【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-3-3 今はただ、間章に浸るだけ

キュウべぇが姿を消した。

前代未聞の状態に私達は困惑していた。

もう直ぐ世界中に自動浄化システムが広がると思っていた子達は落胆していた。

「いつも邪魔だと思うくらい直ぐに現れる奴が、大事な時に顔を出さないなんてどうなってるんだ」

「そうだよ。キュウべぇに頼るしか方法がないんでしょ」

「どこに行ったのかもわからないのに、探すだなんて」

私はわからなかった。

今の状態では、大丈夫だと言ってみんなを安心させられない。

どうすれば、みんなを安心させられるだろうか。

「自動浄化システムが見送りとなったのであれば、先に解決しなければいけない問題がある」

話を切り出したのはひなのさんでした。

「その問題って?」

「難民問題ってやつだ。

捕まらずに逃れていた奴らが、どこからここが安全と聞きつけたのか侵入してくることが増えた。

血の気が多い奴はまだ見たことないが、そんな奴らが来ることも考えるべきだ」

「それって、キュウべぇが伝えてまわっているってことかしら」

やちよさんがそう言い出すと、周りのみんなはきっとそうなのだろうと信じ込もうとしていました

それでみんなが納得できるならいいのだけれど。

「まあまあ、ここで生きるための課題は多いんだからそれらの解決に専念しようじゃないか!」

そう言いながら抱きついてきたのはつるのちゃんだった。

「鶴乃ちゃん!久しぶりだね」

「本当だよ。

ずっとみかづき荘で待っていたのに全然姿を見せないんだもの」

「ごめんね、色々バタバタしていて。

さなちゃんとフェリシアちゃんは元気?」

「うん!2人はみかづき荘の畑を手入れしてるよ」

「畑?そんな規模のものあったっけ」

「いろはちゃん達がいない間に庭を畑に変えていたんだよ」

「そうなんだ」

ひなのさんはしばらくこちらの様子を見ていて、私に話しかけてきました。

「久々の再会なのだろう?会ってくるといいさ」

「え、でも」

「ひとりで全て抱え込む必要はないわぁ。

頼れる人がいるならば頼らないと」

結菜さんが話に割り込んできたのは驚きましたが、そうかもしれない。

「お前、いろはと何かあったのか」

「さあ、何があったのでしょうね。

周囲警戒はこちらで勝手にやらせてもらうわ」

「わかりました。お願いします」

そう言って去っていった結菜さんの姿が見えなくなったくらいのところでひなのさんが話しかけてきました。

「信用していいのか」

「大丈夫ですよ」

「そうか。お前が言うならそうなんだろうな」

周囲を見渡すと灯花ちゃんとねむちゃんは知らないうちにいなくなっていました。

あとでキュウべぇのことを聞いてみないと。

私は久々にみかづき荘への帰路にいました。

いつもの道とは違って瓦礫が転がったままで、目に入る家の中には壁が破壊され、一部は血痕が残ってはいるものの肉塊はきれいに片付けられていました。

そんな風景を見てふと口にしてしまいました。

「ちゃんと片付いてる」

「そうだよ、いろはちゃん達が神浜離れてからとりあえず綺麗にしようってみんなで頑張ったんだから」

「あ、えと、そうなんだ」

鶴乃ちゃんが反応したことで私は口に出していたことに気づきました

「できることからやっていこうってことで、それぞれが思いつくことをやってきたらさ、それぞれ生きていくのが精一杯になっちゃった」

「多くの大人に支えられた環境だったもの。

私たちだけではうまくはいかないのは当然よ。

そういえば鶴乃は家には」

「無事だったよ、家だけは。

片付けはしたけど、またお店っていうには食材もそうだし私の腕もまだまだだし、

悲しい気持ちにしかならないからしばらく戻ってない」

「…そうなのね」

「でもいいんだ。お店自体無くなっていたらダメだったかもしれないけど。

お父さんとかの件は割り切れたから、オッケーオッケー」

いつもの辛い気持ちを偽った笑顔ではない。

本当に吹っ切れたかのような笑顔でした。

「私はまだマシだよ。

中には複雑な感情でふさぎ込んじゃった子がまだいたりで、みんなでどう立ち直らせようか考える時もあったから」

「やっぱりいたんだ、そういう子」

「暇見つけていろはちゃんも会ってきなよ。

今後の方針も見つかるかも」

それぞれが、個々人のことで精一杯。

私だってそう、ういが元に戻ったからいいけどそれまではまわりに目なんて向けられなかった。

だから、どうしたらいいのかもわからず。

「せっかくの帰路なのに、暗い顔をするんだね」

そう話しかけてきたのはワルプルガさんでした。

「ワルプルガちゃん?」

「お母さんだってそうだよ、一時は占領しちゃった場所とはいえ、みんなの家に帰る道なんでしょ?

笑顔じゃないと」

「ワルプルガ、あなた、やっぱり最初の頃より変わっているわよね?」

「そうかな?

目覚めたての時よりはまともになったというのは自分でも理解しているよ」

「だとしてもいきなり大人びすぎよ」

「魔法少女が魔女になった後、その魂はどこにあり続けるのか」

「え?」

「もしこの世に残り続けるものだったとしたら、魔女になった方の私の魂が影響してきたからじゃないかな。

私を生まれなおさせた者達は、ワルプルギスを取り込んで魂ごと修復しようとしたみたいだし」

「彼女達そんなところまで」

「とは言え、私はワタシ。

お母さんの子どもだよ」

そう言ってワルプルガさんはういに笑顔を見せました。

それに応える様にういもワルプルガさんに笑顔を見せました。

過去に生きたワルプルガさんも、こうやってみんなを笑顔にさせようとしていたのだろうな。

私達はついにみかづき荘に着きました。

自分の家のはずなのに、扉を開けるのに緊張してしまいます。

私はドアノブに手をかけ、そして自然とこの言葉を発したのです。

ただいま

扉を開いた先には片付けの手を止めてこっちを見るさなちゃんとフェリシアちゃんがいました。

2人ともに驚きと喜びが混じった様な顔をしていました。

「いろはさん、おかえりなさい」

「ほんとうにいろはなのか、急に前みたいに襲いかかってきたりしないよな?!」

「するわけないよ」

「やっと、みんな元通りになったんだな」

フェリシアちゃんはそう言いながら泣きそうな顔になっていました

「うん、これからはみんなでいられなかった時間を取り戻そうね」

「いろはーーー!」

そう言いながらフェリシアちゃんは抱きついてきました。

「やちよさんも、お疲れ様です」

「迷惑かけたわね、二葉さん」

「ういちゃん、元に戻った様でよかったです」

「さなさん、ご迷惑おかけしました」

こうしてみかづき荘はやっと元に戻ったのです。

「これからはワルプルガちゃんも仲間入りだよ!」

「そうか、ワルプルガさんはういちゃんにつきっきりだものね」

「改めてお世話になります」

今日だけでも、何も考えずみんなとの楽しい時間を過ごしちゃっても、いいかな。

こういうみんなが集まる時は鍋をやるのが一番ではありますが、食糧生産が安定していないのが事実。

今日の食材はどうしようという話になり、ついでに神浜の食料事情を見て回ろうということになりました。

今まで食材を集める場所であった商店街に行ってみるとかつての様な活気はなく、瓦礫を片付ける魔法少女達の姿しかありません。

今食糧のやり取りが行われているのは電波塔跡地の中央区です。

数は少ないものの、寄せ集められたものが仮設倉庫へと仕舞われており、今はそこに保存された缶詰等がなくなるまでに食料問題を解決しようというのが神浜の魔法少女の方針となっています。

「神浜が襲われるまでは畑の下地作りとか、狩りの仕方とかで解決の糸口が見えていたんだけど、このみちゃんとかが紫色の霧を受けて動かなくなっちゃってあんまり進展ないんだよね」

そう鶴乃ちゃんが説明している間に向かっているのは北養区。そこには狩りの手ほどきをしてくれる子達がいるようです。

「狩り関係は時女一族の子達が担当してるんだよ」

「確か静香ちゃん達がいるところだったかな」

「あんまり話したことはないけど、狩りの腕前は確からしいよ」

「それなら肉くらいはあるよな!」

「でも神浜ってそんなに狩れる動物なんていたかしら」

「そうなんだよ、そこが一番気になるんだよ」

そう会話しながら狩場にされている場所へ移動したのですが、思った通り山奥でした。そこは思ったよりも賑やかで、何人かの魔法少女が狩ったであろう動物を囲んでいました。

そんな魔法少女達の中には見知った子もいました。

「まなかさんもここにきていたのですね」

さなちゃんが声をかけたのはレストランで働いていたまなかちゃんでした。

「おや、みなさんお揃いで。

みかづき荘のメンバーが勢揃いだと微笑ましいですね」

「みかづき荘ってことはいろは殿もいるでありますか」

そう声をかけてきたのは、かつて水徳寺で門前払いをしてきた魔法少女でした。

「あなたは確か」

「おお、いたでありますか。

私は三浦旭。時女一族のメンバーであり、今はここで狩りについて取り扱っているであります」

「うわ、血だらけ…」

フェリシアちゃんがそう呟いてしまうくらいに旭さんの服には血がついていました。

「あら、時女一族の子だったのね。

一つ気になるんだけど、聞いていいかしら」

「長くなりそうなら後でいいでありますか。

ちょうど今獲物の解体途中でありまして」

「はい、では少しだけ待ちますね」

やちよさんと鶴乃ちゃん、さなちゃんは食い入る様に解体作業を見学していましたが、私たちには見ていられませんでした。

「お、オレは見覚えのある肉だけをもらうだけだと思っていたのに」

「ああいう生々しいのを見せられちゃうと、ちょっと色々考えちゃうね」

「わたし、あれはダメかも・・・」

「魂をいただくというのはああいうこと。

食糧になった生き物には感謝をしないと」

「…やっぱこいつ前とは違うな」

「ワルプルガちゃん、私より大人かも」

ワルプルガちゃんはポカンとした顔をこちらに向けてきました。

これが見た目は子ども、頭脳は大人ってやつなのでしょうか。

私達が解体作業が終わるのを待っていると山菜をたくさん持った魔法少女達が近づいてきました。

「あら、そんなところでうずくまって何をしているのですか?」

「えっと、動物の解体作業を見ているやちよさん達を待っていて」

「やちよ?!」

山菜を持っている1人の子が驚き出しました。

その驚きに反射で私も驚く声を出してしまいました。

その声を聞いてか解体作業を見ていた魔法少女達が集まってきました。

「なにかあった?!」

「い、いや、ちょっと驚いて声に出ちゃっただけで」

やちよさんの名前に驚いた魔法少女へまなかちゃんが話しかけていました。

「莉愛先輩、また他人に迷惑かけたのですか」

「何もやっていないわよ!」

「何もやっていないならこんな騒ぎになっていませんよ。

今の状況、叫び一つで警戒してしまうのくらい分かってください」

解体作業をしていた旭さんもこちらにきてしまっていたようで山菜を持っている魔法少女の1人に話しかけていました。

「ちか殿、戻ってきていたでありますか!

現在取り込み中でありまして、いろは殿に山菜について話をしてもらえないでありますか!」

「旭!こっちは山菜をまず片付けないといけなんだよ!

その後になるよ!」

「それでいいであります!」

そんな騒ぎもあり、解体作業が終わった頃には夕方になっていました。

どうしよう、先に灯花ちゃんのところへ行った方がよかったかな。

結局、山菜については整理される様子を眺めるだけだったし。

全てが落ち着いた頃に、やっと旭さんと話す機会ができました。

服についた血は綺麗になくなっていました。

ただ着替えただけ、だよね?

「さて、改まって聞きたい話とはなんでありますか」

「この狩場のことよ。

北養区は山奥の土地とは言え、動物の数にも限りがあるはずよ。

そこを考えて狩りを行っているの?」

確かに無闇に狩ると動物達がこの土地から去ってしまったり絶滅する原因になるであります。

でも我らは成長途中の動物、妊婦の動物や巣を直接襲うといったことを避けて個体数軽減はさせない様取り組んでいるでありますよ」

「そんなこと可能なの?」

「ちか殿が動物の声を理解できるゆえ、見た目で判断できない時は助かっているであります」

「え、すごい」

「そんな大したことはしていないですよ。

狩るかどうか判断するのは旭ですから」

「狩られすぎていないか管理しているのも我でありますよ。

狩りは無闇に、そして自由にやられては困るものでありますからな」

「そう、そこまで気が行き届いている様で安心したわ」

狩について話がひと段落した様なので私は時女一族のことについて旭さんに聞きました。

「あの、時女一族って今はどうなっているのか聞いていいですか」

「我らのことでありますか。

まあ情報は共有していた方がいいでありますかな」

「隠しても得もしない話でしょうからね。
今時女一族は分裂状態にあるんですよ」

「え?」

話を聞くと静香ちゃんと一部の時女一族が人へ捕まりに行ってしまったというのです。

まさか神浜にいたのにまだ人を信じようとする魔法少女がいたなんて。

「放っておくわけにもいかないでありますし、そのうち我らは静香殿たちを助けに行くことになるであります」

「そんな、危険すぎます!」

「まだ可能性の話ですよ。

ちはるさんもまだどうしようか悩んでいるところですから」

「そう、ですか」

「さて、ここに来たのは動物解体の見学だけではないのでは?」

「そうだよ、オレ達は肉をもらいにきただけだぞ」

「なら解体したての肉を一部持っていくといいであります。

そんな長く持つものではないので、今日中に食べ切ることをお勧めするでありますよ」

そうしてやっと目当ての食材が手に入ったのですが、時女一族の情報も手に入れられました。

明日も訪れないといけない場所が多そうです。

夜は久々にみんなで鍋を囲んで談笑することができました。

神浜にいない間は何をしていたのか、反対に神浜ではどう過ごしていたかを冗談交じりで話している間にあっという間に鍋は空っぽになってしまいました。

笑顔に囲まれた空間、さつきさんたちと過ごした時よりもキラキラした暖かい空間になっていました。

今まで何気なく、こんな中にいたんだなってしみじみしてしまいました。

 

翌日、私は灯花ちゃんのところへと直行しました。

ういとワルプルガちゃんもついてきた中、灯花ちゃんのところを訪れた理由はアンチマギアを受けた子がなかなか目を覚まさないという状況を知りたいからです。

普通の部屋よりも温度が下げられた専用の部屋に寝かされた子たちは、ソウルジェムが無事でも目を開けることはありません。

こうなってしまった原因は、アンチマギアが原因とは聞いていましたが詳細なことはわからなかったので、二人に聞きに来ていたのです。

「中には時間経過で目を覚ました子がいて、時間とともに効果が減衰するものであることは確かにはなっているよ。

でも目覚めない子はなかなか目覚めないし、即効性がある対策が急務なんだよ」

「それで、それはうまくいっているの?」

「アンチマギアが魔法の成分でできていることはわかったよ。

その魔法はあらゆる魔法を拒絶する効果があって、そのせいで体とのリンクが切られてしまっているみたい」

「じゃあ、ソウルジェム自体には悪影響がないの?」

使い方次第ではソウルジェムを機能不全にもさせることは可能だろう。

アンチマギアに漬けられたソウルジェムはしばらく外部へ魔力を放つこともしなかったからね」

「今動けない子は、どうすることもできないの?」

「体内のアンチマギアを取り除けられれば、かな。

もう肺の中とか腸内とか全て洗浄してしまえればいいんだけど」

「体内洗浄は流石に無理だ」

「じゃないとこの部屋に置いておいたって体が腐るだけだよ」

「そんな」

ういは動かない子をしばらく眺めた後に、こう呟きました。

「本当に何でも拒絶しちゃうのかな」

そのつぶやきに対してワルプルガさんが答えました。

「そうなんじゃないかな。魔法に該当するものは全部ダメかも」

「私達にはどうしようもないよ。

悔しいけど」

まだ起きない子達の体は腐敗が進まないよう、今よりも温度を下げた大きな冷凍庫へ保存しておくしかないだろう」

「そう、だね」

アンチマギアの影響を受けてしまうと対処方法がない。

使用している側ならば、対処法もわかっているのでしょうか。

寒い部屋から出て灯花ちゃんとねむちゃんが普段から使用している部屋へ案内され、みんなが椅子に座ったころを見計らって灯花ちゃんはワルプルガさんに質問しました。

「そういえば、ワルプルガに聞きたいことがあったんだよ」

「なに?」

「ワルプルガってさ、聖女として有名だったわけでしょ?

今のあなたからはそんな感じが見て取れないんだけど、歴史上のワルプルガとは別人なの?」

「私の中にはオリジナルの魂との繋がりはある。だからと言ってこの体へ人格や記憶も綺麗に反映されるとは限らない」

「どうして?」

「オリジナルが魔女になった後、その魂はどこにあるのか。

私を生み出そうとした存在は、もともとオリジナルの私を蘇らせる方法としてワルプルギスの夜を使用して、その中にあるであろう魂をそのまま活用しようとしたみたい。

でも倒されてしまったから蘇生や再現の力でこうして魂との繋がりだけは確立させたという感じ、みたい」

「日継カレン達はそんなことまで考えていたんだ。

じゃああなたは聖女ワルプルガそのものというわけではないんだ」

「どうだろう。たまに私ではない考えが浮かんできたりするから、少しは影響されてきているのかもしれない」

「そこまで行くと魔法少女の死生観の話へと関わってしまうね」

3人はそこからどんどん難しい話へと突入していってしまいました

私とういは3人の話を聞いて、ただ愛想笑いをすることぐらいしかできませんでした。

私はこうして、久々の平和な日々というものを感じていました。

そんな中、その日の夜を境に新たな転換期を迎えてしまうのです。

 

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