アンチマギアプログラムが全世界へ認知されてから数日経過したころ。
米国の魔法少女狩りが行われている中、イザベラもお世話になっていたテロリストのメンバーの中にマーニャという魔法少女がいたのだが、その人も標的にされてしまった。
裏路地でマーニャさんが見つかったという話を聞き、
そこには特殊部隊に囲まれて動けないマーニャさんの姿があった。
テロリスト達と関わっている間何度か話したことがある人だが、
私は特殊部隊のメンバーよりも前へ出てマーニャさんへ話しかけた。
「悪く思わないでください。
今の世界の常識では、あなたを見逃すわけにはいかない」
「キアラ、いまはイザベラはいない。考え直して!」
「私たちが使用していた魔法の鏡をことごとく割って回ったこと、
あなたが全て手回ししていたことは既に知っています」
「なんでそんなことを知っている。
まさかとらえた子の脳みそでもいじったか。
外道め!」
実際事実であるから言い返せない。
魔法少女の脳波をいじくり回し、
もちろんだがいじられた子達は負荷に耐えきれず魔女化してしまい
「
それに、今あなたを逃せば私たちの負けは確定する。そんな気がする」
「…そうか~
なら、私たちのアジトの場所を教えると言ったら逃してくれるのかな」
兵士たちから銃を向けられていてもいつも通りの態度を崩さないマーニャさん。
こういった状況に慣れているからなのか、緊張感自体を感じないからなのか正直分からない。
マーニャさんとの付き合いはそれなりにはあるが、いつもいま目の前で見せているような余裕を持った態度しか見たことがない。
私は念のためマーニャさんへ確認をとった。
「嘘ではないんでしょうね」
「嘘はつかないよ。嘘だった時の報復が怖いからね。
イザベラならヨーロッパをまるごと吹き飛ばすとか言い出しそうだし」
「それは、あり得るから困る」
できればマーニャさんには苦しんでほしくない。
アジトがわかれば、イザベラは考えをあらためてくれるだろうか。
「キアラさん、もうよろしいのではないでしょうか」
特殊部隊の1人が私へ声をかけてきた。
「そうだな、もういい頃だろう」
私がそう言葉を発すると夜闇から音をたてず人々が現れて次々と特殊部隊たちを気絶させていった。
突然現れた人物たちの危険を察して逃れた兵士に対しては私がひそかに気絶させた。
マーニャさんが困惑する中、火が付いていないたばこを咥えた一人の男が言葉を発した。
「なんだよ、サピエンス直属の特殊部隊と聞いていたがこの程度か」
「ロバート、なんでここにいるんだ。
それに、みんなまで」
夜闇から出てきたのはロバートが率いるテロリストたち。彼らとは手を組んでいるため現れたことについて私は少しも驚きはしなかった。
「え、なんで?もしかして、キアラもグル?」
「じゃなきゃ俺たちもこんな堂々とやらねぇって。俺たちだってキアラにはかなわねぇってことぐらいわかってるさ」
「そ、そうだよね。よかった」
「よかったじゃねぇ!」
いきなりロバートさんが怒鳴りだしてこれにはさすがに私も驚いた。
「さっさと消えろ。じゃねぇと他のやつらに気付かれちまう」
「ロバート・・・」
ロバートは悲しそうなマーニャさんの顔を見ると、ぎこちない笑顔を見せた。
「達者でな」
そんなぎこちない笑顔を見てもマーニャさんは笑顔を見せた。
「うん。
みんな、キアラ、ありがとう!」
そう言ってマーニャさんはその場から姿を消しました。
私はマーニャさんが姿を消したことを確認した後、ポケットにしまっていた魔法少女の探査端末を取り出した。その端末にはマーニャさんであろう反応がしっかりと映っていた。
感知できていることを確認した後、私はカルラへと通信を繋げた。
「取り巻きは対処したよ。
あとはそっちで好きなようにして」
「感謝する。前にも言ったがこれはイザベラ達には内密に。あんたにも響くことだろうからね」
「わかってるよ。こちらで呼んでおいた応援もそちらに向かわせる。
助力なだけだからあまり信用はしないでくれ」
「わかった」
通信が切れた後、わたしは探査端末をロバートに渡した。
「どういうことだ」
「あなたたちに声をかけたのはマーニャさんを逃がすため意外にも目的があります。
それは、マーニャさんが逃げた後彼女たちが使用している転送の鏡を確保することです」
「てめぇ!マーニャをはめたのか!」
「マーニャさんが無事であればいいのです。
それに、ここであなたたちが魔法少女狩りに貢献しておけばあなたたちへ矛先が向くことも無くなるでしょう」
「おまえ、俺たちのことまで」
「今は人同士が争っている時ではないのです。
その不安分子を取り除いたくらいに過ぎません。さあ、その探知機が示す場所へ急いでください」
これで段取りはすべて踏んだ。あとはカルラが何かたくらんでいたようだが何をするのかまでは聞いていない。
いったい何をしたのかは、すべてが済んだ後に聞きに行ってみよう。
ヨーロッパを中心として活動している魔法少女達は、元ベルリンの壁跡地の地下深くの魔力で作られた空間をアジトとしている。
魔力を籠らせた魔法石がトリガーとなって入場審査を行っている
ただその魔法石があるだけでもダメ。
それに、敵に捕まったと判明すればすぐにその所持者の魔法石では入場不可にし
とはいえ、ミラーズという場所で作られた鏡を通ってくるところまではカバーができていない。
なので別の空間と繋がっているその鏡についてはアジトへ侵入できる穴となっている。
そんな鏡の一つを使用してわたしはアジトへと逃げようとしていた。
しかし、なぜかその場所へサピエンスの特殊部隊が姿を現した。
まさかキアラが。いや、だとすると私を逃がした意味が分からない。
「マーニャさん、でしたっけ」
話しかけてきたのは白衣に身を包んだ女性だった。
私の名前を知っているのはキアラから聞いたからなのだろう。
「あなたには少し用があってね。変に攻撃をしてこなければ話だけで済まそうと思う」
他の魔法少女が白衣の女性に対して言葉を放った。
「その言葉を信じれと。サピエンスの言葉を魔法少女が信じるものか」
「まあそれはそうか。
では、サピエンスの本拠地があるペンタゴンの見取り図を渡すと言ったら大人しくしてくれるか」
そう言って白衣の女性は手に持っていた地図をこちらに見せてきた。
暗闇ではあるものの、五角形の図形の中へびっしりと複雑な線と文字が書き込まれていたのは確認できた。それが本物だとしても。
「正気なのかお前は。
それを伝えたところでお前たちに何の利益がある」
「これをどう利用するのかはお前たちに任せる。
だが、これを受け取れないというならばお前たちを”捕らえる”という形で保護しなければならない」
「どのみち抵抗しないと捕まるだけだ」
「言ったはずだ。話し合いだけで済ませたいと。
たまには信じるという選択肢を取ってみたらどうだ。争ったとしてもそうじゃないとしても、君たちは保護しないといけないからな」
「マーニャさん、どうします」
あの地図自体が罠だとしても、サピエンスの拠点がどうなっているのかを知ることができれば今後の作成に大いに役立つだろう。
でも、こいつが言っている保護とはどういうことだ。
「保護の意味を教えてくれたらお前の意見を飲もう」
「言葉の通りだ、実験にも拷問にもかけたりしない。他のサピエンスのメンバーに気付かれないよう守るだけだ」
これは、サピエンス内も一枚岩ではないということか。
表情一つ変えず淡々と話す白衣の女性を見ていると信じるのは怖くなってくる。
「・・・いいだろう」
私は見取り図を受け取ってメンバーに見送られながらその場を後にした。
鏡を通って私は拠点へ辿り着き、ミアラの場所へと急いだ。
ミアラのところへと到着するとすぐに手に入れた情報を渡した。
その情報を見て、その場の全員が驚いた。
「これ、ペンタゴンの見取り図じゃないか!
これ本物なのか?!」
「渡してくれた人は本物と言っていたよ。
でも引き換えに私たちが使用しようとしていた鏡一枚とその場にいたメンバーたちが保護された」
「バカかお前!早く鏡を割らないと奴ら直接入ってくるぞ」
「いや、まて」
ミアラさんは見取り図を見ながら何か考え込んでいた。
私たちはペンタゴンにサピエンスの人員や物品が頻繁に出入りしていること
ただでさえ難攻不落と呼ばれているペンタゴン。
この見取り図が信用できるならば、サピエンスの拠点はペンタゴンの地下に存在する。
「協力者がいたのか」
そうミアラさんから質問された。
「協力者、でいいのかな。あの人は確かにサピエンスの一員みたいでしたが、鏡を手渡すことを条件にこのデータをくれたんです」
「それで鏡とメンバーは保護されたと。何に使用するのかまでは聞かなかったのか」
「えっと、争わずに話し合いで済ませてくれれば捕まえるではなく保護するって言われたから」
「はぁ?!
やっぱ馬鹿だろお前!」
「私だってそうするしかなかったんだよ!
あいつら私らの脳みそを覗き見る装置を作ったみたいなんだ。
捕まったほうが何倍もマイナスだったよ!」
「まあみんなそんなに責めるな。
マーニャ、生きて帰ってきてくれただけ嬉しいよ」
「ミアラさん…」
「やつらが鏡を確保したのであれば、こちらに攻め込まれる可能性があり、逆にこちらから攻め込めることにもなる。
とはいえ、すべて負担がかかるのは神浜だ」
「神浜、カレン達がうまく追い払ってくれるといいですね」
「そうだな。こちらは鏡の間の警戒を怠らないようにしよう」
あの白衣の女性は何を考えて保護などという言葉を使ったのか。
私の選択は、正しかったのだろうか。
わたしはマーニャさんに関する一件が落ち着いた頃、なにが目的であのような段取りを用意したのかカルラへ聞きに向かっていた。
イザベラへは鏡を確保したことまでは報告されておらず、その場にいた魔法少女達をロバート達テロリストの協力のもと確保に成功したという報告がされていたようだ。
ロバート達の扱いはしばらく保留されることとなり、気絶させられた特殊部隊のメンバーについては申し訳ないが魔法少女達にやられたという扱いになってしまったようだ。
研究室にいたカルラへ話しかけると、カルラの個室へと案内された。
部屋のドアが閉じられてからようやくカルラは話しはじめた。
「わるいな、あの一件はほんの一部のものにしか聞かせていないことだったからな。盗み聞きされないここまで来てもらった」
「・・・あれはいったい何が目的だったんだ。マーニャさんは逃げたようだがまさかイザベラには秘密で鏡も調達するとは思わなかった。
カルラ、あなたは一体何をする気なんだ」
カルラはタバコへ火をつけてそれを口にくわえると話しはじめた。
「キアラ、あんた今のイザベラのやり方をどう思う」
「やり過ぎだとは思っているさ。
でも、神浜にやろうとしている作戦の準備中である今制止を促すのは中途半端な気がしている」
「まあ懐刀であるあんたの前で言うことではないと思うが、信用しているからこそ言わせてもらう。
あの鏡は魔法少女達を脱出させるために使う」
「そんなことをしたらカルラは殺されてしまう!」
「だろうな。だが時期を間違えなければあれは魔法少女側へ勝利をもたらすキーに変わる」
「カルラ、あなたは人類側を敗北させようとしているのか」
「別に人類を敗北へ導こうなんてわけじゃない。魔法少女と人類、どちらがこの星の主導権を握ればまともになるのかを見定めた後にあの鏡を使用するさ。
今あの鏡は保護した魔法少女達に守ってもらっている。
時が来るまで彼女たちも鏡もイザベラは気づかないだろうさ」
カルラは人類が負ける不安分子を用意していた。それがこれまでの段取りの意味だったのか。
私は人類が勝利で終わることを望んでいる。
とはいえ、魔法少女へ酷な未来が来てほしくないとも思っている。
なんとも中途半端な考えであると我ながら思ってしまった。
「まあ、キアラは今まで通り過ごせばいい。
私たちをどうにかするかは、まあ、この世の情勢を見て判断すればいいさ」
果たして私は、カルラは、この世界の主導権を握るのはどちらがふさわしいと判断することになるのだろうか。
いまはまだ、わからない。
back:2-2-15
レコードを撒き戻す:top page
Next:2-2-17