次元縁書ソラノメモリー 1-8 あなたは私たちが怖いですか?

近づいてくる生命体の反応を知り、私たちは物陰に隠れていた。

一瞬で体が溶けてしまう恐ろしい灰の中を歩けるとなれば出会った瞬間何をされるかわからない。

次第に足を踏むたびに起きる振動が伝わるようになってきた。一歩にかける重量は大きく、はっきりと足跡がつくのもうなずけるほどだ。

私が感じた生命体の反応はついに建物の隣まで来た。

建物を過ぎようかというところで生命体の集団は皆バラバラと足を止めた。

「其処に居るのは何処の人ぞ」

鼓膜を振るわせずに受け取った声は、確かに私たちへ向けられた言葉だった。

バレてる!

「この暖かさ、なんと久々であろう。そしてこの世界とは違う存在、懐かしくて久々に脳みそを使ったわ」

集団で話しているようで確かに私達にも伝えている。どうしたいのこいつらは。

物陰に隠れているから姿も確認できない。けど、姿を晒すことによるリスクの方が大きすぎる。

隣を見るとまたソラさんが飛び出そうとしてるからなんとかして抑えないと。

人でもない存在に同じ手が通じるはずが。

いきなりブリンクが立ち上がって謎の存在の前に姿を晒していた。

何やってんの?!

「あなた達は何者ですか?話はそれからです」

「恐れはないのか、異世界人」

しばらく沈黙が続き、ブリンクが口を開いた。

「あなたは私たちが怖いですか?」

「ない」

「ならば同じです。わたしもあなた達を恐れません」

話に夢中になっているとソラさんが立ち上がっていた。なんであなた達姿を晒したがるの!

「お互い恐怖心がないとわかったところでお話ししましょ、この世界の人たち」

仕方がないからソラさんが話した後にわたしも姿を晒した。

わたしが目にしたのは2メートルほどある身長と広い肩幅、そして白い毛皮を着込んだ大男が9人いた。

「我らを人と見てくれるのか、我々自体も人の自覚を失いかけていたところだというのに」

「ダメでしたか?」

「悪くはないな」

喜ばしいという感情は伝わってこなかった。もはやこの人たちには、感情という概念が存在しないのかもしれない。

ソラさんが話を切り出した。

「わたしはこの世界のことについて知りたいのです。かつて東西で技術を競い合うだけだったこの世界に、一体何が」

少し沈黙があった後、一番前の大男が話し始めた。

「手短に話そう。全てはお前達のような異世界人から始まったことだ」

この世界二次元移動した人がいただなんて。

「彼女は元の世界へ戻るために未知の力を使い、西の大陸で権力を高めていった」

「やがて彼女は東の素材を欲し、東陸連合へ戦争を仕掛けたのだ。争いを知らなかった我々は、新たな刺激に夢中となってしまい、このような状況を招いた」

「その彼女、というのはどこへ?」

「欲していた素材を手に入れ、我らを実験台として使用した後に異世界へ消えた」

「あなた達は、いったい」

わたしは思わず言葉が漏れてしまった。

「我らは不死の禁術から生まれた化け物。老いることもなければ生み出すこともできない、生きるだけが罪の存在よ」

もうなんと声をかければ良いのかがわからなかった。

同情の言葉や代わりに怒ってしまうことも彼らにとっては無意味になってしまうだろう。

「もっと、教えてもらえないですか?」

ソラさんはさらなる情報を欲していた。

「異世界人、何故この世界の顛末を望むのか。この世界は間もなく無に帰するというのに」

「わたしはこの世界が美しかった頃を知っています。だから、せめてこの世界が確かにあったという記録が欲しいのです。例えどんな終わり方をしてしまっても」

静寂の中、ソラさんは大男から目を逸らすことはなかった。

「そうか」

大男はそう呟くと後ろにいた大男の方へと向かった。

「リーダ、感謝します

そう一番後ろにいる大男が伝えると、リーダと呼ばれている大男はその大男の頭を思いっきりえぐった。

「ひっ!」

ブリンクは思わず叫んでしまった。

この光景に動じない私たちはだいぶこの光景に慣れてしまったんだなと感じた。

しばらく肉をえぐる音がして大男が差し出してきたのは脳みそだった。その大きさは私たちの頭ほどの大きさだった。

「彼女は脳みそから記憶を見る技術を持っていた。ならば、同じ条件のお前達にはこれを渡すだけで十分だろう」

「語っては、くれないんですね」

思念というのは事実を伝えるにはどうしても私念を交えてよく伝わらない。事実を知りたいのだろう?」

伝言ゲームのように伝わる伝説を思い起こせばわかるが、途中で物事を大げさに見せて事実とは異なった内容で伝わることが多い。

そう考えると見聞きしたものが純粋に伝わる方法が、記憶というわけか。

「ではありがたくいただきます」

ソラさんが脳みそをバッグにしまうとブリンクが話し出した。

「あの、その人を殺しちゃったんですか?」

我らは死なない体を手に入れても脳だけは失うと肉体は生きていても動くこと、想いを伝えることが不可能となる」

確かに肉は動き続けていて、血も際限なく溢れ続けている。

「そうやって殺せるなら、お互い殺しあったほうが楽じゃないの?

ブリンクはなかなかエグいことを聞くな。

「異世界人、この世界では救いを乞うために偶像の存在を崇拝している。ある聖者はその偶像からの信託だと語り、人殺しをすると天へ召されることはないとほざいた」

この人は信者なの?違うの?

「我々は長きに渡りその偶像を心の支えとしてきた。そのため人殺しはこの世界に残り続けてしまうという固定概念が根付いてしまったのだ」

「でもあなたは今命を奪ってしまった」

「そうだな。私は天に召されることなく消滅するのだろう。なぜ今までこうしなかったのだろうな」

この時、私は最悪の状況を考えて身構えてしまった。

彼の語りは、初めて知ったことに興味を持った口ぶりだったからだ。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-7 確かに存在したという証としてね

「うそ、あの灰の中を歩けるだなんて」

「ブリンク、見たことなかったんだ」

「うん、灰に触れて死んだ人しか見たことなかったし」

「死んだっていうのは、呼吸できなくなったとかじゃなくて?」

「もっと酷いよ。肌が溶けて、骨と服しか残らなかったもの」

話を聞くあたり、有機物を溶かしてしまう灰だと考えられます。

灰を吸い込んだときに何かが起こるのではなく、話の通り触れるだけで危険な代物のようです。

私は2人に1階へ戻ろうと声をかけ、下まで降りました。

「何をしようとしてるの?」

「まあ、ちょっと勿体無いけど」

ブリンクの問いかけに曖昧に答えたあと、私はカバンからおにぎりを1つ取り出し、半分に割りました。

「ミヤビさん、粗末にしてごめん」

そう私は呟くと、灰が被っている床へ半分のおにぎりをアンダースローでゆっくりと投げ入れました。

すると、灰を被った半分のおにぎりはドロドロの液体状になってしまったのです。

「うわぁ、これは灰に触れたら終わりだね」

つづりんの少々面白げな言葉に対し、ブリンクは少々不思議な顔をしていました。

「食料も溶けちゃうんだ。有機物全般が溶けちゃうのかな」

ブリンクも独自に分析を行っているようです。

「溶けるとはいっても、爛れる過程はないから、液状化しちゃうだけだね」

「爛れるって、どういうこと?」

溶解させる物質が肌にかかると、部分的に溶けてしまうため皮だけ溶けて肉はまだ溶けない状態になります。この時に溶けきらなかった皮膚や肉の組織がゼリーのように体へくっついたままとなります。

被害を受けた生物は溶ける際に熱さと痛さを伴うため非常に苦痛に感じてしまうのです。

「皮膚だけ溶けて、火傷したみたいな状態になることだよ」

ざっくりいうとこんな感じ。

「でもさっきのおにぎりを見る限り、溶けるのが一瞬だったよね?

「その爛れるだかいう状態を私は見たことがないね」

通常では考えられないスピードで溶かすこの灰は、一瞬で液状化させてしまう危ない物質だということがわかりました

どうやって発生したかはさておき、灰についての危険性だけは明らかになった。

「それで、灰を調査したところでどうするの?」

「私たちは訪れた世界について記録する活動をしてるからね。その一環だよ」

「このなくなってしまいそうな世界も記録するの?」

「なくなってしまうからこそ、記録してあげる必要があるんだよ。確かに存在したという証としてね」

「ふーん」

聞いてその反応なのか。

人によって考え方は様々だけど、確かに存在したという証は記録してこそだと思っています。

語り継ぐのも1つの方法だけど、それは伝える相手がいるからできること。

記録はそれに対して時が経過して伝える人間がいなくなっても、いつまでも伝えてくれます。

存在がなかったことにされるのは、とても辛いことだから。

しばらく3人で灰が降る白い世界を眺めていました。

風もなく、音が聞こえることもない灰だけが動いている世界。

動くものがあるのに、そこから動きが連鎖していかない不思議な世界。

どの次元でもいえることですが、必ず概念が存在します。
その次元で生まれた存在であれば何かしらその次元の概念に囚われることになります。
水も、風も、空気も、そして生物も。

次元から概念がなくなるということは、その概念に囚われている現用や物体自体が存在できなくなってしまうことになります。

現状を見るに、この世界はすでにいろんな概念がなくなってしまっているかもしれません。

ふと気づくと灰が少しずつ左側へ傾いていました。同時に隣にいたつづりんが目を見開いて左側の壁方向を向いていました。

「どうしたの?」

ブリンクの問いかけから少し経って小声でつづりんが話し始めます

56人くらいの気配が近づいてる」

「でも、こっちの方向って

ブリンクとつづりんが見る壁の奥は辺り一面灰が積もるだけの世界

人は一瞬で液体となってしまう死の灰が降る世界。

でも確かに、灰の世界から歩いてくる生命集団がいたのでした。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-6 まったく、お前はどこからきたんだ?

CPU計画』

原子と分子の衝突エネルギーが利用され始めてかなりの時が過ぎ、技術の発展は飛躍し続けた。しかし、肝心の保有者が飛躍せずに技術だけが先に行き過ぎた。

それがこの世界の惨状だ。

この計画は逃げる行為に値する。

隠密行動でしか行動が行えないため、参加者はこの世界にはいない存在として今までの全てを捨ててもらう。

各々の存続のため、この代償を容認できるものは国連重要管理区「日本」へ集まるように。

 

別次元から来た死体が所有していたものの1つだ。この世界の人と思われる単語がいくつも見て取れたけど、「日本」という単語はこの世界に存在しないし私も知らない。

次にソラさんはカバンから本のようなものを取り出した。

ソラさんの左隣から覗き込むと、どうやらこの死体の日記のようだ。

計画参加はいいものの、到着先の実験でよくわからない場所へ来てしまった。

ここは今までいた場所とは違うようだが一体何が起きたんだか

外の様子から察するにここは今までいた世界とは別の世界ということだ。

詰んだ

日記を書く気力があるだけまだいい。食料はかろうじてもといた世界と似ていた。ほぼ同じといって間違いない。

それにしても外の光景、まるで今までいた世界の末路のようだ

最悪だ。外の白いものは雪じゃなく灰のようだ。これは触れるとヤバイとわかる

あの地獄の光景を思い出してしまい、最悪だ。

人を確認したが、いや人ではないな

あの生命体は灰で狂ったやつだ

生き残れてもああフラフラするならアンデットと変わりない。やはりあの計画自体は間違ってなどいなかった。

せめて、実験の過程でこうなって欲しくはなかったが

銃声がした

どうやらキチガイが今までこの建物にいたようだ

だいぶ下だがいずれ見つかるだろう

逃げ道はない

今まで身につけてきたゲリラ的戦い方で通用するか?

日に日に迫る銃声

音はハンドガンだが玉数に制限がなく感じる。

この世界の銃はどういう仕組みなんだ

薬莢が出る様子もない

下から逃げてきた人と出会った

犯人は殺すことを楽しんでいるらしい

極限状態だと人も獣へと戻るのか

逃げてきた人と距離をおき、1人で行動している。逃げてきた人物ほど怖いものはない。それで親友を失っているからね

彼女には悪いが

犯行人物がこの階にきた

気づかずに去っていったが、今度は降りてくる。もう銃声は聞こえないだろうから常に気を配らなければ

 

日記はこのページで終わっていた。日記のページ数を見るに10間はまともに生きていた様子がうかがえる。

この日以降の日記は記載されていないけど、死体の腐敗度からしてかなり時間が経過している。

そう考えを巡らせているとソラさんは日記と紙切れを持ったまま死体の前でしゃがみこんだ。

「まったく、お前はどこからきたんだ?」

私にはわかる。この人とこの次元のつながりは全くない。さらにいうとこれと別世界とのつながりも感じられない。因果から外されてしまったかのようだ。

各建物で日記のような惨状が続いていたのであれば、この灰に囲まれた世界にもう生物はいないだろう。

この終わった世界はそのうち静かに消滅して行くのだろう。ここまできたら今まで積み上げられたものもただの塵芥に過ぎない

でもこの人は記録してしまうのだろう。ソラさんはそんな人だ。

消えそうな世界も見捨てず記録として残す。それがこの活動の目的だからね。

「つづりん、これのつながりは見える?」

ソラさんが手前に突き出してきたものはCPU計画と書かれた紙切れだった。

「どうもこれが臭いと思うんだよね」

「焦げ臭いのはそこらへんのせいでは?」

「そうきたか」

乗ってみたがイマイチだったか。

「なんであなたたち余裕なのよ」

ブリンクは苦笑いしていた。声のトーンから察するに、だいぶ心の余裕はできたってとこかな。

「まあこの計画が書かれた紙からは因果の糸がいくつか見えるよ」

この資料をもとに様々な次元を訪れればもとのありかがわかるかも

「この書物の処遇は後回しにしようかな」

そう言ってソラさんは資料をカバンにしまった。

ファミニアで使用されているバッグは腰に固定する手のひらサイズであり、軽い。

でもしまうことができる量はサイズに見合わないほど多く収納できる。

製作者たちによると、4畳分の高さ2メートルある部屋に収まるくらいの大きさと量であればいくらでも仕舞い込めるらしい。

やったことないからわからないけど。

頭で思い浮かべればしまったものをすぐに取り出せるので構わず仕舞い込んでもまったく問題がない。

「さて、ここでは調べないといけないことがありそうだね」

「と言うと?」

私が問いかけるとソラさんはしばらく外を見た。

そして、外を見ながら答えた。

「この灰についてと、灰の中生きてた生命体についてね」

外を見ると、そこから見えたのは灰を踏み潰した複数の足跡だった。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-5 まあ、いろんな場所に行ってますからな

 元の世界へ戻れるかの保証はありません。

 実は次元渡りも万能ではないのです。安全装置として元の世界へ戻るためにはカナデとアルの応答がなければならないという仕組みにしてあります。

 今回は向こうとの通信が途絶えた状態だから正直焦っています。

 なんとかなるなるというゆるい考えで正気を保ちつつ、今行っているのは情報集め。この世界の案内人を連れることに成功したものの、実は名前を聞いていませんでした。

「ねえ、あなたの名前教えてくれる?」

 この世界にいた女の子は少し悩んでいる様子でした。まだ疑っているのか、別の問題でもあるのか。

一呼吸置いて彼女は答えます。

「ブリンク。しばらくはこう呼んでもらいたいな」

本名ではないとの断言は出来ないかな。世界によって名前の法則も意味も違うし。

「じゃあブリンク、確認したいけどこの建物ってもう調べ尽くしてあるの?」

「私がこの世界に来てずっといた場所だからね。生きてる人も、食べ物もないかな」

「んじゃ、向こうのビルにでも行こうか」

 つづりんが槍を手に取りながら向かい側に見えるビルを目指しました

「待って!私が危ないって言ったこともう忘れたの?」

 ブリンクは慌てているけど、まあ無理もないか。

「大丈夫だよ、この灰に触れることはないからさ」

 縁結の矛に沿って黄緑色の輪が矛先へと近づいていき、その輪が向かいのビルの床へと撃ち出されます。

輪が床へ命中するとその場が黄緑色に輝き、つづりんとわたし、ブリンクの足元も輝きます。

「え、なになに!?」

 ブリンクが驚いてあたふたしているうちにわたしたちは向かえにあるビルの床の上にいました。

「うそ、空間移動だなんて、お母さんも苦労して手に入れるのが叶わなかったのに」

 空間移動の概念を知っているということは、かなり技術か知識が発展した世界にいたのかな。

 「すごいでしょ、これで目に見える限りの建物へは灰に触れず移動ができるよ!」

 つづりんが得意げに話していると、ブリンクのお腹の虫が鳴きました。

「さっきの言い方だと食べ物に困っている感じだよね」

私は朝の騒動で大量に残ったおにぎりをブリンクに渡します。

「ソラさん、持ってきてたんだね」

「あのままあっても消えるだけでしょ」

私の掌の上にある竹の葉にくるんであったおにぎりをブリンクは素早く掴み、そのまま2個をペロッと食べてしまいました。

「なにこれ?!これ本当におにぎり?!具も入っていないのに美味しいんだけど!」

おにぎり知ってるんだ。ほんと、どの世界にもおにぎりって存在しているんだなぁ。

ブリンクはおにぎりを食べ終わってから一呼吸置くと、別人のように元気になっていました。

「いや〜元気でたわ。ありがとう!」

ブリンクは軽快な足取りでビルの階段へと向かっていきました。

「ほら、早いとここのビルを制覇しちゃおうよ!」

感情エネルギーは人を変えるんだなと思った瞬間でした。まあ、あれが素の彼女だろうけど。

この世界の建物は安全地帯であると同時に生き延びようと容赦のない人が身を潜めるデンジャーゾーンでもあります。
戦いを知らなかったこの世界に身を潜めるための地下施設という概念はなく、地下にはライフラインと言える電気と水だけが駆け巡っています。

そのため、非常食というものを備える習慣もありません。

この世界に残る食料は、建物に備え付けてある小規模な保存庫にしかありません。
中身によっては10日くらいなら余裕で生きていけるらしいです。それ故に保存庫の前を陣取る人も多いです。

何事もなく4階へたどり着くとブリンクは踊り場で私たちへ止まるよう合図を出しました。
彼女が指差す先には銃弾の跡があり、まだ少しだけ腐肉が残った人だったものがいました。

ブリンクが銃を構えて慎重に銃弾が放たれたであろう部屋の中を探索し始めました。

人だったものは右の大腿骨と左中心寄りの肋骨に銃弾の跡がありました

銃弾に限りあるこの世界で脳を狙わないのは意外です。この人だったものにした人物は、あまり命を奪うことに慣れていない人かもしれないです。
心臓を撃ち抜いても、しばらく意識があって一矢報いられる可能性がありますから。

「大丈夫だよ」

ブリンクが声を出して呼んだということは完全に警戒モードを説いた様子。

「死体を見ても動じないということは、2人もこう言った状況には慣れっこってことかな?」

「まあ、いろんな場所に行ってますからな」

つづりんはにへらっとした顔で答えました。

「この部屋にも人だったものが転がっているね」

私の目に止まったのは唯一頭蓋骨が貫通された人だったもの。
その迎えには心臓をダイレクトに撃ち抜かれたであろうものがいました
この頭蓋骨を撃ち抜かれたものがあの踊り場のものをやったのかな。見事に一矢報いられちゃって。

「ソラさん、こいつだけおかしい」

「ん?人の殺し方をこいつだけ知らないってことが」

「どこからそんな考えが浮かぶのさ。この死体、この世界の人じゃないよ」

ブリンクが驚いた顔をしている中、わたしはそばにあったバッグを漁りました。
その中にあった紙切れは、この世界のものではないと同時に、とても重要なものだでした。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-4「まずはあなたを信じるのが大事でしょ」

この世界に来てどれほど経っただろう。
見渡しても建物だった瓦礫の山と高くそびえたつ石の塊となったビル。
そして、絶対に触れてはいけない白い灰が降り続いている。
ここに来てしまった方法もわからず、戻る方法もわからない。

どのみち朽ちることしかできないというのに、生存本能が邪魔をして生きようとしてしまう。
その結果握ってしまったこの拳銃ですでに何体もの命を奪っている。
彼らも必死だったんだろうが、私には関係ない。生きるために必要だったんだから。
こうしてまたお腹がすくまで瓦礫の隅でうずくまるしかない。

「いたっ!」

「って、なによ、これ・・・」

人の声がいきなりして驚いた。
そもそもまともに言葉を発する人自体が久々だった。
いつからかは知らないけど瓦礫の向こう側にいる。

「もしかして飛ぶ場所間違えた?」

「不干渉次元がおかしかったから、変な場所につながっちゃったのかも」

「そんなことある?」

2人いると思われる会話から察するに、きっとこの世界の人ではない。私以外にも紛れ込んじゃう人がいるなんて。

「あるとの交信も途絶えちゃったし困ったなぁ」

「まあ調べるだけ調べてみようよ」

足音が近づいてくる。いざとなったらこの銃で。
でも2人の足音はそのまま外へと向かっている様子だ。どうしよう、このままじゃ2人とも死んじゃう!
忘れてしまったと思っていた良心が咄嗟に反応し、私は銃を握って瓦礫から身を晒した。

「動かないで!」

2人は驚いてこちらを向き、外へ出ることはなかった。

「死にたくなかったらさっきまでいた場所に戻って」

2人が現れたのはこの建物の中心付近。間違っても灰に触れることはない。
1人は怖がった顔で指示に従ってくれたけど、もう1人は表情を変えずにこっちを見ながら指示に従った。まるで銃に慣れているかのようだった。
2人のうちの1人、紫髪の子がまず話しはじめた。

「私たち、この世界のことがよくわからないんだよね。あなたはこの世界の住人なの?」

もしこの世界の住人ならば、何を言っているのかと疑問に思う問いかけだ。でも、私はその質問の意味を知っている。
私は立場を上に見せるため、銃を下ろさずに問いかけに答える。

「いいえ、私はこの世界の住人じゃない。きっとあなたたちもそうなんでしょ?」

「そうなんだ。よかったらこの世界に起きていることを教えてくれない?」

「いや、まずはお互いのことを知るべきだと思う。警戒されたままだとお互いに疲れちゃうよ」

背の小さい子は対等な立場で話したいらしい。

「ごめんなさい、この世界に来てから人間不信になってしまったの。そう簡単に私のことを話す気はないよ」

「そう・・・」

背の小さい子が私の方へ歩いてきた。何を考えているの?

「止まりなさい!私は躊躇しないわよ!」

彼女は歩みを止めず、ついにその額を私の握る銃につけた。

「ソラさん!」

「ちょっと、何を考えて・・・」

ソラというらしい少女は何の躊躇いもなく私に目を合わせて話しはじめた。

「初めまして。私はソラっていうの。
あっちの子が結月つづり。
私たちは訳あってこの世界に今まで来ていたの。
でも不思議なことに世界が一変。辺りが終わった世界のようになっていて驚いているの」

こっちが驚いているよ。
不思議と、私は引き金を引けなくなっていた。
この世界に来て何度も引いてきたはずなのに私の人差し指は動こうとしない。

「私、落ち着いて一緒に話がしたいな」

「・・・」

「だから、銃を下ろして」

私の頭は混乱していた。
イレギュラー、予測不能なことだらけのことを処理できずに私はとうとう膝を折り、うなだれてしまった。

「大丈夫?!」

結月つづりという女の子が慌てて駆け寄り、私を支えてくれた。
この世界に来て久々に味わったこの感覚。懐かしくて目尻が熱くなってしまった。

「ね、ねぇ・・・」

私は顔をあげて答えた。

「ごめん、何もかもが久々で、びっくりしただけだから」

「ならよかった」

結月つづりは振り返ってソラという少女と話しはじめた。

「ソラさんは無理しすぎだよ。何も銃口を額につけなくても」

「まあ心検査するには一番手っ取り早いし。でも撃たれたらどうしようってヒヤヒヤしていたよ」

「やっぱりしてたのね」

「でも信じていたから、この人は絶対撃たないって」

「なんで、初対面の人を信じれるのさ。ただでさえこんな感じの世界なのに」

私の言葉にソラという少女とつづりという人は顔を見合わせてそのあとそろってにっこりと笑い、ソラという人が答えた。

「だって、私たちを信じてほしいなら、まずはあなたを信じるのが大事でしょ」

知らない世界へ飛ばされた私は、元の世界に戻れないという理由でどこか荒んでいたのかもしれない。

でも、いま目の前には元の世界に戻れる可能性がある。
私はこの時、この人たちに賭けてみようと思った。目の前に現れた、微かな希望なんだから。

「なら・・・」

私が口を開くとつづりとソラがこちらを見てきた。

「なら、私も信じてみようかな、あなたたちを」

「もちろんだよ!よろしくね!」

手を差し伸べてきたつづりと手を結び、私は彼女たちと行動するようになった。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-3「なにがどうなっているのさ!」 

情報屋から戻ってくると、つづりさんとソラは以前行った世界について話していた。
ボクたちindementionは4人の力を合わせて多次元へ飛んではその世界の情報を多次元目録へまとめている。

つづりさんの力は繋がる力。その力は日とのつながりを見ることができるだけでなく、別次元とのつながりも観測でき、そこへ移動できるというすごい能力だ。でもこれには欠点があり、つながってもいつのどこに到達するのかが不安定であり、基多次元へ戻る方法もない。


そこで使用されるのがつづりさん用に作られた武器『縁結の矛』が始点と終点を指定する。これはソラの記憶する力を縁結の矛と連携できるようにしているからであり、始点と終点を結んでいるのはつづりさんの力。


また、つづりさんが行えない移動先の座標と時間指定はボクが作ったヘアピンとカナデさんが使用できる集音の力で調整を行っている。
ヘアピンでは周囲の画像情報を収集し、ヘアピンを通しての会話も別次元通しで可能となっている。このヘアピンで音を収集し、音を記録できないソラのため、カナデさんが音を記録できる形に変換してくれる。
ヘアピンで集めた音情報は記録するために集める以外にも、周囲の状況を大まかに知ることができる材料にもなっている。とんだ先が空中なのか、水中なのか、はたまた地中なのか。
これで判断を行い、座標の調整を行っている。
これが完了すればその世界へ再び行くことになっても安全と判断された座標へ再び飛べばいいだけなので、二回目以降は初めて行くよりも簡単だ。
今二人が逝こうとしている世界は逝くのが二度目の世界だからヘアピンを通して座標と時間を共有するだけで十分。あとは映像と音声を拾って記録を行えばいいだけ。


記録先は映像と音を記録できる水晶で、これには記憶ができる量に上限がある。だからボクと二つの要素を一つの本へ記録する。その本を開くと映像と音声が立体的に再生され、原本はソラに記録される。
こうやってボクたちはお互いのできることを共有し、支えあっている。

「それじゃ、よろしく!」
「任されましたよっと」
つづりさんが専用の武器を具現化させると石突を床につけた。すると、淡い黄緑色の光がつづりさんとソラを包んだ。

「座標、時間共に前回の離脱時期に指定」
縁結の矛に埋め込まれた宝石が光り、足元は円形にエメラルドグリーンに発行している。
「んじゃ、留守は任せたよ」
ソラがそういうと縁結の矛が宙に浮き、宝石が眩く光った。するとソラとつづりさんの姿が消え、部屋にはボクとカナデさんが残った。
どうやら二人は無事に次元以降に移れたようだ。

情報屋の不安が気になるけど。

次元移動中は周囲にピンク色の意図が縦横無尽に絡み合い、時々光る粒子が飛び交う不思議な空間に入ります。その中にある一本の糸をわたしとつづりんが飛ぶように目的地へと移動します。
この空間はとても不確かで、観測が不可能なので不干渉う次元と呼んでいます。この次元からすべての次元に行けるようなので、この膨大な空間の中に多次元が広がっているのかもしれません。
もし始点と終点を見失ってしまうとと、不干渉次元をさまようことになり、どこかわからない次元に放り出されてしまうでしょう。
これもあくまで憶測だけど。

次元移動をしていると突然つづりんが話し出します。
「ソラさん、この空間ってこんなに光の粒子少なかったっけ」

改めて周囲を見渡してみると、確かにいつもより粒子の数が少ない、というよりも全くない。
すると突然大量の粒子が降りかかってきて周囲の意図が大きく揺れ始めました。
「ソラ!つづりさんにつかまって!}
ヘアピンから聞こえた声に反射的に反応し、わたしはつづりんへしがみつきます。どうやら声の主はアルのようです。

何があったのかと問う間もなく、真横からショックウェーブが襲い掛かってきました。つづりんは苦しい表情になりながら次元間のつながりを維持していました。
今までに経験したことがないショックウェーブによって周囲の意図は次々とちぎれていきます。そして、ちぎれた糸がデタラメにつながっていったのです。
「なにがどうなっているのさ!」
つづりんの問いかけに対してヘアピンから声は聞こえてきません。

私とつづりんが通っていた糸もついに切れてしまい、私たちは終点へ吸い込まれていったのです。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-2 正夢の噂、ですね

 

料理地区『ヨシペル』

 この地区には食料人、料理人が集まっていて地区の中央にある掲示板には取引内容が提示される掲示板があります。この内容は重複して受けるということが可能であり、取引内容の争奪戦が起きることはありません。
 だからといって食料を必要以上に受け取るというのはナンセンス。
 この世界の食料は、適切な保存方法を行わない限り、一日で光の粒子として消えてしまいます。
 保存方法ももちろん専門の能力をもった者に頼まなければいけないため、かえって手間がかかります。

 そういうわけで、この地区では人が絶えません。

 私たちが向かっているミヤビさんの店の前ではとても慌てた様子のミノと、話に付き合って疲れ切ったミヤビさんがいました。ミヤビさん、ごめん。
「ぬぁ~、私っていつもこうやりすぎちゃうかな」
「ミノ、私もう疲れたんだけど。はやくカナデちゃんを探しに行きなよ。こんなところで慌てられてもこっちが困っちゃうよ」
「だめだよ、前に一度謝るためにぶっ飛ばしちゃった子の家に行ったら、入れ違いになってまた騒ぎになってさーあああ!」
「うーん、おちついてよ~」

 相当参っているミヤビさんとミノのところへカナデがすごい勢いで迫っていった。
「ミノ!何が新しい意識の伝達方法さ!伝わる以前に拳を交えないから何もわからなかったじゃん!」
「よかった、やっと戻ってきたね。それじゃあさっそく伝えること伝えるからそこに立っててね」
「は・な・し・き・け!普通に話せばいいじゃないか!」
「今回伝えることは大事なんだよ、他人に知られるわけにはいかないからさ」
「だからって、人を弾道ミサイルにする必要ないでしょ!私たちん家にぶっ飛ばしたのは意図的か?!」
「おお、そこは大成功か」
「勝手に納得すな!」
 二人がコントを始めてしまったので私はミヤビさんのところへと静かに行きました。ミヤビさんの店のカウンターにはメモにあったよりも多くおにぎりが用意してありました。海苔の数はメモ通りでした。
「ごめんねミヤビさん、なんか巻き込んじゃって。」
 カウンターへぐでーんとしたミヤビさんが顔だけをこっちにぬるりと向けてきます。
「そらさぁ~ん、疲れたよ。カナデちゃんがメモより多く米を持ってきたらしくて多めのおにぎりを作ってたんだけどさ、外で爆裂音がしたらミノが慌てだして」
 だからおにぎり多かったんだ。
「そーしたらミノと目が合っちゃってさ。ずっっっと!ここで話を聞いていたのさ」
 さ、とミヤビさんの開いた口におにぎりを当てます。
「おにぎり食べて落ち着いて。感情エネルギー結構持ってかれちゃってるみたいだからさ」
 口だけでもぐもぐとおにぎりを食べたミヤビさんは少し元気を取り戻したらしく、カウンターから起き上がった。
 「まあいいけどさ。早くミノを連れて行っちゃって。他のお客さんが困っちゃってるから」
 ミヤビさんから多めのおにぎりを受け取り、コントを繰り広げている二人のもとへと向かいました。
「2人とも、落ち着いて朝食としようよ。アルとつづりんも」


 ヨシペルの奇麗な花畑がある中央公園。そこで5人でおにぎりを食べていると、ミノが伝えたいことはただ私を呼んできてほしいということだけだったようです。
「ユーカラさんが周りの人へ知られないように、か」
「情報集めが得意なユーカラ、まあ私のパートナーである彼女の頼みだからね、この命令を破るわけにはいかなかったんだよ。だったら拳で伝えるしかないじゃないか」
「だからって吹っ飛ばすか普通」
 カナデは落ち着いたようだがまだ怒っているようです。
 おにぎりを2個食べ終えたアルは私たちへ提案をしました。
「それならこのまま情報屋さんへ行こうよ。ソラへ伝えたいとはいえ、ぼくたちにはいずれ伝わることだろうし。ぼくたちが付いて行っても問題はないよね」
「ん、まあ彼女はソラさんが所属する多次元目録に用があったみたいだから大丈夫じゃないかな」

 多次元目録

 私たちのチームは『indemention』というチーム名で行動を行っていて大抵の人は多次元目録と呼んできます。
 多次元目録は今まで訪れた世界について記録する書物のことであり、私の力を使って記録を行っているため、いくらでも記録を行うことができ、消えることもありません。時々私の見解を綴ることはありますが、見聞きしたことをそのまま記録しているので間違いはありません。
 これをたまに報酬として要求されるので何冊外部へ出回ったのか分かりません。さすがにそのまんま渡すわけにはいかないので、普通の本として何千部と分けて渡しています。

 ユーカラさんもそのうちのひとりであり、多次元の世界があることは知っている人物です。

 ミノに連れられて情報屋に来た私たちは、4人で中に入ってもいいか聞きに行ったミノを待っていました。
「ユーカラさんが名指しするってことは、また本が欲しいってことかな」
 つづりんが不思議に思ったのかそう話を切り出すと、答えたのはカナデでした。
「いや、この前本を渡したときだって私たちが情報屋に頼みごとがあったときだよ。情報屋から名指しなんて、この世界ではミノくらいだったんじゃないかな」
 不思議だねーという空気になっていたら、ミノがみんな入ってきてと手招きをしてきました。


 部屋の奥にある水晶の置かれた机の後ろにユーカラさんがいました。
「あ、あの、み、みの、が、めいわ、くを、おかけして、しまい、す、す、すみませ、ん・・・」
 ユーカラさんはこの世界にある噂を水晶を通して収集できる力を持つ代わりに、極端なコミュ障という欠点があります。
「いえ、私たちは気にしていませんから」
 ユーカラさんは一呼吸おいてむすっとした顔をミノに向けます。
「ミノが素直に伝えないから」
「まって、私は素直に命令を聞いただけだよ?!」
 ユーカラさんが唯一スムーズに話をできるのはミノだけです。付き合いが長いからかな。

 私は気持ちを切り替え、真面目に話を切り出します。
「それで、伝えたいこととは何ですか」

「みな、さん、夢、はご、ぞんじ、ですか?」
「うん、ちょうどソラさんが今日見たみたいだよ」
「そう、ですか」
 ユーカラさんがミノに合図を送ると、ミノは両手をこちらに向けてきた。
「ユーカラじゃ伝えるのに時間がかかるから、みんな、拳を繋げあって」
 6人が拳を合わせると、脳にユーカラさんの言葉が響いてきました。
「実は、昨日の夜に突然睡魔に襲われたという人が多数出現したと噂で流れてきました」
 私に訪れた現象と同じ。
「そして、その人たちは皆、夢を見たというのです。その夢の内容ははっきりしていて、記憶に間違いがなかったとのことです」
「それはおかしいですよ。夢はソラさんのように記憶をとどめておける能力がなければメモリーに残ることがないはずです」
「つづりんの言うとおりだけど、そのうわさ話を考えると、第三者の能力による影響が高い可能性があるね」
「私が伝えたかったのはこの噂に関することです。実はこの夢、事実になってしまうのです」
「正夢の噂、ですね」

 ミノは拳を離し、心の共有は終わりました。
「彼女が伝えたかったことはここまでだね。私たちがこれについて何かお願いすることはないよ。ただ、注意喚起を行いたかったということだけ」

 正夢か。私の見たあの光景も、いつか見ることになるのだろうか。

 私たち4人が情報屋から出ようとしたとき、ユーカラさんが一言アルに伝えている様子でした。まあ、家で話を聞くとしましょう。

「ユーカラさん、情報ありがとうね!」
 多次元目録の皆さんが去ったと、わたくしはミノに話しかけます。
「ミノ、わざとわたくしの心の一部を遮断したでしょ」
「私はキミの言うことは何でも聞くからね。伝えてって言われたことだけ伝えただけに過ぎないさ。信憑性のない噂を聞かせるわけにもいかないでしょ」
 変に器用なんだからこの子は。
「多次元にわたる異変の始まり、それを伝えていたのがこの正夢の噂の真実であり、この噂の発信源は」
「CPU」
 ミノが少しびっくりした顔をいたしました。
「この世界を軌道エレベーターの先で見守る監査機関。夢をよく知る子からそんな話を聞いた。そして、わたくしもその正夢を見た」

「わたくしは世界の終わりを見ていた。あのソラさんが、仲間を撃ち殺すという」

 部屋の中のろうそくが一ついきなり消えた。あれは因果に変化が起きたときに炎が消える変わったろうそく。

 多次元を渡る彼女たちならば、知らず知らずに多次元の異変に気付くだろう。だからわたくしは彼女たちに揺さぶりをかけたのです。

 あの光景が、正夢にならないように。

 

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次元縁書ソラノメモリー 1-1 ここはファミニア


 私はこの世界で仲間とともにいろんな世界を観測し、調査し、記録を行ってきました。この世界を支配するモレウの概念により、ここまで来れたのは、みんながいたからだと思います。

 とある2人は、歴史から抹消された事件で生き残り、路地裏で私を見つめていました。

 とある1人はオンラインゲームと属される世界のモンスターとして紛れていたこの世界の仕組みから逸脱した存在でした。

 そして、とある1人は崩壊するサンドボックス型の世界から意識が消失する前に連れてきました。

 選りすぐったわけでもないのに、自然と集まってしまった私たち。
 最初はいろんな世界に行って楽しむだけだった次元遡行もいつの間にか、この世界の真実を探るための行為となり、挙句の果てにはここまで来てしまったのです。
 きっと、触れてはいけないものに触れてしまったのでしょう。知ってはいけないことを知りすぎたのでしょう。

 私から見えるのは、水越しに見える2人の姿。
 見覚えは、ないです。
 でもどこか懐かしく、憎らしく思ってしまう2人の姿。思い出そうと思っても濃い霧のように右も左も分かりません。
 見つからない。見つからないはずがないのに見つからない。いったい何が私の能力の邪魔をするの?
 しかし、なぜか込み上げてくる罪悪感。
 この世界で起こしてしまった事件は、私のせいだと、それだけはわかる。とてもだが、ここから出ようとも思わない。ここでこうして、罪を償うことしか私にはできない。
 それでも、動かなきゃ始まらない。
 私の意識はいくつもの自我が混ざったように混濁した思考となっていやがった。

「ソラノメモリー、これさえあればこの世界はどうでもいいの」
 2人いたうちの1人がうなだれながらこちらに向けて独り言を話していた。その声を聴いていると、1つの意識がはっきりとしたのです。
 だから、今度はこの力で守らないといけないんだ。
 怒りや後悔の意識はすっかりと無くなり、1つの意識が私を支配しました。水中を前に向かって進むとガラスのような何かに触れてしまい、ここから出ることはできないようです。
 そして、私の目の前にいる彼女は向こう側からガラスに触れ、私を見つめてこう言い放ったのです。

「お願い、答えて・・・ソラ・・・!」


 青空の下、いつも植物へ水をあげているのはアルくんだ。早起きさんは心も豊かなのかねぇ、アルくんは気配を察知したのかこちらを向いて笑顔で挨拶をした。「おはよう、つづりさん!」
私も挨拶を返し、他の2人の行方を聞いた。
「カナとソラさんは?」
「カナデさんは朝食の調達に行っていて、ソラはまだ寝ているみたい」
 アルくんが呆れたように言っていたので、どうやら元々朝食準備はソラさんが担当だったらしい。
 なら、私は朝の挨拶担当になろうじゃないか。さて、どう起こしてあげようか。
 この世界の睡眠は、実はそこまで重要ではない。記憶の整理の必要もなく、遺伝子レベルで睡魔へと誘うわけでもない。あえて目的があるといえば、夢を見るため。
 夢の邪魔をしちゃうけど、起きてもらわないと始まらないしね。

 さて。
 ソラさんが眠っている部屋の扉を開き、足を一歩踏み出したとき、空に閃光が走った。その光は家のガラスを突き破り、私の目の前の床の木材を吹き飛ばして現れた。
 顔が思いっきり床にめり込んでいる。なんで朝食担当代理が空からICBMのように飛んできたんだ。
「イッたい。いやー、ここまで朝食ゲットが大変とはねぇ」
 顔をめり込ませながら独り言を言っている。何があった、カナ!
「イッたい、じゃないよ!びっくりした上に少しズレていたら一体化するレベルで激突するところだったんだけど!」
「何そのたとえ・・・」
 床からすっぽ抜けた顔には呆れた顔があった。いったい何度見たかねその顔は。しかもこれまでのことがあってまだソラさんは寝てるし。
「朝食担当代理、メニューはあらかじめアルくんから聞いていたはずでしょ?引き換えの要求も知っていたはずでしょうに」
 体を重たそうにカナは立ち上がり、木屑を払ってキリッとこっちを見た。
「うん、しっかりとメモは見たよ。そしてしっかり料理の段階まで行った。問題はそれからでさ」
「問題?」
 朝食調達の手順に問題はなかったようだ。それなら何かトラブルに巻き込まれたって感じかな?
 考えを巡らせていると、すぐにカナは話しはじめた。
「いつも通り和食料理が得意なミヤビさんに頼んだんだけど、そこで拳の使い手ミノとばったり出会っちゃったというわけ」
 どこの世界に好戦的な者がいる。ミノは相手と拳を交えることで相手と気持ちを共有できる能力をもっている。適当に拳をぶつけ合えばいいのに、ミノは拳の交え方の実験といって多くの人々に全力でぶん殴ってくるという。最近は相手に了解を得ることを学んだらしいが、カナはなぜ吹っ飛ばされたんだか。
「断ろうとしなかったの?」
「そりゃ断ったさ。でも交換条件が現実味のある噂って切り出されて、気になっちゃってね」

 現実味のある噂

 このように言われると大抵は疑ってしまうが、ミノの親友に情報屋がいる。おそらくその情報屋からもらった情報だろう。あの情報屋の情報には何度も助けられているし、信用できると考えるのは容易なことか。
「それで吹っ飛ばされるとか本末転倒じゃん」
「うーん、あの右ストレートはすごかった。心の中に何かが流れたかと思ったら1人をミサイルにするほどの一撃を放つとは」
 もはや気持ちを共有させるという域を超えた右ストレートな気がするが、報酬となる情報を逃すのはもったいない。私もついていくか。
「んじゃ、朝食を取りに行くときにでも右ストレートの報酬を聞きに行こうか」
「そだねー」

 話をしていると慌てた顔でアルくんが下から駆け上がってきた。
「ちょっと、なにがあったの?カナデさんが顔だけ天井からのぞかせたときは思考が止まっちゃったよ」
 そうか、顔が一時床にめり込んだんだっけ。確かに衝撃とともに顔だけ覗かせているってかなりホラーだよね。誰でも思考は止まるわ。
「右ストレートでミサイルになっちゃったんだって」
「え?」
「いろいろ端折りすぎでしょ」
 カナのツッコミを受けていつも通りな気がしてすがすがしい。
 3人で話していると、ソラさんがむくりと起き上がった。まだ覚醒中なようで、目の前の状況を確認しているようだ。
「おはよう」
 挨拶担当の私は、逆にあいさつされてしまったのだった。

 3人から挨拶を返されると、椅子に座って寝ていたからか長めの伸びをしたソラさんは改めて周りの状況を確認した。
 しばらく周りを見て見ていたソラさんをよそに、アルくんはドアのほうへと歩きながら止まっていた話をつづけた。
「それで、どうしてこうなったの」
 困り顔になるのも無理はないよね。
 私がカナの経験したことを話している間に、アルくんはこちらに耳を傾けながらこの部屋に修復のコードを実行した。

 この世界の建物は質量をもった粒子体からできていて、間取りや建物の大きさを変えることはできないが、壁紙や傷、崩れてしまった部分はあらかじめ決められたコードを建物に触れながら心で唱えると、粒子が反応して修復、再構築を行う。

 ここまでの顛末を話し終える前に部屋の再構成は完了した。
「どっちにしろ朝食を食べないと始まらないし、4人みんなで行こうよ。ね、ソラ」
「そうだね、みんなで行ったほうが情報共有にもなるし、確か私が朝食担当だったはずだからね」
 立ち上がりながらソラさんは話し、腰に手を当てると
「で、アル。朝食メモは?」
 私が行ったからこうなったんだよなぁ。
 きっとそうカナは思ったのだろう。まあ、ミノのことしか話さなかった私が悪いんだけど。


 私のおとぼけ発言についてああでもないこうでもないと話をしている間に、私たちは家を出て料理人が集まる地区『ヨシペル』へと向かいました。
 私はこの世界のことを思い起こしながら私はいつもの見慣れた風景を見つめました。

 ここはファミニア。

 この世界では今日のような出来事は日常茶飯事です。
 この世界の住人は必ず1つの能力を有していて、モレウの概念に支配されています。
 能力をもっているとはいえ、能力に関係あること以外の知識、技能は欠陥レベルで扱うことができません。そのため、私たちのようにチームを作ったり、コンビを組んで助け合うのがこの世界では普通となっています。
 今、料理人のところへ向かっているのも、この世界での料理は料理を作る能力をもった人たち、食料を生産できる人たちがいて初めて手に入れることができます。
 アルのメモに書かれている朝食のメモには、その日に食べる料理の内容、その材料を渡してくれる人から提示された取引内容、その達成に必要なことが書かれています。
 今日はおにぎりなので米と海苔。
 まあ、カナデが私の代わりに達成してくれたみたいなので、あとの内容は気にする必要はないでしょう。
 おにぎりを素人が作ろうと思えば作れますが、そこから得られる感情エネルギーは微々たるものです。
 感情エネルギーは、生死を分ける大事な要素です。
 モレウの概念によってこの世界の人は一定の段階で成長が止まり、細胞の老化、排泄といった概念もありません。その代わりに大事となってくるのが感情エネルギーです。
 感情エネルギーが枯渇すると怒りっぽくなり、最終的には狂気に陥り、理性と人格が崩壊します。つまり、死を意味します。
 そんな感情エネルギーについて思い起こしていると、話が一区切りした3人が新たな話題を切り出していました。それは、夢についての話でした。

 夢

 夢は睡眠という状態に入って一定の確率で見ることができるというものです。夢の内容は喜怒哀楽、風景も、周りの人もランダムで、とても複雑な構造をしています。
 その複雑さ故に、たいていの場合は見たとしてもほとんど覚えることができません。

 しかし、私の能力はすべてを記録する力。

 夢の内容を覚えるのは容易なことです。今回見た夢は、特別あやふやな内容でしたが。
 私が夢を見たのは、この世界にはないはずの睡魔が私に襲いかかったからです。おかしなことが起こるこの世界ですが、このことについては摩訶不思議。
 カナデがいうミノの知っている『現実味のある噂』に少々期待を込めていたのです。

 

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【自作小説】次元縁書ソラノメモリー

「肉体と概念のその先へ」

 

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1章 終わりが始まる世界
 1-1 ここはファミニア
 1-2 正夢の噂、ですね
 1-3 何がどうなっているのさ!
 1-4 まずはあなたを信じるのが大事でしょ
 1-5 まあ、いろんな場所に行ってますからな
 1-6 まったく、お前はどこから来たんだ?
 1-7 確かに存在したという証としてね
 1-8 あなたは私たちが怖いですか?