死んでしまったら真っ暗な中を彷徨うだけだと思っていた。
何も見えない、触れない、聞こえない、見えない、
しかし私の目の前には田舎で見るような綺麗な夜空が映っている。
それに身体中が痛い。
そして風は冷たい。
もしかして、まだ生きている?!
私は急に上半身を起き上がらせて生きていることを再確認した。
両手のグローブにはまった宝石は輝いていて、
おかしい
あれほどの穢れの塊を受けて生きていられるはずがない。
「お目覚めですか」
聞き慣れない声の方向を向くと、
しかし因果の線を見てすぐに理解した。
「あんた、私と同じく、別世界の人間なのか」
「どうやら因果を目視できるというのは本当のようですね。
潜在的に持っていたとは聞いていないので、
何かを知っているようだが、
「なぜ私は生きている?あんたは知っているのか?」
「大変だったんですよ、肉体がボロボロになる前に救出するのは。
でも穢れを受けたのは事実で、
「・・・何故助けた」
「あなたは次元改変に巻き込まれたんです」
「答えになっていないぞ」
「巻き込まれたままであればあなたは被害者だった。でも、
「・・・」
「あなたを放っておけば、この世界はいずれ、
「それと私に何が関係ある」
「次元改変を止める方法として、
狂わせた分を帳消ししてもらうということです。
もう一つの方法は」
女は槍をどこからともなく呼び出し、
「加害者を殺すことです」
「今の私を殺したところでこの後の軌跡に変わりは出ない。
「誰が“この時間のあなた”を殺すと言いましたか?
はじまる前に終わらせるだけです」
どうやらこの女はとんでもない存在なのかもしれない。
過去へ行ける、
「ならばその次元改変とやらに巻き込まれる前に私と、
女は目を閉じて、静かに首を横に振った。
「そうかい。私がここまでやってきたのは、
「では、この後はどうしますか?」
「自暴自棄で爆発した熱意も、勢いももはや残ってなどいない。
根本から刈り取ってもらっても構わないさ」
「あら、見知らぬ世界に飛ばされた後、
師匠という方に触発されて生きてきたのでは?」
「どうして師匠とのことを知っているのかは気になるが、
シオリも、ピリカも死んでしまった。
私が殺したんだ。
人間社会を滅ぼすなんて考えも師匠の受け売りで私自身には何もな
だから、もういいんだよ」
「穢れにでも負けましたか。
あなたが弱気に出るのは想定外ですが、
紫髪の女は古そうな絵巻を私に渡してきた。
「何だこの古い紙は」
「あら、あの世界では上質な紙なんですよ。
絵巻を結んでいた紐をほどき、中身を見た瞬間、私は目を疑った。
そこに書かれていたのは、見覚えのある文字だった。
”お姉ちゃんへ
私はお姉ちゃんとはぐれた後、見覚えのない世界で目覚めたの。
その世界には怖い化け物がいて、
最初は怖かったけど、
最終的には悪い邪神を私の踊りでやっつけちゃった。
カグラってすごかったんだね!
今はこの世界を安定させるために、
そしたら突然つづりさんと出会ってね、
私はお姉ちゃんに会いたいって伝えたんだけど、
でも、
私頑張って、お姉ちゃんに会いに行くから!
この手紙はつづりさんに無理を言って渡してもらう予定なんだ。
お姉ちゃんも別世界で頑張って生きてるって聞いてるよ。
私も頑張って追いつくから、お姉ちゃんも頑張ってね!
自慢のお姉ちゃんへ
カガリより“
目頭が熱い。
50年近く前に諦めていた、妹のカガリとの繋がりが今手元にある。
間違いない。この字は間違いなくカガリの癖字だ。
私は久しぶりに涙を流しながらしばらくすすり泣いた。
私はそうやって育てられたんだから。
私は心が落ち着いた頃、目に溜まった涙を拭いて前を向いた。
「あんたは一体何者なんだ?」
「私のことはつづりと呼んでください。多次元を渡り、
「カガリは、生きているんだな?」
「はい。
「監視?」
「自分で作り替えてしまった世界を、責任を持って見守る。
何者かに導かれるはずだった世界を変えてしまった分、
「なるほど、カガリと同じことを私にもやれと言いたいんだな」
「察しが早いですね。やってくれますか」
「こんな希望を手渡してくれたんだ。
変に頭に取り憑いていた弱気にさせる何かはとうに消え失せていた
今の私には、生きる以外の選択肢がない。
「それは良かった。それでは、まずはこちらをお渡しします」
そう言ってつづりが手渡してきたものを見て驚いた。
「これは、ピリカのソウルジェム?!」
「体は手遅れでしたが、
ソウルジェムを受け取ると、聞き慣れた声が頭に聞こえてきた。
[ふふっ、カレンが泣く姿なんて、あの人と別れる時以来かしら]
[見ていたのか。
・・・守ってやれなくて、すまなかった]
[ううん、あれは私のミスだもの。
もう自分で動くことはできないけど、魔力で守ってあげられるよ]
「まったく」
思わず口に出してしまった。
「実はシオリさんもソウルジェムだけは助けているのですが、
「シオリも助かっているのか。ほんと、私らの覚悟が馬鹿みたいじゃないか」
「自殺めいた覚悟で誇ろうとしないでください」
「やれやれ、あの状況下で生きているとはね。日継カレン」
声の方向を向くとそこにはキュゥべぇの姿があった。
「何だ?
「残念ながら今はワルプルガと契約できるような状況ではない」
「環ういの“異変”のせいでだろ?」
「そこまで理解しているなら、
君たちにとってはすぐにでも魔女化しない世界を手に入れたいはず
「さぁてね。あんたには理解できないことさ」
キュゥべぇの方を見ながら話した後に顔を上げると、
眼下に広がる街を見ているが、人気は全くなかった。
私達という神浜に集まった多くの魔法少女にとっての共通の敵がい
今回の騒動は、
本当はこの世界の存在だけで好きにやってくれという感覚だったが
カガリと再開する為だ。
魔法少女の本当の敵を消して、
この世界に起きている異変はすでに顔を出している。
しばらくはその異変を消していく活動になりそうだ。
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