次元縁書ソラノメモリー 1-14 みんながみんな独特の発想を持っているとは限らないからね

干渉液を扱っているキエノラという人物は聞いたことがない人物。

ソラからここにくるよう伝えられただけで、実は下調べなんて行なっていない状態。調べる時間自体そんななかったし。

「芸術家にしては平凡な店構えね」

「みんながみんな独特の発想を持っているとは限らないからね」

「まあいいや、干渉液とやらをもらいに行こうよ」

ぼくは頷いて恐る恐る店の扉を開いた。

真ん中、右左と部屋を見渡してみると赤や緑で装飾された絨毯が敷いてあって、正面を向くと大きな暖炉の上にいくつか鉱石が置いてある。

床とかにも鉱石が置かれていて、右隣には植物と泡立つ緑色の液体が入った試験管が並べられていた

「あのー、キエノラさんいますか」

ブリンクが大きな声で尋ねて見ても、返事がなかった。

「留守かな」

そう思っていると二階から何かが転けた音がした。

それからせわしなく足音が一階まで迫ってきた。

「いやぁ悪いね、ちょっと二階で用事してたんだ。わたしの名前を読んだのは君たちかい」

「じゃあ、あなたが」

「そう、わたしがキエノラだよ。名前で呼ばれるのは慣れていないんだ」

キエノラ茶髪の細身な女性で、肌は黄色気味の肌色だけど、指先に近づくにつれて色が真っ白になっている。

「あの、二階ですごい音がしたんですけど大丈夫ですか」

「いやね、少し前に新発見に出会って二階でハッスルしていたんだよ。忘れないうちにメモらないとってね。まあ、なんともないよありがとね」

キエノラは先ほど目に止まった唯一植物がある場所の椅子に座ってこっちを見た。

「わたしを尋ねてきたということは、何か依頼があるのだろう」

「そうそう、私たち干渉液が欲しいのよ」

ブリンクがすごくフレンドリーに接している。初対面にもそんな対応するのか。

「干渉液を欲しがるとは、さては悪いことに使おうとしているな」

「い、いえ!違いますよ」

「んぁはは、大丈夫ちょっとしたコミュニケーションさ」

ニコニコしながら話していたから、冗談だろうなという感じはした。

「さて、干渉液についてなんだけど、実は先ほど見つけた新発見のために材料が多めに必要となってね。その材料の調達を手伝ってくれれば干渉液を渡すよ」

ぼくたちはキエノラから干渉液に必要な材料を教えてもらい、植物屋が集まる場所へ向かっていた。

干渉液に必要な材料は複数あるんだけど、今足りないのはドコサーという野草だ。そこら辺じゃ取引されていない植物だから、ゲミニカに店を構えているハッカという人物に話を聞けばいいよ。

「触れ物」からの依頼できたといえば素直に教えてくれるはずさ。

そうそう、ペシャンも持ってきてくれると嬉しいね

「なんかおしゃべりな人だね」

無音が苦手なのかってくらいキエノラは色々話しかけてきた。

彼女の能力を知らないからなんとも言えないけど、人によっては疲れる人かも知れない。

「きっと新発見とやらに興奮していたんじゃない?」

「なるほど、なら仕方がないね」

納得するんだ。さっきまでブリンクもそうだしそりゃそうか。

ハッカという人物のことについて聞いて回っていると、どうやら染料になる植物に詳しい人物らしい。色を組み合わせる能力を持っていて、植物でできた色というのは相手の気持ちを落ち着かせる力があるらしい。

ハッカの店はゲミニカの中心、ゲミ二カ統括城からすぐの場所にあった。ハルーで飛べば近かった。

ハッカを尋ね、「触れ物」の依頼できたと伝えると少し悪そうな顔をしながら話してきた。

「さてはあんたたち、キエノラがどんなやつか知らないでお使いをさせられてるね?」

確かに下調べなしできていたから本当の彼女をぼくは知らない。

「まああいつはおしゃべりだし、自分から話し出すでしょ。ただ、あんまりあいつのお気に入りになるんじゃないよ。何でもかんでも知られちゃうからね」

そう伝えられた後、ドコサーが生息している場所を教えてもらった。

ドコサーはゲミニカの北部にあるディモノスリンの奥深くだよ。

周囲が真っ暗になるくらい奥にあるんだけど、ドコサーを摘んだら必ず日光が当たらないようにしてね。

少しでも日光に当たるとしおれちゃって使い物にならないから注意だよ

ディモノスリンという場所があるのは知っていたけど、立ち入るのは今回が初めて。

何でも森の中はとても暗いらしく、手持ちライトでは手元が明るくなるだけというくらいだという。

そんな森の中には所々に光る苔やキノコ、花といった植物があるため、それらが唯一の目印らしい。

「ねえ、こういう森って絶対行方不明になるやつだと思うんだけど」

「行方不明にはなりたくないなぁ。ブリンク、離れないように手を繋いで、ひたすらまっすぐ進もう。それならまっすぐ戻れば間違いなく戻ってこれる」

「わかったけど、不安しかないな」

ぼくとブリンクは手を繋いで恐る恐る森の中へと入って行った。

明るめの手持ちライトは持ってきたけど、本当に手元しか光らなくて役に立たない。

まっすぐ進んでいるはずだけれども、時々木の根につまずきそうになったり木を避けたりとまっすぐ進めているか怪しくなってきた。

恐る恐る歩いていると周りに水色に輝く粒子が舞い始めた。

どこかの植物から噴出されたのだろうか。

そう考えているとブリンクの足取りが極端に重くなってきたのが伝わってきた。

「ブリンク、大丈夫?」

「なんか、意識が、遠く」

ブリンクの声を聞こうとしているとぼくの意識も遠くなっていくのを感じていた。

ぼくとブリンクはその場で気を失ってしまった。

 

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-13 生きることはあきらめないでほしい

私にはしっかりと両親がいた。

お母さんは世界でも有名な錬金術師で、お父さんは裏世界で有名なガンマン。

2人の出会いは裏世界から狙われているお母さんの護衛にお父さんがついたことが始まりらしい。
2人は恥ずかしい過去だって言うけど、絵に描いたようなかっこいい出会い。

こんな優秀な両親がいながら、私にできることは背中を見続けることだけだった。

そんな見続けた背中のうちの1人、お母さんが突然いなくなった。

お母さんがいなくなる数日前に突然所在不明の男が街に現れて、まるでこの世界のことをまったく知らないくらいに話がかみ合わなかったため、いったん身柄は国防に預けられた。

次の日、個室で1人になった男は身に潜めていた爆発物で逃げ出したと報道された。

決して国防が仕事をしなかったと言うわけではなく、錬金術で作られた危険物探知機を使用して異常はなかった。そんな中で国防の壁を破壊する爆薬が使われてしまった。

そう、私がいた世界はあらゆるものに錬金術がかけられていて錬金術という存在は貴重な存在となる世界だった。

お母さんは国防にあった探知機に異常がないか確かめに行った際に、取り調べ中だった男のカバンで気になるものを見つけてしまった。

お母さんはとてもワクワクした気持ちで部屋で持ってきたものを調べていたんだけど、姿を消したのはこの2日後だった。

世界的に大騒ぎになったこの出来事をきっかけに、私は親戚の家に預けられた。

お父さんからはお母さんのこどもだから狙われる可能性があると聞かされ、偽名で名乗る自体にもなってしまった。

お父さんはというと、探してくると言い残して何処かへ消えてしまた。

追ってきた背中を短期間で無くしてしまった私は、両親の得意分野をひたすら探求するしかなかった。
ただ真似していただけで、根幹となることは何も知らなかったのだと実感して、親戚の家で過ごす間はとても苦しかった。

それから一月経ち、お母さんが残したものの半分は他の錬金術師に扱えても、ブラックBOX化したものも数多いという。

もちろん私は扱い方も、直し方も知らない。

だって私にはそもそも。

過去のことを思い出しながら散歩していると、私は不思議と実家の前にいた。

実家は荒らされ、重要そうなものは手に持てるものだけ私に預けられてあとはお父さんが壊したとのこと。
きっと私と別れた後に実行したんだろう。

もはや廃墟と呼ぶにふさわしい外見となった家の玄関だった場所で私はただひたすら過去を追憶していた。

ただひたすら2人の真似事をしては怒られ、それでも優しく接してくれては苦手なはずなのに外で一緒に遊んでくれたりもした。

世の中では完璧人間な2人の不器用な失敗の数々は私にとってとてもいい思い出だった。

心が溶けそうなくらい痛くなって、その場に崩れ落ち、ただひたすら目から雫を落として柄にもなく大泣きしてしまった。

 

目を拭っていると目の前にガラスが割れたような裂け目が突然現れて、私は光に包まれてしまった。

それは一瞬であり、気付いた時にはあの、終わった世界にいた。

私はこの世界で、お父さんが得意なことの本当の意味を知った。
握った引き金はとても重くて、思い知らされた。

今帰ったって、追い続けた背中はいない。

今私の近くには別世界へと行ってしまうデタラメな出来事に対応できるヒトたちがいる。

ならば、わたしは

 

わたしが元いた世界に帰りたいのか、アルはそう聞いてきた。

いま帰ったって何もない元の世界に帰るくらいなら。

「わたしは戻ろうだなんて思ってないよ。あなたたちと会えたことで、ようやくやるべきことが見つかりそうなんだから」

「そう、そうか」

アルはそう呟くとしばらくペシャンとやらが流れる様子を眺めていた。

「なら、1つだけお願いがあるんだ」

アルは改まってわたしの前に両膝をついてわたしの手を握りしめた

「な、なに」

そのあと目を合わせてくるんだからなんだと思った。

「生きることはあきらめないでほしい」

わたしはしばらくなにを言っているのか理解できなかった。

きっとブリンクたちが行った世界よりももっと厳しい世界があるかも知れない。そんな世界に巻き込まれても、どうか生きることだけはあきらめないでほしい」

そうか、この子たちと一緒にいるといろんな世界に飛び込んでは危険な目に遭う日々が始まるってことか。
だからこそ見つけられそうな目的を確実性のあるものにできる。

そんなチャンス、逃すほどわたしの目は濁っていない。

「もちの論だよ。せっかくの拾われた命を簡単に捨てたりはしないよ」

「そうか、よかった」

アルは安堵した表情で立ち上がった。

「なら目的を果たしに行こうか。干渉液を手に入れないとね」

わたしは今後の目的が見つかりそうになっていたけど、目の前の目的を忘れていた。

「そうだった。ちょっと脳みその電流が足りなかったかな」

わたしとアルは干渉液とやらを探しに再び歩き出した。

干渉液とやらは一部の知識と力がある人物にしか作成ができないものらしい。

つづりやカナデからも聞いていたが、なんでもできる万能な人はこの世界にいないという。
でも、何か1つは必ず得意なことが存在し、この世界の人たちは得意不得意を協調で補い合っているとのこと。

独占できればお金儲けとか考える人が出そうだけど。

「え、お金って概念自体が存在しない?」

「ほかの世界だと当たり前にあるかもしれないけどね。ファミニアでは物のやりとりは依頼品との物々交換、または好意から来る一方的な受け渡しがほとんどなんだ」

「それ、お互いの求めている価値と釣り合ってるの?」

「価値とかそういう考え自体がないんだよ。お互いにできることを出し合って、相手の求めている不足感を満たし合う。
それが達成されただけでぼくたちは十分なんだよ」

「でも、有名になったりとか、名が知れ渡るようになりたいとかなんというか承認意欲みたいなものが少しはあるんじゃない?」

何をアルと話しているのかというと、はじまりは干渉液にいくらお金が必要なのかという話になったのがきっかけ。

ここまで物々交換だけで取引が行われていたから不思議で仕方がなかった。

「承認意欲か。ファミニアの人たちにもそういう欲求は存在するよ」

「なら」

「それでも、お互いの承認意欲の中には相手を思うという前提が必ずある。
お試しの飲み物を飲み物が欲しいと思わない人へ無理やり勧めはしないし、新技を披露する相手に対しても時間や状況を考慮して行っている」

「それって、アルたちの周りだけの話じゃない」

「早い話、取引条件として持ってる人も多いね。お試しの被験体になってもらうことを条件に相手の悩みを解決するとかね」

承認意欲があればそこから憧れや嫉妬が生まれて、自分だけのものにしようとする。
そんな考えが少しでもあれば必ず対価は大きなものを求めようとするはず。

無闇に主張して嫌がられたりとか、そんなのが普通だと思ってた。

この世界にはそんな考え自体がないの?

「なんか納得いかない」

「ファミニアで過ごせば自然と慣れちゃうよ」

「ふーん」

無意識にアルの後ろをついて回っていたけど、なんで私たち歩いているんだ?

「ねえ、あのハルーってやつ使って移動しないの?」

「実は一度も行ったことがない場所なんだ。距離的にここから歩いたほうが早いっていうのもあるね」

「最初が面倒なのはどこも同じなのね。で、今はどこに向かってるの?」

「このまま歩いていたら奇妙な門が見えてくるんだけど、そこを潜った先にある芸術都市ゲミニカに用があるんだ」

「アルはゲミニカって都市には行ったことないの?」

「ゲミニカ自体には行ったことがあるんだけど、門をくぐってすぐのところに目的地があるんだよ。
中央から歩くよりはいま歩く経路のほうが短いんだ」

「地図がないからわからないけど、ゲミニカってとこも広い都市なんだ」

「と、話していたら門が見えてきたよ」

門構えはわたしには理解できないほど酷いものだった。

門の表面は小山程度のトゲがたくさん出ていて、六角形やら五角形のような感じで虹からスポイトしたかのような色がぐちゃぐちゃに配してある。

そして何よりも気になるのが、照明として5個吊るされているライトが眼球の形をしていて青白く光っていること。

わたしのゲミニカに対する第一印象は思考がヤバい場所となった。

「芸術家の考え方を見直すところだったけど、やっぱダメだわ」

「あはは…」

門をくぐって2、3軒ほど建物を移動した場所に目的の場所がある

干渉液を扱っている人物、キエノラという人物が営んでいる店の前に僕たちは立ち止まった。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-12 今帰れたところで私は嬉しくないし、逆に辛い

あれからつづりさんとかなでさん、ブリンクが戻ってきた。

戻ってきて早々、ソラはつづりさんへさっきまで探していた次元へ繋げるようお願いをした。

それからなぜかつづりさんだけが目的の次元へ飛び、ファミニアから観察を行うことになった。

何でこんな流れになったのかというと、ソラたちがいた世界の解析準備を行うためらしい。寄り道をしないとは何だったのか。

そしてぼくとブリンクは脳みそを浸からせるための干渉液を手に入れるために外へ出ている。

出る前にソラへいろいろ怒ったせいで消耗した感情エネルギー補給のために、ぼくとブリンクは食べ物を求めて歩いていた。

「ソラに何を怒っていたの?」

事実を知らせていないブリンクはぼくが怒る理由がわからなかった様子。

「いきなり寄り道するようなことを始めたからさ。まあ、すでに寄り道してるぼくが言えることじゃないけど」

「たまには寄り道も大事だと思うよ。急ぐことじゃないんでしょ?

干渉液に関しては、急ぐことじゃないかな。

「うん、そうだね」

「それで、今はどこに向かっているの?」

そうか、目的地を伝えずに歩いてたんだった。

「今は材料をもらうためにシチィケム  って場所に向かってるんだよ」

「あ、カナデから聞いたよ。食べ物と交換するための素材が集まる場所なんだってね」

農業都市 シチィケム

食べ物をもらうために要求される大抵のものはこのシチィケム にある。

ここには材料となる植物や動物がいてそれらを育て、管理する人たちが集まっている。育て屋と呼ばれる植物や動物の専門家は必ず一種類に1人だけ。これも育て方や管理方法を能力のおかげで知っているから。

育て屋たちは育てること、飼育すること自体が楽しいため、よっぽどのことがない限りは無償で材料を分けてくれる。

今回ぼくたちが集めるのはパンの材料となる小麦、挟むためのレタスとお肉。つまりはサンドウィッチを作りたいわけだ。

お肉は何でもよかったんだけどブリンクの要望で鹿肉になった。どうやらブリンクがもともといた世界では主食としていた家畜の姿に似ているかららしい。

鹿肉の育て屋にブリンクがいろいろ聞いていたようだけど、鹿について熱弁する育て屋にただただ驚いている様子だった。

ブリンクが思っていたものと類似している点は多かったみたいだけど、違ったのは鹿の主食だった様子。

私の世界にいるウカっていう動物はこの世界とだいぶ似てるんだよね。でも違うのは食べるもの。ウカは小動物を食べる肉食系なのよね」

あのツノで小動物を攻撃って、苦労するだろうなぁ。

レタスについては初めて見るらしく、キャベツのように葉っぱ系の植物が玉状になっているものはブリンクの世界になかったらしい。

球体の植物といえばタネの状態を食べるモカニンって植物があってね。珍しく果肉の方を捨てて食べるやつなんだよ。果肉は苦くて苦くて食べられたものじゃないけど、タネ部分は煮たりすりつぶしてパンの生地に混ぜたりすると甘くて美味しいんだ」

ブリンクは自分の世界の話についてはとてもいい笑顔で話す。しかも確実に伝えたいのかいつもよりゆっくりと話すからとても真剣なことがわかる。

あまり故郷のことを話すから気にしちゃったけど、ブリンクは知らない世界に夢中になっている様子だった。

「楽しそうだね、ブリンク」

「あの灰の世界よりもキラキラしているからね、そりゃはしゃいじゃうよ」

パンの材料となるライ麦の育て屋に材料をお願いしたところ、珍しく要求品を提示してきた。

「収穫のために動いていたんだが、思った以上にペシャンを使っちまってね。ちょっとこのタンク一杯分のペシャンを組んできてもらえないかな

タンクの大きさはドラム缶くらいといえば通じるか、まあ背丈より少し低いくらいの高さだ。

ブリンクは驚いていたけど、ファミニアでは大容量のカバンが出回っているから実はそこまで苦ではない要求だ。

少々手間なのは、少し高いところにあるペシャンの源泉まで行かないといけないということ。

育て屋が必要とするペシャンは新鮮な状態じゃないといけない。一番新鮮なのはペシャンの源泉であり、街中を流れるペシャンは途中で多くの人が触れるため、鮮度が落ちてしまう。

育て屋はペシャンが欲しいとだけ言ったけど、少々気を使って源泉まで行くことにした。

「アル、ペシャンの源泉ってここから近いの?」

「いや、ここからカムイナキを超えた向こう側にある場所だよ」

「え、遠くない?」

ファミニアの大きさは日々変わっていて拡大する一方だ。

ファミニアの土地はぼくたちの家がある中心都市 カムイナキを中心として外側へと拡大していく。

そのため、一週間前は1㎞先にあると表示されていた建物が今は1.2㎞先になっていることもある。

こんな不思議なことが起こっていると今回のようにただでさえ遠い場所がさらに遠くなってしまい不便だ。

「大丈夫。遠くの場所へ行くために、このハルーがあるからね」

ぼくが取り出したハルーに対してブリンクは夢中になっていた。

「この宝石みたいなやつがハルーって言うんだ。で、この石を使うとどうなるの、飛べるの?」

「飛ぶとは少し違うんだけど、ハルーは一度訪れた場所を記憶して、その場所へ一瞬で飛ばしてくれるんだよ」

「やっぱ飛ぶんじゃん」

「雰囲気としてはつづりさんが使う座標移動に近いかな」

「それって転送だよね。飛ぶと言うってことは何か違うの?」

ハルーが記憶するのは座標ではなく、記録したい場所の近くにあるプラキアと呼ばれる点を記録する。プラキアは始点を意味していて所持者が印象に残った場所がハルーの始点として記録される。座標を記録しないのはファミニアが常時変化しているということが影響してしまうからだ。

要するに一度は訪れたことがある場所にしかハルーでは移動できない。ブリンクは行ったことがなくても、ぼくがすでに訪れた場所だから一緒に移動することができる。

「じゃあ、ハルーを私が持ったところでペシャンの源泉には行けないってことか」

「そういうことになるね。じゃ、行こうか」

ブリンクと手を繋ぎ、ハルーを胸元に当ててぼくはペシャンの源泉を思い描いた。

すると気づいた時にはぼくたちはペシャンの源泉であるワッカイタクにいた。

「え、私たち動いた?周りだけが切り替わったみたいに何も感じなかったけど」

確かによく考えれば不思議な現象ではある。

別の場所へ瞬時に移動する際は何かしらの違和感が体で嫌でも感じることになる。

実は第三者視点で移動してきた人をみようと定点観測を行なったことがあった。

あの時は周囲を注意深く見ていても空間が歪んだり、いきなりその場に現れるなんてことが一切なくなんの収穫もなかった。

だからぼくは素直にこれが瞬間移動とか、指定した場所に飛ぶとか単純な言葉では言い表すことができない。

ハルーだからこういう芸当ができるという共通認識だから何も感じなかったが、よく考えるとハルーというものは得体のしれない奇妙なものであると再認識できてしまう。

「ねえアル、なんかあった?」

「え、ちょっと考え事してただけ。それじゃあ源泉に行こうか」

ペシャンの源泉は地下深くからペシャンが絶え間なく湧き続けるこの世界の生命線。

ここを独占するものが現れてもいいというほど重要な場所であるにもかかわらず、誰もそうしようとしない。

ハルー同様、そういうものだという考えで通っているんだろうけど今までにそう行った出来事が起きていないということが不思議でならない。

「源泉っていうから質素な場所かと思ったけど、噴水公園って言えるほど賑やかだね」

「何かとこの世界では材料になったり、感情エネルギーの補給だったりで人が絶えないからね。芸術好きな人たちが装飾して行ったって話だよ」

「芸術家ってあまりいい印象ないけど、湧き出るのが絵の具に変わってないあたりまだまともかな」

ブリンクの世界の芸術家って…。

ぼく達は新鮮なペシャンを回収してライ麦の育て屋へ届けた。

それから当初の目的だったサンドウィッチを手に入れて、ぼくとブリンクはペシャンの川へ足を浸からせていた。

「あの2人ともこの世界を歩き回ってみたけど、よくわからないなー」

「新しい世界ってそんなものじゃない?」

「いや、なんていうかどこにでもありそうな法則に全然当てはまらないってところが新鮮でさ」

この世界についてにこやかに話すブリンクを見ていると、ソラとの会話をふと思い出してしまった。

「当てっていうのは、ブリンクの魂と体を切り離す方法だよ。体っていうのは元いた世界の法則に縛られるんだけど、魂自体はどこに行っても普遍であって、縛られることはない。
器となる体がないと何処かに飛んで行っちゃうようなものだから、大抵は体とワンセットなんだよ」

「何を、言ってるのさ」

「ブリンクの魂を詰める器を作り、体を維持するエネルギーを感情エネルギーとする仕組みを作る、それが当てだよ」

「理解はできる。でもダメだよ!」

ソラは横目でこちらをみるだけだった。物言わずに人の方向を向くソラは時々怖さを覚える。

「わかるでしょ、代謝の概念がる世界の人が、どれほどからだと魂のつながりを気にしているのか」

「人は体あってこその存在。死んで初めて体と魂が切り離されて、魂は神様に救われるってのが普通だね」

「魂を切り離すなんて、ブリンクが首を縦に降るって、本当に考えているわけ?」

「最短でできるのはこの方法くらい。幸い、観測した次元の中にサンプルとして使えそうな法則があるからそれを使えばできる」

「ソラ!あんたは!」

ソラは表情1つ変えずぼくの目を見続けている。ソラの考えには人の気持ちが含まれていないことが良くある。

最近は良く考えるようになったと思ったらまたこれだ。

「あたしは当てを確実なものにするためにしばらく動けない。だからさ、頼みごとを完了する過程で聞き出してくれないかな。ブリンクの気持ちを」

聞くとしたら今かもしれない。

答えによっては、考え方を改めさせないといけない。尊重されるのは、本人の意思だ。

「ブリンクはさ、もし帰れるとしたら元いた世界に戻りたい?」

食べているサンドウィッチを全部口に入れて、飲み込んでからブリンクは話し始めた。

「戻れるなら戻りたいな。やっぱり元いた世界がしっくりくるし、戸惑うこともないだろうからね」

「なら」

「でも、今帰れたところで私は嬉しくないし、逆に辛い」

「帰りたくない理由って」

「お父さんとお母さん、2人とも私の世界ではちょっとした有名人でね。私の中では自慢の親だった」

「だった?」

ブリンクは頷いたあと、手遊びをしながら両親のことを話し始めた。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-11 しないよ、今回に限っては

家の中は少し重い空気が漂っていました。

それはブリンクがこの世界に滞在する間に起きるであろう現象について、アルが懸念していたからです。

それは、概念の違いからくる次元錯誤と呼んでいる現象のことです。
次元錯誤でよくあることは、退社という概念がある生き物は代謝という概念がない世界に行くと今まで行ってきた老廃物を外部に出すということ自体ができなくなり、やがて衰弱して死んでしまうという例があります。

別には魔力があるのが当たり前な世界へ魔力という概念がない人物が紛れ込むと、体内から魔力が沸き上がって暴走して魔物と呼ばれる存在になるという話もあります。

このような話が前提にあり、アルが気にしているのは前者の次元錯誤の現象でしょう。

「ソラ、つづりさんが別世界から猫ちゃんを連れて帰ってきたことあるでしょ」

今から3回ほど前の次元を調査していた時、つづりんは可愛い猫をお忍びで連れてきてしまった時がありました

「この世界じゃ猫はいないからってつづりさん気に入っちゃってさ、ファミニア中連れまわしたってこともあったよね」

「毎日猫のことしか考えていないくらいキラキラした感じだったね。あの猫もずっとつづりんにくっついてたっけ」

「しばらくは気づかなかったけど、あの猫ちゃん、どんどん衰弱していって最終的には動かなくなったよね」

「そうだね、あれは死んだという判断さえできない状態だった」

猫が衰弱してしまった理由は水を飲まなかったとかご飯を食べなかった、病気にかかっていたというわけではありませんでした。

「あの猫は、代謝の行き場がなくなって動かなくなってしまった」

先ほどから死んだと判断できないという話が出ているのは、そもそもファミニアに死という概念がないからです。

近頃、ファミニアでは生命機能が停止してしまう人が時々現れますがその度にCPUの構成員が生命活動が停止したモノをCPU本部まで運んでしまうため、動かなくなったモノの行方は不明でした。

そう、近頃は。

あとは代謝という概念もファミニアにはありません。

つまり、代謝という概念があった世界から来た生き物はこの世界で老廃物の排出が行えません。
では老廃物はどこでとどまっていたのか。
ネコの見た目が肥大化したりとか、表面に見えるグロテスクな変化は全く起きていなかったのも衰弱に気づくのが遅れた原因でした。

猫を調べてわかったことですが、代謝で生じた老廃物は体内にたまり続けていたのです。

つづりんの提案で、せめて元いた世界で弔おうということでその猫を元いた世界に連れて行きました。

すると猫だったものの中から老廃物が一気に吹き出し、大惨事となったことを覚えています。
あれ以来、次元錯誤には常に気を配っていて、別の次元へ行く場合のリスクを知る良いきっかけともなりました。
そんなきっかけがありながら、知りながらも次元錯誤が起きてしまう人物を連れてきてしまった。それがアルは許せなかったのでしょう。

猫が動かなくなったのは老廃物蓄積によるエネルギー変換の停止。あれからいくら考えても答えが出ていないじゃん!」

世界を渡っている間にうやむやとなってしまった問題が再び呼び起こされました。

「さっき言ったように当てはある。でも、解決に手間がかかる」

「ソラ、言っておくけど猫ちゃんが衰弱し始めたのは時間がある世界でいうと1ヶ月後の話。この期間を目安として対処法を探さないと」

ファミニアには時間という概念が存在しますが、昼間は夜間の時間の3倍の長さがあり、1日24時間ではないのです。
そして次元移動した先の世界と時間の同期は行っていないので、単純にこの世界で1か月と言っても別の世界では1年という場合があったり、1週間の時間しか流れないということもあるのです。

いまあてのある世界は、時間の流れがここよりも短い世界です。つまり、1か月よりは長い期間対策に充てることができます。その世界にある概念は、対策の理論にはもってこいです。代謝という概念をブリンクから取り去る方法が。

しかしそれを具現化させるにはこの世界の能力だけでは補いきれないほど複雑です。

そんな複雑な仕組みをいつも形にしてくれるのが。

「できるんだね」

アルはしばらく怖い顔をしたまま私を見続けていました。

「できるよ。でも、悪いけどアル、今回もたくさん頼りたいな」

アルは一度目をそらし、そして深いため息をつきました。

「まあ、ぼくはブリンクを見捨てる気もないし、元から手伝う気ではいるよ。だから、変な寄り道は絶対しないでよね」

わたしは1つの次元でいろんな無茶な寄り道をしてきました。おそらくそれを懸念しているのでしょう。

「しないよ、今回に限っては」

私は真剣な顔でアルを見続けていました。

するとあるが少し笑って答えました。

「わかった。それじゃああてのある次元とやらを教えてよ」

「ありがとう」

私は笑顔でそう伝えるとアルへ探して欲しい次元について教えました。

別次元へ移動する際、最初のうちはデタラメにつづりんがつなげた世界へ行ってみるということを何度も行いました。

その中でも面白そうな世界を選んで、調査を行ってきました。

いろんな次元に行けば、次元にも決まった法則というものが見つかるものです。

その法則はマクリワと呼んでいるものです。

マクリワはどの次元にも存在し、この次元にも存在します。

この世界のマクリワは『センフ』、能力を意味します。

これはこの次元では生まれながらに能力を得る概念があるという事になります。

次元によってはマクリワが2つ以上存在する次元が存在します。

そんな中で今回アルにお願いしたのは。

「マギアとノンリッシュの次元?」

「魔法が存在し、代謝がない、またはなくなる方法がある概念の次元を調べれば、実現させる方法が見つかるはず」

「いったい何を狙っているの?」

「魂を抜き出して、代謝の概念から切り離す」

この方法は代謝の概念から切り離すにはちょうど良い方法ですが、ブリンクが魂のありかにこだわるかどうかが、問題でした。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-10 わたしだって考えなしってわけじゃない

ファミニアにソラたちが戻ってきた。

一時はどうなるのかと思ったけど、再び3人の顔を見ることができてよかった。

あれ?3人?

そうか、ソラがまた別世界で人を拾ってきたんだっけ。その連れてきた子の紹介は、3人が落ち着いてから行われた。

「紹介するね。この子はブリンク、次元漂流していたところを助けたんだ」

「よろしくお願いします」

場に流されるがままに挨拶してしまったのかちょっとおどおどしている感じはある。仕方がないよね。

「ようこそブリンクちゃん、私はカナデ。ブリンクちゃんと一緒にいたそこの2人は一緒にいるとなかなか疲れるから気をつけたほうがいいよ」

「んな失礼な」

つづりさんの反応が早い。

「ぼくはアル。こっちでみんなのサポートをしているよ。よろしくね」

一通り挨拶が済んだところでソラがやりたいことを話し始めた。

「実は今回の件なんだけど、実は相当やばい事態になってるみたいなんだよ」

「まあ、通信が繋がらなくなること自体がありえないことだからね、事の重大さはわかってるつもり」

「そんな中、向こうの世界の住人から世界の記憶が詰まっているっていう脳みそを受け取ってさ」

「「は?脳みそ?!」」

ぼくとカナデさんは声を揃えて言ってしまった。

「何をどうやったら脳みそなんてもらえる流れになるのさ。まさか、もらうとか言っておいて剥ぎ取ったんじゃないでしょうね」

「そんな訳ないでしょ、逆に私たちが脳みそえぐられるところだったんだから!」

カナデさんとつづりさんが言葉のキャッチボールを始めてしまった

「今までのその世界からそんなことは想像できないけど」

「いやいや、ブリンクが一瞬だけ隙を作ってくれなかったら私たちここにいないから」

「ふーん」

「それでソラさん、その脳みそはどこに?」

カナデさんが話を切り替えた。

「今はバッグにしまってるんだけど、調査のための干渉液が欲しくてね。その調達をアルとブリンクにお願いしたいな」

特殊なバックじゃなければ普通に腐ってると思うんだけど、まあいいか。

「ぼくは問題ないけど、ブリンク、ちゃんでいいのかな?」

「ブリンクでいいよ。じっとここにいてもあれだし、私も行こうかな」

この後の会話でカナデさんは音声データの確認、ソラとつづりさんは別の用事があるらしい。

「色々詰まってて疲れちゃったよ。つづりん、散歩行こうよ!ブリンクもさ!」

そう言ってカナデさんはつづりさんとブリンクを連れて散歩に行ってしまった。

家に残ったソラとは2人でしか話せないことを話した。

「今回の件、CPUが黙っているはずがないんだけど動きはあった感じ?」

「通信が繋がらなくなってからカナデさんと外を駆け回っていたけど、夢の噂くらいしか話題になっていなかったかな。あとはいつもどおりって感じ」

CPUはファミニアの中心地に位置する天を超えるほどの高さがあるとされている軌道エレベーター。
その先にあるのがファミニアを見守るCPUと呼ばれる組織であり、ファミニアで起きた多くの事件をなかったことにしてきた恐ろしい存在でもある。

何かが起これば必ずCPUに動きがあるのだけれど、今回は静観している様子。

「まあ、CPUはファミニア内で何か起きない限り動かないだろうけど、今回に関してはファミニアで何か起こってからは手遅れだろうしCPUはあてにならないだろうね」

ソラがCPUを気にするのは、過去にCPUにいたというのが関係しているらしい。
らしいというのは、実際にいたという事実を確認できないからなんだけど、CPUの動向に詳しいこともあって本当にいたのではと感じてしまう。
過去にあったかもしれない出来事をなかったことにしているという事実は、ソラの記録がなかったことになった過去を残し続けている活動から判明した。

他人から見たら創作物にしか見えない記録だけれど、あったかもしれない出来事となる瞬間を目にした時、ぼくはCPUという組織に恐れを感じるようになった。

このような経緯もあり、CPUの動向には常に気を配っている。

CPUに動きがないことよりも、今は気になることがある。

「ソラ、別次元から人を連れてきたらどうなるか、わかった上で連れてきたの?」

次元ごとには決まったルールが存在する。それが他次元と共通している場合があれば、全く違った解釈、存在しないルールもある。

いないはずの存在がその次元に現れればその次元のルールが異常を起こし、その次元自体が不安定になってしまう。

実はこのファミニアに別次元の存在は数多く存在する。それでもこの次元にい続けられるのは、類似するルールの次元から来ているから。

でも今回は。

「アル、わたしだって考えなしってわけじゃない。この件についてはわたしとつづりんで解決するから」

「当てはあるの?」

「あるけど時間はかかるかな。大丈夫だって、ファミニアだって、ブリンクも丈夫なんだから。次元改変に巻き込まれたりはしないよ」

「そう」

次元改変

本来あるはずのものがない、本来死んでいるべき人物が生きていたりと定められた次元の流れに異物や不備が生じると、次元は不安定になる。

この不安定な状態を安定させようと各次元は自己修復を実施する。

この時に起こるのが次元改変。

次元改変の際にその次元はエネルギーを消費する。そのエネルギー消費の際に波動を発する。

この波動のせいで連鎖的な次元改変が起きることもよくある。

ファミニアが次元改変をなかなか起こさないことから次元改変へ耐性がある可能性はすでにわかっている。

問題はブリンクに何か起きていないかという事。

そう、ブリンクには代謝という概念があるからだ。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-8 あなたは私たちが怖いですか?

近づいてくる生命体の反応を知り、私たちは物陰に隠れていた。

一瞬で体が溶けてしまう恐ろしい灰の中を歩けるとなれば出会った瞬間何をされるかわからない。

次第に足を踏むたびに起きる振動が伝わるようになってきた。一歩にかける重量は大きく、はっきりと足跡がつくのもうなずけるほどだ。

私が感じた生命体の反応はついに建物の隣まで来た。

建物を過ぎようかというところで生命体の集団は皆バラバラと足を止めた。

「其処に居るのは何処の人ぞ」

鼓膜を振るわせずに受け取った声は、確かに私たちへ向けられた言葉だった。

バレてる!

「この暖かさ、なんと久々であろう。そしてこの世界とは違う存在、懐かしくて久々に脳みそを使ったわ」

集団で話しているようで確かに私達にも伝えている。どうしたいのこいつらは。

物陰に隠れているから姿も確認できない。けど、姿を晒すことによるリスクの方が大きすぎる。

隣を見るとまたソラさんが飛び出そうとしてるからなんとかして抑えないと。

人でもない存在に同じ手が通じるはずが。

いきなりブリンクが立ち上がって謎の存在の前に姿を晒していた。

何やってんの?!

「あなた達は何者ですか?話はそれからです」

「恐れはないのか、異世界人」

しばらく沈黙が続き、ブリンクが口を開いた。

「あなたは私たちが怖いですか?」

「ない」

「ならば同じです。わたしもあなた達を恐れません」

話に夢中になっているとソラさんが立ち上がっていた。なんであなた達姿を晒したがるの!

「お互い恐怖心がないとわかったところでお話ししましょ、この世界の人たち」

仕方がないからソラさんが話した後にわたしも姿を晒した。

わたしが目にしたのは2メートルほどある身長と広い肩幅、そして白い毛皮を着込んだ大男が9人いた。

「我らを人と見てくれるのか、我々自体も人の自覚を失いかけていたところだというのに」

「ダメでしたか?」

「悪くはないな」

喜ばしいという感情は伝わってこなかった。もはやこの人たちには、感情という概念が存在しないのかもしれない。

ソラさんが話を切り出した。

「わたしはこの世界のことについて知りたいのです。かつて東西で技術を競い合うだけだったこの世界に、一体何が」

少し沈黙があった後、一番前の大男が話し始めた。

「手短に話そう。全てはお前達のような異世界人から始まったことだ」

この世界二次元移動した人がいただなんて。

「彼女は元の世界へ戻るために未知の力を使い、西の大陸で権力を高めていった」

「やがて彼女は東の素材を欲し、東陸連合へ戦争を仕掛けたのだ。争いを知らなかった我々は、新たな刺激に夢中となってしまい、このような状況を招いた」

「その彼女、というのはどこへ?」

「欲していた素材を手に入れ、我らを実験台として使用した後に異世界へ消えた」

「あなた達は、いったい」

わたしは思わず言葉が漏れてしまった。

「我らは不死の禁術から生まれた化け物。老いることもなければ生み出すこともできない、生きるだけが罪の存在よ」

もうなんと声をかければ良いのかがわからなかった。

同情の言葉や代わりに怒ってしまうことも彼らにとっては無意味になってしまうだろう。

「もっと、教えてもらえないですか?」

ソラさんはさらなる情報を欲していた。

「異世界人、何故この世界の顛末を望むのか。この世界は間もなく無に帰するというのに」

「わたしはこの世界が美しかった頃を知っています。だから、せめてこの世界が確かにあったという記録が欲しいのです。例えどんな終わり方をしてしまっても」

静寂の中、ソラさんは大男から目を逸らすことはなかった。

「そうか」

大男はそう呟くと後ろにいた大男の方へと向かった。

「リーダ、感謝します

そう一番後ろにいる大男が伝えると、リーダと呼ばれている大男はその大男の頭を思いっきりえぐった。

「ひっ!」

ブリンクは思わず叫んでしまった。

この光景に動じない私たちはだいぶこの光景に慣れてしまったんだなと感じた。

しばらく肉をえぐる音がして大男が差し出してきたのは脳みそだった。その大きさは私たちの頭ほどの大きさだった。

「彼女は脳みそから記憶を見る技術を持っていた。ならば、同じ条件のお前達にはこれを渡すだけで十分だろう」

「語っては、くれないんですね」

思念というのは事実を伝えるにはどうしても私念を交えてよく伝わらない。事実を知りたいのだろう?」

伝言ゲームのように伝わる伝説を思い起こせばわかるが、途中で物事を大げさに見せて事実とは異なった内容で伝わることが多い。

そう考えると見聞きしたものが純粋に伝わる方法が、記憶というわけか。

「ではありがたくいただきます」

ソラさんが脳みそをバッグにしまうとブリンクが話し出した。

「あの、その人を殺しちゃったんですか?」

我らは死なない体を手に入れても脳だけは失うと肉体は生きていても動くこと、想いを伝えることが不可能となる」

確かに肉は動き続けていて、血も際限なく溢れ続けている。

「そうやって殺せるなら、お互い殺しあったほうが楽じゃないの?

ブリンクはなかなかエグいことを聞くな。

「異世界人、この世界では救いを乞うために偶像の存在を崇拝している。ある聖者はその偶像からの信託だと語り、人殺しをすると天へ召されることはないとほざいた」

この人は信者なの?違うの?

「我々は長きに渡りその偶像を心の支えとしてきた。そのため人殺しはこの世界に残り続けてしまうという固定概念が根付いてしまったのだ」

「でもあなたは今命を奪ってしまった」

「そうだな。私は天に召されることなく消滅するのだろう。なぜ今までこうしなかったのだろうな」

この時、私は最悪の状況を考えて身構えてしまった。

彼の語りは、初めて知ったことに興味を持った口ぶりだったからだ。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-7 確かに存在したという証としてね

「うそ、あの灰の中を歩けるだなんて」

「ブリンク、見たことなかったんだ」

「うん、灰に触れて死んだ人しか見たことなかったし」

「死んだっていうのは、呼吸できなくなったとかじゃなくて?」

「もっと酷いよ。肌が溶けて、骨と服しか残らなかったもの」

話を聞くあたり、有機物を溶かしてしまう灰だと考えられます。

灰を吸い込んだときに何かが起こるのではなく、話の通り触れるだけで危険な代物のようです。

私は2人に1階へ戻ろうと声をかけ、下まで降りました。

「何をしようとしてるの?」

「まあ、ちょっと勿体無いけど」

ブリンクの問いかけに曖昧に答えたあと、私はカバンからおにぎりを1つ取り出し、半分に割りました。

「ミヤビさん、粗末にしてごめん」

そう私は呟くと、灰が被っている床へ半分のおにぎりをアンダースローでゆっくりと投げ入れました。

すると、灰を被った半分のおにぎりはドロドロの液体状になってしまったのです。

「うわぁ、これは灰に触れたら終わりだね」

つづりんの少々面白げな言葉に対し、ブリンクは少々不思議な顔をしていました。

「食料も溶けちゃうんだ。有機物全般が溶けちゃうのかな」

ブリンクも独自に分析を行っているようです。

「溶けるとはいっても、爛れる過程はないから、液状化しちゃうだけだね」

「爛れるって、どういうこと?」

溶解させる物質が肌にかかると、部分的に溶けてしまうため皮だけ溶けて肉はまだ溶けない状態になります。この時に溶けきらなかった皮膚や肉の組織がゼリーのように体へくっついたままとなります。

被害を受けた生物は溶ける際に熱さと痛さを伴うため非常に苦痛に感じてしまうのです。

「皮膚だけ溶けて、火傷したみたいな状態になることだよ」

ざっくりいうとこんな感じ。

「でもさっきのおにぎりを見る限り、溶けるのが一瞬だったよね?

「その爛れるだかいう状態を私は見たことがないね」

通常では考えられないスピードで溶かすこの灰は、一瞬で液状化させてしまう危ない物質だということがわかりました

どうやって発生したかはさておき、灰についての危険性だけは明らかになった。

「それで、灰を調査したところでどうするの?」

「私たちは訪れた世界について記録する活動をしてるからね。その一環だよ」

「このなくなってしまいそうな世界も記録するの?」

「なくなってしまうからこそ、記録してあげる必要があるんだよ。確かに存在したという証としてね」

「ふーん」

聞いてその反応なのか。

人によって考え方は様々だけど、確かに存在したという証は記録してこそだと思っています。

語り継ぐのも1つの方法だけど、それは伝える相手がいるからできること。

記録はそれに対して時が経過して伝える人間がいなくなっても、いつまでも伝えてくれます。

存在がなかったことにされるのは、とても辛いことだから。

しばらく3人で灰が降る白い世界を眺めていました。

風もなく、音が聞こえることもない灰だけが動いている世界。

動くものがあるのに、そこから動きが連鎖していかない不思議な世界。

どの次元でもいえることですが、必ず概念が存在します。
その次元で生まれた存在であれば何かしらその次元の概念に囚われることになります。
水も、風も、空気も、そして生物も。

次元から概念がなくなるということは、その概念に囚われている現用や物体自体が存在できなくなってしまうことになります。

現状とブリンクから聞いた中也が切り替わる様子がないという話を合わせるとを、この世界はすでにいろんな概念がなくなってしまっているかもしれません。

ふと気づくと灰が少しずつ左側へ傾いていました。同時に隣にいたつづりんが目を見開いて左側の壁方向を向いていました。

「どうしたの?」

ブリンクの問いかけから少し経って小声でつづりんが話し始めます

56人くらいの気配が近づいてる」

「でも、こっちの方向って

ブリンクとつづりんが見る壁の奥は辺り一面灰が積もるだけの世界

人は一瞬で液体となってしまう死の灰が降る世界。

でも確かに、灰の世界から歩いてくる生命集団がいたのでした。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-6 まったく、お前はどこからきたんだ?

CPU計画』

原子と分子の衝突エネルギーが利用され始めてかなりの時が過ぎ、技術の発展は飛躍し続けた。しかし、肝心の保有者が飛躍せずに技術だけが先に行き過ぎた。

それがこの世界の惨状だ。

この計画は逃げる行為に値する。

隠密行動でしか行動が行えないため、参加者はこの世界にはいない存在として今までの全てを捨ててもらう。

各々の存続のため、この代償を容認できるものは国連重要管理区「日本」へ集まるように。

 

別次元から来た死体が所有していたものの1つだ。この世界の人と思われる単語がいくつも見て取れたけど、「日本」という単語はこの世界に存在しないし私も知らない。

次にソラさんはカバンから本のようなものを取り出した。

ソラさんの左隣から覗き込むと、どうやらこの死体の日記のようだ。

計画参加はいいものの、到着先の実験でよくわからない場所へ来てしまった。

ここは今までいた場所とは違うようだが一体何が起きたんだか

外の様子から察するにここは今までいた世界とは別の世界ということだ。

詰んだ

日記を書く気力があるだけまだいい。食料はかろうじてもといた世界と似ていた。ほぼ同じといって間違いない。

それにしても外の光景、まるで今までいた世界の末路のようだ

最悪だ。外の白いものは雪じゃなく灰のようだ。これは触れるとヤバイとわかる

あの地獄の光景を思い出してしまい、最悪だ。

人を確認したが、いや人ではないな

あの生命体は灰で狂ったやつだ

生き残れてもああフラフラするならアンデットと変わりない。やはりあの計画自体は間違ってなどいなかった。

せめて、実験の過程でこうなって欲しくはなかったが

銃声がした

どうやらキチガイが今までこの建物にいたようだ

だいぶ下だがいずれ見つかるだろう

逃げ道はない

今まで身につけてきたゲリラ的戦い方で通用するか?

日に日に迫る銃声

音はハンドガンだが玉数に制限がなく感じる。

この世界の銃はどういう仕組みなんだ

薬莢が出る様子もない

下から逃げてきた人と出会った

犯人は殺すことを楽しんでいるらしい

極限状態だと人も獣へと戻るのか

逃げてきた人と距離をおき、1人で行動している。逃げてきた人物ほど怖いものはない。それで親友を失っているからね

彼女には悪いが

犯行人物がこの階にきた

気づかずに去っていったが、今度は降りてくる。もう銃声は聞こえないだろうから常に気を配らなければ

 

日記はこのページで終わっていた。日記のページ数を見るに10間はまともに生きていた様子がうかがえる。

この日以降の日記は記載されていないけど、死体の腐敗度からしてかなり時間が経過している。

そう考えを巡らせているとソラさんは日記と紙切れを持ったまま死体の前でしゃがみこんだ。

「まったく、お前はどこからきたんだ?」

私にはわかる。この人とこの次元のつながりは全くない。さらにいうとこれと別世界とのつながりも感じられない。因果から外されてしまったかのようだ。

各建物で日記のような惨状が続いていたのであれば、この灰に囲まれた世界にもう生物はいないだろう。

この終わった世界はそのうち静かに消滅して行くのだろう。ここまできたら今まで積み上げられたものもただの塵芥に過ぎない

でもこの人は記録してしまうのだろう。ソラさんはそんな人だ。

消えそうな世界も見捨てず記録として残す。それがこの活動の目的だからね。

「つづりん、これのつながりは見える?」

ソラさんが手前に突き出してきたものはCPU計画と書かれた紙切れだった。

「どうもこれが臭いと思うんだよね」

「焦げ臭いのはそこらへんのせいでは?」

「そうきたか」

乗ってみたがイマイチだったか。

「なんであなたたち余裕なのよ」

ブリンクは苦笑いしていた。声のトーンから察するに、だいぶ心の余裕はできたってとこかな。

「まあこの計画が書かれた紙からは因果の糸がいくつか見えるよ」

この資料をもとに様々な次元を訪れればもとのありかがわかるかも

「この書物の処遇は後回しにしようかな」

そう言ってソラさんは資料をカバンにしまった。

ファミニアで使用されているバッグは腰に固定する手のひらサイズであり、軽い。

でもしまうことができる量はサイズに見合わないほど多く収納できる。

製作者たちによると、4畳分の高さ2メートルある部屋に収まるくらいの大きさと量であればいくらでも仕舞い込めるらしい。

やったことないからわからないけど。

頭で思い浮かべればしまったものをすぐに取り出せるので構わず仕舞い込んでもまったく問題がない。

「さて、ここでは調べないといけないことがありそうだね」

「と言うと?」

私が問いかけるとソラさんはしばらく外を見た。

そして、外を見ながら答えた。

「この灰についてと、灰の中生きてた生命体についてね」

外を見ると、そこから見えたのは灰を踏み潰した複数の足跡だった。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-5 まあ、いろんな場所に行ってますからな

 元の世界へ戻れるかの保証はありません。

 実は次元渡りも万能ではないのです。安全装置として元の世界へ戻るためにはカナデとアルの応答がなければならないという仕組みにしてあります。

 着地狩りという戦法はご存知でしょうか?
どううまく立ち回ろうとも、一度飛び上がってしまったら重力下の中では必ず地面に体の一部がついてしまうという概念がほとんどの次元に存在します。
そんな仕組みを利用して着地の瞬間に攻撃を加えるのが着地狩り。

攻撃を受ける側はあまりにも無防備で、ごく一部の超能力者を除けばもれなく受けてしまうという恐ろしい攻撃方法です。

カナデとアルが応答しなければ帰れないという安全装置は、二人の安全確認を兼ねていると同時に、私たちの変える場所で着地狩りを受けないためにあるのです。

 今回は向こうとの通信が途絶え、安全装置によって逆に苦しめられるという状態だから正直焦っています。
万能な安全装置なんてそうそう存在しないものですね。

 なんとかなるなるというゆるい考えで正気を保ちつつ、今行っているのは情報集め。この世界の案内人を連れることに成功したものの、実は名前を聞いていませんでした。

「ねえ、あなたの名前教えてくれる?」

 この世界にいた女の子は少し悩んでいる様子でした。まだ疑っているのか、別の問題でもあるのか。

一呼吸置いて彼女は答えます。

「ブリンク。しばらくはこう呼んでもらいたいな」

本名ではないとの断言は出来ないかな。世界によって名前の法則も意味も違うし。

「じゃあブリンク、確認したいけどこの建物ってもう調べ尽くしてあるの?」

「私がこの世界に来てずっといた場所だからね。生きてる人も、食べ物もないかな」

「んじゃ、向こうのビルにでも行こうか」

 つづりんが槍を手に取りながら向かい側に見えるビルを目指しました

「待って!私が危ないって言ったこともう忘れたの?」

 ブリンクは慌てているけど、まあ無理もないか。

「大丈夫だよ、この灰に触れることはないからさ」

 縁結の矛に沿って黄緑色の輪が矛先へと近づいていき、その輪が向かいのビルの床へと撃ち出されます。

輪が床へ命中するとその場が黄緑色に輝き、つづりんとわたし、ブリンクの足元も輝きます。

「え、なになに!?」

 ブリンクが驚いてあたふたしているうちにわたしたちは向かえにあるビルの床の上にいました。

「うそ、空間移動だなんて、お母さんも苦労して手に入れるのが叶わなかったのに」

 空間移動の概念を知っているということは、かなり技術か知識が発展した世界にいたのかな。

 「すごいでしょ、これで目に見える限りの建物へは灰に触れず移動ができるよ!」

 つづりんが得意げに話していると、ブリンクのお腹の虫が鳴きました。

「さっきの言い方だと食べ物に困っている感じだよね」

「そ、そうだね。あの建物にあった食べ物は食べつくしたに等しかったからしばらく何も食べてなかった」

頬を赤く染めてしまったブリンクへ私は朝の騒動で大量に残ったおにぎりをブリンクに渡します。

「ソラさん、持ってきてたんだね」

「あのままあっても消えるだけでしょ」

私の掌の上にある竹の葉にくるんであったおにぎりをブリンクは素早く掴み、そのまま2個をペロッと食べてしまいました。

「なにこれ?!これ本当におにぎり?!具も入っていないのに美味しいんだけど!」

おにぎり知ってるんだ。ほんと、どの世界にもおにぎりって存在しているんだなぁ。

ブリンクはおにぎりを食べ終わってから一呼吸置くと、別人のように元気になっていました。

「いや〜元気でたわ。ありがとう!」

ブリンクは軽快な足取りでビルの階段へと向かっていきました。

「ほら、早いとここのビルを制覇しちゃおうよ!」

感情エネルギーは人を変えるんだなと思った瞬間でした。まあ、あれが素の彼女だろうけど。

この世界の建物は安全地帯であると同時に生き延びようと容赦のない人が身を潜めるデンジャーゾーンでもあります。
戦いを知らなかったこの世界に身を潜めるための地下施設という概念はなく、地下にはライフラインと言える電気と水だけが駆け巡っています。

そのため、非常食というものを備える習慣もありません。

この世界に残る食料は、建物に備え付けてある小規模な保存庫にしかありません。
中身によっては10日くらいなら余裕で生きていけるらしいです。それ故に保存庫の前を陣取る人も多いです。

「じゃあブリンクは何日この世界にいたかもわからずに、ずっとあのビルの中にいたってこと?」

私たちは安全が確認できた2階を調べながらこれまでのブリンクの過ごし方を聞いていました。

「何日って言われても、この世界は昼夜が切り替わる様子がないうえに、周囲の変化もほとんどないから確認のしようがなかったんだよ」

「本当に私たちが知っていたころの世界からは大きく変わっちゃったんだね」

するとブリンクがとても不思議な顔をしました。

「本当のって、本当にあなたたちは何なのさ」

「特に何者でもないよ。ちょっと変わったことができるだけ」

「一般人から見たらちょっとじゃないんだけど」

 

何事もなく4階へたどり着くとブリンクは踊り場で私たちへ止まるよう合図を出しました。
彼女が指差す先には銃弾の跡があり、まだ少しだけ腐肉が残った人だったものがいました。

ブリンクが銃を構えて慎重に銃弾が放たれたであろう部屋の中を探索し始めました。

人だったものは右の大腿骨と左中心寄りの肋骨に銃弾の跡がありました

銃弾に限りあるこの世界で脳を狙わないのは意外です。この人だったものにした人物は、あまり命を奪うことに慣れていない人かもしれないです。
心臓を撃ち抜いても、しばらく意識があって一矢報いられる可能性がありますから。

「大丈夫だよ」

ブリンクが声を出して呼んだということは完全に警戒モードを解いた様子。

「死体を見ても動じないということは、2人もこう言った状況には慣れっこってことかな?」

「まあ、いろんな場所に行ってますからな」

つづりんはにへらっとした顔で答えました。

「この部屋にも人だったものが転がっているね」

私の目に止まったのは唯一頭蓋骨が貫通された人だったもの。
その迎えには心臓をダイレクトに撃ち抜かれたであろうものがいました
この頭蓋骨を撃ち抜かれたものがあの踊り場のものをやったのかな。見事に一矢報いられちゃって。

「ソラさん、こいつだけおかしい」

「ん?人の殺し方をこいつだけ知らないってことが」

「どこからそんな考えが浮かぶのさ。この死体、この世界の人じゃないよ」

ブリンクが驚いた顔をしている中、わたしはそばにあったバッグを漁りました。
その中にあった紙切れは、この世界のものではないと同時に、とても重要なものだでした。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-4「まずはあなたを信じるのが大事でしょ」

この世界に来てどれほど経っただろう。
見渡しても建物だった瓦礫の山と高くそびえたつ石の塊となったビル。
そして、絶対に触れてはいけない白い灰が降り続いている。
ここに来てしまった方法もわからず、戻る方法もわからない。

いきなり目の前で目の前の光景がガラスが割れたように割れて、まぶしい紫の色にびっくりして目を閉じていたら、いつの間にかここにいた。

人は数人見かけたけれど、まともに会話できた人はいなかった。みんな必死で、私も必死だったから。

どうすることもできず、どのみち朽ちることしかできないというのに、生存本能が邪魔をして生きようとしてしまう。
その結果握ってしまったこの拳銃ですでに何体もの命を奪っている。
彼らも必死だったんだろうが、私には関係ない。生きるために必要だったんだから。
こうしてまたお腹がすくまで瓦礫の隅でうずくまるしかない。

「いたっ!」

「って、なによ、これ・・・」

人の声がいきなりして驚いた。
そもそもまともに言葉を発する人自体が久々だった。
いつからかは知らないけど瓦礫の向こう側にいる。

「もしかして飛ぶ場所間違えた?」

「不干渉次元がおかしかったから、変な場所につながっちゃったのかも」

「そんなことある?」

2人いると思われる会話から察するに、きっとこの世界の人ではない。私以外にも紛れ込んじゃう人がいるなんて。

「あるとの交信も途絶えちゃったし困ったなぁ」

「まあ調べるだけ調べてみようよ」

足音が近づいてくる。いざとなったらこの銃で。
でも2人の足音はそのまま外へと向かっている様子だ。どうしよう、このままじゃ2人とも死んじゃう!
忘れてしまったと思っていた良心が咄嗟に反応し、私は銃を握って瓦礫から身を晒した。

「動かないで!」

2人は驚いてこちらを向き、外へ出ることはなかった。

「死にたくなかったらさっきまでいた場所に戻って」

2人が現れたのはこの建物の中心付近。間違っても灰に触れることはない。
1人は怖がった顔で指示に従ってくれたけど、もう1人は表情を変えずにこっちを見ながら指示に従った。まるで銃に慣れているかのようだった。
2人のうちの1人、紫髪の子がまず話しはじめた。

「私たち、この世界のことがよくわからないんだよね。あなたはこの世界の住人なの?」

もしこの世界の住人ならば、何を言っているのかと疑問に思う問いかけだ。でも、私はその質問の意味を知っている。
私は立場を上に見せるため、銃を下ろさずに問いかけに答える。

「いいえ、私はこの世界の住人じゃない。きっとあなたたちもそうなんでしょ?」

「そうなんだ。よかったらこの世界に起きていることを教えてくれない?」

「いや、まずはお互いのことを知るべきだと思う。警戒されたままだとお互いに疲れちゃうよ」

背の小さい子は対等な立場で話したいらしい。

「ごめんなさい、この世界に来てから人間不信になってしまったの。そう簡単に私のことを話す気はないよ」

「そう・・・」

背の小さい子が私の方へ歩いてきた。何を考えているの?

「止まりなさい!私は躊躇しないわよ!」

彼女は歩みを止めず、ついにその額を私の握る銃につけた。

「ソラさん!」

「ちょっと、何を考えて・・・」

ソラというらしい少女は何の躊躇いもなく私に目を合わせて話しはじめた。

「初めまして。私はソラっていうの。
あっちの子が結月つづり。
私たちは訳あってこの世界に今まで来ていたの。
でも不思議なことに世界が一変。辺りが終わった世界のようになっていて驚いているの」

こっちが驚いているよ。
不思議と、私は引き金を引けなくなっていた。
この世界に来て何度も引いてきたはずなのに私の人差し指は動こうとしない。

「私、落ち着いて一緒に話がしたいな」

「・・・」

「だから、銃を下ろして」

私の頭は混乱していた。
イレギュラー、予測不能なことだらけのことを処理できずに私はとうとう膝を折り、うなだれてしまった。

「大丈夫?!」

結月つづりという女の子が慌てて駆け寄り、私を支えてくれた。
この世界に来て久々に味わったこの感覚。懐かしくて目尻が熱くなってしまった。

「ね、ねぇ・・・」

私は顔をあげて答えた。

「ごめん、何もかもが久々で、びっくりしただけだから」

「ならよかった」

結月つづりは振り返ってソラという少女と話しはじめた。

「ソラさんは無理しすぎだよ。何も銃口を額につけなくても」

「まあ心検査するには一番手っ取り早いし。でも撃たれたらどうしようってヒヤヒヤしていたよ」

「やっぱりしてたのね」

「でも信じていたから、この人は絶対撃たないって」

「なんで、初対面の人を信じれるのさ。ただでさえこんな感じの世界なのに」

私の言葉にソラという少女とつづりという人は顔を見合わせてそのあとそろってにっこりと笑い、ソラという人が答えた。

「だって、私たちを信じてほしいなら、まずはあなたを信じるのが大事でしょ」

知らない世界へ飛ばされた私は、元の世界に戻れないという理由でどこか荒んでいたのかもしれない。

でも、いま目の前には元の世界に戻れる可能性がある。
私はこの時、この人たちに賭けてみようと思った。目の前に現れた、微かな希望なんだから。

「なら・・・」

私が口を開くとつづりとソラがこちらを見てきた。

「なら、私も信じてみようかな、あなたたちを」

「もちろんだよ!よろしくね!」

手を差し伸べてきたつづりと手を結び、私は彼女たちと行動するようになった。

 

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