「早急に対処しなければいけない緊急事態は回避された。
となれば、
ソラが食事中に今後のことを話し始めた。
色々あったのに、
「
「え、そうなの?!」
「流石だね、アルは仕事が早い。
んで、驚いたカナデは何かあったのかな?」
「えっと、音の出力ができるようになるまで、
「カナデしっかりしてよね、
「
「はいはいわかってるよ」
「ほんとにわっかってんのか」
こんなやり取りもいつものこと。つづりさんはしっかりカナデさんの苦労は知っている。
つまりただ冗談を言い合っているだけ。
「まあまあ。少し時間が必要なら、
「ブリンクにしかできないこと?」
「もう、イメージは頭に浮かんでいるはずだよね?」
ブリンクはソラの言いたいことがわかっているかのようにうなづいた。
カナデさんの準備が終わるまで、
シチィケムまではハルーで移動したためブリンクにしか出来ないこ
だから河原へ着いて一呼吸置いた後に僕はブリンクへ質問した。
「ブリンク、
「ちょっと待ってて」
そう言ってブリンクは細長い草を何本かむしり取り、
それを地面に置き、
そのあと、草でできたトンボは生きているかのように飛
「すごい、作ったものが動いた。
ブリンクが使える能力って、作ったものを動かせる力なの?」
「少し違うよ。
私がやったのは、あの作り物に命を分けてあげただけ。
「命を分け与える?
あまり穏やかではないね」
「あら?どうしてそう思うの?」
「命を分け与えるなんて、
「実は能力、とは少し違う。
これは私が元いた世界で生まれた時から使えた唯一の錬金術。
「命を分け与えるのが錬金術?」
「錬金術は、無から有を生み出すことができない等価交換の術。
その原則の通り、私は自らの命の一部を変換して、
与えられた者は自由に行動できるけど、
悪い言い方に変えると、傀儡化ね」
「そんなことしたら、
「そこは気にする必要がない」
そういうと、
そのあと、
「与えたものを返してもらうこともできる。
やろうと思えば奪うことだって、できちゃう」
「使い方によっては物騒なこともできるのか。やろうと思えばこの世界の人の命も奪えるってこと?」
「それは相手次第かな。少なくとも、この世界ではやらないよ」
相手次第か。早速第一犠牲者になる候補が一人思い浮かぶけど。
そう思いながら疑問に思っていたことを口に出した。
「でも、何でいまになってその錬金術を使えるようになったの?
魂のありかが変わったせい?」
「そのおかげかも。
実は私の錬金術は使いたくても元々いた世界では使えなかったの」
「世界の、概念が邪魔していたとか?」
「そうなのかな。
元いた世界で生命錬金をしようとしても、何かに阻まれるかのように邪魔されてまったくうまくいかなかった。
私は唯一無二の錬金術が使えないうえに、一般的な錬金術はからっきしだった。
そんな私を見て、お母さんをよく知る人からは可哀想な子ってよく言
「ちょっと待って、それ話してて辛い話だよね。
「聞いてほしいから話しているの。最後まで聞き届けてくれる?」
急に昔話をしはじめた意図はわからない。
でも、聞かないという選択肢もなかった。好奇心とかではなく、
「いいよ。聞いた話を全部受け止めてあげる」
「ありがと」
ブリンクは手のひらに乗った草を川に流して話を続けた。
「元いた世界では錬金術の鬼才と呼ばれていた
私を慰めようともせず、生命錬金の可能性を私へ伝えるのに夢中だった。
その時の私はただ、傷ついた心を癒して欲しかった。
私は望んだことをしてくれない”母親”に大っ嫌いと一言吐き捨てて家
私は丸一日家にも、学校にも行かなかった。
橋の下で寝転がって、
家出した次の日の夕方、私の”母親”は涙目で私の前に現れたの。
そして私の前で膝をついて私を抱きしめたの。
抱きしめられた瞬間、
でも
ごめんね、心が理解できなくて。辛かったでしょう?
そんな言葉を聞いた時、何故か私には温もりを感じ取れたの。
その日からお母さんは私を出来損ない扱いする人には厳しく当たる
そして私が不愉快な思いをしないようにと、錬金術とは無縁の学校へ変えてくれた。
錬金術とは無縁の学校へ転校したことを機会に、私は錬金術とは縁を切った。
後からお父さんから聞いたんだけど、お母さんが考えを改めたのはお父さんがお母さんをきつく叱ったかららしい。
怖いもの知らずのお母さんでも、お父さんには逆らえないっていうのは知ってた。でもなんでかは二人とも教えてくれなかった。
転校してしばらくした後、急にあの真っ白な世界に飛ばされて、そしてソラさんたちに助けられた。
まさかこの世界でこの錬金術と再会を果たすなんて思いもよらなかった。
できれば、
ブリンクはボクに顔を合わせないよう、ボクの前に立った。
「つまらない話でしょ?全部、私のわがままなんだから」
ボクは首を横に振った。
「つまらないわけがない。大事な話だよ。
使えるはずの力が使えないのに、ブリンクはよく頑張ったよ!」
「そう…そう思ってくれるの」
ブリンクはそう言って、ボクの胸に顔を埋めた。
「ちょ、ちょっと?!」
「少しの間だけこうさせて。この方が、落ち着くの」
ボクは察してそのままブリンクを抱きしめた。
ブリンクはそのまま静かに泣いていた。
泣き顔が見られたくない人なんて、沢山いる。それくらいわかる。
それからしばらくブリンクはボクの胸に顔を埋めたままだった。男でもこういう役割はありなのかなと、ふと思ってしまった。
周りはぼくたちに関係なく動き続けていて、
「ありがとう、もう大丈夫だから」
「ブリンク、きっと君の錬金術は多くの人の役に立つと思うよ」
「えへへ、そうだといいな」
「そろそろカナデさんの準備も終わってるだろうし、家に戻ろうか」
「うん」
そこから手を繋いで帰るなんてこともなく、
家へ到着してドアを開くとなぜか部屋の中が暗かった。
足元に気をつけながらリビングに入ると映写機を囲んでカナデさん
「おーおかえり。準備はもうできているよ」
「なんで家の中全体で真っ暗なの」
「ん?何か問題ある?」
いつもは水晶に映す程度なのに、今日は映画の気分だったのかな?
「いやさ…、まあいいや。
「そうそう、
やっぱり映画な気分だったか。
干渉液に浸かった脳みそから伸びるコードは小さな画面から映写機
「ほらほら、ブリンクはこっちの席に座って」
「えっと、はい」
ブリンクはつづりさんの誘いを受けて映像を見るために用意された
ぼくは映写機横の席へカナデさんと並ぶように座った。
映写機で見られる映像には一般的な日常のようななんの変哲もない
そんな中でも世界を知る際に必要な情報を見るために記憶の早送り
その操作をぼくがいつも行っている。
「それじゃあ、再生するよ」
映写機が動き出して壁には脳みその記憶が映し出された。
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