【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2-13 過去と未来、大事なものは?

神浜の自動浄化システムは、ワルプルガという少女が願えば世界に広げることができるらしい。
ワルプルガの所持権を奪って神浜の魔法少女へ復讐しようなんて言う意見が内部で出たものの、私はワルプルガに願いを叶えさせる策があるという環いろはに任せてみることにした。

私は日継カレンとの出会いをきっかけに修羅の道を突き進もうという気はとっくに失せていた。

とはいえ虎屋町はともかく竜ヶ崎のメンバーを納得させるには強硬手段を演じるしかなかった。

だからああやって神浜の魔法少女へ、環いろはへの挑発行為をおこなった。

あれらの行為が今後のためになるなんて思っていない。

でも私は、演じ続けなければいけなかった。
再び二木市の魔法少女同士が争わないためにも。

私たちが一度二木市へ戻った後、アンチマギアプログラムという魔法少女を排除する動きが世界中で活発になり始めた。

この影響は二木市でも起きていた。

父親には魔法少女であることがばれて、魔法少女を取り締まるところにすぐにでも届けだそうとしてきた。

私は酷く失望した。この人は、私を守ってはくれないのだと。

私は家を飛び出す前にみんなへ注意を促したものの取り締まる者たちの質は予想以上で、次々と魔法少女達が謎の兵士たちに捕らえられていった。

その兵士たちは、魔法が効かない物質を使用していて下手にその物質に触れると体が動かなくなって簡単にとらえられてしまう。

兵士たちから逃れたものを集めて、私たちは捕らわれた仲間の奪還作戦を実施した。

しかしその作戦では、公共で使用されている建物を容赦なく破壊し、動けなくなった敵を殺していくという人間を殺すことに慣れなくては実施できないような作戦を実施した。神浜へ行ったメンバーがみんな人間を躊躇なく殺す様子を見て、二木市に残っていたメンバーは絶句していた。

「ゆ、結菜さん、何も殺してしまわなくても」

「彼らは本気よ。

やれる時にやっておかないと、明日は我が身よ」

救出作戦自体は成功して捕らえられた仲間は救えた。

でも、救えたのはまだ二木市にいた子達だけ。最初に狙われた蛇の宮にいた子達を中心に既に外部へ運び出されてしまった子達は助けることができなかった。

その中にはアオもいる。

助け出した子達はソウルジェムが紫色の液体につけられた状態になっていて、そのソウルジェムを体の上においても目覚める様子がなかった。

彼女達の目覚めを待つために私達は身を隠せる場所を探した。

その末辿り着いたのは仲間達が眠る、この場所だった。

「結菜さんこれからどうするんですか。いつかここも敵に見つかってしまいますよ」

「すでに見つかっているわ。
敵は隠密作戦に慣れているのか、上手く隠れているわ」

「そんな、いつの間に。
なら早くここから離れないと」

「離れて、どこに行くというの?
元からここを離れる気はないわ」

「え、それってどういう…」

アンチマギアプログラムと呼ばれる取り組みはあらゆる魔法少女を取り締まるもの。

魔法少女自身もそうだけど、魔法少女に関わるものや場所も念入りに調べられる場合がある。

それはもちろん、ここに眠る魔法少女だった子達も例外ではないはず。

ここが部外者に荒らされるなんてことは避けたい。

だからここから逃げ出すなんて選択肢はない。

ここは私たちにとって最後の砦でもあり、なんとしても死守しなければいけない場所よ。

逃げ出すなんて考えはないわ。

それに、まだ動けない子達だっている」

そう言った私に対して睨みつけている樹里が話しかけてきた。

「だが姉さん、食料にも限度がある。

ここを取り囲む奴らをどのみち蹴散らさなきゃならねえ時が来る。

なら、さっさとぶっ倒しちまった方が早いだろ」

「救出作戦の時に確かに敵の数は減らしている。

でも、想像よりも手加減をされている感じがするのよ。

変に奢って飛び出せば思いがけないしっぺ返しを受ける可能性があるわ」

「でもよ」

みんなはともかく、私はここを捨ててはいけない。
ここを捨てるなんて、命を散らした皆に申し訳が立たない。

どうすれば、ここを捨てずに皆を守れるのか。

悩んでいると外が突然慌ただしくなった。

「何事?!」

外に出てみると兵士を刺し殺す魔法少女達がいた。その中には神浜へ待機させていた子達もいた。

「あなた達、どうして」

「ひかる軍団!風を巻き起こすっす!」

迫ってきていた紫色の霧はどこから取り出したか分からない団扇を持ったひかるの軍団によって吹き飛ばされていた。

「ひかる!なんで戻ってきたの!」

「私も一緒さ」

ひかるの側にはさくやもいた。

「さくやまで」

「結菜達を助けにきたのさ。もちろん、私たちだけじゃない」

さくやが目を向けている方向を見ると、そこには環いろはの姿があった。

「なんで彼女と一緒なの」

「話は後だ。早く二木市から逃げ出そう!」

「それはできないわ」

「なんでよ!ここにとどまるよりは神浜で体制を整えた方が安全でしょ」

「さくや、私に二木市を捨てろというの!」

「奴らの目的は侵略じゃない!魔法少女を捕らえることよ。

町が奪われるわけじゃないでしょ」

私は再びカタコンベの中へと戻った。

「奴らが調査としてここを漁るかもしれない。そんなことは許されない。

許されることじゃないわ!」

そんな私たちの会話へ環いろはが割り込んできた。

「皆さん!早くこちらにきてください!

逃げる準備はできていますから」

「何も知らないで、お前は!」

私は武器を環いろはに向けて振り下ろした。

当然ではあるけど、その攻撃は彼女に当たることはなかった。

「どうして攻撃するんですか!私は助けに来ただけで。

今は魔法少女同士で戦っている場合ではないはずです!」

近づいてくる兵士たちに対し、穴の中にいた樹里達が外へ出て応戦を開始した。

「まったく、でも、姉さんがここを譲れねぇってんなら樹里様も引くわけにはいかねぇな」

皆この場所から逃げようとしない。

しかし兵士の銃に当たって動けなくなる子が出てきた。

「結菜!」

さくやの声で驚き、さくやの方を向いた。

「もういいだろ。

ここにいるみんなだって、いま生きている二木市のみんなに生きてもらいたいと思っているはずだ。」

「でも、私は、ここを譲れない!

私だけ置いてみんなは早く逃げなさい」

「結菜さん!」

また環いろはが会話に割り込んできた。

「さくやさんからここがどんなに大事な場所か聞きました。

この町で死んでしまった子達が眠る場所なんですよね。

人間に譲れない気持ちは十分にわかります」

さくや、余計なことを。

「だからあえて言わせてもらいます。

過去に生きていた仲間と今生きている仲間、どっちが大事なんですか!」

「何ですって…?」

環いろはは目を逸らすことなくこちらを見続けている。

この子は私を怒らせに来たの?

「何やってるんだ!増援が来ちまうぞ!」

外からそんな声が聞こえても環いろはは顔を逸らそうとしない。

私の意見を聞きたいというの?

「・・・どちらも大事なものよ。だから」

「だからこそ、今生きてる人が大事じゃないのですか?」

環いろはは握手を求めるかのように右手を出してきた。

いなくなってしまった人たちは今生きている人が覚えていてくれるからこそ残り続けられる。

眠っているみんなのためにも、結菜は生き続けないといけないんじゃない?」

環いろはの隣にいるさくやはそう言った。

そんなことはわかっている。

でもここにいる子達が、そんなことを許してくれるだろうか。

「私が生き続けていいのかしら。

この街で散っていった子達は、先輩は、わたしがここから離れることを許してくれるの?!」

「結菜さん…」

環いろはは右手を下ろし、内部へと入ってきた。

「ちょっとあなた」

空間の中央にいくと、環いろはは深く礼をした。

そして顔を上げてこう宣言した。

「ここに眠るみなさん。この町にとって結菜さんは大事な存在だというのは知っています。

だからこそ、彼女を私が連れ出します。

そのせいでみなさんの静かな眠りが脅かされたり、結菜さんに何かがあれば、私を呪っても構いません。

どうか、よろしくお願いします」

そう言って彼女は再び頭を深く下げた。

そして彼女は顔を上げてこちらへ向き直った。

「言質は取りました。

ここに眠る方たちも、きっとわかってくれると思います。

みんなで神浜に行きましょう!」

私は環いろはの横に先輩が立っている気がした。

その顔は穏やかで環いろはの提案に乗ることを促すかのような感じだった。

「あなたって、案外強引なのね」

「結菜さん?」

私はテレパシーで全員に伝えた。

[さくや達が手配した脱出ポイントへの移動を開始してちょうだい]

[結菜さん、それでは]

「これは敗走ではないわ。

この町を安全に住めるようにするための準備をしにいくだけよ。

さあ、急いで」

皆が一斉に神浜の方向へと流れていくことが外の様子からわかった

「結菜さん、ありがとうございます」

「しっかり最後まで責任を取ってもらうわよ、環さん」

「はい、もちろんです」

「結菜さーん!急ぐっす!」

動けない子を連れ出している中、環さんが運び出そうとしている子たちのもとへと向かった。

「手伝いますよ」

「でも」

[手伝わせていいんですか]

外に連れ出そうとする子が私にテレパシーで確認を求めてきた。

[構わないわ。手伝わせなさい]

[わかりました]

「わかった、助かる」

動けない子たちが外へ連れ出されたことを確認すると、私はカタコンベへの入り口を入り口を破壊した。気休めではあるものの、これでカタコンベが調査される時期を遅らせることに繋がればいいと思った。

外に出るとほとんどの子達は神浜から来た他の魔法少女に誘導されて移動していた。

彼女達の移動が完了するまで、樹里をはじめた竜ヶ崎の子たちが兵士たちを足止めしていた。

「もう十分よ。あなた達も急いで」

「わかったよ。

お前ら行くぞ!」

「はい!」

一人が煙幕を巻いて兵士達からの視界を遮ったあと、樹里達は撤退を開始した。

そんな中、煙幕の向こうから銃が乱射されてきた。

それらの銃弾のうち一発が樹里の左足を貫いた。

「樹里!」

「構うな!行け!」

そう言われて竜ヶ崎の子達は動こうとはしなかった。

「行けってんだよ!」

そんな様子を見かねた樹里は竜ヶ崎の子達へ火炎放射を放ち、竜ヶ崎の子達はやむを得ず脱出先へと急いだ。

兵士の足音が近づいてきて、樹里が諦めたかのような顔をしていると、らんかが樹里を抱え上げた。

「お前?!」

「勝手に死んでもらっちゃ困るんだよね」

らんかは樹里を抱えながら脱出場所へと急いだ。

それでも兵士たちの足は速く、捕縛用のアームが飛び出してきた。
間違いなく捕まるというところを見慣れない魔法少女達が銃でそのアームを撃ち落とした。その後は兵士たちの足を止めるようにどこから持ち出したかわからないRPGを撃ち込んだ。

神浜から来た他の魔法少女達が兵士たちを牽制している中、私たちがたどり着いたのは貨物列車だった。

「あんなものを持ち出すなんて」

ほとんどの子達は貨物列車のコンテナに乗り込んでいて、樹里とらんかを待つだけだった。

私は貨物車へ乗り込み、らんかから樹里を受け取った。

最後にらんかが乗り込み、そのタイミングで神浜の魔法少女達も貨物車へ乗り込んだ。

そのうち一人が貨物車の上に乗り、操作席がある最前列の車両を連結から切った。その最前列の車両の周りにはなぜかドラム缶がたくさん置かれていた。

その後に貨物車は神浜へ向けて動き出し、しばらく動くと切り離された最前列の車両が爆発した。

「これで、奴らはすぐに列車で追いかけてなんて来ないだろう。

RPG抱えてる奴はいないだろうな!」

そう一人が聞くともう一人からの返事が聞こえてきた。

「視認はできない!

道中いるかもしれないから索敵はしておくよ!」

貨物列車に何か起こることもなく、私達は神浜の魔法少女と神浜に待機していた仲間達の手当てを受けていた。

「樹里さん、これはしばらく左足は使えないかも」

「マジかよ。あいつらの銃弾そんなにやばかったのかよ」

「魔力供給を断ち切る効果があるらしい。あの紫色の霧と同じ成分だろう」

そう樹里へ話しかけたのは銃を携えた見慣れない魔法少女だった。

「やけに詳しいな。あんた」

「神浜でも同じものを見かけたからね。

でも強いあんたと手合わせするのが先延ばしになったのは、残念なことだ」

「…へぇ。あんたもそういうやつか」

「強い奴を求めるのは、悪いことか?」

「いいや、悪くねえ」

何だか二人は気が合うようだ。

そんな二人の様子を眺めていると、環さんが私と視線が同じになるよう座って話しかけてきた。

「ごめんなさい。無理やり連れ出すようなことをして。

でも、放っておけなくて」

「いいえ。意固地になっていた私が悪かったのよ。

あなたに言った話、覚えているかしら」

「それなら既に準備が整っていますよ。

その方達に、少し神浜へ慣れてもらう時間が必要ですが」

「そう。なら、あなたに突っかかる必要もないわね」

「今は魔法少女同士で争っている時ではありません。

一緒に戦ってください。そして、いずれは二木市も魔法少女が普通に住める場所へ戻すために」

「ええ。その時まで協力してあげるわ」

環さんと話しているとさくやとひかるが近づいてきた。

「やっと強がりを止めるのか」

「みんなもわかってくれると思ったからよ」

「何はともあれ、結菜さんが無事でよかったっす!」

かつてバラバラだった二木市の魔法少女達は神浜という共通の敵があることでかろうじて協力できる状態になった。

その標的が、人間に置き換わっただけ。

自動浄化システムが世界に広がり、わたしたちを襲う脅威さえなくなれば、私達は無駄に争わずに済む。

これまでの戦いで死んでしまったみんなも、きっとわかってくれるだろう。

 

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