私の記憶の中に、母親の姿はほとんどない。
小学校にも通っていないくらいの歳の時に頭を撫でられて。
“イザベラなら大丈夫だよね?”
この質問に対して私はなんて返事したのかは覚えていないし、
母親との記憶はこれが最後。政治家の父親と使用人に育てられた記憶しかない。
過去に小学校の同級生に母親がいないことについてからかわれて家
“お母さんはイザベラを愛していた。イザベラを嫌いになってどこかへ行ってしまったわけではないよ”
“じゃあ、マムはどこへ行っちゃったの?”
“お母さんはこの世界の悪い存在と戦い続けている。
だからお母さんは帰ってこれないんだよ”
“私は強いよ!悪い存在なんてやっつけられるわ”
“イザベラ、
今はお母さんが安心して帰ってこられるように、
私も教えられる範囲内で知識をあげるから”
私が世界を知って、賢く、
そんな無邪気な願いを持って、私は知識をつけること、
そんな無邪気な願いを持っていた頃、私は魔女と呼ばれる存在に捕まったことがあった。その時に私はキュゥべえという白い生き物に魔法少女にならないかと勧誘を受けた。
しかしその時、私は魔法少女という存在じゃないのに魔女と呼ばれる存在の攻撃を防げる障壁を発動できた。なぜかは知らないが魔法というものを使用できたらしく、そのまま魔女を倒してしまった。その場に駆け付けた魔法少女と呼ばれる存在はとても驚いていた。
私が魔法少女ではないことを魔法少女と呼ばれる女の人へ話すと、こう忠告してきた。
“絶対に魔法少女にはなるんじゃない”
私はそのあと魔法少女になってはいけない理由を知るためにキュゥべえと父親へいろいろ聞いた。
魔法少女は魔女になる、魔法少女になると魂はソウルジェムというものに変換される。
ここまでほとんどはキュゥべえから聞いた話だが、なぜか父親は魔法少女について知っていた。なぜかというと、母親が魔法少女だったから。
そして私が魔法を使える理由は、魔法少女である母親から生まれたからではないかとキュゥべえから聞いた。結構イレギュラーな例らしい。
魔法少女になってはいけない理由も理解したし、母親がどこかへ行ってしまった理由も何となく察した。
魔法少女について父親へ聞いた時、同時に父親の過去も聞くことができた。
実は父親はもともとミュージシャンで政治家などではなかった。
でもミュージシャンの頃から世界を変えたいという思想はあったら
父親の政治活動をサポートしてくれていた、
“イザベラのお父さん「チャールズ」はね、
あれはチャールズが高校上がりたてで本格的にミュージシャンとし
道ゆく人たちが足を止めずに少量のチップしか落とさない中、
偶然かと思ったらしいのだが、
そしてある日、
“叔父様はいつお父さんと知り合ったの?”
“彼女と同様、路上ライブが行われていた時さ。
彼と話してみると面白い発想をしていてね、
“お父さんを利用しようとしたの“
”聞こえは悪いと思うけどね。でも逆に私は呑まれてしまったんだよ。
父親の成り上がりは政治家たちの中では誰も知らないほど有名だった。
大抵の政治家はコネや金の力、
そしてテレビ局にピックアップされて、着実に名声を得ていった。
父親が作る曲は人を魅了させるために人の真理を研究して意図的に作られたものではない。ただ父親が思うがままに作った曲が多くの人の共感を得ただけだ。
私も物心がついてから父親の曲を聞いたが、何とも言えない感動が胸の奥から込み上げてくることだけはわかった。
その結果、
父親は叔父に黙って叔父の選挙区へ出馬した。
その後は政治家とは思えないほど自分が損をし、
だから父親の資産は米国のどの政治家の中でもワーストだった。
衣食住、
しかも、政治家になってもミュージシャンを続けていた。
政治家になってからはテレビで曲を披露せず、
そう、父は一般人からしたら頭がおかしい。
でもその異常さが人気の一つだった。
そんな父親の有様を見て、貧乏政治家、
”お父さんは結局何をしたいの?“
”イザベラ、人をダメにするのはお金と常識だ。
だから、私はどちらも否定したいんだ“
“でも、お父さんは叔父様を騙したよね?
“イザベラは賢いね。
ケーネスは私の側近として政治家らしいことをやってもらってる。
ケーネスは騙されたと思っているかもしれないけど、
“どうして?”
“政治家たちのヘイトは私に向いている。私はケーネスの隠れ蓑になっているのさ”
“お父さん、変なこと考えないでよね”
“大丈夫、イザベラを不幸にはさせない。
そうじゃないと、嫁に顔向けできないからね”
父親が政治家になって、初めての大統領選挙が近づいていた。
結果なんて見えていた。
あらゆる政治家が汚い手を使っても、父親の大統領となる確率は9
そんな中、たった1%の奇跡が私の運命を変えた。
私は父親の付き添いで一緒に仕事場へと向かっている途中だった。外は雨が降っていて、見通しが悪かった。
そんな中、周りの風景がおかしくなっていった。
「なんだ、この空間は」
「道がない、どうすれば」
車に乗っている私は直感的に危険を感じて車を降りながら叫んだ。
「みんな車から離れて!」
父親は逃げ出せたものの、
「チャールズ氏だな?まあ、
話しかけてきたのは、ワニのような怪物の頭に立つ少女だった。
「その化け物、まさか魔女か。ということは君は魔法少女なのか!」
「ほう、理解が早いね。
父親は魔法少女をずっと見つめていたが、眉間にしわを寄せるという何か危ないことを考えているときの癖が出ていた。
「お父さん!」
「イザベラ、これを持っていなさい」
そう言って父親は私に銀色の星の真ん中に黄緑色の球体が輝くネッ
「これは」
「お母さんからもらったお守りだよ。さあ、それを持って結界の外へ!」
「でも」
魔法少女は待ってはくれず、
私は魔女の通った跡を境に父親と分断されてしまった。
「行きなさい!」
私は父親の言われるがままになぜかわかる出口へ向けて走り出した
走り出すと後ろから動物の骨を被った数体の骸骨が槍を持って私を
「なんなの。まさか使い魔ってやつ」
警戒して後ろを振り向くと、
「お父さん!」
私は足を止めてしまい、骸骨たちに追いつかれてしまった。
骸骨たちは槍で突いてきたがいくつかは回避できた。しかし父親が死んでしまった動揺もあってか、
もうダメかと思って死を覚悟した時、
「怪我をしているのか」
私に声をかけたのは竹刀を右手に握った少女だった。
「なんなんだここはと思ったけど、
蹴散らされた骸骨たちはその場で起き上がった。
「逃げるよ」
そう言って少女は私をお姫様抱っこした。
「とは言っても、どこが出口だ」
「あっちに走り続けて」
私は結界から出られる場所を指さした。
「わかるの?」
「急いで!あなたも消されるよ!」
少女は私を抱えながら必死に走り続けた。
もう少しで結界の端というところで少女はつまづいてしまい、
場所は橋の下で、衣服はすぐに雨で濡れてしまった。
「君は、いったい」
「あなたも何者なの、魔女の結界にすんなり入ってきて」
「魔女?結界?
君も偶然あの結界に?」
「違うわ。
私と、
そして、お父さんは魔法少女に殺された!」
「そうか、ごめん。無神経なこと言って」
「お父さんが、魔法少女へ何をしたっていうのよ」
少女は立ち上がって私に手を伸ばした。
「私はキアラっていうの。あなたは?」
「…イザベラ・ジャクソンよ」
私はキアラの手を取り、雨の中を叔父の家へ向かって走り続けた。
「ちょっと、イザベラさんどこに連れていくの!」
「あなたあの魔法少女に目をつけられたかもしれないでしょ。私の叔父の家でしばらく隠れていなさい」
「え、叔父さんの家?」
叔父の家へ着いた頃には2人ともびしょ濡れだった。
「どうなさったのですかイザベラさん!」
「着替えの用意をお願いできますか?彼女の分も」
「か、かしこまりました」
私とキアラは敷居を一枚挟んで着替えながらあの状況について話し
「まさかイザベラさんがお嬢様だったなんて」
「私のことは呼び捨てでいいわ。あとここは叔父様がお金持ちなだけ。
ねえ、どうして私を助けてくれたの?」
「殺されそうな人がいたら助けるのは当たり前でしょう?
まさか私の太刀が一切ダメージを与えられなかったのは想定外だけど」
「あなた死んだかもしれないのよ。
「生きて後悔を残すよりも、後悔なく死んだほうがいいのよ」
「ふん、悪くない生き様ね。
でも」
トントントンッ
話の途中で扉がノックされた。
「着替え中失礼。イザベラ、
状況を説明してもらいたい」
私たちは着替えが終わると叔父の部屋へと移動した。
部屋の中では叔父が窓から外を見ながら待っていた。
「イザベラ、一緒にいる子の名前は?」
「キアラよ。私たちが魔女の結界に閉じ込められた時、
「そうだったか。
キアラさん、イザベラを助けてくれてありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです」
イザベラが私は違いますよという感じに両手で手を振った。
キアラの両手を見て、叔父は顔が険しくなった。
「君、魔法少女ではないね?一体何者だ」
「あの、イザベラさ・・イザベラも言っていましたが、
「イザベラ、キアラさんに魔法少女のことを話してもいいかね?」
「・・・いいですよ。キアラは聞き流す程度でもいいわ。
それで、話というのは」
「落ち着いて聞いてくれ。イザベラのお父さん、
急に何を言い出すのかと思ったら、
「そんなはずないじゃない。
「では、屋敷内の使用人たちに確かめに行ってみるといい。
言われるがままに私は新聞に記載されている大統領選候補者の名前
そこに、父親の名前はなかった。
「何よこれ。こんな、これじゃあ、お父さんがいないことになったかのようじゃないの!」
「イザベラ、君たちを襲ったのは魔法少女だったのだろう?
君のお父さんがこの世界でいない存在にされたのは、
「そもそもなんで叔父様は魔法少女の仕業だって考えているの?
「君のお母さんからもらった、このペンダントのせいだよ」
そう言って叔父は見覚えのあるペンダントを私に見せてきた。
「それって、お父さんから渡されたものと同じ」
「そうか、彼は最期に娘へ手渡したか。
このペンダントはね、
彼の記憶が消えないのは、これのおかげかもしれないな」
「母親の、カタミ」
「君たちは彼を消すために動いた魔法少女に目をつけられただろう。
今後は、
「そんな、
誰かに命を狙われていると常に警戒するのは肉体的にも、
そんな毎日を過ごすくらいなら。
「イザベラ、顔に出てるよ。
まったく、親子そろってあまり物騒なことは考えるんじゃない。
魔女に通常の武器は効かない。キアラの戦闘を見てそんな気がした。
「すみません、気をつけます」
「キアラさん、
「え、いいんですか?」
「私が許すよ」
「ちょっと叔父様!」
そういうことで、キアラは叔父の家へ泊まることになった。
私は世間では叔父の養子ということになってしまっているらしく、
魔法少女の力は過去を作り替えてしまうほど強力な力だという事実に、
その日の夜、キアラが私の部屋へと訪れた。
「あの、昼頃にしていた魔法少女について聞きたいことが」
不意打ちだった。
不覚にも、
夜なのにコートを着ていたこと、腰に刺した拳銃を見てキアラは驚いた顔をしていた。
「何やってるんだ、イザベラ」
「キアラ、このことは内緒だ。黙って部屋に戻っててくれないか」
「イザベラの叔父さんが言っていた危ないこと、
私は何も言わずに窓から飛び出そうと思ったが、
私は開いたままの部屋の扉を閉じてから話し始めた。
「眠れないんだ、父親を殺したあの魔法少女に一矢報いるまでは、
「無茶だ、イザベラだって死んでしまう」
「そうだね。もしかすると、
今日おとなしくしたところで、いずれ精神が病んで死ぬのは、
私は窓を思いっきり開けた。
雨上がりの湿ったい空気が入ってきて、少し気持ち悪かった。
「キアラ、助けてくれたこと、嬉しかった」
そう言って私はキアラに背を向けたまま窓から飛び出した。
back:2-1-5
レコードを撒き戻す:top page
Next:2-1-7