今日の夕方に魔女にならないシステムを世界中に広げられる魔法少女たちのアジトへ攻め入る戦いが行われる。
もちろん世界へ広げるという行為を妨害するわけではなく、その実施方法に問題があるからその方法を見直させるために捕らえる。
人を犠牲にしてまで私は、私達は生き延びたいとは思わない。
でも集まってくれている一族のメンバーの中には神浜マギアユニオンへ協力して彼女たちを止めるという行為自体に疑問を持つ子たちもいる。
だからわたしは魔法少女会議から戻ってきた後、みんなに今日のことを話し、一緒に来てくれる少人数だけで神浜マギアユニオンへ協力することにした。
魔法少女会議に参加してから気になっているのは、ピリカさんが彼女たちのメンバーだったということ。
あの時見た傷痕と、売られた経験があるという話。そして人へ呪いを押し付けるという彼女たちの考え方。
最近までの巫も売られていたというのは事実。
でも人を憎むほどの感情を抱いたことはない。
いったいどこで意識の違いが出てしまったのだろう。まずはそこを分からなければ彼女たちも考えを改めてくれない。
私は売られるという気持ちを経験してしまったちゃるに心情を聞いてみた。
「それってピリカさんが言っていたっていう話に関係するやつ?
うーん、私の願いが無理やりかなえさせられたってところは神子柴を許せないってなるけど、だからと言って人が嫌いになるってことはないかな。
人の悪意を感じたときは気分が悪くなっちゃうけど、みんながみんなってわけじゃないからさ。
悪を討って普通に暮らせてる人を助ける。そんなヒーローになれてる現状に私は満足しているよ」
ちゃるは隠し事をできないことを知っているから、あそこまではっきり喋ってくれたってことは全然後悔をしていないみたい。
じゃあ、売られたという境遇の中でピリカさんと何が違うのだろう。
そう考えていると外が慌ただしくなっていることに気づき、私のところへ涼子さんが走ってきた。
「おい!ピリカってやつが寺の門にいるからきてくれ!静香さんを呼んでるんだ」
私はちゃる、すなおと一緒に外へ出るとみんなが魔法少女姿になったピリカさんを囲んでいた。
「ピリカさん、ここへ何しにきたんですか」
「最後の意思表示を確認しにきたんですよ」
「確認?」
「わたし達は明日、自動浄化システムを世界に広げます。明日が過ぎればあなた達が求めている魔女かしない世界になるのです。
その上で、周りから聞いた情報をもとに私たちを妨害するのかどうか。
その答えを聞きたいのです」
「でもそれは、人に呪いを押し付ける方法でなんだよね」
「はい」
妨害したいわけじゃない。
でも考えを改めさせるというこちらの考え自体が彼女達にとっては妨害行為に該当してしまうのだろう。
ならば、最後に確認するべきことはこれだけ。
「人へ呪いを押し付けるというのは仕方がないことですか、それともあなた達の故意ですか。
故意だというのであれば、私達は妨害せざるを得ません」
「問いへ問いで返してくるのですね。
呪いが生じるのは仕方がないことであり、押し付けるのは故意でもあります」
「そうですか。
みんな、ピリカさんを捕らえなさい!」
「「はい!」」
みんなが動き出すよりも早くピリカさんは地を蹴って瞬間移動したかのような早さでわたしの目の前にいました。
「ワッカ、障壁と化せ!」
ピリカさんがそう呟くとわたしを中心にして水の障壁が円形に形成されました。
そして近くにいたちゃるは回し蹴りで、すなおは巴投げで水壁の外へ追い出されてしまいました。
その後ピリカさんは何かを呟き、水壁には電気が走り、外には首長竜のような生き物が現れました。
外のみんなはその首長竜と障壁に邪魔されて中に入ってこれない状況となりました。
わたしも魔法少女姿となって剣を構えました。
「なるほど、変に強い魔力を感じると思ったらその剣が原因でしたか。
あなたが心を折らずに立っていられるのはその聖遺物のおかげかもしれませんね」
「聖遺物?なんのこと。これは時女の家で代々巫の力で鍛えられた剣よ」
「そうですか。
聖遺物とは魔法で生成されたもの、または物質へ魔法少女の魔力が込められて特殊な力が付与されたもののことです。
あなたの持っている時女の剣も十分聖遺物に該当します。
そうなればなおさらここであなたを無力化しておく必要がありますね」
「ねえ、どうしてあなた達はこうしてまで人を不幸にする方向を押し進めようとするの?
貴方達も人にひどいことをされたかもしれないけど、みんながそんなわけないでしょ。
罪なき人も見境なく不幸にしてしまうことは良くないことよ」
「その罪の基準は誰基準ですか、自身ですか、それともヒト基準ですか。ヒト基準の罪など人間社会を維持するための歪んだ思想でしかないです。
ヒトを信じているあなたも、それに染まっているのでしょう」
「ヒトの考え方そのものが良くないというの」
「人間社会は意識の違いによるすれ違い、権力者の支配力を高めるために洗脳に近い教育を幼い頃から行います。
神を信じなさい、国のために働きなさい、いやでも働け、女は男に尽くせ、お金がないと生きていけない。
これらの考えはなぜ常識と呼ばれるようになったのでしょう、これらの考えから離れるとなぜ悪者となるのでしょう」
「それがこの世を乱さない最適な考えだからよ」
「そうですか?お金を巡っていったいどれほどの不幸が発生してきたと思っているのですか。
通貨があれば物々交換よりもものの価値は分かりやすくなるでしょう。
しかしものの価値など人によって違う、それに通貨がなくてもお互いの利害が一致すればものの交換で済む。
お金という世を乱す物が最適な考えだと本当に思ってるのですか?」
「どうやら話しても無駄なようね。どう話されようとも、わたしの考えは変わらないわ」
「あなたも思考を停止してしまうのですか。
ならば、ここで無力化させてもらいます。
アペ、刃と化せ!」
ピリカさんは炎の剣を手に持って私に切り掛かってきました。
村での修行でしか人と戦ったことがない中で相手を無力化する方法に少し悩んでいた。
相手の攻撃を受け止めながら行き着いた答えは四股を動かない状態にすること。
斬り落すまで行かず、骨を折るくらいならば命を奪うこともなく無力化できるでしょう。
私は相手の斬撃を受け止めるようにし、隙をついて足を無力化することに専念した。
斬撃を飛ばしてきて所々火傷をしているうちに私はあることに気がついた。
剣を持つ手の損傷が激しい。魔力で痛みを和らげているけど、普通なら剣を握ることも出来ないくらいダメージを負っていると思う。
もしかして、相手の狙いは私が剣を離すこと?
だとしたら長期戦は不利にしかならない。
でも相手の攻撃を受け止めるのがやっとの状況でわたしのペースへ持っていくことができない。
水壁の外ではみんなが中に入ろうとしているみたいだけど首長竜に妨害されて進展がない様子。
私を抑えながら首長竜のような生き物も操るなんて、ピリカさんは何者なの?
もう水壁の外に出るしかないと考えて思い切って飛び込むと水壁に走る電撃によって体が痺れてそのまま水流で内側にはじき返されてしまった。
「無駄です。ここから出るのは私が果てるかあなたが折れた時だけです」
そう言いながらピリカさんは私の方へゆっくりと歩いてきました。
こんなところで私は折れるわけには行かない。
日の本の国を守れずに、仲間を守れずに倒れるわけには行かない!
私は痺れた体でありながらも無意識にお母様から教わった技を出すために体を動かしていた。
体を回して円を描くように斬りあげる。
そして目標目掛けて力を込めて振り下ろす。
この技を使用すると間違いなく相手の体の一部は吹き飛び、剣に纏った風圧によって斬り下ろした先も斬撃によって地がえぐられ、木々もなぎ倒す。
強敵の魔女以外には使ったことがない技を使用し、やってしまったと思いながらピリカさんの吹き飛んでしまった右腕を見ていた。
しかし、斬り落とされた右腕の根本から禍々しい色をした炎のようなものが溢れ、腕の形になったら手には剣が握られていた。
これは一瞬のうちに起こったことであり、私は思考が追いつかない間に仰向けになって倒れていた。
視界がぼやけていき、どんどん体が冷たくなっていく感じがした。水壁が消えるところまではわかったものの、そのあとは意識を保てず、気を失ってしまった。
ピリカさんが出した首長竜に妨害されて水壁の中に入れない状態の中、水壁が消えます。
そこには右腕が炎のような状態になっているピリカさんと上半身に大きな切り傷がつい手倒れている静香ちゃんがいました。
「静香ちゃん!」
私達は静香ちゃんのところへ駆け寄り、血溜まりになっていることも関係なくその場に膝をつきました。
「静香、しっかりしてください!癒して傷口を塞がないと」
みんなが静香ちゃんに夢中になっている中、ピリカさんは時女の集落で大事にされてきた剣を手に取り、それを光の球に変えて拳で握ると消えてしまいました。
「時女の剣は預かりました。すべてことが済んだらお返ししにきます」
そう言ってピリカさんが寺の門へ歩き出すと時女のみんながピリカさんを取り囲みました。
「待ちな、本家をここまで傷みつけられてただで返す気はない。元々あんた達を捕らえる話になっていたからね、おとなしく捕まってもらうよ」
涼子さんが門の前へ仁王立ちになり、そう話しました。
私とすなおちゃんは静香ちゃんのそばにいました。
「無駄に血を流すことになりますよ。ここで抑えようなんてことは堅実な考えとは思えませんね」
「だとしてもよ。覚悟しなさい!」
そう言ってみんながピリカさんに飛びかかるとピリカさんの足元からは知らぬ間にいなくなっていた首長竜が現れ、みんなは水圧で飛ばされていきました。
ピリカさんの右腕は炎のような形にはなっておらず元どおりとなっていて、手元には強い悪意を感じる禍々しいオーラを放つ刀を持っていました。
「カムイを超えられなかったあなた達が手を出せるとでも思いましたか。
事が終わるまで静香さんを見守っていればいいんですよ。
気づいた頃には、すべてが終わっているでしょうから」
吹き飛ばされた時女の子が諦めず襲い掛かろうとしていました。
私はとっさに声を出してしまいました。
「やめて!ピリカさんを行かせてあげて」
「何故ですか!彼女達を捕らえるのが元々の目的。1人しかいない中ならこの人数でかかれば」
「だからやめて、敵わないとわかっているのに命を無駄にするのは。静香ちゃんだって、みんなが命を落としてまで戦ったことを喜んでなんかくれないはずだよ!」
ほとんどの子は武器をおろしてくれましたが、涼子ちゃんと遠くで構えている旭ちゃんはまだ戦う気でいました。
旭ちゃんは私たちに背を向けているピリカさんに対して発砲してしまいました。
しかしピリカさんは銃弾を持っている刀で斬り落としてしまい、分断された弾丸は地面と寺の門をえぐりました。
「カンナ、貫いて!」
そう言ってピリカさんは左手に形成された雷を纏った槍を旭ちゃんが待機している場所へ投げました。
周囲には風圧が広がり、旭ちゃんがいたであろう場所は槍の着弾と同時にその地面をえぐりました。
[旭ちゃん!]
[生きては、いるであります。でも左半身は動かせない状態です。申し訳ないであります]
「あなたもあきらめないのですか」
涼子ちゃんは変わらず門の前に立ちはだかっていました。
「私は時女一族の一人としてではなく、私自身が許せないからどかねぇんだ。通りたきゃ力づくで通りな」
首長竜が姿を消した後、ピリカさんは涼子ちゃんへ斬りかかり、涼子ちゃんは負けじと警策で立ち向かいます。
最初は互角のように思えた戦いでしたが、涼子ちゃんはダルそうに膝をついてしまいました。
「何でだ、こんなに穢れるのが速いだなんて」
涼子ちゃんはピリカさんの回し蹴りに対応できず、半壊した門の壁に叩きつけられて動けなくなってしまいました。
「それでは失礼します」
そう言ってピリカさんは姿を消しました。
出会った時は魔法少女ということしか知らず、優しい人という印象でしたが、今日この一時で全く別の印象となってしまいました。
紗良シオリさんや日継カレンさんの話で2人は強いと聞いていましたが、私からしてみると、ピリカさんこそ最も戦ってはいけない相手だと確信しました。
あそこまでの激戦の中、ピリカさんのソウルジェムと思われる宝石は輝いていました。
立ち向かうことなんて、元々できっこなかったんだよ。
私はその場で1人で心が折れてしまった気がしました。
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