「あの、お店へ電話をしたってことは予約をしていたのですか」
「いやいや、そのお店のシェフがおためしの料理を味見して欲しいって話だったからさ。1人分追加してもらわないと、ピリカさん食べられないでしょ」
「お店の名前はウォールナッツ。洋食店でシェフの腕は星3がつくほど美味しいんです。
ちなみにシェフも魔法少女なんですよ」
「そうなんですね」
ガツガツくるなぁ。
でも魔法少女で凄腕シェフって、願った結果なのではと考えてしまいましたが深くは追及しないことにしましょう。
お店へ到着すると、お客さんがすでにいました。
「あら莉愛さん来ていたんですね」
「あら奇遇ね。見慣れない方がご一緒のようですけど」
明日香さん達の友人かな。
「保和ピリカです。よろしくお願いします」
「ふふ、丁寧な挨拶をしていただける方は歓迎よ。まあ、私に対しては皆さん丁寧に挨拶していただけるので聴き慣れてしまっているけどね!」
「莉愛先輩にあまり関わらない方がいいですよ。無駄に疲れます」
「んな!」
「それよりも、ウォールナッツへようこそ。このお店のシェフを務めている胡桃まなかです。ご来店ありがとうございます」
「それよりもって何よ」
なんか個性に押しつぶされそうな店内でした。
「ではこれから試作品をお持ちしますので少々お待ちください」
「もちろん、4人分もってくるのよね」
「莉愛先輩もう食べたじゃないですか」
「に、2回食べてわかることもあるでしょうから、もう一回食べてあげるって言ってるのよ」
「はいはい、2回目はお代をいただきますからね」
「ぐぬぬ、い、いいわよ」
「食い意地は立派ですね」
まなかさんが厨房の奥へと行くとわたしは明日香さんへお代の話をしました。
「あの、このお店高級料理店に見えますけど、わたしそんなにお金持ってないんです」
「気にしなくていいよ、わたしと明日香がピリカさんの分も出すから」
「え、いいんですか」
「命の恩人ですからね、ご馳走されてください」
「では、お言葉に甘えて」
すると対面にいて頬杖をついている莉愛さんが話し始めます。
「ねぇ、あなた見かけない方ですけれど、神浜の外から来た方かしら」
「はい、北の遠くの方からきました」
「北って、牛タンが美味しい」
「もっと先ですね」
「じゃあ、北の大地かしら」
すごく目がキラキラしている気がする。
「そ、そんなところです」
「そんな遠くから?!」
まあ驚かれますよね。昔は一度この地域へ来たことがありましたがあの時は民間の飛行機なんてほとんど普及していない頃だったのであの頃よりは身近な距離になった気はします。
「そんな遠くから来る理由って、旅行か何かかしら」
「いえ、神浜に来たら魔女にならないと話を聞いたので来ました」
「まさかそんなところまでキュゥべえが伝えに回っているだなんて」
「ん、もしかして神浜の外から来たってことは調整屋を知らないのかな」
「話は聞いたことがありますが、行ったことはないですね」
まどかさんに聞いて以来、そういえば行ったことなかったなぁ。2人には止められたけど、一度行ってみようかな。
「じゃあ、調整を受けていない状態であの魔女を倒したというのですか」
「そういうことになりますね」
「え、あなた調整を受けないでこの街の魔女を倒したと言うの。で、でも明日香さん達の助けがあったからでしょう」
「いえ、私とささらさんは魔女に囚われた人たちを押さえ込んでいただけで、魔女を倒したのは紛れもなくピリカさんです。
それに、ピリカさんがいなければ私たちはどうしようもできませんでしたし」
「そ、それはすごいわね。ま、まあ私ほどではないですけれども」
調整を受けないでこの街の魔女を倒す。
これだけで神浜の魔法少女はみんな声を揃えて驚きます。
この街の魔女は確かに別格で強い個体ばかりで、外ではごくごく稀というレベルで出現する強さといえます。
これは目立ちすぎちゃうパターンかな。
「お待たせしました。今回は紅茶に合うようアレンジしたオムライスとなります」
見た目は少し赤みがかった卵の生地をしているオムライスでした。
「こちら、水名女学園と交流がある聖リリアンナ学園からの提案で、紅茶に合う料理を用意して欲しいという意見とオムライスがいいという意見を取り入れました」
学校に出す料理を作るって、すごい人。
「紅茶に合う食材として少し酸味が効いたトマトを使用し、普段出しているオムライスとは違って甘味が抑えられています。ただ、卵の味によって紅茶とのバランスが崩れてしまうので卵の生地へトマトのペーストを混ぜ込み、全体的に紅茶との組み合わせを邪魔をしないよう仕上げています。
単品で食べると味の主張が激しいので、聖リリアンナ学園から寄付された紅茶と一緒にお召し上がりください」
料理の説明が丁寧。願いで料理の腕を上げたってわけではなさそうでほっとしました。
それにしても、出す料理について細かく説明するあたり、やっぱり高級料理店だ。
「あら、酸味が強いのはそういう意味でしたの」
「莉愛先輩は構わずオムライスだけ食べましたからね。今度は紅茶を飲みながら食べた際の感想をくださいよ」
「それじゃあ、いただきます」
みんなでオムライスをつつき、スプーンですくって口へ運びます。
その味は口を抑えてしまうほど美味しいものでした。
ここまで美味しいものを食べたのはフランスでご馳走してもらった豪華な料理以来です。
愛情を考えると、もっと美味しいものもありますが。
みんなも声を揃えて美味しいと言っていました。
出されていた紅茶を飲みましたが、味音痴な私にはよくわかりませんでした。ただ、飲みやすかったのは確かです。
「なまら美味しいです、まなかさん」
「ん?喜んでもらえて何よりです」
「なるほど、これは確かに紅茶を飲みながらでも違和感ないわね」
「でもこれ、紅茶を飲み終わるまで残る量じゃない?」
「安心してください。聖リリアンナの方達へは半分の量でお出しするので」
「なら大丈夫ね」
「そういえば気になっていたのですが、三人はピリカさんとは既に会っていたりするのですか」
「え、今日初めて会いましたけど何か気になりましたか」
「いえ、自己紹介するそぶりがなく話が進行しているのが不思議だなって思った気がしただけです」
「…そうだよ!私たち自己紹介していないじゃん!」
「というか、なんで私たちの名前知っていたのですか」
[[今更かぁ]]
なんか心の声がまなかさんと重なった気がしました。
改めて自己紹介をしてもらい、私はみなさんが神浜マギアユニオンに参加していることを知ります。
「この街の魔法少女は組織というものを結成しているのですか」
「全員というわけではありませんが、多くの方達が参加しています。最近は神浜の外から来た魔法少女も参加したという話があります」
「行動方針はあるんですか」
「今のところはこの街にある魔女化しない仕組みを広げるっていうのが主ね」
知っていることではありますが、ここは知らないそぶりをするのがいいでしょう。
少し勝負に出てみますか。
「あの、私も協力したいなって思うのですがその神浜マギアユニオンへ参加することは可能でしょうか」
「大丈夫じゃないですかね。ただ、いろはさんたちへどこかで顔を合わせておいたほうがいいと思いますよ」
「いろはさん?」
「神浜マギアユニオンの中心人物である1人です。近々組織の近況報告を行うために我が道場で会議が執り行われますので、その時に顔合わせをすればいいと思いますよ」
「本当ですか!」
「はい、ピリカさんほどの強い方が参加いただけるのはありがたいことです」
「近頃は神浜の外から来た魔法少女に襲われるってことが増えているからどう見られるかは気をつけたほうがいいと思うわよ」
「大丈夫です。私がしっかり説明します」
「最初に疑ったのは明日香のくせに」
「ちょっとささらさん!過ぎた話を掘り返さないでください!」
なんだかすんなりと参加できそうです。
2人は得るものがなかったと言っていたけど、内部にいるからわかることもあるだろうし、後のことは参加できてから考えよう。
「では気を取り直しまして、我が道場の場所を教えたいと思うのですが、スマートフォンはお持ちですか」
「すみません、私もってなくて」
「このご時世、もっていない人は珍しいわね」
「魔法少女が使えるテレパシーで事足りていたので」
「ふーん」
明日香さんの家族が所有しているという道場の場所はお店を出た後に実際にその場へ行く形で教えてもらうことができました。会議が行われる時間も教えてもらったので明日からが本番です。
内部でしかわからない事実を、知るために。