【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-5 神浜鎮圧作戦・その1

夜に襲撃があった際、私たちには全く被害が出ませんでした。

しかし昨夜の戦いはどうやらテレビでリアルタイムに流れた様で、日本政府は神浜の奪還を支持しているようでした。

ドローンによる索敵が行われていたことも考慮し、中央区に設置されていたキャンプは放棄して栄区と大東区に生活場所を移動することになりました。

今朝はその移動作業で大忙しです。

「何で移動しないといけないのさ」

「ドローンでどこに生活拠点があるか見られてたんだとさ。

居続けてもいいけど攻撃の的になるのは確かだよって言われて動かないわけにはいかないでしょ」

「また戦いになるの?嫌だなぁ」

移動作業中にドローンに覗き見されていないか偵察を行う魔法少女はもちろんいて、今のところは発見されていないようです。

さつきさんたちが滞在している竜真館も魔法少女が集まる場所として別の場所へ移動するよう推奨される場所に指定されていました。
この推奨される場所の指定というのは三重崎の魔法少女や灯花ちゃんたちが勝手に言っているだけで話し合いで決めたというものではありません。
みんなは多少疑問に思いつつも、危ないというならばということで半信半疑で別の場所へ移動を行っているところです。

「せっかく畑の準備ができてきたっていうのに、ここが戦場になる可能性があるだなんて」

「安全に暮らせる場所、まあここは他の場所よりましなんだろうけど全然落ち着かないな」

さつきさんとキクさんがそう話していると魔法少女になっていない子たちが2人に話しかけてきました。

「ねえ、ここ壊されちゃうの?なんで?」

「私たちを弱いものとしていじめてくるからだよ」

「また私たちの居場所を奪おうとするの?
それなら・・・」

「変ことを考えようとするんじゃない。
いまはキュゥべえがどこかへ行ってしまったし、変なことなんてできやしないと思うけどね」

「でも、本当に襲ってくるのかしら」

いつ襲ってくるか気を抜けないままお昼過ぎ。

中央区から魔法少女達がほとんどいなくなった頃、南側を偵察していた都さんから連絡がありました。

[軍艦と思われる集団が迫ってる。目視できても2隻や3隻じゃないぞ]

「船だなんて、そんな」

都さんのテレパシーは灯花ちゃんにも届いて、南側で生きている監視カメラを使ってその様子を確認しました
同じ部屋にいた私たちも、たくさんの軍艦が迫ってきていることを確認できました。

「空母級に巡洋艦複数…

もう国を奪う程度の戦力じゃん」

「砲撃どころかミサイルの嵐、上陸されたら多くの兵士が傾れ込んでくるだろうね」

「これだと地上にいることが危険かもしれないわ」

「迫ってきているのは軍艦だけじゃないはずだよ。

陸に空、あらゆる侵攻ルート、方法で迫ってくるとみていいだろう」

「それやりようあんのか?」

やらないとこちらがやられる状況、でもみんなには死んでほしくない。

「昨夜同様に好戦的なメンバーにだけ前に出てもらいましょう。
他のみんなは自分を守ること優先で」

「それじゃダメだよ」

やちよさんの意見に灯花ちゃんが反対します。

「まずは艦隊をどうにかしないと何も解決しない。

一方的にミサイルと砲撃で蹂躙されるだけ。

自分の身を守るのはやるべきことをやってからだよ」

「海上戦なんてできる子いたかしら」

これからどうしようか考えている時に偵察を行っていた時女一族の子から連絡がありました。

[武装した集団がこっちに近づいてくるよ!]

今は私たちにできることをやるだけ。

「私たちは動けない子達の救助に専念したいんだけど、みんなはどうかな」

「それでいいと思います」

「私もそのほうが良いと思うわ」

「何だよ、倒しに行かないのかよ」

フェリシアちゃんは少し不満そうでした。そこへ鶴乃ちゃんがフェリシアちゃんに話しかけます。

「フェリシアは人を躊躇なく殺せる?」

「そりゃできるぜ」

「じゃあ、当たったら終わりな弾が当たって二度と動けなくなる覚悟もある?

「それは、二度と動けなくなるのは嫌だけど」

「それは覚悟が決まっていないって言うのよ。無理をする必要はないわ」

「フェリシアちゃんが私たちを守ってくれたら、ありがたいなって思うんだけど」

「2人がそこまで言うなら、仕方がねぇな」

「ちょっと、私もでしょ!」

私たちが部屋から出て行こうとすると私は灯花ちゃんに呼び止められました。

「お姉さま、海岸と北の境界には近づかないでね、絶対だからね」

「う、うん、わかったよ。みんなにも伝えておくね」

私は”なぜか”を聞かずに外へと向かいました。

私たちが部屋から出ていったタイミングで2人は話を始めました。

「そうやって詳しく伝えない」

「だって、教えたら絶対反対されるだろうし」

「人体に悪影響な波長を設置した拡声器から発して、気絶に追い込む。

敵を無力化できるかもしれないが魔法少女にも影響がある。

ある意味前線に出る子達を餌にすることになるだろうが、お姉さんには反対されていただろうね」

「さっきも話していたけど、覚悟ができた子達が前に出ているんだから、少しくらいいいじゃない?」

「まったく。うまく行かなかった時の次は準備できているかい?」

「もちろん。

火薬があまりなかったから、地味なことしかできないけどね」

「あったら何をする気だったのか」

「2人とも、会話が怖いよ・・・」

部屋に一緒に残っているういとワルプルガさんはただただ二人の会話を聞くことしかできませんでした。

 

 

武装した集団が迫っていることはテレパシーで伝えられ、魔法少女達は個々人で判断して行動し始めました。

十七夜さん達は

「我々がありのままでいられるのはここだけだ。

精一杯争わせてもらう。

君たちは戦えない魔法少女たちの避難を優先してくれ」

「何言ってるんですか十七夜さん」

「私たちも一緒に行きますよ」

「…無事に帰れると思うなよ」

「わかってますよ、1人で抱える必要はないですって。それだけですよ」

 

みふゆさんたちは

私たちは戦えない魔法少女たちの救助と避難を支援する動きをとりましょう。

ひとまずは北養区のフェントホープ跡地周辺に避難しましょう」

「わかりました!」

「やっちゃん、どうか無事で」

 

結奈達は

「ここで踏ん張らなければ二木市に戻ることさえ叶わないわ。

昔の因縁は一度胸にしまって目の前の脅威を排除するわよ」

「アオさん達を助けに行かないといけないっすからね」

「何だっていい、思いっきり暴れさせてもらうぜ」

 

ちはる達は

「静香ちゃんが出てくるかもしれないから、私は前に出て戦うよ。

でもみんな揃っている必要はないよ、ちゃんと逃げてよ」

「大将を呼び戻すチャンスだ。

他の血の気の多い奴らに倒されるなんて事態は避けたいだろ」

「私たちは精一杯生き残ります。だから、ちゃるも無理はしないで」

 

三重崎の子達は

「まさかサバゲーじゃなくて実戦をやることになるなんてね」

「実際に生身の人間を撃ち抜く、私たちにちょうどいいじゃないか」

「当たったら終わりはこちらも変わらない。

自衛隊だってアンチマギアを使ってくるだろうからな」

「まずは他の魔法少女への支援を優先しよう。あいつらに索敵の脳はないだろうからな」

「積極的に動いていた夏目の奴らがこんな時にいないなんて。

あいつら今は何をしているんだ」

 

魔法少女が動き出したことは自衛隊側は把握していました。

「魔法少女に動きあり。

我々の前進行為を察知して行動を開始したようです」

「我々はサピエンスの部隊とは完全に別行動だ。

行動不能になった敵味方の魔法少女達の救助、及び神浜外へ流れ弾が出ないかの監視、魔法少女達の行動監視が優先だ」

高田一佐は自衛隊への指示を終えた後にディアにつながる回線へ切り替えます。

「サピエンスの科学者、会議中にも言ったが作戦範囲外に被害が出ることは厳禁だ。

それは気をつけてくれ」

「わかっているさ。そっちこそ、SGボムの使用は渋るんじゃないよ。

場合によっては敗因に繋がるんだからね」

「…承知している」

「それじゃあよろしく」

ディアは回線を切り替え、試験艦のディラン大佐に繋ぎます。

「大佐、データは昨日送った通りよ。

昨晩魔法少女達が溜まっていたと思われる場所へ対地ミサイルの発射をお願い」

「信用して良いのだな」

「日本はデータ収集だけは優秀よ。

仮に魔法少女へ直撃したとしても、そいつらの運が悪いだけだから」

「いいだろう」

ディラン大佐は回線を切り替え、艦隊全体に指示を出した。この回線はマッケンジー達の部隊へも繋がっていました。

「これよりカミハマシティ鎮圧プログラムを実行する。

第一フェーズの実行を開始する。

各艦は事前通知していた地点へAM -2ミサイルを発射せよ」

試験艦及び巡洋艦の対地ミサイル用のハッチが開き、上空に向けてミサイルが発射されました。

魔法少女達にミサイルを迎撃する手段などなく、着弾すると思われる場所から離れることしかできませんでした。

ミサイルは大東区、中央区電波塔跡地、竜真館周辺へと着弾し、爆発と同時に周囲へアンチマギアが拡散されました。

またAM -2ミサイルには液状化されたアンチマギアが試験的に採用されており、爆発と同時に周囲へ散布されました。

しかしその散布範囲は狭く、着弾した地点から半径50m程度しか液状化したアンチマギアがばら撒かれず、粉末状のアンチマギアは予想値よりも周囲に離散してしまい、濃度が薄い状態になっていました。

「AM -2ミサイル、予定距離も250m狭い範囲にしか散布されていません!」

「サピエンスにクレームを入れとけ!

不良品を出すんじゃないとな」

ペンタゴンで観測を行っているイザベラの元へ直ぐにディラン大佐のクレームは届けられました。

「見てたから分かってるって。

カルラ、AM -2ミサイルを担当した技術者に繋げなさい」

「イザベラ、あれはヨーロッパでの最終テストを行う前の規格で作ったものだ。

搭載する前に伝えたはずだ」

「だからって散布範囲が半分以下ってどう言うことよ」

イザベラの隣で座っているカルラはだるそうに持っていたタブレットからAM -2ミサイルの設計図を見つけ出してイザベラに見せつけるように画面を押し付けました。

「液状、粉末ともにミサイル着弾後に上空へ飛び出し半径250m散布予定だったがそれぞれの射出容器の強度が足らず着弾と同時にミサイルの火薬と共にその場で爆発してしまう欠点はすでに洗い出されている。

データの再度洗い出しを行わせず容器強度をおおまかな数値でGOを出したのはお前だ。

クレームを入れられるのも当然だ」

「ヨーロッパの武器庫が破壊された影響がここまでとは」

イザベラはディラン大佐へ回線を繋ぎます。

「ディラン大佐、AM -2は試験艦へ搭載できる想定積載量よりも倍の数を搭載させています。

それで制圧を続けてください」

せっかく撒いた粉末状のアンチマギアが離散しすぎて使い物にならんぞ」

「ちっ、言わないとわからんか」

「レディ、立場をわきまえろ!」

怒るディラン大佐の言葉に耳を貸さず、AM -2ミサイルの設計図を少し見た後に軽くタブレットで計算した後にイザベラは試験艦へ向かってデータを送ります。

「設置起爆ではなく時限起爆に変更しなさい。

変更コードは送ったわ。

それを適用させたところで多少の誤差は出るからそこはそっちで調整しなさい」

「この数分でコードを書き換えたのか」

「文句を言う前にさっさと対処しなさい」

隣で一連のやりとりを見ていてキアラはディラン大佐を気の毒に思っていました。

天才だからかその場で修正を当たり前だと思っていたのか何なのか不良品を少しでも使えるよう数分でミサイル起爆のシステムにコードを埋め込もうだなんて、誰が思いつくか。

試験艦からはコードが書き換えられたAM -2ミサイルが3発神浜市へ飛んでいき、上空500mで爆散していきます。

液状化したアンチマギアは隙間が生まれたもののほぼ半径250mに撒き散らされ、粉末状アンチマギアは想定以上の範囲へ濃度を保ったまま散布されました。

これらのミサイルに直撃する魔法少女はいなかったものの、親しみのあった場所が爆撃されたことに悲しみを感じる魔法少女達は多い様子でした。

「目標値達成。次のフェーズに向けて索敵ドローン、散布ドローン発進」

「第ニフェーズに移行。

ドローンにて魔法少女がいると思われる場所へアンチマギアの散布を開始する。

地上部隊は鎮圧マニュアルの実行を行え」

マッケンジー達は待機状態から変わらず、動き出したのは人間側についた魔法少女達でした。

「ドタバタはあったがなんとかマニュアル通りの運びになったか」

ドローンは予定通り中央区中心に外側へ魔法少女が逃げるよう誘導開始。

魔法少女反応もカミハマシティの外側へ広がっていきます」

「北部の押さえ込みは囮に任せろ。

我々は海岸の安全確保を優先する。

S班は索敵に専念し、沿岸部分にいる魔法少女を洗い出せ。
E班、W班は囮と自衛隊が完全に機能しなくなってから動き出せ。

的になるのは自衛隊だけでいい」

マッケンジーが指示を出し終わったあと、近くにいた兵士がマッケンジーに話しかけます。

「我々の出る幕はあるでしょうか」

「常に最悪のケースを想定して動かなければ簡単に死ぬものだ。

それに相手は非常識な連中だ、今こうしている間にも地面が割れて奈落に落とされるかもしれない

「さ、流石にそれは」

「可能性はゼロではないと思う程度でいい。

我々が動くのは艦砲射撃が一通り完了してからだ。その時にどうなっているか」

 

一方、神浜市の様子を観察しているペンタゴンでは不審な影を捉えていました

「レディ、中華民国から軍艦が数隻発進しているようです」

そういえばあいつらこのタイミングで軍事演習とかほざいていたわね。

しっかり監視しておきなさい。

あとは予定通り中華民国以外に対魔法少女条例違反時の対応連絡を出しなさい」

「ロシアにも伝えるのですか?!」

「あそこはすでにサピエンスの犬よ。

構わず伝えなさい。こんなところで裏切るほど奴らに度胸はないわ」

「了解!」

キアラはイザベラに話しかけます。

「本当にこの機会に日本をものにしようとするだなんてあるのか」

「うちの国に工作員を散々潜り込ませていて、さらにはあの脳内のデータよ。確信よ」

「人間に対してもあれを使ったのか?!」

「誰が魔法少女用と言った?

やらかしそうな国なんて調べがついているのよ。

邪魔なんてさせないわ」

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-4 神浜鎮圧作戦・下ごしらえ

キュウべえが姿を消したと知ってから数日が経過

日が沈み、夜と呼べる頃になった時間帯の出来事でした。

北の方角から以前に神浜を奇襲した武装集団とは別の集団が迫ってきていました。

灯花ちゃん達がいるコンピュータ室でその武装集団の姿を捉えた時、兵士と随伴する車両に記載されていた文字は。

「自衛隊?!」

神浜の境に入るあたりで自衛隊は歩みを止め、スピーカー越しにこちらへ語りかけてきました。

「神浜市に籠城する魔法少女達に伝える。

無駄な抵抗はせず、投降しなさい。

そうすれば、互いに辛く、痛い思いもせず穏便に事が済む。

君たちと殺し合いは行いたくない。

どうか、人と共に歩むという選択をしてくれないだろうか」

神浜にいる魔法少女達は自衛隊の呼びかけを聞いて直ぐには動き出せずにいました。

それは、私たちも同じです。

「投降って、でも、今捕らわれるなんてことになったら」

間違いなくアンチマギアプログラムに従って人としては扱われない

「投降したからって、過去と同じ生活には戻れないってのはみんなわかっているはず」

「とは言え判断するのは個々人の自由だと思います」

「いろは?」

私は知りたかった。

ただ周りに合わせているだけで、実は人間と一緒にいたいと思う子達がこの神浜にいるのではないか。

神浜中を歩いて分かったけど、決してここでの生活は快適なものではない。

ここでの生活を望まない子がいるなら、これはいい機会かもしれない。

そう思いを巡らせていると、灯花ちゃんが何かをしようとキーボードに手を伸ばそうとしていました。

「待って!」

「…お姉さま?」

「もうちょっとだけ、様子を見させて」

灯花ちゃんは呆れた顔でキーボードから手を離します。

「しょうがないにゃぁ」

他の魔法少女達がどう出るか伺っていると、誰も自衛隊の方へ行こうとする子は出てきませんでした。

15分近くは状況が変わらずにいました。

しかしついに自衛隊が動き出しました。

「回答がないならば、保護を目的に立ち入らせてもらう」

自衛隊が用意した照明が神浜を照らし、自衛隊はゆっくりと中央区に向けて進軍を開始しました。

「あいつら入ってくるよ!」

「抵抗していいのか、どうなんだ!」

神浜の魔法少女は誰かの指示がないと動き出せないのか次の行動に出れずにいました。

「自衛隊が動き出したのに、みんな動こうとしない?」

「人間社会のあり方が刻まれていれば、指導者の指示を待つのは当然だろう」

ねむちゃんがそう言い出すと、マイクがある方向に指を刺しました。

神浜マギアユニオンという組織を作ってしまったのはおねえさんだ
お姉さんの言葉ひとつでみんなは動き出してくれるだろう」

「でも、私はみんなに戦ってなんて言えない。戦いたくない子だって、いるだろうに」

みんなが何も言わない中、声をかけてきたのはワルプルガさんでした。

「ならば思いを伝えるだけでいいんじゃないかな」

「思いを?」

「スピーカーなんて使わなくても、あなた達にはもっと便利な情報伝達手段があるでしょう?」

テレパシー

確かに思いは届けやすいけど、そんなに遠くまで、しかも複数人に届ける方法なんて。

「でも、どうやって複数の子達に」

「くふふ、あの人たちはすごいにゃぁ、こうなることを予期していたんだから」

そう言って灯花ちゃんは引き出しから小さな機械がついたインカムを取り出しました。

「これをつけてテレパシーを使うと、余裕で神浜中の魔法少女に思いを届けられるよ」

「あなたそんなものまで作れたの?!」

やちよさんの驚きはもっともです。

いつの間にこんなものを。

「天才を侮らないでほしいな。

ほら、みんなを指示待ち人間から解放してあげて」

私はインカムを受け取り、装着してみんなにテレパシーで伝えました。

「それじゃあ、やってみるね」

私は神浜にいる魔法少女全員に伝えることを意識しながら想いを伝えます。

“みなさん、これからどう行動に出るかは個々人にお任せします。

戦おうと、逃げようと、投降しようと。

抗いたいという人は、私に力を貸してください!”

そう思いを伝えると、自衛隊の1人が何者かに頭を撃ち抜かれていました。

自衛隊は一斉に抗戦する体制に入り、戦車が前へと出ます。

銃弾を放ったのは、三重崎の魔法少女でした。

「勝手にしろっていうんだ、好きにやらせてもらう」

「久々に殺し合いができるんだ、楽しまないとなぁ!」

その後次々と射撃が得意な魔法少女が戦車に対して発砲を行い、前線を作っていきました。

「やれやれ、血気盛んな奴が随分といるじゃないか」

「勝手にしろというのだもの、私たちも勝手にさせてもらうわよぉ。

紫色の霧には警戒して戦車に近づくわよ。

目眩し用の照明弾は持ってきているわね?」

「もちろんっす!」

「じゃあ、敵の目を潰してとっとと片付けるわ」

「はい!!」

二木市の魔法少女達も動き出し、戦いが次々に始まっていきました。

「私達は戦わない子達の保護にまわりましょう」

「そうですね!」

私たちが部屋から出ようとする時、わたしはういのほうを見ましたが、特に動き出そうとはしていませんでした。

「私はここに残るよ、ワルプルガちゃんもいるし」

「うん、わかったよ、うい」

部屋にはうい、灯花ちゃん、ねむちゃん、ワルプルガさんが残って他のみんなは戦わない子達の保護に出ました。

自衛隊と交戦を始めた魔法少女たちは自衛隊をどんどん押し込みます。

しかしその戦いの様子を見て灯花ちゃんは疑問を抱いていました。

「なんでアンチマギアが使われていないのだろう」

「確かに、夜闇では視認が難しいのにわざわざアンチマギアを持ち出さないなんて」

「彼ら、本気で制圧する気ないんじゃないの」

「だったら何で」

ただ追い返すことだけを考えている前線の魔法少女たちは自衛隊への攻撃をやめません。

「神浜の範囲外へ追い出すだけでいいから。

無茶はしないでよ!」

「神浜から出ていって!」

魔力による遠距離攻撃に対応できるはずがなく、非常識に遮蔽物をえぐる攻撃に自衛隊は対応できていませんでした

非常識な結果に怯えて逃げる者、負傷した兵士を引き摺り、牽制しながら後退する者。

戦車も兵士たちの盾になるだけで主砲を撃ってこようとしません。

その様子に三重崎の魔法少女達は疑問に思っていました。

「主砲を使わないなんてナメてるとしか言えない」

「魔法少女を撃つことを躊躇しているというの?

国防の要のくせして!」

「…なんだあれ」

狙撃手であるツバキさんが真っ暗闇の空を見て何かに気づきます。

ツバキさんが狙撃銃のスコープで目にとらえた物体を観察すると、そこには滞空するドローンがありました。

「あんなの気付けるはずがない。

でも、これはまずい!」

何かに気づいたツバキさんはテレパシーで博さんへ報告します。

博さんは驚き、すぐにテレパシーで魔法少女達に伝えました。

[奴らの目標は偵察だ!

上空のドローンを落とさないと何もかも把握されるぞ!]

みんなが一斉に上空を見る様になり、射撃系の武器を持つ魔法少女達はドローンを見つけると次々と落としていきました。

しかしこの行動も自衛隊の思う壺だったのです。

 

 

自衛隊から出された前日奇襲の提案。

「魔法少女が危険な存在だと認識させるだって」

この国には魔法少女が危険な存在ではないはずと信じるものが多い
本土上空で航空機の使用許可が出されないのもそのためです」

「イザベラとの交渉でも航空機の使用は禁じていたわね」

「確実性を持たせたいというならば、今からいう作戦を本作戦前日の夜に実行させてください」

私はマッケンジーに目を向け、マッケンジーはこちらの目を見た後に首を縦に振った。

「で、その作戦というのは?」

「魔法少女達の攻撃を誘い、彼女達に撮影ドローンを撃ち落としてもらいます」

「ほう、それが恐怖心を煽ることになると?」

「国防の要である自衛隊が容赦なく追い込まれる、そんな様子を撮影ドローンで中継します。

魔法少女達がそのドローンをどう捉えるかまでは予想できませんが、戦況がのぞき見られていると勘付いて破壊してくるでしょう。

その破壊してくる様子も実況すれば、国のお偉いさん達も恐怖を感じて航空機の使用許可を出してくれるでしょう」

「なるほど、いいんじゃないかしら。

でも自衛隊には被害が出るわよ」

「…苦肉の判断ですよ」

そんなわけで前日の夜に実行された作戦は見事成功し、実況するキャスターは絶句している様子だった。

さすがと言わざるを得ないのは現地での自衛隊の対応だ。

死者は出ているが動きが早い日本の戦車らしく兵士への射線を車体で塞ぎ、後退の手助けをしている。

やられた車両は乗り捨て、そのまま盾にして撤退。

信号弾も出さずにドローンがやられたとわかれば素早く全員後退。元から撤退する前提だとしてもよく指示が行き届いている。

それに、撮影用に偵察用ドローンを紛れ込ませてこちらが試験艦で撃ち込むミサイルの標的はどこが最適かまで調べてくれた。

気が引けた状態とはいえここまでお膳立てしてくれたのは感謝しかない。

それに、現に航空機の使用許可が降りている。

条約違反だと罵られる覚悟で持ってきたヘリ達が気兼ねなく飛ぶことができるんだ。

本当に感謝しかない。

携帯端末で中継が行われている映像を流しながら、私はSGボムが装着された魔法少女達の様子を見てまわっていた。

A,B,C,Dの4班に分けていて、D班には最近神浜市から亡命してきた魔法少女が集まっている。

そこまで戦果は期待していないが、面白いデータがとれたらいいな程度には思っている。

こちらを睨む魔法少女達に対して、私は忠告の意味で話しかけた。

「変に戦場で逃げようとか、説得されて寝返ろうなんて思うんじゃないよ。

ソウルジェムにつけたやつが爆発しちゃうからさ、死ぬ気で同胞と殺し合えよ?」

その後誰も声を出そうとせず、面白くないと思ったところで1人の魔法少女が話しかけてきた。

「魔法少女が捕まったら、みんなこうなるんですか」

「動物園の猛獣の様に檻で管理するのも難しいからね。

思考力が高い相手には、命の危険で脅すしか方法がないのさ。

だって、人間って弱いし」

「だからって、爆弾をつけられるだなんて、酷すぎです」

「あんたの母親もそう言ってたねぇ。危うく叩き切られかけたけど」

私は話しかけてきた時女とかいう魔法少女のところまで近づいた。

「口で襲わないって言ったところでよ、守れないのが人間なんだ。
せいぜい口だけになるんじゃないよ。

しっかり神浜市にいる仲間とやらにもわからせてやれ。
そうすれば、少しは人間らしい生活に戻れるだろうさ。

私は保証しないがな!」

時女の殺意は感じられた。

背中を向けた瞬間切ってくると思い、去りながらSGボムのスイッチをちらつかせると、こちらには殺気を送る目線しか感じられなくなった。

ああいうのがある間は、SGボムの装着は必須だろうな。

さて、もう1人の私を起こしに行かないと。

そう思って控え室に行こうとするとマッケンジーが壁に寄りかかって考え事をしているのを目撃した。

そんなマッケンジーへ声をかけた。

「よう、あんた漫画やアニメは見るか?」

「…どうした急に。そんな暇はない」

「そうか。だが、今回はいつも以上に非常識なことが降り注ぐ戦場になる。
少しは見といたほうがいいぞ?

あれらにはたくさんの非常識がつまっていてためになる」

「もうすぐに配置につく時間だ。

そんなことできるか。

だが、常識を捨てる覚悟はできている」

「ほう?それはいい心がけだ。それではまた戦場で」

そう言ってその場を立ち去ろうとすると、マッケンジーは話しかけてきた。

「あんたは知ってるのか。

この戦いが本気じゃないってこと」

「そんなわけあるか。ここを手に入れないと後々困るってのはイザベラだって知ってることだ」

「ならばなぜ本人達が来ない。

イザベラとキアラが居るだけで俺たちの何十倍も戦力になる。

誰だってわかることだ」

私はマッケンジーへ振り返って指をさしながらこう言った。

「だったら死ぬんじゃねぇぞ〜。

ただ言えることは、この戦いはただのデコイだ。あたしらは捨て駒なのさ」

「お前、それって!」

「せいぜい背中には気をつけろよ。下手に言いふらしたら殺すから」

マッケンジーは何も言わなくなった。

そう、ここまで大規模に作戦をこしらえておきながらイザベラの本命は別にある。

ここにいる私も、あいつにとっちゃ捨て駒ってことだ。

全貌を知ったこっちにとっちゃ、イザベラはマジで頭がおかしい。

だってこのままじゃ・・・。

ほんとやべーよ、あいつ。
このままじゃ世界は魔法少女ではなくて、イザベラに滅ぼされるんじゃないかね。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-3 今はただ、間章に浸るだけ

キュウべぇが姿を消した。

前代未聞の状態に私達は困惑していた。

もう直ぐ世界中に自動浄化システムが広がると思っていた子達は落胆していた。

「いつも邪魔だと思うくらい直ぐに現れる奴が、大事な時に顔を出さないなんてどうなってるんだ」

「そうだよ。キュウべぇに頼るしか方法がないんでしょ」

「どこに行ったのかもわからないのに、探すだなんて」

私はわからなかった。

今の状態では、大丈夫だと言ってみんなを安心させられない。

どうすれば、みんなを安心させられるだろうか。

「自動浄化システムが見送りとなったのであれば、先に解決しなければいけない問題がある」

話を切り出したのはひなのさんでした。

「その問題って?」

「難民問題ってやつだ。

捕まらずに逃れていた奴らが、どこからここが安全と聞きつけたのか侵入してくることが増えた。

血の気が多い奴はまだ見たことないが、そんな奴らが来ることも考えるべきだ」

「それって、キュウべぇが伝えてまわっているってことかしら」

やちよさんがそう言い出すと、周りのみんなはきっとそうなのだろうと信じ込もうとしていました

それでみんなが納得できるならいいのだけれど。

「まあまあ、ここで生きるための課題は多いんだからそれらの解決に専念しようじゃないか!」

そう言いながら抱きついてきたのはつるのちゃんだった。

「鶴乃ちゃん!久しぶりだね」

「本当だよ。

ずっとみかづき荘で待っていたのに全然姿を見せないんだもの」

「ごめんね、色々バタバタしていて。

さなちゃんとフェリシアちゃんは元気?」

「うん!2人はみかづき荘の畑を手入れしてるよ」

「畑?そんな規模のものあったっけ」

「いろはちゃん達がいない間に庭を畑に変えていたんだよ」

「そうなんだ」

ひなのさんはしばらくこちらの様子を見ていて、私に話しかけてきました。

「久々の再会なのだろう?会ってくるといいさ」

「え、でも」

「ひとりで全て抱え込む必要はないわぁ。

頼れる人がいるならば頼らないと」

結菜さんが話に割り込んできたのは驚きましたが、そうかもしれない。

「お前、いろはと何かあったのか」

「さあ、何があったのでしょうね。

周囲警戒はこちらで勝手にやらせてもらうわ」

「わかりました。お願いします」

そう言って去っていった結菜さんの姿が見えなくなったくらいのところでひなのさんが話しかけてきました。

「信用していいのか」

「大丈夫ですよ」

「そうか。お前が言うならそうなんだろうな」

周囲を見渡すと灯花ちゃんとねむちゃんは知らないうちにいなくなっていました。

あとでキュウべぇのことを聞いてみないと。

私は久々にみかづき荘への帰路にいました。

いつもの道とは違って瓦礫が転がったままで、目に入る家の中には壁が破壊され、一部は血痕が残ってはいるものの肉塊はきれいに片付けられていました。

そんな風景を見てふと口にしてしまいました。

「ちゃんと片付いてる」

「そうだよ、いろはちゃん達が神浜離れてからとりあえず綺麗にしようってみんなで頑張ったんだから」

「あ、えと、そうなんだ」

鶴乃ちゃんが反応したことで私は口に出していたことに気づきました

「できることからやっていこうってことで、それぞれが思いつくことをやってきたらさ、それぞれ生きていくのが精一杯になっちゃった」

「多くの大人に支えられた環境だったもの。

私たちだけではうまくはいかないのは当然よ。

そういえば鶴乃は家には」

「無事だったよ、家だけは。

片付けはしたけど、またお店っていうには食材もそうだし私の腕もまだまだだし、

悲しい気持ちにしかならないからしばらく戻ってない」

「…そうなのね」

「でもいいんだ。お店自体無くなっていたらダメだったかもしれないけど。

お父さんとかの件は割り切れたから、オッケーオッケー」

いつもの辛い気持ちを偽った笑顔ではない。

本当に吹っ切れたかのような笑顔でした。

「私はまだマシだよ。

中には複雑な感情でふさぎ込んじゃった子がまだいたりで、みんなでどう立ち直らせようか考える時もあったから」

「やっぱりいたんだ、そういう子」

「暇見つけていろはちゃんも会ってきなよ。

今後の方針も見つかるかも」

それぞれが、個々人のことで精一杯。

私だってそう、ういが元に戻ったからいいけどそれまではまわりに目なんて向けられなかった。

だから、どうしたらいいのかもわからず。

「せっかくの帰路なのに、暗い顔をするんだね」

そう話しかけてきたのはワルプルガさんでした。

「ワルプルガちゃん?」

「お母さんだってそうだよ、一時は占領しちゃった場所とはいえ、みんなの家に帰る道なんでしょ?

笑顔じゃないと」

「ワルプルガ、あなた、やっぱり最初の頃より変わっているわよね?」

「そうかな?

目覚めたての時よりはまともになったというのは自分でも理解しているよ」

「だとしてもいきなり大人びすぎよ」

「魔法少女が魔女になった後、その魂はどこにあり続けるのか」

「え?」

「もしこの世に残り続けるものだったとしたら、魔女になった方の私の魂が影響してきたからじゃないかな。

私を生まれなおさせた者達は、ワルプルギスを取り込んで魂ごと修復しようとしたみたいだし」

「彼女達そんなところまで」

「とは言え、私はワタシ。

お母さんの子どもだよ」

そう言ってワルプルガさんはういに笑顔を見せました。

それに応える様にういもワルプルガさんに笑顔を見せました。

過去に生きたワルプルガさんも、こうやってみんなを笑顔にさせようとしていたのだろうな。

私達はついにみかづき荘に着きました。

自分の家のはずなのに、扉を開けるのに緊張してしまいます。

私はドアノブに手をかけ、そして自然とこの言葉を発したのです。

ただいま

扉を開いた先には片付けの手を止めてこっちを見るさなちゃんとフェリシアちゃんがいました。

2人ともに驚きと喜びが混じった様な顔をしていました。

「いろはさん、おかえりなさい」

「ほんとうにいろはなのか、急に前みたいに襲いかかってきたりしないよな?!」

「するわけないよ」

「やっと、みんな元通りになったんだな」

フェリシアちゃんはそう言いながら泣きそうな顔になっていました

「うん、これからはみんなでいられなかった時間を取り戻そうね」

「いろはーーー!」

そう言いながらフェリシアちゃんは抱きついてきました。

「やちよさんも、お疲れ様です」

「迷惑かけたわね、二葉さん」

「ういちゃん、元に戻った様でよかったです」

「さなさん、ご迷惑おかけしました」

こうしてみかづき荘はやっと元に戻ったのです。

「これからはワルプルガちゃんも仲間入りだよ!」

「そうか、ワルプルガさんはういちゃんにつきっきりだものね」

「改めてお世話になります」

今日だけでも、何も考えずみんなとの楽しい時間を過ごしちゃっても、いいかな。

こういうみんなが集まる時は鍋をやるのが一番ではありますが、食糧生産が安定していないのが事実。

今日の食材はどうしようという話になり、ついでに神浜の食料事情を見て回ろうということになりました。

今まで食材を集める場所であった商店街に行ってみるとかつての様な活気はなく、瓦礫を片付ける魔法少女達の姿しかありません。

今食糧のやり取りが行われているのは電波塔跡地の中央区です。

数は少ないものの、寄せ集められたものが仮設倉庫へと仕舞われており、今はそこに保存された缶詰等がなくなるまでに食料問題を解決しようというのが神浜の魔法少女の方針となっています。

「神浜が襲われるまでは畑の下地作りとか、狩りの仕方とかで解決の糸口が見えていたんだけど、このみちゃんとかが紫色の霧を受けて動かなくなっちゃってあんまり進展ないんだよね」

そう鶴乃ちゃんが説明している間に向かっているのは北養区。そこには狩りの手ほどきをしてくれる子達がいるようです。

「狩り関係は時女一族の子達が担当してるんだよ」

「確か静香ちゃん達がいるところだったかな」

「あんまり話したことはないけど、狩りの腕前は確からしいよ」

「それなら肉くらいはあるよな!」

「でも神浜ってそんなに狩れる動物なんていたかしら」

「そうなんだよ、そこが一番気になるんだよ」

そう会話しながら狩場にされている場所へ移動したのですが、思った通り山奥でした。そこは思ったよりも賑やかで、何人かの魔法少女が狩ったであろう動物を囲んでいました。

そんな魔法少女達の中には見知った子もいました。

「まなかさんもここにきていたのですね」

さなちゃんが声をかけたのはレストランで働いていたまなかちゃんでした。

「おや、みなさんお揃いで。

みかづき荘のメンバーが勢揃いだと微笑ましいですね」

「みかづき荘ってことはいろは殿もいるでありますか」

そう声をかけてきたのは、かつて水徳寺で門前払いをしてきた魔法少女でした。

「あなたは確か」

「おお、いたでありますか。

私は三浦旭。時女一族のメンバーであり、今はここで狩りについて取り扱っているであります」

「うわ、血だらけ…」

フェリシアちゃんがそう呟いてしまうくらいに旭さんの服には血がついていました。

「あら、時女一族の子だったのね。

一つ気になるんだけど、聞いていいかしら」

「長くなりそうなら後でいいでありますか。

ちょうど今獲物の解体途中でありまして」

「はい、では少しだけ待ちますね」

やちよさんと鶴乃ちゃん、さなちゃんは食い入る様に解体作業を見学していましたが、私たちには見ていられませんでした。

「お、オレは見覚えのある肉だけをもらうだけだと思っていたのに」

「ああいう生々しいのを見せられちゃうと、ちょっと色々考えちゃうね」

「わたし、あれはダメかも・・・」

「魂をいただくというのはああいうこと。

食糧になった生き物には感謝をしないと」

「…やっぱこいつ前とは違うな」

「ワルプルガちゃん、私より大人かも」

ワルプルガちゃんはポカンとした顔をこちらに向けてきました。

これが見た目は子ども、頭脳は大人ってやつなのでしょうか。

私達が解体作業が終わるのを待っていると山菜をたくさん持った魔法少女達が近づいてきました。

「あら、そんなところでうずくまって何をしているのですか?」

「えっと、動物の解体作業を見ているやちよさん達を待っていて」

「やちよ?!」

山菜を持っている1人の子が驚き出しました。

その驚きに反射で私も驚く声を出してしまいました。

その声を聞いてか解体作業を見ていた魔法少女達が集まってきました。

「なにかあった?!」

「い、いや、ちょっと驚いて声に出ちゃっただけで」

やちよさんの名前に驚いた魔法少女へまなかちゃんが話しかけていました。

「莉愛先輩、また他人に迷惑かけたのですか」

「何もやっていないわよ!」

「何もやっていないならこんな騒ぎになっていませんよ。

今の状況、叫び一つで警戒してしまうのくらい分かってください」

解体作業をしていた旭さんもこちらにきてしまっていたようで山菜を持っている魔法少女の1人に話しかけていました。

「ちか殿、戻ってきていたでありますか!

現在取り込み中でありまして、いろは殿に山菜について話をしてもらえないでありますか!」

「旭!こっちは山菜をまず片付けないといけなんだよ!

その後になるよ!」

「それでいいであります!」

そんな騒ぎもあり、解体作業が終わった頃には夕方になっていました。

どうしよう、先に灯花ちゃんのところへ行った方がよかったかな。

結局、山菜については整理される様子を眺めるだけだったし。

全てが落ち着いた頃に、やっと旭さんと話す機会ができました。

服についた血は綺麗になくなっていました。

ただ着替えただけ、だよね?

「さて、改まって聞きたい話とはなんでありますか」

「この狩場のことよ。

北養区は山奥の土地とは言え、動物の数にも限りがあるはずよ。

そこを考えて狩りを行っているの?」

確かに無闇に狩ると動物達がこの土地から去ってしまったり絶滅する原因になるであります。

でも我らは成長途中の動物、妊婦の動物や巣を直接襲うといったことを避けて個体数軽減はさせない様取り組んでいるでありますよ」

「そんなこと可能なの?」

「ちか殿が動物の声を理解できるゆえ、見た目で判断できない時は助かっているであります」

「え、すごい」

「そんな大したことはしていないですよ。

狩るかどうか判断するのは旭ですから」

「狩られすぎていないか管理しているのも我でありますよ。

狩りは無闇に、そして自由にやられては困るものでありますからな」

「そう、そこまで気が行き届いている様で安心したわ」

狩について話がひと段落した様なので私は時女一族のことについて旭さんに聞きました。

「あの、時女一族って今はどうなっているのか聞いていいですか」

「我らのことでありますか。

まあ情報は共有していた方がいいでありますかな」

「隠しても得もしない話でしょうからね。
今時女一族は分裂状態にあるんですよ」

「え?」

話を聞くと静香ちゃんと一部の時女一族が人へ捕まりに行ってしまったというのです。

まさか神浜にいたのにまだ人を信じようとする魔法少女がいたなんて。

「放っておくわけにもいかないでありますし、そのうち我らは静香殿たちを助けに行くことになるであります」

「そんな、危険すぎます!」

「まだ可能性の話ですよ。

ちはるさんもまだどうしようか悩んでいるところですから」

「そう、ですか」

「さて、ここに来たのは動物解体の見学だけではないのでは?」

「そうだよ、オレ達は肉をもらいにきただけだぞ」

「なら解体したての肉を一部持っていくといいであります。

そんな長く持つものではないので、今日中に食べ切ることをお勧めするでありますよ」

そうしてやっと目当ての食材が手に入ったのですが、時女一族の情報も手に入れられました。

明日も訪れないといけない場所が多そうです。

夜は久々にみんなで鍋を囲んで談笑することができました。

神浜にいない間は何をしていたのか、反対に神浜ではどう過ごしていたかを冗談交じりで話している間にあっという間に鍋は空っぽになってしまいました。

笑顔に囲まれた空間、さつきさんたちと過ごした時よりもキラキラした暖かい空間になっていました。

今まで何気なく、こんな中にいたんだなってしみじみしてしまいました。

 

翌日、私は灯花ちゃんのところへと直行しました。

ういとワルプルガちゃんもついてきた中、灯花ちゃんのところを訪れた理由はアンチマギアを受けた子がなかなか目を覚まさないという状況を知りたいからです。

普通の部屋よりも温度が下げられた専用の部屋に寝かされた子たちは、ソウルジェムが無事でも目を開けることはありません。

こうなってしまった原因は、アンチマギアが原因とは聞いていましたが詳細なことはわからなかったので、二人に聞きに来ていたのです。

「中には時間経過で目を覚ました子がいて、時間とともに効果が減衰するものであることは確かにはなっているよ。

でも目覚めない子はなかなか目覚めないし、即効性がある対策が急務なんだよ」

「それで、それはうまくいっているの?」

「アンチマギアが魔法の成分でできていることはわかったよ。

その魔法はあらゆる魔法を拒絶する効果があって、そのせいで体とのリンクが切られてしまっているみたい」

「じゃあ、ソウルジェム自体には悪影響がないの?」

使い方次第ではソウルジェムを機能不全にもさせることは可能だろう。

アンチマギアに漬けられたソウルジェムはしばらく外部へ魔力を放つこともしなかったからね」

「今動けない子は、どうすることもできないの?」

「体内のアンチマギアを取り除けられれば、かな。

もう肺の中とか腸内とか全て洗浄してしまえればいいんだけど」

「体内洗浄は流石に無理だ」

「じゃないとこの部屋に置いておいたって体が腐るだけだよ」

「そんな」

ういは動かない子をしばらく眺めた後に、こう呟きました。

「本当に何でも拒絶しちゃうのかな」

そのつぶやきに対してワルプルガさんが答えました。

「そうなんじゃないかな。魔法に該当するものは全部ダメかも」

「私達にはどうしようもないよ。

悔しいけど」

まだ起きない子達の体は腐敗が進まないよう、今よりも温度を下げた大きな冷凍庫へ保存しておくしかないだろう」

「そう、だね」

アンチマギアの影響を受けてしまうと対処方法がない。

使用している側ならば、対処法もわかっているのでしょうか。

寒い部屋から出て灯花ちゃんとねむちゃんが普段から使用している部屋へ案内され、みんなが椅子に座ったころを見計らって灯花ちゃんはワルプルガさんに質問しました。

「そういえば、ワルプルガに聞きたいことがあったんだよ」

「なに?」

「ワルプルガってさ、聖女として有名だったわけでしょ?

今のあなたからはそんな感じが見て取れないんだけど、歴史上のワルプルガとは別人なの?」

「私の中にはオリジナルの魂との繋がりはある。だからと言ってこの体へ人格や記憶も綺麗に反映されるとは限らない」

「どうして?」

「オリジナルが魔女になった後、その魂はどこにあるのか。

私を生み出そうとした存在は、もともとオリジナルの私を蘇らせる方法としてワルプルギスの夜を使用して、その中にあるであろう魂をそのまま活用しようとしたみたい。

でも倒されてしまったから蘇生や再現の力でこうして魂との繋がりだけは確立させたという感じ、みたい」

「日継カレン達はそんなことまで考えていたんだ。

じゃああなたは聖女ワルプルガそのものというわけではないんだ」

「どうだろう。たまに私ではない考えが浮かんできたりするから、少しは影響されてきているのかもしれない」

「そこまで行くと魔法少女の死生観の話へと関わってしまうね」

3人はそこからどんどん難しい話へと突入していってしまいました

私とういは3人の話を聞いて、ただ愛想笑いをすることぐらいしかできませんでした。

私はこうして、久々の平和な日々というものを感じていました。

そんな中、その日の夜を境に新たな転換期を迎えてしまうのです。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-2 偉そうな研究者

日本へ到着し、私は神浜近くにある自衛隊の駐屯地へと向かった。

その駐屯地へはすでに神浜奪還作戦のための人員と物資が運び込まれており、移動命令が降りていた特殊部隊たちも集まっていた。

中にはヨーロッパで唯一成果を上げた特殊部隊も混ざっている。

一度は話をしてみたいと思っていた。

控え室へ突撃すると指揮官のマッケンジーがいた。

マッケンジーは神浜周辺の地図を見ながら何かを悩んでいた。

でも扉が開いた音には反応したようで、こちらを向いた。

「誰だあんたは」

「サピエンス研究所のディアだ。

お前はヨーロッパでの魔法少女狩りで成果を一番出した隊の隊長であったな。

武器庫破壊の主犯を捕らえたとか」

「まずはノックして入れ、礼儀も知らんのか。
3日後のために忙しいんだ。変に精神を使わせるな」

「別に敵地でもないんだし、そこまで気にすることか」

「はぁ、ここには作戦に使用する魔法少女が未施術状態で待機している。

スパイがいるかもと警戒して当然だ」

「流石は考えが違うね」

「で、なんの様だ。

世間話しかしないと言うならば邪魔だから出て行け」

まあどんなやつか見に来ただけだし、お手並みは神浜で見せてもらうか。

「施術は早めにやってくれ。不安で仕方がない」

「わかっているさ。邪魔して悪かったね」

私はマッケンジーの部屋を後にした。

本当ならば自衛隊の長にも顔を合わせたいところだが、魔法少女たちがすでに待機していると言うならばそっちに向かったほうがいいか。

施術の準備はできているし。

私は魔法少女たちが待機している場所へと訪れた。

魔法少女が待機している部屋は3箇所に分られていたが、最近投降してきた魔法少女たちがいたらしく、合計で4つの部屋が用意されていた。

手駒が増えただけだからどうでもいいが、神浜周辺でとらえた魔法少女以外はデータをもらっていないのでこの目で確かめるしかなかった。

部屋の中へ入ると、魔法少女に混じって大人が2人いた。

魔法少女達はただこちらを見つめるしかしなかったが、大人達はこちらに話しかけてきた。

「あなたは?」

「こっちこそ聞きたい。なぜ一般人がここにいる」

「私達は時女の集落から来ました。

この方はあの子の親なのです。心配で来て何かおかしなことがあるでしょうか」

「ならば尚更邪魔だ。これから彼女達に施術を施さなければならないからな」

「施術って、一体何を」

「誰だここの責任者は。施術の邪魔だからこいつらを連れ出せ!」

私は警備の兵に怒鳴りつけた。

すると連絡をとっていたそぶりもないまま自衛隊の1人が歩み寄ってきた。

「親を連れ込んだのは私だ」

「あんた、自衛隊の長じゃないか。

アンチマギアプログラムが発令された上でのこの行為か」

「この集団は日の本のためにと願いを捧げ続けてきた、いわばこの国のためにと命をかけてきたもの達だ。変な気は起こさない。

それに、彼女たちはまだ子どもだ。

親が近くにいた方が安心できるだろう」

これだから日本人は甘い。

「施術を行う。

邪魔だからあいつらを追い出してくれ」

「あんた、さっきから偉そうに喋ってるけど誰だ」

「サピエンス直属の研究者だ。

まさかサピエンスの存在も知らずそんな口を叩いているのか」

「知るか、そんなもの!娘に何をする気だ」

彼女がいきなり刀を取り出したかという時、私と彼女達の間に自衛隊の長が入り込んできた。

「互いに落ち着け。

時女さん、彼女は魔法少女の専門家だ。米国から送られてきた特殊機関で私達は従うしかない」

「高田さん、でも」

「ここはどうかお引き取りを。命をとりはしません」

まあ私たちがやろうとしている施術は魔法少女達の命を握って無理やり従わせるためのもの。

捕らえた魔法少女には必ずと言っていいほど行っていることだ。

大人2人は観念したのか、高田と呼ばれる男に連れられて部屋の外へと出ていった。

邪魔者がいなくなったことを確認して、私は施術を行う研究者達に通信を繋げた。

「準備が整った。施術を始めるぞ」

魔法少女達に行うこと

それは、ソウルジェムへ取り外し不可能な起爆装置を取り付けること。

それは指輪型の時であろうと、魔法少女姿になった時のアクセサリーに形状変化しようと外れることがない起爆装置で、少しでも歯向かうとこちらが握っているボタンで即起爆し、命を落とす。

この説明を先に実施したのは、会議室に集まったメンバーにだった。

サピエンス直属のメンバー、米国の兵達は驚きもしていなかったが、自衛隊の面々はよく驚いていた。

「そんなもの、なぜ!」

「当然だ。

魔法少女がいつ寝返るかわからない上、いつ背後から狙ってくるかもわからない。

安全のためのものだ」

「だが、あんまりな扱いではないか。

彼女達はまだ子どもであると伝えたではないか」

私は起爆装置を高田の前に出した。

「これを押すのはお前の役目だ」

「なんだと?!」

「そんなに慈しむなら、これの扱いはあんたに任せるよ。

でも、あんたの判断でこちらに被害が出ようものなら、米国との関係は改められることになるだろうね」

「た、高田1佐…」

高田は周囲の自衛官に動揺されながらもそのスイッチを受け取った

「いいでしょう。

あなた達と協力することになった以上、責任はしっかり果たします」

「そうかい。

とは言え、こちらは日本語が完全に扱えるものが少なくてね、こちらはこちらで勝手にやらせてもらう。

あなた達は魔法少女達を監視しながら私たちのアシストをしてくれればいい」

「司令書にはあるが意思疎通せずにできることなのか」

「言語の壁があるんだから仕方がないだろう。

どうしても伝えたいことがあれば私を経由してくれ。

まともな案件だけ通してやる」

自衛隊のメンツは納得しない表情だった。

当然だ。国のお偉いさんがいい顔するために安請け合いしたのは目に見えている。

この国はひどくなったものだね。

そんなことを考えていると、高田が提案してきた。

「ならば、翌日の夜に先行して実施したいことがある」

「なんだ、イザベラにはもう通していることか」

「はい、レディには了承を得ていることです」

「いいだろう、聞かせてもらおうか」

 

back:2-3-1

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-1 人になった者と人でなし

容器から出てきたキュウべぇをディアがクローン体の調整を実施する部屋へと連れて行った。

そこで私はキュウべぇへ薄着のシャツを着せ、髪を乾かし始めた。

キュウべぇの体の色に合わせて髪は白髪にしていて、ディアのDNAを流用しているせいか、長髪でありながら触り心地はディアそっくりだった。

髪を乾かしている間、キュウべぇは表情を変えようとしなかった。
感情がない生き物だったし、感情一つ見せないのは想定内のことだ。

乾かし終わった髪を、私はツインテールになるよう整えた。

「どうだ、元の姿に似せてみたが」

「ボクは見た目なんて気にしないよ」

「そうかい」

私はキュウべぇをそのままの姿で私の部屋へと連れて行った。
裸足のまま歩かせたがそれでも特に表情は変えず、私の部屋へたどり着くまでは私の靴音とキュウべぇの足音しか聞こえなかった。

扉の鍵をかけて私が椅子へと座ってもキュウべぇは何も話し出そうとせず、その場にじっと立ったままだった。

「座ればいいじゃないか。いつもの体でも話すときくらい座っていただろう」

キュウべぇはしばらく足元を見て考え込み、最終的に座りはしたのだがあぐらの姿勢だった。
ディアはあぐらで座る癖はあるが、あいつのデータは根こそぎ抜いておいたはずだ。
動物が人間になったらあぐらの姿勢をとりやすいとでもいうのだろうか。
無駄に観察項目が増えてしまった。

あぐらの件についてメモを取り終えると、私はキュウべぇへと質問をしていくことにした。

「気になっているんじゃないか、どうしてその体に入れることができたとか、何が目的なのかとか」

「ボクは現状確認に忙しいんだ。

元の体に戻れないし、個体数だってここにいるボク1体以外に確認できない」

私はしばらくキュウべぇを見つめていると、何かに気づくようにハッとしてこちらをみた。

「書き換えたというのか、ボク達が使う体の情報を」

「最初に見せる表情にしてはいい感じだな。

お前達の中枢へ直接アクセスはできていないが、お前達の個体をいくつか捕まえて体への情報の出入りを観測しているうちに体へ情報を入り込む仕組みは解析が完了した。

まあ、全ては魔法少女が使用する波形観測の副産物ではあるが」

「だからと言って入れ物を変えることができるなんて」

「それは私が驚くことだ。

一個体の意識だけ人の体へ入れられればいいと思っていたが、まさか制御権丸ごと移行されていたなんてね。

他者に観測されることは想定できなかったのか」

「人類が僕たちに干渉できるだなんて想像もしていなかった。

ボクにだってわからない、こんなことになるだなんて」

キュウべぇが困ったような動きをするのは新鮮であった

「どこかで自分たちは人類よりも上位の存在であるとおごっていたのだろうな」

「ボクたちにそんなものはない」

「だが人類はここまで到達することができた。
こんな可能性もろくに予見できないならば、お前たちは十二分に無意識な傲りを持っていたのだろうよ」

キュウべぇは無表情のまま真っ赤な目でこちらを見つめていた。
きっと今までの流れが煽りなのだろうとこいつは理解していないのだろう。これは理解できなきゃ人間も同じ反応をするか。

「それに、お前をその体に入れた目的はしっかりある」

「その目的というのは?」

「お前、利用する前に感情について調査を行ったんだろう?本当に人類に頼るしかなかったのか」

「ボクたちに感情というものが出るのは稀な精神疾患でしかない。
意図的に発生させられるものでもなかった。だが、宇宙を探し回り、生まれた生命誰もが感情を持つ君たちを見つけたんだ。
協力してもらう以外に方法がないだろう」

人の感情についての不思議はいまだに解決されていない。
感情を持つ人自身でさえ、感情というものを何故持つのかをはっきりと理解できていない。

「そんな不確かなものによく手を出したな」

「宇宙の寿命を延ばす必要があったんだ」

こいつらは本当に徹底的に探究を行ったのだろうか。ならば、なぜこれを試さなかったのかが気になる。

「それで目的なのだが、人の体へ入れば感情が生まれるのではないかと思ってね」

「人の体にだって?」

「感情というものを自由自在に操れるのは全ての生物の中で人間だけだ。
人間以外の動物も感情というものは存在するらしいが、人間ほど多彩には持ち合わせていない。

魂と体で分離して考え、魂が感情を生み出していると仮定すれば他の動物に感情があってもおかしくない。
だが、なぜ人の魂にだけ多彩な感情が与えられていると言えるのだろうか。魂は皆等しい存在ではないだろうか。
魂の時点で優劣が存在するならば、それはこの世界を作りだした存在の欠陥だといえよう。

魂は皆等しいと仮定し直そう。感情を生み出せるのはその魂が入る器に影響されてではないかと。

ならば、多彩な感情を生み出すであろう人の体に、感情を持たない魂を移せば多彩な感情を手に入れるのではないか。

これはその実験だ」

「なんてことを思いつくんだ。

そんなことだと証明されればボク達は」

私は腰につけていた拳銃を取り出して、躊躇なくキュウべぇの左腕を撃った。

腕を銃弾が貫通し、キュウべぇの左腕からは血が出てきた。

キュウべぇは苦しそうな表情を見せ、痛みに耐えようと体を震わせていた。

「なんだこれ、君たちが言う、痛覚ってやつなのか」

「今は私と対等だと思ってくれるな。」

私はもう一発キュウべぇの左腕へと撃ち込んだ。

今度はキュウべぇは悲鳴をあげて左腕を押さえていた。

キュウべぇの悲鳴、新鮮で少し嬉しくなってしまった。

私がキュウべぇの額に銃口を当てると、キュウべぇは恐怖を覚えたような表情をしていた。

「今お前は恐怖の感情を覚えた、違うか?」

「そんなの、知らない。

この逃げたいと思うこと、それが恐怖だというのか」

私は拳銃をしまい、救急箱を取り出した。

「もっといろんな感情を覚えるといい。

これを使え。止血と鎮痛を一度に行える救急キットだ」

その救急キットを使用したことで、キュウべぇの体の震えはやっと止まった

「人の体というのは欠陥だらけで不便すぎる」

「知恵を得た代償だ。100年生きられるだけまだ十分だろう」

私はここまでの表情変化についての経緯を記録した後、私的なことをキュウべぇへ聞いた。

「お前はヨーロッパで活躍した錬金術師のことを知っているか」

「錬金術師と呼ばれた魔法少女はたくさんいたが、それがどうしたんだい」

部屋の監視装置は停止してあり、盗み聞きされる隙はない。

今なら聞いても問題ないだろう。

「聖遺物争奪戦に参加していたという”キミア“という女に覚えがないか」

「キミアか。魔法少女になることを拒み続けた多くの錬金術の祖となった人物だね。

確か君も近くにいたね、カルラ」

「あいつは今どうしている」

「死んだよ。

世界を変えるために聖遺物を大量に行使して、呪いに耐えきれなくなって暴走してね」

「そうか。あいつはもうこの世にいないのか」

 

キミアとの付き合いは昔の出来事になる。

錬金術というものが周知されるよりも前の時代、元素という存在が一部の哲学者からもたらされ数百年したころ。
あの時代にはあり得ないと思えることを実現させようと試みる者が増えていた。
私もその1人だった。

すぐに火をつけられる道具があると便利だろうと考えた私は、火が付くものについて調べるようになった。
そんな中、酒を飲んでいる男がろうそく周辺に酒をばらまくと、その酒を伝ってその酒場が一気に燃え盛ってしまったという事件を聞きつけた。
そこからヒントを得て、私は火をつける液体を見つけ出し、その町では一目置かれる存在となった。

そんな私の話を聞きつけて、ある人物が私を訪ねてきた。
その人物の名は忘れてしまったが、彼は錬金術師だと名乗っていた。

私はその錬金術師に連れられて、学院と呼ばれている場所で知恵をつけていくこととなった。

あらたな実験を行うために、私は素材をとりにある錬金術師の元へと訪れていた。

そこにはその錬金術師へ何かを教えている少女がいた。

「あの、頼んでいたものを取りに来たのですが」

「なに、今が肝心なところなんだから静かにしていてちょうだい」

見知らぬ少女にそう言われて何をしているのか気になった私はそっと何をしているのか観察した。

どうやら毒性を取り除いて良質な回復薬品を作る術の最中だったようだ。

その少女が教えていたのは複雑ながらも最適な方法だった。

とはいえ、そんな方法であれば生成結果は想定よりも少なくなってしまうことが私には理解できた。

中継させているアレンビックの行き先をよく冷やした容器にして結露させる量を増やしたほうがいい。

気化して逃げていく分が勿体無い」

横槍を受けてかその少女はムッとしてしまった。

「なに、私のやり方にケチをつける気?」

「最適な方法を助言したまでだ」

「なんなの、ここの創設者にケチをつける気?」

「創設者?」

「まあまあやってみようじゃないか」

教えられていた錬金術師は私の助言を取り入れて時間をかけてのぞみの回復薬ができていた。

その結果を見て少女は不機嫌そうな顔をして私に迫ってきた。

「この屈辱忘れないから。

あんたの住んでいる場所教えなさい!」

「私はここに触媒をとりにきただけだ。

来たいならついてくるといいよ。

で、あんたの名前は?」

「ここに通っていて私の名前も知らないの?

キミアよ」

これがキミアとの出会いだった。

後で知った話だが、ここらあたりで錬金術師という存在を生み出したのはキミアらしく、その豊富な知恵を前にして多くの術師はキミアとの会話を怖がったらしい。

確かにキミアの知識はすさまじく、世界を変えられる規模のものだってあった。
だが、そんな天才にも知識の穴はある。
彼女の知らない小技を口出ししているうちに、彼女は私の負け顔を拝みたかったのか私に付きまとうようになった。

負けず嫌いのキミアは私にいつも付き纏ってきて、わたしはいよいよめんどくさくなってきた。

「今日は魔法石の研究を行うんじゃなかったのか。
あれを扱えるのは一部のものにしか扱えないってのが不思議だがな」

「そうよ・・・だから、あんたに会わせたいやつがいるのよ」

「キミア?」

そう言われてキミアに連れられた私は、白い生き物の目の前へと連れられた。

「こいつは、なんだ?」

「ボクはキューブと呼ばれているものだ。
君たちには魔法少女の素質がある。とはいえ、君たちは特殊な生い立ちをしているようだね」

魔法石を扱える存在、それは魔法を扱える魔法少女のみが扱えるものだった。
魔法少女ではない私たちが扱えたのには、私たちに魔法少女の魔力が受け継がれているからだという。

「魔法少女は短命な子が多いが、その中で子を残すものは少なくない。
君たちに魔力が備わっているのはそのせいだろう」

私の父と母は普通の人間だった。母親は魔法少女なんてたいそうな存在でもなかった。
私はいったい何者なんだ。

その時は後にキュウべぇと呼ばれる存在の誘いを私たちは断った。
もちろんそれは魔法少女になるとどうなってしまうのかを徹底的に聞いたというのもあるが、願いひとつで何もかも変わってしまうことが気にくわなかった。

あれからしばらく、私たちは魔法少女のことは考えないようにした。

のんきに研究の日々を過ごしている間に、キミアは錬金術師の祖としていつも以上に崇められるようになった。

キミアと記した錬金術の書物は多くの錬金術師が重宝するものとなり、錬金術師ならば持っているのが当たり前だと言えるくらいの書物も含まれていた。

私達はしばらく探究を共に歩んでいたが、ヨーロッパでの出来事をきっかけにキミアは変わって行った。

賢者の石の完成

万能の秘宝と呼ばれる賢者の石を最初に完成させたのはキミアだった。

しかしその作成方法は、人の命を使うものだった。

私も教えられた通り山間の集落へ魔法陣を施して実行すると人々の命が合わさって真っ赤な賢者の石が完成した。

キミアは得意げな顔をしていたが私は一発分殴った。

「人の命をなんだと思っている。

こんなやり方、禁術になるのは明らかだ!」

「ふん、人の扱いなんてこんなものでいいさ」

「何を、言っているんだ」

「人なんて魔法少女を前にして何もできない。そのくせこの世界を支配しようだなんてさ。

カルラ、私は人に可能性を見出せなくなった。私は魔法少女に可能性を見出してみるよ」

「お前、まだ魔法少女の存在を気にかけていたのか」

「お前も魔法石を扱えるならば、魔法少女の末裔だということだ。
ここまで他の人と比べて肉体の劣化がお互いに遅いのもおかしいと思わないか」

「それはいろんな延命のための薬品を自分たちの体で実験した代償であって、血に混じった魔力の影響だなんて」

「人が学ぶには寿命というものは邪魔過ぎる。
カルラもどうだ、寿命なんて存在しない魔法少女についてもっと調べてみないか」

「そうかい。私はまだ人間を見限る気はない」

 

そしてジャンヌという存在がヨーロッパを救ったという頃、私はキミアと別れる日がやってきた。

キミアが勝手に私の体へ賢者の石を埋め込み、不死の存在へとしてしまった。

お揃いだと言っていたからあいつも自身に施したのだろう。

私は怒りのあまりキミアの胸ぐらを掴んでしまった。

「お前は、そこまで外道に成り下がったか!

不死になることがどれほど恐ろしいことか、錬金術師ならば理解しているはずだ!」

「そうさ。悠久の時を生きて見定めようじゃないさ。

魔法少女と人、誰がこの星の主導権を握るに相応しいかさ」

「そうか。

私は人の可能性を諦めたわけではない。そう伝えたはずだ!」

私はその場を去る準備を始めたが、キミアは優しそうな表情を見せるだけだった。

「ここからは別々の探究を進めるとしよう。

さよならだ、キミア」

「ああ。道は違えど、親友であることは変わらないでくれるか」

「そうだな、お前と親友という関係は、変えないさ」

それから私は身を潜めながら人間が持つ障害の一つである言葉の壁を解決する方法を探し、脳波の研究を行うに至った。

世界の技術力が上がり、私は錬金術師ではなく研究者として身を潜めるようになった。

そんなある日、久しくキミアから手紙が届いた。

どうやって居場所を突き止めたのか。

”私は悲願を成し遂げる準備ができた。

これが成功したら、お前よりも先に、私の考えが正しかったという証明になるだろう。

聖遺物

これがあれば、世界中の人々を断罪できる。

全てが解決した世界でまた会おう“

聖遺物

そう、あの頃は魔法少女の間では聖遺物を争奪する動きが強くなっていた。

魔法少女の魔力が籠ったそれを使えば呪いが降りかかる。

そんな危険なものに可能性を見出したというのか。

あれからキミアとの接点はなかった。

だが死んだとわかった今、聖遺物の使用は失敗だったのだろうと悟った。

「まったく。ろくでなしの最後を遂げたか」

「でも彼女は魔法少女の弟子を取っていたね」

「あいつが弟子を取るとは、少しは心境の変化があったのか。

それで、その弟子というのは、生きているのか」

「今生きているのは日継カレン、紗良シオリ、ピリカだね」

その3人、今も生きているというならどこかで会ってみたいものだ。

まあ今はいい。キュウべぇの観察を優先しよう。

「さて、どこまで表情を変えられるか試しに行こうか」

私はキュウべぇを部屋から連れ出し、喜びの感情を教えようと思った。

どう覚えさせるかは、これから考えるさ。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-19 手を伸ばした先にある結果は

さつきさんが開いた扉の先には3本の糸しかつながっていない魔法少女姿のういと、たくさんの糸が絡まっている長身の魔女がいました。

魔女は細身で銀色の肌、頭部と思われる部分はピンク色のパールが一つ埋め込まれていました。

体は細く、爪部分は鎌のように鋭くなっていました。

「これじゃ魔女の結界と代わりないわね」

「あれの動きを止め続ければいいんだよね」

「そうよ。あれに奪われた主導権を妹さん自らが奪い返すまであいつの注意をこちらに向け続ける必要がある。変に邪魔が入ってしまうと、仮に妹さんへ主導権が戻ったところで魂とのつながりがほとんどないままとなってしまうかもしれない。

つまり、ほぼ植物人間状態になってしまうかもってことよ」

「じゃあぼくたちは待つしかないんだね。

ういが元に戻るまで」

「そうよ。いろはさん、頼んだわ」

「わかりました」

私はういに向かって走り出しました。

その後ろにワルプルガさんもついてきました。

「え、危ないですよ!」

「最初に声をかけるのは私のほうがいい。お母さんに声が届くのは、今は私の声だけだから」

そういえばういはずっとワルプルガさんに対してはずっと接する態度が変わっていなかった。

なんでだろう。

なぜかはわからないけど、話を少しでも聞いてもらうために最初からいてもらったほうがいいかも。

でも危ないし、私が抱えていけばいいか。

「それじゃあ」

私はワルプルガさんを抱えてういがとらわれている場所へと向かいました。

ういのもとへたどり着くと、急に周りが闇に包まれました。

外部から見ると私たちは暗闇に包まれてから消えていたようで、私とワルプルガさんが消えたことにやちよさんは驚いていました。

「2人が消えた?!」

「妹さんの魂への接触を開始したんですよ。
こちらではやるべきことをやりましょう」

さつきさんは無数の札を呼び出し、ういと魔女との間に札の壁を生成しました。

「今あなたを妹さんへ触らせるわけにはいかないのよ」

魔女は爪でその壁を破壊しようとします。

そんな腕に対してやちよさんたちは攻撃をしかけて魔女を壁から離そうとします。

「あなたに邪魔はさせないから!」

 

外でみんなが戦っている中、どうやら私たちは別の空間へと飛ばされてしまったようです。

その空間の中心と思われる場所にういはうずくまっていました。

私が声をかけようとすると、ワルプルガさんは私を止め、ゆっくりとういのところへと歩いて行きました。

「お母さん、こんなところにいたんだ。

探したんだよ?」

「ワルプルガ、ちゃん…」

ういの声は弱々しく、なかなかに聞き取りにくいものでした。

「まだこんなところに居続けるの?」

「外の世界は嫌だ。

変わるのは仕方がないけれど、今の変わり方は嫌だ。変わったいまを見たくないから私はここに居たい」

「私は困るよ」

「放っておいてよ」

ワルプルガさんは少し困った顔をしたあと、再び話しかけ始めました。

「お母さん、実は会わせたい人がいるんだ」

「会わせたい人?」

そう言われた時、私は我慢できずういの名前を声に出してしまいました。

うい

その声を聞いた瞬間にういの顔は怯えた顔となり、恐る恐る私の方を見て私の存在を認識すると悲鳴をあげて頭を抱えてしまいました。

「いやだいやだいやだ、あんなのお姉ちゃんじゃない、優しいあのお姉ちゃんじゃない」

想像もできない反応をされて私は深く傷つきました。それでも、私はういへ言葉を届けようとしました。

「う、うい、お姉ちゃんの話を」

「そうだよ、本当のお姉ちゃんは私の記憶の中にいるお姉ちゃんだ。

あれはお姉ちゃんじゃない。違う違う違う!」

壊れたように何かを唱え、涙を流しながら笑みを浮かべるういの姿がそこにはありました。

見たことがない酷い顔。

私は今すぐにでも抱きしめて幸せにしてあげないといけないという込み上げる思いを抑えながら、どうすれば声を聞いてくれるか考えました。

そうしているうちに何かを打つ音が聞こえました。

そこには、ういの頬を叩いたワルプルガさんの姿がありました。

「ワルプルガちゃん?」

「過去にばっかり逃げて今を見ないお母さんなんて嫌いだよ!」

「私が悪いの?
人を平気で殺す魔法少女だけになった今の世界で、どうやっていままで通り過ごせるっていうの?」

「いろはさんはその答えを見つけ出してきた。

だから聞いてあげて。お母さんの考えている“今のいろはさん”とは印象が違うはずだから」

ういの発作のような何かは収まり、やっと私はういに伝えたいことを伝えられるようになりました。

「うい、まずは世界がどうなっちゃったのかを教えるね」

私はアンチマギアプログラムの告知がされた時の映像をういの脳内へテレパシーで送りました。

「これは、想像のお話?」

「ううん、事実の話だよ。

世界中で魔法少女が囚われる世の中になっちゃって、私たちは人へどう立ち向かおうか考えている最中なの」

「そんな、人と魔法少女は一緒に生活することができなくなっちゃったの?」

「そんなことないよ」

私は今度は竜真館でのさつきさんとキクさん、連れてきた3人の人の子どもがひなのさん達と楽しく過ごしている様子をういに見せました。

「この子達は、魔法少女じゃ、ない?」

「そうだよ。

この子達は他の魔法少女達と一緒に暮らしている魔法少女ではない子達でね、あの放送を見た後でも魔法少女達と笑って過ごせているよ。
魔法少女のみんなも3人を受け入れていて、みんなが幸せになれていたよ。

世界中のみんなってことにはならないかもしれないけど、人間社会に染まりきっていない子達とは一緒に暮らしていくことができるかもしれない。

人と一緒に生活する将来は、ありえないことはないってことだよ」

「お姉ちゃんも、そんな将来を目指しているの?」

「そうだね。そうなったほうが最適だなって思って行動してるよ」

「そうか。まだ、頑張ろうって思える光景があったんだ」

ういの目は輝きを取り戻していきました。

わたしはそんなういに手を差し出しました。

「だからさ、うい。希望溢れる世界に戻ろう!」

ういがこちらに手を伸ばそうとすると目の前にいるういとは違うういの声が聞こえてきました。

「本当にいいの?そんな簡単に信じちゃっていいの?

みんながみんな人との共存なんて望んでいるはずないのに

お姉ちゃんの嘘や妄言かもしれないのに」

別の方向から聞こえてきたういの声の方向を向くと、ういの記憶を見たときに出てきたういになり替わろうとする魔女がいました。

「あなたは、私に変わった私」

「あなた、あの魔女の!」

その子が代わりになってっていうから変わってあげているだけだよ

人殺しの姉もどきさん」

私は魔女とういの間に入って魔女に向けて武器を構えました。

「どうやって入ってきたの。外ではやちよさんたちが対応しているはず」

「ここは私の空間だよ?

“環うい”のほとんどを手に入れた私がここにいるのは当たり前でしょ?」

「そんな」

まさか、ういの主導権を奪っているってことはわかっていたけど、魂の中に入り込んでいただなんて。

「外の光景を見て耐えられるかな?

どうせ神浜の魔法少女達は、人なんて簡単に殺せちゃうんだから!」

そう言って魔女は何処で手に入れたかわからない神浜を奇襲してきた特殊部隊の兵士たちを魔法少女達が殺していく様子をういに見せました。

ういの目からは再び光が消えていきました。

「あなたは!」

ういがするはずがないような悪い顔をしてあの魔女はういの心を潰そうとしてきます。

ういは心が揺らいでしまったようで、私に伸ばそうとした手を引っ込めてしまいました。

そんなういの手をワルプルガさんが握ります。

「ワルプルガちゃん…」

「誰かを信じてあげないと、お母さんのことを誰も信じてくれないよ。

それに、動き出さないと何も始まらないんだから」

「ワルプルガさん」

ほんと、初対面した子どもっぽい様子とは大違いの態度をワルプルガさんは見せてくれます。

「へんなことを吹き込むな!

動いたって変わらない、変えられない!誰も聞き入れてくれない!

何をしたって無駄なんだよ!」

魔女は怒鳴り始めてしまいました。

「だとしても」

うい?

そこには目に光が戻ったういがいました。いったい何があったの?
ワルプルガさんが何かやったの?

「聞き入れてくれる人が少ないとしても、

動かないよりは、動いたほうが成功する可能性は大きいはずだから。

だから!」

ういのソウルジェムは輝き出し、真っ暗だった空間は花畑が広がる光景へと変わっていきました。

そして気がつくと魔女がいる空間にいて、わたしとういはワルプルガさんと手を繋いだ状態で立っていました

「お姉さま、うい!」

「無事なようで何よりだ」

灯花ちゃんとねむちゃんの安堵する声を聞いて、戻ってきたことを実感した後に私はういに話しかけました。

「さあ、この一件に決着をつけないと」

「うん!」

私はういと手を繋ぎ、魔力を共有して白く輝くボウガンがわたしとういの間に現れました

そして魔女を取り囲むように出されたういの凧へボウガンが装着されていきました。

その凧達は次々と魔女につながる魂の糸を切っていき、切られた糸は次々とういに繋がっていきました。

「へぇ、そうやって戻っていくこともあるんだ」

さつきさんのそんな呟きが聞こえた頃には魂の糸はういに全て繋がっていました。
そのあと、ういが私に話しかけてきました。

「私は人と魔法少女が争う今の世の中を受け入れられない。
でも、そんな世の中を変えようと動いている魔法少女達がいる。
それなら、私も少しは頑張らないとって思ったの」

「じゃあ、ワルプルガさんが何かやったわけではなく」

「わたしが、自分の意志で現実を受け入れた。ただそれだけ」

ういは糸が一本も繋がっていない魔女にボウガンを向けます。

「私の代わりをしてくれて、ありがとう」

ういがそう言うとボウガンが放たれ、魔女に命中したところから花びらに変わっていき、魔女は消えてしまいました。

魔女の結界内は眩しい光に包まれていき、気がつくと元いた部屋に戻っていました。

「…戻ってきたのね」

「うい、元に戻れたんだよね?」

灯花ちゃんの問いに対してういは笑顔で答えました。

「うん、もう元通りだよ!」

「よかった〜」

嬉しさのあまりに灯花ちゃんはういへ抱きついていました。

わたしはさつきさんへ感謝を伝えないとと思ってさつきさんのところへと行きました。

「さつきさん、やっと目的を果たせました。

ありがとうございました」

「いいのよ。

こちらだって助けてもらっちゃったし、やっとお返しできてよかったって思っているくらいです。

妹さん、戻ってよかったですね」

「はい!」

「それじゃあ、やっと目的を果たせるんだよね?」

灯花ちゃんのそんな話を聞いて、私は無意識にワルプルガさんの方を向いてしまいました。

そう、ういを元へ戻したのもワルプルガさんに自動浄化システムを広げるよう願わせるため。

「うい、あのね、ワルプルガさんのことなんだけど」

「わかっているよ」

「ワルプルガさん?」

「私が願えば、世界中の魔法少女が魔女化の恐怖から解放されるんだよね?」

「理解はしているのね。

あなたは願ってしまってもいいの?魔法少女がどういう存在なのか、世界でどんな立場になろうとしているのかも理解しているはずよ」

やちよさんの問いかけに対してワルプルガさんは顔を縦に振りました。

「いろはさんがお母さんに見せてくれたあの明るい光景、そんな光景が当たり前になるように、私もお手伝いできないかなって。

だから、願ってもいいよ。

お母さん、いいよね」

ういはワルプルガさんへ笑顔で答えました。

「ワルプルガちゃんが覚悟できているなら、いいよ」

やっと、一番解決しないといけないことが解決する。

そんなワクワクで胸いっぱいにしながら私はキュウべぇを呼びました。

「キュウべぇ、いるんでしょ?」

でも、キュウべぇは姿を現してくれません。

「おかしいなぁ。いつもひょっこり出てくるのに」

「外へ出てみましょう」

やちよさんの提案に乗って外でキュウべぇを呼んでも姿を現してくれません。

「どうして、どうして姿を現してくれないの?」

「あら、どうしたのぉ?」

結菜さんが私たちに声をかけてきました。

「もしかして環ういを元に戻せた感じっすか?」

「うん、そうなんだけどキュウべぇが出てきてくれなくて」

「あの白いの、倒しても湧き出るくせに出てこないなんてどういうことかしら」

「エネルギー回収のノルマだって達成していないだろうし、一体どこに行ってしまったの?」

その日は神浜中でキュウべぇを探し回りましたが、ついにキュウべぇは姿を見せてくれませんでした。

「どこに行っちゃったの、キュウべぇ」

 

 

ペンタゴンの地下にあるサピエンスの研究施設。

その廊下をカルラは今まで通りタバコを咥えながら歩いていた。

その足を向ける先は、ディアが使用しているクローン体製造部屋。そこには成長したディアの体が並ぶ中、耳と大きな尻尾を身につけた周りとは異質な見た目をしているクローン体が眠っていた。

カルラはそのクローン体が入る容器に触れて笑みを浮かべた。

「ディアより上手くはできていないと思うが、なかなか思い通りに仕上がっているじゃないか」

そんな声が聞こえたのか、クローン体は容器の中で目を開け、カルラをしばらく見つめた後に何かに驚いたように容器のガラスへ両手をつけた。

「わかったわかった、いま開けるから待っていろ」

カルラが装置を操作して、容器内の液体が抜かれた後に容器が開き、クローン体がぺたりと床に座り込んだ。
ディアのクローン体は通常はディアの意思を流し込み、その体を直接操作するという流れだが、そのクローン体はひとりでにカルラに話しはじめる。

「なんだこの体は、君がやったというのか」

「人の体に入った気分はどうだ、

“キュウべぇ“ 」

 

 

第二章:神浜にて紡ぎ出され始める交響曲(シンフォニー) 完

 

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-18 人と同じ道を歩まぬためには

翌日、さつきさんの札が整ったためみんなはういがいる部屋の前に集まりました。

さつきさんが持つ3つの札を見て灯花ちゃんがさつきさんへ質問をしました。

「その札だけで本当にういの魂に入り込めるの?」

「ええ、何も問題が発生しなければこれで済むはずよ。

では、妹さんの押さえつけはお願いしますよ」

「分かったわ」

私たちは部屋へと突入し、やちよさん、キクさん、ねむちゃんはすぐにういを動けないよう抑え込みました。

「痛い、やめて!私が何をしたっていうの!離して、離してよ!」

ういは苦しそうな声をあげます。

でも、今は耐える時。

「では、失礼します」

さつきさんが取り出した3つの札はさつきさんの手を離れ、ういを取り囲みました。

それぞれの札が青く光ったかと思うとういを中心に淡く青い円形の結界が発生し、抵抗していたういは動かなくなりました。

「うまくいったか。ならば次」

そう言ってさつきさんはもう1枚の札を取り出して結界に押しつけました。時間がかかったものの、札を押し付けた場所には大きな次元の裂け目のようなものが現れました。

札の効果が発動する様子にねむちゃんは興味を示したようでさつきさんへ質問をしました。

「これは、どういう仕組みなのかな」

「最初のうち1枚は妹さんのソウルジェムから体へ送られる魔力を遮断し、一定時間体の鮮度を保つ効果があります。これで魂へ侵入している間に変に暴れられる心配はなくなります。
そのあとに使用した札で妹さんの魂につながる道を開きました。

無事に開いたということは、やはりみなさんが見たという悪夢と人が大量に死んだ光景がトラウマとなっていたようですね」

「なぜそんなことがわかるの」

「対象の悩みを知るのが魂へ潜入するための必須条件なのです。わかっているのは当然でなければいけないのです。
とはいえ、魂へ侵入するための扉を開くのが最も難関なポイントだったので安心しました。

さて、これらの札は長くはもちません。いろはさん、この後の結果はあなた次第です」

「はい、分かっています」

私はワルプルガさんに手を差し伸べました。

「いまのういには、あなたの存在も必要なの。ついてきてくれる?

ワルプルガさんは迷わず私の手を取りました。

「元からそのつもりだよ」

いまのういが最も心を許しているのはワルプルガさんだけ。

私の声が届かなかった場合、ワルプルガさんに頼らないといけなくなる。そうならないのが一番だけど。

そうして私たちは、ういの魂へと潜入したのです。

 

魂の中は、どこか魔女の結界に似た様子でした。この光景にやちよさんは驚いていました。

「これって魔女の結界じゃ。まさか、魂に潜むという魔女の仕業じゃ」

「いや、魔女の結界のように仕立てたのは私です」

「仕立てた?」

私たちは結界を進みながらさつきさんの説明を聞くことにしました。

「魂へと潜入して悩みを解決する方法には様々な方法があります。その中でも私は感覚を掴みやすく魔女の結界を模倣してあえて結界を形成し、その結界に悩みを反映させて最深部で救うという方法をとっています。
結界化は普通であれば札1枚で行えることなのですが、まあ、今回は本当に魔女がいるので介入されないように防護の札も織り交ぜたので少々大掛かりとなりました」

「あなた、思ったよりもすごい人だったんだ」

灯花ちゃんの呟きにさつきさんは敏感に反応しました。

「確かあなたは科学の天才でしたっけ。

いくら科学が発展しようと、人の心に潜入して悩みを解決するなんてことは呪法には敵わないですよ」

「むっ!時間はかかってもできちゃうかもしれないよ!人は科学を進歩させて絵空事のようなことを現実にしてきている。

イメージの投影技術なんかはできてきているんだから」

「でも、確かな心に秘めた悩みを探り出すのは厳しいでしょう。

そんな絵空事を容易く実現できてしまうのが魔法少女。

科学の発展なしに高度なことは魔法少女だけでも可能だとは思いますが、果たして皆が幸せに暮らせる世界にはなれるのか」

私はそこに口を挟んでしまいました。

「できますよ。私たちがやってみせるんです」

「そうだね。マギウスの時も一応魔法少女だけでやっていけていたし、しかもお姉さまがトップになるなら間違いなくみんな幸せになるんじゃないかな」

「ふふ、信用が厚いんですね」

「私は何も。みんなが協力してくれるからこそですよ」

「それだけみんなを笑顔にできるというなら、妹さんも大丈夫でしょうかね」

話していると目の前に見慣れたツバメの使い魔が現れました。

「使い魔?!」

「魔女の結界を模倣するんです。使い魔のようなものも現れますよ」

「でもあれは、見慣れた使い魔のような」

私たちの反応にさつきさん達は少し違和感を覚える様子でした。

何を気にしているのかを聞かずに、私たちは奥へと進んでいきました。

奥へ進むと、壁にはさまざまなういの姿が映し出されていました。

「なんなの、ここ」

おそらく魂の持ち主である妹さんの記憶が映し出されている空間でしょう。

このエリアがあったのは好都合です」

「好都合って、何にですか」

ここで妹さんについて聞きたいことを思いながら壁に触れてみてください。

きっと、いろはさんが疑問に思っていることが解決すると思いますよ」

そんなことができるのかな。

私は疑問に思いつつ、一番ういに聞きたいことを思いながら壁に触れました。

ういは一体何に絶望したの?

すると周囲は一気に暗闇に包まれ、私の頭の中へいきなり多くの情報が流れ込むと同時に目の前は光に包まれていきました。

目を開けると高校生になったういが友達と思える人物と会話していました。
私はその様子をまるで同じ空間にいるかのような感覚で見届けていました。

「あの子は退学確定だろうってさ」

「でも勉強を頑張ってたのに、東側の出身だからって」

「仕方がないよ。

西側よりも東出身の人が優秀なんてなったら大人達が黙っていないだろうからね」

「でも、おかしいよ」

「ういはそういう考えと無縁だから良いよね。

でも気をつけたほうがいいよ。東側の子をかばった子がいじめられたってことが過去にあったみたいだし」

「う、うん・・・」

様子を見ているといきなりういの考えが頭の中へ流れ込んできました。

“なんで、東側の人は西側の人と一緒に扱われないのだろう。

でも私には、どうにも。”

そのあともういが見たであろう悪夢が次々と映し出されていきました。

「なんなの、これ」

「お母さんが絶望するに至ったビジョンだよ」

声がした方を見るとそこにはワルプルガさんがいました。

「ワルプルガさん、なんでここに」

「あなたが壁に触れてからピクリとも動かなくなったから、さつきという人物に助けに行くよう伝えられたから来たんだよ」

「そう、なんだ。

でも、なんでワルプルガさんにはここがどういう場所なのかわかるの?」

「お母さんが絶望に巻き込まれる瞬間に立ち会ったからだよ」

「それ、だけで?」

「テレパシーに乗せられて全てが筒抜けだった。

あの光景だけは、流石に私にもこたえた。

とはいえ、今のはあなた達が見たという悪夢の一部。

とどめになったのはもっと別の要因だよ」

「あなたって、いったい」

ワルプルガさんの話に夢中になっていると再び別の光景が映し出されました。

映し出された光景は、私たちが怒りに任せてカレンさんを撃った時でした。

その一撃はカレンさん達を巻き込み、そして里見メディカルセンターに直撃しました。

その途端に里見メディカルセンターにいた人々の断末魔が私たちの頭の中で鳴り響いたことで正気を取り戻したことは覚えています。

しかし、ういの感じたものは違いました。

 

お姉ちゃん、みんな、怖いよ。

どうしてそんなにカレンさんを殺そうとすることしか考えていないの!

そして里見メディカルセンターに直撃した瞬間は。

悲鳴が聞こえる。脳の容量を軽く越える量の人々の悲鳴が入り込んでくる。

いやだ、こんなの嘘だ。

よく部屋に訪れて話してくれた看護婦さん、灯花ちゃんのお父さん、そして商店街のよく知る人たち。

みんないい人なのに、どうして死なないといけないの!

お姉ちゃん達が、撃たなければ。

いやだ、いやだよ。

みんな、こんなの嫌だよ。

 

見ているだけで苦しかった。私たちが聞いた悲鳴以上にういにはたくさんの声を聞き入れていました。
見ているだけで私のソウルジェムは黒くなっていき、半分ほど穢れが溜まったかと思う頃に別の様子が映し出されました。

それは電波塔の上でカレンさんたちと戦っていた時の様子でした。
シオリさんが撃ちだした何かがういに命中したところが映し出されました。
その撃ち込まれたものからは魔女に似た魔力が感じられ、里見メディカルセンターに私たちの直撃した瞬間にその魔女の魔力を放つものはういの中で弾けたのでした。

ういがこんなことになってしまったのは、シオリさんが撃ちこんだものが原因だったというの?

そんな様子が映し出された後、声が聞こえてきました。

“だったら捨てちゃいなよ”

誰かわからない声がういに問いかけました。

「あなたは?」

“ういの代わりをしてあげるための存在。

あなたの代わりに、私がういになってあげる。

嫌なんでしょ。こんな世界も、あんなお姉ちゃんも”

「それも、いいかもしれない」

だめ、自分を捨てないで、うい!

私がういに向かって手を伸ばそうとすると、その腕を誰かが掴みました。

私が正気に戻って掴んだ手の方を見ると、無表情に私を見つめるワルプルガさんがいました。

「これで分かったでしょ。

お母さんをこんなことにしたのは、あなた達のせいなんだから」

「あ、あれはカレンは倒さないといけないと思ったから」

「なんで魔法少女同士が争わないといけないの」

「あの時は、そうするしか」

「お母さんはそんな答えじゃ納得しないよ。

そんな考えが当たり前になるなら、感情を持って生まれた存在自体がいちゃいけないんだ」

「私にだってわからない!
みんなを傷つけたカレンさん達を、許せるわけがないよ!
許せないのに、怒りの感情を抑えるなんて」

「魔法少女も、人間と同じ道を歩むの?
なぜ怒るの?なぜ妬むの?なぜそれらの感情から暴力へと繋がるの」

私はどこかで、ワルプルガさんは何も知らない子どもだとばかり思い込んでいました。

でも、今目の前にいるワルプルガさんはどこか大人びていて、カレンさん達を相手にしているような感じがします。
分かっているくせに、試してくるかのような感じ。

「なぜ怒るのかって言われても」

周囲ではういに見せられた悪夢が映し出される中、私は怒りについて考え始めました。

私は過去に怒りを感じた瞬間を思い起こそうとしました。
でもなぜか怒りをおぼえる場面を想像できません。生きている間に怒りを感じることは何度でもあっただろうに。

そんな中ういの悪夢の中に、ある一場面が映し出されていました。

ショッピングモールで、ねだったものが買ってもらえなかったのか駄々をこねる子ども。
お母さんをポコポコと弱弱しく叩いているあの行動も一種の怒りから来る行動の表れなのでしょう。

欲しかったものを買ってもらわなかっただけでなぜそんなに怒ってしまものでしょうか。

私の場合はどうしても欲しいものが買えなかった場合、がっかりする、つまりは悲しい気持ちになるだけで終わるでしょう。
望んだ結果に、ならなかったから。

望んだ結果に、ならなかったから?

負の感情をいだいてしまうのは、望んでしまうからなの?
何かを求めてしまうから、その結果によって感情が動いてしまうのかも。

では、なにも望まなければいいとなってしまう。

なにも望まない世の中というのは、楽しいのだろうか。

そう思っているときに、私はみかづき荘でみんなが笑顔で過ごしている様子が思い浮かびました。
みんなで過ごしているときは何を望んでいるわけでもない。ただそこにいるだけで温かい気持ちになれた。

ただただ散歩しているときだってそう、見知った人と会話をしているときだってそう、私は何の望みを思い浮かべなくても楽しいという気持ちを抱けていた。

きっと過去のように、
私の会話はみんなを楽しませているだろうかという、どこか私は他人と話すときはその会話で他人を楽しませないといけないという使命感のような望みを抱えていた。
だからか、会話を楽しめてはいなかった。

だとしたら、怒りをいだいてしまう答えは。

「怒りは、何かを望んでしまうから。
望んでしまうからその結果通りにならなければ悲しみや怒りといった感情に繋がってしまう。
望みを抱かなければ、怒りなんて感情は抱かなくても済むはずなんじゃないかな」

ずっと私の方を見ているワルプルガさんは、ちょっとだけ間を開けてから再び真顔で話しかけてきます。

「それが、私念を抑え込む答え?
それさえできれば、誰も争わなくて済むの?」

「わからない。
他人を困らせることで喜びを感じてしまう人もいる。そういった人たちを止めるために争いはなくならない。
でもそれは必要な争いだと思っているよ。ういだって、それはわかってくれるはず」

「そうか。じゃあその答えも含めて今後も大丈夫っていう安心感をお母さんへ与えてあげて。お母さんの中にある希望を大きくしないと」

「希望を、大きく。でも望んでしまったら負の感情をいだくきっかけになっちゃう」

無表情だったワルプルガさんが、笑顔を見せながら私の手を握りました。

「希望はそんな単純なものではないはずだよ。
だって希望は、生きるための源なんだから」

希望に感じること

ういはあんな悪夢を見せられても人への希望を失わなかった。

そんなういにとって希望となる光景は・・・

不思議と心当たりはあった。人と魔法少女が共に生きれるかもしれないという希望が。

そうか、あれがういとの向き合うための希望になるのか・・・

「答えを見つけ出せたみたいだね。じゃあ、みんなのところへ戻ろうか」

 

はっと気づくと壁にいろんな記憶が映し出されている部屋に戻っていました。

「いろは!」

声がした方向を向くと、真っ直ぐにやちよさんが抱きついてきました。

「気がついたのね。心配させないでよ」

「やちよさん?」

「お姉さまが壁に触れてから10分近くずっと動かないままになっていたんだよ」

この部屋に意識が持っていかれてしまったのではないかとヒヤヒヤしたよ。

でもよかった」

灯花ちゃんとねむちゃんの話を聞くに、どうやら私は壁に触れたままびくとも動かなくなっていたらしいです。

さつきさん達は落ち着いた様子だったので、こうなることはわかっていたかも?

「収穫はしっかりあったかい?」

キクさんがそう問いかけてきて、私は自信を持って答えました。

「はい、大丈夫です!」

「いいことだ。

じゃあ、妹さんに直接会いに行こうか」

さつきさんが向かった方向には扉があり、その扉の中からは魔女の気配が感じられました。

きっと大丈夫、あの時気付いた答えでういに再び希望が与えられるはず。

待っててね、うい!

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-17 憂いの思いは過去の私念から

二木市から私たちを乗せていた貨物列車は無事に神浜の車両基地へと到着しました

そこにはミリタリーな格好をした1人の魔法少女がすでにいました。
その人は博さんというようで、いつもは列車を運転してくれた方、銃をもって応戦してくれた方と一緒の3人グループで行動しているようです。
2人プラスアルファのメンバーで協力してくれたのは、神浜に来てから仲間が増えたからだそうです。

私が列車から降りると博さんが話しかけてきました。

「環いろはさんだよね?
咲たちが迷惑かけなかったか」

「いえ迷惑だなんて。とても助かりましたよ」

「三崎~、私たちがへまするように見えたのかい?」

「火炎放射器のやつと戦うチャンスだって駆け込んだこと忘れていないぞ」

「なーに、これでいつでも戦えるチャンスができたんだから同じ結果だって」

博さんたちの会話を聞いている間に、車両基地に入る列車を見たのか十七夜さんを含めた東側に住む魔法少女達が集まってきました。

その人達が二木市の魔法少女を見て、神浜に迎え入れてもいいのかと少し口論にはなりました。

しかしその場で争いを起こした理由を結奈さんが説明し、皆が納得したわけではありませんがその場は一旦治りました。

この件は少しずつでいいからみんなで協力しあえる環境を作っていけばいい。

気がかりだった出来事が片付き、いよいよういを正気に戻す行動に移らなければいけません。

私はやちよさんにまかせてしまっていたさつきさん達のもとへと向かいました。

やちよさん達がいたのは竜真館で、そこでは3人の子ども達が魔法少女達と遊んでいて、その様子をやちよさん、さつきさん、キクさんの3人が見守っていました。

そんな中、やちよさんがこちらにきづきました。

「いろは、戻ってきたのね」

「はい、お待たせしました」

「おかえりなさい、いろはさん。

あの3人、みんなに受け入れてもらえたようで楽しく過ごしているわ」

「それは良かったです。

えっと、大事な本題の話になっても大丈夫そうですかね」

「ええ。早く妹さんを助けに行きましょう」

さつきさん達が滞在することになった部屋へといくと、そこには何か札が用意されていました。

「あの札って」

「妹さんの心の中へと複数人で侵入するのでしょう?
私一人はともかく、複数人の侵入となると札にも準備が必要なのよ」

「え、私複数人で侵入するって言いましたっけ?」

「あら、経路を作る私とあなたの時点で十分複数人扱いよ。

1人以上であれば複数人扱いで対処するのは当たり前でしょ」

「それは、そうでした」

「ともあれ、相手の魂を傷つけないためにも侵入先をよく分析する必要があるわ

妹さんのところへ連れて行ってもらえるかしら」

そういえばういは今どこにいるのだろう。

神浜で何があったのかをよくわかっているひなのさんにういがどこにいるのか聞いてみました。

「ういちゃんの居場所は、里見灯花と柊ねむがよく知っているはずだ。

あいつらが強引に連れて行ったからな。

どこで匿っているかまでは知らん」

「そうでしたか。ありがとうございます」

私が灯花ちゃんとねむちゃんに会うために行動していると、2人の方から私たちの前へと姿を表しました。

「もう、帰ってきているならすぐ知らせに来てよね!」

「待ちくたびれていたところだよ」

「ごめんね。

さっそくだけど、ういの居場所に案内してもらえるかな」

付けてきている者がいないかを確認しながら、私たちは巧妙に隠されたシェルターへと案内されました。

「壊れていないシェルターなんてまだあったのね」

「里見グループ限定の隠されたシェルターだからね。ここなら誰にも邪魔されずに過ごせるんだよ」

シェルターの奥へと進んでいくと、その中の一室にういとワルプルガさんがいました。

部屋の中は綺麗で、見慣れたういの部屋と似た状態でした。

そんな部屋の中で、ういは編み物をしていました。

「…何か用?」

「えっとね、今日はういに会わせたい子がいて」

「社交辞令はいいわ。ちょっと失礼するわよ、妹さん」

そう言ってさつきさんは右手を前に出してういの魔力を探り出しました。

その間、ういは警戒して怖い顔をこちらに向けてきました。

さつきさんは魔力を探っていると、いきなり何かに弾かれたかのようにその場へと倒れ込んでしまいました。

「さつき!」

キクさんが慌てて駆け寄り、さつきさんは大丈夫だと言うジェスチャーを向けました。

「これは思った以上に重労働ね」

そう言ってさつきさんは一枚の札を取り出しました。

「失礼するわよ」

そう言ってさつきさんは一瞬で札をういの指輪へと当て、反撃される間も無く札へとういの魔力を込めました。

「ちょっと、何をしたの!」

ういの問いかけに耳を傾けることもなく、さつきさんは失礼しますという一言を言い残して部屋を出てしまいました。

私たちもそのまま部屋を出てしまいました。

「さつきさん、下見はもう十分なのでしょうか」

「ええ。でも思った以上に大物を相手にしないといけないようね。

神社で戦ったあいつよりは弱いけど」

「それって、どういうことですか」

さつきさんは神妙な顔つきでこちらを見てきました。

「ういちゃんのソウルジェムの中には、魔女がいる状態よ」

さつきさんの発言に私は驚かずにはいられませんでした。

「ソウルジェムの中に魔女がいるだなんて。そんなことあるんですか?!」

「そんなことあり得るの?」

「魔女は結界さえあればどこにでも潜める、と言うことを前提とすればあり得ない話ではない。

なんでソウルジェムの中へ入り込んでしまったのかというのは私も知りたいくらいだわ」

「あなた、ソウルジェムの中にいる魔女を倒す方法を知ってるんでしょ?」

「ソウルジェムの中へ入り込んで討伐するのは造作もないこと。

でもあの妹さんの言動はいつもの言動ではないのだろう?

だとしたら魂の主導権はほぼ魔女になってしまっている可能性がある」

「そんな」

「だからただ倒すだけではいけない。

妹さんが魂の主導権を取り戻さなければいけない。

そのためには、いろはさん。

彼女をよく知る存在の協力と、説得までに魔女を倒さず押さえ込む人員が必須よ」

「魔女を倒すだけではダメなの?」

やちよさんの問いかけに対して、灯花ちゃんが答えます。

「体の主導権を魔女が持った状態で倒してしまうと、その大部分の主導権が魔女と一緒に失うかもしれないんだよ。
ういは助けられても二度と目を覚ましてくれないかもしれないよ。

あなたが言いたいのは、ういが魔女から主導権を奪わないと意味がないってことでしょ」

灯花ちゃんの問いかけにさつきさんは頷きませんでした。

「ことはそれ以上に深刻かもしれない。

説得が長時間に及べば、争う魔女を押さえ込むのに激しい戦いを強いられるだろう。それによって魂が傷つけられ、主導権を取り戻せたとして元の妹さんに戻れない可能性がある。

なぜ主導権が魔女に奪われつつあるか、それを知った上で説得をスムーズに進められるようにしたほうがいいだろう」

そう言った後、さつきさんは私の方へと向きました。

「いろはさん、あたなたは妹さんに、何をしたの?」

「え?」

「あの魂の状態は、よっぽど深いトラウマを受けなければならない状態だった。

考えたくはないのだが、虐待とかしたのではないか」

「お姉さまがそんなことするわけがないでしょ!」

「ならば教えて。

何があれば、妹さんはあんなに心を閉ざすの。

これは妹さんを元に戻すためにも重要な案件だ」

「それは、話が長くなるので落ち着いて話せる場所へと移動しましょうか」

私たちはシェルターの一室でお茶を飲みながらさつきさん達へこの町で起きたことを話しました。

「そうか。この街に来てからずっと違和感を持っていたが、そのようなことが」

「でもあの子達にみんな仲良くしてくれていた。根っからに人間嫌いになったわけではないのね」

「だとしたらおかしい。あの子達と同じぐらいの歳の子も人間嫌いになる悪夢を見ていたはずだ。

ならばなぜういちゃんだけが心を閉ざさなければいけない」

「私にも、そこがわからないのです」

みんながなぜなのか悩んでいるところ、ねむちゃんが提案をしてきました。

今のういが唯一心を許しているワルプルガに話を聞いたほうがいいだろう」

「ねむちゃん?」

「近くにいる存在にしか気づかないこともある。ういから何か聞かされている可能性もあるからね」

「なら、ういちゃんが寝ている間にワルプルガさんに話を聞いたほうがよさそうね。

ういちゃんが起きている間はまともに話してもらえなさそうだし」

「じゃあ、もう少しここで待ってみようか」

「ならば私は札の作成道具をここに持ってくるわ」

「私も行こう」

「ちょっと、では一利するなら他の子に気付かれないようにしてよね。
ここは大事な場所なんだから!」

そうして、私たちはういが眠りにつくのを待ちました。

ういが眠ったかどうかは灯花ちゃんが監視カメラで確認してくれて、私は静かに部屋の扉を開けました。

私はテレパシーでワルプルガさんにだけ呼びかけ、気がついたワルプルガさんは静かに部屋を出てきてくれました。

「あなたは、いろはさんですよね」

「そうです。ういから聞いていましたか」

「いや、私が目覚めたときにされた入れ知恵のせいだよ」

「入れ知恵って、まさか」

ワルプルガさんはリビングがある方向へと歩き始めます。

入れ知恵といえば、確かワルプルガさんを復活させる際にシオリさんがやっていたこと

もしかしたら、私たちのことについても既に学習させていたのかもしれない。

私たちが知らないことも、知っていたり。

リビングにはみんなが集まって、ういがどんな状況であるのかをワルプルガさんに聞いていきました

「さて、ワルプルガさん。ういちゃんから何か辛い記憶とか苦しい記憶のことについて聞いていないかしら」

「私に聞くってことは、お母さんが私以外に絶対話さないようなことですよね」

「察しが良いわね」

「話すわけないですよ。

今のお母さんは、別の何かに塗りつぶされようとしているんですから」

「そこまで知ってるの?!」

「全て入れ知恵がいずれそうなるとなっていたので」

「入れ知恵?」

「それに」

ワルプルガさんは私の方を向きました。

「お母さんが塗りつぶされ始めた原因は、お母さんが見ている前で人殺しをした、いろはさん達が原因というのも」

全員その言葉で驚きました。

ういの目の前で人を殺す?!

私がやった人殺しといえば、カレンさん達を吹き飛ばそうという思考に塗りつぶされた結果放った一撃が、避難所になっていた里見メディカルセンターを破壊した時くらい。

あの光景が、ういにも共有されてそれが原因ということなの?

「いろはさん。それはどういうことですか。

内容によっては協力できるかも怪しくなりますよ」

「さつき…」

「わかりました。

おそらくういがトラウマになったである出来事のことを説明します」

私は包み隠さずカレンさんたちを殺すに至った経緯をさつきさん達に説明しました。

2人は終始驚いた顔つきでした。

全てを説明し終わり、最初に話し出したのはキクさんでした。

「恨みや妬みは盲目にさせるとは言うが、その件は飲み込まれた側も悪いだろうな」

「それに、この町の魔法少女は平気で人を殺せるのか」

わたしはさつきさんが協力をしてくれなくなるのではないかと怖くなっていました。

「でもそこまでの覚悟がないと、わたくし達は既に捕まっていたんだよ?

「捕まったらどうなるのかいまだにわからないが、嫌な思いをするのは明白だ。

投降なんてことも得策ではない」

「そのカレンという方は、こうなることを見越してあなた達の常識を塗り替えたと、それが正しかったのだというのですか」

「この街のみんなは、そうは思っていないけどね」

「幸いしたのは確かだけどねー。

私達がここに魔法少女の安全地帯を作っていなければ、あなた達だってとっくに捕まっていたのかもしれないよ?

むしろ感謝してほしいくらいだよ」

「灯花、言葉が過ぎる」

さつきさんは少しだけ難しい顔をした後に話し始めます。

「受け入れ難い事実ではある。

しかし、今無事であるのもこの環境があるからこそ。

それに、魔女に塗り潰されようとしている被害者を見過ごす理由にはなりません」

「では」

「妹さんを助けることには協力しましょう。

その後は、好きにさせてもらいますよ」

「はい。協力してもらえるだけで嬉しいです」

「そういうことであれば、妹さんの心を開く鍵はおそらく人がたくさん死んだ光景を見たことに対してのケアでしょう」

「少し難しいことになったわね」

「純粋な子どもが人の死を、それも大量に目の当たりにしてしまった時は大抵トラウマとなるでしょう。

それを克服しようとしたところで膨大な時間をかけての自然治癒くらいで、すぐに解決するものかは」

「では、どうしたら」

みんなが少し黙ってしまった中、ねむちゃんが提案してきました。

「トラウマの克服は種類や状況で変わるが、やりやすい方法として認知処理療法というものがある」

「認知処理療法?」

「何がトラウマの原因となったのか、今は何で心を苦しくしてしまうのか。

つまりはトラウマを抱えた人の悩みを真摯に聞き、心の内を全て開示させてその内容に理解を示すんだ。

それだけで心が安らかになり、トラウマ克服の糸口になったりするらしい」

「それならいろはが適任ね」

いきなりやちよさんに名指しされました。

「私が?!」

「あなたは聞く能力と、相手を安心させる能力があるわ。

きっとういちゃんの悩みも、いろはにはなせば解消されるはずよ」

「ならば気をつけてください。

人殺しを躊躇しないあなた達とは違って、妹さんは人の一般的な常識を持ったままだと思います。

いろはさん、人殺しはもうしないでほしいと聞かれて、正直に答えられますか。

街のみんなも、もうそんなことしないでほしいと言われて、心から妹さんの考えを肯定できますか」

「それは。

嘘でもそうするしか」

「その場で嘘がバレたら手遅れなんです。

妹さんがどれほど心を読む術に長けているかは謎だが、嘘を使うなら失敗する覚悟で望んでください。

彼女の魂は塗りつぶされかけているのですから、嘘をつかれていると気づいた瞬間に」

「はい…分かってます」

いつものように正直に向き合うことは、本当にできないのだろうか。

嘘が下手なのは分かっている。

ういの悩みが、正直に答えられるものなら良いけど。

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-16 のちに響く計略

アンチマギアプログラムが全世界へ認知されてから数日経過したころ。

米国の魔法少女狩りが行われている中、イザベラもお世話になっていたテロリストのメンバーの中にマーニャという魔法少女がいたのだが、その人も標的にされてしまった。

裏路地でマーニャさんが見つかったという話を聞き、私はその場所まで急いだ。

そこには特殊部隊に囲まれて動けないマーニャさんの姿があった。

テロリスト達と関わっている間何度か話したことがある人だが、魔法少女である以上逃すわけにはいかない。

私は特殊部隊のメンバーよりも前へ出てマーニャさんへ話しかけた。

「悪く思わないでください。
今の世界の常識では、あなたを見逃すわけにはいかない」

「キアラ、いまはイザベラはいない。考え直して!」

「私たちが使用していた魔法の鏡をことごとく割って回ったこと、米国の魔法少女の確保状況が良くないこと。

あなたが全て手回ししていたことは既に知っています」

「なんでそんなことを知っている。

まさかとらえた子の脳みそでもいじったか。
外道め!」

実際事実であるから言い返せない。

魔法少女の脳波をいじくり回し、ついには記憶さえも観測できてしまうというとんでもないものをディア達は作り上げている。

もちろんだがいじられた子達は負荷に耐えきれず魔女化してしまい、皆始末された。

あなたを捉えれば世界を脅かそうとする存在達の情報も聞き出せるでしょう。

それに、今あなたを逃せば私たちの負けは確定する。そんな気がする」

「…そうか~

なら、私たちのアジトの場所を教えると言ったら逃してくれるのかな」

兵士たちから銃を向けられていてもいつも通りの態度を崩さないマーニャさん。
こういった状況に慣れているからなのか、緊張感自体を感じないからなのか正直分からない。
マーニャさんとの付き合いはそれなりにはあるが、いつもいま目の前で見せているような余裕を持った態度しか見たことがない。

私は念のためマーニャさんへ確認をとった。

「嘘ではないんでしょうね」

「嘘はつかないよ。嘘だった時の報復が怖いからね。
イザベラならヨーロッパをまるごと吹き飛ばすとか言い出しそうだし」

「それは、あり得るから困る」

できればマーニャさんには苦しんでほしくない。

アジトがわかれば、イザベラは考えをあらためてくれるだろうか。

「キアラさん、もうよろしいのではないでしょうか」

特殊部隊の1人が私へ声をかけてきた。

「そうだな、もういい頃だろう」

私がそう言葉を発すると夜闇から音をたてず人々が現れて次々と特殊部隊たちを気絶させていった。
突然現れた人物たちの危険を察して逃れた兵士に対しては私がひそかに気絶させた。

マーニャさんが困惑する中、火が付いていないたばこを咥えた一人の男が言葉を発した。

「なんだよ、サピエンス直属の特殊部隊と聞いていたがこの程度か」

「ロバート、なんでここにいるんだ。

それに、みんなまで」

夜闇から出てきたのはロバートが率いるテロリストたち。彼らとは手を組んでいるため現れたことについて私は少しも驚きはしなかった。

「え、なんで?もしかして、キアラもグル?」

「じゃなきゃ俺たちもこんな堂々とやらねぇって。俺たちだってキアラにはかなわねぇってことぐらいわかってるさ」

「そ、そうだよね。よかった」

「よかったじゃねぇ!」

いきなりロバートさんが怒鳴りだしてこれにはさすがに私も驚いた。

「さっさと消えろ。じゃねぇと他のやつらに気付かれちまう」

「ロバート・・・」

ロバートは悲しそうなマーニャさんの顔を見ると、ぎこちない笑顔を見せた。

「達者でな」

そんなぎこちない笑顔を見てもマーニャさんは笑顔を見せた。

「うん。
みんな、キアラ、ありがとう!」

そう言ってマーニャさんはその場から姿を消しました。

私はマーニャさんが姿を消したことを確認した後、ポケットにしまっていた魔法少女の探査端末を取り出した。その端末にはマーニャさんであろう反応がしっかりと映っていた。
感知できていることを確認した後、私はカルラへと通信を繋げた。

「取り巻きは対処したよ。
あとはそっちで好きなようにして」

「感謝する。前にも言ったがこれはイザベラ達には内密に。あんたにも響くことだろうからね」

「わかってるよ。こちらで呼んでおいた応援もそちらに向かわせる。
助力なだけだからあまり信用はしないでくれ」

「わかった」

通信が切れた後、わたしは探査端末をロバートに渡した。

「どういうことだ」

「あなたたちに声をかけたのはマーニャさんを逃がすため意外にも目的があります。
それは、マーニャさんが逃げた後彼女たちが使用している転送の鏡を確保することです」

「てめぇ!マーニャをはめたのか!」

「マーニャさんが無事であればいいのです。
それに、ここであなたたちが魔法少女狩りに貢献しておけばあなたたちへ矛先が向くことも無くなるでしょう」

「おまえ、俺たちのことまで」

「今は人同士が争っている時ではないのです。
その不安分子を取り除いたくらいに過ぎません。さあ、その探知機が示す場所へ急いでください」

これで段取りはすべて踏んだ。あとはカルラが何かたくらんでいたようだが何をするのかまでは聞いていない。
いったい何をしたのかは、すべてが済んだ後に聞きに行ってみよう。

 

 

ヨーロッパを中心として活動している魔法少女達は、元ベルリンの壁跡地の地下深くの魔力で作られた空間をアジトとしている。
魔力を籠らせた魔法石がトリガーとなって入場審査を行っている

ただその魔法石があるだけでもダメ。ちゃんとその魔力を籠らせた本人じゃなきゃ入場が許可されない。

それに、敵に捕まったと判明すればすぐにその所持者の魔法石では入場不可にしてしまう。
とはいえ、ミラーズという場所で作られた鏡を通ってくるところまではカバーができていない。
なので別の空間と繋がっているその鏡についてはアジトへ侵入できる穴となっている。

そんな鏡の一つを使用してわたしはアジトへと逃げようとしていた。

しかし、なぜかその場所へサピエンスの特殊部隊が姿を現した。
まさかキアラが。いや、だとすると私を逃がした意味が分からない。

「マーニャさん、でしたっけ」

話しかけてきたのは白衣に身を包んだ女性だった。
私の名前を知っているのはキアラから聞いたからなのだろう。

「あなたには少し用があってね。変に攻撃をしてこなければ話だけで済まそうと思う」

他の魔法少女が白衣の女性に対して言葉を放った。

「その言葉を信じれと。サピエンスの言葉を魔法少女が信じるものか」

「まあそれはそうか。
では、サピエンスの本拠地があるペンタゴンの見取り図を渡すと言ったら大人しくしてくれるか」

そう言って白衣の女性は手に持っていた地図をこちらに見せてきた。
暗闇ではあるものの、五角形の図形の中へびっしりと複雑な線と文字が書き込まれていたのは確認できた。それが本物だとしても。

「正気なのかお前は。
それを伝えたところでお前たちに何の利益がある」

「これをどう利用するのかはお前たちに任せる。
だが、これを受け取れないというならばお前たちを”捕らえる”という形で保護しなければならない」

「どのみち抵抗しないと捕まるだけだ」

「言ったはずだ。話し合いだけで済ませたいと。
たまには信じるという選択肢を取ってみたらどうだ。争ったとしてもそうじゃないとしても、君たちは保護しないといけないからな」

「マーニャさん、どうします」

あの地図自体が罠だとしても、サピエンスの拠点がどうなっているのかを知ることができれば今後の作成に大いに役立つだろう。
でも、こいつが言っている保護とはどういうことだ。

「保護の意味を教えてくれたらお前の意見を飲もう」

「言葉の通りだ、実験にも拷問にもかけたりしない。他のサピエンスのメンバーに気付かれないよう守るだけだ」

これは、サピエンス内も一枚岩ではないということか。
表情一つ変えず淡々と話す白衣の女性を見ていると信じるのは怖くなってくる。

「・・・いいだろう」

私は見取り図を受け取ってメンバーに見送られながらその場を後にした。

鏡を通って私は拠点へ辿り着き、ミアラの場所へと急いだ。

ミアラのところへと到着するとすぐに手に入れた情報を渡した。

その情報を見て、その場の全員が驚いた。

「これ、ペンタゴンの見取り図じゃないか!

これ本物なのか?!」

「渡してくれた人は本物と言っていたよ。
でも引き換えに私たちが使用しようとしていた鏡一枚とその場にいたメンバーたちが保護された」

「バカかお前!早く鏡を割らないと奴ら直接入ってくるぞ」

「いや、まて」

ミアラさんは見取り図を見ながら何か考え込んでいた。

私たちはペンタゴンにサピエンスの人員や物品が頻繁に出入りしていることからサピエンスの拠点になっているのではないかということはわかっていた。
そのうえでペンタゴンの攻め方を模索していた。

ただでさえ難攻不落と呼ばれているペンタゴン。

この見取り図が信用できるならば、サピエンスの拠点はペンタゴンの地下に存在する。

「協力者がいたのか」

そうミアラさんから質問された。

「協力者、でいいのかな。あの人は確かにサピエンスの一員みたいでしたが、鏡を手渡すことを条件にこのデータをくれたんです」

「それで鏡とメンバーは保護されたと。何に使用するのかまでは聞かなかったのか」

「えっと、争わずに話し合いで済ませてくれれば捕まえるではなく保護するって言われたから」

「はぁ?!

やっぱ馬鹿だろお前!」

「私だってそうするしかなかったんだよ!

あいつら私らの脳みそを覗き見る装置を作ったみたいなんだ。

捕まったほうが何倍もマイナスだったよ!」

「まあみんなそんなに責めるな。

マーニャ、生きて帰ってきてくれただけ嬉しいよ」

「ミアラさん…」

「やつらが鏡を確保したのであれば、こちらに攻め込まれる可能性があり、逆にこちらから攻め込めることにもなる。
とはいえ、すべて負担がかかるのは神浜だ」

「神浜、カレン達がうまく追い払ってくれるといいですね」

「そうだな。こちらは鏡の間の警戒を怠らないようにしよう」

 

あの白衣の女性は何を考えて保護などという言葉を使ったのか。
私の選択は、正しかったのだろうか。

 

 

わたしはマーニャさんに関する一件が落ち着いた頃、なにが目的であのような段取りを用意したのかカルラへ聞きに向かっていた。

イザベラへは鏡を確保したことまでは報告されておらず、その場にいた魔法少女達をロバート達テロリストの協力のもと確保に成功したという報告がされていたようだ。
ロバート達の扱いはしばらく保留されることとなり、気絶させられた特殊部隊のメンバーについては申し訳ないが魔法少女達にやられたという扱いになってしまったようだ。

研究室にいたカルラへ話しかけると、カルラの個室へと案内された。

部屋のドアが閉じられてからようやくカルラは話しはじめた。

「わるいな、あの一件はほんの一部のものにしか聞かせていないことだったからな。盗み聞きされないここまで来てもらった」

「・・・あれはいったい何が目的だったんだ。マーニャさんは逃げたようだがまさかイザベラには秘密で鏡も調達するとは思わなかった。
カルラ、あなたは一体何をする気なんだ」

カルラはタバコへ火をつけてそれを口にくわえると話しはじめた。

「キアラ、あんた今のイザベラのやり方をどう思う」

「やり過ぎだとは思っているさ。
でも、神浜にやろうとしている作戦の準備中である今制止を促すのは中途半端な気がしている」

「まあ懐刀であるあんたの前で言うことではないと思うが、信用しているからこそ言わせてもらう。
あの鏡は魔法少女達を脱出させるために使う」

「そんなことをしたらカルラは殺されてしまう!」

「だろうな。だが時期を間違えなければあれは魔法少女側へ勝利をもたらすキーに変わる」

「カルラ、あなたは人類側を敗北させようとしているのか」

「別に人類を敗北へ導こうなんてわけじゃない。魔法少女と人類、どちらがこの星の主導権を握ればまともになるのかを見定めた後にあの鏡を使用するさ。
今あの鏡は保護した魔法少女達に守ってもらっている。
時が来るまで彼女たちも鏡もイザベラは気づかないだろうさ」

カルラは人類が負ける不安分子を用意していた。それがこれまでの段取りの意味だったのか。
私は人類が勝利で終わることを望んでいる。
とはいえ、魔法少女へ酷な未来が来てほしくないとも思っている。

なんとも中途半端な考えであると我ながら思ってしまった。

「まあ、キアラは今まで通り過ごせばいい。
私たちをどうにかするかは、まあ、この世の情勢を見て判断すればいいさ」

 

果たして私は、カルラは、この世界の主導権を握るのはどちらがふさわしいと判断することになるのだろうか。

いまはまだ、わからない。

 

 

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【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-15 決意の朝

村の空気は村を出る前の頃と変わらず、都会よりも居心地が良いものに変わりはありませんでした。

村の人達は私たちを笑顔で迎えてくれて、そんなにぎやかな雰囲気を聞きつけたのかお母さんと、静香ちゃんのお母さんが出迎えに来ました。

「みんなお帰りなさい」

私達はお母さん達と顔を合わせ、いつも通り平静を装おうとしましたが、その態度はすぐにお母さん達にバレてしまいました。

「みんな、ちょっと様子がおかしい気がするんだが。
神浜市に行って何があったか聞かせてくれないか」

静香ちゃんのお母さんがそう切り出してしまったため、私達は正直に神浜で起こった出来事を話さないといけなくなりました。

「わかりました。落ち着ける場所で話します」

私たちは神浜へと行って何が起こったのかを話しました。

神浜にいる巫達はとても優しくしてくれた。

でも、日継カレン達の行動によって私たちは平気で人を殺してしまえるほど、人を信じれなくなってしまったことも。

そして何よりも、しずかちゃんの大事な剣が奪われてしまったこと。

お母さん達はその話を聞いてとても悩ましい顔をしていました。

「人間を殺めてしまう経験もそうだけど、人間を信じれなくなったってのも問題だね」

一体どんなイメージを見せられてそう言った考えに至ったのかはわからないけど、この村の人たちのことは信じて欲しいわ。
ここのみんなが優しいのは、3人も知ってることでしょ?」

「でも、でも。

この村にいる人たちが実は悪いことを考える人たちで、魔法少女を対等な関係で見てくれていなかったり、悪いことに利用しようとしているんじゃないかって思って」

私は涙を滲ませながら回答をしました。

そんな私にすぐに返事を返したのは静香ちゃんのお母さんでした。

「そりゃ人なんだから悪いことの一つや二つは考えてしまうさ。
何でもかんでも善行でできている人間なんていないと言ってもいい

「お母様達も、悪いことを考えてしまうの?」

「そうだね。

娘達を親の同伴なしで都会に送り出すことだって、人によっては私達は悪いことをしてると捉えるだろうさ。

でも、私は娘との合意の上で送り出しているつもりだ。

何が言いたいかというと、悪ってのは見る角度によってそうかそうでないか変わるってことだ

「お母様、もっとわかりやすく教えてもらえますか」

「こういうのは人生経験で学ぶ物だと思うけどね。口だけの説明では理解しきれないだろうさ」

「…私たちが悩んでいるのは、守ろうとしていたこの国が悪いことを考える大人の考えでできているってことを知ってしまったから。

国民にはまともな人がいるかもしれない。

だとしても、人はお金や権力が絡むと非道なことができる。

それは、子ども思いの親も同じ」

「ちはる…」

その後の夕食はできるだけ今まで通りの楽しい雰囲気で過ごそうとしました。

私はどこか演じきったという感覚が拭えず、お母さん達に申し訳なさしかありませんでした。

夕食後、私はひとり夜風にあたりながら考えていました。

私たちに見せられたあの光景の数々が事実だとしたら、人間は許せるような存在ではない。

でも、お母さん達のような、お金や権力に引っ張られずに優しさを忘れない人がたくさんいるならば、まだこの国は守っていきたいと思える。

「わからない、わからないよ」

「ちはる」

声がした方を向くと、悲しげな顔をしたお母さんが立っていました。

「お母さん…」

お母さんは私の横に立ち、優しく私の手を握りました。

「ちはる、お母さんはあなたに無理して人を信じて欲しいとは思っていないわ

できれば信じていてほしいけど、きっと人に対する不信感は都会に長く滞在したからこそ感じたこと

その疑う気持ちは大事なことよ」

お母さんは真っ直ぐに私の目を見ました。

「周りの大人達は受け入れてくれないかもしれない。

それでも、あなたの信じる道に進んでちょうだい。

だとしても、人の道を外れるようなことをしてはいけなわよ。
ちはるがそんなことに慣れてしまったら、お母さん悲しんじゃうから」

やはり、会うべきではなかったかもしれない。

こうして面と向かって自分の心に従えなんて言われたら、もうお母さんに会うことは無くなっちゃうだろうから。

でも、それはもう今更なこと。

「うん、ありがとう」

これがきっと、お母さんにいう最後のありがとうになるだろう。

 

翌日、私達は神浜市へと戻りました。

お母さん達には笑顔で行って来ますとは言ったけど、もう帰ってくることはない。

すなおちゃんはというと、両親に結局顔を一度も合わせることなく静香ちゃんのお母さんに相談を行っただけでした。

静香ちゃんは改めて人を信じてみたいという決意を固めたようです

結局今回の帰省は、時女一族をさらに二つの勢力に分けてしまうような要因を作ってしまっただけかもしれません。

そんな結果を聞いて分家の子達は複雑な気持ちになっていました。

どうにかして静香ちゃんが人との共存を目指そうと説得を行うものの、みんなが賛同することはありませんでした。

なかなか一族が今まで通りに戻らない中、神浜でテレビが復旧したという話を受けて、珍しいものを見ようと静香ちゃん、すなおちゃんと一緒にテレビが設置されたという竜真館へ行きました。

そこには魔法少女がたくさんいて、一部の魔法少女は私たちに声をかけてきました。

「おや、あなた達は確か時女一族の方達ですよね」

しかし私たちには覚えがありませんでした。

覚えている方達といえば、いろはさんとあとはピリカさんに怪我を負わせた魔法少女くらい。

「ほら、あの顔合わせの会議の時ですよ。

まああの時はピリカさんが突然倒れてそれどころではなかったですが。

でも今まで外に姿を見せなかったのに、テレビの噂でも聞いて飛び出してきましたか」

「まあ、そんなところですね」

すなおちゃんがそう答え、私と静香ちゃんは苦笑いするしかできませんでした。

いたか覚えがないなんて、言えない。

テレビでは他愛もない番組が流れている中、画面が急に荒くなっていきました。

「なに、故障?」

みんなが故障を疑っている中、画面が復活したかと思うと世界を大きく変えることになる演説が映し出されました。

アンチマギアプログラム

その内容は人間が魔法少女の発生を抑制し、現存の魔法少女達を支配するような内容でした。

周囲の魔法少女達は怯えた顔をするばかりで、その中にはひっそりとついてきていた分家の子達もいました。

「ちかちゃんに、旭ちゃん?!」

「涼子殿もいるでありますよ」

「わざわざ報告しなくてもいいだろ」

「…みんな戻るわよ。

これは、いい加減決断しないといけないことよ」

真面目な顔をした静香ちゃんがそう言うと、みんなはうなづいて時女一族のみんなはお寺に戻りました。

そして、みんなを集めた静香ちゃんは、私たちに相談もせずこんなことを言い出しました。

「私たちは巫、魔法少女であると、日の本に明かしましょう」

みんなはざわつき始めます。そんな中、涼子ちゃんが切り出します。

「大将、自分が何を言っているのかわかってるのか」

彼らは私たちを確保するとは言ったけど始末するなんて言っていません。

日の本のために戦う存在が巫であると言えば、きっとわかってくれます。だから!」

「それで人の前に姿をあらわにすると。
静香さんも知っているはずです。この世の中には悪い人間がたくさんいると」

ちかちゃんがそう言っても、静香ちゃんは引き下がろうとしません。

「明日、政府へと申告しに向かいます。
一族のみんな、ついてきてもらえるかな」

みんな静まり返り、最初に発言したのは、私でした。

「嫌だ」

「ちゃる…冗談はやめて」

「冗談ではないよ。

あの放送の内容しっかり見たでしょ?

魔女になった魔法少女が人を襲った映像、そしてドッペルを出した神浜にいた魔法少女が人間を虐殺する様子

あれを見て魔法少女が危険な存在だって思わない人なんていないよ

私たちがいくら危害を加えないからって、普通の人間としては扱ってくれない。

きっと、危険な存在として監禁されるだけだよ」

「そんなこと!」

「そんなことあります」

次に声をあげたのはちかちゃんでした。

「私の魔法少女になった経緯は知っていますよね。

危険な存在だと認識された上で、まともな扱いがされないことは目に見えています。

きっと利用されるだけです。

考え直してください!」

「…私は、一族の長について行きます」

「お前、本気か!」

分家の一人が静香ちゃんに賛同したのです。

その声を筆頭にポツポツと静香ちゃんについて行きたいと言う声が出てきました。

「本気なのか、お前たち!」

「人にも優しい人は、お父さんとお母さんのように優しい人はきっといるはず。

そう信じたいのです!」

「私もです!」

「わ、わたしも」

「みんな…」

結局人を信じたいと思っていたみんなが静香ちゃんについて行くと言いました。

「すなお、あなたの意見も聞かせて」

すなおちゃんはとても悩んだ顔でなかなか話そうとしませんでした。

「すなおちゃん、はっきり言ったほうがいい時もあるよ」

私がそう言うとすなおちゃんは深呼吸をして、静香ちゃんの顔を見ながら言いました。

「私は、行くべきではないと思います。

きっと、酷い目に遭うだけです」

静香ちゃんは少し泣きそうな顔になってしまいました。

「どうして…わかってくれないの」

その後は静香ちゃんが個室にこもってしまったため、私は個別に今後どうするのか聞いて回りました。

最初は一緒に外で月を見ていたちかちゃんと旭ちゃんに意見を聞いてみることにしました。

「静香殿の気持ちはわからなくもないでありますが、アンチマギアプログラムなんてものが実施された世の中で魔法少女が生きていけるとは思えないでありますよ」

「人はいくらでも騙そうとしてきます。静香さんが信頼している人もきっと偉い人の命令となればいくらでも裏切ってくるでしょうに」

二人は静香ちゃんの意見に否定的なようです。それぞれがいう理由は、自分の経験から言っていることなのかなと少し気にはなりました。

あまり二人のことは深くは知らないけど。

「どうしたら静香ちゃんは考え直してくれると思う?」

「結構意志が硬めの表情でしたからね。諦めさせる方法がないくらい、説得は難しいと思います」

説得が無理なことはわかってる。

でも、行かせちゃいけないと思うんだ。

いろんな子に意見を聞いても意見がまとまらず、布団で寝転がりながら考えていると知らないうちに眠ってしまいました。

そして目覚めたのは、外が騒がしい中すなおちゃんに声をかけられた時でした。

「外が騒がしいけどどうしたの?」

「静香がここを発つっていうんです。

日本政府に姿を見せるんだって」

私は急いで騒がしい玄関へと急ぎました。

外では引き止めている涼子ちゃんと毅然と立っている静香ちゃんがいました。

「大将、あんな放送があった後だ。

人間が普通に接してくれるわけがない。

考え直してくれ」

「私たちの考えは変わらないわ。

涼子ちゃん、道をあけて」

両者が睨み合っているところに私は飛び込みました。

「ちょっと何やってるの静香ちゃん!

馬鹿な真似はやめて!」

「私は冷静よ、ちゃる。

おかしいのはあなたたちよ。

少しは人を信じようとしてみてよ」

「私たちはもう信じれないよ!

受け入れられたって、人間社会自体が」

「悪いものは私たちが正せばいい。

それで人間社会だって健全になるわ」

「いつの間にそんな傲慢な考え方を…」

「話しても無駄でしょ」

そう言うと静香ちゃんは見慣れない刀を取り出しました。

「その武器、一体どこから」

「魔法で生成するって方法を教えてもらったの。

我が一族の刀はどこかいっちゃったし」

静香ちゃんは鋭い目つきでこちらをみながら刀の先をこちらに向けてきました。

「構えなさい、ちゃる。

私を行かせたくないと言うなら」

私は仕方なく十手を構えましたが、そこにすなおちゃんが割って入りました。

「やめてください!

時女一族同士が争うなんておかしいです!」

「すなお、あなたはどっちなの!」

すなおちゃんは悩んだ顔をしながら静香ちゃんから目をそらし、少ししてから涼子ちゃんの方を見てこう言いました。

「涼子さん、静香を行かせてあげてください。

その後の結果は全て私の責任にして構いません!」

「だが」

「行かせてあげてください!」

涼子ちゃんはどこか不満げな顔をしながら道をあけました。

静香ちゃんは武器を下ろし、すなおちゃんに話しかけます。

「すなお、あなたは来てくれるの?」

すなおちゃんはうなだれたまま、ただ首を横に振るだけでした。

「…必ず、あなたたちを迎えにくるから」

そう言って静香と人間を信じたいと思う子たちは水徳寺を後にしました。

私たちはしばらく気持ちを切り替えずに過ごしていましたが、切り替えざるを得ない出来事が起きます。

静香ちゃん達が出て行ってから次の日の夜があけた頃、紫色の霧が水徳寺を覆いました。

私たちは急いで外に出ましたが、中で逃げ遅れた子達はだんだん動かなくなり、テレパシーを送ることも受け取ることもできなくなりました。

そして、私たちが飛び出した先にいたのは、テレビで見たことがある特殊部隊と言える服装をした兵士たちが銃をこちらに向けて包囲していました。

「おとなしく言うことを聞けば痛い思いをしなくて済む。

素直についてきてもらおう」

抵抗しようという子が感じ取れたので、全員に対して抵抗しないようテレパシーで伝えました。

私たちにはこの場をどうしようもできない。

そんな中、知らない魔力反応を示す魔法少女の集団が近づいてきました。

その場に突風が発生して、紫色の霧が周囲から消えたかと思ったら、見慣れない魔法少女達は鎖やら鎌で兵士たちが銃声を鳴らす間も無く首や引き金を弾く方の腕を切り落としていきました。

あっという間の出来事でした。

生きている兵士がいなくなった頃、鎌を持った魔法少女が話しかけてきました。

「随分と大所帯だが、どこに避難するかは決めているか?」

「いや、今は何が起きているんだかさっぱりで」

「特に決めていないならば中央区の電波塔跡を目指せ。

あそこに怪我人や避難したものが集まっている。

あそこにいれば少なくとも安全だろう」

そう言って鎌を持った集団は去っていきました。

「さてどうするでありますかね」

「旭ちゃん?」

なぜか旭ちゃんとちかちゃんは武器を手に持っていました。

「神浜中にあの妙な兵士さん達が現れているんですよね。

道中出会うかもしれませんし」

「それに、お世話になった皆さんを助けた方がいいとも思いましてね」

「二人とも」

「でもどうするよ、ちはる」

声をかけてきた涼子ちゃんも武器を構えた状態でした。

「涼子ちゃんまで」

私はみんなの向けてくる目を見ずに思いを伝えました。

「私の意見を待たなくてもいいよ。それに、もう一族が集まって動く必要も」

「そうは言ってもね。

私らは他に行き場所はないし、こうやって分家同士が集まってる方が心地良くなってるんだよ。

だからそんなこと言うなよ。

今まで通りやっていこうや」

周りの様子を伺ってみると、みんな涼子ちゃんの意見に賛成しているようでした。

みんなを率いていくなんて気は全然ないけど、意見を求められたら答えるくらいの心持ちでいようかな。

「じゃあ、私は神浜から変な兵士さん達を撃退しようと思うけど、ついてくるかどうかはみんなに任せるよ」

「ま、そんなノリでいいさ」

こうしてあの日、私たちは神浜の魔法少女達と協力して謎の兵士たちを追い出しました。

あんなことがあった後、静香ちゃん達が無事なのかは不安ですが、きっと無事だと信じています。

 

 

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