【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-8 協調できると信じて

神浜という街をまともに歩くのは初めてですが、あらゆるものがガラスに映し出されてとても近未来的な場所、というのが驚いたこと。

街中は人で溢れていて昼夜いつでもどこかの電気はついていて、誰かは行動しているというのは実感したこと。

そして、街中で当たり前のように魔女と遭遇するのに一般人はそれを全く知らないというのが奇妙なこと。

1人で行動するようになってからはかつてのように森へ入って食料調達をしようと考えたけれど、そもそも都会の食べ物、物質の影響を受けた動物の質がいいわけもなくいつか毒にかかってしまうのではとヒヤヒヤする日々を送っています。

したっけお金を使えばいいというのが世の中の考え方ですが、私はお金を使用するという価値観が嫌いなのでほとんど使う気がありません。

持ってるには持っていますが、おそらく使いません。使わなくても、渡す人は、きっと未来にいるはずなので。

さて、この自動浄化システムというすでに奇妙な現象が存在している神浜で生きていくためにはまずは神浜マギアユニオンという組織について知る必要があります。

あの2人とは違い、私は協力して行動していきたいと考えています。

すぐに参加は難しいかもしれませんが、徐々に馴染んでいけばいいのです。

ピコン!

魔女の反応がしたので現場へ向かいましたが、すでに中で誰かが戦っている様子でした。しかし、感じられる魔力は呪いの比率が多い、魔法少女にとって劣勢の状況でした。

魔女の結界へなにも考えず飛び込んでしまうと魔女の取り合いとなる場合があります。

この街ではともかく、普段ならば魔女を見つけることはその先の延命が約束されたようなものであり、それを横取りされるのは寿命を縮められたような感覚になるのです

場合によっては魔女戦の後に魔法少女と戦うなんて展開がよくあります。

そんな事態を回避するために、結界内の魔力充満度を感じ取ることが大事です。

希望の魔力が強ければ、その結界内にいる魔法少女だけでことが足り、逆に呪いの魔力が強ければ魔法少女が劣勢だと判断できます。

正確な確認方法ではありませんが、これも不毛な争いを回避する方法の一つです。

ちなみにこの確認方法は誰でもすぐできるというわけではなく、経験しなきゃ分からないので、訓練が必要です。

結界へ入るとすでに呪いが充満していました。魔法少女でなければ正気を保てていないでしょう。

出てくる使い魔は綿毛のような見た目をしていて、一見弱そうですが使い魔が通った場所は液状の呪いが尾を引いていました。

一体使い魔を倒したかと思ったら物陰から次々と現れ、飛び跳ねてきたり、腕のようなものを伸ばしてきたりして行手を阻みます。

ワッカの濁流で簡単に一掃できるからいいのですが、長居はお勧めできない状況です。

難なく結界の最深部へ到着すると、2人の魔法少女がいました。

しかし、魔女を目の前にして何か口論をしている様子でした。

魔女に群がる使い魔を倒そうともせず、その場を動こうとしません。

私は見ていられなくなって飛び出してしまいました。

「カンナ、標的を射抜いて!」

雷の矢が魔女へと刺さり、私は2人のそばへと駆け寄りました。

「なにをしているんですか。ただのカカシになりたいんですか!」

「雷を使う魔法少女。あなたがひなのさんを襲った犯人ですね!

「え、いきなりなんですか」

「ちょっと明日香?!」

「皆さんあなた達のおかげで迷惑しているんです!さあ、大人しくお縄にかかってください!」

「明日香!ごめんね、魔女を倒してから誤解を解くから」

「は、はぁ」

いきなり困った状況になりましたが、魔女は構わず水瓶をこちらへ向けて水鉄砲を放ちます。

攻撃を回避してそのまま攻撃しようとしますが、騎士のような見た目をした魔法少女に止められました。

「待って!あの魔女の足元にいる使い魔、みんな結界に囚われた人たちなんだ!うかつに攻撃しちゃダメ!」

「どういうことですか」

「今は使い魔みたいな見た目をしていますが、みんな魔女から溢れる穢れに触れて姿が変わってるのです」

「それ、もう手遅れなのでは」

「いいえ!私たちは魔女を倒せば戻ると考えています。しかし攻撃しようとすると囚われた人たちが魔女を庇おうとして攻撃ができない状況だったのです」

まだ呪いに当てられて間もないというのであれば間に合うはず。

魔女の中には人から負の感情を得るだけではなく、使い魔へと変えてしまう個体がいることは珍しくありません。

魔法少女でも、魔女に囚われてそのまま魔女ではなく使い魔になってしまった例もあります。

この方達は神浜の魔法少女でしょうか。

何か誤解をされた状態ですが、ここは穏便に終わらせるとします。

「私が魔女の足元にいる人たちを引き離します。引き離した方達が魔女へ近づかないように行手を少しの間阻んでもらえませんか」

「ふむ、人命救助の心得はお持ちのようですね。ならば魔女を倒すことはお任せします。どさくさに紛れて攻撃してきたら許しませんからね!」

「えっと、気にしなくていいからね。魔女から引き離した人たちはしっかり足止めしておくね」

「ありがとうございます。では」

今日は大活躍。また力を借りるね。

「ワッカ!濁流と化せ!」

少し勢いが控えめな濁流が発生し、魔女の足元にいた使い魔の見た目になった人たちは結界の端っこまで流されていきました。

「今!」

2人の魔法少女は勢いで流された人たちの行方を阻んでくれました

私はカンナの力で雷の矢を放ち続けますが、ダメージを負わせてもすぐに回復している様子でした。

結界内が呪いで満ちている影響だと考えられるのでこのままでは持久戦を強いられ、私たちが魔女になる方が早くなってしまいます。

一気に決める必要がありました。

「みんな、私に力を貸して!」

[久々に弾けようか!]

[やりすぎるのは禁物ですよ]

[いっちょやってやりますか!]

三体のカムイ達が集まったことで、結界内へポンベツカムイが現れました。

私はその背に乗り、魔女へと襲い掛かりました。

「何あれ?」

「首長竜、のような見た目ですが」

「ポンベツカムイ、その名を冠する激流で呪いを退け、清浄な炎で未来を灯して!」

キュゥゥゥゥン!

イルカのような鳴き声を出したポンベツカムイは魔女の周囲を海の中にいるかのように泳ぎ、通った場所からは渦を描くように濁流が発生しました。濁流は徐々に魔女へ収束しながら竜巻きのように渦巻く水の柱へと変わりました。柱の周りには雷が発生し、何人も近づけない状態です。

その頃には呪いが水の勢いで魔女の周囲からは払われてしまい、水の竜巻が消える頃には青色の炎で魔女が燃えていました。

「アンプノ オカャン」

発した言葉を合図にポンベツカムイは魔女の頭上へ移動し、そのまま魔女を押しつぶしました。

魔女は水瓶を落とし、長い椅子の上にいた白い物体が地面に落ちてグリーフシードを残して消えていきました。

「倒した、の?」

「は!囚われた人たちは」

魔女の結界は消え、使い魔の姿になっていた人たちは気絶して倒れていました。

どうやら完全に使い魔となってしまったわけではなかったようです

私は地面の上に倒れずに器用に立ち続けているグリーフシードを手に取り、2人の方へ向かいます。

「明日香さんと、ささらさんですよね。見つけた魔女に横槍を入れてしまってすみませんでした。
どうぞ、あの魔女が落としたグリーフシードです」

「聞いてた話より親切な方ですね。しかしあなたがひなのさんを襲ったという事実は消すことができませんよ!
さあ、観念しなさい、紗良シオリさん!」

「シオリって、待ってください!なんか勘違いしていないですか?!」

「さあ、観念するのです」

「もうやめなって」

ぽんっ

少々暴走気味の明日香さんへささらさんが後ろからチョップを入れます。

「あいたっ、何をするんですか」

「明日香が勘違いし続けてるからだよ。いい?ひなのさんの話によると襲ったのは背が低くて一人称は「シオリ」だって話していたよ。
それに雷以外の技も使っていたでしょう?

どう、少しは冷静になった?」

「それじゃあ、あなたはどこからきた誰です」

「私は保和ピリカで、神浜から遠い北の方から来ました」

その場がしばらく静まり返りました。時間が止まったかと思いました。

「あれ?」

「も、申し訳ございません!」

「いえ、気にしていないので顔をあげてください!グリーフシードはちゃんと渡しますので」

「もっと申し訳ないです!助けてもらった恩人を犯人呼ばわりしてしまうなんて、謝罪ものです!」

「そうだね」

「く、こうなったら自害をもって詫びるしかありません」

「自害?!考え直してください!」

「止めないでください!今回は謝罪しきれません!」

「はいはい、いつものことだから気にしなくていいよ」

「ちょっと扱いが雑じゃないですか、ささらさん!」

いきなり自害するって言われた時はどうしようかと思いましたが、ささらさんが慣れたように扱っていました。なんだか変わった方達です。
それにしてもシオリ、まさかこの町の魔法少女を手にかけたの?

「改めてお礼を言わせて。ありがとう、保和さん」

え、苗字で呼ばれるの新鮮。なんだか慣れない。

「ピリカでいいですよ。苗字で呼ばれるのはあまり慣れていないので」

「そう?じゃあピリカさん。グリーフシードはありがたくもらうけど、もしよかったら一緒にご飯食べに行かない?
実は私たちお店に向かうところだったんだ」

「え、いいんですか」

「もちろんです。お店へは私から伝えておきますから」

「では、お願いします」

そういえばこの人たち、自分の名前をしれっと言われていることに違和感を感じないのかな。自己紹介したのって今私だけのような。

そんな不思議な2人と一緒に神浜の北側へと向かいます。

 

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