【マギレコ二次創作】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-1-3 ほんと、おぞましいものだ

米国 大統領による演説当日

 

米国内は新たな大統領選が始まるのかというくらいの認識で大勢が演説会場へ集まっていた。

テロリスト対策に配置された数十人の兵士に囲まれながらも、民衆は演説台に上がった大統領を見て歓声を上げた。

大統領は歓声を止める合図とも言える右手をあげて民衆を見渡した

歓声が鳴り止むと、演説が始まった。

そして演説が始まると同時に世界各国、あらゆる放送電波が何者かにジャックされ、全てが米国大統領の演説に切り替わった。

”私は、世界を揺るがす事実を伝えると同時に、国連へ新たな提案を行うために今皆様へお話ししています。

皆さん、この世に魔法と呼ぶものがあると思いますか?

アニメや漫画といったフィクションにしかないと思う方も、オカルトだと思う方、そもそも存在しないと思う方もいるでしょう。

私は断言します。

この世に魔法は存在すると!“

演説台を取り囲む民衆は突然魔法という言葉を使い始めた大統領を目の前にしてざわつきを抑えきれなかった。

そんな中演説会場に用意されたモニター、そして世界中のあらゆるテレビやモニターには神浜で起きた惨劇の映像が流れた。

”実は我々の身近には既に魔法が存在していたのです!

これは私の気が狂ったわけではありません。

今みなさんにご覧いただいている映像は日本 カミハマシティにて発生した化け物の大量発生した様子を我が国の兵士が持ち帰ったものです。

見れば見るほど現実とは思わず、作り物だと思い込んでしまうでしょう。

否!これはフィクションではなくノンフィクション!

私自身もこの化け物と対峙し、その存在を認識しました。

その存在は、身近ところに潜んでいるというのが事実なのです!“

ざわつく演説会場で突然二つの叫び声が聞こえ、その叫び声を上げた少女達からは化け物が飛び出し、演説会場は二つの魔女の空間が混ざった状態で包まれた。

民衆達が逃げ惑っている中、大統領は演説を続けた。

“なんてことだ!こんな大事な時に目の前で発生してしまうなんて!

実はこの化け物に対して魔法少女と呼ばれる存在が日々、排除活動を行なっているのですが、果たして助けに来てくれるのだろうか。

護衛にいた兵士たちの銃弾では歯が立たない!

どうすればいい?!”

そう話した後、魔女の結界へアンチマギアを武装した集団が侵入し、使い魔と魔女へ攻撃をはじめた。

その攻撃は勿論効果があり、兵士たちは民衆の保護を始めた。

“あれは我が国の兵士。私がこの事態を予想して準備してきた武装を彼らは用意してくれたのです。”

2体の魔女はあっさりと倒され、周囲は普通の風景へ戻った。

“急な出来事で民衆へ被害が出てしまいましたが、もう安心してください。

このような事態へならないよう、私は化け物へ対抗するための案を用意しています。

それは、「アンチマギアプログラム」です。

アンチマギアプログラムでは先程の化物へ対抗できる武装の開発と量産を行う許可を下す法案と、その量産体制を整える権利を各国へ与えるものです。

もう一つは、化け物の発生原因である魔法少女という存在の捕獲、そしてその魔法少女という存在をこれ以上増やさない計画の実行許可です。

みなさんの身近に、非現実だと思われた存在が現実に存在したということは認識してもらえたでしょうか。

もし、アンチマギアプログラムが世界で実施されるようになりましたら、世界中の皆様も、どうか協力をお願いします。“

 

米国大統領の演説を、サピエンスのメンバーは4人揃って眺めていた。

テレビに映る様子を見ていた中の1人が話し始めた。

「とんだ茶番劇だね、こりゃ」

「ディア、あれは国連の頭が固い連中を説得する上で最適な方法なんだよ。
人には被害が出たが、かえって現実味が伝わったでしょ」

「頭の固いやつは見るだけじゃ意見変えないって。そんなことより私は実験に使えたはずの二名が魔女化して普通に処理されたことが気に食わないの」

「あら、あの時は渋々OKを出したじゃない」

「まあ、そうなんだけどさ。やられ方が普通過ぎる。
なんかこう、新たな倒すための手段がひらめくような状況になればと思ってたけど。普通過ぎる」

「あなたにとっては普通でも、このパフォーマンスによって世界は魔女を脅威と錯覚してくれるはずよ。魔法少女については、少し印象が薄いかしら」

「カルラ、キチンと魔法少女を魔女にしたじゃないの」

「あれが魔法少女だって認識がみんなできていたらの話よ。

まあいいわ。魔法少女は歴史を改変するって点はおいおい印象付けるとしましょう」

「ええ、電波ジャックの件は助かったわ」

 

世界には強引にも魔法少女の存在が知れ渡り、わたしの理想が叶うところまできた。

米国大統領の演説が終わった後、国連ではアンチマギアプログラムの議案が提出され、あっさりと可決された。

世界は魔法という概念が実在するという認識が半信半疑で広がっていき、女の子、と呼ぶくらいの女性達は化け物へと変わってしまう魔法少女ではないかという疑心暗鬼も広まっていった。

見た目で魔法少女かどうかなんて判断できない。

そんな中でアンチマギアプログラムには魔法についての予防接種を受ける義務を与える内容も含まれている。

予防接種を受けると首元にバーコードが刻まれ、予防接種を受けた者はキュゥべえや魔法少女が使用しているテレパシーを受信できなくなる。

魔法少女かどうかの疑心暗鬼はこの予防接種を受けたというバーコードで解消されていくだろう。

では、既に魔法少女となっている者達はどのような処置が行われるのか。

アンチマギアプログラムが国連にて可決されてから3日後、各地に散った工作員達へ指示を与えるために私はペンタゴンの地下にあるサピエンス用の施設へ来ていた。

そこで無線を使用して工作員達へ指示を出した。

「もうじき作戦時間だ。これより、魔法少女掃討作戦、作戦名「魔法少女狩り」を開始する。

いいか、これは虐殺するための作戦ではない。

担当区画の魔法少女達を拘束し、決められた保護施設へ収容するのが目的である。相手から降伏を申し出てきた場合は丁重にもてなして拘束せよ。

また、ヨーロッパにはアンチマギアをかいくぐる存在がいると確認されている。

見た目は少女だと油断せず、魔法少女を逃さず拘束せよ。

以上!作戦開始!」

私の合図で世界各地で魔法少女狩りが実施された。

工作員達は手渡された魔力探知機を使用して魔法少女の居場所を突き止め、家族が一緒にいた場合は国連命令として拘束した。

抵抗する者には武器の使用が許可されており、無理やり拘束を行った。

拘束された魔法少女達はソウルジェムへ細工が施され、ボタン一つでソウルジェムが破壊されるようになってしまう。

しかし、下手に抵抗しなければ管理区画内に限って人並みの生活を送ることができる。

拘束される際に抵抗が激しかったり、かつて国へ大損害を与えた魔法少女については…。

こうして魔法少女狩りが実施されて3カ月が経過した今、魔法少女狩りの進捗は芳しくなかった。
演説が行われたころから国内のほとんどの魔法少女が国外へ逃げ、ヨーロッパの一部とカミハマシティは予想外に魔法少女の捕獲が失敗という結果になった。潜入した工作員が誰一人帰ってこなかったのである。

他の国でも魔法少女の捕獲は成功したものの全員ではなくどこに潜伏したのか行方知らずの魔法少女が多い。

そんな中、魔法少女によるヨーロッパの武器庫破壊が発生した。

 

計画がうまくいかない中、サピエンスの実験施設には武器庫破壊のリーダー格である魔法少女が放り出されていた。
放り出されている空間は真っ白な鉄壁に囲われていて、高いところには内部をモニタリングするための部屋が用意されている。
見た目は真っ白な部屋だが、ここでは何人もの魔法少女が実験のために殺されてきた。

「あんた達の中心人物について教えてくれれば、あんたの部下の命が犠牲にならずに済んだのにさ。
部下よりも自分の命が大事かい?」

「捕まった時点で死んだも同然さ。それにしったところであんた達がドウコウできる問題じゃない!」

尋問していた研究員が銃弾を一発、魔法少女の左足へ撃ち込んだ。

魔法少女は痛む様子がなく、血が流れ続ける左足を見て困惑していた。

「アンチマギアの濃度を上げた弾薬だ。

肉体の感覚と魔力が遮断されるまでの間隔が短すぎて痛覚も機能しなかっただろう?

気づかずに死んでいたっていうのは、ちょっと優しすぎるかな?」

尋問する研究員は魔法少女の周りを歩き出した。

「武器庫破壊が行われた際、他各所でもアンチマギアが納められている施設が襲撃されて大打撃を受けたって聞いてるんだけどさ。

それって、世界に顔がきく魔法少女界のドンが存在して、みんなに指示を出してるってことだよね。

そいつらのせいか、魔法少女狩りも進行度的によろしくないのよね。

仮に教えてくれなくても、少しは抵抗してくれないかな?

これ一応実験中なんだけど」

「何度聞いても同じだ。わたしは知らないし、一思いに殺してくれても構わない。

抵抗するのがお前の望み通りになるのであれば、わたしは抵抗もしない」

「つまらないねぇ」

研究員は躊躇なく魔法少女の頭を一発撃ち抜いた。

撃たれた魔法少女は糸が切れた人形のように力なく横たわり、ソウルジェムに穢れが溜まっていった。

研究員が魔法少女のソウルジェムを回収するために魔法少女の手首へ手を伸ばした。

するといきなりソウルジェムからアンカーが飛び出してきた。

ソウルジェムから伸びる鎖に繋がったアンカーは研究員の腕輪が光った後に出た赤紫色の結界を破壊し、そのまま真っ白な実験部屋の壁へ研究員を叩きつけた。

研究員の腹部はえぐられ、周囲には血が飛び散っていた。

アンカーを持った魔法少女はソウルジェムを濁らせながら糸で操られた人形のように壁を破壊し出した。

実験部屋の外では研究責任者が殺されたと慌てふためく研究員達がいた。

そんな中、実験部屋で暴れる魔法少女を見ても、殺された研究責任者を見ても落ち着いて様子を観察していたもう1人の研究員がいた。

「毎度のように慌てるんじゃありません。わたしが対処するのでみなさんはデータ整理をお願いします」

「わ、わかりましたカルラさん」

カルラと呼ばれる研究員は実験部屋の扉へパスワードを入力して扉を開いた。

カルラはすぐに砲身が細長い銃をアンカーを持つ魔法少女へ撃ち込んだ。

物理的な弾ではなく、レーザーのような単発銃はアンカーを持つ魔法少女へ弾を秒間1発の間隔で命中させた。

銃撃を受けたアンカーを持つ魔法少女は再び動かなくなった。

カルラは針が4本内側についた球体を取り出し、アンカーを持つ魔法少女のソウルジェムを球体の中に入れて閉じた

4本の針はソウルジェムへピッタリとくっつき、微弱な電波のようなものを発していた。

ソウルジェムが球体に入れられた後、アンカーを持つ魔法少女は完全に動かなくなった。

「実験中断。研究員各位はクローン体を介した遠隔操作、痛覚麻痺弾薬、及びシールド技術の実験データの整理と解析を行ってください。

ソウルジェム隔離実験はディアの代わりにわたしが引き受けます。

掃除班への連絡も忘れないように。

以上。各位次のステップへ移ってください」

指示を出し終えたカルラは実験室を出てある部屋へと向かった。

部屋へと向かう道中、カルラはそこらへんで売っていそうなタバコに火をつけて少しだけ気分を落ち着かせた。

カルラが向かった部屋にはガラスケースのような蓋がついたベッドに横たわる実験室で死んだはずの研究責任者が眠っていた。

カルラはベッドの装置へパスワードを入力するとガラスケースが上方向に開き、内部の冷気が周りに溢れた。

中にいた研究責任者は少ししてから目を開いてむくりと起き上がった。

「視覚的観測だが、魔法少女が魔力を放出してからシールドが発動するまでにラグがあった。

シールドの強度以前に発動が遅れてシールドが発生し切る前に殺されていた。

とはいえ、クローン体も労ったらどうだ、ディア」

「何をいってるのさカルラ。クローンを遠隔操作できただけで十分な実績じゃないの。死んだ時の感覚は若干残ってるけど、まあ想定よりも痛くなかったし」

「相変わらず倫理観皆無な考えで安心したよ。そのクレイジーはあまり周りに醸し出すんじゃないよ、クローン体だって知っていても慣れない研究員は大勢いる。
それに、私個人としてはディアは死んでも大丈夫な存在だとあまり思われてほしくない」

「なんと言われようとわたしは変わらないよ。
さて、私はイザベラに会ってくるよ」

「なんだ?殴られにでも行くのか」

「んなわけあるか!」

ディアが部屋を出て行った後、私は部屋を見渡した。

ここにくる前からディアはクローン技術について優秀ではあったが、行き過ぎたクローン技術は恐ろしさしか感じない」

ディアが寝ていた部屋の壁には培養槽が敷き詰められていた。

培養槽には成長しきったディアのクローンからまだ胚のクローンの姿があった。18個あるうちの17体が生体となっていて目を閉じて水の中であるにもかかわらず呼吸している。

「ほんと、おぞましいものだ」

カルラはポケットにしまっていたソウルジェムを閉じ込めた球体に異常がないか確認した後、クローン部屋を後にした。

 

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