少量のチップしか落とさない中、君のお母さんはチャールズの曲に聞き入ってその場に足を止めたんだ。

偶然かと思ったらしいのだが、場所を変えても彼女はチャールズの曲を聞きに来てくれたという。

そしてある日、彼女がチャールズへ話しかけてそこから交流が始まった”

“叔父様はいつお父さんと知り合ったの?”

“彼女と同様、路上ライブが行われていた時さ。

彼と話してみると面白い発想をしていてね、是非とも味方としてほしいと思ったのさ”

“お父さんを利用しようとしたの“

”聞こえは悪いと思うけどね。でも逆に私は呑まれてしまったんだよ。君のお父さんは恐ろしいほどの策略家だった“

父親の成り上がりは政治家たちの中では誰も知らないほど有名だった。

大抵の政治家はコネや金の力、権力者への便乗で名声を高めていったが、父親は政治活動を叔父に任せてひたすらミュージシャンとして活動した。

そしてテレビ局にピックアップされて、着実に名声を得ていった。

父親が作る曲は人を魅了させるために人の真理を研究して意図的に作られたものではない。ただ父親が思うがままに作った曲が多くの人の共感を得ただけだ。
私も物心がついてから父親の曲を聞いたが、何とも言えない感動が胸の奥から込み上げてくることだけはわかった。

その結果、父親の歌詞に込められた想いは米国の国民の意思を変えていった。

父親は叔父に黙って叔父の選挙区へ出馬した。結果は当然父親が勝利し、父親は純粋な名声を持って政治の世界へ入っていった。

その後は政治家とは思えないほど自分が損をし、国民を喜ばせるような政策を続けた。

だから父親の資産は米国のどの政治家の中でもワーストだった。

衣食住、全てが一般レベルでガードマンも叔父の雇ってる人がついででいるくらい。

しかも、政治家になってもミュージシャンを続けていた。

政治家になってからはテレビで曲を披露せず、普通の道端でゲリラライブを行っていた。

そう、父は一般人からしたら頭がおかしい。

でもその異常さが人気の一つだった。

そんな父親の有様を見て、貧乏政治家、政治家もどきと罵る人もいたが、若者の支持は圧倒的に得ていた。

”お父さんは結局何をしたいの?“

”イザベラ、人をダメにするのはお金と常識だ。どちらも持ったまま大人になると、心が狭くなって、平気に酷いこともしてしまうんだ。

だから、私はどちらも否定したいんだ“

“でも、お父さんは叔父様を騙したよね?お父さんもひどい人じゃない?”

“イザベラは賢いね。

ケーネスは私の側近として政治家らしいことをやってもらってる。お父さんは政治に詳しくないからね。

ケーネスは騙されたと思っているかもしれないけど、お父さんはケーネスに利用されていると思っている”

“どうして?”

“政治家たちのヘイトは私に向いている。私はケーネスの隠れ蓑になっているのさ”

“お父さん、変なこと考えないでよね”

“大丈夫、イザベラを不幸にはさせない。
そうじゃないと、嫁に顔向けできないからね”

父親が政治家になって、初めての大統領選挙が近づいていた。

結果なんて見えていた。

あらゆる政治家が汚い手を使っても、父親の大統領となる確率は99%に近かった。

そんな中、たった1%の奇跡が私の運命を変えた。

私は父親の付き添いで一緒に仕事場へと向かっている途中だった。外は雨が降っていて、見通しが悪かった。

そんな中、周りの風景がおかしくなっていった。

「なんだ、この空間は」

「道がない、どうすれば」

車に乗っている私は直感的に危険を感じて車を降りながら叫んだ。

「みんな車から離れて!」

父親は逃げ出せたものの、運転手の人は地面から出てきたワニのような化け物に車ごと食べられてしまった。

「チャールズ氏だな?まあ、違うと言われても本人だというのはわかっているんだけど」

話しかけてきたのは、ワニのような怪物の頭に立つ少女だった。

「その化け物、まさか魔女か。ということは君は魔法少女なのか!」

「ほう、理解が早いね。奥さんが魔法少女だったという話は本当だったのか」

父親は魔法少女をずっと見つめていたが、眉間にしわを寄せるという何か危ないことを考えているときの癖が出ていた。

「お父さん!」

「イザベラ、これを持っていなさい」

そう言って父親は私に銀色の星の真ん中に黄緑色の球体が輝くネックレスを渡してきた。

「これは」

「お母さんからもらったお守りだよ。さあ、それを持って結界の外へ!」

「でも」

魔法少女は待ってはくれず、魔女へ攻撃指示を出してこちらへ突進してきた。

私は魔女の通った跡を境に父親と分断されてしまった。

「行きなさい!」

私は父親の言われるがままになぜかわかる出口へ向けて走り出した

走り出すと後ろから動物の骨を被った数体の骸骨が槍を持って私を追いかけてきた。

「なんなの。まさか使い魔ってやつ」

警戒して後ろを振り向くと、魔女が父親を喰い殺す様子が目に入ってしまった。

「お父さん!」

私は足を止めてしまい、骸骨たちに追いつかれてしまった。

骸骨たちは槍で突いてきたがいくつかは回避できた。しかし父親が死んでしまった動揺もあってか、太ももに一撃を受けてしまった。

もうダメかと思って死を覚悟した時、誰かが私の前に出て持っていた竹刀で骸骨たちを蹴散らした。

「怪我をしているのか」

私に声をかけたのは竹刀を右手に握った少女だった。

「なんなんだここはと思ったけど、これは考えている余裕がなさそうだね」

蹴散らされた骸骨たちはその場で起き上がった。

「逃げるよ」

そう言って少女は私をお姫様抱っこした。

「とは言っても、どこが出口だ」

「あっちに走り続けて」

私は結界から出られる場所を指さした。

「わかるの?」

「急いで!あなたも消されるよ!」

少女は私を抱えながら必死に走り続けた。

もう少しで結界の端というところで少女はつまづいてしまい、私と少女は地面につくと同時に結界の外にいた。

場所は橋の下で、衣服はすぐに雨で濡れてしまった。

「君は、いったい」

「あなたも何者なの、魔女の結界にすんなり入ってきて」

「魔女?結界?あの空間へは家へ帰る途中に偶然遭遇してしまっただけだよ。

君も偶然あの結界に?」

「違うわ。

私と、お父さんは魔法少女のせいであの結界に閉じ込められたのよ。

そして、お父さんは魔法少女に殺された!」

「そうか、ごめん。無神経なこと言って」

「お父さんが、魔法少女へ何をしたっていうのよ」

少女は立ち上がって私に手を伸ばした。

「私はキアラっていうの。あなたは?」

「…イザベラ・ジャクソンよ」

私はキアラの手を取り、雨の中を叔父の家へ向かって走り続けた。

「ちょっと、イザベラさんどこに連れていくの!」

「あなたあの魔法少女に目をつけられたかもしれないでしょ。私の叔父の家でしばらく隠れていなさい」

「え、叔父さんの家?」

叔父の家へ着いた頃には2人ともびしょ濡れだった。

「どうなさったのですかイザベラさん!」

「着替えの用意をお願いできますか?彼女の分も」

「か、かしこまりました」

私とキアラは敷居を一枚挟んで着替えながらあの状況について話していた。

「まさかイザベラさんがお嬢様だったなんて」

「私のことは呼び捨てでいいわ。あとここは叔父様がお金持ちなだけ。

ねえ、どうして私を助けてくれたの?」

「殺されそうな人がいたら助けるのは当たり前でしょう?

まさか私の太刀が一切ダメージを与えられなかったのは想定外だけど」

「あなた死んだかもしれないのよ。なんで自分のことを大事にしないのよ」

「生きて後悔を残すよりも、後悔なく死んだほうがいいのよ」

「ふん、悪くない生き様ね。

でも」

トントントンッ

話の途中で扉がノックされた。そして扉の向こうから叔父の声が聞こえた。

「着替え中失礼。イザベラ、着替えが終わったら一緒にいた子を連れて私の部屋へ来てくれ。

状況を説明してもらいたい」

私たちは着替えが終わると叔父の部屋へと移動した。

部屋の中では叔父が窓から外を見ながら待っていた。

「イザベラ、一緒にいる子の名前は?」

「キアラよ。私たちが魔女の結界に閉じ込められた時、助けてくれたのよ」

「そうだったか。

キアラさん、イザベラを助けてくれてありがとう」

「いえ、当然のことをしたまでです」

イザベラが私は違いますよという感じに両手で手を振った。

キアラの両手を見て、叔父は顔が険しくなった。

「君、魔法少女ではないね?一体何者だ」

「あの、イザベラさ・・イザベラも言っていましたが、魔法少女ってなんのことでしょう」

「イザベラ、キアラさんに魔法少女のことを話してもいいかね?」

「・・・いいですよ。キアラは聞き流す程度でもいいわ。

それで、話というのは」

「落ち着いて聞いてくれ。イザベラのお父さん、チャールズの存在がこの世界から消えた」

急に何を言い出すのかと思ったら、あり得ないことが叔父の口から出てきた。

「そんなはずないじゃない。お父さんを忘れるなんてそうそうできることじゃないわ」

「では、屋敷内の使用人たちに確かめに行ってみるといい。一番わかりやすいのは、新聞の内容だと思うが」

言われるがままに私は新聞に記載されている大統領選候補者の名前一覧を見た。

そこに、父親の名前はなかった。

「何よこれ。こんな、これじゃあ、お父さんがいないことになったかのようじゃないの!」

「イザベラ、君たちを襲ったのは魔法少女だったのだろう?

君のお父さんがこの世界でいない存在にされたのは、襲った魔法少女のせいだろう」

「そもそもなんで叔父様は魔法少女の仕業だって考えているの?

「君のお母さんからもらった、このペンダントのせいだよ」

そう言って叔父は見覚えのあるペンダントを私に見せてきた。

「それって、お父さんから渡されたものと同じ」

「そうか、彼は最期に娘へ手渡したか。

このペンダントはね、君のお母さんが魔女や悪い魔法少女から守ってくれるようにって私と君のお父さんへ渡したものなんだ。

彼の記憶が消えないのは、これのおかげかもしれないな」

「母親の、カタミ」

「君たちは彼を消すために動いた魔法少女に目をつけられただろう。
今後は、常に狙われているであろうという気持ちで過ごしてもらいたい」

「そんな、毎日気を張っていないといけないなんて生きてる心地がしませんよ

誰かに命を狙われていると常に警戒するのは肉体的にも、精神的にも疲労が激しい。

そんな毎日を過ごすくらいなら。

「イザベラ、顔に出てるよ。

まったく、親子そろってあまり物騒なことは考えるんじゃない。ガードマンは常に周囲に配置しておくから」

魔女に通常の武器は効かない。キアラの戦闘を見てそんな気がした。

「すみません、気をつけます」

「キアラさん、君の親御さんに事情は説明するから今日は泊まって行きなさい」

「え、いいんですか?」

「私が許すよ」

「ちょっと叔父様!」

そういうことで、キアラは叔父の家へ泊まることになった。

私は世間では叔父の養子ということになってしまっているらしく、家のものが叔父の家へ既にある状況となっていた。

魔法少女の力は過去を作り替えてしまうほど強力な力だという事実に、私は恐怖を覚えた。

その日の夜、キアラが私の部屋へと訪れた。

「あの、昼頃にしていた魔法少女について聞きたいことが」

不意打ちだった。

不覚にも、キアラに外出しようと準備している私の姿を見られてしまった。

夜なのにコートを着ていたこと、腰に刺した拳銃を見てキアラは驚いた顔をしていた。

「何やってるんだ、イザベラ」

「キアラ、このことは内緒だ。黙って部屋に戻っててくれないか」

「イザベラの叔父さんが言っていた危ないこと、魔女とやらと戦う気なのか」

私は何も言わずに窓から飛び出そうと思ったが、このままでは騒がれてしまうだろう。

私は開いたままの部屋の扉を閉じてから話し始めた。

「眠れないんだ、父親を殺したあの魔法少女に一矢報いるまでは、ゆっくり眠れる気がしない」

「無茶だ、イザベラだって死んでしまう」

「そうだね。もしかすると、奥底の自殺願望が後押ししてるのかもしれない。
今日おとなしくしたところで、いずれ精神が病んで死ぬのは、なぜかわかる」

私は窓を思いっきり開けた。

雨上がりの湿ったい空気が入ってきて、少し気持ち悪かった。

「キアラ、助けてくれたこと、嬉しかった」

そう言って私はキアラに背を向けたまま窓から飛び出した。

 

back:2-1-5

レコードを撒き戻す:top page

Next:2-1-7

【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-1-4 魔法少女狩り、進捗は良くなく

世界中で魔法少女狩りが開始されたが、世界全ての魔法少女が狩れたわけではなかった。

魔法少女狩りが行われた後の世界情勢はこんな感じである。

まず順調に作戦を完了させたのはアフリカ大陸、中央アジア、西アジア、南アジアに中央アジア。
捕らえた魔法少女達には宝石へ細工を行い、ボタン一つで宝石が爆散するようにしている。そんな彼女たちは隔離地域と呼ばれる場所で暮らすように指示している。
隔離地域は小さな町となっていて衣食住が十分に行える程度の設備は整っている。
隔離地域へと収容する理由としては対処済かそうではないかを見分ける方法がいまだにないからだ。

それに、直ぐに実験用として呼び出しやすい。

東南アジアの魔法少女は一部オーストラリア大陸へ逃げ延び、オーストラリア大陸には捕獲漏れの疑いがある。
オーストラリア大陸は無駄に面積があり、捕獲漏れがあるかどうかの結果が出るには時間がかかるだろう。

次は北中南米全域。

サピエンスの本拠地がある米国であるにもかかわらず、いまだに魔法少女反応が残っていて全員の捕獲に至っていない。

原因としては魔法少女を追っても、不特定な場所で突然反応が消えてしまうため。

神浜市と繋がったようなゲートがあるのではと探したが、見つけるには至っていない。

実は中華民国もロシアも同じような理由で全ての魔法少女を捕獲できていない。

他にもヨーロッパ地域と日本も完全制圧できていないのだが、この2国は抵抗が激しかったため特殊部隊の敗北で終わっている。

ヨーロッパ地域ではなぜか最初から魔法少女達によるアンチマギア対策が徹底されていて初期生産型の武器や兵器では太刀打ちすることができなかった。

そんなヨーロッパ地域で優位に立つためにサピエンスは多くの試作品をヨーロッパ地域へ提供したが、魔法少女達による武器庫襲撃によって全てが吹き飛んでしまった。
そのため、ヨーロッパ地域は劣勢である。

日本はというと、神浜市へとつながるゲートからの奇襲とアンチマギアの使用で優位に立つことができた。

しかし、ゲートのことを知っていた彼女達はゲートを封鎖し、アンチマギアが届かないところから抵抗されて特殊部隊は全滅した

あの後、ゲートを再度開こうと試みたものの、米国に潜んでいた魔法少女によってゲートが破壊されてしまった。

ちなみに神浜市襲撃時に使用されたゲートは鏡が大量に存在している迷路のような場所で、探索時に多くの行方不明者を出している。新しいゲートを見つけるためにあの鏡の空間へ入るのはいたずらに戦力を削るだけだろう。

魔法少女狩りの進捗がよくない原因として、人間側の状況に詳しい一部の魔法少女が世界中の魔法少女へ事前に注意喚起を行っていたことが考えられる。

特にヨーロッパ地域はアンチマギアが生まれる前から警戒していたのではないかというくらいアンチマギア対策が徹底していた。

とはいえ裏組織のアンチマギア実用実験時に軽くあしらった魔法少女がいたという報告を受けていたので、おそらくその魔法少女が起点だろう。
そういうわけで魔法少女が使用している情報網の集結先を探っているのだが、どの魔法少女も口を割ろうとしない。

有象無象の集団かと思った魔法少女だが、組織的な動きをする脳くらいはあったようだ。

各国のアンチマギアへの対抗姿勢を分析して、日本はアンチマギアの存在を知らなかったのではないかという結果となった。おそらく十分な対策もまだできていないだろう。

侵攻作戦を再度仕掛けるべきは日本だろう。

 

イザベラは日本へ再度侵攻するために軍関係者のメンバーを作戦室に集めていた。

「レディ、あなたの気になっていた情報ですが、どうやら日本は魔法少女を若干擁護する動きを見せているようです
降伏してきた魔法少女へ未だに宝石への細工も行っていないとのこと」

「それはいけないね。国連で決まったことに反するとはいい度胸だ」

しかし大統領から人間同士の大戦にはしないようにとのお達しが出ている。仮にそうでもなったら、あなたの首は無事ではないですよ」

「そんなのわかっているわ。あの国は経済制裁を加えたらぽっくり行く国よ。戦う力なんて、はなからないわ」

イザベラが資料へ指さすと、作戦室にいるメンバーが皆揃って資料へ目を落とした。

「それでこの作戦ですか。主力は我が軍ですが、経済制裁を武器に日本軍を強制参加とはいささか権力の暴力ではないですかな」

「私たちは負けられない戦いをしているんだ。容赦なんてしたらこちらがやられるだけだ」

「しかし、降伏した魔法少女達はうまく動いてくれるんですかね」

「戦力に不安があるなら、私を入れてくれないか?」

急に作戦室へ入ってきたディアに全員が驚いた。

「何しにきた?今は作戦会議中だ」

「作戦も何も、いつもの意見の押し付けだろう?よければ私を作戦へ参加させてくれないか?
参加したらついでに作戦責任者へ宝石への細工を強要するよう仕向けることも可能だ」

私は腰に差した刀に手をつけながらディアに話しかける。

「その自信、実験がうまくいったようだな」

「ああそうさ。日本くらいの距離でも通用する仕上がりだ。どうだ?」

イザベラは深くため息をついた。

「デュラン大佐、試作艦が日本領海に到着するまでの時間は」

「まだハワイ港にいますので、10日以上はかかります」

「そう。ディア、8日以内に日本へ入国しなさい。それが可能なら作戦へ参加しなさい」

「お安い御用さ。感謝するよ、イザベラ」

そう言うとディアは優しく扉を閉めて出ていった。

「全く、狙ったように作戦会議中にきて」

「抑えなさいキアラ。
さて、特に反対意見がないようであれば作戦行動へと移ろうと思うのですが、他に意見はありますか?」

「では最後に一つだけ。
レディは世界を巻き込んでまで、なぜ魔法少女を支配下に置きたいのですか」

「奴らは最終的に人類の敵になると既に予見しているからさ。こうしている今も、奴らは人類の上に立つ準備を進めている。
わかりあうなんて生易しい理想は、人間社会には通用しないでしょう?」

「それは、別の機会にじっくり聞きたいものですな」

「ふんっ、反対意見がないようであれば作戦に移ってちょうだい。試験艦の移動は速やかに」

「イェッサー」

軍関係者が会議室から皆出て、部屋にはイザベラと私だけが残った。

「神浜を標的にしたのはキュウベェの助言が気っ掛けだろう?」

「魔法少女が魔女化せず、理性を持って魔女のように振る舞える魔法少女が力尽きないシステム。

そんなものがあって、なおかつそれが世界中に広がる可能性があるなんて言われたら後回しにはできない」

魔法少女狩り時の奇襲では事前情報がないような振る舞いがありつつ、特殊部隊は敗退した。

アンチマギアを知った彼女たちの実力は未知数だ。試験艦と魔法少女の盾で勝ちへと運ぶものか?」

「魔法少女同士での潰し合いは効果があるとキアラも知ってるでしょ?
それに試験艦は魔法少女対策を万全にさせたものだ。随伴艦がいる中で簡単に沈んでは困る」

「まだ詰めが甘い気がする」

降伏した魔法少女の中には国に忠実な人物がたくさんいるらしい。華々しく散ってもらおうじゃないか、お国のためにね」

私はため息をついた。

「イザベラもディアとあまり変わらないな」

「なっ!一緒にするな!」

私たちは一緒に会議室を出てそのまま拠点の玄関まで移動を始めた。

次の予定は魔法少女ではない異なった魔力を纏った少女との面会です」

「あの魔力が解明できないと彼女に予防注射もできないのよね。
あの謎の魔力、彼女を守るように注射器等の機器を破壊して来るけど脱走させようとしないのが謎よ」

「本人が望んでいないからじゃないか?」

ならば神浜と魔法少女について知っていることを素直に話してほしいのに」

あんな演説を見てしまったらこちらに不信感を抱くに決まってる。辛抱強く相手と向き合うのが交渉のコツだろう?」

「わかってるわ。

“サトリカゴメ“、今日は話してくれるかしら」

 

back:2-1-3

レコードを撒き戻す:top page

Next:2-1-5

 

【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-1-5 同じでは、ないです

2人は車に乗ってホワイトハウスへと向かった。ホワイトハウスの一室には神浜で保護された少女がいる。

その少女はどうやら魔法少女について調査していた人物と面識があるらしく、私たちの知らない魔法少女事情を知っているかもしれない。

本来であれば自白剤等の強引な方法をとっているが彼女に付き纏う謎の力によって一切手出しが行えない。

謎の力は魔力を帯びているというのは確かだが、魔法少女とは違った性質で未だに対策が行えていない。

そう、彼女が口を開いてくれるのを待つだけしかないのが現状だ。

ホワイトハウスへ到着したイザベラは少女がいる部屋の扉をノックした。

中にはホワイトハウスから提供された服に身を包んでお気に入りの人形を持っている少女が窓から外を眺めていた。

「かごめさん、調子はどうですか?」

「体調は、問題ないです」

「それは良かった。
それで、今回来たのはですね」

「…すみません、ひとつお願いがあるのです」

「私の言うことは聞かずにそちらがお願いして来るとは、随分と勝負に出たことをしますね」

イザベラは意識していないがイザベラの発言は他人から見たら不思議と威圧が含まれていて心を強く持つものでなければすぐに怯んでしまう。

かごめさんはイザベラの言葉を聞いて強張った顔をして壁際まで逃げてしまった。

「イザベラ、逆効果だ」

「ふんっ、つまらないお願いじゃなければ聞いてあげましょう」

”かごめちゃん、ほら勇気を出して“

「う、うん」

腹話術なのか知らないが、あの人形はよく喋る。どういう仕組みなのだろうか。

「キアラさんと、お話しさせてください」

「私とですか?」

「はい」

私はイザベラの方を見た。

イザベラは私とかごめさんを二回ほど交互に見てそのあと。

「立ち話で済む程度ならどうぞ」

「ありがとうございます」

「それで、私に話したいこととは?」

「キアラさんは、日本が好きですか?」

そういえば初対面の時、何も考えず同じ日本出身だと話していたか。

この質問は軽く答えてはいけない。ただ疑問に思ったからということだけなのかもしれないが、回答次第ではイザベラの機嫌を損ねる。

だからと言ってイザベラに配慮した回答をしてしまえばかごめさんはさらに心を閉ざしてしまうかもしれない。

意図を確認しよう。

「どうして、そのような質問を私に?」

「キアラさんは日本の人だから。出身の国がひどいことになっているのに、どうして平気なんだろうって思ったからです」

「私は人間側の存在です。魔法少女関連の問題が解決したら日本だっていつも通りです」

「同じ女の子が何もしていないのに、ひどいことをされているのに」

かごめさんはどんどん声が小さくなっていきました。

「同じでは、ないです」

しばらく部屋の中が静かになった後、イザベラが話し始めた。

「はいおしまい。キアラに同情してもらおうって思っても無駄よ。さて、今度はこちらのお願いを聞いてもらおうかしら」

かごめさんが身構えた時、持っている魔力センサーが反応して音が部屋中に鳴り響いた。

「こんなところに、どこから!」

かごめさんが何故かその場にしゃがむと窓の外から勢いのついた鉄塊が飛んできて窓際には大きな穴が空き、部屋の壁は貫通はしなかったものの大きく破壊されてしまった。

衝撃からイザベラを守るためにイザベラの上に覆い被さっていた私の腕には破片が刺さっていた。

「キアラ!」

「大丈夫です、これくらい」

土埃が晴れた先には窓際でかごめさんを抱える謎の人物がいた。

私は謎の人物を見ながら立ち上がった。

「魔法少女がよくここまで潜入できたな」

「お初にお目にかかります、真の大統領。いや、サピエンスの責任者様」

「何のことかしらね。それよりも、ここからタダで逃げられると思っているの?」

「アペ、刃となって!」

そう言って魔法少女はかごめさんを抱えながら炎の剣で切りかかってきた。

私が刀で応戦すると、触れた炎の剣は形を保てなくなって消えてしまった。
魔法少女はすぐに一歩引いた。

「なるほど、アンチマギアと同じか」

「あなた、魂を3つとは変わった体をしてるわね。そのうち誰かしら」

「イザベラ?」

「人間なのに、それとも、もうやめているのかねぇ」

「今すぐここで投降し、仲間と共に人類側へ膝をついて平和的に争いを終わらせようとは思わない?」

「残念だが話し合いで解決すると思うほど我々の考えは甘くない。人間と魔法少女。価値観、倫理観、社会体制すら相容れない存在同士が和解できる可能性など、とっくにこの世界では死んでいる」

「知ってたさ。一応紳士的態度を取ったまでのこと。私もこれっぽっちも和解できるなんて思ってないさ!」

少女は腕から糸を出すと勢いをつけて窓の外へと逃げ出した。

「逃がすな!」

外に待機していた警備隊が魔法少女へ発砲するも、謎の力で持ち上げられた車が警備隊を襲った。

魔法少女は魔力反応を感知させることなく近くの川へと向かっていたが、イザベラが放った一射が魔法少女の足を止めさせた。

「動くんじゃないよ、私はそこら辺の一般人と比べてお前たちを捕えやすい。魔法の反応だってすぐに感知できるから小細工しようとしたらすぐわかるわ。
無駄に動かずこちらにソウルジェムを渡しなさい」

「知ったことか!」

魔法少女は魔力で鉄塊をこちらに飛ばしてきた。

イザベラは鉄塊を避けて魔法少女に向けて発砲した。

「バカ、やめろ!」

かごめさんに当たるリスクを考えろ!

発砲すると予想したのか、魔法少女はかごめさんを前に出した。
すると不思議な力によって銃弾はかごめさんの前で勢いを失ってそのまま地面へと落ちた。

「悪いねイザベラさん、決着がつくときにまた会おう」

そう言って魔法少女はかごめさんを抱えながら川に飛び込んだ。

「魔力反応が検知しずらい。でも河口付近で待てばいい。
各自河口付近で張りなさい。偵察ヘリは川底で動く影を追い続けるように」

「再度魔力反応を検知できました。でもこれは」

上空のヘリから映された映像には川の奥深くを泳ぐ首長竜の影が見えた。

「魔法少女の能力は一つから派生したものしか扱えないと聞くが、体感した限りだと4つでもすまないぞ。何だあいつ」

しばらく川を下っている様子を見ていると、急に眩い光が周囲を包んで、消えた頃には首長竜も、魔力反応も跡形もなく消えていた。

「そんな、どこにもいない!」

「思い出したわ、あいつはヨーロッパで報告があった魔力を感知されない魔法少女だろう」

「それって、聖女ワルプルガの遺体を持ち去ったという」

「突然消えた原理はわからないけど。

う、少し気分が悪くなったわ」

「私も少し、気分が悪い」

私とイザベラは駆けつけた救護班の手を借りながら被害の受けていないホワイトハウスの部屋へ移動した。

何故いきなり具合が悪くなったのかわからないが、心の中に黒い何かが流し込まれたかのような感覚だったのは確かだ
後から知らされたが、川周辺にいた人たちは私たち同様に急に気分が悪くなるという症状があったらしい。

部屋で横になっているイザベラは、ホワイトハウスへ襲撃してきた魔法少女の言葉を振り返っていた。

“人間と魔法少女。価値観、倫理観、社会体制すら相容れない存在同士が和解できる可能性など、とっくにこの世界では死んでいる”

「ふっ、そうだな。大昔から、とっくに和解関係なんて死んでいたさ。

面白い奴がいるじゃないか、魔法少女にもさ」

イザベラは自分の過去を振り返りながら悲しみを含めた笑みを浮かべていた。

 

 

私を連れた魔法少女はヨーロッパのある場所へとワープしていた。
魔法少女は慌ててグリーフシードを取り出し、ソウルジェムを浄化した。

「いやぁよかった、ポンベツカムイと一緒に拠点に現れるかと思っていたよ」

「お望みならすぐここをぶっ壊してもいいよ」

「怖いこというなよカレン。でもすごいね、地球を一周するような距離をフィラデルフィアのコイルで移動できちゃうなんて」

「この聖遺物の燃費が悪いのは知っていたからな、穢れを周囲の人間に流し込めたからこそ無事だった。普通の魔法少女が使うとフィラデルフィア事件の二の舞だ」

私は何を言っているのかわからなかった。でもカレンと呼ばれる人のことは知っていた。
自動浄化システムを世界に広めるために動いていた三人組のうち一人。

「その子が魔法少女について調査していたという少女かい?」

もう1人私たちがいる部屋へ入ってきた。

「そうさ、案外あっさり連れ出せたよ」

「この子が抱えるウワサにこちらの状況を実況されたらたまったものじゃない。助かったよカレン」

「いいってことさ。私はこの後予定通りオーストラリアに行くよ」

「悪いね、でもあれはカレンたちがいないと動かせないものだから」

「わかってるさ。移動のためにフィラデルフィアのコイルはこのまま借りていくよ」

「ええ、全部終わったら返してね」

「はいよ」

そう言ってカレンさんはその場から姿を消してしまった。
この空間にいる2人はグリーフシードを取り出してソウルジェムを浄化していた。
もしかしてここにいる人たちみんな、魔法少女なの?

先ほど部屋に入ってきた魔法少女は私の前に膝をついて目線を合わせてきた。

「あなたがかごめさんだね、カレンから話は聞いているよ。
私はここを取りまとめるミアラという者よ。安心して、ここには魔法少女しかいないから」

「えっと、どうも」

「あなたをしばらく保護させてもらうわ。最終的にどう扱うかは、あなたが魔法少女になるかどうかで決めさせてもらうわ」

魔法少女にならなかったら、何をされるの?

「あなたたちは、一体」

「私たちは人間の軌跡を破壊し、魔法少女が中心の軌跡を産もうと考えている者たちの集まり。
簡単にいうと、人間が生み出したものをすべて終わらせる存在よ」

 

back:2-1-4

レコードを撒き戻す:top page

Next:2-1-6

 

【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-1-3 ほんと、おぞましいものだ

米国 大統領による演説当日

 

米国内は新たな大統領選が始まるのかというくらいの認識で大勢が演説会場へ集まっていた。

テロリスト対策に配置された数十人の兵士に囲まれながらも、民衆は演説台に上がった大統領を見て歓声を上げた。

大統領は歓声を止める合図とも言える右手をあげて民衆を見渡した

歓声が鳴り止むと、演説が始まった。

そして演説が始まると同時に世界各国、あらゆる放送電波が何者かにジャックされ、全てが米国大統領の演説に切り替わった。

”私は、世界を揺るがす事実を伝えると同時に、国連へ新たな提案を行うために今皆様へお話ししています。

皆さん、この世に魔法と呼ぶものがあると思いますか?

アニメや漫画といったフィクションにしかないと思う方も、オカルトだと思う方、そもそも存在しないと思う方もいるでしょう。

私は断言します。

この世に魔法は存在すると!“

演説台を取り囲む民衆は突然魔法という言葉を使い始めた大統領を目の前にしてざわつきを抑えきれなかった。

そんな中演説会場に用意されたモニター、そして世界中のあらゆるテレビやモニターには神浜で起きた惨劇の映像が流れた。

”実は我々の身近には既に魔法が存在していたのです!

これは私の気が狂ったわけではありません。

今みなさんにご覧いただいている映像は日本 カミハマシティにて発生した化け物の大量発生した様子を我が国の兵士が持ち帰ったものです。

見れば見るほど現実とは思わず、作り物だと思い込んでしまうでしょう。

否!これはフィクションではなくノンフィクション!

私自身もこの化け物と対峙し、その存在を認識しました。

その存在は、身近ところに潜んでいるというのが事実なのです!“

ざわつく演説会場で突然二つの叫び声が聞こえ、その叫び声を上げた少女達からは化け物が飛び出し、演説会場は二つの魔女の空間が混ざった状態で包まれた。

民衆達が逃げ惑っている中、大統領は演説を続けた。

“なんてことだ!こんな大事な時に目の前で発生してしまうなんて!

実はこの化け物に対して魔法少女と呼ばれる存在が日々、排除活動を行なっているのですが、果たして助けに来てくれるのだろうか。

護衛にいた兵士たちの銃弾では歯が立たない!

どうすればいい?!”

そう話した後、魔女の結界へアンチマギアを武装した集団が侵入し、使い魔と魔女へ攻撃をはじめた。

その攻撃は勿論効果があり、兵士たちは民衆の保護を始めた。

“あれは我が国の兵士。私がこの事態を予想して準備してきた武装を彼らは用意してくれたのです。”

2体の魔女はあっさりと倒され、周囲は普通の風景へ戻った。

“急な出来事で民衆へ被害が出てしまいましたが、もう安心してください。

このような事態へならないよう、私は化け物へ対抗するための案を用意しています。

それは、「アンチマギアプログラム」です。

アンチマギアプログラムでは先程の化物へ対抗できる武装の開発と量産を行う許可を下す法案と、その量産体制を整える権利を各国へ与えるものです。

もう一つは、化け物の発生原因である魔法少女という存在の捕獲、そしてその魔法少女という存在をこれ以上増やさない計画の実行許可です。

みなさんの身近に、非現実だと思われた存在が現実に存在したということは認識してもらえたでしょうか。

もし、アンチマギアプログラムが世界で実施されるようになりましたら、世界中の皆様も、どうか協力をお願いします。“

 

米国大統領の演説を、サピエンスのメンバーは4人揃って眺めていた。

テレビに映る様子を見ていた中の1人が話し始めた。

「とんだ茶番劇だね、こりゃ」

「ディア、あれは国連の頭が固い連中を説得する上で最適な方法なんだよ。
人には被害が出たが、かえって現実味が伝わったでしょ」

「頭の固いやつは見るだけじゃ意見変えないって。そんなことより私は実験に使えたはずの二名が魔女化して普通に処理されたことが気に食わないの」

「あら、あの時は渋々OKを出したじゃない」

「まあ、そうなんだけどさ。やられ方が普通過ぎる。
なんかこう、新たな倒すための手段がひらめくような状況になればと思ってたけど。普通過ぎる」

「あなたにとっては普通でも、このパフォーマンスによって世界は魔女を脅威と錯覚してくれるはずよ。魔法少女については、少し印象が薄いかしら」

「カルラ、キチンと魔法少女を魔女にしたじゃないの」

「あれが魔法少女だって認識がみんなできていたらの話よ。

まあいいわ。魔法少女は歴史を改変するって点はおいおい印象付けるとしましょう」

「ええ、電波ジャックの件は助かったわ」

 

世界には強引にも魔法少女の存在が知れ渡り、わたしの理想が叶うところまできた。

米国大統領の演説が終わった後、国連ではアンチマギアプログラムの議案が提出され、あっさりと可決された。

世界は魔法という概念が実在するという認識が半信半疑で広がっていき、女の子、と呼ぶくらいの女性達は化け物へと変わってしまう魔法少女ではないかという疑心暗鬼も広まっていった。

見た目で魔法少女かどうかなんて判断できない。

そんな中でアンチマギアプログラムには魔法についての予防接種を受ける義務を与える内容も含まれている。

予防接種を受けると首元にバーコードが刻まれ、予防接種を受けた者はキュゥべえや魔法少女が使用しているテレパシーを受信できなくなる。

魔法少女かどうかの疑心暗鬼はこの予防接種を受けたというバーコードで解消されていくだろう。

では、既に魔法少女となっている者達はどのような処置が行われるのか。

アンチマギアプログラムが国連にて可決されてから3日後、各地に散った工作員達へ指示を与えるために私はペンタゴンの地下にあるサピエンス用の施設へ来ていた。

そこで無線を使用して工作員達へ指示を出した。

「もうじき作戦時間だ。これより、魔法少女掃討作戦、作戦名「魔法少女狩り」を開始する。

いいか、これは虐殺するための作戦ではない。

担当区画の魔法少女達を拘束し、決められた保護施設へ収容するのが目的である。相手から降伏を申し出てきた場合は丁重にもてなして拘束せよ。

また、ヨーロッパにはアンチマギアをかいくぐる存在がいると確認されている。

見た目は少女だと油断せず、魔法少女を逃さず拘束せよ。

以上!作戦開始!」

私の合図で世界各地で魔法少女狩りが実施された。

工作員達は手渡された魔力探知機を使用して魔法少女の居場所を突き止め、家族が一緒にいた場合は国連命令として拘束した。

抵抗する者には武器の使用が許可されており、無理やり拘束を行った。

拘束された魔法少女達はソウルジェムへ細工が施され、ボタン一つでソウルジェムが破壊されるようになってしまう。

しかし、下手に抵抗しなければ管理区画内に限って人並みの生活を送ることができる。

拘束される際に抵抗が激しかったり、かつて国へ大損害を与えた魔法少女については…。

こうして魔法少女狩りが実施されて3カ月が経過した今、魔法少女狩りの進捗は芳しくなかった。
演説が行われたころから国内のほとんどの魔法少女が国外へ逃げ、ヨーロッパの一部とカミハマシティは予想外に魔法少女の捕獲が失敗という結果になった。潜入した工作員が誰一人帰ってこなかったのである。

他の国でも魔法少女の捕獲は成功したものの全員ではなくどこに潜伏したのか行方知らずの魔法少女が多い。

そんな中、魔法少女によるヨーロッパの武器庫破壊が発生した。

 

計画がうまくいかない中、サピエンスの実験施設には武器庫破壊のリーダー格である魔法少女が放り出されていた。
放り出されている空間は真っ白な鉄壁に囲われていて、高いところには内部をモニタリングするための部屋が用意されている。
見た目は真っ白な部屋だが、ここでは何人もの魔法少女が実験のために殺されてきた。

「あんた達の中心人物について教えてくれれば、あんたの部下の命が犠牲にならずに済んだのにさ。
部下よりも自分の命が大事かい?」

「捕まった時点で死んだも同然さ。それにしったところであんた達がドウコウできる問題じゃない!」

尋問していた研究員が銃弾を一発、魔法少女の左足へ撃ち込んだ。

魔法少女は痛む様子がなく、血が流れ続ける左足を見て困惑していた。

「アンチマギアの濃度を上げた弾薬だ。

肉体の感覚と魔力が遮断されるまでの間隔が短すぎて痛覚も機能しなかっただろう?

気づかずに死んでいたっていうのは、ちょっと優しすぎるかな?」

尋問する研究員は魔法少女の周りを歩き出した。

「武器庫破壊が行われた際、他各所でもアンチマギアが納められている施設が襲撃されて大打撃を受けたって聞いてるんだけどさ。

それって、世界に顔がきく魔法少女界のドンが存在して、みんなに指示を出してるってことだよね。

そいつらのせいか、魔法少女狩りも進行度的によろしくないのよね。

仮に教えてくれなくても、少しは抵抗してくれないかな?

これ一応実験中なんだけど」

「何度聞いても同じだ。わたしは知らないし、一思いに殺してくれても構わない。

抵抗するのがお前の望み通りになるのであれば、わたしは抵抗もしない」

「つまらないねぇ」

研究員は躊躇なく魔法少女の頭を一発撃ち抜いた。

撃たれた魔法少女は糸が切れた人形のように力なく横たわり、ソウルジェムに穢れが溜まっていった。

研究員が魔法少女のソウルジェムを回収するために魔法少女の手首へ手を伸ばした。

するといきなりソウルジェムからアンカーが飛び出してきた。

ソウルジェムから伸びる鎖に繋がったアンカーは研究員の腕輪が光った後に出た赤紫色の結界を破壊し、そのまま真っ白な実験部屋の壁へ研究員を叩きつけた。

研究員の腹部はえぐられ、周囲には血が飛び散っていた。

アンカーを持った魔法少女はソウルジェムを濁らせながら糸で操られた人形のように壁を破壊し出した。

実験部屋の外では研究責任者が殺されたと慌てふためく研究員達がいた。

そんな中、実験部屋で暴れる魔法少女を見ても、殺された研究責任者を見ても落ち着いて様子を観察していたもう1人の研究員がいた。

「毎度のように慌てるんじゃありません。わたしが対処するのでみなさんはデータ整理をお願いします」

「わ、わかりましたカルラさん」

カルラと呼ばれる研究員は実験部屋の扉へパスワードを入力して扉を開いた。

カルラはすぐに砲身が細長い銃をアンカーを持つ魔法少女へ撃ち込んだ。

物理的な弾ではなく、レーザーのような単発銃はアンカーを持つ魔法少女へ弾を秒間1発の間隔で命中させた。

銃撃を受けたアンカーを持つ魔法少女は再び動かなくなった。

カルラは針が4本内側についた球体を取り出し、アンカーを持つ魔法少女のソウルジェムを球体の中に入れて閉じた

4本の針はソウルジェムへピッタリとくっつき、微弱な電波のようなものを発していた。

ソウルジェムが球体に入れられた後、アンカーを持つ魔法少女は完全に動かなくなった。

「実験中断。研究員各位はクローン体を介した遠隔操作、痛覚麻痺弾薬、及びシールド技術の実験データの整理と解析を行ってください。

ソウルジェム隔離実験はディアの代わりにわたしが引き受けます。

掃除班への連絡も忘れないように。

以上。各位次のステップへ移ってください」

指示を出し終えたカルラは実験室を出てある部屋へと向かった。

部屋へと向かう道中、カルラはそこらへんで売っていそうなタバコに火をつけて少しだけ気分を落ち着かせた。

カルラが向かった部屋にはガラスケースのような蓋がついたベッドに横たわる実験室で死んだはずの研究責任者が眠っていた。

カルラはベッドの装置へパスワードを入力するとガラスケースが上方向に開き、内部の冷気が周りに溢れた。

中にいた研究責任者は少ししてから目を開いてむくりと起き上がった。

「視覚的観測だが、魔法少女が魔力を放出してからシールドが発動するまでにラグがあった。

シールドの強度以前に発動が遅れてシールドが発生し切る前に殺されていた。

とはいえ、クローン体も労ったらどうだ、ディア」

「何をいってるのさカルラ。クローンを遠隔操作できただけで十分な実績じゃないの。死んだ時の感覚は若干残ってるけど、まあ想定よりも痛くなかったし」

「相変わらず倫理観皆無な考えで安心したよ。そのクレイジーはあまり周りに醸し出すんじゃないよ、クローン体だって知っていても慣れない研究員は大勢いる。
それに、私個人としてはディアは死んでも大丈夫な存在だとあまり思われてほしくない」

「なんと言われようとわたしは変わらないよ。
さて、私はイザベラに会ってくるよ」

「なんだ?殴られにでも行くのか」

「んなわけあるか!」

ディアが部屋を出て行った後、私は部屋を見渡した。

ここにくる前からディアはクローン技術について優秀ではあったが、行き過ぎたクローン技術は恐ろしさしか感じない」

ディアが寝ていた部屋の壁には培養槽が敷き詰められていた。

培養槽には成長しきったディアのクローンからまだ胚のクローンの姿があった。18個あるうちの17体が生体となっていて目を閉じて水の中であるにもかかわらず呼吸している。

「ほんと、おぞましいものだ」

カルラはポケットにしまっていたソウルジェムを閉じ込めた球体に異常がないか確認した後、クローン部屋を後にした。

 

back:2-1-2

レコードを撒き戻す:top page

Next:

 

【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-1-2 さあ、これがあなたたちがフィクションだと嘲笑ったものですよ

神浜にて魔法少女が魔女のような姿になって街の人間を全て殺戮するという事件が起きた。

この出来事は日本からSNSにて世界に発信された。

世界では何が起きたのか分からずに面白がる人間しか出なかったが、これを機会に動き出そうとしている組織がいた。

神浜での異変が起きるまでに魔法少女について様々な報告を国連へ密かに行っていた組織の名前はサピエンス。

サピエンスは魔法少女を人間が管理し、その力を人間の未来に役立てるという名目のもとで動いている組織である。

そんなサピエンスの中心人物であるイザベラは国連の秘密部屋で国のトップたちを集めてある提案を行っていた。

「レディ、君たちには今までに起きた不可解な事件のレポートをもらっているが、こんな非科学的な事に付き合わせる我々の身にもなってくれないか

「あら?日本の神浜市という場所で起きた異変について世界中で騒がれているにもかかわらず、ロシアのお偉い様はあれもフィクションだと思っているのですか」

魔法などというアニメや漫画でしか存在しないものを現実に持ち出されてもねぇ。神浜という場所で起きた事件は、里見という人物が密かに行っていた実験が原因だとも噂されている。
神浜にあった実験室が原因で起きたバイオハザードが原因だと言った方が民衆は納得いく」

「では、我々の兵士たちが命懸けで持ち帰った現場の映像を見ても、神浜にて起きた異変がフィクションだと言えるでしょうか」

イザベラはモニターの電源を入れて用意していた映像を再生した。

その内容は、異変が起きている最中に生存者を保護するために立ち入った兵士が残した映像だった。

映像は激しく揺れながらも、人のような人物から出ている大きな化け物が人々を喰らっている様子が映っていた。

中にはアニメのような魔法によって燃やされる兵士もいて、撃った銃弾は化け物を傷つけてもあまり効果がない様子が目にとれた。

しかし。

「よくできたCG映像ですが、これのどこがノンフィクションだと?」

イザベラはため息をついた後、集まっている5ケ国の代表者たちの顔色を伺いました。

米国大統領以外、イザベラの目を見るものはいませんでした。

「そうですか。

まあ、聞くより見る方が早いとも言いますし、実際に体験してもらいましょうか」

そうイザベラが言うと、イザベラはポケットから穢れが満ちそうなグリーフシードを取り出します。

「なんだねそれは」

「これはグリーフシードという、先ほど映像で見てもらった化け物が生まれる卵です」

「そんなものがあるはずが」

イザベラはロシア代表の声を聞くことなくグリーフシードを卓に力強く突き刺した。

その途端に、周囲には魔女空間が広がっていき、5カ国の代表者もそこに巻き込まれます。

「何が起きているの?」

「それに、何か動くものがいないか?」

それは勿論、魔女の使い魔です。

「イザベラ!危険な場所に連れてくるとはどういう気だ!」

「安心してくださいジェームズさん、彼らが認識してくれればすぐ対処しますよ」

「何かあってからじゃ遅いんだよ!」

「まあまあ、誰も死なせる気はありませんよ。四股が十分に残っているかは別ですが」

そう言ってイザベラは困惑している4カ国の代表者たちに話しかけます。

「さあ、これがあなたたちがフィクションだと嘲笑ったものですよ。フィクションだとしたら、なんの害もないはずですよね?」

「何を企んでいるんだレディ!早く私たちを解放しろ!これ以上の愚弄は国際会議に」

そう言いかけた中華民国の代表者の目の前には小さなタコのような生物が現れます。
その生物は可愛い目を中華民国の代表者へ向けて口を大きく開き、中華民国の代表者の親指を食べてしまったのです。

周囲には叫び声が響きわたります。

「おかしいですね?フィクションなら怪我をするはずがないのに。

これがフィクションではなく、ノンフィクションだとお気づきになりましたか?

もし理解してくれたのであれば、私に泣いて懇願してください。助けてあげますから」

「なんて奴だ」

「どうやら私たちの認識が甘かったようですね」

「ふざけた真似を!私は認めないぞ、こんなこと!」

「キアラ、彼らに銃を渡してあげて」

私はバッグに入っていた4つの拳銃を4カ国の代表者へ地面を滑らすように渡した。

「状況を理解して私側につくという方は銃を取らずに私の方へ、私をこの行いを機に死刑にしたいと思っている方はその拳銃を握って自力で脱出してください」

フランス、英国、米国の代表者はイザベラの方へ向かい、中華民国とロシアの代表者は拳銃を手に取ります。

「ふん、お前たちの力がなくたって」

2人の代表者は使い魔へ向かって発砲しながら出口を探し始めます。
しかし銃弾では使い魔を怯ませることしかできていませんでした。

我々が普段使用している薬莢に火薬を含んだだけの弾丸では化物へ有効打を与えることができません」

イザベラの方へ向かってきた使い魔たちへ私はバッグの中にあるm16a1を出して使い魔たちに弾丸を放ちます。

その銃弾を受けた使い魔達は生き絶えて消えていきました。

「でも、我々サピエンスは化け物に対する特攻兵器の開発に成功しています

私はイザベラへ銃とカートリッジを渡し、リュックを背負った後に対魔女用の剣を抜刀します。

「さて、わからずや達を助けてさっさと脱出しましょう」

3カ国の代表者はイザベラへついていくしかありませんでした。

自分で抵抗しようとしていた2カ国の代表者は弾薬が切れて、使い魔から逃げるという手段しか取れていませんでした。所々かじられて血が出てもいます。

使い魔達は群がって2人の代表者を捕食しようとしていたところ、イザベラの銃弾が使い魔達を貫きます。

「な、なぜ奴らに攻撃が効いている?!」

「サピエンスが開発した対化物兵器ですよ」

私は近づいてくる使い魔を剣で斬りつけながら代表者達を守っていました。
イザベラは、最初は付いてこなかった代表者二人に手を伸ばします。

「さあ立ってください。さっさとここから出ますよ」

座り込んでいた2人の代表者は渋々イザベラの手を取って立ち上がります。

イザベラ達はセンサーを元に魔女へと続く扉を探していき、2階層ほど進んだ先で雰囲気が変わりました。

そこにいたのはマンタのような姿をした魔女でした。

「レディ、あれを倒せばここから出ることができるのですか?」

「そうですよ。まあ私たちに任せておいてください。
キアラ、彼らの護衛はよろしく」

「了解」

イザベラは魔女の方へ走っていき、魔女の周りを走りながら閃光弾を撃つための銃へ特殊な弾丸を込めて魔女へ向かって放っていきました。

特殊な弾丸は魔女へ当たる前に爆発して、周囲には赤紫色の粉が撒き散らされます。

イザベラは手に持った銃で使い魔を追い払いながら合計4発の特殊な弾を放っていました。

4発撃ち終わった頃には魔女の動きが鈍くなって、使い魔ともに地面へ降りた状態となっていました。

「化物の動きが鈍くなっている?」

「あれはアンチマギアという成分を周囲へ振り撒いた結果です。サピエンスが発見した対化物兵器の一つで、化物の動きを鈍らせることができます」

そう話しながら私は剣で元気な使い魔達の相手をしていました。

「では、その剣も?」

「ええ。アンチマギアが練り込まれた金属で鍛えられた剣です。イザベラがあれを倒すまで、私が必ずあなた達をお守りします」

イザベラの方はというと、魔女へ銃弾を浴びせながら致命傷となる場所を探していました。

粉を浴びた使い魔はついに動かなくなったものの、魔女はマンタの目となる場所から伸びた触手へエネルギーを溜めてイザベラへビームを放ちます。

イザベラは素早くかわし、魔女の背後まで円を描くように走り抜けました。

イザベラがビームを放った触手へ銃弾を当てると魔女は苦しみ出します。

「なるほどね」

イザベラはカートリッジを入れ替えて魔女の腹部分で無数に垂れている触手へ銃弾を浴びせました。

「your only place is hell!(お前の居場所は地獄だけだ)」

触手が破裂するほど魔女は苦しんでいき、全ての触手が破裂した頃には魔女が粒子となって消えていき、魔女空間は空間を歪ませながら消えていきました。

私たちが戻ってきたのは、机が真っ二つに割れた状態の今までいた会議室でした。

「キアラ、応急処置を」

私がバッグを下ろして2人の代表者へ応急処置を行う時間は、各代表者達の思考を整理する時間でもありました。

応急処置が終わった頃にイザベラが話し出します。

「今みなさんに体験してもらったのは、私が資料で報告していた化物がノンフィクションだという事実、そして対抗手段はサピエンスしか持っていないというもう一つの事実です。

ここまで見聞きしたことを踏まえて、まだ我々が虚言や戯言を言っていると思う方はいますか?」

5人の代表者は皆揃って首を横に振りました。

「ではやっと本題です」

イザベラはバッグ内に潜めていた小さなアタッシュケースを開くと、そこには小さな試験管に赤紫色の液体が入ったもの4本と分厚い4冊の書類が入っていました。

「ここには化物へ有効打を与える成分「アンチマギア」のサンプルとアンチマギアについての説明、加工方法を記した資料があります。

これらを無償で提供します」

「でもそれは、あくまでサンプル。量産のためにはそのサンプルを、もしくはその原料を手に入れる必要があるかと思いますが」

「そこで取引です。実は量産のための培養槽を既に用意していて、培養方法はお渡しする資料へ記載してあります。

培養槽とある程度の素材をお渡しするのは、我々が兼ねてから計画している「魔法少女狩り」の全国実施許可と民衆への魔法少女予防薬の摂取義務化の議決を可決させることが条件です」

「それで常任理事国である我々を呼んだわけか。それで、そのアンチマギアとやらはビジネスになる話なのか?」

「それは勿論。魔法少女狩りの実施が可能となったら、我々はアンチマギアが含まれた武器を常任理事国ではない各国へ一式をおよそ50万ドルで提供しようと思っています」

「少々良心的ではありますな」

「各国に渡ってほしいという考えも少しはありますから。

その基準価値を参考に、各国は素材量、培養槽増産や研究費といったものを見積もって経済を動かしてもらえればと。

それに、少し大ごとになれば武器生産も回りますから」

「それもそうだな」

「魔法少女は先程の化物と違って知恵があります。
早めに議決に向けた動きをとっていただければ、魔法少女狩りに向けた準備期間もふんだんにとれるでしょう」

「して、君たちの行いたい魔法少女狩りと予防薬摂取にはなんの狙いが?」

「魔法少女は将来、あの化物となります。

今のうちに化物となる前の魔法少女を全員確保し、化物となった際の被害を最小限にするため。

そして、そんな魔法少女になる前に、魔法少女にさせない対策を行うことでこれ以上の化物の発生を防ぐという狙いがあります

それに、人類史をなかったことにされる可能性も減らせます」

「では、そのアンチマギアという物質のビジネス効果は一時的だな」

「案外長引いてしまうかもしれないですよ。

世界からテロリストを完全殲滅できないくらいくらいにね」

この後、中華民国とロシアの代表者が傷を負って会議室から出てきたことが国連内で少し騒動になったが、2カ国の代表者が騒ぎ立てないでほしいと説明したことで表沙汰になることはなかった。

こうして魔法少女狩り、魔法少女予防薬摂取の義務化という話は裏で各国へ糸が引かれていき、2ヶ月後に行われる米国大統領の演説が行われるとともに議会に提案、そのまま議決までのシナリオが決定した。

この2ヶ月の間に4カ国へアンチマギアの培養槽が提供され、専用の兵器ラインの開拓と戦車や戦艦といった大型兵器の転用実験が裏で行われるようになった。

これが世界が変わる引き金となる、魔法少女狩りがおこなわれるまでに起きていた裏の出来事である。

 

back:2-1-1

レコードを撒き戻す:top page

Next:

 

【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-1-1 もうおしまいだ、何もかも

人類史って、どんな道のりであったかご存知だろうか?

人類が知恵を持ち、組織で活動するようになってから同種同士の争いは今に至るまで終幕を迎えない。

そんな歴史の中で滅びもせず、種の存続が絶えず行えているのは争うのはいつも一部の人間だけだからだ。

争う理由はいくらでもあろう。

そんな争いも時代が進むごとに殺傷速度も、範囲も拡大していき、今となっては地球規模の破壊を行える兵器まで存在している。

それが抑止力となることで大規模な戦争は起きていない。

しかしそれはただの口上でしかなく、やろうと思えば指先一つで地球は滅びる。

 

これは人類の進化した結果として正解なのだろうか?

 

間違いであるならば修正するしかない。

たとえ歴史を覆す力が、魔法少女という化け物由来の力であったとしても。

 

ヨーロッパ 某所

 

「集団の魔力反応を確認。3日前に武器庫を襲撃した魔法少女たちだと考えられます」

「大人しく管理下に入ればよかったものを。何が彼女たちを反抗させるのやら」

「アンチマギア、準備が完了しました」

「よし、鎮圧マニュアルを実行しろ。いいか、できるだけ殺すんじゃないぞ」

森林の廃墟を取り囲むように軍人たちが侵攻を開始する。

その手には特殊な銃と特殊な粉末が含まれたRPGがある。

歩くたびに出てしまう草を踏んだ音、枝を擦る音を魔法少女たちが聞き逃すはずもなく、一瞬のうちに周囲の音が消えてしまった。

消えた音は空気の振動による音だけでなく、電波を伝ってくる音と呼べるもの全てがその場から失ってしまった

異常事態にもかかわらず軍人たちは慌てることなくハンドサインでこの後の行動を共有していく。

1人のRPGを持った軍人が廃墟の上空目掛けてRPGの引き金を引く。

音が無いまま上空で爆散した弾頭は周囲に特殊な粉を撒き散らす。

すると、消えていたはずの音が元に戻った。

”なにgaza tあの、みんp、裏!-て!“

「ノイズがひどい。だが奴らは裏口から逃げるつもりだ。S班、洞窟を張れ」

現地にいる部隊長の指示に従ってS班は獣道が残る洞窟の前で待機した

「N班、E班は引き続き鎮圧マニュアルに従って進軍せよ。N班は作った穴の監視も怠るな」

廃墟を取り囲む軍人たちは廃墟へ取り付き、内部にいる魔法少女の捕獲を開始する。

内部にいた1人の魔法少女は侵入してきた軍人へ小さな錨のアンカーを投げつけてきて軍人は脇腹を貫かれた。

「ここから先は通すものか!」

軍人たちは魔法少女へ銃口を向け、部隊長は魔法少女の前に出た。

「武器を下ろせ、下手な行動を起こせば後の扱いが酷くなるだけだ」

「ふん、あたしたちにとっちゃ保護された時点で死ぬと一緒なのさ」

部隊長がアンカーを持つ魔法少女へ一歩近づく。

「もう一度言おう。武器をおろして降伏しろ」

「…断る」

「そうか、残念だ」

部隊長は建物の中へグレネードを投げ入れた。

内部に残っていた魔法少女たちはグレネードを目にして建物の奥へと逃げ始める。

グレネードが破裂すると破片と共にRPGにも含まれていた謎の粉塵が周囲に拡散された。

粉塵に触れた魔法少女は皆動きが鈍くなり、アンカーを持っていた魔法少女も立っているのがやっとの状態だった。

「なんだこれ、意識が遠く」

軍人たちは内部へ一気に突入し、動きが鈍くなった魔法少女たちのソウルジェムへ銃を押し付けていく。

「まさかアンチマギアか!
なぜだ、武器倉庫は破壊したはず」

そして部隊長がアンカーを持つ魔法少女のソウルジェムへ銃を押し付けながら話し始めた。

我々がサピエンスから与えられた、人ならざる君達へ対抗するために用意してくれたものの一部さ。君たちも知らない一部だよ」

「サピエンス…そうか、あいつが言っていた人間を敵たらしめる存在か」

「裏口から逃げようとした魔法少女、素質のある少女たちを裏口で捉えた。
悪いが仲間揃って身柄を拘束させてもらう。あとは君の言うアイツについて詳しく聞かせてもらおう」

アンカーを持つ魔法少女は驚いた顔をした後、部隊長の足を掴んだ。

「お願いだ、裏口から逃げようとしたやつの中に、グリーフシードが必要な奴がいるんだ。
そいつだけは、見逃してくれないか」

「身の程をわきまえろ。警告を無視したんだ、要求には答えられない」

アンカーを持つ魔法少女は部隊長の足を離し、何も話さずにうなだれていた。

部隊長は状況確認のために各部隊へ連絡を取っていると周囲が禍々しい空間へと変わっていった。

「隊長!S班から拘束した魔法少女が魔女になったという報告が」

「各位、鎮圧マニュアルから対魔女マニュアルに変更。
S班、E班は魔女討伐を実施せよ。N班は私とここで待機だ。
なお、くれぐれも逃亡者が出ないよう見張りも並行して実施すること」

指示を出した部隊長はその場で銃のカートリッジを変更した。

「無駄なことを。人間が魔女に敵うわけがないだろう」

「少し前までではな。人間を甘く見るんじゃない」

そう言った後、部隊長はカートリッジを変え終わった拳銃を一発発砲し、目の前に現れた使い魔を倒してしまった。

「普通の銃弾が使い魔を」

「我々にはすでに争う力がある。お前たち魔法少女に頼らずとも、戦う力がな」

話をしているうちに、禍々しい結界は消えて周囲は元の廃墟へと風景が戻った。

「現状報告。
…あー。わかった。全員を拠点へ搬送しろ」

無線を切って部隊長はアンカーを持つ魔法少女を抱え上げた。

「こちら実行部隊、これから本部へターゲットを搬送する。受け入れ準備を頼む」

「もうおしまいだ、何もかも。
すまないなカレン、あんたの目指す世界に、私は入れそうになさそうだ」

ヨーロッパのかつては中立国を主張していた国だが、今は対魔法少女用の拠点が構えられている。

これは国連が魔法少女は人類の敵であると宣言したためである。

その拠点へターゲットである魔法少女を捕獲したという情報が入った。

「レディ、例の武器倉庫襲撃犯たちを捕らえたとのことです」

「そう、輸送を完了させるまで気を緩ませないでね」

「了解」

携帯での会話が終わったところを見計らい、一緒に歩いているボディーガードの少女がレディと呼ばれている少女へ話しかけた。

「武器庫破壊がわかったから彼女たちの存在に気づけたものの、知らぬ間にかなりの損害が出ていたようね」

「ヨーロッパ地域とアフリカ地域、さらにはロシア領の半分に及ぶ地域に存在した裏組織の対魔法少女兵器が跡形もなく破壊されていた。

そして、武器庫破壊時点で戦車や戦闘機といった大型兵器への転用実験がデータごと吹き飛んだ。

秘密裏に破壊工作や情報収集を行っていたにしても手際が良すぎる」

「魔法少女にも頭がキレる奴がいるってことよ。そう考えると随分と呆気なく終わったなぁ。ちょっと期待はずれ」

2人の少女は建物内へ入り、エレベーターを使って3階の司令室へと移動していた。

そして、エレベーターの中で会話を続けた。

「残ってるのが軍艦への搭載実験だけど、作戦にすぐ使えそうなのは1隻だけなのよね」

「相手は魔法少女。海上からの援護砲撃ができれば十分じゃないの?」

「キアラ、魔法少女にも船乗りがいるかもしれないじゃない。
予備がないっていうのは怖いことよ」

「しばらくは白兵戦しかできないのね」

エレベーターの扉が開き、司令室ですれ違った兵士たちはほとんどがイザベラへ敬礼を行っていた。

敬礼を行わなかった兵士は、近くにいた友人の兵士へ話しかけた。

「あの人たち誰だ?」

「サピエンス責任者のイザベラ様とそのパートナーのキアラ様だぞ。お前こんなことも知らなかったのか」

「俺はアンチマギアとは無縁の部隊だからね。あの二人とサピエンスってそんなにすごいのか?」

「サピエンスは魔法少女と魔女へ特攻を持った成分であるアンチマギアを生み出した、魔法少女を狩るスペシャリストが集まる組織だ。

イザベラ様とキアラ様はその中でもトップクラスに魔法少女と魔女を狩ってきた数が多い方たちだ。もちろん、俺達一般兵が束になって挑んでもかなわないさ」

「ふーん、今の世界情勢だからこそ敬われてるってわけか」

「言葉を慎んどけ。聞かれたら殺されるぞ」

 

イザベラは指令室へ入ると周囲の兵士へ敬礼を返し、ヨーロッパ地域の司令官へ話しかけた。

「提供した武器で事足りたかしら?」

「レディ、武器の供給は感謝する。しかし前回のような大掛かりな実験は魔法少女の標的になると考えるとリスクしかない」

「あら?そんなことを言うならロシアか中華民国へ実験場を移すけどいいのかしら」

「我々が求めているのは人類の安全だ。
レディたちのように魔法少女キラーとして名をあげることに連合のトップたちは賛同していないのだ」

実験場として使っても良いと真っ先に名乗りをあげたのはあなたたちじゃないの。何を今更」

司令官は返事をすることはなかった。

「まあいいわ。国連の宣言に従える最低限のものは提供したから、あとは好きにしなさい」

イザベラは司令室を出ようとしたら足を止めて司令官へ向き直った

「そうそう、もし魔法少女の取り締まりを怠ってヨーロッパが魔法少女の巣窟になりでもしたら、その時はヨーロッパが赤く燃えてしまうということはお忘れなく」

「わかっているさ」

イザベラとキアラが司令室から出ていくのを確認したあと、司令官は愚痴をこぼした。

「少女たちを拘束、殺害する狂った方針をなぜ国連が宣言してしまったんだ。
私は、あの演説を見聞きした後でも理解に苦しむよ」

「魔法少女は願いによって人類史を捻じ曲げてきたとありましたが、それが事実だとするとそこまで必死になるのも致し方ないのでは」

「だから芽が出る前に掘りつくし、出た花は手折るというのか。
監視だけでいいのではないか」

「しかし、今回のように明確に人類へ反抗する者達もいます。
躊躇していたらこちらがやられますよ。
司令官殿には、娘さんがいるのは知っていますが今は耐えるときですよ」

「ふぅ、そうだな。この躊躇は娘が魔法少女だったから、かもしれんな」

 

イザベラとキアラは司令部近くに停められているごく一般的な乗用車のもとへと向かった。

4人乗りの乗用車には1人の運転手が待機していて、2人の姿を見ると車のエンジンを起動した。

イザベラとキアラは後部座席に座り、ドアが閉められたのを確認すると運転手は何も言わずにアクセルを踏んで車は前進を始めた。

「はぁ、司令部で話し込むと思って遅めの飛行機を予約したのにこれじゃあ結構時間が余っちゃうわね」

「それなら折角だ。この国の日常が変わったか見てまわるのも良いんじゃないか?」

アポなしで行けるところなんて広場くらいしか思いつかないんだけど」

「広場で何の問題がある?
どんな身分の人でも立ち寄れる場所が一番欲しい情報を得られると思うが」

「ま、別にいいわ。運転手さん、シャンドマルス公園へ向かって頂戴」

「はいわかりました」

車内から街並みを眺めているけど特に何か変わったこともないいつも通りの日常が広がっていた。

時間帯で言えばお昼過ぎ。

広場には親子連れの姿がたくさんあった。

イザベラとキアラは車を降りて広場から見えるエッフェル塔を見ていた。

あれだけの発表があったのに世の中ってそれほど変わらないものなのね」

「そういうものさ。人って簡単には変われないっていうじゃない?

「魔法少女に対する認識が変わっていればいいのさ、私はね」

そう話していると、広場で遊んでいた男の子がキアラにぶつかってきた。

男の子はぶつかった後尻餅をついてしまい、手に持っていた飛行機の模型は男の子の体重によって壊れてしまった。

「ルイくん大丈夫?」

「ちょっと、よその人に迷惑かけちゃダメでしょ」

男の子が走ってきた方向からは女の子と母親と思われる人物が近づいてきた。

男の子は壊れた模型を見ると泣き出してしまった。

そんな男の子を見てキアラは男の子の前に正座をして男の子の頭を撫でた。

「男子たるもの、すぐに泣き出したらカッコ悪いぞ。
それ、大切なもの?」

男の子はキアラの顔を見て「うん」とうなづいた。

「それじゃあお姉さんに任せてもらえるかな?すぐに直してあげる」

「…本当?」

そんなキアラを見てイザベラが母親と思われる女性に話しかけた。

「いいですかね、彼女が治しても」

「え、ええ」

イザベラ達はベンチのある場所へ移動し、キアラは男の子と女の子が両サイドで見守っている中でバッグから包帯に割り箸、サジカルテープと化粧セットを取り出した。

割り箸は適度な長さで割り、包帯と合わせて折れた翼を補強した。

サジカルテープでは包帯の端を止めるだけではなく、細々とした部品の接着、割り箸のささくれ立った部分を覆うのに使われた。

補強が完了すると、化粧セットを開いてキアラはブラシを男の子に渡した。

「好きな色に塗ってあげて」

男の子は塗り絵をするように包帯やテープの白い部分へ色をつけていった。

そんな様子を見ていたイザベラは女の子の首元へバーコードが付いているのを目にした。

「奥さん、あの2人は奥さんのお子様?」

「そうよ。すみませんね、勝手にぶつかったのにここまでしていただいて」

「いえいえ。それよりもお嬢さんの首元にあるバーコードはいったい?」

「あれですか。最近国連から発表された魔法少女検査を受けた痕です。

バーコードリーダーのようなものを首元に当てて検査を行ったのですが、魔法少女の資格有りと判断されてそのまま注射のようなものも刺されていましたね」

「すげー!前よりかっこよくなった!」

「君がデザインしたんだから当然じゃないか」

「お姉さんすごーい!」

「お姉さん、むこうで一緒に遊ぼう!」

「いいよ。広げた道具を片付けてからね」

キアラはおもちゃを治してすっかり子どもたちに懐かれてしまったようだ。

「あらあら」

「あの子、魔法少女の資格があったんですね」

「私も驚きました。普通に育てたはずのあの子が、まさか魔法少女になれる可能性があったなんて。
でも、予防注射を受けると魔法少女にはなれなくなると伺いました」

「奥さんとしてはどう感じました?」

あのアメリカ大統領の演説時の画像にあった化け物にならなくて良かったと考えると、検査に行ってよかったと思っています」

「そうですか」

イザベラは遊んでいる子どもたちの方へと向かい、女の子へ話しかけた。

「お嬢ちゃん、最近検査を受けたみたいだね。首元のやつ、痛くなかった?」

「最初は怖かったけど、少しチクってした後は何もなかったよ。それに泣かなかった!」

「そうか、強いね。お嬢ちゃん」

「ぼ、ぼくだって強いんだから!」

「模型壊した時に泣いてたじゃない」

「う、うるさい!」

「こら、喧嘩しちゃダメだぞ」

子どもたちの世話はキアラに任せてイザベラは母親と再び会話を始めた。

「検査を受けにきていた人は多かったですか?」

「多かったですよ。なにせ必ず受診してくださいって言われていますからね。
ご近所の方たちも検査に行っていましたね」

「多くの人が、国連からの発表の影響を受けているんですね」

「世の中もっと物騒になった気がします。こうして安全に外で遊べているのは、国連の兵士さんたちが脅威を排除してくれたからなんです」

「おや、発表があっても何気ない日常を送っていたのかとつい思ってしまいましたが」

「いえいえ、危ないので外になんて出る人はいませんでしたよ。でも国連の兵士さんたちが外を見回って脅威を排除してくれたんです。
こうしてたくさんの人が外にいるのは、そういった経緯があったからなんです」

「そうでしたか」

アメリカ同様、あの演説が行われた後はどの国も外出禁止になっていたようだ。

そして、国連の兵士というのはおそらく。

「あなたたちは海外から?」

「はい、父親の仕事にくっついてきてちょっとした旅行気分でいました。
アメリカから来たんですが、実は今日帰国するんです」

「そうでしたか。飛行機の時間、大丈夫ですか?」

時計を見たら1時間半ほど前だった。

「1時間半前か…」

「なんだって?!
ごめん君たち。お姉さんは飛行機に乗って帰らないといけないんだ。ここら辺で失礼するよ」

キアラは急いで私の腕を掴み、奥さんたちへ一言挨拶した後車へと急いだ。

「なんで早く伝えなかったんだ!」

「子どもたちと楽しそうにしていたからさ、45分前までいいかなって」

「入場受付に時間かかるの忘れてない?!これだからファーストクラスに慣れたお嬢様は!」

「そこまで言わなくてもいいでしょ」

私たちは急いで車に乗り、そのまま空港へ向かって無事に飛行機へ乗ることができた。

私は車の中で、キアラにこう伝えた。

「あんた、将来いい母親になるよ」

「おちょくってるのかイザベラは」

アメリカ以外の街並みに触れて分かったが、どの国も最初は慎重に動くようになっていつもの日常なんてなかった。

そんな中、表では脅威排除と呼んでいる「魔女狩り」が行われたおかげで今回のような、なんの変哲もない日常が訪れたのだと思うと迅速な魔女狩り実施は成功だったのだろう。

残念なことは、野良魔法少女は大方捕らえられたものの、組織的な魔法少女のリーダー格を捉えられていないこと。

例の神浜の守りも強固だし、人類の平和が訪れるのはまだ先になりそうだ。

 

 

レコードを撒き戻す:top page

Next:2-1-2