【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-6 匿名希望のお菓子屋探し

私は今確かにここにいる。

守ろうと決めた彼女がこの世界にいる。

そして今、私が時を巻き戻すたびにたどり着いていた病院の前に、私がいる。

来ることを願っていた日々の内容とは少し違うけれど、鹿目さんと一緒に過ごす日々が他の世界よりも確実に長くなっているのは確かです。

誰も死なずに、そして、みんなが仲良く過ごす事ができているこの世界に巡り会えたのは、とても幸運なことです。

しかし、肝心なのはここからだとわかっています。

未だにこの見滝原ではソウルジェムが濁りきれば他の世界同様魔女になってしまう。

一つの油断が、鹿目さんを魔女にしてしまいかねないためこれから何が起こるかわからないこの世界では、なるべく鹿目さんと一緒に行動して、危なくなれば神浜へと急ぐしかない。

こんな心配をしなくて済むよう、神浜マギアユニオンで実施している自動浄化システムを広げるという考えが実現してくれればいいんだけど、そう甘くはない。

だからと言って私にも方法はわからない。

今は、そんな計画を邪魔する人が現れないよう見守るしかない。

今回はその決意として、入院していた病院の前にいるんだけど、鹿目さんはというとさやかさんと一緒に杏子さんのところへ行ってます。

グリーフシードも多く持っている様子だったし、さやかさんと杏子さんがいるならば大丈夫だろうと、今日は自分の用事を優先しています。

なんか決意のために来たはずが、いきなり矛盾したことをしているような気もしないではありません

せっかくここまできたので、病院にいる頃に知ったお菓子屋さんへ向かったのですが、もうそのお店はありませんでした。

「あれ、ここだったような」

ふと隣を見ると女の子が立っていました。

「あの、ここにあったお菓子屋さんを探しにきたのですか」

「あ、暁美ほむら!っと、もう黒羽じゃないから気にしなくていいんだ」

私のことを知っていて、今黒羽って言ったのかな。

「もしかして、マギウスの翼にいたんですか」

「そ、そうですけどもう関係ありません!マギウスが解散を宣言したときに私も羽をやめているので!」

例のローブも着ていないし、残党が隙をついて、というわけではなさそう。

「話を戻すんですけど、ここにあったお菓子屋さんに用事があったのですか」

「はい、じつは私もあの病院に入院していた時期があって」

「え!」

まさか同じ病院で入院していた子と出会うことになるとは思っても見ませんでした。

「入院中に、美味しいお菓子屋さんがあるんだよって看護師さんやお見舞いに来てくれた両親が教えてくれたので、気になって来てみたんですが」

できれば、ここのお店の行方を知りたい。

張り紙がないから、お店を閉めてしまった可能性もあるけれど、探してみてもいいかも知れない。

「あの、ここのお店について少し聞いて回ってみませんか。もしかしたら移転しただけかもしれないので」

「い、いいんですか!私なんかと一緒で!」

「わ、私こそ一緒に来てくれるなら嬉しいです!」

「ええっと、ではお願いします!あ!名前は教えないですが黒って呼んでください。羽根をやめたときにシェアハウスすることになった部屋友からそう呼ばれているので」

部屋友?

聴きなれない言葉だけど、同居している友達ってことかな。じゃあ、あだ名って感じかな。

「はい、よろしくお願いします。黒さん」

こうして黒さんとお菓子屋さんを探すことになったのですが、何の手がかりもないのでは探しようがないので病院に入って聞き込みをしてみました。

聞き込みの結果、お菓子屋さんは見滝原の街中へ移転していたことがわかりました。

なかなか声をかけることが出来ない私たちでも聞き込みをできたのは、黒さんがかつてお世話になったという看護婦さんと会うことが出来たからです。

私だけだったらお菓子屋さんが移転しているだなんて情報を手に入れられなかったかもしれない。

街中への移動はバスを利用したのですが、バスの中で黒さんについて少しだけ知ることが出来ました。

「私に部屋友ができたのは、マギウスの翼があったからなんです。いろんな人に迷惑をかけてしかいないかもしれませんが、私はマギウスの翼に参加できてよかったなって思ってます。
きっとマギウスの翼がなかったら、私はこの街で魔女になっていたかもしれないから」

「マギウスの翼があったから、ですか」

「私は弱くて、他の人と接するのも苦手で孤立しがちだったんです。
でも、マギウスの翼で白羽根の人に声をかけてもらって、それで人生変わりましたね」

「そうなんですね。私も特別な人に出会えたから、今の私がいるのですごくわかります」

「えっと、特別な人って彼氏さんですか」

「ちが、いま、す!」

鹿目さんがいなければ私も孤立したまま、何もできないまま終わっていたかも知れない。

そう、私にとって鹿目さんは特別な人なんです。時間を巻き戻してまで、救いたいほどに。

バスを降りて看護婦さんから聞いた場所にくると見慣れた人が声をかけてきました。

「あら暁美さん、こんなところでどうしたの」

「えと、黒さんと一緒にお菓子屋さんを探していたんです」

「黒さんって、お隣にいる子かしら」

(うん、うん!)

黒さんがそう言っているかのように二回うなづいた気がしました。

「そうだったの。それで、お菓子屋さんの名前はなんていうのかしら」

「アラカル亭っていう名前です」

「あら、そこならついさっきなぎさちゃんと一緒に入ったお店ね」

「え!」

巴さんに連れられてアラカル亭の前まで来ました。こんな偶然ってあるものなんですね。

「ちょうどいいし、買い物が終わったら一緒にお茶するのはどうかしら。黒さんもどうかしら」

(うん!うん!)

また頷くだけでした。

「だったらさっさと買ってくるのです!なぎさはマミが紅茶に合うお菓子しか買ってくれなかったからご立腹なのです!」

「もう、ちゃんとミルクティーに合わせたものも買ったじゃないの」

「チーズに合わせるのです!」

「じゃあ、ここで待っているわね」

私と黒さんはアラカル亭で買い物をしながら頷くだけだった理由を聞きました。

「巴さんって、あの聖女様だよね」

「やっぱり、それで頷くだけだったんですか」

「私は話を聞いていただけで、したっぱだったし、姿もマギウスと並んでいたときくらいしか知らなかったし。
それに全て終わった頃は東区の車両基地で気絶していましたし」

「じゃあ、今の巴さんが普通だっていうのは」

「もちろん知っていますよ。部屋友に聞いたので」

よかった、事情は知っているみたい。

でもここであの時の話題を再び掘り返すことになるかもしれない。

そう不安になりながら私と鹿目さんの分のお菓子を買い終え、みんな揃って近くの少しおしゃれな喫茶店に来ました。

天井でシーリングファンが回っている。

もうそれだけでおしゃれな感じがするのに、メニューもカタカナばかり。

絶対1人じゃ入れないお店だ!

4人みんな頼んだものが出そろうと巴さんから話を始めました。

「暁美さん、用事があるって言ってたけどお菓子屋さん探しだったのね」

「本当は気持ちを改めるために病院へ行ったのですが、ふとアラカル亭のことを思い出してしまったんです。その途中で黒さんに会ったんです」

「えっと、黒です。神浜から来ました」

「神浜、もしかして神浜の魔法少女かしら」

「今はそうです。前まで黒羽根やってたんです」

「え、そうなのね。じゃあ私は当然知っているわけね」

思った通り、巴さんの声は暗くなってしまいました。

立ち直ったとはいえ、掘り返しちゃったのは不味かったかも。

「でも、巴さんが今の状態が普通なんだなってわかってますし、巴さんのことを悪く思っているメンバーなんていないです」

黒さんは話し上手じゃないにもかかわらず、思うことをスラスラと口に出していきます。

「私、マギウスの翼だったメンバーとシェアハウスしているんですけど、みんな巴さんのことを悪く言っていません!むしろ元に戻ってよかったねって言ってます!」

巴さんはずっと驚いた顔をしていました。少なくとも、暗い顔にはなっていません。

「だから、はあ、気にしなくていいですよ。
はあ、はあ」

酸素不足になる程話しきった黒さんの後に巴さんが話し始めます。

「気を使ってくれてありがとう。でも、もう私は弱くないから全然気にしてないわよ」

「なら、よかったです」

大丈夫だった。私の目の前には私がよく知る強い巴さんでした。何故かちょっとした事実で心が折れてしまうかもと不安になってしまいましたが、気のせいだったようです。

「なぎさはよくわからないですが、ここは大きな声を出していい場所なのです?」

ふとカウンターを見てみるとちょっと困り顔で見つめている店員さんがいました。

「し、失礼しました」

「さ、紅茶が冷めちゃう前に、明るい話題をお話ししましょ」

「ですね」

場の空気が元に戻ったところで、私は黒さんが頼んだザクロのお茶というのが気になりました。

「黒さん、ザクロのお茶って珍しいと思うんですけど」

「あ、私も気になってたの。ザクロのお茶って見たことなかったから」

「いえ、じつは私も知らなくて。ただザクロが使われてるから頼んでみたって感じです」

「ザクロに思い入れでもあるの?」

「ザクロじゃなくて、ザクロが出てくる物語が好きなんです。入院していた時は、飽きずに何度も読み返すほどでした」

「そうなのね。本に出てきた珍しいものってつい興味が出て手を出しちゃうのよね

「そ、そんな感じです」

思い入れから選ぶこともある。

そもそも今回のお菓子屋さん探しも、私の思い入れから始まっていた。そして、黒さんに会うこともできた。

選択に迫られた時、とっさに思い浮かんだことほど望んだ答えに辿り着くのかもしれない。

今後もきっと出てくる選択肢。

ここまできているんだから、最悪の選択をしないようにしたい。

もう時間を戻ることなんて、やりたくないから。

みんなが飲み物を飲み終わる頃、黒さんは電話に出るためにお店の外へ出ていました。

「暁美さんが買ったお菓子、鹿目さんの分も含めてでしょ」

「え!なんでわかったんですか」

「そりゃあわかるわよ。暁美さん、鹿目さんのために一生懸命な事がすごく伝わってくるんだもの」

やっぱり巴さんには敵わないなぁ。

「でも、たまには自分の身の安全も考えなきゃダメよ。そのうち無理しちゃうんじゃないかってこっちは心配なんだから」

「はい、気をつけます」

「マミこそ自分のことを考えなきゃいけない立場なのです」

「そ、そうね」

たじたじになる巴さん。そうさせるなぎさという子はこの時間にくる前の世界では出会うことが一度もなかった。

これも、いろんなことが起きてしまう時間軸だからこそなのだろうか。

そう考えていると、黒さんが血相を変えて席に戻ってきました。

「暁美さん、巴さん。友達を助けるために、神浜に来てくれませんか!」

 

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