罰の園 1-3 昼夜

この学校の屋上には一度行ったことがある。

しかしあの時の場所とは離れていて、屋上菜園がある場所のさらに隣に離れた屋上がある。
三分割された学校、そういう仕組みらしい。三分割されたうちの真ん中がこの菜園状態になっている屋上。

次の目的地は屋上の端にある床板を外さないといけない。

その前に食料の件を解決しておくか。

 

屋上には4エリアほどレンガで囲われた畑があり、屋上中央には鳥が飛び立つ様子を表したようなオブジェクトがあった。

そのオブジェクトには屋根がついていて、その足元には広げられた扇一つと花が置いてあった。

畑の一つにはタクヤが屈んでいた。
タクヤに近づくと向こうから気づいて不貞腐れた顔でこっちを見てきた。

「遅いぞ。全部俺が掘るのかと思ったよ」

「それでもいいけど」

「ふざけんな、お前も掘れ!」

タクヤがいる場所は既に芋がいくつか掘り出されており、私は二つ奥の葉が枯れた場所を掘ることにした。

黙々と掘っていると芋が数珠繋ぎに出てきた。芋は薄茶色で丸めの形で、芽が少なかった。そして驚いたのは畑に深さがあることだった。

私は収穫を続けるタクヤへ話しかけた。

「この区画全部取るの?」

「ん、いや、葉が青いのは置いとく」

「そう・・・」

私は屋上中央にあるオブジェクトを見ながら呟いた。

「あれはなんなの」

「あん?」

タクヤは私の目線先にあるオブジェクトを見てあれかって顔をしながら教えてくれた。

「あれはウズメ様の祭壇だよ」

「ウズメ様?」

「おいおい、ウズメ様知らないってどんな田舎にいたんだよ。
ウズメ様はこの世界の神様で、この世界の安寧をもたらしてくれていたんだ。
でもある日から消えちまって、入れ替わるようにその辺へ化物が出てきたんだ」

「神様がこの世界から消えたのに、あのオブジェクトが残ってるのはなんで?」

「それは俺もしらね。

大人たちがいつか戻ってくるからって言いながらあのオブジェクトに供物してるんだ。
ただでさえ食料が少ないのに、大人の考えがわからないよ。

お前だってそう思うだろ?」

この世界には神様がいない。

それが事実なのかはわからない。

もし神様がいなくても、この世界があり続けているならば神様がいなくても世界というものは存在できるということになる。

安寧をもたらしてたっていうけど、本当にそうなのだろうか。

私はオブジェクトを見ながらそう考えていた。

「そうだね、よくわからないね」

「そう思うよな!

あーあ、神様どうこう言う前にやることあるよなー」

大人達が神様へ固執する気持ちは何故かわかる。

きっとどうしようもないから縋りたいのだろう。

何故こんな考えが出てくるのかは、私にも理屈では説明できなかった。

そう思えてしまうのだ。

「んじゃ、俺下に運ぶからついてこいよ」

そう言ってタクヤは収穫した芋の一部を持って下へ降りて行った。

私は隙ができたと思い、屋上の端のタイルを調べることにした。

4角全てを調べたが、どこも剥がれる様子がなかった。

映し出された光景と話が違う。

周囲を見渡すと、壊れて破れた柵の先にあるまだ踏み入れたことがない屋上の端のタイルが浮いているのを目撃した。

あっちか。

そう思った頃に後ろからタクヤに呼ばれた。

「来いって言ったろ!そこの収穫した芋をかごごと持ってこいよ!」

仕方がなく私は収穫物を下に持っていくことにした。

また隙をついて屋上に行くか。

収穫物を届けた後、報酬として私には小皿に入ったポテトサラダが渡された。
見た目は黄色一色だが暖かく、バターを混ぜてほぐされている。

「こんな報酬で悪いね。

夕飯の時間になったらちゃんと葉物も出すから」

厨房にいるタケヤの母親にそう言われた。

食べようかという気持ちになったら、食べるための道具がないことに気が付いた。スプーンがないか聞こうか。

・・・

まあいいやと思い私は素手で食べた。別に火傷をすることはなかったし。
手づかみで食べることに抵抗はなかった。食べるための道具を使用したほうがいいという思いはあったけど。

私はポテトサラダを食べた後、食器を洗って乾かす場所であろう網のところへ立てかけた。

そういえば、この世界に昼夜の概念はあるのだろうか。ここにきてずっと外の様子は昼のまま。

気になり、紫髪の女へこの世界に昼夜の概念があるか聞いた。

「一応ありますが、あなたの場合はベッドを仲介する必要があります」

「え、なんで、自然経過とか」

「それは、どうでしょうね。根気よく待ってみても良いかもしれませんよ」

「なにそれ」

私は視界に入った時計を見た。

時計の針は9時を指していた。外は明るい。
今まで過ごしてきた時間はそれなりにあったが、それでも9時?

…この世界は普通ではないようだ。

「ベッドで寝れば昼夜を変えられるでいいのよね」

「そうですよ」

何か行き詰まったら昼夜を変えることも選択肢に入れておこう。

私は再度屋上へ行った。

隣の屋上の端が怪しいので、行く方法を探すことにした。

屋上を囲っている網に破れている部分があるため、そこへ橋になるものをかければ移動できそうだ。

橋になりそうなものを周囲で探したが、すぐに手に取れるものでそれっぽいものは見当たらなかった。

そんな中、屋上にあるオブジェクトの裏側にちょうど良い長さのトタン板があった。しかしくたびれて見える。

その近くのオブジェクトを囲む壁の木板が外れかけていて、それも橋としてちょうどよさそうだ。

私はすぐに持ち出せそうなトタン板へ手を伸ばすと私の頭の中に光景が広がった。

そこにはトタン板を橋がわりに使用して渡ろうとする私が第三者視点で見えた。

橋の真ん中ぐらいまで進むとトタン板はバキッという音を立てて折れ、私は地面まで落下し、地面へ叩きつけられて即死した。

現実の光景へ戻ってくると何を見せられたのかはすぐに把握した。そして思わずため息が出た。

私はこんな2択も外すのか。

私は呆れを力に変えるように外れかけの木板を思いっきり剥がした。

こんなオブジェクトにはなにも思うことはないため躊躇もなかった。
木板は少し重く、橋として架けるには苦労した。

途中で折れないか恐る恐る渡った。

木板は途中で折れることなく、隣の屋上へ移動することができた。

屋上にある階段へ繋がるであろう扉には鍵がかけられていた。下へ降りるには予定通り端のタイルを外していくしかないようだ。

目的の端にある外れかけのタイルを除けると、誰かが意図的に開けたような穴があり、躊躇わず私はそこを降りた。

降りた先は廊下で、足元には化物の足跡がついていた。そして廊下の先から声が聞こえた。

「ダレカイル、ダレガイル」

声は人間に似ているが、どこか声帯を頑張って再現しているかのような人外の片言の雰囲気に似ていた。

どこかに隠れようとしたが、隠れ場所はなく、開かない屋上へ繋がる扉まで下がるしかなかった。

化物の足音は近づいてきて、ついに化物が視界に入ってしまった。

「ヨコセ!」

そう言って化物は私の頭を強く掴んだ。

頭を潰される時の痛さ。

頭痛のような内部での激しい痛さとは違い、外から加わる圧力で、神経がどうしようもないのに痛い痛いと警告を脳内へ伝えてくる。

なかなか死なせてもらえず、私はこの世界に来て初めて肉体的な苦痛を味わっている。
苦痛から逃れるために私は頭をつぶそうとする化物の腕をはがそうと掴んで力を入れても、びくともしなかった。

「カタイナ…」

そう聞こえた後、私は階段に叩きつけられるところまでは覚えていた。

 

私は紫髪の女の前で立っていた。

私は思わず頭を触って頭蓋骨が砕けていないか確認した。

私は再び死んでしまったようだ。

屋上へ行くと隣の屋上へ板が渡されていなかった。しかし屋上で芋が回収された後ではあるようだ。

状況をおおよそ把握し、再度オブジェクト付近から木板を回収して隣の屋上まで再度移動した。

今度は化物が出てきた方向へ駆け抜けてみるか。

下へ降りて急いでその階にある部屋へ向かった。手前の部屋には化物がいると思い、一つ奥の部屋へ入った。

しかしそこには化物が二匹いて、こちらを向いてすぐ首を掴まれた。

その後は首をぽっきり折られ、再度紫髪の女の前にいた。

きっと今の状態で向かってもすぐに化物に見つかってしまうだろう。

状況を変える方法としては、昼夜の変更だろうか。

私は視界に入ったタクヤの母親へ寝ることができる場所はどこか尋ねた。

芋を運び込んだ部屋、そこは調理室と呼ばれているようで、そこを出て右へ進んだ先にある左右にベッドが並べられている部屋がある。廊下を向いて左側にある教室内に空いているベッドがあるからそこを使うといいと伝えられた。

その教室内は廊下で見かけなかった老人や赤子を抱えている女性がいたりした。

各ベッドの上や周りには私物が転がっていて、ベッドしかない窓際にある一箇所がよく目立った。

私はそこへ横になった。

 

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