【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 4-9 その一矢に私念を込めて

このはさんに助けられて地へ足をつけた頃、目の前には葉月さんとあやめちゃんがいました。

その2人の体には、返り血が目立つように付着していました。

「その姿は」

「ヒトがいたから斬っただけだよ。かこちゃんはかなり変わったね」

「変わってない魔法少女なんて、神浜にはもういないですよ」

「かこ、あの塔の上で何があったのか説明してくれない?」

「わかりました。でも、行きたい場所があるのでそこへ向かいながら話しましょう」

私はあやめちゃん達にワルプルガが復活したこと、紗良シオリさん達の過去と彼女達が人間嫌いとなった理由について話しました。

「争いが絶えないのは過去から積もった私念が原因。ヒトは過去を尊ぶため私念からは逃れられない。だから人間社会を滅ぼす、か」

「はっきりと口では言いませんでしたが、彼女達の過去に出てきた師匠が今の彼女達を大きく突き動かしているようです」

自動浄化システムを広げた後は人間社会崩壊のための活動が待っているのね。
話を聞く限り、彼女達の仲間になる気はないけど、対立する理由もないわね」

「かこはどうするの?」

「私は彼女達を償わせるだけです。いやでも生き続けてもらい、こんな世界にしたことを償ってもらいます」

「それは、ななかを殺されたからこその覚悟?」

「私はななかさん達が死んでしまう原因を作ってしまった。

カレンさん達を償わせることが、私の償いでもあるんです」

「そう…」

私たちが向かった場所は、ももこさん達が塔の上から落下した場所でした。

3人は魔法少女であることが幸いしたのか体の形は保たれていましたが、体内の血が全て飛び出てしまったくらいの量の血が周囲に飛び散っていました。

「酷い有り様ね」

「3人ともにソウルジェムは無事のようですが、助けても心身ともに長くは保たなさそうです」

「魔力反応が極端に薄い。それに、体とのリンクも不安定になっている感じがする。

ももこさん、あんたをそうさせるほどのものはなんだったんだ」

葉月さんがももこさんへそう囁くと、ももこさんの指がピクッと動きました。

私は驚きました。もう目を開かないと思っていたので。

私が少しだけ回復魔法を使用すると、ももこさんは半目だけ開けた状態で葉月さんを見ました。

「よう、こんなザマのあたしに何の様だ」

「…さっき話したこと、聞いてたかい?」

ももこさんは苦しそうに一呼吸置いて話し始めました。

私は少しでも長く会話できるよう、ささやかな回復をももこさんへ行いました。

「あたしが黒いオーラを纏って暴れてる時にさ、初恋のアイツをぶっ殺しちまったんだよ。あの時はヒトとしての考えが残っていたのか、深く後悔したよ。

あれが最初に、あいつらをぶっ倒そうと思ったキッカケだった。

でもその次に調整屋の調子を狂わせにきたと聞いて、あたしはヒトよりもあいつらを殺さないといけないって思ったのさ

その後何度挑んでも勝てない。

でももう引けなかったんだよ。時々見に行った調整屋の様子を見るたびに殺意を抑えられなくなっていた。

もうあいつらを殺す以外、元に戻る方法が思いつかなくなっていた。

それで、今に至るのさ」

中央塔の近くで大きな爆発音が聞こえてきました。

歩いている途中でも聞こえていたので、中央塔付近でカレンさん達が戦い続けているのでしょう。

「ねえ、まだ殺すために戦いたいの?」

あやめちゃんがももこさんへそう尋ねました。

「疲れたよ。お願いだから、放っておいてくれ」

私は回復の手を止め、立ち上がりました。

「では、失礼します」

私がその場を去ると、何も言わずにこのはさんたちも私の後をついて来ました。

「かこ、これからどうするの?」

「カレンさん達の様子を見守ります。

殺されることはないと思いますが、殺されそうになった時は加勢します」

「仇を守るって、変わっているね」

「死ぬよりも生きるほうが辛いからこそですよ」

・・・!

いきなり頭が割れるように痛くなり、負の感情が増大していきました。

そしてソウルジェムが急激に濁ってドッペルが発動しそうになりました。

私はドッペルが発動する前に身に纏って意識を保ちましたが、あやめちゃん達はドッペルを出してその場で頭を抱えたままでした

ドッペルは中央塔を向いたまま動かず、ドッペルから伸びる穢れの煙が周囲からどんどん中央区へ集まっていました。

一体何が起こったの?

何かの力で穢れを増大させられながら中央塔付近へ来ると、穢れの集結先はいろはさん、まどかさん、そして黒い羽を広げたほむらさんへ集まっていました。

頭が痛む中、私はカレンさんへ話しかけました。

「これはどういうことですか!」

「おっと、シオリのドッペルが放つ洗脳波形を受けても正気でいられるとは思わなかったよ」

「洗脳波形?これ以上何をしようと」

「人間性からの卒業をさせるのさ。

夏目かこ、あんたは既に卒業しているから見逃してあげるよ」

カチャリと音が左から聞こえたので振り向くと、いろはさんとまどかさんが合体させた大きな弓をこちらに向けていました。

「いろはさん、まどかさん!武器をおろしてください!」

「聞かないさ。彼女達には暁美ほむらの外界からもたらされた力を通して私念に支配されている」

「洗脳で私念を呼び起こしているとでもいうのですか」

「みんなまだまだ魔法少女とヒトの中間にいるような状態だ。私念があれば怒り、悲しみ、憎しみの感情が嫌でも溢れ出てくる。

ちょっと脳みそいじって煽っただけでこれだけシオリ達に殺意が向くくらいだ。

私念を根こそぎ潰さないとねぇ!」

シオリさんの周りに砂鉄が漂い始め、大量の砂鉄が上空に飛び上がったかと思うと一本の棒状になって塔へ一閃を放ちます。

塔の一番上部分が落ちて来て、シオリさんの頭の上すぐのところで浮遊し始めました。

円錐形の部品はゆっくりと回転を始め、回転が加速するほど電気を帯びていきました。

その反対側にいるまどかさん達は弓矢へ負の感情を集めるようにチャージをはじめていました。

カレンさんは電波塔の方を振り向き、塔の後ろ側へ走って移動しました。

移動した先には穢れが溢れ出て動けない魔法少女が数人いました。

そんな魔法少女達へカレンさんは糸を放ち、絡め取るとまどかさん達の斜線上から離すように放り投げていきました。

射線上に他の魔法少女がいないことを確認すると、カレンさんがテレパシーで私に語りかけて来ました。

この時、私は既に頭痛から解放されていたことを知りました。

[ここから離れろ。お前も巻き込まれるぞ]

[死のうとしているあなた達を放っておくわけないじゃないですか!
お二人こそそこから離れてください]

[ここまでの段取りでわかるだろう?人間性からの卒業、私念の排除には憎き私たちを殺した悦びと共に後悔の意識を知らしめる必要がある。

喜びと同時に後悔の思いが襲った時、はじめて私念を捨てる選択肢が生まれる]

[そんな不確定な方法のために、死ぬ必要は]

[私たちが死ななければ彼女達はこれから戦うべき存在に集中できない。これは必要なことだ]

[でも、それでも!]

シオリさんが操る電柱は電気エネルギーが高速で回転し、魔力ではないレーザーを形成しようとしていました。

対面のまどかさん達にはほむらさんが加わり、禍々しい弓矢には紫色の翼が大きく広がりました。

「実験は成功だ。疑似的に一つの思念体となったこの事例は貴重!

私念の塊となったあんたたちにはわかるだろう?!」

双方のエネルギー量は凄まじく、周囲には音を消し去りそうな暴風が発生していました。

立ち続けることは可能な程度ですが、油断すると倒れてしまいそうです。

「憎いだろう、殺したいだろう!

さああんた達、私念を吐き捨てて見せな!

だが、その先には後悔があることを知るが良いさ!

その矢を射るのは洗脳されたからじゃない。統合私念によって露わになった、ヒトが誕生から抗えない本能の叫びだ!」

洗脳が解かれているはずなのに穢れが晴れる様子はありません。

そんな中でシオリさんは死ぬかもしれないのに、笑っていました。

[夏目かこ、離れろ!]

[離れません!]

私はカレンさんを連れ去るために手を伸ばしますが、手が届く前に糸で絡め取られてしまいました。

[私たちの分も、魔法少女達を見守ってくれよ]

その言葉を聞いた頃、私は遠くまで飛ばされていました。

「ダメェェエエエエエエエ!!」

カレンさん達がいた左右には糸の壁が張られ、まどかさん達の矢とシオリさんのレーザー砲が同時に放たれました

 

 

 

「うい、起きて、うい!」

私は聞いたことがある声に反応して目を開けました。

目の前には灯花ちゃんとねむちゃんが見下ろしていました。

「よかった、目を覚ました!」

体を起こそうとすると何かが乗っかっている感じがしてお腹の部分を見ると白いローブを着た女の子が寝ていました。

「聖女ワルプルガを奪おうという行いには驚いたよ。自動浄化システムを広げる鍵を手に入れたことは功績だけど、ういらしくない無茶だったね」

あの混乱した中で、私は何故かワルプルガさんを手に入れないといけないと考えていたのです

何故かは、私にも分かりません。

「うん、わたしもあんな無茶ができちゃったことに驚いてる」

「まあ、ういが無事でよかったよ。何か撃ち込まれた時が一番びっくりしたんだから」

「うん、心配させちゃってごめんね」

話していると電波塔あたりから沢山の穢れが感じられました。

「なに、あれ」

しばらくしないうちに私達には頭に激痛が走り、穢れが溢れて来ました。

「だめ、意識が保てない」

私は再び気を失ってしまいました。

どれほど時間が経ったか分からない頃、誰かに服を引っ張られる感触がしたことで意識を取り戻しました。

目を開けると正座をしたワルプルガさんが目を開けてこちらを見ていました。

「ワルプルガ、さん?」

「お母さん、起きたの?」

え、もしかして私に言っているの?

試しに私に指を差しって問いかけてみました。

「私が?」

ワルプルガさんはペコリとうなづきました。

どうしよう、とても大変な誤解をされている。

灯花ちゃんとねむちゃんに意見を求めようと周りを見ると2人はドッペルを出し、穢れが溢れたまま動いていませんでした。

「2人とも、どうしちゃったの」

ゴォオン!!

いきなり中央塔あたりから轟音と共に太陽くらいに明るい光が溢れて来ました。

塔から放たれた眩しい光は穢れが固められたような塊を押し返そうとしていましたが、穢れの塊から翼が生えて不気味な笑い声が響きました。

穢れの塊は眩しい光線をどんどん飲み込んでいき、ついに中央塔を貫きました。

穢れの塊は矢の形を保ったまま直進していき、ある場所に直撃すると大きな爆発を引き起こしました。

そのある場所というのは、私達には馴染み深い里見メディカルセンターでした。

神浜の人たちが魔法少女に殺されている中、里見メディカルセンターは唯一残された避難所として多くの人が避難していました。

そこへ穢れの塊が直撃したのです。

私には漂っていた穢れにのって里見メディカルセンターにいた人たちの悲鳴が聞こえて来ました。

みんなを守っていた兵士さんからお医者さん、子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、多くの人たちが穢れに飲まれて骨まで溶かされていく様子が頭の中に投影されました。

私はその光景を見ていると胸の辺りで何かが弾けた感覚を覚えた後、出したこともない大きな叫び声をあげて再び意識が途切れたのです

 

 

 

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