ういは顔を上げて目にたまった涙を袖で拭き取り、そのまま立ち上がった。
「わたし、みかづき荘に戻るね。そろそろやちよさん達が集まってそうだから」
|うん、気をつけてね|
わたしはそう言って送り出すことしかできなかった。
元々結界の中で4人が集まるのをずっと待っていた。それに苦はなかった。
でもどうして?
今の私は自由に外を動き回りたくて仕方がない。
・・・
これがワガママという感情なのだろうか。
そう考えていると灯花が病室の空間にやってきた。
「あら、万年桜のウワサいたんだ〜。この時間にいるってことはまた学校を抜け出してたんだね」
灯花は知らない。いろはがどうなっているのか、日継カレンという魔法少女達がやろうとしている事を。
教えると興味を持って危ない場所に行きかねないと伝えられているから。
「ういもねむもそろそろ学校が終わる頃だし、ニュースとかでは分からないこと話したいなぁ」
|えっと灯花、ういは|
「みかづき荘にいるんでしょ?」
|えっ!|
「だってー、今日の夕方に神浜を騒がせている日継カレン、紗良シオリ、保別ピリカを捕まえに行くんでしょ」
|・・・SNSに出てた話?|
「そうそう!私達を呼ばずに話を進めちゃうなんてひどい話だと思わない?!
中央区でかなーり危険なことになっているし、今頃敵のアジトだと思われる場所を攻撃しても意味ないと思うんだよね。
マギウスの時もやったけど、こういう時って穴になっているところで罠があるんだよ。
ぜったいわたくしを呼んでおけばもっといい提案をしていたとおもうにゃぁ」
|例えば何する?|
「魔法少女達も立ち入ることが困難になった中央区を見張るね。そしたら案外近くにいたりするんだよねー。
ちょっと考えればすぐだよー」
「そうやってみんなが行動している間、ボク達はなんの成果を出せていないじゃないか」
灯花が話すのに夢中になっている中、ねむはこの空間にやってきていた。
|灯花達に与えられていたのは、自動浄化システムを広げる方法。掴みようがないから広げ方もわからない、だったよね|
「概念への干渉なんて例のワルプルギスの夜を倒した時の羽同様、観測できるものがなければ敵わない。
クレメルもういも認識できない以上、やりようがないのは重々承知」
「ドッペルを発動したときに何処かへエネルギーが集中しているわけでもないし、現代科学の力では解決できっこないんだよ。
魔法少女の願い以外は別だけどね」
「だから因果量を測る装置を考えるんだって躍起になっていて今に至るわけだが、進展はあったのかい?」
「くふふっ、それについてはもう完成しててね、今日見てもらおうと思ったんだよ」
そう言って灯花が取り出したのは両掌に乗っかるくらいのアタッシュケースみたいな箱が一つ。
そして二つの留め金を外して出てきたのは魔法のステッキのように棒の先に丸い円盤がついたものだった。
「・・・見た目の時点では頼りないものが出てきたけどこれはなんだい?」
「これは魔法少女の素質を測る道具でね、決して魔法のステッキとかじゃないよ」
「可愛らしい装飾がされているから余計そう見えるよ」
「もう、普通に作ってって言ったんだけどにゃぁ」
「それで、その道具でどうやって魔法少女の素質を測るっていうんだい?」
「魔法少女の素質がある場合ってさ、キュゥべえが見えるものでしょ?それに魔女も認識できる。
魔法少女にしか見えないものが見えれば、その女の子は魔法少女の素質がわかるってこと。
この道具は魔法少女にしか見えない周波数を使用して数字をこの円盤の空間に映し出すことができるんだよ。
ただ見えればいいってわけではなくてね、映し出された数字が鮮明に見えるか、ぼやけて見えるかで素質の大きさを測ることができるんだよ」
「魔法少女にしか感知できない周波数、マギウスとして活動していたときの経験が生きたね。
それで、既に魔法少女であるボク達には当然見えるんだよね」
「もちろんだよ!見ててよ、今数字を表示するからね」
灯花は道具の根本にあるダイヤルを回しては押下、回しては押下を3回繰り返し、もう一つのボタンを押して私たちの方に向けてきた。
「さあ、ここにはなんの数字が見えるでしょうか?」
円形の中心に魔力のような反応があるというのはわかるけど、数字としては認識できなかった。
「きっと万年桜のウワサには見えないかもしれないけど、ねむならそれなりに見えるんじゃないかな?」
「見ただけで数字が3つあるのはわかる。でも全部重なっていて綺麗に見えるとは言えないね」
「じゃあ、どの数字が重なってるかはわかる?」
「2、8、7かな。全部違った形だからどの数字があるのかってとこまではわかる」
「そうかー、ねむでも綺麗に見えないってことは概ね成功って感じかな」
なんだか仲間はずれにされてるようでちょっとムッとしてしまった。
「もう、むすっとしないで。この装置が映し出す数字は、魔法少女の素質がある子が見ると数字は鮮明に、さらには並び順まではっきり判断できるってものなんだよ。
わたくしでもねむみたいに数字は見えても並び順までは把握できないから、ねむとわたくしの魔法少女の素質は同等程度ってことだね。
万年桜のウワサはもちろん魔法少女とは違った存在から見えないよ」
|魔力を感知するとは違うってこと?周波数の関係であれば私にも感知できそうだけど|
「万年桜のウワサは、わたくし達のテレパシーに参加できないよね」
|・・・そういうこと|
私はしなしなになった草のようにしょんぼりとしてしまった。
でも灯花は魔法少女の素質を測る道具で何をしようというのだろう。
|それを使って、どうやって自動浄化システムを広げようと考えているの?|
「もちろん、この地球上にいる強い魔法少女の素質を持つ子を探すためだよ。
そして、自動浄化システムを世界に広げてって願ってもらうの。概念に干渉できるのは、わたくしたちが魔法少女になる際の願いだけ。
だったら、その願いで広げるのが手っ取り早いでしょ!」
少し沈黙が続き、ねむがため息をついた。
「理論上は近道かもしれないが、人の道徳というものが決裂しているよ。
灯花はその考えをお姉さんに聞かせて、喜んでもらえると思っているのかい?」
「願いを強要しちゃうのはよくないけど、それなら心から願いたいって思ってくれるまで待てばいいと思うよ。それなら、相手に不利益はないよね」
「答えになってないよ」
「もう!じゃあこれ以外にいい考えがあったら教えてよね!」
|伝えるだけ伝えてみたらいいと思うよ。もしかしたらみんな許してくれるかも|
「でしょう?ねむより万年桜のウワサがわかってるね」
「むっ!」
|喧嘩はよくないよ|
ねむはそのまま自分が寝ていたベッドへ位置エネルギーに任せて座り、呼吸を整えた。
「それにしてもそんな装置、どこで作ってもらったんだい?」
「パパ様に周波数の実験装置が欲しいって言ってね、そしたら西の大国がその手の技術に詳しいらしくてね、設計図を渡したら1週間で完成品が届いたんだ。
優秀だよねー」
「そんな一般人にはおもちゃにしか見えないものを大きな国がね。改めて里見グループの凄さを実感するよ」
「くふふ、パパ様はすごいんだから!」
話している中、突然黄緑色の粒子が周囲に飛び交い、傷だらけのういが病室内に倒れ込んでいた。
「うい!どうしたの?!」
「お姉ちゃんが、お姉ちゃんがおかしくなっちゃった!うわぁぁぁぁぁぁ!」
ういはそう言ってその場に伏せて泣き出してしまった。
何があったのか、外で何が起きているのか。
ただ一つわかることは、いろはに大変なことが起きているということだけ。
わたしは、どうすればいい?