【マギレコ二次創作小説】魔叙事詩カグラ・マギカ 2-2 度を越すということは

神浜市西側の廃墟へ店を構える調整屋には1人の魔法少女がいる。

その魔法少女は八雲みたまといい、魔法少女のソウルジェムをいじって普段は使えない魔力の領域を広げ、能力を強化するという調整の力を使用できるという。

神浜の魔法少女、および周囲の街の魔法少女は調整を受けているらしく、遠くから来た魔法少女へは強気に立ち振る舞える状況だという。

うまい話には裏がある。

調整のデメリットを聞くと神浜の魔法少女は恥ずかしい記憶を調整屋に見られてしまうと声を揃えて言っていた。

しかし私は調整を受けた魔法少女達に会って確信したデメリットがある。

果たしてこのデメリットは、ここまで放置され続けて来たことに疑問を隠しきれない。

確かめに行くしかないだろう。

調整屋のある廃墟を見ると、周囲の新しい建築物とは違ってレトロな雰囲気を醸し出していた。

建築途中の場所が多く放置されている現状を見ると、これも成長による代償の一部なのだろうと考えてしまう。

「すみません、誰かいますか」

薄暗い広い空間の壁一面に貼られたガラス細工の円形模様を背に、1人がこちらを向いていた。

「あら、見たことない子ね。もしかして神浜の外から来たのかしら」

「はい、神浜の魔法少女に来るといいって勧められて来ました」

「あら、遠いところ来てくれてありがとうね」

白髪の女性の髪飾りには見慣れた魔力を込めた宝石が見えていた。まさか、ここにいる間はずっと変身し続けているというのか。なかなかに不思議な考え方をしている。

「調整屋さんに来たって事は、ここで何ができるかはすでに知っている感じかしら」

「はい。魔力を強化してくれるけど、グリーフシードはちゃんと持っていくようにと伝えられました。代金として請求されるからって」

「丁寧に教えてもらったようね。調整屋さんの説明が省けて助かるわ。さ、調整を始めるからそこの寝台に寝転がって」

どうやら調整のデメリットは自分から話さないらしい。誰だって不利な事は口に出したくないだろう。

「すみません、調整って痛みを伴うのでしょうか。魔力を強化ってなにかしら副作用がありそうなのですが」

「あら、ごめんなさい。調整する時はね、あなたのソウルジェムに触れさせてもらうわ。
初めての子は最初に痛みが伴うかもしれないけれど、一瞬だから気にしなくてもいいくらいよ。あと、調整を受けた後は魔力が馴染むまで体が熱くなっちゃって具合が悪くなる子もいたわね。でもそれで今後の活動に支障は出ないから安心してね」

「そうですか、それくらいですか」

「ええ、それくらいよ」

調整の結果どうなるのか、理解しているかが疑わしい。しかしそんなことは関係ない。
調整屋は、いちゃいけないんだから。

「いけませんよ八雲みたまさん、デメリットを隠し続けるというのは」

「え」

私は糸で調整屋のソウルジェムを狙ったが、思った以上に素早い動きで避けられてしまった。

放たれた糸は周囲に散らばるガラクタの一つに当たってガラガラと音を立てて土煙が上がった。

「あなた、なんのつもり!」

「調整されて相手がどうなるか一部話した事は評価しよう。だが、記憶を覗くとなぜ説明しないか!」

次は調整屋の足元へ放射状に糸を放ったため調整屋の片足に当たってその場から動けない状態となっていた。

「そこまで知っていて、なんで襲うの。なにが目的なの、私を殺したってみんなに不利益を与えるだけよ」

「利益しか与えていないとそういいたいのか!」

「そうよ調整はみんなの利益にしかならないわ」

「そうか、そこまで自信があるならいいだろう。善人だと認識したまま逝くといい」

ドゴォン!

とどめを刺そうとすると近づいてきた魔力反応が私と調整屋の間に割って入った。

ガラクタが宙を舞う中にいたのは黄色の服装をした魔法少女だった

「ももこ!」

「悪い調整屋、緊急だから壁を壊させてもらったよ」

「別にいいわよ、それよりも」

ももこという魔法少女は武器を構えたまま私に問いかけてきた。

「調整屋を襲うってどういう事だ。事と次第によっては容赦しないぞ」

お前は神浜の外の魔法少女へ調整屋に行ったほうがいいと勧める口か」

「そうだが、それがどうした」

「ちょっとももこ!壁ぶち抜いていきなりどうしたって、これどういう状況よ」

「調整屋さん、もしかして襲われたの」

本来の出入り口に仲間と思われる魔法少女2人が到着し、状況は挟み込まれている。退路は作る以外方法はない。

「お前達は魔力強化を受けた結果どうなるか考えたことがあるか」

「魔力が強化されたら、そりゃ魔女を倒しやすくなるでしょ」

「普段使えなかった魔力を使うんだ。魔力消費が増えるとなぜ考えないんだ」

「この街には魔女がたくさんいるし、この街にいれば魔女にはならないから気にする事はないじゃないか

やはりその回答か。この街の魔法少女は「この街」を中心にして物事を考えているようだ。予想通りで残念だ。

「そうやって神浜の外から来た魔法少女へ説明する気か。調整を受けたら神浜に居続けろとそういいたいのか」

「そこまでは言っていないだろ。戻りたいなら自分の街に戻るのは自由だろ」

「魔力消費を激しくしておいて、お前達は神浜の外の魔法少女を魔女化させたいのか!」

「そうとも言っていないだろう!」

「なんで考えないんだ、この調整屋は、魔力をいじって魔女化しやすくしているだけだということを」

「な!」

三人は何を言っているのか分からない顔をしていたが、調整屋だけは何か気づいたかのような顔をしていた。

「言いがかりも大概にしろ!調整屋はみんなを魔女にしたくてやっている事じゃない!」

「本心はそうかもしれない。だが、調整は使えないはずの力を無理やり行使できるようにしてしまい、穢れを加速させる結果となる。無闇に神浜の魔法少女へ勧めるんじゃない。この街ではドッペルがでても、外では魔女になるだけだ。その罪の重さを自覚したほうがいい」

ついに黄色の魔法少女は何も言わなくなった。

「今回は捨て置く。生きて行いを見直し続け、呪い続けるといい」

私は壁を打ち抜き、調整屋の外へとでた。

「ちょっと何!ここって中立地帯って聞いたけど」

外に出た先には三人の魔法少女がいた。

「お前達は神浜の魔法少女か」

「いいえ、私は霧峰村ってところから来た魔法少女よ」

「そうか。調整を安易に受け続けるな。調整されると魔力消費が増えて穢れやすくなるだけだ。よく考えてから調整を受けるといい」

「えと、はい」

調整屋の排除には失敗したが、あの調整屋の反応は期待できる結果だ。

ただでさえ自動浄化システムを広げることができない段階だ。

今調整を受けて外へ戻ってしまったら、外の魔法少女が消えていくだけだ。

 

とりあえず調整屋は無力化させた。これでしばらくは「記憶をたどった捜索」は滞ることだろう。

 

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